JP7051087B2 - クロマチンの異常凝縮の検出方法 - Google Patents
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Description
[1] 下記(1)及び(2)の工程を含む、クロマチンの異常凝縮の検出方法。
(1)細胞分裂期の細胞又は早期染色体凝縮が誘導された細胞を含む検出対象の細胞集団における、AHCTF1、ATRX、BAZ1A、BAZ1B、CBX8、CDCA8、CHAF1A、CTDSPL2、CSNK2B、DNTTIP2、DSG2、ELAVL1、GTF21、HDGF、Histone H4、H2AFY、HMGA1、HP1BP3、ILF3、KIF22、KIF4A、LIG3、LMNA、MKI67、MBD1、MLL、MTA1、MYBBP1A、NONO、NUMA1、NUP107、PARP2、PLK1、PSIP1、RAI1、RRP1B、SAFB2、SGOL1、TCF20、TERF2、TFPT、TMPO α、TMPO β/γ、TUBA1B、UTP14A、VIM、ZC3HAV1、ZNF280C及びZNF512Bからなる群より選択される1種以上のタンパク質のリン酸化の程度を測定する工程、並びに
(2)対照の細胞集団における該タンパク質のリン酸化の程度と比較して、検出対象の細胞集団における該タンパク質のリン酸化の程度が低い場合に、クロマチンの異常凝縮が検出されたと評価する工程
[2] 下記(1)~(3)の工程を含む、クロマチンの異常凝縮の検出方法。
(1)細胞分裂期に同調される前又は早期染色体凝縮が誘導される前の細胞集団における、AHCTF1、ATRX、BAZ1A、BAZ1B、CBX8、CDCA8、CHAF1A、CTDSPL2、CSNK2B、DNTTIP2、DSG2、ELAVL1、GTF21、HDGF、Histone H4、H2AFY、HMGA1、HP1BP3、ILF3、KIF22、KIF4A、LIG3、LMNA、MKI67、MBD1、MLL、MTA1、MYBBP1A、NONO、NUMA1、NUP107、PARP2、PLK1、PSIP1、RAI1、RRP1B、SAFB2、SGOL1、TCF20、TERF2、TFPT、TMPO α、TMPO β/γ、TUBA1B、UTP14A、VIM、ZC3HAV1、ZNF280C及びZNF512Bからなる群より選択される1種以上のタンパク質のリン酸化の程度を測定する工程、
(2)細胞分裂期に同調された後又は早期染色体凝縮が誘導された後の細胞集団における上記タンパク質のリン酸化の程度を測定する工程、及び
(3)(1)と(2)の工程により得られた測定値の増加割合((2)の工程により得られた測定値/(1)の工程により得られた測定値)が基準値未満である場合に、クロマチンの異常凝縮が検出されたと評価する工程
[3] 前記細胞がヒト由来である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記タンパク質のリン酸化部位が表2に記載のアミノ酸残基である、[3]に記載の方法。
[5] 前記タンパク質がKIF4Aを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] リン酸化部位がKIF4Aの1186番目のアミノ酸残基である、[5]に記載の方法。
[7] 下記(1)及び(2)の工程を含む、クロマチンの異常凝縮の検出方法。
(1)細胞分裂期の細胞又は早期染色体凝縮が誘導された細胞を含む検出対象の細胞集団における、AHCTF1、ATRX、BAZ1A、BAZ1B、CBX8、CDCA8、CHAF1A、CTDSPL2、CSNK2B、DNTTIP2、DSG2、ELAVL1、GTF21、HDGF、Histone H4、H2AFY、HMGA1、HP1BP3、ILF3、KIF22、KIF4A、LIG3、LMNA、MKI67、MBD1、MLL、MTA1、MYBBP1A、NONO、NUMA1、NUP107、PARP2、PLK1、PSIP1、RAI1、RRP1B、SAFB2、SGOL1、TCF20、TERF2、TFPT、TMPO α、TMPO β/γ、TUBA1B、UTP14A、VIM、ZC3HAV1、ZNF280C、ZNF512B、Topo IIα、NCAPH、SMC4及びATF2からなる群より選択される1種以上のタンパク質の、表2に記載のリン酸化部位のリン酸化の程度を測定する工程、並びに
