JP7020478B2 - 塗布液の製造方法、塗布膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置及び照明装置 - Google Patents

塗布液の製造方法、塗布膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置及び照明装置 Download PDF

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Description

本発明は、塗布液の製造方法、塗布膜の製造方法、塗布膜、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置及び照明装置に関する。より詳しくは、本発明は、保存性が高く、かつ乾燥して塗布膜にした際に当該塗布膜の機能性が高い塗布液の製造方法、当該塗布液を用いた塗布膜の製造方法、塗布膜、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置及び照明装置に関する。
有機化合物を利用した電子デバイス、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子(organic electroluminescent diode:「OLED」、「有機EL素子」ともいう。)、有機光電変換素子、及び有機トランジスタなどの種々の電子デバイスが開発され、それらの技術的進展に伴い、様々な産業・市場分野での普及が進んでいる。また、電子デバイスの代表例である有機EL素子は、表示装置や照明装置での製品化が進展している。
有機EL素子の製造方法としては、現在は真空蒸着法が主流であるが、真空蒸着法は高真空を要求するため、コストが高く、また大面積化時に層厚を均一にするのが難しいという問題がある。
そこで、真空蒸着法に替わる成膜方法として湿式塗布法が期待されている。湿式塗布法は、真空蒸着法に比較して、コスト面で優位性があり、技術的にも大面積化が容易であるという利点がある。
湿式塗布法等により塗布膜を形成する場合、被塗布材料を溶媒に溶解させた塗布液を基板に塗布した後、乾燥固化することによって塗布膜を形成する。
しかし、例えば、塗布液をインクジェット塗布法によって長時間の継続塗布をする場合、被塗布材料の凝集により、インクジェットヘッドの吐出部が詰まる等の障害が発生するという問題があった。
また、長時間の保存により、塗布液中の被塗布材料が不均一な分散状態となった場合、このような塗布液で塗布膜を形成すると、当該塗布膜も被塗布材料が不均一に存在する状態となるため、安定した性能が得られないという問題があった。
そこで、塗布液中の被塗布材料を均一な分散状態とするために、超音波照射や撹拌等を行うことで、被塗布材料を再分散させることが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
また、塗布液に分散安定剤を添加することで、被塗布材料を分散安定化することが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
しかし、被塗布材料の再分散を行った場合、再分散直後は均一な分散状態となるものの、その均一な分散状態を長時間維持することは難しいため、再分散を繰り返し行わなければならないという問題があった。
また、分散安定剤を添加すれば均一な分散状態を維持することができる。しかし、特に有機EL素子の有機機能層に、分散安定剤という不純物が含有されていると、当該分散安定剤が有機機能層の性能低下を引き起こすという問題があった。
特開2011-150978号公報 特開2006-225638号公報
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、保存性が高く、かつ乾燥して塗布膜にした際に当該塗布膜の機能性が高い塗布液の製造方法等を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、被塗布材料を含有する溶液と、超臨界又は亜臨界状態の流体とを混合した塗布液が、保存性が高く、かつ当該塗布液を乾燥して塗布膜にした際に当該塗布膜の機能性が高いこと見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
1.溶液と、超臨界又は亜臨界状態の流体との混合による塗布液の製造方法であって、前記混合する工程として、超臨界クロマトグラフィーを用いることを特徴とする塗布液の製造方法。
2.溶液と、超臨界又は亜臨界状態の流体との混合による塗布液の製造方法であって、前記溶液が、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含有することを特徴とする塗布液の製造方法。
.前記超臨界又は亜臨界状態の流体の臨界点の温度が、300℃以下であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の塗布液の製造方法。
.前記超臨界又は亜臨界状態の流体が、温度20℃・圧力101325Pa(1気圧)の条件下で気体であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の塗布液の製造方法。
.前記超臨界又は亜臨界状態の流体として、超臨界又は亜臨界状態の二酸化炭素を用いることを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の塗布液の製造方法。
.第1項から第5項までのいずれか一項に記載の塗布液の製造方法によって塗布液を得て、当該塗布液を乾燥固化して塗布膜を形成することを特徴とする塗布膜の製造方法。
.前記塗布液を、インクジェット法、押し出し塗布法、スプレー塗布法、及びスピンコート法から選ばれる方法を用いて塗布する工程を有することを特徴とする第6項に記載の塗布膜の製造方法。
8.溶液と、超臨界又は亜臨界状態の流体とを含有する塗布液を乾燥固化してなる塗布膜を有機機能層として備え、
前記塗布膜が、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
9.前記塗布膜が発光層であることを特徴とする第8項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
10.第8項又は第9項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えること特徴とする表示装置。
11.第8項又は第9項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
本発明の上記手段により、保存性が高く、かつ乾燥して塗布膜にした際に当該塗布膜の機能性が高い塗布液の製造方法等を提供することができる。
本発明の塗布液の技術的特徴とその効果の発現機構は、以下のとおりであると推察している。
本発明の塗布液は、被塗布材料を含有する溶液と、超臨界又は亜臨界状態の流体とを混合して得たものである。この塗布液では、超臨界又は亜臨界状態の分子が、被塗布材料(溶質)の分子間に入り込み、当該溶質分子と適度な相互作用を有することで当該被塗布材料の凝集を妨げることができたため、被塗布材料の分散状態を長時間維持できたものと考えられる。また当該塗布液を乾燥固化した塗布膜は、被塗布材料が均一に分散しているため、機能性が高い膜にすることができたと考えられる。
従来の蒸着膜と塗布膜における粒径分布曲線の一例を示すグラフ 超臨界クロマトグラフィー法における充填カラムを用いた装置の概略図 有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図 表示部Aの模式図 画素の回路を示した概略図 パッシブマトリクス方式フルカラー表示装置の模式図 バルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子からなる太陽電池を示す断面図 タンデム型のバルクヘテロジャンクション層を備える有機光電変換素子からなる太陽電池を示す断面図
本発明の塗布液の製造方法は、溶液と、超臨界又は亜臨界状態の流体との混合による塗布液の製造方法であって、前記混合する工程として、超臨界クロマトグラフィーを用いることを特徴とする。また、溶液と、超臨界又は亜臨界状態の流体との混合による塗布液の製造方法であって、前記溶液が、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含有することを特徴とする。この特徴は、各請求項に係る発明に共通又は対応する技術的特徴である。
また、本発明の塗布液の実施態様としては、塗布液中の有機化合物の分解を抑制する観点から、臨記超臨界又は亜臨界状態の流体の臨界点の温度が、300℃以下であることが好ましい。
また、本発明の塗布液の実施態様としては、前記超臨界又は亜臨界状態の流体が、温度20℃・圧力101325Pa(1気圧)の条件下で気体であることが好ましい。これにより、塗布膜中の超臨界又は亜臨界状態の流体の回収が迅速になり、塗布液を乾燥固化して塗布膜としたときに、超臨界又は亜臨界状態の流体を残留しないようにすることができる。
また、本発明の塗布液の実施態様としては、超臨界又は亜臨界状態の流体が容易に製造しやすく、環境への負荷が低く、安定性が高く、低コストであるという観点から、前記超臨界又は亜臨界状態の流体として、超臨界又は亜臨界状態の二酸化炭素を用いることが好ましい。
また、本発明の塗布液の実施態様としては、混合する工程と溶質を高純度とする工程とを同時に行うことができるという観点から、前記溶液と、前記超臨界又は亜臨界状態の流体とを混合する工程として、超臨界クロマトグラフィーを用いる。
また、本発明の塗布液の実施態様としては、本発明の効果を有効に得る観点から、前記溶液は、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含有する。
また、本発明の塗布膜の製造方法は、本発明の塗布液を乾燥固化して塗布膜を形成することを特徴とする。
また、本発明の塗布膜の製造方法の実施態様としては、大面積化でも均質な膜が得られやすく、かつ、低コストで製膜できるという観点から、前記塗布液を、インクジェット法、押し出し塗布法、スプレー塗布法、及びスピンコート法から選ばれる方法を用いて塗布する工程を有することが好ましい。
また、本発明の塗布膜は、溶液と、超臨界又は亜臨界状態の流体とを含有する塗布液を乾燥固化してなる膜であることを特徴とする。
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、前記塗布膜を有機機能層として備え、前記塗布膜が、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含有することを特徴とする。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、表示装置や照明装置に好適に用いられる。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。また、本発明において「%」や「ppm」等の比率は、質量基準とする。
また、以下に本明細書で使用する技術用語の定義について予め説明する。
本発明でいう「溶質」とは、本発明に係る塗布液を構成する一成分であって、溶媒中に溶かされた被塗布材料をいうが、溶媒中に単分子の状態で分散又は混合しているものに限られず、複数の分子が分子間の相互作用により引き合った集合体(会合により形成される多量体分子、溶媒和分子、分子クラスター、コロイド粒子等)などが溶媒に分散しているものも含まれる。
本発明でいう「溶媒」とは、本発明に係る塗布液を構成する一成分であって、上記溶質を溶かす媒質であり、かつ20℃で液体の液体物質をいう。また、溶質及び溶媒がともに液体の場合は、多量に存在する方を溶媒という。また、溶媒は、2種以上の物質を混合した混合溶媒であってもよい。また、溶媒は、無極性溶媒と極性溶媒のどちらでもよい。
本発明でいう「良溶媒」とは、20℃の溶媒に対する溶質の溶解度が、5.0質量%を超える溶媒をいう。
本発明でいう「貧溶媒」とは、20℃の溶媒に対する溶質の溶解度が、5.0質量%以下の溶媒をいう。
本発明でいう「有機エレクトロルミネッセンス素子用材料」とは、「有機EL素子用材料」ともいい、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子とも言う)を構成する有機機能層に用いることが可能な有機化合物をいう。
本発明でいう「光電変換素子用材料」とは、光電変換素子を構成する有機機能層に用いることが可能な有機化合物をいう。
本発明でいう「有機機能層」とは、有機EL素子又は光電変換素子において、電極間に形成されている有機化合物を含有する層をいう。有機EL素子での有機機能層としては、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び電子注入層等が挙げられる。また、光電変換素子での有機機能層としては、例えば、正孔輸送層、バルクヘテロジャンクション層(光電変換部)及び電子輸送層等が挙げられる。
[本発明の塗布液の概要]
本発明の塗布液は、有機EL素子や光電変換素子等の各有機機能層の形成に好適に用いられる塗布液として、下記基本的方針(1)~(5)に基づいて検討し、完成したものである。
(1)塗布液中の溶質は低分子化合物が好ましい(高分子化合物は好ましくない)。
(2)成膜法は塗布法が好ましい(蒸着法は好ましくない)。
(3)塗布液中の溶媒は汎用溶媒が好ましい(高価な脱水高純度溶媒は好ましくない)。
(4)溶解は単分子状態が好ましい(微結晶分散液は好ましくない)。
(5)化合物の精製には吸着-脱着平衡を活用するのが好ましい(熱平衡は好ましくない)。
以下において、まず、上記各方針の根拠となる基本的考え方の観点から、本発明について説明をし、その後、具体的技術について説明をする。
1.高分子化合物に対する低分子化合物の優位性
湿式塗布法による有機機能層の形成において、高分子化合物に対する低分子化合物の優位性を説明する。
(第1の要因):純度の優位性
低分子化合物を高分子化合物(いわゆるポリマー)と比較してみると、その違いがよくわかる。まず、低分子化合物は昇華精製を適用するのは分子量が小さいため好適であり、再結晶も分子量分布が小さく望ましい。また、低分子化合物の精製方法には、精製効率の低い(理論段数の低い)高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography:HPLC)やカラムクロマトグラフィーを用いることができるため好ましい。
高分子化合物の精製では、殆どの場合、良溶媒と貧溶媒を使った再沈殿法を繰り返し行うことで精製しており、低分子化合物の方が高純度としやすい。
また、高分子化合物がπ共役系高分子化合物である場合、重合反応を起こすための金属触媒や重合開始剤を用いる必要があり、重合末端には、反応活性の置換基が残存してしまうケースがあり、それも低分子化合物の方が高純度にできる理由の一つでもある。
(第2の要因):分子特有のエネルギー準位に関する優位性
発光ポリマー(light emitting polymer:LEP)は、分子量が大きくなると、π共役系ポリマーであるが故に、分子を安定化させるためには共役系を拡張することになるために、原理的に一重項又は三重項の励起状態と基底状態とのエネルギー準位差(「エネルギー準位のギャップ」、「バンドギャップ」ともいう。)は狭くなり、青色発光が難しくなる。また、蛍光の青色発光よりも高いエネルギー準位(大きいエネルギー準位差)が要求される青色リン光においては、発光ポリマーは、その発光物質となる遷移金属錯体を形成することが構造上難しい。さらに、発光ポリマーをホストとして用いようとしても、前記のπ共役の拡張により高い三重項エネルギーを有する化合物(「高T化合物」と略称する。)にしにくい。
一方、低分子化合物ではπ共役系を連結させる必然性はなく、π共役系ユニットとなる芳香族化合物残基は必要であるが、それらを任意に選択できること、さらにそれらを任意の位置に置換できる。したがって、低分子化合物では、容易に最高被占軌道(highest occupied molecular orbital:HOMO)と、最低空軌道(lowest unoccupied molecular orbital:LUMO)と、三重項(T)エネルギーレベルとを意図的に調整でき、青色リン光発光物質を作ることも、そのホストにすることも、また、TADF現象を起こす化合物を構築することも可能である。
