次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。本発明の好ましい態様では、磁気消去具は、磁界を動的に変化させる機構を有し、変化する磁界を磁気パネルに作用させることにより、磁気ペンによって磁気シート上に描画された文字、図形、記号等を消去する。さらに好ましい態様では、磁気消去具は、磁気パネルの記載面から磁界を作用させることにより文字等を消去することができ、記載面と対向する裏面側からでも磁界を作用させて消去することができる。なお、図面に示された各部の大きさは、必ずしも実際の製品の大きさとは一致しない点に留意すべきである。
次に、本発明の第1の実施例について図1を参照して説明する。図1(A)は、第1の実施例に係る磁気消去具の模式的な断面図である。磁気消去具100は、ハウジング110と、ハウジング110内に収容される磁石120と、磁石120を回転させるための回転機構130と、回転機構130を駆動するモーター140と、モーター140の動作を制御するための電子回路等を搭載した制御基盤150と、モーター140や電子回路への電力を供給するための電池(バッテリー)160とを含んで構成される。
ハウジング110は、任意の材料から構成することができるが、少なくとも磁気シートに描画された文字等の消去を行うための消去面は、磁力線を透過可能な材料、例えば、プラスチック等から構成される。ハウジング110の形状は、任意であるが、ここでは、その形状は、6面体を有する立方体状である。ハウジング110は、内部に立方体状の空間を形成し、この内部空間内に磁石120、回転機構130、モーター140、制御基盤150および電池160を収容する。
ハウジング110の底面112は、文字等を描画するための磁気シート180上を摺動する摺動面として機能し得る。1つの実施態様では、底面112には、磁気シート180との摩擦抵抗を低減し、または摺動を容易にするための摺動促進部材114が貼り付けられる。摺動促進部材114は、好ましくは、フェルト材であり、フェルト材は、例えば、磁気シート180上に、ホワイトボード用のマーカーで文字等が描画された場合、マーカーの文字等の消去を同時に行うことも可能である。
磁石120は、その形状を特に限定されないが、例えば、円柱状を有し、その軸方向に長さL1を有する。磁石120が円筒状であるとき、図1(B)に示すように、その回転軸Pの半径方向にN極およびS極が着磁されている。あるいは、磁石120Aが角柱状であるとき、その回転軸Pに対して高さ方向にN極およびS極が着磁されている。磁石120の中心には回転軸122が取り付けられ、この回転軸122は、回転機構130に結合される。磁石120の回転軸122は、ハウジング110の底面112とほぼ平行である。磁石120は、ハウジング110が磁気シート180上を摺動するとき、磁気シート180の面から高さh1または高さh2(h1>h2)の位置を選択可能である。N極からS極に向かう磁界または磁力線は、ハウジング110の底面112を超えて磁気シート180に作用する。磁石120が回転されると、磁石120の磁力線が変化し、変化した磁力線が磁気シート180に作用し、磁気シート180に描画された文字等を、磁気シート180の表面側(磁気ペンにより描画した記載面側)から、あるいは裏面側から消去することができる。
本実施例では、磁石120の高さを、h1またはh2に変更することができる。磁気シート180の消去に作用するパラメータは、(1)磁石120のガウス(強さ)、(2)磁石120から磁気シート180の面までの距離、(3)磁石の回転数である。消去を行うとき、これらのパラメータを調整することで、最適な範囲および方向で磁力線が磁気シート180に作用させるようにすることが望ましい。また、磁気シート180に描画された文字等は、時間が経過すると、最適な磁力線の方向が異なることがある。そのような場合、磁石120の高さをh1またはh2に変化させることで、あるいは磁石120の回転数を変化させることで、文字等が消去され易くなる磁力線の方向または磁力の強度を選択できるようにする。磁石120の高さの調整方法は、後述する。
回転機構130は、回転軸122に接続された歯車132、歯車132と噛合する歯車134とを含む。歯車132、134の径により、磁石120の高さをh1に調整することができる。また、磁石120と歯車132を、歯車134の回転軸を中心とする2つの位置間で移動可能にすることで、磁石120の高さをh1からh2に変更することができる。さらに、磁石120の高さh1、h2の変更は、リンク機構等の公知の技術を利用して行うことができる。
