以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
以下、図面を参照しながら、アジュバント組成物およびワクチン組成物について説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
図1によれば、アジュバント組成物4は、両親媒性物質1と、pH感受性化合物2と、自然免疫を活性化する物質3と、を含む。また、図1において、pH感受性担体7は、両親媒性物質1およびpH感受性化合物2から構成される。
図1に示すように、一実施形態によれば、自然免疫を活性化する物質3は、両親媒性物質1の構成する疎水性部分に、pH感受性化合物2とともに会合する。この場合、アジュバント組成物4は、アジュバント複合体ともいうことができる。また、別の一実施形態によれば、自然免疫を活性化する物質3は、両親媒性物質1およびpH感受性化合物2を含むpH感受性担体と独立して存在する。
また、ワクチン組成物6は、アジュバント組成物4と、抗原5とを含む。図1に示されるように、抗原5は、上記2つの形態に係るアジュバント組成物4に包含されてもよいし、独立に存在してもよい。このうち、特にアジュバント複合体4に抗原5が包含されるワクチン組成物6については、ワクチン複合体ともいうことができる。
本明細書において、「アジュバント組成物」とは、pH感受性担体および自然免疫を活性化する物質を含むものを意味し、その形態について特に制限はない。すなわち、「アジュバント組成物」は、pH感受性担体および自然免疫を活性化する物質を混合したものであってもよいし、pH感受性担体に自然免疫を活性化する物質を担持または包含したもの(アジュバント複合体)であってもよく、本明細書においては両者をまとめて「アジュバント組成物」と称する。
また、本明細書において、「ワクチン組成物」とは、アジュバント組成物および抗原を含むものを意味し、その形態については特に制限はない。すなわち、「ワクチン組成物」には、アジュバント組成物の構成要素および抗原からなる群から選択される2種以上が混合されたものでもあってもよいし、アジュバント複合体に抗原を担持または包含したもの(ワクチン複合体)であってもよく、本明細書においては両者をまとめて「ワクチン組成物」と称する。
ワクチン組成物6によって、CTLの誘導が増大する(図3(B))。この理由は必ずしも明らかではないが、以下のような理由によるものと推察される。
まず、自然免疫を活性化する物質により、抗原提示細胞(図2においては、樹状細胞)が成熟化する(図示せず)。また、抗原5とpH感受性担体7が、エンドサイトーシスにより樹状細胞8内に取り込まれた後、エンドソーム9内に移行する。pH感受性担体によって、抗原がエンドソーム内からサイトゾルへ送達され、樹状細胞のプロセシングを受ける。その後、断片化された抗原がMHCクラスI分子と結合し、細胞表面に抗原提示される。成熟化した樹状細胞においては、共刺激分子やMHCクラスI分子の産生が増強されているため、CTLの誘導が増大すると考えられる。樹状細胞の成熟化と抗原のサイトゾルへの送達は、必ずしも同時に発生させる必要はないため、自然免疫を活性化する物質およびpH感受性担体は、必ずしも複合体の形態でなくてもよく、アジュバント組成物内で別々に存在していてもよい。また、ワクチン組成物において、抗原は、自然免疫を活性化する物質およびpH感受性担体と別々に存在していてもよい。
なお、pH感受性担体によって、抗原がエンドソーム内からサイトゾルへ送達される機構については後述する。
<アジュバント組成物>
アジュバント組成物は、pH感受性担体(以下、単に「担体」、「会合体」、または「複合体」と称することがある)と、自然免疫を活性化する物質と、を含む。本発明のアジュバント組成物によれば、高い抗腫瘍効果を得ることができる。
[pH感受性担体]
pH感受性担体は、pHに感受性を有し、pHが酸性になると細胞内の抗原をサイトゾルに輸送できる機能を有する。pH感受性担体は、pH感受性化合物および両親媒性物質を含む。
以下、pH感受性化合物および両親媒性物質を含む、pH感受性担体について詳細に説明する。
(pH感受性担体の構造)
pH感受性担体は、生理的pH以上において、pH感受性化合物と両親媒性物質とが会合して形成されているものと考えられる。より詳細には、pH感受性担体は、pH感受性化合物が、両親媒性物質の構成する疎水性部分に会合して形成されているものと考えられる。なお、pH感受性担体の当該会合形式は推測であり、pH感受性担体は、当該会合形式には限定されない。
(膜破壊機能促進効果)
pH感受性担体は、膜破壊機能を有することが好ましい。
「膜破壊機能」とは、溶出性試験において溶出を起こす機能を意味する。ここで、本明細書における溶出性試験とは、消光物質と蛍光物質とを含む水溶液を内包したリポソーム(分散液)と、評価サンプル分散液とを、所定のpHに調整した水溶液に添加し、当該水溶液を37℃で90分間あるいは30分間インキュベーションした後、当該水溶液の蛍光を測定する試験である。当該方法により、リポソームから溶出した蛍光物質量が測定することができ、pH感受性担体のリポソームの膜破壊機能を確認することができる。なお、溶出性試験については、後述する実施例で詳細に説明する。
また、「膜破壊機能促進効果を発現する」とは、(1)溶出性試験において、生理的pHにおける溶出率よりも生理的pH未満の所定のpHにおける溶出率が上昇し、なおかつその上昇幅がpH感受性化合物単独で実験した場合の上昇幅よりも大きいこと、および、(2)当該生理的pH未満の所定のpHでの溶出性試験において、pH感受性化合物および両親媒性物質がpH感受性担体を形成したときの溶出率が、pH感受性化合物単独の溶出率および両親媒性物質単独の溶出率の和より大きいこと、の両者を満たすことを意味する。より具体的には、膜破壊機能促進効果を発現するとは、pH7.4とpH5.0またはpH4.5との溶出性試験において、pH感受性担体の溶出率Lc、pH感受性化合物単独の溶出率La、および両親媒性物質単独の溶出率Lbが、下記の関係を双方満たすものをいう。すなわち、上記(1)が、下記式(1)で表され、上記(2)が下記式(2)で表される。なお、下記式中、pH7.4の溶出率を、それぞれ、Lc7.4、La7.4、Lb7.4と表し、pH5.0または4.5の溶出率を、それぞれ、Lcx、Lax、Lbxと表す。
上記式(1)において、Δは、0を超えていればよいが、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、30以上であることがさらに好ましい。なお、Δは大きければ大きいほど好ましく、その上限は特に限定されないが、通常100未満である。また、上記式(2)において、Δ’は、0を超えていればよいが、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、15以上であることがさらに好ましい。なお、Δ’は大きければ大きいほど好ましく、その上限は特に限定されないが、通常100未満である。
本発明の一実施形態において、上記式(1)および上記式(2)におけるΔおよびΔ’が、それぞれ5以上であり、かつ、胆汁酸および脂質を含むpH感受性担体が好ましい。
ここで、本明細書において「生理的pH」とは、正常組織や正常体液におけるpHを意味する。生理的pHは、通常、7.4であるが、正常組織や正常体液によって若干(±0.1)異なる。また、「生理的pH未満の所定のpH」とは、pH7.4未満であればよく、好ましくはpH3.0以上、pH7.4未満、より好ましくはpH4.0以上、pH7.3未満、さらに好ましくはpH4.5以上、pH7.0未満である。
pH感受性担体が膜破壊機能促進効果を発現するメカニズムは明らかではないが、下記のように推測される。なお、本発明は、下記推測によって限定されるものではない。
pH感受性担体は、周辺環境が生理的pH未満となった場合には、pH感受性化合物と両親媒性物質との会合形態が変化し、その結果、膜破壊機能促進効果を有するものと考えられる。例えば、pH感受性担体と、生体膜(例えば、細胞膜、小胞膜など)とが存在している系で、pHが生理的pH未満となった場合、pH感受性担体の会合形態が変化し、生体膜と接触した後、当該変化に誘起されて、生体膜の膜構造変化も生じるものと推測される。すなわち、pH感受性担体が生体膜の膜構造変化を誘起する。これは、pHが弱酸性に変化することで、pH感受性担体中のpH感受性化合物が該担体の構造中で不安定化し、その結果、pH感受性担体が、系内に存在する生体膜と再配列し、膜破壊機能促進効果が発現すると考えられる。また、換言すれば、pH感受性化合物は、pHが弱酸性に変化すると、プロトン化により疎水的な会合への溶解性を変化させる分子であると考えられる。つまり、pH感受性化合物を含む疎水的な会合は、弱酸性環境に応答し、機能を発現することが可能であるといえる。なお、「膜破壊」とは、このような膜構造の変化を称するものであり、膜構成成分が全て分離または分解しなくてもよい。このような「膜破壊」が生じることにより、生体膜(例えば、エンドソーム)の膜内部に含有されうる成分が生体膜の外部(例えば、サイトゾル)に溶出等する。
pH感受性担体は、溶出性試験における溶出率がpH7.4で20%未満であり、かつ、pH4.0で20%より大きいものであることが好ましい。また、溶出性試験における溶出率がpH6.5で20%未満であり、かつ、pH4.0で20%より大きいものであることがより好ましい。また、上記においてpH7.4またはpH6.5での溶出率が、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。また、pH4.0での溶出率が、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。pH感受性担体の溶出率が、上記のようになることで、弱酸性pHにおける膜破壊機能促進効果の発現がより発揮される。
また、pH感受性担体は、膜破壊機能促進効果とともに、膜融合機能促進効果を発現しうる。
本発明において、「膜融合機能」とは、膜融合試験において膜融合を起こす機能を意味する。ここで、本明細書における膜融合試験とは、2種類の蛍光物質を二分子膜に組み込んだリポソーム(分散液)と、評価サンプル分散液とを、所定のpHに調整した水溶液に添加し、当該水溶液を37℃で60分間インキュベーションした後、当該水溶液の蛍光を測定する試験である。当該方法により、リポソーム中に組み込まれた2種類の蛍光物質のエネルギー共鳴移動の変化を測定することができ、pH感受性担体の膜融合機能を確認することができる。なお、膜融合試験については、国際公開第2015/079952号の[0189]~[0194](米国特許出願公開第2016/0271246号明細書、[0307]~[0312])に記載の方法を採用する。
また、「膜融合機能促進効果を発現する」とは、膜融合試験において、生理的pHにおける融合率よりも生理的pH未満の所定のpHにおける融合率が上昇し、なおかつその上昇幅がpH感受性化合物単独で実験した場合の上昇幅よりも大きいこと、を満たすことを意味する。より具体的には、膜融合機能促進効果を発現するとは、pH7.4とpH5.0との膜融合試験において、pH感受性担体(pH感受性化合物と両親媒性物質との複合体)の融合率Rc(%)が、pH感受性化合物単独の融合率Ra(%)と、下記式(3)の関係を満たすものをいう。なお、下記式中、pH7.4の融合率を、それぞれ、Rc7.4、Ra7.4と表し、pH5.0の融合率を、それぞれ、Rcx、Raxと表す。
上記式(3)においてΔRは、0を超えていればよいが、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましい。
上記式(3)においてΔRが2以上であるpH感受性担体であって、該担体は胆汁酸と脂質を含むものが好ましい。
pH感受性担体は、弱酸性pH(生理的pH未満の所定のpH)において、膜融合機能促進効果を発現する。これらのメカニズムは明らかではないが、上記の膜破壊機能促進効果と同様のメカニズムであると考えられる。なお、本発明は、当該推測によって限定されるものではない。
すなわち、本発明のpH感受性担体は、周辺環境が生理的pH未満となった場合、pH感受性化合物と両親媒性物質との会合形態が変化し、系内に存在する生体膜と再配列することで、膜融合するものと推測される。この際、膜融合は互いに親和性のある成分どうしで再配列するため、生体膜と親和性がない、または低い成分(例えば、抗原)は、再配列される膜から排除、放出される。
