図1を参照し、本発明の実施形態に係る統合制御装置50について説明する。図1は、統合制御装置50を含む発電システム100の構成例を示す図である。図1では、一点鎖線が蒸気管を表し、破線が作動油管を表し、点線が電気信号線を表し、二点鎖線が電力線を表す。
発電システム100は、非鉄金属製錬プラントにおいて、ボイラ1から発生する蒸気を複数の蒸気タービンに供給して発電するシステムである。そのため、発電システム100は、例えば、ボイラ1、蒸気タービン2、蒸気加減弁3、発電機4、復水器5、蒸気圧センサ6、回転数センサ7、電力センサ8、油圧源9、抽気加減弁10、抽気圧センサ11、安全弁12、ガバナ機構15、統合制御装置50等を含む。
ボイラ1は、蒸気を発生させる装置である。図1の例では、ボイラ1は、第1ボイラ1A、第2ボイラ1B及び第3ボイラ1Cを含む。ボイラ1は1台であってもよい。蒸気管SLは、第1ボイラ1A、第2ボイラ1B及び第3ボイラ1Cのそれぞれで発生した蒸気が合流して蒸気タービン2に供給されるように構成されている。
蒸気タービン2は、蒸気のもつエネルギを、タービン(羽根車)と軸を介して回転運動へと変換する外燃機関である。図1の例では、蒸気タービン2は、第1蒸気タービン2Aと第2蒸気タービン2Bを含む。そして、第1蒸気タービン2Aでは調速制御が実行され、第2蒸気タービン2Bでは調圧制御(前圧制御)が実行されるように構成されている。調速制御は、蒸気量の変動に関係なく発電電力を設定電力に維持する制御である。前圧制御は、蒸気タービンに供給される蒸気の圧力を設定圧力に維持する制御である。したがって、前圧制御では、蒸気量の変動に応じて発電電力が変動する。
蒸気加減弁3は、蒸気タービン2に供給される蒸気の圧力を増減させる弁である。図1の例では、蒸気加減弁3は、第1蒸気加減弁3Aと第2蒸気加減弁3Bを含む。第1蒸気加減弁3Aは、第1蒸気タービン2Aに供給される蒸気の圧力を増減させる弁である。第2蒸気加減弁3Bは、第2蒸気タービン2Bに供給される蒸気の圧力を増減させる弁である。
発電機4は、蒸気タービン2の回転運動を電気に変換して発電する装置である。また、発電機4は、発電した電力を、電力線ELを通じて、発電システム100の外部の電気負荷に供給する。外部の電気負荷は、非鉄金属製錬プラントの内部の電気負荷であってもよく、非鉄金属製錬プラントの外部の電気負荷であってもよい。図1の例では、発電機4は、第1発電機4Aと第2発電機4Bを含む。第1発電機4Aは、第1蒸気タービン2Aの回転軸に連結されている。そして、第1発電機4Aは、第1電力線ELAを通じて外部の電気負荷に電力を供給できるように構成されている。第2発電機4Bは、第2蒸気タービン2Bの回転軸に連結されている。そして、第2発電機4Bは、第2電力線ELBを通じて外部の電気負荷に電力を供給できるように構成されている。
復水器5は、蒸気タービン2で使用した蒸気を、冷却水との熱交換により、冷却凝縮して水に戻すように構成されている。復水器5は、蒸気を水に戻して体積を減らすことで、蒸気タービン2内を減圧し、蒸気の流れを良くして蒸気タービン2の効率を高めることができる。図1の例では、復水器5は、第1復水器5Aと第2復水器5Bを含む。第1復水器5Aは、第1蒸気タービン2Aで使用した蒸気を水に戻す。第2復水器5Bは、第2蒸気タービン2Bで使用した蒸気を水に戻す。
蒸気圧センサ6は、ボイラ1と蒸気タービン2とを繋ぐ蒸気管SLにおける蒸気の圧力を測定するように構成されている。図1の例では、蒸気圧センサ6は、第1蒸気圧センサ6Aと第2蒸気圧センサ6Bを含む。第1蒸気圧センサ6Aは、ボイラ1と第1蒸気タービン2Aとを繋ぐ蒸気管SLAにおける蒸気の圧力を測定する。第2蒸気圧センサ6Bは、ボイラ1と第2蒸気タービン2Bとを繋ぐ蒸気管SLBにおける蒸気の圧力を測定する。
回転数センサ7は、蒸気タービン2の回転軸の回転数を測定するように構成されている。図1の例では、回転数センサ7は、第1回転数センサ7Aと第2回転数センサ7Bを含む。第1回転数センサ7Aは、第1蒸気タービン2Aの回転軸の回転数を測定する。第2回転数センサ7Bは、第2蒸気タービン2Bの回転軸の回転数を測定する。
電力センサ8は、発電機4が発電した発電電力を測定するように構成されている。図1の例では、電力センサ8は、第1電力センサ8Aと第2電力センサ8Bを含む。第1電力センサ8Aは、第1発電機4Aの発電電力を測定する。第2電力センサ8Bは、第2発電機4Bの発電電力を測定する。