このように、任意の電子状態や任意の準位を意図的に設計、合成できる拡張性の大きさが、低分子化合物の第2の優位性の要因である。
(第3の要因):化合物合成の容易性
第2の要因と類似した理由(要因)ではあるが、低分子化合物は、発光ポリマー(LEP)に比べ、合成できる分子構造に制限がなく、とりわけ発光ポリマーにおいて主鎖をπ共役連結にするとなると、適用できる骨格や合成方法は限定的となるが、低分子化合物では新たな機能付与や物性値の調整(Tgや融点、溶解性など)を分子構造によって成し遂げることが相対的に容易であり、これが低分子化合物の第3の優位性の要因である。
2.低分子化合物を用いた湿式塗布法による有機機能層形成における課題
低分子化合物を用いた湿式塗布法による有機機能層形成における本質的な課題は、何かについて説明する。
有機EL素子に用いられるほぼ全ての材料は、有機EL素子内部においては、電子及び正孔が分子間をホッピング移動しなければならない。基本的に電子はLUMO準位を伝ってホッピングし、正孔はHOMO準位を使ってホッピングすることになる。
すなわち、必ず隣接する分子同士はπ共役系が重なり合うように存在しないと、そのようなキャリア伝導が起こらないため、可能な限りπ共役系ユニットだけで分子構造を形成することが有利である。
例えば、溶媒に対する溶解性を向上させるために、立体的に嵩高い置換基(sec-ブチル基や、tert-オクチル基、トリイソプロピルシリル基など)を一つの分子中に複数個置換してしまうと、分子間のπ共役系は重ね合わすことが難しくなり、嵩高い置換基の部分でホッピング移動が阻害されてしまう。
一方で、有機EL素子は発光中絶え間なく電流が流れていることから、例え量子効率的に100%であって、すなわち、キャリア再結合の確率が100%であり、熱失活が0%であったとしても、有機EL素子はキャリアを流し続けるために陽極と陰極との間に電位差を設けて電界勾配を付ける必要があるため、有機EL素子の等価回路は、ダイオードと抵抗の直列接続となる。
すなわち、通電発光中の有機EL素子の内部ではジュール熱が発生しており、実際に素子内部、特に再結合が起こる発光層内では100℃以上の発熱があることもわかっている。
また、有機EL素子全体の有機層厚は200nm程度の極めて薄い層であることから、熱は層(膜)間で伝導し、発光層のみならず、全ての層で高温状態が継続されることになる。
このような状態にさらされる有機分子は、それ自体のガラス転移点(Tg)を超えると、アモルファスの状態から結晶状態へと相転移を起こす。
この結晶は次第に成長し、数十nmを超えると、その化合物が存在していた層厚を超えることになり、有機EL素子としての層による機能分離ができなくなるために、結果として発光効率が低下することになる。
さらに、この結晶が有機EL素子の有機層全層(100~200nm)を超えてしまうと、陽極と陰極は短絡する。そして、その短絡した部分に電界集中が起こり、微小領域に大電流が流れることで、その部分の有機化合物は熱分解を起こしてしまい、全く発光しない部分、いわゆるダークスポットができてしまう。
つまり、有機EL素子の低分子化合物は、嵩高い非芳香族性の置換基を持たずに、かつ、ガラス転移点(Tg)が100℃以上(好ましくは150℃以上)を超えるような分子でなければならない。
このような分子を構築するには、通常、π共役系を大きくするか、芳香族基を単純連結するのであるが、通常の場合できてくる化合物は、溶媒に対する溶解性が極めて低くなり、塗布液になり得ないか、又は塗布できたとしても、結晶析出や物質の偏在などが生じることとなる。
このジレンマを解消する手立てとして、我々は、安定なアモルファス膜を形成し、通電中もそれを保持できるという画期的な技術をこれまでに開発してきた(例えば、特許第5403179号や特開2014-196258号公報等)。具体的には、嵩高く、フレキシビリティの高い分岐のアルキル基などを持たずに、芳香族基だけを連結しビアアリール構造とし、そのC-C結合軸周辺に発生する回転障害により数多くのコンフォメーションや幾何異性体を能動的に増やすことによって、又は、同一層中に存在する複数分子(例えば、ホストとドーパント)がさまざまな形状・形態で相互作用を起こすようにしてやることによって、膜中での成分数を増やせるため、薄膜状態でのエントロピーを増大させ、安定なアモルファス膜を形成することができる。
本発明者らは、湿式塗布法による有機EL素子の作製において、前述したような指針に則って低分子化合物の分子構造を改良し、乾燥条件等の最適化も図ったところ、発光効率は蒸着素子の95%、発光寿命は同90%と、飛躍的な改善を達成することができた。これにより、発光ドーパントにリン光ドーパント、とりわけ寿命向上が最も難しいとされている青色リン光ドーパントを用いた素子ですらも、塗布成膜法で、ほぼ従来の蒸着成膜法に匹敵する基礎特性を発揮しることを見いだしている。
しかしながら、このように性能が改善された有機EL素子にもまだ多くの課題が残存している。
それらの課題としては、例えば、低分子化合物の純度、当該化合物表面に付着している微量水分、使用する溶媒の酸素含有量、水分含有量などの除去が挙げられる。
また、例えば、一般的には塗布で用いる低分子化合物であっても、最高の性能を発現させるために、カラムクロマトグラフィーと再結晶を行った後に、昇華精製を行い、さらに有機化合物を使用又は保管する際には真空状態を経た後、窒素雰囲気に置換して用いられている。
このような、できる限りの悪影響を排除した、極めて厳格な管理の下において塗布法による有機EL素子を作製した場合であっても、蒸着法で作製した有機EL素子の性能を超えることは困難であった。
さらに、そもそも、真空を使った蒸着法の生産性が低いことが、有機EL素子の大型化や量産性、つまりコストに悪影響を与えるために、塗布法が注目されているのであるが、その塗布法もこのような厳格な管理の下で行うのでは、かえって蒸着法よりも生産性が低く、コスト高になってしまう。
3.化合物の精製方法について
(昇華精製)
低分子化合物の利点は高分子化合物よりも数多くの精製手段が活用でき、高純度にできる点である。しかし、結局のところ、一般的に現在実用されている有機EL素子を構成する有機化合物のほぼ全てが、昇華精製という精製手段を経て使用されている。
昇華精製は古典的な精製方法であるが、再結晶やカラムクロマトグラフィー、HPLCなどの精製方法に比べると圧倒的に精製効率(理論段数)は小さく、実質上は金属や無機物質などの除去と溶媒の除去を行うための手段として使われている。
なぜ昇華精製法が有機EL用の有機化合物で採用されているかというと、有機EL素子の製造プロセスが真空蒸着法を採用していることが主な理由である。有機化合物に溶媒がごく微量でも含まれていると、蒸着装置内で真空下に置いた際有機化合物中の溶媒が揮散し真空度を下げてしまう。それが連続生産を不可能にしてしまい、製造上の問題となる。そのため、精製時に溶媒が完璧に除去される昇華精製法が採用されているのである。
よって、有機EL素子の生産方式が蒸着法から塗布法に代わった際には、前記の理由から昇華精製法による有機化合物の精製は必須ではなくなる。
(再結晶)
次に、低分子有機化合物の精製法としては最も一般的な再結晶について考えてみる。
この方法は、熱力学第二法則(下記式(T1))に基づいた精製方法である。
式(T1): -ΔG=-ΔH+TΔS
物質は、物質相互間の存在距離が短くなるほどファンデルワールス力や水素結合力、π-π相互作用力、双極子-双極子相互作用力などが増大し、エンタルピー(-ΔH)は大きくなる。
一方で、物質が媒体に完全分散しているとき、すなわち溶解しているとき、物質は自由に動き回れるため、その乱雑さは増大し、エントロピー(ΔS)は大きくなる。
熱力学第二法則では、全ての存在状態は、ギプスの自由エネルギー(-ΔG)を一定に保つか、又は、大きくする方向に移行する。
すなわち、精製を施したい化合物Aを再結晶により精製するということは、次のように考えると、合理的に説明できる。
Aを溶かすことのできるBという溶媒中に高温でAを溶解するとAは分散状態で存在することになる。そのため、A同士間の存在距離が大きく互いに相互作用しにくくなるため、エンタルピー(-ΔH)は極めて小さくなる。
一方で、Aは溶液の中を自由に動き回れるためエントロピー(ΔS)は極めて大きい。この高温溶液を冷やすと、温度TがかかったTΔSは、冷やす前よりも小さくなる。そのとき、冷やす前後でギプスの自由エネルギー(-ΔG)を一定に保つためには、エンタルピー(-ΔH)を大きくせざるを得なくなる。
つまり、温度が下がってTΔSが小さくなった分、AはAとの距離を小さくしてエンタルピーを大きくしなければならなくなるのである。その極限状態が、AとAとの距離が最小となる結晶状態であり、それによってエンタルピー項(-ΔH)は増大していく。
こうしてエンタルピーが増大していくと、系内の成分数は減ってしまうため、エントロピーは小さくなり、その小さくなった分、また結晶を作ってエンタルピーを増大していく。
このように、まずは温度低下でエントロピー項(TΔS)が減少し、それを補うために結晶化によりエンタルピー(-ΔH)が増加し、またそれによって成分数が減るためにさらにエントロピー項が、今度はΔSの減少によって小さくなり、またその分結晶化が起こるという熱力学平衡を繰り返すことで、再結晶は成し遂げられるのである。
ただし、注意しなければならないのが、溶質Aと溶媒Bとの相互作用である。溶質Aは溶媒Bに溶媒和されることによって溶解するため、A-B間の相互作用が大きくなければそもそもAはBに溶解しない。しかし、相互作用が大きすぎると冷却して低下するエントロピー項の減少に打ち勝つ程、AとAとの距離を短くできないことになり(AとAとの間にはBが介在することになるために)、再結晶は起こらない結果となる。
つまり、A-A間の相互作用力とA-B間の相互作用力とを再結晶が起こる条件に調整できた場合のみ、この再結晶による精製方法が適用できる。
このような再結晶の精製方法では、一度に数百kg以上の大量精製も可能であることから、化学工業では古くからこの方法が使われている。
(カラムクロマトグラフィー)
次に、カラムクロマトグラフィー(以下、「クロマト法」ともいう。)について考えてみる。
カラムクロマトグラフィーの最も典型的なところは、固定相に微粒子シリカゲルを用い、そこに化合物Aを吸着させ、それを溶離液と呼ばれる移動相(B)で徐々に溶出させて行くというものである。
このとき、シリカゲル表面と化合物Aとの相互作用(吸着)に対して、移動相(B)との相互作用が拮抗する場合、Aはシリカと移動相Bとの間で、吸着-脱着の平衡を繰り返し、シリカとの相互作用が小さい場合は速く、相互作用が大きい場合には遅く、溶出して行く。
このときに、吸着-脱着平衡の往復回数が大きいほど理論段数(すなわち精製効率)が増大することから、クロマト法による精製効率は、固定相の長さに比例し、移動相の通過速度にも比例し、固定相の表面積にも比例することになる。
これを実現させたのが、高速液体クロマトグラフィーであり、これが、有機化合物の成分分析や品質保証に幅広く使われているのも、この理論に裏打ちされた高度の理論段数を実現できる希な手法であることに起因している。
このクロマト法が再結晶に比べ秀でる理由は、移動相Bの極性を任意に変更できる点である。例えば、移動相を最初から良溶媒と貧溶媒の混合溶媒にしておくことはもとより、精製の際に徐々に良溶媒比率を増やしていくグラジエント法を用い、さらに理論段数を増やせることが挙げられる。
また、温度も任意に変えることが可能であるため、精製可能となる溶質の適用範囲が極めて広く、ほぼ汎用的な精製法として活用できることが最大の特徴である。
一方、クロマト法の欠点もある。前述のように、理論段数を大きくするための根本的な原理が、吸着-脱着平衡を活用しているところにある。
例えば、移動相に化合物Aと相互作用が強い溶媒B′(すなわち良溶媒)だけを用いてクロマト法を行った場合、Aとシリカゲルとの相互作用よりも、Aと移動相B′との相互作用が強ければ、吸着-脱着平衡の往復回数が激減し、精製効果が低くなってしまう。
つまり、精製効果を高めるためには、良溶媒B′の他に、大過剰の貧溶媒Cを混合し、吸着-脱着平衡の往復回数を増やす必要がある。ただしこの場合、精製されて分取した化合物Aの溶液には、大過剰のCが含まれており、これを濃縮しなければならないことが最大の問題である。
例えば、1gのAを得るためには、良溶媒B′と貧溶媒Cの混合比率を1:99~10:90くらいにする必要があり、一般的にはおおよそ10Lから100Lの貧溶媒Cが必要となってしまう。そのため、HPLC分取は研究開発には適用されているものの、大量生産には使われていないのが実情である。
貧溶媒濃縮の問題を解決する手段が超臨界二酸化炭素を用いたHPLCである。超臨界二酸化炭素は、二酸化炭素を高温高圧で超臨界流体にしたものであり、その他の物質もこのような超臨界流体にすることは可能であるが、比較的低い圧力と温度で超臨界状態を実現できることから、クロマトや抽出では専ら二酸化炭素が使われている。
この超臨界二酸化炭素には、普通の流体や液体とは異なった特徴がある。それは、温度と圧力を変化させることで、溶解したいものの極性に合わせて、連続的に極性を変化させることができることである。
例えば、魚の頭に含まれているドコサヘキサエン酸を選択抽出する際にも、この超臨界二酸化炭素が使われているし、接着剤を用いている特殊な衣類のクリーニングにも、皮脂は溶かして接着剤は溶かさない超臨界二酸化炭素が使われている。
このように様々な極性を持たせることができる超臨界二酸化炭素であるが、比較的低い温度と圧力の領域で形成される超臨界二酸化炭素の極性は、シクロヘキサンやヘプタン程度である。現在市販されている超臨界HPLCでは、この程度の極性の超臨界二酸化炭素が、装置内で作られ、それが良溶媒と混合されてカラム内に入り、通常のHPLCと同様の機構で化合物の精製が行われる。
超臨界二酸化炭素を用いたHPLCのシステムでは、カラムを通過した後に検出器に入るが、通常はその段階までは高温高圧状態が保たれ、二酸化炭素も超臨界流体として存在している。その後常温常圧で分取されるまでの間に二酸化炭素はガスとなり、分取時には自ら溶液から抜けていくために、貧溶媒の濃縮が不要となる。この時、参考文献(生物工学会誌88巻、10号、525~528ページ、2010年)に記載の機液分離機構等を備えた二酸化炭素回収装置によって二酸化炭素を回収することが可能であり、再び超臨界流体としての利用も可能である。
そのため、高純度の新規合成化合物を数多く合成する必要のある創薬の業界では、最近この超臨界HPLCを積極的に活用するようになって来ており、その影響で分析用、分取用ともに販売価格が下がり、かなり一般的に使われるようになってきた。
以上述べてきたように、有機EL業界の生産性向上が望まれる中、低分子有機化合物の精製法はさまざまあるが、どれも一長一短あり、製造した化合物の特性、及びその化合物が要求される純度、残留する溶媒の可否などによって、しかるべき精製方法が選択され、また組み合わされて使われている。
4.有機EL化合物の溶解について
まず、溶解とは何かを考える。通常は、溶質Aを溶媒分子BがAとBとの相互作用力で取り囲み、Aの集合体をばらばらにしてAの回りにBを存在させることによって、すなわちAを孤立単一分子状態にすることをいうが、本当にそうなっているのかを確かめるのは難しい。
例えば、Aが溶解性の極めて低い、又は結晶性の高い分子だった場合、可視光の波長以上のサイズの結晶であれば、溶解していないことは、光散乱等で容易に検出できる。しかし、例えば、Aの数分子からなる微小結晶の回りを溶媒分子Bが取り囲んでいたといても、それは溶解しているように見えてしまう。有機EL素子では、これが後々大きな問題を引き起こす可能性がある。
つまり、蒸着成膜では、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などの薄い層(膜)を形成する際に、各層を構成する化合物は、真空蒸着により、基本的には気化された孤立単一分子の状態で基板上又は有機層上に着弾し、それが固体薄膜となって成膜されていく。そのため、基本的には単一分子のランダムな集合体で膜が形成され、理想的なアモルファス膜となる。