(2)対照の細胞集団における該タンパク質のリン酸化部位のリン酸化の程度と比較して、検出対象の細胞集団における該タンパク質のリン酸化の程度が低い場合に、クロマチンの異常凝縮が検出されたと評価する工程
[8] 下記(1)~(3)の工程を含む、クロマチンの異常凝縮の検出方法。
(1)細胞分裂期に同調される前又は早期染色体凝縮が誘導される前の細胞集団における、AHCTF1、ATRX、BAZ1A、BAZ1B、CBX8、CDCA8、CHAF1A、CTDSPL2、CSNK2B、DNTTIP2、DSG2、ELAVL1、GTF21、HDGF、Histone H4、H2AFY、HMGA1、HP1BP3、ILF3、KIF22、KIF4A、LIG3、LMNA、MKI67、MBD1、MLL、MTA1、MYBBP1A、NONO、NUMA1、NUP107、PARP2、PLK1、PSIP1、RAI1、RRP1B、SAFB2、SGOL1、TCF20、TERF2、TFPT、TMPO α、TMPO β/γ、TUBA1B、UTP14A、VIM、ZC3HAV1、ZNF280C、ZNF512B、Topo IIα、NCAPH、SMC4及びATF2からなる群より選択される1種以上のタンパク質の、表2に記載のリン酸化部位のリン酸化の程度を測定する工程、
(2)細胞分裂期に同調された後又は早期染色体凝縮が誘導された後の細胞集団における上記タンパク質のリン酸化部位のリン酸化の程度を測定する工程、及び
(3)(1)と(2)の工程により得られた測定値の増加割合((2)の工程により得られた測定値/(1)の工程により得られた測定値)が基準値未満である場合に、クロマチンの異常凝縮が検出されたと評価する工程
[9] 前記早期染色体凝縮がカリクリンAにより誘導される、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10] 下記(1)~(3)の工程を含む、クロマチンの異常凝縮に関連する疾患の治療及び/又は予防剤の候補物質のスクリーニング方法。
(1)被験物質と、細胞分裂期の細胞又は早期染色体凝縮が誘導された細胞を含む細胞集団とを接触させる工程、
(2)前記細胞集団における、AHCTF1、ATRX、BAZ1A、BAZ1B、CBX8、CDCA8、CHAF1A、CTDSPL2、CSNK2B、DNTTIP2、DSG2、ELAVL1、GTF21、HDGF、Histone H4、H2AFY、HMGA1、HP1BP3、ILF3、KIF22、KIF4A、LIG3、LMNA、MKI67、MBD1、MLL、MTA1、MYBBP1A、NONO、NUMA1、NUP107、PARP2、PLK1、PSIP1、RAI1、RRP1B、SAFB2、SGOL1、TCF20、TERF2、TFPT、TMPO α、TMPO β/γ、TUBA1B、UTP14A、VIM、ZC3HAV1、ZNF280C及びZNF512Bからなる群から選択される1種以上のタンパク質のリン酸化の程度を測定する工程、並びに
(3)被験物質を接触させる前の細胞集団又は被験物質を接触させなかった細胞集団における該タンパク質のリン酸化の程度と比較して、被験物質を接触させた細胞集団における該タンパク質のリン酸化の程度が変動した場合に、該被験物質をクロマチンの異常凝縮に関連する疾患の治療及び/又は予防剤の候補物質として選択する工程
[11] 前記細胞がヒト由来である、[10]に記載の方法。
[12] 前記タンパク質のリン酸化部位が表2に記載のアミノ酸残基である、[11]に記載の方法。
[13] 前記タンパク質がKIF4Aを含む、[10]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14] リン酸化部位がKIF4Aの1186番目のアミノ酸残基である、[13]に記載の方法。
[15] 下記(1)~(3)の工程を含む、クロマチンの異常凝縮に関連する疾患の治療及び/又は予防剤の候補物質のスクリーニング方法。
(1)被験物質と、細胞分裂期の細胞又は早期染色体凝縮が誘導された細胞を含む細胞集団とを接触させる工程、