油圧源9は、油圧機器に作動油を供給する装置である。図1の例では、油圧源9は、統合制御装置50によって制御可能な油圧ポンプであり、作動油管HLを通じて油圧機器に作動油を供給する。油圧源9は、例えば、統合制御装置50からの制御指令の有無とは無関係に、所定の吐出圧を維持するように自律的に動作する油圧ポンプであってもよい。具体的には、油圧源9は、作動油管HLAを通じて第1蒸気タービン2Aに関する油圧機器に作動油を供給する。また、油圧源9は、作動油管HLBを通じて第2蒸気タービン2Bに関する油圧機器に作動油を供給する。
抽気加減弁10は、蒸気タービン2から抽気される蒸気の圧力を増減させる弁である。図1の例では、抽気加減弁10は、第1抽気加減弁10Aと第2抽気加減弁10Bを含む。第1抽気加減弁10Aは、第1蒸気タービン2Aから抽気される蒸気の圧力を増減させる油圧弁である。第2抽気加減弁10Bは、第2蒸気タービン2Bから抽気される蒸気の圧力を増減させる電磁弁である。
抽気圧センサ11は、蒸気タービン2から延びる抽気管XLにおける抽気の圧力を測定するように構成されている。図1の例では、抽気圧センサ11は、第1抽気圧センサ11Aと第2抽気圧センサ11Bを含む。第1抽気圧センサ11Aは、第1蒸気タービン2Aから延びる抽気管XLAにおける抽気の圧力を測定する。第2抽気圧センサ11Bは、第2蒸気タービン2Bから延びる抽気管XLBにおける抽気の圧力を測定する。第1抽気圧センサ11Aは、抽気管XLAにおける抽気の圧力の大きさに応じた制御指令を第1抽気加減弁10Aに対して出力することで第1抽気加減弁10Aの開度を調節できるように構成されている。
安全弁12は、蒸気管SLにおける蒸気の圧力が過度に上昇或いは下降したときに動作するように構成されている。図1の例では、安全弁12は、第1安全弁12Aと第2安全弁12Bを含む。第1安全弁12Aは、蒸気管SLAにおける蒸気の圧力が過度に上昇或いは下降したときに蒸気管SLAを遮断する油圧弁である。第2安全弁12Bは、蒸気管SLBにおける蒸気の圧力が過度に上昇或いは下降したときに蒸気管SLBを遮断する油圧弁である。
ガバナ機構15は、蒸気タービン2を制御する機構である。図1の例では、ガバナ機構15は、第1ガバナ機構15Aと第2ガバナ機構15Bを含む。第1ガバナ機構15Aは、第1蒸気タービン2Aを制御する機械式ガバナ機構である。第2ガバナ機構15Bは、第2蒸気タービン2Bを制御する電子式ガバナ機構である。
第1ガバナ機構15Aは、基本的に、第2ガバナ機構15Bによる第2蒸気タービン2Bの制御とは無関係に、第1蒸気タービン2Aを制御できるように構成されている。同様に、第2ガバナ機構15Bは、基本的に、第1ガバナ機構15Aによる第1蒸気タービン2Aの制御とは無関係に、第2蒸気タービン2Bを制御できるように構成されている。そして、第1蒸気タービン2Aと第2蒸気タービン2Bが蒸気源としてのボイラ1を共用しているため、第1蒸気タービン2Aは第2蒸気タービン2Bの外乱因子となり得、第2蒸気タービン2Bは第1蒸気タービン2Aの外乱因子となり得る。
統合制御装置50は、複数のガバナ機構15を統合的に制御する装置である。図1の例では、統合制御装置50は、互いに独立して動作可能な第1ガバナ機構15Aと第2ガバナ機構15Bを統合的に自動制御できるように構成されている。但し、第2ガバナ機構15Bが自動的に制御される場合であっても、第1ガバナ機構15Aは、タービン運転者によって手動で操作されてもよい。
第1ガバナ機構15Aは、タービン制御盤15a、ガバナ15b、ガバナモータ15c、負荷制限器15d及び開度発信器15eを含む。タービン制御盤15aは、調速制御が適用される第1蒸気タービン2Aの発電電力が設定電力となるように、ガバナ15bを制御するように構成されている。具体的には、第1蒸気圧センサ6A、第1回転数センサ7A、第1電力センサ8A及び統合制御装置50の少なくとも1つが出力する情報に基づいてガバナモータ15c及び負荷制限器15dを動作させてガバナ15bを制御するように構成されている。
