JP7076792B2 - 半導体素子、検体ユニット及びイオン濃度測定装置 - Google Patents

半導体素子、検体ユニット及びイオン濃度測定装置 Download PDF

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Description

本発明は、半導体素子、検体ユニット及びイオン濃度測定装置に関する。
溶液中のイオン濃度、特に水素イオンや塩基イオンに対応するpHを測定するために様々な手法が知られている。溶液に浸漬されたあらゆる物質は、溶液のpHによってその帯電状態が変化する。これは化学分析のみならず、DNAやタンパク質などのバイオマーカを検出するためのバイオセンサにも影響を及ぼすため、pHを把握することが必要になる。
ガラス電極を用いたpHメータが知られているが、端子が大きいのでバルクの溶液にしか使えず、微視的な観測はできない。またゲート部分を溶液にさらして、そこでのpHに依存した帯電を検知するイオン感応型FETも知られている。イオン感応型FETは微視的が観測を可能であるが、検体がセンサ部に触れると汚損するため、繰り返し利用することが難しい。また、高度かつ高価な素子なので使い捨ては難しい一方で、洗浄による再生を行うのも高コストである。そのため、センサ部の使い捨てが可能な、より簡易で低コストな手法が研究されている。
例えば、InGaAsP半導体チップを光励起し、フォトルミネッセンスによる放射光の強度を観測することで、半導体チップが浸漬されている溶液のpHを測定する手法が提案・実証されている。この手法では、溶液のpHが変化すると半導体チップに形成されたフォトニック結晶領域の表面電荷密度が変化し、半導体内部のショットキー障壁に応じて表面再結合が変化し、結果的に放射光の強度が変化する。この現象を利用し、放射光の強度変化を観測することで溶液のpHの変化を検出することができる。フォトニック結晶領域が形成されたチップは小さく、微視的な測定が可能であり、大量生産すれば使い捨ても可能となる。また、このチップを用いるには、半導体レーザなどの励起光源と放射光の強度を測定するフォトダイオードとが有ればよい。検体を流す流路をさらに組み合わせたとしても、簡素な構成のイオン濃度測定装置を実現することが可能である。
馬場俊彦、渡邊敬介、他6名、「GaInAsP半導体ナノレーザのバイオセンシング応用」、電子情報通信学会論文誌、電子情報通信学会、2017年、C、Vol.J-100-C、No.2、pp.61-71 Takumi Watanabe, Toshihiko Baba, et al, "Ion-sensitive photonic-crystal nanolaser sensors", OPTICS EXPRESS 24469, 2 October, 2017, vol. 25, No. 20 Keisuke Watanabe, Toshihiko Baba, et.al., "Label-free and spectral-analysis-free detection of neuropsychiatric disease biomarkers using an ion-sensitive GaInAsP nanolaser biosensor", Biosensors and Bioelectronics 161-167, 02 June, 2018, vol. 117. 渡邊敬介、馬場俊彦、「GaInAsP半導体フォトニック結晶スラブにおけるPL増大とイオン感応型バイオセンサ応用」、応用物理学会秋期講演会、応用物理学会、No. 20p-C301-3,2018 Keisuke Watanabe, Toshihiko Baba, et al., "Cell imaging using GaInAsP semiconductor photoluminescence", OPTICS EXPRESS 11232, 16 May, 2016, vol. 24, No. 10
上述の半導体チップを用いたpH測定では、表面再結合の変化を感度の起源としているため、一般にフォトニック結晶のような多くの表面積が露出した構造の方が有利である。また表面再結合確率は励起される電子-正孔対の密度に依存しないが、発光再結合確率はその密度に比例して大きくなる。すなわち発光再結合より表面再結合の効果を相対的に大きくするためには、励起強度を弱くして、電子-正孔対の密度を下げた方がよい。ただしこれらの最適化は、いずれも発光強度の低下を招く。つまり、感度は高まるが信号が弱くなるというトレードオフ関係がある。よって、表面積の露出を多くして励起強度が低下しても、放射光強度が下がらない素子構造が求められる。
