以下、本発明に係るヘッド移動機構の実施形態について、図を参照して説明する。なお、本発明は、かかる実施形態によって制約されるものではない。
図1は、本発明の実施形態に係るヘッド移動機構を装備する印刷装置1のレイアウトを示す平面図である。また、図2は、図1に示す印刷装置1の全体構成を説明するための正面図である。印刷装置1では、装置の前側に繰出部2、プロセス部3及び巻取部4が左右方向に配列されるとともに、プロセス部3の後側にメンテナンス部5が配置され、プロセス部3のプロセスユニット3Uが一体的にメンテナンス部5に対して移動自在となっている。なお、これらの図面及び後に説明する図面では、印刷装置1の左右方向X、前後方向Y及び鉛直方向Zに対応した三次元の座標系を採用している。
図2に示すように、印刷装置1では、繰出部2及び巻取部4は各々繰出軸20及び巻取軸40を有している。そして、繰出部2及び巻取部4にシートSの両端がロール状に巻き付けられ、それらの間に張架されている。こうして張架された経路Pcに沿ってシートSが繰出部2からプロセス部3に搬送されてプロセスユニット3Uによる印刷処理を受けた後、巻取部4へと搬送される。本発明の「記録媒体」に相当するシートSの種類は、紙系とフィルム系に大別される。具体例を挙げると、紙系には上質紙、キャスト紙、アート紙、コート紙等があり、フィルム系には合成紙、PET(Polyethylene terephthalate)、PP(polypropylene)等がある。なお、以下の説明では、シートSの両面のうち、画像が記録される面を表面と称する一方、その逆側の面を裏面と称する。
繰出部2は、シートSの端を巻き付けた繰出軸20と、繰出軸20から引き出されたシートSを巻き掛ける従動ローラー21と、を有する。繰出軸20は、シートSの表面を外側に向けた状態で、シートSの端を巻き付けて支持する。そして、繰出軸20が図2の紙面において時計回りに回動することで、繰出軸20に巻き付けられたシートSが従動ローラー21を経由してプロセス部3へと繰り出される。ちなみに、シートSは、繰出軸20に着脱自在な図示していない芯管を介して繰出軸20に巻き付けられている。従って、繰出軸20のシートSが使い切られた際には、ロール状のシートSが巻き付けられた新たな芯管を繰出軸20に装着して、繰出軸20のシートSを取り換えることができるようになっている。なお、図2中の符号Seは、従動ローラー21と前駆動ローラー31の間でシートSの幅方向への端を検出するエッジセンサーである。
プロセス部3は、繰出部2から繰り出されたシートSをプラテンドラム30で支持しつつ、プラテンドラム30の外周面に沿って配置されたプロセスユニット3Uにより処理を適宜行って、シートSに画像を印刷するものである。プロセス部3では、プラテンドラム30の両側に前駆動ローラー31と後駆動ローラー32とが設けられており、前駆動ローラー31から後駆動ローラー32へと搬送されるシートSがプラテンドラム30に支持されて、画像の印刷を受ける。
前駆動ローラー31は、溶射によって形成された複数の微小突起を外周面に有しており、繰出部2から繰り出されたシートSを裏面側から巻き掛ける。そして、前駆動ローラー31は図2の紙面において時計回りに回動することで、繰出部2から繰り出されたシートSを搬送経路の下流側へと搬送する。なお、前駆動ローラー31に対してはニップローラー31nが設けられている。ニップローラー31nは、前駆動ローラー31側へ付勢された状態でシートSの表面に当接しており、前駆動ローラー31との間でシートSを挟み込む。これによって、前駆動ローラー31とシートSの間の摩擦力が確保され、前駆動ローラー31によるシートSの搬送を確実に行うことができる。
プラテンドラム30は、図示していない支持機構によりY方向に延びる回動軸301周りに回動自在に支持された円筒形状のドラムであり、前駆動ローラー31から後駆動ローラー32へと搬送されるシートSを裏面側から巻き掛ける。このプラテンドラム30は、シートSとの間の摩擦力を受けてシートSの搬送方向Dsに従動回動しつつ、シートSを裏面側から支持するものである。ちなみに、プロセス部3では、プラテンドラム30への巻き掛け部の両側でシートSを折り返す従動ローラー33、34が設けられている。これらのうち従動ローラー33は、前駆動ローラー31とプラテンドラム30の間でシートSの表面を巻き掛けて、シートSを折り返す。一方、従動ローラー34は、プラテンドラム30と後駆動ローラー32の間でシートSの表面を巻き掛けて、シートSを折り返す。このように、プラテンドラム30に対して搬送方向Dsの上・下流側各々でシートSを折り返すことで、プラテンドラム30へのシートSの巻き掛け部を長く確保することができる。
