以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素および部分には同一の参照符号を付与している。
本発明の実施形態に係る加工方法は、加工対象物の加工対象面にレーザ光を照射して加工対象面にレーザ光の波長よりも短いナノメートルオーダーの周期を有する周期構造を形成するものである。
本発明の各実施形態に係る加工方法を用いて加工される加工対象物の材質は、特に限定されるものではなく、例えば、CrN、TiN、サファイアおよびSiO2等の誘電体、Si、InP、GaAs、GaNおよびSiC等の半導体、Au、Ag、Al、CuおよびSUS等の導電体を加工対象物とすることができる。
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る加工方法は、加工対象物の加工対象面に形成しようとする周期構造の周期dの、加工対象物の材質に応じた倍数に相当する周期Λで配列された複数の直線状の溝を含む凹凸構造を加工対象面に形成する第1の工程を含む。すなわち、第1の工程において加工対象面に形成される凹凸構造の周期Λと、加工対象面に形成しようとする周期構造の周期dとの間に下記の(1)式が成立する。
Λ=n・d ・・・(1)
(1)式においてnは正の整数である。整数nは、加工対象物の材質に応じて定められる。加工対象物が例えばGaNである場合、整数nは4または5のいずれかであり、従って第1の工程においてGaNの表面に周期4dまたは5dの凹凸構造を形成する。また、加工対象物が例えばSUSである場合、整数nは3または4のいずれかであり、従って第1の工程においてSUSの表面に周期3dまたは4dの凹凸構造を形成する。
図1Aは、加工対象面に周期Λで配列された複数の直線状の溝を含む凹凸構造を形成する方法の一例を示す図である。図1Aに示すように、互いに異なる方向から照射される第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2によるレーザパルスを、加工対象物100の加工対象面S1上に時間的、空間的に重ねることで加工対象面S1に干渉縞を形成する。加工対象面S1は、XY平面内に存在しているものとする。第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2は、同一の波長を有し且つお互いの偏光方向は直交してない。第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2は、1つのレーザ光をビームスプリッタを用いて分割した2つのレーザ光であってもよい。加工対象面S1に2つのレーザによる干渉縞を形成することで、干渉縞の明部と暗部に対応した凹凸構造が加工対象面S1に形成される。
図1Bは、2つのレーザ光を用いて加工対象面S1に干渉縞を形成することによって加工対象面S1に形成される凹凸構造110の一例を示す図である。第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2が、偏光方向がX方向である偏光を有することで、Y方向に沿って直線状に伸びる複数の溝111が、X方向に周期的に配列された凹凸構造110が形成される。なお、本実施形態において、溝111に相当する凹部の幅と、溝111以外の部分に相当する凸部の幅の比率は一例として1:1である。
凹凸構造110の周期Λ(すなわち複数の溝111の配列周期)は、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の波長λによって制御することが可能である。また、凹凸構造110の周期Λは、第1のレーザ光L1の光軸と第2のレーザ光L2の光軸とのなす角θによって制御することが可能である。ここで、Λ、λおよびθの間に下記の(2)式が成立する。
Λ=λ/sinθ ・・・(2)
従って、第1の工程では、Λ=n・dを満たすように、(2)式に基づいてλおよびθの少なくとも一方を調整する。すなわち、λ/sinθが、加工対象面S1に形成しようとするナノメートルオーダーの周期構造の周期dの倍数n・dに相当する値となるように、λおよびθの少なくとも一方を調整する。
本実施形態に係る加工方法では、第1の工程において、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の加工対象面S1における照射位置を順次移動させることにより、加工対象面S1の所定範囲に凹凸構造110を形成する。なお2つのレーザ光の照射位置の移動は、加工対象物100をXY方向に移動させることによって行ってもよいし、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2をXY方向に走査することにより行ってもよい。また、エネルギーロスを抑制する観点から第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2のうちの一方が、加工対象面S1に対して垂直方向から照射されることが好ましい。図1Aに示す例では、第1のレーザ光L1が加工対象面S1に対して垂直方向から照射されている様子が示されている。
加工対象面S1に干渉縞を形成するためには、第1のレーザ光L1によるレーザパルスと、第2のレーザ光L2によるレーザパルスとが同一時間帯に加工対象面S1に照射されることが必要である。従って、例えば、各レーザ光のパルス幅が100フェムト秒程度である場合、第1のレーザ光L1の行路の長さと、第2のレーザ光L2の行路の長さとの差が30μm以下であることを要する。第1のレーザ光L1の行路の長さと、第2のレーザ光L2の行路の長さとを一致させる方法として、以下の方法が挙げられる。例えば、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2を加工対象面S1において散乱させ、その散乱光をCCD(Charge Coupled Device)カメラ等の撮像装置で撮像する。そして、撮像された散乱光において観測される干渉縞の明瞭度が最大となるように第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の少なくとも一方の行路の長さを調整する。第1のレーザ光L1の行路の長さと、第2のレーザ光L2の行路の長さとが一致したとき干渉縞の明瞭度が最大となる。なお、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2を加工対象面S1において散乱させる方法として、加工対象面S1のレーザ照射位置に、穴または突起等の微細な構造物を形成し、この微細な構造物に第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2を照射する方法が挙げられる。微細な構造物は、例えば、加工対象面S1に第1のレーザ光L1または第2のレーザ光L2を照射することにより形成してもよい。
第1の工程において、加工対象物の加工対象面に周期Λの凹凸構造を形成する他の方法として、公知のフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いてもよい。周期Λは、マイクロメートルオーダーであることが想定されるので、公知の微細加工技術を用いて加工対象物に周期Λの凹凸構造を形成することは比較的容易である。
本発明の実施形態に係る加工方法は、第1の工程において加工対象面に形成された凹凸構造における複数の溝の伸びる方向に応じた偏光方向(例えば溝の伸びる方向に直交する偏光方向)の偏光を有するレーザ光による超短パルスのレーザパルスを凹凸構造に照射してレーザ光の波長よりも短い周期の周期構造を加工対象面に形成する第2の工程を含む。
図2Aは、第2の工程において加工対象面S1にレーザ光Lによるレーザパルスを照射している様子を示す図である。第2の工程において加工対象面S1に照射されるレーザ光Lのエネルギー密度は、加工対象物100の材質に応じて適宜定められるが、例えば、10mJ/cm2以上1000mJ/cm2以下であることが好ましい。また、第2の工程において加工対象面S1に照射されるレーザ光Lのパルス幅は、加工対象物100の材質に応じて適宜定められるが、例えば、10フェムト秒以上100フェムト秒以下であることが好ましい。また、第2の工程において加工対象面S1に照射されるレーザ光Lのパルス数は、加工対象物100の材質に応じて適宜定められるが、例えば、1以上1000以下であることが好ましい。なお、第2の工程において使用されるレーザ光Lは、第1の工程において、凹凸構造110を形成するために用いた第1のレーザ光L1または第2のレーザ光L2と同じであってもよい。この場合、加工対象物100の材質によっては非特許文献8に記載されているように、レーザ光の入射角度によって非対称な形状を有する微細周期構造 が形成される場合があるため、対称な形状を有する微細周期構造を形成する場合には、レーザ光Lは、加工対象面S1に対して垂直方向から照射されることが好ましい。このように、第1の工程において加工対象面S1に形成された周期Λ(=n・d)の凹凸構造110に重ねて超短パルスのレーザ光Lを照射することで、凹凸構造110が微細化され、レーザ光Lの波長よりも短いナノメートルオーダーの周期dを有する周期構造が加工対象面S1に形成される。