一方で、塗布成膜法の場合、もし仮に、塗布液が有機EL化合物の微結晶の分散物であった場合には、見た目では完全溶解しているように見えるが、得られる薄膜の実態は微結晶が寄せ集められた薄膜となる。そのため、例えばHOMOやLUMOの準位も単分子のそれではなく、スタックした集合体(結晶状態)のそれとなってしまい、性能の低下の要因となりうる。
また、経時では、その微結晶が核となり、粗大結晶へと成長していくことになるため、層間の機能分離ができなくなるばかりか、陽極と陰極を短絡させる大きな結晶となってしまうと、ダークスポットを発生させてしまうという大きな問題がある。
低分子を用いた塗布成膜素子に関しては、上述の長年の検討から、初期状態である塗布液をいかにして単分子分散状態に近似させるかが、まずは蒸着法と同等の性能を出すための必要条件となることは、明かである。
ここで、通常、厳密に溶解させたつもりの塗布液が、どのくらいの分子の分散物となっているかを小角X線散乱測定(small angle X-ray scattering:「SAXS」ともいう。)により解析した結果に基づき考えてみる。
図1は、破線が蒸着法で作製した薄膜を構成する化合物の微粒子の粒径分布曲線(横軸:粒径(nm)、縦軸:個数頻度)であり、実線が塗布法で作製した薄膜構成化合物の微粒子の粒径分布曲線である。どちらも同じ化合物を用いているため、直接比較することができる。
蒸着成膜における化合物の微粒子の粒径分布では、極大ピークに対応する位置の粒径が約2nmであり、単分散に近い粒径となっている。これは、分子一つ又は二つのサイズであることから、蒸着成膜では、ほぼ単一分子がランダムに配置されてアモルファス膜が形成されていることを表している。
一方で、塗布成膜における化合物の微粒子の粒径分布では、極大ピークに対応する位置の粒径が約4.5nmであり、蒸着成膜の粒径分布よりも幅広く分布している。
先にも述べたように、蒸着と塗布とで同じ化合物を用いていることから、化合物本来の結晶性や凝集性は同じであり、この違いは、塗布液の状態における分子の分散状態が、単一孤立分子ではなく、5から10分子の微結晶の分散物であったことが推測される。
この塗布液は1週間以上、いわゆる澄明な溶液であるのだが、X線で解析すると判明する数分子微結晶の分散物を、我々は溶解した溶液と勘違いしている訳である。
5.有機EL化合物の溶媒の純度について
有機EL素子は、励起状態になった発光材料が基底状態に戻る際に光を放つ現象を基本機能としているものである。
また、電極から発光層までの間は、電子及び正孔のホッピング現象を通じて輸送する必要がある。
まず、励起状態についてであるが、例えば、5%濃度の発光材料のドーピングを施した有機EL素子の場合、1000cd/mの輝度で、1年間発光させ続けるには、単純に計算して、一つのドーパントが約10億回励起子になる必要がある。
このとき、たった1回だけでも、励起子が水分子と反応すると、本来の分子とは違う化合物になってしまう。また、励起子が酸素分子と反応すると、何らかの酸化反応や酸化カップリング反応が起こってしまう。これが、有機EL素子の機能低下の原因となる化学変化の最も代表的な現象である。
また、発光材料以外の材料においても、ほぼ同じ回数、ラジカル状態になる訳で、ラジカルアニオン状態もカチオンラジカル状態も基底状態に比べれば活性種であることから、有機EL素子の機能低下の原因となる化学変化が起こる可能性がある。
つまり、水分子や酸素分子は、塗布液には一切あってはならないものであり、それが前提となる訳である。
ただし、工業上では、純度の高い無水溶媒は非常に高価であり、取り扱い性も難しい。そのため、結局、塗布法でコストダウンするためには、消耗剤となる溶媒でいかに汎用的なものを使えるかが重要である。
6.本発明に係る要素的技術について
[塗布液及び塗布液の製造方法]
本発明の塗布液は、溶液と、超臨界又は亜臨界状態の流体とを混合することで得られるものである。
<溶液>
塗布液に用いる溶液は、以下で説明する溶質と、溶媒とを含有することが好ましい。
(溶質)
本発明に係る塗布液に含有する溶質としては、特定種類・特定構造の化合物に限定されるものではないが、各種電子デバイスに用いられる有機化合物であることが、本発明の効果発現の観点から、好ましい。
例えば、本発明に係る塗布液を、有機EL素子を作製するための塗布液として用いる場合、溶質としての有機化合物が、有機エレクトロルミネッセンス用の材料(以下、「有機EL素子用材料」ともいう。)であることが好ましい。
有機EL素子用材料とは、後述する陽極と陰極との間に形成される有機機能層に用いることが可能な化合物をいう。また、これら陽極、陰極、及び有機EL素子用材料を含む有機機能層からなる発光素子を有機EL素子と呼ぶ。有機EL素子用材料として用いられる化合物例は、後述する。
また、本発明に係る塗布液を、光電変換素子を作製するための塗布液として用いる場合、溶質としての有機化合物が、光電変換素子用材料であることが好ましい。光電変換素子用材料としては、p型半導体材料やn型半導体材料であることが好ましく、これらの材料として用いられる化合物例は、後述する。
また、本発明の塗布液を有機EL素子や光電変換素子を構成する層を作製する用途で用いる場合には、塗布膜での機能低下を防ぐ観点から、溶質に用いられる有機化合物には不純物を含まないことが望ましい。
また、溶質として用いる有機化合物は、本発明では特に限られず、高分子化合物でも低分子化合物でもよいが、数多くの精製手段が活用でき、容易に高純度に精製できるという観点からは、分子量3000以下の低分子化合物であることが好ましい。
また、本発明の塗布液は、保存性を向上させる観点から、2種類以上の溶質を含有することが好ましい。
ここで、2種類以上の溶質を含有すると保存性が向上する理由について、熱力学的な観点から、混合ギブスエネルギーを用いて考えてみる。本発明に係る一の溶質を含有する塗布液と、当該一の溶質以外の少なくとも他の一種の溶質を含有する塗布液とを混合する場合、混合後のギブスエネルギーから、混合前のギブスエネルギーを引いた値である混合ギブスエネルギー(ΔGmix)は、下記式(A1)ように表すことができる。
式(A1): ΔGmix=RTΣ(Xln(X))
上記式(A1)において、Rは気体定数を表す。また、Tは絶対温度を表す。また、Xは全成分中の割合を表す。
ここで、ΣX=1であることから、ΔGmix<0となる。したがって、複数種の溶質を含有する場合には保存性が高くなるという効果が得られると考えられる。
(溶媒)
本発明において、塗布液中に含有される溶媒は、本発明に係る上記溶質を溶解又は分散し得る液状の媒体をいう。
本発明に係る上記溶質を溶解又は分散する液媒体としては、塩化メチレン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル等の脂肪酸エステル類、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、n-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノールのアルコール類、DMF(N,N-dimethylformamide)、DMSO(Dimethyl sulfoxide)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、メチルブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類等の有機溶媒が挙げられる。また、塗布膜にした際に当該塗布膜中の溶媒量を抑制する点から、沸点が50~180℃の範囲の溶媒が好ましい。
また、本発明では、塗布液を乾燥固化して塗布膜を作製する場合に、当該塗布膜中の溶媒残存量を減らして機能性の高い膜を作製する観点から、溶質の溶解度は、常温(20℃)において、0.001~5質量%の範囲内である溶媒を用いることが好ましい。
一般に、溶質を溶解させるためには、溶解度の高い溶媒を用いるが、溶解度の高い溶媒は、一般的にクロロベンゼンやグリセリン等の沸点が高いことが多く、溶媒を乾燥させるために大量のエネルギーが必要である。さらには、溶解度が高いということは、溶質である材料との相互作用が大きいことを示しており、乾燥中においても溶質と溶媒の相互作用力が大きいために、乾燥負荷はさらに大きくなる。また、乾燥工程を考えると、溶質と溶媒の相互作用に対し、溶質と溶質の相互作用が打ち勝つ形でないと、溶媒が除去されていかないため、必然的に分子間相互作用エンタルピーが強い状態で乾燥されることとなる。この結果として、乾燥後の塗布膜において、分子間相互作用力は非常に強固であり、粒径の大きい膜となりやすく、当該分子間相互作用力が顕著である場合には、凝集体が観測されることが多い。そのため、当該塗布膜中の溶媒残存量を減らして機能性の高い膜を作製する観点から、溶質の溶解度は、常温(20℃)において、0.001~5質量%の範囲内である溶媒を用いることが好ましい。
このような溶媒としては、上述した有機溶媒の中でも、エステル系溶媒や、エーテル系溶媒等が好ましく用いられる。
本発明に係る溶媒としては、溶質の種類に応じて無機溶媒も使用することができる。無機溶媒としては、例えば、水(HO)や溶融塩等が挙げられる。無機溶媒として用いることができる溶融塩は、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化カルシウムなどの金属ヨウ化物-ヨウ素の組み合わせ;テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなどの4級アンモニウム化合物のヨウ素塩-ヨウ素の組み合わせ;臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化セシウム、臭化カルシウムなどの金属臭化物-臭素の組み合わせ;テトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイドなどの4級アンモニウム化合物の臭素塩-臭素の組み合わせ;フェロシアン酸塩-フェリシアン酸塩、フェロセン-フェリシニウムイオンなどの金属錯体;ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール-アルキルジスルフィドなどのイオウ化合物;ビオロゲン色素、ヒドロキノン-キノンなどが挙げられる。
<超臨界又は亜臨界状態の流体>
本発明において、超臨界流体とは、超臨界状態にある物質のことである。
ここで、超臨界状態について説明する。物質は、温度、圧力(又は体積)等の環境条件の変化により気体、液体及び固体の三つの状態の間を移り変わるが、これは分子間力と運動エネルギーとのバランスで決定される。横軸に温度を、縦軸に圧力をとって気液固三態の移り変わりを表したものを状態図(相図)というが、その中で気体、液体及び固体の三相が共存し、平衡にある点を三重点という。三重点より温度が高い場合は、液体とその蒸気が平衡になる。この時の圧力は飽和蒸気圧であり、蒸発曲線(蒸気圧線)で表される。この曲線で表される圧力よりも低い圧力では液体は全部気化し、またこれよりも高い圧力を加えれば蒸気は全部液化する。圧力を一定にして温度も変化させてもこの曲線を超えると液体が蒸気に、また蒸気が液体になる。この蒸発曲線には、高温、高圧側に終点があり、これを臨界点(critical point)と呼ぶ。臨界点は物質を特徴づける重要な点であり、液体と蒸気との区別がつかなくなる状態で、気液の境界面も消失する。
臨界点より高温の状態では、気液共存状態を生じることなく液体と気体の間を移り変わることができる。
臨界温度以上でかつ臨界圧力以上の状態にある流体を超臨界流体といい、超臨界流体を与える温度・圧力領域を超臨界領域という。また、臨界温度以上又は臨界圧力以上のいずれかを満たした状態を亜臨界(膨張液体)状態といい、亜臨界状態にある流体を亜臨界流体という。超臨界流体及び亜臨界流体は、高い運動エネルギーを有する高密度流体であり、溶質を溶解するという点では液体的な挙動を示し、密度の可変性という点では気体的な特徴を示す。超臨界流体及び亜臨界流体の溶媒特性はいろいろあるが、低粘性で高拡散性であり固体材料への浸透性が優れていることが重要な特性である。
超臨界状態は、例えば、二酸化炭素であれば、臨界温度(以下、Tcともいう)31℃、臨界圧力(以下、Pcともいう)は7.38×10Pa、プロパン(Tc=96.7℃、Pc=43.4×10Pa)、エチレン(Tc=9.9℃、Pc=52.2×10Pa)等、この領域以上では流体は拡散係数が大きくかつ粘性が小さくなり物質移動、濃度平衡への到達が速く、かつ液体のように密度が高いため、溶質分子を均一に分散させることができる。
本発明に係る超臨界又は亜臨界状態の流体は、塗布液中の有機化合物の分解を抑制する観点から、臨界点の温度が300℃以下であることが好ましい。
本発明に係る超臨界又は亜臨界状態の流体は、温度20℃・圧力101325Pa(1気圧)の条件下で気体であることが好ましい。これにより、塗布膜中の超臨界又は亜臨界状態の流体の回収が迅速になり、塗布液を乾燥固化して塗布膜としたときに、超臨界又は亜臨界状態の流体を残留しないようにすることができる。
超臨界流体又は亜臨界流体として用いられる溶媒としては、二酸化炭素、一酸化二窒素、アンモニア、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エタン、プロパン、ブタン、ヘキサン、ペンタン等が好ましく用いられる。また、これらの中でも、超臨界又は亜臨界状態の流体が容易に製造しやすく、環境への負荷が低く、安定性が高く、低コストであるという観点から二酸化炭素を特に好ましく用いることができる。
超臨界流体又は亜臨界流体として用いる溶媒は1種類を単独で用いることも可能であるし、極性を調整するためのいわゆるモディファイヤ(エントレーナ)と呼ばれる物質を添加することも可能である。
モディファイヤとしては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒、塩化メチル、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、アセトアルデヒドジエチルアセタール等のアセタール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸系溶媒、アセトニトリル、ピリジン、N,N-ジメチルホルムアミド等の窒素化合物系溶媒、二硫化炭素、ジメチルスルホキシド等の硫黄化合物系溶媒、さらに水、硝酸、硫酸等が挙げられる。
超臨界流体又は亜臨界流体の使用温度は、特に限定はないが、超臨界流体又は亜臨界流体と溶質とを良好に混合する観点から、これらの種類に応じて、使用温度は20~600℃の範囲内とするのが好ましい。
超臨界流体又は亜臨界流体の使用圧力は、基本的に用いる物質の臨界圧力以上であれば特に限定はないが、圧力が低過ぎると、本発明に係る超臨界流体又は亜臨界流体と溶質との混合性が低下する場合があり、また圧力が高過ぎると製造装置の耐久性、操作時の安全性等の面で問題が生じる場合があるため、使用圧力は1~100MPaの範囲内とするのが好ましい。
超臨界流体又は亜臨界流体を使用する装置は、本発明に係る溶液が超臨界流体又は亜臨界流体と接触して超臨界流体又は亜臨界流体へ溶解する機能を有する装置であればなんら限定されることはなく、例えば、超臨界流体又は亜臨界流体を閉鎖系で使用するバッチ方式、超臨界流体又は亜臨界流体を循環させて使用する流通方式、バッチ方式と流通方式とを組み合わせた複合方式等の使用が可能である。
<溶液と超臨界又は亜臨界状態の流体との混合>
本発明の塗布液は、上述のとおり、上記溶液と、上記超臨界又は亜臨界状態の流体とを混合することによって製造するものである。混合する工程としては、上記溶液と、上記超臨界又は亜臨界状態の流体とが混合できる方法であれば、特に限られず、撹拌混合する方法でもよく、超臨界クロマトグラフィーを用いて混合する方法でもよい。また、混合方法としては、これらのうち、混合する工程と溶質を高純度とする工程とを同時に行うことができるという観点から、超臨界クロマトグラフィーを用いて混合する方法を用いることが好ましい。
また、撹拌混合する方法では、本発明の塗布液に用いる溶液を、予めゲル浸透クロマトグラフィー法等を用いて溶質が高純度となるように精製した後に、当該溶液と超臨界又は亜臨界状態の流体とを混合することが好ましい。
以下、超臨界クロマトグラフィー法について説明する。
<超臨界又は亜臨界クロマトグラフィー法>
