JP7062315B2 - 遺伝子発現を制御するための核酸 - Google Patents
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Description
また、生物を宿主とした組換えDNA手法を活用した物質生産プロセスにおいては、複数の遺伝子を使用する場合がある。例えば、様々な基質の酸化反応を触媒するシトクロームP450酵素は、単独では酵素反応を発揮せず、外部からの電子供与体(NADPH)とレダクターゼのような電子伝達成分を介した電子伝達を必要とする。また、このような多成分複合酵素は、触媒反応それ自体よりも電子伝達の過程、つまり電子伝達成分酵素の不足が律速となることが多い(非特許文献1および2)。
したがって、電子伝達成分酵素のみを発現増加させることができれば、効率良い物質生産が可能となるが、既存の遺伝子発現系については、目的遺伝子の発現の有無(オン・オフ)の制御系の開発が中心である。そこで、遺伝子発現量を細かく調節するための制御系の開発が期待されている。
さらに、前述の病原菌で見いだされた、下流の遺伝子の発現量を調整する反復配列は、一般的にはその反復配列が発見された生物においてのみ機能が検証されている。ここで、特定の生物種にとどまらず、様々な生物において遺伝子産物の生産量調節機能を保有する反復配列を発見できれば、本手法を様々な生物種を用いた物質生産プロセスに応用可能であると考えた。
上記着想に基づき鋭意検討の結果、本発明者らは環境中DNAから遺伝子の発現量を制御可能な新規の反復配列を見出した。
すなわち、本発明は以下を含む:
本発明は、一態様において、
〔1〕 遺伝子の発現量を調節するための核酸であって、下記(i)または(ii)に記載の塩基配列からなる核酸に関する:
(i)5’-[T(G/A)ACATG(A/C)T]n-3’
(上記塩基配列において、nは1~20の整数である。)、または、
(ii)上記(i)に示される塩基配列において1または数個の塩基が置換、付加、または、欠失した塩基配列からなり、かつ、前記塩基配列の下流に位置する遺伝子の発現量を調節することのできる塩基配列。
また、本発明の遺伝子の発現量を調節するための核酸は、一実施の形態において、
〔2〕上記〔1〕に記載の核酸であって、
上記(i)5’-[T(G/A)ACATG(A/C)T]n-3’で示される塩基配列におけるnが、1~7の整数であることを特徴とする。
また、本発明は、別の態様において
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載の核酸を含むベクターに関する。
また、本発明のベクターは、一実施の形態において、
〔4〕上記〔3〕に記載のベクターであって、
前記ベクターは発現量を調整する目的遺伝子をさらに含み、前記核酸が前記遺伝子の発現量を調節可能なように上流に配置されていることを特徴とする。
また、本発明は、別の態様において、
〔5〕上記〔3〕または〔4〕に記載のベクターを含む宿主細胞に関する。
また、本発明の宿主細胞は、一実施の形態において、
〔6〕上記〔5〕に記載のベクターを含む宿主細胞であって、
前記目的遺伝子が宿主細胞に対する外来遺伝子であることを特徴とする。
また、本発明は、別の態様において、
〔7〕目的遺伝子を発現させる方法であって、
上記〔1〕または〔2〕に記載の核酸が上流に連結された前記目的遺伝子を発現させる工程を含む、発現方法に関する。
ここで、本発明の目的遺伝子を発現させる方法は一実施の形態において、
〔8〕上記〔7〕に記載の発現方法であって、
前記核酸が、前記目的遺伝子の発現量が所望の量となるように選択された反復数を有する塩基配列からなる核酸であることを特徴とする。
また、本発明の目的遺伝子の発現方法は、一実施の形態において、
〔9〕上記〔7〕または〔8〕に記載の目的遺伝子の発現方法であって、
前記目的遺伝子を発現させる工程が、上記〔4〕に記載のベクターに含まれる前記目的遺伝子を細胞系または無細胞系において発現させる工程であることを特徴とする。
また、本発明の目的遺伝子の発現方法は、一実施の形態において、
〔10〕上記〔7〕または〔8〕に記載の目的遺伝子を発現させる方法であって、
前記目的遺伝子が細胞内の内在遺伝子であり、
前記目的遺伝子を発現させる工程の前に、上記〔1〕または〔2〕に記載の核酸を前記細胞の染色体上に存在する前記目的遺伝子の上流に導入する工程をさらに含むことを特徴とする。
また、本発明は、別の態様において、
〔11〕宿主細胞を用いたタンパク質の産生方法であって、
前記宿主細胞において前記タンパク質をコードする遺伝子の発現を促し、前記タンパク質を産生させる工程であって、前記宿主細胞は前記タンパク質をコードする遺伝子の上流に上記〔1〕または〔2〕に記載の核酸を有する工程を含む、タンパク質の産生方法に関する。
また、本発明の宿主細胞を用いたタンパク質の産生方法は、一実施の形態において、
〔12〕上記〔11〕に記載のタンパク質の産生方法であって、
