本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、車両に原動機として搭載される内燃機関100の概要を示す。車両用内燃機関100は、例えば火花点火式の4ストロークエンジンであり、複数の気筒1(図1には、そのうち一つを図示する)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイルは、半導体スイッチング素子を有するイグナイタとともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)装置2は、排気通路4を流れる排気の一部を吸気通路3に還流させて吸気に混交する、いわゆる高圧ループEGRを実現するものである。EGR装置2は、排気通路4における触媒41の上流側と吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流側とを連通する外部EGR通路21と、EGR通路21上に設けたEGRクーラ22と、EGR通路21を開閉し当該EGR通路21を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ23とを要素とする。EGR通路21の入口は、排気通路4における排気マニホルド42またはその下流の所定箇所に接続している。EGR通路21の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流の所定箇所、特にサージタンク33に接続している。
図2に、車両が備える駆動系のトランスミッションの例を示す。このトランスミッションは、トルクコンバータ7及び自動変速機8、9を備えてなる。特に、本実施形態では、自動変速機8、9の構成要素として、遊星歯車機構を利用した前後進切換装置8、及び無段変速機の一種であるベルト式CVT9を採用している。
内燃機関100が出力するエンジントルクは、内燃機関100の出力軸であるクランクシャフトからトルクコンバータ7の入力側のポンプインペラ71に入力され、出力側のタービンランナ72に伝達される。タービンランナ72の回転は、前後進切換装置8を介してCVT9の駆動軸94に伝わり、CVT9における変速を経て従動軸95を回転させる。従動軸95の回転は、出力ギア101に伝達される。出力ギア101は、デファレンシャル装置のリングギア102と噛合し、デファレンシャル装置を介して車軸103、及び車軸103に取り付けられた駆動輪を回転させる。
トルクコンバータ7は、ロックアップ機構を備える。ロックアップ機構は、この分野では既知のもので、トルクコンバータ7の入力側と出力側とを相対回転不能に締結するロックアップクラッチ73と、ロックアップクラッチ73を断接切換駆動するための作動液圧(油圧)を制御するロックアップソレノイドバルブ(図示せず)とを要素とする。ロックアップソレノイドバルブは、制御信号tを受けてその開度を変化させる流量制御弁である。
CVT9を搭載した車両においては、車速がある程度以上(例えば、車速が10km/h以上、またはエンジン回転数が1200rpm以上)である場合、ほぼ常時トルクコンバータ7をロックアップする。車速がそれ以下(例えば、5km/hないし8km/h以下)となれば、トルクコンバータ7のロックアップを解除する。ロックアップ時、トルクコンバータ7の出力側回転数の入力側回転数に対する比である速度比は1となる。非ロックアップ時には、トルクコンバータ7の速度比が、駆動状態に応じて1よりも小さくなったり大きくなったりする。
前後進切換装置8は、そのサンギア81がタービンランナ72と連絡し、リングギア82が駆動軸94と連絡している。プラネタリギア831を支持するプラネタリキャリア83と変速機ケースとの間には、断接切換可能な液圧クラッチたるフォワードブレーキ84を介設している。また、プラネタリキャリア83とサンギア81(または、トルクコンバータ7の出力側)との間にも、断接切換可能な液圧クラッチたるリバースクラッチ85を介設している。
走行レンジのうちのDレンジでは、フォワードブレーキ84を締結し、リバースクラッチ85を切断する。これにより、トルクコンバータ7の出力軸の回転が逆転されかつ減速されて駆動軸94に伝達され、前進走行となる。他方、Rレンジでは、リバースクラッチ85を締結し、フォワードブレーキ84を切断する。これにより、サンギア81とプラネタリキャリア83とが一体的に回転し、トルクコンバータ7の出力軸と駆動軸94とが直結して後進走行となる。フォワードブレーキ84またはリバースクラッチ85を断接切換駆動するための作動液圧を制御するソレノイドバルブ(図示せず)は、制御信号uを受けてその開度を変化させる流量制御弁である。
非走行レンジのうちのNレンジでは、フォワードブレーキ84及びリバースクラッチ85をともに切断する。Pレンジでは、車軸103が動かないように機械的にロックする。