ガバナ15bは、油圧源9が吐出する作動油とガバナモータ15cの駆動力とを利用して第1蒸気加減弁3Aの開度を増減できるように構成されている。また、ガバナ15bの動きは、負荷制限器15dによって制限されるように構成されている。すなわち、第1蒸気加減弁3Aの開度の調節幅は、負荷制限器15dによって制限されるように構成されている。ガバナモータ15cは、タービン制御盤15aからの指令に応じて駆動力の大きさを決定するように構成されている。負荷制限器15dは、タービン制御盤15aからの指令に応じて第1蒸気加減弁3Aの開度の最大値及び最小値の少なくとも一方を決定するように構成されている。例えば、ガバナ15bは、負荷制限器15dによる制限が緩和されたときに第1蒸気加減弁3Aの開度の最大値を増大させることができ、負荷制限器15dによる制限が強化されたときに第1蒸気加減弁3Aの開度の最大値を低減させることになる。
開度発信器15eは、第1蒸気加減弁3Aの開度を測定する装置である。開度発信器15eは、第1蒸気加減弁3Aの開度に関する情報を統合制御装置50に向けて送信するように構成されている。開度発信器15eは、タービン制御盤15aを介し、第1蒸気加減弁3Aの開度に関する情報を統合制御装置50に伝えてもよい。この構成により、統合制御装置50は、第1蒸気加減弁3Aの開度をリアルタイムで把握することができ、第1蒸気タービン2Aで実行されている調速制御の設定電力を迅速に更新できる。
第2ガバナ機構15Bは、タービン制御ユニット15f及び電気油圧変換器15gを含む。タービン制御ユニット15fは、前圧制御が適用される第2蒸気タービン2Bに供給される蒸気の圧力が設定圧力となるように、電気油圧変換器15gを制御するように構成されている。具体的には、第2蒸気圧センサ6B、第2回転数センサ7B、第2電力センサ8B及び統合制御装置50の少なくとも1つが出力する情報に基づいて電気油圧変換器15gを制御するように構成されている。
電気油圧変換器15gは、油圧源9が吐出する作動油を利用して第2蒸気加減弁3Bの開度を増減できるように構成されている。具体的には、電気油圧変換器15gは、タービン制御ユニット15fからの指令に応じて第2蒸気加減弁3Bに作用する作動油の圧力を増減させることで、第2蒸気加減弁3Bの開度を増減できるように構成されている。
次に、図2を参照し、統合制御装置50による統合制御について説明する。図2は、蒸気タービン2の発電電力の時間的推移を示す図である。具体的には、第1蒸気タービン2A及び第2蒸気タービン2Bのそれぞれの発電電力は、時間の経過に伴い、図2(A)~図2(F)の順で推移する。
ボイラ1の運転が開始されると、蒸気が生成されて蒸気量が増加する。蒸気量が少ない間は、調速制御が適用されている第1蒸気タービン2Aの発電電力は、図2(A)に示すように、比較的低いレベルにある。調速制御の設定電力は、例えば、発生した蒸気量で賄える程度の比較的低い値である第1設定値(例えば1000[kW])に設定されているためである。同様に、前圧制御が適用されている第2蒸気タービン2Bの発電電力も、図2(A)に示すように、比較的低いレベル(例えば1800[kW])にある。蒸気量が比較的少ないためである。
その後、蒸気量が増加するにつれ、蒸気管SLにおける蒸気の圧力は増大傾向を示すようになる。そのため、第2ガバナ機構15Bのタービン制御ユニット15fは、第2蒸気圧センサ6Bの出力を監視しながら、蒸気管SLBにおける蒸気の圧力が設定圧力で維持されるように、第2蒸気加減弁3Bの開度を増大させる。その結果、第2蒸気タービン2Bの発電電力は、図2(A)の白色矢印で示すように蒸気量の増加に伴って増加する。
その後、第2蒸気タービン2Bの発電電力が第1上限閾値(例えば図2(B)の破線で示す6000[kW])に達すると、統合制御装置50は、第1蒸気タービン2Aで実行されている調速制御の設定電力を更新する。蒸気管SLにおける蒸気の圧力が十分に高くなっていると推定されるためである。具体的には、統合制御装置50は、第2電力センサ8Bの出力に基づいて第2蒸気タービン2Bの発電電力が第1上限閾値に達したと判定すると、第1蒸気タービン2Aで実行されている調速制御の設定電力をより大きな値である第2設定値(例えば図2(B)の一点鎖線で示す4000[kW])に更新する。
この場合、統合制御装置50は、利用可能な任意の情報に基づいて第1蒸気タービン2Aに関する調速制御の設定電力を決定するように構成されていてもよい。例えば、第2蒸気タービン2Bの発電電力の増大率(単位時間当たりの増大量)に応じて第1蒸気タービン2Aに関する調速制御の設定電力を決定してもよい。具体的には、増大率が大きいほど設定電力が大きくなるようにしてもよい。或いは、統合制御装置50は、付属の記憶媒体に予め記憶されている値を設定電力としてもよい。