上述のように、通常、抗原は、生体膜の一種であるエンドソーム(endosome)に取り囲まれ、細胞(抗原提示細胞等)に取り込まれる。その後、プロトンポンプの作用によってエンドソーム内部のpHが低下する。さらに、エンドソームは、加水分解酵素を含むリソソームと融合して、抗原は分解される(その後、MHCクラスII分子と複合体を形成して、CD4陽性T細胞に抗原提示されうる)。このため、ほとんどの抗原はサイトゾル内にデリバリーされない。
これに対して、pH感受性担体を使用すると、抗原(例えば、外因性抗原)をサイトゾルにデリバリーすることができる。より詳細には、抗原がpH感受性担体とともにエンドソームに取り囲まれ、細胞に取り込まれると、同様にして、pHが低下した環境に導かれる。そして、pHの低下(酸性化)に伴い、pH感受性化合物がpH感受性担体を不安定化させ、エンドソームとpH感受性担体との間で膜の再配列が起こる。その結果、pH感受性担体による膜破壊機能(場合によっては膜融合機能とともに発現する膜破壊機能)が生じる。この膜破壊機能(または膜融合機能および膜破壊機能)に伴い、抗原がエンドソームからサイトゾルにデリバリーされうる。なお、上記メカニズムによれば、原則として抗原はpH感受性担体とともにエンドソームに取り込まれさえすればサイトゾルへの輸送が可能となりうることから、抗原とpH感受性担体とを混合した組成物の形態で使用されても、抗原がpH感受性担体に担持または包含された形態で使用されてもよいことが理解される。
(pH感受性化合物)
pH感受性化合物は、デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。pH感受性化合物の塩としては、特に制限されないが、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩などが挙げられる。これらのpH感受性化合物は、単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
本発明の一実施形態によれば、pH感受性化合物は、デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
また、本発明の別の一実施形態によれば、pH感受性化合物は、デオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸またはそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、デオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、グリチルリチン酸またはそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
pH感受性化合物として好ましく用いられるデオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸およびグリコデオキシコール酸は、胆汁酸と総称される。胆汁酸は、代表的なステロイド誘導体として1920年代以前から知られており、細菌学の分野において利用されている。胆汁酸はヒトの生体内においてコレステロールや脂質、脂溶性ビタミンと複合体を形成し、その吸収を補助する働きを有している。また、物理化学的な性質から脂質やタンパク質、疎水的な材料との複合体を形成することができるため、タンパク質の分離精製や可溶化剤、乳化剤として古くから利用されている。最近ではワクチンの製造工程の用途、胆汁酸トランスポーターを介在させることによる薬剤の吸収促進剤としても注目されている。特に、デオキシコール酸ナトリウム(別名デスオキシコール酸ナトリウム)とウルソデオキシコール酸(別名ウルソデスオキシコール酸)はヒトへの注射が可能な医薬品添加物として実績を有しており、優れた安全性が認められている。そのため、pH感受性化合物として、デオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を用いることがさらに好ましく、デオキシコール酸またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を用いることが特に好ましい。
pH感受性化合物は、両親媒性物質100molに対して、10mol以上の割合で含有されることが好ましく、10~640molの割合で含有されることがより好ましく、20~320molの割合で含有されることがさらに好ましく、20~160molの割合で含有されることが特に好ましい。
(両親媒性物質)
両親媒性物質は、炭素数10~12のホスファチジルコリン、炭素数12~18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16~18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα-トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの両親媒性物質は、単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
なお、本明細書において、両親媒性物質における「炭素数」とは、両親媒性物質の疎水部を構成する脂肪酸成分(アシル基)の炭素数を意味する。アシル基が2以上存在する場合には、合計数ではなく、1のアシル基の炭素数を指す。例えば、ジラウロイルホスファチジルコリンの場合、2つのラウリン酸成分を含むが、ジラウロイルホスファチジルコリンの炭素数とは、そのうちの1のラウリン酸成分の炭素数、すなわち12を指す。ホスファチジルコリンの疎水部を構成する炭素数は10~12と適当な長さであることで、両親媒性脂質がミセル形成能を有するとともに膜に融合しやすくなる(国際公開第2013/180253号、図8)。
炭素数10~12のホスファチジルコリンとしては、飽和のアシル基を有するジアシルホスファチジルコリンであることが好ましく、例えば、ジデカノイルホスファチジルコリン(DDPC;1,2-ジデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC;1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン)が挙げられる。これらのうち、ホスファチジルコリンとしては、天然由来または公知の方法で合成したものでもよく、また市販のものを用いることができる。ホスファチジルコリンの疎水部を構成する炭素数は10~12と適当な長さであることで、両親媒性脂質がミセル形成能を有するとともに膜の再配列を誘起しやすくなる。
炭素数12~18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルとしては、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート)、ポリオキシエチレンソルビタンミリスチン酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノミリステート)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミチン酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンパルミテート)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアリン酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)等が挙げられる。ポリオキシエチレンの重合度としては、特に制限されないが、ソルビタンに付加したポリオキシエチレン鎖の合計した重合度が、10~200であることが好ましく、15~100であることがより好ましく、20~50であることがさらに好ましい。ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルは、合成品を用いてもよいし市販品を用いてもよい。ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、Tween20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル)、Tween40(ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミチン酸エステル)、Tween60(ポリオキシエチレンソルビタンモノステアリン酸エステル)、Tween80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル)として販売されているものを好ましく用いることができる。これらのなかでも、炭素数12~18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル(Tween20、Tween40、Tween60、Tween80)を用いることが好ましい。
炭素数16~18のソルビタン脂肪酸エステルとしては、ソルビタンモノパルミチン酸エステル(ソルビタンモノパルミテート)、ソルビタンモノステアリン酸エステル(ソルビタンモノステアレート)、ソルビタンモノオレイン酸エステル(ソルビタンモノオレート)等のソルビタンモノ脂肪酸エステル;ソルビタントリパルミチン酸エステル(ソルビタントリパルミテート)、ソルビタントリステアリン酸エステル(ソルビタントリステアレート)、ソルビタントリオレイン酸エステル(ソルビタントリオレート)等のソルビタントリ脂肪酸エステル等が挙げられる。ソルビタン脂肪酸エステルは、合成品を用いてもよいし市販品を用いてもよい。ソルビタン脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、SPAN40(ソルビタンパルミチン酸エステル)、SPAN60(ソルビタンステアリン酸エステル)、SPAN80(ソルビタンオレイン酸エステル)、SPAN65(ソルビタントリステアリン酸エステル)、SPAN85(ソルビタントリオレイン酸エステル)として販売されているものを好ましく用いることができる。これらのなかでも、SPAN80、SPAN65、SPAN85を用いることが好ましい。
モノオレイン酸グリセロール(モノオレイン酸グリセリル)、ジラウリン酸グリセロール(ジラウリン酸グリセリル)、ジステアリン酸グリセロール(ジステアリン酸グリセリル)、ジオレイン酸グリセロール(ジオレイン酸グリセリル)は、グリセリンに1または2分子の脂肪酸がエステル結合したアシルグリセロールであり、脂肪酸が結合する部位は特に制限されない。例えば、モノアシルグリセロールであるモノオレイン酸グリセロールであれば、グリセリンのC1位またはC2位に脂肪酸がエステル結合していてよい。また、ジアシルグリセロールであるジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロールであれば、グリセリンのC1位およびC2位、またはC1位およびC3位に脂肪酸がエステル結合していればよい。例えば、ジラウリン酸グリセロールとしては、C1位およびC3位が置換された、α、α’-ジラウリンが好ましい。ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロールとしては、C1位およびC2位が置換されたジアシルグリセロールが好ましい。これらのグリセロール誘導体としては、合成品を用いてもよいし市販品を用いてもよい。
ポリオキシエチレンヒマシ油は、ヒマシ油にポリオキシエチレンが付加したものである。ポリオキシエチレンの重合度としては、特に制限されないが、3~200であることが好ましく、5~100であることがより好ましく、10~50であることがさらに好ましい。ポリオキシエチレンヒマシ油は、合成品を用いてもよいし市販品を用いてもよい。
α-トコフェロールとしては、天然由来または公知の方法で合成したものを用いても、市販のものを用いてもよい。
上述の両親媒性物質のうち、両親媒性物質は、炭素数10~12のホスファチジルコリン、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレオレート、ソルビタンモノオレオレート、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα-トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジデカノイルホスファチジルコリン、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレオレート、ソルビタンモノオレオレート、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα-トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ジラウロイルホスファチジルコリンおよび/またはジデカノイルホスファチジルコリンであることがさらに好ましく、ジラウロイルホスファチジルコリンであることが特に好ましい。