後駆動ローラー32は、溶射によって形成された複数の微小突起を外周面に有しており、プラテンドラム30から従動ローラー34を経由して搬送されてきたシートSを裏面側から巻き掛ける。そして、後駆動ローラー32は図2の紙面において時計回りに回動することで、シートSを巻取部4へと搬送する。なお、後駆動ローラー32に対してはニップローラー32nが設けられている。このニップローラー32nは、後駆動ローラー32側へ付勢された状態でシートSの表面に当接しており、後駆動ローラー32との間にシートSを挟み込む。これによって、後駆動ローラー32とシートSの間の摩擦力が確保され、後駆動ローラー32によるシートSの搬送を確実に行うことができる。
このように、前駆動ローラー31から後駆動ローラー32へと搬送されるシートSは、プラテンドラム30の外周面に支持される。そして、プロセス部3では、プラテンドラム30に支持されるシートSの表面に対してカラー画像を印刷するために、プロセスユニット3Uが設けられている。プロセスユニット3Uは、前後一対に設けられた前面プレート35a及び背面プレート35b(図3参照)を有している。各プレート35a、35bは、プラテンドラム30の外周面に沿った円弧形状を有しており、図示していない連結部材により相互に連結されてユニットフレームを構成している。そして、このユニットフレームに対し、以下に説明するようにプロセスユニット3Uの構成要素(印刷ヘッド36a~36e、UVランプ37a、37b、ヘッド移動機構)が装着されている。
イエロー、シアン、マゼンタ及びブラックに対応する4個の印刷ヘッド36a~36dが、この色順で搬送方向Dsに並ぶ。より詳しくは、これら4個の印刷ヘッド36a~36dはプラテンドラム30の回動軸301から放射状に配置されている。また、印刷ヘッド36a~36dのうち搬送方向Dsの上流側に配置される2個の印刷ヘッド36a、36bは1つのヘッド移動機構により移動されてプラテンドラム30に巻き掛けられるシートSに対して位置決めされる。また、下流側に配置される2つの印刷ヘッド36c、36dも別のヘッド移動機構により移動されてプラテンドラム30に巻き掛けられるシートSに対して位置決めされる。そして、これらの2つのヘッド移動機構で4個の印刷ヘッド36a~36dを移動して位置決めすることで印刷ヘッド36a~36dのノズル先端(インクの吐出口)とシートSとの距離、いわゆるペーパーギャップを適正な値に設定することが可能となっている。このように、ペーパーギャップが調整された状態でプラテンドラム30の外周部に巻き掛けられるシートSに対して各印刷ヘッド36a~36dがインクを吐出することで、シートSの表面にカラー画像を形成される。ヘッド移動機構の構成及び動作については、後に詳述する。
印刷ヘッド36a~36dで使用するインクや記録液等の液体としては、紫外線(光)を照射することで硬化するUV(ultraviolet)インク(光硬化性インク)が用いられる。そこで、プロセスユニット3Uでは、インクを硬化させてシートSに定着させるために、UVランプ37a、37bが設けられている。なお、このインク硬化は、仮硬化と本硬化の二段階に分けて実行される。複数の印刷ヘッド36a~36dの各間には、仮硬化用のUVランプ37aが配置されている。つまり、UVランプ37aは比較的弱い紫外線を照射することで、インクの形状が崩れない程度にインクを硬化(仮硬化)させるものであり、インクを完全に硬化させるものではない。一方、複数の印刷ヘッド36a~36dに対して搬送方向Dsの下流側には、本硬化用のUVランプ37bが設けられている。つまり、UVランプ37bは、UVランプ37aより強い紫外線を照射することで、インクを完全に硬化(本硬化)させるものである。こうして仮硬化・本硬化を実行することで、複数の印刷ヘッド36a~36dが形成したカラー画像をシートS表面に定着させることができる。