調速制御の設定電力がより大きな値に更新されると、第1ガバナ機構15Aのタービン制御盤15aは、第1電力センサ8Aの出力を監視しながら、第1蒸気タービン2Aの発電電力が新たな設定電力で維持されるように、第1蒸気加減弁3Aの開度を増大させる。その結果、第1蒸気タービン2Aの発電電力は、図2(B)の黒色矢印で示すように蒸気量の増加に伴って増加する。このような設定電力の更新により、更新前に比べ、蒸気管SLにおける蒸気の圧力は上昇し難くなる。蒸気管SL内の蒸気がより多く第1蒸気タービン2Aへ送られるようになるためである。このとき、統合制御装置50は、蒸気管SLにおける蒸気の圧力が短期間に低下するのを防ぐように、蒸気圧力の低下傾向が検出された場合には、第2蒸気タービン2Bへ送られる蒸気量を自動的に減少させる調整を行う。この場合、第2蒸気タービン2Bの発電電力は、蒸気量の減少に伴って低下する。
その後、ボイラ1で発生する蒸気の量が更に増加すると、蒸気管SLにおける蒸気の圧力は更なる増大傾向を示すようになる。そのため、第2ガバナ機構15Bのタービン制御ユニット15fは、第2蒸気圧センサ6Bの出力を監視しながら、蒸気管SLBにおける蒸気の圧力が設定圧力で維持されるように、第2蒸気加減弁3Bの開度を更に増大させる。その結果、第2蒸気タービン2Bの発電電力は、図2(B)の白色矢印で示すように蒸気量の増加に伴って更に増加する。
その後、第2蒸気タービン2Bの発電電力が第1上限閾値より大きい第2上限閾値(例えば図2(C)の破線で示す8000[kW])に達すると、統合制御装置50は、第1蒸気タービン2Aで実行されている調速制御の設定電力を再び更新する。具体的には、統合制御装置50は、第2電力センサ8Bの出力に基づいて第2蒸気タービン2Bの発電電力が第2上限閾値に達したと判定すると、第1蒸気タービン2Aで実行されている調速制御の設定電力を更に大きな値である第3設定値(例えば図2(C)の一点鎖線で示す6000[kW])に更新する。
調速制御の設定電力がこのように大きな値に更新されると、第1ガバナ機構15Aのタービン制御盤15aは、第1電力センサ8Aの出力を監視しながら、第1蒸気タービン2Aの発電電力が新たな設定電力で維持されるように、第1蒸気加減弁3Aの開度を更に増大させる。その結果、第1蒸気タービン2Aの発電電力は、図2(C)の黒色矢印で示すように蒸気量の増加に伴って更に増加する。このような設定電力の再度の更新により、蒸気管SLにおける蒸気の圧力は更に上昇し難くなる。蒸気管SL内の蒸気がより多く第1蒸気タービン2Aへ送られるようになるためである。このとき、統合制御装置50は、蒸気管SLにおける蒸気の圧力が短期間に低下するのを防ぐように、蒸気圧力の低下傾向が検出された場合には、第2蒸気タービン2Bへ送られる蒸気量を自動的に減少させる調整を行う。この場合、第2蒸気タービン2Bの発電電力は、蒸気量の減少に伴って低下する。
その後、ボイラ1で発生する蒸気の量が更に増加する場合も同様に、統合制御装置50は、第2蒸気タービン2Bの発電電力が第n上限閾値を上回った時点で調速制御の設定電力を第n設定値から第n+1設定値へ変更することで、そのような状況に対応可能である。なお、nは3以上の整数である。
続いて、ボイラ1で発生する蒸気の量が減少していく場合について説明する。その後、蒸気量が減少すると、蒸気管SLにおける蒸気の圧力は低下傾向を示すようになる。そのため、第2ガバナ機構15Bのタービン制御ユニット15fは、第2蒸気圧センサ6Bの出力を監視しながら、蒸気管SLBにおける蒸気の圧力が設定圧力で維持されるように、第2蒸気加減弁3Bの開度を低減させる。その結果、第2蒸気タービン2Bの発電電力は、図2(D)の白色矢印で示すように蒸気量の減少に伴って低下する。
その後、第2蒸気タービン2Bの発電電力が下限閾値(例えば図2(E)の破線で示す7000[kW])に達すると、統合制御装置50は、第1蒸気タービン2Aで実行されている調速制御の設定電力を再び更新する。具体的には、統合制御装置50は、第2電力センサ8Bの出力に基づいて第2蒸気タービン2Bの発電電力が下限閾値に達したと判定すると、第1蒸気タービン2Aで実行されている調速制御の設定電力をより小さな値(例えば図2(E)の一点鎖線で示す2000[kW])に更新する。