CVT9は、駆動プーリ91及び従動プーリ92と、両プーリ91、92に巻き掛けられたベルト93とを要素とする。駆動プーリ91は、駆動軸94に固定した固定シーブ911と、駆動軸91上にローラスプラインを介して軸方向に変位可能に支持させた可動シーブ912と、可動シーブ912の後背に配設された液圧サーボ913とを有している。並びに、従動プーリ92は、従動軸95に固設した固定シーブ921と、従動軸95上にローラスプラインを介して軸方向に変位可能に支持させた可動シーブ922と、可動シーブ922の後背に配設された液圧サーボ923とを有している。そして、液圧サーボ913、923を操作し可動シーブ912、922を変位させることを通じて、ベルト93を巻き掛けるプーリ91、92の径を変化させ、以てCVT9が具現する変速比を無段階に変更することができる。
図3に、車両の室内の空調を行うエアコンディショナ5の構成を示す。エアコンディショナ5は、冷媒を圧縮し高圧化するコンプレッサ51と、圧縮された高圧冷媒を放熱させて液化させるコンデンサ52と、コンデンサ52を強制的に空冷するためのコンデンサファン53と、液化しなかった気体の冷媒を液化した冷媒から分離するレシーバ54と、液化した冷媒を噴出させるエキスパンションバルブ55と、噴出して気化した冷媒を受け入れ室内の空気と熱交換させるエバポレータ56と、高温化した内燃機関100の冷却水を受け入れ室内の空気と熱交換させるヒータコア59と、室内の空気を吸引しエバポレータ56に向けて吐出してその空気を再び室内に送り込むブロワファン57と、ブロワファン57から吐出されエバポレータ56を通り抜けた空気をどの程度ヒータコア59に吹き当てるかを調節するエアミックスダンパ50とを要素に含む。コンプレッサ51、コンデンサ52、レシーバ54、エキスパンションバルブ55及びエバポレータ56は、ループする冷媒流路により接続してある。
コンプレッサ51は、内燃機関100に付随する補機の一種であり、内燃機関100の出力軸であるクランクシャフトからエンジントルクの伝達を受けて回転駆動され、冷媒を圧縮する。コンプレッサ51は、例えばスクロール式のコンプレッサを想定している。内燃機関100のクランクシャフトとコンプレッサ51との間には、両者の接続を断接切換可能なマグネットクラッチ6が介在する。内燃機関100に従動するコンプレッサ51の回転数は、エンジン回転数に比例する。
コンデンサ52は、車両のエンジンルームにおける走行風が当たる部位に配置しており、コンデンサファン53を回転させているか否かにかかわらず、車両の走行中にエンジンルームに吹き込む走行風により冷却される。コンデンサ52の背後には、内燃機関100の冷却水を放熱させるラジエータ7が控えている。ラジエータ7もまた、走行風により冷却される。
コンデンサファン53は、内燃機関100の冷却水を放熱させるラジエータ7を強制的に空冷するためのラジエータファンをも兼ねている。コンデンサファン兼ラジエータファン53は、ラジエータ7の背後に位置し、前方から空気を吸引して後方に吐出することで、コンデンサ52及びラジエータ7をともに冷却する。
ブロワファン57から吐出された空気は、エバポレータ56を通過する際に、冷媒から冷熱を得(冷媒に熱を奪われ)て低温化する。同時に、当該空気に含まれていた水蒸気が凝縮してエバポレータ56に付着し、湿度が低下する。エバポレータ56は、夏期に室内の温度を低下させる冷房のためだけでなく、冬季に室内の湿度を低下させて車両の窓ガラスの曇りを低減する役割をも担う。
エアミックスダンパ50は、エバポレータ56を通過した空気のうち、ヒータコア59を通過して室内に向かう空気の量と、ヒータコア59を迂回して室内に向かう空気の量との割合を調節する。このエアミックスダンパ50により、室内に吹き出す風の温度を調整することが可能である。
本実施形態の車両の制御装置たる電子制御装置(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。なお、ECU0は、複数基のECUまたはコントローラがCAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものであることがある。
