以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。なお、ここでは、車両用のフロントガラスを例にして説明するが、これには限定されず、本実施の形態に係る合わせガラスは、車両用のフロントガラス以外にも適用可能である。又、図では本発明の内容を理解しやすいように、大きさや形状を一部誇張している。
図1は、車両用のフロントガラスを例示する図であり、フロントガラスを車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した図である。
図1(a)に示すように、フロントガラス20は、HUDで使用するHUD表示領域R1と、HUDで使用しないHUD表示外領域R2(透視領域)とを有している。HUD表示領域R1は、HUDを構成する鏡を回転させ、JIS R3212のV1点から見た際に、HUDを構成する鏡からの光がフロントガラス20に照射される範囲とする。なお、本明細書において、透視領域とは、JIS規格R3212で規定される試験領域C及び後述する情報送受信領域を有する場合は当該情報送受信領域を含み、可視光透過率Tvが70%以上である領域を指す。
HUD表示領域R1は、フロントガラス20の下方に位置しており、HUD表示外領域R2はHUD表示領域R1に隣接してフロントガラス20のHUD表示領域R1の周囲に位置している。但し、HUD表示領域は、例えば、図1(b)に示すHUD表示領域R11とHUD表示領域R12のように、Y方向の複数個所に分けて配置されてもよい。或いは、HUD表示領域は、HUD表示領域R11とHUD表示領域R12の何れか一方のみであってもよい。或いは、HUD表示領域は、Z方向の複数個所に分けて配置されてもよい(図示せず)。
HUD表示領域R1、R11、及びR12は、JIS規格R3212で規定される試験領域Aより外に配置されることが好ましい。HUD表示領域R1、R11、及びR12は、JIS規格R3212で規定される試験領域A内に配置されてもよい。なお、試験領域Aは試験領域Bの内側に設けられるが、図1では図示が省略されている。図1において、B及びCはJIS規格R3212で規定される試験領域B及びCをそれぞれ指す。
フロントガラス20の周縁部に黒セラミック層29(遮蔽層)が存在することが好ましい。黒セラミック層29は、黒セラ印刷用インクをガラス面に塗布し、これを焼き付けることにより形成することができる。フロントガラス20の周縁部に黒色不透明な黒セラミック層29が存在することにより、フロントガラス20の周縁部を保持するウレタン等の樹脂が紫外線により劣化することを抑制できる。
フロントガラス20は、上辺周縁部に情報送受信領域R5を有してもよい。情報送受信領域R5は、例えば、黒セラミック層29内に配置することができる。情報送受信領域R5は、フロントガラス20の上辺周縁部にカメラや測距用レーザ等が配置される場合の透視領域として機能する。
図2は、図1に示すフロントガラス20をXZ方向に切ってY方向から視た部分断面図である。図2に示すように、フロントガラス20は、ガラス板210と、ガラス板220と、中間膜230とを備えた合わせガラスである。フロントガラス20において、ガラス板210とガラス板220とは、中間膜230を挟持した状態で固着されている。
車両の内側となるガラス板210の一方の面であるフロントガラス20の内面21と、車両の外側となるガラス板220の一方の面であるフロントガラス20の外面22とは、平面であっても湾曲面であっても構わない。
フロントガラス20は、フロントガラス20を車両に取り付けたときに、フロントガラス20の下端側から上端側に至るに従って厚さが増加する断面楔形状に形成されており、楔角がδである。なお、楔角δは、フロントガラス20に沿った垂直方向の下端の厚さと上端の厚さとの差を、フロントガラス20に沿った垂直方向の距離で割ったもの(すなわち、平均楔角)である。なお、フロントガラス20の下端側から上端側に至る厚さの増加は、増加の割合が一定である単調増加であってもよく、増加の割合が部分的に変化してもよい。
フロントガラス20の下端側から上端側に至る厚さの増加の割合が変化する場合は、フロントガラス20のHUD表示領域を含む中央部よりも下辺側の楔角が、上辺側の楔角よりも大きいことが好ましい。フロントガラス20が該厚さの増加割合の変化であることにより、上辺側の可視光透過率の低下を抑制でき、またフロントガラス20の質量増加を抑制できる。