図2Bは、第1の工程において形成された凹凸構造110に重ねて偏光方向がX方向である超短パルスのレーザパルスを照射することにより、加工対象面S1に形成された周期構造120の一例を示す図、図3は、図2Bにおける3-3線に沿った断面図である。第1の工程において形成された凹凸構造110に重ねて、凹凸構造110における溝の伸びるY方向に対して直交するX方向に偏光面を有する超短パルスレーザを照射することで、Y方向に沿って直線状に伸びる複数の溝121が、X方向に周期的に配列された周期構造120が形成される。周期構造120の周期dは、第1の工程において形成された凹凸構造110の周期Λの1/n倍(nは正の整数)である(d=Λ/n)。すなわち、加工対象面S1に予め形成した凹凸構造110に重ねて超短パルスレーザを照射することで、凹凸構造110の周期Λの1/nに相当する周期dの周期構造120が加工対象面S1に形成される。また、図2Bに示すように、周期構造120における複数の溝121の周期は均一であり且つ各溝121は直線性に優れている。また、図3に示すように、溝121の幅Wと深さDとの比(D/W)であるアスペクト比は6程度であり、高アスペクト比を実現できる。
なお、第1の工程において形成された凹凸構造110に重ねて超短パルスレーザを照射することにより均一且つ直線性に優れる周期構造120が形成されるのは、超短パルスレーザによって励起されるプラズモンの空間分布が、先に形成された凹凸構造110により規制されるためであると考えられる。従って、凹凸構造110の周期Λを制御することによって、周期構造120の周期dを制御できるものと考えられる。
上記のように、(1)式における整数nは、加工対象物100の材質に応じて定められる。加工対象物100が例えばGaNである場合、第1の工程において加工対象面S1に形成される凹凸構造110の周期Λの1/4または1/5に相当する周期dの周期構造120が第2の工程において加工対象面S1に形成される。周期構造120の周期dが凹凸構造110の周期Λの1/4になるか1/5になるかは、第2の工程において加工対象面S1に照射されるレーザ光Lのエネルギー密度に依存する。具体的には、エネルギー密度が所定の閾値よりも高い場合に1/4となり、所定の閾値よりも低い場合に1/5となる傾向がある。従って、第1の工程において形成される凹凸構造110の周期Λを制御するとともに、第2の工程において加工対象面S1に照射されるレーザ光Lのエネルギー密度を制御することによって、所望の周期dを有する周期構造120を加工対象面S1に形成することができる。
本実施形態に係る加工方法では、第2の工程において、レーザ光Lの加工対象面S1における照射位置を順次移動させることにより、加工対象面S1の所定範囲に周期構造120を形成する。なお2つのレーザ光の照射位置の移動は、加工対象物100をXY方向に移動させることによって行ってもよいし、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2をXY方向に走査することにより行ってもよい。
本実施形態に係る加工方法によれば、第1の工程において、最終的に加工対象面S1に形成しようとするナノメートルオーダーの周期構造120の周期dの、加工対象物100の材質に応じた倍数n・dに相当する周期Λで配列された複数の直線状の溝を含む凹凸構造110を加工対象面S1に形成するので、第2の工程において所望の周期d(=Λ/n)の周期構造120を得ることができる。例えば、加工対象物がGaNである場合、第1の工程において形成する凹凸構造110の周期Λを4dまたは5dとしておくことで、第2の工程において所望の周期dの周期構造120を得ることができる。凹凸構造110を2つのレーザ光による干渉縞によって形成する場合には、λ/sinθが、4dまたは5dに相当する値となるように、λおよびθの少なくとも一方を調整すればよい。
第1の工程において形成される凹凸構造110の周期Λは、例えば、以下のようにして定めることができる。すなわち、本実施形態に係る加工方法は、加工対象物100と同じ材質の物体の表面に、超短パルスのレーザパルスを照射した場合に当該物体の表面に形成される微細構造の周期のうち、出現しやすい周期を導出する第3の工程を含む。そして、凹凸構造110における複数の溝の配列周期Λを、第3の工程において導出した周期の整数倍とする。
第3の工程における微細構造は、凹凸構造が形成されていない平坦な表面に対してレーザパルスを照射することにより形成される。また、第3の工程における微細構造を形成する際に照射されるレーザパルスの照射条件(パルス幅、エネルギー密度及び照射回数)は、第2の工程において周期構造120を形成する際に照射されるレーザパルスの照射条件に一致していることが好ましい。物体の平坦な表面に超短パルスのレーザパルスを照射することで、第2の工程において形成される周期構造120(図2B参照)とは異なり、図22Aに示すように、物体表面には周期が不均一なナノメートルオーダーの微細構造が形成される。このようにして形成された微細構造を観察し、空間周波数分析を行うことで、微細構造において出現しやすい周期を導出することができる。図22Bは、凹凸構造が形成されていない平坦な表面に対して超短パルスのレーザパルスを照射することにより形成された微細構造の空間周波数分析を行った結果の一例である。図22Bに示される、微細構造の空間周波数分析を行うことによって得られるスペクトルは、当該加工対象物100における、周期毎の構造のできやすさを示している。図22Cは、第3の工程において形成される微細構造の周期と、第2の工程において形成される周期構造120の周期との関係の一例を示す図である。図22Cには、第2の工程において形成される周期構造120の周期d(=Λ/n)を定める整数nのうち、最も形成されやすいn=5とする周期d(d=Λ/5)の周期構造120が形成されることが例示されている。このように、第3の工程において、加工対象物100と同じ材質の物体の表面に超短パルスのレーザパルスを照射した場合に当該物体の表面に形成される微細構造を観察することで、第2の工程において形成される周期構造120の周期を予測することができる。従って、第1の工程において形成される凹凸構造110における複数の溝の配列周期Λを、第3の工程において導出した周期のn倍(nは正の整数)とすることで、第2の工程において、周期dがΛ/nの周期構造120を形成することができる。なお。第2の工程においてより均一で直線性のよい周期構造120を得るためには、整数nは、小さい方が好ましい。
図4は、上記した加工方法を実現する本発明の実施形態に係る加工装置1の構成の一例を示す図である。
レーザ光源10は、一例として、中心波長が800nm程度、パルス幅が数百ピコ秒以下の超短パルスレーザを出力するチタンサファイアレーザシステムであり、レーザ発振器、パルス伸長器、レーザ増幅器およびパルス圧縮器を含んで構成されている。
加工装置1は、レーザ光源10から出射されたレーザ光L0を第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2に分割し、第1のレーザ光L1を垂直方向から加工対象物100の加工対象面S1に照射するとともに第2のレーザ光L2を、加工対象面S1における第1のレーザ光L1の照射位置に向けて斜め方向から照射するように構成された光学系を備えている。光学系は、ビームスプリッタ11、遅延時間調整部20、エネルギー調整部31、32および集光部41、42を含んで構成されている。
ビームスプリッタ11は、レーザ光源10から出射されたレーザ光L0を第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2に分割し、それぞれ互いに異なる方向に出射する。
遅延時間調整部20は、第2のレーザ光L2の行路内に配置されている。遅延時間調整部20は、第2のレーザ光L2が加工対象面S1に到達するまでの行路の長さを変化させることにより、第2のレーザ光L2が加工対象面S1に到達するタイミングを変化させる機能を有する。
図5は、遅延時間調整部20の構成の一例を示す図である。遅延時間調整部20は、反射ミラー201、202および203と、反射ミラー202および203が載置された移動ステージ204と、を含んで構成されている。遅延時間調整部20に入射した第2のレーザ光L2は、反射ミラー201、202および203の反射面で順次反射され、反射ミラー203で反射された第2のレーザ光L2が次段のエネルギー調整部32に入射するように構成されている。移動ステージ204が、P方向に移動することで、第2のレーザ光L2の行路の長さが変化する。移動ステージ204の移動は、後述する制御部60によって制御される。第2のレーザ光L2の行路の長さは、制御部60によって第1のレーザ光L1の行路の長さと一致するように制御される。
エネルギー調整部31は、第1のレーザ光L1のエネルギー密度を調整する機能を有する。同様に、エネルギー調整部32は、第2のレーザ光L2のエネルギー密度を調整する機能を有する。図6は、エネルギー調整部31および32の構成の一例を示す図である。エネルギー調整部31および32は、互いに同じ構成を有し、それぞれ、半波長板301と、偏光子302と、入射するレーザ光の光軸を回転軸として半波長板301を回転駆動する駆動機構(図示せず)を含んで構成されている。半波長板301は、その回転角度位置が変化することにより、入射した第1のレーザ光L1または第2のレーザ光L2の偏光方向を変化させる。半波長板301の回転角度位置は、制御部60によって制御される。偏光子302は、半波長板301から出射された偏光のうち、特定方向の成分のみを透過させる。従って、半波長板301の回転角度位置に応じて、半波長板301から出射される偏光のX方向成分の強度が変化する。すなわち、エネルギー調整部31、32において、半波長板301の回転角度位置を制御することで、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2のエネルギー密度を調整することができる。
