前記の通り、セパレータの耐熱層や正極と負極との間に介在させる隔離層として設けられる多孔質層を形成するための塗工液(スラリーやペーストなどの溶媒を含む組成物)、特に水系の塗工液には、粘度調整のため、増粘剤としてCMCなどの吸湿性を有する水溶性樹脂が使用されることが一般的であるが、これが、非水電池内に持ち込まれる水分量の増大を引き起こし、非水電池の特性低下の一因となると共に、多孔質層の耐熱性向上の妨げにもなっている。
また、多孔質層に充分な耐熱性を付与するために、非水溶性樹脂バインダを一定以上含有させた場合には、多孔質層のイオン伝導性を低下させ充放電特性が低下しやすくなる。
本発明者らは、このような理由による多孔質層の耐熱性向上効果の低下の抑制を実現するために鋭意検討を重ねた結果、セパレータや電極などに設けられる多孔質層の形成に使用される塗工液に、アクリルアミドに基づく構成単位を60モル%以上含有する共重合体である水溶性樹脂(A)と、増粘剤である水溶性樹脂(B)と、非水溶性樹脂バインダとを含有させることとした。
水溶性樹脂(A)が形成後の多孔質層中に存在することで、多孔質層の耐熱性が向上する。ところが、水溶性樹脂(A)は塗工液の増粘効果が小さく、これを用いるだけでは、塗工液を塗布に好適な粘度に高めることが困難である。
他方、水溶性樹脂(A)と共に、高い増粘効果を有する増粘剤〔水溶性樹脂(B)〕を含有させることにより、塗工液の増粘を容易に行うことができ、少量の添加によって塗布に好適な粘度の塗工液を容易に調製できる。このため、水溶性樹脂の含有量を低減することができるので、本発明の非水電池用多孔質層(以下、単に「多孔質層」という)の含有水分量を低減することができる。
また、非水溶性樹脂バインダと共に、水溶性樹脂(A)を用いることにより、優れた耐熱性を確保しつつ、非水溶性樹脂バインダの含有量を低減することができる。このため、水溶性樹脂(A)と非水溶性樹脂バインダのみ、あるいは、水溶性樹脂(B)と非水溶性樹脂バインダのみの場合に比べ、樹脂成分(増粘剤およびバインダ)の含有量が少なくても充分に耐熱性を維持することができる。よって、本発明の多孔質層を使用することで、非水電池内に持ち込まれる水分量を低減でき、前記水分や樹脂成分による特性低下の抑制が可能となると共に、非水電池の安全性を高めることもできる。
本発明の多孔質層は、耐熱温度が150℃以上の微粒子と、前記水溶性樹脂(A)と、前記水溶性樹脂(B)と、非水溶性樹脂バインダとを含む。
本発明の多孔質層において、耐熱温度が150℃の微粒子は、その主体となったり、後述する繊維状物同士の間に形成される空隙を埋めるなどして、リチウムデンドライトに起因する短絡の発生を抑制する作用を有しており、また、セパレータの耐熱層として適用される場合には、セパレータの耐熱性を高める成分として機能する。
また、水溶性樹脂(A)および水溶性樹脂(B)は、多孔質層を形成するための塗工液に添加され、形成後の多孔質層中にも残留する。
このうち、水溶性樹脂(A)は、形成後の多孔質層の耐熱性を高める成分として機能する。
他方、水溶性樹脂(B)は増粘作用が良好であり、多孔質層形成用の塗工液の増粘剤として機能する。よって、水溶性樹脂(B)を増粘剤として使用した塗工液であれば、少なくとも塗工作業を適度に行い得るだけの粘度を容易に確保することができる。
水溶性樹脂(A)は、アクリルアミドに基づく構成単位(アクリルアミド由来の繰り返し単位)を有する共重合体であり、アクリルアミドに基づく構成単位の、全構成単位中における割合が、60モル%以上である。また、水溶性樹脂(A)である前記共重合体において、アクリルアミドに基づく構成単位の、全構成単位中における割合は、99モル%以下であることが好ましく、97モル%以下であることがより好ましい。
水溶性樹脂(A)である共重合体において、アクリルアミドと共に共重合体を形成する共重合成分としては、カチオン性の重合性モノマーやアニオン性の重合性モノマーなどが挙げられる。
カチオン性の重合性モノマーとしては、第3級アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体、第3アミノ基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体、ジアリルアミン誘導体などの有する第3級アミノ基を4級化した4級化物が挙げられる。
なお、本明細書でいう「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸またはメタクリル酸を意味しており、「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミドまたはメタクリルアミドを意味している。
第3級アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのジアルキルアミドエチル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミドプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
第3級アミノ基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体としては、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド〔ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド〕、(メタ)アクリルアミド-3-メチルブチルジメチルアミンなどのジアルキルアミドアルキル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
ジアリルアミン誘導体の4級化物としては、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジエチルアンモニウムクロライド、ジアリルジブチルアンモニウムクロライド、ジアリルメチルエチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムブロマイド、ジアリルジエチルアンモニウムブロマイドなどが挙げられる。
アニオン性の重合性モノマーとしては、α,β-不飽和カルボン酸、ビニル基を有するスルホン酸類などが挙げられる。
α,β-不飽和カルボン酸としては、α,β-不飽和モノカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸など)、α,β-不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸など)などや、これらの塩〔アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アンモニウム塩など〕などが挙げられる。
ビニル基を有するスルホン酸類としては、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などや、これらの塩〔アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アンモニウム塩など〕などが挙げられる。
また、水溶性樹脂(A)である前記共重合体は、前記例示の各モノマーに基づく構成単位のうちの1種のみを含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。水溶性樹脂(A)である共重合体は、前記例示の各モノマーに基づく構成単位以外にも、他の重合性モノマーに基づく構成単位を有していてもよい。
水溶性樹脂(B)は、高い増粘効果を有する水溶性の樹脂であり、カルボキシメチルセルロース(CMC)やポリビニルアルコール(PVA)など増粘剤として汎用されている樹脂を用いることもできるが、樹脂成分の含有量をより少なくするために、優れた接着性を有する樹脂や、少量でもより高い増粘作用を有する樹脂を用いることが好ましい。
そのような樹脂としては、N-ビニルアセトアミドに基づく構成単位を含有するN-ビニルアセトアミド系ポリマー、(メタ)アクリル酸に基づく構成単位や(メタ)アクリル酸塩に基づく構成単位を含有するアクリル酸系ポリマーなどが挙げられる。
N-ビニルアセトアミド系ポリマーとしては、ポリN-ビニルアセトアミド(N-ビニルアセトアミドのホモポリマー)や、N-ビニルアセトアミドに基づく構成単位を含有する共重合体が挙げられる。また、アクリル酸系ポリマーとしては、ポリアクリル酸、(メタ)アクリル酸に基づく構成単位と(メタ)アクリル酸塩に基づく構成単位とを含むポリマーなどが挙げられる。
