JP7016992B1 - 塩素化塩化ビニル系樹脂 - Google Patents

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Abstract

本発明は、高圧が負荷される形態で使用する場合でも高い接着強度を維持し、強度不足に起因する割れ等の不具合が生じにくい成形体を製造することが可能な塩素化塩化ビニル系樹脂、並びに、該塩素化塩化ビニル系樹脂を用いた成形用樹脂組成物及び成形体を提供する。本発明は、パルスNMRを用いて30℃でSolid Echo法で測定し、1Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を、最小二乗法により緩和時間が短い順にA30成分、B30成分の2成分に由来する2つの曲線に波形分離して得た、B30成分の緩和時間TBと、200℃で5分間加熱した後におけるB30成分の緩和時間T5Bとの比[T5B/TB]が76%以上、96%未満である、塩素化塩化ビニル系樹脂。

Description

本発明は、高圧が負荷される形態で使用する場合でも高い接着強度を維持し、強度不足に起因する割れ等の不具合が生じにくい成形体を製造することが可能な塩素化塩化ビニル系樹脂、並びに、該塩素化塩化ビニル系樹脂を用いた成形用樹脂組成物及び成形体に関する。
塩化ビニル系樹脂は、一般に、機械的強度、耐候性及び耐薬品性に優れている。このため、塩化ビニル系樹脂は、各種の成形体に加工されており、多くの分野で使用されている。
しかしながら、塩化ビニル系樹脂は、耐熱性に劣るため、塩化ビニル系樹脂を塩素化することにより耐熱性を向上させた塩素化塩化ビニル系樹脂(CPVC)が開発されている。
例えば、特許文献1には、後塩素化ポリ塩化ビニルと特定の安定剤とを併用した組成物が開示されており、このような樹脂は、加工中の熱応力および機械応力に耐え得ることが開示されている。
特開平8-311286号公報
しかしながら、特許文献1に記載のような塩素化塩化ビニル系樹脂を用いて得られる成形体(例えば、パイプ、継手等)は、特に高圧が負荷される形態で使用する場合に接着強度が不足し、抜けや水漏れが発生するという問題がある。
また、得られた成形体は、パイプで使用する場合はスパイダー部での再融着強度が低く、継手で使用する場合はウェルド部での再融着強度が低いため、継手等に使用する場合に割れが生じるという問題がある。
本発明は、上記従来技術の課題に鑑み、高圧が負荷される形態で使用する場合でも高い接着強度を維持し、強度不足に起因する割れ等の不具合が生じにくい成形体を製造することが可能な塩素化塩化ビニル系樹脂並びに、該塩素化塩化ビニル系樹脂を用いた成形用樹脂組成物及び成形体を提供することを目的とする。
本発明によれば、パルスNMRを用いて30℃でSolid Echo法で測定し、Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を、最小二乗法により緩和時間が短い順にA30成分、B30成分の2成分に由来する2つの曲線に波形分離して得た、B30成分の緩和時間Tと、200℃で5分間加熱した後におけるB30成分の緩和時間T5との比[T5/T]が76%以上、96%未満である、塩素化塩化ビニル系樹脂が提供される。
以下に本発明を詳述する。
本発明の一実施態様である塩素化塩化ビニル系樹脂は、パルスNMRを用いて30℃でSolid Echo法で測定して得られるB30成分の緩和時間Tと、200℃で5分間加熱した後におけるB30成分の緩和時間T5との比[T5/T]が76%以上、96%未満である。
上記緩和時間Tと、200℃で5分間加熱した後におけるB30成分の緩和時間T5との比[T5/T]を76%以上、96%未満とすることで、高圧が負荷される形態で使用する場合でも高い接着強度を維持し、強度不足に起因する割れ等の不具合が生じにくい成形体を製造することが可能となる。上記T5/Tは、78%以上、95%以下であることが好ましい。80%以上、94%以下であることがより好ましく、81%以上、92%以下であることが更に好ましい。
なお、B30成分の緩和時間Tと、200℃で5分間加熱した後におけるB30成分の緩和時間T5との比は、T5/Tを百分率で表したものである。
ここで、パルスNMRとは、パルスに対する応答信号を検出し、試料のH核磁気緩和時間を求める手法であり、パルスの応答として、自由誘導減衰曲線が得られる。得られる自由誘導減衰曲線は、緩和時間が異なる複数成分の自由誘導減衰曲線を重畳したものであり、これを最小二乗法を用いて波形分離することで、緩和時間が異なる各成分の緩和時間や成分を検出することができる。このようなパルスNMRを用いて3成分に分離して解析する手法は、公知であり、文献の例としては、特開2018-2983号公報等が挙げられる。
上記パルスNMRでは、A30成分、B30成分の2成分が得られるが、上記A30成分は、パルスNMR測定における緩和時間の短い成分であり、分子運動性が低く、硬い成分を意味する。一方、B30成分は、パルスNMRにおける緩和時間の長い成分であり、分子運動性が高く、柔らかい成分を意味する。
上記B30成分の緩和時間Tは、0.140ms以上、0.180ms以下であることが好ましい。上記範囲内とすることで、塩ビ系接着剤を使用した際の成形品表面への溶剤の膨潤性が良くなり接着強度を向上することができる。また熱をかけた際の溶融開始時間が早くなるため、成形時に溶融樹脂合流部を有する型での再融着強度が改善することができる。
上記緩和時間Tのより好ましい下限は0.150ms、より好ましい上限は0.170msである。
なお、上記緩和時間Tは、塩素化塩化ビニル系樹脂に対して、加熱を行わずに測定した場合における緩和時間を意味する。
本発明において、200℃で5分間加熱した後におけるB30成分の緩和時間T5は、0.110ms以上、0.150ms以下であることが好ましい。上記範囲内とすることで、塩ビ系接着剤を使用した際の成形品表面への溶剤の膨潤性が良くなり接着強度を向上することができる。また熱をかけた際の溶融開始時間が早くなるため、成形時に溶融樹脂合流部を有する型での再融着強度が改善することができる。
