以下、添付図面を参照して、データ収集装置、X線CT装置及び核医学診断装置の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、X線CT装置としてのフォトンカウンティング型X線CT装置と、核医学診断装置としてのPET装置を例に挙げて説明する。
(第1の実施形態)
まず、フォトンカウンティング型X線CT装置の実施形態について説明する。図1は、第1の実施形態に係るフォトンカウンティング型X線CT装置1の構成の一例を示す図である。図1に示すように、第1の実施形態に係るフォトンカウンティング型X線CT装置1は、架台10と、寝台装置20と、コンソール30とを有する。
架台10は、被検体P(患者)にX線を照射し、被検体Pを透過したX線を検出して、コンソール30に出力する装置であり、X線照射制御回路11と、X線発生装置12と、検出器13と、データ収集回路(DAS:Data Acquisition System)14と、回転フレーム15と、架台駆動回路16とを有する。
回転フレーム15は、X線発生装置12と検出器13とを被検体Pを挟んで対向するように支持し、後述する架台駆動回路16によって被検体Pを中心とした円軌道にて高速に回転する円環状のフレームである。
X線照射制御回路11は、高電圧発生部として、X線管12aに高電圧を供給する装置であり、X線管12aは、X線照射制御回路11から供給される高電圧を用いてX線を発生する。X線照射制御回路11は、後述するスキャン制御回路33の制御により、X線管12aに供給する管電圧や管電流を調整することで、被検体Pに対して照射されるX線量を調整する。
また、X線照射制御回路11は、ウェッジ12bの切り替えを行う。また、X線照射制御回路11は、コリメータ12cの開口度を調整することにより、X線の照射範囲(ファン角やコーン角)を調整する。なお、本実施形態は、複数種類のウェッジを、操作者が手動で切り替える場合であっても良い。
X線発生装置12は、X線を発生し、発生したX線を被検体Pへ照射する装置であり、X線管12aと、ウェッジ12bと、コリメータ12cとを有する。
X線管12aは、X線照射制御回路11により供給される高電圧により被検体PにX線ビームを照射する真空管であり、回転フレーム15の回転にともなって、X線ビームを被検体Pに対して照射する。X線管12aは、ファン角及びコーン角を持って広がるX線ビームを発生する。例えば、X線照射制御回路11の制御により、X線管12aは、フル再構成用に被検体Pの全周囲でX線を連続曝射したり、ハーフ再構成用にハーフ再構成可能な曝射範囲(180度+ファン角)でX線を連続曝射したりすることが可能である。また、X線照射制御回路11の制御により、X線管12aは、予め設定された位置(管球位置)でX線(パルスX線)を間欠曝射したりすることが可能である。また、X線照射制御回路11は、X線管12aから曝射されるX線の強度を変調させることも可能である。例えば、X線照射制御回路11は、特定の管球位置では、X線管12aから曝射されるX線の強度を強くし、特定の管球位置以外の範囲では、X線管12aから曝射されるX線の強度を弱くする。
ウェッジ12bは、X線管12aから曝射されたX線のX線量を調節するためのX線フィルタである。具体的には、ウェッジ12bは、X線管12aから被検体Pへ照射されるX線が、予め定められた分布になるように、X線管12aから曝射されたX線を透過して減衰するフィルタである。例えば、ウェッジ12bは、所定のターゲット角度や所定の厚みとなるようにアルミニウムを加工したフィルタである。なお、ウェッジは、ウェッジフィルタ(wedge filter)や、ボウタイフィルタ(bow-tie filter)とも呼ばれる。
コリメータ12cは、後述するX線照射制御回路11の制御により、ウェッジ12bによってX線量が調節されたX線の照射範囲を絞り込むためのスリットである。
架台駆動回路16は、回転フレーム15を回転駆動させることによって、被検体Pを中心とした円軌道上でX線発生装置12と検出器13とを旋回させる。
検出器13は、X線光子が入射するごとに、当該X線光子のエネルギー値を計測可能な信号を出力する。X線光子は、例えば、X線管12aから照射され被検体Pを透過したX線光子である。検出器13は、X線光子が入射するごとに、1パルスの電気信号(アナログ信号)を出力する複数の検出素子を有する。フォトンカウンティング型X線CT装置1は、電気信号(パルス)の数を計数することで、各検出素子に入射したX線光子の数を計数することが可能である。また、フォトンカウンティング型X線CT装置1は、この信号に対して、処理の演算処理を行なうことで、当該信号の出力を引き起こしたX線光子のエネルギー値を計測することができる。
上記の検出素子は、例えば、シンチレータと光電子増倍管等の光センサとにより構成される。かかる場合、図1に示す検出器13は、入射したX線光子をシンチレータによりシンチレータ光に変換し、シンチレータ光を光電子増倍管等の光センサにより電気信号に変換する間接変換型の検出器となる。また、上記の検出素子は、例えば、テルル化カドミウム(CdTe)や、テルル化カドミウム亜鉛(CdZnTe)などの半導体素子の場合であってもよい。かかる場合、図1に示す検出器13は、入射したX線光子を、直接、電気信号に変換する直接変換型の検出器となる。
例えば、図1に示す検出器13は、検出素子が、チャンネル方向(図1中のX軸方向)にN列、架台10が非チルト時の状態における回転フレーム15の回転中心軸方向(図1中のZ軸方向)にM列配置された面検出器である。検出素子は、光子が入射すると、1パルスの電気信号を出力する。フォトンカウンティング型X線CT装置1は、検出素子131が出力した個々のパルスを弁別することで、検出素子131に入射したX線光子の数を計数することができる。また、フォトンカウンティング型X線CT装置1は、パルスの強度に基づく演算処理を行なうことで、計数したX線光子のエネルギー値を計測することができる。
データ収集回路14は、DASであり、検出器13が検出したX線の検出データを収集する。例えば、データ収集回路14は、被検体を透過したX線に由来する光子(X線光子)をエネルギー帯ごとに計数した計数データを生成し、生成した計数データを後述するコンソール30に送信する。例えば、回転フレーム15の回転中に、X線管12aからX線が連続曝射されている場合、データ収集回路14は、全周囲分(360度分)の計数データ群を収集する。また、データ収集回路14は、収集した各計数データに管球位置を対応付けて、後述するコンソール30に送信する。管球位置は、計数データの投影方向を示す情報となる。また、データ収集回路14は、図1に示すように、比較機能141及び推定機能142を実行するが、これについては、後に詳述する。
寝台装置20は、被検体Pを載せる装置であり、図1に示すように、寝台駆動装置21と、天板22とを有する。寝台駆動装置21は、天板22をZ軸方向へ移動して、被検体Pを回転フレーム15内に移動させる。天板22は、被検体Pが載置される板である。なお、本実施形態では、架台10と天板22との相対位置の変化が天板22を制御することによって実現されるものとして説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、架台10が自走式である場合、架台10の走行を制御することによって架台10と天板22との相対位置の変化が実現されてもよい。
なお、架台10は、例えば、天板22を移動させながら回転フレーム15を回転させて被検体Pをらせん状にスキャンするヘリカルスキャンを実行する。または、架台装置10は、天板22を移動させた後に被検体Pの位置を固定したままで回転フレーム15を回転させて被検体Pを円軌道にてスキャンするコンベンショナルスキャンを実行する。または、架台装置10は、天板22の位置を一定間隔で移動させてコンベンショナルスキャンを複数のスキャンエリアで行うステップアンドシュート方式を実行する。
コンソール30は、操作者によるフォトンカウンティング型X線CT装置1の操作を受け付けるとともに、架台10によって収集された投影データを用いてX線CT画像データを再構成する装置である。コンソール30は、図1に示すように、入力回路31と、ディスプレイ32と、スキャン制御回路33と、前処理回路34と、記憶回路35と、画像再構成回路36と、処理回路37とを有する。
入力回路31は、フォトンカウンティング型X線CT装置1の操作者が各種指示や各種設定の入力に用いるマウスやキーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック等を有し、操作者から受け付けた指示や設定の情報を、処理回路37に転送する。例えば、入力回路31は、操作者から、X線CT画像データの撮影条件や、X線CT画像データを再構成する際の再構成条件、X線CT画像データに対する画像処理条件等を受け付ける。
