以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る触媒の製造方法は、シリカ担体および当該シリカ担体に担持されたコバルトを有するフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にZSM-5ゼオライトが形成された触媒を、酸性の水溶液で処理する方法である。こうして得られる本実施形態に係る触媒においては、後述するようにZSM-5ゼオライトがメソ孔を有している。まず、本実施形態に係る触媒の製造方法に先立ち、本実施形態に係る触媒の一例について説明する。
〔1.合成ガスから炭化水素を製造する触媒〕
本実施形態に係る触媒は、シリカ担体および当該シリカ担体に担持されたコバルトを有するフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面に水熱合成法でZSM-5ゼオライトが形成された触媒を、酸性の水溶液で処理した触媒である。
フィッシャートロプシュ合成触媒中のシリカ担体は、コバルトを担持、分散するための担体である。担体を構成するシリカは、特に限定されないが、触媒活性の観点からはコバルトの分散度を高く保ち、担持したコバルトの反応に寄与する効率を向上させるために、比較的大きな比表面積を有することが好ましい。シリカ担体の比表面積は、特に限定されないが、例えば、80~600m2/g、好ましくは100~550m2/g、より好ましくは比表面積が150~500m2/gである。比表面積は、例えば、BET法により測定することができる。
比表面積は、細孔径を小さくする、又は細孔容積を大きくすることにより大きくすることができる。すなわち、細孔径と細孔容量は、シリカ担体の比表面積と関連している。一般的には比表面積は大きい方が好ましいが、細孔径、細孔容積を適正な範囲に維持しようとすると極端に大きい比表面積は得られない。従って、比表面積の上限値にも適正な範囲がある。
細孔径が8nmを下回ると、細孔内のガス拡散速度が水素と一酸化炭素では異なり、細孔の奥へ行くほど水素分圧が高くなるという結果を招き、F-T合成反応では副生成物といえるメタン等の常温常圧で気体である炭化水素が、多量に生成することになるため、細孔径は、8nm以上であることが好ましい。逆に、細孔径が50nmを超えると比表面積を増大させることが困難となり、活性金属の分散度が低下してしまうため、細孔径は、50nm以下であることが好ましい。シリカ担体の細孔径は、好ましくは8~50nm、より好ましくは10~40nm、さらに好ましくは12~30nmである。
また、細孔容積としては0.4cc/gを下回ると比表面積を増大させることが困難となるため、0.4cc/g以上とすることが好ましい。シリカ担体の細孔容積は、好ましくは0.4~4cc/g、より好ましくは0.6~3.0cc/g、さらに好ましくは0.8~2.0cc/gである。
なお、細孔容積は水銀圧入法や水滴定法により測定することができる。また、細孔径はガス吸着法や水銀ポロシメーターなどによる水銀圧入法により測定することが可能であるが、比表面積、細孔容積から計算で求めることもできる。
シリカ担体は、好ましくは、細孔径8~50nm、比表面積80~600m2/gおよび細孔容積0.4~4cc/gを同時に満足する。シリカ担体は、より好ましくは、細孔径10~40nm、比表面積100~550m2/gおよび細孔容積0.6~3.0cc/gを同時に、さらに好ましくは、細孔径12~30nm、比表面積150~500m2/gおよび細孔容積0.8~2.0cc/gを同時に満足する。
コバルトは、シリカ担体上に担持されている。シリカ担体上に担持されたコバルトは、F-T合成反応ついて触媒活性を有する。フィッシャートロプシュ合成触媒中におけるコバルトの担持率(担持量)は、フィッシャートロプシュ合成触媒を母数とした場合に10~25質量%が好ましく、より好ましくは12~20質量%である。コバルト担持量は触媒の製造において使用するコバルト前駆体の使用量によって制御することが可能である。また、シリカ担体上に担持されたコバルトは、水熱合成でZSM-5ゼオライト被膜を形成する工程や、酸性の水溶液で処理する工程を経ても、殆ど消失することはなく、上記担持率は、触媒の製造途中と製造後で殆ど変化しない。コバルトの担持率が上記下限値を下回ると活性を十分発現することができず、また、上記上限値を上回るとコバルトの分散度が低下し、担持したコバルトの利用効率が低下することとなり、不経済となる。また、触媒の外表面に形成されるZSM-5ゼオライトの層厚が薄くなり、酸処理によるゼオライト結晶構造の一部破壊によって、ZSM-5ゼオライト膜に欠陥が生じやすくなる。なお、ここでいう担持率とは、担持したコバルトが最終的に100%還元されるとは限らないが、100%還元されたと考えて、コバルトの質量がフィッシャートロプシュ合成触媒の質量全体に占める割合を指す。
製造された触媒中のコバルト担持率は、酸分解やアルカリ溶融等の前処理後に高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)法により測定することができる。フィッシャートロプシュ合成触媒の質量は、同様に酸分解やアルカリ溶融等の前処理後にICP-AES法にてコバルト以外のシリカ担体の成分を定量することで確認することができる。
製造された触媒中のシリカ担体の質量は、以下の方法により求められる。まず、ICP-AES法によりフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にZSM-5が形成される触媒のシリカ(シリカ担体+ZSM-5)とアルミナを定量分析する。次いで、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDS)により、断面分析した際のZSM-5膜のシリカ/アルミナ比を得る。そして、ZSM-5膜のシリカ/アルミナ比を考慮して、ICP-AES法にて定量されたシリカ全体をシリカ担体分とZSM-5分に区別することにより、シリカ担体の質量が算出される。