上記緩和時間T5のより好ましい下限は0.115ms、より好ましい上限は0.145msである。
なお、上記緩和時間T5は、塩素化塩化ビニル系樹脂に対して、200℃で5分間加熱した後における緩和時間を意味する。
本発明では、200℃で5分間加熱した後におけるB30成分の緩和時間T5と、200℃で20分間加熱した後におけるB30成分の緩和時間T20との比[T5/T20]が76%以上、96%未満であることが好ましい。上記範囲内とすることで、塩ビ系接着剤を使用した際の成形品表面への溶剤の膨潤性が良くなり接着強度を向上することができる。また熱をかけた際の溶融開始時間が早くなるため、成形時に溶融樹脂合流部を有する型での再融着強度が改善することができる。78%以上、95%以下であることがより好ましく、80%以上、94%以下であることが更に好ましく、81%以上、92%以下であることが特に好ましい。
本発明において、200℃で20分間加熱した後におけるB30成分の緩和時間T20は、0.110ms以上、0.150ms以下であることが好ましい。上記範囲内とすることで、塩ビ系接着剤を使用した際の成形品表面への溶剤の膨潤性が良くなり接着強度を向上することができる。また熱をかけた際の溶融開始時間が早くなるため、成形時に溶融樹脂合流部を有する型での再融着強度が改善することができる。上記緩和時間T20のより好ましい下限は0.115ms、より好ましい上限は0.145msである。
なお、上記緩和時間T20は、塩素化塩化ビニル系樹脂に対して、200℃で20分間加熱した後における緩和時間を意味する。
本発明において、上記A30成分の緩和時間Tは、0.010ms以上、0.012ms未満であることが好ましい。
なお、上記緩和時間TA、塩素化塩化ビニル系樹脂に対して、加熱を行わずに測定した場合における緩和時間を意味する。
本発明の一実施態様である塩素化塩化ビニル系樹脂は、上記A30成分の成分比[A30成分/(A30成分+B30成分)]が90%以上であることが好ましく、100%未満であることが好ましい。
本発明の一実施態様である塩素化塩化ビニル系樹脂は、上記B30成分の成分比[B30成分/(A30成分+B30成分)]が1%以上であることが好ましく、10%以下であることが好ましい。
本発明の一実施態様である塩素化塩化ビニル系樹脂は、下記式(a)~(c)に示す構成単位(a)~(c)を有することが好ましい。また、下記構成単位(a)、(b)及び(c)の合計モル数に対して、構成単位(a)の割合が5.0モル%以上、構成単位(b)の割合が40.0モル%以下、構成単位(c)の割合が55.0モル%以下であることが好ましい。塩ビ系接着剤を使用した際の成形品表面への溶剤の膨潤性が良くなり接着強度を向上することができる。また熱をかけた際の溶融開始時間が早くなるため、成形時に溶融樹脂合流部を有する型での再融着強度が改善することができる。
本発明の一実施態様である塩素化塩化ビニル系樹脂は、上記構成単位(a)、(b)及び(c)の合計モル数に対して、構成単位(a)の割合は30.0モル%以上であることがより好ましく、35.0モル%以上であることが更に好ましく、90.0モル%以下であることが好ましく、60.0モル%以下であることがより好ましい。
また、上記構成単位(a)、(b)及び(c)の合計モル数に対して、構成単位(b)の割合は5.0モル%以上であることが好ましく、15.0モル%以上であることがより好ましく、30.0モル%以下がより好ましく、25.0モル%以下であることが更に好ましい。
更に、上記構成単位(a)、(b)及び(c)の合計モル数に対して、構成単位(c)の割合は5.0モル%以上であることが好ましく、25.0モル%以上であることがより好ましく、55.0モル%以下であることがより好ましく、40.0モル%以下であることが更に好ましい。
Figure 0007016992000001
本発明の一実施態様である塩素化塩化ビニル系樹脂の構成単位(a)、(b)及び(c)のモル比は、塩化ビニル系樹脂(PVC)が塩素化される際の塩素が導入される部位を反映したものである。塩素化前のPVCは、構成単位(a)が大半で、構成単位(b)及び(c)が0モル%の状態にあるが、塩素化に伴って構成単位(a)が減少し、構成単位(b)及び(c)が増加する。この際、不安定な構成単位(b)が増えすぎたり、塩素化塩化ビニル系樹脂の同一粒子内で塩素化されている部位とされていない部位が偏ったりすると、塩素化状態の不均一性が大きくなる。塩ビ系接着剤を使用した際の成形品表面への溶剤の膨潤性が良くなり接着強度を向上することができる。また熱をかけた際の溶融開始時間が早くなるため、成形時に溶融樹脂合流部を有する型での再融着強度が改善することができる。
本発明の一実施態様である塩素化塩化ビニル系樹脂の構成単位(a)、(b)及び(c)のモル比は、NMRを用いた分子構造解析により測定することができる。NMR分析は、R.A.Komoroski,R.G.Parker,J.P.Shocker,Macromolecules,1985,18,1257-1265に記載の方法に準拠して行うことができる。
本発明の一実施態様である塩素化塩化ビニル系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記構成単位(a)、(b)及び(c)以外の他の構成単位を含んでいてもよい。
上記他の構成単位の含有量は、塩素化塩化ビニル系樹脂中、0質量%以上であることが好ましく、10質量%未満であることが好ましい。
上記他の構成単位としては、硫黄を含有する置換基を有する構成単位等が挙げられる。
上記硫黄を含有する置換基としては、硫黄化合物に由来する置換基等が挙げられる。
上記塩素化塩化ビニル系樹脂において、下記に示す塩素化塩化ビニル系樹脂中の硫黄含有量が0質量ppm以上を超える場合は、樹脂中に硫黄が存在し、上記硫黄が樹脂と結合しているといえるため、上記塩素化塩化ビニル系樹脂は、硫黄を含有する置換基を有する構成単位を含むことが分かる。