前記タンパク質を産生される工程において、前記宿主細胞が上記〔4〕に記載のベクターを含むものであることを特徴とする。
また、本発明のタンパク質の産生方法は、一実施の形態において、
〔13〕上記〔11〕または〔12〕に記載のタンパク質の産生方法であって、
前記核酸が、当該遺伝子の発現量が所望の量となるように、選択された反復数の塩基配列からなる核酸であることを特徴とする。
(i)5’-[T(G/A)ACATG(A/C)T]n-3’
(上記塩基配列において、nは1~20の整数である。)、または、
(ii)上記(i)に示される塩基配列において1または数個の塩基が置換、付加、または、欠失した塩基配列からなり、かつ、前記塩基配列の下流に位置する遺伝子の発現量を調節することのできる塩基配列。
本明細書において、遺伝子の発現量を調節するとは、遺伝子の発現量を亢進させること、および、遺伝子の発現量を抑制することを含む。好ましい一実施の形態において、遺伝子の発現量の調節は、目的の遺伝子の発現量を亢進させることである。また、遺伝子発現量の調節の結果、通常の条件では不溶化するタンパク質を可溶化させることも可能である。
目的遺伝子の発現量を亢進させる場合、一実施の形態において、配列番号1に示される塩基配列が4または5個連結した塩基配列(反復数3または4の塩基配列)が好ましい。4、5個程度の連結数となる反復配列が下流の遺伝子の発現を最も亢進し、それよりも短い反復配列および長い反復配列になるほど遺伝子発現の亢進の程度が弱くなることが予想される。当業者であれば、目的遺伝子の所望する遺伝子発現量に応じて、塩基配列の反復数を適宜選択することができる。
上記のような評価を行うことで、目的遺伝子の発現量が所望の量となるように本発明の核酸の反復数を設定することができる。
ここで、数個の塩基とは、例えば1個、2個、3個、4個、5個、または、6個の塩基を指す。一実施の形態においては、反復数(n)に応じて90%以上(好ましくは、95%、98%、99%以上)の塩基配列の同一性を保持する範囲内で、1または数個の塩基が置換、付加、または、欠失することができる。例えば、反復数が4(n=4)のとき、1個、2個、または、3個の範囲内で塩基が置換、付加、または、欠失してもよい。
一実施の形態において目的遺伝子は、目的遺伝子を発現させる宿主細胞に対して外来の遺伝子でもよく、宿主細胞に内在する遺伝子であってもよい。目的遺伝子はペプチド(ポリペプチド)、タンパク質、ノンコーディングRNA、機能性核酸などをコードする遺伝子であり、組換えペプチド、組換えタンパク質などの人工的に調製された遺伝子であってもよい。
ここで本発明の核酸は、目的の遺伝子を調節可能なように目的遺伝子の上流に連結される。より具体的には、以下に制限されないが、例えば目的遺伝子の上流約10~200bpsの範囲内に挿入することができる。目的遺伝子の発現を調節できる限りにおいて200bps以上の上流に配置されてもよい。好ましくは、目的遺伝子の上流約10~150bpsの範囲内である。また、本発明の核酸は、その上流または下流のいずれにプロモーターが存在していてもよい。目的遺伝子が内在遺伝子または外来遺伝子のいずれの場合においても、目的遺伝子の上流へ本発明の核酸を導入する方法は公知の方法に従い行うことができる。目的遺伝子が外来遺伝子である場合、例えば下記に記載するようなベクターを用いて外来遺伝子を宿主細胞に導入することができる。あるいは、既知の遺伝子工学手法により、宿主細胞の染色体上に挿入することもできる。また、目的遺伝子が対象の細胞が有する内在遺伝子である場合、例えば、ゲノム編集や相同組換え技術により当該細胞の染色体上へ本発明の核酸を導入することができる。本発明の核酸を目的遺伝子の上流である染色体上の領域へ導入するためのゲノム編集や相同組み換え技術に関する手法は特に限定されず、公知の手法に準じて行うことができる(例えば、Nature Reviews Genetics. 2001. 2:769-779参照)。相同組換えを利用する手法としては、例えばλRed法(Red/ET system, フナコシ社)を好適に用いることができる。
本明細書においてベクターは、本発明の核酸と目的遺伝子とをプロモーターとともに作動可能なように連結して保持することにより、当該目的遺伝子の発現を調節可能なものであれば特に制限されない。本発明に用いることのできるベクターは、宿主においてタンパク質を発現させる細胞系ベクター、およびタンパク質翻訳系を利用する無細胞系ベクターのいずれであってもよく、プラスミド、ウイルスベクター、ファージ、組込み型(integrative)ベクターおよび人工染色体のいずれであってもよい。組込み型ベクターは、全体が宿主細胞のゲノムに組み込まれるタイプのベクターであってもよく、その一部(本発明のポリヌクレオチドが発現するために必要な部分など)のみが宿主細胞のゲノムに組み込まれるタイプのベクターであってもよい。発現ベクターは、DNAベクターまたはRNAベクターであってもよい。以下に限定されないが、例えば、pUC118ベクター、pUC18ベクター、pET28aベクター、pCB192ベクターなど公知のベクターを挙げることができる。また、無細胞系ベクターとしては、T7またはT3プロモーターを有する発現ベクター、SP6プロモーターなどを有するpEU系プラスミド等の小麦無細胞タンパク質合成用ベクターなどを挙げることができる。
