JP7058251B2 - 酸化珪素系負極材の製造方法 - Google Patents

酸化珪素系負極材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、Liイオン二次電池の負極形成に使用される酸化珪素系負極材の製造方法に関し、より詳しくは、不可逆容量キャンセルのためにLiイオンがドープされた酸化珪素系負極材の製造方法に関する。
酸化珪素(SiOx)は電気容量が大きく、寿命特性に優れたLiイオン二次電池用負極材であることが知られている。この酸化珪素系負極材は、酸化珪素粉末、導電助剤及びバインダーを混合してスラリー化したものを、銅箔等からなる集電体上に塗工して薄膜状の負極とされる。ここにおける酸化珪素粉末は、例えば二酸化珪素と珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却し、析出させた後、細かく破砕することにより得られる。このような析出法で製造される酸化珪素粉末は、アモルファスの部分を多く含み、充放電時にLiイオンが均一に拡散するため、サイクル特性を向上させることが知られている。
このような酸化珪素系負極材に特徴的な問題点として初期効率の低さがある。これは充放電に寄与しない不可逆容量となるLi化合物が初回充電時に生成されることにより、初回放電容量が顕著に減少する現象であり、これを解消する手法として、酸化珪素粉末にLiイオンを添加するLiドープが知られている。
例えば、特許文献1では、酸化珪素粉末と金属Li粉末との混合物、又は金属Li粉末とLi化合物粉末との混合物を不活性ガス雰囲気中又は減圧下で加熱して焼成する固相法が提案されている。また、特許文献2では、SiOガスとLiガスとを別々に発生させた後、両ガスを混合し、冷却して回収する気相法が提案されている。いずれの方法でも、充放電に寄与しない不可逆容量となるLi化合物が事前に生成されることにより、初回充放電時に不可逆容量となるLi化合物が生成されるのが抑制されて、初期効率の向上が期待される。これが不可逆容量キャンセル処理である。
しかしながら、Liドープによる不可逆容量キャンセル処理を受けた酸化珪素系負極材では、Liが不均一にドープされることに起因して電池性能の低下を招くことが問題視されている。
すなわち、特許文献1に記載された固相法(焼成法)では、焼成の過程で酸化珪素粉末の粒子にその表面からLiイオンがドープされる、粉末粒子の表面反応によりLiドープが行われるため、粉末粒子内部におけるLi濃度分布が不均一になりやすく、特に粒子表面のLi濃度が高くなりやすい。更に、粉末組成のバラツキも、粉末粒子内部におけるLi濃度分布の不均一、特に粒子表面のLi濃度分布の不均一の原因となる。
一方、特許文献2に記載された気相法(析出法)では、SiOガスとLiガスの均一混合や、温度及び分圧の制御が非常に困難であるため、混合ガスのLi濃度分布の不均一、ひいては析出体のLi濃度分布の不均一が避けられない。そして、析出体は粉砕して負極材粉末とされるため、析出体のLi濃度分布の不均一は、負極材粉末の粉末粒子間におけるLi濃度分布の不均一の原因となる。
粉末粒子の内部にしろ粒子間にしろ、Li濃度分布の不均一が発生した場合、Li濃度が濃い部分においてLiSi合金などの反応性が高いLiリッチ相が形成される。Liリッチ相は、前述した電極作成の過程でバインダーや溶媒と反応するため、電池性能の劣化を引き起こす原因となる。
このような状況に鑑み、本出願人は、Si、O及びLiを含有し、そのSiの一部がSi単体として存在し、Liが珪酸リチウムとして存在するSi・珪酸リチウム含有原料を減圧下で加熱することにより、SiOガスとLiガスを同時に発生させる技術を開発し、特許文献3により提示した。
すなわち、このSi・珪酸リチウム含有原料を使用すると、Si単体が共存する状況下で珪酸リチウムが加熱されることにより、当該原料からSiOガスとLiガスとが同時に発生し、当該原料から同時発生したSiOガスとLiガスの混合物を同一面上で冷却して回収し、粉末化することにより、粉末粒子中におけるLi濃度分布も、粉末粒子間におけるLi濃度分布も共に均一化されたLi含有酸化珪素粉末が得られ、これを負極材に負極活物質として仕様することにより、Li濃度分布の不均一に起因する電池性能の低下が可及的に回避されることになる。
しかしながら、このような、Si・珪酸リチウム含有原料を使用することによるSiOガスとLiガスの同時発生技術においては、反応速度が遅く、Li含有酸化珪素の析出体の生成に時間がかかるという問題がある。その結果、負極活物質の製造コストが嵩み、負極材の経済性、ひいては電池コストに悪影響を与えることが懸念される。
特許第4702510号公報 特許第3852579号公報 WO2018/074175公報
本発明の目的は、Si・珪酸リチウム含有原料を使用してLiとSiOの混合ガスを発生させる際に、ガス発生反応を促進することより、高性能、高品質な負極材を経済的に製造して、電池性能の向上及び電池コストの低減に寄与する酸化珪素系負極材の製造方法を提供することある。