上記硫黄を含有する置換基としては、硫黄化合物に由来する置換基等が挙げられる。上記硫黄化合物としては、後述する化合物が挙げられる。なかでも、チオグリコール酸及びチオグリコール酸のエステルからなる群から選択される少なくとも1種のチオグリコール酸系化合物が好ましい。
上記硫黄を含有する置換基を有する構成単位としては、例えば、下記式(d)に示す構成単位(d)等が挙げられる。上記構成単位(d)中のRとしては、アルキレン基、エステル基、アルキル基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種が結合した基が好ましく、アルキレン基、エステル基及びアルキル基からなる群より選択される少なくとも1種が結合した基であることがより好ましい。
Figure 0007016992000002
本発明の一実施態様である塩素化塩化ビニル系樹脂中の硫黄含有量は、5質量ppm以上、1000質量ppm以下であることが好ましい。より好ましくは10質量ppm以上、500質量ppm以下である。さらに好ましくは200質量ppm以下である。
上記塩素化塩化ビニル系樹脂中の硫黄含有量は、IC(イオンクロマトグラフィー)を用いた定量分析によって検出できる。具体的には、塩素化塩化ビニル系樹脂をTHFに溶解し、遠心分離機にて不溶部を分離・濾過後、過剰量のメタノールを加えて再沈殿させて吸引濾過により分離、真空乾燥機にて80℃で乾燥させることで得られる試料をセラミックボートに入れて秤量後、自動資料燃焼装置を用いて燃焼させ、発生したガスを吸収液10mLに捕集する。この吸収液を超純水で15mLに調整した液についてICによる定量分析を行う。例えば、自動燃焼装置(三菱ケミカルアナリテック社製、AQF-2100H)、IC(Thermo Fisher Scientific社製、ICS-5000)を用いて測定することで、塩素化塩化ビニル系樹脂中の硫黄含有量(質量ppm)を定量することが出来る。
本発明の一実施態様である塩素化塩化ビニル系樹脂は、付加塩素化量が1.0質量%以上であることが好ましく、16.0質量%以下であることが好ましい。
上記付加塩素化量を1.0質量%以上とすることで、成形品としての耐熱性が充分なものとなり、16.0質量%以下とすることで、成形性が向上する。
上記付加塩素化量は、3.2質量%以上であることがより好ましく、6.2質量%以上であることが更に好ましく、15.2質量%以下であることがより好ましく、12.2質量%以下であることが更に好ましい。
なお、塩化ビニル系樹脂の塩素含有量は通常56.8質量%であるが、上記付加塩素化量は、塩化ビニル系樹脂に対する塩素の導入割合を意味するものであり、JIS K 7229に記載の方法により測定することができる。
本発明の一実施態様である塩素化塩化ビニル系樹脂の重合度は、100以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましく、500以上であることが更に好ましく、2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましい。
上記重合度を上述の範囲内とすることで、成形時の流動性と成型品の強度を両立することができる。
本発明の一実施態様である塩素化塩化ビニル系樹脂を製造する方法としては、例えば、反応容器中において、塩化ビニル系樹脂を水性媒体に懸濁して懸濁液を調製し、前記反応容器内に塩素を導入し、前記懸濁液を加熱することによって前記塩化ビニル系樹脂を塩素化する工程(塩素化工程)を行う方法が挙げられる。
特に、上記B30成分の緩和時間Tと、200℃で5分間加熱した後におけるB30成分の緩和時間T5との比[T5/T]が所定の範囲内である塩素化塩化ビニル系樹脂は、上記塩素化工程において、使用する塩化ビニル樹脂の平均重合度及び添加濃度、平均塩素消費速度、反応方法(光塩素化、熱塩素化)、反応温度、反応圧力を調整すること、上記塩素化工程を行った後に、硫黄化合物を添加すること、上記硫黄化合物の添加量を調整することで製造することができる。
上記反応容器としては、例えば、グラスライニングが施されたステンレス製反応容器、チタン製反応容器等の一般に使用されている容器を使用することができる。
上記塩化ビニル系樹脂を水性媒体に懸濁して懸濁液を調製する方法は、特に限定されず、重合後のPVCを脱モノマー処理したケーキ状のPVCを用いてもよいし、乾燥させたものを再度、水性媒体で懸濁化してもよい。また、重合系中より、塩素化反応に好ましくない物質を除去した懸濁液を使用してもよいが、重合後のPVCを脱モノマー処理したケーキ状の樹脂を用いることが好ましい。
上記水性媒体としては、例えば、イオン交換処理された純水を用いることができる。水性媒体の量は、特に限定されないが、一般にPVCの100質量部に対して150~400質量部が好ましい。
上記塩素化工程における塩化ビニル系樹脂の水性媒体懸濁液中の濃度(添加濃度)は、20~40質量%が好ましい。
上記反応容器内に導入する塩素は、液体塩素及び気体塩素のいずれであってもよい。短時間に多量の塩素を仕込めるため、液体塩素を用いることが効率的である。圧力を調整するためや塩素を補給するために、反応途中に塩素を追加してもよい。このとき、液体塩素の他に気体塩素を適宜吹き込むこともできる。ボンベ塩素の5~10質量%をパージした後の塩素を用いるのが好ましい。
上記塩素化工程における反応圧力(反応容器内のゲージ圧力)は、特に限定されないが、塩素圧力が高いほど塩素がPVC粒子の内部に浸透し易いため、0~2MPaの範囲が好ましい。上記反応圧力としては0.01~0.3MPaがより好ましい。
上記懸濁した状態でPVCを塩素化する方法は、特に限定されず、例えば、紫外光線等の光エネルギーを照射して光反応的に塩素化を促進する方法(以下、光塩素化という)等が挙げられる。紫外光線等の光エネルギーを使用する場合、高温、高圧の条件下での紫外線照射等の光エネルギー照射が可能な装置が必要である。
上記塩素化工程における反応温度は30~130℃であることが好ましい。特に、光塩素化の場合の塩素化工程における反応温度は、30~90℃であることが好ましく、40~80℃がより好ましい。また、光塩素化の場合の光エネルギーの照射強度(W)と原料PVC及び水の合計量(kg)との比は、0.001~6(W/kg)とすることが好ましく、照射する光の波長は280~420nmであることが好ましい。