ベクターには、転写を進める要素(プロモーター、ターミネーター、エンハンサー、分泌シグナル配列、スプライシングシグナル、ポリアデニル化シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)など)、選択マーカーなどの、本発明のポリヌクレオチド以外のポリヌクレオチドが含まれていてもよい。転写に必要な要素は、宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であればよく、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。転写に必要な要素は、本発明のポリヌクレオチドに作動可能に連結されていればよい。
プロモーターとしては宿主の種類や無細胞系の条件に応じて公知のプロモーターを選択すればよい。以下に限定されないが、pETベクター(Novagen社)、pQEベクター(Qiagen社)などを挙げることができる。
また本発明の核酸を含むベクターは公知のベクターの作製方法により作製することができる。
本明細書において宿主細胞とは、本発明の核酸とその下流に位置する目的遺伝子とを含むベクターが導入された際に、当該核酸の下流に位置する目的遺伝子について調節された遺伝子量が発現する限りにおいて限定されない。本発明の核酸は、様々な生物に存在することを確認している。表1に、5’-[T(G/A)ACATG(A/C)T]-3’またはその反復配列が確認された生物種を示す。宿主細胞の具体例としては、以下に制限されないが、例えば、大腸菌、大腸菌以外の原核微生物、カビや担子菌などの真核微生物、植物や魚類やほ乳類などの高等生物などを挙げることができる。大腸菌のような汎用性の高い宿主にとどまらず、様々な生物種を宿主とした物質生産プロセスにおいて応用可能となることが期待される。なお、由来する生物種ごとに反復配列の最初の塩基が異なる場合があり(すなわち、配列番号1に示される塩基配列の5’末端側の塩基が1~数個欠失している場合がある)、また配列番号1に示される塩基配列の反復配列と比較して、配列中に1~数個の変異が存在する。本発明のベクターを含む宿主細胞は特に制限されず、公知の方法により作製することができる。以下に限定されないが、宿主を形質転換する方法としては、安定的遺伝子導入法(例、遺伝子改変法、ゲノム編集技術)、一過的遺伝子導入法(例、ベクターの一過的導入)などを挙げることができる。
目的遺伝子の発現は、細胞系および無細胞系のいずれを使用することもできる。細胞系および無細胞系における目的遺伝子の発現条件は特に制限されず、公知の方法に準じて行うことができる。
無細胞系における目的遺伝子の発現には、細胞破砕液を必要に応じて精製して得られる細胞抽出液、または、人工的に調製した無細胞合成系を用いることができる。細胞合成系には一般に、タンパク質合成に必要なリボソーム、翻訳開始因子、翻訳伸長因子、解離因子、アミノアシルtRNA合成酵素等、翻訳に必要な要素が含まれている。タンパク質の合成を行う際には、この細胞抽出液に各種アミノ酸、ATP、GTPなどのエネルギー源、クレアチンリン酸など、タンパク質の合成に必要なその他の物質を添加する。勿論、タンパク質合成の際に、別途用意したリボソームや各種因子、及び/又は各種酵素などを必要に応じて補充してもよい。また細胞抽出液としては大腸菌抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、小麦胚芽抽出液等が挙ることができる。本発明に係る核酸が上流に連結された目的遺伝子を保持する無細胞系ベクターは、上記のような細胞合成系において目的遺伝子を発現する。
一実施の形態において、当該核酸は目的遺伝子の発現量を調節可能なように当該目的遺伝子の上流に配置されており、かつ、当該核酸は目的遺伝子の発現量が所望の量となるように選択された所望の反復数を有する塩基配列からなる。
また、当該発現方法は一実施の形態において、目的遺伝子を発現させる工程は、上述の本発明に係るベクターを含む宿主細胞において目的遺伝子を発現させる工程とすることができる。
一実施の形態において、当該ベクターには本発明の核酸と目的遺伝子とが発現量の制御を可能なように配置されており、かつ、当該核酸は目的遺伝子の発現量が所望の量となるように選択された反復数を有する塩基配列からなる。
本発明の宿主細胞を用いたタンパク質の産生方法は一実施の形態において、上述する本発明のベクターを含む宿主細胞を用いたタンパク質の産生方法である。
また、本発明のタンパク質の産生方法における一実施の形態において、ベクターに含まれる本発明の核酸は、目的遺伝子の発現量が所望の量となるように、選択された反復数を有する塩基配列からなる。