水溶性樹脂(B)は、前記例示のもののうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記例示の各種ポリマーの中でも、均質な塗膜を形成しやすいことから、N-ビニルアセトアミド系ポリマーや、(メタ)アクリル酸に基づく構成単位と(メタ)アクリル酸塩に基づく構成単位とを含むアクリル酸系ポリマーを用いることが好ましい。
なお、N-ビニルアセトアミド系ポリマーおよびアクリル酸系ポリマーについて、優れた増粘作用を発揮させるためには、重量平均分子量が20万以上であることが好ましく、50万以上であることがより好ましい。
N-ビニルアセトアミド系ポリマーのうち、共重合体のものとしては、N-ビニルアセトアミドに基づく構成単位(N-ビニルアセトアミド由来の繰り返し単位)と、(メタ)アクリル酸に基づく構成単位や(メタ)アクリル酸塩〔ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩〕に基づく構成単位とを有するものなどが挙げられる。
共重合体であるN-ビニルアセトアミド系ポリマーにおける共重合組成としては、N-ビニルアセトアミドに基づく構成単位と、他の構成単位〔(メタ)アクリル酸に基づく構成単位、(メタ)アクリル酸塩に基づく構成単位など〕との合計を100質量%としたとき、N-ビニルアセトアミドに基づく構成単位の割合が、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、95質量%以下であることが好ましく、93質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることが更に好ましい。
言い換えれば、共重合体であるN-ビニルアセトアミド系ポリマーにおいて、N-ビニルアセトアミドに基づく構成単位と、他の構成単位との合計を100質量%としたとき、前記他の構成単位の割合は、5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、また、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
N-ビニルアセトアミド系ポリマーは多孔質層中において、耐熱温度が150℃以上の微粒子同士や、多孔質層と他の層(セパレータに使用される多孔質樹脂シートや、電極など)との接着のためのバインダとしても機能するが、高温下での接着力がより高いことから、(メタ)アクリル酸に基づく構成単位や(メタ)アクリル酸塩に基づく構成単位を含有する共重合体であることがより好ましい。
本明細書において、共重合体であるN-ビニルアセトアミド系ポリマーにおける前記の「(メタ)アクリル酸に基づく構成単位」や、アクリル酸系ポリマーにおける「(メタ)アクリル酸に基づく構成単位」とは、下記式(1)に示されるように、(メタ)アクリル酸由来のもの(カルボキシル基がそのまま存在しているもの)を意味している。また、共重合体であるN-ビニルアセトアミド系ポリマーにおける前記の「(メタ)アクリル酸に塩に基づく構成単位」や、アクリル酸系ポリマーにおける「(メタ)アクリル酸塩に基づく構成単位」とは、下記式(2)に示されるように、(メタ)アクリル酸のカルボキシル基が塩になった状態のものを意味している。
前記式(1)において、R1はHまたはCH3である。
前記式(2)において、R2はHまたはCH3であり、Mはアルカリ金属元素、NH4などである。
N-ビニルアセトアミド系ポリマーやアクリル酸系ポリマーにおいて、(メタ)アクリル酸のカルボキシル基が塩になった構成単位は、これらのポリマーを重合するモノマーとして、(メタ)アクリル酸の塩を使用する形で分子内に導入されたもの〔すなわち、(メタ)アクリル酸の塩由来の構成単位〕でもよく、また、(メタ)アクリル酸を重合して得られたポリマー中のカルボキシル基の一部〔ポリマー中の(メタ)アクリル酸由来の構成単位の一部が有するカルボキシル基〕を中和することで導入されたものでもよい。
(メタ)アクリル酸に基づく構成単位と(メタ)アクリル酸塩に基づく構成単位とを含むアクリル酸系ポリマーとしては、例えば、アルカリ金属などによるポリアクリル酸の部分中和物、すなわち、ポリアクリル酸(重合体)におけるアクリル酸に基づく構成単位中のカルボキシル基(-COOH)のうちの一部が、中和によってナトリウム塩などのアルカリ金属塩〔-COOM’(M’はアルカリ金属元素)〕になっているものが例示される。
ポリアクリル酸の完全中和物(カルボキシル基の全てがアルカリ金属塩になったもの)は吸水しやすく、これを一定量含有する多孔質層では水分量が多くなる虞があることから、本発明の多孔質層(それを形成するための塗工液)では、アクリル酸系ポリマーを用いる場合には、(メタ)アクリル酸に基づく構成単位と(メタ)アクリル酸塩に基づく構成単位とを含むポリマー(例えばポリアクリル酸の部分中和物)を使用することが好ましい。
なお、(メタ)アクリル酸に基づく構成単位と(メタ)アクリル酸塩に基づく構成単位とを含むアクリル酸系ポリマーは、(メタ)アクリル酸に基づく構成単位および(メタ)アクリル酸塩に基づく構成単位以外の構成単位を含んでいてもよく、必要とされる特性に応じて、エチレン性の構成単位、例えば、アクリルアミド、アクリロニトリルなどのモノマー成分に基づく構成単位を含む三元系以上の重合体とすることも可能である。
ただし、前記アクリル酸系ポリマーにおいて、(メタ)アクリル酸に基づく構成単位〔前記式(1)で表される構成単位〕のモル数をaとし、(メタ)アクリル酸塩に基づく構成単位〔前記式(2)で表される構成単位〕のモル数をbとし、その他の構成単位のモル数をcとしたときに、少量で好適な増粘性を得るためには、(メタ)アクリル酸およびその塩に基づく構成単位以外の構成単位の割合(モル比)、すなわち、c/(a+b+c)で表される値が0.3以下であることが望ましく、0.2以下であることがより望ましく、0.1以下であることが最も望ましい。
また、ポリアクリル酸の部分中和物に代表される前記アクリル酸系ポリマーは、多孔質層における水分量の低減効果をより良好に確保する観点から、下記式によって求められる「中和度(%)」が、70%以下であることが好ましく、55%以下であることがより好ましい。一方、増粘効果を高めるために、前記アクリル酸系ポリマーの中和度は、10%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
中和度 = b÷(a+b)×100
多孔質層における水溶性樹脂(A)の含有量は、多孔質層の耐熱性を良好に高める観点から、耐熱温度が150℃以上の微粒子100質量部に対し、0.05質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることが更に好ましい。ただし、多孔質層中の水溶性樹脂(A)の量が多すぎると、多孔質層の水分量が多くなって、これを導入する非水電池の特性を低下させる虞がある。また、多孔質層のイオン伝導性を低下させる虞も生じる。よって、多孔質層を導入する非水電池において、こうした問題を回避して、その特性を良好にする観点からは、多孔質層における水溶性樹脂(A)の含有量は、耐熱温度が150℃以上の微粒子100質量部に対し、5質量部以下であることが好ましく、4質量部以下であることがより好ましい。
なお、非水溶性樹脂バインダと共に水溶性樹脂(A)を含有させることにより、優れた耐熱性を維持しつつ、非水溶性樹脂バインダの含有量を低減することができる。すなわち、本発明の多孔質層では、前記水溶性樹脂(A)と前記非水溶性樹脂バインダの含有量の合計を、前記耐熱温度が150℃以上の微粒子100質量部に対し、6質量部以下とすることができ、イオン伝導性をより良好なものとするために、5質量部以下とすることが好ましい。
一方、多孔質層において、優れた耐熱性を維持するためには、前記水溶性樹脂(A)と前記非水溶性樹脂バインダの含有量の合計を、前記耐熱温度が150℃以上の微粒子100質量部に対し、2質量部以上とすればよく、3質量部以上とすることが好ましい。
また、水溶性樹脂(B)については、増粘剤として機能させ、これを含有する塗工液を、塗布に必要な一定以上の粘度とするためには、前記塗工液の乾燥により形成される多孔質層中での含有量が、耐熱温度が150℃以上の微粒子100質量部に対し、0.01質量部以上となるよう、前記塗工液中での含有量を調整すればよく、多孔質層中での水溶性樹脂(B)の含有量は、0.05質量部以上であることが好ましい。
