JP7029237B2 - 液晶ポリエステル組成物およびその成形品 - Google Patents

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Description

本発明は、液晶ポリエステル組成物およびその成形品に関し、より詳細には、従来の液晶ポリエステル成形品の機械強度および耐熱性を大きく損なわずに、摺動性を改良した成形品が得られる液晶ポリエステル組成物に関する。
近年、機械の軽量化、製品コストの低減のため樹脂製品が機械部品としても数多く用いられるようになり、摺動性を要求される機械部品にも樹脂製品が多く利用されている。このような樹脂製品としては、熱可塑性樹脂に潤滑剤等の摺動性を改良するための添加剤を加えた樹脂組成物が利用されてきた。しかし、熱可塑性樹脂を用いた場合、比較的低温の条件下では特に問題なく使用できるが、高温になるに従ってその樹脂のもつ融点のために摩耗しやすくなり、また摩擦熱のため焼き付いたり、溶融を起こしたりして使用できなくなるという課題があった。
上記の課題に対して、特許文献1では、液晶ポリエステル100質量部と、空気中で410℃において30分保持したときの減量が0.8重量%以下であるフッ素樹脂3~50質量部とからなる摺動性樹脂組成物が提案されている。特許文献1では、このような特定のフッ素樹脂を特定量用いることで、成形品表面のブリスター(ふくれ)の発生を抑制している。
特開平5-105804号
しかしながら、特許文献1に記載の摺動性樹脂組成物を用いても、十分な摺動性、機械強度、耐熱性に優れた成形品は得られなかった。したがって、依然として十分な摺動性、特に、摩擦特性や摩耗特性、さらには限界PV値に優れた成形品が得られる樹脂組成物の開発が望まれている。なお、限界PV値とは、摺動部材が一定の荷重P(kg/cm)において、ある周速度V(cm/sec)以上になったとき、融けたり、焼き付いたりする負荷の限界値(PとVとの積)のことを言う。
したがって、本発明の目的は、従来の液晶ポリエステル成形品の機械強度および耐熱性を大きく損なわずに、摺動性(摩擦特性、摩耗特性、特に限界PV値等の特性、およびこれらのバランス)を改良した成形品が得られる液晶ポリエステル組成物を提供することである。また、本発明の他の目的は、該液晶ポリエステル組成物を含む成形品を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、従来、摺動性に乏しい材料と認識されていた液晶ポリエステルを用いて、適切な充填剤を選択して配合することにより、従来の液晶ポリエステル成形品の機械強度および耐熱性を大きく損なわずに、摺動性を改良した成形品が得られる液晶ポリエステル組成物の組成を知見した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
本発明の一態様によれば、液晶ポリエステルと、フッ素樹脂と、粒状炭素系固形潤滑剤とを含んでなる液晶ポリエステル組成物が提供される。
本発明の態様においては、前記液晶ポリエステル、前記フッ素樹脂、および前記粒状炭素系固形潤滑剤の合計100質量部に対して、前記液晶ポリエステルを55質量部以上80質量部以下、前記フッ素樹脂を1質量部以上30質量部以下、前記炭素系固形潤滑剤を1質量部以上30質量部以下含むことが好ましい。
本発明の態様においては、前記液晶ポリエステル、前記フッ素樹脂、および前記粒状炭素系固形潤滑剤の合計100質量部に対して、前記液晶ポリエステルを60質量部以上75質量部以下、前記フッ素樹脂を5質量部以上15質量部以下、前記炭素系固形潤滑剤を5質量部以上25質量部以下含むことが好ましい。
本発明の態様においては、前記液晶ポリエステル組成物が炭素繊維をさらに含むことが好ましい。
本発明の態様においては、前記液晶ポリエステルが、少なくとも下記の構成単位(I):
Figure 0007029237000001
を含むことが好ましい。
本発明の態様においては、前記液晶ポリエステルが、
芳香族ジオール化合物に由来する構成単位(II):
Figure 0007029237000002
(式中、Arは、所望により置換基を有するフェニル、ビフェニル、ナフチル、アントリルおよびフェナントリルからなる群より選択される。)、および
芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位(III):