モーター140は、歯車134に結合され、歯車134を回転させる。歯車134の回転により、歯車132、回転軸122を介して磁石120が回転される。ここでは2つの歯車132、134を用いているが、歯車の数は、任意である。また、歯車は、平歯車、ウォームギア、傘歯車等、その種類は問わない。あるいは、動力伝達機構は、歯車に代えて、ベルトを用いるものであってもよい。また、回転機構130は、モーター140の回転方向を異なる方向、例えば直交する方向に変換する機能を備えるようにしてもよい。
制御基盤150は、モーター140の駆動を制御するための電子回路を搭載する。電子回路は、例えば、マイクロコンピュータやモーター140を駆動する回路等を含むことができる。マイクロコンピュータは、モーター140を予め設定された回転数で回転させたり、あるいは、ユーザー入力によってモーター140の回転数を変化させる制御を行うことが可能である。この場合、ユーザー操作部154がハウジング110上に搭載され、ユーザー入操作部154から入力された信号がマイクロコンピュータへ提供される。
制御基盤150は、スイッチ152を介して電池160に接続され、スイッチ152がオンされたとき、電池160からの電力が制御基盤150へ供給される。制御基盤150は、電力が供給されると、動作可能な状態になり、モーター140の駆動が可能になる。スイッチ152は、例えば、ユーザーによってオン/オフされる。この場合、ユーザー操作部154がハウジングの表面に設けられる。あるいは、スイッチ152は、ユーザー等の物体を接触または接近を検知する検知センサに応じてオン/オフするものであってもよい。この場合、検知センサは、ハウジング110の任意の面に取り付けられ、検知センサの検知結果がマイクロコンピュータへ提供され、マイクロコンピュータがスイッチ152のオンまたはオンを制御する。
電池160は、任意の形状、大きさであることができる。また、電池160は、充電可能な二次電池であってもよい。
上記したように、磁気消去具100を磁気シート180上で移動させると、磁石120からの磁力線が磁気シート180に作用し、そこに描画された文字等を消去することができる。このとき、消去する範囲は、磁石120の軸方向の長さL1によって規定される。文字等を消去する場合には、磁石120を回転させることが好ましいが、磁石120の回転を停止させた状態で消去を行うことも可能である。磁石120を回転させたときの消去能力は、磁石120を静止させたときの消去能力よりも高く、すなわち、磁石120を回転させたときには、消去時間が短く、かつきれいに消去することができる。磁石120を静止して消去する場合には、磁石120が磁気シート180に対して消去可能な位置に停止されている必要がある。
図1(B)は、第1の実施例の変形例である。磁気消去具100によって磁気シート180上の比較的大きな面積を一括で消去したい場合には、磁石120により生じる磁力線の範囲を大きくすればよい。例えば、図1(C)に示すように、複数の円柱状の磁石120-1、120-2、120-3の中心が軸122によって連結され、3つの磁石120-1、120-2、120-3が同時に回転されるようにする。この際、3つの磁石120-1、120-2、120-3の極が同じ方向を向き、3つの磁石が回転されたとき、そこから生じる磁力線の変化が等しくなるようにする。また、各磁石120-1、120-2、120-3は、軸方向に一定の間隔Lnで連結されるようにしてもよい。
次に、本発明の第2の実施例について図2を参照して説明する。第2の実施例に係る磁気消去具200は、広範囲および小範囲で文字等を消去することができる機能を備える。第2の実施例の磁気消去具200は、第1の実施例と同様の構成については、同一参照番号を付してある。
磁気消去具200は、第1の実施例の構成に加えて、小範囲の消去を可能とする小範囲消去部210を備える。小範囲消去部210は、ハウジング110の一側面に設けられる。例えば、ハウジング110が幅W、高さH、奥行きDであるとき、小範囲消去部210は、例えば、磁石120が回転する軸方向上の側面114に取り付けられる。