上記光塩素化することで、得られる塩素化塩化ビニル系樹脂は、高い耐熱性、及び、機械的強度を有しながら、更に、光沢性に優れた成形品を製造することができる。
上記塩素化において、懸濁液にさらに過酸化水素を添加することが好ましい。過酸化水素を添加することにより、塩素化の速度を向上させることができる。過酸化水素は、反応時間1時間毎に、PVCに対して5~500ppmの量を添加することが好ましい。添加量が少なすぎると、塩素化の速度を向上させる効果が得られない。添加量が多すぎると、CPVCの熱安定性が低下する。
上記過酸化水素を添加する場合、塩素化速度が向上するため、加熱温度を比較的低くすることができる。例えば、65~110℃の範囲であってよい。
上記塩素化工程において、平均塩素消費速度は0.01~0.025kg/PVC-Kg・5minの範囲で行うことが好ましい。ここで、平均塩素消費速度とは、原料PVC1kgあたりの5分間の塩素消費量を指す。
上記方法で塩素化を行うことにより、塩素化状態の不均一性が少なく、熱安定性の優れたCPVCを得ることができる。
上記塩素化方法において、反応容器に導入される塩素の濃度は、99.5%以上であることが好ましい。
上記塩素化塩化ビニル系樹脂を製造する場合は、上記塩素化工程を行った後に、硫黄化合物を添加することが好ましい。
上記塩素化工程を行った後、一般的には、中和工程、洗浄工程、脱水工程及び乾燥工程が順に行われる。上記硫黄化合物を添加する工程は、脱水工程中、又は、脱水工程の後に行うことが好ましい。なお、上記硫黄化合物は、1回で全量を添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。また、そのまま添加してもよく、水等の溶媒に希釈して添加してもよい。
上記硫黄化合物を添加した場合、後の乾燥工程にて塩素化塩化ビニル系樹脂の主鎖から脱離した塩素の代わりに硫黄化合物が付加されることから、成形時の脱塩酸量が低減し、熱安定性が向上する。
上記硫黄化合物としては、有機硫黄化合物が好ましく、具体的には例えば、チオグリコール酸系化合物、チオ尿素、チオグリセリン、チオ酢酸、チオ酢酸カリウム、チオ二酢酸、チオセミカルバジド、チオアセトアミド等が挙げられる。
なかでも、チオグリコール酸及びチオグリコール酸のエステルからなる群から選択される少なくとも1種のチオグリコール酸系化合物がより好ましい。
上記チオグリコール酸としては、チオグリコール酸のほか、チオグリコール酸の金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等のチオグリコール酸塩も含まれる。
上記チオグリコール酸塩としては、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリコール酸カルシウム、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリコール酸メチルアミン、チオグリコール酸エチルアミン、チオグリコール酸モノエタノールアミン、チオグリコール酸ジエタノールアミン、チオグリコール酸トリエタノールアミン等が挙げられる。
上記チオグリコール酸のエステルとしては、例えば、チオグリコール酸メチル、チオグリコール酸エチル、チオグリコール酸n-ブチル、チオグリコール酸t-ブチル、チオグリコール酸2-エチルヘキシル、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸イソオクチル、チオグリコール酸デシル、チオグリコール酸ドデシル等のチオグリコール酸のアルキルエステルが挙げられる。また、チオグリコール酸メトキシブチル等のアルコキシ基を有する炭化水素とのエステルを用いてもよい。
更に、上記チオグリコール酸のエステルとしては、アルカンジオールのチオグリコール酸エステルであるアルカンジオールジチオグリコレート、アルカンポリオールのチオグリコール酸エステルであるアルカンポリオールポリチオグリコレート、ポリアルキレングリコールのチオグリコール酸エステルであるポリアルキレングリコールジチオグリコレート等を用いてもよい。
上記アルカンジオールジチオグリコレートとしては、エチレングリコールビスチオグリコレート、ブタンジオールビスチオグリコレート、ネオペンチルグリコールビスチオグリコレート、ヘキサンジオールビスチオグリコレート等が挙げられる。
上記アルカンポリオールポリチオグリコレートとしては、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールトリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ジペンタエリスリトールヘキサチオグリコレート等が挙げられる。
上記ポリアルキレングリコールジチオグリコレートとしては、ジエチレングリコールジチオグリコレート等が挙げられる。
また、上記チオグリコール酸系化合物は、HSCHCOOR(RはH又はアルキル基を示す)で表される化合物であることが好ましい。更に、上記アルキル基の炭素数は1~8であることが好ましい。
上記製造方法において、上記硫黄化合物の添加量は、塩素化塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、好ましい下限が0.001質量部、好ましい上限が10質量部である。この範囲で硫黄化合物を添加することにより、上記塩素化塩化ビニル系樹脂を得ることができる。より好ましい上限が1質量部、より好ましい上限が0.5質量部である。
なお、上記硫黄化合物の添加方法は特に限定されないが、添加速度20~500g/minで添加することが好ましい。
また、上記硫黄化合物の添加後の乾燥温度は、60~120℃であることが好ましい。
更に、乾燥時間は6~48時間が好ましい。乾燥温度、時間が上記範囲内であることで、上記硫黄化合物の付加反応が促進される。上記乾燥方法としては、例えば、静置乾燥、熱風乾燥、送風乾燥、遠赤外線加熱乾燥、真空減圧乾燥等が挙げられる。
