JP7057919B2 - 下痢性貝毒ジノフィシストキシン1(DTX1)高生産能を有する有毒渦鞭毛藻Prorocentrum株 - Google Patents

下痢性貝毒ジノフィシストキシン1(DTX1)高生産能を有する有毒渦鞭毛藻Prorocentrum株 Download PDF

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IPOD FERM P-22357 IPOD FERM P-22358
本発明は、下痢性貝毒ジノフィシストキシン1(DTX1)高生産能を有する有毒渦鞭毛藻Prorocentrum株及びその利用に関する。
下痢性貝毒とは、毒化した二枚貝等を摂食することに起因する、下痢をはじめとした消化器系障害を主な症状とする食中毒のことである。本中毒の原因毒として、オカダ酸 (okadaic acid: OA)とその同族体であるジノフィシストキシン群 (dinophysistoxins: DTXs)が知られている。さらに、本毒は発ガンプロモーター活性を有することも知られていることより、これらにより毒化した二枚貝の摂食により起こる本中毒は、公衆衛生上大きな問題となっている。下痢性貝毒による食中毒を防ぐために、わが国では、水揚げされた二枚貝の毒力は定期的に検査されている。その際、毒力が規制値を超えると生産者による出荷自主規制措置が講じられる。このことより、本貝毒による経済的損失は極めて大きい。近年欧米諸国において、高精度かつ高感度な高速液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いた機器分析法による本貝毒検査が行われている。日本では、2017年4月からマウス法が廃止され、下痢性貝毒公定法が本機器分析法に1本化される。この機器分析法を行う際には、本中毒の原因毒であるOAやジノフィシストキシン1 (DTX1)等の標準物質が必須となる。このうち、DTX1は国内二枚貝の主要毒であることから、とりわけ重要である。これらの標準物質としては、これまでNational Research Council Canada (NRC)が製造・販売している認証標準物質が主として使用されているが、国際的な同標準物質の需要の増加に伴い、その在庫量は不足しがちとなっている。また、OAおよびDTX1は複雑な化学構造をとっているため、化学的に合成し、標準品を供給することは極めて困難である。これより、下痢性貝毒標準物質、とりわけ需要の多いDTX1を効率良く製造するためには、同毒を高効率に産生する生物を探索し、これを大量培養することが必要となる。これら下痢性貝毒を産生する生物として、渦鞭毛藻のプロロセントラム(Prorocentrum)属が知られている。本属藻は光合成によって増殖するため、簡便に有毒な藻体を確保することが可能となる。また、本属はこれまでに約60種類が世界中から記載報告されているが、それら各種の中でも、プロロセントラム・リマ(Prorocentrum lima)がDTX1をはじめとする下痢性貝毒をより多く産生することが報告されている(非特許文献1-3)。
Suzuki T, Watanabe R, Yoshino A, Oikawa H, Uchida H, Matsushima R, Nagai S, Kamiyama T, Yamazaki T, Kawaguchi M, Yarita T, Takatsu A. 2015. Preparation of Diarrhetic Shellfish Toxins (DSTs) and Paralytic Shellfish Toxins (PSTs) by Large Algal Culture and Chemical Conversion. In: MacKenzie AL. (Ed.), Proceedings of the 16th International Conference on Harmful Algae, pp. 34-39. Wang S, Chen J, Li Z, Wang Y, Fu B, Han X, Zheng L. 2015. Cultivation of the benthic microalga Prorocentrum limafor the production of diarrhetic shellfish poisoning toxins in a vertical flat photobioreactor. Bioresour. Technol. 179, 243-248. Nascimento SM, Purdie DA, Morris S. 2005. Morphology, toxin composition and pigment content of Prorocentrum lima strains isolated from a coastal lagoon in southern UK. Toxicon 45, 633-649.