超臨界又は亜臨界クロマトグラフィー法は、充填カラム、オープンカラム、キャピラリカラムを用いることができる。
(クロマトグラフィー用カラム)
クロマトグラフィー用カラムは、移動相に注入された試料中の目的の物質を分離することができる分離剤を有するカラムであれば特に限定されない。
分離剤は、目的の物質に応じて種々の分離剤の中から選ばれる。分離剤の形態は特に限定されない。例えば、粒子状の担体に担持されている状態でカラムに充填されていても良いし、カラムに収容される一体型の担体に担持されている状態でカラムに収容されていても良いし、分離剤からなる一体型の成形物としてカラムに収容されていても良い。
充填カラムを用いた方法では、図2に示すように、例えば、有機溶媒(二酸化炭素を含む)を含有する超臨界流体11、ポンプ12、モディファイヤ13、分離する有機化合物を注入するインジェクタ14、分離用のカラム15、検出器17、圧力調整弁18等を備えた装置を用いることができる。
カラム15は、カラムオーブン16内で温度調整される。充填剤としては従来のクロマトグラフィー法に用いられているシリカ、又は表面修飾したシリカ等適宜選択することができる。
本発明に係る超臨界又は亜臨界クロマトグラフィー法においては、移動相に試料を注入した後に、目的物質のうち、カラムからの溶出が最も遅い目的物質のピークのテーリングが減衰し終わる以前に次の試料注入を行うことが好ましい。このとき、移動相に試料を注入した後に、当該移動相の組成を変化させても良いし、組成を一定としても良い。特に大量の分離対象化合物の分取操作を行う場合には、移動相の組成を変化させることもできる。
移動相の組成を変化させる工程は、超臨界又は亜臨界流体と溶媒を含有する移動相の組成を変化させるものである。この工程により移動相の組成を変化させることで、ピークのテーリングの減衰を速めることができる。カラム吸着超臨界又は亜臨界流体クロマトグラフィーでは、特に比較的大量の分離対象化合物をロードする分取操作を行う場合には、ピークが顕著なテーリングを示す。このテーリングが減衰する前に次の試料を注入すると、テーリングしている成分が次に注入した試料のピーク成分に混入することとなり、分離した化合物の純度が低下し、不都合が生じる。そのため、テーリングの完全な減衰を待ってから次の試料の注入を行わなければならない。したがって、テーリングの減衰を速めることで次の試料注入のタイミングを速めることができることとなるが、本発明においては移動相の組成を変化させることで、ピーク成分のカラムからの押し出しを促進させ、テーリングの減衰を速めることができる。
移動相中の組成を変化させることは、液体クロマトグラフィーでいうステップグラジエント法と同様の効果を生じさせ、ピーク成分のカラムからの押し出しを促進させることで、テーリングの減衰を早めている。
超臨界又は亜臨界流体クロマトグラフィーは、高拡散性・低粘度の超臨界又は亜臨界流体を用いていることから、移動相の流速が大きく、カラムの平衡化も早い。そのため、移動相中の組成が一時的に変化しても、移動相中の組成を元に戻すとカラムは迅速に変化前の環境に復元することから、テーリングを減衰させた後直ちに次の試料を注入することができる。結果として、試料の時間当たりの処理量を増やすことができ、効率性・生産性が向上する。
本発明の移動相の組成を変化させる工程は、超臨界又は亜臨界クロマトグラフィー装置で行うことができる限り、どのような手法によるものでも良い。例えば、移動相中の溶媒比率を増加させることで、移動相の組成の変化を生じさせることができるし、圧力やカラム温度を有意に変化させることでも、移動相中のCO密度が変化し、これらを含めて移動相の組成変化とする。
移動相中には既に溶媒が含まれているが、移動相中に含ませる溶媒とは別途、カラムの上流で移動相生成装置の下流に溶媒注入装置を設け、移動相中の溶媒比率を増加させることができる。溶媒注入装置は、例えば注入する溶媒を保持するためのループ配管と流路切替弁、溶媒注入ポンプで構成される溶媒注入装置とすることができる。
溶媒注入装置に用いるループ配管は、所定の容積を有する管である。ループ配管を有すると、試料の注入の定量性が向上し、またより多量の試料を注入することが可能となり好ましい。本発明において、ループ配管の容積は、超臨界又は亜臨界流体クロマトグラフィー装置で用いられるカラムの種類やカラムの内径、目的の物質の種類、移動相の組成等の条件に応じて異なるが、一度に多量の溶媒を注入する必要があるため、溶媒注入装置が有するループ配管は試料注入装置が有するループ配管よりも大型で、多量の溶媒を保持できるものが適する。
溶媒注入装置に用いる流路切替弁は、移動相の流路に設けられる開閉自在な弁やコックであれば特に限定されない。例えば、二方弁やバタフライ弁を組み合わせて用いたり、三方弁を用いて移動相の流路の切り替えを行う弁が挙げられる。上記溶媒注入装置に用いる溶媒注入ポンプは、超臨界又は亜臨界クロマトグラフィー装置の試料注入などで用いられる高圧ポンプを用いることができる。
溶媒注入装置を用いた場合、溶媒の注入は、流路切替弁を切り替え溶媒注入ポンプによりカラムの移動相に溶媒を送りこむことで行われる。溶媒の注入は、試料の注入容積以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは5倍以上の溶媒を瞬時に注入することが好ましい。上限値としては、試料の注入容積の30倍以下、好ましくは20倍以下、より好ましくは15倍以下の溶媒を注入することが好ましい。このような溶媒注入量とすることで、ピークのテーリングの減衰がさらに早まることとなる。
溶媒注入装置から注入される溶媒は特に限定されるものではなく、例えば、移動相中に含有される溶媒と同一の溶媒であってもよいし、異なる溶媒であってもよい。また、注入される溶媒は1種でもよいし、2種以上でもよい。
特に、テーリングの減衰をさらに速める点で、極性の高い溶媒が好ましい。また、移動相中に含有される溶媒と比較して、より極性の高い溶媒を使用することが好ましい。
前記移動相の組成を変化させる工程及び移動相の組成を変化前に戻す工程の両工程は、瞬時に行うことが好ましい。ここでいう瞬時とは、移動相の変化を生じさせるのに十分な時間であれば良い。
ピーク検出の方法は、特段限定はされるものではないが、通常超臨界又は亜臨界クロマトグラフィーが有する検出器、例えば紫外吸光分光計により検出されたピークによりタイミングを計ることができる。
[塗布膜]
本発明の塗布膜は、本発明の塗布液の製造方法によって塗布液を得て、当該塗布液を乾燥固化してなる膜である。当該塗布膜は、有機EL素子や光電変換素子を構成する有機機能層に、好適に用いることができる。
塗布膜の製造方法としては、本発明の塗布液を塗布する工程と、当該塗布液を乾燥する工程とを有する。塗布する工程では、公知の塗布法を用いることができるが、大面積化でも均質な膜が得られやすく、かつ、低コストで製膜できるという観点から、例えば、インクジェット法、押し出し塗布法、スプレー塗布法、及びスピンコート法から選ばれる方法を用いることが好ましい。
ここで、これらの方法を用いて塗布する際には、超臨界又は亜臨界流体を含有する塗布液を用いて塗布してもよく、当該塗布液から超臨界又は亜臨界流体を除いた後の塗布液を用いて塗布してもよい。
(インクジェット塗布法による塗布工程)
有機EL用塗布液の塗布方法としては、インクジェット塗布法を用いて塗布することが好ましい。
インクジェット塗布法で用いられるインクジェットヘッドとしては、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でもよい。また、吐出方式としては、電気-機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気-熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)、放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いてもよい。また、印字方式としては、シリアルヘッド方式、ラインヘッド方式等を制限なく用いることができる。
ヘッドから射出するインク滴の体積は、0.5~100pLの範囲内とすることが好ましく、塗布ムラが少なく、かつ印字速度を高速化できる観点から、2~20pLの範囲内であることが、より好ましい。なお、インク滴の体積は、印加電圧の調整等によって適宜調整可能である。
印字解像度は、好ましくは180~10000dpi(dots per inch)の範囲内、より好ましくは360~2880dpiの範囲で、湿潤層厚とインク滴の体積等を考慮して適宜設定することができる。
本発明において、インクジェット塗布時(塗布直後)における湿潤塗膜の湿潤層厚は、適宜設定することができるが、好ましくは1~100μmの範囲内、より好ましくは1~30μmの範囲内、最も好ましくは1~5μmの範囲内において、本発明の効果がより顕著に奏される。なお、湿潤層厚は、塗布面積、印字解像度及びインク滴の体積から算出できる。
インクジェットによる印字方法には、ワンパス印字法とマルチパス印字法がある。
ワンパス印字法は、所定の印字領域を1回のヘッドスキャンで印字する方法である。対して、マルチパス印字法は、所定の印字領域を複数回のヘッドスキャンで印字する方法である。
ワンパス印字法では、所望とする塗布パターンの幅以上の幅に亘ってノズルが並設された広幅のヘッドを用いることが好ましい。同一の基材上に、互いにパターンが連続していない独立した複数の塗布パターンを形成する場合は、少なくとも各塗布パターンの幅以上の広幅ヘッドを用いればよい。
[有機EL素子]
また、本発明の有機EL素子は、本発明の塗布液を乾燥固化してなる塗布膜を有機機能層として備え、当該塗布膜が、有機EL素子用材料を含有する。
以下、有機EL素子及び有機EL素子用材料について説明する。
本発明の有機EL素子は、基板上に、陽極と陰極、及びこれらの電極間に挟持された1層以上の有機機能層を有している。
有機機能層には少なくとも発光層が含まれるが、発光層とは広義には、陰極と陽極とからなる電極に電流を流した際に発光する層のことを指し、具体的には、陰極と陽極とからなる電極に電流を流した際に発光する有機化合物を含有する層を指す。
本発明に用いられる有機EL素子は、必要に応じ、発光層の他に、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層及び電子輸送層を有していてもよく、これらの層が陰極と陽極とで挟持された構造をとる。
有機EL素子用材料として用いられる化合物としては、発光層、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層及び電子輸送層等の有機機能層に一般的に用いられる公知の有機化合物を用いることができる。有機EL素子用材料の具体例は後述する。
また、以下に、基板上に有する有機EL素子の層構成の好ましい具体例を以下に示すが、これらに限定されない。
(i)陽極/発光層/陰極
(ii)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
(iii)陽極/発光層/電子注入層/陰極
(iv)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
(v)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(vi)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
さらに、電子注入層と陰極との間に、陰極バッファー層(例えば、フッ化リチウム等)を挿入してもよく、陽極と正孔注入層との間に、陽極バッファー層(例えば、銅フタロシアニン等)を挿入してもよい。
以下、基板と、有機EL素子の各層構成について詳細に説明する。
(基板)
本発明の有機EL素子に用いることのできる基板(以下、基体、支持基板、基材、支持体等ともいう)としては、特に限定は無く、ガラス基板、プラスチック基板等を用いることができ、また透明であっても不透明であってもよい。基板側から光を取り出す場合には、基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な基板としては、ガラス、石英、透明プラスチック基板を挙げることができる。
また、基板としては、基板側からの酸素や水の侵入を阻止するため、JIS Z-0208に準拠した試験において、その厚さが1μm以上で水蒸気透過度が1g/(m・24h)(20℃)以下であるものが好ましい。
ガラス基板としては、具体的には、例えば無アルカリガラス、低アルカリガラス、ソーダライムガラス等が挙げられる。水分の吸着が少ない点からは無アルカリガラスが好ましいが、充分に乾燥を行えばこれらのいずれを用いてもよい。
プラスチック基板は、可撓性が高く、軽量で割れにくいこと、さらに有機EL素子のさらなる薄型化を可能にできること等の理由で近年注目されている。
プラスチック基板の基材として用いられる樹脂フィルムとしては、特に限定は無く、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル又はポリアリレート類、有機無機ハイブリッド樹脂等からなる樹脂フィルムを挙げることができる。有機無機ハイブリッド樹脂としては、有機樹脂とゾル・ゲル反応によって得られる無機高分子(例えばシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等)を組み合わせて得られるものが挙げられる。これらのうちでは、特にアートン(JSR(株)製)又はアペル(三井化学(株)製)といったノルボルネン(又はシクロオレフィン系)樹脂が好ましい。
通常生産されているプラスチック基板は水分の透過性が比較的高く、また基板内部に水分を含有している場合もある。そのため、このようなプラスチック基板を用いる際には、樹脂フィルム上に水蒸気や酸素などの侵入を抑制する膜(以下、「ガスバリアー膜」又は「水蒸気封止膜」という)を設けたものが好ましい。
ガスバリアー膜を構成する材料は、特に限定は無く、無機物、有機物の被膜又はその両者のハイブリッド等が用いられる。被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が0.01g/(m・24h)以下のガスバリアー性フィルムであることが好ましく、更には、JIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10-3mL/(m・24h・atm)以下、水蒸気透過度が、1×10-5g/(m・24h)以下の高ガスバリアー性フィルムであることが好ましい。
ガスバリアー膜を構成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であれば特に限定は無く、例えば金属酸化物、金属酸窒化物又は金属窒化物等の無機物、有機物、又はその両者のハイブリッド材料等を用いることができる。金属酸化物、金属酸窒化物又は金属窒化物としては酸化ケイ素、酸化チタン、酸化インジウム、酸化スズ、インジウム・スズ酸化物(ITO)、酸化アルミニウム等の金属酸化物、窒化ケイ素等の金属窒化物、酸窒化ケイ素、酸窒化チタン等の金属酸窒化物等が挙げられる。
更に該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
ガスバリアー膜は、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が0.01g/(m・24h)以下のガスバリアー性フィルムであることが好ましく、更には、JIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10-3mL/(m・24h・atm)以下、水蒸気透過度が、1×10-5g/(m・24h)以下の高ガスバリアー性フィルムであることが好ましい。
前記樹脂フィルムに、ガスバリアー膜を設ける方法は、特に限定されず、いかなる方法でもよいが、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、CVD法(化学的気相堆積:例えば、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法など)、コーティング法、ゾルゲル法等を用いることができる。これらのうち、緻密な膜を形成できる点から、大気圧又は大気圧近傍でのプラズマCVD処理による方法が好ましい。
