[1.抽出液の製造装置]
図2のブロック図を参照しつつ本実施形態の製造装置の構成を説明する。図2には抽出液の製造装置30が示されている。製造装置30は閉環系10を備える。閉環系10は気体として振る舞う流体を保持可能な構造を有する。閉環系10は供給装置11を初めとする各装置が経路21、22、24及び25で連結されることで形成される。
本明細書において、「流体」とは特に気体として振る舞う流体である。流体は気相を主たる構成要素としている。流体には、液相がいくらか混入している。液相は例えばミスト状になって気相の振る舞いを強く害することはない。言い換えれば液相と気相とは共存している。液相と気相とは同一の抽出剤からなることが好ましい。抽出剤については後述する。
製造装置30は閉環系10に設けられた被動機15を備える。被動機15は図中の矢印の方向に流体を閉環系10内で循環させる。被動機15は閉環系10の一部を成している。
本明細書において「被動機」は機械エネルギーを流体エネルギーに変換する機械である。「被動機」の例は送風機である。送風機の例はファン及びブロワである。ファンは送風機のうち圧力比1.1以下のものを指す。ブロワは送風機のうち圧力比1.1-2程度のものを指す。「被動機」の他の例はポンプである。
図2に示す製造装置30は供給装置11及び経路21を備える。経路21は供給装置11に接続する。供給装置11は経路21に流体を送り出す。供給装置11は閉環系10の一部を成している。
図2に示す供給装置11は閉環系10内に抽出剤の蒸気を供給する。供給装置11内で蒸気は流体に混ぜ合わされる。循環する流体はかかる蒸気と蒸気に由来するドレンを含むものとなる。蒸気は気体である。本明細書でいう「蒸気」は抽出剤の気相であり、いわゆるミストやドレンなどの液相のものではない。
図2に示す供給装置11は抽出剤の液相を積極的に供給するものではない。しかしながら蒸気を供給するという供給装置11の特性上、不可避的に供給される液相が蒸気に交じっていることは本発明の範囲から除外されない。
本明細書において「ドレン」とは気体である蒸気が液体に相変化した姿である。ドレンは、もともと液相であった抽出剤が気相から再凝縮して液相に戻った姿である。閉環系内においてドレンは再び蒸発して液相に戻る場合がある。ドレンには抽出剤の分子がクラスター化しているものが含まれる。ドレンは閉環系内の流体中において気体のように振る舞っていてもよい。ドレンは閉環系内の流体中において粒子の集合であるミストとして振る舞っていてもよい。
本明細書において「抽出剤」は標準状態で気液平衡となる物質である。本明細書において「気液平衡」とは、液体から気体になる蒸発、気化反応と、気体から液体になる凝縮、液化反応の速度が等しくなり、結果、液体と気体の量が変化しなくなっているように見える状態のことである。
上記を言い換えれば抽出剤の飽和蒸気圧は温度25℃で標準気圧(101.325kPa)未満である。また抽出剤は温度25℃、標準気圧未満の環境下で凝固しない。抽出剤の標準沸点(Normal Boiling Point)とは標準気圧における沸点である。
抽出剤の例は水、エタノール、メタノール、1,3-ブチレングリコール(BG)、1-ブタノール、ヘキサン及び酢酸エチルである。好ましい抽出剤は水である。抽出剤はこれらの単体でもよく混合物でもよい。抽出剤は原料から成分を取り出すための媒体となる。抽出剤に添加剤を加えてもよい。添加剤は原料から取り出された成分に対して作用するものでも、成分を保護するものでもよい。
特に言及の無い限り本明細書において「成分」には原料に含有されている物質及び原料から取り出された物質が含まれる。抽出液を製造する過程においてこれら物質の化学構造が変化して生じた新たな物質は成分に含まれる。抽出液を製造した後において原料から取り出された物質の化学構造が抽出液中で自発的に変化して生じた新たな物質は成分に含まれる。本明細書において「抽出液」とはいわゆる(有効)成分を含有するにいたった産物である。例えば特有の(有効)成分を含んでいない蒸留水や精製水などは本明細書における抽出液ではない。これらはむしろ抽出剤や抽出溶媒として利用し得るものの例である。
成分の中には有効成分も含まれる場合がある。本明細書において「有効成分」とは生理活性を有する物質をいう。成分の中には生理活性が微弱である、又は生理活性が確認できない物質が含まれていてもよい。例えば香りは発するが、特定の生理活性を有するか不明な物質は成分の一種である。成分とはこれらの物質の集合を言う場合がある。
