JP7006276B2 - ねじ切りカッター - Google Patents

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Description

本発明は、軸線回りに回転されるカッター本体の先端部外周に、上記カッター本体の外周側に突出する少なくとも3つのねじ切り刃が上記軸線方向に並ぶように形成されたねじ切りカッターに関する。
本願は、2016年1月13日に、日本に出願された特願2016-004701号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
このようなねじ切りカッターとして、例えば特許文献1には、カッター本体の外周に複数のねじ山を有するねじ切り刃を備え、このねじ切り刃のうち先端側の少なくとも1つのねじ山は荒切削を行う先行刃で他は仕上げ刃であり、先行刃は仕上げ刃よりもねじ山の高さが低くてねじ山の角度が小さく、谷底を基準として先行刃を仕上げ刃に図形的に重ねたときに先行刃が仕上げ刃に含まれる形状とされたものが提案されている。また、カッター本体の底部には被加工物に下穴を形成するための底刃が設けられている。
このようなねじ切りカッターは、マシニングセンタやNCフライス盤等の工作機械に取り付けられ、カッター本体の軸線回りに自転駆動されて回転されるとともに被加工物に対して相対的にヘリカル送りされ、底刃によって被加工物に上記下穴を形成しつつ、この下穴の内周面に上記ねじ切り刃によって雌ねじ部を形成する。この雌ねじ部が形成される際には、先行刃によって荒切削されたねじ溝を仕上げ刃が仕上げ切削するので、高硬度材よりなる被加工物へのねじ切り加工でも仕上げ刃の刃先摩耗が抑制されるとともに切削抵抗が軽減される。
特開2012-086286号公報
ところで、この特許文献1に記載されたねじ切りカッターには、先行刃の軸線方向後端側に2つの仕上げ刃が備えられているが、主にねじ切り加工に使用されるのは先行刃とこれに隣接する先端側の仕上げ刃であり、後端側の仕上げ刃は先端側の仕上げ刃の刃先摩耗により所定のねじ溝形状が得られなくなるのを防止するためのものである。従って、これら2つの仕上げ刃は、ねじ山の高さや形状が谷部も含めて等しくなるように形成される。
しかしながら、そのようなねじ切りカッターでは、被加工物の雌ねじ部におけるねじ山の頂部を切削する先行刃と先端側の仕上げ刃との間の谷部は、1回の切削で上記頂部を形成する。このため、先行刃と合わせて2回の切削で雌ねじ部の谷部を切削する先端側の仕上げ刃のねじ山頂部に対して、この先端側の仕上げ刃の先行刃との間の谷部における切削負荷が過大となり、特に高硬度材よりなる被加工物へのねじ切り加工の場合には、このような過大な切削負荷が衝撃的に作用して、仕上げ刃の根元部分である上記谷部から仕上げ刃が欠損するおそれがある。
本発明は、このような背景の下になされたもので、雌ねじ部のねじ山の頂部を切削する先行刃と先端側の仕上げ刃との間の谷部に過大な切削負荷が作用するのを抑えて、高硬度材よりなる被加工物のねじ切り加工でも仕上げ刃に欠損等が生じるのを防ぐことが可能なねじ切りカッターを提供することを目的としている。
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の第一の態様に係るねじ切りカッターは、軸線回りに回転されるカッター本体と、上記カッター本体の先端部に形成された切刃部と、上記切刃部の先端面に形成された底刃と、を備えるねじ切りカッターであって、上記切刃部の外周に、上記カッター本体の外周側に突出する少なくとも3つのねじ切り刃が上記軸線方向に並ぶように形成され、これらのねじ切り刃のうち、上記軸線方向先端側のねじ切り刃は先行刃であり、この先行刃の上記軸線方向後端側のねじ切り刃は第1の仕上げ刃であり、この第1の仕上げ刃のさらに上記軸線方向後端側のねじ切り刃は第2の仕上げ刃であり、上記先行刃と上記第1の仕上げ刃との間には上記カッター本体の内周側に凹んだ第1の谷部が形成され、上記第1、第2の仕上げ刃の間にも上記カッター本体の内周側に凹んだ第2の谷部が形成され、さらに上記第2の仕上げ刃の上記軸線方向後端側にも上記カッター本体の内周側に凹んだ第3の谷部が形成され、上記第2、第3の谷部の谷底を通る接線から上記第1、第2の仕上げ刃の外周端までの上記軸線に対する半径方向の仕上げ刃ねじ山高さは互いに等しく、上記第2、第3の谷部の谷底を通る接線から上記先行刃の外周端までの上記軸線に対する半径方向の先行刃ねじ山高さは上記仕上げ刃ねじ山高さよりも低いとともに、上記第1の仕上げ刃の外周端から上記第1の谷部の谷底までの上記軸線に対する半径方向の第1の谷部深さが、上記第2の仕上げ刃の外周端から上記第2の谷部の谷底までの上記軸線に対する半径方向の第2の谷部深さよりも深く、上記第1の谷部の谷底から上記第1の仕上げ刃の外周端までの上記軸線方向の間隔が、上記第2の谷部の谷底から上記第2の仕上げ刃の外周端までの上記軸線方向の間隔よりも大きく、上記軸線に対する半径方向において、上記第2の仕上げ刃の外周端は上記第1の仕上げ刃の外周端よりも外方に位置していることを特徴とする。
このように構成されたねじ切りカッターでは、軸線方向先端側の先行刃のねじ山高さが後端側の第1、第2の仕上げ刃のねじ山高さよりも低いので、特許文献1に記載されたねじ切りカッターと同様に、被加工物の雌ねじ部の谷部を先行刃によって荒切削した後に、この荒切削された雌ねじ部の谷部を専ら第1の仕上げ刃によって仕上げ切削して所定のねじ溝形状に形成することができる。
そして、さらに上記構成のねじ切りカッターでは、第1の仕上げ刃の外周端から第1の谷部の谷底までの第1の谷部深さが、第2の仕上げ刃の外周端から第2の谷部の谷底までの第2の谷部深さよりも深いので、雌ねじ部のねじ山の頂部も第1の谷部によって荒切削した後に第2の谷部によって仕上げ切削して所定のねじ溝形状に形成することができる。従って、この雌ねじ部のねじ山頂部を切削する際の切削負荷を第1、第2の谷部で分散して第1の谷部に過大な切削負荷が集中するのを抑制することができ、たとえ高硬度材よりなる被加工物へのねじ切り加工でも、仕上げ刃に欠損等が生じるのを防止することができる。