小範囲消去部210は、概ね円筒状のハウジング220と、ハウジング220内に収容される小型の磁石230と、ハウジング220の外周上を軸方向に沿って移動可能な磁気シールドリング240と、ハウジング110内の磁石120からの磁力線を遮蔽する磁気シールド板250とを含んで構成される。
ハウジング220は、磁力線を透過可能な材料、例えばプラスチックから構成される。ハウジング220は、一方の端部222が半球状で閉じ、他方の端部224が開放し、他方の端部224がハウジング110の側面116のほぼ中心部に結合される。他方の端部224の円形状の開口は、側面116の高さH、奥行きDよりも小さい。
ハウジング220の内部空間には、磁石120と同軸上で回転可能な磁石230が配置される。1つの態様では、磁石120の回転軸122Aがハウジング110の側面114を貫通し、ハウジング210内まで延在し、磁石230が回転軸122Aに取り付けられる。磁石230は、例えば、回転軸122Aの方向にN極とS極とが着磁された円板状を有する。磁石230は、ハウジング220の半球状の端部222に対して一定の距離に位置決めされる。
磁気シールドリング240は、ハウジング220の軸方向を任意に移動することができる。移動の方法は、特に制限されないが、例えば、ハウジング220と一定の摩擦力が生じるように磁気シールドリング240が自由に移動され、所望の位置に停止される。あるいは、磁気シールドリング240の内面に凹または凸を形成し、ハウジング220の外面に凸または凹を形成し、両者の凹凸が係合する位置で磁気シールドリング240の移動を停止させるようにしてもよい。あるいは、磁気シールドリングは、ハウジング220の外周に形成されたネジ溝を利用して、回転することで軸方向に移動できるようにしてもよい。磁気シールドリング240は、磁石230が磁気シート180に及ぼす磁力線の範囲を調整するものであり、磁気シールドリング240がハウジング220の半球状の端部222に近接すると、磁石230の磁力線が横方向(ハウジングの軸方向と垂直方向)に制限され、消去範囲が狭められ、たほう、磁気シールドリング240が他方の端部224側に移動されると、磁石230の磁力線の横方向の範囲が広がり、消去範囲が拡大される。
磁気シールド板250は、ハウジング110とハウジング220との間に磁気的な絶縁を提供する。図に示す例では、ハウジング110の側面114の全体に磁気シールド250が設けられているが、磁気シールド板250は、ハウジング220の他方の端部224側に設けられてもよい。
図2(A)に示すように、ハウジング220の半球状の端部222を、磁気シート180上を移動させ、磁石230からの磁力線を磁気シート180に作用させることで、磁気シート180上の小範囲の文字等を消去することができる。本例では、ハウジング220の一方の端部を半球状にすることで、ハウジング220の回転軸と磁気シート180との成す角度θを任意に選択することができる。角度θを可変することで、磁石230と磁気シート180との間の距離を調整し、最も消去し易い角度θを得ることができる。本例では、ハウジング220の一方の端部を半球状にしているが、これは一例であり、きれいに消去できるように、距離L1、L2、…、Lnを実験的に検討し、それに基づき先端部の形状を決定するようにしてもよい。先端部の形状は、θ=90°~30°の範囲で消去できるようにすることが望ましい。なお、小範囲消去部210による消去を行うとき、磁石230は静止状態であってもよいし、回転された状態であってもよい。
上記実施例では、磁石230が磁石120と同軸の例を示したが、両磁石は、必ずしも同軸であることを要しない。例えば、図2(C)に示すように、磁石120と磁石230との間に複数の歯車260、262、264を介在させることで、磁石120の回転軸122と、磁石230の回転軸122Aとを離間させることができる。このような構成にすることで、レイアウトの自由度が広がり、例えば、図2(D)に示すように、小範囲消去部210を、ハウジング110の中心位置から上方にオフセットさせることができる。さらに、複数の歯車のギア比を適宜選択することで、磁石230にとっても最適な消去回転を設定するようにしてもよい。この場合、磁石230の回転数は、必ずしも磁石120の回転数とは一致しない。