抽出液を製造した後には原料中に成分が残っていなくてもよいし、残っていてもよい。抽出液を製造した後に、成分は抽出液に含有されることが好ましい。成分は親水性でも親油性でもよい。成分は抽出液中において溶けていてもよく、分散していてもよい。
図2に示す供給装置11の供給する抽出剤の蒸気の温度は所定の抽出温度であることが好ましい。抽出温度とは原料容器12に配置される原料50aから成分を抽出するために設定される温度である。抽出温度は抽出剤の標準沸点以下であることが好ましい。抽出温度は抽出剤の標準沸点以上でもよい。抽出剤が水である場合、抽出温度は10℃以上140℃以下であることが好ましい。抽出温度は20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130℃のいずれかとしてもよい。
図2に示す供給装置11は抽出温度以下の温度の蒸気を供給してもよい。係る蒸気を閉環系10内で加熱することで、その温度を抽出温度としてもよい。供給装置11は抽出温度以上の温度の蒸気を供給してもよい。係る蒸気を閉環系10内で冷却することで、その温度を抽出温度としてもよい。
図2に示す製造装置30は原料容器12及び経路22を備える。原料容器12は閉環系内に設けられる。経路21及び22は原料容器12に接続する。流体は供給装置11から経路21を経由して原料容器12に流れる。流体は原料容器12中を通り抜ける。原料容器12は経路22に流体を送り出す。原料容器12は閉環系10の一部を成している。閉環系10には原料容器12を迂回する他の経路が設けられていないことが好ましい。
図2に示す製造装置30は分配装置13並びに及び経路23及び24を備える。経路23及び24は分配装置13に接続する。流体は原料容器12から経路22を経由して分配装置13に流れる。分配装置13は閉環系10の一部を成している。
図2に示す分配装置13は流体をその密度を基準にして選り分ける。本明細書においてドレンの「密度」とは「ドレン」を構成する液相の粒子の大きさに依拠する。抽出剤のみからなるドレンであれば各ドレン粒子の間に液体としての密度に差はない。一方で選り分けられる前の流体において密度の大きいドレンも小さいドレンも流体中に偏りなく散らばっていると考えられる。
本明細書において「密度」とはあたかも気体として振る舞うドレンの粒子の有するいわゆる気体としての密度を表す。ドレンは粒度分布を有する。相対的に粒度の大きいドレンは密度も大きく、相対的に粒度の小さいドレンは密度も小さいと考えてもよい。
図2に示すように分配装置13は流体をドレン19a(大きなサークル)とドレン19b(小さなサークル)及び蒸気(ドット)とに選り分ける。ドレン19aは相対的に密度の大きいドレン又はその集合である。ドレン19bは相対的に密度の小さいドレン又はその集合である。分配装置13内で選り分けられたドレン19bは蒸気と混じり合っている。なお図は、分配装置13の機能を模式的に表したものであり、物理化学的に正確な状態を表すとは限らない。
分配装置13の一例はサイクロンセパレーターである。分配装置13の他の例はスペーサーカラム(spacer column)、衝突分配装置、バッフルプレート(baffle plates)、充填層コレクター(packed bed collector)、ワイヤーメッシュコレクター(wire mesh collector)である。スペーサーカラムとは、蒸気-液体混合物が垂直に上方に流れる、長い垂直のチューブ又はパイプをいう。
図2に示す分配装置13は流体からドレン19aを分離する。分配装置13は経路23にドレン19aを送り出す。これにより分配装置13はドレン19aを抽出液20として収集する。
図2に示す製造装置30は収集容器14を備える。経路23は収集容器14に接続する。ドレン19aすなわち抽出液は分配装置13から経路23を経由して収集容器14に流れる。収集容器14は収集された抽出液20を貯蔵する。収集容器14は分配装置13に対して着脱自在に取り付けることのできる容器でもよい。
図2に示す分配装置13により流体からドレン19aが分離されることで残部が得られる。残部にはドレン19b及び蒸気が含まれる。残部は閉環系10に戻される。分配装置13は残部を流体として経路24に送り出す。
図2に示す製造装置30は経路25を備える。経路24及び25は被動機15に接続する。流体は分配装置13から経路24を経由して被動機15に流れる。経路25は供給装置11に接続する。被動機15は流体に勢いをつけつつ経路25に流体を送り出す。流体は被動機15から経路25を経由して供給装置11に送られる。以上により閉環系10内を流体が循環する。