一方、多孔質層中での水溶性樹脂(B)の含有量が多すぎると、前記塗工液の粘度が高くなりすぎるか、あるいは、形成される多孔質層における水分量が多くなりすぎて、前記水溶性樹脂(B)の使用による水分量の低減効果が損なわれる虞がある。前記の問題を防ぐためには、多孔質層中での水溶性樹脂(B)の含有量が、耐熱温度が150℃以上の微粒子100質量部に対し、0.5質量部以下となるよう、前記塗工液中での含有量を調整すればよく、多孔質層中での水溶性樹脂(B)の含有量は、0.3質量部以下であることが好ましい。
なお、塗工液には、例えば分散剤として、水溶性樹脂(A)および水溶性樹脂(B)と共に、これら以外の水溶性樹脂を併用することもできる。
多孔質層における非水溶性樹脂バインダとしては、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20~35モル%のもの)、(メタ)アクリレート重合体〔「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートとを纏めて表現したものである。以下同じ。〕、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリウレタンなどが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。
多孔質層における非水溶性樹脂バインダの含有量は、バインダによる作用を良好に発揮させる観点から、耐熱温度が150℃以上の微粒子100質量部に対し、0.5質量部以上であることが好ましい。他方、非水溶性樹脂バインダの量が多すぎると、多孔質層のイオン伝導性が低下して充放電特性などが低下しやすくなり、また、バインダ含有量が多いと多孔質層の水分量が増大する場合もあるため、多孔質層における非水溶性樹脂バインダの含有量は、耐熱温度が150℃以上の微粒子100質量部に対し、4質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましい。
多孔質層に係る耐熱温度が150℃以上の微粒子としては、電気絶縁性を有しており、電気化学的に安定で、更に後述する非水電解質や、多孔質層形成用塗工液に用いる溶媒に安定であれば、特に制限はない。
本明細書でいう「非水電解質に対して安定」とは、非水電解質(非水電池の電解質として使用される非水電解液などの非水電解質)中で溶媒に溶解したり化学的組成変化を生じたりし難いことを意味している。「多孔質層形成用塗工液に用いる溶媒に安定」も前記と同様の意味である。更に、本明細書でいう「電気化学的に安定な」とは、電池の充放電の際に化学変化が生じ難いことを意味している。
このような耐熱温度が150℃以上の微粒子の具体例としては、例えば、酸化鉄、SiO2、Al2O3、TiO2、BaTiO3、ZrO2、MgO、などの酸化物微粒子;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物微粒子;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶微粒子;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶微粒子;タルク、モンモリロナイトなどの粘土微粒子;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、ハイドロタルサイトなどの鉱物資源由来物質またはそれらの人造物;などの無機微粒子が挙げられる。
また、耐熱温度が150℃以上の微粒子には、有機微粒子を用いることもできる。有機微粒子の具体例としては、ポリイミド、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、架橋ポリメチルメタクリレート(架橋PMMA)、架橋ポリスチレン(架橋PS)、ポリジビニルベンゼン(PDVB)、ベンゾグアナミン-ホルムアルデヒド縮合物などの架橋高分子の微粒子;熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子の微粒子;が挙げられる。これらの有機微粒子を構成する有機樹脂(高分子)は、前記例示の材料の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、架橋体(前記の耐熱性高分子の場合)であってもよい。
耐熱温度が150℃以上の微粒子には、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、SiO2、Al2O3、ベーマイトなどの酸化物または水酸化物の微粒子が特に好ましい。
耐熱温度が150℃以上の微粒子の形態としては、球状、不定形状、板状、多面体形状、二次粒子形状、針状などいずれの形態であってもよいが、リチウムデンドライトの抑制の観点からは、板状であることが好ましい。板状粒子としては、各種市販品が挙げられ、例えば、旭硝子エスアイテック社製「サンラブリー」(SiO2)、石原産業社製「NST-B1」の粉砕品(TiO2)、堺化学工業社製の板状硫酸バリウム「Hシリーズ」、「HLシリーズ」、林化成社製「ミクロンホワイト」(タルク)、林化成社製「ベンゲル」(ベントナイト)、河合石灰社製「BMM」や「BMT」(ベーマイト)、河合石灰社製「セラシュールBMT-B」〔アルミナ(Al2O3)〕、キンセイマテック社製「セラフ」(アルミナ)、斐川鉱業社製「斐川マイカ Z-20」(セリサイト)などが入手可能である。この他、SiO2、Al2O3、ZrO2、CeO2については、特開2003-206475号公報に開示の方法により作製することができる。
耐熱温度が150℃以上の微粒子が板状である場合には、多孔質層中において、耐熱温度が150℃以上の微粒子を、その平板面が多孔質層の面にほぼ平行となるように配向させることが好ましく、このような多孔質層を有するセパレータを使用することで、電池の短絡の発生をより良好に抑制できる。これは、耐熱温度が150℃以上の微粒子を前記のように配向させることで、耐熱温度が150℃以上の微粒子同士が平板面の一部で重なるように配置されるため、多孔質層の片面から他面に向かう空隙(貫通孔)が、直線ではなく曲折した形で形成される(すなわち、曲路率が大きくなる)と考えられ、これにより、リチウムデンドライトが多孔質層を貫通することを防止できることから、短絡の発生がより良好に抑制されるものと推測される。
耐熱温度が150℃以上の微粒子が板状の粒子である場合の形態としては、例えば、アスペクト比(板状粒子中の最大長さと板状粒子の厚みの比)が、5以上、より好ましくは10以上であって、100以下、より好ましくは50以下であることが望ましい。また、粒子の平板面の長軸方向長さと短軸方向長さの比の平均値は、0.3以上、より好ましくは0.5以上であることが望ましい(1、すなわち、長軸方向長さと短軸方向長さとが同じであってもよい)。板状の耐熱温度が150℃以上の微粒子が、前記のようなアスペクト比や平板面の長軸方向長さと短軸方向長さの比の平均値を有する場合には、前記の短絡防止作用がより有効に発揮される。
なお、耐熱温度が150℃以上の微粒子が板状である場合における前記の平板面の長軸方向長さと短軸方向長さの比の平均値は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した画像を画像解析することにより求めることができる。更に耐熱温度が150℃以上の微粒子が板状である場合における前記のアスペクト比も、SEMにより撮影した画像を、画像解析することにより求めることができる。
また、耐熱温度が150℃以上の微粒子は、前記例示の各種耐熱温度が150℃以上の微粒子を構成する材料を2種以上含有する粒子であってもよい。
耐熱温度が150℃以上の微粒子の平均粒径は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上であって、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下である。
本明細書でいう耐熱温度が150℃以上の微粒子の平均粒径は、例えば、レーザー散乱粒度分布計(例えば、HORIBA社製「LA-920」)を用い、耐熱温度が150℃以上の微粒子を溶解したり、耐熱温度が150℃以上の微粒子が膨潤したりしない媒体に、耐熱温度が150℃以上の微粒子を分散させて測定した数平均粒子径として規定することができる(後記の実施例に示す平均粒径は、この方法によって求めた値である)。
また、耐熱温度が150℃以上の微粒子の比表面積は、100m2/g以下であることが好ましく、50m2/g以下であることが好ましく、30m2/g以下であることが更に好ましい。比表面積が大きすぎると、微粒子同士や微粒子と基材や電極を結着するためのバインダ量が多くなりすぎるために電池とした時の出力特性が悪くなる虞があり、また、微粒子表面に吸着する水分が大きくなる虞がある。一方、耐熱温度が150℃以上の微粒子の比表面積の好適な下限値としては、1m2/gである。ここでいう比表面積とは、窒素ガスを用いてBET法により測定した値である。