ECU0の入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、内燃機関100のクランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号b、運転者によるアクセルペダルの踏込量をアクセル開度(いわば、内燃機関100に対して要求されるエンジン負荷率)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号d、内燃機関100の温度を示唆する冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号e、排気通路4を流れる排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサから出力される空燃比信号f、エバポレータ56若しくはその近傍(エバポレータ56の下流であることがある)の温度を検出する温度センサから出力されるエバポレータ温信号g、エアコンディショナ5のコンデンサ52から流下する(コンデンサの下流52かつエキスパンションバルブ55の上流の)冷媒の圧力を検出する冷媒圧センサから出力される冷媒圧信号h等が入力される。
ECU0の出力インタフェースからは、イグナイタ13に対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、EGRバルブ23に対して開度操作信号l、マグネットクラッチ6に通電する電気回路上のスイッチに対してクラッチ締結信号o、ロックアップクラッチ73の断接切換用のロックアップソレノイドバルブに対して開度操作信号t、フォワードブレーキ84またはリバースクラッチ85の断接切換用のソレノイドバルブに対して開度操作信号u、CVT9に対して変速比制御信号v等を出力する。
ECU0のプロセッサは、メモリに格納しているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関100の運転を制御する。ECU0は、内燃機関100の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数や吸気圧等を知得するとともに、気筒1に充填される吸気量(または、新気量)に見合った要求燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、混合気への点火タイミング、要求EGR率(または、EGR量)、エアコンディショナ5のコンプレッサ51の稼働のON/OFF、トルクコンバータ7のロックアップを行うか否か、CVT9の変速比等といった各種運転パラメータを決定する。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、l、o、t、u、vを出力インタフェースを介して印加する。
ECU0は、エアコンディショナ5を作動させる旨の指令が車両の運転者を含む搭乗者によって与えられ、コンプレッサ51を稼働させて冷媒の圧縮を実行するべき状況において、マグネットクラッチ6を締結し、内燃機関100のクランクシャフトとコンプレッサ51とを接続する。これにより、内燃機関100の出力するエンジントルクがコンプレッサ51に供給され、コンプレッサ51が回転してコンプレッサ51による冷媒の吐出量及び吐出圧力が増大する。エアコンディショナ5を作動させる旨の指令は、例えば、搭乗者がコックピット内に設けられたエアコンスイッチを手指でONに操作することを通じて行われる。コンプレッサ51を稼働させるべき状況とは、典型的には、エバポレータ56若しくはその近傍の温度が所定の稼働条件温度以上に上昇したときである。
そして、コンプレッサ51の稼働を停止するべき状況では、マグネットクラッチ6の締結を解除して、内燃機関100のクランクシャフトとコンプレッサ51とを切り離す。これにより、内燃機関100の出力するエンジントルクがコンプレッサ51に供給されなくなり、コンプレッサ51の回転が停止して冷媒を圧縮しなくなる。即ち、マグネットクラッチ6を締結している状態と比較して、コンプレッサ51の出力がカットされる、つまりはコンプレッサ51による冷媒の吐出量及び吐出圧力が減少する。コンプレッサ51の稼働を停止するべき状況とは、典型的には、エバポレータ56若しくはその近傍の温度が所定のカット条件温度以下に低下したときである。エバポレータ56若しくはその近傍の温度が既に十分に低いならば、コンプレッサ51の出力をカットしても、エアコンディショナ5の冷房性能が必要十分に確保される。
なお、ECU0は、コンプレッサ51を稼働させる場合、コンプレッサ51を稼働させない(または、コンプレッサ51の出力をカットする)場合と比較して、同じアクセルペダルの踏込量に対するスロットルバルブ32の開度をより大きく拡大し、気筒1に充填される吸気量及び燃料噴射量を増量する。これにより、内燃機関100の出力するエンジントルクを増大させて、コンプレッサ51が消費するエンジントルクを補う。
本実施形態のECU0は、車両の運転状況に応じて、気筒1への燃料供給を一時中断する燃料カットを実施する。即ち、ECU0は、所定の燃料カット条件が成立したときに、インジェクタ11からの燃料噴射を停止する。ECU0は、例えば、少なくとも、運転者によるアクセルペダルの踏込量が0または0に近い閾値以下となり、トルクコンバータ7をロックアップしており、なおかつエンジン回転数が燃料カット許可回転数以上(または、車速が燃料カット許可車速以上)あることを以て、燃料カット条件が成立したものと判断する。