図2に示す被動機15は供給装置11から蒸気が供給される箇所の下流であるとともに原料容器12の設けられた箇所の上流である箇所に、設けられていることが好ましい。
図2に示す製造装置30は排出装置18を備える。排出装置18は閉環系10に接続する。例えば排出装置18は経路21に接続する。排出装置18は他の経路に接続してもよい。後述する実施例において排出装置18は供給装置11に接続する。排出装置18は閉環系10内から蒸気以外の気体を排出するために設けられている。排出装置18は閉環系10内から少なくとも蒸気以外の気体を排出する。
一例において蒸気以外の気体とは空気である。一例において空気とは、閉環系に対して蒸気を供給する前から閉環系に存在していた空気、又は閉環系の外側から閉環系内に進入した空気である。
図2に示す製造装置30は制御装置40を備える。制御装置40は例えばコンピューターからなる。好ましくは、制御装置40は排出装置18と有線又は無線で接続されている。好ましくは、制御装置40は排出装置18に信号を送ることで排出装置18を制御する。
図2に示す制御装置40は閉環系10内の圧力を監視する。制御装置40は抽出温度における抽出剤の平衡蒸気圧を取得する、又はあらかじめ記憶している。本明細書において「平衡蒸気圧」とは一定の温度において液相と平衡にある蒸気相の圧力である。制御装置40は閉環系10内の圧力が少なくとも抽出温度における抽出剤の平衡蒸気圧以下となるまで排出装置18に対して気体の排出を行わせる。
図2に示す制御装置40は、閉環系10内の圧力が抽出剤の飽和蒸気圧と等しくなった場合に排出装置18による気体の排出を弱める又は止めることが好ましい。「飽和蒸気圧」とはある温度において、抽出剤の蒸気がその抽出剤の純粋な液相と平衡な状態にある時の蒸気圧である。「飽和蒸気」とはその圧力における沸点に等しい温度の蒸気である。流体は抽出温度における抽出剤の飽和蒸気を含有することが好ましい。
図2に示す制御装置40は閉環系10内の圧力と温度を制御する。製造装置30は30℃程度の低温でも水蒸気による成分の抽出が可能である。製造装置30は減圧環境に置かれた原料の内部に対して低温蒸気を行き渡らせる。製造装置30では熱による成分の変質や原料の組織の破壊が起きにくい。したがって、目的とする成分を熱変性させることなく抽出可能であり、さらに、植物組織の破壊によって溶出する不必要な成分も最小限におさえることができる。さらに、連続的に抽出が出来る。連続的に抽出する際は、閉環系10内を環流する流体の温度を段階的に昇温させることが出来る。したがって抽出液内には独特の組成を有する抽出物が含まれている可能性が高い。
図2に示す製造装置30の作動中において閉環系10は気密保持される。ここで気密保持とは特に閉環系10外から気体が、一例として空気が閉環系10内に進入しないことを特にいう。製造装置30に排出装置18や分配装置13が設けられていることから分かるように、気密保持は閉環系10において必ずしも完全な気密が保たれていることを意味しない。また、低温で抽出を行う場合は、閉環系10内の圧力は高くないため、閉環系10の気密を保つための大掛かりな装置は不要である。
[2.抽出液の製造方法]
図2を参照しつつ、さらに本実施形態の製造装置を用いた本実施形態の抽出の方法を説明する。本実施形態の抽出の方法により抽出液中に有効成分が抽出される。以下、抽出液のうち特に原料から受け取った芳香成分を有するものを芳香抽出液という場合がある。まず原料容器12内に原料50aを設置する。係る状態で抽出剤の蒸気以外の気体が充満した閉環系10を気密化する。
本明細書において「原料」には動物、植物、及び菌類を含むあらゆる生物に由来する原料が含まれる。生物には天然のもの又は人工的に成育されたものが含まれる。原料は生体であってもよく、生体でなくてもよい。原料は生物のボディの一部でもよい。成分は原料である生物の細胞内に含まれていてもよく、細胞内に含まれていなくてもよい。原料は生物の分泌物でもよい。原料には予め下処理をしてもよく、していなくてもよい。原料は予め破砕してもよく、破砕していなくてもよい。
原料は植物のボディが好ましい。植物のボディは生でもよく、乾燥していてもよく、発酵していてもよい。植物のボディは予め洗浄してもよい。植物の葉、茎、根、花、種子、樹皮、及びその他の器官はいずれも原料として利用できる植物のボディである。植物は食用のものでも、非食用のものでもよい。植物はハーブもよい。植物は香料生産に適したものでもよい。植物は生薬でもよい。