本発明は、DTX1をはじめとする下痢性貝毒を高効率に生産する生物を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明者らは、まず日本沿岸域の各地点よりProrocentrum limaと思われる細胞を分離し、多数の本種培養株を確立した。さらにこれら培養株について、DTX1量を測定することにより、DTX1高産生株を複数選抜した。さらに、これらを精密な培養試験に供することにより、DTX1含量、最大DTX1収量及びDTX1産生速度の観点から、DTX1の標品生産にとりわけ適した特性を有する培養株を選抜した。さらに、最終的に選抜した培養株について、形態観察を行うとともに、同株を特徴付ける形質として重要となるその分子系統学的位置を明らかにし、この選択した培養株がProrocentrum limaであると同定した。
発明者らは、上記知見に基づき更に検討を加え、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は下記の通りである:
[1]ジノフィシストキシン1産生能を有する、受託番号FERM P-22357で表されるプロロセントラム・リマ株。
[2]ジノフィシストキシン1産生能を有する、受託番号FERM P-22358で表されるプロロセントラム・リマ株。
[3][1]又は[2]記載のプロロセントラム・リマ株の培養物。
[4][1]又は[2]記載のプロロセントラム・リマ株の培養物からジノフィシストキシン1及び/又はオカダ酸を単離することを含む、ジノフィシストキシン1及び/又はオカダ酸の製造方法。
本発明のプロロセントラム・リマ株を用いれば、DTX1、OAをはじめとする下痢性貝毒を高効率に生産することができる。
日本産Prorocentrum limaの108株における、毒産生能および増殖能に関する上位30株の比較。A: DTX1含量。B: DTX1収量。C: 細胞収量。灰色縦棒: 選抜株。白色縦棒: 非選抜株。 日本産Prorocentrum limaの4株をSWII+GJ1培地中にて60日間培養した場合に得られる、培地1mL当たりのDTX1収量ならびにOA収量の変動。A: DTX1収量の変動。B: OA収量の変動。 日本産Prorocentrum limaの4株をSWII+GJ1培地中にて培養した場合に得られる最大DTX1収量ならびに最大OA収量。A: DTX1収量。 B: OA収量。 異なるアルファベットは互いに有意に異なることを示す(Turkey-Kramer test, p<0.01, *p<0.05) 。灰色横棒: 本試験の結果。白色横棒: 過去に報告された研究の結果。*1:Suzuki et al. (2015)の報告した値に基づき、算出した値。*2: Wang et al. (2015)の報告した値に基づき、算出した値。*3: Nascimento et al. (2005)の報告した値に基づき、算出した値。 日本産Prorocentrum limaの4株をSWII+GJ1培地中にて培養した場合に得られるDTX1産生速度ならびにOA産生速度。A: DTX1産生速度。 B: OA産生速度。 異なるアルファベットは互いに有意に異なることを示す(Turkey-Kramer test, p<0.01, * p<0.05)。 灰色横棒: 本試験の結果。白色横棒: 過去に報告された研究の結果。*1: Suzuki et al. (2015)の報告した値に基づき、算出した値。*2: Wang et al. (2015)の報告した値に基づき、算出した値。*3: Nascimento et al. (2005)の報告した値に基づき、算出した値。 日本産Prorocentrum lima選抜株(MIO12P株およびAOF55P株)のLSU rDNA D1/D2領域に基づくNJ法による分子系統樹。黒字: P. lima。 灰色字: P. hoffmannianum。 太字: 本試験で確立した選抜株。
本発明は、受託番号FERM P-22357で表されるプロロセントラム・リマ株(以下、MIO12P株と呼ぶ場合がある)を提供する。また、本発明は、受託番号FERM P-22358で表されるプロロセントラム・リマ株(以下、AOF55P株と呼ぶ場合がある)を提供する。
受託番号FERM P-22357で表されるプロロセントラム・リマ株及び受託番号FERM P-22358で表されるプロロセントラム・リマ株は、それぞれ、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター (NPMD)に寄託されている(受託日:平成30年2月21日)。
MIO12P株及びAOF55P株は、通常の培養条件下において、以下のようなプロロセントラム・リマに特徴的な表現形質を有している:
(1)細胞は扁平で縦長の楕円形をしており、前端は後端と比較してやや尖っている。
(2)細胞の長さは30-60μm程度、横幅は20-50μm程度である。
(3)色は黄褐色から茶褐色である。
MIO12P株及びAOF55P株は、1細胞に含まれるDTX1含有量が高く、例えば、1細胞当たり30 pgを超える(例、MIO12P株では35-45 pg/cell程度、AOF55P株では40-50 pg/cell程度)DTX1含有量が期待できる。
MIO12P株及びAOF55P株は、単位培地体積当たりの最大DTX1収量が高い。MIO12P株については、例えば培地1 mL当たり1000 ngを超える(例、1100-1200 ng/mL)最大DTX1収量が期待できる。AOF55P株については、例えば培地1 mL当たり500 ngを超える(例、600-700 ng/mL)最大DTX1収量が期待できる。
また、MIO12P株及びAOF55P株は、単位培地体積当たりのDTX1産生速度が高い。このことは、MIO12P株及びAOF55P株は、DTX1を高産生しながら良好に増殖することを意味する。
このように、MIO12P株及びAOF55P株は、高いDTX1産生能を有するので、DTX1の産生に有用である。とりわけ、MIO12P株は、極めて高い最大DTX1収量と極めて高いDTX1産生速度を併せ持っているので、工業的なDTX1産生に適している。