また、本発明の多孔質層は、前記のような耐熱性の高い耐熱温度が150℃以上の微粒子を用いることで、その作用によって、高温時における熱収縮を抑制して寸法安定性を高めることができる。また、このような耐熱性の高い耐熱温度が150℃以上の微粒子を含有する本発明の多孔質層が電極(正極または負極)と一体化している場合には、高温時における多孔質層の寸法安定性を更に高めることができる。
更に、耐熱性の高い耐熱温度が150℃以上の微粒子を含有する本発明の多孔質層と多孔性樹脂フィルムとからセパレータを構成した場合にも、喩え多孔性樹脂フィルムが高温時の寸法安定性に劣るものであっても、耐熱温度が150℃以上の微粒子の作用によって高温時の寸法安定性の良好な多孔質層と一体化しているために、多孔性樹脂フィルムの熱収縮が抑制され、高温時におけるセパレータ全体の寸法安定性が向上する。そのため、本発明の多孔質層を用いた本発明のセパレータでは、例えば従来のポリエチレン(PE)製多孔性フィルム(PE製微多孔膜)のみで構成されるセパレータで生じていた熱収縮に起因する短絡の発生が防止できることから、電池内が異常過熱した際の信頼性・安全性をより高めることができる。
このように、本発明によれば高温時におけるセパレータの熱収縮に起因する短絡の防止の信頼性を向上できる。
多孔質層中における耐熱温度が150℃以上の微粒子の含有量は、前記微粒子を使用することによる作用をより有効に発揮させる観点から、多孔質層の構成成分の全質量中、50質量%以上とすればよく、70質量%以上であることが好ましく、80質量以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
多孔質層は、耐熱温度が150℃以上の繊維状物を含有していてもよい。例えば、多孔質層のみでセパレータを構成し、かつ多孔質層を電極と一体化しない場合には、多孔質層を補強し、その取り扱い性を高めたりする観点から、前記繊維状物を含有させることが好ましく、この繊維状物がセパレータの主体をなしていることがより好ましい。また、多孔質層と多孔質樹脂フィルムとでセパレータを構成する場合や、多孔質層を電極と一体化させる場合においても、その補強のために耐熱温度が150℃以上の繊維状物を含有させることができる。
特に、140℃以下の温度で溶融して、多孔質層(セパレータ)の空孔を塞ぎ、セパレータ中のイオンの移動を遮断する機能(所謂シャットダウン機能)を付与できる材料を多孔質層に含有させた場合、耐熱温度が150℃以上の繊維状物も多孔質層に含有させておくことで、電池内での発熱などによってシャットダウンが起こった後、更に20℃以上セパレータの温度が上昇しても、その形状をより安定に保ち得るようにできる。
繊維状物は、150℃以上の耐熱温度を有し、かつ電気絶縁性を有しており、電気化学的に安定で、更に下記に詳述する非水電解質(非水電解液)や、耐熱温度が150℃以上の微粒子などを含有する多孔質層形成用塗工液に用いる溶媒に安定であれば、特に制限はない。なお、本明細書でいう「繊維状物」とは、アスペクト比〔長尺方向の長さ/長尺方向に直交する方向の幅(直径)〕が4以上のものを意味している。繊維状物のアスペクト比は、10以上であることが好ましい。
繊維状物の具体的な構成材料としては、例えば、セルロース、セルロース変成体(カルボキシメチルセルロースなど)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル[ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)など]、ポリアクリロニトリル(PAN)、アラミド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの樹脂;ガラス、アルミナ、シリカなどの無機材料(無機酸化物);などが挙げられる。繊維状物は、これらの構成材料の1種を含有していてもよく、2種以上を含有していても構わない。また、繊維状物は、構成成分として、前記の構成材料の他に、必要に応じて、公知の各種添加剤(例えば、樹脂である場合には酸化防止剤など)を含有していても構わない。
なお、繊維状物には、耐熱温度が150℃以上の微粒子との接着性を高めるために、コロナ放電処理や界面活性剤による処理などの表面処理を施してもよい。
繊維状物の直径は、多孔質層の厚み以下であればよいが、例えば、0.01~5μmであることが好ましい。径が大きすぎると、繊維状物同士の絡み合いが不足して、これらで構成されるシート状物の強度、延いては多孔質層の強度が小さくなって取扱いが困難となることがある。また、径が小さすぎると、多孔質層の空孔が小さくなりすぎて、イオン透過性が低下する傾向にあり、電池の負荷特性を低下させてしまうことがある。
繊維状物は、それぞれの繊維状物が独立した状態で多孔質層中に含まれていてもよく、繊維状物で構成されたシート状物(織布、不織布など)の状態で多孔質層中に含まれていてもよい。
すなわち、不織布などの多孔質樹脂シートの空隙を充填するように非水電池用多孔質層が形成されており、多孔質層内に前記多孔質樹脂シートが一体化されて存在するものであってもよい。
多孔質層(シート状物)中での繊維状物の存在状態は、例えば、長軸(長尺方向の軸)の、セパレータ面に対する角度が平均で30°以下であることが好ましく、20°以下であることがより好ましい。
多孔質層が前記の繊維状物を含有する場合における多孔質層中の繊維状物の含有量は、繊維状物の使用による作用をより有効に発揮させる観点から、多孔質層の構成成分の全体積中、10体積%以上であることが好ましく、30体積%以上であることがより好ましい。他方、前記の繊維状物を含有する多孔質層において、繊維状物の含有量が多すぎると、他の成分(耐熱温度が150℃以上の微粒子など)の含有量が少なくなって、これら他の成分による作用が低下することがあるため、繊維状物の含有量は、多孔質層の構成成分の全体積中、90体積%以下であることが好ましく、70体積%以下であることがより好ましい。
また、多孔質層にはシャットダウン機能を付与することができる。多孔質層にシャットダウン機能を付与する場合、安全な温度で電池の反応を抑制することができるよう、150℃以下の融点を有する熱溶融性樹脂により形成された微粒子を含有させることが好ましく、安全性を高めるために、前記熱溶融性樹脂の融点は、140℃以下とすることがより好ましい。そのような微粒子の具体例としては、例えば、PE、エチレン由来の構造単位が85モル%以上の共重合ポリオレフィン、またはポリオレフィン誘導体(塩素化ポリエチレンなど)、ポリオレフィンワックス、石油ワックス、カルナバワックスなどが挙げられる。前記共重合ポリオレフィンとしては、エチレン-ビニルモノマー共重合体、より具体的には、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-メチルアクリレート共重合体、またはエチレン-エチルアクリレート共重合体が例示できる。また、ポリシクロオレフィンなどを用いることもできる。
ただし、シャットダウンを生じる温度が低すぎると、通常の電池の作動に支障をきたすおそれを生じるため、熱溶融性樹脂の融点は、100℃以上とすることが好ましく、120℃以上とすることがより好ましい。なお、前記樹脂の融点は、JIS K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度である。
多孔質層における前記のシャットダウン機能は、例えば、モデルセルの温度による抵抗上昇により評価することが可能である。すなわち、正極、負極、および電解液を備え、正極および負極のうちの少なくとも一方の電極の電極合剤層上に多孔質層を有するか、または正極、負極、セパレータおよび電解液を備え、かつセパレータの少なくとも片面に多孔質層を有するモデルセルを作製し、このモデルセルを高温槽中に保持し、5℃/分の速度で昇温しながらモデルセルの内部抵抗値を測定し、測定された内部抵抗値が、加熱前(室温で測定した抵抗値)の5倍以上となる温度を測定することで、この温度を多孔質層の有するシャットダウン温度として評価することができる(後述する本発明の非水電池用セパレータについても、そのシャットダウン温度を、これと同じ方法で評価することができる)。
なお、150℃以下の融点を有する熱溶融性樹脂微粒子を多孔質層に含有させることでシャットダウン機能を持たせる場合、良好なシャットダウン機能を確保する点からは、多孔質層中における熱溶融性樹脂微粒子の含有量は、多孔質層の構成成分の全体積中、5体積%以上であることが好ましく、20体積%以上であることがより好ましく、50体積%以上であることが特に好ましい。