集光部41は、エネルギー調整部31によってエネルギー密度が調整された第1のレーザ光L1を加工対象面S1に集光するためのレンズ(図示せず)を含んで構成されている。集光部41は、第1のレーザ光L1を加工対象面S1に対して垂直方向から照射する。
一方、集光部42は、エネルギー調整部32によってエネルギー密度が調整された第2のレーザ光L2を、加工対象面S1に対して斜め方向から照射する。図7は、集光部42の構成の一例を示す図である。集光部42は、反射ミラー401、403、反射ミラー403が載置された移動ステージ404、集光レンズ406およびシャッター407を含んで構成されている。集光部42に入射した第2のレーザ光L2は、反射ミラー401および403の反射面で順次反射され、集光レンズ406を介して加工対象面S1に照射される。反射ミラー401は、回転軸402を中心として回転することで、その反射面の向きを変化させることが可能である。また、集光レンズ406は、加工対象面S1に第1のレーザ光L1が入射する点と一致した回転軸408を中心として回転することで、集光レンズ406の位置を第2のレーザ光L2の行路に整合させることが可能である。移動ステージ404が、Q方向に移動するとともに反射ミラー401の反射面の向きおよび集光レンズ406の位置が変化することで、第2のレーザ光L2の加工対象面S1に対する照射角度が変化する。シャッター407は開状態となることで第2のレーザ光L2が加工対象面S1に照射され、閉状態となることで第2のレーザ光L2が遮断される。反射ミラー401の反射面の向き、移動ステージ404および集光レンズ406の移動およびシャッター407の開閉は、制御部60によって制御される。
加工装置1は、加工対象物100を支持する支持軸81を備えた支持部80を有している。支持軸81は、XY面内に延在する加工対象面S1をXY方向において移動させることが可能である。加工対象面S1がXY方向に移動することで、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の加工対象面S1における照射位置を移動させることが可能である。支持軸81による加工対象面S1の移動は、制御部60によって制御される。
加工装置1は、第2のレーザ光L2によるレーザパルスの照射タイミングを第1のレーザ光L1によるレーザパルスの照射タイミングに一致させるための手段として、照明用光源50、顕微装置51および撮像・解析装置52を備えている。
照明用光源50は、加工対象面S1における第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の照射位置を照明する照明光を出射する光源である。照明用光源50から出射される照明光の波長は特に限定されず、照明用光源50として、例えば、ハロゲンランプ、LEDおよび半導体レーザ等を用いることが可能である。
顕微装置51は、加工対象面S1を顕微観察するための複数のレンズを含んで構成されている。顕微装置51による観察領域のサイズは、加工対象面S1における第1のレーザ光L1のスポットサイズと同程度(数百μm程度)である。加工対象面S1において散乱された第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の散乱光による像は、照明用光源50によって照明されるとともに顕微装置51によって拡大され、撮像・解析装置52に導入される。
撮像・解析装置52は、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の散乱光による像を撮像するCCDカメラ等の撮像装置と、撮像装置によって撮像された画像を解析する画像解析装置と、を含んで構成されている。画像解析装置は、例えば、画像解析プログラムがインストールされたコンピュータによって構成され得る。撮像・解析装置52は、加工対象面S1に形成される第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2による干渉縞を撮像し、干渉縞の明瞭度を示す情報を生成する。撮像・解析装置52によって生成された干渉縞の明瞭度を示す情報は、制御部60に供給される。制御部60は、撮像・解析装置52から供給された情報によって示される干渉縞の明瞭度が最大となるように、遅延時間調整部20によって第2のレーザ光L2の行路の長さを調整することで、第2のレーザ光L2によるレーザパルスの照射タイミングを第1のレーザ光L1によるレーザパルスの照射タイミングに一致させる。
加工装置1は、導出装置70を備えている。導出装置70は、加工対象面S1に形成すべき周期構造120(図2B参照)の周期dおよび加工対象物100の材質を示す情報の入力を受け付ける入力手段と、受け付けた入力情報に基づいて加工条件を導出する導出手段と、を含んで構成されている。導出手段は、加工条件の1つとして、入力情報によって示される周期dの、加工対象物100の材質に応じた倍数n・dに相当する値を導出する。なお、nは正の整数である。また、導出手段は、入力情報に基づいて、第1の工程において加工対象面S1に照射される第1のレーザ光L1および第2のレーザL2のエネルギー密度F1、第2の工程において加工対象面S1に照射される第1のレーザ光L1のエネルギー密度F2およびパルス数N2を導出する。
導出装置70は、例えば、加工対象物100の材質および加工対象面S1に形成すべき周期構造120の周期dと、倍率n、エネルギー密度F1、F2およびパルス数N2とを対応付けたテーブルを有し、このテーブルを参照することで、入力情報によって示される加工対象物100の材質および加工対象面S1に形成すべき周期構造120の周期dに対応する倍率n、エネルギー密度F1、F2およびパルス数N2を抽出する。上記のテーブルは、例えば、実験結果に基づいて作成することが可能である。導出装置70は、抽出した倍率nと入力情報によって示される周期dとの積を、倍数n・dとして出力する。また、導出装置70は、抽出したエネルギー密度F1、F2およびパルス数N2を出力する。導出装置70によって導出された倍数n・d、エネルギー密度F1、F2およびパルス数N2は、制御部60に供給される。導出装置70によって導出された倍数n・dは、制御部60において周期構造120の形成に先立って加工対象面S1に形成される凹凸構造110(図1A参照)の周期Λとして扱われる。
導出装置70は、例えば、倍数n・d、エネルギー密度F1、F2およびパルス数N2を導出するための処理を記述した導出プログラムがインストールされたコンピュータによって構成され、導出プログラムを実行するプロセッサと、加工対象物100の材質および加工対象面S1に形成すべき周期構造120の周期dと、倍率n、エネルギー密度F1、F2およびパルス数N2とを対応付けたテーブルを記憶したメモリと、入力情報を受け付ける入力手段としてのキーボード、タッチパネルまたはその他の入力装置と、を含んで構成されている。
制御部60は、導出装置70から供給される倍数n・d(=Λ)および撮像・解析装置52から供給される干渉縞の明瞭度を示す情報に基づいて、遅延時間調整部20、エネルギー調整部31、32、集光部42を制御する。制御部60は、例えば、制御プログラムがインストールされたコンピュータによって構成され、制御プログラムを実行するプロセッサやメモリ等を含んで構成されている。なお、制御部60と導出装置70とは同一のコンピュータで構成されていてもよい。
以下に、加工装置1の動作について説明する。はじめに、導出装置70の動作について説明する。図8は、導出装置70において実施される処理の一例を示すフローチャートである。
ステップA1において導出装置70は、加工対象面S1に形成すべき周期構造120の周期dおよび加工対象物100の材質を示す情報の入力を受け付ける。
ステップA2において導出装置70は、上記のテーブルを参照することで、入力情報によって示される加工対象物100の材質および加工対象面S1に形成すべき周期構造120の周期dに対応する、倍率n、エネルギー密度F1、F2およびパルス数N2を抽出する。
ステップA3において導出装置70は、抽出した倍率nと入力された周期dとの積を、倍数n・dとして出力する。
ステップS4において導出装置70は、抽出したエネルギー密度F1、F2およびパルス数N2を加工条件として出力する。
次に、制御部60の動作について説明する。図9は、制御部60において実施される処理の一例を示すフローチャートである。
制御部60は、導出装置70によって導出された倍数n・dを、凹凸構造110の周期Λとして扱う。
ステップA11において制御部60は、導出装置70によって導出された倍数n・dと、λ/sinθとが等しくなるθを導出する。λは第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の波長であり、θは第1のレーザ光L1の光軸と第2のレーザ光L2の光軸とのなす角である。ここでは、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の波長λは、既知の固定値であるものとする。
ステップA12において制御部60は、第1のレーザ光L1の光軸と第2のレーザ光L2の光軸とのなす角が、ステップA11において導出されたθとなるように集光部42における反射ミラー401の反射面の向きおよび移動ステージ404および集光レンズ406(図7参照)の移動を制御する。
