以下、図面を参照しつつ、本発明に従う各実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらについての詳細な説明は繰り返さない。なお、以下で説明される各実施の形態および各変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
[実施の形態1]
(画像形成装置100)
図1は、実施の形態1に従う画像形成装置100の全体構成を示す図である。画像形成装置100は、たとえば、MFP(Multi-Functional Peripheral)、プリンター、複写機、またはファクシミリとして用いられる。図1に示すように、画像形成装置100は、画像読取部10、画像処理部30、画像形成部40、用紙搬送部50、定着装置60、および制御部90を主に備えている。
画像読取部10は、自動原稿給紙装置11および原稿画像走査装置12を有している。自動原稿給紙装置11は、原稿トレイに載置された原稿を原稿画像走査装置12へ送り出す。原稿画像走査装置12は原稿を光学的に走査し、原稿からの反射光をCCDセンサー12aの受光面上に結像させて原稿画像を読み取る。画像読取部10は、読取結果に基づいて入力画像データを生成する。画像処理部30は、入力画像データに対して、初期設定値およびユーザー設定値などに応じたデジタル画像処理を行なう。
画像形成部40は、画像形成ユニット41(41Y,41M,41C,41K)と、中間転写ユニット42とを備えている。4つの画像形成ユニット41の各々は、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色に対応している。
画像形成ユニット41の各々は、露光装置411、現像装置412、感光体413、帯電装置414、およびクリーニング装置415を有している。中間転写ユニット42は、中間転写ベルト421、1次転写ローラー422、支持ローラー423A,423B,423C,423D、2次転写ローラー424A,424B、および、クリーニング装置426を有している。
YMCKの各色に対応した感光体413は、中間転写ベルト421の走行方向(矢印A方向)に沿って直列に配置されている。帯電装置414は、感光体413の表面を一様に帯電させる。露光装置411は、入力画像データに基づいて感光体413の表面に各色の画像に対応するレーザー光を照射する。これにより感光体413の表面に静電潜像が形成される。現像装置412は、感光体413の表面に各色のトナーを付着させることにより、静電潜像を可視化してトナー像を形成する。
中間転写ベルト421は支持ローラー423A,423B,423C,423Dによりループ状に張架されている。たとえば支持ローラー423Aが駆動回転されることにより中間転写ベルト421は矢印A方向に一定速度で走行する。1次転写ローラー422は、中間転写ベルト421の内周面側に配置され、中間転写ベルト421を挟んで感光体413に対向している。1次転写ローラー422が感光体413に圧接されることによって、感光体413から中間転写ベルト421へトナー像を転写するための1次転写ニップが形成されている。
4つの感光体413上にそれぞれ形成されたYMCKの各色のトナー像は、中間転写ベルト421上において1つのカラートナー像として重ね合わさるように、中間転写ベルト421上に転写される(1次転写)。クリーニング装置415は、1次転写後に感光体413の表面に残存したトナーを除去する。
2次転写ローラー424A,424Bは、中間転写ベルト421の外周面側に配置され、中間転写ベルト421を挟んで支持ローラー423A,423Bに対向している。2次転写ローラー424A,424Bがそれぞれ支持ローラー423A,423Bに圧接されることにより、中間転写ベルト421から用紙Sへトナー像を転写するための2次転写ニップが形成されている。中間転写ベルト421上に形成されたカラートナー像は、用紙Sに転写される(2次転写)。クリーニング装置426は、2次転写後に中間転写ベルト421の表面に残留したトナーを除去する。
用紙搬送部50は、給紙部51、排紙部52、搬送経路部53、ガイド部材56および再通紙機構57を備えている。給紙部51は3つの給紙トレイ51a~51cを有しており、各種の用紙S(規格用紙、特殊用紙)がこれらの中に収容されている。用紙Sは、実施の形態の記録媒体の一例である。搬送経路部53はレジストローラー対53aを有しており、用紙Sは、レジストローラー対53aを介して画像形成部40に搬送される。