上記目的を達成するめに、本発明者はSi、O及びLiを含有し、そのSiの一部がSi単体として存在し、Liが珪酸リチウムとして存在するSi・珪酸リチウム含有原料を用いたときのガス発生反応に寄与する様々な因子について調査し、各種因子のなかでも反応温度に着目した。すなわち、特許文献3においては、この反応温度は1400℃であるが、一般論として反応温度が上るほど反応速度が高くなる傾向があることから、この反応温度を1400℃よりも更に高めた。ところが、予想に反し、反応速度は低下した。そこで、逆に反応温度を1400℃よりも下げたところ、反応速度は向上した。
このような事実を踏まえ、反応温度と反応速度との関係を様々な観点から調査し検討した結果、Siの融点、及び珪酸リチウムの融点が、反応温度と反応速度との関係に深く関与していることが判明した。すなわち、前記Si・珪酸リチウム含有原料に含まれるSiの融点は1414℃である。一方、珪酸リチウムはLiOとSiOの複合化合物であり、LiOリッチであるLiSiOの融点は1201℃であり、LiSiOの融点は1255℃である。また、SiO2リッチであるLiSiの融点は1033℃である。
ここで、高効率な反応を生じさせるには、Siは溶融させずに固体のまま維持すること、一方、珪酸リチウムは溶融させて、珪酸リチウムの液体を固体Si、特に粉末状の固体Siの表面全体に行き渡らせることが効果的であることが判明し、この観点から、反応温度は、使用する珪酸リチウムの融点より高くする一方、上限についてはSiの融点である1414℃よりも十分に低い1400℃未満とし、特にSiの融点より25℃以上低くするのが有効であることが明らかになった。
すなわち、ここにおける反応は、固体Siの表面でのSiと溶融珪酸リチウムとの反応である。反応温度がSiの融点である1414℃未満であったとしても、反応温度制御のゆらぎや微量不純物による凝固点降下等により、原料中の一部で粉末状の固体Siが溶融して、反応面積が小さくなることが懸念されるのである。また、ここにおける反応面積を広げる観点から、粉末状の固体Siの粒子径を小さくすること、及び粉末状の固体Siの珪酸リチウムに対する量的バランスを大きくすることが、反応促進に有効なことも明らかになった。
本発明はかかる知見を基礎して開発されたものであり、以下の3つの酸化珪素系負極材の製造方法を提供する。
第1は、Si、Li及びOを含み、前記Siの一部がSi粉末として存在し、前記Liが珪酸リチウムとして存在するSi・珪酸リチウム含有原料を減圧加熱して、当該原料からガスを発生させるガス発生工程と、
前記ガス発生工程で発生したガスを冷却して析出させる析出工程と、
前記析出工程で生成された析出物を回収して粉末化する粉末化工程とを含んでおり、
前記ガス発生工程における反応温度が、前記珪酸リチウムの融点以上、1400℃未満である酸化珪素系負極材の製造方法である。
第2は、Si、Li及びOを含み、前記Siの一部が粉末状のSi粉末として存在し、前記Liが珪酸リチウムとして存在するSi・珪酸リチウム含有原料を減圧加熱して、当該原料からガスを発生させるガス発生工程と、
前記ガス発生工程で発生したガスを冷却して析出させる析出工程と、
前記析出工程で生成された析出物を回収して粉末化する粉末化工程とを含んでおり、
前記Si・珪酸リチウム含有原料におけるSi粉末の珪酸リチウムに対する量的バランスが、Si粉末と珪酸リチウムが過不足なく反応する場合のSi量を1として1倍超、1.2倍以下である酸化珪素系負極材の製造方法である。
第3は、Si、Li及びOを含み、前記Siの一部がSi粉末として存在し、前記Liが珪酸リチウムとして存在するSi・珪酸リチウム含有原料を減圧加熱して、当該原料からガスを発生させるガス発生工程と、
前記ガス発生工程で発生したガスを冷却して析出させる析出工程と、
前記析出工程で生成された析出物を回収して粉末化する粉末化工程とを含んでおり、
前記Si・珪酸リチウム含有原料におけるSi粉末の粒子径が、体積基準で測定した平均粒径D50で0.05~30μmである酸化珪素系負極材の製造方法である。
本発明の第1の酸化珪素系負極材の製造方法においては、Si・珪酸リチウム含有原料を減圧下で加熱してLi含有SiOを生成する際の反応温度を前記珪酸リチウムの融点超で、1400℃未満としたことにより、Si・珪酸リチウム含有原料中のSi粉末は溶融せず、珪酸リチウムが溶融することから、Si粉末の表面を珪酸リチウムの溶融液が覆うことになる。
すなわち、ここにおける反応温度をSiの融点である1414℃より十分に低い1400℃未満としたことにより、Si粉末の多くが反応の全期間を通して固体Siに維持され、Si粉末の粒子表面で活発な反応が起こり、珪酸リチウムの溶融液からSiOガス及びLiガスが効率よく発生するため、反応効率が向上する。反応温度が1400℃以上であると、Siの融点である1414℃未満であっても、局所的にSi粉末が溶融する危険があり、その溶融部分で反応が極度に制限され、反応面積が小さくなることから、反応効率が低下する。特に好ましい反応温度の上限は(Siの融点-25℃)以下、すなわち、1389℃以下であり、更に好ましい反応温度の上限は(Siの融点-50℃)以下、すなわち、1364℃以下である。