Figure 0007029237000003
(式中、Ar、所望により置換基を有するフェニル、ビフェニル、ナフチル、アントリルおよびフェナントリルからなる群より選択される。)
をさらに含むことが好ましい。
本発明の別の態様によれば、上記液晶ポリエステル組成物を含んでなる成形品が提供される。
本発明によれば、液晶ポリエステルに充填剤としてフッ素樹脂および粒状炭素系固形潤滑剤を配合することにより、従来の液晶ポリエステル成形品の機械強度(アイゾット衝撃強度、引張強度、引張弾性率、引張伸び、曲げ強度、曲げ弾性率等の特性)および耐熱性(荷重たわみ温度等の特性)を大きく損なわずに、摺動性(摩擦特性、摩耗特性、特に限界PV値等の特性、およびこれらのバランス)を改良した成形品が得られる液晶ポリエステル組成物を提供することができる。
発明を実施するための態様
<液晶ポリエステル組成物>
本発明による液晶ポリエステル組成物は、少なくとも、液晶ポリエステルと、フッ素樹脂と、粒状炭素系固形潤滑剤とを含んでなり、他の充填材や添加剤等をさらに含んでもよい。本発明においては、液晶ポリエステルに充填剤としてフッ素樹脂および粒状炭素系固形潤滑剤を配合した組成物を用いて成形品を作製することにより、従来の液晶ポリエステル成形品の機械強度および耐熱性を大きく損なわずに、摺動性を改良させることができる。以下、液晶ポリエステル組成物の構成成分について、詳述する。
(液晶ポリエステル)
本発明で用いる液晶ポリエステルは、特に限定されるものではないが、少なくとも、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位(I):
Figure 0007029237000004
を含むものが好ましい。
構成単位(I)を与えるモノマーとしては、p-ヒドロキシ安息香酸(HBA、下記式(1))、およびそのアセチル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
Figure 0007029237000005
液晶ポリエステル中における構成単位(I)の組成比(モル%)は、成形品の摺動性の向上という観点からは、下限値としては、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは55モル%以上であり、さらに好ましくは60モル%以上であり、上限値としては、好ましくは100モル%以下であり、より好ましくは80モル%以下であり、さらに好ましくは70モル%以下である。
本発明で用いる液晶ポリエステルは、芳香族ジオール化合物に由来する構成単位(II):
Figure 0007029237000006
(式中、Arは、所望により置換基を有するフェニル、ビフェニル、ナフチル、アントリルおよびフェナントリルからなる群より選択される。)
をさらに含んでもよい。式中のArは、フェニルおよびビフェニルであることが好ましい。置換基としては、水素、アルキル基、アルコキシ基、ならびにフッ素等が挙げられる。アルキル基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、直鎖状のアルキル基であっても、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。アルコキシ基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
構成単位(II)を与えるモノマーとしては、例えば、4,4-ジヒドロキシビフェニル(BP、下記式(3))、ハイドロキノン(HQ,下記式(4))、メチルハイドロキノン(MeHQ,下記式(5))およびこれらのアシル化物等が挙げられる。
Figure 0007029237000007
Figure 0007029237000008
Figure 0007029237000009
液晶ポリエステル中における構成単位(II)の組成比(モル%)は、成形品の摺動性の向上という観点からは、下限値としては、好ましくは5モル%以上であり、より好ましくは10モル%以上であり、上限値としては、好ましくは25モル%以下であり、より好ましくは20モル%以下である。
本発明で用いる液晶ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位(III):
Figure 0007029237000010
(式中、Ar、所望により置換基を有するフェニル、ビフェニル、ナフチル、アントリルおよびフェナントリルからなる群より選択される。)