不透明な基板としては、例えば、アルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
(陽極)
有機EL素子の陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、金属の電気伝導性化合物、又はこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。ここで、「金属の電気伝導性化合物」とは、金属と他の物質との化合物のうち電気伝導性を有するものをいい、具体的には、例えば、金属の酸化物、ハロゲン化物等であって電気伝導性を有するものをいう。
このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウム・スズ酸化物(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。上記陽極は、これらの電極物質からなる薄膜を、蒸着やスパッタリング等の公知の方法により、前記基板上に形成させることで作製することができる。
また、この薄膜にフォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、また、パターン精度を余り必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
陽極から発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましい。また、陽極としてのシート抵抗は、数百Ω/sq.以下が好ましい。さらに陽極の層厚は、構成する材料にもよるが、通常10nm~1μm、好ましくは10~200nmの範囲内で選ばれる。
(発光層)
本発明に係る発光層は、電極又は電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。発光層は単一の組成を持つ層であってもよいし、同一又は異なる組成をもつ複数の層からなる積層構造であってもよい。
この発光層自体に、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層及び電子輸送層等の機能を付与してもよい。すなわち、発光層に(1)電界印加時に、陽極又は正孔注入層により正孔を注入することができ、かつ陰極又は電子注入層より電子を注入することができる注入機能、(2)注入した電荷(電子と正孔)を電界の力で移動させる輸送機能、(3)電子と正孔の再結合の場を発光層内部に提供し、これを発光につなげる発光機能のうちの少なくとも一つの機能を付与してもよい。なお、発光層は、正孔の注入されやすさと電子の注入されやすさに違いがあってもよく、また、正孔と電子の移動度で表される輸送機能に大小があってもよいが、少なくともどちらか一方の電荷を移動させる機能を有するものが好ましい。
(発光層に用いられる有機EL素子用材料)
この発光層に用いられる有機EL素子用材料の種類については、特に制限はなく、従来、有機EL素子における発光材料として公知のものを用いることができる。このような発光材料は、主に有機化合物であり、所望の色調により、例えば、Macromol.Symp.125巻17~26頁に記載の化合物が挙げられる。また、発光材料はp-ポリフェニレンビニレンやポリフルオレンのような高分子材料でもよく、さらに前記発光材料を側鎖に導入した高分子材料や前記発光材料を高分子の主鎖とした高分子材料を使用してもよい。なお、上述したように、発光材料は、発光性能の他に、正孔注入機能や電子注入機能を併せ持っていてもよいため、後述する正孔注入材料や電子注入材料のほとんどが発光材料としても使用できる。
有機EL素子を構成する層において、その層が2種以上の有機化合物で構成されるとき、主成分をホスト、その他の成分をドーパントといい、発光層においてホストとドーパントを併用する場合、主成分であるホスト化合物に対する発光層のドーパント(以下発光ドーパントともいう)の混合比は好ましくは質量で0.1~30質量%未満である。
発光層に用いられるドーパントは、大きく分けて、蛍光を発光する蛍光性ドーパントとリン光を発光するリン光性ドーパントの2種類がある。
蛍光性ドーパントの代表例としては、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、又は希土類錯体系蛍光体、その他公知の蛍光性化合物等が挙げられる。
本発明に係る発光層に用いられる発光材料としては、リン光性化合物を含有することが好ましい。
本発明においてリン光性化合物とは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、リン光量子収率が25℃において0.001以上の化合物である。リン光量子収率は好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.1以上である。上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明に用いられるリン光性化合物は、任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率が達成されればよい。
リン光性ドーパントはリン光性化合物であり、その代表例としては、好ましくは元素の周期律表で8~10族の金属を含有する錯体系化合物であり、さらに好ましくは、イリジウム化合物、オスミウム化合物、ロジウム化合物、パラジウム化合物、又は白金化合物(白金錯体系化合物)であり、中でも好ましくはイリジウム化合物、ロジウム化合物、白金化合物であり、最も好ましくはイリジウム化合物である。
ドーパントの例としては、以下の文献又は特許公報に記載されている化合物である。J.Am.Chem.Soc.123巻4304~4312頁、WO00/70655、同01/93642、同02/02714、同02/15645、同02/44189、同02/081488、特開2002-280178号公報、同2001-181616号公報、同2002-280179号公報、同2001-181617号公報、同2002-280180号公報、同2001-247859号公報、同2002-299060号公報、同2001-313178号公報、同2002-302671号公報、同2001-345183号公報、同2002-324679号公報、同2002-332291号公報、同2002-50484号公報、同2002-332292号公報、同2002-83684号公報、特表2002-540572号公報、特開2002-117978号公報、同2002-338588号公報、同2002-170684号公報、同2002-352960号公報、同2002-50483号公報、同2002-100476号公報、同2002-173674号公報、同2002-359082号公報、同2002-175884号公報、同2002-363552号公報、同2002-184582号公報、同2003-7469号公報、特表2002-525808号公報、特開2003-7471号公報、特表2002-525833号公報、特開2003-31366号公報、同2002-226495号公報、同2002-234894号公報、同2002-235076号公報、同2002-241751号公報、同2001-319779号公報、同2001-319780号公報、同2002-62824号公報、同2002-100474号公報、同2002-203679号公報、同2002-343572号公報、同2002-203678号公報等。
以下に、リン光性ドーパントの具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
Figure 0007020478000001
Figure 0007020478000002
Figure 0007020478000003
発光ドーパントは1種のみを用いてもよいし、複数種類を用いてもよく、これらドーパントからの発光を同時に取り出すことにより、複数の発光極大波長を持つ発光素子を構成することもできる。また、例えばリン光性ドーパントと、蛍光性ドーパントの両方が加えられていてもよい。複数の発光層を積層して有機EL素子を構成する場合、それぞれの層に含有される発光ドーパントは同じであっても異なっていても、単一種類であっても複数種類であってもよい。
さらには、前記発光ドーパントを高分子鎖に導入した、又は前記発光ドーパントを高分子の主鎖とした高分子材料を使用してもよい。
上記ホスト化合物としては、例えばカルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体、芳香族ボラン誘導体、含窒素複素環化合物、チオフェン誘導体、フラン誘導体、オリゴアリーレン化合物等の基本骨格を有するものが挙げられ、後述の電子輸送材料及び正孔輸送材料もその相応しい一例として挙げられる。青色又は白色の発光素子、表示装置及び照明装置に適用する場合には、ホスト化合物の蛍光極大波長が415nm以下であることが好ましく、リン光性ドーパントを用いる場合、ホスト化合物のリン光の0-0バンドが450nm以下であることがさらに好ましい。発光ホストとしては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、かつ、発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。
発光ホストの具体例としては、例えば以下の文献に記載されている化合物が好適である。
特開2001-257076号公報、同2002-308855号公報、同2001-313179号公報、同2002-319491号公報、同2001-357977号公報、同2002-334786号公報、同2002-8860号公報、同2002-334787号公報、同2002-15871号公報、同2002-334788号公報、同2002-43056号公報、同2002-334789号公報、同2002-75645号公報、同2002-338579号公報、同2002-105445号公報、同2002-343568号公報、同2002-141173号公報、同2002-352957号公報、同2002-203683号公報、同2002-363227号公報、同2002-231453号公報、同2003-3165号公報、同2002-234888号公報、同2003-27048号公報、同2002-255934号公報、同2002-260861号公報、同2002-280183号公報、同2002-299060号公報、同2002-302516号公報、同2002-305083号公報、同2002-305084号公報、同2002-308837号公報等。
発光ドーパントはホスト化合物を含有する層全体に分散されていてもよいし、部分的に分散されていてもよい。発光層にはさらに別の機能を有する化合物が加えられていてもよい。
(正孔注入層及び正孔輸送層)
正孔注入層に用いられる有機EL素子用材料(以下、「正孔注入材料」ともいう。)は、正孔の注入、電子の障壁性のいずれかを有するものである。また、正孔輸送層に用いられる有機EL素子用材料(以下、「正孔輸送材料」ともいう。)は、電子の障壁性を有するとともに正孔を発光層まで輸送する働きを有するものである。したがって、本発明においては、正孔輸送層は正孔注入層に含まれる。これら正孔注入材料及び正孔輸送材料は、有機物、無機物のいずれであってもよい。
具体的には、例えばトリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、ポルフィリン化合物、チオフェンオリゴマー等の導電性高分子オリゴマーが挙げられる。これらのうちでは、アリールアミン誘導体及びポルフィリン化合物が好ましい。アリールアミン誘導体の中では、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物が好ましく、芳香族第三級アミン化合物がより好ましい。
上記芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′-テトラフェニル-4,4′-ジアミノフェニル;N,N′-ジフェニル-N,N′-ビス(3-メチルフェニル)-〔1,1′-ビフェニル〕-4,4′-ジアミン(TPD);2,2-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)プロパン;1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′-テトラ-p-トリル-4,4′-ジアミノビフェニル;1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)-4-フェニルシクロヘキサン;ビス(4-ジメチルアミノ-2-メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′-ジフェニル-N,N′-ジ(4-メトキシフェニル)-4,4′-ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′-テトラフェニル-4,4′-ジアミノジフェニルエーテル;4,4′-ビス(ジフェニルアミノ)ビフェニル;N,N,N-トリ(p-トリル)アミン;4-(ジ-p-トリルアミノ)-4′-〔4-(ジ-p-トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4-N,N-ジフェニルアミノ-(2-ジフェニルビニル)ベンゼン;3-メトキシ-4′-N,N-ジフェニルアミノスチルベン;N-フェニルカルバゾール、さらには、米国特許第5061569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば4,4′-ビス〔N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル(以下、α-NPDと略す。)、特開平4-308688号に記載されているトリフェニルアミンユニットが三つスターバースト型に連結された4,4′,4″-トリス〔N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。また、p型-Si、p型-SiC等の無機化合物も正孔注入材料として使用することができる。
また、正孔輸送層の正孔輸送材料は、415nm以下に蛍光極大波長を有することが好ましい。すなわち、正孔輸送材料は、正孔輸送能を有しつつかつ、発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高Tgである化合物が好ましい。
正孔注入層及び正孔輸送層は、上記正孔注入材料及び正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット法、転写法、印刷法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。
正孔注入層及び正孔輸送層の厚さについては、特に制限はないが、通常は5nm~5μm程度である。なお、上記正孔注入層及び正孔輸送層は、それぞれ上記材料の1種又は2種以上からなる1層構造であってもよく、同一組成又は異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。また、正孔注入層と正孔輸送層を両方設ける場合には、上記の材料のうち、通常、異なる材料を用いるが、同一の材料を用いてもよい。
(電子注入層及び電子輸送層)
電子注入層は、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。この電子注入層に用いられる有機EL素子用材料(以下、「電子注入材料」ともいう。)の例としては、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。
また、特開昭59-194393号公報に記載されている一連の電子伝達性化合物は、該公報では発光層を形成する材料として開示されているが、本発明者らが検討の結果、電子注入材料として用いうることが分かった。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子注入材料として用いることができる。