ステップA13において制御部60は、第1のレーザ光L1によるレーザパルスの照射タイミングと第2のレーザ光L2によるレーザパルスの照射タイミングとが一致するように、遅延時間調整部20における移動ステージ204(図5参照)の位置決めを行う。すなわち、制御部60は、第1のレーザ光L1の行路の長さと、第2のレーザ光L2の行路の長さを一致させる。制御部60は、撮像・解析装置52によって生成される情報に基づいて遅延時間調整部20を制御する。以下に、第1のレーザ光L1によるレーザパルスの照射タイミングと第2のレーザ光L2によるレーザパルスの照射タイミングとを一致させるための処理の詳細について説明する。
はじめに、第1のレーザ光L1のみを加工対象面S1に照射して、加工対象面S1に微細な穴を形成する。微細な穴の形成位置は、周期構造120を形成する領域の外側であることが好ましい。第2のレーザ光L2は、集光部42におけるシャッター407が閉状態となることで遮断される。
次に、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2のエネルギー密度を、加工対象面S1においてアブレーションが生じない程度の大きさに調整した後、第1のレーザ光L1によるレーザパルスおよび第2のレーザ光L2によるレーザパルスを加工対象面S1に照射する。第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2は、加工対象面S1に形成された微細な穴によって散乱され、その散乱光は顕微装置51を経由して撮像・解析装置52に導入される。
次に、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の散乱光の強度が等しくなるように、エネルギー調整部31、32を制御する。
次に、第1のレーザ光L1によるレーザパルスおよび第2のレーザ光L2によるレーザパルスを加工対象面S1に照射しながら、遅延時間調整部20における移動ステージ204の位置を徐々に変化させることで第2のレーザ光L2の行路の長さを徐々に変化させる。第1のレーザ光L1によるレーザパルスおよび第2のレーザ光L2によるレーザパルスが加工対象面S1において時間的に重なると、撮像・解析装置52において撮像される散乱光の像において干渉縞が現れる。撮像・解析装置52は、撮像された干渉縞の明瞭度を示す情報を生成し、これを制御部60に供給する。なお、干渉縞は一定の空間周波数を有していることから、撮像・解析装置52は撮像した画像に対してフーリエ変換等の画像処理を施し、特定の空間周波数成分の強度を干渉縞の明瞭度を示す情報として導出してもよい。
制御部60は、撮像・解析装置52から供給された情報によって示される干渉縞の明瞭度が最大となる位置において移動ステージ204を停止させる。以上の処理によって、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2によるレーザパルスが加工対象面S1上に時間的に重なることが保証される。
ステップA14において制御部60は、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2のエネルギー密度F1が、導出装置70によって導出されたエネルギー密度F1となるようにエネルギー調整部31、32を制御する。
ステップA15において制御部60は、レーザ光源10を駆動する。これにより、レーザ光源10からレーザ光L0によるレーザパルスが出力される。本ステップにおいてレーザ光源10から出力されるレーザパルスのパルス数N1は1である。レーザ光L0によるレーザパルスは、ビームスプリッタ11によって第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2に分割される。第1のレーザ光L1は、エネルギー調整部31および集光部41を経由して加工対象面S1に対して垂直方向から照射される。一方、第2のレーザ光L2は、遅延時間調整部20、エネルギー調整部32および集光部42を経由して加工対象面S1に対して斜め方向から照射される。第2のレーザ光L2は、第1のレーザ光L1の光軸と第2のレーザ光L2の光軸とのなす角が、ステップA11において導出されたθとなり、加工対象面S1における第1のレーザ光L1の照射位置と同じ位置に照射される。また、第1のレーザ光L1によるレーザパルスと第2のレーザ光L2によるレーザパルスが加工対象面S1上にほぼ同じタイミングで照射される。
互いに異なる方向から照射される第1のレーザ光L1によるレーザパルスおよび第2のレーザ光L2によるレーザパルスが、加工対象物100の加工対象面S1上に時間的、空間的に重なることで、加工対象面S1に干渉縞が形成される。加工対象面S1に2つのレーザによる干渉縞を形成することで、干渉縞の明部と暗部に対応した凹凸構造110が加工対象面S1に形成される。第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の光軸が存在する面と垂直なY方向に沿って直線状に伸びる複数の溝111が、X方向に周期的に配列された凹凸構造110が形成される(図1B参照)。第1のレーザ光L1の光軸と第2のレーザ光L2の光軸とのなす角が、ステップA11において導出されたθとされることで、凹凸構造110の周期Λは、導出装置70によって導出された倍数n・dに一致する。
ステップA16において制御部60は、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2によるレーザパルスの加工対象面S1における所定範囲に亘る照射が完了したか否かを判定し、完了していないと判定した場合には処理をステップA16に移行し、完了したと判定した場合には処理をステップA17に移行する。
ステップA17において制御部60は、XY方向に支持部80の支持軸81を移動させることで、加工対象面S1をXY方向に移動させ、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2によるレーザパルスの照射位置を移動させ、処理をステップA15に戻す。これにより、加工対象面S1の新たな位置に凹凸構造110が形成される。
ステップA18において制御部60は、加工対象物100を初期位置に戻し、集光部42におけるシャッター407を閉状態とし、第1のレーザ光L1のエネルギー密度F2が導出装置70によって導出されたエネルギー密度F2となるようにエネルギー調整部31を制御する。
ステップA19において、制御部60は、レーザ光源10を駆動してレーザ光源10からレーザパルスを出射させる。本ステップにおいてレーザ光源10から出力されるレーザパルスのパルス数N2は、導出装置70によって導出されたパルス数N2に設定される。レーザ光L0によるレーザパルスは、ビームスプリッタ11によって第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2に分割される。第1のレーザ光L1は、エネルギー調整部31および集光部41を経由して加工対象面S1に対して垂直方向から照射される。一方、第2のレーザ光L2は、シャッター407によって遮断され、加工対象面S1に照射されない。
加工対象面S1に形成された周期Λ(=n・d)の凹凸構造110に重ねて第1のレーザ光L1によるレーザパルスを照射することで、凹凸構造110が微細化され、第1のレーザ光L1の波長よりも短いナノメートルオーダーの周期dを有する周期構造120が加工対象面S1に形成される。すなわち、加工対象面S1に形成された凹凸構造110の周期Λに応じて定まる周期d(=Λ/n)の周期構造120が加工対象面S1に形成される。
ステップA20において制御部60は、第1のレーザ光L1によるレーザパルスの加工対象面S1における所定範囲に亘る照射が完了したか否かを判定し、完了していないと判定した場合には処理をステップA21に移行し、完了したと判定した場合には処理を終了させる。
ステップA21において制御部60は、XY方向に支持部80の支持軸81を移動させることで、加工対象面S1をXY方向に移動させ、処理をステップA17に戻す。これにより、加工対象面S1の新たな位置に周期構造120が形成される。
なお、上記の実施形態では、第1の工程においてレーザ加工またはフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いて加工対象面S1に凹凸構造110を形成する場合を例示したが、本発明は、この態様に限定されない。すなわち、第1の工程は、加工対象物に形成しようとする周期構造の周期の、加工対象物の材質に応じた倍数に相当する周期で配列された複数の直線状の溝を含む凹凸構造を加工対象面に有する加工対象物を用意できればよい。例えば、表面に凹凸構造が形成された加工対象物を購入するなどして取得してもよい。
[実施例1]
以下、実施例により本発明の第1の実施形態を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。加工対象物として窒化ガリウム(GaN)基板を用いた。レーザ光源として、中心波長800nm、パルス幅100フェムト秒の直線偏光を出射するチタンサファイアレーザシステムを用いた。
