JP7026282B1 - ヒトトロンボポエチンに対する抗体 - Google Patents

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Abstract

【課題】 ヒトトロンボポエチンを感度高く検出するための物質を提供すること。【解決手段】 ヒトトロンボポエチンの82~84位のアミノ酸配列を含む領域及び127~131位のアミノ酸配列を含む領域に対して反応性を示す抗体は、ヒトトロンボポエチンを感度高く検出できることを明らかにした。【選択図】 なし

Description

本発明は、ヒトトロンボポエチンに対する抗体に関する。さらに、本発明は、当該抗体を用いた、ヒトトロンボポエチンの免疫学的検出方法又は特発性血小板減少性紫斑病の検査方法に関する。本発明はまた、前記抗体を含む、ヒトトロンボポエチンを免疫学的に検出するための組成物又は特発性血小板減少性紫斑病を検査するための組成物に関する。
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は、基礎疾患や原因薬剤等の関与がなく、血小板の数が減少し、出血症状を引き起こす疾患である。その診断は、病因が明らかでないこともあり、基本的に除外診断となる。すなわち、血小板減少(10万/μl以下)が認められるが、血液検査項目において赤血球系及び白血球系の異常が認められず、かつ血小板減少をきたすその他の疾患を除外できる場合にITPと診断される。
この血液検査項目に関し、ITPにおいて、血小板特異的な造血因子であるトロンボポエチン(TPO)の減少が認められる。そのため、日本において、血漿TPO値は、現状では任意の検査項目となっているが、今後、一般の臨床検査としての普及が期待されている。さらに、TPOの血中濃度は極めて低いため、その検査方法には高い感度を要する。したがって、TPOの高感度検出薬の開発は、本疾患領域における社会課題の一つとなっている。
この点に関し、TPO検出薬として、例えば、R&D systems社が提供しているELISAキット(Quantikine(登録商標) ELISA Human Thrombopoietin Immunoassay カタログ番号:DTP00B、非特許文献1)や、1996年に麒麟酒造が開発した未発売のELISA試薬(非特許文献2)が知られている。
しかしながら、前者は感度不足により、健常人の約80%の血漿TPO濃度を正確に測定できないことが明らかになっており、また後者については、検出に2日間も要する等、ITPの検査等に利用し得る、TPO検出薬は未だなかった。
R&D systems社、「Quantikine ELISA Human Thrombopoietin Immunoassay カタログ番号:DTP00B」の使用説明書、2017年 T Taharaら、Br J Haematol.、1996年6月、93巻、4号、783~788ページ
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ITPの検査等に対応し得る、ヒトTPOを感度高く検出するための物質を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ヒトTPOに対して高い反応性を示す抗体2クローン(Clone.a004,a020)を取得することができた。そして、これら抗体はいずれも、82位のグリシンに変異が導入されたヒトTPO、84位のスレオニンに変異が導入されたヒトTPO、127位のイソロイシンに変異が導入されたヒトTPO及び131位のフェニルアラニンに変異が導入されたヒトTPOに対する反応性が、これら変異導入前(野生型)のヒトTPOに対する反応性と比較していずれも低いことを見出した。すなわち、ヒトTPOの82~84位のアミノ酸配列を含む領域及び127~131位のアミノ酸配列を含む領域をエピトープとすることにより、前記抗体は、反応性高くヒトTPOを検出できることが明らかになった。
そして、かかる抗体を用い、ヒトTPOを免疫学的に検出する系(化学発光酵素免疫測定系)を構築し、各種サンプルにおけるヒトTPOを検出した結果、短時間で、感度高く定量的に検出できることを明らかにした。特に、上述の抗体を用いることによって、既存のTPO検出薬(R&D systems社が提供しているELISAキット、非特許文献1)と比較して、4倍も感度高くヒトTPOを検出できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、ヒトTPOに対する抗体に関し、また、当該抗体を用いた、ヒトTPOの免疫学的検出方法又は特発性血小板減少性紫斑病の検査方法に関する。さらに、本発明は、前記抗体を含む、ヒトTPOを免疫学的に検出するための組成物又は特発性血小板減少性紫斑病を検査するための組成物に関し、より具体的には以下に関する。
<1> ヒトトロンボポエチンに対する抗体であって、ヒトトロンボポエチンの82~84位のアミノ酸配列を含む領域及び127~131位のアミノ酸配列を含む領域に対して反応性を示す抗体。
<2> ヒトトロンボポエチンに対する抗体であって、ヒトトロンボポエチンの82位のグリシン、84位のスレオニン、127位のイソロイシン及び131位のフェニルアラニンに対して反応性を示す抗体。
<3> ヒトトロンボポエチンに対する抗体であって、82位のグリシンに変異が導入されたヒトトロンボポエチン、84位のスレオニンに変異が導入されたヒトトロンボポエチン、127位のイソロイシンに変異が導入されたヒトトロンボポエチン及び131位のフェニルアラニンに変異が導入されたヒトトロンボポエチンの変異体に対する反応性が、野生型のヒトトロンボポエチンに対する反応性と比較していずれも低い、抗体。
<4> 前記ヒトトロンボポエチンの変異体において導入されている変異はいずれも、アラニンへの置換である、<3>に記載の抗体。
<5> ヒトトロンボポエチンに対する抗体であって、
(a)配列番号:3~5に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号:3~5に記載のアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列を、各々重鎖相補性決定領域1~3として保持し、かつ、配列番号:7~9に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号:7~9に記載のアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列を、各々軽鎖相補性決定領域1~3として保持する、又は
(b)配列番号:11~13に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号:11~13に記載のアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列を、各々重鎖相補性決定領域1~3として保持し、かつ、配列番号:15~17に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号:15~17に記載のアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列を、各々軽鎖相補性決定領域1~3として保持する、抗体。
<6> ヒトトロンボポエチンに対する抗体であって、
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列、配列番号:2に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、又は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列を、含む重鎖可変領域を保持し、かつ配列番号:6に記載のアミノ酸配列、配列番号:6に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、又は、配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列を、含む軽鎖可変領域を保持する、又は、
(b)配列番号:10に記載のアミノ酸配列、配列番号:10に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、又は、配列番号:10に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列を、含む重鎖可変領域を保持し、かつ配列番号:14に記載のアミノ酸配列、配列番号:14に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、又は、配列番号:14に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列を、含む軽鎖可変領域を保持する、抗体。
<7> ヒトトロンボポエチンに対する抗体であって、ヒトトロンボポエチンへの結合において<5>又は<6>に記載の抗体と競合する抗体。
<8> <1>~<7>のうちのいずれか一項に記載のヒトトロンボポエチンに対する抗体を用いて、ヒトトロンボポエチンを免疫学的に検出する方法。
<9> 更に、ヒトトロンボポエチンの57~61位のアミノ酸配列を含む領域及び102~115位のアミノ酸配列を含む領域に対して反応性を示す抗体を用い、ヒトトロンボポエチンを免疫学的に検出する、<8>に記載の方法。
<10> 前記検出が化学発光酵素免疫測定法によって行われる、<8>又は<9>に記載の方法。
<11> <8>~<10>のうちのいずれか一項に記載の方法を用いた、特発性血小板減少性紫斑病の検査方法。
<12> <1>~<7>のうちのいずれか一項に記載のヒトトロンボポエチンに対する抗体を含む、ヒトトロンボポエチンを免疫学的に検出するための組成物。
<13> 更に、ヒトトロンボポエチンの57~61位のアミノ酸配列を含む領域及び102~115位のアミノ酸配列を含む領域に対して反応性を示す抗体を含む、ヒトトロンボポエチンを免疫学的に検出するための組成物。
<14> 前記検出を化学発光酵素免疫測定法によって行うための、<12>又は<13>に記載の組成物。
<15> 特発性血小板減少性紫斑病を検査するための、<12>~<14>のうちのいずれか一項に記載の組成物。
なお、上述のヒトTPOに対して高い反応性を示す抗体2クローン(Clone.a004,a020)のアミノ酸配列は以下のとおりである。
[a004]
重鎖可変領域(HV)…配列番号:10に記載のアミノ酸配列、重鎖相補性決定領域1~3(HV CDR1~3)…配列番号:11~13に記載のアミノ酸配列、軽鎖可変領域(LV)…配列番号:14に記載のアミノ酸配列、軽鎖相補性決定領域1~3(LV CDR1~3)…配列番号:15~17に記載のアミノ酸配列
[a020]
HV…配列番号:2に記載のアミノ酸配列、HV CDR1~3…配列番号:3~5に記載のアミノ酸配列、LV…配列番号:6に記載のアミノ酸配列、LV CDR1~3…配列番号:7~9に記載のアミノ酸配列。
本発明によれば、ヒトTPOを感度高く検出することが可能となる。さらに、本発明によれば、短時間で、定量的にヒトTPOを検出し得る。そのため、特発性血小板減少性紫斑病の検査等に好適に用いられる。また、既存のTPO検出薬(例えば、非特許文献1、2に記載のELISA試薬等)に用いられる抗ヒトTPO抗体はポリクローナル抗体であるため、供給安定性に難がある。一方、本発明においては、ヒトTPOの検出に用いる抗体はモノクローナル抗体の態様でも利用し得るため、その点においても有用性が高い。