この場合、統合制御装置50は、利用可能な任意の情報に基づいて第1蒸気タービン2Aに関する調速制御の設定電力を決定するように構成されていてもよい。例えば、第2蒸気タービン2Bの発電電力の低下率(単位時間当たりの低下量)に応じて第1蒸気タービン2Aに関する調速制御の設定電力を決定してもよい。具体的には、低下率が大きいほど設定電力が小さくなるようにしてもよい。或いは、統合制御装置50は、付属の記憶媒体に予め記憶されている値を設定電力としてもよい。
統合制御装置50は、下限閾値についても上限閾値と同様に、複数段階の閾値を設定することができる。例えば、第2蒸気タービン2Bの発電電力が第n下限閾値を下回った時点で調速制御の設定電力を第n+1設定値から第n設定値へ変更することができる。その際、第n下限閾値を第n上限閾値より低い値にすることにより、複数のガバナ機構15を安定的に制御することができる。
調速制御の設定電力がより小さな値に更新されると、第1ガバナ機構15Aのタービン制御盤15aは、第1電力センサ8Aの出力を監視しながら、第1蒸気タービン2Aの発電電力が新たな設定電力で維持されるように、第1蒸気加減弁3Aの開度を低減させる。その結果、第1蒸気タービン2Aの発電電力は、図2(E)の黒色矢印で示すように蒸気量の減少に伴って低下する。そして、第1蒸気タービン2A及び第2蒸気タービン2Bの発電電力は、図2(F)に示すような状態に至る。このような設定電力の更新により、更新前に比べ、蒸気管SLにおける蒸気の圧力は下降し難くなる。第1蒸気タービン2Aによって吸収される蒸気量が制限されるためである。
次に、図3を参照し、統合制御装置50が第1ガバナ機構15Aと第2ガバナ機構15Bを統合的に制御する処理(以下、「統合処理」とする。)の流れについて説明する。図3は、統合処理の一例を示すフローチャートである。統合制御装置50は、例えば、発電システム100が稼働している間、所定の制御周期で繰り返しこの統合処理を実行する。
最初に、統合制御装置50は、第1蒸気タービン2Aにおける調速制御の設定電力を増大させる必要があるか否かを判定する(ステップST1)。本実施形態では、統合制御装置50は、第2電力センサ8Bの出力に基づき、前圧制御で動作する第2蒸気タービン2Bの発電電力が蒸気量増加時の閾値より大きいか否かを判定する。蒸気量増加時の閾値は、例えば、図2を参照して説明した第1上限閾値、第2上限閾値等である。但し、リアルタイムに算出されてもよい。また、統合制御装置50は、調速制御の設定電力が蒸気量増加時の適正値より小さいか否かを判定する。蒸気量増加時の適正値は、例えば、第2蒸気タービン2Bの発電電力の増大率等に応じて決定される値であり、図2(B)の4000[kW](第2設定値)、図2(C)の6000[kW](第3設定値)等である。但し、予め登録されている値が利用されてもよい。そして、統合制御装置50は、第2蒸気タービン2Bの発電電力が蒸気量増加時の閾値より大きく、且つ、調速制御の設定電力が蒸気量増加時の適正値より小さいと判定した場合に、調速制御の設定電力を増大させる必要があると判定する。また、統合制御装置50は、第2蒸気タービン2Bの発電電力が蒸気量増加時の閾値以下であるか、或いは、調速制御の設定電力が蒸気量増加時の適正値以上であると判定した場合に、調速制御の設定電力を増大させる必要がないと判定する。
調速制御の設定電力を増大させる必要があると判定した場合(ステップST1のYES)、統合制御装置50は、調速制御の設定電力を増大させる(ステップST2)。統合制御装置50は、例えば、調速制御の設定電力を蒸気量増加時の適正値まで増大させる。
調速制御の設定電力を増大させる必要がないと判定した場合(ステップST1のNO)、統合制御装置50は、調速制御の設定電力を増大させることなく、次のステップを実行する。
統合制御装置50は、第1蒸気タービン2Aにおける調速制御の設定電力を低減させる必要があるか否かを判定する(ステップST3)。本実施形態では、統合制御装置50は、第2電力センサ8Bの出力に基づき、第2蒸気タービン2Bの発電電力が蒸気量減少時の閾値より小さいか否かを判定する。蒸気量減少時の閾値は、例えば、図2を参照して説明した下限閾値である。但し、リアルタイムに算出されてもよい。また、統合制御装置50は、調速制御の設定電力が蒸気量減少時の適正値より大きいか否かを判定する。蒸気量減少時の適正値は、例えば、第2蒸気タービン2Bの発電電力の低下率等に応じて決定される値であり、図2(E)の2000[kW]等である。但し、予め登録されている値が利用されてもよい。そして、統合制御装置50は、第2蒸気タービン2Bの発電電力が蒸気量減少時の閾値より小さく、且つ、調速制御の設定電力が蒸気量減少時の適正値より大きいと判定した場合に、調速制御の設定電力を低減させる必要があると判定する。また、統合制御装置50は、第2蒸気タービン2Bの発電電力が蒸気量減少時の閾値以上であるか、或いは、調速制御の設定電力が蒸気量減少時の適正値以下であると判定した場合に、調速制御の設定電力を低減させる必要がないと判定する。