排紙部52は排紙ローラー52aを有している。用紙Sは、画像形成部40および定着装置60等を通過した後、排紙ローラー52aによって機外に排紙される。用紙Sの裏面にも画像を形成する場合、用紙Sはガイド部材56によって再通紙機構57に搬送される。用紙Sを定着装置60のニップに2回目として再通紙させる場合にも、用紙Sはガイド部材56によって再通紙機構57に搬送される。
再通紙機構57は、反転ローラー71および搬送経路部72を有している。反転ローラー71は、ガイド部材56から反転ローラー71に搬送された用紙Sの端部を挟持した後、用紙Sを逆方向に搬送する。用紙Sは、搬送経路部72に送り出されるとともに、表裏が反転された状態で搬送経路部53に送り出される。用紙Sは、1回目の場合とは表裏が反転された状態で、搬送経路部53によって2回目として再び画像形成部40および定着装置60等に搬送される。
レジストローラー対53aの上流側であって用紙Sの印字面側の位置に、紙種検出部74が配置されている。紙種検出部74は、光学的なセンサーから構成されている。紙種検出部74は、用紙Sの凹凸を検出する。紙種検出部74の検出結果に応じて、用紙搬送、画像形成および定着の各プロセスが自動的に制御される。紙種検出部74は給紙トレイ51a~51c毎に設けられていてもよい。
制御部90は、用紙搬送、画像形成および定着の各プロセスを制御する。制御部90は、処理内容に応じたプログラムに基づいて、画像形成部40、用紙搬送部50、および定着装置60などの動作を制御する。
(定着装置60)
図2は、実施の形態1に従う定着装置60を示す図である。図2に示すように、定着装置60は、第1定着回転体61と第2定着回転体62とを備えている。図1を併せて参照して、第1定着回転体61は、筐体61Gによって保持されている。第2定着回転体62は、筐体62Gによって保持されている。
第1定着回転体61は、加熱ローラー610と、押圧部材612と、定着ベルト613と、テンションローラー614とを主に有している。
加熱ローラー610は、たとえば、芯金と、表層とで構成されている。芯金は、たとえばアルミニウム合金製であり、円筒形状を有する中空回転体である。芯金の厚さは0.3mm以上3mm以下、たとえば2mmである。加熱ローラー610の表層は、芯金の外周面をコーティングするように設けられている。表層は、PFA(パーフルオロアルコキシ)またはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの樹脂材料で形成されている。
加熱ローラー610は、定着ベルト613を加熱する加熱手段として、円筒状の芯金の内側にハロゲンヒーターなどのヒーターを有している。ヒーターは、加熱ローラー610に内蔵されている。ヒーターからの熱吸収を高めるために、芯金の内周面に黒色コーティングが施されてもよい。
定着ベルト613は、柔軟性を有する無端状のベルトである。定着ベルト613は、加熱ローラー、押圧部材612およびテンションローラー614に張架されている。加熱ローラー610、押圧部材612およびテンションローラー614は、定着ベルト613の内側に配置されている。定着ベルト613に付与される張力は、制御部90(図1)が第1定着回転体61の各構成要素の相対位置を変化させることにより、適宜調整されている。
定着ベルト613は、たとえば基層および弾性層を含んで構成されている。基層は、PI(ポリイミド)などの耐熱性の樹脂、またはニッケルもしくはSUSなどの金属で構成されている。基層の厚さは35μm以上80μm以下、たとえば70μmである。弾性層は、シリコーンゴムなどの耐熱性材料で構成されている。弾性層の厚さは0μm以上400μm以下、たとえば200μmである。弾性層は、PFAなどの耐熱性樹脂材料からなる表面離型層でコーティングされていてもよい。表面離型層の厚さは10μm以上70μm以下、たとえば30μmである。
第2定着回転体62は、加圧ローラーを有している。第2定着回転体62は、円筒状の形状を有する芯金と、芯金の外周面を覆うように設けられた弾性層とから形成されている。芯金は、アルミニウムまたは鉄などの金属製である。弾性層は、耐熱性のシリコーンゴムから形成されている。定着装置60を用紙Sが通過していない状態で、弾性層は定着ベルト613の外周面に接触している。
押圧部材612は、定着ベルト613を間に挟んで第2定着回転体62に対向するように配置されている。一例として、押圧部材612は、液晶ポリマー、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、またはPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などの、耐熱性樹脂材料で構成されている。押圧部材612は、定着ベルト613の構成材料よりも弾性率が小さく、かつ、後述する摺動部材620の構成材料よりも弾性率の小さい材料により、構成されている。