本発明の核酸と目的遺伝子とを含むベクターにより形質転換された宿主細胞において目的遺伝子を発現させる方法は、用いるベクター、宿主細胞、目的遺伝子などに応じて、公知の方法に準じ適宜実施することができる。
(1-1)環境DNAライブラリーの作製
活性汚泥より抽出した環境DNAを、CopyControl Fosmid Library Production Kit(EPICENTRE社)に添付のEnd-Repair Enzymeを用いて末端の平滑化を行った。その後パルスフィールド電気泳動により平均鎖長33~48kb付近の大きさのDNAをゲルから分画した。β-アガラーゼ(NEB社)を用いて切り出した断片からDNAを精製した。
次いで精製後のDNAをインサートDNA断片として用い、pCC1FOSフォスミドベクター(EPICENTRE社)へ、T4DNAリガーゼを用いてライゲーション反応を行った。ベクターライゲーション後、MaxPlank Lambda Packaging Extracts(EPICENTRE社)を用いて、in vitro packagingを行った。宿主大腸菌としてEPI300(EPICENTRE社)を使用した。12.5μg/mLのクロラムフェニコールを含むLB寒天培地で、λファージにより形質転換した大腸菌をクロラムフェニコール耐性により選択した。
大腸菌のコロニーを取り、12.5μg/mLのクロラムフェニコールを含む2×YT培地1mL中で、37℃で18時間、1200rpmで培養した。ついで、このコロニーを採取した大腸菌の培養液のうち200μLを新しい800μLの2×YT培地に移して混合し、250rpmで振とうしながら37℃で30分間培養した後、1μLのCopy Control Induction Solution(EPICENTRE社)を添加し、宿主大腸菌EPI300が保有するフォスミドベクターのコピー数を増加させた。さらに大腸菌を37℃で2時間、1200rpmで激しく振とうしながら培養した後、遠心分離により菌体を回収し、50mMのリン酸緩衝液(pH7.5)に再懸濁した。その後、150μLのBugBuster Plus Benzoate Nuclease(Novagen社)を添加して、大腸菌の細胞を溶解させた。続いて、遠心分離により分離された上清を細胞抽出液として得た。
次に、カテコール(東京化成社)を最終濃度が0.5mMとなるように、5μLずつ、100μLの細胞抽出液に添加し、25℃において250rpmで混合しながら反応を行った。1時間および16時間後に、カテコールの分解により、2-ヒドロキシムコネート セミアルデヒドの形成により黄色を示すフォスミドクローンを選択した。
カテコール分解活性を示すクローンより、FosmidMAX DNA Purification Kit(EPICENTRE社)を用いてフォスミドDNAを抽出した。次いで、当該DNAを、DNA断片化装置(Gene machines社)を用いてランダムに断片化し、アガロースゲル電気泳動により分画後、約2kb~3kbのDNAを含むアガロース断片を切り出した。切り出したアガロース断片よりDNAを精製後、T4DNA Polymerase(タカラバイオ社)を用いてDNA断片の平滑化を行った。平滑化したDNA断片は、脱リン酸化処理を行った50ngのpUC118/HincII/BAPとベクターライゲーション反応を行った後、エタノール沈殿を行い、10μLの滅菌水に溶解した。
作製したライブラリーの一部をライゲーション溶液1μL、宿主大腸菌DH10B(Invitrogen社)25μLを用いて、エレクトロポレーション法(Gene pulser、BIO RAD社)により大腸菌に導入した。100μg/mLのアンピシリン、100μM/mLのIPTG、40μg/mLのX-galを含むLB寒天培地で、37℃で終夜培養し、形質転換体(ショットガンクローン)を得た。
Q-Bot(GENETIX社)を用いて288個の大腸菌白コロニーをランダムにピッキングした。96穴のプレートに分注した120μLの100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地にそれぞれ植菌し、37℃で終夜培養を行った。上記培養液にTempliPhiDNA Sequencing Template Amplification Kit(GEヘルスケア社)を使用して、シーケンス用鋳型を調製した。TempliPhiの反応は付属の取扱説明書に従った。
反復配列は、5,-TGACATGATTAACATGATTAACATGATTGACATGATTGACATGCT-3’(配列番号49)であり、つまり5,-T(G/A)ACATG(A/C)T-3’からなる塩基配列であった。
図1に示されたショットガンクローンA、B、Cを100μg/mLのアンピシリン、100μM/mLのIPTGを含むLB液体培地で、37℃で終夜培養した。菌体を回収したのち、50mMのリン酸緩衝液(pH7.5)で希釈したBugBuster Protein Extraction Reagent(Merck社)を用いて可溶性タンパクを抽出し、Bradford法により抽出されたタンパク質を定量した。