ここで、上記第1の谷部深さと上記第2の谷部深さとの比は、1.03~1.15の範囲内とされているのが望ましい。この比が1.03を下回るほど第1、第2の谷部深さの差が小さいと、第1の谷部への切削負荷を十分に軽減することができなくなるおそれがある。逆にこの比が1.15を上回るほど第1、第2の谷部深さの差が大きいと、第2の谷部への切削負荷が大きくなって第2の仕上げ刃に欠損等が生じるおそれがある。
また、このように第1の谷部深さを第2の谷部深さよりも深くするには、例えば第1の谷部の谷底から第1の仕上げ刃の外周端までの軸線方向の間隔と、第2の谷部の谷底から第2の仕上げ刃の外周端までの軸線方向の間隔とを等しくして、第1の仕上げ刃の軸線方向先端側を向く切刃の軸線に対する傾斜角を大きくすることが考えられる。ところが、そのような場合には、第2の仕上げ刃の同じく軸線方向先端側を向く切刃が第2の谷部から外周端近傍まで切削に使用されることになって、第1の仕上げ刃が摩耗したときに所定のねじ溝形状が得られなくなるおそれがあるとともに、第1の仕上げ刃の根元部分が細くなって欠損等を十分に防ぐことができなくなるおそれもある。
そこで、本発明のように第1の谷部深さを第2の谷部深さよりも深くするには、上記第1の谷部の谷底から上記第1の仕上げ刃の外周端までの上記軸線方向の間隔を、上記第2の谷部の谷底から上記第2の仕上げ刃の外周端までの上記軸線方向の間隔よりも大きくするのが望ましい。このように構成することにより、第1の仕上げ刃の軸線方向先端側を向く切刃の軸線に対する傾斜角を大きくする必要がなくなるので、第1の仕上げ刃の根元部分の厚さを確保して欠損等をさらに確実に防止することができる。また、この場合、上記第1の谷部の谷底から上記第1の仕上げ刃の外周端までの上記軸線方向の間隔と、上記第2の谷部の谷底から上記第2の仕上げ刃の外周端までの上記軸線方向の間隔との比を、1.01~1.09の範囲内とすることが望ましい。
また、特にこのように構成した場合には、上記第2、第3の谷部の谷底を通る接線方向における上記第1、第2の仕上げ刃の外周端の間隔分だけ上記第2の仕上げ刃を上記接線に平行に上記軸線方向先端側に移動させたときに、上記軸線回りの上記第2の仕上げ刃の回転軌跡が、上記第1、第2の谷部を除いて、上記軸線回りの上記第1の仕上げ刃の回転軌跡と重なるように、上記第1、第2の仕上げ刃を形成することができる。言い換えると、上記第1、第2の仕上げ刃の外周端の上記軸線方向における間隔分だけ上記第2の仕上げ刃を上記第2、第3の谷部の谷底を通る接線に平行に上記軸線方向先端側に移動させたときに(第2の仕上げ刃の軸線方向における移動距離を上記間隔分とした場合に)、上記軸線回りの上記第2の仕上げ刃の回転軌跡が、上記第1、第2の谷部を除いて、上記軸線回りの上記第1の仕上げ刃の回転軌跡と重なるように、上記第1、第2の仕上げ刃を形成することができる。このため、第1の仕上げ刃が摩耗する前に、第2の谷部よりも軸線方向後端側の第2の仕上げ刃の軸線方向先端側を向く切刃が切削に使用されることがなくなり、第1の仕上げ刃が摩耗したときでも第2の仕上げ刃によって所定のねじ溝形状を形成することが可能となる。
さらに、上記軸線回りの上記先行刃の回転軌跡は、この先行刃の回転軌跡を、上記第2、第3の谷部の谷底を通る接線方向における上記第1、第2の仕上げ刃の外周端の間隔分だけ上記接線に平行に上記軸線方向後端側に移動させたときに、上記軸線回りの上記第1の仕上げ刃の回転軌跡内に含まれるように形成するのが望ましい。言い換えると、上記軸線回りの上記先行刃の回転軌跡は、この先行刃の回転軌跡を、上記第1、第2の仕上げ刃の外周端の上記軸線方向における間隔分だけ上記第2、第3の谷部の谷底を通る接線に平行に上記軸線方向後端側に移動させたときに(先行刃の回転軌跡の軸線方向における移動距離を上記間隔分とした場合に)、上記軸線回りの上記第1の仕上げ刃の回転軌跡内に含まれるように形成するのが望ましい。これにより、例えば過大な切削負荷によってカッター本体の先端部に撓みが生じたときでも、雌ねじ部のねじ切り加工面に先行刃による傷が残されるのを抑えることができる。
また、上記第1、2の仕上げ刃それぞれが、上記軸線方向先端側を向く切刃と、上記軸線方向後端側を向く切刃と、直線状の外周刃と、を有し、上記第1、2の仕上げ刃それぞれにおいて、上記外周刃と上記軸線方向先端側を向く切刃とが、複数の直線状切刃を介して接続され、上記軸線方向後端側を向く上記切刃と上記外周刃とが複数の直線状切刃を介して接続されることが望ましい。これにより、例えば、管用雌ねじのように、ねじ山の頂部と谷部の角部が曲面になっている雌ねじを加工する場合、上記構成を備えるねじ切りカッターを被加工物に対し相対的にヘリカル送りすることにより、第1、第2の仕上げ刃の刃先の軌跡が連続した曲線を描くようになる。その結果、曲線で構成された仕上げ刃で切削した場合と同等の加工面を形成することができる。
また、上記軸線に対する半径方向において、上記第2の仕上げ刃の外周端は上記第1の仕上げ刃の外周端よりも外方に位置していても良い。これにより、管用ねじのようなテーパ状のねじ加工を精度よく行うことができる。
また、本発明の第二の態様に係るねじ切りカッターは、軸線回りに回転されるカッター本体と、上記カッター本体の先端部に形成された切刃部と、上記切刃部の先端面に形成された底刃と、を備え、被加工物に対して相対的に上記軸線と平行な軸線回りに公転駆動されてヘリカル送りされることにより被加工部に雌ねじ部を形成するねじ切りカッターであって、上記切刃部の外周に、上記カッター本体の外周側に突出する少なくとも3つのねじ切り刃が上記軸線方向に並ぶように形成され、これらのねじ切り刃のうち、上記軸線方向先端側のねじ切り刃は先行刃であり、この先行刃の上記軸線方向後端側のねじ切り刃は第1の仕上げ刃であり、この第1の仕上げ刃のさらに上記軸線方向後端側のねじ切り刃は第2の仕上げ刃であり、上記先行刃と上記第1の仕上げ刃との間には上記カッター本体の内周側に凹んだ第1の谷部が形成され、上記第1、第2の仕上げ刃の間にも上記カッター本体の内周側に凹んだ第2の谷部が形成され、さらに上記第2の仕上げ刃の上記軸線方向後端側にも上記カッター本体の内周側に凹んだ第3の谷部が形成され、上記軸線に対する半径方向において、上記第2の仕上げ刃の外周端は上記第1の仕上げ刃の外周端よりも外方に位置しており、上記第2、第3の谷部の谷底を通る接線から上記先行刃の外周端までの上記軸線に対する半径方向の先行刃ねじ山高さは、上記接線から上記第1、第2の仕上げ刃の外周端までの上記半径方向の仕上げ刃ねじ山高さよりも低いとともに、上記第1の仕上げ刃の外周端から上記第1の谷部の谷底までの上記軸線に対する半径方向の第1の谷部深さが、上記第2の仕上げ刃の外周端から上記第2の谷部の谷底までの上記軸線に対する半径方向の第2の谷部深さよりも深く、上記第1の谷部の谷底から上記第1の仕上げ刃の外周端までの上記軸線方向の間隔が、上記第2の谷部の谷底から上記第2の仕上げ刃の外周端までの上記軸線方向の間隔よりも大きいことを特徴とする。