上記フィッシャートロプシュ合成触媒の外表面には、ZSM-5ゼオライト膜が形成される。本実施形態において、コバルトがシリカ担体上に担持されるフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面に形成可能なゼオライトは、ZSM-5である。このように、フィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にZSM-5ゼオライトが膜として形成されることにより、本発明の触媒は、ZSM-5ゼオライトとフィッシャートロプシュ合成触媒とが一体化した、一体型の触媒粒子、より具体的にはカプセル型触媒粒子となる。
上記ZSM-5ゼオライト膜中のZSM-5ゼオライトは、炭化水素を分解、異性化する機能を有する。これによりフィッシャートロプシュ合成触媒により生成した炭化水素をクラッキングし、イソパラフィンやオレフィンを効率よく得ることができる。
さらに、ZSM-5ゼオライトによる炭化水素の分解反応は、吸熱反応である。したがって、ZSM-5ゼオライトが炭化水素を分解、異性化することにより、反応系内の除熱が可能となる。
従来、フィッシャートロプシュ合成のマイクロチャネル反応器における生産性を高く設定した場合には、除熱用のマイクロチャネル内で当初は液体であった除熱のための流体の冷媒が熱容量の小さい蒸気となり、当該蒸気が流通するマイクロチャネルでの除熱効率が低下することがある。このような場合、このマイクロチャネルに隣接するマイクロチャネル(F-T合成反応を行う原料ガスの流路)で発生した熱の効果的な除熱ができなくなって、反応が暴走する恐れがある。反応が暴走した際にはマイクロチャネル反応器内の温度が過度に上昇し、F-T合成反応が阻害されるだけでなく、触媒が失活し、その再生も困難になる。
しかしながら、本実施形態に係る触媒は、ZSM-5ゼオライトによる反応系内の除熱が可能であり、上述したような暴走を防止することができる。また、本実施形態に係る触媒により、マイクロチャネル反応器における生産性を比較的高く設定することが可能となる。
本実施形態に係る触媒中において、フィッシャートロプシュ合成触媒とZSM-5ゼオライトとの重量比は、特に限定されないが、好ましくは、フィッシャートロプシュ合成触媒/ZSM-5ゼオライト=15/1~1/2であり、より好ましくは10/1~1/1、更に好ましくは5/1~2/1である。上記範囲を外れてフィッシャートロプシュ合成触媒の量が多くなると、反応条件によっては、系全体の発熱量を抑制する効果が十分でなくなることがある。また、上記範囲を外れてZSM-5ゼオライトが多くなると、反応条件によっては、合成ガスから炭化水素への転換活性が十分でなく、メタン等のガス状の生成物が増加することがある。
なお、フィッシャートロプシュ合成触媒は細孔を保有しているため、フィッシャートロプシュ合成の表面は、触媒粒子の外表面と、細孔内の表面とが挙げられる。なお、本実施形態においては、フィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にZSM-5ゼオライト膜が形成されていればよく、フィッシャートロプシュ合成触媒細孔内の表面にZSM-5ゼオライトが形成されていてもよい。また、フィッシャートロプシュ合成触媒上において、ZSM-5ゼオライトは、膜を形成していなくてもよい。すなわち、ZSM-5ゼオライトは膜を形成せず、フィッシャートロプシュ合成触媒の表面上に任意の形態で存在することができる。
また、本実施形態に係るZSM-5ゼオライト膜中のZSM-5ゼオライトは、細孔としてメソ孔を有している。酸性の水溶液による処理をしない従来のZSM-5ゼオライトは、細孔径がサブnmと小さいマイクロ孔が形成されているが、本実施形態に係るZSM-5ゼオライトは、このような従来と比較して細孔径の大きいメソ孔を有することにより、合成ガス中におけるH2およびCOの拡散速度が向上し、フィッシャートロプシュ合成触媒の表面に到達するH2およびCOの比率を、フィッシャートロプシュ合成反応の進行に有利な比率とすることができる。具体的には、従来のメソ孔を有さないZSM-5ゼオライトでは、H2の拡散速度が相対的に速く、フィッシャートロプシュ合成触媒の表面に到達する際のH2/CO比は高くなり、副生物であるメタンの選択率が高くなることがある。一方、メソ孔内ではH2およびCOの拡散速度の差は小さくなるためH2/CO比は高くなりにくく、比較的炭素数が多い炭化水素の生成に有利になると推定される。なお、メソ孔を有するZSM-5ゼオライトでは、フィッシャートロプシュ合成反応にて生成する炭化水素の拡散においても有利であり、オレフィン、イソパラフィンの生成に有利になると推定される。特に、本実施形態に係る触媒は、ZSM-5ゼオライトがメソ孔を有することにより、合成ガスの流量が比較的大きい場合であっても、オレフィンおよびイソパラフィンの収率を高くすることができる。
なお、ここで「メソ孔」とは、2nm以上50nm以下の細孔径を有する孔を意味する。これにより、合成ガス中におけるH2およびCOの拡散速度をより確実に調節することができ、且つ、フィッシャートロプシュ合成触媒上で生成する炭化水素の拡散に有利になることから、オレフィンおよびイソパラフィンの収率をより一層高めることができる。なお、本実施形態に係る触媒について、ガス吸着法による細孔分布測定を行うとフィッシャートロプシュ合成触媒とZSM-5ゼオライトの細孔分布の合計が把握できる。したがって、ZSM-5ゼオライトの細孔径は、予めフィッシャートロプシュ合成触媒の細孔分布を測定しておき、得られたフィッシャートロプシュ合成触媒の細孔分布と本実施形態に係る触媒の細孔分布とを比較することにより、測定することができる。
これに対し、触媒に用いられる一般的なZSM-5ゼオライトは、細孔径が5.6Å×5.3Å程度であり、この場合、ZSM-5ゼオライト中におけるH2の拡散速度がCOの拡散速度に比して大きくなる。この結果、到達するフィッシャートロプシュ合成触媒の表面において、H2の比率が大きくなり、メタンの生成量が増加する。