得られた一定量の菌体抽出タンパク質に対し、終濃度において0.5mMのカテコールを添加し、マイクロプレートリーダー分光光度計(TECAN社)により375nmに最大吸収波長を持つ分解産物(2-ヒドロキシムコネート セミアルデヒド)を定量した。その結果、反復配列の繰り返し数により、カテコール2,3-ジオキシゲナーゼによるカテコール分解産物の生成量が異なることを明らかとした(図2)。
当該反復配列について相同性検索を行った。NCBI(National Center for Biotechnology Information)が提供しているweb上の相同性検索プログラムであるBLASTを利用し、塩基配列のデータベースはNucleotide collection(nr)を用いた。その結果、当該反復配列が、様々な繰り返し数において、各種生物種において検出された。その生物種の一例を表1に示す。また、特定の生物種における反復配列の例として、塩基配列(配列番号2~16)を具体的に図3および図4に示す。図3および図4において、上段の塩基配列は配列番号1に示される塩基配列の繰り返しを比較対象として、下段の塩基配列がそれぞれの生物種において見出された反復配列を示す。
まずは、実施例1で使用したショットガンクローンAより、当該反復配列とカテコール2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の配列のみをサブクローニングする実験を行った。ショットガンクローンAを鋳型にし、プライマー(配列番号17、18)を用いてPCRを行った。PCRは98℃で10秒、60℃で5秒、72℃で1分の処理を1サイクルとして合計25サイクル行った。PCR産物を精製し、このインサートDNAと、HindIIIとXbaIで処理したpUC18ベクターを混合し、In-Fushion HD Cloning Kit(タカラバイオ社)を使用してクローニングを行った。DNAを回収し、ヒートショック法で大腸菌JM109株に導入し、100μg/mLのアンピシリン、100μM/mLのIPTG、40μg/mLのX-galを含むLB寒天培地で、37℃で終夜培養し、形質転換体を得た。カテコールを噴霧した結果、黄色を呈するコロニーを選択し、塩基配列を決定した。得られたクローンは、繰り返し数5の反復配列およびその下流にカテコール2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子を保有していたので、PUC-EDO-N5と名付けた(繰り返し数とは反復配列において繰り返される基本単位となる塩基配列の数を意味する。すなわち、繰り返し数5は、反復配列として繰り返される塩基配列の基本単位が5つ存在することを意味する)。
そこで、各クローンを100μg/mLのアンピシリン、100μM/mLのIPTGを含むLB液体培地で、37℃で終夜培養した。菌体を回収したのち、50mMのリン酸緩衝液(pH7.5)で希釈したBugBuster Protein Extraction Reagentを用いて可溶性タンパクを抽出し、Bradford法により抽出されたタンパク質を定量した。得られた一定量の菌体抽出タンパク質に対し、終濃度において0.5mMのカテコールを添加し、マイクロプレートリーダー分光光度計により375nmに最大吸収波長を持つ分解産物(2-ヒドロキシムコネート セミアルデヒド)を定量した。その結果、反復配列の繰り返し数により、カテコール2,3-ジオキシゲナーゼによるカテコール分解産物の生成量が異なることを明らかとした(図5)。
まずは、実施例2で使用した大腸菌変異株PUC-EDO-N0、PUC-EDO-N1、PUC-EDO-N2、PUC-EDO-N3、PUC-EDO-N4、PUC-EDO-N5、PUC-EDO-N6、PUC-EDO-N7を100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地で、37℃で培養した。菌体培養液よりプラスミドを抽出し、XbaIおよびHindIIIで消化することにより、当該反復配列とカテコール2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子を含む領域のみを切り出し、同じくXbaIおよびHindIIIで消化したpET28aベクターとligase反応を行った。DNAを回収し、ヒートショック法で大腸菌BL21(DE3)株に導入し、100μg/mLのカナマイシン、34μg/mLのクロラムフェニコール、100μM/mLのIPTG、40μg/mLのX-galを含むLB寒天培地で、37℃で終夜培養し、形質転換体を得た。カテコールを噴霧した結果、黄色を呈するコロニーを選択し、塩基配列を決定した。得られたクローンを、PET-EDO-N0、PET-EDO-N1(tgacatgct;実際に使用した反復配列を示す。以下同様。)