このように構成された第二の態様のねじ切りカッターは、上述した第一の態様のねじ切りカッターと同様に、第1の谷部に過大な切削負荷が作用することを抑制できる。第二の態様に係るねじ切りカッターは、第一の態様における上述した望ましい構成を備えていても良い。また、第一、第二の態様において、上記第1、2の仕上げ刃それぞれの外周刃が凸円弧であっても良い。さらに、第一、第二の態様において、上記第1、第2の谷部それぞれが凹円弧であっても良い。
以上説明したように、本発明によれば、雌ねじ部のねじ山頂部を切削する際の切削負荷を第1、第2の谷部で分散して第1の谷部に過大な切削負荷が作用するのを抑えることができ、高硬度材よりなる被加工物へのねじ切り加工でも仕上げ刃に欠損等が生じるのを防止して長期に亙って安定したねじ切り加工を行うことができる。
本発明の第1の実施形態を示す側面図である。 図1に示す実施形態の先端部の拡大側面図である。 図1に示す実施形態の拡大正面図である。 図1に示す実施形態のねじ切り刃を示す部分拡大側面図である。 本発明の第2の実施形態を示す仕上げ刃の部分拡大側面図である。
(第1の実施形態)
図1ないし図4は、本発明の一実施形態(第1の実施形態)を示す。本実施形態のねじ切りカッターにおいて、カッター本体1は、超硬合金等の硬質材料により軸線Oを中心とした多段円柱状に形成される。カッター本体1の後端側(図1、図2、および図4において右側)部分は円柱状のままのシャンク部2とされるとともに、先端側(図1、図2、および図4において左側)部分は切刃部3とされ、これらシャンク部2と切刃部3の間はシャンク部2および切刃部3よりも外径が小さい首部4とされている。なお、本明細書においては、カッター本体1のうち、後述するねじ切り刃8が形成される領域を切刃部3という。
このようなねじ切りカッターは、上記シャンク部2がマシニングセンタやNCフライス盤等の工作機械の主軸に把持されて取り付けられ、軸線O回りに自転駆動されてカッター回転方向Tに回転されるとともに、被加工物に対して相対的に軸線Oと平行な軸線回りに螺旋状に公転駆動されてヘリカル送りされ、上記切刃部3によって被加工物に雌ねじ部を形成する。
なお、本明細書においては、軸線Oの延びる方向を軸線O方向という。軸線O方向のうち、シャンク部2から切刃部3へ向かう方向を先端側(図1の左側)といい、切刃部3からシャンク部2へ向かう方向を後端側(図1の右側)という。また、軸線Oに直交する方向を半径方向という。半径方向のうち軸線Oに接近する方向(半径方向内方)を内周側といい、軸線Oから離間する方向(半径方向外方)を外周側という。さらに、軸線O回りに周回する方向を周方向という。周方向のうち、カッター本体1が回転させられる向きをカッター回転方向Tといい、これとは反対の向きをカッター回転方向Tの反対側という。
切刃部3と首部4の先端部外周には、切刃部3の先端面に開口して軸線Oに略平行に延びる断面L字状(軸線Oに垂直な断面において略L字をなす)の切屑排出溝5が、周方向に間隔をあけて複数条形成されている。本実施形態では、4条の切屑排出溝5が周方向に等間隔に形成されている。これらの切屑排出溝5のカッター回転方向Tを向く壁面5aが、軸線Oに平行で、カッター本体1の外周側に向かうに従い僅かにカッター回転方向Tの反対側に向かように延びている。すなわち、カッター回転方向Tを向く壁面5aは、切刃部3の先端面から後端側に向かって延びる軸線Oに平行な凹曲面である。切屑排出溝5のカッター回転方向Tの反対側を向く壁面が首部4の先端部で外周側に切れ上がって切屑排出溝5の終端を形成している。すなわち、カッター回転方向Tの反対側を向く壁面は、切刃部3の先端面から軸線O方向後端側に向かうに従い、外周側に向かうように延びて首部4の外周面に達する。
また、切刃部3の先端面には、各切屑排出溝5の先端内周部から内周側に向かうに従い先端側に延びて軸線Oに達する断面略台形状の凹溝6が形成されている。切屑排出溝5のカッター回転方向Tを向く壁面5aの先端内周部は、この凹溝6によってカッター回転方向Tの反対側に僅かに切り欠かれている。言い換えると、図3のように、凹溝6は軸線O方向先端側を向く溝底を有し、カッター回転方向Tを向く壁面が半径方向に沿うように延びている。凹溝6の外周側端は切屑排出溝5の先端内周部と連続している。凹溝6の外周端から内周側に向かうに従い、凹溝6の溝深さは浅くなり、且つ凹溝6の溝幅は狭くなっている。凹溝6のカッター回転方向Tを向く壁面は軸線Oにおいて互いに交わっている。本実施形態では、4つの凹溝6が周方向に等間隔に設けられ、切刃部3の先端面を軸線Oに回転対称に4つの領域に分断している。
さらに、周方向に隣接する切屑排出溝5の間、及び周方向に隣接する凹溝6の間に残された切刃部3の先端面の内周部3a(図3参照)は、内周側とカッター回転方向Tの反対側とに向かうに従い軸線O方向後端側に向かうように僅かに傾斜している。この傾斜した切刃部3の先端面の内周部3aと凹溝6のカッター回転方向Tを向く壁面との交差稜線部には底刃7が形成されている。
そして、隣接する切屑排出溝5の間に残された切刃部3の外周部3b(カッター本体1の先端部外周)にはそれぞれ、軸線O方向に向けてカッター本体1の内周側及び外周側に凹凸する複数のねじ山が形成されている。これらのねじ山と切屑排出溝5のカッター回転方向Tを向く壁面5aとの交差稜線部に、カッター本体1の外周側に突出する少なくとも3つのねじ切り刃8が形成されている。本実施形態では、切屑排出溝5の間の切刃部3の各外周部3bにそれぞれ3つのねじ切り刃8が形成されている。これらのねじ切り刃8は先端側から順に先行刃8A、第1の仕上げ刃8B、及び第2の仕上げ刃8Cとされる。ねじ切り刃8は、カッター回転方向Tの反対側に向けてカッター本体1がヘリカル送りされる際の螺旋(ヘリカル送り時にカッター本体1が描く螺旋)のリードに沿うように各外周部3b同士で位相がずらされている。