次に図2に示す供給装置11によって蒸気を閉環系10内に供給する。蒸気を供給する間に閉環系10内から少なくとも蒸気以外の気体を排出する。排出は排出装置18によって行ってもよい。蒸気を供給するとともに気体を排出する間に被動機15によって閉環系10内で流体を循環させる。これにより閉環系10内の気体を蒸気で置換する。
さらに図2に示す制御装置40及び排出装置18によって気体の排出を持続的に行わせる。排出される気体としては例えば、閉環系10と大気環境との境界を通り抜けて閉環系内に新たに進入した空気などが当てはまる。持続的な気体の排出により、閉環系10内が蒸気で充満した状態を維持する。
図2に示す原料50aは充満した蒸気に対して連続的に暴露される。気相又は液相の抽出剤が原料50aに接触する。抽出温度を有する流体を原料50aに接触させる。これにより原料50a中の成分を取り出す。成分を原料50aから取り出す際に、成分は抽出剤に溶かし込まれる。
抽出剤が気相であるか液相であるかは限定されない。また抽出剤の温度によって気相に取り込まれる成分の割合及び液相に取り込まれる成分の割合が異なっていてもよい。かかる抽出剤は成分とともに分配装置にて抽出される。
図2に示す分配装置13により、流体を密度で選り分ける。流体から密度の大きいドレン19aを分離することにより抽出液20を収集する。さらに密度の小さいドレン19b及び蒸気を含む残部を閉環系10に戻す。これにより残部を再び閉環系10内で循環させる。
図2に示す製造装置30を用いる場合、抽出剤として水を用いてもよい。水を用いた場合、原料が曝露される蒸気は水蒸気である。得られる抽出液20は芳香抽出液である。
[3.作用及び効果]
図2を参照しつつ、本実施形態の製造装置及び製造方法のもたらす作用及び効果を以下に述べる。係る記載は本発明の範囲を限定するものではない。
図2に示す製造装置30では、閉環系10内に蒸気が充満している環境下で原料50aから成分を抽出する。このため、抽出された成分が空気によって変質することを抑制できる。
図2に示す製造装置30では、密度の重いドレンから選り分けられた残部を再び閉環系10内で循環させる。このため製造装置30の作動中において、供給装置11が抽出液20として閉環系10内から取り出された抽出剤に相当する分量の蒸気を補充するだけでよい。
製造装置30では、密度の大きいドレンを選択的に集めて液体を得る。好適な条件下において密度の大きいドレンには豊かな成分が溶け込んでいる。したがって成分の豊かな抽出液20が得られる。残部として閉環系10内に戻された蒸気は再び原料50aからの成分の抽出に用いられる。
[4.変形例]
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
例えば図2に示す製造装置30は、閉環系10内に設けられた供給装置11の代わりに供給装置17を有していてもよい。供給装置17は閉環系10の環を構成していない。供給装置17は閉環系10の外部に位置する。供給装置17は例えば管路を通じて経路21の中央に接続する。供給装置17は経路21に蒸気を送り込む。供給装置17と閉環系10とが接続する部分で蒸気は流体に混ぜ合わされる。この蒸気は水蒸気でもよく、水以外の他の抽出剤の蒸気でもよい。
図2において、抽出液20の製造の際は所定時間経過ごとに段階的に抽出温度を高めてもよい。また抽出温度ごとに抽出液20を個別に収集してもよい。例えば経路23に活栓を設けておくとともに、収集容器14を経路23に対して着脱自在にしておいてもよい。所定時間経過ごとに活栓を閉じるとともに製造装置30から収集容器14を取り外すことで各抽出温度における抽出液20を回収できる。すなわち好ましい抽出温度ごとに、あるいは抽出の経過時間帯ごとに区分して容器を着脱/交換してもよい。これにより好ましい抽出温度ごとの、あるいは抽出の経過時間帯ごとの画分を異なる容器に分取することが可能となる。
排出装置18の作動前において、閉環系10内は通常空気で満たされている。変形例において、閉環系10内を予め不活性ガスで満たしてもよい。不活性ガスは窒素でも良い。不活性ガスを用いることは抽出対象の有効成分やその他の成分、あるいはこれらを含む抽出液20の酸化を防止することに役立つ。
[5.製造装置の設計]
図3の模式図を参照しつつ製造装置30の一例を説明する。図面についての留意点は以下の通りである。図2に示した収集容器14及び経路23は図3に表された製造装置30中では省略されている。図2に示した経路21は供給装置11の内部空間(蒸気溜り47)と原料容器12の内部空間との間の境目にある連通部分として図3中では描かれている。