押圧部材612は、定着ベルト613の内面を押圧することで、定着ベルト613を第2定着回転体62に押圧するように構成されている。押圧部材612が定着ベルト613を介して第2定着回転体62を押圧することにより、第2定着回転体62の弾性層が変形し、定着ベルト613と第2定着回転体62との間に図3に示す定着ニップNpが形成される。図3は、定着ニップNp付近を拡大して示す定着装置60の部分拡大図である。第2定着回転体62と押圧部材612とは、定着ニップNpを形成するための加圧部を構成している。
定着ベルト613は、ヒーターによって、芯金および表層を介して加熱される。その結果、定着ベルト613の表面温度が上昇する。定着ベルト613の表面温度は、制御部90(図1)がヒーターの温度を変化させることにより、適宜調整されている。
第2定着回転体62は、図示しないモーターなどの駆動装置により駆動されることで、回転する。第2定着回転体62が回転することで、第2定着回転体62の回転力が定着ベルト613に伝えられ、定着ベルト613は第2定着回転体62に従動回転する。定着ベルト613の回転速度は、制御部90(図1)が第2定着回転体62の回転速度を変化させることにより、適宜調整されている。
定着ベルト613は、回転することにより、定着ベルト613と第2定着回転体62との接触部分である定着ニップNpに、加熱ローラー610から受けた熱を伝える。図3に示すように、定着装置60に搬送される用紙Sは、表面S1と裏面S2とを有している。用紙Sは、用紙Sが画像形成部40(図1)を通過するときに、表面S1に未定着のトナー像80を担持する。
用紙Sが定着装置60に搬送され、定着ベルト613と第2定着回転体62との間に形成された定着ニップNpを用紙Sが通過することで、用紙Sの表面S1に転写されたトナー像80が加熱および加圧されて用紙S上で融解する。これにより、トナー像80が用紙Sの表面S1上に定着する。図3に示すように、定着ニップNpに搬送される用紙Sの表面S1が定着ベルト613に接触し、裏面S2が第2定着回転体62に接触する。
図2に矢印で示す回転方向DR1は、定着ベルト613の回転方向を示す。定着ベルト613の回転の軸方向は、図2においては紙面垂直方向であり、軸方向DR2として図2中に図示されている。用紙Sが定着ニップNpを通過するときの用紙Sの搬送方向は、定着ベルト613の回転方向である回転方向DR1と一致しており、図3においては左右方向である。
テンションローラー614(図2)は、円柱状の形状を有している。テンションローラー614は、定着ベルト613の回転方向DR1において定着ニップNpよりも上流に配置されている。テンションローラー614は、定着ニップNpへ向かって回転移動する定着ベルト613を案内する。テンションローラー614は、押圧部材612に対する定着ベルト613の巻き掛け量をテンションローラー614を設けないときよりも小さくするような位置に、配置されている。
(摺動部材620)
図3に示すように、第1定着回転体61は、摺動部材620をさらに有している。摺動部材620は、定着ベルト613と押圧部材612との間に挟まれて配置されている。摺動部材620は、柔軟性を有するシート状の形状を有している。一例として、摺動部材620は、PTFE、PFA、またはPIなどの、熱可塑性樹脂材料で構成されている。
定着ベルト613は、上述した通り回転移動するため、押圧部材612に対して相対移動する。摺動部材620は、押圧部材612に固定されており、押圧部材612に対して移動不能である。そのため摺動部材620は、回転する定着ベルト613に対して、相対的に摺動する。摺動部材620は、押圧部材612の定着ベルト613に対向する部分を被覆し、押圧部材612と定着ベルト613との摺動抵抗を低減するために設けられている。摺動部材620は、定着ベルト613に接触する一方面と、押圧部材612に接触する他方面とを有している。摺動部材620の上記一方面は、PTFEなどの低摩擦性材料でコーティングされていてもよい。
摺動部材620は、ボルトなどの固定部材615を用いて、押圧部材612に固定されている。押圧部材612は、金属材料または樹脂材料で構成されている。摺動部材620は、定着ベルト613の回転方向DR1において定着ニップNpよりも上流で、固定部材615によって押圧部材612に固定されている。定着ニップNpよりも下流では、摺動部材620は固定されていない。