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、溶液中に浸漬された状態で、照射される励起光に対してより高効率で放射光を放射する半導体素子を提供することを目的とする。
本発明の一態様である半導体素子は、半導体基板と、前記半導体基板上に積層され、励起光が照射されることでフォトルミネッセンス又はレーザ発振による放射光を放射する活性層と、を有し、前記活性層の主面上には複数の六角形の単位格子がハニカム状に配列され、各単位格子の6つの頂点のそれぞれを中心として、かつ、中心の前記頂点から等しい距離に、前記活性層を貫通する複数の孔部が設けられることで、前記活性層にフォトニック結晶構造が構成されるものである。
上記の半導体素子においては、各単位格子の6つの頂点のそれぞれを中心として、かつ、中心の前記頂点から等しい距離に、複数、例えば6つの孔部が設けられることが好ましい。
上記の半導体素子においては、前記単位格子の六角形の辺の長さである格子定数は、420nm以上510nm以下であることが好ましい。
上記の半導体素子においては、前記孔部の中心と前記中心の頂点との距離を、前記格子定数で除算した値は、0.30であることが好ましい。
上記の半導体素子においては、前記孔部の直径を前記格子定数で除算した値は、0.14以上0.23以下であるであることが好ましい。
上記の半導体素子においては、前記半導体基板は、InPからなり、前記活性層は、InGaAsPからなることが好ましい。
上記の半導体素子においては、前記活性層の厚みは、150nm以上250nm以下である、ことが好ましい。
上記の半導体素子においては、前記フォトニック結晶構造が構成されている部分と、前記半導体基板と、の間には、中空部が設けられることが好ましい。
上記の半導体素子は、溶液中に浸漬された状態で前記励起光が照射されることが好ましい。
上記の半導体素子においては、前記放射光は、前記活性層の主面に垂直な方向に出力されることが好ましい。
本発明の一態様である検体ユニットは、溶液が保持可能な溶液保持部と、前記溶液保持部に保持された前記溶液に浸漬可能に保持された半導体素子と、を有し、前記半導体素子は、半導体基板と、前記半導体基板上に積層され、励起光が照射されることでフォトルミネッセンス又はレーザ発振による放射光を放射する活性層と、を有し、前記活性層の主面上には複数の六角形の単位格子がハニカム状に配列され、各単位格子の6つの頂点のそれぞれを中心として、かつ、中心の前記頂点から等しい距離に、前記活性層を貫通する複数の孔部が設けられることで、前記活性層にフォトニック結晶構造が構成されるものである。
本発明の一態様であるイオン濃度測定装置は、溶液が保持可能な溶液保持部と、前記溶液保持部に保持された前記溶液に浸漬可能に保持された半導体素子と、を有する検体ユニットと、前記半導体素子に励起光を照射する光源と、前記半導体素子から放射される放射光の強度を測定する光検出器と、前記光検出器が測定した前記放射光の強度に基づいて、前記溶液のイオン濃度を検出する処理部と、を有し、前記半導体素子は、半導体基板と、前記半導体基板上に積層され、励起光が照射されることでフォトルミネッセンス又はレーザ発振による放射光を放射する活性層と、を有し、前記活性層の主面上には複数の六角形の単位格子がハニカム状に配列され、各単位格子の6つの頂点のそれぞれを中心として、かつ、中心の前記頂点から等しい距離に、前記活性層を貫通する複数の孔部が設けられることで、前記活性層にフォトニック結晶構造が構成されるものである。
本発明によれば、溶液中に浸漬された状態で、照射される励起光に対してより高効率で放射光を出力する半導体素子を提供することができる。
実施の形態1にかかるイオン濃度測定装置の基本構成を模式的に示す図である。 図1のII-II線における検体ユニットの断面を模式的に示す図である。 実施の形態1にかかるイオン濃度測定装置の構成例を示す図である。 実施の形態1にかかるセンサチップの構成を模式的に示す斜視図である。 実施の形態1にかかるセンサチップの構成を模式的に示す上面図である。 図3及び図4のV-V線におけるセンサチップの断面を示す図である。 溶液のpHに対する放射光の強度を示す図である。 孔部の直径を変化させたときの放射光のスペクトルを示す図である。 孔部の直径に対するpH感度、SVR及び出力/入力比を示す図である。 格子定数に対するpH感度を示す図である。 pHを変化させたときの放射光の強度変化を示す図である。 レーザ発振した場合とレーザ発振しない場合の放射光の強度変化を示す図である。 レーザ発振した場合とレーザ発振しない場合の放射光の強度変化を示す図である。 実施の形態2にかかるイオン濃度測定装置の基本構成を模式的に示す図である。 実施の形態2にかかるイオン濃度測定装置の構成例を示す図である。 実施の形態3にかかるイオン濃度測定装置の構成を模式的に示す図である。 実施の形態3にかかるイオン濃度測定装置の構成をより詳細に示す図である。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。各図面においては、同一要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略される。