図3に示す供給装置11は、閉環系の一部を成すポット43を備える。原料容器12はポット43内に配置される。ポット43の上部に開口と蓋とを設ける。開口を通じて原料容器12内に原料を送る。開口を通じてポット43内に抽出剤45を入れる。蓋で開口を閉じる。開口を通じて後述する受け皿51に溜まった液体を取り出す。
図3に示すポット43内の空間の底部は液相の抽出剤45を貯留するための貯留部46として利用される。ポット43の底面には排液口48を設ける。原料50a~cからの成分の抽出が終わった後は、余った抽出剤45を排液口48より排出する。
図3に示すポット43内の空間の上部は蒸気溜り47として利用される。蒸気溜り47は原料容器12を取り囲む。蒸気溜り47によって原料容器12は外界、すなわちポット43の外から離されている。原料容器12内の流体はポット43外の熱又は冷気の影響を受けにくい。原料からの成分の取り出しは安定した抽出温度下で行うことが出来る。
図3において端部28Aを端部29Aに、端部28Bを端部29Bにそれぞれ接続することで閉環系が形成される。これらの端部については後述する。蒸気溜り47は閉環系の一部を成している。蒸気となった抽出剤は蒸気溜り47から順に、経路21、原料容器12、経路22、分配装置13、経路24、被動機15及び経路25の順で閉環系を巡り、蒸気溜り47に戻る。
図3に示す供給装置11はヒーター44aを備える。ヒーター44aは貯留部46内に位置する。ヒーター44aはネットワーク41を通じて制御装置40と接続する。液相の抽出剤45はヒーター44aで加熱されることで蒸気となる。蒸気となった抽出剤は蒸気溜り47に向かって放出される。
供給装置11はさらに冷却器44bを備える。冷却器44bは貯留部46内に位置する。ヒーター44a及び冷却器44bはネットワーク41を通じて制御装置40と接続する。
図3に示す製造装置30は連成計34、圧力センサ35及び温度センサ36を備える。これらの機器は管路を通じて蒸気溜り47と接続している。連成計34は蒸気溜り47中の気圧を表示する。蒸気溜り47中の気圧は製造装置30の動作中において一気圧以下であることが好ましい。
圧力センサ35は蒸気溜り47中の流体の圧力を検知する。圧力センサ35はネットワーク41を通じて流体の圧力の情報を制御装置40に送る。温度センサ36は蒸気溜り47中の流体の温度を検知する。温度センサ36はネットワーク41を通じて流体の温度の情報を制御装置40に送る。
図3に示すネットワーク41は有線でも無線でもよい。制御装置40と各機器との間の接続路はネットワーク41として模式的に描かれている。係る接続路の一部又は全部は各々互いに独立していてもよい。
図3に示す排出装置18は気液分離器38と真空ポンプ39とを備える。真空ポンプ39は蒸気と蒸気以外の気体とを区別することなく閉環系から流体を吸引する。気液分離器38は真空ポンプ39及び閉環系との間に設けられる。本実施例において気液分離器38は蒸気溜り47に接続する。
図3に示す真空ポンプ39が動作中は気液分離器38が作動することでドレンやミストを回収する。これにより真空ポンプ39にドレンやミストが進入することを防ぐ。このため排出装置18は長時間安定して閉環系内の気体を排出することで閉環系内の減圧状態を維持することが容易になる。
図3に示す制御装置40は閉環系内の流体の圧力を監視する。本実施例では制御装置40は蒸気溜り47に接続する圧力センサ35及びネットワーク41を通じて圧力を監視する。制御装置40は蒸気溜り47内の圧力が少なくとも抽出温度における抽出剤の平衡蒸気圧以下となるまで真空ポンプ39に対して気体の排出を行わせる。
図3に示す制御装置40は閉環系内の流体の温度を監視する。本実施例では制御装置40は蒸気溜り47に接続する温度センサ36及びネットワーク41を通じて温度を監視する。
図3において、流体の温度が所定の抽出温度よりも低ければ制御装置40はヒーター44aを作動させる。ヒーター44aで液相の抽出剤45を加熱する。加熱された抽出剤45は高温の蒸気となって蒸気溜り47内の流体に混ざり込む。このため流体の温度が上昇する。制御装置40は閉環系内の流体の温度が上昇することで少なくとも所定の抽出温度に達するまでヒーター44aに加熱を行わせる。この間、制御装置40は冷却器44bの動作を停止させる。