、PET-EDO-N2(tgacatgattgacatgct (配列番号50))、PET-EDO-N3(taacatgattgacatgattgacatgct (配列番号51))、PET-EDO-N4(taacatgattaacatgattgacatgattgacatgct (配列番号52))、PET-EDO-N5(tgacatgattaacatgattaacatgattgacatgattgacatgct (配列番号49))、PET-EDO-N6(tgacatgcttgacatgattaacatgattaacatgattgacatgattgacatgct (配列番号53))、PET-EDO-N7(tgacatgattgacatgcttgacatgattaacatgattaacatgattgacatgattgacatgct (配列番号54))と名付けた。これらの株が保有するプラスミド上においては、目的遺伝子の12bp上流に当該反復配列が挿入されている。また、pET28aベクター上にはT7 promoterおよびlac operatorがもともと存在しており、当該反復配列の上流に位置する。
本クローンを100μg/mLのカナマイシン、34μg/mLのクロラムフェニコール、100μM/mLのIPTGを含むLB液体培地で、37℃で終夜培養した。菌体を回収したのち、50mMのリン酸緩衝液(pH7.5)で希釈したBugBuster Protein Extraction Reagentを用いて可溶性タンパクを抽出し、Bradford法により抽出されたタンパク質を定量した。得られた一定量の菌体抽出タンパク質に対し、終濃度において0.5mMのカテコールを添加し、マイクロプレートリーダー分光光度計により375nmに最大吸収波長を持つ分解産物(2-ヒドロキシムコネート セミアルデヒド)を定量した。その結果、反復配列の繰り返し数により、カテコール2,3-ジオキシゲナーゼによるカテコール分解産物の生成量が異なることを明らかとした(図6)。
PET-EDO-N0、PET-EDO-N1については、可溶性のカテコール2,3-ジオキシゲナーゼを生産せず、不溶性タンパクとして生産した。実際に、PET-EDO-N0について、可溶性タンパクを生産させるためには、培養温度、培地、IPTG濃度を厳密に調整する必要がある(参考文献:FEMS Microbiology Ecology,69, 472-480, 2009)。ここで、カテコール2,3-ジオキシゲナーゼの上流に当該配列を3以上付加したプラスミドをもつ大腸菌においては、特段の工夫をすることなく通常の大腸菌の生育条件において可溶性のカテコール2,3-ジオキシゲナーゼの生産が見られた。
はじめに、プロモーター評価用のプラスミドベクターpCB192(国立遺伝学研究所)のベータガラクトシダーゼ遺伝子の上流に、異なる繰り返し数の当該反復配列を挿入する実験を行った。pCB192を鋳型とし、KOD Plus Mutagenesis Kit(TOYOBO社)の説明に従い実験を行った。配列番号35~48に記載されたプライマーを使用して、反復配列の繰り返し数が1から6のクローンを作成した。得られたクローンを、PCB-GAL-N1;実際に使用した反復配列を示す。以下同様。)、PCB-GAL-N2(tgacatgattgacatgct (配列番号50))、PCB-GAL-N3(taacatgattgacatgattgacatgct (配列番号51))、PCB-GAL-N4(taacatgattaacatgattgacatgattgacatgct (配列番号52))、PCB-GAL-N5(tgacatgattaacatgattaacatgattgacatgattgacatgct (配列番号49))、PCB-GAL-N6(tgacatgcttgacatgattaacatgattaacatgattgacatgattgacatgct (配列番号53))と名付けた。これらの株が保有するプラスミド上においては、目的遺伝子の40bp上流に当該反復配列が挿入されている。また、pCB192ベクター上にはpromoterおよびoperator配列は存在しない。
本クローンを100μg/mLのアンピシリン、100μM/mLのIPTGを含むLB液体培地で、37℃で終夜培養した。菌体を回収したのち、50mMのリン酸緩衝液(pH7.5)で希釈したBugBuster Protein Extraction Reagentを用いて可溶性タンパクを抽出し、Bradford法により抽出されたタンパク質を定量した。得られた一定量の菌体抽出タンパク質に対し、終濃度において34mMのONPG(o-Nitrophenyl-β-D-galactopyranoside)を添加し、マイクロプレートリーダー分光光度計により410nmに最大吸収波長を持つ分解産物ONP(o-Nitrophenol)を定量した。その結果、反復配列の繰り返し数により、ONPの生成量が異なることを明らかとした(図7)。