また、MIO12P株及びAOF55P株は、DTX1のみならずOAについても高い産生能を有するので、OAの産生に有用である。
プロロセントラム・リマの培養方法は公知であり(例、Bioresource Technology, Volume 179, March 2015, Pages 243-248)、これらの公知の培養方法に従って、MIO12P株及びAOF55P株の培養を実施することができる。培養に用いる培養液としては、天然海水や、人工海水等が用いられ、必要により栄養塩(ビタミン、金属塩等)等を加えてもよい。好適な培養液としてmetals mix SWII培地 (Harmful and Toxic Algal Blooms. Intergovernmental Oceanographic Commission of UNESCO, pp. 305-308., 1996)を挙げることができる。培養温度は、通常、20-30℃(例、25℃)である。MIO12P株及びAOF55P株は光要求性なので、培養にあたっては、植物育生蛍光灯や白色蛍光灯等により光を照射することが必要である。このうち植物育生蛍光灯は、430nmないし660nm程度の波長の光を照射することができるものであり、白色蛍光灯を利用した場合より、高い増殖性が期待できる。光の照射は連続的であっても断続的であってもよい。断続的な照射を行う場合、例えば、12ないし18時間連続照射(明時間)した後、12ないし6時間照射を止める(暗時間)というサイクルを繰り返す。光強度は、通常100 μmol photons/m2・s程度である。MIO12P株及びAOF55P株は、付着性の微細藻類であり、培養容器の底面に付着した状態で生育する。継代にあたっては、ピペッティングやセルスクレイパー等により細胞を底面から剥離し、培養液に懸濁し、一部を新鮮な培養液に植え継ぐ。また、特開2009-118785に記載されているように、培養容器として底の浅い平底容器を用い、当該平底容器と循環可能に設置された吸着剤カラムを通して培養液を浄化しつつ、植物育生蛍光灯を照射しながら、当該底容器中でMIO12P株又はAOF55P株を培養してもよい。
このようにMIO12P株又はAOF55P株を培養することにより、MIO12P株又はAOF55P株の培養物を得ることができる。本発明は当該培養物をも提供する。「培養物」とは、細胞を培養することにより得られる結果物をいう。従って、MIO12P株又はAOF55P株の培養物には、MIO12P株又はAOF55P株の細胞自体に加えて、それらを培養する培養液、MIO12P株又はAOF55P株から分泌された成分(例、DTX1、OA等)等が含まれる。MIO12P株又はAOF55P株の培養物は、DTX1及び/又はOAを含有する。
上記本発明の培養物から、DTX1及び/又はOAを単離することにより、DTX1及び/又はOAを製造することができる。本発明はこのような、DTX1及び/又はOAの製造方法をも提供する。培養物からのDTX1及び/又はOAの単離は、例えばNorte et al., Tetrahedron, vol. 50, no. 30, p. 9175-9180, 1994、特開2011-15677等に記載された方法により、実施することができる。例えば、培養物に含まれる藻体をメタノール抽出に付し、メタノール抽出物から液液分配の後、アルミナ及びシリカゲルクロマトカラム、中圧逆相クロマトカラムにより、DTX1及び/又はOAを含有する粗分画を得て、最終的にHPLC分取精製を行う。NMRにより単離物が目的とするDTX1又はOAであることを確認することができる。
以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、実施例は本発明の単なる例示を示すものにすぎず、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
1. 方法
1.1 海藻試料採取と培養株の確立
2014年から2015年にかけて、日本沿岸域の7地点 (秋田県男鹿市船川港台島鵜ノ崎、宮城県石巻市荻浜、千葉県鋸南町岩井袋、高知県室戸市甲浦、高知県香南市手結岬、沖縄県うるま市中城湾および沖縄県本部町石川)より海藻試料を採取し、それに付着するProrocentrum limaと思われる細胞を単離・培養することにより培養株を作成した。具体的には、各沿岸海域において、海藻試料をそれぞれ5 g程度採取し、ポリビン (広口角型規格瓶 500 ml, 三商社製)に入れ密封した。この際、可能な限り、1種類の海藻と400 ml程度の現場海水をポリビンに入れ、保冷箱に梱包し研究室へ持ち帰った。これら海藻試料に付着しているProrocentrum limaと思われる細胞を剥離させるために、本海藻試料を含むポリビンを勢いよく200回程度振った。次に、ポリビン内の海水を150 μm (もしくは200 μm)のナイロンメッシュにて濾過することにより150 μm (もしくは200 μm)以上の堆積物等を取り除き、続いてその濾液を20 μm (もしくは10 μm)のナイロンメッシュを用いて濾過することにより、そのメッシュ上に海藻付着性微細藻画分を集めた。この後、上記の処理を行った海藻を含むポリビンに、あらかじめガラス繊維ろ紙GF/F (粒子保持能 0.7 μm, ワットマン社製)を用いて濾過した高知県室戸市より採取した海洋深層水 (塩分: 33 PSU程度)を約100 mL加え、再度同様に処理することにより同ナイロンメッシュ上に海藻付着性微細藻画分を集めた。この一連の作業工程を、剥離処理後のポリビン内の試水が透明となるまで繰り返し行い、最終的に10 mLの濃縮付着性微細藻画分を調製した。次に、本濃縮画分を6穴マイクロプレート (AGCテクノグラス社製)の穴に分注した。この際、本微細藻画分に含まれる藻体量に応じて100-3,000 μL程度の範囲で分注した。また、分注した濃縮液量が少ない場合には、これらの穴に前述した濾過海水を加え、最終的にその液量を1穴当たり2,000-3,000 μL程度になるように調整した。