実施の形態1
実施の形態1にかかるイオン濃度測定装置について説明する。図1に、実施の形態1にかかるイオン濃度測定装置100の基本構成を模式的に示す。イオン濃度測定装置100は、検体ユニット10、光源20及び光検出器30を有する。
図2に、図1のII-II線における検体ユニット10の断面を模式的に示す。検体ユニット10は、内部空間である溶液保持部に検体である溶液SLを保持しており、かつ、溶液SL中に浸漬された半導体素子(後述するセンサチップ1)を保持するように構成される。本実施の形態では、検体ユニット10は、並行に配置された2枚の板状部材2及び3と、センサチップ1と、を有する。図1及び2では、板状部材2及び3は、X-Y平面を主面とし、光源20からの励起光P1及びセンサチップ1からの放射光P2を透過可能な(すなわち、励起光P1及び放射光P2に対して透明な)板状部材として構成される。
板状部材2及び3は、X方向及びY方向に垂直なZ方向に離隔して配置されており、板状部材2と板状部材3との間の隙間の溶液保持部には、センサチップ1が保持されている。センサチップ1の保持方法については、特に限定されるものではなく、例えば、単に板状部材3上に置かれていてもよいし、板状部材2及び3のいずれか又は両方に固定されていてもよい。また、板状部材2と板状部材3との間の隙間の溶液保持部には検体である溶液SLが充填されており、これにより、センサチップ1は溶液SLに浸漬される。
検体ユニット10の作製について簡潔に説明する。例えば、ステージや作業台などに板状部材3(例えば、スライドガラス)を載せ、板状部材3上にセンサチップ1を載せる。その後、センサチップ1上にスポイトなどを用いて溶液SLを滴下し、板状部材2(例えば、カバーガラス)を載せる。板状部材2及び3は、溶液SLの表面張力により密着するので、いわゆるプレパラートの様に、板状部材2と板状部材3との間にセンサチップ1及び溶液SLを保持することができる。検体ユニット10は簡易な構成で、作製も容易であり、測定ごとの使い捨てが可能である。これにより、測定に要するコストを低減し、かつ、測定でのコンタミネーションによる測定への影響を防止できる。なお、この場合には、イオン濃度測定装置100のユーザが測定ごとに検体ユニット10を作製することとなる。
検体ユニット10の作製を容易にするには、以下で説明する方法をとることも可能である。例えば、板状部材2と板状部材3との間の隙間にセンサチップ1を保持した状態のユニットを予め用意しておく。そして、測定を行うときに、検体である溶液SLを、スポイトなどを用いてこのユニットの側面(図1及び2の側面10A)に滴下する。溶液SLは毛管現象によって板状部材2と板状部材3との間の溶液保持部に浸潤し、その結果、センサチップ1が溶液SLに浸漬されることとなる。この場合には、測定ごとに板状部材2及び3とセンサチップ1とで構成されるユニットを組み立てる必要が無く、測定の簡素化、高速化の点で有利である。また、板状部材2及び3とセンサチップ1とで構成されるユニットを予め複数用意しておけば、測定を連続して行うことが可能となり、測定作業のさらなる高速化を実現できる。
光源20は、センサチップ1に励起光P1を照射する。光源20はレーザ光源として構成され、レーザ光を励起光P1として出力してもよい。
センサチップ1は、励起光P1が照射されることで活性層が励起され、フォトルミネッセンスによって放射光P2を放射する半導体素子として構成される。
光検出器30は、センサチップ1から放射された放射光P2の強度を測定可能に構成される。光検出器30は、単なる光強度センサとして構成してもよいし、放射光のスペクトルを分析可能な分光器として構成されてもよい。光検出器30を光強度センサとして構成する場合には、光検出器30を小型、安価かつシンプルに構成することができ、イオン濃度測定装置100の低コスト化を実現することができる。