次に、磁気シールドリングの詳細な動作について図3を参照して説明する。上記したように磁気シールドリング240は、例えば、鉄等の磁性体材料から構成され、ハウジング210上を軸方向に移動可能であり、その移動により磁石230の磁力線の範囲を調整する。図3は、磁気シールドリング240の位置と、そのときの消去範囲との関係を例示する図である。磁石230は、その表面から磁気シート180までの距離hが最適に設定されている。磁石230が回転することにより、N極からS極に向かう磁力線が変化し、その変化した磁力線が磁気シート180に作用する。
図3(A)に示すように、磁気リングシート240が磁石230よりも手前側にあるとき、すなわち、磁気リングシート240と磁気シート180との間の距離P1が最適距離hよりも大きいとき(P1>h)、磁石230の磁力線は、磁気リングシート240による干渉が生じない。このため、最適距離hに応じた消去範囲(2×r1)において磁気シート180上の文字等をきれいに消去することができる。
磁気リングシート240を、図3(B)に示すように、磁気シート180の方向へ移動させ、磁気リングシート240の先端部分が磁石230にオーバーラップさせる。つまり、磁気リングシート240と磁気シート180との間の距離P2が最適距離hよりも小さくなると(P2<h)、磁石230のN極から出てS極に戻る磁力線の横方向(磁石230の回転軸と直交する方向)の大きさが幾分制限される。このため、消去範囲(2×r2、r2<r1)が狭められる。
図3(C)に示すように、磁気リングシート240をさらに磁気シート180に向けて移動させ、磁気リングシート240と磁気シート180との間の距離P3を小さくする(P3<h、P3<P2)。そうすると、磁石230が磁気シート180に作用する磁力線の横方向の大きさがさらに制限され、その結果、非常に小さな消去範囲(2×r3、r3<r2)を得ることができる。磁気シート180に描画された非常に細かな面積を消去するときに効果的である。
次に、本発明の第3の実施例について図4を参照して説明する。同図において、第1および第2の実施例と同一構成については同一参照番号を附す。第3の実施例は、磁気消去具のモーターの消費電力の削減方法に関する。
同図に示すように、第3の実施例に係る磁気消去具300は、ハウジング110内に、磁石120、回転機構130、モーター140、制御基盤150および電池160を含む。磁石120と磁気シート180との間に、鉄等の金属部材が存在すると、磁石120が金属部材と引き合うため、磁石120が回転し難くなり、モーター140の消費電流が増加する。つまり、磁石120、または図4(B)に示すように、N極とS極の磁石310の場合、N極からS極に向かう磁力線の磁力作用が大きい方向Sa、Sbに鉄のような金属部材320があると、磁石が引き合い、磁石が回転し難くなる。そこで、第3の実施例では、磁石120とハウジング110の底面112との間の磁石120の円周方向には、モーター140、制御基盤150および電池160を設置しない。また、ある実施例では、ハウジング110の内部空間は、回転軸と垂直方向の隔壁330によって2つに分割され、一方の内部空間に磁石120が配置され、これと水平方向に位置する他方の内部空間に回転機構130、モーター140、制御基盤150および電池160が配置される。隔壁130の材料は特に制限されないが、例えば、磁石120の磁力が引きつけられるのを防止するために非磁性体材料から構成されることが望ましい。磁石120が磁性体材料からなる隔壁130に引きつけられてしまうと、磁石120が回転し難くなり、磁石120を駆動するための消費電力が大きくなってしまう。
上記したように、磁石120の円周方向に金属製の部材を設置しないようにすると、磁気消去具が水平方向(横方向)に延び、小型化が難しくなる。第3の実施例の変形例では、磁石120からできるだけ離れるように電池やモーターを配置することで、消費電力の削減と小型化とを両立させる。
図4(C)は、第4の実施例に係る磁気消去具の内部構成を模式的に示した概略正面図、図4(D)は、内部構成を模式的に示した概略側面図である。磁気消去具400は、ハウジング110内に、磁石120、モーター140、制御基盤150、電池160等を含む。磁石120は、歯車350、352、354を介してモーター140の駆動軸に結合される。磁石120は、ハウジング110内のやや上方の真中に配置され、電池160とモーター140は、ハウジング110の底面112のコーナー部分に離間して「ハ」の字のように配置される。磁石120から出来るだけモーター140および電池160を遠ざけることで、磁石120がモーター140および電池160と引き合う磁力が打ち消し合うことで分散され、磁石120を回転させるときの負荷を小さくすることができる。その結果、モーター140による消費電力の削減を図ることができ、電池160の寿命を延ばすことができる。また、1つのハウジング110内に、磁石120、モーター140、制御基盤150、電池160等を配置することで、磁気消去具の小型化を図ることができる。