さらに、UVランプ37bに対して搬送方向Dsの下流側には、印刷ヘッド36eが設けられている。印刷ヘッド36eは、プラテンドラム30に巻き掛けられたシートSの表面に対して若干のクリアランスを空けて対向しており、透明のUVインクをインクジェット方式でシートSの表面に吐出する。つまり、4色分の印刷ヘッド36a~36dによって形成されたカラー画像に対して、透明インクがさらに吐出される。なお、印刷ヘッド36eについては、既に述べたヘッド移動機構とは別のヘッド移動機構により単独で移動され位置決めされてペーパーギャップが適正な値に設定される。
このように印刷ヘッド36a~36e、UVランプ37a、37b及びヘッド移動機構がユニットフレームに装着されてプロセスユニット3Uが構成されている。そして、通常動作、つまり印刷処理を行う際には、図1に実線で示すように繰出部2及び巻取部4の間に位置決めされる。一方、プロセスユニット3Uのメンテナンス動作、例えば印刷ヘッド36a~36eに対するワイピング処理、キャッピング処理等を行う際には、図1に1点鎖線で示すように、プロセスユニット3Uは図示していないスライド駆動機構によりメンテナンス部5に移動される。
図2に戻ってプロセス部3及び巻取部4の構成説明を続ける。プロセス部3では、印刷ヘッド36eに対して搬送方向Dsの下流側には、UVランプ38が設けられている。UVランプ38は強い紫外線を照射することで、印刷ヘッド36eが吐出した透明インクを完全に硬化(本硬化)させるものである。これによって、透明インクをシートSの表面に定着させることができる。
プロセス部3によりカラー画像の形成されたシートSは、後駆動ローラー32によって巻取部4へと搬送される。巻取部4は、シートSの端を巻き付けた巻取軸40の他に、巻取軸40と後駆動ローラー32の間でシートSを裏面側から巻き掛ける従動ローラー41を有する。巻取軸40は、シートSの表面を外側に向けた状態で、シートSの端を巻き取って支持する。つまり、巻取軸40が図2の紙面において時計回りに回動すると、後駆動ローラー32から搬送されてきたシートSが従動ローラー41を経由して巻取軸40に巻き取られる。ちなみに、シートSは、巻取軸40に着脱自在な図示していない芯管を介して巻取軸40に巻き取られる。従って、巻取軸40に巻き取られたシートSが満杯になった際には、芯管ごとシートSを取り外すことが可能となっている。
次に、プロセスユニット3Uに装備されるヘッド移動機構(2個の印刷ヘッドを移動させるヘッド移動機構)の構成について、図3~図6を参照しつつ詳述する。
図3は、2個の印刷ヘッド及びこれら印刷ヘッドを移動して位置決めするヘッド移動機構の構成を前側から見た場合の斜視図である。また、図4は、図3に示すヘッド移動機構の一部を後側から見た場合の拡大斜視図であり、図5は、図3に示すヘッド移動機構を後側から見た図である。さらに、図6は、ヘッド移動機構の右側カムフォロア63dの平面部63eの配置を説明するための図である。なお、これらの図面では、印刷ヘッド36c、36dを駆動するヘッド移動機構6のみを示しており、その他の構成の図示を省略している。そして、以下においては、これらの図を参照しつつヘッド移動機構6の構成及び動作について説明するが、印刷ヘッド36a、36bを移動させるヘッド移動機構も同様であるため、その構成及び動作の説明は省略する。
ヘッド移動機構6は、印刷ヘッド36cにより印刷を行う位置(マゼンタインクの着弾位置)でのプラテンドラム30の接線に対して垂直な方向(つまりプラテンドラム30の回動軸301から上記着弾位置を通過する放射方向)を第1方向D1とし、印刷ヘッド36cを第1方向D1に移動させて位置決めする。また、これと同時に、印刷ヘッド36dにより印刷を行う位置(ブラックインクの着弾位置)でのプラテンドラム30の接線に対して垂直な方向(つまりプラテンドラム30の回動軸301から上記着弾位置を通過する放射方向)を第2方向D2とし、印刷ヘッド36dを第2方向D2に移動させて位置決めする。このように、本実施形態では、両印刷ヘッド36c、36dの移動方向D1、D2は互いに角度θ(図5参照)だけ傾斜しており、ヘッド移動機構6は当該角度関係を維持しながら両印刷ヘッド36c、36dを移動させて位置決めする機能を有している。