まずは、実施例2で使用した大腸菌変異株PUC-EDO-N1、PUC-EDO-N5を100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地で、37℃で培養した。菌体培養液よりプラスミドを抽出し、XbaIおよびHindIIIで消化することにより、当該反復配列とカテコール2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子を含む領域のみを切り出し、同じくXbaIおよびHindIIIで消化したpMMB503EHベクターとligase反応を行った。DNAを回収し、ヒートショック法で大腸菌JM109株に導入し、100μg/mLのストレプトマイシンを含むLB寒天培地で、37℃で終夜培養し、形質転換体を得た。コロニーを無差別に選択し、制限酵素処理をおよび塩基配列を決定することにより、pMMB503のtacプロモーター下に、当該反復配列(繰り返し数1および5)とカテコール2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子を保有する、EC-PMM-EDO-N1(tgacatgct;実際に使用した反復配列を示す。以下同様。)およびEC-PMM-EDO-N5(tgacatgattaacatgattaacatgattgacatgattgacatgct (配列番号49))を得た。これらの株が保有するプラスミド上においては、目的遺伝子の12bp上流に当該反復配列が挿入されている。
本クローンを100μg/mLのストレプトマイシンと100μg/mLのアンピシリン、100μM/mLのIPTGを含むLB液体培地で、30℃で終夜培養した。菌体を回収したのち、50mMのリン酸緩衝液(pH7.5)出希釈したBugBuster Protein Extraction Reagent (Merck社)を用いて可溶性タンパクを抽出し、Bradford法により抽出されたタンパク質を定量した。得られた一定量の菌体抽出タンパク質に対し、終濃度において0.5mMのカテコールを添加し、マイクロプレートリーダー分光光度計(TECAN社)により375nmに最大吸収波長を持つ分解産物(2-ヒドロキシムコネート セミアルデヒド)を定量した。その結果、反復配列の繰り返し数により、カテコール2,3-ジオキシゲナーゼによるカテコール分解産物の生成量が異なることを明らかとした(図8)。
分泌型ルシフェラーゼ遺伝子(CLuc)を含み、プロモーターをその上流に含まないレポータープラスミド(pCLY-MCS、アトー株式会社)を用いて、CYC1最小プロモーター(出芽酵母CYC1遺伝子由来)または、反復配列をCYC1最小プロモーターの5’-末端に付与した各種プロモーターを、CLuc遺伝子の上流に導入したレポータープラスミドを以下の方法で作製した。
pCLY-MCSを鋳型として、inv_pCLY-MCS_R01およびinv_pCLY-MCS_F01をプライマーとして用いて、Platinum SuperFi DNA polymerase(Thermo Fisher Scientific)により、プレ変性96℃、2分の後、変性96℃、10秒、アニーリング55℃、10秒、伸張68℃、4分のサイクルを35サイクルの後、最終伸張68℃、5分の条件でPCR反応を行なった。その後、アガロース電気泳動による精製によって、目的のpCLY-MCSベクターフラグメント(7,265bp)を得た。
得られたpCLY-MCSベクターフラグメントおよび、各プロモーターフラグメント(PCYC1min、N1-PCYC1min、N2-PCYC1min、およびN3-PCYC1minプロモーターフラグメント)をそれぞれ用い、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて、製品マニュアルに基づきIn-Fusion反応を行なった。本In-Fusion反応液を用いて、大腸菌DH5α株(Competent Quick DH5α、東洋紡)の形質転換を行い、各レポータープラスミドを有する形質転換体を得た。得られた形質転換体より、Monarch Plasmid Miniprep Kit(New England Biolabs)を用いてプラスミドを精製し、サンガーシークエンシング(ユーロフィンジェノミクス)による塩基配列の決定によって、各レポータープラスミドpCLY-PCYC1min, pCLY-N1-PCYC1min(tgacatgct;実際に使用した反復配列を示す。以下同様。), pCLY-N2-PCYC1min(tgacatgattgacatgct (配列番号50)),およびpCLY-N3-PCYC1min(taacatgattgacatgattgacatgct (配列番号51))を作製した。