ZSM-5ゼオライト膜の膜厚は特に制限されないが、酸処理後の膜厚として0.2~10μmが好ましく、より好ましくは0.6~5μm、更に好ましくは1~3μmである。ZSM-5ゼオライト膜の膜厚が上記下限値より薄くなると、オレフィン等の軽質化された炭化水素の収率が低下する。また、反応系全体の発熱量を抑制する効果が十分でなくなる。また、ZSM-5ゼオライト膜の膜厚が厚くなると、発熱量抑制の観点からは好ましいものの、所望の膜厚を得るための水熱合成時間が増加して触媒製造コストが著しく高くなる。更に、F-T合成反応生成物、および合成ガスの拡散速度は、フィッシャートロプシュ合成触媒と比較して細孔径の小さいZSM-5ゼオライト内では小さく、反応効率の観点からは膜厚は極端に厚くならない方が好ましい。
フィッシャートロプシュ合成触媒の外表面に形成されるZSM-5ゼオライト膜の膜厚は、触媒の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することにより測定することができる。触媒断面を観察するためのサンプル調製方法としては、触媒粒子を樹脂に埋め込んだ後、研磨する方法がある。なお、上記の膜厚は平均値であり、触媒断面のSEMによる観察にて測定する場合、膜厚が均一であれば測定箇所は数点で良いが、均一で無い場合には平均値を算出できる程度(例えば、周方向に略均等間隔となるように16箇所)の測定箇所を設定する必要がある。また、粒子毎に膜厚が異なる場合には、複数粒子(例えば、10粒子)を代表として観察し、平均化する必要がある。代表となる複数粒子の選択にあたっては、代表となる粒子よりも多くの粒子を観察した後、極端に膜厚の異なる粒子を除いた平均的な膜厚のものを選定する。異なる粒子径の触媒が混在する場合には、前記のように代表として観察する場合、平均粒子径程度の粒子径のものを選定する。平均粒子径の測定には、分散した触媒粒子にレーザー光を照射し、粒子からの散乱光強度の角度依存性を測定することにより粒子径分布を求めるレーザー回折式粒度分布測定装置を使用する。なお、一部にゼオライト膜が形成されない欠陥部が存在する場合もあるが、このような場合には欠陥部は測定箇所とせずに、ゼオライト膜が形成されている箇所の平均値とする。
ZSM-5ゼオライト細孔内の陽イオンとしては、プロトン(H+)、ニッケルイオン(Ni2+)等が使用できる。
上述した本実施形態に係る触媒の平均粒子径は、特に限定されず、例えば、5.0μm以上、10.0mm以下であることができる。特に、マイクロチャネル反応器内で本実施形態に係る触媒が使用される場合、当該触媒の平均粒子径は、マイクロチャネルの流路幅よりも小さい必要があり、2.0mm以下であることが好ましい。このような場合において、本実施形態に係る触媒の平均粒子径の下限値は特に限定されないが、原料ガス供給による触媒層での圧力損失を考慮すると通常は5.0μm以上が好ましい。圧力損失と触媒充填率の双方を考慮した、操業安定性と反応性の観点からは20μm以上2.0mm以下の平均粒子径が好ましく、より好ましくは50μm以上1.8mm以下、更に好ましくは80μm以上1.5mm以下である。
ここで言う本実施形態に係る触媒の平均粒子径とは、フィッシャートロプシュ合成触媒の外表面に生成したZSM-5ゼオライトを形成させた一体型触媒の体積基準平均粒子径である。平均粒子径の測定にはレーザー回折法を適用するが、分散性が悪い等の理由でレーザー回折法による測定が困難な場合には、画像イメージング法等の手法を適用することができる。
上述した本実施形態に係る触媒は固定床において使用することで、従来のF-T合成触媒と比較して高い生産性で、且つ高いオレフィン収率およびイソパラフィン収率で炭化水素を生産することができる。また、通常の固定床と比較して、より抜熱性能の高いマイクロチャネル反応器で使用すると、炭化水素の生産性をより高くすることができる。
〔2.触媒の製造方法〕
次に、本実施形態に係る合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法の一例を説明する。本実施形態に係る製造方法は、シリカ担体にコバルトを担持するフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にZSM-5ゼオライトが形成された触媒を、酸性の水溶液で処理する工程を有する。
まず、上記工程に先立ち、シリカ担体にコバルトを担持させ、フィッシャートロプシュ合成触媒を得る。
シリカ担体へのコバルトの担持方法としては、特に限定されず、通常の含浸法、インシピエントウェットネス(Incipient Wetness)法、沈殿法、イオン交換法等を用いることができる。担持において使用する原料(前駆体)であるコバルト化合物としては、例えば、コバルトの硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩化物、アセチルアセトナートを用いることができる。これらのコバルト化合物は、上記の各方法において溶媒に対し可溶であり、かつ、担持後に乾燥処理し、その後、還元処理、または焼成処理及び還元処理によって、カウンターイオン(例えばコバルト硝酸塩であればCo(NO3)2中のNO3
-)が揮散することができる。
上述した中でも、コバルト化合物としては、担持操作をする際に水溶液を用いることができる水溶性の化合物を用いることが製造コストの低減や安全な製造作業環境の確保のためには好ましい。硝酸コバルトなどは焼成時に酸化コバルトに容易に変化し、その後のコバルト酸化物の還元処理も容易であるため好ましい。
なお、コバルト化合物としては、溶媒に溶解可能であり、カウンターイオンが上記の各処理のいずれかにおいて揮散可能であれば、上に列挙された化合物に限らず任意の化合物を使用することができる。
ついで、コバルトを担持したシリカ担体を、必要に応じて乾燥させる。乾燥時間は、特に限定されないが、例えば、0.5~20時間とすることができる。乾燥温度は、特に限定されないが、例えば、50~150℃とすることができる。