また、ヒトTPOは、C末端が切断されたものも存在し、かつTPO受容体結合活性を持つという報告もある(TAKASHI KATOら、Stem Cells 1998;16:322~328)。本発明においては、そのようなC末端切断TPOも検出することができる。
抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a003,a004,a015,a020)のヒトトロンボポエチン(ヒトTPO)に対する反応性を、サンドイッチELISA法にて評価した結果を示す、グラフである。 抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a004,a015,a020)のヒトTPO全長(TPOFull)に対する反応性を、サンドイッチELISA法にて評価した結果を示す、グラフである。 抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a004,a015,a020)のヒトTPOのN末端断片(TPO1-174)に対する反応性を、サンドイッチELISA法にて評価した結果を示す、グラフである。 抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a004)とヒトTPOとの結合における、抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a004)の阻害効果を、サンドイッチELISA法にて評価した結果を示す、グラフである。 抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a004)とヒトTPOとの結合における、抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a020)の阻害効果を、サンドイッチELISA法にて評価した結果を示す、グラフである。 抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a020)とヒトTPOとの結合における、抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a004)の阻害効果を、サンドイッチELISA法にて評価した結果を示す、グラフである。 抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a020)とヒトTPOとの結合における、抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a020)の阻害効果を、サンドイッチELISA法にて評価した結果を示す、グラフである。 抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a004,a020)のヒトTPO又はマウスTPOに対する反応性を、サンドイッチELISA法にて評価した結果を示す、グラフである。 変異型ヒトTPOを用いた、抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a004,a020)のエピトープ解析方法の概要を示す、図である。図中上部に、ヒトTPO(全長)のC末端側にMycタグ及び6×Hisタグを連結させた融合タンパク質の概要を示す。本エピトープ解析においては、図中下部の[アッセイ]に示すとおり、前記融合タンパク質又は当該タンパク質に各種アミノ酸置換を導入した変異体(表1参照)、抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a004,a020)及び抗6×Hisタグモノクローナル抗体(mAb)を用いたサンドイッチELISA法により、前記抗TPOウサギモノクローナル抗体の前記融合タンパク質又はその変異体に対する反応性を評価した。また、当該評価に際しては、図中下部の[コントロール]に示すとおり、前記融合タンパク質又はその変異体、抗6×HisタグmAb及びHRP標識抗MycタグmAbを用いたサンドイッチELISA法も行い、それらの測定値をもって、前記[アッセイ]における各変異体間の発現量の差異を補正した。 図5Aに概要を示した、抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a004,a020)のエピトープ解析の結果を示す、グラフである。 後述の実施例において構築した化学発光自働化TPO測定系(TPO-CLEIA)の概要を示す図である。当該測定系においては、ALPにて標識した抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a020、:図中の「ALP標識抗体」)と、磁性ビーズに固相化した抗TPOマウスモノクローナル抗体(TN1抗体)と、サンプルとを混合し、抗原-抗体反応により、これらの免疫複合体を形成させる。次いで、未結合の抗体等をB/F分離により除去した後、ALPに対する化学発光基質を反応させ、当該化学発光を指標として、前記サンプル中のTPO量を測定する。 TPO-CLEIAの性能を、希釈直線性試験により評価した結果を示す、グラフである。 TPO-CLEIAの検出限界(LoD)を解析した結果を示す、グラフである。 R&D systems社が提供しているELISA系(R&D-ELISA)のLoDを解析した結果を示す、グラフである。 TPO-CLEIAの定量限界(LoQ)を解析した結果を示す、グラフである。 TPO-CLEIAによって健常人の検体を解析した結果を示す、グラフである。横軸にTPOの濃度を示し、縦軸に各濃度に該当する健常人の検体数を示す。
<ヒトトロンボポエチンに対する抗体>
後述の実施例に示すとおり、本発明者らによって、ヒトトロンボポエチンに対して高い反応性を示す抗体2クローン(Clone.a004,a020)が取得された。そして、これら抗体はいずれも、82位のグリシンが導入されたヒトトロンボポエチン、84位のスレオニンに変異が導入されたヒトトロンボポエチン、127位のイソロイシンに変異が導入されたヒトトロンボポエチン及び131位のフェニルアラニンに変異が導入されたヒトトロンボポエチンに対する反応性が、これら変異導入前(野生型)のヒトトロンボポエチンに対する反応性と比較していずれも低いことが見出された。
よって、本発明は、ヒトトロンボポエチンに対する抗体であって、以下の態様をとり得る。
(1)ヒトトロンボポエチンの82~84位のアミノ酸配列を含む領域及び127~131位のアミノ酸配列を含む領域に対して反応性を示す抗体
(2)ヒトトロンボポエチンの82位のグリシン、84位のスレオニン、127位のイソロイシン及び131位のフェニルアラニンに対して反応性を示す抗体。
(3)ヒトトロンボポエチンに対する抗体であって、82位のグリシンに変異が導入されたヒトトロンボポエチン、84位のスレオニンに変異が導入されたヒトトロンボポエチン、127位のイソロイシンに変異が導入されたヒトトロンボポエチン及び131位のフェニルアラニンに変異が導入されたヒトトロンボポエチンの変異体に対する反応性が、野生型のヒトトロンボポエチンに対する反応性と比較していずれも低い、抗体。
本発明において、「トロンボポエチン(Thrombopoietin、TPO)」とは、骨髄における巨核球の増加・成熟を促進し、血小板数を増加させる血小板特異的な造血因子のことであり、ヒト由来であれば、典型的に、NCBI Reference Sequence:NP_000451に記載のアミノ酸配列(NCBI Reference Sequence:NM_000460に記載のヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列)の22~253位のアミノ酸(配列番号:1に記載のアミノ酸配列)を含むタンパク質である。
なお、NP_000451に記載のアミノ酸配列において、1~21位のアミノ酸からなる配列はシグナル配列であり、当該配列が除去された後、前記タンパク質が成熟型として分泌される。本発明において、TPOにおけるアミノ酸の位置は、特に断りがない限り、この成熟型(配列番号:1に記載のアミノ酸配列)におけるN末端(最初)のアミノ酸(NP_000451に記載のアミノ酸配列における22位のセリン)を1位として表す。
また、遺伝子のDNA配列は、その変異等により、自然界において(すなわち、非人工的に)変異し、それにコードされるタンパク質のアミノ酸配列もそれに伴い改変される。さらに、TPOにおいては、前記NP_000451(アイソフォーム1)を含め、4つのアイソフォームが知られている。したがって、本発明の抗体によって検出等されるヒトTPOには、前記典型的なアミノ酸配列からなるタンパク質に特定されることなく、このような天然の変異体及びアイソフォームも含まれる。
本発明における「抗体」は、免疫グロブリンのすべてのクラス及びサブクラスを含む。「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体が含まれ、また、抗体の機能的断片の形態も含む意である。「ポリクローナル抗体」は、異なるエピトープに対する異なる抗体を含む抗体調製物である。また、「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体(抗体断片を含む)を意味する。ポリクローナル抗体とは対照的に、モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を認識するものである。本発明の抗体は、好ましくはモノクローナル抗体である。本発明の抗体は、自然環境の成分から分離され、及び/又は回収された(即ち、単離された)抗体である。
本発明の抗体は、ヒトTPOに対して、例えば後述のような反応性を示すものであればよく、その由来、種類、形状等は特に限定されない。具体的には、非ヒト動物由来の抗体(例えば、ウサギ抗体、マウス抗体、ラット抗体、ラクダ抗体)、ヒト由来の抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、及びこれら抗体の機能的断片が含まれる。
本発明において抗体の「機能的断片」とは、抗体の一部分(部分断片)であって、ヒトTPOに反応性を示すものを意味する。具体的には、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー、多特異性抗体、及びこれらの重合体等が挙げられる。
ここで「Fab」とは、1つの軽鎖及び重鎖の一部からなる免疫グロブリンの一価の抗原結合断片を意味する。抗体のパパイン消化によって、また、組換え方法によって得ることができる。「Fab’」は、抗体のヒンジ領域の1つ又はそれより多いシステインを含めて、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端でのわずかの残基の付加によって、Fabとは異なる。「F(ab’)2」とは、両方の軽鎖と両方の重鎖の部分からなる免疫グロブリンの二価の抗原結合断片を意味する。