(2)前記細胞集団における、AHCTF1、ATRX、BAZ1A、BAZ1B、CBX8、CDCA8、CHAF1A、CTDSPL2、CSNK2B、DNTTIP2、DSG2、ELAVL1、GTF21、HDGF、Histone H4、H2AFY、HMGA1、HP1BP3、ILF3、KIF22、KIF4A、LIG3、LMNA、MKI67、MBD1、MLL、MTA1、MYBBP1A、NONO、NUMA1、NUP107、PARP2、PLK1、PSIP1、RAI1、RRP1B、SAFB2、SGOL1、TCF20、TERF2、TFPT、TMPO α、TMPO β/γ、TUBA1B、UTP14A、VIM、ZC3HAV1、ZNF280C、ZNF512B、Topo IIα、NCAPH、SMC4及びATF2からなる群から選択される1種以上のタンパク質の、表2に記載のリン酸化部位のリン酸化の程度を測定する工程、並びに
(3)被験物質を接触させる前の細胞集団又は被験物質を接触させなかった細胞集団における該タンパク質におけるリン酸化部位のリン酸化の程度と比較して、被験物質を接触させた細胞集団における該タンパク質のリン酸化の程度が変動した場合に、該被験物質をクロマチンの異常凝縮に関連する疾患の治療及び/又は予防剤の候補物質として選択する工程
[16] 前記早期染色体凝縮がカリクリンAにより誘導される、[10]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17] 前記疾患が、がん、小頭症、早老症及びコルネリア・デ・ランゲ症候群からなる群より選択される、[10]~[16]のいずれかに記載の方法。
本発明は、特定のタンパク質(以下「指標タンパク質」と略記する場合がある。)(本明細書において「タンパク質」は、そのペプチド断片も包含する意味で用いる。)のリン酸化の程度を指標として用いる、クロマチンの異常凝縮を検出する方法(以下「本発明の検出方法」と略記する場合がある。)を提供する。一実施態様において、本発明の検出方法は、
(1)細胞分裂期の細胞又は早期染色体凝縮が誘導された細胞(以下「PCC誘導細胞」と略記する場合がある。)を含む検出対象の細胞集団における、1種以上の指標タンパク質のリン酸化の程度を測定する工程、及び
(2)検出対象の細胞集団における該タンパク質のリン酸化の程度が低い場合に、クロマチンの異常凝縮が検出されたと評価する工程
を含む。
(1)M期に同調される前又はPCCが誘導される前の細胞集団における、1種以上の指標タンパク質のリン酸化の程度を測定する工程、
(2)M期に同調された後又はPCCが誘導された後の細胞集団における上記タンパク質のリン酸化の程度を測定する工程、及び
(3)(1)と(2)の工程により得られた測定値の増加割合((2)の工程により得られた測定値/(1)の工程により得られた測定値)が基準値未満である場合に、クロマチンの異常凝縮が検出されたと評価する工程
を含む。
別の実施態様において、本発明は、指標タンパク質のリン酸化の程度を指標として用いる、クロマチンの異常凝縮に関連する疾患の治療及び/又は予防剤の候補物質のスクリーニング方法(以下「本発明のスクリーニング方法」と略記する場合がある。)を提供する。一実施態様において、本発明のスクリーニング方法は、
(1)被験物質と、細胞分裂期の細胞又はPCC誘導細胞を含む細胞集団とを接触させる工程、
(2)前記細胞集団における、1種以上の指標タンパク質のリン酸化の程度を測定する工程、並びに
(3)被験物質を接触させた細胞集団における該タンパク質のリン酸化の程度が変動した場合に、該被験物質をクロマチンの異常凝縮に関連する疾患の治療及び/又は予防剤の候補物質として選択する工程
を含む。
1.細胞培養
ヒト子宮頸がん由来細胞(HeLa細胞)をDulbecco’s modified Eagle’s medium (DMEM; GIBCO BRL)にウシ胎児血清(FBS; Equitech-Bio)を10%添加した培地中でインキュベーターを用いて5% CO2、37℃で培養した。細胞周期をG2期に同調した細胞を調製するために、培地中にチミジンを2.5 mMになるように添加し18時間培養した。チミジンを含まない培地に交換(チミジンリリース)し10時間の培養を行った後、再び培地にチミジンを2.5 mMになるように添加し18時間の培養を行った。チミジンを含まない培地でさらに6時間培養することでG2期の細胞を回収した。また、2度目のチミジンリリースを行った後、培地にノコダゾールを100 ng/mLになるように添加し、14時間培養することでM期細胞を回収した。さらに、2度目のチミジンリリースから5時間後にカリクリンA (Calyculin A)を50 nMになるように培地に添加し、1時間の培養を行うことでPCCを誘導した細胞を調製した。