図4に示すように、第1、第2の仕上げ刃8B、8Cはそれぞれ、軸線O方向先端側を向く切刃8aと軸線O方向後端側を向く切刃8bと、2つの切刃8a、8bの半径方向外方端を接続する外周刃(外周端)8cと、を有する。切刃8aと切刃8bとは、軸線Oに垂直で第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの外周端(頂点)8cを通るねじ山中心線LB、LCに対して等しい一定角度で外周側に向かうに従い互いに接近するように形成される。切刃8aと切刃8bとは直線状に形成される。これら第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの外周端(外周刃)8cは本実施形態では両切刃8a、8bに接する互いに等しい半径の凸円弧状に形成されている。第1の仕上げ刃8Bの外周刃8cはねじ山中心線LB上の点を中心とする円弧であり、第2の仕上げ刃8Cの外周刃8cはねじ山中心線LC上の点を中心とする円弧である。第1、第2の仕上げ刃8B、8Cはそれぞれ、ねじ山中心線LB、LCそれぞれに対して略線対称である。
一方、先行刃8Aは、そのねじ山中心線LAに対して略等しい一定角度で外周側に向かうに従い互いに接近する軸線O方向先端側を向く切刃8aおよび軸線O方向後端側を向く切刃8bと、先行刃8Aの外周においてこれらの切刃8a、8bに鈍角に交差して軸線Oに平行に延びる外周刃8dとを備えた台形状に形成されている。すなわち、切刃8a、8b及び外周刃8dは直線状の切刃であり、先行刃8Aは、ねじ山中心線LAに対し略線対称である。先行刃8Aの軸線O方向先端側を向く切刃8aは、切刃部3の先端において、切屑排出溝5のカッター回転方向Tを向く壁面5aの先端内周部が上記凹溝6によって切り欠かれた部分で底刃7と鈍角に交差している。言い換えると、凹溝6の先端において、先行刃8Aの切刃8aは底刃7と交差している。なお、先行刃8Aのねじ山中心線LAは軸線Oに垂直で外周刃8dの中心を通っており、この先行刃8Aのねじ山中心線LAと第1、第2の仕上げ刃8B、8Cのねじ山中心線LB、LCとは軸線O方向に略等間隔に配置されている。
さらにまた、先行刃8Aと第1の仕上げ刃8Bとの間には第1の谷部9Aが、先行刃8A及び第1の仕上げ刃8Bに対しカッター本体1の内周側に凹むように形成されている。第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの間には第2の谷部9Bが、第1の仕上げ刃8B及び第2の仕上げ刃8Cに対しカッター本体1の内周側に凹むように形成されている。第2の仕上げ刃8Bの軸線O方向後端側には第3の谷部9Cが、第2の仕上げ刃8Cに対しカッター本体1の内周側に凹むように形成されている。本実施形態では、これら第1、第2の谷部9A、9Bは、それぞれ先行刃8Aおよび第1の仕上げ刃8Bの軸線O方向後端側を向く切刃8bと第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの軸線O方向先端側を向く切刃8aとに接する略1/2凹円弧状に形成される。言い換えると、第1の谷部9Aは、先行刃8Aの軸線O方向後端側を向く切刃8bと第1の仕上げ刃8Bの軸線O方向先端側を向く切刃8aと滑らかに連続し、軸線Oに垂直で第1の谷部9Aの谷底9aを通る第1の谷部中心線MA上の点を中心とする凹円弧である。第2の谷部9Bは、第1の仕上げ刃8Bの軸線O方向後端側を向く切刃8bと第2の仕上げ刃8Cの軸線O方向先端側を向く切刃8aと滑らかに連続し、軸線Oに垂直で第2の谷部9Bの谷底9aを通る第2の谷部中心線MB上の点を中心とする凹円弧である。第1、第2の谷部9A、9Bの半径は第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの外周端(外周刃)8cがなす凸円弧と略等しくされている。また、第3の谷部9Cは、第1、第2の谷部9A、9Bがなす凹円弧と略等しい半径の略1/4凹円弧状に形成されている。第3の谷部9Cは、第2の仕上げ刃8Cの軸線O方向後端側を向く切刃8bと滑らかに連続している。
さらに、第2、第3の谷部9B、9Cの谷底9aを通る接線Pからねじ山中心線LAに沿った外周刃8dまでの先行刃8Aの先行刃ねじ山高さHAは、第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの仕上げ刃ねじ山高さHB、HCよりも低くされている。ここで、接線Pは、第2、第3の谷部9B、9Cの谷底9aを通る直線である。谷底9aはそれぞれ、第2、第3の谷部9B、9Cの軸線Oに最も近い点である。仕上げ刃ねじ山高さHBは、第1の仕上げ刃8Bの外周端(第1の仕上げ刃8Bの頂点であり、軸線Oから最も遠い点である)と接線Pとの径方向における距離である。仕上げ刃ねじ山高さHCは、第2の仕上げ刃8Cの外周端(第2の仕上げ刃8Cの頂点であり、軸線Oから最も遠い点である)と接線Pとの径方向における距離である。
なお、本実施形態では、第2の仕上げ刃8Cの外周端(頂点)8cが第1の仕上げ刃8Bの外周端(頂点)8cよりも半径方向外方に位置している。詳細には、第1の仕上げ刃8Bの外周端(頂点)8cと第2の仕上げ刃8Cの外周端(頂点)8cとを通る直線Qが軸線O方向後端側に向かうに従い外周側に向かうように傾斜しており、図4に示す軸線Oに平行な直線O’と直線Qとのなす角αの大きさが0°より大きく5.0°以下となっている。これにより、管用ねじのようなテーパ状のねじ加工を精度よく行うことができる。なお、後述するように第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの仕上げ刃ねじ山高さHB、HCは互いに等しいので、接線Pと軸線O(直線O’)とのなす角の大きさも角αと等しく、0°より大きく5.0°以下に設定される。