(pH感受性化合物および両親媒性物質の組み合わせ)
pH感受性化合物が、デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、両親媒性物質が、炭素数10~12のホスファチジルコリン、炭素数12~18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16~18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα-トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
pH感受性担体は、pH感受性化合物と両親媒性物質との組み合わせにより、所望のpHにおいて、膜破壊機能促進効果を発現させることができる。この際、pH感受性化合物と両親媒性物質との組み合わせにより、pH感受性担体の膜破壊機能促進効果を発現し始めるpHは異なる。これはpH感受性化合物によってpKaが異なること、さらには両親媒性物質との会合形成の様式が、pH感受性化合物と両親媒性物質との組み合わせにより異なることに由来するものと考えられる。したがって、pH感受性化合物と両親媒性物質との組み合わせを適宜変更することによって、機能を発現するpHを選択することが可能であり、デリバリーを詳細に設定することが可能であるといえる。
pH感受性担体において、pH感受性化合物と両親媒性物質との組み合わせとしては、コール酸およびDLPC、デオキシコール酸およびDDPC、デオキシコール酸およびDLPC、デオキシコール酸およびTween20、デオキシコール酸およびTween40、デオキシコール酸およびTween60、デオキシコール酸およびTween80、デオキシコール酸およびSPAN40、デオキシコール酸およびSPAN60、デオキシコール酸およびSPAN80、デオキシコール酸およびSPAN65、デオキシコール酸およびSPAN85、デオキシコール酸およびα-トコフェロール、デオキシコール酸およびモノオレイン酸グリセロール、デオキシコール酸およびジステアリン酸グリセロール、デオキシコール酸およびジオレイン酸グリセロール、デオキシコール酸およびジラウリン酸グリセロール(α、α’-ジラウリン)、デオキシコール酸およびポリオキシエチレンヒマシ油、ケノデオキシコール酸およびDLPC、ヒオデオキシコール酸およびDLPC、グリコデオキシコール酸およびDLPC、ウルソデオキシコール酸およびDDPC、ウルソデオキシコール酸およびDLPC、ウルソデオキシコール酸およびTween20、ウルソデオキシコール酸およびTween40、ウルソデオキシコール酸およびTween60、ウルソデオキシコール酸およびTween80、ウルソデオキシコール酸およびSPAN40、ウルソデオキシコール酸およびSPAN60、ウルソデオキシコール酸およびSPAN80、ウルソデオキシコール酸およびSPAN65、ウルソデオキシコール酸およびSPAN85、ウルソデオキシコール酸およびα-トコフェロール、ウルソデオキシコール酸およびモノオレイン酸グリセロール、ウルソデオキシコール酸およびジステアリン酸グリセロール、ウルソデオキシコール酸およびジオレイン酸グリセロール、ウルソデオキシコール酸およびジラウリン酸グリセロール(α、α’-ジラウリン)、ウルソデオキシコール酸およびポリオキシエチレンヒマシ油、グリチルリチン酸およびDDPC、グリチルリチン酸およびDLPC、グリチルリチン酸およびTween20、グリチルリチン酸およびTween40、グリチルリチン酸およびTween60、グリチルリチン酸およびTween80、グリチルリチン酸およびSPAN40、グリチルリチン酸およびSPAN60、グリチルリチン酸およびSPAN80、グリチルリチン酸およびSPAN65、グリチルリチン酸およびSPAN85、グリチルリチン酸およびα-トコフェロール、グリチルリチン酸およびモノオレイン酸グリセロール、グリチルリチン酸およびジステアリン酸グリセロール、グリチルリチン酸およびジオレイン酸グリセロール、グリチルリチン酸およびジラウリン酸グリセロール(α、α’-ジラウリン)、グリチルリチン酸およびポリオキシエチレンヒマシ油が好ましい。上記においてpH感受性化合物は塩であってもよい。
より好ましくは、コール酸およびDLPC、デオキシコール酸およびDDPC、デオキシコール酸およびDLPC、デオキシコール酸およびTween20、デオキシコール酸およびTween40、デオキシコール酸およびTween60、デオキシコール酸およびTween80、デオキシコール酸およびSPAN40、デオキシコール酸およびSPAN65、デオキシコール酸およびSPAN80、デオキシコール酸およびSPAN85、デオキシコール酸およびα-トコフェロール、デオキシコール酸およびモノオレイン酸グリセロール、デオキシコール酸およびポリオキシエチレンヒマシ油、ケノデオキシコール酸およびDLPC、ヒオデオキシコール酸およびDLPC、グリコデオキシコール酸およびDLPC、ウルソデオキシコール酸およびDDPC、ウルソデオキシコール酸およびDLPC、ウルソデオキシコール酸およびTween40、ウルソデオキシコール酸およびTween60、ウルソデオキシコール酸およびTween80、ウルソデオキシコール酸およびSPAN40、ウルソデオキシコール酸およびSPAN65、ウルソデオキシコール酸およびSPAN85、ウルソデオキシコール酸およびα-トコフェロール、ウルソデオキシコール酸およびモノオレイン、ウルソデオキシコール酸およびポリオキシエチレンヒマシ油、グリチルリチン酸およびDDPC、グリチルリチン酸およびDLPC、グリチルリチン酸およびTween40、グリチルリチン酸およびTween60、グリチルリチン酸およびTween80、グリチルリチン酸およびSPAN40、グリチルリチン酸およびSPAN65、グリチルリチン酸およびSPAN85、グリチルリチン酸およびα-トコフェロール、グリチルリチン酸およびモノオレイン酸グリセロール、グリチルリチン酸およびポリオキシエチレンヒマシ油である。上記においてpH感受性化合物は塩であってもよい。
特に好ましくは、デオキシコール酸およびDDPC、デオキシコール酸およびDLPC、デオキシコール酸およびTween20、デオキシコール酸およびTween80、デオキシコール酸およびSPAN80、デオキシコール酸およびα-トコフェロール、ウルソデオキシコール酸およびDDPC、ウルソデオキシコール酸およびDLPC、グリチルリチン酸およびDLPCであり、最も好ましくは、デオキシコール酸およびDDPC、デオキシコール酸およびDLPCである。上記においてpH感受性化合物は塩であってもよい。
[自然免疫を活性化する物質]
自然免疫を活性化する物質とは、構造パターン認識受容体に認識され、免疫担当細胞を活性化に導く物質を意味する。
自然免疫を活性化する物質としては、特に制限されないが、Toll様受容体に対するアゴニストであることが好ましい。
自然免疫を活性化する物質の具体例としては、特に制限されないが、CpGモチーフを含むオリゴヌクレオチド;ミョウバン等の鉱物塩;水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム等のゲルタイプアジュバント;免疫刺激性RNA分子、内毒素(リポ多糖(LPS;内毒素)、モノホスホリルリピドA(MPL:登録商標))、外毒素(コレラ毒素、大腸菌(E.coli)熱不安定性毒素、百日咳毒素)、ムラミルジペプチド、フラジェリン等の微生物アジュバント;不完全フロイントアジュバント(IFA)等の油性アジュバント、流動パラフィン、ラノリン等の油性アジュバント生分解性ミクロスフェア、サポニン(QS-21、Quil-A等)、非イオン性ブロックコポリマー、ムラミルペプチド類似物、ポリホスファゼン、合成ポリヌクレオチド(非CpG合成ポリヌクレオチド等)、イミダゾキノリン等の合成アジュバント;DOTAP、DC-Chol、DDA等のカチオン性脂質;一本鎖RNA;二本鎖RNA等が挙げられる。これらのうち、自然免疫を活性化する物質は、CpGモチーフを含むオリゴヌクレオチド;鉱物塩;水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム等のゲルタイプアジュバント;免疫刺激性RNA分子、モノホスホリルリピドA(MPL:登録商標))、外毒素(コレラ毒素、大腸菌(E.coli)熱不安定性毒素、百日咳毒素)、フラジェリン等の微生物アジュバント、サポニン(QS-21、Quil-A等)、合成ポリヌクレオチド(非CpG合成ポリヌクレオチド等)、イミダゾキノリン等の合成アジュバント、一本鎖RNA;二本鎖RNA等であることが好ましく、モノホスホリルリピドA、CpGモチーフ、水酸化アルミニウムを含むオリゴヌクレオチドであることがより好ましく、免疫チェックポイント阻害剤との併用効果に非常に優れることから、CpGモチーフを含むオリゴヌクレオチドであることが特に好ましい。
自然免疫を活性化する物質は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
自然免疫を活性化する物質の含有量は、使用する自然免疫を活性化する物質の種類によっても異なるが、両親媒性物質100molに対して、0.0227~22.7molであることが好ましい。自然免疫を活性化する物質の含有量が0.0227mol以上であると、免疫応答を好適に誘導させることができることから好ましい。一方、自然免疫を活性化する物質の含有量が22.7mol以下であると、コストが低減できることから好ましい。
CpGモチーフを含むオリゴヌクレオチドは、非メチル化CpG オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)であることが好ましく、Toll様受容体9(TLR9)のリガンドである非メチル化CpG オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)であることがより好ましい。オリゴデオキシヌクレオチドは、デオキシヌクレオシド(デオキシアデノシン(塩基部分は、アデニン(A))、デオキシグアノシン(塩基部分は、グアニン(G))、チミジン(塩基部分は、チミン(T))、デオキシシチジン(塩基部分は、シトシン(C)))が、リン酸を介在したホスホジエステル結合によって多量体化した化合物を指す。オリゴヌクレオチドのホスホジエステル結合の部分は、その全部または一部が、酸素原子が硫黄原子に置換されたホスホロチオエート修飾されたものであってもよい。ホスホロチオエート修飾されたホスホジエステル結合を、ホスホロチオエート結合と換言することもできる。
非メチル化CpG オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)とは、単一又は複数の非メチル化CpGモチーフを核酸分子内(5’末端または3’末端でない)に有する、オリゴデオキシヌクレオチドである。ここで、非メチル化CpGモチーフとは、シトシン(C)-グアニン(G)(5’-CpG-3’)ジヌクレオチド配列であって、当該のシトシンの5位がメチル化されていないジヌクレオチド配列をいう。一般に、真核生物においては5’-CpG-3’配列はCGメチラーゼによってシトシンがメチル化されているため、メチル化されていない5’-CpG-3’配列のゲノム中での出現頻度は小さい。
非メチル化CpG オリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)は、公知の核酸合成方法を用いて容易に作製することが可能であり、また、市販品を用いてもよい。
CpG ODNは、好ましくは、18~25のデオキシヌクレオチド、より好ましくは20~22のデオキシヌクレオチドからなる。
CpG ODNとしては、クラスA(Class A;タイプD(type D)ともいう)、クラスB(Class B;タイプK(type K)ともいう)およびクラスC(Class C)のCpG ODNが例示される。