合わせガラスであるフロントガラス20の楔角δは、0.1mrad以上1.0mrad以下であることが好ましく、0.3mrad以上1.0mrad以下であることがより好ましい。楔角δを下限値以上とすることで、HUD二重像を抑制した上で透視二重像を十分に低減できる。又、楔角δを上限値以下とすることで、フロントガラス20の上端側での可視光透過率の低下を抑制できると共に、フロントガラス20の質量の増加を問題ない範囲内に抑制できる。楔角δは、0.3mrad以上0.9mrad以下であることが更に好ましく、0.3mrad以上0.8mrad以下であることが特に好ましい。
フロントガラス20において、ガラス板220は断面楔形状に形成されており、ガラス板210及び中間膜230の厚さは均一である。ガラス板220において、フロントガラス20の外面22となる面と、中間膜230と接する面とのなす角は楔角δgである。
断面楔形状であるガラス板(図2ではガラス板220)の楔角δgは、0.1mrad以上1.0mrad以下であることが好ましく、0.3mrad以上1.0mrad以下であることがより好ましい。楔角δgを下限値以上とすることで、HUD二重像を抑制した上で透視二重像を十分に低減できる。又、楔角δgを上限値以下とすることで、フロントガラス20の上端側での可視光透過率の低下を抑制できると共に、フロントガラス20の質量の増加を問題ない範囲内に抑制できる。楔角δgは、0.3mrad以上0.9mrad以下であることが更に好ましく、0.3mrad以上0.8mrad以下であることが特に好ましい。
ガラス板及び中間膜230が何れも断面楔形状である場合は、ガラス板の楔角δgと中間膜230の楔角との合計が、フロントガラス20の適切な楔角δの範囲になるように調整すればよい。
図2では、ガラス板210及び中間膜230の厚さが均一であるため、ガラス板220の楔角δgは、フロントガラス20の内面21と外面22とのなす楔角δ(合わせガラス全体の楔角)と等しい。但し、図2の例ではガラス板220のみを断面楔形状としているが、ガラス板220の厚さが均一であってガラス板210が断面楔形状であってもよく、ガラス板220と210がともに断面楔形状であってもよい。ガラス板220と210がともに断面楔形状である場合は、各ガラス板の楔角が異なっていても同じであってもよい。
なお、中間膜230の膜厚は均一(すなわち楔角0mrad)であることが好ましいが、合わせガラスの製造過程で若干の楔角が生じる場合がある。この場合、中間膜230の楔角は0.2mrad以下であれば許容範囲である。つまり、中間膜230の楔角は、0.2mrad以下であり、0.15mrad以下であればより好ましい。中間膜230の楔角を上限値以下とすることにより、中間膜230が厚くなる部分でのフロントガラス20の可視光透過率Tvの低下を抑制することができる。
ガラス板210、ガラス板220の一方又は双方を楔状に形成する場合には、例えばフロート法によって製造する場合では、製造条件を工夫することで得られる。すなわち溶融金属上を進行するガラスリボンの幅方向の両端部に配置された複数のロールの周速度を調整することで、幅方向のガラス断面を凹形状や凸形状、或いはテーパー形状とし、任意の厚み変化を持つ箇所を切り出せばよい。又、ガラス板表面を研磨して所定の楔角になるよう調整してもよい。
ガラス板210及び220としては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケート、有機ガラス等を用いることができる。フロントガラス20の外側に位置するガラス板220は、耐傷付き性の観点から無機ガラスであることが好ましく、成形性の点からソーダライムガラスであることが好ましい。又、断面楔形状のガラス板は、成分中のFe2O3に換算した全鉄量を0.75質量%以下とする点から、ソーダライムガラスであることが好ましい。
フロントガラス20の外側に位置するガラス板220の板厚は、最薄部が1.8mm以上3mm以下であることが好ましい。ガラス板220の板厚が1.8mm以上であると、耐飛び石性能等の強度が十分であり、3mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎず、車両の燃費の点で好ましい。ガラス板220の板厚は、最薄部が1.8mm以上2.8mm以下がより好ましく、1.8mm以上2.6mm以下が更に好ましい。なお、ガラス板220の板厚が均一でありガラス板210が断面楔形状である場合、フロントガラスの外側に位置するガラス板220の板厚の好ましい範囲も上述の通りである。