さらに、本実施形態では、先行刃8Aの上記切刃8a、8bがねじ山中心線LAに対してなす傾斜角は、第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの上記切刃8a、8bがねじ山中心線LB、LCに対してなす傾斜角と略等しい。先行刃8Aの外周刃8dの位置(半径方向位置)における先行刃8Aの切刃8a、8b間の間隔(軸線O方向における外周刃8dの幅)WCは、この先行刃8Aを第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの外周端(頂点)8cの接線P方向における間隔(ねじ山中心線LB、LC間の距離)WD分だけ第2、第3の谷部9B、9Cの谷底9aを通る接線Pに平行に軸線O方向後端側に移動させた位置における第1の仕上げ刃8Bの切刃8a、8b間の間隔WEよりも小さくされている。
そして、図4に示したように、第1の仕上げ刃8Bの外周端(頂点)8cから第1の谷部9Aの谷底9aまでの軸線Oに対する半径方向の第1の谷部深さDAは、同じく第2の仕上げ刃8Cの外周端(頂点)8cから第2の谷部9Bの谷底9aまでの軸線Oに対する半径方向の第2の谷部深さDBよりも深くなるようにされている。言い換えると、第1の谷部9Aの谷底9aは、第2の谷部9Bの谷底9aよりも内周側(半径方向内方)に位置する。ここで、第1の谷部深さDAと第2の谷部深さDBとの比DA/DBは、本実施形態では1.03~1.15の範囲内とされている。さらに、第2、第3の谷部9B、9Cの谷底9aを通る接線Pから上記ねじ山中心線LB、LCに沿った外周端(頂点)8cまでの第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの仕上げ刃ねじ山高さHB、HCは互いに等しくされている。
また、このように第1の谷部深さDAが第2の谷部深さDBより深いことに伴い、本実施形態では、軸線Oに垂直で第1の谷部9Aの谷底9aを通る第1の谷部中心線MAと第1の仕上げ刃8Bのねじ山中心線LBとの軸線O方向の間隔、すなわち第1の谷部9Aの谷底9aから第1の仕上げ刃8Bの外周端(頂点)8cまでの軸線O方向の間隔WAが、軸線Oに垂直で第2の谷部9Bの谷底9aを通る第2の谷部中心線MBと第2の仕上げ刃8Cのねじ山中心線LCとの軸線O方向の間隔、すなわち第2の谷部9Bの谷底9aから第2の仕上げ刃8Cの外周端(頂点)8cまでの軸線O方向の間隔WBよりも大きくなる。
なお、第1、第2の仕上げ刃8B、8Cのねじ山中心線LB、LCに対する上記切刃8a、8bの傾斜角と外周端(外周刃)8cの半径が等しいことから、第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの外周端(頂点)8cの接線P方向における間隔WD分だけ第2の仕上げ刃8Cを接線Pに平行に軸線O方向先端側に移動させたときに、軸線O回りの第2の仕上げ刃8Cの回転軌跡は、深さの異なる凹円弧状の第1、第2の谷部9A、9Bを除いて、軸線O回りの第1の仕上げ刃8Bの回転軌跡と重なる(一致する)。
これに対して、上述のように先行刃8Aが第1の仕上げ刃8B内周側の根元部分よりも一回り小さいことから、軸線O回りの先行刃8Aの回転軌跡は、この先行刃8Aの回転軌跡を、第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの外周端(頂点)8cの接線P方向における間隔WD分だけ第2、第3の谷部9B、9Cの谷底9aを通る接線Pに平行に軸線O方向後端側に移動させたときに、軸線O回りの第1の仕上げ刃8Bの回転軌跡内に含まれる。
このような構成のねじ切りカッターでは、切刃部3の先端に底刃7が形成されているので、被加工物に下穴が形成されている場合は勿論、下穴が形成されていなくてもこの底刃7によって下穴を形成しつつ、上述のようなヘリカル送りに伴い該下穴の内周面に切刃部3外周のねじ切り刃8によって雌ねじ部を形成してゆく。このねじ切り刃8のうち軸線O方向先端側の先行刃8Aの先行刃ねじ山高さHAは、先行刃8Aの軸線O方向後端側に並ぶ第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの仕上げ刃ねじ山高さHB、HCよりも低いので、先行刃8Aによって下穴の内周面に雌ねじ部の谷部を荒切削により形成した後に、専ら第1の仕上げ刃8Bによって残った部分を仕上げ切削することができる。
そして、さらに上記構成のねじ切りカッターにおいては、第1の仕上げ刃8Bの外周端(頂点)8cから第1の谷部9Aの谷底9aまでの第1の谷部深さDAが、第2の仕上げ刃8Cの外周端(頂点)8cから第2の谷部9Bの谷底9aまでの第2の谷部深さDBよりも深いので、下穴の内周面に形成される雌ねじ部のねじ山の頂部も、第1の谷部9Aによってある程度の高さまで荒切削された後に、第2の谷部9Bによって所定の高さに仕上げ切削して所定のねじ溝形状に形成することができる。
このため、雌ねじ部のねじ山頂部を切削する際の切削負荷を第1、第2の谷部9A、9Bで分散することができ、例えば高速度工具鋼や冷間工具鋼のようなHRC50以上の高硬度材よりなる被加工物にねじ切り加工を行う場合でも、過大な切削負荷が第1の谷部9Aに集中するのを抑制して、特に第1の仕上げ刃8Bに根元部分から欠損等が生じるのを防ぐことができる。従って、耐久性の高い長寿命のねじ切りカッターを提供することができ、長期に亙って安定したねじ切り加工を行うことが可能となる。
また、本実施形態では、これら第1の谷部深さDAと第2の谷部深さDBとの比DA/DBが1.03~1.15の範囲内とされているので、このような効果を確実に奏することができる。すなわち、この比DA/DBが1.03を下回って第1、第2の谷部深さDA、DBの差が小さくなりすぎると、雌ねじ部のねじ山頂部が殆ど第1の谷部9Aによって切削されることになり、切削負荷の集中を回避することができなくなるおそれがある。一方、逆に比DA/DBが1.15を上回って第1、第2の谷部深さDA、DBの差が大きくなりすぎると、雌ねじ部のねじ山頂部は第2の谷部9Bによって専ら切削されることになり、第2の谷部9Bに切削負荷が集中して第2の仕上げ刃8Cに欠損等が発生するおそれが生じる。