図3に、実施の形態1にかかるイオン濃度測定装置100の構成例を示す。この例では、イオン濃度測定装置100には、光学系50及び処理部60が設けられている。光学系50は、レンズ51及びダイクロイックミラー52で構成される。レンズ51は、光源20から出力された励起光P1を、センサチップ1上に集光する。センサチップ1から放射された放射光P2は、レンズ51を通過し、ダイクロイックミラー52に入射する。ダイクロイックミラー52に入射する光には、放射光P2だけでなく、励起光P1の反射光などが含まれ得る。そこで、光検出器30で高精度に放射光P2の強度を測定するため、ダイクロイックミラー52は、励起光P1の波長の光を反射しないように構成される。すなわち図1における励起光P1をカットするフィルタの役割を果たす。放射光P2はダイクロイックミラー52によって光検出器30へ向けて反射され、光検出器30に入射する。
処理部60は、光源20、光検出器30の動作を制御可能に構成される。処理部60は、光源20に制御信号CON1を出力して、例えば光源20からの励起光P1の出力動作を制御してもよい。処理部60は、光検出器30に制御信号CON2を出力して、例えば光検出器30の放射光P2の検出動作を制御してもよい。また、処理部60は、光検出器30が放射光P2の強度を測定した結果を示す出力信号OUTを受け取り、出力信号OUTに基づいて溶液のpHを算出し、必要に応じて算出したpHの値をイオン濃度測定装置100の外部に出力してもよい。
次いで、センサチップ1の構成について説明する。図4は、センサチップ1の構成を模式的に示す斜視図である。センサチップは、半導体基板4及び活性層5が積層された構成を有する。本実施の形態においては、半導体基板4はInP(リン化インジウム:Indium Phosphide)で構成される。
活性層5は、単一量子井戸(SQW:Single Quantum Well)構造を有し、InGaAsP(ヒ化リン化インジウムガリウム:Gallium Indium Arsenide Phosphide)で構成される。活性層5は、SQW層5Aと、SQW層5Aを挟み込む分離閉じ込め層5B及び5Cとで構成される。活性層5は、例えば有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)などの結晶成長法によって、半導体基板4上に積層される。SQW層5Aの厚みは、例えば4nmである。活性層5の厚みは、150nm以上、250nm以下であり、例えば180nmである。
なお、活性層5を保護するため、活性層5上には透光性の保護層を設けてもよい。具体的には、活性層5上には、例えばZrO又はTaからなる薄膜(厚みは、例えば3nm)が形成されてもよい。なお、ZrOは、近赤外領域の波長(例えば、980nm~1550nm)の励起光P1に対して透明であり、かつ、等電点が7付近であるため中性な溶液中では電気的にほぼ中性である。また、ZrOは、一般的に用いられているTaに近似するネルンスト応答を示す。そのため、溶液のpHが変化すると、酸乖離平衡によって表面官能基が変化して、その結果表面電荷が変化する。以上より、ZrOは、活性層5上に形成する保護膜の材料として望ましい。
活性層5は、複数の孔部が設けられ、フォトニック結晶構造が構成されたフォトニック結晶領域PCを有する。図5は、センサチップ1の構成を模式的に示す上面図である。本実施の形態では、活性層5は、その主面上に六角形の単位格子UCがハニカム(蜂の巣)状に配列された、いわゆるハニカム(蜂の巣)構造を有する。単位格子UCの六角形の頂点又はその近傍には、活性層5を貫通する複数の孔部Hが設けられている。この例では、各頂点を中心とする六角形HEXの頂点のそれぞれを中心とする孔部Hが設けられている。単位格子UCの頂点間の距離である格子定数aは、例えば420nmであり、420nm以上510nm以下であることが望ましい。孔部Hの直径Dは、例えば90nmである。孔部Hの直径Dを格子定数aで除算した値は、0.14以上0.23以下であることが望ましい。
孔部Hは、例えば電子線描画法によってエッチングマスクを作製し、その後、例えば誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)を用いたドライエッチングで活性層5をエッチングすることで形成される。なお、エッチングガスとしては、ヨウ化水素(HI:Hydrogen Iodide)などの各種のガスを用いることができる。
なお、本実施の形態では、孔部Hをドライエッチングした後に、塩酸によってウェットエッチングを行う。この場合、塩酸によるInPのエッチングレートはInGaAsPのエッチングレートよりも十分に大きいため、活性層5の下に位置する半導体基板4が選択的にエッチングされる。これにより、活性層5のフォトニック結晶構造が形成された部位の下部には中空部が生じる。図6に、図4のIV-IV線におけるセンサチップ1の断面を示す。図6に示すように、活性層5のフォトニック結晶構造が形成されたフォトニック結晶領域PCの下部には、InPからなる半導体基板4が塩酸でエッチングされて、中空部4Aが形成される。つまり、センサチップ1では、フォトニック結晶領域PCはエアブリッジとして形成されている。