フロントガラス20の内側に位置するガラス板210の板厚は、厚みが一定の場合、0.3mm以上2.3mm以下であることが好ましい。ガラス板210の板厚が0.3mmより薄いとハンドリングが難しくなり、2.3mmより厚いと楔膜である中間膜230の形状に追従できなくなる。ガラス板210の板厚は、0.5mm以上2.1mm以下がより好ましく、0.7mm以上1.9mm以下が更に好ましい。但し、ガラス板210の板厚は必ずしも一定とする必要はなく、必要に応じて場所毎に板厚が変わってもよい。なお、フロントガラス20の内側に位置するガラス板210が断面楔形状である場合、最薄部の板厚が上述の範囲内であることが好ましい。
フロントガラス20は湾曲形状でなく平板形状であっても、湾曲形状であってもよい。フロントガラス20が湾曲形状である場合、ガラス板210及び220は、フロート法による成形の後、中間膜230による接着前に、曲げ成形される。曲げ成形は、ガラスを加熱により軟化させて行われる。曲げ成形時のガラスの加熱温度は、大凡550℃~700℃である。
図2の説明に戻り、ガラス板210とガラス板220とを接着する中間膜230としては熱可塑性樹脂が多く用いられ、例えば、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合体系樹脂等の従来からこの種の用途に用いられている熱可塑性樹脂が挙げられる。
これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れたものを得られることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適に用いられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。上記可塑化ポリビニルアセタール系樹脂における「可塑化」とは、可塑剤の添加により可塑化されていることを意味する。その他の可塑化樹脂についても同様である。
上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(以下、必要に応じて「PVA」と言うこともある)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール系樹脂、PVAとn-ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(以下、必要に応じて「PVB」と言うこともある)等が挙げられ、特に、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好適なものとして挙げられる。なお、これらのポリビニルアセタール系樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。但し、中間膜230を形成する材料は、熱可塑性樹脂には限定されない。
中間膜230の膜厚は、最薄部で0.5mm以上であることが好ましく、0.6mm以上であることがより好ましい。中間膜230の膜厚が下限値以上であるとフロントガラスとして必要な耐貫通性が十分となる。又、中間膜230の膜厚は、最厚部で3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましく、1.5mm以下であることが更に好ましい。中間膜230の膜厚が上限値以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎない。
中間膜230は、遮熱剤である赤外線吸収剤を含有することで赤外線遮蔽機能を備えている。中間膜230が含有する赤外線吸収剤としては、赤外線を選択的に吸収する性質を有する材料であれば特に制限なく使用可能である。赤外線吸収剤として従来公知の無機系又は有機系の赤外線吸収剤が使用可能である。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
中間膜230は、板厚2mmのクリアガラス(後述するFe2O3換算した全鉄量が0.08質量%であるガラス1)2枚の間に挟持して合わせガラスにした状態で測定された、550nmにおける吸光度に対する780nmの吸光度の比(A)が1.8以上であることが好ましく、当該比が2以上であることがより好ましく、3以上であることが更に好ましい。可視光域の吸光度(550nm)に対する、近赤外光の比率(780nm)がこの範囲にあれば、所定の断面楔形状のガラス板との組合せにより、可視光透過性が十分なため視認性がよく、更に遮熱性がよい。