また、8-キノリノール誘導体の金属錯体、例えばトリス(8-キノリノール)アルミニウム(Alqと略す。)、トリス(5,7-ジクロロ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7-ジブロモ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(2-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、ビス(8-キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も電子注入材料として用いることができる。
その他、メタルフリーやメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも電子注入材料として好ましく用いることができる。また、正孔注入層と同様にn型-Si、n型-SiC等の無機半導体も電子注入材料として用いることができる。
電子輸送層に用いられる好ましい有機EL素子用材料は、415nm以下に蛍光極大波長を有することが好ましい。すなわち、電子輸送層に用いられる有機EL素子用材料は、電子輸送能を有しつつかつ、発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高Tgである化合物が好ましい。
電子注入層は、上記電子注入材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット法、転写法、印刷法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。
また、電子注入層としての厚さは特に制限はないが、通常は5nm~5μmの範囲で選ばれる。この電子注入層は、これらの電子注入材料の1種又は2種以上からなる1層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
なお、本明細書においては、前記電子注入層のうち、発光層と比較してイオン化エネルギーが大きい場合には、特に電子輸送層と呼ぶこととする。したがって、本明細書においては、電子輸送層は電子注入層に含まれる。
上記電子輸送層は、正孔阻止層(ホールブロック層)ともいわれ、その例としては、例えば、WO00/70655号、特開2001-313178号公報、特開平11-204258号公報、同11-204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日 エヌ・ティー・エス社発行)」の第237頁等に記載されているものが挙げられる。特に発光層にオルトメタル錯体系ドーパントを用いるいわゆる「リン光発光素子」においては、前記(v)及び(vi)のように電子輸送層(正孔阻止層)を有する構成を採ることが好ましい。
(バッファー層)
陽極と発光層又は正孔注入層の間、及び、陰極と発光層又は電子注入層との間にはバッファー層(電極界面層)を存在させてもよい。バッファー層とは、駆動電圧低下や発光効率向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日 エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(第123~166頁)に詳細に記載されており、陽極バッファー層と陰極バッファー層とがある。
陽極バッファー層は、特開平9-45479号、同9-260062号、同8-288069号等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
陰極バッファー層は、特開平6-325871号、同9-17574号、同10-74586号等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。
上記バッファー層はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるが、その厚さは0.1~100nmの範囲が好ましい。さらに、上記基本構成層の他に、必要に応じてその他の機能を有する層を適宜積層してもよい。
(陰極)
有機EL素子の陰極としては、一般に仕事関数の小さい(4eV未満)金属(以下、電子注入性金属と称する)、合金、金属の電気伝導性化合物又はこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。
このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、マグネシウム、リチウム、アルミニウム、インジウム、希土類金属、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物等が挙げられる。
本発明においては、上記に列挙したものを陰極の電極物質として用いてもよいが、本発明の効果をより有効に発揮させる点からは、陰極は第13族金属元素を含有してなることが好ましい。すなわち本発明では、後述するように陰極の表面をプラズマ状態の酸素ガスで酸化して、陰極表面に酸化皮膜を形成することにより、それ以上の陰極の酸化を防止し、陰極の耐久性を向上させることができる。
したがって、陰極の電極物質としては、陰極に要求される好ましい電子注入性を有する金属であって、緻密な酸化皮膜を形成しうる金属であることが好ましい。
前記第13族金属元素を含有してなる陰極の電極物質としては、具体的には、例えば、アルミニウム、インジウム、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物等が挙げられる。なお、上記混合物の各成分の混合比率は、有機EL素子の陰極として従来公知の比率を採用することができるが、特にこれに限定されない。上記陰極は、上記の電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により、前記有機機能層上に薄膜形成することにより、作製することができる。
また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/sq.以下が好ましく、層厚は、通常10nm~1μm、好ましくは50~200nmの範囲で選ばれる。なお、発光光を透過させるために、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方を透明又は半透明にすると、発光効率が向上して好ましい。
[有機EL素子の製造方法]
本発明の有機EL素子の製造方法の一例として、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる有機EL素子の製造法について説明する。
まず適当な基体上に、所望の電極物質、例えば陽極用物質からなる薄膜を、1μm以下、好ましくは10~200nmの厚さになるように、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陽極を作製する。
次に、この上に、上述した有機EL素子用材料を含有する正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層及び正孔阻止層の有機化合物薄膜を順に形成させる。ここで、本発明の組成物を用いて発光層を形成することが好ましい。
これらの有機化合物薄膜の薄膜化の方法としては、上述したように、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、蒸着法、印刷法等があるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが生成しにくい等の点から、真空蒸着法又はスピンコート法が好ましく、本発明においては、本発明の塗布液を用いることができる点でスピンコート法が特に好ましい。
また、層ごとに異なる成膜法を適用してもよい。成膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は、使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50~450度、真空度10-6~10-2Pa、蒸着速度0.01~50nm/秒、基板温度-50~300℃、厚さ0.1nm~5μmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
これらの層を形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは50~200nmの範囲の厚さになるように、例えば蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陰極を設けることにより、所望の有機EL素子が得られる。この有機EL素子の作製は、1回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる成膜法を施してもかまわない。その際、作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行う等の配慮が必要となる。
[有機EL素子の封止]
有機EL素子の封止手段としては、特に限られないが、例えば、有機EL素子の外周部を封止用接着剤で封止した後、有機EL素子の発光領域を覆うように封止部材を配置する方法が挙げられる。
封止用接着剤としては、例えば、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2-シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
封止部材としては、有機EL素子を薄膜化することできる観点から、ポリマーフィルム及び金属フィルムを好ましく使用することができる。
封止部材と有機EL素子の発光領域との間隙には、封止用接着剤の他には、気相及び液相では窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することもできる。また、封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙を真空とすることや、間隙に吸湿性化合物を封入することもできる。
[表示装置]
本発明の有機EL素子を用いる多色表示装置は、発光層形成時のみシャドーマスクを設け、他層は共通であるので、シャドーマスク等のパターニングは不要であり、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等で膜を形成できる。
発光層のみパターニングを行う場合、その方法に限定はないが、好ましくは蒸着法、インクジェット法、印刷法である。蒸着法を用いる場合においてはシャドーマスクを用いたパターニングが好ましい。
また、作製順序を逆にして、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。
このようにして得られた多色表示装置に、直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を-の極性として電圧2~40V程度を印加すると、発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。さらに、交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が-の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
多色表示装置は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。表示デバイス、ディスプレイにおいて、青、赤、緑発光の3種の有機EL素子を用いることにより、フルカラーの表示が可能となる。
表示デバイス、ディスプレイとしてはテレビ、パソコン、モバイル機器、AV機器、文字放送表示、自動車内の情報表示等が挙げられる。特に静止画像や動画像を再生する表示装置として使用してもよく、動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。
発光光源としては家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれに限定するものではない。
また、本発明に係る有機EL素子に共振器構造を持たせた有機EL素子として用いてもよい。
このような共振器構造を有した有機EL素子の使用目的としては、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、これらに限定されない。また、レーザー発振をさせることにより、上記用途に使用してもよい。
本発明の有機EL素子は、照明用や露光光源のような一種のランプとして使用してもよいし、画像を投影するタイプのプロジェクション装置や、静止画像や動画像を直接視認するタイプの表示装置(ディスプレイ)として使用してもよい。動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は、単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。又は、異なる発光色を有する本発明の有機EL素子を2種以上使用することにより、フルカラー表示装置を作製することが可能である。
本発明の有機EL素子から構成される表示装置の一例を図面に基づいて以下に説明する。
図3は、有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図である。有機EL素子の発光により画像情報の表示を行う、例えば、携帯電話等のディスプレイの模式図である。ディスプレイ41は、複数の画素を有する表示部A、画像情報に基づいて表示部Aの画像走査を行う制御部B等からなる。制御部Bは、表示部Aと電気的に接続され、複数の画素それぞれに外部からの画像情報に基づいて走査信号と画像データ信号を送り、走査信号により走査線毎の画素が画像データ信号に応じて順次発光して画像走査を行って画像情報を表示部Aに表示する。
図4は、表示部Aの模式図である。表示部Aは基板上に、複数の走査線55及びデータ線56を含む配線部と、複数の画素53等とを有する。表示部Aの主要な部材の説明を以下に行う。
図4においては、画素53の発光した光が、白矢印方向(下方向)へ取り出される場合を示している。配線部の走査線55及び複数のデータ線56は、それぞれ導電材料からなり、走査線55とデータ線56は格子状に直交して、直交する位置で画素53に接続している(詳細は図示せず)。画素53は、走査線55から走査信号が印加されると、データ線56から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素を、適宜、同一基板上に並置することによって、フルカラー表示が可能となる。
次に、画素の発光プロセスを説明する。
図5は、画素の回路を示した概略図である。画素は、有機EL素子60、スイッチングトランジスタ61、駆動トランジスタ62、コンデンサー63等を備えている。複数の画素に有機EL素子60として、赤色、緑色、青色発光の有機EL素子を用い、これらを同一基板上に並置することでフルカラー表示を行うことができる。
図5において、制御部B(図5には図示せず、図3に示す。)からデータ線56を介してスイッチングトランジスタ61のドレインに画像データ信号が印加される。そして、制御部Bから走査線55を介してスイッチングトランジスタ61のゲートに走査信号が印加されると、スイッチングトランジスタ61の駆動がオンし、ドレインに印加された画像データ信号がコンデンサー63と駆動トランジスタ62のゲートに伝達される。
画像データ信号の伝達により、コンデンサー63が画像データ信号の電位に応じて充電されるとともに、駆動トランジスタ62の駆動がオンする。駆動トランジスタ62は、ドレインが電源ライン67に接続され、ソースが有機EL素子60の電極に接続されており、ゲートに印加された画像データ信号の電位に応じて電源ライン67から有機EL素子60に電流が供給される。