回転する定着ベルト613から、摺動部材620に、回転方向DR1(用紙Sの搬送方向)下流側への摩擦力が作用する。摺動部材620を位置決めするためには、定着ニップNpの上流で摺動部材620を固定する必要がある。一方、定着ニップNpの上流と下流との両方で摺動部材620を固定すると、摩擦力の作用で摺動部材620に回転方向DR1の弛みが生じる可能性があるため、定着ニップNpの下流では摺動部材620を固定しないのが好ましい。
定着ベルト613との摺動摩擦による摺動部材620の変形を低減するために、押圧部材612と摺動部材620との接触面に、接着層が設けられてもよい。接着層は、両面テープによって構成されていてもよい。摺動部材620は、押圧部材612に対して移動不能に位置決めされていれば、必ずしも固定部材615によって押圧部材612に固定されていなくてもよく、押圧部材612の周辺の他の部材に固定されていてもよい。
図4は、摺動部材620を平面視した詳細図である。定着ベルト613の回転方向DR1(すなわち用紙Sの搬送方向)は、図4においては上下方向である。定着ベルト613の回転の軸方向DR2(すなわち用紙Sの幅方向)は、図4においては左右方向である。回転方向DR1における定着ニップNpの入口Np1および出口Np2を、図4中に破線で示す。摺動部材620は、回転方向DR1における上流側端部621と、回転方向DR1における下流側端部622とを有している。
摺動部材620には、軸方向DR2に間隔を空けて、複数の切り込み630が形成されている。切り込み630は、回転方向DR1に沿って延びている。切り込み630は、摺動部材620の下流側端部622から定着ニップNpに至るまで形成されている。切り込み630は、定着ニップNpの内外に亘って延びている。定着ニップNpの出口側の切り込み630の上流端631は、定着ニップNp内にある。
定着ニップNp内に切り込み630を形成しても、切り込み630の長さが十分に小さければ、定着装置60の画像定着性能および用紙Sの搬送性への影響は無視できるほど小さく、画像ノイズが発生することもない。定着ニップNp内に形成される切り込み630の回転方向DR1の長さは、用紙Sの通過時間にして50ms以下、好ましくは20ms以下、より好ましくは10ms以下としてもよい。たとえば、用紙Sの搬送速度が300mm/sの場合には、定着ニップNp内の切り込み630の長さを3mm以下にするのが好ましい。または、定着ニップNp内に形成される切り込み630の回転方向DR1の長さは、定着ニップNpの入口Np1から出口Np2までの長さの20%以下としてもよい。
図4には、軸方向DR2における定着ニップNpの温度分布を示すグラフを併せて示している。このグラフに示すように、軸方向DR2における定着ニップNpの中央部において相対的に温度が高く、軸方向DR2における定着ニップNpの両端部において相対的に温度が低い。定着ニップNpの温度は、軸方向DR2において不均一である。たとえば、定着ニップNpの入口Np1から出口Np2までの距離が軸方向DR2の中央部において相対的に小さくなりやすいことから、軸方向DR2の中央部において設定温度を相対的に高くすることに起因して、図4に示す温度分布が発生する。
軸方向DR2において隣り合う切り込み630の間隔が、定着ニップNpの温度分布に対応して、中央部と両端部とで等しくないように、複数の切り込み630が形成されている。図4に示すように、温度が相対的に高い軸方向DR2の中央部に形成される切り込み630の間隔D1は、温度が相対的に低い軸方向DR2の両端部に形成される切り込み630の間隔D2よりも小さい。
図5は、定着ニップNp内の圧力に対する切り込み630の配置を示す図である。定着ベルト613の回転方向DR1(用紙Sの搬送方向)は、図5においては左右方向であり、図中の右側が定着ニップNpの入口側、左側が定着ニップNpの出口側である。
図5に示すように、定着ニップNp内の圧力は、入口側から出口側へ向かって次第に増大する。切り込み630は、回転方向DR1(用紙Sの搬送方向)において、定着ニップNp内の圧力の高い部分である、定着ニップNpの出口Np2に形成されている。切り込み630の上流端631は定着ニップNp内にあり、切り込み630は定着ニップNpの出口Np2を跨いで摺動部材620の下流側端部622まで形成されている。切り込み630の下流端は、摺動部材620の下流側端部622にある。