無機系赤外線吸収剤としては微粒子として、例えば、コバルト系色素、鉄系色素、クロム系色素、チタン系色素、バナジウム系色素、ジルコニウム系色素、モリブデン系色素、ルテニウム系色素、白金系色素、錫ドープ酸化インジウム(ITO)微粒子、アンチモンドープ酸化錫(ATO)微粒子、複合タングステン酸化物微粒子等を用いることができる。
又、有機系赤外線吸収剤としては、例えば、ジイモニウム系色素、アンスラキノン系色素、アミニウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、アズレニウム系色素、ポリメチン系色素、ナフトキノン系色素、ピリリウム系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、ナフトラクタム系色素、アゾ系色素、縮合アゾ系色素、インジゴ系色素、ペリノン系色素、ペリレン系色素、ジオキサジン系色素、キナクリドン系色素、イソインドリノン系色素、キノフタロン系色素、ピロール系色素、チオインジゴ系色素、金属錯体系色素、ジチオール系金属錯体系色素、インドールフェノール系色素、トリアリルメタン系色素等を用いることができる。
これらのうちでも、経済性並びに可視光線領域に対する赤外線領域の吸収率の高さの観点から、無機系赤外線吸収剤として、ITO微粒子、ATO微粒子、複合タングステン酸化物微粒子、有機系赤外線吸収剤としてフタロシアニン系色素が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。フタロシアニン系色素は、近赤外線波長領域に急峻な吸収を示す。従って、より広範囲の赤外線吸収能が要求される場合には、フタロシアニン系色素と、ITO微粒子、ATO微粒子及び複合タングステン酸化物微粒子から選ばれる少なくとも1種を組合せて使用することが好ましい。
複合タングステン酸化物として、具体的には、一般式:MxWyOz(但し、M元素は、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちから選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で示される複合タングステン酸化物が挙げられる。上記一般式で示される複合タングステン酸化物においては、十分な量の自由電子が生成されるため赤外線吸収剤として有効に機能する。
なお、上記一般式:MxWyOzで示される複合タングステン酸化物の微粒子は、六方晶、正方晶、立方晶の結晶構造を有する場合に耐久性に優れることから、該六方晶、正方晶、立方晶から選ばれる1つ以上の結晶構造を含むことが好ましい。このような結晶構造において、添加されるM元素の量(x)は、タングステンの量(y)とのモル比、x/yの値で0.001以上、1.0以下であり、酸素の存在量(z)は、タングステンの量(y)とのモル比、z/yの値で2.2以上3.0以下である。
更に、x/yの値は0.33程度であることが好ましい。これは六方晶の結晶構造から理論的に算出されるx/yの値が0.33であり、x/yの値がこの前後の値となる量でM元素を含有することで、複合タングステン酸化物微粒子は好ましい光学特性を示すからである。このような複合タングステン酸化物として、具体的には、Cs0.33WO3(セシウム酸化タングステン)、Rb0.33WO3(ルビジウム酸化タングステン)、K0.33WO3(カリウム酸化タングステン)、Ba0.33WO3(バリウム酸化タングステン)等が挙げられる。但し、本実施の形態に用いられる複合タングステン酸化物は、これらに限定されず、x/y及びz/yの値が上記範囲にあれば、有用な赤外線吸収特性を有するものである。
このような複合タングステン酸化物は、その微粒子を均一に分散した膜において、透過率が波長400~700nmの間に極大値を持ち、かつ波長700~1800nmの間に極小値を持つことが知られている赤外線吸収剤である。
上記一般式:MxWyOzで示される複合タングステン酸化物の微粒子は、従来公知の方法で製造できる。例えば、タングステン酸アンモニウム水溶液や、6塩化タングステン溶液と元素Mの塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物等の水溶液を所定の割合で混合したタングステン化合物出発原料を用い、これらを不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理することで、複合タングステン酸化物微粒子が得られる。
なお、上記複合タングステン酸化物微粒子の表面は、Si、Ti、Zr、Al等から選ばれる金属の酸化物で被覆されていることが、耐候性の向上の観点から好ましい。被覆方法は特に限定されないが、複合タングステン酸化物微粒子を分散した溶液中に、上記金属のアルコキシドを添加することで、複合タングステン酸化物微粒子の表面を被覆することが可能である。