「可変領域断片(Fv)」は、完全な抗原認識及び結合部位を有する最少の抗体断片である。Fvは、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域が非共有結合により強く連結されたダイマーである。「一本鎖Fv(scFv)」は、抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、これらの領域は、単一のポリペプチド鎖に存在する。「sc(Fv)2」は、2つの重鎖可変領域及び2つの軽鎖可変領域をリンカー等で結合して一本鎖にしたものである。「ダイアボディー」とは、二つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片であり、この断片は、同一ポリペプチド鎖の中に軽鎖可変領域に結合した重鎖可変領域を含み、各領域は別の鎖の相補的領域とペアを形成している。「多特異性抗体」は、少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。例えば、二つの重鎖が異なる特異性を持つ二つの免疫グロブリン重鎖/軽鎖対の同時発現により調製することができる。
本発明において、「反応性」とは、抗原であるヒトTPOに対する結合活性(親和性)及び/又は特異性を意味する。かかる反応性は、後述の実施例において示すように、当業者であれば、免疫学的手法により評価することができる。例えば、後述の実施例に示すサンドイッチELISA法(捕捉用抗体を後述のTN1抗体とし、検出用抗体をHRPで標識した試験抗体とし、抗原をヒトTPO(全長)とする検出系)を用いて評価する場合、吸光度(OD450-620)が0.2以上であれば、当該試験抗体はヒトTPOに対して反応性(結合活性)を示すと評価することができる。さらに、かかる場合、ヒトTPOに対して反応性を示す抗体としては、前記吸光度が、0.3以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましく、0.8以上であることがより好ましく、1.0以上であることがさらに好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。また、後述の実施例に示すサンドイッチELISA法において、抗原存在下(添加濃度:1ng/ml)と非存在下とにおける吸光度の比(S/N比)が10以上であれば、当該試験抗体はヒトTPOに対して反応性(特異性)を示すと評価することができる。さらに、かかる場合、ヒトTPOに対して反応性を示す抗体としては、前記S/N比が、20以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、40以上であることがさらに好ましく、50以上であることがより好ましく、60以上であることがさらに好ましく、70以上であることがより好ましく、80以上であることがさらに好ましい。
また、ヒトTPOにて、82~84位のアミノ酸配列を含む領域及び127~131位のアミノ酸配列を含む領域、中でも、82位のグリシン、84位のスレオニン、127位のイソロイシン及び131位のフェニルアラニンに対して反応性を示すかどうかは、例えば、後述の実施例において示すような、ヒトTPO変異体に対する反応性を検出することによって評価することができる。より具体的には、82位のグリシンに変異が導入されたヒトTPO、84位のスレオニンに変異が導入されたヒトTPO、127位のイソロイシンに変異が導入されたヒトTPO及び131位のフェニルアラニンに変異が導入されたヒトTPOの変異体に対する反応性が、変異導入前のヒトTPO(例えば、野生型)に対するそれと比較して低ければ、これら変異が導入されたアミノ酸は、抗体が反応性を示す部位又はそれを含む領域(エピトープ)であると評価することができる。なお、「反応性が低い」とは、例えば、後述の実施例に示すように、野生型と比較してヒトTPO変異体に対する反応性の比率が50%以下であり、好ましくは30%以下であり、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である。また、ヒトTPO変異体において導入される変異としては、例えば、他のアミノ酸(例えば、各部位の野生型のアミノ酸とは異なるアミノ酸)への置換が挙げられ、好ましくはアラニンへの置換が挙げられる。
また、本発明においては、後述の実施例に示すとおり、以下のような可変領域を保持するヒトトロンボポエチンに対する抗体を提供する。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号:6に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを保持する抗体。
(b)配列番号:10に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号:14に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを保持する抗体。
さらに、後述の実施例に示すように、当業者であれば、抗体のアミノ酸配列が決定されれば、その配列に基づき、相補性決定領域(CDR)も決定することができる。したがって、本発明は、以下のようなCDRを保持するヒトトロンボポエチンに対する抗体をも提供し得る。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域から決定される重鎖CDR1~3と、配列番号:6に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域から決定される軽鎖CDR1~3とを保持する抗体。
(b)配列番号:10に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域から決定される重鎖CDR1~3と、配列番号:14に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域から決定される軽鎖CDR1~3とを保持する抗体。
なお、CDRの決定方法としては特に制限はないが、例えば、Kabat、Chothia、Aho、IMGT等の公知のナンバリングスキームが挙げられ、より具体的には、Kabatナンバリング法によって決定された例として、以下のようなCDRを保持するヒトトロンボポエチンに対する抗体を挙げることができる。
(a)配列番号:3~5に記載のアミノ酸配列を各々重鎖CDR1~3として保持し、かつ、配列番号:7~9に記載のアミノ酸配列を各々軽鎖CDR1~3として保持する抗体。
(b)配列番号:11~13に記載のアミノ酸配列を各々重鎖CDR1~3として保持し、かつ、配列番号:15~17に記載のアミノ酸配列を各々軽鎖CDR1~3として保持する、抗体。
また、本発明においては、このような特定のアミノ酸配列からなる可変領域及び/又はCDRを保持する抗体のみならず、望ましい活性(抗原に対する反応性等)を減少させることなく、そのアミノ酸配列が修飾された抗体が含まれる。このようなアミノ酸配列変異体は、例えば、上述の可変領域等をコードするDNAへの変異導入によって、またはペプチド合成によって作製することができる。そのような修飾には、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基の置換、欠失、付加及び/又は挿入を含む。抗体のアミノ酸配列が改変される部位は、改変される前の抗体と同等の活性を有する限り、抗体の重鎖又は軽鎖の定常領域であってもよく、また、可変領域(フレーム領域(FR)及びCDR)であってもよい。CDR以外のアミノ酸の改変は、抗原との反応性への影響が相対的に少ないと考えられるが、現在では、CDRのアミノ酸を改変して、抗原へのアフィニティーが高められた抗体をスクリーニングする手法が公知である(PNAS,102:8466-8471(2005)、Protein Engineering,Design&Selection,21:485-493(2008)、国際公開第2002/051870号、J.Biol.Chem.,280:24880-24887(2005)、Protein Engineering,Design&Selection,21:345-351(2008)、MAbs.Mar-Apr;6(2):437-45(2014))。また、現在では、統合計算化学システム等(例えば、Molecular Operating Enviroment、カナダCCG社製)を利用することにより、抗原へのアフィニティーが高められた抗体をモデリングすることもできる(例えば、http://www.rsi.co.jp/kagaku/cs/ccg/products/application/protein.html 参照)。さらに、Protein Eng Des Sel.2010 Aug;23(8):643-51に記載の通り、抗原へのアフィニティーにおいて、重鎖可変領域のCDR1及び軽鎖可変領域のCDR3は関与していない例が知られている、また同様に、Molecular Immunology 44:1075-1084(2007))には、大抵の抗体においては、軽鎖可変領域のCDR2は抗原へのアフィニティーに関与していないということが報告されている。このように、抗体の抗原へのアフィニティーにおいては、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域各々のCDR1~3の全てを要せずとも、同等の活性を発揮し得る。実際に、Biochem Biophys Res Commun.2003 Jul 18;307(1):198-205、J Mol Biol.2004 Jul 9;340(3):525-42、J Mol Biol.2003 Aug 29;331(5):1109-20においては、元の抗体の少なくとも1のCDRを保持することによって、抗原へのアフィニティーが維持された例が報告されている。
また、本発明の抗体に関し、可変領域において改変されるアミノ酸数は、好ましくは、10アミノ酸以内、より好ましくは5アミノ酸以内、さらに好ましくは3アミノ酸以内(例えば、2アミノ酸以内、1アミノ酸)である。さらに、かかる改変は全て、抗原との反応性への影響が少ないという観点から、CDR以外、すなわちFRに施されていることが好ましい。また、CDRにおいて改変されるアミノ酸数は、好ましくは5アミノ酸以内、より好ましくは3アミノ酸以内(例えば、2アミノ酸以内、1アミノ酸)である。
アミノ酸の改変は、好ましくは、保存的な置換である。本発明において「保存的な置換」とは、化学的に同様な側鎖を有する他のアミノ酸残基で置換することを意味する。化学的に同様なアミノ酸側鎖を有するアミノ酸残基のグループは、本発明の属する技術分野でよく知られている。例えば、酸性アミノ酸(アスパラギン酸及びグルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リシン・アルギニン・ヒスチジン)、中性アミノ酸においては、炭化水素鎖を持つアミノ酸(グリシン・アラニン・バリン・ロイシン・イソロイシン・プロリン)、ヒドロキシ基を持つアミノ酸(セリン・トレオニン)、硫黄を含むアミノ酸(システイン・メチオニン)、アミド基を持つアミノ酸(アスパラギン・グルタミン)、イミノ基を持つアミノ酸(プロリン)、芳香族基を持つアミノ酸(フェニルアラニン・チロシン・トリプトファン)で分類することができる。
また、改変後のアミノ酸配列が、上述の特定のアミノ酸配列からなる可変領域とアミノ酸配列レベルで80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む可変領域を保持する抗体も、改変される前の抗体と同等の活性を有する限り、本発明の抗体に含まれる。かかる相同性としては、少なくとも80%であればよいが、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)である。また、配列の相同性は、BLASTP(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al.J.Mol.Biol.,215:403-410,1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、KarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:2264-2268,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:5873-5877,1993)に基づいている。BLASTPによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res.25:3389-3402,1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