をさらに含んでもよい。式中のArは、フェニルであることが好ましい。置換基としては、水素、アルキル基、アルコキシ基ならびにフッ素等が挙げられる。アルキル基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、直鎖状のアルキル基であっても、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。アルコキシ基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい
構成単位(III)を与えるモノマーとしては、テレフタル酸(TPA、下記式(6))、イソフタル酸(IPA、下記式(7))、2,6-ナフタレンジカルボン酸(NADA、下記式(8))、およびこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
Figure 0007029237000011
Figure 0007029237000012
Figure 0007029237000013
液晶ポリエステル中における構成単位(III)の組成比(モル%)は、成形品の摺動性の向上という観点からは、下限値としては、好ましくは5モル%以上であり、より好ましくは10モル%以上であり、上限値としては、好ましくは25モル%以下であり、より好ましくは20モル%以下である。
本発明で用いる液晶ポリエステルは、下記の構成単位(IV):
Figure 0007029237000014
をさらに含んでもよい。
構成単位(IV)を与えるモノマーとしては、アセトアミノフェノン(AAP)、p-アミノフェノール、4’-アセトキシアセトアニリドなど、下記式(2)で表される構造単位を与える化合物を用いることができる。
Figure 0007029237000015
液晶ポリエステル中における構成単位(IV)の組成比(モル%)は、成形品の摺動性の向上という観点からは、下限値としては、好ましくは1モル%以上であり、より好ましくは3モル%以上であり、上限値としては、好ましくは10モル%以下であり、より好ましくは7モル%以下である。
本発明で用いる液晶ポリエステルは、下記の構成単位(V):
Figure 0007029237000016
をさらに含んでもよい。
構成単位(V)を与えるモノマーとしては、1,4-シクロへキサンジカルボン酸(CHDA、下記式(10))およびこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
Figure 0007029237000017
液晶ポリエステル中における構成単位(V)の組成比(モル%)は、成形品の摺動性の向上という観点からは、下限値としては、好ましくは1モル%以上であり、より好ましくは3モル%以上であり、上限値としては、好ましくは10モル%以下である。
液晶ポリエステルが構成単位(I)、(II)、および(III)からなる場合、液晶ポリエステル中の構成単位(II)の組成比(モル%)は、構成単位(III)の組成比(モル%)と実質的に当量となる。但し、液晶ポリエステルに構成単位(IV)および/または構成単位(V)が含まれる場合、構成単位(II)および構成単位(IV)の合計の組成比(モル%)は、構成単位(III)および構成単位(V)の合計の組成比(モル%)の組成比(モル%)と実質的に当量となる。
本発明で用いる液晶ポリエステルの融点は、成形品の加熱加工に対する耐熱性向上の観点から、下限値としては、好ましくは290℃以上であり、より好ましくは295℃以上であり、さらに好ましくは300℃以上であり、さらにより好ましくは310℃以上であり、上限値としては、好ましくは360℃以下であり、より好ましくは355℃以下である。なお、本明細書において、液晶ポリエステルの融点は、ISO11357、ASTM D3418の試験方法に準拠するものであり、日立ハイテクサイエンス(株)製の示差走査熱量計(DSC)等を用いて、測定することができる。
液晶ポリエステル組成物における液晶ポリエステルの配合量は、液晶ポリエステル、フッ素樹脂、および粒状炭素系固形潤滑剤の合計100質量部に対して、下限値としては、好ましくは55質量部以上であり、より好ましくは60質量部以上であり、上限値としては、好ましくは80質量部以下であり、より好ましくは75質量部以下である。液晶ポリエステルの配合量が上記範囲程度であれば、従来の液晶ポリエステル成形品の機械強度および耐熱性を大きく損なわずに、摺動性を改良させることができる。