ディスプレイ32は、操作者によって参照されるモニタであり、処理回路37による制御のもと、X線CT画像データから生成された画像データを操作者に表示したり、入力回路31を介して操作者から各種指示や各種設定等を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)を表示したりする。
スキャン制御回路33は、処理回路37による制御のもと、X線照射制御回路11、架台駆動回路16、データ収集回路14及び寝台駆動装置21の動作を制御することで、架台10におけるデータの収集処理を制御する。
前処理回路34は、データ収集回路14によって生成された計数データに対して、対数変換処理と、オフセット補正、感度補正及びビームハードニング補正等の補正処理とを行なって、補正済みの投影データを生成する。
記憶回路35は、前処理回路34により生成された投影データを記憶する。また、記憶回路35は、後述する画像再構成回路36によって生成された画像データなどを記憶する。また、記憶回路35は、後述する処理回路37による処理結果を適宜記憶する。
画像再構成回路36は、記憶回路35が記憶する投影データを用いてX線CT画像データを再構成する。ここで、再構成方法としては、種々の方法があり、例えば、逆投影処理が挙げられる。また、逆投影処理としては、例えば、FBP(Filtered Back Projection)法による逆投影処理が挙げられる。或いは、画像再構成回路36は、逐次近似法を用いて、X線CT画像データを再構成することもできる。また、画像再構成回路36は、X線CT画像データに対して各種画像処理を行うことで、画像データを生成する。そして、画像再構成回路36は、再構成したX線CT画像データや、各種画像処理により生成した画像データを記憶回路35に格納する。
処理回路37は、架台10、寝台装置20及びコンソール30の動作を制御することによって、フォトンカウンティング型X線CT装置1の全体制御を行う。具体的には、処理回路37は、スキャン制御回路33を制御することで、架台10で行なわれるCTスキャンを制御する。また、処理回路37は、画像再構成回路36を制御することで、コンソール30における画像再構成処理や画像生成処理を制御する。また、処理回路37は、記憶回路35が記憶する各種画像データを、ディスプレイ32に表示するように制御する。
以上、第1の実施形態に係るフォトンカウンティング型X線CT装置1の全体構成について説明した。ここで、上述した各回路によって実行される各処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路35に記憶されている。そして、各回路が各プログラムを記憶回路35から読み出して実行することで、上述した種々の機能を実現する。例えば、データ収集回路14の構成要素である比較機能141及び推定機能142は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路35に記憶される。データ収集回路14は各プログラムを記憶回路35から読み出して実行することで、各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、各プログラムを読み出した状態のデータ収集回路14は、図1に示された各機能を有することとなる。なお、本実施形態で説明する比較機能141は、特許請求の範囲に記載した比較部の一例である。また、推定機能142は、特許請求の範囲に記載した推定部の一例である。
なお、上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(central processing unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC))、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable GateArray:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。
第1の実施形態に係るフォトンカウンティング型X線CT装置1は、上記した構成のもと、以下、詳細に説明するデータ収集回路14の処理により、画質を向上させる。具体的には、データ収集回路14が検出器13から出力される信号の基準波形を用いて、被検体を透過したX線のエネルギーを推定することで、高線量下であってもパイルアップ(pile up)の影響を抑えて、画質を向上させる。
ここで、まず、従来のフォトンカウンティング型X線CT装置において、画質が劣化する場合について説明する。図2は、従来技術に係るフォトンカウンティング型X線CT装置が備える検出回路の一例を示す図である。例えば、従来のフォトンカウンティング型X線CT装置においては、検出器近くに図2に示すような検出回路が配置され、検出素子131が出力した各信号を弁別して計数する。例えば、従来の検出回路は、図2に示すように、プリアンプ201と、コンデンサ202と、整形器203と、DAC(Digital to Analog Converter)204及び205と、コンパレータ206及び207と、カウンタ208及び209とを有する。
そして、検出素子131によって信号(電荷パルス)が出力されると、プリアンプ201とコンデンサ202とが電荷によって発生するパルスを電圧に変換して、電圧パルスを出力する。そして、整形器203が電圧パルスの波形を整形してコンパレータ206及び207に出力する。ここで、コンパレータ206及び207は、DAC204及び205によってそれぞれアナログ信号に変換された閾値と入力された電圧パルスとを比較して電圧パルスの値が閾値を超えている場合に、後段のカウンタに電気信号を出力する。カウンタ208及び209は、コンパレータ206及び207から出力された電気信号をそれぞれカウントする。
ここで、DACから入力される閾値を任意の値に設定することで、X線の光子を所望のエネルギー帯ごとに計数することができる。このように、従来のフォトンカウンティング型X線CT装置においては、図2に示すような検出回路によって計数データを収集するが、検出素子131に入射するX線の強度が強い場合(高線量時)に、個々のパルスが弁別できなくなり画質が劣化する場合があった。図3A及び図3Bは、従来技術の課題を説明するための図である。ここで、図3Aにおいては、検出素子131に入射するX線の強度が弱い場合に出力されるパルスについて示す。また、図3Bにおいては、検出素子131に入射するX線の強度が強い場合に出力されるパルスについて示す。
例えば、X線の強度が弱い場合には入射する光子の入射間隔がまばらとなるため、図3Aに示すように、同一検出素子に入射した2つの光子に由来する2つのパルスP1及びP2が弁別可能である。ここで、フォトンカウンティング型X線CT装置においては、図3Aに示すように、検出器と電気回路とから決定される時定数(τ)があり、この時定数によって信号に対する応答性が決まる。例えば、時定数が100ns(=1×10-7s)である場合、理論的に107個/sを超えて入射する光子を計数することはできない。
フォトンカウンティング型X線CT装置が計数するX線の光子は、一定間隔で入射するものではなく、ランダムに入射することから、X線の強度が強くなると時定数よりも短い間隔で光子が入射するようになる。このような場合、例えば、図3Bに示すように、1つめのパルスP3に対して2つのパルスP4が積み重なり(パイルアップ)、見かけ上1つのパルスとして弁別されてしまう。すなわち、パルスP3とパルスP4を弁別できず、1つのパルスP3としてカウンタ208又はカウンタ209にカウントされることとなる。その結果、従来のフォトンカウンティング型X線CT装置では、データが欠損したり、電圧パルスの値が間違うこととなり、生成した画像の画質が劣化してしまう。
ここで、現在、フォトンカウンティング型X線CT装置では、検出器として半導体を用いた直接変換型の検出器が主に用いられている。直接変換型の検出器は、時定数が短く応答速度が速いため、高線量下でも上述したパイルアップの影響を受けにくい。しかしながら、直接変換型の検出器の場合、X線の吸収効率が低いものが多く、安定性が低い。さらに、直接変換型の検出器は、コストも高い。従って、X線の吸収効率が高く、安定性が高い間接変換型の検出器のフォトンカウンティング型X線CT装置への適用が期待されている。そこで、本実施形態では、データ収集回路14による処理によって、パイルアップの影響を抑制することで画質を向上させるとともに、間接変換型の検出器を適用したより安定性の高いフォトンカウンティング型X線CT装置を提供する。