一方、本実施形態では、このように第1の谷部深さDAを第2の谷部深さDBよりも深くするのに、第1の谷部9Aの谷底9aから第1の仕上げ刃8Bの外周端(頂点)8cまでの軸線O方向の間隔WAを、第2の谷部9Bの谷底9aから第2の仕上げ刃8Cの外周端(頂点)8cまでの軸線O方向の間隔WBよりも大きくしている。従って、これらの間隔WA、WBを等しくしたまま第1の谷部深さDAを第2の谷部深さDBより深くするために、例えば第1の仕上げ刃8Bの軸線O方向先端側の切刃8aの軸線Oに対する傾斜を大きくするような必要がなくなる。そのため、第1の仕上げ刃8Bの根元部分における軸線O方向の肉厚を大きく確保することができるので、さらに確実に第1の仕上げ刃8Bの欠損を防止することが可能となる。
なお、第1の谷部9Aの谷底9aから第1の仕上げ刃8Bの外周端(頂点)8cまでの軸線O方向の間隔WAと、第2の谷部9Bの谷底9aから第2の仕上げ刃8Cの外周端(頂点)8cまでの軸線O方向の間隔WBとの比WA/WBは、1.01~1.09の範囲内であることが望ましい。この比WA/WBが1.01を下回って間隔WA、WBの差が小さくなりすぎると、やはり被加工物に形成される雌ねじ部のねじ山の頂部が殆ど第1の谷部9Aにより切削されることになって、切削負荷の集中を回避することができなくなるおそれがある。この比WA/WBが1.09を上回って間隔WA、WBの差が大きくなりすぎると、雌ねじ部のねじ山頂部が第2の谷部9Bによって専ら切削されることになり、第2の谷部9Bに切削負荷が集中して第2の仕上げ刃8Cに欠損等が発生するおそれが生じる。
しかも、本実施形態では、このように第1の谷部9Aの谷底9aから第1の仕上げ刃8Bの外周端(頂点)8cまでの軸線O方向の間隔WAを、第2の谷部9Bの谷底9aから第2の仕上げ刃8Cの外周端(頂点)8cまでの軸線O方向の間隔WBより大きくするのに併せて、第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの外周端(頂点)8cの接線P方向における間隔WD分だけ第2の仕上げ刃8Cを接線Pに平行に軸線O方向先端側に移動させたときに、深さの異なる第1、第2の谷部9A、9Bを除いて、軸線O回りの第2の仕上げ刃8Cの回転軌跡が軸線O回りの第1の仕上げ刃8Bの回転軌跡と重なるようにしている。
このため、やはり第1の仕上げ刃8Bの軸線O方向先端側を切刃8aの軸線Oに対する傾斜を大きくした場合のように、第1の仕上げ刃8Bの上記切刃8aが摩耗する前に第2の仕上げ刃8Cの軸線O方向先端側を向く切刃8aが切削に使用されるようなこともなくなる。従って、第2の谷部9Bを除いて、第1の仕上げ刃8Bが摩耗したときでも、第2の仕上げ刃8Cによってねじ切り加工を継続して所定のねじ溝形状の雌ねじ部を形成することができ、一層長寿命のねじ切りカッターを提供することが可能となる。
さらに、本実施形態では、軸線O回りの先行刃8Aの回転軌跡は、この先行刃8Aの回転軌跡を、第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの外周端(頂点)8cの接線P方向における間隔WD分だけ第2、第3の谷部9B、9Cの谷底9aを通る接線Pに平行に軸線O方向後端側に移動させたときに、軸線O回りの第1の仕上げ刃8Bの回転軌跡内に含まれるように形成されている。このため、上述のような過大な負荷によってカッター本体1先端部の切刃部3に撓みが生じて先行刃8Aにより雌ねじ部のねじ切り加工面に傷が生じても、これを第1の仕上げ刃8Bによって確実にさらい取って仕上げ面に傷が残るのを防いで品位の高いねじ切り加工面を形成することができる。
特に、本実施形態では、上述のように先行刃8Aの回転軌跡を移動させたときに、先行刃8Aの切刃8a、8bが第1の仕上げ刃8Bの切刃8a、8bの回転軌跡の内側に位置するように形成されている。従って、切刃部3が軸線Oに関していずれの方向に撓んでも、ある程度の余裕を持って先行刃8Aによって残された傷を第1の仕上げ刃8Bによってさらい取ることができ、高品位のねじ切り加工面を有する雌ねじ部を被加工物に形成することが可能となる。
なお、本実施形態では、上述のように第1、第2の谷部9A、9Bと第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの外周端(頂部、外周刃)8cとが半径の略等しい凹凸円弧状に形成されているが、第1、第2の谷部9A、9Bの谷底9aがなす凹円弧の曲率半径が、第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの外周端(外周刃)8cがなす凸円弧の曲率半径よりも僅かに大きくなるように形成されていてもよい。また、第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの外周端(外周刃)8cや第1、第2、第3の谷部9A、9B、9Cの谷底9aは、軸線Oに平行な直線とされて被加工物に台形ねじが形成されるようにしてもよく、さらに2つ以上の直線で構成された面取り状に形成されたものでもよい。
また、本実施形態では、切刃部3の先端に底刃7が形成されているが、例えば予め下穴が形成された被加工物にねじ切り加工を行う場合には、底刃7が形成されていなくてもよい。さらに、本実施形態では、第3の谷部9Cが略1/4凹円弧状に形成されており、第1、第2の2つだけの仕上げ刃8B、8Cが軸線O方向に並ぶように形成されているが、第3の谷部9Cも略1/2凹円弧状として、その軸線O方向後端側に第3の仕上げ刃を形成するなどして、3つ以上の仕上げ刃が並ぶように形成されていてもよい。この場合に先行刃8Aと第1の仕上げ刃8Bとの間の第1の谷部と、これら3つ以上の仕上げ刃の間に形成される谷部との谷部深さは、軸線O方向先端側に向けて順次深くなるように形成されていてもよい。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係るねじ切りカッターについて図5を参照して説明する。本実施形態のねじ切りカッターは、第1、第2の仕上げ刃の形状が第1の実施形態と異なっている。なお、第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を配して説明を簡略化する。また、異なる符号を付けた部分についても、第1の実施形態において同じ名称を有する部分と同様の構成及び作用については説明を省略している。