(液晶ポリエステルの製造方法)
本発明に用いる液晶ポリエステルは、少なくとも構成単位(I)を与えるモノマーおよび場合により構成単位(II)~(IV)与えるモノマーを、溶融重合、固相重合、溶液重合およびスラリー重合等、従来公知の方法で重合することにより製造することができる。一実施態様において、液晶ポリエステルは、溶融重合のみによって製造することができる。また、溶融重合によりプレポリマーを作製し、これをさらに固相重合する2段階重合によっても製造することができる。
溶融重合は、本発明に係るポリエステル化合物が効率よく得られる観点から、モノマーを所定の配合で合わせて100モル%として、モノマーが有する全水酸基に対し、1.05~1.15モル当量の無水酢酸を存在させて酢酸還流下において行うことが好ましい。
溶融重合とこれに続く固相重合の二段階により重合反応を行う場合は、溶融重合により得られたプレポリマーを冷却固化後に粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法、例えば、窒素等の不活性雰囲気下、または真空下において200~350℃の温度範囲で1~30時間プレポリマー樹脂を熱処理する等の方法が好ましくは選択される。固相重合は、攪拌しながら行ってもよく、また攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。
重合反応において触媒は使用してもよいし、また使用しなくてもよい。使用する触媒としては、ポリエステルの重合用触媒として従来公知のものを使用することができ、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属塩触媒、N-メチルイミダゾール等の窒素含有複素環化合物等、有機化合物触媒等が挙げられる。触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、モノマーの総量100質量部に対して、0.0001~0.1質量部であることが好ましい。
溶融重合における重合反応装置は特に限定されるものではないが、一般の高粘度流体の反応に用いられる反応装置が好ましく使用される。これらの反応装置の例としては、例えば、錨型、多段型、螺旋帯型、螺旋軸型等、あるいはこれらを変形した各種形状の攪拌翼をもつ攪拌装置を有する攪拌槽型重合反応装置、又は、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー等の、一般に樹脂の混練に使用される混合装置等が挙げられる。
(充填材)
本発明による液晶ポリエステル組成物には、充填材として、少なくともフッ素樹脂と粒状炭素系固形潤滑剤とを用いる。フッ素樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体樹脂(ETFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体樹脂(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、ポリフッ化ビニル樹脂(PVF)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル-ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂(EPE)等が挙げられる。フッ素樹脂の形状としては粒状であることが好ましく、粒状フッ素樹脂の平均粒径は10μm~50μm程度であることが好ましい。
液晶ポリエステル組成物におけるフッ素樹脂の配合量は、液晶ポリエステル、フッ素樹脂、および粒状炭素系固形潤滑剤の合計100質量部に対して、下限値としては、好ましくは1質量部以上であり、より好ましくは5質量部以上であり、上限値としては、好ましくは30質量部以下であり、より好ましくは15質量部以下である。フッ素樹脂の配合量が上記範囲程度であれば、従来の液晶ポリエステル成形品の機械強度および耐熱性を大きく損なわずに、摺動性を改良させることができる。
粒状炭素系固形潤滑剤としては、グラファイトのような結晶構造を有するものではなく、無定形炭素の微粒子が用いられる。粒状炭素系固形潤滑剤の形状としては、略球状であることが好ましい。例えば、カーボンブラックが挙げられる。また、粒状炭素系固形潤滑剤のサイズは特に限定されないが、例えば、一次粒子径が1nm~100nm程度のものを用いることができる。