具体的には、第1の実施形態に係るデータ収集回路14は、比較機能141と推定機能142とを実行することにより、画質を向上させる。比較機能141は、放射線を検出する検出器13によって出力される信号の基準波形と、被検体を介して前記検出器に入射され、検出器13によって検出された放射線に基づく検出信号の波形とを比較する。具体的には、比較機能141は、被検体を透過して検出器13に入射されたX線に基づく検出信号の波形と、検出器13におけるX線のエネルギーごとの基準波形とを比較する。例えば、比較機能141は、検出信号の波形におけるピークを含む所定の範囲を抽出し、抽出した所定の範囲の波形と、X線のエネルギーごとの基準波形において所定の範囲に対応する範囲の波形とを比較する。すなわち、検出器13によって出力される信号の基準波形が予め記憶され、比較機能141は、検出器13によって検出された検出信号の波形を基準波形と比較する。
ここで、データ収集回路14は、パイルアップの影響を補正するために以下の処理を行う。すなわち、比較機能141は、検出信号の波形に含まれる複数のピークをそれぞれ単一の光子の入射に起因する検出信号として分類し、複数のピークのうち前段のピークに対応する波形を用いて後段のピークを補正し、前段のピークを含む所定の範囲の波形及び補正後の後段のピークを含む所定の範囲の波形を、X線のエネルギーごとの基準波形とそれぞれ比較する。ここで、比較機能141は、前段のピークを含む所定の範囲の波形に近似する基準波形を前段のピークに対応する波形とし、前段のピークに対応する波形とした基準波形を用いて後段のピークの高さを補正する。
推定機能142は、比較機能141による比較結果に基づいて、被検体を介して検出器13に入射された放射線に関する情報を推定する。具体的には、推定機能142は、検出信号の波形が近似する基準波形に対応するエネルギーを、被検体を透過して検出器13に入射されたX線のエネルギーと推定する。例えば、推定機能142は、所定の範囲の波形が近似する基準波形に対応するエネルギーを、被検体を透過して検出器13に入射されたX線のエネルギーと推定する。
ここで、検出信号にパイルアップが生じている場合、推定機能142は、上述した比較機能141による前段のピークと後段のピークに関する各比較結果に基づいて、前段のピークに対応する光子のエネルギーと、後段のピークに対応する光子のエネルギーとをそれぞれ推定する。
以下、上述したデータ収集回路14を実現するための構成例について説明する。図4は、第1の実施形態に係るデータ収集回路14の構成の一例を示す図である。図4に示すように、第1の実施形態に係るデータ収集回路14は、ADC(Analog-to-Digital Converter)14aと、演算回路14b~14dと、コンパレータ14eと、カウンタ14f~14hとを有し、検出器13における各検出素子131の後段にそれぞれ配置される。なお、図4においては、演算回路14b~14dが上述した比較機能141に対応し、コンパレータ14e及びカウンタ14f~14hが上述した推定機能142に対応する。
検出素子131は、例えば、入手可能な範囲で高速な応答性を有するシンチレータと、内部増幅機能をもつ光センサとを組み合わせて形成される。一例を挙げると、シンチレータとしては、時定数が「20ns」の「Pr:LuAG」や、時定数が「40ns」の「LSO」或いは「LGSO」などであり、光センサとしては、「アバランシェフォトダイオード:APD(Avalanche PhotoDiode)」や、「シリコンフォトマル:SiPM」などである。
ADC14aは、検出素子131によって出力されたパルス信号をデジタル信号に変換する。例えば、ADC14aは、入力されたパルス信号を所定のサンプリングレート(例えば、250Msps(Megasample per second)でサンプリングする。そして、ADC14aは、サンプリングデータを演算回路14b~14dにそれぞれ出力する。
演算回路14b~14dは、ADC14aによって出力されたサンプリングデータを検出器13における出力信号の基準波形と比較する。具体的には、演算回路14b~14dは、検出器13に対して実際にX線を照射することで得られた信号からADC14aがサンプリングした基準のサンプリングデータと、被検体を透過して検出された信号からADC14aがサンプリングしたサンプリングデータとを比較する。ここで、演算回路14b~14dは、弁別されるX線のエネルギー帯に対応するように基準のサンプリングデータが改変された比較データがそれぞれ格納される。そして、演算回路14b~14dは、ADC14aによって出力されたサンプリングデータと、比較データとの比較結果をコンパレータ14eに出力する。
ここで、まず、個々のX線光子によって発生する出力信号について説明する。図5は、第1の実施形態に係る出力信号を説明するための図である。図5においては、「シンチレータ:LGSO」と「光センサ:SiPM」とを組み合わせた検出器に120keVのX線を照射して得られた出力信号の平均の波形を示す。また、図5においては、縦軸を「100ns」の積分値で規格化した出力値を示す。図5に示すように、間接変換型の検出器がX線光子1つを吸収することによって出力する信号の波形は、X線の吸収により急峻に信号が立ち上がり、シンチレータの減衰時定数でなだらかに減衰する。ここで、間接変換型の検出器を用いてX線を検出した場合、得られる信号の形状は、エネルギーに関係なく図5に示す形状となる。例えば、60keVのX線を照射して得られた信号を「100ns」で規格化すると、図5と同様の形状を示す。すなわち、間接変換型の検出器により検出されるX線の信号は、波形が略同一でパルスの高さのみが異なる。
そこで、本実施形態では、図5に示す波形を基準波形として、基準波形から取得した基準のサンプリングデータと、被検体を透過したX線に基づく信号のサンプリングデータとを比較する。ここで、上述したように、間接変換型の検出器により検出されるX線の信号は、波形が略同一でパルスの高さのみが異なることから、基準波形の高さを変化させるように基準のサンプリングデータを変化させることで、種々のエネルギーに対応するサンプリングデータを導出することができる。
例えば、図5に示す出力波形のサンプリングデータにおいては、25点のサンプル点があり、各点の値がADC14aから出力される。ここで、例えば、120keVよりも高いエネルギーに対応するサンプリングデータの場合、波形の形状を維持した状態で各点の値が上昇することとなる。従って、X線のエネルギーとパルスの上下動との関係を利用することで、種々のX線のエネルギーに応じた比較データを基準波形のサンプリングデータから取得することができる。そして、種々のエネルギーに応じた比較データと、被検体を透過したX線に基づくパルスのサンプリングデータとをそれぞれ比較して、最も近似する比較データを抽出することで、被検体を透過したX線のエネルギーを推定することができる。
ここで、第1の実施形態では、以下の式(1)に示すカイ2乗検定を用いて、比較データとサンプリングデータとを比較して、被検体を透過したX線のエネルギーを推定する。なお、式(1)において、「X2」はカイ2乗値を示し、「xi」は被検体を透過したX線に基づく波形(出力値)を示し、「templatei」は基準波形を示し、「σi」はデータの誤差を示す。また、式(1)における「N」は基準波形の縦軸に乗算する定数を示す。
すなわち、第1の実施形態においては、式(1)に示すように、サンプリングデータと、種々の定数「N」で基準波形の高さを変化させた比較データとを用いてカイ2乗検定を行い、「X2」が最小となる「N」に対応するエネルギーを、被検体を透過したX線のエネルギーとして推定する。ここで、X線のエネルギーと「N」との関係は、エネルギーが既知の線源を用いて予め求めることができる。例えば、「57Co」を用いることで、「122.1keV」と「136.5keV」などの特性X線を得ることができる。そこで、種々のエネルギーのX線を検出器に照射して得られた出力信号の波形を基準波形と比較することで、各エネルギーに対応する「N」をそれぞれ算出する。これにより、X線のエネルギーと「N」との関係式を求めることができる。
ここで、式(1)を用いたX線のエネルギーの推定方法としては、被検体を透過したX線に基づくサンプリングデータを式(1)に適用して、「X2」が最小となる「N」を算出し、X線のエネルギーと「N」との関係式に基づいて、算出した「N」に対応するX線のエネルギーを算出する方法がある。この方法を用いれば、被検体を透過したX線光子の詳細なエネルギーの情報を取得することができる。しかしながら、フォトンカウンティング型X線CT装置1では、被検体を透過したX線光子をいくつかのエネルギー帯に弁別することができればよい。また、フォトンカウンティング型X線CT装置1では、X線光子それぞれについて処理を行うため、できるだけ高速で処理を行うことが望ましい。