図6は、切り込み630の拡大図である。図6に拡大して示すように、切り込み630は、定着ベルト613の回転の軸方向DR2(図6中の左右方向)において、幅Wを有している。切り込み630は、定着ベルト613の回転方向DR1(図6中の上下方向)において幅が変化しており、上流端631から摺動部材620の下流側端部622に向かうに従って、幅が広がっている。切り込み630は、上流端631を最も幅狭な尖端とし長手方向を回転方向DR1とする、楔状の形状に形成されている。切り込み630は、下流側端部622において、幅が最大になっている。
切り込み630の幅Wが広すぎると、切り込み630が定着ベルト613の表面に凹凸形状を生じさせ、その凹凸により画像ノイズが発生する可能性がある。たとえば幅Wが数十μm以下であれば、定着ベルト613の表面形状への切り込み630の影響は無視できるほど小さいため、画像ノイズが発生することもない。定着ベルト613の厚さが大きいほど、また摺動部材620の厚さが大きいほど、切り込み630により画像ノイズが出にくくなるため、切り込み630の幅を広く設定できる。たとえば定着ベルト613の厚さが350μm、摺動部材620の厚さが100μmの場合は、切り込み630の幅を2mm以下にすることができる。
また、軸方向DR2における切り込み630の間隔も同様に調整可能であり、たとえば定着ベルト613の厚さが350μm、摺動部材620の厚さが100μmの場合は、切り込み630の間隔を10mm以下にすることができる。定着ベルト613の厚さが大きいほど、また摺動部材620の厚さが大きいほど、切り込み630により画像ノイズが出にくくなるため、切り込み630の間隔は広くてもよい。
(作用および効果)
上述した説明と一部重複する記載もあるが、本実施の形態の特徴的な構成および作用効果についてまとめて記載すると、以下の通りである。
摺動部材620は、定着ニップNpにおいて、回転駆動される定着ベルト613から摩擦力を受け、また定着ベルト613から熱を受ける。摺動部材620は、定着ニップNpにおいて押圧部材612と第2定着回転体62との間に挟まれて、加圧および加熱される。摺動部材620は、定着ニップNpにおいて、厚みが薄くなり定着ベルト613との接触面積が増えるように、定着ベルト613の回転の軸方向DR2(すなわち用紙Sの幅方向)に変形する。摺動部材620は、定着ニップNp内の伸び変形が定着ニップNp外での波形状の変形を引き起こさない構成とする必要がある。
そのため、本実施の形態の摺動部材620では、回転方向DR1における定着ニップNpの出口Np2に形成された切り込み630が、図4に示すように、回転方向DR1に沿って定着ニップNpの内外に亘って延びている。
このように切り込み630を形成することで、定着ニップNpの出口Np2における、軸方向DR2の摺動部材620の剛性が低減する。これにより、定着ニップNpの出口Np2で摺動部材620に凹凸変形が発生することを抑制できる。摺動部材620の凹凸変形が抑制されることで、定着ベルト613の表面における凹凸変形の発生が抑制される。したがって、用紙Sに回転方向DR1(用紙Sの搬送方向)の光沢スジなどの画像ノイズが発生することを抑制でき、画像品質の低下を抑制することができる。
図5に示すように、定着ニップNpの出口Np2が、定着ニップNp内において圧力が高く、摺動部材620にかかる負荷がより大きく、摺動部材620の変形が大きくなる部分である。摺動部材620の凹凸変形は、圧力が開放される定着ニップNpの出口Np2で生じやすい。定着ニップNpの出口Np2に定着ニップNpの内外に亘って延びる切り込み630を形成することで、摺動部材620の変形を効果的に抑制できる。そのため、定着ベルト613の変形を抑制し、以って画像品質の低下を抑制できる効果を、顕著に得ることができる。定着ニップNpの出口では、用紙Sに担持されたトナー像80(図3)が既に十分に溶融しているため、摺動部材620に切り込み630が形成されていても画像定着性能への影響は少ない。
また図4に示すように、定着ニップNpの出口Np2の切り込み630は、摺動部材620の下流側端部622にまで延びている。このように切り込み630を形成することで、定着ニップNp外の切り込み630の長さが十分に長くなり、定着ニップNpにおいて摺動部材620に作用する温度および圧力が変化した場合でも、摺動部材620の凹凸変形を抑制する効果を確実に発揮させることができる。