付着性微細藻類の濃縮調製画分を分注した6穴マイクロプレートを倒立型システム顕微鏡 IX-70 (オリンパス社製)下にて観察し、Prorocentrum limaと思われる細胞を毛細管状に加工したパスツールピペット IK-PAS-9P (AGCテクノグラス社製)を用いて単離・洗浄した。あらかじめ、前述した濾過海水を用いてmetals mix SWII培地 (表1, Matsuda et al. 1996)を調製し、オートクレーブ滅菌した。
Figure 0007057919000001
これを、乾熱滅菌したホールスライドガラスの各穴に下記の割合にて混合・分注した。すなわち、1穴目にはmetals mix SWII培地とオートクレーブ滅菌済みの濾過海水を1:9となるように混合した10%-metals mix SWII培地を、2穴目には同様に5:5となるように混合した50%-metals mix SWII培地を、3穴目には9:1となるように混合した90%-metals mix SWII培地をそれぞれ調製・分注した。まず、10%-metals mix SWII培地を分注した穴に、パスツールピペットを用いることにより吸引した1細胞を滴下し、これを洗浄した。次に、本細胞を同様に吸引・分離し、50%-metals mix SWII培地、さらには90%-metals mix SWII培地を分注した穴に順に移すことにより洗浄し、可能な限り他生物を除去した。次に、オートクレーブ滅菌済みのmetals mix SWII培地に、後述する無菌濾過済のトコロテン抽出液を最終濃度が5%になるように無菌的に加えた培地 (metals mix SWII+GJ5培地)を24穴マイクロプレート (AGCテクノグラス社製)のそれぞれの穴に0.5 mLずつ分注し、前述した単離・洗浄済みの細胞を1細胞ずつ移した。本プレートを光強度100 μmol photons/m2/s、明暗周期12h明:12h暗のサイクルのもとで、グロースチャンバー MLR-350もしくはMLR351 (三洋電機社製)内で25°Cにて約1ヶ月間静置培養した。約1か月後、後述する無菌濾過済のトコロテン抽出液を最終濃度が10%になるように無菌的に加えた培地 (metals mix SWII+GJ10培地)を24穴マイクロプレート (AGCテクノグラス社製)のそれぞれの穴に1 mLずつ分注し、上述した培養条件のもとにて、1-2ヶ月間静置培養した。その後、各培養液を0.52 mL採取し、そのうち0.02 mLをとり、滅菌濾過海水を用いて適宜希釈することにより細胞懸濁液を調製した。これを倒立型システム顕微鏡 IX-70 (オリンパス社製)下において、細胞を3回直接計数した。その後、残りの細胞懸濁液0.5 mLを-80 ℃ (MDF-U33V, 三洋電機社製)にて速やかに冷凍保存し、後述する下痢性貝毒の分析に用いた。
無菌濾過済のトコロテン抽出液は下記の要領により調製した。まず、市販のトコロテン (約500g/個, 横山麺業社製)を-80℃において1週間以上凍結保存した後、流水中にて溶解させた。この溶解したトコロテンを、水切りネットの内側にキムタオル (日本製紙クレシア社製)を敷き詰めた中に注ぎ入れ、トコロテンから液体が染み出さなくなるまで絞った。得られた液を、定性濾紙 (No. 2, 粒子保持能 5 μm, アドバンテック社製)、ガラス繊維ろ紙GF/C (粒子保持能 1.2 μm, ワットマン社製)、ガラス繊維ろ紙GF/B (粒子保持能 1.0 μm, ワットマン社製)、ガラス繊維ろ紙GF/F (粒子保持能 0.7 μm, ワットマン社製)、オムニポア (JHWP, 孔径 0.45 μm, ミリポア社製)、MF-ミリポア (GSWP, 孔径 0.22 μm, ミリポア社製)の順に、吸引濾過瓶および実験室用真空ポンプ (2522C-05, WELCH社製)を用いて濾過した。得られた濾液を、MF-ミリポアを組み入れた後オートクレーブ滅菌を行った47mmポリサルホンホルダー (KP-47S, アドバンテック社製)および実験室用真空ポンプ (2522C-05, WELCH社製)を用いてクリーンベンチ(三洋電機社製)内にて濾過することにより、無菌濾過済のトコロテン抽出液 (約350-400 mL)を調製した。
培養株を維持するための継代培養には、60 mL容平底試験管 (培養チューブ7号, マルエム社製)を使用し、これにmetals mix SWII培地20 mLを分注後オートクレーブにより滅菌し、1カ月毎に植え継いだ。
1.2 培養株のスクリーニング
冷凍保存した各Prorocentrum 属培養株の懸濁液について、LC-MS/MSによる下痢性貝毒 (DTX1およびOA)量の分析を行った。すなわち、培養株の懸濁液を解凍し、超音波処理した後にポリフッ化ビニリデン膜 (PVDF膜 0.2 μm メルクミリポア社製)を用いて濾過した。得られた濾液を1 mLのバイアルに分注し、LC-MS/MS分析により、OAおよびDTX1を定量した (Suzuki et al., 2011)。LCとして島津社製のNexcera XRを用い、MS/MSとしてAB SCIEX社製の4500Qtrapを用いた。カラムはHypersil BDS C8 (50 mm× 2.1 mm I.D., Thermo Fisher Scientific社製)を用いた。移動相はA液として50 mMギ酸, 2 mMのギ酸アンモニウムを含む超純水、B液として50 mMギ酸, 2 mMのギ酸アンモニウムを含むアセトニトリル:超純水 (95:5, v/v)の二相を用いたグラジエント溶出法により、OA/DTX1を分離した。クロマトグラムのOA/DTX1のピーク面積から培養株の懸濁液中に含まれるOA/DTX1の濃度 (ng/mL)を算出した。
得られた毒分析の結果について、それぞれの培養株の1細胞当たりのDTX1含量 (pg/cell)、培養液1 mL当たりのDTX1収量 (ng/mL)、および培養液1 mL当たりの細胞収量 (cells/mL)を比較し、それぞれの上位に位置する株を選抜した。
1.3 培養試験による下痢性貝毒産生能の評価