ヘッド移動機構6は、印刷ヘッド36cを保持するためのホルダ61cを有している。ホルダ61cは、前ホルダ部材611、後ホルダ部材612及び両ホルダ部材611、612を連結する連結プレート613を有しており、後ホルダ部材612に設けられる開口部614を介して印刷ヘッド36cを(-Y)方向からホルダ61cに対して挿脱自在となっている。
前ホルダ部材611の前面及び後ホルダ部材612の後面にはリニアガイド62が第1方向D1に延設されており、これら2つのリニアガイド62により前面プレート35a及び背面プレート35bに対してホルダ61cが第1方向D1に移動自在に構成されている。より詳しくは、図3に示すように、前ホルダ部材611の前面に対し、第1方向D1に延びる直線状のレール621が固定されるとともにレール621に沿って2つのスライダー622、622が第1方向D1にスライド自在に取り付けられている。そして、これら2つのスライダー622、622が前面プレート35aの後面に固定されている。また、後ホルダ部材612の後面に対しても、前ホルダ部材611と同様に構成されたリニアガイド62が取り付けられ、リニアガイド62のスライダー622、622が背面プレート35bの前面に固定されている。こうして、ホルダ61cに前後2個のリニアガイド62、62を設けたことで、印刷ヘッド36cを保持したままホルダ61cが第1方向D1に移動自在となっている。
また、ヘッド移動機構6においては、印刷ヘッド36dを保持するためのホルダ61dが、ホルダ61cから搬送方向Dsの下流側に所定距離だけ離間して設けられている。ホルダ61dは、ホルダ61cと同様に、前ホルダ部材611、後ホルダ部材612及び連結プレート613を有しており、後ホルダ部材612に設けられる開口部614を介して印刷ヘッド36dをホルダ61dに対して挿脱自在となっている。
また、前ホルダ部材611の前面及び後ホルダ部材612の後面には、リニアガイド62が第2方向D2に延設されており、これら2つのリニアガイド62により前面プレート35a及び背面プレート35bに対してホルダ61dが第2方向D2に移動自在に構成されている。なお、ホルダ61dに設けられるリニアガイド62の構成は、レール621の延設方向が異なる点を除き、ホルダ61cに設けられるリニアガイド62と同一である。そのため、ここでは同一符号を付して詳しい説明を省略する。
ホルダ61cを構成する前ホルダ部材611には、左側カムフォロア63cの一方端部(左側端部)が固定され、他方端部(右側端部)がホルダ61dに向けて右側、つまり(-X)方向側に延設され、両前ホルダ部材611の略中間位置まで延設されている。左側カムフォロア63cの他方端部では、図4に示すように、後側部分が若干切り欠かれて薄肉部に仕上げられるとともに、その薄肉部の後側方向、つまり(-Y)方向には、第1軸受64cが左側カムフォロア63cに回動自在に取り付けられている。第1軸受64cは、後述するカム65に接触するものであり、その回動軸は、カム65の回動軸であるカム軸66と平行とされている。また、左側カムフォロア63cの第1軸受64cのさらに他方端部寄りには、連動部材としての第2軸受64dが回動自在に取り付けられている。第2軸受64dは、後述する右側カムフォロア63dの平面部63eが接触するものであり、その回動軸は、カム65の回動軸であるカム軸66と平行とされている。
ホルダ61dを構成する前ホルダ部材611には、右側カムフォロア63dの一方端部(右側端部)が固定され、他方端部(左側端部)がホルダ61cに向けて左側、つまり(+X)方向側に延設され、両前ホルダ部材611の略中間位置まで延設されている。右側カムフォロア63dは、左側カムフォロア63cに取り付けられた第2軸受64d(連動部材)を介して左側カムフォロア63cに連動するように構成されるとともに、左側カムフォロア63cに対して左右方向に変位可能に構成されている。右側カムフォロア63dの他方端部には、第2軸受64dに接触する平面部63eが設けられている。平面部63eは、右側カムフォロア63dの左側カムフォロア63cへの連動と、右側カムフォロア63dの左側カムフォロア63cに対する変位と、を実現させるものである。