液晶ポリエステル組成物における粒状炭素系固形潤滑剤の配合量は、液晶ポリエステル、フッ素樹脂、および粒状炭素系固形潤滑剤の合計100質量部に対して、下限値としては、好ましくは1質量部以上であり、より好ましくは5質量部以上であり、上限値としては、好ましくは30質量部以下であり、より好ましくは15質量部以下である。粒状炭素系固形潤滑剤の配合量が上記範囲程度であれば、従来の液晶ポリエステル成形品の機械強度および耐熱性を大きく損なわずに、摺動性を改良させることができる。
液晶ポリエステル組成物に用いる他の充填材としては、炭素繊維(カーボンファイバー)、グラファイト、ガラス繊維、タルク、マイカ、ガラスフレーク、クレー、セリサイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、黒鉛、チタン酸カリウム、酸化チタン、フルオロカーボン樹脂繊維、フルオロカーボン樹脂、硫酸バリウム各種ウィスカー等が挙げられる。
(添加剤)
本発明による液晶ポリエステル組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の添加剤、例えば、着色剤、分散剤、可塑剤、酸化防止剤、硬化剤、難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤を含んでいてもよい。
液晶ポリエステル組成物における添加剤の配合量は、液晶ポリエステル、フッ素樹脂、および粒状炭素系固形潤滑剤の合計100質量部に対して、下限値としては、好ましくは0.01質量部以上であり、より好ましくは0.5質量部以上であり、上限値としては、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは5質量部以下である。
<成形品>
本発明による成形品は、上記の液晶ポリエステル組成物を含んでなるものである。成形品は、摺動性、機械強度、および耐熱性に優れるため、各種医療器具、機械部品、自動車部品、航空宇宙部品、電気電子部品の構成材料として用いることができる。例えば、各種ベアリング、各種歯車、各種ギア、各種バルブ、シャーシー、軸受け、ワッシャー、スラストワッシャー、シールリング、ガイドリング、ベーンポンプ部品、ESC部品、インペラピストンリング、シフトフォーク、FOUP、構造材等に有用である。
本発明による成形品は、液晶ポリエステル組成物を従来公知の方法で成形することができる。例えば、プレス成形、発泡成形、射出成形、押出成形、打ち抜き成形することにより成形することができる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<液晶ポリエステルAの製造>
攪拌翼を有する重合容器にp-ヒドロキシ安息香酸(HBA)60モル%、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP)20モル%、テレフタル酸(TPA)15モル%、イソフタル酸(IPA)5モル%を加え、触媒として酢酸カリウムおよび酢酸マグネシウムを仕込み、重合容器の減圧-窒素注入を3回行って窒素置換を行った後、無水酢酸(水酸基に対して1.08モル当量)を更に添加し、150℃まで昇温し、還流状態で2時間アセチル化反応を行った。
アセチル化終了後、酢酸留出状態にした重合容器を0.5℃/分で昇温して、槽内の溶融体温度が305℃になったところで重合物を抜き出し、冷却固化した。得られた重合物を粉砕機により目開き2.0mmの篩を通過する大きさに粉砕して、プレポリマーを得た。
次に、上記で得られたプレポリマーを、固相重合装置に充填し、ヒーターにより320℃まで昇温した後、320℃で温度を1時間保持して固相重合を行った。その後室温で自然放熱し、粉末状の液晶ポリエステルAを得た。
続いて、メトラー製の顕微鏡用ホットステージ(商品名:FP82HT)を備えたオリンパス(株)製の偏光顕微鏡(商品名:BH-2)を用いて、液晶ポリエステルAを顕微鏡加熱ステージ上にて加熱溶融させ、光学異方性の有無から液晶性を確認した。
<液晶ポリエステルBの製造>