その後、ECU0は、所定の燃料カット終了条件が成立したときに、燃料カットから復帰することとして、インジェクタ11からの燃料噴射を再開する。ECU0は、例えば、アクセルペダルの踏込量が閾値を上回った、トルクコンバータ7のロックアップを解除した、エンジン回転数が燃料カット復帰回転数まで低下した(または、車速が燃料カット復帰車速まで低下した)等のうち何れかを以て、燃料カット終了条件が成立したものと判断する。
しかして、本実施形態のECU0は、運転者がアクセルペダルを踏んでいない車両の減速走行時において、できる限りロックアップクラッチ73によるトルクコンバータ7のロックアップを維持し、実用燃費の改善を図る。
図4に、ECU0が実行する処理の手順例を示している。車両が高くないまたは比較的低い所定車速以下で走行中、ECU0は、アクセルペダルの踏込量が0または0に近い閾値以下であって(ステップS1)運転者が加速を要求しておらず、トルクコンバータ7をロックアップしており(ステップS2)、エアコンディショナ5の冷媒圧縮用コンプレッサ51を稼働しており(ステップS3)、車速またはエンジン回転数の減速度が大きくなく(ステップS4)、また過去の履歴から再加速の要求がなされる可能性がある程度以上高いと予測される(ステップS5)ことを条件として、スロットルバルブ32をアクセルペダルの踏込量(0または0に近い)に依拠しない開度に開き、気筒1に充填される吸気量及びインジェクタ11から噴射する燃料の量をアイドル運転と比較して増量し(ステップS6)、アイドル運転よりもエンジントルクを増強する。これにより、エンジン回転数を安定化することができ、コンプレッサ51を稼働させながらトルクコンバータ7のロックアップを維持していても車体のしゃくり現象が起こらない。ステップS6では、排気通路4を流れる排気ガスの空燃比を所要の目標空燃比に収束させるべく、実測空燃比と目標空燃比との偏差を縮小する方向に燃料噴射量を増減調整する空燃比フィードバック制御を行う。
なお、ステップS4では、車速またはエンジン回転数の単位時間あたりの低下量が所定値よりも小さい場合に、減速度が大きくないと判断する。ステップS5では、例えば、直近の過去の所定期間内において(車速またはエンジン回転数が一旦減速した後に)アクセルペダルが踏まれた回数が所定値以上である場合、または直近の過去の所定期間内において(車速またはエンジン回転数が一旦減速した後に)アクセルペダルが踏まれている時間の累積の長さが所定値以上である場合に、再加速要求がなされる可能性がある程度以上高いと判断する。
但し、ステップS1ないしS3が真である減速走行中であっても、車速またはエンジン回転数の減速度が大きい(ステップS4)、または過去の履歴から再加速の要求がなされる可能性が低いと予測される(ステップS5)ならば、燃料噴射量の増量(ステップS6)を行わない。そして、トルクコンバータ7のロックアップを解除する条件が充足されたときに(ステップS7)、例えば車速が5km/hないし8km/h以下に低下したときに、トルクコンバータ7のロックアップを解除し(ステップS8)アイドル運転へと移行する(ステップS9)。これは、減速度が大きい場合には燃料カットを実行できる時間が短く燃費向上の効果を得られない(寧ろ、ロックアップを継続しつつ燃料噴射量を増量することで燃費が悪化するおそれがある)こと、再加速要求がなされる可能性が低い場合には再加速に備えてロックアップを維持する必要性に乏しい(いずれ停車するのでロックアップを解除することになる)ことによる。ステップS9では、エンジン回転数をエンジンストールに陥らない限度で低く設定した目標アイドル回転数に収束させるべく、実測エンジン回転数と目標空燃比との偏差を縮小する方向にスロットルバルブ32の開度即ち気筒1に充填される吸気量及び燃料噴射量を増減調整するアイドル回転フィードバック制御を行う。目標アイドル回転数は、マグネットクラッチ6を締結してコンプレッサ51を稼働させているときに、マグネットクラッチ6を切断しコンプレッサ51を稼働させていないときよりも高く設定する。
上記の何れにも該当しなければ、通常通り、運転者によるアクセルペダルの踏込量に応じた開度にスロットルバルブ32を操作し、気筒1に充填される吸気量に見合った量の燃料を噴射するか、あるいは、燃料カット条件の成立によりインジェクタ11からの燃料噴射を停止する燃料カットを行う(ステップS10)。
ステップS10にて、燃料噴射及び点火燃焼を行う場合、それがアイドル運転でなければ、ステップS6と同様、空燃比をフィードバック制御する。運転者がアクセルペダルを踏む前に、ステップS1ないしステップS5がおしなべて真であり、ステップS6を通じてトルクコンバータ7のロックアップを維持していたならば、ステップS10に遷移する過程でトルクコンバータ7をロックアップした状態がそのまま引き継がれる。つまり、減速走行中に運転者が再加速を要求したときに、トルクコンバータ7のロックアップが解除されていることに伴うエンジントルクの伝達ロスという燃費性能面の不利を招くことなく、速やかに車速を加速することが可能となる。