多孔質層の厚みは、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることが更に好ましく、また、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
多孔質層の空孔率は、20~60%であることが好ましい。多孔質層の空孔率は、多孔質層の厚み、面積あたりの質量、構成成分の密度から、下記式(3)を用いて各成分iについての総和を求めることにより計算できる。
P = 100-(Σai/ρi)×(m/t) (3)
ここで、前記式(3)中、ai:質量%で表した成分iの比率、ρi:成分iの密度(g/cm3)、m:多孔質層の単位面積あたりの質量(g/cm2)、t:多孔質層の厚み(cm)である。
本発明の多孔質層は、耐熱温度が150℃以上の微粒子、水溶性樹脂(A)および水溶性樹脂(B)、更には必要に応じて使用されるバインダ成分や繊維状物、熱溶融性樹脂微粒子などを含有する多孔質層形成用の塗工液(溶媒を含む組成物)を、基材、例えば多孔質樹脂シートの表面(本発明の非水電池用セパレータとする場合)や、非水電池用の電極の電極合剤層の表面(本発明の非水電池用電極とする場合)に塗布し、乾燥する工程を有する本発明の製造方法によって得ることができる。
また、多孔質層が繊維状物よりなる多孔質樹脂シート(織布、不織布など)と一体化されたセパレータを作製する場合には、例えば、前記塗工液を塗布に用いるのではなく浸漬液として使用し、そこに前記シート状物を含浸させ、必要に応じてギャップに通して前記浸漬液のシート状物の空隙中への浸入を促進させたり、シート状物に前記塗工液を塗布した後にギャップに通して前記塗工液をシート状物の空隙中へ浸入させたりした後に、乾燥する工程を経て多孔質層を形成することもできる。
多孔質層形成用の塗工液(浸漬液として使用する場合を含む。以下同じ。)は、耐熱温度が150℃以上の微粒子、水溶性樹脂(A)、水溶性樹脂(B)、および非水溶性樹脂バインダ、更には必要に応じて使用される繊維状物、熱溶融性樹脂微粒子などを含有し、これらを、水を含む溶媒(分散媒を含む。以下同じ。)に溶解または分散させたものである。なお、通常、水溶性樹脂(A)および水溶性樹脂(B)は前記溶媒に溶解させる。前記塗工液に用いられる溶媒には、水のみを用いてもよいが、前記の各微粒子を均一に分散させたり、水溶性樹脂(A)および水溶性樹脂(B)を良好に溶解させたり、非水溶性樹脂バインダを均一に分散させたり、界面張力を制御したりするなどの目的で、アルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなど)など水以外の溶媒を適宜加えることもできる。
前記塗工液の粘度(後記の実施例に記載の方法によって求められる粘度)は、塗布性を良好にする観点から、10~1000mPa・sであることが好ましく、20~700mPa・sであることがより好ましい。
本発明の非水電池用セパレータ(以下、単に「セパレータ」という)は、本発明の多孔質層を多孔質樹脂シートと一体化したものである。
本発明のセパレータにおいて、多孔質樹脂シート、例えばポリオレフィン製の微多孔膜などの多孔質樹脂フィルムによってシャットダウン機能を確保する場合、多孔質樹脂フィルムを構成する樹脂には、前記熱溶融性樹脂微粒子を構成する樹脂と同様の樹脂(熱可塑性樹脂)を使用することができる。なお、多孔質樹脂フィルムのシャットダウン温度は100℃~150℃の範囲に設定することが望ましく、140℃以下とすることがより好ましく、従ってこれを構成する熱可塑性樹脂にも、融点が100~150℃のものを用いることが望ましく、140℃以下とすることがより好ましい。
他方、セパレータの耐熱性を重視して、シャットダウン機能を付与しない場合には、耐熱性の多孔質樹脂シートを用いることもできる。このような多孔質樹脂シートの具体的な構成材料としては、耐熱温度が150℃以上で、電池に用いる非水電解液に対して安定であり、更に電池内部での酸化還元反応に対して安定である樹脂であればいずれでもよい。より具体的には、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリウレタン、PAN、ポリエステル(PET、PBT、PENなど)などの耐熱性樹脂が挙げられる。
多孔質樹脂シートには、例えば、従来公知の非水電池などで使用されている前記例示の樹脂で構成された多孔質フィルム、すなわち、溶剤抽出法、乾式または湿式延伸法などにより作製されたイオン透過性の多孔質フィルム(微多孔膜)や、織布、不織布などの繊維状シートを用いることができる。また、薬剤や超臨界CO2などを用いた発泡法により微多孔化したフィルムを用いることもできる。
本発明のセパレータにおいては、本発明の多孔質層の作用によって、多孔質樹脂シートに熱収縮しやすいものを適用しても良好な耐熱性(耐熱収縮性)を確保し得ることから、例えば、良好なシャットダウン機能を確保し得る多孔質樹脂シートを採用することが好ましく、ポリオレフィン(PE、PP、エチレン-プロピレン共重合体など)製の多孔質フィルム(微多孔膜)を用いることがより好ましい。
本発明のセパレータにおいては、多孔質層および多孔質樹脂シートは、それぞれ1層ずつである必要はなく、一方または両方が2層以上であってもよいが、セパレータの層数をあまり増やしすぎることは好ましくなく、例えば、多孔質層および多孔質樹脂シートの総層数が5層以下であることが好ましい。
セパレータを適用する非水電池の短絡防止効果をより高め、セパレータの強度を確保して、その取り扱い性を良好とする観点から、本発明のセパレータの厚みは、例えば、3μm以上とすることが好ましく、5μm以上とすることがより好ましい。他方、セパレータを適用する非水電池のエネルギー密度をより高める観点からは、セパレータの厚みは、50μm以下とすることが好ましく、30μm以下とすることがより好ましい。
なお、多孔質樹脂シートの厚み(セパレータが多孔質樹脂シートを複数枚有する場合には、その総厚み)を具体的な値で表現すると、多孔質樹脂フィルムの場合には、5μm以上であることが好ましく、また、30μm以下であることが好ましい。また、セパレータにおける多孔質層の厚みに関しては、セパレータが多孔質層を複数有する場合には、その総厚みが、先に述べた多孔質層の好適厚みを満たしていることが好ましい。
また、本発明のセパレータは、非水電解液(その溶媒)中で測定される150℃での熱収縮率が、5%以下であることが好ましい。多孔質層をセパレータの耐熱層として構成することで、かかる熱収縮率を確保することができる。
また、セパレータの空孔率は、非水電解液の保液量を確保してイオン透過性を良好にするために、乾燥した状態で、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。一方、セパレータ強度の確保と内部短絡の防止の観点から、セパレータの空孔率は、乾燥した状態で、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。なお、セパレータの空孔率:P(%)は、前記式(3)において、mをセパレータの単位面積あたりの質量(g/cm2)とし、tをセパレータの厚み(cm)とすることで、前記式(3)を用いて求めることができる。
更に、前記式(3)において、mを多孔質樹脂シートの単位面積あたりの質量(g/cm2)とし、tを多孔質樹脂フィルムの厚み(cm)とすることで、前記式(3)を用いて多孔質樹脂シートの空孔率:P(%)を求めることもできる。この方法により求められる多孔質樹脂シートの空孔率は、30~70%であることが好ましい。
更に、セパレータの強度としては、直径が1mmのニードルを用いた突き刺し強度で50g以上であることが望ましい。かかる突き刺し強度が小さすぎると、リチウムのデンドライト結晶が発生した場合に、セパレータの突き敗れによる短絡が発生する虞がある。
また、セパレータの透気度は、JIS P 8117に準拠した方法で測定され、0.879g/mm2の圧力下で100mlの空気が膜を透過する秒数で示されるガーレー値で10~300secであることが望ましい。透気度が大きすぎると、イオン透過性が小さくなり、小さすぎるとセパレータの強度が小さくなることがある。
更にセパレータのガーレー値は下記式(4)の関係を満たすことが望ましい。
Gs≦max{Ga,Gb}+10 (4)
前記式(4)中、Gs:セパレータのガーレー値、Ga:多孔質樹脂フィルムのガーレー値、本発明の多孔質層のガーレー値、max{a,b}:aとbのどちらか大きい方である。ただし、Gbは、下記式(5)を用いて求める。
Gb=Gs-Ga (5)