回収したG2期、M期、G2期でPCCを誘導した細胞について、それぞれ以下の処理を行うことでクロマチン結合タンパク質の抽出を行った(図2)。回収した細胞を1000 rpm、5分、室温で遠心後、細胞を沈殿として回収し、上清の培地を取り除いた。細胞の沈殿をPBS (137mM NaCl, 2.7 mM KCl, 10 mM Na2HPO4, 1.8 mM KH2PO4)に懸濁し、細胞数を数えた。1000 rpm、5分、室温で遠心後、上清を除き、細胞100万個に対し200 ulのCSK buffer (10 mM PIPES, pH 6.8, 300 mM sucrose, 3 mM MgCl2, 100 mM NaCl, 1 mM DTT, 0.25 mM PMSF, 0.3% triton X-100)を加え懸濁した(CSK buffer 10 mlに対してProtease inhibitor cocktail (Roche, 04693159001)とPhosphatase inhibitor (Roche, 04906845001)を1 tabletずつ加えたものを用いた)。氷上で30分間インキュベート後、2000g, 10分, 4℃の遠心を行い、上清を除いた後、沈殿をCSK bufferと等量の0.1 M Tris-HCl (pH 8.0)に懸濁した。2000g, 10分, 4℃の遠心を行い、上清を除いた後、沈殿をCSK bufferと等量のLysis buffer (8M Urea, 0.1M Tris-HCl (pH 8.0))に懸濁した。沈殿を超音波破砕し、クロマチン結合タンパク質抽出液として回収した。タンパク質濃度はBradford法によって測定した。
30 μgのクロマチン結合タンパク質抽出液にデオキシコール酸ナトリウムを5%、ジチオトレイトールを10 mMになるように添加し、37℃で60分間加熱することでタンパク質の還元処理を行った。続いてヨードアセトアミドを55 mMになるように添加し、遮光して25℃で30分間インキュベートすることでタンパク質のアルキル化を行った。反応後の溶液を50 mM Tris-HCl pH 9.0で10倍希釈し、トリプシンをタンパク質量の1/20量添加して37℃で16時間酵素消化反応を行った。等量の酢酸エチルを添加することで反応を停止し、トリフルオロ酢酸(TFA)を0.5%になるように添加することで溶液を酸性化した。15700g、2分間の遠心後、水層を回収し、C18-StageTips (Thermo Scientific)を用いて脱塩を行った。
リン酸化ペプチドを濃縮するためにHAMMOC (hydroxy acid-modified metal oxide chromatography)法を用いた(Sugiyama N. et al., (2007) Mol Cell Proteomics., 6, 1103-1109)。タンパク質 100 μg当たり0.5 mgのTitansphere TiO (GL Science)をC8StageTips (Thermo Scientific)に充填することでMOC tipを作製した(Ishihama Y. et al., (2006) J. Proteome Res., 5, 988- 994)。MOC tipは、溶液A(0.1% TFA, 80% アセトニトリル)、続いて溶液B(0.1% TFA, 80% アセトニトリル, 300 mg/ml乳酸)で平衡化を行った。脱塩後のペプチド溶液を等量の溶液Bと混合し、MOP tipに注入した。MOP tipを溶液B、続いて溶液Cで洗浄し、20 μlの0.5% ピペリジン溶液で2回リン酸化ペプチドの溶出を行った。溶出したリン酸化ペプチド溶液にTFAを0.5%になるように添加し、溶液を酸性化した。
リン酸化ペプチドの同定はQ-Exactive hybrid quadrupole-Orbitrap mass spectrometer (Thermo Fisher Scientific) とUltiMate 3000 Nano LC systems (Thermo Fisher Scientific)を組み合わせたLC-MS/MSにより行った。リン酸化ペプチド溶液をオートサンプラーを用いて4 μl/minの流速でC18逆相トラップカラム(100 μm I.D. x 5 mm length, Thermo Fisher Scientific)に注入した。次に、C18逆相カラム(75 μm I.D. x 150 mm length, Nikkyo Technos Co. Ltd., Tokyo, Japan)を用いて、流速300 nl/min、移動相B 2%-35%線形グラジエントの条件でペプチドを分離した。移動相Aは2%アセトニトリル、0.1%ギ酸、移動相Bは95%アセトニトリル、0.1%ギ酸を用いた。ペプチドはポジティブイオンモードのnano-electrospray ionizationによりイオン化した。