下痢性貝毒、とりわけDTX1の大量生産に至適な株を選抜するため、培養試験を行った。Prorocentrum属供試株には、秋田県男鹿市船川港台島鵜ノ崎より分離したAOF55P株、宮城県石巻市荻浜より分離したMIO12P株およびMIO34P株、ならびに沖縄県本部町石川より分離したOMI29P株の計4株を用いた。まず、培養株の生育段階を統一するため、前培養を行った。すなわち、オートクレーブ滅菌を行ったガラス器具およびマイクロチップを用いて、クリーンベンチ内にて100 mL容フラスコにオートクレーブ滅菌したmetals mix SWII培地を49.5 mL分注した。さらに、これに最終濃度が1%になるように0.5 mLのトコロテン抽出液を無菌的に加えることにより50 mLのmetals mix SWII+GJ1培地調製した。その後、各供試株の対数増殖期の細胞を、前述した培地にそれぞれ接種し、(1.1)と同様の培養条件下にて対数増殖期に達するまで約2週間培養した。
本培養を行うために、前培養と同様の方法により、クリーンベンチ内にて滅菌器具を用いて培地を調製した。すなわち、60 mL容平底試験管 (培養チューブ7号, マルエム社製)にオートクレーブ滅菌したmetals mix SWII培地を29.7 mL分注し、これに無菌濾過済のトコロテン抽出液を0.3 mL加えることにより、1%のトコロテン抽出液を含む30 mLのmetals mix SWII+GJ1培地を調製した。これに、対数増殖期に達した供試藻4株の前培養液を、初期接種密度が1,000 cells/mLとなるように3本立てで接種した。これらを、前述と同様の培養条件下にて60日間培養した。この培養期間中、3株 (AOF55P株、MIO12P株およびOMI29P株)についてはおよそ3-4日毎に、MIO34P株についてはおよそ10日毎に1回程度試験管内の培養液をボルテックス・ミキサー (Vortex-Genie 2, model G560; サイエンティフィックインダストリーズ社製)により10秒間攪拌した。この際、10 mLのピペットチップ (Finntip Pipet Tip 1 to 10 mL Volume, Thermo Scientific社製)を装着し、その吐出量をあらかじめ4 mLに設定したFinnpipette Digital 2-10 ml (Thermo Scientific社製)により培養液を30回出し入れすることにより培養液を攪拌し、試験管底および側面に付着しているProrocentrum属細胞を剥離・懸濁させた。その後、各細胞懸濁液から1 mLを採取し、これより100 μLずつ3回とり、界線縦線枠付スライドガラス (白縁磨No.2, 松浪硝子工業株式会社)を用いて、倒立型システム顕微鏡 IX-70 (オリンパス社製)下で細胞を直接計数した。この際、細胞数が多く計数が困難な場合は滅菌濾過海水を用いて適宜希釈を行った。得られた細胞計数値に基づき、3本立て試料のそれぞれについて細胞密度を算出した。その後、細胞懸濁液を0.5 mLとり、-80 ℃ (MDF-U33V, 三洋電機社製)にて速やかに冷凍保存した。冷凍保存した各Prorocentrum 属培養株の懸濁液を用いて、(1.2)に記した方法に従って、LC-MS/MSによる下痢性貝毒 (DTX1およびOA)量の分析を行った。各細胞懸濁試料の下痢性貝毒量の分析結果と、前述した各試料の細胞密度の結果より、培地1 mL当たりの最大毒収量 (ng/mL)、1日当たりかつ培地1mL当たりの毒産生速度 (ng/mL/day)を算出し、エクセル統計2016 (SSRI社製)を用いてTurkey-Kramer testによる有意差検定を行った。これにより、他株と比較して高いDTX1収量およびDTX1産生速度が得られた株を、その大量生産に適する株として選抜した。
1.4 分子系統解析
(1.3)において選抜した2株 (MIO12P株およびAOF55P株)について、それぞれの培養株を継代維持している試験管から培養液各1 mLをとり、これを1.5 mL容遠沈管 (Greiner Bio-one社製)に移し、マイクロ冷却遠心機 (KUBOTA3740, ローター番号: KUBOTA AF-2536A, KUBOTA社製)を用いて遠心分離 (10,000 rpm×2 min, 20℃)した。その後、上清を捨て、下記の要領により細胞を洗浄した。すなわち、得られた沈殿画分に含まれる塩類を出来るだけ除くために、本画分に200 μLの注射用水 (ニプロファーマ社製)もしくはオートクレーブ滅菌した超純水を加えた。ボルテックス・ミキサー (Vortex-Genie 2, model G560; サイエンティフィックインダストリーズ社製)により細胞を懸濁させた後、遠心分離 (10,000 rpm×2 min、20℃)を行った後、その上清を捨てた。
本属藻類のLSU rDNA D1/D3領域のPCR増幅は以下の手順で行った。すなわち、0.2 mL 8連PCRチューブ (NIPPON Genetics社製)に、注射用水 (ニプロファーマ社製) 11.7 μL、2×Gflex Buffer (Mg2+ 2 pmol/μL, dNTP 400 pmol/μL, TaKaRa Bio社製) 12.5 μL、後述する2種のプライマー (50 pmol/μL) 各0.15 μLおよびTks Gflex DNA Polymerase (1.25 U/μL、TaKaRa Bio社製) 0.5 μLを混合させPCR反応液を調製した。次に、前述した方法にて洗浄した本属藻細胞を、その先端が色付く程度となるようにチップに付着させ、これを前述したPCR反応液に懸濁させた。プライマーとして、LSU rDNA D1/D3領域を増幅するD1R (5′-ACC CGC TGA ATT TAA GCA TA-3′; Scholin et al. 1994a) (配列番号1)およびD3Ca (5′-ACG AAC GAT TTG CAC GTC AG-3′; Scholin et al. 1994b) (配列番号2)を用いた。調製した反応液を、PCR Thermal Cycler Dice TP 600 (TaKaRa Bio社製)に供することによりPCR反応を行なった。その反応条件は、98℃にて10秒間、55℃にて15秒間および68℃にて45秒間の反応を35サイクル行った。PCR産物は-25℃にて速やかに冷凍保存した。