上記ATO微粒子及びITO微粒子は、従来公知の種々の調製方法、例えば、メカノケミカル法などによる金属粉を粉砕して得る物理的な方法;CVD法や蒸着法、スパッタ法、熱プラズマ法、レーザ法のような化学的な乾式法;熱分解法、化学還元法、電気分解法、超音波法、レーザーアブレーション法、超臨界流体法、マイクロ波合成法等による化学的な湿式法と呼ばれる方法等で調製されたものを特に制限なく使用することができる。
又、これら微粒子の結晶系に関しては通常の立方晶に限られず、必要に応じて赤外線吸収能の比較的低い六方晶ITOも使用できる。
赤外線吸収剤の微粒子における平均一次粒子径は100nm以下が好ましく、より好ましくは50nm以下、特に好ましくは30nm以下である。平均一次粒子径を上限値以下とすれば、散乱による曇りの発生(曇価、ヘイズの上昇)を抑制でき、車両用合わせガラスにおける透明性維持の点で好ましい。なお、平均一次粒子径の下限値については特に限定されないが、現在の技術において製造可能な2nm程度の赤外線吸収剤微粒子も使用可能である。ここで、微粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡による観察像から測定されるものをいう。
なお、中間膜230は、3層以上の層を有していてもよい。例えば、中間膜230を3層から構成し、真ん中の層の硬度を両側の層の硬度よりも低くすることにより、合わせガラスの遮音性を向上できる。この場合、両側の層の硬度は同じでもよいし、異なってもよい。ここで、中間膜230の層の硬度はショア硬度として測定できる。
通常、HUDの光源は車室内下方に位置し、そこから合わせガラスに向かって投影される。投影像はガラス板210及び220の裏面と表面で反射されるため、二重像が発生しないように両反射像を重ね合わせるためには、ガラス板の板厚は投影方向に対して平行に変化することが必要である。ガラス板210の板厚が筋目と直交する方向に変化する場合、情報が投影されるガラスとして用いるには、筋目方向が投影方向と直交、すなわち筋目が車室内観察者(運転者)の視線と水平方向となり、透視歪により視認性が悪化する方向で使用しなければならない。
視認性を改善するために、ガラス板210、ガラス板220、中間膜230を用いて作製された合わせガラスは、ガラス板210の筋目とガラス板220の筋目とが直交するように配置されることが好ましい。この配置によりガラス板210単独では悪化した歪が、筋目が直交するガラス板220、並びにガラス板210とガラス板220を接着する中間膜230の存在によって緩和され、本発明の視認性の向上に加えて視認性が更に改善される。
中間膜230を作製するには、例えば、中間膜230となる上記の樹脂材料を適宜選択し、押出機を用い、加熱溶融状態で押し出し成形する。押出機の押出速度等の押出条件は均一となるように設定する。その後、押し出し成形された樹脂膜を、フロントガラス20のデザインに合わせて、上辺及び下辺に曲率を持たせるために、例えば必要に応じ伸展することで、中間膜230が完成する。
合わせガラスを作製するには、ガラス板210とガラス板220との間に中間膜230を挟んで積層体とし、例えば、この積層体をゴム袋の中に入れ、-65~-100kPaの真空中で温度約70~110℃で接着する。
更に、例えば100~150℃、圧力0.6~1.3MPaの条件で加熱加圧する圧着処理を行うことで、より耐久性の優れた合わせガラスを得ることができる。但し、場合によっては工程の簡略化、並びに合わせガラス中に封入する材料の特性を考慮して、この加熱加圧工程を使用しない場合もある。
なお、ガラス板210とガラス板220との間に、中間膜230の他に、電熱線、赤外線反射、発光、発電、調光、可視光反射、散乱、加飾、吸収等の機能を持つフィルムやデバイスを有していてもよい。
ガラス板210及びガラス板220のうち断面楔形状であるガラス板は(ガラス板210及びガラス板220の両方が断面楔形状である場合は両方)、成分中のFe2O3に換算した全鉄量が0.75質量%以下であるが、0.6質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましい。成分中のFe2O3に換算した全鉄量を0.75質量%以下とすることでガラス板の透明度を向上でき、合わせガラスの可視光透過率が大きく、視認性がよい。本明細書中の全鉄量は、ガラス板の全鉄量を酸化物基準の質量百分率で表示したものである。