次いで、乾燥したコバルトを担持したシリカ担体について焼成処理を行う。これにより、フィッシャートロプシュ合成触媒を得ることができる。焼成時間は、特に限定されないが、例えば、0.5~15時間とすることができる。焼成温度は、特に限定されないが、例えば、300~600℃とすることができる。
次いで、水熱合成法によりフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にZSM-5ゼオライト膜を形成させる。ZSM-5ゼオライト膜の形成は、例えば、シリカ源およびアルミナ源、有機構造規定剤を含む水溶液(前駆体溶液)中にフィッシャートロプシュ合成触媒を添加し、加熱することにより行われる。
シリカ源としてはオルトケイ酸テトラエチル(TEOS:Tetraethyl ortho silicate)、アルミナ源としては硝酸アルミニウム九水和物を使用することができるが、これらに限定されない。
有機構造規定剤としては、4級アンモニウム塩に代表される有機物であり、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシドが好ましい。また、前駆体溶液の溶媒は、水を主成分とするが、エタノール、メタノール等のアルコール系溶媒が含まれていてもよく、エタノールが好ましい。
水熱合成における温度は、特に限定されないが、例えば、150~200℃、好ましくは、170~190℃とすることができる。
水熱合成の時間増加に伴い、フィッシャートロプシュ合成触媒の外表面に形成されるZSM-5ゼオライト膜の厚さが増加する。水熱合成の時間は、例えば24時間以上120時間以下であり、好ましくは48時間以上96時間以下である。上記範囲の下限値を下回ると、反応条件によっては十分にZSM-5ゼオライト膜が形成されず、上記範囲の上限値を上回ると触媒製造コストが増加することとなる。
なお、水熱合成においては、必要に応じ、反応液を撹拌してもよい。撹拌条件は、適宜設定可能である。また、フィッシャートロプシュ合成触媒上のZSM-5ゼオライトの膜厚は時間等の水熱合成の条件によって制御することが可能である。
水熱合成によりZSM-5ゼオライト膜が形成されたフィッシャートロプシュ合成触媒は、水熱合成終了後適宜、洗浄、乾燥に供される。乾燥時間は、特に限定されないが、例えば、0.5~20時間とすることができる。乾燥温度は、特に限定されないが、例えば、50~150℃とすることができる。
次いで、乾燥した触媒について焼成処理を行う。これにより、本実施形態に係る合成ガスから炭化水素を製造するための触媒を得ることができる。焼成時間は、特に限定されないが、例えば、0.5~15時間とすることができる。焼成温度は、特に限定されないが、例えば、400~600℃とすることができる。
次いで、酸性の水溶液による処理(酸処理)によりフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面に形成されたZSM-5ゼオライトの細孔径を増大させる。酸処理は、例えば、酸性の水溶液にフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にZSM-5ゼオライトが形成されたカプセル触媒を添加し、加熱することにより行われる。
酸処理をすることで、おおよそ5.6Å×5.3Åの細孔径を有するZSM-5ゼオライトの結晶構造からアルミニウムが溶出することで、ZSM-5ゼオライトの結晶構造が一部破壊され、細孔径を増大化し、細孔径2nm以上50nm以下のメソ孔が形成される。カプセル触媒について、ガス吸着法による細孔分布測定を行うとフィッシャートロプシュ合成触媒とZSM-5ゼオライトの細孔分布の合計が把握できる。酸処理前後での細孔分布測定を比較することで、ZSM-5ゼオライトのメソ孔形成を確認することができる。なお、酸処理前のZSM-5ゼオライトは、結晶構造によって定まる上記細孔径の細孔のみを有しており、メソ孔は基本的に存在しない。
ZSM-5ゼオライトの細孔径はフィッシャートロプシュ合成触媒と比較して小さく、原料ガスの拡散はゼオライト膜において速度が低下し、フィッシャートロプシュ合成触媒で生成した炭化水素の拡散においても不利となる。ZSM-5ゼオライトの細孔径増大は、原料ガス、生成炭化水素の拡散速度向上が目的であり、フィッシャートロプシュ合成触媒と同等以上の細孔径形成が望ましいが、形成される細孔径は特に限定されない。しかし、細孔径が大きすぎる場合には、ゼオライト比表面積の低下に伴い反応性も低下することから、30nm以下のメソ孔形成が好ましい。
なお、メソ孔は細孔分布測定で存在が確認可能であれば効果が発現するが、残存するミクロ孔と同等以上の容積が形成されていることが好ましい。また、メソ孔と比較してより大きな50nmを超える範囲の細孔径が共存しても良いが、分解、異性化に活性を示すZSM-5ゼオライトの表面積を確保する観点からは、メソ孔よりも大きい細孔の形成は無い方が好ましい。100nm以下の細孔径であればガス吸着法によって測定が可能であるが、100nmを超える場合には水銀圧入法によって測定することができる。
酸性の水溶液としては、例えば無機酸、具体的には硝酸、硫酸の水溶液を使用することができるがこれに限定されない。
酸性の水溶液の濃度は特に限定されないが、0.1~2mol/Lであることが好ましい。この範囲を下回ると、ベータゼオライトの結晶構造からシリコンの溶出が起こりにくく、極端に時間を要する。また、使用する酸性の水溶液に依るが、酸性の強い物質の場合、この範囲を上回ると結晶構造の破壊が一部に留まらず、ZSM-5ゼオライトの炭化水素を分解、異性化する機能が失われることがある。