PCRによる目的とする遺伝子断片の増幅の確認のために、アガロースゲル電気泳動を行った。電気泳動用緩衝液としてはTAE buffer (40 mM Tris, 0.4 mM CH3COOH, 1 mM EDTA, pH8.0) 20 mLを用いた。アガロースゲルの作成には、Agarose S (和光社製)を用い、1.5%のアガロースゲルを調製した。得られた各PCR増幅産物2 μLに2倍希釈した6×Loading Dye DNA用色素液 (プロメガ社製) 1 μLを加え、計3 μLの試料を調製し、これを電気泳動用試料とした。この際、ExcelBand 100 bp+3K DNA Ladder (スモバイオ社製)を分子量マーカーとして用いた。これらを電気泳動槽 (Mupid-2x, アドバンスバイオ社製)を用いて、100 Vで約30分間電気泳動を行った。電気泳動終了後、臭化エチジウムを用いて染色し、写真撮影を行った。
PCR増幅産物の電気泳動を行った際、目的とするDNA断片が単一バンドとして確認された場合、それらの塩基配列をダイレクトシークエンスにより決定するための試料調製のために、脱プライマーを目的としたPCR増幅産物の精製を行った。この際、以下に示すPEG8000溶液を用いた方法 (http://homepage1.nifty.com/genomic_art/protocols/PEG-chin.htm)により精製した。すなわち、PCR増幅産物に1/2量の30% PEG溶液を加え、チューブを指で5-6回はじき十分に混和した後、マイクロ冷却遠心機 (KUBOTA3740, ローター番号: KUBOTA AF-2536A, KUBOTA社製)を用いて遠心分離 (14,000 rpm ×15 min, 20℃)を行い、その後上清を捨てた。次に、遠心分離したチューブに70%エタノールを500 μL加え、同様に遠心分離を行って上清みを完全に捨てた後、注射用水 (ニプロファーマ社製)を20 μL加えてDNAを溶解させた。得られたDNA精製画分を、PCR精製産物 (脱プライマー処理済試料)とし、ライフサイエンス紫外可視分光解析システム DU 730 (ベックマン・コールター社製)を用いて、添付されている取扱説明書に従って分光光度的に各産物に含まれるDNA濃度を測定した。PCR精製産物は-25°Cにて速やかに冷凍保存した。
前述したPCR精製産物を鋳型として用い、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit (アプライドバイオシステムズジャパン社製)の取扱説明書に従って、サイクルシークエンシングPCRを行った。その反応条件を以下に示す。反応系10 μLは、DNAテンプレート1 μL (LSU rDNA D1/D3領域増幅断片: 約20 ng μL-1)、Big Dye Terminator v3.1 (アプライドバイオシステムズジャパン社製) 0.5 μL、5×Sequencing Buffer 2 μL、プライマー (3.2 pmol μL-1) 0.33 μL、注射用水 (ニプロファーマ社製) 6.17 μLからなる。ここでは、目的とするDNA断片の塩基配列を決定するために、プライマーD2C (5′-CCT TGG TCC GTG TTT CAA GA-3′; Scholin et al. 1994a) (配列番号3)を用いた。サーマルサイクルシーケンスPCRの反応条件は、取扱説明書に従った。得られた反応液は、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit (アプライドバイオシステムズジャパン社製)の取扱説明書に記載されているエタノール/EDTA/酢酸ナトリウム精製法を用いて精製した。得られた乾燥済み精製試料をHi-Diホルムアミド (アプライドバイオシステムズジャパン社製) 10 μlに溶解させ、これをABI PRISM 3100-Avant Genetic Analyzer (アプライドバイオシステムズジャパン社製)に供することにより、各試料のDNA塩基配列を決定した。
決定したProrocentrum培養2株のDNA塩基配列を用いて、遺伝子解析ソフトGeneious 8.0.5 (Biomatters社製)により塩基配列の編集ならびに最終的な配列を決定した。得られた2株のLSU rDNA D1/D2領域の塩基配列を、NCBI (National Center for Biotechnology Information)のBLASTを用いてデータベース中の他生物のそれらと比較し、近縁な塩基配列をそれぞれ得た。次に、Geneious 8.0.5 (Biomatters社製)内でClustal W (Thompson et al., 1994)によりマルチプルアライメントを行った後、前後の不要な配列を削除し、最終的なマルチプルアライメント配列を得た。次にNeighbor joining method (NJ法: 近隣結合法)による分子系統樹を作成するために、MEGA7.0.14 (Kumar et al., 2016)を用いた。この際、NJ法を用いた系統樹を作成するためのモデル選択をMEGA7.0.14 (Kumar et al., 2016)のFind Best DNA/Protein Modelsオプションにおいて、Gaps/Missing Data TreatmentはPartial deletion、Site Coverage Cutoff (%)は70と設定し、最良のモデルを検討することにより、Tamura-Nei model + Gamma Distributed (G)を最良モデルとして選択した。その後、Gaps/Missing Data TreatmentはPartial deletion、Site Coverage Cutoff (%)は70、No. of Bootstrap Replicationsは1000に設定し、NJ法による分子系統樹を作成した。得られた分子系統樹はMEGA7.0.14 (Kumar et al., 2016)を用いて編集した。