上記塩素化塩化ビニル系樹脂を含有する成形用樹脂組成物を成形することで、成形体を作製することができる。
上記塩素化塩化ビニル系樹脂を含有する成形用樹脂組成物もまた本発明の1つである。
上記成形用樹脂組成物における上記塩素化塩化ビニル系樹脂の含有量は、好ましい下限が65質量%、より好ましい下限が70質量%、好ましい上限が96質量%、より好ましい上限が93質量%である。
本発明の一実施態様である成形用樹脂組成物は、必要に応じて、安定剤、滑剤、加工助剤、耐衝撃改質剤、耐熱向上剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、熱可塑性エラストマー、顔料、強化材などの添加剤が添加されていてもよい。
上記安定剤としては、特に限定されず、例えば、熱安定剤、熱安定化助剤などが挙げられる。上記熱安定剤としては、特に限定されず、例えば、有機錫系安定剤、鉛系安定剤、カルシウム-亜鉛系安定剤;バリウム-亜鉛系安定剤;バリウム-カドミウム系安定剤等が挙げられる。
上記有機錫系安定剤としては、例えば、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー等が挙げられる。
上記鉛系安定剤としては、ステアリン酸鉛、二塩基性亜りん酸鉛、三塩基性硫酸鉛等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
上記熱安定化助剤としては、特に限定されず、例えば、エポキシ化大豆油、りん酸エステル、ポリオール、ハイドロタルサイト、ゼオライト等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
上記滑剤としては、内部滑剤、外部滑剤が挙げられる。
内部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂の流動粘度を下げ、摩擦発熱を防止する目的で使用される。上記内部滑剤としては特に限定されず、例えば、ブチルステアレート、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、エポキシ大豆油、グリセリンモノステアレート、ステアリン酸、ビスアミド等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
上記外部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂と金属面との滑り効果を上げる目的で使用される。外部滑剤としては特に限定されず、例えば、パラフィンワックス、ポリオレフィンワックス、エステルワックス、モンタン酸ワックスなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
上記加工助剤としては、特に限定されず、例えば質量平均分子量10万~200万のアルキルアクリレート-アルキルメタクリレート共重合体等のアクリル系加工助剤などが挙げられる。上記アクリル系加工助剤としては特に限定されず、例えば、n-ブチルアクリレート-メチルメタクリレート共重合体、2-エチルヘキシルアクリレート-メチルメタクリレート-ブチルメタクリレート共重合体等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
上記耐衝撃改質剤としては特に限定されず、例えばメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、塩素化ポリエチレン、アクリルゴムなどが挙げられる。
上記耐熱向上剤としては特に限定されず、例えばα-メチルスチレン系、N-フェニルマレイミド系樹脂等が挙げられる。
上記成形用樹脂組成物における上記耐衝撃改質剤の含有量は、好ましい下限が1質量%、より好ましい下限が2質量%、好ましい上限が30質量%、より好ましい上限が15質量%である。
上記範囲とすることで、得られる成形体に強度を充分に高めることができる。
上記酸化防止剤としては特に限定されず、例えば、フェノール系抗酸化剤等が挙げられる。
上記光安定剤としては特に限定されず、例えば、ヒンダードアミン系等の光安定剤等が挙げられる。
上記紫外線吸収剤としては特に限定されず、例えば、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤等が挙げられる。
上記充填剤としては特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
上記顔料としては特に限定されず、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系等の有機顔料;酸化物系、クロム酸モリブデン系、硫化物・セレン化物系、フェロシアニン化物系などの無機顔料などが挙げられる。
上記強化材としては特に限定されず、繊維系強化材および非繊維系強化材が挙げられる。繊維系強化材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、セルロースナノファイバー(CNF)、ケナフ等が挙げられる。非繊維系強化材としては、黒鉛、グラフェン等が挙げられる。
更に、本発明の一実施態様である成形用樹脂組成物から成形された成形体が提供される。このような成形体もまた本発明の1つである。
なお、成形体の場合、成形体中の塩素化塩化ビニル系樹脂を有機溶剤等で抽出することで、塩素化塩化ビニル系樹脂のB30成分の緩和時間Tと、200℃で5分間加熱した後におけるB30成分の緩和時間T5との比[T5/T]を測定することができる。
上記成形体は、ガラス繊維、炭素繊維等の強化材を含んでいてもよい。
上記成形の方法としては、従来公知の任意の成形方法が採用されてよく、例えば、押出成形法、射出成形法等が挙げられる。
本発明の一実施態様である成形体は、優れた熱安定性を有し、且つ、外観の状態が良好であるため、建築部材、管工機材、住宅資材等の用途に好適に用いることができる。