酸性の水溶液にフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にZSM-5ゼオライトが形成されたカプセル触媒を添加してスラリー化した後、例えば50~90℃に加熱して酸処理すると好ましいが、特に温度は限定されない。加熱する温度がこの範囲よりも低いとZSM-5ゼオライトの結晶構造からのアルミニウムの溶出が起こりにくくなるが常温でも可能である。また、この温度範囲よりも高いと水溶液が蒸発することで一定時間の撹拌保持ができなかったり、濃度を一定にした処理ができなくなったりすることがある。
なお、酸処理においては、必要に応じ、水溶液にカプセル触媒が分散したスラリーを撹拌しても良い。撹拌保持時間は、適宜設定可能であるが、10~120分が好ましい。撹拌時間(処理時間)は、好ましくは10~60分である。
酸処理の間は、酸性の水溶液のpHを2.0~5.0の範囲で一定に保持することが好ましく、より好ましくは酸性の水溶液のpHは、3.0~5.0である。添加する酸性溶液のpHが低くて、適正な範囲を下回る場合にはアンモニア水溶液のようなアルカリ性水溶液を添加することができる。
この範囲よりもpHが高いと、他の処理条件によっては、ZSM-5ゼオライトの結晶構造からのアルミニウムの溶出が不十分であることがあり、この範囲よりもpHが低いと他の処理条件によっては、結晶構造の破壊が一部に留まらず、ZSM-5ゼオライトの炭化水素を分解、異性化する機能が失われることがある。
また、酸処理によるZSM-5ゼオライトの脱アルミニウムが進行することで、溶液のpHが変化する場合には、硝酸のような酸性溶液、アンモニア水溶液のようなアルカリ性水溶液を適宜添加して調整すれば良い。
酸処理によりZSM-5ゼオライトにメソ孔が形成されたカプセル触媒は、酸処理終了後適宜、洗浄、乾燥に供される。乾燥時間は、特に限定されないが、例えば、0.5~20時間とすることができる。乾燥温度は、特に限定されないが、例えば、50~150℃とすることができる。
酸処理において、遷移金属のイオンを含む酸性の水溶液を使用すると、ZSM-5ゼオライトのカチオンをイオン交換することが可能である。例えば、酸性の水溶液として硝酸ニッケルを使用すると、ニッケル型のZSM-5を調製することが可能である。このような遷移金属としてはニッケルの他、コバルト、鉄等が適しており、プロトン型と共に炭化水素の分解、異性化に優れた性能を示す。ゼオライトの吸着特性は、これらカチオン種の大きさ、価数に依存し、遷移金属イオンでは吸着特性が向上する。また、遷移金属は水素化機能を保有することから、反応において水素化が速やかに進行することになる。
遷移金属でイオン交換する際に使用する前駆体は水溶性のものが好ましく、例えば、硝酸塩、硫酸塩を使用することができる。酸性の水溶液に含まれる遷移金属イオンは、酸処理中に全量がイオン交換されると仮定した場合にゼオライトに対して3~20wt%となるように添加することが好ましく、より好ましくは5~15wt%である。
イオン交換処理後のカプセル触媒は、適宜、洗浄、乾燥に供される。乾燥時間は、特に限定されないが、例えば、0.5~20時間とすることができる。乾燥温度は、特に限定されないが、例えば、50~150℃とすることができる。
次いで、乾燥した触媒について焼成処理を行う。これによりメソ孔を有するZSM-5ゼオライトを外表面に形成するカプセル触媒を得ることができる。焼成時間は、特に限定されないが、例えば、0.5~15時間とすることができる。焼成温度は、特に限定されないが、例えば、400~600℃とすることができる。
以下に、本実施形態に係る合成ガスから炭化水素を製造するための触媒の製造方法のより具体的な一例を示す。なお、当然ながら、本実施形態に係る触媒の製造方法は、下記の具体的な例に限定されるものではない。
まず、コバルト前駆体の水溶液にシリカ担体を含浸して、コバルトを担持後、必要に応じて乾燥(100℃、1時間)、焼成処理(450℃、10時間)を行い、フィッシャートロプシュ触媒を得る。
次に10質量%のテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH:Tetrapropylammonium hydroxide)、硝酸アルミニウム九水和物、イオン交換水、エタノールおよびオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を順番にテフロン容器に入れ、室温で6時間撹拌し、均一な前駆体溶液を調製する。調製した前駆体溶液を12℃程度で撹拌しながら、フィッシャートロプシュ合成触媒を加え、水熱合成機にて180℃まで加熱し、水熱合成を行う。水熱合成時の撹拌は、回転数:2rpmとして連続回転することにより行う。また、水熱合成における保持時間は、48時間とする。
水熱合成終了後、触媒を取り出し、洗浄後のイオン交換水が中性となるまでイオン交換水で洗浄し、120℃で12時間乾燥する。乾燥終了後は500℃、5時間焼成処理を行うことでZSM-5ゼオライトを外表面に形成するカプセル触媒が得られる。
次にカプセル触媒をイオン交換水に分散したスラリーを75℃に設定し、pHが3.0となるように、硝酸、5%アンモニア水溶液を適量添加した後、0.5時間保持した後、イオン交換水にてろ過・洗浄を行う。その後、120℃、2時間の乾燥、500℃、5時間焼成処理を行うことで、メソ孔を有するZSM-5ゼオライトを外表面に形成するカプセル触媒が得られる。
〔3.炭化水素の製造方法〕
次に、本実施形態に係る炭化水素の製造方法について説明する。 本実施形態に係る炭化水素の製造方法では、上述した方法で製造した合成ガスから炭化水素を製造する触媒を用いて、反応器内で合成ガスから炭化水素を製造する。
炭化水素の製造は、合成ガスと本実施形態に係る触媒とを接触させることにより行うことができる。
上記の炭化水素の製造に用いられる合成ガスとしては、水素と一酸化炭素の合計が全体の50体積%以上であるガスが、生産性の面から好ましい。特に、合成ガスは、水素と一酸化炭素のモル比(水素/一酸化炭素)が0.5~4.0の範囲であることが望ましい。これは、水素と一酸化炭素のモル比が0.5未満の場合には、原料ガス中の水素の存在量が少な過ぎるため、一酸化炭素の水素化反応(F-T合成反応)が進みにくく、液状炭化水素の生産性が高くならないためであり、一方、水素と一酸化炭素のモル比が4.0を超える場合には、原料ガス中の一酸化炭素の存在量が少な過ぎるため、触媒活性に関わらず液状炭化水素の生産性が高くならないためである。