制御部Bの順次走査により走査信号が次の走査線55に移ると、スイッチングトランジスタ61の駆動がオフする。しかし、スイッチングトランジスタ61の駆動がオフしてもコンデンサー63は充電された画像データ信号の電位を保持するので、駆動トランジスタ62の駆動はオン状態が保たれて、次の走査信号の印加が行われるまで有機EL素子60の発光が継続する。順次走査により、次に走査信号が印加されたとき、走査信号に同期した次の画像データ信号の電位に応じて駆動トランジスタ62が駆動して有機EL素子60が発光する。すなわち、有機EL素子60の発光は、複数の画素それぞれの有機EL素子60に対して、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタ61と駆動トランジスタ62を設けて、複数の画素53それぞれの有機EL素子60の発光を行っている。このような発光方法をアクティブマトリクス方式と呼んでいる。
ここで、有機EL素子60の発光は、複数の階調電位を持つ多値の画像データ信号による複数の階調の発光でもよいし、2値の画像データ信号による所定の発光量のオン、オフでもよい。
また、コンデンサー63の電位の保持は、次の走査信号の印加まで継続して保持してもよいし、次の走査信号が印加される直前に放電させてもよい。
本発明においては、上述したアクティブマトリクス方式に限らず、走査信号が走査されたときのみデータ信号に応じて有機EL素子を発光させるパッシブマトリクス方式の発光駆動でもよい。
図6は、パッシブマトリクス方式による表示装置の模式図である。図6において、複数の走査線55と複数の画像データ線56が画素53を挟んで対向して格子状に設けられている。順次走査により走査線55の走査信号が印加されたとき、印加された走査線55に接続している画素53が画像データ信号に応じて発光する。パッシブマトリクス方式では画素53にアクティブ素子が無く、製造コストの低減を図ることができる。
[光電変換素子及び太陽電池]
塗布液中の溶質として、光電変換素子用材料を用いた場合、塗布液を乾燥固化してなる膜は、光電変換素子を構成する有機機能層として、好適に用いることができる。
以下、光電変換素子用材料、光電変換素子及び太陽電池の詳細を説明する。
図7は、バルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子からなるシングル構成(バルクヘテロジャンクション層が1層の構成)の太陽電池の一例を示す断面図である。
図7において、バルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子200は、基板201の一方面上に、透明電極(陽極)202、正孔輸送層207、バルクヘテロジャンクション層の光電変換部204、電子輸送層(又はバッファー層ともいう。)208及び対極(陰極)203が順次積層されている。
基板201は、順次積層された透明電極202、光電変換部204及び対極203を保持する部材である。本実施形態では、基板201側から光電変換される光が入射するので、基板201は、この光電変換される光を透過させることが可能な、すなわち、この光電変換すべき光の波長に対して透明な部材であることが好ましい。基板201は、例えば、ガラス基板や樹脂基板等が用いられる。この基板201は、必須ではなく、例えば、光電変換部204の両面に透明電極202及び対極203を形成することでバルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子200が構成されてもよい。
光電変換部204は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する層であって、光電変換素子用材料であるp型半導体材料とn型半導体材料とを一様に混合したバルクヘテロジャンクション層を有して構成される。
p型半導体材料は、相対的に電子供与体(ドナー)として機能し、n型半導体材料は、相対的に電子受容体(アクセプター)として機能する。ここで、電子供与体及び電子受容体は、“光を吸収した際に、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)を形成する電子供与体及び電子受容体”であり、電極のように単に電子を供与又は受容するものではなく、光反応によって、電子を供与又は受容するものである。
図7において、基板201を介して透明電極202から入射された光は、光電変換部204のバルクヘテロジャンクション層における電子受容体又は電子供与体で吸収され、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)が形成される。
発生した電荷は、内部電界、例えば、透明電極202と対極203の仕事関数が異なる場合では透明電極202と対極203との電位差によって、電子は電子受容体間を通り、また正孔は電子供与体間を通り、それぞれ異なる電極へ運ばれ光電流が検出される。例えば、透明電極202の仕事関数が対極203の仕事関数よりも大きい場合では、電子は透明電極202へ、正孔は対極203へ輸送される。
なお、仕事関数の大小が逆転すれば、電子と正孔はこれとは逆方向に輸送される。
また、透明電極202と対極203との間に電位をかけることにより、電子と正孔の輸送方向を制御することもできる。
また、光電変換部204で生じた電子及び正孔をそれぞれ効率良く透明電極202及び対極203に輸送するために、必要に応じて電子輸送層207や正孔輸送層208を設けることが好ましい。
なお、図7には記載していないが、正孔ブロック層、電子ブロック層、電子注入層、正孔注入層、又は平滑化層等の他の層を有していてもよい。
また、さらなる太陽光利用率(光電変換効率)の向上を目的として、このような光電変換素子を積層した、タンデム型の構成(バルクヘテロジャンクション層を複数有する構成)であってもよい。
図8は、タンデム型のバルクヘテロジャンクション層を備える有機光電変換素子からなる太陽電池を示す断面図である。タンデム型構成の場合、基板201上に、順次透明電極202、第1の光電変換部209を積層した後、電荷再結合層(中間電極)205を積層した後、第2の光電変換部206、次いで対極203を積層することで、タンデム型の構成とすることができる。
上記のような層に用いることができる材料については、例えば、特開2015-149483号公報の段落0045~0113に記載のn型半導体材料、及びp型半導体材料が挙げられる。
(バルクヘテロジャンクション層の形成方法)
電子受容体と電子供与体とが混合されたバルクヘテロジャンクション層の形成方法としては、蒸着法、塗布法(キャスト法、スピンコート法を含む)等を例示することができる。このうち、前述の正孔と電子が電荷分離する界面の面積を増大させ、高い光電変換効率を有する素子を作製するためには、塗布法が好ましい。また塗布法は、製造速度にも優れている。
塗布後は残留溶媒及び水分、ガスの除去、及び半導体材料の結晶化による移動度向上・吸収長波化を引き起こすために加熱を行うことが好ましい。製造工程中において所定の温度でアニール処理されると、微視的に一部が配列又は結晶化が促進され、バルクヘテロジャンクション層を適切な相分離構造とすることができる。その結果、バルクヘテロジャンクション層のキャリア移動度が向上し、高い効率を得ることができるようになる。
光電変換部(バルクヘテロジャンクション層)204は、電子受容体と電子供与体とが均一に混在された単一層で構成してもよいが、電子受容体と電子供与体との混合比を変えた複数層で構成してもよい。
次に、有機光電変換素子を構成する電極について説明する。
有機光電変換素子は、バルクヘテロジャンクション層で生成した正電荷と負電荷とが、それぞれp型半導体材料、及びn型半導体材料を経由して、それぞれ透明電極及び対極から取り出され、電池として機能するものである。それぞれの電極には、電極を通過するキャリアに適した特性が求められる。
(対極)
本発明において対極は、光電変換部で発生した電子を取り出す陰極とすることが好ましい。例えば、陰極として用いる場合、導電材単独層であってもよいが、導電性を有する材料に加えて、これらを保持する樹脂を併用してもよい。
対極材料としては、例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の公知の陰極の導電材を用いることができる。
(透明電極)
本発明において透明電極は、光電変換部で発生した正孔を取り出す機能を有する陽極とすることが好ましい。例えば、陽極として用いる場合、好ましくは波長380~800nmの光を透過する電極である。材料としては、例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の公知の陽極用の材料を用いることができる。
(中間電極)
また、タンデム構成の場合に必要となる中間電極の材料としては、透明性と導電性を併せ持つ化合物を用いた層であることが好ましい。材料としては、例えば、特開2014-078742号公報に記載の公知の中間電極用の材料を用いることができる。
次に、電極及びバルクヘテロジャンクション層以外を構成する材料について述べる。
(正孔輸送層及び電子ブロック層)
本発明の有機光電変換素子は、バルクヘテロジャンクション層で発生した電荷をより効率的に取り出すことが可能とするために、バルクヘテロジャンクション層と透明電極との中間には正孔輸送層・電子ブロック層を有していることが好ましい。
正孔輸送層を構成する光電変換素子用材料としては、例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の公知の材料を用いることができる。
(電子輸送層、正孔ブロック層)
本発明の有機光電変換素子は、バルクヘテロジャンクション層と対極との中間には電子輸送層・正孔ブロック層・バッファー層を形成することで、バルクヘテロジャンクション層で発生した電荷をより効率的に取り出すことが可能となるため、これらの層を有していることが好ましい。
また、電子輸送層としては、例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の公知の材料を用いることができる。また、電子輸送層は、バルクヘテロジャンクション層で生成した正孔を対極側には流さないような整流効果を有する、正孔ブロック機能が付与された正孔ブロック層としてもよい。正孔ブロック層とするための材料としては、例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の公知の材料を用いることができる。
(その他の層)
エネルギー変換効率の向上や、素子寿命の向上を目的に、各種中間層を素子内に有する構成としてもよい。中間層の例としては、正孔ブロック層、電子ブロック層、正孔注入層、電子注入層、励起子ブロック層、UV吸収層、光反射層、波長変換層等を挙げることができる。
(基板)
基板側から光電変換される光が入射する場合、基板はこの光電変換される光を透過させることが可能な、すなわち、この光電変換すべき光の波長に対して透明な部材であることが好ましい。基板は、例えば、ガラス基板や樹脂基板等が好適に挙げられるが、軽量性と柔軟性の観点から透明樹脂フィルムを用いることが望ましい。
本発明で透明基板として好ましく用いることができる透明樹脂フィルムには特に制限がなく、その材料、形状、構造、厚さ等については公知のものの中から適宜選択することができる。例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の公知の材料を用いることができる。
(光学機能層)
本発明の有機光電変換素子は、太陽光のより効率的な受光を目的として、各種の光学機能層を有していてよい。光学機能層としては、例えば、反射防止膜、マイクロレンズアレイ等の集光層、対極で反射した光を散乱させて再度バルクヘテロジャンクション層に入射させることができるような光拡散層等を設けてもよい。
反射防止層、集光層及び光散乱層としては、例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の公知の反射防止層、集光層及び光散乱層をそれぞれ用いることができる。
(パターニング)
本発明に係る電極、発電層、正孔輸送層、電子輸送層等をパターニングする方法やプロセスには特に制限はなく、例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の公知の手法を適宜適用することができる。
(封止)
また、作製した有機光電変換素子が環境中の酸素、水分等で劣化しないために、有機光電変換素子だけでなく有機エレクトロルミネッセンス素子等で公知の手法によって封止することが好ましい。例えば、特開2010-272619、特開2014-078742号公報等に記載の手法を用いることができる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
また、実施例で用いた化合物の構造式を以下に示す。
Figure 0007020478000004
・実施例1
≪塗布液の調製≫
[塗布液(1)の調製]
100mLビーカーに、撹拌子と、溶媒としての酢酸ノルマルプロピル(化合物B1)を入れて、撹拌子を撹拌しながら80℃まで加熱し、酢酸ノルマルプロピルに対して、溶質としての上記化合物A1-1及び上記化合物A1-2が、それぞれ0.57質量%及び0.43質量%になるように添加し、引き続き撹拌子を撹拌して溶解させた。当該化合物A1-1及び化合物A1-2が酢酸ノルマルプロピルに溶解したことを目視で確認した後、撹拌子を止め、常温(20℃)に戻し塗布液(1)を得た。
[塗布液(2)の調製]
塗布液(1)に対し、超音波ホモジナイザー(BRANSON社製、Sonifier
SFX150)を用いて、40Hzの超音波を30分印加し、塗布液(2)を得た。
[塗布液(3)の調製]
塗布液(1)を、以下の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)条件によって、溶質のピークが表れた部分のみを自動分取機能(スタックインジェクション)により回収した。得られた溶液を、酢酸ノルマルプロピルに対する上記化合物A1-1及び上記化合物A1-2の濃度が塗布液(1)と同様になるように減圧濃縮して、塗布液(3)を得た。
(HPLC条件)
装置:LC-2000Plus series (日本分光社製)
カラム:ODS-3(内径4.6mm、長さ250mm、GLサイエンス社製)
温度:40℃
移動相:酢酸ノルマルプロピル
検出波長:254nm
移動相流量:1.0ml/min
[塗布液(4)の調製]
塗布液(1)を、塗布液(3)と同様の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)条件によって、溶質のピークが表れた部分のみを自動分取機能(スタックインジェクション)により回収した。次いで、分散剤D1(DISPERBYK-110、ビックケミー社製)を添加し、かつ塗布液を減圧濃縮することで、塗布液中の分散剤D1の濃度が0.05質量%、かつ化合物A1-1及び化合物A1-2の濃度がそれぞれ0.57質量%及び0.43質量%となるように、塗布液(4)を調製した。
[塗布液(5)の調製]
撹拌翼付きオートクレーブ装置内に、溶質としての上記化合物A1-1及び上記化合物A1-2と、溶媒としての酢酸ノルマルプロピル(化合物B1)とを混合して調製した溶液を入れた後、超臨界状態の流体である酢酸ブチルを入れて密封した。ここで、これらを混合して得た塗布液中の化合物A1-1及び化合物A1-2の濃度がそれぞれ0.57質量%及び0.43質量%、かつ塗布液中の超臨界状態の酢酸ブチル濃度が10質量%となる割合で入れた。次いで、当該オートクレーブ装置内を温度305.6℃・圧力3.1MPaに調整した後、回転数500rpmで撹拌翼を回転させながら、30分間撹拌混合を行った。その後、温度20℃・圧力101325Pa(1気圧)に戻し、塗布液(5)を得た。
[塗布液(6)の調製]
塗布液(5)の調製において、超臨界状態の流体の種類を酢酸ブチルからに二酸化炭素に変更し、オートクレーブ装置内を温度31.1℃・圧力7.4MPaに調整した後、回転数500rpmで撹拌翼を回転させながら、30分間撹拌混合を行った以外は同様にして塗布液(6)を調製した。
[塗布液(7)の調製]
塗布液(1)を、塗布液(3)と同様の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)条件によって、溶質のピークが表れた部分のみを自動分取機能(スタックインジェクション)により回収した。次いで、精製後の溶液を減圧濃縮した後、超臨界状態の流体である酢酸ブチルを添加することによって、これらを混合して得た塗布液中の化合物A1-1及びA1-2の濃度がそれぞれ0.57質量%及び0.43質量%、かつ塗布液中の超臨界状態の酢酸ブチル濃度が10質量%となるように塗布液を調製し、当該塗布液を撹拌翼付きオートクレーブ装置内に入れて密封した。次いで、当該オートクレーブ装置内を温度305.6℃・圧力3.1MPaに調整した後、回転数500rpmで撹拌翼を回転させながら、30分間撹拌混合を行った。その後、温度20℃・圧力101325Pa(1気圧)に戻し、塗布液(7)を得た。