モノマー仕込みを、HBA60モル%、BP15モル%、TPA7モル%、IPA3モル%、アセトアミノフェン(AAP)5モル%、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(CHDA)10モル%に変更し、固相重合の最終温度を300℃にした以外は液晶ポリエステルAの製造と同様にして固相重合を行って、液晶ポリエステルBを得た。続いて、液晶ポリエステルBについて、上記と同様に光学異方性の有無から液晶性を確認した。
<融点の測定>
上記で得られた液晶ポリエステルの融点を、日立ハイテクサイエンス(株)製の示差走査熱量計(DSC)により測定した。このとき、昇温速度10℃/分で室温から360~380℃まで昇温してポリマーを完全に融解させた後、速度10℃/分で30℃まで降温し、更に10℃/分の速度で380℃まで昇温するときに得られる吸熱ピークの頂点を融点(Tm)とした。ただし、再加熱時の吸熱ピークがブロードで検出困難な場合は、1周目の吸熱ピークの頂点(Tm)を融点(℃)とした。測定結果を表1にまとめた。
Figure 0007029237000018
<液晶ポリエステル組成物の製造>
(実施例1)
上記で得られた液晶ポリエステルA60質量部に対して、フッ素樹脂(PTFE、株式会社喜多村製、KT-400M、平均粒径:33μm)15質量部、粒状炭素系固形潤滑剤(カーボンブラック、キャボット社製、REGAL 99、一次粒子径:24nm)25質量部、酸化防止剤0.1質量部の割合で予め混合して混合物を得た。その混合物をエアーオーブン中で150℃にて2時間乾燥した。この乾燥した混合物を、シリンダー最高温度370℃に設定した二軸押出機(池貝鋼鉄(株)製、PCM-30)のホッパーに供給し、15kg/hrにて、溶融混錬して、液晶ポリエステル組成物のペレットを得た。
(実施例2)
上記で得られた液晶ポリエステルB60質量部に対して、フッ素樹脂(PTFE、株式会社喜多村製、KT-400M、平均粒径:33μm)10質量部、粒状炭素系固形潤滑剤(カーボンブラック、キャボット社製、REGAL 99、一次粒子径:24nm)15質量部、炭素繊維(東邦テナックス株式会社、HT C702 6mm)15質量部、酸化防止剤0.1質量部の割合で予め混合して混合物を得た以外は、実施例1と同様にして、液晶ポリエステル組成物のペレットを得た。
(実施例3)
上記で得られた液晶ポリエステルB70質量部に対して、フッ素樹脂(PTFE、株式会社喜多村製、KT-400M、平均粒径:33μm)10質量部、粒状炭素系固形潤滑剤(カーボンブラック、キャボット社製、REGAL 99、一次粒子径:24nm)10質量部、炭素繊維(東邦テナックス株式会社、HT C702 6mm)10質量部、酸化防止剤0.1質量部の割合で予め混合して混合物を得た以外は、実施例1と同様にして、液晶ポリエステル組成物のペレットを得た。
(実施例4)
上記で得られた液晶ポリエステルB70質量部に対して、フッ素樹脂(PTFE、株式会社喜多村製、KT-400M、平均粒径:33μm)10質量部、粒状炭素系固形潤滑剤(カーボンブラック、キャボット社製、REGAL 99、一次粒子径:24nm)15質量部、炭素繊維(東邦テナックス株式会社、HT C702 6mm)5質量部、酸化防止剤0.1質量部の割合で予め混合して混合物を得た以外は、実施例1と同様にして、液晶ポリエステル組成物のペレットを得た。
(実施例5)
上記で得られた液晶ポリエステルB75質量部に対して、フッ素樹脂(PTFE、株式会社喜多村製、KT-400M、平均粒径:33μm)15質量部、粒状炭素系固形潤滑剤(カーボンブラック、キャボット社製、REGAL 99、一次粒子径:24nm)5質量部、炭素繊維(東邦テナックス株式会社、HT C702 6mm)5質量部、酸化防止剤0.1質量部の割合で予め混合して混合物を得た以外は、実施例1と同様にして、液晶ポリエステル組成物のペレットを得た。
(比較例1)
上記で得られた液晶ポリエステルA70質量部に対して、炭素繊維(東邦テナックス株式会社、HT C702 6mm)30質量部、酸化防止剤0.1質量部の割合で予め混合して混合物を得た以外は、実施例1と同様にして、液晶ポリエステル組成物のペレットを得た。
Figure 0007029237000019
<成形品の製造・評価>
(試験片の成形)
実施例および比較例で得られた液晶ポリエステル組成物のペレットを、射出成形機(住友重機械工業(株)製、SG-25)を用いて、シリンダー最高温度360℃、射出速度100mm/sec、金型温度80℃で射出成形して、ASTM D638に準じた引張試験片を作製した。また、上記と同様の条件で射出成形を行って、ASTM D790に準じた曲げ試験片を作製した。また、上記と同様の条件で射出成形を行って、60mm×60mm×厚さ1mmの平板を作製した。