なお、合成ガスは、いかなる原料から製造されたものであってもよい。合成ガスの原料としては、特に限定されないが、例えば、天然ガス、石炭、重質油、石油排ガス、オイルシェール等の化石資源や、バイオマス、炭化水素を含む廃棄物等が挙げられる。
また、合成ガスと本実施形態に係る触媒との接触に用いられる反応器としては、特に限定されず、例えば、固定床、噴流床、流動床等の一般的な気相合成プロセス用反応器、スラリー床等の液相合成プロセス用反応器およびマイクロチャネル反応器等が挙げられる。本発明の触媒はF-T合成触媒の外表面にZSM-5ゼオライトが形成され、この構造が維持されることが望ましく、反応中に摩耗が起こりやすいスラリー床や流動床よりも固定床が好ましい。固定床のF-T合成反応では除熱能力を踏まえて生産性を調整するが、本発明の触媒では吸熱反応である炭化水素の分解、異性化も同時に起こるため、同一の転化率であっても発生する発熱量が抑制できる。また、触媒当たりの生産性を考慮すると、マイクロチャネル反応器が好ましい。
マイクロチャネル反応器は、従来の固定床反応器のように内部に抜熱管を配置した容器ではなく、所定の幅の流路を備えた反応器である。図1に本実施形態において使用されるマイクロチャネル反応器の一例の模式図を示す。図1に示すように、同流路内において、触媒が充填されており、合成ガスがマイクロチャネルの上部から供給され、流路を通過する際に触媒と接触することにより、反応が生じ、マイクロチャネルの下部より生成した炭化水素が排出される。また、マイクロチャネル反応器は、合成ガスが通過する流路に隣接した冷媒を通過させるための流路を備えており、図1のようにボイラ給水(BFW)を供給し、合成ガスの反応による反応熱を除去することができる。
このような流路の幅(流路幅)としては特に限定されないが、例えば、1cm以下とすることができる。また、流路内の触媒上で発生する反応熱を隣接流路内の冷媒流通によって効率的に除去する観点から、すなわち、マイクロチャネル反応器の流路内温度制御の観点からは、流路幅は、4.0mm以下であることが好ましく、2.0mm以下であることがより好ましい。一方で、流路内温度制御の観点からは流路幅は小さい方が好ましいが、流路が小さくなりすぎて流路を形成する基板厚さが大きくなりすぎると、単位体積当たりの生産性が小さくなるため、流路幅を決める際には生産性も考慮する必要がある。したがって、流路幅は、0.50mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましい。なお、合成ガスを供給して炭化水素を製造するための層(反応層)と冷媒を供給して炭化水素製造で発生した熱を除熱するための層(冷媒層)の流路幅は、通常は同一であるが、異なる流路幅でも良い。
マイクロチャネル反応器の構造としては、特に限定されないが、例えば、多段階の層状構造であり、合成ガスを供給して炭化水素を製造するための層(反応層)と、冷媒を供給して炭化水素製造で発生した熱を除熱するための層(冷媒層)とが交互に配置されていることが好ましい。このような構造としては、より具体的には、複数の波板を介して基板が層状に重なった構造、基板にマイクロチャネルを形成させたものを層状に重ねた構造や、ハニカム構造等を採用することができる。このようなマイクロチャネル反応器の反応層の流路と冷媒層の流路とは、直交するように配列されることができる。すなわち、F-T合成反応を行う流路への原料ガス供給方向と、除熱を行う流路への冷媒供給方向とは直交とすることができる。反応層の段数や各反応層のサイズは、生産量等に応じて、適宜設定することができる。
反応器の材質としては、金属や無機化合物を使用することができ特に限定されないが、金属が好ましい。金属としては、ステンレス鋼などの鉄鋼材やアルミニウムなどが好適である。F-T合成反応は発熱反応であり、また、安定的に高い反応成績を維持するためには効率的な除熱が効果的であるので、流路が層状に構成される反応器で材質として金属を使用し、F-T合成反応を行う流路と、冷媒を流通させ除熱を行う流路とが交互に層状に重ね合わされたマイクロチャネル反応器を使用することにより良好な性能を得ることができる。
このようなマイクロチャネル反応器は、反応層に合成ガスを供給する機構を備えており、冷媒層には水等の冷媒を供給する機構が必要である。反応層後段には生成した炭化水素を回収するためのセパレーターを装着することが一般的である。また、冷媒層後段には冷媒を回収する容器を配置し、除熱した後に再度冷媒として供給することができる。
なお、マイクロチャネル反応器の単位体積当たりの生産性には流路を形成する基板及び流路内の波板の厚さも寄与することになるため、安全にF-T合成反応および除熱を実施できる範囲で、これらの厚さは小さい方が好ましい。例えば、ステンレス鋼を使用したマイクロチャネル反応器では基板や波板の厚さは、30~200μmであることができる。
冷媒としては、熱を除去可能なものであれば良く特に限定されないが、水、特にボイラ給水(BFW)を使用するとF-T合成反応を行う流路内温度の制御性が良好であり好ましい。
このようなマイクロチャネル反応器内への合成ガスから炭化水素を製造する触媒の固定方法としては、流路幅よりも小さい粒子径の触媒を充填する方法を採用することができる。
炭化水素を製造する反応を行う際には、フィッシャートロプシュ合成触媒の中のコバルトが、還元された金属コバルトである必要がある。したがって、合成ガスを供給して炭化水素を製造する前に、水素ガス等の還元性ガスを流通させてフィッシャートロプシュ合成触媒の還元処理を行うことができる。このような還元処理は、特に限定されないが、例えば300~500℃の温度で、2~20時間行うことができる。例えば、還元処理の条件は、400℃で10時間とすることができる。