前記の突き刺し強度や透気度は、これまでに説明した構成のセパレータとすることで確保できる。
本発明の非水電池用電極(以下、単に「電極」という)は、本発明の多孔質層を電極合剤層(正極合剤層または負極合剤層)上に形成したものである。本発明の電極は、非水電池の正極または負極に使用される。なお、本発明の電極が使用される電池としては、非水一次電池と非水二次電池とがあるが、以下には、本発明の電極が使用される電池として主要な非水二次電池に適した構成の電極の詳細について説明する。
非水電池の正極に使用される場合の本発明の電極としては、例えば、正極活物質、導電助剤およびバインダなどを含有する電極合剤層(正極合剤層)を、集電体の片面または両面に有し、かつこれらの電極合剤層上に、本発明の多孔質層が形成された構造のものが挙げられる。
正極活物質としては、例えば、LiCoO2などのリチウムコバルト酸化物;LiMnO2、Li2MnO3などのリチウムマンガン酸化物;LiNiO2などのリチウムニッケル酸化物;LiMn2O4、Li4/3Ti5/3O4などのスピネル構造のリチウム含有複合酸化物;LiFePO4などのオリビン構造のリチウム含有複合酸化物;前記の酸化物を基本組成とし各種元素で置換した酸化物;などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
正極合剤層に係る導電助剤には、例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などのグラファイト類;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカ-ボンブラック類;炭素繊維;などの炭素材料を用いることが好ましく、また、金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウムなどの金属粉末類;酸化亜鉛;チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料;などを用いることもできる。
正極合剤層に係るバインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、SBR、CMC、ポリビニルピロリドン(PVP)などが挙げられる。
正極は、例えば、正極活物質、導電助剤およびバインダなどを含有する正極合剤を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)や水などの溶剤に分散させてペースト状やスラリー状の正極合剤含有組成物を調製し(ただし、バインダは溶剤に溶解していてもよい)、これを集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダー処理を施し、更にこの正極を基材として、その正極合剤層上に、前記の方法で本発明の多孔質層を形成する工程を経て製造することができる。ただし、正極は、前記の方法で製造されたものに限定される訳ではなく、他の方法で製造したものであってもよい。
正極集電体には、アルミニウム製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、アルミニウム箔が用いられる。正極集電体の厚みは、10~30μmであることが好ましい。
また、正極には、必要に応じて、非水電池内の他の部材と電気的に接続するためのリード体を、常法に従って形成してもよい。
正極合剤層の組成としては、例えば、正極活物質の含有量が80.0~99.8質量%であることが好ましく、導電助剤の含有量が0.1~10質量%であることが好ましく、バインダの含有量が0.1~10質量%であることが好ましい。また、正極合剤層の厚みは、集電体の片面あたり、1~100μmであることが好ましい。
非水電池の負極に使用される場合の本発明の電極としては、例えば、負極活物質およびバインダ、更には必要に応じて導電助剤などを含有する電極合剤層(負極合剤層)を、集電体の片面または両面に有し、かつこれらの電極合剤層上に、本発明の多孔質層が形成された構造のものが挙げられる。
負極活物質としては、リチウムイオンをドープ・脱ドープできるものであればよく、例えば、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭などの炭素質材料が挙げられる。また、リチウムまたはリチウム含有化合物なども負極活物質として使用することができる。前記のリチウム含有化合物としては、例えば、錫酸化物、ケイ素酸化物、ニッケル-ケイ素系合金、マグネシウム-ケイ素系合金、タングステン酸化物、リチウム鉄複合酸化物などの他、リチウム-アルミニウム、リチウム-鉛、リチウム-インジウム、リチウム-ガリウム、リチウム-インジウム-ガリウム、などのリチウム合金が挙げられる。これら例示の負極活物質の中には、製造時にはリチウムを含んでいないものもあるが、充電時にはリチウムを含んだ状態になる。
負極合剤層に係るバインダには、正極合剤層に係るバインダとして先に例示した各種のバインダと同じものを使用することができる。
負極合剤層に導電助剤を含有させる場合、その導電助剤には、正極合剤層に係る導電助剤として先に例示した各種の導電助剤と同じものを使用することができる。
負極は、例えば、負極活物質およびバインダ、更には必要に応じて導電助剤などを含有する負極合剤を、NMPや水などの溶剤に分散させてペースト状やスラリー状の負極合剤含有組成物を調製し(ただし、バインダは溶剤に溶解していてもよい)、これを集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダー処理を施し、更にこの負極を基材として、その負極合剤層上に、前記の方法で本発明の多孔質層を形成する工程を経て製造することができる。ただし、負極は、前記の方法で製造されたものに限定される訳ではなく、他の方法で製造したものであってもよい。
負極の集電体には、例えば、銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたはそれらの合金などからなる箔、パンチドメタル、エキスパンドメタル、網などを用い得るが、通常、厚みが5~30μmの銅箔が好適に用いられる。
また、負極には、必要に応じて、非水電池内の他の部材と電気的に接続するためのリード体を、常法に従って形成してもよい。
負極合剤層においては、例えば、負極活物質の含有量が70~99質量%であることが好ましく、バインダの含有量が1~30質量%であることが好ましい。また、導電助剤を使用する場合には、負極合剤層における導電助剤の含有量は、1~20質量%であることが好ましい。更に、負極合剤層の厚みは、集電体の片面あたり、1~100μmであることが好ましい。
本発明の非水電池は、正極、負極、セパレータおよび非水電解質を有しており、セパレータが本発明のセパレータであるか、または正極、負極および非水電解質を有しており、正極および負極のうちの少なくとも一方が本発明の電極であればよく、その他の構成および構造については特に制限はなく、従来から知られている非水電池(リチウム二次電池のなどの非水二次電池や、非水一次電池)で採用されている各種構成および構造を適用することができる。
本発明の非水電池において、本発明のセパレータを使用しない場合には、本発明の電極に係る多孔質層(本発明の多孔質層)がセパレータの役割を担うが、別途セパレータを使用してもよく、その場合のセパレータには、セパレータを構成するための前記多孔質樹脂フィルムを使用することができる。また、本発明の非水電池において、本発明の電極を正極に使用しない場合には、その正極には、本発明の多孔質層を有することを除いて本発明の電極と同じ構成の正極を使用することができる。更に、本発明の非水電池において、本発明の電極を負極に使用しない場合には、その正極には、本発明の多孔質層を有することを除いて本発明の電極と同じ構成の負極を使用することができる。
本発明の非水電池において、正極と負極とは、セパレータを介在させて積層するか、または、少なくとも一方の電極合剤層上に形成した多孔質層が間になるように積層して構成した積層体(積層電極体)や、この積層体を渦巻状に巻回した巻回体(巻回電極体)の形態で使用される。
非水電池の非水電解質としては、上述したように、リチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液(非水電解液)が用いられる。リチウム塩としては、溶媒中で解離してLi+イオンを形成し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こさないものであれば特に制限は無い。例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6 、LiSbF6 などの無機リチウム塩;LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiCnF2n+1SO3(n≧2)、LiN(RfOSO2)2〔ここでRfはフルオロアルキル基〕などの有機リチウム塩;などを用いることができる。