そこで、第1の実施形態では、比較データ「N×templatei」を様々な「N」について事前に計算して、演算回路14b~14dに持たせておくことで、処理を高速化する。以下、X線光子を「10~20keV」、「20~40keV」及び「40~50keV」の3つのエネルギー帯に弁別する場合を一例に挙げて説明する。かかる場合には、各エネルギー帯における平均の値に対応する「N」を、X線のエネルギーと「N」との関係式からそれぞれ算出して、演算回路14b~14dに持たせておく。すなわち、「15keV」、「30keV」及び「45keV」に対応する「N」をそれぞれ算出して、各「N」を用いた比較データを演算回路14b~14dに記憶させる。
例えば、演算回路14bは、「15keV」に対応する「N」を用いた比較データ「N×templatei」を保持し、ADC14aによって出力されたサンプリングデータと比較データとのカイ2乗値「X2」を算出して、コンパレータ14eに出力する。また、演算回路14cは、「30keV」に対応する「N」を用いた比較データ「N×templatei」を保持し、ADC14aによって出力されたサンプリングデータと比較データとのカイ2乗値「X2」を算出して、コンパレータ14eに出力する。また、演算回路14dは、「45keV」に対応する「N」を用いた比較データ「N×templatei」を保持し、ADC14aによって出力されたサンプリングデータと比較データとのカイ2乗値「X2」を算出して、コンパレータ14eに出力する。
図4に戻って、コンパレータ14eは、演算回路14b~14dによって出力された3つのカイ2乗値「X2」を比較して、最も小さい値を示すカイ2乗値「X2」のエネルギー帯に対応するカウンタに対して電気信号を出力する。例えば、カウンタ14f~14hがそれぞれ「10~20keV」、「20~40keV」及び「40~50keV」に対応づけられる。ここで、カウンタ14f~14hは、データ収集回路14から入力されるトリガ信号(Trigger)に基づいて、カウント(計数)、計数値の出力(Output)、計数値のリセットを行う。例えば、データ収集回路14は、スキャン制御回路33の制御のもと、ビューごとにトリガ信号を出力して、回転フレーム15の回転と同期して計数データを出力するようにカウンタ14f~14hを制御する。
なお、図4に示すデータ収集回路14では、演算回路及びカウンタがそれぞれ3つずつ備えられ、3つのエネルギー帯(エネルギーウィンド)の計数データを収集する場合について示しているが、実施形態はこれに限定されるものではなく、演算回路及びカウンタが2つずつ備えられ、2つのエネルギー帯の計数データを収集する場合であってもよい。また、演算回路及びカウンタが4つ以上ずつ備えられ、4つ以上のエネルギー帯の計数データを収集する場合であってもよい。
以下、図6A、図6B及び図7を用いて、データ収集回路14の処理の一例を説明する。図6A、図6B及び図7は、第1の実施形態に係るデータ収集回路14における処理の一例を説明するための図である。例えば、データ収集回路14においては、検出素子131から信号が出力されると、図6Aに示すように、ADC14aが、出力信号に対して所定のサンプリングレートでサンプリングを行う。一例を挙げると、ADC14aは、図6Aに示すように、出力信号からサンプリングデータ「x1」~「x11」をサンプリングして、演算回路14b~14dに出力する。なお、出力信号に対して実行するサンプリングのサンプリングレートは、基準波形に対して実行するサンプリングのサンプリングレートと同一である。
演算回路14b~14dは、サンプリングデータを受け付けると、まず、サンプリングデータにピークが含まれているか否かを判定する。例えば、演算回路14b~14dは、図6Bに示すように、サンプリングデータ「x1」~「x11」のうちいずれかの値が所定の閾値「a」を超えているか否かを判定する。ここで、サンプリングデータ「x1」~「x11」のすべての値が閾値「a」を超えていない場合、演算回路14b~14dは、上述したカイ2乗検定を用いた処理を行わない。
一方、サンプリングデータ「x1」~「x11」のうちいずれかの値が閾値「a」を超えていた場合、演算回路14b~14dは、サンプリングデータ「x1」~「x11」におけるピーク位置を判定する。例えば、演算回路14b~14dは、隣接するサンプリングデータ間の差分値がゼロを交差した位置をピークの位置として判定する。一例を挙げて説明すると、演算回路14b~14dは、サンプリングデータ「xi-xi-1」の値がプラスからマイナスになった位置をピークの位置と判定する。すなわち、演算回路14b~14dは、サンプリングデータにおいて出力値の増加が減少に転じた時点を探索することで、ピークの位置を抽出する。
例えば、演算回路14b~14dは、「x2-x1」、「x3-x2」、「x4-x3」、「x5-x4」の各差分値を順に算出し、差分値がマイナスに転じる「x5-x4」の位置にピークが含まれると判定する。そして、演算回路14b~14dは、サンプリングデータと比較データとを用いた式(1)のカイ2乗検定を実行して、カイ2乗値「X2」を算出する。ここで、「X2」を算出する範囲は任意に設定することができる。例えば、全てのサンプリングデータを用いて「X2」を算出する場合であってもよく、ピークを含む数点のサンプリングデータを用いる場合であってもよい。
また、この「X2」を算出する範囲は、基準波形の形状に応じて変化させることもできる。例えば、図5に示すように、ピークがシャープに得られる場合は、ピークを含めた3点を用いて「X2」を算出する場合であってもよい。なお、使用するデータ点を増やすことで、エネルギーの推定精度を向上させることができるが、その間に次のX線が吸収されると、パイルアップとなり、エネルギーの推定精度が低下する場合もある。このように、エネルギー分解能とパイルアップとはトレードオフの関係にあることから、アプリケーションによって使用するデータ点を決める場合であってもよい。
上述したように、ピークの位置を抽出すると、演算回路14b~14dは、保持する比較データとサンプリングデータを用いてカイ2乗値「X2」を算出する。例えば、演算回路14b~14dは、図7に示すように、サンプリングデータ「x1」~「x11」のうち、ピーク点「x4」を含む4点を用いて「X2」を算出する。すなわち、演算回路14bは、サンプリングデータのうちピーク点「x4」を含む4点と、「15keV」の比較データのうちピーク点を含む4点とを用いて「X2」を算出して、コンパレータ14eに出力する。同様に、演算回路14cは、サンプリングデータのうちピーク点「x4」を含む4点と、「30keV」の比較データのうちピーク点を含む4点とを用いて「X2」を算出して、コンパレータ14eに出力する。また、演算回路14dは、サンプリングデータのうちピーク点「x4」を含む4点と、「45keV」の比較データのうちピーク点を含む4点とを用いて「X2」を算出して、コンパレータ14eに出力する。
コンパレータ14eは、演算回路14b~14dからそれぞれ受け付けた「X2」を比較して、最小値を示す「X2」のエネルギー帯に対応するカウンタに電気信号を出力する。例えば、コンパレータ14eは、「30keV」に対応するカウンタ14gに電気信号を出力する。
上述したように、データ収集回路14は、検出器13から出力される信号の基準波形を用いて、検出器13に入射されるX線光子のエネルギーを推定する。ここで、第1の実施形態に係るデータ収集回路14は、基準波形を用いてパイルアップの補正を行うこともできる。図8は、第1の実施形態に係るデータ収集回路14におけるパイルアップ時の処理の一例を説明するための図である。例えば、図8に示すように、時刻「m-3」にX線が吸収され、時刻「m」に「Nm」のパルスを検出し、時刻「m+4」に「Nm+4」のパルスを検出すると、時刻「m+4」のパルスは、時刻「m」のパルスの影響を受けて、実際よりも出力が高く見積もられてしまう。
そこで、データ収集回路14は、基準波形を用いた以下の処理によりパイルアップを補正する。まず、データ収集回路14における演算回路14b~14dは、ADC14aから受け付けたサンプリングデータがパイルアップの影響を受けているか否かを判定する。具体的には、演算回路14b~14dは、サンプリングデータに対して上述したピークの位置の判定処理を実行して、サンプリングデータにおけるピークの位置を抽出する。例えば、演算回路14b~14dは、図8におけるサンプリングデータ「x4」と「x8」を抽出して、ピーク間の時間間隔「Δt」を算出する。
ここで、演算回路14b~14dは、算出した時間間隔「Δt」が基準波形のデータ長よりも短いか否かを判定することで、サンプリングデータがパイルアップの影響を受けているか否かを判定する。すなわち、演算回路14b~14dは、ピーク間(パルス間)の時間間隔「Δt」が基準波形のデータ長よりも短い場合に、サンプリングデータがパイルアップの影響を受けていると判定する。一方、演算回路14b~14dは、ピーク間(パルス間)の時間間隔「Δt」が基準波形のデータ長よりも長い場合に、サンプリングデータがパイルアップの影響を受けていないと判定する。なお、基準波形のデータ長は、基準波形からサンプリングされたデータ数に対応し、例えば、図5の場合、「25」である。すなわち、演算回路14b~14dは、時間間隔「Δt」が基準波形の25点分の時間と比較して短いか否かを判定する。