また、「同等の活性を有する」とは、例えば、抗原への反応性が、対象抗体(代表的には、本実施例に示す抗体クローンa004又はa020)と同等(例えば、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上)であることを意味する。
さらに、本発明の抗体としては、上述の特定のアミノ酸配列又はその改変体を含む、可変領域又はCDRを保持する抗体に対し、ヒトTPOへの結合において競合する抗体の態様もとり得る。言い換えれば、上述の特定のアミノ酸配列又はその改変体を含む、可変領域又はCDRを保持する抗体が反応性を示すエピトープに結合する抗体の態様もとり得る。
本発明において「エピトープ」とは、抗原中に存在する抗原決定基、すなわち抗体中の抗原結合ドメインが結合する抗原上の部位を意味する。したがって、本発明におけるエピトープは、アミノ酸の一次配列中において連続する複数のアミノ酸からなるポリペプチド(線状エピトープ)であってもよく、アミノ酸の一次配列中において隣接していないアミノ酸が、ペプチド又はタンパク質の折り畳み等の三次元構造によって近傍にくることにより形成されるポリペプチド(不連続エピトープ、構造的エピトープ)であってもよい。また、かかるエピトープとしては、典型的には、少なくとも3つ(例えば4つ)、最も普通には少なくとも5つ(例えば、6~20個、7~15個、8~10個)のアミノ酸からなる。
また、抗体が得られた場合、当業者であれば、その抗体が反応性を示す抗原上のペプチド領域(エピトープ)を特定して、そのペプチド領域に結合する種々の抗体を作製し得る。さらに、二つの抗体が同一又は立体的に重なり合ったエピトープと結合するかどうかは、後述の実施例に示すとおり、競合アッセイ法により決定することができる。
本発明の抗体は、ハイブリドーマ法によって作製することができ、また組換えDNA法によって作製することができる。ハイブリドーマ法としては、代表的には、コーラー及びミルスタインの方法(Kohler&Milstein,Nature,256:495(1975))が挙げられる。この方法における細胞融合工程に使用される抗体産生細胞は、抗原(ヒトTPO、その部分ペプチド、それらにFcタンパク質等が融合してあるタンパク質、またはこれらを発現する細胞等)で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ)の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球等である。免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞又はリンパ球等に対して、抗原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞も使用することが可能である。ミエローマ細胞としては公知の種々の細胞株を使用することが可能である。抗体産生細胞及びミエローマ細胞は、それらが融合可能であれば、異なる動物種起源のものでもよいが、好ましくは、同一の動物種起源のものである。ハイブリドーマは、例えば、抗原で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、その後のスクリーニングにより、ヒトTPOに特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。ヒトTPOに対するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを培養することにより、また、ハイブリドーマを投与した哺乳動物の腹水から、取得することができる。
組換えDNA法は、上記本発明の抗体をコードするDNAをハイブリドーマやB細胞等からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば、HEK細胞等の哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞等)に導入し、本発明の抗体を組換え抗体として産生させる手法である(例えば、P.J.Delves,Antibody Production:Essential Techniques,1997 WILEY、P.Shepherd and C.Dean Monoclonal Antibodies,2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS、Vandamme A.M.et al.,Eur.J.Biochem.192:767-775(1990))。本発明の抗体をコードするDNAの発現においては、重鎖又は軽鎖をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよく、重鎖及び軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい(国際公開第94/11523号公報 参照)。本発明の抗体は、上記宿主細胞を培養し、宿主細胞内又は培養液から分離・精製し、実質的に純粋で均一な形態で取得することができる。抗体の分離・精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている方法を使用することができる。トランスジェニック動物作製技術を用いて、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ等)を作製すれば、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得することも可能である。
本発明は、上記本発明の抗体をコードするDNA、該DNAを含むベクター、該DNAを保持する宿主細胞、及び該宿主細胞を培養し、抗体を回収することを含む抗体の生産方法をも提供することができる。
<ヒトTPOを免疫学的に検出する方法>
本発明は、また、試料中のヒトTPOを免疫学的に検出する方法であって、上述の本発明のヒトTPOに対する抗体を用いる方法を提供する。
本発明の方法に供される「試料」としては、ヒトTPOが存在し得る試料である限り特に制限はなく、例えば、生体から単離された体液、組織であってもよく、培養細胞又はその培養物(培養上清等)であってもよい。
ヒトTPOを免疫学的に検出する方法は、試料中のヒトTPOと本発明の抗体を接触させ、抗原抗体反応を生じさせ、形成した免疫複合体に基づいて当該試料中のヒトTPOを検出するものである。免疫学的に検出する方法としては、例えば、標識として酵素を用いるEIA法(酵素免疫測定法)、EIA法の一態様であるELISA法やCLEIA法(化学発光酵素免疫測定法)、標識物質で標識された抗原又は抗体を用いる標識イムノアッセイ、例えば、標識として放射性同位元素を用いるRIA法(放射免疫測定法)、標識として化学発光性化合物を用いるCLIA法(化学発光免疫測定法)、イムノクロマトグラフィー法、さらに、凝集の検出により測定する免疫凝集法(ラテックス凝集法、金コロイド凝集法等)が挙げられるが、これらに制限されない。
標識物質としては、抗体に結合させて検出できるものであれば特に制限はないが、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(ALP)、βガラクトシダーゼ(β-gal)、ホタルルシフェラーゼ等の酵素、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やローダミンイソチオシアネート(RITC)等の蛍光色素、アロフィコシアニン(APC)やフィコエリスリン(R-PE)等の蛍光蛋白質、125I等の放射性同位元素、ラテックス粒子、金コロイド粒子、アビジン、ビオチン等が挙げられる。
標識物質として酵素を用いた場合には、基質として、発色基質(例えば、過酸化水素の存在下、HRPによる酸化触媒反応により発色する3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB))、化学発光基質(例えば、ALPによる加水分解により発光するAMPPD(3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩))、蛍光基質等を添加することにより、基質に応じて種々の検出を行うことができる。
標識物質を結合させた本発明の抗体を用いてヒトTPOを直接的に検出する方法以外に、本発明の抗体には標識物質を結合せず、標識物質が結合した二次抗体等を利用して間接的に検出する方法を利用することもできる。ここで「二次抗体」とは、抗原に直接結合する抗体(一次抗体)に対して反応性を示す抗体である。また。二次抗体に代えて、標識物質を結合させたプロテインGやプロテインA等を用いることも可能である。
抗体と標識物質との結合には、ビオチン-アビジン系を利用することもできる。この方法においては、例えば、抗体をビオチン化し、これに、アビジン化した標識物質を作用させ、ビオチンとアビジンの相互作用を利用して、抗体に標識物質を結合させる。
本発明の方法において、より感度高くヒトTPOを検出できるという観点から、CLEIA法等のサンドイッチ法が好適である。サンドイッチ法においては、後述の実施例に示すように、固相化した捕捉用抗体で検出対象物質を捕捉し、それを標識物質が結合した検出用抗体に認識させ、B/F分離(洗浄)後、標識物質の種類に応じた検出を行う。また、イムノクロマトグラフィー法のように、標識物質が結合した検出用抗体で検出対象物質を認識させ、B/F分離を行いつつ、固相化した捕捉用抗体で検出対象物質を捕捉し、標識物質の種類に応じた検出を行うようにしてもよい。固相としては、例えば、磁性粒子やラテックス粒子等の粒子、プラスチックプレート等のプレート、ニトロセルロース等の繊維状物質を用いることができる。
捕捉用抗体は固相に直接固定してもよいが、間接的に固定してもよい。例えば、捕捉用抗体に結合する物質を固相に固定し、当該物質に捕捉用抗体を結合させることにより、補足用抗体を固相に間接的に固定することができる。捕捉用抗体に結合する物質としては、例えば、上記の二次抗体、プロテインG、プロテインA等が挙げられるが、これらに制限されない。また、捕捉用抗体がビオチン化されている場合には、アビジン化した固相を利用することができる。
サンドイッチ法においては、抗原捕捉用抗体及び検出用抗体の少なくとも一方に、本発明のモノクローナル抗体を用いる。他の一方の抗体は、ヒトTPOに対する抗体であれば良いが、好ましくは、本発明の抗体とヒトTPOへの結合において競合しない抗体(本発明の抗体が反応性を示すエピトープに結合しない抗体)であり、より好ましくは、ヒトTPOの57~61位のアミノ酸配列を含む領域及び102~115位のアミノ酸配列を含む領域に対して反応性を示す抗体、最も好ましくはClone.TN1抗体である。また、他の一方の抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよいが、供給安定性の観点から、モノクローナル抗体であることが好ましい。