反応温度の下限については、使用する珪酸リチウムを溶融させるために、その珪酸リチウムの融点以上であることが必要であり、その融点+50℃が好ましく、その融点+100℃がより好ましい。すなわち、珪酸リチウムがSiOリッチであるLiSiの場合、その融点は1033℃であるから、反応温度の下限については1083℃以上が好ましく、1133℃以上がより好ましいということである。なお、珪酸リチウムがLiSiの場合、その融点は他の珪酸リチウムに比べて低いので、反応速度の観点から、融点+200℃、すなわち1233℃以上が特に好ましい。
本発明の第2の酸化珪素系負極材の製造方法においては、Si・珪酸リチウム含有原料におけるSi粉末の珪酸リチウムに対する量的バランスを、Si粉末と珪酸リチウムが過不足なく反応する場合のSi量を1として1倍超、1.2倍以下としたことにより、溶融した珪酸リチウムがSi粉末と接触し易くなり、反応速度が向上する。Si粉末の珪酸リチウムに対する量的バランスが小さくなった場合、余剰の溶融珪酸リチウムが原料表面を覆ってガス生成を阻害する、反応容器内面に付着残留するといった現象が生じ、反応速度を低下させる問題が生じる。Si粉末の珪酸リチウムに対する量的バランスが1.2を超えても反応自体に問題はない。しかし、反応後に残留するSi量が増え、生産性が悪化する。
ここにおいては、余剰のSi粉末が必然的に生じる。その余剰のSi粉末は、原料に混ぜてもよいし、余剰分のみを別途投入してもよい。別途投入の場合、余剰のSi粉末は反応容器の下部及び/又は内面に配置することが好ましい。反応容器の下部及び/又は内面に余剰のSi粉末を配置することにより、珪酸リチウムの容器への付着滞留を抑制することができる。
本発明の第3の酸化珪素系負極材の製造方法においては、Si・珪酸リチウム含有原料中のSi粉末の平均粒子径が30μm以下に制限されているため、Si粉末の表面積が大きくなり、これに伴って反応面積が拡大することにより、反応速度が向上する。すなわち、この粒子径が大きい場合、反応面積が小さくなることにより反応速度が低下し、生産性が悪化する。ただし、この粒子径が小さすぎる場合は、かさ密度・充填性が下がることから、ハンドリングが難しくなる。この観点から、Si粉末の粒子径は、体積基準で測定した平均粒径D50で0.05~30μmであり、0.1~20μmが好ましく、0.1~10μmが特に好ましい。
本発明の第1~3の酸化珪素系負極材の製造方法においては、各々反応促進のメカニズムが相違するので、第1の方法と第2の方法、第1の方法と第3の方法、第2の方法と第3の方法、或いは第1の方法から第3の方法まで、というように3つの方法を適宜組み合わせることができ、これらの組み合わせにより、相乗的な反応促進効果を期待できる。
Si、O及びLiを含有し、そのSiの一部がSi粉末として存在し、Liが珪酸リチウムとして存在するSi・珪酸リチウム含有原料は、典型的にはSi粉末と珪酸リチウムとの混合物、又はSi粉末と珪酸リチウムとSi酸化物との混合物である。Si酸化物は粉末で、O量の調整等のために含有され、SiO、SiO等のSiOx(0<x≦2)である。珪酸リチウムは単一組成からなるもの、もしくは2種以上の組成からなる複合物である。
珪酸リチウムは、LiOとSiOの複合化合物で、一般式で表せばxLiO・ySiOであり、具体的には例えばSiOリッチのLiSi(x=1,y=2)、LiOリッチのLiSiO(x=1,y=1)、LiSiO(x=2,y=1)、LiSi(x=3,y=2)等である。
この珪酸リチウムは、反応において溶融するために、反応前のSi・珪酸リチウム含有原料の段階では塊状、粉末状等、いかなる形状でも使用可能であるが、反応をより均一に進める観点から、粉末状であることが好ましい。塊状の珪酸リチウムを用いる場合は、珪酸リチウムとSi粉末との均一混合が困難であり、珪酸リチウムが反応容器下部に滞留しやすくなるため、Si粉末上に珪酸リチウムを積層させるのが好ましい。
珪酸リチウムが粉末の場合、Si・珪酸リチウム含有原料は、混合粉末、或いは、その混合粉末を粒状に成形した造粒体として使用され、反応容器内の発生ガス経路の確保やハンドリングの点から、1~20mm程度の造粒体が好ましい。
Si・珪酸リチウム含有原料の平均組成は、SiLixOyで表して、0.05<x<y<1.2が望ましい。特にxについては0.05<x<0.7が、yについては0.8<y<1.0が望ましい。xが小さすぎるとLi添加効果が十分に得られない。xがy以上である場合はLiSi合金が生成し、粉末の反応性が大きくなる。また、xが大きい場合はLiガス発生量が多くなり、反応性の高いLiリッチ相が形成されるおそれがある。yの値が過小、又は過大であると、原料の残留物が増えるおそれがある他、Liとの組成比が変化することでLiガスが多量に発生し、Liリッチ相を生じるおそれがある。特に、yが1.0を超える場合、余剰な溶融珪酸リチウムが発生し、反応へ悪影響を及ぼす。それぞれの元素比は、ICP発光分光法、及び赤外線吸収法により測定が可能である。