次に、本発明の第5の実施例について図5を参照して説明する。第5の実施例に係る磁気消去具500は、図5(A)に示すように、コーナー部分が面取りされたハウジング510を含む。すなわち、ハウジング510は、上面510-1、左側面510-2、底面510-3、右側面510-4を含み、それらの各面の間に傾斜した面510-A、510-B、510-C、510-Dが形成されている。上記した実施例と同様に、ハウジング510内には、モーター140によって回転される円筒状の磁石120が取り付けられる。
第5の実施例では、ハウジング510の上面510-1、左側面510-2、底面510-3、右側面510-4は、それぞれが磁気シートに対して摺動可能であり、磁気シート上で摺動されたとき磁気シートに描画された文字等を消去することができる。ここで留意すべきは、磁石120の回転軸から4つの面までの距離がそれぞれ異なり、磁気シートに対して異なる大きさおよび/方向の磁力線を作用させることができる。具体的には、磁石120の回転軸から上面510-1、左側面510-2、底面510-3、右側面510-4までの各面と直交する距離は、L1、L2、L3、L4であり、L1>L2>L3>L4の関係にある。ユーザーは、文字等をきれいに消去することができる面を選択し、選択された面を磁気シート上で摺動させることができる。
さらにハウジング510の傾斜した4つ面510-A、510-B、510-C、510-Dの先端面Eには、それぞれ4つの磁石520が取り付けられる。先端面Eは、図5(B)に示すように、磁石120の回転軸に対して垂直な平面であってもよいし、あるいは、回転軸に対して傾斜した面であってもよい。このような先端面Eに、磁石520が取り付けられる。磁石520は、好ましくは、保護部材522で覆われる。この場合、保護部材500は、磁力線を透過できる非磁性体材料から構成され、また、磁石520の表面は、保護部材522の先端から消去可能な距離に設定される。磁石520の数や形状は、任意であり、例えば、図5(C)に示すように、単板構造の磁石、複数の磁石、リング状の磁石であることができる。さらに、4つ面510-A、510-B、510-C、510-Dの各先端面Eに取り付ける各磁石は、同一である必要はなく、磁石のサイズや向きを適宜選択することで、異なる大きさの磁力線または異なる方向の磁力線が生成されるようにしてもよい。
先端面Eに取り付けられた磁石520は、磁気シート上の細かい範囲の文字等を消去可能にするものである。そのような場合、ユーザーは、先端面Eを磁気シート上で摺動させることで消去を行う。磁気シートの特性として、描画後、時間の経過と共に消去しづらくなるため、通常より強い磁力線(磁場)が必要となることがある。但し、過度の磁力線を印加すると消去できるが、白い面が灰色になり易くなる。第5の実施例では、ハウジング510の上面510-1、左側面510-2、底面510-3、右側面510-4のいずれかを選択し、選択した面を磁気シート上で摺動させるだけで、異なる強さの磁力線を磁気シートに印加することができる。
図5(D)は、第5の実施例の変形例である。図2に示す第2の実施例では、小範囲消去部210の磁石230は、磁石120ととものモーター140によって回転可能な構成であったが、図5(D)に示す磁気消去具では、ハウジング110のコーナー部分に小範囲消去部550が設けられ、小範囲消去部550内に配置された磁石560は、静止している。このような構成であっても、小範囲消去部550を磁気シート上で摺動させることで、小範囲消去部550の磁石560からの磁力線を磁気シートに印加することで小範囲の消去が可能である。
次に、本発明の第6の実施例について図6を参照して説明する。第6の実施例に係る磁気消去具600は、各コーナーに消去が可能な磁石を備えている。磁気消去具600は、ハウジング610、磁石620、モーター630、電池640、制御基盤650を含む。ハウジング610の先端の面取された4つコーナー部分には、それぞれ磁石660が設置される。磁石620を収容する空間と、磁石660を収容する空間は、例えば、磁気シールド板670によって分離されている。このような磁気消去具600の角部を利用することで、磁気シート上の小範囲の消去が可能になる。