また、従来の輸送機用部材、電池装置用部材は、製造時の不具合や相応しくない方法で使用することにより、電池セルが発火することが知られており、航続距離延長等の利便性向上の要求に対応して電池セルの高容量化が進んできたことで、発火の危険性が増大している。更に、輸送機用の電池装置は、車室内等、搭乗員の近くに搭載されることが増えてきており、そのため、従来の安全対策では、発火した際に搭乗員の避難に必要な時間(5分程度)を充分に確保し難く、新たな安全対策が必要である。
また、電池パックカバーの材料については、軽量化の要求に対応して、従来の鉄からアルミや樹脂への変更が提案されているが、アルミ製や樹脂製のカバーでは電池装置の電池セルが発火した際に火炎や発煙を防ぐことができず、これらへの対策も必要になっている。
更に、強度を向上させるため、電池パック下面には金属が使われるが、金属を用いた場合、輸送機の路面側からの接炎により電池パック内の温度が上昇し、セルが熱暴走して発火するおそれがあり、電池パック内への火炎の侵入阻止及び電池パック内温度の上昇を防ぐ必要がある。また、燃料電池車には爆発の危険性がある水素タンクが搭載されており、外部火炎に対する対策が必要である。一方、車室内の空間拡大やレイアウトの自由設計のため、水素タンクの小型化や軽量化が進み、水素タンクの配置箇所が増えると、接炎の可能性がある部位が特定できなくなるおそれがある。そこで、電池パックや水素タンク全体を覆うカバーについても、加熱、発火への対策が必要となっている。
本発明によれば、高い耐熱性、難燃性を有し、耐衝撃性、耐薬品性、透明性にも優れる成形体を提供できることから、上記成形体は、輸送機用の部材、電池装置用の部材として好適に用いることができる。
上記輸送機としては、ガソリン車、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等の自動車、ガソリンバイク、ハイブリッドバイク、電動バイク等のバイク、電動アシスト自転車等の自転車、鉄道車両、船舶、航空機等が挙げられる。
また、上記輸送機用の部材としては、機構部材、内装部材、外装部材、ガラス、ライトカバー等が挙げられる。
上記機構部材としては、冷却パイプ、エアバッグカバー、エアーダクト、ヒーターユニット等が挙げられる。
上記内装部材としては、天井、インストルメンタルパネル、コンソールボックス、アームレスト、シートベルトバックル、スイッチ類、ドアトリム等が挙げられる。
上記外装部材としては、エンブレム、ナンバープレートハウジング、バンパー芯材、アンダーカバー等が挙げられる。
電池装置としては、ニッケルマンガン電池、リチウム電池、空気亜鉛電池等の一次電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、鉛蓄電池等の二次電池、シリコン系太陽電池、色素増感太陽電池、ペロブスカイト型太陽電池等の太陽電池、固体高分子型燃料電池、アルカリ型燃料電池、リン酸型燃料電池、固体酸化物型燃料電池等の燃料電池等が挙げられる。
電池装置用部材としては、バッテリーケース、バッテリー冷却用ウォータージャケット、水素タンクカバー、コネクタ、絶縁用シート等が挙げられる。
本発明によれば、高圧が負荷される形態で使用する場合でも高い接着強度を維持し、強度不足に起因する割れ等の不具合が生じにくい成形体を製造することが可能な塩素化塩化ビニル系樹脂、並びに、該塩素化塩化ビニル系樹脂を用いた成形用樹脂組成物及び成形体を提供できる。また、本発明によれば、高い接合性を短時間で実現することができる。
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されない。
(実施例1)
内容積300Lのグラスライニング製反応容器に、イオン交換水130kgと平均重合度1000の塩化ビニル樹脂50kgを投入し、攪拌して塩化ビニル樹脂を水中に分散させ水懸濁状態にした後、反応容器内を加熱して水懸濁液を70℃に昇温した。次いで、反応容器中を減圧して酸素を除去(酸素量100ppm)した後、攪拌しながら塩素分圧が0.04MPaになるように塩素(酸素含有量50ppm)を導入して、高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を照射強度160Wで照射し塩素化反応を開始した。
その後、塩素化温度を70℃、塩素分圧を0.04MPaに保ち、平均塩素消費速度が0.02kg/PVC-kg・5minになるように調整し、付加塩素化量が9.5質量%に到達した時点で、高圧水銀灯での紫外線の照射と塩素ガスの供給を停止し、塩素化を終了した。
次いで、窒素ガスを通気して、未反応塩素を除去し、得られた塩素化塩化ビニル系樹脂スラリーを水酸化ナトリウムで中和し、水で洗浄し、遠心分離機(株式会社田辺鐵工所製、O-15型)に投入し、3分間脱水をした。
脱水を行った後、塩素化塩化ビニル系樹脂100質量部(50kg)に対して0.1質量部(0.05kg)のチオグリコール酸2-エチルヘキシル(富士フイルム和光純薬社製)を200g/minで添加した。その後90℃で静置乾燥をして、光塩素化された粉末状の塩素化塩化ビニル系樹脂(付加塩素化量が9.5質量%)を得た。
(比較例1)
内容積300Lのグラスライニング製反応容器に、イオン交換水130kgと平均重合度1000の塩化ビニル樹脂50kgを投入し、攪拌して塩化ビニル樹脂を水中に分散させ水懸濁状態にした後、反応容器内を加熱して水懸濁液を140℃に昇温した。次いで、反応容器中を減圧して酸素を除去(酸素量100ppm)した後、攪拌しながら塩素分圧が0.04MPaになるように塩素(酸素含有量50ppm)を導入して熱塩素化を開始した。
その後、塩素化温度を140℃、塩素分圧を0.4MPaに保ち、付加塩素化量が4.4質量%に到達した後、200ppmの過酸化水素水を、塩化ビニル樹脂に対して過酸化水素として15ppm/Hrとなるように添加開始し、平均塩素消費速度が0.05kg/PVC-kg・5minになるように調整した。その後、付加塩素化量が9.5質量%に達した時点で、過酸化水素水と塩素ガスの供給を停止し、塩素化を終了した。