Si・珪酸リチウム含有原料においては、珪酸リチウムを用いる代わりに、加熱することで珪酸リチウムを生じる材料を用いることもできる。具体的には、LiOHとLiCOの一方又は両方とSi単体とを含む材料であり、これを1次原料として加熱焼成する。Si単体が共存する状況下でLiOH又はLiCOが加熱焼成されることにより、珪酸リチウムが生成されると共に、余計な元素がガス成分として取り除かれて、Si単体と珪酸リチウムとを含むSi・珪酸リチウム含有原料が得られ、これを2次原料として加熱すれば、SiOガスとLiガスとが同時に発生する。1次原料も、2次原料、すなわち前記Si・珪酸リチウム含有原料と同様、O量の調整等のためにSi酸化物(SiOx;0<x≦2)を含むことがきる。
ここにおける珪酸リチウム生成反応は、SiOガスとLiガスとを同時に発生させる反応の直前に行うことができる。すなわち、同一反応容器内で1次原料を加熱焼成して2次原料とした後、引き続いてその2次原料を加熱することができる。また、1次原料を事前に加熱焼成して2次原料とすることもできる。1次原料の加熱焼成を減圧下で行うことにより、不純物元素がより分離されやすくなる。1次原料を事前に加熱焼成する場合は、酸化を防ぐために、その加熱焼成を不活性ガス雰囲気中や減圧下で行うことが望ましい。
かくして、本発明の第1~第3の酸化珪素系負極材の製造方法においては、Si・珪酸リチウム含有原料からSiOガス及びLiが同時に且つ効率よく発生する。発生したSiOガス及びLiガスを同一面上で冷却して回収することにより、SiOとLiとが均一に混合した析出物(Li含有酸化珪素)が得られる。これを粉砕して粉末とすれば、粉末粒子間におけるLi濃度分布の不均一はもとより、個々の粒子におけるLi濃度分布の不均一も解消された負極材用粉末(負極活物質)が得られる。
冷却回収時の温度は、900℃以下が望ましく、800℃以下が更に望ましい。冷却温度が900℃以上であると、Si結晶粒子が大きく成長し、寿命特性が悪化する。600℃以下とした場合、XRDでSi結晶ピークが存在しないLi含有酸化珪素が得られる。粉砕方法は特に限定されないが、金属不純物が混入しないように配慮するのがよく、具体的には粉体接触部にはセラミック等の非金属材料を用いるのが望ましい。
負極材用粉末は、粉末粒子の表面の一部又は全部に導電性炭素皮膜が被覆されていてもよい。導電性炭素皮膜の被覆、すなわちCコートにより表面抵抗が下がり、電池特性が向上する。ここにおける導電性炭素皮膜は、例えば炭化水素ガスを用いた熱CVD反応により得られるが、その方法は特には限定されない。
Cコート皮膜の形成、すなわちCコート処理で重要なのは処理温度と平均膜厚であり、処理温度は900℃以下が望ましく、平均膜厚は0.5~10nmが望ましい。こうすることにより、Li含有酸化珪素粉末にCコートを実施するにもかかわらず、Cコート膜下の界面でSiCの生成が阻止された負極材用粉末を得ることができる。
処理温度が900℃を超える場合、SiC生成反応が速やかに進行し、SiCが生成する。Cコート反応を800~900℃で行う場合、熱処理時間を3時間以下することが望ましい。熱処理時間が3時間を超える場合、SiC生成反応が促進され、SiCが生成する場合がある。
更に、このCコート反応を700℃以下で実施することにより、Siの結晶化を抑制することができる。この場合、Cコート前のLi含有酸化珪素粉末に、Siの結晶ピークを有していない材料を用いることにより、Cコート後にもSiの結晶ピークがない材料を得ることができる。Siの結晶化が進行すると、充放電に伴う局所的な膨張収縮が起こり、粒子の割れ等、寿命特性を劣化されせる要因となる場合がある。Si結晶化温度はLi含有量によって変化する場合があるが、Li含有量の増加に伴い反応温度を更に下げることによってSi結晶化を抑制することができる。
処理温度の下限については特に限定されないが、低温では反応速度が遅くなるため、600℃以上というような、ある程度の高温度で処理することが望ましい。実際、例えば熱CVDを用いたCコートの場合では600℃以上が望ましい。
Cコート皮膜の平均膜厚については、これが10nmを超える場合、処理時間や炭素量が増えることによりSiC生成反応が促進され、SiCが生成する。平均膜厚が0.5nm未満である場合は、導電性が十分でなく、性能改善が見込めない。Cコート皮膜の平均膜厚は、赤外線吸収法によって測定したC量と、BET比表面積とを用い、粉末1g当たりのC重量/C密度/BET比表面積により求めることができる。
粉末粒子の平均粒径は1~20μmであることが望ましい。粒径が大きい場合、充放電による粒子への応力増大、割れを引き起こすと共に、電極作製にも問題が生じる。粒径が小さい場合、比表面積が大きくなり、電池性能が悪化する。
Cコート処理を受けた負極材用粉末は、粉末粒子の導電性が向上し、電池性能が上ることに加え、Cコート処理の段階で既にLiを含んでいるが、そのLiは、粉末粒子中においても、また粉末粒子間においても、均一に分布しているために、Cコート処理に伴うSiCの生成が抑制され、SiCの生成による電池性能の低下が抑制される。