なお、触媒は、反応器への充填後に還元されてもよいし、充填前に還元されてもよい。例えば、マイクロチャネル反応器内に触媒を仕込む前に還元処理を行い、その後に充填することも可能である。還元処理後の触媒は、大気に触れて酸化失活しないように取り扱う必要があるが、担体上のコバルト金属等の表面を大気から遮断するような安定化処理を行うと、大気中での取り扱いが可能となり好適である。この安定化処理には、低濃度の酸素を含有する窒素、二酸化炭素、不活性ガスを触媒に触れさせて、担体上のコバルト金属等の極表層のみを酸化するいわゆるパッシベーション(不動態化処理)を行うとよい。
本実施形態に係る触媒中のコバルトが金属コバルトに十分に還元された状態で、反応器へ合成ガスを供給することにより、炭化水素を製造することができる。
炭化水素の製造時における条件は、特に限定されず、反応器の種類に応じ、従来適用されてきた条件を設定することができる。
特に、上記マイクロチャネル反応器における、炭化水素を製造する反応時における反応温度は、特に限定されないが、220~300℃、好ましくは240~280℃であることができる。また、反応時における系内の圧力は、特に限定されないが、例えば、0.8~3.5MPa、好ましくは0.9~2.5MPaであることができる。合成ガスのH2/CO比(モル比)は特に限定されないが、好ましくは0.5~3であり、より好ましくは1.0~2.5である。
このような条件で実施される反応では、炭化水素を選択的に製造可能となりフィッシャートロプシュ合成触媒単独の場合と比較して、同一の転化率条件でもマイクロチャネル反応器内の発熱量を低下させることが可能となる。そのため、マイクロチャネル反応器内の熱暴走の発生が防止される。また、フィッシャートロプシュ合成触媒を単独で使用する場合には、生成油のほとんどは直鎖パラフィンであるが、ZSM-5ゼオライトがフィッシャートロプシュ合成触媒とともに共存することにより、イソパラフィンやオレフィンも同時に製造することができる。また、ZSM-5ゼオライト膜の存在により、フィッシャートロプシュ合成触媒を単独で使用する場合と比較すると、より軽質分の炭化水素がより選択的に生成する。
著しく転化率が高い、あるいは反応時間が長いなどの要因で、活性低下が生じた場合には、合成ガスの代わりに水素を含むガス(再生ガス)を供給することにより、触媒を再生することができる。再生ガスの水素含有量は、5%以上であることが好ましい。なお、再生ガス中の水素含有量は100%であってもよい。また、再生ガスは、水素に加え、窒素、アルゴン等の不活性ガスを含有してもよい。
触媒の再生の条件としては、触媒再生が進行すれば、特に限定されない。水素を含む再生ガスと触媒を接触させることによる触媒再生機構としては、副生水により酸化したコバルト等の再還元と、水素による析出炭素の除去によるものと推察される。
具体的には、再生時における温度は、例えば、100~400℃であることができる。再生時における圧力は、例えば、常圧~反応圧であることができる。特に、再生圧力を反応圧以下にすると、反応において反応圧に昇圧するためのコンプレッサーを利用することが可能となり、再生のために新たにコンプレッサーを設置する必要がなくなるため、設備コストの面から有利となる。また、再生時間は、例えば、1時間以上とすることができる。
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例及び比較例に限定されない。
〔実施例1〕 富士シリシア製のシリカ(Q-10、粒子径74~149μm)を担体として、フィッシャートロプシュ合成触媒を母数としてコバルト担持量が20質量%となるように硝酸コバルト六水和物水溶液を調製し、含浸担持した。(コバルト担持量(%)=(コバルト質量/(コバルト質量+シリカ質量))×100)その後、120℃で12時間乾燥し、400℃で2時間焼成処理してCo/SiO2触媒を得た。
10質量%のテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH:Tetrapropylammonium hydroxide)を8.20g、硝酸アルミニウム九水和物を0.076g、イオン交換水17.4g、エタノール4.46g、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS:Tetraehyl Ortho Silicate)3.36gをこの順でテフロン容器に入れ、室温で6時間撹拌し、均一な前駆体溶液を調製した。調製した前駆体溶液のモル比はTEOS:TPAOH:硝酸アルミニウム九水和物:エタノール:水=1:0.25:0.0125:6.0:60であった。調製した前駆体溶液を約12℃で撹拌しながら、上記Co/SiO2触媒(コア触媒)を0.5g入れ、水熱合
成機において180℃に加熱しながら、2rpmの速度で連続的に撹拌翼を回転させて撹拌を行い、48時間保持した。水熱合成終了後、触媒を取り出し、液性が中性となるまでイオン交換水で洗浄し、触媒を120℃で12時間乾燥した。乾燥終了後、500℃で5時間焼成処理を行い、Co/SiO2触媒の外表面にZSM-5ゼオライトが形成されたZSM-5-Co/SiO2触媒を得た。
イオン交換水にZSM-5-Co/SiO2触媒0.5gを添加したスラリーを75℃に昇温し、pH=3.0となるように硝酸、5%アンモニア水溶液を適宜添加して30分間保持して酸処理を行った。酸処理後、イオン交換水でろ過・洗浄し、触媒を120℃で12時間乾燥した。乾燥終了後、500℃で5時間焼成処理を行い、Co/SiO2触媒の外表面にメソ孔を有するZSM-5ゼオライトが形成されたZSM-5-Co/SiO2触媒を得た。
上記で得られたZSM-5-Co/SiO2触媒0.5gを8mmφの管型反応器に充填し、常圧、400℃で10時間の還元処理を行い、窒素に置換して80℃まで降温した後、H2/CO=2(モル比)の合成ガスに切り替えた。反応温度260℃、反応圧力0.85MPa、W(触媒質量)/F(合成ガス流量);(g・h/mol)=3に設定し、供給ガス及び管型反応器出口ガスの組成をガスクロマトグラフィーにより求め、CO転化率、CH4選択率、C5+選択率、オレフィン選択率およびイソパラフィン選択率を算出した。