次いで、窒素ガスを通気して、未反応塩素を除去し、得られた塩素化塩化ビニル樹脂スラリーを水酸化ナトリウムで中和し、水で洗浄し、遠心分離機(株式会社田辺鐵工所製、O-15型)に投入し、3分間脱水した。その後、90℃静置乾燥して、熱塩素化された粉末状の塩素化塩化ビニル系樹脂(付加塩素化量が9.5質量%)を得た。
(実施例2~8、比較例2~3)
表1に示すように、塩化ビニル樹脂の平均重合度及び投入量、硫黄化合物の添加量、反応温度、平均塩素消費速度、乾燥温度、乾燥時間を変更した以外は実施例1と同様にして、粉末状の塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。
(評価)
実施例、比較例で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂について、以下の評価を行った。結果を表1に示した。
(1)パルスNMR測定
得られた粉末状の塩素化塩化ビニル系樹脂を、パルスNMR装置の測定範囲内に入るように直径10mmのガラス製のサンプル管(BRUKER社製、品番1824511、10mm径、長さ180mm、フラットボトム)に導入した。サンプル管をパルスNMR装置(BRUKER社製「the minispec mq20」)に設置し、30℃において、以下の条件でSolid Echo法での測定を行い、Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を得た。
<Solid Echo法>
Scans:128times
Recycle Delay:1sec
Acquisition scale:0.5ms
得られた自由誘導減衰曲線を、A30成分、B30成分の2成分に由来する2つの曲線に波形分離した。波形分離は、ガウシアン型を用いて、フィッティングさせることで行った。それぞれの測定で得られた2成分に由来する曲線から、各成分の比率を求めた。
なお、BRUKER社製の解析ソフトウェア「TD-NMRA(Version4.3 Rev0.8)」を用い製品マニュアルに従って、A30成分及びB30成分はガウシアン型でフィッティングを行った。
また、フィッティングには以下の式を用いた。
Figure 0007016992000003
式中、AはA30成分の成分比、BはB30成分の成分比、TはA30成分の緩和時間、TはB30成分の緩和時間を示す。tは時間である。
30成分、B30成分は、パルスNMR測定における緩和時間の短い順に定義された成分である。
(200℃で5分間加熱後の測定)
得られた粉末状の塩素化塩化ビニル系樹脂を、アルミ製のバットに300g投入し均等に平たくした後、オーブン(東洋精機製作所社製、CO-O2)にて200℃で5分間加熱した。その後、上記と同様の方法で、A30成分、B30成分の2成分の比率、及び、A30成分の緩和時間T5、B30成分の緩和時間T5を求めた。
(200℃で20分間加熱後の測定)
得られた粉末状の塩素化塩化ビニル系樹脂を、アルミ製のバットに300g投入し均等に平たくした後、オーブン(東洋精機製作所社製、CO-O2)にて、200℃で20分間加熱した。その後、上記と同様の方法で、A30成分、B30成分の2成分の比率、及び、A30成分の緩和時間T20、B30成分の緩和時間T20を求めた。
また、得られた T、T5及びT20から、T5/T及びT5/T20を算出した。
(2)付加塩素化量の測定
得られた塩素化塩化ビニル系樹脂について、JIS K 7229に準拠して付加塩素化量を測定した。
(3)分子構造解析
得られた塩素化塩化ビニル系樹脂について、R.A.Komoroski,R.G.Parker,J.P.Shocker,Macromolecules,1985,18,1257-1265に記載のNMR測定方法に準拠して分子構造解析を行い、構成単位(a)、(b)及び(c)の合計モル数に対する構成単位(a)、(b)の含有量を測定した。
NMR測定条件は以下の通りである。
装置:FT-NMRJEOLJNM-AL-300
測定核:13C(プロトン完全デカップリング)
パルス幅:90°
PD:2.4sec
溶媒:o-ジクロロベンゼン:重水素化ベンゼン(C5D5)=3:1
試料濃度:約20%
温度:110℃
基準物質:ベンゼンの中央のシグナルを128ppmとした
積算回数:20000回
(4)塩素化塩化ビニル系樹脂中の硫黄含有量の測定
得られた塩素化塩化ビニル系樹脂10質量部に対してTHF300質量部を添加し、24時間攪拌して溶解させ、さらに遠心分離機(コクサン社製、H-200NR)で14000rpm、1時間攪拌させることで不溶部を析出させた。これを濾過して、濾液にメタノール1000質量部を添加し、再度樹脂を析出させた。メタノールで樹脂を洗浄しながらアスピレーター(アズワン社製、GAS-1N)により吸引濾過を行い、樹脂を濾液から分離した。これにより、硫黄が結合した樹脂を得られることが出来るため、これを真空乾燥機(東京理化器械社製、VOS-451SD)に入れ80℃で24時間乾燥し、燃焼ICの測定により、CS結合の検出を行った。試料をセラミックボートに入れて秤量後、自動試料燃焼装置を用いて燃焼させ、発生したガスを吸収液10mLに捕集した。この吸収液を超純水で15mLに調整した液についてICによる定量分析を行った。SO 2-アニオンの検量線を標準物質の測定により直線近似した後、サンプルを測定することで、塩素化塩化ビニル系樹脂中の硫黄含有量(質量ppm)を定量した。
自動燃焼装置の測定条件は以下の通りである。
装置:三菱ケミカルアナリテック社製、AQF-2100H
Inlet温度:1000℃
Outlet温度:1100℃
ガス流量O2:400mL/min
ガス流量Ar:200mL/min
Ar送水ユニット:100mL/min
また、ICの測定条件は以下の通りである。装置:Thermo Fisher Scientific社製、ICS-5000
分離カラム:Dionex IonPac AS18-4μm(2mm×150mm)
ガードカラム:Dionex IonPac AG18-4μm(2mm×30mm)
除外システム:Dionex AERS-500(エクスターナルモード)