第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2のエネルギー密度F1をそれぞれ、400mJ/cm2に設定した。窒化ガリウム基板の表面に周期dが250nmの周期構造を形成するべく(1)式および(2)式から2つのレーザ光の光軸のなす角θを53°に設定した。なお、(1)式における整数nの値は4である。
第1のレーザ光L1によるレーザパルスと第2のレーザ光L2によるレーザパルスとが時間的、空間的に重なるように各レーザ光を窒化ガリウム基板の表面に照射した。照射したレーザパルスのパルス数N1を1とした。これにより、窒化ガリウム基板の表面に干渉縞が形成され、窒化ガリウム基板の干渉縞の明部に対応する部分においてアブレーションが生じ、周期的に配列された複数の溝を含む凹凸構造が形成された。図10Aは、窒化ガリウム基板の表面に形成された凹凸構造の電子顕微鏡画像である。凹凸構造の周期Λは、1μm程度であった。
続いて、第1のレーザ光L1のエネルギー密度F2を440mJ/cm2に設定した。その後、第1のレーザ光L1によるレーザパルスを窒化ガリウム基板の表面に形成された凹凸構造に重ねて照射した。第1のレーザ光L1の偏光方向は、窒化ガリウム基板の表面に形成された凹凸構造における溝の伸びる方向と直交する方向とし、照射したレーザパルスのパルス数N2を40回とした。これにより、窒化ガリウム基板の表面に形成された凹凸構造が微細化され、第1のレーザ光L1の波長よりも短いナノメートルオーダーの周期を有する周期構造が加工対象面S1に形成された。図10Bは、窒化ガリウム基板の表面に形成された周期構造の電子顕微鏡画像である。周期構造の周期dは、先に形成された凹凸構造の周期Λの1/4倍に相当する周期250nmであった。
以上のように、本発明の第1の実施形態に係る加工方法および加工装置1によれば、加工対象物の加工対象面に直線性が高く且つ規則的に配列されたナノメートルオーダーの周期構造を形成するとともに周期構造の周期を制御することが可能である。
本発明の第1の実施形態に係る加工方法は、例えば、液晶ディスプレイの位相差板の製造に用いられる円筒金型の作製に好適に用いることができる。本発明の第1の実施形態に係る加工方法によれば、高アスペクト比であり、直線性が良好であり且つ周期が均一な周期構造を加工対象面に形成することができるので、位相差板製造用の円筒金型の作製に適用することで、位相差板の高性能化に寄与することができる。
また、本発明の第1の実施形態に係る加工方法は、液晶ディスプレイのワイヤーグリッド偏光子の製造に用いられる金型の作製やナノインプリント用の金型の作製にも好適に用いることができる。
[第2の実施形態]
図11は、加工対象面S1に周期Λの凹凸構造110が形成された加工対象物100の断面図である。本発明の第2の実施形態に係る加工方法は、凹凸構造110における溝に相当する凹部の幅a、溝以外の部分に相当する凸部の幅b、凹凸構造110に重ねて照射される第1のレーザ光L1のエネルギー密度F2および照射回数(パルス数N2)によって、凹凸構造110における凹部に対応する部分に形成される周期構造の周期daと、凹凸構造110における凸部に対応する部分に形成される周期構造の周期dbとを異ならせる、というものである。それ以外の事項は、上記した第1の実施形態に係る加工方法と同じであり、重複する説明は省略する。
図12Aは、窒化ガリウム基板の表面に形成された凹凸構造110の一例を示す図である。図12Aに示す凹凸構造110において、凹部の幅aは534nmであり、凸部の幅bは406nmである。すなわち、凹凸構造110の周期Λ(=a+b)は940nmである。
図12Bは、図12Aに示す凹凸構造110に重ねてエネルギー密度F2が400mJ/cm2に調整された第1のレーザ光L1によるレーザパルスを20回照射した場合に(パルス数N2=20)、窒化ガリウム基板の表面に形成された周期構造120の一例を示す図である。上記の条件で、第1のレーザ光L1によるレーザパルスを照射することで、凹凸構造110の凹部(溝)に対応する部分に周期daが178nmの周期構造が形成され、凹凸構造110の凸部に対応する部分に周期dbが203nmの周期構造が形成された。すなわち、da=a/3、db=b/2である。
図12Cは、図12Aに示す凹凸構造110に重ねてエネルギー密度F2が400mJ/cm2に調整された第1のレーザ光L1によるレーザパルスを40回照射した場合に(パルス数N2=40)、窒化ガリウム基板の表面に形成された周期構造120の一例を示す図である。上記の条件で、第1のレーザ光L1によるレーザパルスを照射することで、窒化ガリウム基板の表面に均一な周期の周期構造が形成された。周期構造の周期dは190nmであった。すなわちd=Λ/5である。
図13Aは、窒化ガリウム基板の表面に形成された凹凸構造110の一例を示す図である。図13Aに示す凹凸構造110において、凹部の幅aは462nmであり、凸部の幅bは478nmである。すなわち、凹凸構造110の周期Λ(=a+b)は940nmである。
図13Bは、図13Aに示す凹凸構造110に重ねてエネルギー密度F2が400mJ/cm2に調整された第1のレーザ光L1によるレーザパルスを30回照射した場合に(パルス数N2=30)、窒化ガリウム基板の表面に形成された周期構造120の一例を示す図である。上記の条件で、第1のレーザ光L1によるレーザパルスを照射することで、凹凸構造110の凹部(溝)に対応する部分に周期daが231nmの周期構造が形成され、凹凸構造110の凸部に対応する部分に周期dbが159nmの周期構造が形成された。すなわち、da=a/2、db=b/3である。
このように、凹凸構造110における凹部の幅a、凸部の幅b、凹凸構造110に重ねて照射される第1のレーザ光L1のエネルギー密度F2および照射回数(パルス数N2)によって、凹凸構造110における凹部に対応する部分に形成される周期構造の周期daと、凹凸構造110における凸部に対応する部分に形成される周期構造の周期dbとを異ならせることが可能である。なお、凹部の幅aおよび凸部の幅bが異なる凹凸構造110は、レーザ加工技術や、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術等の公知の微細加工技術を用いて形成することができる。また、凹部の幅aおよび凸部の幅bが異なる凹凸構造110が形成された加工対象物を購入するなどして取得してもよい。
[第3の実施形態]
上記した第1の実施形態に係る加工方法は、加工対象面の1方向にのみ周期性を有する周期構造(例えば、Y方向に伸びる複数の溝がX方向に周期的に配列された周期構造)を形成するものであった。これに対して、第3の実施形態に係る加工方法は、加工対象面の2方向に周期性を有する、網目状、ドット状またはマトリックス状の周期構造を形成するものである。
図14A、14B、14Cおよび14Dは、本発明の第3の実施形態に係る加工方法の一例を示す図である。
本発明の第3の実施形態に係る加工方法は、加工対象物100に形成しようとする周期構造の第1の方向(例えばX方向)における周期d1の、加工対象物100の材質に応じた倍数に相当する周期Λ1(=n・d1)で配列された複数の直線状の溝を含む第1の凹凸構造を加工対象面S1に形成する第1の工程を含む(図14A)。この第1の工程は、上記した本発明の第1の実施形態に係る加工方法における第1の工程と同じである。
第1の工程において、加工対象面S1に第1の凹凸構造を形成する方法としては、第1の実施形態に係る加工方法と同様、第1のレーザ光L1によるレーザパルスおよび第2のレーザ光L2によるレーザパルスを、加工対象面S1上に時間的、空間的に重ねることで、加工対象面S1に干渉縞を形成する方法を用いることができる。第1の工程において、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の加工対象面S1における照射位置を順次移動させることにより、加工対象面S1の所定範囲に第1の凹凸構造を形成する。なお、第1の工程において、加工対象物の加工対象面S1に第1の凹凸構造を形成する他の方法として、公知のフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いてもよい。また、第1の工程は、上記第1の凹凸構造を加工対象面S1に形成する場合に限らず、上記の第1の凹凸構造を加工対象面S1に有する加工対象物100を用意する工程であれば足りる。例えば、表面に上記の第1の凹凸構造が形成された加工対象物を購入するなどして取得してもよい。
本発明の第3の実施形態に係る加工方法は、第1の凹凸構造における複数の溝の伸びる方向に応じた偏光方向(例えば、第1の凹凸構造における溝の伸びる方向と直交する偏光方向)の偏光を有する第1のレーザ光L1による超短パルスのレーザパルスを第1の凹凸構造に照射して第1のレーザ光L1の波長よりも短い周期d1の第1の周期構造を加工対象面S1に形成する第2の工程を含む(図14B)。この第2の工程は、上記した本発明の第1の実施形態に係る加工方法における第2の工程と同じである。
第1の凹凸構造に重ねて超短パルスレーザを照射することで、第1の凹凸構造が微細化され、レーザ光の波長よりも短いナノメートルオーダーの周期d1で配列された複数の溝を含む第1の周期構造が加工対象面S1に形成される。第2の工程において、第1のレーザ光L1の加工対象面S1における照射位置を順次移動させることにより、加工対象面S1の所定範囲に第1の周期構造を形成する。