1.5 形態学的特徴の検討
(1.3)において選抜した2株 (MIO12P株およびAOF55P株)の培養液を各1 mLずつとり、倒立型システム顕微鏡 IX-70 (オリンパス社製)のもとでこれに含まれる培養細胞の明視野観察を行った。また、Nikon 1 J1 (ニコン社製)を用いてこれらの細胞の写真を撮影した。撮影した画像データについて、細胞の大きさを測定した。これらの測定には、画像処理ソフトウェアのImageJ 1.42q (Wayne Rasband, National Institutes of Health, USA)を用いた。
2. 結果と考察
2.1 培養株の確立
海藻試料を採取した全ての地点よりProrocentrum属藻類を確認し、P. limaと思われる計108株を確立することに成功した。
2.2 培養株の下痢性貝毒分析によるスクリーニング
確立したP. limaと思われる計108株について、LC-MS/MSによる下痢性貝毒量の分析を行った。まず、それぞれの培養株の1細胞当たりのDTX1含量を比較した結果、AOF55P株およびMIO12P株が他の株と比較して高いことが明らかとなった (図1A)。次に、培地1 mL当たりのDTX1収量を比較した結果、MIO34P株およびMIO12P株が他の株と比較して高いことが明らかとなった (図1B)。さらに、培地1 mL当たりの細胞収量を比較した結果、OMI29P株が他の株と比較して高いことが明らかとなった (図1C)。以上の結果を考慮して、AOF55P株、MIO12P株、MIO34P株およびOMI29P株の4株を選抜株として、以降に述べる精密な培養試験に供し、その下痢性貝毒産生能を評価した。
2.3 選抜株の培養試験による下痢性貝毒産生能の評価
選抜したP. limaと思われる4株 (AOF55P株、MIO12P株、MIO34P株およびOMI29P株)について、培養試験により毒産生能を評価した。まず、培地1mL当たりのDTX1収量および同OA収量の変動について検討した結果、いずれの毒についても用いた4株は培養60日目にて最大値を示すことが明らかとなった (図2)。
次に、各株の培地1mL当たりの最大DTX1収量を比較した。その結果、その収量はMIO12P株、AOF55P株、 MIO34P株およびOMI29P株の順で高く、それぞれ1130.0±43.2、619.0±14.7、604.0±64.6および470.7±7.8 ng/mLであった (図3A)。また、MIO12P株の最大DTX1収量は、他の3株のそれらと比較して有意に高かった (Turkey-Kramer test, p<0.01) (図3A)。また、AOF55P株とMIO34P株のそれらはOMI29P株のそれと比較して有意に高かった (Turkey-Kramer test, p<0.05) (図3A)。その一方で、AOF55P株のそれとMIO34P株のそれとの間には有意な差は見られなかった (Turkey-Kramer test, p>0.05) (図3A)。さらに、本試験において確立した選抜4株の最大DTX1収量について、これまでに報告されている国内産P. lima株のうち第1位の値を示す株 (PL197株, Suzuki et al. 2015)、ならびに国外産P. lima株のうち第1位および第2位の値を示す株 (CCMP2579株および3.4g株, Wang et al. 2015, Nascimento et al. 2005)のそれらと比較した。その結果、4株の最大DTX1収量は、国内産PL197株のそれ (約82 ng/mL)、国外産CCMP2579株のそれ (約281 ng/mL)および国外産3.4g株のそれ (約280 ng/mL)をいずれも上回った (図3A)。また、最大OA収量についてはOMI29P株、MIO12P株、AOF55P株およびMIO34P株の順で高く、これらの収量は既報の国内外産株のそれらよりも高かった (図3B)。
次に、1日当たりかつ培地1 mL当たりのDTX1産生速度を比較した。その結果、MIO12P株、AOF55P株、MIO34P株およびOMI29P株の順で高く、それぞれ18.8±0.7、10.3±0.2、9.9±7.1および7.8±0.1 ng/mLであった (図4A)。また、MIO12P株のDTX1産生速度は、他の3株のそれらと比較して有意に高かった (Turkey-Kramer test, p<0.01) (図4A)。また、AOF55P株のそれはOMI29P株のそれと比較して有意に高かった (Turkey-Kramer test, p<0.05) (図4A)。その一方で、AOF55P株のそれとMIO34P株のそれとの間、MIO34P株のそれとOMI29P株のそれとの間には有意な差は見られなかった (Turkey-Kramer test, p>0.05) (図4A)。さらに、これら4株のDTX1産生速度を、上述した国内外産P. lima株 (PL197株、CCMP2579株および3.4g株)のそれらと比較した。その結果、MIO12P株のDTX1産生速度は、国内産PL197株のそれ (約1 ng/mL)を大きく上回り (図4A)、また国外産CCMP2579株のそれ (約8 ng/mL)および国外産3.4g株のそれ (約11 ng/mL)も上回った (図4A)。また、OA産生速度については、OMI29P株、MIO12P株、AOF55P株およびMIO34P株の順で高く、前2者のOA産生速度は国内外産株のそれらより高かった (図4B)。
2.4 選抜株の分子系統と形態学的特徴
高効率なDTX1生産に適する株と判断した2株 (MIO12P株およびAOF55P株)について、分子生物学的な観点から特徴付けを行うため、それらのLSU rDNA D1/D2領域の塩基配列を決定し、BLASTによる相同性検索を行った。その結果、Prorocentrum lima TIO124株 (アクセッションナンバー: KY010250)が最も両株との相同性が高かった (99%)。次に、日本産2株の塩基配列と近縁株のそれらをNCBIより取得し、分子系統解析を行った。その結果、いずれの株もP. lima株が形成するクレードに属した (図5)。このことより、日本産2株 (MIO12P株およびAOF55P株)は分子系統学的にP. limaであると判断した。