例えば、演算回路14b~14dは、図8に示す「Δt」が基準波形のデータ長よりも長いと判定すると、「Nm+4」のパルスの補正を行わない。一方、図8に示す「Δt」が基準波形のデータ長よりも短いと判定すると、演算回路14b~14dは、以下の式(2)に基づく補正を実行する。なお、式(2)における「X2」はカイ2乗値を示し、「xi」は被検体を透過したX線に基づく波形(出力値)を示し、「templatei」は基準波形を示し、「σi」はデータの誤差を示す。また、式(1)における「N」は基準波形の縦軸に乗算する定数を示す。
すなわち、演算回路14b~14dは、式(2)に示すように、エネルギーを推定するパルスのデータ「xi」と比較データ「N×templatei」とを比較する際に、当該パルスから1つ手前のパルスの出力値を用いて補正を行う。例えば、演算回路14b~14dは、「Nm+4」のパルスについて、サンプリングデータ「x7」、「x8」、「x9」及び「x10」でエネルギーを推定する場合、「x7」、「x8」、「x9」及び「x10」の時刻に対応する1つ手前のパルス「Nm」の出力値を差分した後にカイ2乗検定を行う。一例を挙げると、演算回路14b~14dは、時刻「m+4」におけるパルス「Nm」の出力値をサンプリングデータ「x8」の値から差分した後にカイ2乗検定に用いる。同様に、演算回路14b~14dは、各サンプリングデータの時刻におけるパルス「Nm」の出力値を対応するサンプリングデータの値から差分した後にカイ2乗検定に用いる。
ここで、各サンプリングデータの時刻におけるパルス「Nm」の出力値は、基準波形の値から算出することができる。すなわち、パルス「Nm」のエネルギーの推定結果からパルス「Nm」の波形の高さが既知となっており、さらに、基準波形は形状が変化しないことから、サンプリングデータ「x4」から「Δt」経過した際の出力値を、「x4」の出力値から導出することができる。このように、パイルアップの補正を行うために、演算回路14b~14dは、少なくとも1つ手前のパルスに関するコンパレータ14eの処理結果を記憶する。例えば、演算回路14b~14dは、コンパレータ14eからの出力を受け付けて記憶する。なお、補正に用いるパルス情報は1つ手前のパルス情報に限らず、2つ以上手前のパルス情報が用いられる場合であってもよい。かかる場合には、演算回路14b~14dは、2つ以上手前のパルス情報を記憶する。
次に、図9を用いて、第1の実施形態に係るフォトンカウンティング型X線CT装置1の処理について説明する。図9は、第1の実施形態に係るフォトンカウンティング型X線CT装置1による処理の手順を示すフローチャートである。図9に示すように、X線が検出素子131に入射されると(ステップS101肯定)、ADC14aが、検出素子131から受け付けた信号をデジタルデータ(サンプリングデータ)に変換する(ステップS102)。
その後、演算回路14b~14dは、ADC14aから受け付けたサンプリングデータにおいてピークを含む範囲を抽出し(ステップS103)、基準波形のデータ長よりも短い時間範囲に複数のピークがあるか否かを判定する(ステップS104)。ここで、基準波形のデータ長よりも短い時間範囲に複数のピークが無いと判定した場合(ステップS104否定)、演算回路14b~14dは、抽出した範囲の波形と基準波形とを比較する(ステップS105)。そして、コンパレータ14eは、最も近似する基準波形に対応するエネルギーを、比較した波形のエネルギーとして推定する(ステップS106)。
一方、ステップS104の判定で、基準波形のデータ長よりも短い時間範囲に複数のピークがあると判定した場合(ステップS104肯定)、演算回路14b~14dが前段のピークの波形と基準波形とを比較し、コンパレータ14eが近似する基準波形に基づいてエネルギーを推定する(ステップS107)。
そして、演算回路14b~14dは、前段のピークに近似する基準波形を用いて後段のピークを補正し、補正後の波形と基準波形とを比較する(ステップS108)。その後、コンパレータ14eは、補正後の波形に近似する基準波形に基づいて比較したエネルギーとして推定する(ステップS109)。
上述したように、第1の実施形態によれば、比較機能141は、放射線を検出する検出器13によって出力される信号の基準波形と、被検体を介して検出器13に入射され、検出器13によって検出された放射線に基づく検出信号の波形とを比較する。推定機能142は、比較機能141による比較結果に基づいて、被検体を介して検出器13に入射された放射線に関する情報を推定する。ここで、比較機能141は、被検体を透過して検出器13に入射されたX線に基づく検出信号の波形と、検出器13におけるX線のエネルギーごとの基準波形とを比較する。推定機能142は、検出信号の波形が近似する基準波形に対応するエネルギーを、被検体を透過して検出器13に入射されたX線のエネルギーと推定する。従って、第1の実施形態に係るフォトンカウンティング型X線CT装置1は、画質を向上させるとともに、間接変換型の検出器を適用したより安定性の高いフォトンカウンティング型X線CT装置を提供することを可能にする。
また、第1の実施形態によれば、比較機能141は、検出信号の波形におけるピークを含む所定の範囲を抽出し、抽出した所定の範囲の波形と、X線のエネルギーごとの基準波形において所定の範囲に対応する範囲の波形とを比較する。推定機能は、所定の範囲の波形が近似する基準波形に対応するエネルギーを、被検体を透過して検出器13に入射されたX線のエネルギーと推定する。従って、第1の実施形態に係るフォトンカウンティング型X線CT装置1は、エネルギー推定の処理速度を向上させることを可能にする。
また、第1の実施形態によれば、比較機能141は、検出信号の波形に含まれる複数のピークをそれぞれ単一の光子の入射に起因する検出信号として分類し、複数のピークのうち前段のピークに対応する波形を用いて後段のピークを補正し、前段のピークを含む所定の範囲の波形及び補正後の後段のピークを含む所定の範囲の波形を、X線のエネルギーごとの基準波形とそれぞれ比較する。推定機能142は、各比較結果に基づいて、前段のピークに対応する光子のエネルギーと、後段のピークに対応する光子のエネルギーとをそれぞれ推定する。また、比較機能141は、前段のピークを含む所定の範囲の波形に近似する基準波形を前段のピークに対応する波形とし、前段のピークに対応する波形とした基準波形を用いて後段のピークの高さを補正する。従って、第1の実施形態に係るフォトンカウンティング型X線CT装置1は、パイルアップによる影響を抑えることができ、画質を向上させることを可能にする。また、第1の実施形態に係るフォトンカウンティング型X線CT装置1は、多重パイルアップに対しても補正を行うことができ、画質を向上させることを可能にする。
さらに、第1の実施形態に係るフォトンカウンティング型X線CT装置1は、間接変換型の検出器において応答速度が遅いシンチレータを用いた場合であっても、パイルアップを補正することができる。上述したように、間接変換型の検出器は、直接変換型の検出器と比較して、X線の吸収効率が高く、安定性が高いが、時定数が長く応答速度が遅いためパイルアップの影響を受けやすい。しかしながら、第1の実施形態に係るフォトンカウンティング型X線CT装置1は、このような間接変換型の検出器を用いた場合でも、上述したようにパイルアップを補正することができる。従って、第1の実施形態に係るフォトンカウンティング型X線CT装置1は、変換効率が高く明るいものの、時定数が長く応答速度が遅いシンチレータを用いた場合であっても、パイルアップを補正することができ、画質をさらに向上させることができる。
また、第1の実施形態によれば、比較機能141は、検出信号の波形において、値が所定の閾値を超え、かつ、増減する範囲を、ピークを含む所定の範囲として抽出する。従って、第1の実施形態に係るフォトンカウンティング型X線CT装置1は、ピークを含む範囲を精度よく抽出することを可能にする。
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、フォトンカウンティング型X線CT装置の実施形態について説明した。次に、PET装置の実施形態について説明する。図10は、第2の実施形態に係るPET装置100の構成の一例を示す図である。図10に示すように、第2の実施形態に係るPET装置100は、架台装置110と、コンソール装置160とを有する。
架台装置110は、陽電子から放出された一対のガンマ線を検出し、検出結果に基づいて計数情報を収集する。図10に示すように、架台装置110は、天板110と、寝台120と、寝台駆動回路130と、検出器モジュール140と、同時計数回路150とを有する。なお、架台装置110は、図10に示すように、撮影口となる空洞を有する。