(摩耗量および動摩擦係数の測定)
上記で作製した平板を用い、鈴木式摩擦摩耗試験機により、ドライ条件、加圧0.75MPa、滑り速度0.5m/s、試験時間60minの条件で、摩耗量(mg)および動摩擦係数を測定した。
(限界PV値の測定)
上記で作製した平板を用い、鈴木式摩擦摩耗試験機により、ドライ条件、滑り速度0.5m/s、初期加圧0.25MPa、0.5MPa/10minでステップ状に加圧を加えて、試験片が破断した段階で終了し、破断直前の限界PV値(kPa・m/s)を測定した。
(アイゾット衝撃強度の測定)
上記で作製した曲げ試験片を用い、ASTM D256に準拠して、アイゾット衝撃強度(kJ/m)の測定を行った。
(引張強度、引張弾性率、および引張伸びの測定)
上記で作製した引張試験片を用い、ASTM D638に準拠して、引張強度(MPa)、引張弾性率(GPa)、および引張伸び(%)の測定を行った。
(曲げ強度、および曲げ弾性率の測定)
上記で作製した曲げ試験の試験片を用い、ASTM D790に準拠して、曲げ強度(MPa)および曲げ弾性率(GPa)の測定を行った。
(荷重たわみ温度の測定)
上記で作製した曲げ試験の試験片を用い、ASTM D648に準拠して、荷重たわみ温度(℃)の測定を行った。
(比重の測定)
上記で作製した曲げ試験の試験片を用い、比重測定装置により比重(g/cm)の測定を行った。
上記の測定結果を表3に示した。
実施例1、2、4で得られた成形品は、比較例1で得られた成形品に比べて、摺動性、特に限界PV値に優れることが分かった。また、実施例3、5で得られた成形品は、比較例1で得られた成形品に比べて、限界PV値は同等であるが、動摩擦係数に優れ、総合的に摺動性に優れることが分かった。
Figure 0007029237000020

Claims (7)

  1. 液晶ポリエステルと、フッ素樹脂と、粒状炭素系固形潤滑剤とを含んでなる、液晶ポリエステル組成物であって、
    前記液晶ポリエステルの融点が290℃以上360℃以下であり、
    前記液晶ポリエステル、前記フッ素樹脂、および前記粒状炭素系固形潤滑剤の合計100質量部に対して、前記液晶ポリエステルを55質量部以上80質量部以下、前記フッ素樹脂を1質量部以上30質量部以下、前記炭素系固形潤滑剤を1質量部以上30質量部以下含む、液晶ポリエステル組成物。
  2. 前記液晶ポリエステル、前記フッ素樹脂、および前記粒状炭素系固形潤滑剤の合計100質量部に対して、前記液晶ポリエステルを60質量部以上75質量部以下、前記フッ素樹脂を5質量部以上15質量部以下、前記炭素系固形潤滑剤を5質量部以上25質量部以下含む、請求項1に記載の液晶ポリエステル組成物。
  3. 炭素繊維をさらに含む、請求項1または2に記載の液晶ポリエステル組成物。
  4. 前記液晶ポリエステルが、少なくとも下記の構成単位(I):
    Figure 0007029237000021
    を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル組成物。
  5. 前記液晶ポリエステルが、
    4,4-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、およびメチルハイドロキノンからなる群から選択される少なくとも1種の芳香族ジオール化合物に由来する構成単位(II)、および
    テレフタル酸、イソフタル酸、および2,6-ナフタレンジカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位(III)
    をさらに含む、請求項4に記載の液晶ポリエステル組成物。
  6. 前記液晶ポリエステル中において、構成単位(I)の組成比が50モル%以上80モル%以下であり、構成単位(II)の組成比が5モル%以上25モル%以下であり、構成単位(III)の組成比が5モル%以上25モル%以下である、請求項5に記載の液晶ポリエステル組成物。
  7. 請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル組成物を含んでなる、成形品。
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