また、その形態的特徴の検討を行ったところ、いずれの株も細胞は扁平で縦長の楕円形をしており、前端は後端と比較してやや尖っていた。細胞の長さは30-60μm程度、横幅は20-50μm前後であった。色は黄褐色から茶褐色であった。これらの形態はいずれもP. limaの形質に合致した。以上の結果を考えあわせることにより、MIO12P株とAOF55P株をP. limaと同定した。
MIO12P株は受託番号FERM P-22357として、AOF55P株は受託番号FERM P-22358として、それぞれ、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター (NPMD)に寄託した(受託日:平成30年2月21日)。
3. 参考文献
Kumar S, Stecher G, Tamura K. 2016. MEGA7: Molecular evolutionary genetics analysis version 7.0 for bigger datasets. Mol. Biol. Evol. 33, 1870-1874.

Matsuda A, Nishijima T, Fukami K. 1996. Effects of nitrogen deficiency on the PSP production by Alexandrium catenella under axenic cultures. In: Yasumoto T, Oshima Y, Fukuyo Y. (Eds.), Harmful and Toxic Algal Blooms. Intergovernmental Oceanographic Commission of UNESCO, pp. 305-308.

Nascimento SM, Purdie DA, Morris S. 2005. Morphology, toxin composition and pigment content of Prorocentrum lima strains isolated from a coastal lagoon in southern UK. Toxicon 45, 633-649.

Scholin CA, Herzog M, Sogin M, Anderson DM. 1994a. Identification of groupand strain-specific genetic markers for globally distributed Alexandrium (Dinophyceae). II. Sequence analysis of a fragment of the LSU rRNA gene. J. Phycol. 30, 999-1011.

Scholin CA, Villac MC, Buck KR, Krupp JM, Powers DA, Fryxell GA, Chavez FP. 1994b. Ribosomal DMA sequences discriminate among toxic and non‐toxic Pseudonitzschia species. Nat. toxins 2, 152-165.

Suzuki T and Michael Q. 2011. LC-MS/MS Analysis of Diarrhetic Shellfish Poisoning (DSP) Toxins, Okadaic Acid and Dinophysistoxin Analogues, and Other Lipophilic Toxins. Analytical Sciences 27, 571-583.

Suzuki T, Watanabe R, Yoshino A, Oikawa H, Uchida H, Matsushima R, Nagai S, Kamiyama T, Yamazaki T, Kawaguchi M, Yarita T, Takatsu A. 2015. Preparation of Diarrhetic Shellfish Toxins (DSTs) and Paralytic Shellfish Toxins (PSTs) by Large Algal Culture and Chemical Conversion. In: MacKenzie AL. (Ed.), Proceedings of the 16th International Conference on Harmful Algae, pp. 34-39.

Wang S, Chen J, Li Z, Wang Y, Fu B, Han X, Zheng L. 2015. Cultivation of the benthic microalga Prorocentrum lima for the production of diarrhetic shellfish poisoning toxins in a vertical flat photobioreactor. Bioresour. Technol. 179, 243-248.
本発明のプロロセントラム・リマ株を用いれば、DTX1、OAをはじめとする下痢性貝毒を高効率に生産することができる。

Claims (4)

  1. ジノフィシストキシン1産生能を有する、受託番号FERM P-22357で表されるプロロセントラム・リマ株。
  2. ジノフィシストキシン1産生能を有する、受託番号FERM P-22358で表されるプロロセントラム・リマ株。
  3. 請求項1又は請求項2記載のプロロセントラム・リマ株の培養物。
  4. 請求項1又は請求項2記載のプロロセントラム・リマ株の培養物からジノフィシストキシン1及び/又はオカダ酸を単離することを含む、ジノフィシストキシン1及び/又はオカダ酸の製造方法。
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