図3に示す制御装置40は貯留部46内の液相の抽出剤45の温度を監視してもよい。制御装置40は、ヒーター44aに加熱を行わせる際の制御を、液相の抽出剤45の温度の監視の結果を加味して行ってもよい。
図3において流体の温度が所定の抽出温度よりも低ければ制御装置40は冷却器44bを作動させる。冷却器44bで液相の抽出剤45を冷却する。冷却された抽出剤45はなお蒸発を続けるが、抽出剤45は低温の蒸気となって蒸気溜り47内の流体に混ざり込む。このため流体の温度が低下する。制御装置40は閉環系内の流体の温度が低下することで少なくとも所定の抽出温度に達するまで冷却器44bに冷却を行わせる。この間、制御装置40はヒーター44aの動作を停止させる。
図3に示す制御装置40は貯留部46内の液相の抽出剤45の温度を監視してもよい。制御装置40は、冷却器44bに冷却を行わせる際の制御を、液相の抽出剤45の温度の監視の結果を加味して行ってもよい。
図3に示すヒーター44a及び冷却器44bは一体型の温度調整機でもよい。供給装置11中では他のヒーターがさらに蒸気溜り47中の気相の抽出剤を加熱してもよい。供給装置11中では他の冷却器がさらに蒸気溜り47中の気相の抽出剤を冷却してもよい。
図3に示すように経路21は原料容器12の上部に設けられている。経路21を通じて蒸気を含有する流体は原料容器12に進入する。循環する流体の全量が原料容器12を通り抜ける。原料容器には原料50a~cが詰められている。原料容器12の底には受け皿51が設けられている。原料から滲み出した液状の成分のうち循環する流体に混ざらない成分は受け皿51に自然落下する。受け皿51は自然落下した成分を収集する。
図3に示すように経路22は原料容器12の下部に接続する。経路21の接続箇所よりも経路22の接続箇所の方が受け皿51に近い。経路22は蒸気溜り47を通過し、ポット43の外に出る。経路22には活栓26Aが設けられている。活栓26Aはポット43の外にある。原料容器12に接続していない側の経路22の端部を端部28Aとする。
図3に示すように経路25は蒸気溜り47に接続する。経路25には活栓26Bが設けられている。活栓26Bはポット43の外にある。原料容器12に接続していない側の経路22の端部を端部28Aとする。
図3に示す抽出ユニット27は分配装置13、経路24及び被動機15を備える。抽出ユニット27は端部29A及び29Bを備える。端部29Aは分配装置13側に位置する。端部29Bは被動機15側に位置する。
図3に示す端部29Aは端部28Aに対して着脱自在である。製造装置30を作動させる際は端部29Aを端部28Aに取り付ける。この際、予め閉じておいた活栓26Aを開くことで原料容器12内から流体を抽出ユニット27内に導くことが出来る。必要に応じて端部29Aを端部28Aから取り外す。この際、活栓26Aを予め閉じておくことで原料容器12内の流体が端部28Aから漏れることを防げる。
端部29Bは端部28Bに対して着脱自在である。製造装置30を作動させる際は端部29Bを端部28Bに結合させる。この際、予め閉じておいた活栓26Bを開くことで抽出ユニット27内から蒸気溜り47に流体を導くことが出来る。必要に応じて端部29Bを端部28Bから取り外す。この際、活栓26Bを予め閉じておくことで蒸気溜り47内の流体が端部28Bから漏れることを防げる。
図3に示す分配装置13はサイクロンセパレーター31を有する。サイクロンセパレーター31は流体を密度で選り分ける。サイクロンセパレーター31は流体から密度の大きいドレンを分離する。サイクロンセパレーター31は密度の小さいドレン19b及び蒸気を含む残部を閉環系10に戻す。
図3に示す製造装置30の備える閉環系を流れる流体には揮発成分が含まれている。係る揮発成分は原料50a~cに由来する。分配装置13はさらに凝縮装置32を有する。凝縮装置32は、流体から密度の大きいドレンが分離されて生ずる残部を冷却することで流体中の揮発成分を凝縮により収集する。
[6.実験例]
図5には本実験例で用いた製造装置63が示されている。製造装置70は上述した製造装置30(図2)の特徴を有する。製造装置70は分配装置13に代えて分配装置63を備える。分配装置63はサイクロンセパレーター31、凝縮装置32及びバブリング装置33を備える。これらは上流から下流に向かってこの順に並ぶことで。製造装置70の閉環系の一部となっている。本実施例の態様は例示であり、分配装置63中の各要素の順番は変更してもよい。図中では抽出剤45を温めるためのヒーターなどは描写が省略されている。