次いで、イオン濃度測定装置100の動作について説明する。まず、光源20は、励起光P1を検体ユニット10のセンサチップ1に照射する。例えば、励起光P1の波長は例えば980nmであり、ビームスポットの直径は20μmである。なお、ビームスポットの直径は、励起光の強度分布の最大値に対して1/e(約13.5%)以上の範囲の寸法として定義されてもよい。
センサチップ1に励起光P1が照射されると、活性層5が励起される。その結果、活性層5に形成されたフォトニック結晶構造でのフォトルミネッセンスにより、フォトニック結晶構造の主面に対して垂直な方向に放射光P2が放射される。
このとき、センサチップ1は溶液SLの流れの中に保持され、放射光P2の強度は溶液SLのpHによって変化する。本実施の形態では、この特性を利用し、放射光P2の強度を観測することで、溶液SLのpH、すなわちイオン濃度を決定する。
図7に、溶液SLのpHに対する放射光P2の強度を示す。図7では、溶液SLのpHが2.1、7.0、11、0の3つの場合における放射光P2のスペクトルを表示した。文献を引用して上述したように、所定の組成の化合物半導体からなる半導体チップに励起光を照射すると、フォトルミネッセンスが生じて放射光P2が放射される。この放射光P2の強度は、溶液SLのpHによって変動することが知られている。本実施の形態においては、図7に示すように、溶液SLのpHが小さくなるにしたがって、放射光P2の強度は大きくなることが理解できる。
図8に、孔部Hの直径Dを変化させたときの放射光P2のスペクトルを示す。図8では、縦軸をpH感度、横軸に放射光の波長[μm]とした。なお、pH感度SpHは、以下の式(1)で定義されるものとする。
Figure 0007076792000001

式(1)において、Cはイオン濃度であり、ΔP2とΔCはそれぞれの微小変化量である。それぞれの変化量が小さいとき、式(1)の分子には[dB]、分母には[pH]という、いずれも対数の単位を適用することで、この式は以下のように変形される。
Figure 0007076792000002
図8に示すように、D/aが大きいほど、格子定数aが固定されている場合には孔部Hの直径Dが大きいほど、光取り出し効率が増大し、放射光P2の強度が増大することが確認できる。D/aが増大するにつれて、放射光P2の波長は、短波長側に遷移する。これは、孔部Hの直径Dが増大するのに伴って、Γ点が高周波側に移動することに対応するものと考えられる。
以上より、放射光の発光強度を大きくするには、孔部Hの直径Dを大きくする、すなわち、表面体積比(SVR:Surface to Volume Ratio)が大きいことが望ましい。本構成では、単位格子UCの頂点に、6つの孔部Hを配置することでSVRを大きくすることができるので、放射光P2の強度を大きくする上で有利であることが理解できる。
なお、本実施の形態にいては、単位格子UCの頂点の周りに複数の孔部Hを設けることで、SVRを大きくしている。したがって、単位格子UCの頂点周りに設ける孔部Hの数は、6に限定されず、2~5または7以上であってもよいことは、言うまでもない。
なお、光取り出し効率を維持するために、単位格子UCの中心と孔部Hの中心との間の距離dと、格子定数aとの関係について検討した。3次元FDTD(Finite-Difference Time-Domain)法を用いて計算を行った結果、d/a=0.30が好適であった。
次いで、図9に、孔部Hの直径Dに対するpH感度、SVR及び出力/入力比を示す。図9では、格子定数aを480nmとして、孔部Hの直径Dを変化させた。出力/入力比は、センサチップ1に照射された励起光P1の強度(入力Pin)に対する、放射光P2の強度(出力Pout)である。上述したように、孔部Hの直径Dが増大するにしたがってSVRは大きくなり、光取り出し効率も増大するため、低パワーでの動作が可能となる。図9に示すように、孔部Hの直径Dが増大するにしたがって、pH感度が増大することが確認できる。
図10に、格子定数aに対するpH感度を示す。図10では、D/a=0.23として、格子定数を510、480、450及び420nmの4段階に変化させた。図10に示すように、格子定数aが小さいほどpH感度が増大することが確認できる。この例では、格子定数aが420nmのときに、pH感度の絶対値は0.27dB/pHとなった。なお、フォトニック結晶構造を用いない場合のpH感度を実験によって求めたところ、pH感度の絶対値は0.046dB/pHであった。したがって、本構成によれば、フォトニック結晶構造を用いない場合と比べて、約6倍のpH感度を実現することができる。