ホルダ61c、61dの間には、カム65が回動自在に配置されている。カム65は、左側カムフォロア63cに取り付けられた第1軸受64cに接触する一方、第2軸受64dには接触しないように配置されている。カム65の外周面が第1軸受64cの外周面に当接することにより、左側カムフォロア63cの他方端部が支持される。また、左側カムフォロア63cに取り付けられた第2軸受64dの外周面が右側カムフォロア63dの平面部63eに当接することにより、右側カムフォロア63dの他方端部が支持される。すなわち、カム65によって、間接的に両カムフォロア63c、63dの他方端部が支持されることとなる。
カム65は、カムフォロア63c、63dの厚みよりも若干厚く仕上げられており、前後方向Yに延設されたカム軸66に取り付けられている。カム軸66は動力伝達部67を介してモーター等のアクチュエータ68と連結されており、アクチュエータ68で発生した駆動力が動力伝達部67によりカム軸66に伝達される。これによって、カム軸66が軸心周りに回動してカム65も回動する。カム65の回動により、カム65に接触する第1軸受64cが回動するとともに左側カムフォロア63cがカム軸66に対して変位し、これにより印刷ヘッド36cが第1方向D1に移動する一方、第2軸受64dを介して左側カムフォロア63cに連動する右側カムフォロア63dがカム軸66及び左側カムフォロア63cに対して変位し、これにより印刷ヘッド36dが第2方向D2に移動する。
なお、カム65の外周面は、次の動作説明で詳述するように、カム軸66から外周面までの距離が連続的に変化して印刷ノズルを印字位置に位置決めする印字調整領域651と、印字調整領域651に続いてカム軸66から外周面までの距離が連続的に変化して印刷ノズルをキャッピング位置に位置決めするキャッピング調整領域652と、を有している。本実施形態では、カム軸66から外周面までの距離は、後述するように印字調整領域651では印刷処理に対応した態様で変化する一方、キャッピング調整領域652ではキャッピング処理に対応した態様で変化しており、それらの態様は相互に相違している。なお、キャッピング調整領域652は、印刷ノズルをワイピング位置に位置決めするワイピング調整領域が含まれる。
ここで、図6を用いて、右側カムフォロア63dの平面部63eの配置について説明する。
平面部63eを含む仮想平面P1は、第1方向D1と平行な第1直線と第2方向D2と平行な第2直線とがなす角θを二等分する直線を含む仮想平面P2に直交するようになっている。このようにすることにより、カム65の回動に伴う左側カムフォロア63c(印刷ヘッド36c)の第1方向D1における移動距離L1と右側カムフォロア63d(印刷ヘッド36d)の第2方向D2における移動距離L2とを同一にすることができる。平面部63eを含む仮想平面P1を仮想平面P2に直交させると、左側カムフォロア63cの移動距離L1と右側カムフォロア63dの移動距離L2が等しくなる理由について、図6を用いて以下に説明する。
図6に示すように、カム65の回動に伴う左側カムフォロア63cの第1方向D1における移動距離をL1とすると、第2軸受64dは、左側カムフォロア63cに同期して第1方向D1に移動距離L1だけ移動し、右側カムフォロア63dの平面部63eは、第2軸受64dによって第1方向D1に移動距離L1だけ押されることになる。このとき、右側カムフォロア63dはホルダ61dに固定されており、ホルダ61dの移動方向はリニアガイド62によって第2方向D2に制限されているため、右側カムフォロア63dは第1方向D1に移動せず、リニアガイド62に沿って移動することになるが、その移動距離は、平面部63eに平行な方向の成分と、平面部63eに垂直な方向の成分と、に分解することができる。ここで、平面部63eに垂直な方向と第1方向D1とのなす角度をαとし、移動距離L1の平面部63eに垂直な方向の成分をL0とすると、L0とL1との関係は以下の式(1)で表される。
L0=L1・cosα (1)
また、右側カムフォロア63dの第2方向D2における移動距離をL2とする場合、移動距離L2は、平面部63eに平行な方向の成分と、平面部63eに垂直な方向の成分と、に分解することができ、平面部63eに垂直な方向の成分は、移動距離L1の平面部63eに垂直な方向の成分L0と等しくなる。ここで、平面部63eに垂直な方向と第2方向D2とのなす角度をβとすると以下の式(2)が成り立ち、式(2)より以下の式(3)が導出される。