また図6に示すように、切り込み630は、定着ベルト613の軸方向DR2に幅Wを有している。幅Wを有する切り込み630を形成することで、切り込み630の範囲内で摺動部材620の変形を吸収でき、変形した摺動部材620が重なり合うことを抑制できるので、摺動部材620の重なりによる凹凸を回避することができる。図6に示すように、切り込み630を下流側端部622に向かうに従って幅が広がる形状とすることで、定着ニップNp内の切り込み630の幅を小さくして画像品質への影響を小さくするとともに、定着ニップNp外で切り込み630の幅を大きくして摺動部材620の重なり合いを抑制することが可能である。
また図4に示すように、定着ニップNpの温度が定着ベルト613の軸方向DR2において不均一であり、定着ニップNpの温度が高いほど、摺動部材620の熱伸び量が大きくなる。定着ニップNpの温度が高い部分の切り込み630の間隔が大きいと、隣り合う切り込み630の間の摺動部材620に凹凸変形が発生する可能性がある。そのため、温度が相対的に高い部分に形成される切り込み630の間隔D1は、温度が相対的に低い部分に形成される切り込み630の間隔D2よりも小さい。定着ニップNpの温度が高い部分の切り込み630の間隔を小さくし、切り込み630の密度を高くすることで、摺動部材620の凹凸変形をより確実に抑制することができる。
また、摺動部材620は、熱可塑性樹脂により構成されている。熱可塑性樹脂は、加圧および加熱されたときの変形量が大きい。そのため、熱可塑性樹脂製の摺動部材620に本実施の形態の切り込み630を形成することで、切り込み630が摺動部材620の凹凸変形を抑制できる効果を、より顕著に得ることができる。
また、押圧部材612は、定着ベルト613および摺動部材620よりも弾性率の小さい材料により構成されている。押圧部材612が弾性変形しにくい材料で構成されている場合、押圧部材612と定着ベルト613との間に配置されている摺動部材620が凹凸変形すると、その凹凸変形が定着ベルト613に及ぼす影響が大きくなる。そのため、摺動部材620に切り込み630が形成されている本実施の形態の構成にすることで、摺動部材620の凹凸変形が抑制され、定着ベルト613の表面における凹凸変形の発生が抑制される効果を、より顕著に得ることができる。
また図3に示すように、定着ニップNpに搬送される用紙Sの、未定着のトナー像80を担持する表面S1が、定着ベルト613に接触する。用紙Sの表面S1と裏面S2とのうち、表面S1が、定着装置60において画像が定着される画像面である。画像面である表面S1が定着ベルト613に接触する構成の場合、定着ベルト613の表面に凹凸変形が発生すると、画像品質への影響が大きくなる。摺動部材620に切り込み630が形成されている本実施の形態の構成にすることで、摺動部材620の凹凸変形が抑制され、定着ベルト613の表面における凹凸変形の発生が抑制される。したがって、画像品質の低下を抑制できる効果を、より顕著に得ることができる。
[実施の形態2]
図7は、実施の形態2に従う摺動部材620の、切り込み630の拡大図である。図6および図7を比較して、実施の形態2に従う摺動部材620は、切り込み630の形状において実施の形態1と異なっている。
具体的には、実施の形態2において、切り込み630は、上流端631から摺動部材620の下流側端部622まで、略同一の幅Wを有している。摺動部材620を平面視したとき、実施の形態2の切り込み630は、尖端を有しない略矩形状の形状に形成されている。このような形状に切り込み630を形成することで、摺動部材620の重なりをより確実に防止できる。したがって、摺動部材620の凹凸変形をより確実に抑制することができる。
[実施の形態3]
図8は、実施の形態3に従う摺動部材620を平面視した詳細図である。図4および図8を比較して、実施の形態3に従う摺動部材620は、定着ベルト613の回転方向DR1(用紙Sの搬送方向)における下流側の切り込み630に加えて、上流側の切り込み640が形成されている点で、実施の形態1と異なっている。
上流側の切り込み640は、軸方向DR2に間隔を空けて、複数形成されている。切り込み640は、回転方向DR1に沿って延びている。切り込み640は、摺動部材620の上流側端部621から定着ニップNpに至るまで形成されている。切り込み640は、定着ニップNpの内外に亘って延びている。定着ニップNpの入口側の切り込み640の下流端641は、定着ニップNp内にある。
定着ニップNpの出口側の切り込み630と入口側の切り込み640とは、軸方向DR2において同じ位置に形成されている。複数の切り込み640は、軸方向DR2において隣り合う切り込み640の間隔が中央部と両端部とで等しくないように形成されている。軸方向DR2の中央部に形成される切り込み640の間隔は、軸方向DR2の両端部に形成される切り込み640の間隔よりも大きい。