クラスAのCpG ODNは、配列が1以上の非メチル化CpG配列を含むパリンドローム配列であって、骨格がホスホジエステル結合である部分と、該パリンドローム配列の5’側及び/又は3’側に結合したポリG配列(poly(G)、デオキシグアノシンが2個以上連結した配列)であって骨格がホスホロチオエート結合である部分とからなるCpG ODNを指す。なお、パリンドローム配列とは、配列と相補鎖の配列とが一致する回文構造を有する配列を指す。
クラスAのCpG ODNの具体例として、ODN2216、ODN2336、ODN1585が例示される。これらはいずれもInvivoGen社から購入可能である。
クラスBのCpG ODNは、配列中に1以上の非メチル化CpG配列を含み、かつ、骨格がオリゴヌクレオチド全長にわたりホスホロチオエート結合であるCpG ODNを指す。クラスBのCpG ODNの具体例として、ODN2006、ODN1668、ODN1826が例示される。これらはいずれもInvivoGen社から購入可能である。
タイプCのCpG ODNは、配列中に1以上の非メチル化CpG配列含む5’側部分、および非メチル化CpG配列を含むパリンドローム配列を含む3’側部分からなり、骨格がオリゴヌクレオチド全長にわたりホスホロチオエート結合であるCpG ODNを指す。クラスCのCpG ODNの具体例として、ODN2395、ODN M362が例示される。ODN2395、ODN M362は、ヒトおよびマウスにおいて顕著に免疫賦活活性が認められる。これらはいずれもInvivoGen社から購入可能である。
[水性溶媒]
アジュバント組成物は、水性溶媒を含んでいてもよい。
アジュバント組成物が水性溶媒を含む場合、pH感受性担体、自然免疫を活性化する物質は、水性溶媒中で分散した分散液となりうる。
この際、pH感受性担体は、好ましくは、水性溶媒中で、pH感受性化合物と両親媒性物質とを含む複合体を形成する。これらの複合体の形態は特に制限されず、pH感受性化合物と両親媒性物質とが膜を形成してもよいし、両親媒性物質が形成する構造にpH感受性化合物の一部分もしくは全体が会合などにより埋め込まれていてもよい。また、pH感受性化合物と両親媒性物質とがミセル状の粒子(pH感受性化合物と両親媒性物質とが疎水性相互作用により粒状に会合した粒子であり、典型的には単分子膜構造の粒子である)を形成するのが好ましい。また、ファゴサイトーシスやエンドサイトーシスによる取り込みは、一定以上の大きさの粒子に対して活発に行われることから、ミセル状の粒子は、粒子径が10~200nmであることが好ましく、10~100nmであることがより好ましい。なお、上記ミセル状の粒子には、脂質二分子膜構造(例えば、リポソーム)を形成するものは含まない。また、本明細書中、pH感受性担体の粒子径は、動的光散乱法(MALVERN Instruments社製、NanoZS90)により測定することができる。
また、アジュバント組成物は、水性溶媒中で、複合体を形成したpH感受性担体と、自然免疫を活性化する物質と、を含む複合体(アジュバント複合体)を形成することが好ましい。複合体の形態は特に制限されないが、pH感受性担体を構成するpH感受性物質および両親媒性物質と、自然免疫を活性化する物質とがミセル状の粒子を形成することが好ましい。当該ミセル状の粒子の粒子径は、10~200nmであることが好ましく、10~100nmであることがより好ましい。
なお、アジュバント組成物を含む水性溶媒中、pH感受性化合物、両親媒性物質、自然免疫を刺激する活性を有する物質の少なくとも1つが、会合体を形成せず、遊離の状態で存在していてもよい。
水性溶媒としては、緩衝剤、NaCl、グルコース、ショ糖などの糖類を含む水溶液であることが好ましい。
緩衝剤としては、アジュバント組成物のpHを生理的pH以上に維持するものであれば公知の緩衝剤が適宜使用でき、特に限定されるものではない。緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、クエン酸-リン酸緩衝剤、トリスヒドロキシメチルアミノメタン-HCl緩衝剤(トリス塩酸緩衝剤)、トリスヒドロキシメチルアミノメタン-EDTA緩衝剤(トリスEDTA緩衝剤、TE緩衝剤)、MES緩衝剤(2-モルホリノエタンスルホン酸緩衝剤)、TES緩衝剤(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸緩衝剤)、酢酸緩衝剤、MOPS緩衝剤(3-モルホリノプロパンスルホン酸緩衝剤)、MOPS-NaOH緩衝剤、HEPES緩衝剤(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸緩衝剤)、HEPES-NaOH緩衝剤などのGOOD緩衝剤、グリシン-塩酸緩衝剤、グリシン-NaOH緩衝剤、グリシルグリシン-NaOH緩衝剤、グリシルグリシン-KOH緩衝剤などのアミノ酸系緩衝剤;トリス-ホウ酸緩衝剤、ホウ酸-NaOH緩衝剤、ホウ酸緩衝剤などのホウ酸系緩衝剤;またはイミダゾール緩衝剤などが用いられる。これらのうち、PBS(Phosphate buffered saline)などのリン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、クエン酸-リン酸緩衝剤、トリス塩酸緩衝剤、トリスEDTA緩衝剤(TE緩衝剤)、MES緩衝剤、酢酸緩衝剤、HEPES-NaOH緩衝剤を用いることが好ましい。緩衝剤の濃度としては、特に制限されず、0.1~200mMであることが好ましく、1~100mMであることがより好ましい。なお、本明細書において「緩衝剤の濃度」とは、水性溶媒中に含まれる緩衝剤の濃度(mM)をいう。
NaCl、グルコース、ショ糖などの糖類の濃度としては、特に制限されず、0.1~200mMであることが好ましく、1~150mMであることがより好ましい。
水性溶媒を用いた場合のアジュバント組成物中のpH感受性担体の濃度としては、特に制限されないが、pH感受性化合物と両親媒性物質との合計モル濃度が、好ましくは0.73μmol/L~7.4mmol/L、より好ましくは7.3μmol/L~6.5mmol/L、さらに好ましくは8.0μmol/L~4.2mmol/Lである。
また、水性溶媒を用いた場合のアジュバント組成物中の自然免疫を活性化する物質のモル濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.14nmol/L~0.227mmol/L、より好ましくは1.4nmol/L~0.19mmol/L、さらに好ましくは1.6nmol/L~0.12mmol/Lである。
[他の成分]
アジュバント組成物は、他の成分を含んでいてもよい。当該他の成分としては、特に制限されないが、安定化剤等が挙げられる。
安定化剤としては、pH感受性担体および自然免疫を活性化する物質に悪影響を与えなければ特に制限されず、例えば、1-オクタノール、1-ドデカノール、1-ヘキサドデカノール、1-エイコサノール等の飽和および不飽和の炭素数4~20のアルコール;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の飽和および不飽和の炭素数12~18の脂肪酸;カプリル酸メチル(オクタン酸メチル)、カプリル酸エチル(オクタン酸エチル)、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ミリスチン酸エチル、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル等の飽和および不飽和の炭素数8~18の脂肪酸アルキルエステル(炭素数1~3のアルキル);D(L)-アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、ロイシン、イソロイシン、リシン、メチオニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、フェニルアラニン、グルタミン酸等のD(L)-アミノ酸;トリカプロイン、トリカプリリン等のアミノ酸トリグリセライド;ポリオキシエチレンソルビタントリパルミチン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等の炭素数12~18のポリオキシエチレンソルビタントリ脂肪酸エステル(例えば、Tween65、Tween85);ポリオキシエチレンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンミリスチン酸エステル、ポリオキシエチレンパルミチン酸エステル、ポリオキシエチレンステアリン酸エステル等の炭素数12~18のポリオキシエチレンアルキルエステル(例えば、PEG20ステアリルエーテル、PEG23ラウリルエーテル);ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油(例えば、PEG10硬化ヒマシ油、PEG40硬化ヒマシ油、PEG60硬化ヒマシ油);カプリリン(オクタン酸グリセロール)、モノカプリン酸グリセロール、モノラウリン酸グリセロール、モノミリスチン酸グリセロール、モノパルミチン酸グリセロール、モノステアリン酸グリセロール、モノオレイン酸グリセロール等の飽和および不飽和の炭素数8~18のモノ脂肪酸グリセロールエステル;ジオクタン酸グリセロール、ジカプリン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジミリスチン酸グリセロールエステル、ジパルミチン酸グリセロール等の炭素数8~16のジ脂肪酸グリセロール;α-トコフェロール酢酸エステル、ヒマシ油、大豆油、コレステロール、スクアレン、スクアラン、ラクトース、パルミチン酸アスコルビル、安息香酸ベンジル、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等の公知の安定化剤が用いられうる。なお、安定化剤における「炭素数」とは、疎水部を構成する脂肪酸成分(アシル基)の炭素数を意味する。
これら他の成分の含有量としては、pH感受性担体および自然免疫を活性化する物質に悪影響を与えなければ特に制限されないが、両親媒性物質100molに対して、150mol以下であることが好ましく、0molを超えて66.4mol以下であることがより好ましい。
pH感受性担体および自然免疫を活性化する物質を含むアジュバント組成物は、抗原とともに投与することにより、効果的にCTLを誘導することができる。
すなわち、上記アジュバント組成物においては、pH感受性担体に、自然免疫を活性化する物質を併用しても、pH感受性担体の機能、例えば、膜破壊機能促進効果(および膜融合機能促進効果)を好適に発揮することができる。また、pH感受性担体とともに自然免疫を活性化する物質を用いると、自然免疫を活性化する物質の機能も好適に発揮することができる。この理由は必ずしも明らかではないが、以下のような理由によるものと推察される。
すなわち、pH感受性担体は、好ましい形態において、pH感受性化合物および両親媒性物質を含み、膜破壊機能促進効果(場合によっては、膜破壊機能促進効果および膜融合機能促進効果)を有する。この際、膜破壊機能促進効果(および膜融合機能促進効果)は、上述のように、酸性環境下におけるpH感受性化合物によるpH感受性担体の会合状態の変化の惹起、およびこの場合における両親媒性物質によるエンドソーム等の細胞膜との再配列に基づくものである。ここで、pH感受性担体に自然免疫を活性化する物質を併用しても、pH感受性化合物のpH感受性は変動しないため、pH感受性化合物は、pH感受性担体の会合状態の変化を惹起することができる。また、自然免疫を活性化する物質が、例えば、両親媒性物質に組み込まれていても、pH感受性担体と独立に存在していても、両親媒性物質による細胞膜との再配列には影響を与えない。そうすると、自然免疫を活性化する物質をpH感受性担体と併用しても、pH感受性担体の機能は損なわれない。そして、自然免疫を活性化する物質は、例えば、疎水的な相互作用によりpH感受性担体の両親媒性物質に組み込まれているだけであり、または、単にpH感受性担体と独立して存在しているだけであり、その機能も損なわれない。その結果、本形態に係るアジュバント組成物は、抗原とともに投与した場合、pH感受性担体の機能により抗原をサイトゾルに導入することができるとともに、自然免疫を活性化する物質が作用することにより、サイトゾルに導入された抗原に基づくクロスプレゼンテーションを好適に誘導することができ、効果的にCTLを誘導することができる。
なお、上記理由は推定のものであり、これ以外の理由によって本発明の効果がもたらされたとしても、本発明の技術的範囲に含まれる。
また、上記アジュバント組成物は、液性免疫をも好適に誘導することができる。
上述のように、外因性抗原は、通常であれば、抗原提示細胞内のエンドソームでペプチド断片まで分解され、MHCクラスII分子と複合体を形成して、CD4陽性T細胞に提示される。