調速制御の設定電力を低減させる必要があると判定した場合(ステップST3のYES)、統合制御装置50は、調速制御の設定電力を低減させる(ステップST4)。統合制御装置50は、例えば、調速制御の設定電力を蒸気量減少時の適正値まで低減させる。
調速制御の設定電力を低減させる必要がないと判定した場合(ステップST3のNO)、統合制御装置50は、調速制御の設定電力を低減させることなく、今回の統合処理を終了させる。
上述のように、統合制御装置50は、前圧制御で動作する第2蒸気タービン2Bの発電電力が蒸気量増加時の閾値を上回った場合に、調速制御で動作する第1蒸気タービン2Aの設定電力を増大させるようにする。また、前圧制御で動作する第2蒸気タービン2Bの発電電力が蒸気量減少時の閾値を下回った場合に、調速制御で動作する第1蒸気タービン2Aの設定電力を低減させるようにする。この構成により、統合制御装置50は、前圧制御で実現できるボイラ系の安定を維持しながら、複数の蒸気タービン2を統合的に制御することができる。
[実施例]
ここで、上述の実施形態に係る統合制御装置50を非鉄金属製錬プラントの一例である銅製錬プラントに適用した場合について説明する。
銅製錬プラントは、硫化精鉱を原料とする非鉄金属製錬プラントの一例であり、主に、硫化精鉱を熔解する熔錬炉設備、熔解した粗銅を不純物除去のため吹錬する転炉設備、及び、製錬廃ガスである亜硫酸ガスを回収して硫酸を製造する硫酸プラントから構成される。熔錬炉設備は、例えば、自熔炉を含み、転炉設備は、例えば、転炉を含む。
これらの設備・プラントのそれぞれは、廃熱回収を目的とした廃熱回収設備を備えている。廃熱回収設備は、例えば、第1ボイラ1Aとしての自熔炉廃熱ボイラ、第2ボイラ1Bとしての転炉1号炉廃熱ボイラ、及び、第3ボイラ1Cとしての転炉2号炉廃熱ボイラを含む。これらのボイラ1で熱回収して発生する蒸気は、工場内で加温媒体としてさまざまな用途に利用されるだけでなく、蒸気タービン2を利用した発電にも利用される。大規模な銅製錬プラントは、ボイラ1での蒸気発生量が多く、且つ、電力需要が大きいため、蒸気タービン2を複数台備えるのが一般的である。
蒸気タービン2で発電することによりエネルギを回収する場合、ボイラ1と蒸気タービン2の両方に関連する制御が重要となる。例えば、一般的な発電所では電力供給が主目的であるため、安定した電力供給が行われるようにボイラ1及び蒸気タービン2が制御される。具体的には、蒸気タービン2が必要とするエネルギに合わせてボイラ1における燃料消費量等が制御される。しかしながら、製錬廃ガスの廃熱をボイラ1で熱回収するプラントでは、製錬廃ガスの量及び温度が熔錬炉設備の操業状況に応じて変動してしまう。また、転炉設備では、転炉の操業がバッチ式であるため、廃熱の供給が断続的になってしまう。すなわち、蒸気タービン2に供給される蒸気の量が変動してしまう。そのため、発電システム100では、上述のような発電所における電力の安定供給を主目的とした制御とは異なり、ボイラ1で発生する蒸気を処理することを主目的とした制御、すなわち、蒸気量に合わせた蒸気タービン2の制御が行われることが望ましい。
なお、銅製錬プラントでは、複数のボイラ1で発生する蒸気を合流させて蒸気タービン2に送り込んでいる。そのため、複数のボイラ1のうちの何れか1つが発生させている蒸気量が変動しただけで、蒸気タービン2へ送られる蒸気の圧力が変動してしまう。そこで、発電システム100では、蒸気タービン2の1つで前圧制御が実行されるように構成されている。
しかしながら、複数のボイラ1で発生する蒸気を複数の蒸気タービン2に送って発電運転する場合、複数の蒸気タービン2で前圧制御を行うと制御が収束しないおそれがある。
そこで、発電システム100では、2つの蒸気タービン2のうちの1つである第1蒸気タービン2Aで調速制御が実行され、2つの蒸気タービン2の別の1つである第2蒸気タービン2Bで前圧制御が実行されるように構成されている。