本発明の酸化珪素系負極材の製造方法は、Si、O及びLiを含有し、そのSiの一部がSi粉末として存在し、Liが珪酸リチウムとして存在するSi・珪酸リチウム含有原料を減圧下で加熱してLi含有SiOを生成する際の反応温度を珪酸リチウムの融点以上で、且つSiの融点より十分に低い1400℃未満とすることにより、粉末状の固体Si表面でのガス発生反応を促進し、Li含有SiOの析出時間を短縮して、当該負極材の生産性を高め、製造コストを引き下げる効果を奏する。
また、Si、O及びLiを含有し、そのSiの一部がSi粉末として存在し、Liが珪酸リチウムとして存在するSi・珪酸リチウム含有原料を減圧下で加熱してLi含有SiOを生成する際の、Si・珪酸リチウム含有原料におけるSi粉末の珪酸リチウムに対する量的バランスを、Si粉末と珪酸リチウムが過不足なく反応する場合のSi量を1として1倍超、1.2倍以下とすることにより、粉末状の固体Si表面でのガス発生反応を促進し、Li含有SiOの析出時間を短縮して、当該負極材の生産性を高め、製造コストを引き下げる効果を奏する。
また、Si、O及びLiを含有し、そのSiの一部がSi粉末として存在し、Liが珪酸リチウムとして存在するSi・珪酸リチウム含有原料を減圧下で加熱してLi含有SiOを生成する際の、Si・珪酸リチウム含有原料におけるSi粉末の粒子径を、平均粒径D50で0.05~30μmとすることにより、粉末状の固体Si表面でのガス発生反応を促進し、Li含有SiOの析出時間を短縮して、当該負極材の生産性を高め、製造コストを引き下げる効果を奏する。
以下に本発明の実施形態として、本発明の典型的な酸化珪素系負極材の製造方法を説明する。
まず、Si、O及びLiを含有し、そのSiの一部がSi粉末として存在し、Liが珪酸リチウムとして存在するSi・珪酸リチウム含有原料として、Si粉末と珪酸リチウムとして例えばLiSi粉末とを混合する。必要に応じて、O量調整のためにSiO粉末を混合する。
各粉末の混合比は、混合粉末の平均組成SiLixOyが0.05<x<y<1.2を満足する範囲内で、且つSi粉末の珪酸リチウム粉末に対する量的バランスが、Si粉末と珪酸リチウムが過不足なく反応する場合のSi量を1として1倍超から1.2倍までの範囲とされる。具体的には、Li、Si、Oの元素比(Li:Si:O)の狙い値が例えば(1:0.4:1)である場合、LiSi粉末1molに対し、Si粉末の量が3mol超から3.6molまでの範囲とされる。
また、Si・珪酸リチウム含有粉末原料中のSi粉末の粒子径をD50で0.05~30μm、より好ましくは0.1~20μmとする。
次いで、Si・珪酸リチウム含有原料を反応容器に仕込み、減圧下で加熱することにより、原料中のSi・珪酸リチウムからガスを発生させる。ここにおけるガス発生反応は、SiOガスとLiガスとが同時に発生するものとなる。化学式で説明すると、一般式では式(1)と推定され、珪酸リチウムがLiSiの場合は式(2)と推定される。珪酸リチウムがLiOとSiOの複合化合物で、一般式ではxLiO・ySiOと表されることは前述したとおりである。
(x+y)Si+(xLiO・ySiO)→(x+2y)SiO↑+2xLi↑
・・・(1)
3Si+LiSi→5SiO↑+2Li↑ ・・・(2)
式(1)及び式(2)から分かるように、Si単体が共存している状況下での加熱により、珪酸リチウムからSiOガスとLiガスとが同時に発生する。ここにおける反応はSiによる還元反応と考えられる。
そして、反応容器内で原料からガスを発生させると同時に、発生したガスを反応容器外部に配置された蒸着台の表面で冷却し析出させる。その後、蒸着台の表面から析出物を回収する。回収した析出物はLi含有酸化珪素材料であり、これを粉砕して所定粒度の負極材用粉末とする。
ここで重要なのは、反応容器内での反応温度であり、ここでは一方の粉末原料であるSiの融点(1414℃)より十分に低い1400℃未満とし、好ましくは〔Siの融点(1414℃)-25℃=1389℃〕以下、より好ましくは〔Siの融点(1414℃)-50℃=1364℃〕以下とする一方で、他方の粉末原料であるLiSiの融点(1033℃)以上とし、好ましくは〔LiSiの融点(1033℃)+100℃〕以上、より好ましくは〔LiSiの融点(1033℃)+200℃〕以上とする。
また、前述したとおり、Si粉末の珪酸リチウム粉末に対する量的バランスを、Si粉末と珪酸リチウム粉末が過不足なく反応する場合のSi量を1として1倍超から1.2倍までの範囲とすると共に、Si粉末の粒子径を30μm以下、望ましくは20μm以下とする。
反応容器内で原料からSiOガスとLiガスを同時に発生させるので、両者の混合ガスは濃度分布が均一であり、これを蒸着台(蒸着ドラムを含む)の同一面上で冷却して得た析出物も濃度分布が均一となる。したがって、これを粉砕して得た粉末においては、粉末粒子間におけるLi濃度分布も個々の粉末粒子中におけるLi濃度分布も均一となり、これを負極材用粉末に用いた場合はLiリッチ相の発生が抑制されていることにより、反応性が低くなり、電池性能が向上する。