本形態に係るアジュバント組成物が、共に投与された抗原をクロスプレゼンテーションすることにより、CTLを誘導する場合には、pH感受性担体が、エンドソームの細胞膜の再配列を起こす際に抗原や自然免疫を活性化する物質がサイトゾルに導入されうる。しかし、一実施形態においては、再配列が起きたとしても、抗原および自然免疫を活性化する物質の一部または全部がエンドソーム内に残存する場合がありうる。また、一実施形態において、抗原とアジュバント組成物とが独立して存在する場合には、一部のエンドソームにおいては、抗原のみが取り込まれる場合がありうる。そうすると、エンドソームで抗原がペプチド断片まで分解され、MHCクラスII分子と複合体を形成して、CD4陽性T細胞に提示されて液性免疫が誘導される。この際、クロスプレゼンテーションを好適に誘導している樹状細胞は、免疫的に活性化された状態にあることから、当該液性免疫の誘導は好適に発現することとなる。あるいは、クロスプレゼンテーションを好適に誘導している樹状細胞は、免疫を活性化するサイトカイン(例えば、IFNγ)を盛んに産生し、周りの環境を、免疫誘導に適した環境に導くこととなる。
したがって、アジュバント組成物は、クロスプレゼンテーションとともに、またはクロスプレゼンテーションに代えて、液性免疫を誘導することができる。
[免疫チェックポイント阻害剤]
アジュバント組成物は、免疫チェックポイント阻害剤と、組み合わせて投与されるように用いられる。
T細胞上には免疫チェックポイント受容体が存在し、抗原提示細胞上に発現しているリガンドと相互作用する。T細胞はMHC分子上に提示された抗原を認識して活性化し、免疫反応を起こすが、並行して生じる免疫チェックポイント受容体-リガンドの相互作用によりT細胞の活性化が調節を受ける。免疫チェックポイント受容体には共刺激性のものと抑制性のものがあり、両者のバランスによってT細胞の活性化及び免疫反応が調節を受けている。
がん細胞は、抑制性の免疫チェックポイント受容体に対するリガンドを発現し、該受容体を利用して細胞傷害性T細胞による破壊から逃避している。
免疫チェックポイント阻害剤は、受容体またはリガンドの免疫チェックポイントの働きを阻害するものであり、例えば、抑制性の受容体に対するアンタゴニストや、共刺激性の免疫チェックポイント受容体に対するアゴニストが挙げられる。
「アンタゴニスト」という語には、受容体とリガンドとの結合による受容体の活性化を妨害する各種の物質が包含される。例えば、受容体に結合して受容体-リガンド間の結合を妨害する物質、及びリガンドに結合して受容体-リガンド間の結合を妨害する物質を挙げることができる。
抑制性の免疫チェックポイントに対するアンタゴニストとしては、抑制性の免疫チェックポイント分子(抑制性の受容体又は該受容体のリガンド)と結合するアンタゴニスト性抗体、抑制性の免疫チェックポイントリガンドに基づいて設計された、受容体を活性化しない可溶性のポリペプチド、又は該ポリペプチドを発現可能なベクター等が挙げられる。
抑制性の免疫チェックポイント受容体に対するアンタゴニストとしては、具体的には、抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体、抗LAG-3抗体、抗TIM-3抗体、抗BTLA抗体などが挙げられる。
抑制性の免疫チェックポイント受容体に対するリガンドに対するアンタゴニストとしては、抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体、抗CD80抗体、抗CD86抗体、抗GAL9抗体、抗HVEM抗体などが挙げられる。
中でも、アジュバント組成物との併用による抗腫瘍効果が高いことから、免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体および抗CTLA-4抗体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、抗PD-1抗体および/または抗PD-L1抗体であることがより好ましく、抗PD-1抗体であることがさらに好ましい。
抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L2などの抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、改変抗体(例えば抗原認識部位のみヒト化した「ヒト化抗体」など)、キメラ抗体、2つのエピトープを同時に認識することができる二機能性抗体、断片抗体(例えば、F(ab’)2、Fab’、FabまたはFv断片)などが挙げられる。抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG、IgMなど、いずれのクラスのものであってもよい。抗原への特異的結合性の観点からはモノクローナル抗体を用いることがより好ましい。
モノクローナル抗体やポリクローナル抗体は従来公知の方法を参酌して作製することができる。
抗体は市販品を用いてもよい。
<アジュバント組成物の製造方法>
pH感受性担体の製造方法は、国際公開第2013/180253号(米国特許出願公開第2013/323320号明細書)に記載の方法などを適宜参酌することができる。
具体的には、pH感受性化合物と両親媒性物質とを会合させる方法としては、pH感受性化合物と、両親媒性物質とが、水性溶液中で接触すればよい。よって、pH感受性担体は、pH感受性化合物と、両親媒性物質とを、水性溶液中で接触させることにより製造することができる。具体的には、pH感受性化合物と両親媒性物質とを含む水性溶液を作製し、当該溶液を、乳化機、ボルテックスミキサー、超音波などを用いて強く攪拌し分散することで、pH感受性化合物と両親媒性物質とが会合したpH感受性担体を得ることができる。
pH感受性化合物と両親媒性物質とを含む水性溶液を調製する方法としては、pH感受性化合物と両親媒性物質とが会合体を形成すれば特に制限されない。例えば、(1)pH感受性化合物を含む水性溶液と、両親媒性物質を含む水性溶液とを別々に調製し、それら水性溶液を混合し、当該溶液を、乳化機、ボルテックスミキサー、超音波などを用いて強く攪拌し分散させてpH感受性担体を得る方法;(2)リポソーム/ミセルの製造法として公知であるバンガム法にて調製する方法;が挙げられる。
バンガム法としては、以下の手順が具体的に挙げられる。
まず、ガラス容器中で、pH感受性化合物および両親媒性物質等のpH感受性担体の構成成分を有機溶媒(例えば、メタノール、クロロホルム)に溶解する。
具体的には、pH感受性化合物を有機溶媒(例えば、メタノール、クロロホルム)に溶解したpH感受性化合物を含む溶液、および両親媒性物質を有機溶媒(例えば、メタノール、クロロホルム)に溶解した自然免疫を活性化する物質を含む溶液を準備して、pH感受性化合物を含む溶液および両親媒性物質を含む溶液を混合することが好ましい。この際の混合順序は特に限定されず、pH感受性担体を含む溶液および両親媒性物質を一括で混合してもよいし、どちらか一方に他方を添加してもよい。
pH感受性化合物を含む溶液におけるpH感受性担体の濃度および両親媒性物質を含む溶液における両親媒性物質の濃度は、特に限定されず、適宜設定される。両親媒性物質を含む溶液は、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。
次いで、ロータリーエバポレーターなどによって混合液の有機溶媒を除去して、ガラス容器の壁に薄膜を形成させる。次いで、水性溶媒を、薄膜を形成したガラス容器に加えて、常温(5~35℃)で薄膜を膨潤させた後、常温(5~35℃)でガラス容器を振盪する。この際、乳化機、ボルテックスミキサー、超音波を用いて強く攪拌し、薄膜を十分に水性溶液中に分散させることができる。なお、水性溶媒としては、上述したアジュバント組成物に含まれる水性溶媒を使用することができる。
このようにしてpH感受性担体の分散液(溶液)を得ることができる。pH感受性担体の分散液はこのままアジュバント組成物の製造に用いてもよいし、分散液からpH感受性担体を分離してもよい。
なお、バンガム法の方法の詳細は、公知のリポソームの製造方法を参考にすることができ、「リポソーム」(野島庄七、砂本順三、井上圭三編、南江堂)および「ライフサイエンスにおけるリポソーム」(寺田弘、吉村哲郎編、シュプリンガー・フェアラーク東京)に記載されている。
また、アジュバント組成物は、特に制限されず、種々の方法により製造することができる。具体的には、国際公開第2015/079952号(米国特許出願公開第2016/271246号明細書)に記載の方法などを適宜参酌することができる。
例えば、pH感受性担体と、自然免疫を活性化する物質とが独立に存在するアジュバント組成物においては、pH感受性担体および自然免疫を活性化する物質を混合することにより製造することができる。
pH感受性担体および自然免疫を活性化する物質を混合する方法としては、例えばバンガム法により得られたpH感受性担体の分散液および自然免疫を活性化する物質を含む溶液を混合する方法が挙げられる。この際の混合順序は特に限定されず、pH感受性担体を含む溶液および自然免疫を活性化する物質を含む溶液を一括で混合してもよいし、どちらか一方に他方を添加してもよい。
自然免疫を活性化する物質を含む溶液は、自然免疫を活性化する物質および水性溶媒を含む。また、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。なお、水性溶媒としては、上述したアジュバント組成物に含まれる水性溶媒を使用することができる。
自然免疫を活性化する物質を含む溶液における自然免疫を活性化する物質の濃度は、自然免疫を活性化する物質のモル濃度が、好ましくは0.14nmol/L~0.227mmol/L、より好ましくは1.4nmol/L~0.19mmol/Lである。
自然免疫を活性化する物質が、pH感受性担体に担持または包含されるアジュバント組成物においては、pH感受性担体と、自然免疫を活性化する物質とを会合させることにより製造することができる。
pH感受性化合物、両親媒性物質、および自然免疫を活性化する物質を会合させる方法としては、pH感受性化合物、両親媒性物質、および自然免疫を活性化する物質が、水性溶液中で接触すればよい。
pH感受性化合物と、両親媒性物質と、自然免疫を活性化する物質とを、水性溶液中で接触させる方法としては、これらが会合体を形成すれば特に制限されない。例えば、(1)pH感受性化合物を含む水性溶液と、両親媒性物質を含む水性溶液と、自然免疫を活性化する物質を含む水性溶液とを別々に調製し、これら水性溶液を混合し、当該溶液を、乳化機、ボルテックスミキサー、超音波などを用いて強く撹拌し分散させてアジュバント組成物を得る方法;(2)リポソームの製造法として公知であるバンガム法にて調製する方法等が挙げられる。バンガム法の具体的手順は、上記pH感受性担体の製造方法の欄に記載したものと同様である。
なお、水性溶媒を成分として含むアジュバント組成物に含有されうる安定化剤等の他の成分の添加方法は、特に制限されない。例えば、pH感受性化合物を含む水性溶液、両親媒性物質を含む水性溶液、および/または自然免疫を活性化する物質を含む水性溶液に添加していてもよいし、バンガム法により薄膜を調製する際に、pH感受性担体またはアジュバント組成物の構成成分と一緒に溶解させて、これらの成分を含む薄膜を用いて、アジュバント組成物を含む水性溶液を得てもよい。
<ワクチン組成物>
ワクチン組成物は、アジュバント組成物および抗原を含む。
[アジュバント組成物]
アジュバント組成物としては、上述したものが用いられうることからここでは説明を省略する。
[抗原]
抗原としては、免疫応答を生じさせるものであれば特に制限されないが、ペプチドまたはタンパク質であることが好ましい。
ペプチドまたはタンパク質としては、ウイルス抗原、細菌性抗原、真菌性抗原、原虫性または寄生虫性抗原、がん抗原等が挙げられる。