検出器:電気伝導度検出器
溶離液:KOH水溶液(溶離液ジェネレーターEGC500)
溶離液流量:0.25mL/min
試料注入量:100μL
(5)接着性評価
(パイプの作製)
得られた塩素化塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、耐衝撃改質剤4.0質量部を添加した。更に、熱安定剤0.5質量部を添加して混合した。なお、耐衝撃改質剤としては、カネエースB-564(カネカ社製、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体)を用いた。また、熱安定剤としては、TVS#1380(日東化成社製、有機錫系安定性)を用いた。
更に、ポリエチレン系滑剤(三井化学社製、Hiwax220MP)1.5質量部、脂肪酸エステル系滑剤(エメリーオレオケミカルズジャパン社製、LOXIOL G-32)0.2質量部を添加した。その後、スーパーミキサーで均一に混合して、塩素化塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
得られた塩素化塩化ビニル系樹脂組成物を、直径50mmの2軸異方向コニカル押出機(長田製作所社製、SLM-50)に供給し樹脂温度200℃にて外径26.7mm、肉厚2.4mmのパイプを作製した。
(継手の作製)
塩素化塩化ビニル系樹脂(積水化学工業社製、HA-24KL)100質量部に対して、耐衝撃改質剤5.0質量部を添加した。更に、熱安定剤3.0質量部を添加して混合した。なお、耐衝撃改質剤としては、カネエースM-511(カネカ社製、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体)を用いた。また、熱安定剤としては、TVS#1380(日東化成社製、有機錫系安定性)を用いた。
更に、ポリエチレン系滑剤(三井化学社製、Hiwax220MP)2.0質量部、脂肪酸エステル系滑剤(エメリーオレオケミカルズジャパン社製、LOXIOL G-32)0.3質量部を添加した。その後、スーパーミキサーで均一に混合して、塩素化塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
得られた塩素化塩化ビニル系樹脂組成物を、直径30mmの2軸異方向コニカル押出機(長田製作所、OSC-30)に供給し、樹脂温度190℃でペレットを作製した。得られたペレットを射出成型機(JSW社製、J350ADS)に供給し、外径34.7mm、内径26.9mmのソケットを作製した。
(アッセンブルサンプルの作製)
得られたパイプ2本を長さ20cmにカットし、得られた継手の両側に接着剤(IPS社製、WELD―ON724)を使用し接着した。その後、23℃で14日間養生し、82℃のオーブン(東洋精機製作所製、CO-O2)にて2日間養生することでアッセンブルサンプルを得た。
(接着性評価)
得られたアッセンブルサンプルの内部に水を満たし、オーブンで65℃の雰囲気とした状態で耐静水圧試験機(IPT社製、1662-0021)を用いて、パイプにフープ応力15.93MPaになるように加圧して試験を開始し、接着剤を塗布したパイプ-継手間に抜けが発生するまでの時間を測定した。
なお、試験開始後1000時間後に抜けが無い場合を〇、1000時間までに抜けが発生した場合を×として判定した。
(6)短期接合性評価
「(5)接着性評価」と同様に(パイプの作製)(継手の作製)を行った後に、下記の方法で(アッセンブルサンプルの作製)(短期接合性評価)を行った。
(アッセンブルサンプルの作製)
得られたパイプ2本を長さ20cmにカットし、得られた継手の両側に接着剤(IPS社製、WELD―ON724)を使用し接着した。その後、23℃で24時間養生し、82℃のオーブン(東洋精機製作所製、CO-O2)にて2日間養生することでアッセンブルサンプルを得た。
(短期接合性評価)
得られたアッセンブルサンプルの内部に水を満たし、オーブンで82℃の雰囲気とした状態で熱間内圧クリープ試験機(米倉製作所社製)を用いて、パイプに実圧で3.6MPaになるように加圧して試験を開始し、接着剤を塗布したパイプ-継手間に抜けが発生するまでの時間を測定し、以下の基準で評価した。
〇:試験開始後6分後に抜け無し
×:試験開始後6分までに抜け発生
(7)成形体強度評価
「(5)接着性評価」を行った後に、パイプ、継手に割れや亀裂が無いか確認し、以下の基準で評価した。
〇:1000時間後に割れや亀裂無し
×:1000時間までに割れや亀裂有り
Figure 0007016992000004
本発明によれば、高圧が負荷される形態で使用する場合でも高い接着強度を維持し、強度不足に起因する割れ等の不具合が生じにくい成形体を製造することが可能な塩素化塩化ビニル系樹脂、並びに、該塩素化塩化ビニル系樹脂を用いた成形用樹脂組成物及び成形体を提供できる。

Claims (4)

  1. パルスNMRを用いて30℃でSolid Echo法で測定し、Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を、最小二乗法により緩和時間が短い順にA30成分、B30成分の2成分に由来する2つの曲線に波形分離して得た、B30成分の緩和時間Tと、200℃で5分間加熱した後におけるB30成分の緩和時間T5との比[T5/T]が76%以上、96%未満であり、硫黄を含有する、塩素化塩化ビニル系樹脂。
  2. 200℃で5分間加熱した後におけるB30成分の緩和時間T5と、200℃で20分間加熱した後におけるB30成分の緩和時間T20との比[T5/T20]が76%以上、96%未満である、請求項1記載の塩素化塩化ビニル系樹脂。
  3. 請求項1又は2に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂を含有する、成形用樹脂組成物。
  4. 請求項3に記載の成形用樹脂組成物から成形された、成形体。
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