切り込み640は、軸方向DR2において、幅を有している。切り込み640は、回転方向DR1において幅が変化しており、下流端641から摺動部材620の上流側端部621に向かうに従って、幅が広がっている。切り込み640は、下流端641を最も幅狭な尖端とし長手方向を回転方向DR1とする、楔状の形状に形成されている。切り込み640は、上流側端部621において、幅が最大になっている。
摺動部材620は、図3に示すように、押圧部材612の周囲に沿って配置される。押圧部材612のR面取り形状に摺動部材620を巻き掛ける取り付けが不適切であると、摺動部材620に凹凸変形が発生する可能性がある。また、定着ニップNpの温度が軸方向DR2において不均一であることにより、温度分布に従って摺動部材620の熱伸び量にバラつきが生じ、熱伸び量の大きい部分が局所的に弛む可能性がある。そのため、図8に示すように、定着ニップNpの出口Np2の切り込み630に加えて、定着ニップNpの入口Np1に切り込み640が形成されている。このようにすれば、定着ニップNpの出口Np2と入口Np1との両方において、摺動部材620の変形を抑制することができる。
定着ニップNpの入口Np1を通過する用紙Sに担持されたトナー像80は、溶融していない粉の状態である。定着ニップNpの入口Np1において定着ベルト613の表面に凹凸形状が存在すると、未溶融のトナー像80に乱れが生じて画像品質に影響する可能性がある。そのため、定着ニップNpの入口Np1の切り込み640は、定着ベルト613の表面の凹凸変形を特に抑制できるように、形成する必要がある。たとえば、定着ニップNpの入口Np1の切り込み640の幅を、定着ニップNpの出口Np2の切り込み630の幅よりも小さくすることができる。
[実施の形態4]
図9は、実施の形態4に従う摺動部材620を平面視した詳細図である。図8および図9を比較して、実施の形態4に従う摺動部材620は、軸方向DR2における、回転方向DR1の下流側の切り込み630と上流側の切り込み640とが形成されている位置において、実施の形態3と異なっている。実施の形態4では、軸方向DR2の両端部に形成される切り込み630,640の間隔が、軸方向DR2の中央部に形成される切り込み630,640の間隔よりも大きい。
図9には、軸方向DR2における定着ニップNpの圧力分布を示すグラフを併せて示している。このグラフに示すように、軸方向DR2における定着ニップNpの両端部において相対的に圧力が高く、軸方向DR2における定着ニップNpの中央部において相対的に圧力が低い。定着ニップNpの圧力は、軸方向DR2において不均一である。たとえば、用紙Sの幅方向である軸方向DR2の端部は荷重が高くなる設定である場合が多いことに起因して、図9に示す圧力分布が発生する。
図9に示すように、圧力が相対的に高い軸方向DR2の両端部に形成される切り込み630,640の間隔は、圧力が相対的に低い軸方向DR2の中央部に形成される切り込み630,640の間隔よりも小さい。
定着ニップNpの圧力が高いほど、圧力の作用による摺動部材620の変形量が大きくなり、摺動部材620と定着ベルト613との接触面積が増える。定着ニップNpの圧力が高い部分の切り込み630,640の間隔が大きいと、隣り合う切り込み630,640の間の摺動部材620に凹凸変形が発生する可能性がある。
そのため、圧力が相対的に高い部分に形成される切り込み630,640の間隔は、圧力が相対的に低い部分に形成される切り込み630,640の間隔よりも小さい。定着ニップNpの圧力が高い部分の切り込み630の間隔を小さくし、切り込み630の密度を高くする。これにより、摺動部材620の凹凸変形をより確実に抑制することができる。
[実施の形態5]
図10は、実施の形態5に従う摺動部材620を平面視した詳細図である。図8および図10を比較して、実施の形態5に従う摺動部材620は、切り込み630,640の間隔および形状において、実施の形態3と異なっている。
具体的には、実施の形態5では、軸方向DR2において隣り合う切り込み630,640の間隔が、中央部と両端部とで等しいように、複数の切り込み630,640が形成されている。
切り込み630は、上流端631を最も幅狭な尖端とし長手方向を回転方向DR1とする、楔形の形状に形成されている。切り込み630は、下流側端部622において、幅が最大になっている。図10に示すように、温度が相対的に高い軸方向DR2の中央部に形成される切り込み630の下流側端部622における幅は、温度が相対的に低い軸方向DR2の両端部に形成される切り込み630の下流側端部622における幅よりも大きい。