上記で作製した各形質転換体は、液体合成培地(SC-ura+PPB 液体培地)を用いて培養を行なった。本液体培地の組成は、6.7g/L Yeast Nitrogen Base without Amino Acids (Difco)、1.92g/L Yeast Synthetic Drop-out Media Supplements without uracil (Sigma-Aldrich)、0.2M Potassium phosphate buffer (pH6.0)、2(w/v)% D-Glucose (Sigma-Aldrich)からなる。前培養として、96穴ディープウェルプレートに1mLの本液体培地を分注し、各形質転換株(3コロニーずつ)を植菌後、30℃で3日間の振盪培養を行なった。その後、本培養として、同様に1mLの本合成液体培地を分注した96穴ディープウェルプレートに、10uLの前培養液を植菌し、30℃で3日間の振盪培養を行なった。本培養開始後、24時間ごと(24、48、および72時間目)に、培養液のサンプリングを行い、培地吸光度(OD600)の測定および、培地中に分泌されたCLuc活性の測定を行なった。培地吸光度(OD600)は、96穴透明マイクロプレートに200μLの本培養液を分注し、マイクロプレートリーダー(Infinite 200 PRO[Tecan])を用いて600nmでの吸光度を測定した。また、CLuc活性測定は、CLucレポーターアッセイキット(アトー株式会社)を用いて、製品マニュアルに基づき行なった。96穴黒色マイクロプレートに25μLの本培養液を分注し、75μLのCLuc発光基質溶液を加え、5秒間の発光をマイクロプレートリーダー(Infinite 200 PRO)を用いて測定した。得られたCLuc活性値は、培地吸光度(OD600)で除算することで、菌体量によるノーマライズを行なった。
Claims (12)
- 下記(i)または(ii)に記載の塩基配列からなる核酸であって、前記核酸の下流に位置する目的遺伝子の発現量を調節するための核酸:
(i)5’-[T(G/A)ACATG(A/C)T]n-3’
(上記塩基配列において、nは1~10の整数である。)、または、
(ii)上記(i)に示される塩基配列に対して90%以上同一性を保持する塩基配列(ただし、5’-AGAT-3’および5’-UAAGGAGG-3’の塩基配列を除く)。 - 請求項1のいずれか一項に記載の核酸を含むベクター。
- 請求項2に記載のベクターであって、
前記ベクターは発現量を調整する目的遺伝子をさらに含み、前記核酸が前記目的遺伝子の発現量を調節可能なように上流に配置されている、ベクター。 - 請求項2または3に記載のベクターを含む宿主細胞。
- 請求項4に記載のベクターを含む宿主細胞であって、
前記目的遺伝子が宿主細胞に対する外来遺伝子である、宿主細胞。 - 目的遺伝子を発現させる方法であって、
請求項1に記載の核酸が上流に連結された前記目的遺伝子を発現させる工程を含む、発現方法。 - 請求項6に記載の発現方法であって、
前記核酸が、前記目的遺伝子の発現量が所望の量となるように選択された反復数を有する塩基配列からなる核酸である、発現方法。 - 請求項6または7に記載の発現方法であって、
前記目的遺伝子を発現させる工程が、請求項4に記載のベクターに含まれる前記目的遺伝子を細胞系または無細胞系において発現させる工程である、発現方法。 - 請求項6または7に記載の目的遺伝子を発現させる方法であって、
前記目的遺伝子が細胞内の内在遺伝子であり、
前記目的遺伝子を発現させる工程の前に、請求項1~3のいずれか一項に記載の核酸を前記細胞の染色体上に存在する前記目的遺伝子の上流に導入する工程をさらに含む、発現方法。 - 宿主細胞を用いたタンパク質の産生方法であって、
前記宿主細胞において前記タンパク質をコードする遺伝子の発現を促し、前記タンパク質を産生させる工程であって、前記宿主細胞は前記タンパク質をコードする遺伝子の上流に請求項1に記載の核酸を有する工程を含む、タンパク質の産生方法。 - 請求項10に記載のタンパク質の産生方法であって、
前記タンパク質を産生される工程において、前記宿主細胞が請求項2または3に記載のベクターを含むものである、タンパク質の産生方法。 - 請求項10または11に記載のタンパク質の産生方法であって、
前記核酸が、前記目的遺伝子の発現量が所望の量となるように、選択された反復数の塩基配列からなる核酸である、タンパク質の産生方法。
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Attia, A. S. et al.,A conserved tetranucleotide repeat is necessary for wild-type expression of the Moraxella catarrhalis UspA2 protein,J. Bacteriol.,2006年,Vol. 188(22),pp. 7840-7852 |
Zhou, K. et al.,The role of variable DNA tandem repeats in bacterial adaptation,FEMS Microbiol. Rev.,2014年,Vol. 38(1),pp. 119-141 |
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