天板110は、被検体Pが横臥するベッドであり、寝台120の上に配置される。寝台駆動回路130は、後述する寝台制御回路161による制御のもと、寝台120を移動させる。例えば、寝台駆動回路130は、寝台120を移動させることにより、被検体Pを架台装置110の撮影口内に移動させる。
検出器モジュール140は、被検体Pから放出されるガンマ線を検出する。図10に示すように、検出器モジュール140は、架台装置110において、被検体Pの周囲をリング状に取り囲むように複数配置される。ここで、検出器モジュール140は、フォトンカウンティング方式、アンガー型の検出器であり、例えば、シンチレータと、光電子増倍管と、ライトガイドとを有する。
同時計数回路150は、各検出器モジュール140の出力結果に基づいて、陽電子から放出された一対のガンマ線の入射方向を決定するための同時計数情報を生成する。具体的には、同時計数回路150は、シンチレータから散乱して出力された可視光を同じタイミングで電気信号に変換出力した光電子増倍管の位置および電気信号の強度に対応する入射ガンマ線のエネルギーから重心位置を演算することで、検出器モジュール140におけるガンマ線の入射位置(シンチレータの位置)を決定する。また、同時計数回路150は、各光電子増倍管が出力した電気信号の強度を積分することで、検出器モジュール140に対して入射したガンマ線のエネルギー値を演算する。
そして、同時計数回路150は、検出器モジュール140の出力結果の中から、ガンマ線の入射タイミング(時間)が一定時間のタイムウィンドウ幅以内にあり、エネルギー値がともに一定のエネルギーウィンドウ幅にある組み合わせを検索(Coincidence Finding)する。そして、同時計数回路150は、検索した組み合わせの出力結果を、2つの消滅フォトンを同時計数した情報であるとして同時計数情報(Coincidence List)を生成する。そして、同時計数回路150は、同時計数情報をPET画像再構成用のガンマ線投影データとして図10に示すコンソール装置160に送信する。なお、2つの消滅フォトンを同時計数した2つの検出位置を結ぶ線は、LOR(Line of Response)と呼ばれる。また、同時計数情報は、コンソール装置160にて生成される場合であってもよい。また、同時計数回路150は、図10に示すように、比較機能151及び推定機能152を実行するが、これについては、後に詳述する。
コンソール装置160は、操作者によるPET装置100の操作を受け付け、PET画像の撮影を制御するとともに、架台装置110によって収集された同時計数情報を用いてPET画像を生成する。具体的には、コンソール装置160は、図10に示すように、寝台制御回路161と、データ記憶回路162と、画像生成回路163と、入力回路164と、ディスプレイ165と、システム制御回路166とを有する。なお、コンソール装置160が有する各構成は、内部バスを介して接続される。
入力回路164は、PET装置100の操作者によって各種指示や各種設定の入力に用いられるマウスやキーボード等であり、入力された各種指示や各種設定を、システム制御回路166に転送する。ディスプレイ165は、操作者によって参照されるモニタ等であり、システム制御回路166による制御のもと、PET画像を表示したり、操作者から各種指示や各種設定を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)を表示したりする。寝台制御回路161は、寝台駆動回路130を制御する。
データ記憶回路162は、PET装置100において用いられる各種データを記憶する。画像生成回路163は、同時計数回路150が生成した同時計数情報(投影データ)を、例えば、逐次近似法を用いることで、PET画像を再構成する。そして、画像生成回路163は、再構成したPET画像をデータ記憶回路162の画像データ52に格納する。システム制御回路166は、架台装置110及びコンソール装置160の動作を制御することによって、PET装置100の全体制御を行う。具体的には、システム制御回路166は、寝台制御回路161を制御することで、架台装置110で行なわれるPETスキャンを制御する。また、システム制御回路166は、画像生成回路163を制御することで、コンソール装置160における画像再構成処理や画像生成処理を制御する。また、システム制御回路166は、データ記憶回路162が記憶する各種画像データを、ディスプレイ165に表示するように制御する。
以上、第2の実施形態に係るPET装置100の全体構成について説明した。ここで、上述した各回路によって実行される各処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態でデータ記憶回路162に記憶されている。そして、各回路が各プログラムをデータ記憶回路162から読み出して実行することで、上述した種々の機能を実現する。例えば、同時計数回路150の構成要素である比較機能151及び推定機能152は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態でデータ記憶回路162に記憶される。同時計数回路150は各プログラムをデータ記憶回路162から読み出して実行することで、各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、各プログラムを読み出した状態の同時計数回路150は、図10に示された各機能を有することとなる。なお、本実施形態で説明する比較機能151は、特許請求の範囲に記載した比較部に対応する。また、推定機能152は、特許請求の範囲に記載した推定部に対応する。なお、上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、第1の実施形態にて説明したものと同様である。
第2の実施形態に係るPET装置100は、上記した構成のもと、以下、詳細に説明する同時計数回路150の処理により、画質を向上させる。具体的には、同時計数回路150が、検出器モジュール140から出力される信号の基準波形を用いて、ガンマ線の到達時間を推定することで、画質を向上させる。
例えば、同時計数回路150における比較機能151は、被検体内から検出器モジュール140に入射されたガンマ線に基づく検出信号の波形と、基準波形を時間軸上で移動させた各時点における基準波形とを比較する。推定機能152は、検出信号の波形が近似する基準波形の時点を、ガンマ線の到達時刻と推定する。ここで、推定機能152は、検出信号の波形と基準波形との相互相関関数の値が最大となる時点を、ガンマ線の到達時刻と推定する。
以下、上述した同時計数回路150を実現するための構成例について説明する。図11は、第2の実施形態に係る同時計数回路150の構成の一例を示す図である。図11に示すように、第2の実施形態に係る同時計数回路150は、ADC115aと、演算回路115b~115dと、コンパレータ115eとを有し、検出器モジュール140のシンチレータの後段にそれぞれ配置される。なお、図11においては、演算回路115b~115dが上述した比較機能151に対応し、コンパレータ115eが上述した推定機能152に対応する。
ADC115aは、検出器モジュール140によって出力されたパルス信号をデジタル信号に変換する。例えば、ADC115aは、入力されたパルス信号を所定のサンプリングレート(例えば、250Msps)でサンプリングする。そして、ADC115aは、サンプリングデータを演算回路115b~115dにそれぞれ出力する。
演算回路115b~115dは、ADC115aによって出力されたサンプリングデータを検出器モジュール140における出力信号の基準波形と比較する。ここで、第2の実施形態に係る演算回路115b~115dは、以下の式(3)に示す相互相関関数(cross correlation)を用いてサンプリングデータと基準波形とを比較する。ここで、式(3)における「CC」は相互相関関数を示し、「x」は被検体から放出されたガンマ線に基づく波形(出力値)を示し、「template」は基準波形を示す。
すなわち、同時計数回路150は、式(3)に示すように、サンプリングデータと基準波形のデータとの積を評価することで、ガンマ線の到達時刻を推定する。図12は、第2の実施形態に係る同時計数回路150における処理の一例を説明するための図である。例えば、同時計数回路150は、図12に示すように、基準波形を時間軸上で移動させながらサンプリングデータとのCCを算出する。ここで、基準波形とサンプリングデータとが最も近似する時点の「CC」が最大となることから、同時計数回路150は、基準波形を所定の時間「τ」でずらしながら「CC」を算出して、「CC」が最大となる時点「b」をガンマ線の到達時間と推定する。サンプリングデータは所定のサンプリングレートで取得されたデジタルデータであることから、サンプリングデータだけでピークを抽出した場合、正しくピークが抽出されていない可能性もある。しかしながら、サンプリングデータが基準波形に最も近似する時点のピークを用いることで、ガンマ線の到達時刻を精度よく決定することができる。