さらにフォトニック結晶に対する励起光の強度を上げると、発光再結合確率が高まるため、pH感度は徐々に減少するが、やがてレーザ発振に至ると、光パワーレベルが大幅に上昇し、特に発振しきい値をわずかに超えた励起パワーでは、pH感度の絶対値が2.0dB/pHまで上昇する。これは図10に示す例の7.4倍であり、フォトニック結晶構造を用いない場合の43倍である。
次いで、本構成におけるpH測定の分解能(以下、pH分解能と称する)について検討する。ここでは、格子定数aを420nm、D/aを0.23とし、pH=7付近でのpH分解能について説明する。検体ユニット10に導入する溶液として、HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)を用い、水酸化カリウム(KOH)によってpHを調整した。
図11に、pHを変化させたときの放射光P2の強度変化を示す。図11では、pHを7.4~6.8の範囲で、0.2ずつ変化させた。図11に示すように、pHを0.2だけ変化させると、放射光P2の強度が約0.1dB変化することが確認できる。図11に示す結果に基づいて、pHを増大させた場合と減少させた場合の各pHにおける放射光P2の強度の平均値を求めて、その傾きからpH感度を求めた。ここでは、各pHにおける放射光P2の強度のばらつきを示す標準偏差σを求め、その3倍の値(3σ)をノイズ[dB]とした。この条件においてS/N比を求めると、24[/pH]となった。S/N比の逆数をとることで、pH分解能は約0.04となった。同様の実験を、上記のレーザ発振状態でも行ったところ、レーザ発振状態では放射光強度と共にノイズも上昇するため、S/Nはほぼ変わらなかった。つまりpH分解能も同じ値が評価された。
以上、本構成によれば、溶液中に保持された簡素な構造を有する半導体チップに光を照射し、半導体チップからの放射光の強度を測定することで、溶液にpHを測定することが可能である。
上述の通り、イオン濃度測定装置100は、活性層5から放射される放射光P2の強度を観測することで、溶液のpHを測定する。ここで、活性層5の励起状態によっては、レーザ発振をしない状態でのフォトルミネッセンスによる放射光を放射させることもでき、レーザ発振をさせることでレーザ光を放射させることもできる。
図12及び13に、レーザ発振した場合とレーザ発振しない場合の放射光の強度変化を示す。図12では、縦軸の単位を5dB/divとした。これに対し、図13では、レーザ発振していない場合の放射光P2の強度を詳しく表示するため、縦軸の単位を、図12の1/10の0.5dB/divとした。ここでは、溶液のpHを、11、7、2.1の3段階に変化させた。
図12に示すように、pHが7及び11のとき、レーザ発振している場合には、pHの変化に応じて放射光P2の強度が段階的に増大していることが確認できる。また、レーザ発振している場合、レーザ発振していない場合と比べ、放射光P2の強度がより大きくなり、その変化量も大きいことが確認できる。
図12ではレーザ発振していない場合の放射光P2の強度変化は小さいものの、図13に示すように、レーザ発振していない場合の放射光P2の強度変化は、レーザ発振しているときと同様に段階的に増大していることが確認できる。図13では、レーザ発振している場合には、レーザ発振していない場合と比べて、pHが2.1から7に変化したときに、放射光P2の強度が顕著に増大していることが確認できる。
よって、レーザ発振している場合には、より鋭敏にpHの変化を捉えることが可能となる。但し、レーザ発振している場合にはノイズ成分が大きくなるので、高いpH分解能を求める場合には、レーザ発振していない場合でもレーザ発振している状態でも大差ないと言える。
本構成によれば、センサチップ1は、イオン濃度測定装置100や検体ユニット10と独立して作製できる小型の半導体素子であり、かつ、安価に作製することができる。よって、イオン濃度の測定を行うサンプル又は検体ごとにセンサチップ1を交換することが可能である。また、安価に作製できるので、使用したセンサチップ1を使い捨てにすることも可能である。これにより、イオン濃度の測定を容易にかつ迅速に行うことができ、測定に要するコストを削減することができる。よって、センサチップ1を用いてバイオマーカなどを検出する用途に、容易に適用することができる。