具体的には、前圧制御が実行される第2蒸気タービン2Bに供給される蒸気の圧力は、蒸気量が変動した場合であっても、第2蒸気タービン2Bの手前(上流側)に設けられた第2蒸気加減弁3Bの開度を変えることによって設定圧力に合うように調節される。この前圧制御により、第2蒸気タービン2Bは、蒸気量の変動に応じて発電量を増減させることができる。
また、調速制御が実行される第1蒸気タービン2Aは、蒸気量の変動とは無関係に、設定電力(発電電力)が固定されている。発電システム100は、タービン運転者の操作に応じて或いは自動的に設定電力を調節することで、第1蒸気タービン2Aを継続的に動作させることができる。この場合、設定電力は、自熔炉、転炉等の状況から自動的に予測されてもよい。
第1蒸気タービン2Aの設定電力の調節は、例えば、以下のように行われる。ボイラ1で蒸気圧力が高まることが予想される場合には、或いは現に高まっている場合には、発電システム100は、第1蒸気タービン2Aの設定電力を増大させることによって、第1蒸気タービン2Aでのエネルギ消費を増大させ、ボイラ1の循環水温度を上がり難くする。これは、ボイラ1の過熱を防止するとともに、製錬廃ガスを冷却する能力を維持するためである。一方、ボイラ1で蒸気圧力が低下することが予想される場合は、或いは現に低下している場合は、発電システム100は、第1蒸気タービン2Aで使用する蒸気量を少なくし、ボイラ1の循環水温度を下がり難くする。これは、発電に使う熱エネルギを後まで残しておくためである。
大規模な銅製錬プラントでは、多数のボイラ1が各個に動作して蒸気量の変動が頻繁に生じるため、第1蒸気タービン2Aの設定電力の調節も頻繁に行われる。設定電力の調節を誤ると、ボイラ1の圧力が過度に上昇或いは低下して安全弁12が作動してしまう。安全弁12の作動は、ボイラ制御系の外乱となり、銅製錬プラントの安定的な操業を妨げるおそれがある。そのため、発電システム100では、典型的には、第1蒸気タービン2Aの設定電力の調節が自動的に行われる。この自動調節により、発電システム100は、蒸気量の頻繁な変動に対して、第2蒸気タービン2Bの運転状態(例えば発電電力)を常時確認し、蒸気量の変動を予測して、第1蒸気タービン2Aの設定電力を調節するといった、タービン運転者による煩雑な操作を代行できる。そして、第1蒸気タービン2Aの専属のタービン運転者を不要とし、設定電力が誤って調節されてしまうのを防止できる。特に、第1蒸気タービン2Aと第2蒸気タービン2Bのそれぞれで異なるタイプのガバナ機構が採用されている場合、2つのガバナ機構の間で応答速度に差が生じ易い。そのため、手動による第1蒸気タービン2Aの設定電力の調節では、発電システム100の全体を的確に制御するのは困難である。しかしながら、発電システム100は、第1蒸気タービン2Aの設定電力の調節を自動的に実行することで、2つのガバナ機構の間で応答速度に差が生じる場合であっても、システム全体を的確に制御することができる。
このように、統合制御装置50は、銅製錬プラントで複数の蒸気タービン2を用いて発電が行われる場合に、蒸気量が変動しても、前圧制御で実現できるボイラ系の安定を維持しながら、複数の蒸気タービン2を統合的に制御することができる。また、専属のタービン運転者を不要とし、設定電力が誤って調節されてしまうのを防止できる。更に、6時間程度の完全自動制御が可能になる。
なお、発電システム100では、発電量を滑らかに変化させる観点からは蒸気タービン2のうちの1台は前圧制御が実行されることが好ましく、制御の競合を防ぐ観点からは複数の蒸気タービン2のうちの1台を除いて或いはその全ての蒸気タービン2で調速制御が実行されることが好ましい。
上述の通り、本発明の実施形態に係る統合制御装置50は、1又は複数のボイラ1で発生する蒸気を利用して回転する複数の蒸気タービン2を統合的に制御するように構成されている。そして、統合制御装置50は、複数の蒸気タービン2のうちの1つである、調速制御が実行される第1蒸気タービン2Aの運転状態を、複数の蒸気タービンのうちの別の1つである、前圧制御が実行される第2蒸気タービン2Bの運転状態に応じて変化させるように構成されている。
また、本発明の実施形態に係る統合制御方法は、1又は複数のボイラ1で発生する蒸気を利用して回転する複数の蒸気タービン2を統合的に制御する。そして、統合制御方法は、複数の蒸気タービン2のうちの1つである第1蒸気タービン2Aで調速制御を実行する工程と、複数の蒸気タービン2のうちの別の1つである第2蒸気タービン2Bで前圧制御を実行する工程と、第2蒸気タービン2Bの運転状態に応じて第1蒸気タービン2Aの運転状態を変化させる工程と、を有する。