図5は、本実施形態のねじ切りカッターの仕上げ刃の部分拡大側面図である。本実施形態においても、第2、第3の谷部9B、9Cの谷底9aを通る接線P方向における第1、第2の仕上げ刃18B、18Cの外周端(頂点)の間隔WD分だけ第2の仕上げ刃18Cを接線Pに平行に軸線O方向先端側に移動させたときに、深さの異なる第1、第2の谷部9A、9Bを除いて、軸線O回りの第2の仕上げ刃8Cの回転軌跡が軸線O回りの第1の仕上げ刃8Bの回転軌跡と重なる(一致する)。すなわち、第1、第2の仕上げ刃18B、18Cの構成は略同一であるので、本実施形態では第1の仕上げ刃18Bを例に、仕上げ刃の構成を説明し、第2の仕上げ刃18Cの説明は省略する。
本実施形態の第1の仕上げ刃18Bは、軸線O方向先端側を向く切刃8aと、軸線方向後端側を向く切刃8bと、直線状の外周刃18cと、を有する。外周刃18cは軸線Oに平行である。外周刃18cと軸線O方向先端側を向く切刃8aとは、複数の直線状切刃を介して接続される。外周刃18cと軸線方向後端側を向く切刃8bとは、複数の直線状切刃を介して接続される。本実施形態においては、2つの直線状切刃18d、18eを介して外周刃18cと切刃8aとが接続される。本実施形態においては、2つの直線状切刃18f、18gを介して外周刃18cと切刃8bとが接続される。また、第1の仕上げ刃18Bは、ねじ山中心線LBに対し線対称である。
より詳細には、第1の仕上げ刃18Bのカッター回転方向Tの反対側に連なるねじ山20には、軸線O方向先端側から順に、軸線O方向先端側を向く面20A、第1面取り面20D、第2面取り面20E、山頂面20C、第2面取り面20F、第1面取り面20G、及び軸線O方向後端側を向く面20Bが形成される。これらはそれぞれ、切屑排出溝5のカッター回転方向Tを向く壁面5aと交差し、その交差稜線部を切刃8a、直線状切刃18d、直線状切刃18e、外周刃18c、直線状切刃18f、直線状切刃18g、及び切刃8bとしている。これらの面はいずれも、周方向に隣接する2つの切屑排出溝5の間(切刃部3の外周部3b)において周方向に延在する略平面である。このように、本実施形態の第1の仕上げ刃18B(第2の仕上げ刃18C)は、外周刃18cをなす山頂面20Cと切刃8aをなす面20Aとのとの間に、面取り面として第1、第2面取り面20D、20Eが設けられている。また、外周刃18cをなす山頂面20Cと切刃8bをなす面20Bとのとの間に、面取り面として第1、第2面取り面20G、20Fが設けられている。
第1面取り面20D(20G)と山頂面20Cとのなす角度(直線状切刃18d(18g)と外周刃18cとのなす角度)θ1と、第2面取り面20E(20F)と山頂面20Cとのなす角度(直線状切刃18e(18f)と外周刃18cとのなす角度)θ2とは相違している。第1面取り面20Dは第2面取り面20Eよりも山頂面20Cから軸線O方向に離れて形成されているので、第1面取り面20Dと山頂面20Cとのなす角度θ1は、第2面取り面20Eと山頂面20Cとのなす角度θ2よりも大きくなっている。
以上のように、本実施形態の第1、第2の仕上げ刃18B、18Cは外周刃18cをなす山頂面20Cと切刃8aをなす面20Aとの間に2つの面取り面20D、20Eとを有し、外周刃18cをなす山頂面20Cと切刃8bをなす面20Bとの間に2つの面取り面20F、20Gとを有する。そのため、例えば、管用雌ねじのように、ねじ山の頂部と谷部の角部が曲面になっている雌ねじを加工する場合、本実施形態のねじ切りカッターを被加工物に対し相対的にヘリカル送りすることにより、第1、第2の仕上げ刃18B、18Cの刃先の軌跡が連続した曲線を描くようになる。その結果、曲線で構成された仕上げ刃(曲面で構成されたねじ山と切屑排出溝5のカッター回転方向Tを向く壁面5aとの交差稜線部に形成される仕上げ刃)で切削した場合と同等の精度で加工面を形成することができる。一方、山頂面20Cと面20Aとの間、及び山頂面20Cと面20Bとの間に面取り面を1面ずつしか形成しない場合には、外周刃18cをなす山頂面20Cと面取り面との間、切刃8aをなす面20Aと面取り面との間、及び切刃8bをなす面20Bと面取り面との間の角度が十分に小さくならず、角部が形成される。そのため、このような仕上げ刃を備えるねじ切りカッターを被加工物に対し相対的にヘリカル送りしても、仕上げ刃の刃先の軌跡が連続した曲線を描かず、曲面を精度良く加工することが困難となる。
また、雌ねじの山部と谷部を曲面に加工するねじ切りカッターとして、凸曲面状のねじ山(曲線状の仕上げ刃)を有するねじ切りカッターを製造する場合、仕上げ刃の凸曲面形状に対応した凹曲面を有する総形砥石を使用して仕上げ刃を加工する必要がある。この場合、総形砥石を用いて凸曲面を研削すると偏摩耗が生じ易く砥石寿命が極端に短くなるので、製造性及び経済性が乏しい。本実施形態では、山頂面20Cと面20Aとの間、及び山頂面20Cと面20Bとの間に2つずつ面取り面を設けたので、総形砥石を用いることなく、研削による面取りのみで本実施形態のねじ山および仕上げ刃を形成することができる。したがって、製造性及び経済性に優れる。また、上述のように、本実施形態のねじ切りカッターによれば、曲面で構成された仕上げ刃で切削した場合と同等の加工面を形成することができるので、本実施形態のねじ切りカッターによれば機能と製造性とを両立できる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
本発明のねじ切りカッターによれば、高硬度材のねじ切り加工でも仕上げ刃の欠損を防ぐことができるので、長期に亙って安定したねじ切り加工を行うことができる。
1 カッター本体
2 シャンク部
3 切刃部
3a 切刃部3の先端面の内周部
3b 切刃部3の外周部
4 首部
5 切屑排出溝
5a 切屑排出溝5のカッター回転方向Tを向く壁面
6 凹溝
7 底刃
8 ねじ切り刃
8A 先行刃
8B 第1の仕上げ刃
8C 第2の仕上げ刃
8a ねじ切り刃8の軸線O方向先端側を向く切刃