質量分析データはピークリストを作成するためにMascot Distiller v2.3 (Matrix Science)を用いて解析した。次に、ペプチドとタンパク質の同定をMascot v2.3 (Matrix Science)を用いて、「UniProtデータベース、precursor mass tolerance: 10 ppm、 fragment ion mass tolerance: 0.01 Da、 strict trypsin specificity allowing: up to 1 missed cleavage、variable modification: carbamidomethylation of cysteine; oxidation of methionine; deamidation of asparagine, glutamine; phosphorylation of serine, threonine, tyrosine」の検索条件で行った。同定したタンパク質とリン酸化ペプチドの定量は、質量分析で取得したTotal spectral count、およびTotal ion chromatogramに基づき、Scaffold 4 software (Proteome Software)を用いて行った。
KIF4A cDNAが組み込まれたpF1Kベクター(かずさDNA研究所)を鋳型として、KIF4 cDNAの5’末端と3’末端に制限酵素部位BglIIとSalIをそれぞれの末端に付加されるようにプライマーを設計し、PCRによりKIF4A遺伝子の増幅を行った。PCRでの増幅産物およびpEGFP-C1 プラスミド(Takara)をBglII(NEB)とSalI(NEB)で切断した後、In-Fusion cloning kit (Takara)を用いて両者のライゲーションを行い、KIF4AのN末端にGFPを融合したタンパク質を発現するベクターを構築した。次に、質量分析により同定されたKIF4Aのリン酸化部位のセリン残基(S1186)をアラニンに置換したベクター(S1186A)をPrimeSTAR mutagenesis basal kit(Takara)を用いて作製した。作製したベクターは大腸菌DH5 株に導入し、プラスミドDNAを増幅した。大腸菌からのプラスミドDNAの抽出はFastGene plasmid mini kit(ニッポンジーン)を用いて行い、DNA配列を確認した。
内在性KIF4Aのノックダウンを行うためにKIF4A遺伝子の非翻訳領域(UTR)を標的としたsiRNAを合成した(標的配列:5’-CAGGTCCAGACTACTACTC-3’(配列番号87))。合成したsiRNAを6 well plateで培養したHeLa細胞へ300 pmol/wellの濃度で添加し、RNAiMAX transfection reagents (Invitrogen)を用いて形質転換を行った。8時間後に培地交換を行い、野生型KIF4AおよびKIF4A変異体(S1186A)発現ベクターを1.6 μg/wellの濃度で添加し、Lipofectamine 3000 reagent (Invitrogen)を用いて形質転換を行った。24時間後、コルセミドを100 ng/mlで添加し、さらに12時間培養後、分裂期細胞を回収した。回収した細胞の染色体の形態を調べるために、Cytospin 4(ThermoScientific)を用いて細胞をスライドガラス上に展開後、DNAをDAPIで染色し、蛍光顕微鏡(AxioPlan2, Zeiss)で観察した。