cosβ=L0/L2 (2)
L0=L2・cosβ (3)
式(1)及び式(3)より、左側カムフォロア63cの移動距離L1と右側カムフォロア63dの移動距離L2との関係を表す以下の式(4)が導出される。
L2=L1・(cosα/cosβ) (4)
式(4)より、「α=β」の場合に「L2=L1」となることがわかる。αとβの和はθであるから、「α=β=θ/2」とすることにより、L2がL1と等しくなる。また、L0は、第1方向D1と平行な第1直線(L1)と第2方向D2と平行な第2直線(L2)とがなす角度θを角度αと角度βとに分割する直線とも言えるため、「α=β」の場合、L0は第1直線と第2直線とがなす角度θを二等分する直線であり、仮想平面P2と平行である。さらに、L0は、移動距離L1の平面部63eに垂直な方向の成分であるため、仮想平面P1に対して垂直である。従って、「L2=L1」のとき、仮想平面P1と仮想平面P2とは直交していると言え、換言すると、平面部63eを含む仮想平面P1を仮想平面P2に直交させると、左側カムフォロア63cの移動距離L1と右側カムフォロア63dの移動距離L2とが等しくなると言える。
一方、平面部63eを含む仮想平面P1が仮想平面P2に直交しない場合には、αとβが異なるため、L1はL2と必ず異なることとなる。例えば、α>βの場合(但し、0<α<90、0<β<90)には、cosα/cosβ<1となるので、L2<L1となる。この場合はL2の方がL1より小さいので、左側カムフォロア63cの移動距離よりも右側カムフォロア63dの移動距離が縮小することとなる。逆に、α<βの場合には、cosα/cosβ>1となるので、L2>L1となる。この場合はL2の方がL1より大きいので、左側カムフォロア63cの移動距離よりも右側カムフォロア63dの移動距離が拡大することとなる。2つのヘッド36c、36dの高さをカム65でコントロールするには、L1とL2が同じ量でないと、キャップ位置や、クリーニング時のヘッド高さが、ヘッド毎にばらつき、位置精度の管理が難しくなる。従って、L1とL2を同じ量にする必要がある。
次に、上記のように構成されたヘッド移動機構6の動作について、図7を参照しつつ詳述する。
本実施形態では、印刷動作及びメンテナンス動作を行わない間、図7(a)に示すように、カム65の印字調整領域651の一方端(キャッピング調整領域652から最も離れた位置)が、鉛直方向の最上位置に位置して、左側カムフォロア63cに取り付けられた第1軸受64cと当接する。また、この状態において、左側カムフォロア63cに取り付けられた第2軸受64dに、右側カムフォロア63dの平面部63eが当接する。これによって、印刷ヘッド36c、36dは、印刷ヘッド36c、36dのノズル先端がプラテンドラム30からペーパーギャップよりも長い所定距離だけ離間した位置(ホームポジション)に位置決めされる。
そして、繰出部2及び巻取部4にシートSの両端がロール状に巻き付けられ、それらの間に張架された状態で印刷処理を実行する際には、装置全体を制御部からの動作指令に応じてアクチュエータ68がシートSの厚みに対応した量だけ作動し、図7(b)に示すように、カム65を紙面において反時計回りに回動させ、カム65の印字調整領域651の中間位置ないし他方端を鉛直方向の最上位置に位置させる。
本実施形態では、カム65の鉛直方向の上方に第1軸受64cが位置しており、左側カムフォロア63cの重量によってカム65に押し付けられている。このため、カム65の外周面上に第1軸受64cが当接し、カム65の回動に伴って第1軸受64cが回動するとともに左側カムフォロア63cがカム軸66に対して変位する一方、第2軸受64dを介して左側カムフォロア63cに連動する右側カムフォロア63dがカム軸66及び左側カムフォロア63cに対して変位する。この結果、左側カムフォロア63cに連結されたホルダ61cが第1方向D1に下降してホルダ61cに保持される印刷ヘッド36cをシートSの厚みに応じた印字位置に位置決めする。これによって、印刷ヘッド36cのノズル先端とシートSとの間隔が所望のペーパーギャップに調整される。また、印刷ヘッド36cの位置決めと並行して、印刷ヘッド36dの位置決めが実行される。つまり、カムフォロア63dに連結されたホルダ61dが第2方向D2に下降してホルダ61dに保持される印刷ヘッド36dを印字位置に位置決めし、印刷ヘッド36dのノズル先端とシートSとの間隔を所望のペーパーギャップに調整する。本実施形態では、印字調整領域651においては、カム軸66から外周面までの距離が連続的に変化するため、カム65の回動角を制御することで各印刷ヘッド36c、36dを高精度に位置決めすることができ、所望のペーパーギャップを確実に得ることができる。