8b ねじ切り刃8の軸線O方向後端側を向く切刃
8c 第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの外周端
8d 先行刃8Aの外周刃
9A 第1の谷部
9B 第2の谷部
9C 第3の谷部
9a 第1、第2、第3の谷部9A、9B、9Cの谷底
18c 外周刃
18d、18e、18f、18g 直線状切刃
20 ねじ山
20A ねじ山20の軸線O方向先端側を向く面
20B ねじ山20の軸線O方向後端側を向く面
20C 山頂面
20D 第1面取り面
20E 第2面取り面
20F 第2面取り面
20G 第1面取り面
O カッター本体1の軸線
T カッター回転方向
P 第2、第3の谷部9B、9Cの谷底9aを通る接線
Q 第1の仕上げ刃8Bの外周端8cと第2の仕上げ刃8Cの外周端8cとを通る直線
LA 先行刃8Aのねじ山中心線
LB 第1の仕上げ刃8Bのねじ山中心線
LC 第2の仕上げ刃8Cのねじ山中心線
MA 第1の谷部中心線
MB 第2の谷部中心線
HA 先行刃ねじ山高さ
HB 第1の仕上げ刃8Bの仕上げ刃ねじ山高さ
HC 第2の仕上げ刃8Cの仕上げ刃ねじ山高さ
DA 第1の谷部深さ
DB 第2の谷部深さ
WA 第1の谷部9Aの谷底9aから第1の仕上げ刃8Bの外周端(頂点)8cまでの軸線O方向の間隔
WB 第2の谷部9Bの谷底9aから第2の仕上げ刃8Cの外周端(頂点)8cまでの軸線O方向の間隔
WC 軸線O方向における外周刃8dの幅
WD 第1、第2の仕上げ刃8B、8Cの外周端(頂点)8cの接線P方向における間隔
WE 先行刃8Aの外周刃8dの半径方向位置における第1の仕上げ刃8Bの軸線O方向の幅

Claims (8)

  1. 軸線回りに回転されるカッター本体と、上記カッター本体の先端部に形成された切刃部と、上記切刃部の先端面に形成された底刃と、を備えるねじ切りカッターであって、
    上記切刃部の外周に、上記カッター本体の外周側に突出する少なくとも3つのねじ切り刃が上記軸線方向に並ぶように形成され、
    これらのねじ切り刃のうち、上記軸線方向先端側のねじ切り刃は先行刃であり、この先行刃の上記軸線方向後端側のねじ切り刃は第1の仕上げ刃であり、この第1の仕上げ刃のさらに上記軸線方向後端側のねじ切り刃は第2の仕上げ刃であり、
    上記先行刃と上記第1の仕上げ刃との間には上記カッター本体の内周側に凹んだ第1の谷部が形成され、上記第1、第2の仕上げ刃の間にも上記カッター本体の内周側に凹んだ第2の谷部が形成され、さらに上記第2の仕上げ刃の上記軸線方向後端側にも上記カッター本体の内周側に凹んだ第3の谷部が形成され、
    上記第2、第3の谷部の谷底を通る接線から上記第1、第2の仕上げ刃の外周端までの上記軸線に対する半径方向の仕上げ刃ねじ山高さは互いに等しく、
    上記第2、第3の谷部の谷底を通る接線から上記先行刃の外周端までの上記軸線に対する半径方向の先行刃ねじ山高さは上記仕上げ刃ねじ山高さよりも低いとともに、
    上記第1の仕上げ刃の外周端から上記第1の谷部の谷底までの上記軸線に対する半径方向の第1の谷部深さが、上記第2の仕上げ刃の外周端から上記第2の谷部の谷底までの上記軸線に対する半径方向の第2の谷部深さよりも深く、
    上記第1の谷部の谷底から上記第1の仕上げ刃の外周端までの上記軸線方向の間隔が、上記第2の谷部の谷底から上記第2の仕上げ刃の外周端までの上記軸線方向の間隔よりも大きく、
    上記軸線に対する半径方向において、上記第2の仕上げ刃の外周端は上記第1の仕上げ刃の外周端よりも外方に位置している
    ことを特徴とするねじ切りカッター。
  2. 上記第1の谷部深さと上記第2の谷部深さとの比が、1.03~1.15の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載のねじ切りカッター。
  3. 上記第2、第3の谷部の谷底を通る接線方向における上記第1、第2の仕上げ刃の外周端の間隔分だけ上記第2の仕上げ刃を上記接線に平行に上記軸線方向先端側に移動させたときに、上記軸線回りの上記第2の仕上げ刃の回転軌跡は、上記第1、第2の谷部を除いて、上記軸線回りの上記第1の仕上げ刃の回転軌跡と重なることを特徴とする請求項1または2に記載のねじ切りカッター。
  4. 上記軸線回りの上記先行刃の回転軌跡は、この先行刃の回転軌跡を、上記第1、第2の仕上げ刃の外周端の上記第2、第3の谷部の谷底を通る接線方向における間隔分だけ上記第2、第3の谷部の谷底を通る接線に平行に上記軸線方向後端側に移動させたときに、上記軸線回りの上記第1の仕上げ刃の回転軌跡内に含まれることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載のねじ切りカッター。
  5. 上記第1、2の仕上げ刃それぞれが、上記軸線方向先端側を向く切刃と、上記軸線方向後端側を向く切刃と、直線状の外周刃と、を有し、
    上記第1、2の仕上げ刃それぞれにおいて、上記外周刃と上記軸線方向先端側を向く切刃とが、複数の直線状切刃を介して接続され、上記軸線方向後端側を向く上記切刃と上記外周刃とが複数の直線状切刃を介して接続されることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のねじ切りカッター。
  6. 上記第1、2の仕上げ刃それぞれの外周刃が凸円弧であることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のねじ切りカッター。
  7. 上記第1の谷部の谷底から上記第1の仕上げ刃の外周端までの上記軸線方向の間隔と、上記第2の谷部の谷底から上記第2の仕上げ刃の外周端までの上記軸線方向の間隔との比は、1.01~1.09の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載のねじ切りカッター。
  8. 上記第1、第2の谷部それぞれが凹円弧であることを特徴とする請求項1から請求項7のうちいずれか一項に記載のねじ切りカッター。
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