得られた検出値からのヒトTPOの定量は、一般的に、標準検体による測定値との比較により行うことができる。この場合、例えば、標準検体による測定値に基づいて作成された標準曲線上のどの位置に、実際の測定値が位置づけられるかを調べることにより、試料中のヒトTPO量を求めることができる。
<特発性血小板減少性紫斑病の検査方法>
本発明は、後述の実施例に示すとおり、試料中のヒトTPOを感度高くまた定量的に検出することができる。よって、上述の本発明のヒトTPOを免疫学的に検出する方法は、ヒトTPO量が検査項目に含まれ得る特発性血小板減少性紫斑病の検査方法にも利用し得る。
より具体的に、本発明の特発性血小板減少性紫斑病を検査する方法として、下記(a)~(b)の工程を含む検査方法が挙げられる。
(a)被検体から分離された生体試料について、ヒトTPOの量を検出する工程、
(b)工程(a)で検出したヒトTPOの量を基準量と比較し、前記被検体が特発性血小板減少性紫斑病を罹患しているか否かを判定する工程。
本発明において「特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic thrombocytopenic purpura、ITP)」とは、明確な病因を伴わない、血小板の数が10万/μl以下に減少する疾患のことであり、通常、血液検査項目において赤血球系及び白血球系の異常が認められず、かつ血小板減少をきたすその他の疾患を除外できる場合にITPと判断される。
よって、ITPの検査においては、健常者との区別のみならず、その他の疾患の罹患者と区別できることが望ましい。かかる「その他の疾患」としては、再生不良性貧血(AA)、骨髄異形成症候群(MDS)、薬物又は放射線障害、発作性夜間血色素尿症、全身性エリテマトーデス(SLE)、白血病、悪性リンパ腫、がんの骨髄への転移、播種性血管内凝固症候群、血栓性血小板減少性紫斑病、脾機能亢進症、巨赤芽球性貧血、敗血症、結核症、サルコイドーシス、血管腫、感染症、先天性血小板減少症(ベルナール・スーリエ症候群、ウィスコット・アルドリッチ症候群、メイ・ヘグリン異常症、カサバッハ・メリット症候群等)が挙げられる。
本検査方法において対象となる試料としては、ヒトTPOが存在し得る、生体から単離された試料(体液、組織等)であればよく、特に制限されるものではないが、好ましくは、体液(血液、リンパ液、組織液、体腔液、髄液、関節液等)であり、より好ましくは血液、さらに好ましくは血漿である。「血液」は、当業者に公知の方法で被検体から採取することができる。例えば、血液(全血)は、注射器等を用いた採血によって採取することができる。血清は、全血から血球及び特定の血液凝固因子を除去した部分であり、例えば、全血を凝固させた後の上澄みとして得ることができる。血漿は、全血から血球を除去した部分であり、例えば、全血を凝固させない条件下(例えば、EDTA、クエン酸ナトリウム、ヘパリン等の抗凝固剤存在下)で遠心分離に供した際の上澄みとして得ることができる。
本発明において検出する「ヒトTPOの量」とは、絶対量のみならず、相対量であってもよい。相対量としては、例えば、総タンパク質の量に対する割合が挙げられる。また、相対量としては、検出に用いる測定方法又は測定装置に基づくタンパク質の量(所謂、任意単位(AU)で表される数値)が挙げられる。相対量としてはまた、例えば、参照タンパク質の量を基準として算出した値を用いてもよい。本発明にかかる「参照タンパク質」は、生体試料において安定して存在しており、また異なる生体試料間において、その量の差が小さいタンパク質であればよく、例えば、内在性コントロール(内部標準)タンパク質が挙げられる。
本発明の検査方法においては、このようにして検出されたタンパク質の量と、同タンパク質の基準量とを比較する。かかる比較は、当業者であれば、上記検出方法に合った統計学的解析方法を適宜選択して行うことができる。統計学的解析方法としては、例えば、マン・ホイットニーのU検定、t検定、分散分析(ANOVA)、クラスカル・ウォリス検定、ウィルコクソン検定、オッズ比、ハザード比、フィッシャーの正確検定、受信者動作特性解析(ROC解析)、分類木と決定木解析(CART解析)が挙げられる。また、比較の際には、正規化された又は標準化かつ正規化されたデータを用いることもできる。
比較対象となる「基準量」としては特に制限はなく、当業者であれば上記検出方法及び統計学的解析方法に合わせ、それを基準とすることにより、ITPを罹患している者と罹患していない者(例えば、健常者、血小板減少をきたすその他の疾患を罹患している者)とを判別することのできる、所謂カットオフ値として設定することができる。
ITPを罹患している者と罹患していない者とを判別するための基準量としては、例えば、ITPに罹患していない個体群において検出されたヒトTPOの量の中央値又は平均値が挙げられる。また、ITPに罹患していない個体群とITPに罹患している個体群とにおいて、ヒトTPOの量を比較することにより決定される値(例えば、ITPに罹患していない個体群のヒトTPOの量と、ITPに罹患している個体群のヒトTPOの量との、間の値)であってもよい。
例えば、Sakuragi M et al.,Int J Hematol.2015 Apr;101(4):369-75.Seiki Y et al.,Haematologica.2013 Jun;98(6):901-7.に示すとおり、ITP罹患者のヒトTPO量は、健常者のそれより高く、血小板減少をきたすその他の疾患を罹患している者(例えば、AA罹患者)のそれより低いことが知られている。よって、健常者のヒトTPO量に基づき決定される基準量より高く、またAA罹患者等のヒトTPO量に基づき決定される基準量より低ければ、ITPに罹患していると判定することが出来る。また、より具体的には、後述の実施例に示すとおり、血漿中のヒトTPO量が、AA罹患者等のヒトTPO量に基づき決定される基準量である70pg/mLより低ければ、ITPに罹患していると判定することが出来る。
なお、基準量よりも「高い」又は「低い」とは、当業者であれば上記統計学的解析方法に基づき適宜判断することができる。例えば、検出されたヒトTPO量が基準量より高く又は低く、その差が統計的に有意と認められること(例えば、P<0.05)が挙げられる。また、例えば、検出されたヒトTPO量が対応する基準量の2倍以上(好ましくは、5倍以上、10倍以上)又は2倍以下(好ましくは、5倍以下、10倍以下)であることも挙げられる。
また、本発明の検査方法においては、公知のITPの検査(検査項目)を組み合わせて実施してもよい。かかる検査としては、例えば、血小板数の測定、末梢血塗抹標本における形態異常の観察、血液検査(赤血球系及び白血球系の異常の検出、末梢血中の抗GPIIb/IIIa抗体産生B細胞の検出、血小板関連抗GPIIb/IIIa抗体の検出、網状血小板(又は幼若血小板)比率の検出等)、血小板減少をきたすその他の疾患の検出が挙げられ、これらを本発明と適宜組み合わせることにより、より確定的にITPの診断を行うことができる。
また、ITPの検査は、通常、医師(医師の指示を受けた者も含む)によって行われるが、上述のヒトTPO量等に関するデータは、医師による治療のタイミング等の判断も含めた診断に役立つものである。よって、本発明の方法は、医師による診断のために上述のヒトTPO量に関するデータを収集する方法、当該データを医師に提示する方法、上述のヒトTPO量と基準量とを比較し分析する方法、医師による診断を補助するための方法とも表現し得る。
<抗ヒトTPO抗体を含む組成物>
本発明は、上述の本発明のヒトTPOに対する抗体を含む、ヒトTPOを免疫学的に検出するための又はITPを検査するための組成物を提供する。
本発明の組成物に含まれる抗体は、上述のとおりであるが、各種免疫学的手法に用いるべく、固相に固定された形態で提供されてもよい。かかる固相としては、上述のとおりである。また、固相への固定化は、固相と抗体等とを物理的吸着法、化学的結合法、又はこれらの併用等の公知の方法を用い、適宜結合させることにより行うことができる。さらに、各種免疫学的方法における検出手法に合わせ、抗体は上述の標識物質で標識されていてもよい。
本発明の組成物は、前記抗体の他、薬剤(試薬等)として許容される他の成分を含むことができる。このような他の成分としては、例えば、薬理学上許容される担体又は希釈剤(滅菌水、生理食塩水、植物油、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤等)が挙げられる。賦形剤としては、乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、ジエチリン亜硫酸塩、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としてはアジ化ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。
また、本発明の組成物は、試薬としての態様の他、標識の検出に必要な基質、試料のタンパク質を溶解するための溶液(タンパク質溶解用試薬)、試料の希釈や洗浄に用いる緩衝液(希釈液、洗浄液)、標識の検出反応を停止するための試薬(反応停止薬)、陽性対照(例えば、組換えヒトTPOタンパク質、標品)、陰性対照、本発明に係る抗体に対するアイソタイプコントロール抗体等と適宜組み合わせることにより、キットとしての態様もとり得る。かかるキットとしては、例えば、本発明の抗体と、標識の検出に必要な基質、陽性対照及び陰性対照から選択される少なくとも1の物品とを含む、キットが挙げられる。また、標識されていない抗体を抗体標品とした場合には、当該抗体に結合する物質(例えば、二次抗体、プロテインG、プロテインA等)を標識化したものを組み合わせることができる。さらに、かかるキットには、当該キットの使用説明書を含めることができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1> 抗トロンボポエチン(TPO)マウスモノクローナル抗体(Clone.TN1)の調製
後述のとおり、感度高くヒトTPOを検出できる抗体を取得等するために、既存の抗TPOマウスモノクローナル抗体(Clone.TN1)を以下のようにして調製した。なお、当該抗体は、ヒトTPOの102~115位及び57~61位のアミノ酸に結合することが明らかになっている(M D Feese et al.,PNAS.2004 Feb 17;101(7):1816-21)。
先ず、当該文献にて公開されている、抗TPOマウスモノクローナル抗体(Clone.TN1)のH鎖及びL鎖の抗体可変領域と一般的なマウスIgG1の定常領域とを連結させたアミノ酸配列をもとに、組換えTN1抗体をコードする遺伝子を人工合成により取得した。この合成遺伝子を鋳型として、PCR法にて増幅させたDNAの末端をHindIIIとEcoRIとで切断し、動物細胞用発現ベクターのHindIIIとEcoRIサイトに挿入した。動物細胞用の発現ベクターには、CMVプロモーターで制御されるpXC-18.4、及びpXC-17.4(Lonza社)を用い、GS Xceed(登録商標) Gene Expression System(Lonza社)の所定のプロトコルに基づき、CHOK1SV GS-KO細胞を宿主として組換えTN1抗体産生細胞を取得した。