本発明の第3の実施形態に係る加工方法は、第2の工程の後に、加工対象物100に形成しようとする周期構造の上記第1の方向と交差する第2の方向(例えばY方向)における周期d2の、加工対象物100の材質に応じた倍数に相当する周期Λ2(=n・d2)で配列され且つ第1の凹凸構造における複数の直線状の溝の伸びる方向(例えばY方向)と交差する方向(例えばX方向)に伸びる複数の直線状の溝を含む第2の凹凸構造を加工対象面S1に形成する第3の工程を含む(図14C)。
加工対象面S1に第2の凹凸構造を形成する方法としては、第1の工程と同様、第1のレーザ光L1によるレーザパルスおよび第2のレーザ光L2によるレーザパルスを、加工対象面S1上に時間的、空間的に重ねることで加工対象面S1に干渉縞を形成する方法を用いることができる。第2の凹凸構造における複数の溝の伸びる方向を、第1の凹凸構造における複数の溝の伸びる方向に対して交差する方向とする方法の一例として、以下の方法が挙げられる。すなわち、図14Cに示すように、加工対象面S1に垂直な軸を回転軸とした場合の加工対象面S1の回転角度位置を、第1の工程および第2の工程における回転角度位置とは異なる位置に固定して第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2を加工対象面S1に照射する。すなわち、第3の工程では、加工対象面S1を所定角度(例えば90°)回転させた後、第1の工程における処理と同様の処理を行う。ここで、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2のエネルギー密度を、先の工程において形成された第1の周期構造が消失しないレベルに調整して第2の凹凸構造を形成する。第3の工程において、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の加工対象面S1における照射位置を順次移動させることにより、加工対象面S1の所定範囲に第2の凹凸構造を形成する。なお、第3の工程において、加工対象物の加工対象面S1に第2の凹凸構造を形成する他の方法として、公知のフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いてもよい。
本発明の第3の実施形態に係る加工方法は、加工対象面S1の回転角度位置を第3の工程における回転角度位置を維持したまま、第2の凹凸構造における複数の溝の伸びる方向に応じた偏光方向(例えば、第2の凹凸構造における溝の伸びる方向と直交する偏光方向)の偏光を有する第1のレーザ光L1による超短パルスのレーザパルスを第2の凹凸構造に照射して第1のレーザ光L1の波長よりも短い周期d2の第2の周期構造を加工対象面S1に形成する第4の工程を含む(図14D)。
第2の凹凸構造に重ねて超短パルスレーザを照射することで、第2の凹凸構造が微細化され、レーザ光の波長よりも短いナノメートルオーダーの周期d2で配列された複数の溝を含む第2の周期構造が加工対象面S1に形成される。第4の工程において、第1のレーザ光L1の加工対象面S1における照射位置を順次移動させることにより、加工対象面S1の所定範囲に第2の周期構造を形成する。
第2の周期構造における溝の伸びる方向は、第1の周期構造における溝の伸びる方向と交差する方向となる。例えば、第3の工程において、加工対象面S1を90°回転させた場合、第1の周期構造における溝の伸びる方向と第2の周期構造における溝の伸びる方向が直交し、加工対象面S1に互いに直交する2方向に周期性を有する網目状、ドット状またはマトリックス状の周期構造が形成される。
図15は、上記した本発明の第3の実施形態に係る加工方法を実現する加工装置1Aの構成の一例を示す図である。加工装置1Aは、回転装置82を備えている点において、図4に示す加工装置1と異なり、それ以外の構成は加工装置1と同様である。回転装置82は、制御部60による制御に基づいて、加工対象物100の加工対象面S1を、加工対象面S1と垂直な支持軸81を回転軸として回転させる機能を有する。
以下に、加工装置1Aの動作について説明する。以下の説明では、加工対象物の加工対象面におけるX方向およびY方向の2方向に周期性を有する周期構造を形成する場合について例示する。はじめに、導出装置70の動作について説明する。図16は、導出装置70において実施される処理の一例を示すフローチャートである。
ステップA21において導出装置70は、加工対象面S1に形成すべき周期構造のX方向における周期d1、Y方向における周期d2および加工対象物100の材質を示す情報の入力を受け付ける。
ステップA22において導出装置70は、自身が備えるテーブルを参照することで、入力情報によって示される加工対象物100の材質および加工対象面S1に形成すべき周期構造120の周期d1およびd2に対応する倍率n、エネルギー密度F1、F2、F3、F4よびパルス数N2、N4を抽出する。上記のテーブルにおいて、加工対象物100の材質、加工対象面S1に形成すべき周期構造の周期d1、d2と、倍率n、エネルギー密度F1、F2、F3、F4およびパルス数N2、N4と、が対応付けられている。なお、エネルギー密度F1は、第1の工程において加工対象面S1に照射される第1のレーザ光L1および第2のレーザL2のエネルギー密度である。エネルギー密度F2は、第2の工程において加工対象面S1に照射される第1のレーザ光L1のエネルギー密度である。パルス数N2は、第2の工程において加工対象面S1に照射される第1のレーザ光L1のパルス数である。パルス数N4は、第4の工程において加工対象面S1に照射される第1のレーザ光L1のパルス数である。上記のテーブルは、例えば、実験結果に基づいて作成することが可能である。
ステップA23において導出装置70は、抽出した倍率nと、入力された周期d1および周期d2とのそれぞれの積を、倍数n・d1およびn・d2として出力する。
ステップS24において導出装置70は、抽出したエネルギー密度F1、F2、F3、F4およびパルス数N2、N4を加工条件として出力する。
次に、制御部60の動作について説明する。図17Aおよび図17Bは、制御部60において実施される処理の一例を示すフローチャートである。
制御部60は、導出装置70によって導出された倍数n・d1およびn・d2を、それぞれ、第1の凹凸構造の周期Λ1および第2の凹凸構造の周期Λ2として扱う。
ステップA31において制御部60は、導出装置70によって導出された倍数n・d1と、λ/sinθ1とが等しくなるθ1を導出する。ここでは、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の波長λは、既知の固定値であるものとする。
ステップA32において制御部60は、第1のレーザ光L1の光軸と第2のレーザ光L2の光軸とのなす角が、ステップA31において導出されたθ1となるように集光部42における反射ミラー401の反射面の向きおよび移動ステージ404および集光レンズ406(図7参照)の移動を制御する。
ステップA33において制御部60は、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2によるレーザパルスが加工対象面S1上に時間的に重なるように遅延時間調整部20における移動ステージ204(図5参照)の位置決めを行う。すなわち、制御部60は、第1のレーザ光L1の行路の長さと、第2のレーザ光L2の行路の長さを一致させる。制御部60は、撮像・解析装置52によって生成される情報に基づいて遅延時間調整部20を制御する。
ステップA34において制御部60は、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2のエネルギー密度F1が、導出装置70によって導出されたエネルギー密度F1となるようにエネルギー調整部31、32を制御する。
ステップA35において制御部60は、レーザ光源10を駆動する。これにより、レーザ光源10からレーザ光L0によるレーザパルスが出力される。本ステップにおいてレーザ光源10から出力されるレーザパルスのパルス数N1は1である。レーザ光L0によるレーザパルスは、ビームスプリッタ11によって第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2に分割される。第1のレーザ光L1は、エネルギー調整部31および集光部41を経由して加工対象面S1に対して垂直方向から照射される。一方、第2のレーザ光L2は、遅延時間調整部20、エネルギー調整部32および集光部42を経由して加工対象面S1に対して斜め方向から照射される。第2のレーザ光L2は、第1のレーザ光L1の光軸と第2のレーザ光L2の光軸とのなす角が、ステップA31において導出されたθ1となり、加工対象面S1における第1のレーザ光L1の照射位置と同じ位置に照射される。また、第1のレーザ光L1によるレーザパルスと第2のレーザ光L2によるレーザパルスが加工対象面S1上にほぼ同じタイミングで照射される。
互いに異なる方向から照射される第1のレーザ光L1によるレーザパルスおよび第2のレーザ光L2によるレーザパルスを、加工対象物100の加工対象面S1上に時間的、空間的に重ねることで加工対象面S1に干渉縞が形成される。加工対象面S1に2つのレーザによる干渉縞を形成することで、干渉縞の明部と暗部に対応した第1の凹凸構造が加工対象面S1に形成される。第1のレーザ光L1の光軸と第2のレーザ光L2の光軸とのなす角が、ステップA31において導出されたθ1とされることで、第1の凹凸構造の周期Λ1は、導出装置70によって導出された倍数n・d1に一致する。