センサチップ1のみを交換することも可能であるが、センサチップ1を保持した検体ユニット10を交換することも可能である。この場合、比較的寸法が小さく、特定の道具や技術が必要となると考えられるセンサチップ1の交換作業を回避することができる。検体ユニット10の交換作業は、ユーザが手で検体ユニット10を保持して行うことができるので、交換作業の簡素化の観点から有利である。
実施の形態2
実施の形態2にかかるイオン濃度測定装置について説明する。図14に、実施の形態2にかかるイオン濃度測定装置200の基本構成を模式的に示す。イオン濃度測定装置200は、実施の形態1にかかるイオン濃度測定装置100の検体ユニット10を、検体ユニット70に置換した構成を有する。検体ユニット70は、溶液保持部である流路を有し、流路内に半導体素子が保持され、流路に溶液SLが流れる流路ユニットとして構成される。
検体ユニット70は、センサチップ1及び流路セル6を有する。流路セル6は、光源20から出力される励起光P1及びセンサチップ1から出力されるP2を透過する部材で構成される。流路セル6には、X方向に延在する溶液保持部である流路7が形成されている。流路7は、例えば、溶液SLが流動可能なマイクロ流路として構成される。流路7には、センサチップ1が保持されている。検体ユニット70は、溶液供給部40と接続され、溶液供給部40から流路7に溶液SLが供給される。これにより、センサチップ1が溶液SLに浸漬されることとなる。
図15に、実施の形態2にかかるイオン濃度測定装置200の構成例を示す。本構成では、処理部60は、溶液供給部40に制御信号CON3を出力して、例えば溶液供給部40から検体ユニット10に供給される溶液SLの流量及びpHを制御してもよい。
本構成によれば、センサチップ1に対して、溶液SLを連続的に供給することができる。これにより、例えば、供給中の溶液SLに溶解している成分などが変化した場合でも、溶液SLのpHの時間変化を容易に検出することが可能となる。また、例えば、図7、図11-図13のように、供給中の溶液SLのpHを変化させたときの放射光P2の強度の変化を容易に検出することができる。
実施の形態3
実施の形態3にかかるイオン濃度測定装置について説明する。図16に、実施の形態3にかかるイオン濃度測定装置300の構成を模式的に示す。イオン濃度測定装置300は、図1に示すイオン濃度測定装置100に、フィルタ80を追加した構成を有する。フィルタ80は、センサチップ1や検体ユニット10の各部で反射された励起光P1を遮断し、かつ、放射光P2を透過する波長フィルタである。これにより、図16に示す簡易な構成において、光検出器30への励起光P1の入射を防止し、光検出器30にて放射光P2の強度を正確に検出することが可能となる。
なお、図2に示すイオン濃度測定装置100に、フィルタ80を追加してもよい。図17に、実施の形態3にかかるイオン濃度測定装置300の構成をより詳細に示す。図17に示すイオン濃度測定装置300は、イオン濃度測定装置100同様にダイクロイックミラー52を有しているため、センサチップ1や検体ユニット10の各部で反射された励起光P1は、ダイクロイックミラー52でカットされる。さらに、本構成では、ダイクロイックミラー52と光検出器30との間に、フィルタ80が配置される。これにより、ダイクロイックミラー52でカットしきれなかった励起光P1を、フィルタ80によってカットすることができる。
以上、本構成によれば、光検出器30に励起光P1が入射することをより確実に防止できるので、pH測定に対する励起光の影響を防止することができる。
その他の実施の形態
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上述の実施の形態では、センサチップ1の活性層5はInGaAsPで構成されるものとして説明したが、溶液のpHによって発光強度が変動するならば、他の組成の化合物半導体材料などの各種の半導体材料を用いてもよい。
励起光は、近赤外領域の波長の光に限定されるものではなく、他の波長帯の光としてもよい。
上述の実施の形態では、イオン濃度測定装置に光学系50が設けられる構成について説明したが、光学系50の構成はこの例に限られない。光源20がセンサチップ1に励起光P1を照射でき、光検出器30が放射光P2を受け取ることができるならば、光学系50は必ずしも必要ではない。光ファイバの端部をセンサチップ1に近接して配置できるならば、放射光P2を光ファイバの一端に入射させ、他端から光検出器30へ向けて放射光P2を出射させる構成としてもよい。
上述の実施の形態では、検体ユニット10と検体ユニット70とについて説明したが、検体ユニットの構成はこれらに限られない。溶液と溶液に浸漬された半導体素子を保持し、かつ、励起光及び放射光を透過できるならば、検体ユニットは他の構成とすることができる。