ウイルス抗原としては、特に制限されないが、gag、pol、およびenv遺伝子の遺伝子産物、Nefタンパク質、逆転写酵素、並びに他のHIVコンポーネント等のヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗原;B型肝炎ウイルスのS、M、およびLタンパク質、B型肝炎ウイルスのpre-S抗原、C型肝炎ウイルスRNA、並びにA、B、およびC型肝炎のウイルスコンポーネント等の肝炎ウイルス抗原;赤血球凝集素およびノイラミニダーゼ、並びに他のインフルエンザウイルスコンポーネント等のインフルエンザウイルス抗原;麻疹ウイルス抗原;風疹ウイルス抗原;ロタウイルス抗原;サイトメガロウイルス抗原;呼吸器合胞体ウイルス抗原;単純ヘルペスウイルス抗原;水痘帯状疱疹ウイルス抗原;日本脳炎ウイルス抗原;狂犬病ウイルス抗原が挙げられる。その他、アデノウイルス、レトロウイルス、ピコルナウイルス、ヘルペスウイルス、ロタウイルス、ハンタウイルス、コロナウイルス、トガウイルス、フラビウイルス(flavirvirus)、ラブドウイルス、パラミクソウイルス、オルソミクソウイルス、ブニヤウイルス、アレナウイルス、レオウイルス、パピローマウイルス(papilomavirus)、パルボウイルス、ポックスウイルス、ヘパドナウイルス又は海綿状ウイルス由来のペプチドが挙げられる。
細菌性抗原としては、特に制限されないが、百日咳毒素、線維状赤血球凝集素、パータクチン、FIM2、FIM3、アデニル酸シクラーゼ、他の百日咳細菌性抗原コンポーネント等の細菌性抗原;ジフテリア毒素またはトキソイド、他のジフテリア細菌性抗原コンポーネント等のジフテリア細菌性抗原;破傷風毒素又はトキソイド、他の破傷風細菌性抗原コンポーネント等の破傷風細菌性抗原連鎖球菌細菌性抗原;リポ多糖、他のグラム陰性細菌性抗原コンポーネント等のグラム陰性桿菌細菌性抗原;ミコール酸、マイコバクテリア抗原コンポーネント等の結核菌細菌性抗原;ヘリコバクター・ピロリ細菌性抗原コンポーネント;肺炎球菌細菌性抗原;インフルエンザ菌細菌性抗原;炭疽菌細菌性抗原;リケッチア細菌性抗原等が挙げられる。
真菌性抗原としては、特に制限されないが、カンジダ真菌性抗原コンポーネント;ヒストプラズマ真菌性抗原;クリプトコッカス真菌性抗原;コクシジオイデス真菌性抗原;白癬真菌性抗原等が挙げられる。
原虫性または寄生虫性抗原としては、特に制限されないが、熱帯熱マラリア原虫抗原;トキソプラズマ抗原;住血吸虫抗原;リーシュマニア抗原;トリパノソーマ・クルージ抗原等が挙げられる。
がん抗原としては、特に制限されず、腫瘍組織の細胞の細胞表面、細胞質、核、細胞小器官等に由来するがん抗原が挙げられる。当該がんとしては、白血病、リンパ腫、神経性腫瘍、メラノーマ、乳癌、肺癌、頭頸部癌、胃癌、結腸癌、肝癌、膵癌、子宮頸癌、子宮癌、卵巣癌、腟癌、精巣癌、前立腺癌、陰茎癌、骨腫瘍、血管腫瘍、口唇癌、上咽頭癌、咽頭癌、食道癌、直腸癌、胆嚢癌、胆管癌、喉頭癌、膀胱癌、腎臓癌、脳腫瘍、甲状腺癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫等が挙げられる。なお、がん抗原の具体例を挙げると、HER2/neu(Human EGFR related 2)、CEA(Carcinogenic Embryonic Antigen)、MAGE(Melanoma-associated Antigen)、XAGE(X antigen family member)、NY-ESO-1、gp100、Melan/mart-1、Tyrosinase、PSA(Prostate Specific Antigen)、PAP(Prostate Acid Phosphatase)、K-ras、N-ras、Bcr-Abl、MUC-1(Mucin-1)、PSMA(Prostate Specific Membrane Antigen)、survivin、WT-1(Wilmstumor suppressor gene 1)、AFP(AlphaFetoprotein)、GPC(Glypican)、EGFR(Epidermal Growth Factor Receptor)等が挙げられる。
上述の抗原は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
抗原の含有量は、pH感受性担体を構成する両親媒性物質100nmolに対して、3.2μg~1.0mgであることが好ましい。
抗原の組込率は、特に制限されず、抗原とアジュバント組成物が独立して存在してもよいが、3%以上であることが好ましく、5~80%であることがより好ましく、10~60%であることがより好ましい。組込率が3%以上であると、例えば、ワクチン組成物が細胞にエンドサイトーシスされる際に、抗原がアジュバント組成物と同じエンドソームに導入される可能性が高くなり、発明の効果を好適に得られうることから好ましい。なお、「抗原の組込率」は、主として抗原がアジュバント組成物に担持または包含された割合を意味し、その値は、国際公開第2015/079952号の[0195]~[0198](米国特許出願公開第2016/271246号明細書[0312]~[0315])に記載の方法によって測定された値を採用するものとする。
[添加剤]
ワクチン組成物は、他の医薬品添加剤を含んでいてもよい。
使用されうる添加剤は、ワクチン組成物の剤型によって異なりうる。この際、ワクチン組成物は、錠剤、粉末、カプセルなどの固形製剤の形態であっても、注射製剤のような液体製剤の形態であってもよいが、液体製剤であることが好ましい。なお、液体製剤の場合には、用時に水または他の適切な賦形剤で再生する乾燥製品として提供されてもよい。
ワクチン組成物が液体製剤である場合には、溶媒(例えば生理食塩水、滅菌水、緩衝液など)、膜安定剤(例えばコレステロールなど)、等張化剤(例えば塩化ナトリウム、グルコース、グリセリンなど)、抗酸化剤(例えばトコフェロール、アスコルビン酸、グルタチオンなど)、防腐剤(例えばクロルブタノール、パラベンなど)などを含みうる。なお、溶媒は、ワクチン組成物の製造に用いる溶媒であってもよい。
本発明の一実施形態によれば、ワクチン組成物は、抗原をクロスプレゼンテーションさせることにより、効率良く細胞性免疫を誘導することができる。これにより、例えば、多量のCTLを誘導することができる。なお、本明細書において、「CTLを誘導する」とは、本明細書に記載のELIspot法にて、ワクチン組成物未処置のコントロール(すなわち、抗原と自然免疫を活性化する物質との混合物)と対比して、多くのspot形成が得られることを意味する。
また、本発明の別の一実施形態によれば、ワクチン組成物は、液性免疫を誘導することができる。これにより、IgG等の抗体を産生することができる。この際、「液性免疫を誘導する」とは、抗原を投与したコントロールと対比して高いIgG抗体価となることを意味する。
本形態のワクチン組成物は、対象者に投与して、ワクチン組成物の外部環境が生理的pH未満(例えば、pH6.5)となったときに、膜破壊機能促進効果、または膜破壊機能促進効果および膜融合機能促進効果を発現し、抗原を効率よくサイトゾルに放出させることが可能になる。そして、好適に細胞性免疫とCTLを誘導することができ、免疫を付与することができる。
<ワクチン組成物の製造方法>
本実施形態に係るワクチン組成物は、特に制限されず、種々の方法により製造することができる。具体的なワクチン組成物の製造方法としては、分散調製法、混合調製法、および凍結融解-凍結乾燥調製法等が挙げられる。具体的には、国際公開第2015/079952号(米国特許出願公開第2016/271246号明細書)に記載の方法などを適宜参酌することができる。
(分散調製法)
分散調製法は、pH感受性化合物と、両親媒性物質と、自然免疫を活性化する物質と、抗原と、を混合する工程を含む。具体的には、ガラス容器の壁に、アジュバント組成物の構成成分を含む薄膜を形成させる。次いで、抗原を含む溶液を、薄膜を形成したガラス容器に加えて、5~35℃で薄膜を膨潤させた後、ガラス容器を振盪する。この際、乳化機、ボルテックスミキサー、超音波を用いて強く撹拌し、分散させる方法で、ワクチン組成物を調製する。または、ガラス容器の壁に、pH感受性化合物と両親媒性物質を含む薄膜を形成させ、次いで、抗原と自然免疫を活性化する物質とを、含む溶液を、薄膜を形成したガラス容器に加えて、5~35℃で薄膜を膨潤させた後、ガラス容器を振盪する。この際、乳化機、ボルテックスミキサー、超音波を用いて強く撹拌させる方法で、ワクチン組成物を調製する。
抗原を含む溶液、および抗原と自然免疫を活性化する物質とを含む溶液は、下記混合調製法と同様のものまたは参考にして調製したものが用いられうる。
(混合調製法)
混合調製法は、pH感受性化合物を含む溶液と、両親媒性物質を含む溶液と、自然免疫を活性化する物質を含む溶液と、抗原を含む溶液と、を混合する工程を含む。
具体的には、pH感受性担体および自然免疫を活性化する物質を混合してアジュバント組成物を得た後、アジュバント組成物の分散液と、抗原または抗原を含む溶液とを混合することでワクチン組成物を得ることができる。
抗原を含む溶液は、抗原および水性溶媒を含むことが好ましい。また、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。なお、水性溶媒としては、上述したアジュバント組成物に含まれる水性溶媒を使用することができる。
抗原を含む溶液における抗原の濃度は、抗原種により適宜設定されるが、抗原のモル濃度が、例えば、32mg/L~10g/Lである。
上述のアジュバント組成物の分散液、および抗原を含む溶液の混合方法は特に制限されない。得られた混合液は分散させることが好ましく、当該分散は、例えば、乳化機、ボルテックスミキサー、超音波などを用いて行うことができる。
(凍結融解-凍結乾燥調製法)
凍結融解-凍結乾燥調製法は、分散調製法または混合調製法により得られた溶液を凍結融解して融解液を調製する工程、当該融解液を凍結乾燥する工程を含む。
融解液を調製する工程
融解液は、分散調製法または混合調製法により得られた溶液を凍結融解することにより調製することができる。
凍結融解とは、溶液を凍結乾燥した後、得られた乾燥物を融解させることを意味する。
凍結乾燥の方法としては、特に制限されないが、液体窒素、冷却したメタノール等を用いた水分を昇華させる方法が好ましい。
また、乾燥物の融解方法としては、特に制限されないが、冷却して得られた乾燥物を昇温する方法、溶媒を添加する方法が好ましい。
凍結乾燥する工程
本工程は、上記で得られた融解液を、凍結乾燥する工程である。
凍結乾燥の方法は、上記と同様に特に制限されないが、液体窒素、冷却したメタノール等を用いた水分を昇華させる方法が好ましい。
<アジュバント組成物および免疫チェックポイント阻害剤の併用>
アジュバント組成物および免疫チェックポイント阻害剤は組み合わせて用いられる。
このため、pH感受性担体および自然免疫を活性化する物質を含むアジュバント組成物は、免疫チェックポイント阻害剤と、組み合わせて投与されるように用いられる。
アジュバント組成物、および免疫チェックポイント阻害剤の投与順序は特に制限がなく、アジュバント組成物および免疫チェックポイント阻害剤を同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。また、時間差をおいて投与する場合には、アジュバント組成物を投与後に免疫チェックポイント阻害剤を投与してもよいし、免疫チェックポイント阻害剤投与後にアジュバント組成物を投与してもよい。
免疫チェックポイント阻害剤は、T細胞上の免疫チェックポイント受容体-リガンドに作用し、効果を得るものである。T細胞を誘導した後に免疫チェックポイント阻害剤を投与することで、抗腫瘍効果の増大がより発揮されると考えられることから、pH感受性担体および自然免疫を活性化する物質を含むアジュバント組成物を投与した後に、免疫チェックポイント阻害剤を投与することが好ましい。このため、当該アジュバント組成物は、免疫チェックポイント阻害剤が投与される前に投与されることが好ましい。なお、時間差をおいての投与態様においては、時間差をおいての投与であれば、投与経路は同一であっても異なるものであってもよい。
さらには、本実施形態の好適な形態は、免疫チェックポイント阻害剤と、組み合わせて投与されるように用いられる、pH感受性担体および自然免疫を活性化する物質を含むアジュバント組成物ならびに抗原を含む、ワクチン組成物である。
ワクチン組成物、および免疫チェックポイント阻害剤の投与順序は特に制限がなく、ワクチン組成物および免疫チェックポイント阻害剤を同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。また、時間差をおいて投与する場合には、ワクチン組成物を投与後に免疫チェックポイント阻害剤を投与してもよいし、免疫チェックポイント阻害剤投与後にワクチン組成物を投与してもよい。
抗腫瘍効果の増大がより発揮されることから、ワクチン組成物を投与した後に、免疫チェックポイント阻害剤を投与することが好ましい。このため、当該ワクチン組成物は、免疫チェックポイント阻害剤が投与される前に投与されることが好ましい。なお、時間差をおいての投与態様においては、時間差をおいての投与であれば、投与経路は同一であっても異なるものであってもよい。