図5に示すように抽出剤45として貯留部46に精製水を注いだ。また原料として、いわゆるユーカリとして知られるタスマニアン・ブルーガム(Eucalyptus globulus)の葉を用いた。抽出温度は45℃から55℃まで5℃ずつ段階的に変化させた。
図5に示すように、流体をサイクロンセパレーター31、凝縮装置32、バブリング装置33に対してこの順で環流させた。凝縮装置32はいわゆる冷却装置である。本実験例では凝縮装置32は4℃で動作する、バブリング装置33には予め精製水を貯えている。流体は被動機15により供給装置11に向かって吹き出される。流体の一部は原料容器12内を通過する。流体は原料より成分を取り込んだ後、再び分配装置13に向かう。流体の一部は貯留部46内に液体として戻る。
実際の操作としては、まず原料としてユーカリの葉10~30gを原料容器12内に配置する。本実験例では10gの原料を配置した。45℃から55℃までの各温度別に芳香抽出液を得た。この際、45℃→50℃→55℃と段階的に温度を上昇させた。各温度でそれぞれ30分~1時間抽出操作を行うことで時間帯ごとに個別の収集容器に抽出液を集める。本実験例では各温度帯において30分の抽出時間を使用した。抽出自体は休むことなく連続的に行った。ここで閉環系内は30分経過するたびに一気に5℃上昇し、次の30分間は規定の温度を保ち続ける。
図5においてサイクロンセパレーター31で得られた抽出液内には抽出物1が含まれている。凝縮装置32で得られた抽出液内には抽出物2が含まれている。バブリング装置33で得られた抽出液内には抽出物3が含まれている。
抽出物3を微量香気成分分析装置にて分析した。ツイスター(twister)と呼ばれる金属片に対して、抽出物3中の香り成分を30分間吸着させた。このように香り成分をトラップしたツイスターを標本としてガスクロマトグラフィー(GC)分析を行った。分析の目的は、温度を変えながら連続抽出することによって、各温度帯で得られた抽出物3の成分比が互いに異なるかどうかを確かめることである。
ユーカリの葉には1,8-シネオール(70~90%)、リモネン(~10%)及びα-ピネン(10~20%)といった主要香り成分が含まれている。1,8-シネオールやリモネンは爽やかな良い香りを発する。αーピネンはマツの香りに近い独特の香りを発する。
図6は45℃の温度帯の、図7は50℃の温度帯の、図8は55℃の温度帯の、GC分析の結果をそれぞれ表す。C1はユーカリの葉の主要香り成分を表す。C1は芳香性の高い部分である。C2は主要香り成分以外の成分を表す。抽出温度が5℃ずつ上がるにつれて徐々に抽出物3中の成分の構成比が変化した。習熟したテスターが香りを確認したところ各抽出部3は異なった香りを発していることが分かった。温度が上がるにつれて、C1は減少するとともに、C2が増加する。
以上の実験結果は、本実験例で用いた製造装置が、香りの特徴の異なった抽出物を連続的に簡単に得るのに適することを示している。
[7.比較例1]
図4に示す抽出装置80は非循環型の減圧水蒸気蒸留装置である。抽出装置80では抽出容器81中の原料50d、例えばコーヒー豆に対して、製造用スチーム供給系85より新鮮な蒸気が連続的に供給される。原料50d中のエキスは無酸素又は低酸素濃度下で蒸気により抽出される。蒸気の大部分が凝縮器82で凝縮されることで留分88が貯留槽83内に大量に得られる。貯留槽83は真空ポンプ84により減圧される。
特許文献2には非循環型のエキス抽出装置が開示されている(特許文献2の要約)。このような非循環型の装置で蒸気を大量に用いた場合、留分中の原料由来成分の濃度は低下する可能性がある。蒸気の量を限定した場合、原料から抽出される成分の量は減少する可能性がある。
これに対して上記実施例及び実験例では特段の操作をしない限り蒸気を凝縮させない。蒸気は再度系内を循環するので、蒸気又はドレンが再び原料と接触することで、さらに流体中の成分の濃度が高められる。上記実施例では循環と抽出と分離を長い時間かけて行うことで成分の豊かな抽出液が得られる。
[8.比較例2]
特許文献3の段落[0045]-[0047]は茶の香気成分を含んだ蒸気から液体混入物を分離するために、サイクロンセパレーターを含む液体混入物分離機を用いることが示されている。これにより蒸気中の液体混入物を低減することが出来る(段落[0035])。
これに対して上記実施例及び実験例ではサイクロンセパレーターを用いて、あえて液相を回収することで抽出液を得る。また一回の循環で成分が抽出液に取り込まれなかったとしても、成分は再度系内を循環するため特段の操作をしない限り系外に排出されることが無い。上記実施例では循環と抽出と分離を長い時間かけて行うことで成分の豊かな抽出液が得られる。