ガラス板210及びガラス板220のうち断面楔形状でないガラス板は、成分中のFe2O3に換算した全鉄量が0.75質量%以下であることが好ましく、0.6質量%以下であることがより好ましい。
ガラス板210及びガラス板220のうち断面楔形状であるガラス板(ガラス板210及びガラス板220の両方が断面楔形状である場合は両方)において、視認性の観点から、板厚1mm当たりの1000nmの波長の吸光度は、0.2以下であることが好ましく、0.15以下であることがより好ましい。
又、ガラス板210とガラス板220の板厚の合計をTmm、中間膜230の膜厚をtmmとしたときに、T/tの最大値は、4.4以上であることが好ましい。T/tの最大値を4.4以上とすることで、合わせガラスの可視光透過率が大きく、視認性がよいとの効果が得られる。
フロントガラス20は、例えば、フロントガラス20の最厚部におけるガラス板210及びガラス板220の板厚の合計がT=3.4mm(ガラス板210:2mm、ガラス板220:最薄部の板厚1.1mm、楔角0.3mrad、縦方向の長さ:1m)、中間膜230の膜厚がt=0.76(膜厚一定)であり、この場合、T/tの最大値は4.5となる。
一方、従来の合わせガラスは、例えば、フロントガラスの最厚部における一対のガラス板の板厚の合計がT=4.6mm(各々2.3mm)、中間膜の膜厚がt=1.06(最薄部の膜厚0.76mm、楔角0.3mrad、縦方向の長さ:1m)であり、この場合、T/tの最大値は4.3となる。
フロントガラス20の試験領域Cにおいて、ISO13837Aで規定される全日射透過率(以下、単にTtsとも記す)は60%以下であるが、58%以下であることが好ましい。全日射透過率Ttsが60%以下であれば遮熱性能がよく、58%以下であれば更に遮熱性能が向上するからである。なお、フロントガラス20の試験領域Cの外側であって黒セラミック層を有する領域外において、全日射透過率Ttsは、試験領域Cと同等の特性であってもよい。
フロントガラス20の試験領域Cであって黒セラミック層を有さない領域において、JIS規格R3212で規定される可視光透過率Tvは70%以上であることが好ましく、72%以上であることがより好ましい。
フロントガラス20の透視領域かつ試験領域Cである領域の上辺と下辺の可視光透過率Tvの差ΔTvは3%以下であることが好ましく、2.5%以下であることがより好ましく、2%以下であることが更に好ましい。可視光透過率Tvの差ΔTvが3%以下であれば、フロントガラスの垂直方向の位置による色味の違いといった意匠性の問題が生じず、2.5%以下、2%以下となるにつれて更に意匠性が向上するからである。
なお、情報送受信領域R5における全日射透過率Tts及び可視光透過率Tvは、車内側に装着されるカメラ等の情報送受信機器を熱から守り、さらに高い精度で車外の可視光情報を取り込むために、試験領域Cと同等の特性であることが好ましい。
このように、フロントガラス20において、ガラス板210及び220のうち少なくとも一方は、成分中のFe2O3に換算した全鉄量が0.75質量%以下である断面楔形状のガラス板である。又、中間膜230の断面の角度は0.2mrad以下であり、フロントガラス20の全日射透過率Ttsは60%以下である。
これらにより、フロントガラス20の厚さが厚い領域(上辺)での可視光透過率Tvの低下を抑制できると共に、フロントガラス20の上辺と下辺の可視光透過率Tvの差ΔTvを低減できる。
なお、図3は比較例に係るフロントガラスを例示する部分断面図であり、図2と同方向から視た図である。図3の比較例に示すように、中間膜230を断面楔形状とし、ガラス板210及び220の板厚を一定とする構造は、以下の理由により好ましくない。
遮熱剤が添加された中間膜230は、主に赤外線を吸収するが、可視光の吸光度もゼロではなく、厚み1mm当たりの可視光の吸光度が、ガラス板210及び220よりも大きい。従って、図2と図3では、フロントガラス20の下辺の厚さと上辺の厚さは同じ(楔角δが同じ)であるが、厚さが増える上辺側の可視光透過率Tvは中間膜230を断面楔形状とした図3の方が低くなり視認性が低下する。
つまり、図3の構造では、上辺側の可視光透過率Tvが70%未満となるおそれがある。又、上辺と下辺の可視光透過率Tvの差ΔTvが大きくなり、更に見かけ上の色味が異なってくることから、意匠性にも問題がある。