アジュバント組成物および免疫チェックポイント阻害剤の製剤としては、アジュバント組成物および免疫チェックポイント阻害剤を含有する組成物(単一の製剤)、アジュバント組成物および免疫チェックポイント阻害剤を別々に製剤化しての組み合わせ(薬剤キット)などが挙げられる。好適な形態は、アジュバント組成物および免疫チェックポイント阻害剤を別々に製剤化しての組み合わせである。すなわち、本形態においては、pH感受性担体および自然免疫を活性化する物質を含むアジュバント組成物と、免疫チェックポイント阻害剤と、を組み合わせた薬剤キットであることが好ましい。pH感受性担体、自然免疫を活性化する物質、免疫チェックポイント阻害剤については上述したとおりである。また、当該薬剤キットにおいては、アジュバント組成物、および免疫チェックポイント阻害剤の投与順序は特に制限がなく、アジュバント組成物および免疫チェックポイント阻害剤を同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。また、時間差をおいて投与する場合には、アジュバント組成物を投与後に免疫チェックポイント阻害剤を投与してもよいし、免疫チェックポイント阻害剤投与後にアジュバント組成物を投与してもよい。抗腫瘍効果の増大がより発揮されることから、アジュバント組成物を投与し、その後免疫チェックポイント阻害剤を投与することが好ましい。かような態様により、顕著な抗腫瘍効果を得ることができる。なお、時間差をおいての投与態様においては、時間差をおいての投与であれば、投与経路は同一であっても異なるものであってもよい。
さらには、本実施形態の好適な形態は、pH感受性担体および自然免疫を活性化する物質を含むアジュバント組成物ならびに抗原を含む、ワクチン組成物と、免疫チェックポイント阻害剤と、を組み合わせた薬剤キットである。さらに他の態様は、pH感受性担体および自然免疫を活性化する物質を含むアジュバント組成物と、抗原と、免疫チェックポイント阻害剤と、を組み合わせた薬剤キットである。本発明の薬剤キットによれば、高い抗腫瘍効果を得ることができる。当該薬剤キットにおいては、ワクチン組成物、または、アジュバント組成物および抗原、ならびに免疫チェックポイント阻害剤の投与順序は特に制限がなく、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。また、時間差をおいて投与する場合には、ワクチン組成物、または、アジュバント組成物および抗原を投与後に免疫チェックポイント阻害剤を投与してもよいし、免疫チェックポイント阻害剤投与後にワクチン組成物、または、アジュバント組成物および抗原を投与してもよい。抗腫瘍効果の増大がより発揮されることから、ワクチン組成物、または、アジュバント組成物および抗原を投与し、その後免疫チェックポイント阻害剤を投与することが好ましい。
また、当該薬剤キットは、癌治療または予防のための薬剤キットであることが好ましい。具体的には、白血病、リンパ腫、神経性腫瘍、メラノーマ、乳癌、肺癌、頭頸部癌、胃癌、結腸癌、肝癌、膵癌、子宮頸癌、子宮癌、卵巣癌、腟癌、精巣癌、前立腺癌、陰茎癌、骨腫瘍、血管腫瘍、口唇癌、上咽頭癌、咽頭癌、食道癌、直腸癌、胆嚢癌、胆管癌、喉頭癌、膀胱癌、腎臓癌、脳腫瘍、甲状腺癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫等の癌が挙げられる。
アジュバント組成物および免疫チェックポイント阻害剤を併用投与する場合の投与形態としては、それぞれに適した投与経路、投与頻度及び投与量を採用する限りは特に限定されず、例えば、(1)アジュバント組成物および免疫チェックポイント阻害剤を含有する組成物、即ち、単一の製剤としての投与、(2)アジュバント組成物および免疫チェックポイント阻害剤を別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時投与、(3)アジュバント組成物および免疫チェックポイント阻害剤を別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での時間差をおいての投与、(4)アジュバント組成物および免疫チェックポイント阻害剤を別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時投与、(5)アジュバント組成物および免疫チェックポイント阻害剤を別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での時間差をおいての投与等が挙げられる。
併用投与における好ましい投与形態としては、アジュバント組成物またはワクチン組成物を投与した後に、免疫チェックポイント阻害剤を投与する方法である。
本発明の他の態様は、治療または予防を必要とする対象者に、pH感受性担体および自然免疫を活性化する物質を含むアジュバント組成物の有効量と、免疫チェックポイント阻害剤の有効量と、を投与することを含む、疾患の治療または予防方法である。また、他の態様は、治療または予防を必要とする対象者に、pH感受性担体および自然免疫を活性化する物質を含むアジュバント組成物ならびに抗原を含むワクチン組成物の有効量と、免疫チェックポイント阻害剤の有効量と、を投与することを含む、疾患の治療または予防方法である。特に疾患が癌であることが好ましい。
上記の対象者は、哺乳動物が好ましく、特に好ましくはヒトである。
また、アジュバント組成物またはワクチン組成物と、免疫チェックポイント阻害剤と、を時間差をおいて投与する場合、抗腫瘍効果を増強するに足る間隔で免疫チェックポイント阻害剤を投与することが必要である。具体的な投与間隔は、患者の症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
また、ワクチン組成物および免疫チェックポイント阻害剤は、一定のサイクルで投与することが好ましい。投与サイクルとしては、併用に適するように投与サイクルを適宜調整することが好ましい。具体的な、投与頻度、投与量、点滴投与時間、投与サイクル等は、患者の症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
免疫チェックポイント阻害剤の単独投与については、従来公知であり、例えば、2~3mg/kg/Dayの範囲で、1日1回から数回投与される。
アジュバント組成物および免疫チェックポイント阻害剤を併用して用いる場合は、通常投与される投与経路により、通常単独で投与される場合と同じ投与量若しくはそれより低用量(例えば、単独で投与した場合の最高投与量の0.10~0.99倍)に設定することができる。
アジュバント組成物の投与量は、患者の症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
また、免疫チェックポイント阻害剤およびアジュバント組成物の投与量の質量(mg/kg/Day)比についても、患者の症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
アジュバント組成物、ワクチン組成物および免疫チェックポイント阻害剤の投与方法としては、特に制限はなく、経口投与;静脈内注射、動脈内注射、皮下注射、皮内注射、腹腔内、筋肉内注射、髄腔内注射、経皮投与または経皮的吸収等の非経口的投与等が挙げられる。例えば、抗原としてペプチドおよびタンパク質を用いる場合は、非経口経路、特に皮下注射、皮内注射、筋肉内注射、静脈内注射による投与が好ましい。なお、抗原がアジュバント組成物に担持または包含されずに独立に混合されてなるワクチン組成物については、局所投与、具体的には、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与の形態で投与することが好ましい。また、免疫チェックポイント阻害剤は、腹腔内投与であることが好ましい。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いる場合があるが、特に断りがない限り、「重量部」あるいは「重量%」を表す。また、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行われる。
1.試薬
・デオキシコール酸ナトリウム(ファーマグレード、シグマ社より購入)
・DLPC(1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン:日油社より購入、COATSOME MC-1212)
・EYPC(未水添卵黄ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME NC-50)
・CpGモチーフを含むオリゴヌクレオチド(CpG-ODN:InvivoGen社より購入、ODN-2395、配列番号;5’-tcgtcgttttcggcgcgcgccg-3’(配列番号1)(配列中、下線部は、パリンドローム配列を示す。)
・PBS(ナカライテスク社より購入、リン酸緩衝生理食塩水(KCl不含)(pH 7.4))
・MES-Na(メルク社より購入)
・塩化ナトリウム(関東化学社より購入)
・PBS Tablets(Phosphate buffered saline:タカラバイオ社より購入)
・水酸化ナトリウム水溶液(0.1mol/L:ナカライテスク社より購入)
・塩酸(0.1mol/L、1mol/L:ナカライテスク社より購入)
・リン脂質C-テストワコー(和光純薬工業株式会社より購入)
・Pyranine(東京化成工業社より購入)
・DPX(p-xylene-bis-pyridinium bromide:Molecular probes社より購入)
・Triton-X100(和光純薬工業社より購入)
・抗PD-1抗体(eBioscience社より購入、anti-mouse PD-1(CD279)FG Purified RMP1-14(BioXcell社))
・メタノール(ナカライテスク社より購入)
・クロロホルム(和光純薬工業社より購入)
・OVAタンパク質(OVAlbumin:和光純薬工業社より購入、オボアルブミン低エンドトキシン)(以下、単に「OVA」とも称する。)
・OVAペプチド:SIINFEKL(ピーエイチジャパン委託合成)(以下、単に「ペプチド」とも称する。)
・RPMI(ナカライテスク社より購入、RPMI 1640培地(液体))
・Penicillin-Streptamycin Mixed Solution(ナカライテスク社より購入)
・FBS(Fetal Bovine Serum,Centified,Heat Inactivatied,US Origin:Gibco社より購入)
・RBC lysis buffer(Santa Cruz Biotechnology社より購入):赤血球溶血バッファー
・Mouse IFNγ ELISPOT Set(BDバイオサイエンス社より購入)・AEC Substrate Set(BDバイオサイエンス社より購入)
「動物」
雌、C57BL/6Nマウス(6週齢)は日本エスエルシーより購入した。実験はテルモ株式会社における動物実験に関する指針に従って実施した。
「細胞」
E・G7-OVA細胞(ATCC番号CRL-2113、以下、単にEG7細胞とも表記)は、ATCC社より購入したものを培養し、使用した。
「細胞の培養」
細胞の培養は、5%CO2、37℃に設定したインキュベーター(MCO20AIC)を用いて実施した。
「試料の調製等」
・RPMIメディウム
抗生物質としてペニシリン(100unit/mL)およびストレプトマイシン(100mg/mL)を添加した。また、必要に応じてFBSを追加で添加し、10%血清含有RPMIメディウムとした。
2.投与液の調製
(pH感受性担体の調製)
クロロホルムに溶解した1000nmolの両親媒性物質であるDLPCと、メタノールに溶解した1600nmolのpH感受性化合物であるデオキシコール酸ナトリウムを、10mLナスフラスコ混合し、ロータリーエバポレーターによって溶媒を揮発させて薄膜とした。作製した薄膜に0.5mLのPBSを添加し、超音波照射装置(USC-J、井内盛栄堂社製)を用いて分散させ、pH感受性担体の分散液(溶液)を調製した(DLPCおよびデオキシコール酸ナトリウムの濃度:5.2mmol/L)。
(CpGモチーフを含むオリゴヌクレオチドの一時溶液の作製)
CpGモチーフを含むオリゴヌクレオチドを、付属の溶解液である滅菌水(エンドトキシンフリー)を用いて1μg/μLとなるように溶解し、一時溶液とした。
(アジュバント組成物の調製)