また、反応容器内での反応温度がSiの融点よりも十分に低く設定されている一方で、LiSiの融点よりも十分に高く設定されているので、Si粉末の粒子表面を溶融したLiSiが覆い、その粒子表面での活発な反応が期待できる。しかもSi粉末が微小で、且つLiSi粉末よりも量的に多めに配合されているので、反応面であるSi粉末の粒子表面が広がり、この点からもSi粉末の粒子表面での反応性が向上する。それらの結果として、析出物の生産性が向上する。
別の実施形態として、Si粉末とLiOH粉末とを混合する。必要に応じて、O量調整のためにSiO2粉末を混合する。この混合粉末を1次原料として、反応容器内に仕込み、Ar雰囲気中で加熱して焼成する。Si単体が共存する状況下でLiOHを加熱したときの反応は、化学式で示すと、式(3)の前段部のように推定される。
4Si+4LiOH→3Si+LiSiO+2H
3Si+LiSiO→4SiO↑+4Li↑ ・・・(3)
4Si+2LiCO→3Si+LiSiO+2CO↑
3Si+LiSiO→4SiO↑+4Li↑ ・・・(4)
式(3)の前段部から分かるように、Si単体が共存する状況下でLiOHを加熱して焼成することにより、珪酸リチウム(LiSiO)が生成すると同時に、余計な元素であるHがガス成分として取り除かれる。その結果、焼成物は珪酸リチウム(LiSiO)と、残ったSi単体との混合物となる。これは、先の実施形態で用いたSi、O及びLiを含有する原料に対応する。
そして、この焼成物を2次原料として、減圧下で加熱を続ける。そうすると、式(3)の後段部に示すように、2次原料中では、Si単体が共存する状況下で珪酸リチウム(LiSiO)が加熱されることにより、当該珪酸リチウム(LiSiO)からSiガスとLiガスが同時に発生する。ここにおける発生ガスを同一面上で冷却して回収することにより、Li濃度分布が均一な負極材用粉末が得られることも先の実施形態の場合と同様である。2次原料の加熱を続ける代わりに、その2次原料を新たに加熱し直してもよい。
かくして、Si単体及びLiOHを含む1次原料を加熱焼成することにより、Si単体及び珪酸リチウムを含む原料(Si・珪酸リチウム含有原料)が得られ、これを2次原料として加熱することによりSiOガスとLiガスを同時に発生させることができる。このときも、特に2次原料の加熱処理においては、反応温度がSiの融点(1414℃)より十分に低い1400℃未満で、LiSiOの融点(1255℃)以上とされる。
LiOHの代わりにLiCOを用いることもできる。すなわち、Si粉末とLiSiO粉末とを混合する。必要に応じて、O量調整のためにSiO粉末を混合する。この混合粉末を1次原料として、反応容器内に仕込み、Ar雰囲気中で加熱して焼成する。Si単体が共存する状況下でLiCOを加熱したときの反応は、化学式で示すと、式(4)の前段部のように推定される。
式(4)の前段部から分かるように、Si単体が共存する状況下でLiCOを加熱して焼成することにより、珪酸リチウム(LiSiO)が生成すると同時に、余計な元素であるCがガス成分として取り除かれる。その結果、焼成物は珪酸リチウム(LiSiO)と、残ったSi単体との混合物となる。これは、先の実施形態で用いたSi、O及びLiを含有する原料に対応する。
そして、この焼成物を2次原料として、減圧下で加熱を続けると、式(4)の後段部に示すように、2次原料中では、Si単体が共存する状況下で珪酸リチウム(LiSiO)が加熱されることにより、当該珪酸リチウム(LiSiO)からSiガスとLiガスが同時に発生する。ここにおける発生ガスを同一面上で冷却して回収することにより、Li濃度分布が均一な負極材用粉末が得られることは、先の実施形態の場合と同様である。2次原料の加熱を続ける代わりに、その2次原料を新たに加熱し直してもよい。
かくして、Si単体及びLiCOを含む1次原料を加熱焼成することによっても、Si単体及び珪酸リチウムを含む原料(Si・珪酸リチウム含有原料)が得られ、これを2次原料として加熱することによりSiOガスとLiガスを同時に発生させることができる。LiOH又はLiCOを用いる代わりに、LiOH及びLiCOを用いることもできる。
このときも、特に2次原料の加熱処理においては、反応温度がSiの融点(1414℃)より十分に低い1400℃未満、好ましくは〔Siの融点(1414℃)-20℃=1389℃〕以下とする一方で、他方の粉末原料であるLiSiOの融点(1255℃)以上、好ましくは〔LiSiOの融点(1255℃)+50℃〕以上とする。
また、Si粉末の粒子径を30μm以下、望ましくは20μm以下とすると共に、Si粉末の珪酸リチウム粉末に対する量的バランスを、前述したとおり、Si粉末と珪酸リチウム粉末、すなわちLiSiO粉末とが過不足なく反応する場合のSi量を1として1倍超から1.2倍までの範囲とする。