以上の構成により、統合制御装置50は、前圧制御で実現できるボイラ系の安定を維持しながら、複数の蒸気タービン2を統合的に制御することができる。
なお、1又は複数のボイラ1で発生する蒸気は、典型的には、非鉄金属製錬プラント等のプラントにおけるバッチプロセスで発生する廃熱を回収する廃熱回収ボイラで発生する蒸気である。また、第1蒸気タービン2Aの応答速度は、第2蒸気タービン2Bの応答速度とは異なるように構成されていてもよい。具体的には、第1ガバナ機構15Aの応答速度は、第2ガバナ機構15Bの応答速度とは異なるように構成されていてもよい。また、複数の蒸気タービン2は、抽気タービンを含んでいてもよい。
以上、本発明の好ましい実施形態について詳説した。しかしながら、本発明は、上述した実施形態に制限されることはない。上述した実施形態は、本発明の範囲を逸脱することなしに、種々の変形及び置換が適用され得る。また、上述の実施形態を参照して説明された特徴のそれぞれは、技術的に矛盾しない限り、適宜に組み合わされてもよい。
例えば、上述の実施形態では、発電システム100は、第1蒸気タービン2Aと第2蒸気タービン2Bの2台の蒸気タービン2を含むように構成されているが、3台の蒸気タービン2を含むように構成されていてもよい。この場合、3台のうちの1台に前圧制御が適用され、3台のうちの残りの2台に調速制御が適用される。3台のうちの2台以上に前圧制御を適用すると、ガバナ機構に関する応答特性の差等により、発電システム100の統合的な制御が安定しないおそれがあるためである。
また、上述の実施形態では、蒸気タービン2は何れも、例えば過熱度のうちの2割程度を発電に消費し且つ残りの8割程度を復水に消費する1段抽気復水タービンであるが、蒸気タービン2の少なくとも1つは、多段抽気復水タービンであってもよい。また、蒸気タービン2は、背圧タービンであってもよい。この場合、背圧タービンは、1段抽気背圧タービンであってもよく、多段抽気背圧タービンであってもよい。また、蒸気タービン2は、複数の蒸気タービンが直列に接続された構成であってもよい。図4は、第2蒸気タービン2Bの別の構成例を示す図である。図4に示すように、第2蒸気タービン2Bは、2台の蒸気タービンが直列に接続された構成であってもよい。
また、上述の実施形態では、第1蒸気タービン2Aの第1ガバナ機構15Aは、機械式ガバナ機構を採用し、第2蒸気タービン2Bの第2ガバナ機構15Bは、電子式ガバナ機構を採用している。すなわち、応答速度が異なる2つのガバナ機構15が採用されている。しかしながら、第1ガバナ機構15Aに電子式ガバナ機構が採用され、且つ、第2ガバナ機構15Bに機械式ガバナ機構が採用されていてもよい。また、応答速度が等しい2つのガバナ機構15が採用されていてもよい。例えば、第1ガバナ機構15A及び第2ガバナ機構15Bの双方に電子式ガバナ機構が採用されていてもよく、機械式ガバナ機構が採用されていてもよい。また、機械式ガバナ機構は油圧式ガバナ機構であってもよい。
また、上述の実施形態では、統合制御装置50は、前圧制御で動作する第2蒸気タービン2Bの発電電力が、調速制御で動作する第1蒸気タービン2Aの発電電力よりも大きくなるように、調速制御の設定電力を更新している。具体的には、統合制御装置50は、調速制御で動作する第1蒸気タービン2Aの発電電力が、前圧制御で動作する第2蒸気タービン2Bの発電電力よりも僅かに小さい発電電力となるように、調速制御の設定電力を更新している。例えば、調速制御で動作する第1蒸気タービン2Aの発電電力が、前圧制御で動作する第2蒸気タービン2Bの発電電力に追従するように、調速制御の設定電力を更新している。前圧制御で動作する第2蒸気タービン2Bの発電電力が、調速制御で動作する第1蒸気タービン2Aの発電電力よりも小さい場合に比べ、蒸気管SLにおける蒸気の圧力変動を小さくできるためである。同様の理由により、第2蒸気タービン2Bは、そのタービン定格出力が、第1蒸気タービン2Aのタービン定格出力よりも大きくなるように構成されていてもよい。また、第2蒸気タービン2Bに接続される第2発電機4Bは、その発電機容量が、第1蒸気タービン2Aに接続される第1発電機4Aの発電機容量よりも大きくなるように構成されていてもよい。