上記で調製したpH感受性担体の分散液(溶液)に、自然免疫を活性化する物質の一時溶液を添加し、混合した。濃度を調製するために追加のPBSを添加し、混合することで、アジュバント組成物を調製した。
(OVAの一時溶液)
2mgのOVA(モデル抗原)を1.0mLのPBSに溶解させ、OVAの一時溶液とした。
(抗PD-1抗体の投与液)
抗PD-1抗体の投与液は、購入した抗体の原液をPBSにて10倍希釈して、投与液とした(抗PD-1抗体0.1g/L)。
3.溶出性試験:Leakage(溶出率)の測定
Leakage(溶出率)は、K.Kono et al. Bioconjugate Chem. 2008 19 1040-1048に記載の方法に従い、蛍光物質であるPyranineと消光剤であるDPXとを内包したEYPCリポソームを用いて評価した。
クロロホルムに溶解させた3000nmolのEYPCを10mLナスフラスコに測り入れ、ロータリーエバポレーターを用いて薄膜とした。Pyranine溶液(Pyranine:35mM、DPX:50mM、MES-Na:25mM、pH7.4)500μLを加え、超音波照射装置(USC-J)を用いて分散させた後、エクストルーダーを用いて孔径100nmのポリカーボネート膜を通し、粒子径を揃えた。MES BufferとG100カラムを用いて外水層の置換を行い、蛍光物質を内包したEYPCリポソーム分散液を得た。リン脂質C-テストワコーを用いてリン脂質の濃度を求め、リン脂質が1.0mmol/LとなるようにMES Bufferを用いて濃度を調整した。
濃度を調製したEYPCリポソーム分散液20μLと、評価サンプル分散液20μLを、pHを調整した2960μLのMES Bufferに投与し、37℃にて90あるいは30分間インキュベーションした後(実施例において、特別な記載のない限り、90分間の結果である)、分光光度計FP-6500を用いてEx416、Em512nmの蛍光を観察することにより、Leakageをモニターした。
なお、EYPCリポソーム分散液のみの場合を0%とし、10倍希釈したTriton-X100を30μL加えた場合の値を100%として、溶出率を算出した。具体的には、溶出率は、下記式に従って計算した。なお、下記式中において、測定した蛍光強度をLとし、蛍光物質を内包したEYPCリポソーム分散液のみの蛍光強度をL0、Triton-X100を加えた場合の蛍光強度をL100と表す。
上記で調整したアジュバント組成物について、pH7.4およびpH5.0における、pH感受性担体、pH感受性化合物、両親媒性物質の溶出率を測定し、下記式
よりΔおよびΔ’を算出した結果、Δ=40.9、Δ’=39.8であった。よって、アジュバント組成物は膜破壊機能促進効果を有する。
[評価方法1:ELIspot法を用いたCTL誘導の確認]
ELIspot法を用いてCTLの誘導を確認した。用いた被験物質は、OVAおよびCpG-ODN混合物(OVA+CpG-ODN)、OVA、CpG-ODNおよびpH感受性担体の混合物(ワクチン組成物)(OVA+CpG-ODN+pH感受性担体)、およびOVAおよびpH感受性担体混合物(OVA+pH感受性担体)である。
なお、投与に使用した試料は、「投与液の調製」に従って調製した投与液を用いて調製した。また、OVA、CpG-ODNおよびpH感受性担体の混合物は、アジュバント組成物に、OVAの一時溶液を添加し、超音波にて混合して得た。
(1)マウスへの免疫
投与は麻酔下にて実施した。背部1箇所に100μL/headにて皮下注射した。pH感受性担体は、両親媒性物質:10nmol/head、pH感受性化合物:16nmol/headとした。自然免疫を活性化する物質は、CpG-ODNの場合、10μg(1.42nmol)/headとした。抗原は、モデル抗原としてOVAを使用し、80μg/headとした。投与は1回とし、投与から7日後にアッセイを実施した(n=1)。
(2)ELIspot法
上記マウスへの免疫にて最終の投与から7日目においてマウスに安楽死を行い、脾臓を摘出した。3.0mLの10%血清含有RPMIメディウムを添加した後、BD Falconセルストレーナーを用いて脾臓を処理し、細胞懸濁液とした。RBC lysis bufferを用いて溶血操作を行った後、10%血清含有RPMIメディウムを用いて細胞を洗浄した。細胞を10%血清含有RPMIメディウムにて分散した後、細胞数をカウントし、脾臓の細胞分散液を得た。
ELIspot法は、Mouse IFNγ ELISPOT Setを用いて実施した。脾臓の細胞分散液を播種する前日に、96well ELIspotプレートに薬剤キットに付属のdetection antibodyを吸着させて、プレートを作製した。作製したプレートを10%血清含有RPMIメディウムにて洗浄した後、200μLの10%血清含有RPMIメディウムを添加し、37℃にて2時間静置しブロッキングを行った。10%血清含有RPMIメディウムにてプレートを洗浄した後、40μg/mLのOVAペプチドを含む10%血清含有RPMIメディウム100μLをプレートに添加した。プレートに、脾臓の細胞分散液を2×106cells/wellとなるように播種し、最後に、10%血清含有RPMIメディウムを用いて1穴あたりの全量が200μLとなるように、調整した。その後、二晩培養し、プレートの呈色を行った。
プレートの呈色は、Mouse IFNγ ELISPOT Set、およびAEC Substrate Setに記載のプロトコルに従って実施した。
得られた結果を図3に示す。
OVAとCpG-ODNの混合物(図3(A))は、僅かな数のspotであり、少数のCTLしか誘導できなかった。
一方、OVA、CpG-ODNおよびpH感受性担体の混合物(図3(B))は、多くのspotを形成し、多数のCTLを誘導することができた。ゆえに、アジュバント組成物の含有は、多数のCTLの誘導に繋がることが示された。pH感受性担体が成熟した抗原提示細胞に対して、多数のMHCクラスI分子による抗原提示を誘起した結果、多数のCTLを誘導したものと考えられる。
また、自然免疫を活性化する物質であるCpG-ODNを使用していない、OVAおよびpH感受性担体の混合物(図3(C))は、spotを形成できず、CTLは誘導されなかった。自然免疫を活性化する物質を含まなければ、成熟した抗原提示細胞の数が増大しなかったため、CTLを誘導することができなかったものと考えられる。
[評価方法2:マウスの担癌実験系を用いた抗腫瘍効果の確認]
続いて、マウスの担癌実験系を用いて、抗腫瘍効果を確かめた。マウスは7つに群分けを行った。1群:処置なし、2群:OVA投与、3群:OVAおよび抗PD-1抗体投与、4群:OVAおよびCpG-ODN投与、5群:OVA、CpG-ODNおよびpH感受性担体(図中、ミセルと表記)投与、6群:OVAおよびCpG-ODN、ならびに抗PD-1抗体投与、7群:OVA、CpG-ODNおよびpH感受性担体、ならびに抗PD-1抗体投与とした。投与に使用した試料は、「投与液の調製」に従って調製した投与液を用いて調製した。また、OVA、CpG-ODNおよびpH感受性担体の混合物は、アジュバント組成物に、OVAの一時溶液を添加し、超音波にて混合して得たワクチン組成物を用いた。
(1)評価系の構築、およびマウスへの免疫
投与は、全て麻酔下にて実施した。Day0に、EG7細胞を5×105cells/headにてマウスの皮下に注射し、担癌を行った。比較試料(OVAのみ(2群、3群)、OVAおよびCpG-ODN(4群、6群))、ワクチン組成物(OVA、CpG-ODNおよびpH感受性担体の混合物)(5群、7群)を含む投与液は、20μL/shotにて、皮内に注射するものとし、Day5、Day12、Day19のスケジュールで、3回実施するものとした。抗PD-1抗体の投与(3群、6群、7群)は、抗PD-1抗体の投与液を500μL/shotにて、腹腔内に注射するものとし、Day8、Day15、Day22のスケジュールで、3回実施するものとした。個体差が大きいため、1群を5匹とした。1回あたりの投与において、pH感受性担体は、両親媒性物質:2nmol/head、pH感受性化合物:3.2nmol/headとした。自然免疫を活性化する物質は、CpG-ODNの場合、2μg(0.284nmol)/headとした。抗原は、モデル抗原としてOVAを使用し、16μg/headとした。
(2)腫瘍サイズの測定
腫瘍(癌)のサイズは、腫瘍の長径aと短径bを、デジタルノギスを用いて測定し、式1)の計算式を用いて、体積を求めた。エンドポイントに到達した個体は安楽死の処置を行った。
得られた結果を図4に示す。結果は腫瘍サイズの平均値+標準偏差(SEM)で示した(n=5)。
図4(A)は、1~5および7群の結果を示す。
OVA単独(図4(A):2群)やOVAおよびCpG-ODNの混合物(図4(A):4群)と比較して、OVA、CpG-ODNおよびpH感受性担体の混合物を投与した群(図4(A):5群)は、腫瘍の増大速度を遅く抑えることができた。OVA、CpG-ODNおよびpH感受性担体の混合物は、図3(B)で示すように生体において腫瘍を攻撃する機能を有したCTLを多量に誘導することができたため、腫瘍の増大を遅らせることができたものと考えられる。したがって、OVA、CpG-ODNおよびpH感受性担体を含むワクチン組成物の含有は、高い抗腫瘍効果を有することが示された。
一方、本実験系においては、腫瘍の増大速度が速いため、OVAおよび抗PD-1抗体投与群(図4(B):3群)は、目立った抗腫瘍効果を得られなかった。なお、抗PD-1抗体の抗腫瘍効果を奏する作用機序を考慮すると、抗PD-1抗体は樹状細胞を成熟化する能力は有していないため、抗PD-1抗体およびpH感受性担体の組み合わせを用いたとしても、CTLは惹起されず、抗腫瘍効果の増大は望めないものと推定される。
OVA、CpG-ODNおよびpH感受性担体の混合物(図4(A):5群)と比較して、さらに抗PD-1抗体の投与を行った群(図4(A):7群)は、より顕著に腫瘍の増大を抑えた。一部の個体は、腫瘍の消失にまで至っており、本群は特に高い抗腫瘍効果を有していた。抗PD-1抗体単独(図4(A):3群)では、目立った抗腫瘍効果を得られなかったことを鑑みると、併用によって腫瘍が著しく減少したことは、驚くべき結果である。単独では抗腫瘍効果が発揮されない程度の抗PD-1抗体の投与量であっても、OVA、CpG-ODNおよびpH感受性担体を含むワクチン組成物および抗PD-1抗体の併用が強い抗腫瘍効果をもたらすことが示された。ゆえに、OVA、CpG-ODNおよびpH感受性担体を含むワクチン組成物および抗PD-1抗体の併用が相乗的に作用して、強い抗腫瘍効果をもたらしたといえる。抗PD-1抗体が腫瘍の免疫回避能力を低下させたため、アジュバント組成物によって誘導された多量のCTLが腫瘍を攻撃でき、特に高い抗腫瘍効果を得られたものと考えられる。
さらに、同じ実験系において、アジュバント組成物と免疫チェックポイント阻害剤との併用効果を確かめた。
アジュバント組成物と免疫チェックポイント阻害剤との併用効果を検証するため、より詳細な比較を行った。結果を図4(B)に示す。抗PD-1抗体と自然免疫を活性化する物質との併用(図4(B):6群)は、Day10から腫瘍の増大速度が遅くなって抗腫瘍効果を確認できたが、Day20では、再び腫瘍容積が増大し、抗PD-1抗体とアジュバント組成物との併用(図4(B):7群)と比べて、小さな効果しか有していなかった。自然免疫を活性化する物質単独では、少量のCTLしか誘導できず、大きな抗腫瘍効果を得られなかったものと考えられる。なお、図5(A)~(C)に、各群マウスの腫瘍の様子を示している。図5(A)は3群のマウスであり、図5(B)は6群のマウスであり、図5(C)は7群のマウスである。図5の写真からも、アジュバント組成物および抗PD-1抗体との併用が、非常に高い抗腫瘍効果を奏することがわかる。
以上より、抗PD-1抗体との併用において、本発明のアジュバント組成物は最も良い併用の効果を示した。
自然免疫を活性化する物質とpH感受性担体のミセルを含むアジュバント組成物は、多量のCTLを誘導することができるため、免疫チェックポイント阻害剤に対して大きな併用効果を有しており、特に高い抗腫瘍効果を実現できることが確認された。アジュバント組成物と免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせは良い相性であり、より効果の高いがん免疫療法の実現に資するものと期待される。
本出願は、2017年3月29日に出願された日本特許出願番号2017-066142号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。