ステップA36において制御部60は、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2によるレーザパルスの加工対象面S1における所定範囲に亘る照射が完了したか否かを判定し、完了していないと判定した場合には処理をステップA36に移行し、完了したと判定した場合には処理をステップA37に移行する。
ステップA37において制御部60は、XY方向に支持部80の支持軸81を移動させることで、加工対象面S1をXY方向に移動させ、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2によるレーザパルスの照射位置を移動させ、処理をステップA35に戻す。これにより、加工対象面S1の新たな位置に第1の凹凸構造が形成される。
ステップA38において制御部60は、加工対象物100を初期位置に戻し、集光部42におけるシャッター407を閉状態とし、第1のレーザ光L1のエネルギー密度F2が導出装置70によって導出されたエネルギー密度F2となるようにエネルギー調整部31を制御する。
ステップA39において、制御部60は、レーザ光源10を駆動してレーザ光源10からレーザパルスを出射させる。本ステップにおいてレーザ光源10から出力されるレーザパルスのパルス数N2は、導出装置70によって導出されたパルス数N2に設定される。レーザ光L0によるレーザパルスは、ビームスプリッタ11によって第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2に分割される。第1のレーザ光L1は、エネルギー調整部31および集光部41を経由して加工対象面S1に対して垂直方向から照射される。一方、第2のレーザ光L2は、シャッター407によって遮断され、加工対象面S1に照射されない。
第1の凹凸構造に重ねて第1のレーザ光L1を照射することで、第1の凹凸構造が微細化され、X方向に周期性を有する周期d1の第1の周期構造が加工対象面S1に形成される。すなわち、加工対象面S1に形成された第1の凹凸構造の周期Λ1に応じて定まる周期d1(=Λ1/n)の第1の周期構造が加工対象面S1に形成される。
ステップA40において制御部60は、第1のレーザ光L1によるレーザパルスの加工対象面S1における所定範囲に亘る照射が完了したか否かを判定し、完了していないと判定した場合には処理をステップA41に移行し、完了したと判定した場合には処理をステップA42に移行する。
ステップA41において制御部60は、XY方向に支持部80の支持軸81を移動させることで、加工対象面S1をXY方向に移動させ処理をステップA39に戻す。これにより、加工対象面S1の新たな位置に第1の周期構造が形成される。
ステップA42において制御部60は、回転装置82を駆動して、支持軸81を回転軸として加工対象面S1を一例として90°回転させる。なお、加工対象面S1の回転角度は90°に限らず、適宜設定することが可能である。
ステップA43において制御部60は、導出装置70によって導出された倍数n・d2と、λ/sinθ2とが等しくなるθ2を導出する。ここでは、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の波長λは、既知の固定値であるものとする。
ステップA44において制御部60は、第1のレーザ光L1の光軸と第2のレーザ光L2の光軸とのなす角が、ステップA41において導出されたθ2となるように集光部42における反射ミラー401の反射面の向きおよび移動ステージ404および集光レンズ406(図7参照)の移動を制御する。
ステップA45において制御部60は、第1のレーザ光L1によるレーザパルスおよび第2のレーザ光L2によるレーザパルスが加工対象面S1上に時間的に重なるように遅延時間調整部20における移動ステージ204(図5参照)の位置決めを行う。すなわち、制御部60は、第1のレーザ光L1の行路の長さと、第2のレーザ光L2の行路の長さを一致させる。制御部60は、撮像・解析装置52によって生成される情報に基づいて遅延時間調整部20を制御する。なお、θ1=θ2である場合、ステップA42およびA43の処理は省略することが可能である。
ステップA46において制御部60は、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2のエネルギー密度F3が導出装置70によって導出されたエネルギー密度F3となるようにエネルギー調整部31、32を制御する。
ステップA47において制御部60は、レーザ光源10を駆動する。これにより、レーザ光源10からレーザ光L0によるレーザパルスが出力される。本ステップにおいてレーザ光源10から出力されるレーザパルスのパルス数N3は1である。レーザ光L0によるレーザパルスは、ビームスプリッタ11によって第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2に分割される。第1のレーザ光L1は、エネルギー調整部31および集光部41を経由して加工対象面S1に対して垂直方向から照射される。一方、第2のレーザ光L2は、遅延時間調整部20、エネルギー調整部32および集光部42を経由して加工対象面S1に対して斜め方向から照射される。第2のレーザ光L2は、第1のレーザ光L1の光軸と第2のレーザ光L2の光軸とのなす角が、ステップA43において導出されたθ2となり、加工対象面S1における第1のレーザ光L1の照射位置と同じ位置に照射される。また、第1のレーザ光L1によるレーザパルスと第2のレーザ光L2によるレーザパルスが加工対象面S1上にほぼ同じタイミングで照射される。
互いに異なる方向から照射される第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2によるレーザパルスを、加工対象物100の加工対象面S1上に時間的、空間的に重ねることで加工対象面S1に干渉縞が形成される。加工対象面S1に2つのレーザによる干渉縞を形成することで、干渉縞の明部と暗部に対応した第2の凹凸構造が加工対象面S1に形成される。第1のレーザ光L1の光軸と第2のレーザ光L2の光軸とのなす角が、ステップA43において導出されたθ2とされることで、第2の凹凸構造の周期Λ2は、導出装置70によって導出された倍数n・d2と一致する。ステップA42において加工対象面S1が例えば90°回転されることにより、第2の凹凸構造における溝の伸びる方向は、第1の凹凸構造における溝の伸びる方向に対して直交する方向となる。
ステップA48において制御部60は、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2によるレーザパルスの加工対象面S1における所定範囲に亘る照射が完了したか否かを判定し、完了していないと判定した場合には処理をステップA49に移行し、完了したと判定した場合には処理をステップA50に移行する。
ステップA49において制御部60は、XY方向に支持部80の支持軸81を移動させることで、加工対象面S1をXY方向に移動させ、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2によるレーザパルスの照射位置を移動させ、処理をステップA47に戻す。これにより、加工対象面S1の新たな位置に第2の凹凸構造が形成される。
ステップA50において制御部60は、加工対象物100を初期位置に戻し、集光部42におけるシャッター407を閉状態とし、第1のレーザ光L1のエネルギー密度F4が導出装置70によって導出されたエネルギー密度F4となるようにエネルギー調整部31を制御する。
ステップS51において制御部60は、レーザ光源10を駆動してレーザ光源10からレーザパルスを出射させる。本ステップにおいてレーザ光源10から出力されるレーザパルスのパルス数N4は、導出装置70によって導出されたパルス数N4に設定される。レーザ光L0によるレーザパルスは、ビームスプリッタ11によって第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2に分割される。第1のレーザ光L1は、エネルギー調整部31および集光部41を経由して加工対象面S1に対して垂直方向から照射される。一方、第2のレーザ光L2は、シャッター407によって遮断され、加工対象面S1に照射されない。
第2の凹凸構造に重ねて第1のレーザ光L1を照射することで、第2の凹凸構造が微細化され、Y方向に周期性を有する周期d2の第2の周期構造が加工対象面S1に形成される。すなわち、加工対象面S1に形成された第2の凹凸構造の周期Λ2に応じて定まる周期d2(=Λ2/n)の第2の周期構造が加工対象面S1に形成される。
ステップA52において制御部60は、第1のレーザ光L1によるレーザパルスの加工対象面S1における所定範囲に亘る照射が完了したか否かを判定し、完了していないと判定した場合には処理をステップA53に移行し、完了したと判定した場合には処理を終了させる。
ステップA53において制御部60は、XY方向に支持部80の支持軸81を移動させることで、加工対象面S1をXY方向に移動させ処理をステップA51に戻す。これにより、加工対象面S1の新たな位置に第2の周期構造が形成される。ステップA42において加工対象面S1が90°回転されることにより、第2の周期構造における溝の伸びる方向は、第1の周期構造における溝の伸びる方向に対して直交する。すなわち、加工対象面S1に第1の周期構造と第2の周期構造とからなるX方向およびY方向に周期性を有する網目状、ドット状またはマトリックス状の周期構造が形成される。