次に、組換えTN1抗体産生細胞は、酵素免疫測定法(ELISA)によって選定した。PBSで希釈した1μg/mLのTPOFull溶液をNUNC社イムノプレート(MAXSORP)に添加し、固相化した。PBSで洗浄した後、1% BSA-PBSをプレートに添加しブロッキング行い、これをアッセイプレートとした。一次抗体として組換えTN1抗体産生細胞の培養上清を100μL/wellでアッセイプレートに添加し、室温、1時間の一次反応を行った。一次反応後、PBS-Tで3回洗浄し、標識抗体希釈液(20mM HEPES pH7.2,1% BSA,135mM NaCl)で3,000倍に希釈したHRP標識抗マウスIgGポリクローナル抗体(MBL社 Code.330)溶液を100μL/wellでアッセイプレートに添加し、室温、1時間の二次反応を行った。二次反応後、PBS-Tで3回洗浄し、TMBを添加し、発色反応を行い、0.5N HSOを添加し、発色反応を停止して、450/620nmの吸光度(OD450-620)を測定した。
選定した組換えTN1抗体産生細胞をCD-CHO medium(Thermo社)にて培養し、その培養上清から、プロテインA-セファロースを用いた一般的なアフィニティー精製法により抗体精製した。これら抗体のヒトTPOに対する反応性は、前記同様に、TPOFull抗原タンパク質を用いたELISAによって確認した。
<実施例2> 抗TPOウサギモノクローナル抗体の調製
感度高くヒトTPOを検出できる抗体を取得すべく、ヒトTPOに対するウサギモノクローナル抗体を以下の通り作製した。なお、実施例2における各種遺伝子操作は、Molecular cloning third.ed.(Cold Spring Harbor Lab.Press,2001)に記載の方法に準じて、scFv抗体ファージディスプレイライブラリーの作製は、WO2008/007648に記載の方法に準じて行った。また、実験動物の使用については、株式会社医学生物学研究所動物実験委員会での審査・承認を得て行った。
(2-1) ウサギの免疫
WO2004/044005の実施例1に記載の方法に従い、ウサギの免疫を行った。すなわち、リコンビナントTPOタンパク質をジャパニーズホワイト(雌)の背部皮内に投与した。その2週間後に2回目を、更にその後1週間毎に3,4,5,6回目を投与し、更に2週間後に7回目の背部皮内投与を行った(初回のみ100μg及び等量のFreund complete adjubantを投与し、2回目以降は50μg及び等量のFreund Incomplete adjubantを投与した)。
投与終了1週間後に耳静脈より採血し、定法に従い抗血清を分離し、抗体価を確認した。具体的にはイムノプレート(F8 MAXISORP LOOSE NUNC-IMMUNO MODULE:Nunc社)に免疫原に用いたリコンビナントタンパク質を固定化後、ブロッキングした。ウサギの各抗血清をPBS(pH7.4)で希釈し、×1/100~×1/62500倍までの5点の希釈系列を調製した。一次反応として抗血清希釈系列をプレートに添加し、室温1時間反応させた。反応後、プレートを0.05% Tween20を含むPBSで4回洗浄した。続いて2次反応としてAnti-Rabbit IgG Conj.POD(CODE458:MBL社)を希釈した溶液を添加し、室温1時間反応させた。同様に4回プレートを洗浄後、テトラメチルベンジジン溶液(TMB、#TMBUS-1000:Moss社)を添加し、室温5分間反応させた。反応終了後、1N硫酸溶液で反応を停止した。450/620nmの吸光度を吸光測定マイクロプレートリーダー(SUNRISE-BASIC TECAN:TECAN社)で測定した。吸光度測定の結果に基づき、抗体価の高い個体を選択した。7回目抗原投与の1週間後に全採血及び脾臓を無菌的に採取した。
(2-2) scFv抗体ファージライブラリーの作製
回収した脾臓から、scFv抗体ファージライブラリーを以下の手順で作製した。先ず、上記「2-1.」にて回収した脾臓よりISOGEN(315-02504:ニッポン・ジーン社)を用いてtotalRNAを抽出し、SuperScript(登録商標)III逆転写酵素(ThermoFisherSCIENTIFIC社)にて一本鎖cDNAを合成した。このcDNAを鋳型として、ウサギ抗体遺伝子特異的プライマーにより重鎖可変領域を含む断片と軽鎖可変領域を含む断片を増幅・調製した。得られたウサギ重鎖可変領域及びウサギ軽鎖可変領域(カッパ型又はラムダ型)を抗体発現用ファージミドベクターに挿入し、scFv抗体ファージライブラリー発現用プラスミドを調製した。
調製したscFv抗体ファージライブラリー発現用プラスミドを大腸菌に形質転換した後、ヘルパーファージを重感染させることにより、様々なscFvを表面に提示したファージのライブラリー(scFv抗体ファージライブラリー)を作製した。
(2-3) ファージディスプレイ法を用いたTPO抗体のパニング・スクリーニング
抗体の選択は、WO2007/042309及びWO2006/122797等に記載された方法に沿って行った。具体的には先ず、実施例1にて調製した抗TPOマウスモノクローナル抗体(TN1抗体)を磁性体ビーズ(Dynabeads ProteinG:Invtrogen社)に固相化し、抗体提示ビーズを作製した。この抗体提示ビーズとリコンビナントTPOタンパク質を反応させることにより、抗原である当該タンパク質をTN1抗体を介してビーズ上に提示させた。そして、この抗原提示ビーズにscFv抗体ファージライブラリーを反応させ、次いで、PBSで数回洗浄することにより未結合抗体ファージを除くことによって、ビーズに提示させたTN1抗体と同時にTPO抗原に結合可能な抗体ファージを回収した。次に、当該ビーズから100mM トリエチルアミン(pH11.5)で抗体ファージを溶出させた。溶出した抗体ファージを大腸菌に感染させ、37℃で一晩培養した。
なお、ファージ感染大腸菌からのファージレスキュー操作は一般的な方法に従った(Molecular cloning third.Ed.Cold Spring Harbor Lab.Press,2001)。また、上記工程を4回繰り返すことにより、抗TPO抗体ファージを濃縮した。
そして、選択した大腸菌のコロニープレートを作製してクローニングを行った。さらに、それぞれのクローンの大腸菌を培養し、プラスミドを精製キット(QIAprep Spin MiniPrep kit:QIAGEN社)を用いて回収し、塩基配列解析に供した。次いで、得られた各クローンの塩基配列に基づき、ファージ抗体(scFv-cp3融合タンパク質)の形態から、完全IgGへの再構築を行った。
(2-4) ファージ抗体のIgG化
各クローンのscFv発現ベクターを鋳型とし、PCRによって、シグナル配列及び制限酵素認識配列を付加しながら、VH及びVL断片をコードする遺伝子断片を各々増幅した。
これらの遺伝子断片を、それぞれ2種類の制限酵素で処理し、予めウサギIgG1CH1,2,3遺伝子を組み込んだH鎖用ベクター(pXC18.4:Lonza社)及び予めウサギカッパ鎖定常領域CKb4遺伝子を組み込んだL鎖用ベクター(pXC17.4:Lonza社)に各断片を組み込み、IgG抗体発現ベクターを作製した。
これをCHO細胞へ導入し、薬剤選択により安定発現細胞を得た。その培養上清を回収し、プロテインA(rProteinA Sepharose Fast Flow:Cytiva社)を用いたアフィニティーカラムで精製を行い、精製抗TPOウサギモノクローナル抗体を得た。
なお、精製後のタンパク質はSDS-PAGEによって単一バンドであることを確認し、NanoDrop(ND-1000:ThermoFisherSCIENTIFIC社)を用いてタンパク濃度を決定した。
<実施例3> 抗TPOウサギモノクローナル抗体の活性評価
(3-1) サンドイッチELISA法
炭酸-重炭酸緩衝液(pH9.6)で希釈した5μg/mLの抗TPOマウスモノクローナル抗体(TN1抗体)溶液をNUNC社イムノプレート(MAXSORP)に添加し、固相化した。PBSで洗浄した後、1% BSA-PBSをプレートに添加してブロッキングを行い、これをアッセイプレートとした。反応用緩衝液(20mM Tris-HCl pH7.4、1% BSA、400mM NaCl、0.1% Tween20)で0、1ng/mLに希釈した組換え全長TPO(TPOFull)溶液を100μL/wellでアッセイプレートに添加し、室温、1時間の一次反応を行った。一次反応後、PBS-Tで3回洗浄し、反応用緩衝液で10ng/mLに希釈した精製抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a003,a004,a015,a020)溶液を100μL/wellでアッセイプレートに添加し、室温、1時間の二次反応を行った。二次反応後、PBS-Tで3回洗浄し、標識抗体希釈液(20mM HEPES pH7.2,1% BSA,135mM NaCl)で3,000倍に希釈したHRP標識抗ウサギIgGポリクローナル抗体(MBL社 Code.458)溶液を100μL/wellでアッセイプレートに添加し、室温、1時間の三次反応を行った。三次反応後、PBS-Tで3回洗浄し、TMBを添加し、発色反応を行い、0.5N HSOを添加し、発色反応を停止して、OD450-620を測定した。
その結果、図1に示すとおり、a004、a020の2クローンがS/N比において優れ、高感度にTPOを検出できることが分かった。一方、a003、a015はa004、a020に対しS/N比が劣った。また、a003は精製抗体の安定性が低く(精製後、凝集体を形成しやすい)、試薬原料には不適と判断した。
なお、図には示していないが、S/N比が優れていたa004,a020とS/N比が劣るa015について、SPR(表面プラズモン共鳴)によって、各クローンのアフィニティーを比較した。その結果、3クローン間でアフィニティーに大きな差がなかった。このことから、これら3クローンの抗体活性の違いは、抗体エピトープの違いによるものであると考えた。
(3-2) TPOFullとTPO1-174に対する抗TPOウサギモノクローナル抗体の反応性
先と同様の方法でアッセイプレートを構築した。反応用緩衝液で0、0.16、0.31、0.62、1.25、2.5、5ng/mLに希釈したTPOFull及びTPO-N末端断片(TPO1-174(PEPROTECH社 Code,300-18))溶液を100μL/wellでアッセイプレートに添加し、室温、1時間の一次反応を行った。一次反応後、PBS-Tで3回洗浄し、反応用緩衝液で500ng/mLに希釈した精製抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a004,a015,a020)溶液を100μL/wellでアッセイプレートに添加し、室温、1時間の二次反応を行った。二次反応後、PBS-Tで3回洗浄し、標識抗体希釈液で3,000倍に希釈したHRP標識抗ウサギIgGポリクローナル抗体(MBL社 Code.458)溶液を100μL/wellでアッセイプレートに添加し、室温、1時間の三次反応を行った。三次反応後、PBS-Tで3回洗浄し、TMBを添加し、発色反応を行い、0.5N HSOを添加し、発色反応を停止して、OD450-620を測定した。
その結果、図2A及び2Bに示すとおり、先の実験で抗体活性が優れていたa004,a020は、TPOFull及びTPO1-174の両方に反応することが明らかになった。このから、両抗体はTPOのN末端ドメイン(シグナル配列以降(配列番号:1に記載のアミノ酸配列)の1~174番目のアミノ酸)内にエピトープを持つことが示された。一方、a015はTPO1-174に反応しないことから、本抗体はTPOの175番目以降のC末端にエピトープを持つと考えられ、a004及びa020とa015とにおいて、明確なエピトープの違いが示された。