ステップS10にて、現在トルクコンバータ7をロックアップしているならば、車両が高くないまたは比較的低い車速で走行中であったとしても、マグネットクラッチ6を切断してコンプレッサ51の稼働を停止したときに燃料カットを実行することができる。この燃料カットは、トルクコンバータ7のロックアップを維持している(車軸103及び駆動輪の回転により内燃機関100のクランクシャフトが連れ回されエンジンストールに陥らない)からこそ実行が可能である。
ECU0は、上述したステップS1ないしS10を反復的に実施する。
本実施形態では、内燃機関100と駆動輪とを繋ぐ駆動系にロックアップクラッチ73が付帯したトルクコンバータ7が介在しており、また内燃機関100が出力するエンジントルクの一部を供給してエアコンディショナ5の冷媒圧縮用コンプレッサ51を稼働させる車両を制御するものであって、車両が所定車速以下で走行中、運転者によるアクセルペダルの踏込量が0または0に近い閾値以下、なおかつ内燃機関100により冷媒圧縮用コンプレッサ51を稼働させる場合に、内燃機関100に供給する燃料の量をアイドル運転時よりも増量しながらトルクコンバータ7のロックアップを維持する制御を実施する車両の制御装置0を構成した。
本実施形態によれば、運転者がアクセルペダルを踏んでいない減速走行時、エンジントルクをアイドル運転中よりも増強しながら、トルクコンバータ7のロックアップを維持する、換言すれば減速走行時にロックアップが解除される時期を遅らせることができる。エンジン回転数が安定化するため、トルクコンバータ7のロックアップを継続しかつ冷媒圧縮用コンプレッサ51を稼働させていても、車体のしゃくりが起こらない。
運転者がアクセルペダルを踏み込んで再加速を要求したときには、ロックアップクラッチ73が既に締結されていることから、トルクコンバータ7におけるすべりを生じさせることなく、エンジントルクを車軸103及び駆動輪に効率よく伝達することができ、速やかなる加速が実現される。しかも、エバポレータ56若しくはその近傍の温度が低下したときには、マグネットクラッチ6を切断してコンプレッサ51の稼働を停止しつつ、気筒1への燃料供給を停止する燃料カットを実行することが可能であり、燃料消費を削減できる。総じて、実用燃費の改善に奏功し得る。
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、内燃機関100のクランクシャフトと車軸103及び駆動輪との間に介在する駆動系の変速機は、ベルト式CVT9には限定されない。本発明を、CVT9でない有段自動変速機を搭載した車両に適用することも可能である。
内燃機関と冷媒圧縮用コンプレッサ51とを繋ぐクラッチ6は、マグネットクラッチには限定されない。クラッチ6は、作動液圧(油圧)により駆動されて内燃機関とコンプレッサ51との間を断接切換する態様のものであっても構わない。
また、上記実施形態では、コンプレッサ51の出力をカットするためのカット制御において、動力源である内燃機関とコンプレッサ51との間に介在するクラッチ6の締結を開放することでコンプレッサ51を内燃機関から切り離しコンプレッサ51の稼働を停止させていたが、これに代えて、コンプレッサによる圧縮冷媒の吐出量を平常よりも減少させるようにしてもよい。冷媒圧縮用コンプレッサが可変容量型コンプレッサである場合、その冷媒の吐出容量を柔軟に制御することが可能である。
上記実施形態では、ステップS8及びS12において、電子スロットルバルブ32を操作して気筒1に吸入される空気量(及び、燃料噴射量)を増減調整するようにしていたが、スロットルバルブ32とともに吸気絞り弁としてアイドルスピードコントロールバルブが設置されている場合には、スロットルバルブ32に代えて、このアイドルスピードコントロールバルブの開度を操作することで、気筒1に吸入される空気量(及び、燃料噴射量)を増減させることができる。周知の通り、アイドルスピードコントロールバルブは、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の上流側と下流側とを連通するバイパスを開閉する流量制御弁である。
本発明の適用の対象となる内燃機関は、火花点火式内燃機関100には限定されず、圧縮着火式のものであってもよい。その場合には、スロットルバルブは必ずしも開閉操作されないか、元来スロットルバルブが存在しない。
その他、各部の具体的な構成や処理の内容等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。