なお、印刷ヘッド36a、36bについても、印刷ヘッド36c、36dと同様にしてヘッド移動機構6と同一構成のヘッド移動機構により位置決めされる。また、残りの印刷ヘッド36eについては、別のヘッド移動機構により位置決めされる。
こうして、印刷動作の準備が完了すると、印刷動作が実行されるが、装置の稼働状況に応じてプロセスユニット3Uのメンテナンス動作を行う必要がある。このメンテナンス動作では、プロセスユニット3Uが全体的に後側、つまり(-Y)方向に移動させられ、メンテナンス部5で種々のメンテナンス処理が実行される。これらのメンテナンス処理のうち、特に印刷ヘッド36a~36eに関連するものとして、例えばキャッピング処理がある。このキャッピング処理は、各印刷ヘッド36a~36eのノズルの目詰まりを防止するために行うものであり、メンテナンス部5には、図7(c)、(d)に示すように、キャッピング処理を実行するキャッピング機構51が設けられている。そして、メンテナンス部5に移動されたプロセスユニット3Uに対し、次のようにしてキャッピング処理が実行される。
キャッピング機構51は、各印刷ヘッド36a~36eに対応してキャップ部52が固定配置されている。そして、プロセスユニット3Uがキャッピング機構51に移動させられると、印刷ヘッド36a~36eがそれぞれに対応して設けられたキャップ部52の鉛直方向の上方に位置決めされる。なお、図7では、印刷動作と同様に、印刷ヘッド36c、36dのみを図示しているが、他の印刷ヘッドも基本的に同様である。
キャップ部52、52に対する印刷ヘッド36c、36dの位置決めが完了すると、図7(c)に示すように、制御部からの動作指令に応じてアクチュエータ68が作動し、カム65を同図紙面において反時計回りに回動させてカム65のキャッピング調整領域652の中間領域(ワイピング調整領域)を鉛直方向の最上位置に位置させる。このカム65の回動動作に伴って第1軸受64cが回動するとともに左側カムフォロア63cがカム軸66に対して変位する一方、左側カムフォロア63cに連動する右側カムフォロア63dがカム軸66及び左側カムフォロア63cに対して変位し、この結果、カムフォロア63c、63dにより連結されたホルダ61c、61dが各々第1方向D1及び第2方向D2に移動する。この結果、印刷ヘッド36c、36dは、ノズル先端がキャップ部52に近接するように位置決めされる。この状態で、図示していないワイパーを用いて、印刷ヘッド36c、36dのワイピング処理を行うことができる。
これに続いて、制御部からの動作指令に応じてアクチュエータ68がさらに作動し、図7(d)に示すように、カム65を同図紙面において反時計回りに回動させてカム65のキャッピング調整領域652の最終端を鉛直方向の最上位置に位置させる。このカム65の回動動作に伴って第1軸受64cが回動するとともに左側カムフォロア63cがカム軸66に対して変位する一方、左側カムフォロア63cに連動する右側カムフォロア63dがカム軸66及び左側カムフォロア63cに対して変位し、この結果、カムフォロア63c、63dに連結されたホルダ61c、61dが各々第1方向D1及び第2方向D2に移動する。この結果、印刷ヘッド36c、36dがそれぞれキャップ部52、52に押し付けられてキャッピング処理が実行される。
なお、キャッピング処理が完了すると、制御部からの動作指令に応じてアクチュエータ68が逆方向に作動して印刷ヘッド36c、36dを上昇させる。そして、メンテナンス部5での種々のメンテナンス処理が完了すると、プロセスユニット3Uは元のプロセス部3に戻される。
このように、本実施形態では、プラテンドラム30が本発明の「ローラー」に相当する。また、印刷ヘッド36c、36dがそれぞれ本発明の「第1印刷ヘッド」及び「第2印刷ヘッド」に相当し、ホルダ61c、61dがそれぞれ本発明の「第1保持部」及び「第2保持部」に相当する。また、左側カムフォロア63cが本発明の「第1カムフォロア」に相当し、右側カムフォロア63dが本発明の「第2カムフォロア」に相当する。