ここで、第2の実施形態においても、基準波形を所定の時間ずつ移動させた場合の比較データ「template(t+τ)」を予め算出しておき、演算回路115b~115dにそれぞれ保持させることができる。例えば、演算回路115b~115dは、それぞれ異なる時刻での比較データを保持しておき、ADC115aから受け付けたサンプリングデータと比較データとを用いた相互相関関数「CC」をそれぞれ算出して、コンパレータ115eに出力する。コンパレータ115eは、受け付けた3つの「CC」のうち、最も大きい値を示す「CC」の算出に用いられた比較データの時刻を、サンプリングデータに対応するガンマ線の到達時刻として出力する。
なお、上述した相互相関関数を用いたガンマ線の到達時刻の推定では、基準波形からのサンプリングデータの取得は、サンプリングレートの高いADCを用いられる。これにより、基準波形におけるピークの位置を精度よく決めておくことができる。そして、被検体から放出されたガンマ線の信号に対するサンプリングのサンプリングレートが低い場合であっても、上記した基準波形からのサンプリングデータを用いることで、ガンマ線の到達時刻を精度よく決定することができる。
また、上述した実施形態では、ADC115aによって取得されたサンプリングデータを全て用いる場合を例に挙げて説明したが、実施形態はこれに限定されるものではなく、第1の実施形態にて説明したように、ピークの位置を抽出して、ピークの位置を含む数点のサンプリングデータを用いる場合であってもよい。かかる場合には、比較機能151は、検出信号の波形におけるピークを含む所定の範囲を抽出し、抽出した所定の範囲の波形と、基準波形において所定の範囲に対応する範囲の波形とを比較する。推定機能152は、所定の範囲の波形が近似する基準波形の時点を、ガンマ線の到達時刻と推定する。
上述したように、同時計数回路150は、基準波形を用いた相互相関関数によりガンマ線の到達時刻を推定することで、到達時刻の決定を精度よく行うことができる。その結果、同時計数を精度よく行うことが可能になるとともに、TOF(Time-of-Flight)の精度を向上させることも可能になる。図13A及び図13Bは、第2の実施形態に係るPET装置100によるTOFの一例を説明するための図である。例えば、図13Aに示すように、検出素子131aと検出素子131bによってガンマ線が検出されると、同時計数回路150が、上述した相互相関関数を用いた処理により各ガンマ線の到達時刻をそれぞれ決定する。
そして、同時計数回路150は、図13Bに示すように、基準波形に基づいて決定された到達時刻がPET装置100のFOVに基づくタイムウィンドウ幅内にあり、エネルギー値がともに一定のエネルギーウィンドウ幅にある組み合わせを対消滅ガンマ線の情報であると判定する。ここで、同時計数回路150は、図13Bに示すように、対消滅ガンマ線の到達時刻の差「Δt」を算出して、算出した「Δt」に基づいてTOFを行う。すなわち、同時計数回路150は、図13Aに示すように、検出素子131aと検出素子131bとを結ぶLORの中点61から「Δt」分の距離を移動した位置62を対消滅ガンマ線が生じた位置として決定する。このように、第2の実施形態に係るPET装置100では、ガンマ線の到達時刻を精度よく決定することができ、その結果、TOFの精度も向上させることを可能にする。
次に、図14を用いて、第2の実施形態に係るPET装置100の処理について説明する。図14は、第2の実施形態に係るPET装置100による処理の手順を示すフローチャートである。図14に示すように、ガンマ線が検出素子に入射されると(ステップS201肯定)、ADC115aが、検出素子から受け付けた信号をデジタルデータ(サンプリングデータ)に変換する(ステップS202)。
その後、演算回路115b~115dは、ADC115aから受け付けたサンプリングデータ(検出した波形)と基準波形との相互相関関数を算出する(ステップS203)。そして、コンパレータ115eが、相互相関関数が最大となる時間をガンマ線の到達時間として推定する(ステップS204)。そして、同時計数回路150は、推定したガンマ線の到達時間に基づいて、同時計数情報を生成する(ステップS205)。
上述したように、第2の実施形態によれば、比較機能151は、被検体内から検出器モジュール140に入射されたガンマ線に基づく検出信号の波形と、基準波形を時間軸上で移動させた各時点における基準波形とを比較する。推定機能152は、検出信号の波形が近似する基準波形の時点を、ガンマ線の到達時刻と推定する。また、推定機能152は、検出信号の波形と基準波形との相互相関関数の値が最大となる時点を、ガンマ線の到達時刻と推定する。従って、第2の実施形態に係るPET装置100は、ガンマ線の到達時刻の決定及びTOFを精度よく行うことができ、画質を向上させることを可能にする。
(第3の実施形態)
さて、これまで第1及び第2の実施形態について説明したが、上記した第1及び第2の実施形態以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。
例えば、上述した実施形態では、検出器としてシンチレータと光センサとを用いる間接変換型の検出器を用いる場合を例に挙げて説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではなく、半導体を用いた直接変換型の検出器を用いる場合であってもよい。かかる場合には、例えば、検出器から出力される出力信号の波形の形状がエネルギーに依存しないものであれば、適宜利用することができる。例えば、半導体の材質にシリコンを用いた場合、出力信号の波形が揃っている場合が多いことから、上述した実施形態に適用することができる。また、半導体の材質にCdTeや、CdZnTe、GaAsなどを用いた場合でも、検出器厚を薄くしてエッジオン(Edge-On)のジオメトリでX線が入射するようにした検出器であれば、上述した実施形態に適用することができる。
以下、一般的な直接変換型の検出器及びエッジオンの検出器について、図15及び図16を用いてそれぞれ説明する。図15及び図16は、第3の実施形態に係る検出器のジオメトリの例を説明するための図である。ここで、図15においては、一般的な検出器について示す。また、図16においては、エッジオンの検出器について示す。
直接変換型の検出器は、検出素子でX線が吸収されることによって発生する電子と正孔がそれぞれプラス電極とマイナス電極に向かって走行することで信号が出力される。一般的な検出器における検出素子は、図15に示すように、X線が入射する側にどちらかの電極が配置されたジオメトリを有している。ここで、X線が吸収されることによって発生する電子と正孔は、検出素子内での易動度(mobility)が異なり、電子の速度が速く、正孔の速度が遅い。従って、図15に示す一般的なジオメトリの場合、入射したX線が検出素子のどの位置で吸収されるかによって出力される信号の波形が異なる。
例えば、X線が検出素子のプラス電極側で吸収されると、易動度の高い電子がすぐにプラス電極に走行することで急峻な立ち上がりを示し、易動度の低い正孔がゆっくりとマイナス電極に走行することで緩やかに上昇を示す信号が出力される。一方、X線が検出素子のマイナス電極側で吸収されると、易動度の高い電子でもプラス電極への到達に時間を要し、易動度の低い正孔がゆっくりとマイナス電極に走行することで、緩やかな立ち上がりを示す信号が出力される。このように、一般的なジオメトリを有する直接変換型の検出器では、X線が吸収される位置に応じて波形の形状が変化するため、上述した実施形態に適用することは難しい。
しかしながら、図16に示すエッジオンのジオメトリを有する検出器の場合、電子と正孔の易動度の差の影響が出にくいため、出力される信号の波形も同様のものとなる。すなわち、エッジオンのジオメトリでは、図16に示すように、プラス電極とマイナス電極とがX線の入射方向に対して直交する方向に並列で配置され、その間の検出素子が薄い構造を有しているため、X線が検出素子のどの位置で吸収されても、電子と正孔の易動度の差の影響が出にくい構造となっている。従って、図16に示すエッジオンのジオメトリを有する検出器の場合、出力される信号の波形がほとんど変わらないため、上述した実施形態に適用することができる。なお、シリコンは、その他の材質の場合と比較して、電子と正孔の移動速度が速く、電子と正孔の易動度の差が波形に及ぼす影響が小さい。そのため、検出素子の材質としてシリコンを用いる場合、一般的なジオメトリを有する検出器でも上述した実施形態に適用することができる。