<実施例4> エピトープの同定
次に、抗体活性が優れるa004,a020は、共通のエピトープを持つかを下記阻害試験(競合アッセイ法)によって検証した。
(4-1) 抗TPOウサギモノクローナル抗体(a004とa020)を用いた阻害試験:競合アッセイ法
PBSで希釈した1μg/mLのTPOFull溶液をNUNC社イムノプレート(MAXSORP)に添加し、固相化した。PBSで洗浄した後、1% BSA-PBSをプレートに添加しブロッキングを行い、これをアッセイプレートとした。反応用緩衝液で0、1、10μg/mLに希釈した精製抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a004,a020)溶液を100μL/wellでアッセイプレートに添加し、室温、2時間の一次反応を行った。一次反応後、洗浄せず、Peroxidase Labeling Kit-NH2(Dojindo社 Code.LK51)で作製したHRP標識a004及びa020抗体希釈溶液を100μL/wellで各々のウェルに添加し、室温、1時間の二次反応を行った。二次反応後、PBS-Tで3回洗浄し、TMBを添加し、発色反応を行い、0.5N HSOを添加し、発色反応を停止して、OD450-620を測定した。
その結果、図3A~3Dに示すとおり、a004、a020は互いに抗原抗体反応を阻害し合うことが示された。このことから、両抗体は共通のエピトープを持つことが明らかになった。
さらに、図には示していないが、a004、a020を用いてTPOFullを転写したメンブレンによりウエスタンブロッティング(WB)を実施したところ、両抗体はTPOFullに反応性を示さなかった。また、DTTの前処理によってSS結合を切断したTPOFullをイムノプレートに固相したELISAにより、a004、a020の抗体反応性を検証したところ、両抗体はSS結合を切断したTPOFullに反応性を示さなかった。これらの結果から、a004、a020はTPOタンパク質の立体構造依存性のエピトープを持つことが示唆された。
(4-2) ヒトTPOとマウスTPOに対する抗TPOウサギモノクローナル抗体の反応性
PBSで1μg/mLに希釈調製したヒトTPO-N末端断片(TPO1-174(PEPROTECH社 Code,300-18))とマウスTPO-N末端断片(TPO1-174(PEPROTECH社 Code,315-14))の各々をNUNC社イムノプレート(MAXSORP)に添加し、固相化した。PBSで洗浄した後、1% BSA-PBSをプレートに添加しブロッキングを行い、これをアッセイプレートとした。反応用緩衝液で10μg/mLに希釈した精製抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a004,a020)溶液を100μL/wellでアッセイプレートに添加し、室温、1時間の一次反応を行った。一次反応後、PBS-Tで3回洗浄し、標識抗体希釈液で5,000倍に希釈したHRP標識抗ウサギIgGポリクローナル抗体(MBL社 Code.458)溶液を100μL/wellでアッセイプレートに添加し、室温、1時間の二次反応を行った。二次反応後、PBS-Tで3回洗浄し、TMBを添加し、発色反応を行い、0.5N HSOを添加し、発色反応を停止して、OD450-620を測定した。
その結果、図4に示すとおり、a004,a020は共に、ヒトTPO1-174に反応性を示すものの、マウスTPO1-174には反応性を示さなかった。このことから、a004及びa020はヒトとマウスとでTPOのアミノ酸配列が異なる領域にエピトープを持つことが示唆された。
(4-3) TPO-Myc-His及び変異型TPO-Myc-Hisの発現ベクターの構築と、エピトープ解析
先ず、TPO-Myc-His及び変異型TPO-Myc-Hisの発現ベクターを、以下のようにして構築した。ヒトトロンボポエチン(NCBI Reference Sequence:NP_000451.1(シグナル配列を除く))のC末端側にMycタグと6×Hisタグをタンデムに付加したTPO-Myc-Hisタンパク質(図5Aの上部 参照)をコードする遺伝子を人工合成により取得した。この合成遺伝子を鋳型として、PCR法にて増幅させたDNAの末端をHindIIIとEcoRIとで切断し、動物細胞用発現ベクターのHindIIIとEcoRIサイトに挿入した。動物細胞用の発現ベクターには、CMVプロモーターで制御されるpXC-17.4(Lonza社)を用いた。作製したベクターは、TPO-Myc-His-pXC-17.4と名付けた。また、TPO-Myc-His-pXC-17.4を鋳型とし、部位特異的変異導入法により、下記表1に示す点変異型TPO-Myc-Hisをコードする遺伝子を作製した。得られた点変異型TPO-Myc-His遺伝子を、動物細胞用発現ベクターpXC-17.4に挿入し、各点変異型TPO-Myc-His-pXC-17.4ベクターを調製した。
Figure 0007026282000001
次に、TPO-Myc-His及びアミノ酸点変異型TPO-Myc-Hisに対する抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a004,a020)の反応性を、以下に示すELISA法にて解析し、取得抗体が結合するエピトープの同定を試みた。
先ず、コラーゲンにてコートした35mmディッシュに1.0×106cell/wellで播種した293T細胞に、リポフェクトアミン3000(Invitrogen社製、カタログ番号:L3000001)を用いて、上記の通り構築した発現ベクター(TPO-Myc-His-pXC-17.4ベクター及び各点変異型TPO-Myc-His-pXC-17.4ベクター)をトランスフェクションした。トランスフェクション後、10% FCS含有DMEM培地で5% CO2、37℃、3日間の培養を実施した。培養後、細胞培養液を遠心分離(RT、10,000rpm、3min)し、上清を回収したものを解析サンプルとした。
次に、炭酸-重炭酸緩衝液(pH9.6)で希釈した5μg/mLの抗Hisタグマウスモノクローナル抗体(MBL社 Code.M136-3)溶液をNUNC社イムノプレート(MAXSORP)に添加し、固相化した。PBSで洗浄した後、1% BSA-PBSをプレートに添加しブロッキングを行い、これをアッセイプレートとした。先で調製した一過性発現による解析サンプルを100μL/wellでアッセイプレートに添加し、室温、1時間の一次反応を行った。
アッセイウェルでは、一次反応後、PBS-Tで3回洗浄し、反応用緩衝液で10μg/mLに希釈した精製抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a004,a015,a020)溶液を100μL/wellでアッセイプレートに添加し、室温、1時間の二次反応を行った。二次反応後、PBS-Tで3回洗浄し、標識抗体希釈液で5,000倍に希釈したHRP標識抗ウサギIgGポリクローナル抗体(MBL社 Code.458)溶液を100μL/wellでアッセイプレートに添加し、室温、1時間の三次反応を行った(図5Aの下部[アッセイ]参照)。
一方、コントロールウェルでは、解析サンプルによる一次反応後、PBS-Tで3回洗浄し、標識抗体希釈液で5,000倍に希釈したHRP標識抗Mycタグ抗体(MBL社 Code.M192-7)溶液を100μL/wellでアッセイプレートに添加し、室温、1時間の二次反応を行った(図5Aの下部[コントロール]参照)。
アッセイウェル及びコントロールウェルにおける標識抗体溶液反応後、PBS-Tで3回洗浄し、TMBを添加し、発色反応を行い、0.5N HSOを添加し、発色反応を停止して、OD450-620を測定した。
アッセイウェルとコントロールウェルより得られたTPO-Myc-His及び点変異型TPO-Myc-Hisの吸光度を以下の式(式*)にて算出することで、各変異型の発現量の違いと補正した。以下の式で表される相対比率が50%以下である場合に、当該抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a004,a020)は、当該変異体において置換される前のアミノ酸に結合する抗体であると判定した。
式*:(各変異型TPO-Myc-Hisに対するa004又はa020の反応性/野生型TPO-Myc-Hisに対するa004又はa020の反応性)/(各変異型TPO-Myc-Hisに対する抗Myc抗体の反応性/野生型TPO-Myc-Hisに対する抗Myc抗体の反応性)。
図5Bに示した結果から明らかなように、a004とa020は共に、G82A、T84A、I127A、F131A変異体において著しく反応性が低下した。このことから、a004とa020は共に、82番目のグリシン、84番目のトレオニン、127番目のイソロイシン、131番目のイソロイシンを認識することが明らかとなった。
<実施例5> 抗体のアミノ酸配列
(2-3)にて解析したa004及びa020の塩基配列に基づき、Kabatナンバリング法によって、各クローンの可変領域及び相補性決定領域のアミノ酸配列を、以下のとおり同定した。
[a004]
重鎖可変領域(HV)のアミノ酸配列…配列番号:10
重鎖相補性決定領域1(HV CDR1)のアミノ酸配列…配列番号:11
重鎖相補性決定領域2(HV CDR2)のアミノ酸配列…配列番号:12
重鎖相補性決定領域3(HV CDR3)のアミノ酸配列…配列番号:13
軽鎖可変領域(LV)のアミノ酸配列…配列番号:14
軽鎖相補性決定領域1(LV CDR1)のアミノ酸配列…配列番号:15
軽鎖相補性決定領域2(LV CDR2)のアミノ酸配列…配列番号:16
軽鎖相補性決定領域3(LV CDR3)のアミノ酸配列…配列番号:17
[a020]
HVのアミノ酸配列…配列番号:2
HV CDR1のアミノ酸配列…配列番号:3
HV CDR2のアミノ酸配列…配列番号:4
HV CDR3のアミノ酸配列…配列番号:5
LVのアミノ酸配列…配列番号:6
LV CDR1のアミノ酸配列…配列番号:7
LV CDR2のアミノ酸配列…配列番号:8
LV CDR3のアミノ酸配列…配列番号:9。
<実施例6> TPO測定試薬の調製、測定法
図6に示すように、上記にて得られた抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a020)及びTN1抗体を用い、TPO量を免疫学的に測定するための系(化学発光酵素免疫測定系)を構築した。先ず、当該系を構築するために、TPO測定試薬として、抗体ペアの異なる以下の抗体結合粒子溶液及び標識化抗体溶液を調製した。
抗体結合粒子溶液(固相化抗体溶液):TN1抗体を、カルボキシル化磁性粒子(JSRライフサイエンス社製 Magnosphere MS300/Carboxyl)に化学結合させた。そして、このようにして得られた抗体結合磁性粒子、1% BSA、100mM MES、0.6M NaCl及び0.02%Tween20を含む、抗体結合粒子溶液(pH6.5)を調製した。
標識化抗体溶液:1μg/mLの抗TPOウサギモノクローナル抗体(Clone.a020)をアルカリフォスファターゼ(ALP、高比活性、糖低減の組換え体、ロシュ製)により標識した。そして、このようにして得られたALP標識化抗TPO抗体、10mM MES、0.5% BSA、150mM NaCl、0.1mM ZnCl及び10mM MgClを含む、標識化抗体溶液(pH6.5)を調製した。
次いで、これらの溶液を自動免疫測定装置(LSIメディエンス社製 STACIA)用の試薬ボトルに充填し、以下の手順に従って、被検試料(再生不良貧血(AA)患者のEDTA血漿)のTPO量を測定した。