以上説明した実施形態に係るヘッド移動機構6においては、カム65の回動により左側カムフォロア63cを変位させて印刷ヘッド36cを移動させる際に、カム65を第1軸受64cに接触させることができる。また、右側カムフォロア63dを変位させて印刷ヘッド36dを移動させる際に、第2軸受64dを介して右側カムフォロア63dを左側カムフォロア63cに連動させることができる。従って、カム65と、カムフォロア63c、63dと、が直接的に接触するのを防ぐことができるので、カム65及びカムフォロア63c、63dの摩耗を抑制することができる。
また、以上説明した実施形態に係るヘッド移動機構6においては、右側カムフォロア63dの左側カムフォロア63cへの連動と、右側カムフォロア63dの左側カムフォロア63cに対する変位と、を実現させる平面部63eを右側カムフォロア63dに設け、この平面部63eを含む仮想平面P1を、第1方向D1と平行な第1直線と第2方向D2と平行な第2直線とがなす角θを二等分する直線を含む仮想平面P2に直交させている。このため、カム65の回動に伴う第1方向D1における左側カムフォロア63c(印刷ヘッド36c)の移動距離L1と右側カムフォロア63d(印刷ヘッド36d)の移動距離L2とを同一にすることができる。
また、以上説明した実施形態に係るヘッド移動機構6においては、左側カムフォロア63cに取り付けた連動部材としての第2軸受64dと、右側カムフォロア63dに設けられた平面部63eと、を接触させることにより、右側カムフォロア63dを左側カムフォロア63cに連動させ、かつ、右側カムフォロア63dを左側カムフォロア63cに対して変位させることができる。
なお、上記実施形態では、図4に示すように、左側カムフォロア(第1カムフォロア)63cに第2軸受64dを取り付け、右側カムフォロア(第2カムフォロア)63dに平面部63eを設けた例を示したが、図8に示すように、右側カムフォロア(第2カムフォロア)63dに第2軸受64dを取り付け、左側カムフォロア(第1カムフォロア)63cに、この第2軸受64dに接触する平面部63eを設けることもできる。この場合も、平面部63eを含む仮想平面が、第1方向D1と平行な第1直線と第2方向D2と平行な第2直線とがなす角θを二等分する直線を含む仮想平面に直交するように、平面部63eを設けるようにする。
また、上記実施形態においては、連動部材としての第2軸受64dを介して右側カムフォロア63dを左側カムフォロア63cに連動させた例を示したが、第2軸受64dに代えて、回動しない突起部を連動部材として左側カムフォロア63c(又は右側カムフォロア63d)に設け、この突起部を介して右側カムフォロア63dを左側カムフォロア63cに連動させることもできる。さらには、このような連動部材を設けることなく、右側カムフォロア63dを左側カムフォロア63cに直接的に接触させてもよい。例えば、左側カムフォロア63cに左側平面部を設け、右側カムフォロア63dに、左側平面部に接触する右側平面部を設けてもよい。
また、上記実施形態においては、ヘッド移動機構6は2個の印刷ヘッドを同時に駆動しているが、3個以上の印刷ヘッドを同時に駆動するように構成してもよい。
また、上記実施形態では、アクチュエータ68で発生した駆動力が動力伝達部67を介してカム軸66に与えられているが、アクチュエータ68から直接的にカム軸66に駆動力を与えるように構成してもよい。
さらに、上記実施形態では、UVインクを吐出する複数の印刷ヘッドを駆動するヘッド移動機構について本発明を適用しているが、印刷ヘッドの具体的構成はこれに限られない。
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、かかる実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。すなわち、前記実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前記実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。