また、上述した実施形態において、検出信号(出力信号)の波形との比較に用いられるX線のエネルギーごとの基準波形は、種々の条件に応じて任意に設定することができる。例えば、本願に係るデータ収集回路14は、造影剤を投与された被検体を透過して検出器13に入射されたX線に基づく出力信号の波形と基準波形とを比較する場合に、造影剤のk吸収端付近のエネルギーに対応する基準波形を用いることができる。具体的には、データ収集回路14は、造影剤が投与された被検体を透過して検出器13に入射されたX線に基づく検出信号の波形と、造影剤のk吸収端付近のX線のエネルギーごとの基準波形とを比較し、k吸収端の前後のX線のエネルギーに対応する基準波形に近似する波形を有する検出信号を収集する。
すなわち、造影剤のk吸収端付近のX線のエネルギーの値に対応する「N」を、X線のエネルギーと「N」との関係式からそれぞれ算出して、データ収集回路14における演算回路14b~14dに持たせておく。換言すると、演算回路14b~14dは、造影剤のk吸収端付近のX線のエネルギーに対応する「N」を用いた比較データ「N×templatei」を保持し、ADC14aによって出力されたサンプリングデータと比較データとのカイ2乗値「X2」を算出して、コンパレータ14eに出力する。
ここで、被検体に投与される造影剤は、様々な種類があり、使用される物質によってk吸収端が異なる。例えば、造影剤としては、バリウム(Ba)、ヨード(I)、ガドリニウム(Gd)などが知られており、各物質によりk吸収端が異なる。従って、演算回路14b~14dは、投与される造影剤に応じた比較データ「N×templatei」を保持し、ADC14aによって出力されたサンプリングデータと比較データとのカイ2乗値「X2」を算出して、コンパレータ14eに出力する。ここで、データ収集回路14には、演算回路14b~14dの3つの回路のみを示しているが、データ収集回路14は、保持させる比較データの数に応じて任意の数の演算回路を有することができる。以下、造影剤としてガドリニウムを用いる場合を一例に挙げて説明する。
図17A及び図17Bは、第3の実施形態に係るデータ収集回路における処理の一例を説明するための図である。図17Aにおいては、ガドリニウムのk吸収端を示し、図17Bにおいては、造影剤がガドリニウムの場合に用いられる基準波形の一例を示す。また、図17Aは、縦軸に減弱係数を示し、横軸にX線エネルギー(keV)を示す。また、図17Bは、縦軸に出力値を示し、横軸に時刻を示す。
図17Aに示すように、ガドリニウムのk吸収端は約「50keV」であり、約「50keV」においてX線の吸収が大きくなる。すなわち、ガドリニウムは、約「50keV」の前後でX線の吸収が大きく変化する。従って、ガドリニウムを造影剤として用いた場合、約「50keV」を境界にした前後のエネルギー帯で、造影の効果が異なる画像を生成することができる。例えば、k吸収端の前のエネルギー帯(例えば、図17Aに示す範囲R1)では、X線の吸収が低いため、造影の効果が低い画像が生成される。一方、k吸収端の後のエネルギー帯(例えば、図17Aに示す範囲R2)では、X線の吸収が高いため、造影の効果が高い画像が生成される。
そこで、データ収集回路14では、例えば、図17Bに示すように、ガドリニウムのk吸収端である約「50keV」の前後のX線エネルギー帯「40~50keV」と「50~60keV」の平均値である「45keV」と「55keV」の基準波形を用いて、ガドリニウムのk吸収端の前後のX線エネルギー帯に対応するサンプリングデータを弁別する。例えば、演算回路14b~14dのうち2つの演算回路が、「45keV」に対応する「N」を用いた比較データ「N×templatei」と、「55keV」に対応する「N」を用いた比較データ「N×templatei」とをそれぞれ保持する。そして、演算回路14b~14dのうち2つの演算回路は、ADC14aによって出力されたサンプリングデータと比較データとのカイ2乗値「X2」を算出して、コンパレータ14eに出力する。
コンパレータ14eは、演算回路14b~14dのうち2つの演算回路によって出力された2つのカイ2乗値「X2」を比較して、最も小さい値を示すカイ2乗値「X2」のエネルギー帯に対応するカウンタに対して電気信号を出力する。例えば、カウンタ14f~14hのうち2つのカウンタがそれぞれ「40~50keV」、「50~60keV」に対応づけられる。
フォトンカウンティング型X線CT装置1は、このように弁別された各エネルギー帯の計数データを用いて、「40~50keV」のCT画像と「50~60keV」のCT画像とをそれぞれ生成する。フォトンカウンティング型X線CT装置1は、例えば、生成した「40~50keV」のCT画像と「50~60keV」のCT画像とを差分することで、より造影効果の高いCT画像を生成することができる。
上述した例では、造影剤のk吸収端に基づいて、比較データを変化させる場合について説明した。次に、線質硬化(ビームハードニング)の度合いに応じて比較データを変化させる場合について説明する。すなわち、被検体を透過するX線の線質硬化の度合いに応じて、比較データ「N×templatei」の「N」を変化させる場合について説明する。具体的には、データ収集回路14は、被検体を透過して検出器13に入射されたX線の線質硬化の度合いに応じて、X線に基づく検出信号の波形と比較する基準波形に対応するX線のエネルギーを変更する。例えば、被検体の体厚が厚い場合や、骨が密集する部位を撮像する場合など、被検体を透過するX線の線質硬化の度合いが高い場合には、弁別するエネルギー帯を高いエネルギー帯側で細かく設定することができる。
図18は、第3の実施形態に係る基準波形の一例を示す図である。図18においては、縦軸に出力値を示し、横軸に時刻を示す。例えば、データ収集回路14は、図18に示すように、「110keV」、「115keV」、「120keV」、「125keV」及び「130keV」の基準波形を用いて、各X線エネルギー帯に対応するサンプリングデータを弁別する。このように、データ収集回路14は、ビームハードニングによって硬化したX線を弁別するために、弁別するエネルギー帯を高いエネルギー帯側で細かく設定することができる。すなわち、データ収集回路14は、「110keV」、「115keV」、「120keV」、「125keV」及び「130keV」に対応する「N」を、X線のエネルギーと「N」との関係式からそれぞれ算出して、演算回路に持たせておく。換言すると、演算回路は、「110keV」、「115keV」、「120keV」、「125keV」及び「130keV」に対応する「N」を用いた比較データ「N×templatei」を保持し、ADC14aによって出力されたサンプリングデータと比較データとのカイ2乗値「X2」を算出して、コンパレータ14eに出力する。なお、「110keV」、「115keV」、「120keV」、「125keV」及び「130keV」の比較データをもつ場合には、データ収集回路14は、5つの演算回路を有する。
このように、ビームハードニングの度合いに応じて、比較データのX線エネルギーを変更することにより、被検体を透過したX線の線質に応じたエネルギー弁別を行うことができる。また、データ収集回路14が有する演算回路を有効に利用することができる。例えば、演算回路を3つ有するデータ収集回路において、ビームハードニングの度合いが高い場合には、3つの演算回路を高いエネルギー帯側の各エネルギー帯に割り当て、ビームハードニングの度合いが低い場合には、3つの演算回路を幅広いエネルギーをカバーする各エネルギー帯に割り当てる。これにより、演算回路を増やすことなく、被検体を透過したX線の線質に応じたエネルギー弁別を行うことができる。
また、第1の実施形態で図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、或いは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
また、第1の実施形態で説明したデータ収集方法は、予め用意されたデータ収集プログラムをパーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータで実行することによって実現することができる。このデータ収集プログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布することができる。また、このデータ収集プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO、DVD等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
以上、説明したとおり、各実施形態によれば、画質を向上させることを可能とする。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。