[塗布液(8)の調製]
塗布液(7)の調製において、超臨界状態の流体の種類を酢酸ブチルからエタンに変更した以外は同様にして、塗布液(8)を調製した。
[塗布液(9)の調製]
塗布液(7)の調製において、超臨界状態の流体の種類を酢酸ブチルから2,4-ジメチル-1,3-ペンタジエンに変更した以外は同様にして、塗布液(9)を調製した。
[塗布液(10)の調製]
塗布液(1)を、下記条件の超臨界クロマトグラフィーシステム(日本分光社製)を用いて、溶質のピークが表れた部分のみを自動分取機能(スタックインジェクション)により回収しつつ、超臨界状態の流体である二酸化炭素と混合し、塗布液(10)を得た。
超臨界CO送液ポンプ:SCF-Get
全自動圧力調整弁:SFC-Bpg
カラムオーブン:GC-353B
インジェクタ:7125i
カラム:C18-Silica(粒径3μm、内径4.6mm×長さ250mm)
移動相:二酸化炭素
移動相流量:10mL/min
圧力:18MPa
温度:40℃
検出:紫外検出器(210nm)
[塗布液(11)~(20)の調製]
塗布液(1)~(10)の調製方法において、下記表Iに記載のように、溶質を上記化合物A1-1及び上記化合物A1-2から、上記化合物A2-1及び上記化合物A2-2に変更した以外は同様にして、塗布液(11)~(20)を調製した。
[塗布液(21)~(30)の調製]
塗布液(1)~(10)の調製方法において、下記表Iに記載のように、溶媒を酢酸ノルマルプロピル(化合物B1)からキシレン(化合物B2)に変更した以外は同様にして、塗布液(21)~(30)を調製した。なお、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及び超臨界クロマトグラフィーでは、移動相として超臨界状態の二酸化炭素を用いた。
≪有機EL素子の作製≫
本発明の塗布液を乾燥固化してなる膜を有機機能層として備える有機EL素子を、湿式成膜法により作製した。なお、以下の実施例ではスピンコート法によって有機EL素子を作製しているが、本発明はこれに限られるわけではなく、例えばインクジェット法、ダイコート、フレキソ印刷、などの湿式成膜法(湿式塗布法、ウエット・コーティング法)によって有機機能層を作製してもよい。
[有機EL素子(1)の作成]
可撓性フィルム上に、第1電極層(陽極)、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極を順に形成した後、封止することで有機EL素子(1)を作製した。また、発光層の形成において、上記調製した塗布液(1)を用いた。
(1.1)ガスバリアー性の可撓性フィルムの作製
可撓性フィルムとして、ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン社製フィルム、以下、PENと略記する)の第1電極を形成する側の全面に、特開2004-68143号に記載の構成からなる大気圧プラズマ放電処理装置を用いて、連続して可撓性フィルム上に、SiOxからなる無機物のガスバリアー膜を厚さ500nmとなるように形成し、酸素透過度0.001mL/m/day以下、水蒸気透過度0.001g/m/day以下のガスバリアー性の可撓性フィルムを作製した。
(1.2)第1電極層の形成
上記作製したガスバリアー性の可撓性フィルム上に、厚さ120nmのITO(インジウム・スズ酸化物)をスパッタ法により成膜し、フォトリソグラフィー法によりパターニングを行い、第1電極層(陽極)を形成した。
なお、パターンは発光面積が50mm平方になるようなパターンとした。
(1.3)正孔注入層の形成
パターニング後のITO基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。この基板上に、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、バイエル社製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を、3000rpm、30秒でスピンコート法により成膜した後、200℃にて1時間乾燥し、層厚30nmの正孔注入層を設けた。
(1.4)正孔輸送層の形成
この基板を、窒素ガス(グレードG1)を用いた窒素雰囲気下に移し、前記正孔輸送材料である化合物(HT-1)(Mw=80000)を、クロロベンゼンに0.5%溶解した溶液を、1500rpm、30秒でスピンコート法により成膜した後、160℃で30分間保持し、層厚30nmの正孔輸送層とした。
(1.5)発光層の形成
塗布液(1)をインクジェット法にて塗布し、120℃で30分間乾燥し、層厚40nmの発光層を形成した。
なお、塗布中は環境温度を40℃に保持しながら塗布液に乾燥風をあてた。
(1.6)電子輸送層の形成
続いて、20mgの化合物(ET-1)を、4mLのテトラフルオロプロパノール(TFP)に溶解した溶液を、1500rpm、30秒でスピンコート法により成膜した後、120℃で30分間保持し、層厚30nmの電子輸送層とした。
(1.7)電子注入層及び陰極の形成
続いて、基板を大気に曝露することなく真空蒸着装置へ取り付けた。また、モリブデン製抵抗加熱ボートにフッ化ナトリウム及びフッ化カリウムを入れたものを真空蒸着装置に取り付け、真空槽を4×10-5Paまで減圧した後、前記ボートに通電して加熱してフッ化ナトリウムを0.02nm/秒で前記電子輸送層上に層厚1.0nmの薄膜を形成し、続けて同様にフッ化カリウムを0.02nm/秒でフッ化ナトリウム上に層厚1.5nmの電子注入層を形成した。
次に、アルミニウム100nmを蒸着して陰極を形成した。
(1.8)封止
次に、封止部材として、可撓性の厚さ30μmのアルミニウム箔(東洋アルミニウム株式会社製)に、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(12μm厚)をドライラミネーション用の接着剤(2液反応型のウレタン系接着剤)を用いラミネートした(接着剤層の厚さ1.5μm)ものを準備した。
次に、上記アルミニウム(陰極)面上に、封止用接着剤として、下記熱硬化性接着剤を、ディスペンサを使用して上記封止部材の接着面(つや面)に、厚さ20μmで均一に塗布した。これを100Pa以下の真空下で12時間乾燥させた。さらに、露点温度が-80℃以下、酸素濃度が0.8ppmの窒素雰囲気下へ移動し、12時間以上乾燥させ、封止用接着剤の含水率を100ppm以下となるように調整した。
上記熱硬化接着剤としては下記の(A)~(C)を混合したエポキシ系接着剤を用いた。
(A)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)
(B)ジシアンジアミド(DICY)
(C)エポキシアダクト系硬化促進剤
次に、封止部材を、取り出し電極及び電極リードの接合部を覆うようにして密着・配置して、圧着ロールを用いて厚着条件、圧着ロール温度120℃、圧力0.5MPa、装置速度0.3m/minで密着封止して、有機EL素子(1)を作製した。
[有機EL素子(2)~(30)の作製]
有機EL素子(1)の作製方法における「(1.5)発光層の形成」において、塗布液(1)の代わりに塗布液(2)~(30)を用いたこと以外は同様にして、有機EL素子(2)~(30)を作製した。
≪塗布液の評価≫
塗布液(1)~(30)について、保存性を評価した。結果は下記表Iに示す。
(1)保存性評価
各塗布液を温度23℃、相対湿度55%RH、圧力101325Pa(1気圧)環境で、2週間静置させ、静置前の溶質の粒径Rと静置後の溶質の粒径Rとを、それぞれ以下のように小角X線散乱測定によって粒径分布曲線を作成し、その粒径分布曲線から粒径を算出した。
小角X線散乱測定による各粒径の算出では、まず各塗布液を、X線回折試料用キャピラリー(WJM-Glas/Muller GmbH製)に入れ、測定サンプルとした。X線はSPring-8の放射光を用い、波長0.1nmで溶液試料に照射した。測定にはHUBER製多軸回折装置を用い、X線入射角θは0.2°で固定して溶液試料に照射し、検出器はシンチレーションカウンターを用いて2θを1~43°までの散乱線測定を行った。得られた散乱回折データから解析ソフトを用いて粒径分布曲線(横軸:粒径、縦軸:分布頻度(1/nm))を作成した。
具体的には、本発明では、ギニエプロットの勾配(傾き)に対し、リガク社製粒径・空孔径解析ソフトウェア NANO-Solverを用い、粒子の幾何学形状を球と仮定して空孔、粒径解析フィッティングを行うことで塗布膜中の有機化合物に由来する単一の分子又はそれらの会合体の粒径分布を求めた。
なお、X線小角散乱法の詳細については、例えばX線回折ハンドブック第3版(理学電機株式会社 2000年発行)を参照することができる。
本発明に係る粒径分布曲線は、上記小角X線散乱の測定及び解析法に基づき作成したものであり、横軸を粒径を表す軸とし、縦軸を頻度分布を表す軸として、粒径に対する頻度分布の測定値をプロットして各プロットを結んで得たものである。
ここで、「頻度分布(単に「分布」ともいう。)」とは、測定された粒子総数に対する特定粒径の相対的粒子数の比率(すなわち頻度)の大きさ(1/nmに比例する相対値)をいう。
そして、各塗布液における粒径分布曲線中の最大の頻度分布を示す極大ピークに対応する粒径を、それぞれ粒径R又は粒径Rとして算出した。
そして、静置後の溶質の粒径Rから静置前の溶質の粒径Rを引いた差分(nm)(以下、「粒径差」という。)を算出し、下記基準によって評価した。
◎:粒径差が0nm以上1nm未満である。
○:粒径差が1nm以上3nm未満である。
△:粒径差が3nm以上10nm未満である。
×:粒径差が10nm以上である。
≪有機EL素子の評価≫
本発明の塗布液(1)~(30)を乾燥して得た塗布膜(発光層)を備えた有機EL素子(1)~(30)の発光寿命を評価することで、塗布膜の機能性を評価した。
発光寿命の評価は、まず、各有機EL素子を半径5cmの円柱部材に巻きつけ、その後各有機EL素子を折り曲げた状態で連続駆動させ、分光放射輝度計CS-2000(コニカミノルタ株式会社製)を用いて輝度を測定し、測定した輝度が半減する時間(LT50)を求めた。駆動条件は、連続駆動開始時に4000cd/mとなる電流値とした。
そして、輝度が半減する時間(LT50)が、1000時間(h)以上であるものを、本発明では合格とした。
Figure 0007020478000005
上記表Iにおいて、混合条件のc1~c4及びp1~p3は、上述した各塗布液の製造方法において説明した、以下の混合条件を表す。
c1:溶質と溶媒とを撹拌混合した。
c2:溶質と溶媒とを撹拌混合後、超音波処理した。
c3:溶質と溶媒とを撹拌混合後、クロマトグラフィー処理した。
c4:溶質と溶媒との撹拌混合、クロマトグラフィー処理、分散剤D1添加を順に行った。
p1:溶質と溶媒とを混合した溶液と、超臨界状態の流体とを撹拌混合した。
p2:溶質と溶媒との撹拌混合、クロマトグラフィー処理、クロマトグラフィー処理後の溶液と超臨界状態との混合を順に行った。
p3:溶質と溶媒とを混合した溶液を、超臨界クロマトグラフィー処理した。
また、上記表Iに示す結果のとおり、本発明の塗布液の製造方法によって得た塗布液は、保存性が高く、かつ乾燥して塗布膜にした際に当該塗布膜の機能性が高いことがわかった。比較例の塗布液は、いずれかの項目について劣るものであった。
また、比較例の塗布液により得た塗布膜を備えた有機EL素子の評価において、半減寿命が測定できなかったものは「-」と記載している。これは、半減寿命が著しく短く、測定時の駆動電圧も顕著に上昇したため、測定不能であったことを示している。
また、比較例に係る塗布膜は、粒径が大きなものが存在することや、濃度の偏りが生ずることで、均一な膜でなかったため、比較例に係る有機EL素子では半減寿命が著しく短くなったものと考えられる。これに対し、本発明に係る塗布膜では、濃度が均一な膜とすることができたため、本発明に係る有機EL素子は半減寿命を長くすることができたと考えられる。
また、本発明の塗布液を用いて製造した有機EL素子は、発光寿命が良好であるため、表示装置や照明装置に好適に利用することができる。
・実施例2
≪塗布液の評価≫
また、本発明の塗布液(5)~(10)、(15)~(20)及び(25)~(30)を用いてインクジェット法による塗布をする際に、実用上問題ないがないかを確認した。
各塗布液をインクジェットヘッド(ノズル数256個)内のインク室に充填し、コニカミノルタ製インクジェット塗布装置XY-100(ヘッドにはKM1024iMHE)に搭載した。そして、各ノズルからのインク滴10pL、駆動周波数20kHzの条件で、20時間(h)継続して塗布液を射出した後、不射出のノズルの有無を確認した。
この確認の結果、不射出のノズルがないことを確認できた。
したがって、本発明の製造方法によって得た塗布液は、保存性が高いため、インクジェット法による塗布に好適に用いることができることが確認できた。
本発明の塗布液の製造方法は、保存性が高く、かつ乾燥して塗布膜にした際に当該塗布膜の機能性が高い塗布液の製造方法であるため、有機エレクトロルミネッセンス素子等の電子デバイスの製造に用いることができる。
また、本発明の塗布膜は、有機EL素子や光電変換素子を構成する有機機能層に、好適に用いることができる。
41 ディスプレイ(表示装置)
60 有機EL素子

Claims (11)

  1. 溶液と、超臨界又は亜臨界状態の流体との混合による塗布液の製造方法であって、前記混合する工程として、超臨界クロマトグラフィーを用いることを特徴とする塗布液の製造方法。
  2. 溶液と、超臨界又は亜臨界状態の流体との混合による塗布液の製造方法であって、前記溶液が、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含有することを特徴とする塗布液の製造方法。
  3. 前記超臨界又は亜臨界状態の流体の臨界点の温度が、300℃以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の塗布液の製造方法。
  4. 前記超臨界又は亜臨界状態の流体が、温度20℃・圧力101325Pa(1気圧)の条件下で気体であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の塗布液の製造方法。
  5. 前記超臨界又は亜臨界状態の流体として、超臨界又は亜臨界状態の二酸化炭素を用いることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の塗布液の製造方法。
  6. 請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の塗布液の製造方法によって塗布液を得て、当該塗布液を乾燥固化して塗布膜を形成することを特徴とする塗布膜の製造方法。
  7. 前記塗布液を、インクジェット法、押し出し塗布法、スプレー塗布法、及びスピンコート法から選ばれる方法を用いて塗布する工程を有することを特徴とする請求項6に記載の塗布膜の製造方法。
  8. 溶液と、超臨界又は亜臨界状態の流体とを含有する塗布液を乾燥固化してなる塗布膜を有機機能層として備え、
    前記塗布膜が、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
  9. 前記塗布膜が発光層であることを特徴とする請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
  10. 請求項8又は請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えること特徴とする表示装置。
  11. 請求項8又は請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
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