次に、本発明の第7の実施例について図7を参照して説明する。第7の実施例に係る磁気消去部700は、ハウジング先端部710がハウジング本体部720に対して軸方向に移動可能な構成を有している。ハウジング本体部720は、軸方向に延在する円筒部分722を有し、円筒部分722の内部には、軸方向に延びる回転軸732と、回転軸732に接続された磁石730とが配置される。また、ハウジング本体部720の内部には、上記実施例と同様に、モーターや電池等が内蔵されている。
ハウジング先端部710は、円筒部分722上を軸方向に移動可能に構成され、かつ、ハウジング先端部710は、円筒部分722の外周に巻回されたコイルスプリング712によって、ハウジング本体部720から離間する方向に付勢されている。ユーザーは、磁気消去具700を磁気シート180に押圧させるとき、その押圧力を調整することで、ハウジング先端部710の位置を調整することができる。
例えば、図7(A)に示すように、ハウジング先端部710がハウジング本体部720から大きく離間されたとき、磁石730から磁気シート180までの距離はD1であり、半径r1の小範囲の消去が可能である。また、図7(B)に示すように、ユーザーが幾分強い力で磁気消去具700を磁気シート180に対して押圧すると、コイルスプリング712に抗してハウジング先端部710がハウジング本体部720に接近し、磁石730から磁気シート180までの距離がD2となる(D2<D1)。その結果、磁石730から磁気シート180へ作用する磁力線が大きくなり、半径r2の比較的大きな範囲の消去が可能になる(r2>r1)。
さらに、第2の実施例のときと同様に、ハウジング先端部710の外周上を軸方向に移動可能な磁気シールドリング740を設け、磁気シールドリング740を移動させることで磁石730の磁力線の微細な調整を行い、消去可能な範囲を可変するようにしてもうよい。
次に、本発明の第8の実施例について図8を参照して説明する。第8の実施例は、磁石120を静止させた状態で消去を可能にする。例えば、電池160の残量がなくなったとき、モーター140による回転が停止され、磁石120は静止するが、磁石120の静止位置が所定の位置にあれば、磁気シート180上の文字等を消去することが可能である。但し、磁石120を回転させたときの消去能力(短時間で消去でき、かつきれいな消去が可能)は、磁石120を静止させたときの消去能力よりも高い。例えば、図8(B)に示すように、磁気シート180に対して磁石120を傾斜させた状態で移動させるとき、磁石120の静止位置によっては、磁石120からの磁力線が磁気シート180に作用し、消去を行うことができる。
第8の実施例の磁気消去具800は、磁石120の静止位置を調整するための回転ネジ810を含む。ハウジング110の表面には、回転ツマミ810を露出させるための溝が形成され、ユーザーは、回転ツマミ810を回転させることで磁石120の静止位置を設定する。回転ツマミ810は、例えば、磁石120の回転軸112と同軸上の回転軸820に接続される。回転ツマミ810を操作することで、磁石120の静止位置を調整し、図8(B)に示すように磁石120の傾斜角θを決定する。また、好ましくは、回転ツマミ810には、消去が可能となる磁石120の静止位置をユーザーが容易に設定できるようにするための識別マーク812が設けられる。識別マーク812の形態は任意であり、例えば、回転ツマミ812の外周部に特定の色彩を施したり、あるいは特定の形状を施すことができる。
次に、本発明の第9の実施例について図9を参照して説明する。第9の実施例では、複数の磁石のうちの1つの磁石をモーターで回転させ、他の磁石をその回転に連動させる。
図9(A)は、3つの磁石120-1、120-2、120-3の斜視図、図9(B)は、3つの磁石の正面図である。磁石120-1、120-2、120-3は、それぞれ適切な間隔で互いに軸方向が平行になるように配置される。モーターによりどの磁石を回転させるかは任意であるが、本例では、中央の磁石120-2がモーターによって回転される。図9(C)は、磁石120-2がモーターによって角度θだけ回転されたときの状態を示している。隣接する磁石120-1、120-3は、磁石120-2との磁力線の作用により、磁石120-2と反対方向に回転する。このように複数の磁石を回転させることで、広範囲の消去を行うことができ、同時に、1つの磁石のみを回転させればよいので、複数の磁石を回転させる場合と比較して消費電力の増加を抑制することができる。