以下の実施例に記載したCO転化率、CH4選択率、C5+選択率、オレフィン選択率、イソパラフィン選択率は、それぞれ次に示す式により算出した。ここで、C5+とは炭素数5以上の炭化水素を示す。
上記で調製した触媒を用いて、反応を行ったところ、CO転化率60.2%、CH4選択率24.6%、C5+選択率53.5%、オレフィン選択率32.3%、イソパラフィン選択率26.5%であった。後述する比較例1に示した酸処理を実施しておらず、コバルト担持率が同程度のZSM-5ゼオライト-Co/SiO2触媒と比較して、CH4選択率が低下するとともに、CO転化率、C5+選択率、オレフィン選択率、イソパラフィン選択率が向上していることを確認した。
〔実施例2〕 コバルト担持量が10質量%となるようにCo/SiO2触媒を調製する他は、実施例1と同様にして、反応を行ったところ、CO転化率33.5%、CH4選択率33.4%、C5+選択率45.0%、オレフィン選択率28.5%、イソパラフィン選択率22.9%であった。後述する比較例2に示した酸処理を実施しておらず、コバルト担持率が同程度のZSM-5ゼオライト-Co/SiO2触媒と比較して、CH4選択率が低下するとともに、CO転化率、C5+選択率、オレフィン選択率、イソパラフィン選択率が向上していることを確認した。
〔実施例3〕 コバルト担持量が15質量%となるようにCo/SiO2触媒を調製する他は、実施例1と同様にして、反応を行ったところ、CO転化率48.2%、CH4選択率27.6%、C5+選択率50.1%、オレフィン選択率30.5%、イソパラフィン選択率23.3%であった。
〔実施例4〕 コバルト担持量が25質量%となるようにCo/SiO2触媒を調製する他は、実施例1と同様にして、反応を行ったところ、CO転化率68.2%、CH4選択率25.1%、C5+選択率54.1%、オレフィン選択率31.5%、イソパラフィン選択率27.4%であった。後述する比較例3に示した酸処理を実施しておらず、コバルト担持率が同程度のZSM-5ゼオライト-Co/SiO2触媒と比較して、CH4選択率が低下するとともに、CO転化率、C5+選択率、オレフィン選択率、イソパラフィン選択率が向上していることを確認した。
〔実施例5〕 コバルト担持量が30質量%となるようにCo/SiO2触媒を調製する他は、実施例1と同様にして、反応を行ったところ、CO転化率72.2%、CH4選択率31.2%、C5+選択率48.4%、オレフィン選択率27.5%、イソパラフィン選択率22.5%であった。
〔実施例6〕 図1に示すような直交型マイクロチャネル反応器に触媒を充填し、ボイラ給水(BFW)で冷却しながら温度制御する他は、実施例1と同様にして、反応を行った。直交型マイクロチャネル反応器は、ステンレス(SUS)箔により形成された積層構造を有し、ステンレス箔間の隙間がボイラ給水または合成ガスの流路を形成している。また、ボイラ給水と合成ガスの流路は、ステンレス箔の積層構造において交互に配置されており、ボイラ給水と合成ガスの移動方向(流路の方向)は直交している。各流路には波板が配置され、各流路幅Wは、1.3mmである。CO転化率62.5%、CH4選択率23.5%、C5+選択率55.2%、オレフィン選択率33.1%、イソパラフィン選択率28.5%であった。
〔実施例7〕 酸処理の際に保持するpHを2.0とする他は、実施例1と同様にして、反応を行ったところ、CO転化率62.6%、CH4選択率24.3%、C5+選択率56.1%、オレフィン選択率29.7%、イソパラフィン選択率24.5%であった。
〔実施例8〕 酸処理の際に保持するpHを5.0とする他は、実施例1と同様にして、反応を行ったところ、CO転化率57.6%、CH4選択率27.2%、C5+選択率50.9%、オレフィン選択率30.1%、イソパラフィン選択率25.6%であった。
〔実施例9〕 酸処理の際にNiにイオン交換するため、硝酸ニッケル六水和物0.085gを溶解した水溶液を使用して、保持するpHを5.0とする他は、実施例1と同様にして、反応を行ったところ、CO転化率53.6%、CH4選択率22.6%、C5+選択率56.8%、オレフィン選択率27.5%、イソパラフィン選択率24.8%であった。
〔比較例1〕 酸処理を実施しないZSM-5-Co/SiO2触媒を使用する他は、実施例1と同様にして、反応を行ったところ、CO転化率45.2%、CH4選択率36.5%、C5+選択率40.2%、オレフィン選択率26.1%、イソパラフィン選択率21.3%であった。
〔比較例2〕 コバルト担持量が10質量%となるようにCo/SiO2触媒を調製する他は、比較例1と同様にして、反応を行ったところ、CO転化率26.7%、CH4選択率37.1%、C5+選択率39.0%、オレフィン選択率26.3%、イソパラフィン選択率21.8%であった。
〔比較例3〕 コバルト担持量が25質量%となるようにCo/SiO2触媒を調製する他は、比較例1と同様にして、反応を行ったところ、CO転化率57.1%、CH4選択率34.8%、C5+選択率41.8%、オレフィン選択率27.8%、イソパラフィン選択率23.5%であった。
以上の結果を表1~表3にまとめて示す。
以上、実施例1~9に係る触媒を用いた場合、比較例1~3に係る触媒と比較して、高活性であり、CH4選択率が低減しているとともに、オレフィン選択率およびイソパラフィン選択率が向上していた。なお、実施例1~9に係る触媒について、細孔分布の測定を行ったところ、ZSM-5ゼオライトに細孔径2~50nmのメソ孔が形成されていることが確認できた。これに対し、比較例1~3に係る触媒について、細孔分布の測定を行ったところ、ZSM-5ゼオライトにメソ孔が形成されていないことが確認された。
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。