[9.比較例3]
図9には比較例としてソックスレー抽出器が示されている。ソックスレー抽出器は原料から成分を固液抽出するための装置である。ソックスレー抽出器の最下部のフラスコを加熱すると溶媒は蒸発する(I)。蒸発した溶媒は最上部の冷却管で凝結するとともに固体試料に向かって滴り落ちる(II)。増えていく溶媒中に成分が溶かしこまれる(III)。やがて溶媒が側管の高さに達する(IV)。サイフォンの原理により溶媒はフラスコに戻る(V)。このサイクルを繰り返すことで溶媒内の成分の濃度が高まる。
図9に示すようにソックスレー抽出器では溶媒が大量に凝結してその流れによりサイフォンが稼働する。このため大量の溶媒を十分な熱量をもって加熱する必要がある。結果として原料や成分や溶媒の熱変性が起こりやすい。またソックスレー抽出器内では溶媒の蒸気によって圧力も高まるため原料の組織自体が破壊される。このため抽出液内の夾雑成分が増える。
これに対して上記実施例では凝結した液体の流れは必須ではない。上記実施例では気体として振る舞う流体が抽出の役割を果たす。流体が循環する上でも、原料からの成分抽出においても抽出剤の凝結は必須ではない。抽出液はサイクロンセパレーター、凝縮装置、バブリング装置といったデバイスによって流体から収集される。上記実施例では熱変性を起こすほどの抽出剤の加熱を回避できる。また組織破壊を起こすほどの高圧の蒸気を用いることも回避できる。上記実施例の装置は、低温の抽出剤蒸気を用いないと得られない独自の組成の抽出液を得るのに適する。
[10.製造装置の他の使い方]
図10を用いて製造装置の他の使い方を説明する。図3に記載の製造装置30の抽出ユニット27を図10に記載の注入ユニット57に交換することで製造装置60を得られる。注入ユニット57もまた端部28A及び端部28Bに対して着脱自在である。このように注入ユニット57に切り替え接続することで、製造装置30は容易に製造装置60に転換できる。あるいは端部28A及び端部28Bに三方活栓を設けることで、抽出ユニットと注入ユニットとを切り替えられるようにしてもよい。
図10に示す注入ユニット57は注入器53、経路54及び被動機55を備える。抽出ユニット27は端部59A及び59Bを備える。端部59Aは注入器53側に位置する。端部59Bは被動機55側に位置する。被動機55は注入器53に向かって流体を押し出す。
図10に示す閉環系における流体の循環は上述の実施例とは逆になる。すなわち注入器から供給される注入剤は注入器53から順に、経路22、原料容器12、経路21、蒸気溜り47、経路25、被動機55、及び経路54の順で閉環系を巡り、注入器53に戻る。
図3に示す端部59Aは端部28Aに対して着脱自在である。製造装置30を作動させる際は端部59Aを端部28Aに取り付ける。この際、予め閉じておいた活栓26Aを開くことで注入ユニットから注入剤を原料容器12内に導くことが出来る。必要に応じて端部59Aを端部28Aから取り外す。この際、活栓26Aを予め閉じておくことで原料容器12内の流体が端部28Aから漏れることを防げる。
端部59Bは端部28Bに対して着脱自在である。製造装置30を作動させる際は端部59Bを端部28Bに結合させる。この際、予め閉じておいた活栓26Bを開くことで蒸気溜り47内から注入ユニット内に流体を導くことが出来る。必要に応じて端部59Bを端部28Bから取り外す。この際、活栓26Bを予め閉じておくことで蒸気溜り47内の流体が端部28Bから漏れることを防げる。
図10に示す製造装置60は、次のように使用することが出来る。製造装置60内に入れた原料50a~50cに対して、製造装置60内で処理を行いながら注入器53から供給装置11に対して徐々に抽出剤を注入する事が可能となる。この使用態様は植物などの抽出対象物が原料50a~50cとして選ばれた場合に有効である。この使用態様により予め貯留部46内に入れた抽出剤45以外の抽出剤を供給装置11内に注入可能である。
図10において、注入器53に用いる抽出剤は原料50a~50cから抽出したい成分の特性に合わせて選択してもよい。また製造装置60では抽出温度・時間も自由に設定することができる。このため、非常に特異な抽出物が得られる。また、注入器53より注入した抽出剤は必要に応じて直ぐに回収することも可能である。また注入器53より抽出剤を注入しながら、原料50a~50cから連続的に成分を抽出してもよい。