非水電解液に用いる有機溶媒としては、前記のリチウム塩を溶解し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こさないものであれば特に限定されない。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;プロピオン酸メチルなどの鎖状エステル;γ-ブチロラクトンといった環状エステル;ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3-ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、テトラグライムなどの鎖状エーテル;ジオキサン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリルといったニトリル類;エチレングリコールサルファイトなどの亜硫酸エステル類;などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても構わない。なお、より良好な特性の電池とするためには、エチレンカーボネートと鎖状カーボネートの混合溶媒など、高い導電率を得ることができる組み合わせで用いることが望ましい。また、これらの非水電解液に安全性や充放電サイクル性、高温貯蔵性といった特性を向上させる目的で、ビニレンカーボネート類、1,3-プロパンサルトン、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、t-ブチルベンゼンなどの添加剤を適宜加えることもできる。
このリチウム塩の非水電解液中の濃度としては、0.5~1.5mol/lとすることが好ましく、0.9~1.25mol/lとすることがより好ましい。
また、前記の有機溶媒の代わりに、エチル-メチルイミダゾリウムトリフルオロメチルスルホニウムイミド、へプチル-トリメチルアンモニウムトリフルオロメチルスルホニウムイミド、ピリジニウムトリフルオロメチルスルホニウムイミド、グアジニウムトリフルオロメチルスルホニウムイミドといった常温溶融塩を用いることもできる。
更に、前記の非水電解液を含有してゲル化するような高分子材料を添加して、非水電解液をゲル状(ゲル状電解質)にして電池に用いてもよい。非水電解液をゲル状とするための高分子材料としては、PVDF、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)、PAN、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体、主鎖または側鎖にエチレンオキシド鎖を有する架橋ポリマー、架橋したポリ(メタ)アクリル酸エステルなど、公知のゲル状電解質形成可能なホストポリマーが挙げられる。
本発明の非水電池の形態としては、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形など)などが挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。
本発明の非水電池は、従来から知られているリチウム二次電池などの非水二次電池や、非水一次電池と同じ用途に適用することができる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
実施例1
<正極の作製>
正極活物質であるLiCoO2:90質量部に、導電助剤であるカーボンブラック:5質量部を加えて混合し、この混合物にバインダであるPVDF:5質量部をNMPに溶解させた溶液を加えて混合して正極合剤含有スラリーとし、70メッシュの網を通過させて粒径が大きいものを取り除いた。この正極合剤含有スラリーを、厚みが15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布して乾燥し、その後ロールプレス機によって圧縮成形して総厚みを105μmにした後、切断し、集電体の露出部にアルミニウム製のリード体を溶接して、帯状の正極を作製した。
<負極の作製>
負極活物質である人造黒鉛:95質量部と、バインダであるPVDF:5質量部とを混合し、更にNMPを加えて混合して負極合剤含有ペーストを調製した。この負極合剤含有ペーストを、厚みが10μmの銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗布して乾燥し、その後ロールプレス機によって圧縮成形して総厚みを100μmにした後、切断し、集電体の露出部にニッケル製のリード体を溶接して、帯状の負極を作製した。
<非水電解液の調製>
エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネートおよびジエチルカーボネートの体積比10:10:30の混合溶媒にLiPF6を1.0mol/lの濃度で溶解させたものに、ビニレンカーボネートを、非水電解液の全量に対して2.5質量%となるように添加して、非水電解液を調製した。
<セパレータの作製>
耐熱温度が150℃以上の微粒子であるベーマイト粉末(板状、平均粒径:1μm、アスペクト比:10、比表面積:8m2/g):4000gを、水:4000gに4回に分けて加え、ディスパーにより2800rpmで5時間攪拌して均一なスラリーを調製した。このスラリーに、アクリルアミドの共重合体の10質量%濃度の水溶液〔ハリマ化成製「ハーマイドC-10」(商品名)〕:1200gと、非水溶性樹脂バインダであるSBR(固形分50%):120gと、増粘剤であるポリアクリル酸のナトリウム部分中和物〔昭和電工製「ビスコメートNP-800」(商品名)、中和度:35%〕の1.5%濃度の水溶液:267gとを加え、更に水を加えて均一に分散するまで室温で攪拌し、固形分濃度が35質量%の多孔質層形成用スラリー(塗工液)を調製した。
片面をコロナ放電処理したPE製微多孔膜(厚み:16μm、空孔率:40%、PEの融点:135℃)の処理面上に、前記の多孔質層形成用スラリーをマイクログラビアコーターによって塗布し、乾燥して多孔質層を形成することで、厚みが20μmのセパレータを得た。
<電池の組み立て>
前記のようにして得たセパレータを、多孔質層が正極側に向くように前記正極と前記負極との間に介在させつつ重ね、渦巻状に巻回して巻回電極体を作製した。得られた巻回電極体を、径:18mm、高さ:65mmの鉄製外装缶(電池ケース)に入れ、非水電解液を注入した後に封止を行って、図1に示す構造の非水二次電池を作製した。
ここで、図1に示す電池について説明すると、図1に示す非水二次電池では、正極1と負極2とがセパレータ3を介して渦巻状に巻回され、巻回電極体として非水電解液4と共に電池ケース5内に収容されている。なお、図1では、繁雑化を避けるため、正極1や負極2の作製にあたって使用した集電体などは図示しておらず、セパレータの各層も示していない。
電池ケース5はステンレス鋼製で、その底部には前記巻回電極体の挿入に先立って、PPからなる絶縁体6が配置されている。封口板7は、アルミニウム製で円板状をしていて、その中央部に薄肉部7aが設けられ、かつ前記薄肉部7aの周囲に電池内圧を防爆弁9に作用させるための圧力導入口7bとしての孔が設けられている。そして、この薄肉部7aの上面に防爆弁9の突出部9aが溶接され、溶接部分11を構成している。なお、前記の封口板7に設けた薄肉部7aや防爆弁9の突出部9aなどは、図面上での理解がしやすいように、切断面のみを図示しており、切断面後方の輪郭は図示を省略している。また、封口板7の薄肉部7aと防爆弁9の突出部9aの溶接部分11も、図面上での理解が容易なように、実際よりは誇張した状態に図示している。
端子板8は、圧延鋼製で表面にニッケルメッキが施され、周縁部が鍔状になった帽子状をしており、この端子板8にはガス排出口8aが設けられている。防爆弁9は、アルミニウム製で円板状をしており、その中央部には発電要素側(図1では、下側)に先端部を有する突出部9aが設けられ、かつ薄肉部9bが設けられ、前記突出部9aの下面が、前記のように、封口板7の薄肉部7aの上面に溶接され、溶接部分11を構成している。絶縁パッキング10は、PP製で環状をしており、封口板7の周縁部の上部に配置され、その上部に防爆弁9が配置していて、封口板7と防爆弁9とを絶縁するとともに、両者の間から非水電解液が漏れないように両者の間隙を封止している。環状ガスケット12はPP製で、リード体13はアルミニウム製で、前記封口板7と正極1とを接続し、巻回電極体の上部には絶縁体14が配置され、負極2と電池ケース5の底部とはニッケル製のリード体15で接続されている。