一方、ガラス板210及び220は、ガラス板中の成分中のFe2O3に換算した全鉄量を特定の値にすることにより、板厚1mm当たりの可視光の吸光度が、遮熱剤が添加された中間膜230よりも小さい。図2に一例として示すように、板厚1mm当たりの可視光の吸光度が中間膜230よりも小さいガラス板210及び220の少なくとも一方を断面楔形状とすることで、フロントガラスの厚さが増える上辺側の可視光透過率Tvを70%以上とすることができる。又、図2の構造では、上辺と下辺の可視光透過率Tvの差ΔTvを低減できるため、意匠性を向上でき、更に良好な遮熱性を維持でき、HUDの二重像を抑制できる。
又、フロントガラスの情報送受信領域R5はフロントガラスの上辺周縁部に位置する。すなわち、HUD領域の二重像に対応するフロントガラスの総厚みが特に厚い部分に位置するため、図3の構造ではカメラ等が可視光情報を適切に受信できない可能性がある。情報送受信領域R5を本発明の構造とすることにより、これらの問題を効果的に解決できる。
[実施例]
図4に示す成分中のFe2O3に換算した全鉄量が0.75質量%以下であるガラス1~3と、図5及び図6に示す遮熱剤が添加された中間膜である遮熱中間膜1~3とを適宜組合せ、図7に示す構成の合わせガラスを作製した。合わせガラスの大きさは何れも横1490mm、高さ1100mmであり、自動車用フロントガラス用に周縁部に黒セラミック層を備えている。なお、図6の吸光度比は、吸光度の比(A)である。
なお、図4の『Redox』は、Fe2O3に換算した全鉄中のFe2O3に換算した2価の鉄の質量割合である。すなわち、Redox(%)は、Fe2+/(Fe2++Fe3+)×100で表わされる。Redoxを低く抑えることで透過率の高いガラス板が得られるため、Redoxは30%以下であることが好ましい。
又、図5において、備考欄の『2t』は膜厚が2mmで一定であることを示しており、遮熱中間膜3は遮熱中間膜2よりもCWOの濃度が低い。又、図7中、例えば『2mm』とは厚さが2mmで一定であることを示し、例えば『2mm+楔形状』とは下辺の厚さが2mmの断面楔形状であることを示している。又、図7中、例えば『楔ガラス2』とは断面楔形状であり、ガラスの種類が図4中に示すガラス2であることを示す。
図7に示すように、実施例1~12では内板(車内側)又は外板(車外側)を断面楔形状とし、中間膜は一定厚みとした。又、比較例1~12では中間膜を断面楔形状とし、内板及び外板は一定の板厚とした。そして、図7に示す実施例1~12及び比較例1~12の合わせガラスについて可視光透過率Tv及び全日射透過率Ttsを測定し、図8の結果を得た。なお、図8に示す上辺、下辺での値は、試験領域Cにおけるそれぞれ最も下辺に近い箇所と最も上辺に近い箇所の測定値である。
図8より、成分中のFe2O3に換算した全鉄量が0.75質量%以下であるガラス1~3と遮熱中間膜1~3との何れの組合せにおいても、ガラス板を断面楔形状とした場合の方が中間膜を断面楔形状とした場合よりも、上辺の可視光透過率Tvが高くなっている。
又、ガラス1~3と遮熱中間膜1~3との何れの組合せにおいても、ガラス板を断面楔形状とした場合の方が中間膜を断面楔形状とした場合よりも、可視光透過率Tvの差ΔTvを低減できている。
又、ガラス1~3と遮熱中間膜1~3との何れの組合せにおいても、全日射透過率Ttsは60%以下であり、ガラス板を断面楔形状とした場合の方が中間膜を断面楔形状とした場合よりも、全日射透過率Ttsの差ΔTtsを低減できている。
又、楔角が0.3mradの場合よりも楔角が0.6mradの方が、上辺の可視光透過率Tvが高くなる効果と、可視光透過率Tvの差ΔTvを低減する効果と、全日射透過率Ttsの差ΔTtsを低減する効果が顕著である。つまり、楔角がより大きい場合に、中間膜を断面楔形状とする場合に対するガラス板を断面楔形状する場合の効果が顕著に現れる。
このように、合わせガラスにおいて、成分中のFe2O3に換算した全鉄量が0.75質量%以下であるガラス板を断面楔形状とすることで、合わせガラスの厚さが厚い領域(上辺)での可視光透過率Tvの低下を抑制できることが確認された。又、合わせガラスの上辺と下辺の可視光透過率Tvの差ΔTvを低減できる(意匠性を向上できる)ことが確認された。又、全日射透過率Ttsを60%以下にできると共に、ガラス板を断面楔形状とした場合の方が中間膜を断面楔形状とする場合よりも、全日射透過率Ttsの差ΔTtsを低減できる(均一な遮熱性能が得られる)ことが確認された。又、実施例の合わせガラスは、断面に所定量の楔角を有するため、HUDの二重像を解消できた。
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。