実施の形態2にかかるイオン濃度測定装置200に、実施の形態3で説明したフィルタ80を追加してもよいことは、言うまでもない。
上述の実施の形態では、活性層はSQW層を含むものとして説明したが、SQW層に代えて多重量子井戸(MQW:Multi Quantum Well)層を適用してもよい。
1 センサチップ
2、3 板状部材
4 半導体基板
4A 中空部
5 活性層
5A SQW層
5B、5C 分離閉じ込め層
6 流路セル
7 流路
10、70 検体ユニット
20 光源
30 光検出器
40 溶液供給部
50 光学系
51 レンズ
52 ダイクロイックミラー
60 処理部
80 フィルタ
100 イオン濃度測定装置
CON1、CON2、CON3 制御信号
H 孔部
OUT 出力信号
PC フォトニック結晶領域
P1 励起光
P2 放射光
SL 溶液
UC 単位格子

Claims (12)

  1. 半導体基板と、
    前記半導体基板上に積層され、励起光が照射されることでフォトルミネッセンス又はレーザ発振による放射光を放射する活性層と、を備え、
    前記活性層の主面上には複数の六角形の単位格子がハニカム状に配列され、
    各単位格子の6つの頂点のそれぞれを中心として、かつ、中心の前記頂点から等しい距離に、前記活性層を貫通する複数の孔部が設けられることで、前記活性層にフォトニック結晶構造が構成される、
    半導体素子。
  2. 各単位格子の6つの頂点のそれぞれを中心として、かつ、中心の前記頂点から等しい距離に、6つの孔部が設けられる、
    請求項1に記載の半導体素子。
  3. 前記単位格子の六角形の辺の長さである格子定数は、420nm以上510nm以下である、
    請求項2に記載の半導体素子。
  4. 前記孔部の中心と前記中心の頂点との距離を、前記格子定数で除算した値は、0.30である、
    請求項3に記載の半導体素子。
  5. 前記孔部の直径を前記格子定数で除算した値は、0.14以上0.23以下である、
    請求項3又は4に記載の半導体素子。
  6. 前記半導体基板は、InPからなり、
    前記活性層は、InGaAsPからなる、
    請求項1乃至5のいずれか一項に記載の半導体素子。
  7. 前記活性層の厚みは、150nm以上250nm以下である、
    請求項6に記載の半導体素子。
  8. 前記活性層のうちで前記フォトニック結晶構造が構成されている部分と、前記半導体基板と、の間には、中空部が設けられる、
    請求項1乃至7のいずれか一項に記載の半導体素子。
  9. 前記半導体素子は、溶液中に浸漬された状態で前記励起光が照射される、
    請求項1乃至8のいずれか一項に記載の半導体素子。
  10. 前記放射光は、前記活性層の主面に垂直な方向に出力される、
    請求項1乃至9のいずれか一項に記載の半導体素子。
  11. 溶液が保持可能な溶液保持部と、
    前記溶液保持部に保持された前記溶液に浸漬可能に保持された半導体素子と、を備え、
    前記半導体素子は、
    半導体基板と、
    前記半導体基板上に積層され、励起光が照射されることでフォトルミネッセンス又はレーザ発振による放射光を放射する活性層と、を備え、
    前記活性層の主面上には複数の六角形の単位格子がハニカム状に配列され、
    各単位格子の6つの頂点のそれぞれを中心として、かつ、中心の前記頂点から等しい距離に、前記活性層を貫通する複数の孔部が設けられることで、前記活性層にフォトニック結晶構造が構成される、
    検体ユニット。
  12. 溶液が保持可能な溶液保持部と、前記溶液保持部に保持された前記溶液に浸漬可能に保持された半導体素子と、を有する検体ユニットと、
    前記半導体素子に励起光を照射する光源と、
    前記半導体素子から放射される放射光の強度を測定する光検出器と、
    前記光検出器が測定した前記放射光の強度に基づいて、前記溶液のイオン濃度を検出する処理部と、を備え、
    前記半導体素子は、
    半導体基板と、
    前記半導体基板上に積層され、励起光が照射されることでフォトルミネッセンス又はレーザ発振による放射光を放射する活性層と、を備え、
    前記活性層の主面上には複数の六角形の単位格子がハニカム状に配列され、
    各単位格子の6つの頂点のそれぞれを中心として、かつ、中心の前記頂点から等しい距離に、前記活性層を貫通する複数の孔部が設けられることで、前記活性層にフォトニック結晶構造が構成される、
    イオン濃度測定装置。
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