細胞周期をG2期に同調した細胞を取得するために、チミジンからリリースして6時間後の細胞を回収し、その同調率をFACS(fluorescence activated cell sorting)により解析した(図3A)。その結果、G2/M期の細胞は全体の63.4%であることが示された。FACSではG2期細胞とM期細胞が区別できないため、細胞内のDNAをDAPI染色し、蛍光顕微鏡下で観察することでDNAの凝縮状態を確認した(図3B)。その結果、99%の細胞はDNAが凝縮していない間期状態にありM期細胞はほとんど存在しないことが示された。このことから、FACSで解析された63.4%のG2/M期の細胞はほぼすべてG2期の細胞と考えられる。また、ノコダゾール処理を行った細胞、カリクリンA処理を行った細胞の95%以上で凝縮した染色体が観察された(図3B)。このように、本条件で細胞を薬剤処理することで染色体凝縮が起こっていないG2期細胞とクロマチンが凝縮したM期、PCC誘導細胞を高効率で取得できることが示された。
質量分析の結果、3種類の細胞全体でリン酸化されたタンパク質が441個、リン酸化されたペプチドが870個同定された(表1)。このうち、G2期細胞と比較してM期細胞とPCC誘導細胞でリン酸化の定量値が1.3倍以上増加する、クロマチンの凝縮に関わる可能性が大きいリン酸化ペプチドは85個同定された(表2)。また、同定されたタンパク質の間期における局在を調べた結果、いずれのサンプルにおいても70%以上が核局在タンパク質であることが示された。細胞全体で、核局在タンパク質が占める割合は10-20%と見積もられていることから(Narula K. et al., (2013) Front Plant Sci., 4, 1-14)、本解析ではクロマチン結合タンパク質の精製度が高いことが示された。
質量分析により同定されたリン酸化ペプチドがクロマチン凝縮に寄与するかどうかを調べるために、KIF4Aに着目した。KIF4Aは染色体スキャフォールドと呼ばれる染色体腕の中心に軸上に分布することが知られており、染色体構築への寄与が大きいと考えられている。KIF4Aは細胞周期を通じてクロマチンと結合しているため、分裂期開始時にリン酸化を受けることでクロマチン凝縮に関する機能が現れると予想される。質量分析の結果、KIF4AのS1186はG2期細胞ではリン酸化が見られないもののM期細胞とPCC誘導細胞において高いリン酸化レベルを示している(KpTPPAPpSPFDLPELK(配列番号86;表2の配列番号31で示されるペプチド配列の2番目と7番目のアミノ酸残基がリン酸化))。そこで、KIF4AのS1186をアラニンに置換することでリン酸化を受けないKIF4A(S1186A)を細胞内で発現させることで、S1186のリン酸化がクロマチン凝縮に与える影響を調べた。内在性のKIF4AをRNAiでノックダウンし、野生型KIF4A(KIF4WT)およびKIF4A変異体(S1186A)を発現させたところ、野生型KIF4Aでは正常な細胞と同様の凝縮した染色体が観察されるのに対して、変異体では染色体が太く短くなった形態になった(図4)。このことから、KIF4AのS1186のリン酸化がクロマチンの正常な凝縮に必要であることが示された。
Claims (4)
- 下記(1)及び(2)の工程を含む、クロマチンの異常凝縮の検出方法。
(1)細胞分裂期の細胞又は早期染色体凝縮が誘導された細胞を95%以上含む検出対象の細胞における、KIF4Aの1186番目のアミノ酸残基のリン酸化の程度を測定する工程、並びに
(2)対照の細胞におけるKIF4Aの1186番目のアミノ酸残基のリン酸化の程度と比較して、前記検出対象の細胞におけるKIF4Aの1186番目のアミノ酸残基のリン酸化の程度が低い場合に、クロマチンの異常凝縮が検出されたと評価する工程 - 下記(1)~(3)の工程を含む、クロマチンの異常凝縮の検出方法。
(1)細胞分裂期に同調される前又は早期染色体凝縮が誘導される前の細胞における、KIF4Aの1186番目のアミノ酸残基のリン酸化の程度を測定する工程、
(2)細胞分裂期に同調された後又は早期染色体凝縮が誘導された後の細胞におけるKIF4Aの1186番目のアミノ酸残基のリン酸化の程度を測定する工程、及び
(3)(1)と(2)の工程により得られた測定値の増加割合((2)の工程により得られた測定値/(1)の工程により得られた測定値)が基準値未満である場合に、クロマチンの異常凝縮が検出されたと評価する工程 - 前記細胞がヒト由来である、請求項1又は2に記載の方法。
- 前記早期染色体凝縮がカリクリンAにより誘導される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
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