なお、実施形態における化学反応を化学式(1)~(4)で示したが、これは現象を単純化したモデルケースでの推定反応であり、実際の反応ではO量調整のためにSiO等が加えることなどもあって、更に複雑な反応となることが予想される。
(実施例1)
Si粉末とLiSi粉末とを3.09:1のモル比で混合した。混合粉末の元素比はSi:Li:O=1:0.4:1である。Si粉末とLiSi粉末とが過不足なく反応する場合のモル比は3:1であるから、これに比してSi量は1.03倍となる。
また、Si粉末の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定により2.5μmであり、LiSi粉末の平均粒子径は、同じくレーザー回折式粒度分布測定により25μmであった。粒度分布測定装置としてはMastersizer 2000(マルバーン・パナリティカル社製)を使用し、分散媒としてはイソプロピルアルコールを使用した。また、粒度分布測定に際しては、LiSiの屈折率はSiOに順ずるものとして、体積基準で平均粒子径D50を算出した。
そして、この混合粉末10gを原料としてカーボン製の反応容器に仕込み、10Paの減圧下で1350℃に加熱した。加熱には高周波誘導コイルを利用し、30分で目的温度まで昇温、その後30分温度を維持し、発生したガスを反応容器内の上部に配置された蒸着台で冷却し回収した。そして、回収された材料(析出物)をジルコニア容器及びボールを用いたボールミルにより粉砕して負極材粉末とした。
負極材粉末の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定により4.6μmであった。粒度分布測定に際し、負極材粉末の屈折率はSiに順ずるものとした。また、その粉末のLi量(Li/Si)及びO量(O/Si)は、ICP発光分析法による測定で0.38及び1.03であった。
得られた負極材粉末に対し、回転式加熱炉によりAr雰囲気下で700℃に昇温後、プロパンガスを導入することで、Cコート処理を実施した。Cコート後の粉末の平均粒径をレーザー回折式粒度分布測定により調べたところ4.8μmであった。またBET比表面積測定装置により測定した表面積は3.5m2/g、赤外線吸収法によって測定したC量は2.4wt%であり、これらから求めたCコートの平均膜厚は3.1nmであった。
得られた粉末試料と非水系(有機系)バインダーであるPIバインダーと、導電助材であるKBとを80:15:5の重量比で混合し、有機系のNMPを溶媒として混練してスラリーとした。作製したスラリーを銅箔上に塗工し、350℃で30min真空熱処理することで負極とした。この負極と対極(Li箔)と電解液(EC:DEC=1:1)と電解質(LiPF1mol/L)とセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルム30μm厚)とを組み合わせてコインセル電池を作製した。
作製されたコインセル電池に充放電試験を実施した。充電は、電池の両極間の電圧が0.005vに達するまでは0.1Cの定電流で行い、電圧が0.005Vに達した後は電流が0.01Cになるまで定電位充電で行った。放電は、電池の両極間の電圧が1.5Vに達するまでは0.1Cの定電流で行った。
この充放電試験により、初回充電容量及び初回放電容量を測定して、初回充放電効率を求めた。また、50サイクル後の容量維持率を調べた。結果、初回充電容量1827mAh/g、初回放電容量1473mAh/g、初回充放電効率80.7%、50サイクル後の容量維持率が82.2%であり、良好な電池特性を有していることが分かった。
(実施例2)
ガス発生反応の加熱温度を1385℃とした以外は実施例1と同様の条件にて、負極材粉末を得た。
(比較例1)
ガス発生反応の加熱温度を1400℃とした以外は実施例1と同様の条件にて、負極材粉末を得た。
(比較例2)
ガス発生反応の加熱温度を1000℃とした以外は実施例1と同様の条件にて、負極材粉末を得た。
(実施例3)
Si粉末とLiSi粉末とを3.6:1のモル比で混合した。混合粉末の元素比はSi:Li:O=1:0.4:1である。Si粉末とLiSi粉末とが過不足なく反応する場合のモル比は3:1であるから、これに比してSi量は1.2倍となる。その他の条件は実験例1と同様として負極材粉末を得た。
(実施例7)
Si粉末とLi2Si2O5粉末とを3:1のモル比で混合した。Si粉末とLi2Si2O5粉末とが過不足なく反応する場合のモル比は3:1であるから、これに比してSi量は1.00倍となる。その他の条件は実験例1と同様として負極材粉末を得た。
(実施例4)
使用するSi粉末の平均粒子径を、レーザー回折式粒度分布測定により18μmであるものとし、その他の条件は実験例1と同様として負極材粉末とした。
(比較例3)
使用するSi粉末の平均粒子径を、レーザー回折式粒度分布測定により35μmであるものとし、その他の条件は実験例1と同様として負極材粉末とした。
(比較例4)