[実施例2]
以下、実施例により本発明の第3の実施形態を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。加工対象物として窒化ガリウム(GaN)基板を用いた。レーザ光源として、中心波長800nm、パルス幅100フェムト秒の直線偏光を出射するチタンサファイアレーザシステムを用いた。
第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2のエネルギー密度F1をそれぞれ、400mJ/cm2に設定した。窒化ガリウム基板の表面にX方向における周期d1が250nmの第1の周期構造を形成するべく(1)式および(2)式から2つのレーザ光の光軸のなす角θを53°に設定した。なお、(1)式における整数nの値は4である。
第1のレーザ光L1によるレーザパルスと第2のレーザ光L2によるレーザパルスとが時間的、空間的に重なるように各レーザ光を窒化ガリウム基板の表面に照射した。照射したレーザパルスのパルス数N1を1とした。これにより、窒化ガリウム基板の表面に干渉縞が形成され、窒化ガリウム基板の干渉縞の明部に対応する部分においてアブレーションが生じ、X方向に周期的に配列された複数の溝を含む第1の凹凸構造が形成された。図18Aは、窒化ガリウム基板の表面に形成された第1の凹凸構造の電子顕微鏡画像である。第1の凹凸構造の周期Λ1は、1μm程度であった。
続いて、第1のレーザ光L1のエネルギー密度F2を440mJ/cm2に設定した。その後、第1のレーザ光L1によるレーザパルスを窒化ガリウム基板の表面に形成された第1の凹凸構造に重ねて照射した。照射したレーザパルスのパルス数N2を40とした。これにより、窒化ガリウム基板の表面に形成された第1の凹凸構造が微細化され、X方向に周期性を有する周期d1の第1の周期構造が加工対象面S1に形成された。図18Bは、窒化ガリウム基板の表面に形成された第1の周期構造の電子顕微鏡画像である。第1の周期構造の周期d1は、先に形成された第1の凹凸構造の周期Λ1の1/4倍に相当する周期250nmであった。
続いて、窒化ガリウム基板の加工対象面に対して垂直な軸を回転軸として窒化ガリウム基板を90°回転させた。第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2のエネルギー密度F3をそれぞれ、400mJ/cm2に設定した。窒化ガリウム基板の表面にY方向における周期d2が250nmの周期構造を形成するべく(1)式および(2)式から2つのレーザ光の光軸のなす角θを53°に設定した。なお、(1)式における整数nの値は4である。
第1のレーザ光L1によるレーザパルスと第2のレーザ光L2によるレーザパルスとが時間的、空間的に重なるように各レーザ光を第1の周期構造が形成された窒化ガリウム基板の表面に照射した。照射したレーザパルスのパルス数N3を1とした。これにより、窒化ガリウム基板の表面に干渉縞が形成され、窒化ガリウム基板の干渉縞の明部に対応する部分においてアブレーションが生じ、Y方向に周期的に配列された複数の溝を含む第2の凹凸構造が形成された。図18Cは、窒化ガリウム基板の表面に第1の周期構造に重ねて形成された第2の凹凸構造の電子顕微鏡画像である。第2の凹凸構造の周期Λ2は、1μm程度であった。
続いて、第1のレーザ光L1のエネルギー密度F4を290mJ/cm2に設定した。その後、第1のレーザ光L1によるレーザパルスを窒化ガリウム基板の表面に形成された第2の凹凸構造に重ねて照射した。照射したレーザパルスのパルス数N2を40とした。これにより、窒化ガリウム基板の表面に形成された第2の凹凸構造が微細化され、Y方向に周期性を有する周期d2の第2の周期構造が加工対象面S1に形成された。図18Dは、窒化ガリウム基板の表面に第1の周期構造に重ねて形成された第2の周期構造の電子顕微鏡画像である。第2の周期構造の周期d2は、先に形成された第2の凹凸構造の周期Λ2の1/4倍に相当する周期250nmであった。第2の周期構造を、第1の周期構造に重ねて形成することにより、窒化ガリウム基板の表面には、X方向およびY方向に周期性を有する網目状、ドット状またはマトリックス状の周期構造が形成された。
図19Aおよび図19Bは、それぞれ、窒化ガリウム基板の表面に形成されたX方向およびY方向に周期性を有する周期構造におけるX方向およびY方向における空間周波数分布を示すグラフである。図19Aおよび図19Bに示すように、本発明の第3の実施形態に係る加工方法によれば、X方向およびY方向の2方向において均一な周期を有するナノメートルオーダーの構造物を加工対象面に形成することができる。
図20Aは、加工対象面に円偏光を有するレーザ光によるレーザパルスを照射することによって加工対象面に形成された比較例に係る構造物の電子顕微鏡画像である。図20Bは、図20Aに示す構造物の動径方向における空間周波数分布を示すグラフである。円偏光を有するレーザ光によるレーザパルスを加工対象面に照射した場合には、加工対象面に形成される構造物の配列方向は不規則となり、周期は不均一となる。
なお、上記の実施例では、加工対象面を90°回転させることにより、互いに直交する2方向に周期性を有する周期構造を形成する場合を例示したが、加工対象面の回転角度は90°に限らず、任意の角度とすることが可能である。
図21は、本発明の第3の実施形態に係る加工方法を実現する加工装置の他の構成例を示す図である。加工装置1Bは、光学定盤90および回転装置91を備えている点において、図4に示す加工装置1と異なり、それ以外の構成は加工装置1と同様である。光学定盤90の上には、ビームスプリッタ11、遅延時間調整部20、エネルギー調整部31、32および集光部41、42が載置されている。回転装置91は、制御部60による制御に基づいて、光学定盤90を加工対象面S1に対して垂直な軸を回転軸として回転させる機能を有する。光学定盤90を、加工対象面S1に対して垂直な軸を回転軸として回転させることにより、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の光軸が、加工対象面S1に対して回転する。これにより、図15に示す加工装置1Aにおいて、回転装置82によって加工対象面S1を回転させた場合と同様の効果を得ることができる。
以上のように、本発明の第3の実施形態に係る加工方法および加工装置1A、1Bによれば、加工対象物の加工対象面に直線性が高く且つ規則的に配列されたナノメートルオーダーの周期構造を形成するとともに周期構造の周期を制御することが可能である。また、加工対象面の2方向に周期性を有する周期構造を形成することができるので、周期構造の形状を網目状、ドット状またはマトリックス状とすることができる。
本発明の第3の実施形態に係る加工方法は、例えば、無反射面の形成に用いることができる。光の波長よりも小さいドット状の構造物を物体表面に形成することにより、原理的に表面反射率をゼロにすることができる。モスアイ構造と呼ばれるこの構造は、近年ナノインプリント技術を用いて実用化されている。本発明の第3の実施形態に係る加工方法によれば、アスペクト比の高いドット状の周期構造を形成することができるので、高性能な無反射面を形成することができる。
また、本発明の第3の実施形態に係る加工方法は、構造色の発現に用いることができる。これは、当該方法によって光の波長よりも小さい周期構造を物体表面に形成することにより、特定波長の光を減少または増幅させることができるためである。当該方法は加工対象物から微細周期構造を直接レーザ光で削り出すため、物体表面に薬剤を使用せずに着色することができる。当該方法によれば、周期が均一であり且つ整列した周期構造を形成することができるので、発色性が高く、視野方向および視野角に制限されない構造色による着色面を大面積に形成できる。
上記した第1~第3の実施形態に係る加工方法は、既存の微細加工技術に対して例えば以下の利点を有する。本実施形態に係る加工方法は真空中でなくても実施することができる。すなわち大気中または液体中でも実施することができる。また、本実施形態に係る加工方法によれば、加工対象面は平面に限らず球体や円筒が有するような曲面であってもよい。また、本実施形態に係る加工方法は加工対象面の移動またはレーザ光の走査によって加工部位を容易に移動できるので、加工領域の大きさは制限されにくく、大面積の加工物をシームレスに形成することができる。
なお、上記した第1~第3の実施形態において、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の波長λが一定である場合を例示したが、波長変換手段を用いて、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の波長λを可変とし、周期Λを有する凹凸構造を形成する場合に、(2)式に基づいてλを制御パラメータとしてもよい。波長変換手段として、BBO結晶(β-BaB2O4)、KDP結晶(KH2PO4)等の非線形光学結晶を用いることが可能である。波長変換手段は、例えば、ビームスプリッタ11の前段に配置することが可能であう。
また、上記した第1~第3の実施形態において、遅延時間調整部20によって第2のレーザ光L2の行路の長さを調整する場合を例示したが、第1のレーザ光L1の行路の長さを調整可能としてもよい。すなわち、第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の少なくとも一方について、行路の長さが調整可能であればよい。