また、第9の実施例においても、第8の実施例を適用することができる。磁石120-2がある角度θにあり、他の磁石がそれと連動した静止位置にあるとき、消去力が増加する。第8の実施例のときと同様に、ユーザーが回転ツマミを操作することで、磁石120-2の静止位置を調整することができる
次に、本発明の第10の実施例について図10を参照して説明する。磁気シート面に描画された文字等をきれいに消去するためには、最適な磁力が必要になる。最適値よりも磁力が強いと、消去力は強いが、消去後の磁気シートは最適な白色にならず、灰色気味になる。そこで、第10の実施例の磁気消去具は、同図に示すように、中央の磁石120-2の磁力が最適値よりも大きくなるように磁気シート180からの距離をh2にし、両側の磁石120-1、120-3の磁力が最適値になるように距離h2よりも大きいh1、h3にする(h2<h1≦h3)。距離h2の磁石120-2は、磁力B2が強いため消去力が大きくなり、消去後に灰色となるが、h1、h3の磁石120-1、120-3の最適値の磁力B1、B3により灰色が白色になる(B2>B1≧B3)。これにより、例えば、時間経過後に消去がしにくくなる文字等をきれいに消去することができる。
また、上記の例では、磁石から磁気シートまでの距離を変えることで磁力線の強度を異ならせたが、これに限らず、3つの磁石の磁気シートからの距離を全て同じにし、磁石の強度(ガウス)を変えることで、同様の効果を得ることができる。
次に、本発明の第11の実施例について図11(A)を参照して説明する。第11の実施例に係る磁気消去具1100は、概略矩形状のハウジング800を有し、一方の端部810には、第2の実施例のときと同様に、磁石230を内部に収容する小範囲消去部210が設けられる。第11の実施例では、ハウジング800の4つの面820、822、824、826が消去面となる。磁石120の回転軸の中心は、4つの面820、822、824、826からの直線距離L1、L2、L3、L4がそれぞれ異なるように位置決めされ、4つの消去面の各々から磁気シートに作用する磁力の強さがそれぞれ異なる。
また、本実施例では、1つの面、例えば、底面826がハウジング800に傾斜面を提供するように取り付けられる。底面826の一方の端部は、軸830によってハウジング800に回転可能に支持され、軸830には、底面826を離間する方向に付勢するようにコイルバネ840が巻回されている。ユーザーが、コイルスプリング840に抗して底面826を磁気シートに押圧すると、それに応じて傾斜が小さくなるように底面826が回転する。このように底面826の傾斜角を可変にすることで、磁石120から磁気シートへ作用する磁力の大きさを可変することができ、消去のための最適な距離を容易に選択することができる。また、好ましい態様では、底面826の表面には、磁気シート上にホワイトボード用のマーカーが描画されたときに、これを同時に消去することができるフェルト材827が設けられる。
図11(B)は、第11の実施例の変形例である。本例は、底面826が可動式ではなく固定されている。4つの面820、822、824、826の各表面には、フェルト材827が設けられる。
次に、本発明の第12の実施例について説明する。図12は、第12の実施例の詳細な構成を示す概略断面図である。同図において、磁気消去具1200は、先端が開放した円筒状のハウジング本体部900と、ハウジング本体部900の先端に取り付けられた、端部が閉じた円筒状のハウジング先端部910とを含む。ハウジング先端部910は、コイルスプリング920によってハウジング本体部900から離れる方向に付勢される。
ハウジング本体部900内には、モーター930と、モーター930の回転軸に接続された円筒状の磁石保持部材940とが配置される。磁石保持部材940は、開放された先端に取り付けられたリング状の磁石950と、その内部空間の底部に取り付けられた円形状のバネ支持部材960と、バネ支持部材960から突出する軸に一方の端部が固定され、他方の端部が連結軸970に固定されたコイルバネ980とを有する。連結軸980は、磁石950の中央の孔を介して軸方向に延び、その一端がコイルバネ980によって支持され、他端に磁石990が取り付けられている。