ガス発生反応の加熱温度を1400℃とし、Si粉末とLi2Si2O5粉末とを3:1のモル比で混合し(Si量がLi2Si2O5粉末と過不足なく反応する場合の1.00倍)、使用するSi粉末の平均粒子径を、レーザー回折式粒度分布測定により35μmであるものとし、その他の条件は実験例1と同様として負極材粉末とした。
(実施例5)
Si粉末とLiSiO粉末とを2.06:1のモル比で混合した。Si粉末とLiSiO粉末とが過不足なく反応する場合のモル比は2:1であるから、これに比してSi量は1.03倍となる。また、Si粉末の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定により2.5μmであり、LiSiO粉末の粒子径は、同じくレーザー回折式粒度分布測定により22μmであった。
そして、この混合粉末10gを原料としてカーボン製の反応容器に仕込み、10Paの減圧下で1350℃に加熱した。加熱には高周波誘導コイルを利用し、30分で目的温度まで昇温、その後30分温度を維持し、発生したガスを反応容器内の上部に配置された蒸着台で冷却し回収した。そして、回収された材料(析出物)をジルコニア容器及びボールを用いたボールミルにより粉砕して負極材粉末とした。
(実施例6)
Si粉末とLiSiO粉末とを3.09:1のモル比で混合した。Si粉末とLiSiO粉末とが過不足なく反応する場合のモル比は3:1であるから、これに比してSi量は1.03倍となる。また、Si粉末の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定により2.5μmであり、LiSiO粉末の粒子径は、同じくレーザー回折式粒度分布測定により24μmであった。
そして、この混合粉末10gを原料としてカーボン製の反応容器に仕込み、10Paの減圧下で1350℃に加熱した。加熱には高周波誘導コイルを利用し、30分で目的温度まで昇温、その後30分温度を維持し、発生したガスを反応容器内の上部に配置された蒸着台で冷却し回収した。そして、回収された材料(析出物)をジルコニア容器及びボールを用いたボールミルにより粉砕して負極材粉末とした。
各実施例、比較例の条件および反応率を表1に示す。反応率は蒸着物重量/原料重量にて求めた。反応率は反応時間中に発生したガス量を表しており、反応速度と相関がある。また、実施例、比較例の負極材について、炭素被覆、および被覆前後における電池評価を行い、いずれも負極材として問題なく機能していることを確認した。
実施例1~2、7及び比較例1~2の結果から分かるように、反応温度を所定の範囲とすることで、短時間で反応が進み、反応率が増加している。比較例1では反応温度が高いため、一部Siが溶融し、反応速度が低下した。比較例2では珪酸リチウムが溶融せず、反応面積が小さくなった上、温度が低いため、ほとんど反応しなかった。
実施例1、3、7の結果から分かるように、Si量を所定の範囲とすることで、効率よく反応が進み、反応率が増加している。実施例7では一部珪酸リチウムが溶融して反応容器底部にたまり、未反応で残留した。
実施例1、4、7及び比較例3の結果から分かるように、Si粒子径を所定の範囲とすることで、短時間で反応が進み、反応率が増加している。比較例3ではSi粒子径が大きいために反応面積が減少し、反応速度が低下した。
また、実施例5、6で示すように、珪酸リチウムの組成が変わった場合でも、同様に高い反応速度を達成できる。
Figure 0007058251000001

Claims (4)

  1. Si、Li及びOを含み、前記Siの一部がSi粉末として存在し、前記Liが珪酸リチウムとして存在するSi・珪酸リチウム含有原料を減圧加熱して、当該原料からガスを発生させるガス発生工程と、
    前記ガス発生工程で発生したガスを冷却して析出させる析出工程と、
    前記析出工程で生成された析出物を回収して粉末化する粉末化工程とを含んでおり、
    前記ガス発生工程における反応温度が、前記珪酸リチウムの融点以上、1400℃未満であり、
    且つ、前記Si・珪酸リチウム含有原料におけるSi粉末の粒子径が、体積基準で測定した平均粒径D50で0.05~30μmである酸化珪素系負極材の製造方法。
  2. 請求項1に記載の酸化珪素系負極材の製造方法において、
    前記ガス発生工程における反応温度が、前記珪酸リチウムの融点+50℃以上、Siの融点-25℃未満である酸化珪素系負極材の製造方法。
  3. 請求項1又は2に記載の酸化珪素系負極材の製造方法において、
    前記Si・珪酸リチウム含有原料におけるSi粉末の珪酸リチウムに対する量的バランスが、Si粉末と珪酸リチウムが過不足なく反応する場合のSi量を1として1倍超、1.2倍以下である酸化珪素系負極材の製造方法。
  4. 請求項1~3の何れかに記載の酸化珪素系負極材の製造方法において、
    前記粉末化工程で生成された粉末の粒子表面に炭素皮膜の形成処理を行う炭素被覆工程を含んでおり、
    前記炭素被覆工程における処理温度が900℃以下である酸化珪素粉末の製造方法。
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