先ず、反応用キュベットへ抗体結合粒子溶液110μ、被検試料40μL、標識化抗体溶液100μLが連続で分注されて、第1反応液が調製される。第1反応液は撹拌後37℃で10.6分間インキュベートされて、抗体結合磁性粒子-TPO抗原-ALP標識化抗TPO抗体から構成される免疫複合体が形成される。
インキュベーション後、AMPPD(3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩)を含む基質液(LSIメディエンス社製)100μLが、前記免疫複合体に加えられ、撹拌後37℃で2.7分間インキュベートされる。
基質液に含まれるAMPPDが、前記免疫複合体中のALPの触媒作用により分解、化学発光するため、本発光量を測定することでTPO抗原量を測定することができる。
その結果、図には示していないが、本化学発光自働化TPO測定系(以降「TPO-CLEIA」とも称する)は、分注工程、反応工程等を含め、全工程約19分の短時間にて被検試料のTPO量を迅速に測定することができた。
<実施例7> TPO-CLEIAについての性能評価
(7-1) 値付け
上記にて調製したTPO-CLEIAと、R&D systems社が提供しているELISA系(Human Thrombopoietin Quantikine ELISA Kit DTP00B、以降「R&D-ELISA」とも称する)との比較を試みた。
先ず、当該比較に際し、較正用基準物質としてrTPOタンパク質(非特許文献2に記載のキャリブレータとして利用されたrhTPOを協和キリン社から特別に分与)を用い、TPO-CLEIAによる値付けとR&D-ELISAによるそれとの校正を試みた。
Figure 0007026282000002
その結果、表2に示すとおり、TPO-CLEIAによって70pg/mLと値付けされたrTPOタンパク質は、R&D-ELISAにおいては300pg/mLと値付けされることが明らかとなった。すなわち、理論上、TPO-CLEIAの測定値に係数4.286(=300/70)を乗すれば、R&D-ELISA測定値に変換可能であると考えられた。
そこで、実際に、再生不良性患者の検体につき、TPO-CLEIA及びR&D-ELISAにてTPOの濃度を測定したところ、表2に示すとおり、前者の測定値に前記係数を乗すれば、後者の測定値と同等となることが確認された。
(7-2) 希釈直線性試験による性能評価
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の診断においては、血小板減少を伴う他の疾患(再生不良貧血(AA)等)を除外できることが重要である。ここで、過去の報告によれば、AA検体のTPO値は高く、その測定上限は血中濃度3,000pg/mL(R&D-ELISA測定値。TPO-CLEIA測定値に換算すると700pg/mL)である。また、ITPとAAとのカットオフ値は300pg/mL(R&D-ELISA測定値。TPO-CLEIA測定値に換算すると70pg/mL)と設定することができる(Sakuragi M et al.,Int J Hematol.2015 Apr;101(4):369-75.Seiki Y et al.,Haematologica.2013 Jun;98(6):901-7.)。
そこで、希釈直線性試験によって、TPO-CLEIAによれば、前記測定上限及びカットオフ値が直線性をもって正確に測定可能であるかどうかを評価した。具体的には、TPO高値検体(AA患者のEDTA血漿)に関し、低濃度域(~120pg/mL)、中濃度域(~400pg/mL)、高濃度域(~700pg/mL)において、キャリブレータ希釈液(5%BSA含有PBS)を用いて、各10段階で希釈し、各々の希釈サンプルを2重測定した。近似式から算出される理論値に対して、得られた測定値が100±15%以内であることを規格とした。
その結果、図7に示すとおり、いずれの濃度域においても上記規格を満たしたことから、測定上限、及びITPとAAのカットオフ値(70pg/mL)において、直線性をもって生体試料中のTPO抗原を正確に測定可能であると評価された。したがって、本TPO-CLEIAは、ITPとAAの鑑別用途、延いてはITPの診断薬としての性能を有することが明らかになった。
(7-3) R&D-ELISAとの感度比較
TPO-CLEIAとR&D-ELISAに関し、検出限度(LoD)を算出し、感度における比較を試みた。この時、TPOの値付けは、TPO-CLEIAによるそれに統一した。
先ず、TPO低値検体(EDTA血漿)を40、20、10、5、2.5、1.3、0.6、0.3pg/mLに段階希釈し、各々の希釈サンプルを8重測定した。各希釈サンプルのシグナル値におけるのMean±2SDを算出し、隣り合う2点において、低濃度側のMean+2SD値と高濃度側のMean-2SD値が重ならない希釈濃度をLoDとした。
その結果、図8A及び8Bに示すとおり、TPO-CLEIAはLoD=1.3pg/mL、R&D-ELISAはLoD=5.0pg/mLであったことから、TPO-CLEIAはR&D-ELISAに比べ、LoDにして約4倍高感度であった。
なお、R&D-ELISA LoD=5.0pg/mLを×4.286換算すると21.4pg/mLとなり、製品スペックシートにあるSensitivity:18.5pg/mLに近く、性能評価としては妥当であると思われた。
(7-4) TPO-CLEIAのLoQ算出
TPO-CLEIAに対し、CLSI 「Protocols for Determination of Limits of Detection and Limits of Quantitation: Proposed Guideline」EP-17Aに準じて定量下限(Loimit of Quantitation、以下「LoQ」と略す)を算出した。
キャリブレータ希釈液を用いて、TPO低値検体(EDTA血漿)を40、20、10、5、2.5、1.3、0.6、0.3pg/mLに段階希釈し、各々の希釈サンプルを8重測定した。これを1回のアッセイとして、2回、2日間の合計4アッセイの測定値を取得し、CV値(%)が15%となる濃度を求めた。その結果、図9に示すとおり、TPO-CLEIAのLoQ=3.4pg/mLと算出された。
(7-5) 健常人検体におけるTPO濃度測定
100例の健常人検体(EDTA血漿)の血漿TPO濃度をTPO-CLEIAにより測定し、各検体測定値の分布を図10に示した。その結果、当該図に示すとおり、99例(全体の99%)の健常人検体濃度はTPO-CLEIAのLoQ=3.4pg/mL以上であったことから、本TPO-CLEIA試薬は、健常人血漿TPO濃度を高感度に測定することができることが示された。
以上説明したように、本発明によれば、ヒトTPOを感度高く検出することが可能となる。さらに、本発明によれば、短時間で、定量的にヒトTPOを検出し得る。また、本発明においては、ヒトTPOの検出に用いる抗体はモノクローナル抗体の態様でも利用し得るため、安定性高く供給することも可能となる。よって、本発明は、特発性血小板減少性紫斑病の検査等において有用である。

Claims (14)

  1. ヒトトロンボポエチンに対する抗体であって、ヒトトロンボポエチンの82~84位のアミノ酸配列を含む領域及び127~131位のアミノ酸配列を含む領域に対して反応性を示す抗体。
  2. ヒトトロンボポエチンに対する抗体であって、ヒトトロンボポエチンの82位のグリシン、84位のスレオニン、127位のイソロイシン及び131位のフェニルアラニンに対して反応性を示す抗体。
  3. ヒトトロンボポエチンに対する抗体であって、82位のグリシンに変異が導入されたヒトトロンボポエチン、84位のスレオニンに変異が導入されたヒトトロンボポエチン、127位のイソロイシンに変異が導入されたヒトトロンボポエチン及び131位のフェニルアラニンに変異が導入されたヒトトロンボポエチンの変異体に対する反応性が、野生型のヒトトロンボポエチンに対する反応性と比較していずれも低い、請求項1又は2に記載の抗体。
  4. 前記ヒトトロンボポエチンの変異体において導入されている変異はいずれも、アラニンへの置換である、請求項3に記載の抗体。
  5. ヒトトロンボポエチンに対する抗体であって、
    (a)配列番号:3~5に記載のアミノ酸配列を各々重鎖相補性決定領域1~3として保持し、かつ、配列番号:7~9に記載のアミノ酸配列を各々軽鎖相補性決定領域1~3として保持する、又は
    (b)配列番号:11~13に記載のアミノ酸配列を各々重鎖相補性決定領域1~3として保持し、かつ、配列番号:15~17に記載のアミノ酸配列を各々軽鎖相補性決定領域1~3として保持する、抗体。
  6. ヒトトロンボポエチンに対する抗体であって、
    (a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列、若しくは、配列番号:3~5に記載のアミノ酸配列を各々重鎖相補性決定領域1~3として含み、配列番号:2に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を、含む重鎖可変領域と、
    配列番号:6に記載のアミノ酸配列、若しくは、配列番号:7~9に記載のアミノ酸配列を、各々軽鎖相補性決定領域1~3として含み、配列番号:6に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を、含む軽鎖可変領域とを保持する、又は、
    (b)配列番号:10に記載のアミノ酸配列、若しくは、配列番号:11~13に記載のアミノ酸配列を各々重鎖相補性決定領域1~3として含み、配列番号:10に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を、含む重鎖可変領域と、 配列番号:14に記載のアミノ酸配列、若しくは、配列番号:15~17に記載のアミノ酸配列を各々軽鎖相補性決定領域1~3として含み、配列番号:14に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を、含む軽鎖可変領域とを保持する、抗体。
  7. 請求項1~6のうちのいずれか一項に記載のヒトトロンボポエチンに対する抗体を用いて、ヒトトロンボポエチンを免疫学的に検出する方法。
  8. 更に、ヒトトロンボポエチンの57~61位のアミノ酸配列を含む領域及び102~115位のアミノ酸配列を含む領域に対して反応性を示す抗体を用い、ヒトトロンボポエチンを免疫学的に検出する、請求項7に記載の方法。
  9. 前記検出が化学発光酵素免疫測定法によって行われる、請求項7又は8に記載の方法。
  10. 請求項7~のうちのいずれか一項に記載の方法を用いた、特発性血小板減少性紫斑病の検査方法。
  11. 請求項1~6のうちのいずれか一項に記載のヒトトロンボポエチンに対する抗体を含む、ヒトトロンボポエチンを免疫学的に検出するための組成物。
  12. 更に、ヒトトロンボポエチンの57~61位のアミノ酸配列を含む領域及び102~115位のアミノ酸配列を含む領域に対して反応性を示す抗体を含む、ヒトトロンボポエチンを免疫学的に検出するための、請求項11に記載の組成物。
  13. 前記検出を化学発光酵素免疫測定法によって行うための、請求項11又は12に記載の組成物。
  14. 特発性血小板減少性紫斑病を検査するための、請求項11~13のうちのいずれか一項に記載の組成物。
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