この非水二次電池においては、封口板7の薄肉部7aと防爆弁9の突出部9aとが溶接部分11で接触し、防爆弁9の周縁部と端子板8の周縁部とが接触し、正極1と封口板7とは正極側のリード体13で接続されているので、通常の状態では、正極1と端子板8とはリード体13、封口板7、防爆弁9およびそれらの溶接部分11によって電気的接続が得られ、電路として正常に機能する。
そして、電池が高温に曝されるなど、電池に異常事態が起こり、電池内部にガスが発生して電池の内圧が上昇した場合には、その内圧上昇により、防爆弁9の中央部が内圧方向(図1では、上側の方向)に変形し、それに伴って溶接部分11で一体化されている薄肉部7aに剪断力が働いて該薄肉部7aが破断するか、または防爆弁9の突出部9aと封口板7の薄肉部7aとの溶接部分11が剥離した後、この防爆弁9に設けられている薄肉部9bが開裂してガスを端子板8のガス排出口8aから電池外部に排出させて電池の破裂を防止することができるように設計されている。
本実施例の非水二次電池は、4.2Vまで充電した場合(正極の電位がLi基準で4.3V)の設計電気容量は、1400mAhである(後記の全ての実施例および比較例の電池も同様である)。
実施例2
多孔質層形成用スラリーの調製において、増粘剤であるポリN-ビニルアセトアミド(PNVA)の5質量%濃度の水溶液〔昭和電工製「GE191-053」(商品名)〕:400gを更に加えた以外は、実施例1と同様にして厚みが20μmのセパレータを作製した。そして、このセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。
実施例3
多孔質層形成用スラリーの調製において、ポリアクリル酸のナトリウム部分中和物の水溶液に代えて、実施例2で使用したものと同じPNVAの5質量%濃度の水溶液:800gを増粘剤として用いた以外は、実施例1と同様にして厚みが20μmのセパレータを作製した。そして、このセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。
実施例4
多孔質層形成用スラリーの調製において、ポリアクリルアミドの共重合体の10質量%濃度の水溶液の量を3200gに変更した以外は、実施例1と同様にして厚みが20μmのセパレータを作製した。そして、このセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。
実施例5
PE製微多孔膜に代えて、PP層とPE層とを、PP/PE/PPの順に3層積層した微多孔膜(厚み:16μm、空孔率:45%、各層の厚み;PP層:5μm/PE層:6μm/PP層:5μm)を用いた以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。そして、このセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。
比較例1
多孔質層形成用スラリーの調製において、ポリアクリル酸のナトリウム部分中和物の水溶液を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして厚みが20μmのセパレータを作製したが、多孔質層形成用スラリーの粘度が低く、良好な塗膜を形成できなかったため、非水二次電池を作製しなかった。
比較例2
多孔質層形成用スラリーの調製において、ポリアクリル酸のナトリウム部分中和物の水溶液に代えて、CMC(ダイセル製「2200」)の2質量%濃度の水溶液:1200gを増粘剤として用いた以外は、実施例1と同様にして厚みが20μmのセパレータを作製した。そして、このセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。
比較例3
多孔質層形成用スラリーの調製において、ポリアクリル酸のナトリウム部分中和物の水溶液に代えて、分散剤として用いられる平均分子量が約5万のポリアクリル酸ナトリウム(完全中和物)の水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして厚みが20μmのセパレータを作製したが、多孔質層形成用スラリーの粘度が低く、良好な塗膜を形成できなかったため、非水二次電池を作製しなかった。
比較例4
多孔質層形成用スラリーの調製において、ポリアクリル酸のナトリウム部分中和物の水溶液に代えて、分散剤として用いられる平均分子量が約5万のポリN-ビニルアセトアミドの水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして厚みが20μmのセパレータを作製したが、多孔質層形成用スラリーの粘度が低く、良好な塗膜を形成できなかったため、非水二次電池を作製しなかった。
実施例および比較例で作製したセパレータで用いた多孔質層形成用スラリー中の各成分の組成を表1に示す。
実施例および比較例の非水二次電池、これらの電池に係るセパレータ、並びにセパレータの作製に使用した多孔質層形成用スラリーについて、以下の各測定・評価を行った。
(多孔質層形成用スラリーの粘度測定)
各多孔質層形成用スラリーの粘度を、東京計器製のE型粘度計(VISCONIC ED形)を用い、25℃の環境下で、1°34′のコーンで回転数 1R.P.M.(ずり速度3.83s-1)にて測定した。
(セパレータの水分量測定)
各セパレータを露点-50℃のグローブボックス中に12時間以上静置した後、窒素ガスをフローした150℃の加熱炉に測定サンプルを入れ1分間保持した。その後の各セパレータを、フローした窒素ガスをカールフィッシャー水分計の測定セルに導入し、水分量を測定した。水分量測定は露点-50℃のグローブボックス中で行い、滴定終点までの積算値を含有水分量(質量基準)として、前記測定値をセパレータサンプルの質量で割ることによって各セパレータの水分量を算出した。
多孔質層形成用スラリーの粘度およびセパレータの水分量の測定結果を表2に示す。
(セパレータの耐熱性評価)
各セパレータを、セパレータに使用したPE製微多孔膜のTD方向に5cm、MD方向に5cmの四角形に切り出して測定サンプルを作製した。前記の各サンプルについて、前記TD方向の中心と前記MD方向の中心とで交差するように、両方向に平行にそれぞれ3cmずつの直線を油性ペンでマークした。なお、それぞれの直線の中心は、これらの直線の交差点とした。これらのサンプルを恒温槽に吊るし、槽内温度を5℃/分の割合で温度上昇させ、150℃に到達後、150℃で1時間温度を保ち、試験開始から150℃1時間の定置運転を行った際の長辺方向および短辺方向のマークの長さを測定し、昇温前のそれぞれの長さとの差を求め、更にこれらの差と昇温前のそれぞれの長さとの比を求めることで、それぞれの方向の熱収縮率を算出した。なお、各セパレータの熱収縮率は、前記TD方向の熱収縮率と前記MD方向の熱収縮率のうちの値の大きい方とした。
(非水二次電池の充放電特性評価)
各非水二次電池について、0.2Cの電流値で電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、次いで、4.2Vでの定電圧充電を行う定電流-定電圧充電を行った。充電終了までの総充電時間は15時間とした。そして、そのときの各電池の充電容量を測定した。次に、充電後の各電池について、0.2Cの放電電流で電池電圧が3.0Vになるまで放電を行って放電容量を測定した。そして、各電池について、充電容量に対する放電容量の割合を百分率で表して、充放電効率を求めた。
セパレータの耐熱性、および非水二次電池の充放電特性の各評価結果を表3に示す。
表1~3に示す通り、耐熱温度が150℃以上の微粒子と水溶性樹脂と非水溶性樹脂バインダとを適正な比率で含む実施例1~5に係る多孔質層形成用スラリーは、水溶性樹脂(B)を含まない比較例1のスラリーよりも高く、塗工に適した粘度を確保できており、また、得られたセパレータの水分量も抑えられていた。そして、これに起因して、実施例1~5の非水二次電池は、良好な充放電特性を有していた。また、実施例1~5に係るセパレータは、熱収縮率が小さく、耐熱性も良好であった。
一方、比較例1~4のうち、水溶性樹脂(B)に代えてCMCを使用した比較例2に係るセパレータは、良好な性状のものが得られたものの、実施例に係るセパレータよりも水分量が多かった。そして、これに起因して、比較例2の非水二次電池は、充放電特性が実施例の電池よりも劣っていた。