図12(A)に示すように、ハウジング先端部910がハウジング本体部900から最も離間された位置にあるとき、磁石990は、磁気シート180から距離h1であり、磁石950は、距離h2である。距離h2は、磁石950が磁気シート180に磁力の影響を与えない位置であり、距離h1は、磁石990の最適な消去位置である。モーター930の駆動により磁石950および磁石990が回転し、この状態でハウジング先端部910を磁気シート180上で移動させれば、磁石990による比較的小範囲の消去が可能である。
図12(B)に示すように、ハウジング本体部900を磁気シート180に対して押下すると、コイルスプリング920のバネ力に抗してハウジング本体部900とハウジング先端部910との間の距離が縮まり、磁石保持部940が磁気シート180に接近する。このとき、磁石990の距離h2は変わらないが、磁石950から磁気シート180までの距離はh3に変化する。距離h3は、磁石950の最適な消去位置である。モーター930の駆動により磁石950および磁石990が回転し、この状態でハウジング先端部910を磁気シート180上で移動させれば、磁石990と磁石950の合成した磁力が磁気シートに作用し、比較的大きな範囲の消去が可能になる。
本発明は、上記した実施例1ないし12がそれぞれ単独で実施されるものでも良いし、実施例1ないし12の複数のものが適宜組み合わされて実施されるものであってもよい。
図13(A)に、本実施例の磁気消去具を利用することができる好ましい磁気シートの一例を示す。磁気シート180は、磁界を透過可能な透明なシートであって、磁気シートの表示面を構成する表面シート182、表面シート182と対向する裏面シート184、表面シート182と裏面シート184との間の空間内に2次元状に配置された複数のマイクロカプセル186を含んで構成される。なお、複数のマイクロカプセル186は、図示しないケースに収容される。
ある実施態様では、マイクロカプセル186は、例えば透明な球状のセル内に、粒径が0.1μm~1.0μmの磁性粒子を1種類以上、粒径が1μm~20μmの磁性粒子を1種類以上、白色酸化チタン等の非磁性粒子、分散液、添加剤を内蔵する。マイクロカプセルの大きさは、例えば50~650μmである。このような磁気泳動型の磁気パネルは、例えば特許文献3に開示されており、以下の特徴を有する。
a.水平の磁力線で小さい粒子が磁力線の方向に反応しやすい。
b.垂直の磁力線を有する磁気ペンでは、大、小の磁性粒子が反応して表面側が黒くなり、文字を描画することができる。
c.磁気パネルの表面から消去する場合、水平の磁力線に反応しやすい小さい粒子に水平のみ磁力線を作用させれば、小さい粒子が磁力線の方向に泳動して白くなる。このとき、大きい粒子はほとんど反応しないため"黒“のままの状態であり、表面から見ると黒が透けて見えるので完全には、白にならずコントラストの低下が生じる。
d.文字を消去するためには水平の磁力線を作用させればよく、逆に水平の磁力線を有する磁気ペンは、自ら書いた文字を即座に消去するため、不具合を生じさせる。
表面シート182上の磁気ペン(図示省略)によりマイクロカプセル186に磁界が作用されると、磁気ペンの垂直方向の磁力線に反応してマイクロカプセル186内の黒色の磁石粒子が表面側に泳動する。こうして、表面シート182上を磁気ペンを移動させれば、その移動に従いマイクロカプセル186内の磁性粒子が泳動し、画像が形成される。一方、画像を消去する場合は、表面シート182上において磁気消去具100の水平方向の磁力線に反応して小さい粒子が表面側に泳動し、画像が消去される。この場合、消去用磁石と表面シート182との間には一定のクリアランスを設けることで、磁気パネルに対して水平な磁力線を多く作用させることが望ましい。
また、上記実施例では、磁石を回転させるための動力源としてモーターおよび電池を利用する例を示したが、本発明の磁気消去具は、モーターおよび電池に代えて、例えば、ゼンマイバネのような弾性変形可能な部材を動力源にすることが可能である。例えば、磁石の回転軸にゼンマイバネが接続され、手動によりゼンマイバネを駆動してそこにエネルギーを蓄えさせておき、そのエネルギーを使用して磁石を回転させるようにしてもよい。
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。