切り込み640は、下流端641を最も幅狭な尖端とし長手方向を回転方向DR1とする、楔形の形状に形成されている。切り込み640は、上流側端部621において、幅が最大になっている。温度が相対的に高い軸方向DR2の中央部に形成される切り込み640の上流側端部621における幅は、温度が相対的に低い軸方向DR2の両端部に形成される切り込み640の上流側端部621における幅よりも大きい。
図10に示すように、定着ニップNpの温度は定着ベルト613の軸方向DR2において不均一である。定着ニップNpの温度が高いほど、摺動部材620の熱伸び量が大きくなり、摺動部材620と定着ベルト613との接触面積が増える。定着ニップNpの温度が高い部分の切り込み630,640の幅が小さいと、摺動部材620に重なりが発生する可能性がある。
そのため、温度が相対的に高い部分に形成される切り込み630,640の幅は、温度が相対的に低い部分に形成される切り込み630,640の幅よりも大きい。定着ニップNpの温度が高い部分の切り込み630,640の幅を大きくすることで、摺動部材620の重なりによる凹凸変形をより確実に抑制することができる。
[実施の形態6]
図11は、実施の形態6に従う摺動部材620を平面視した詳細図である。図9および図11を比較して、実施の形態6に従う摺動部材620は、切り込み630,640の間隔および形状において、実施の形態4と異なっている。
具体的には、実施の形態6では、軸方向DR2において隣り合う切り込み630,640の間隔が、中央部と両端部とで等しいように、複数の切り込み630,640が形成されている。
切り込み630は、上流端631を最も幅狭な尖端とし長手方向を回転方向DR1とする、楔形の形状に形成されている。切り込み630は、下流側端部622において、幅が最大になっている。図11に示すように、圧力が相対的に高い軸方向DR2の両端部に形成される切り込み630の下流側端部622における幅は、圧力が相対的に低い軸方向DR2の中央部に形成される切り込み630の下流側端部622における幅よりも大きい。
切り込み640は、下流端641を最も幅狭な尖端とし長手方向を回転方向DR1とする、楔形の形状に形成されている。切り込み640は、上流側端部621において、幅が最大になっている。圧力が相対的に高い軸方向DR2の両端部に形成される切り込み640の上流側端部621における幅は、圧力が相対的に低い軸方向DR2の中央部に形成される切り込み640の上流側端部621における幅よりも大きい。
図11に示すように、定着ニップNpの圧力は定着ベルト613の軸方向DR2において不均一である。定着ニップNpの圧力が高いほど、圧力の作用による摺動部材620の変形量が大きくなり、摺動部材620と定着ベルト613との接触面積が増える。定着ニップNpの圧力が高い部分の切り込み630,640の幅が小さいと、摺動部材620に重なりが発生する可能性がある。
そのため、圧力が相対的に高い部分に形成される切り込み630,640の幅は、圧力が相対的に低い部分に形成される切り込み630,640の幅よりも大きい。定着ニップNpの圧力が高い部分の切り込み630,640の幅を大きくすることで、摺動部材620の重なりによる凹凸変形をより確実に抑制することができる。
[実施の形態7]
図12は、実施の形態7に従う摺動部材620を平面視した詳細図である。実施の形態1~6で説明した切り込み630は、定着ニップNp内から摺動部材620の下流側端部622まで形成されており、実施の形態2~6で説明した切り込み640は、定着ニップNp内から摺動部材620の上流側端部621まで形成されている。切り込み630,640は、定着ニップNpの内外に亘って延びるように形成されていれば、必ずしも回転方向DR1における摺動部材620の端部(上流側端部621または下流側端部622)まで形成される必要はない。
実施の形態7の切り込み630は、下流端632を有している。切り込み630は、上流端631を最も幅狭な尖端とし、長手方向を回転方向DR1とし、下流端632において幅が最大になる、楔形の形状に形成されている。上流端631は定着ニップNp内にあり、下流端632は定着ニップNp外にある。下流端632は、回転方向DR1において、定着ニップNpの出口Np2と摺動部材620の下流側端部622との間に配置されている。
実施の形態7の切り込み640は、上流端642を有している。切り込み640は、下流端641を最も幅狭な尖端とし、長手方向を回転方向DR1とし、上流端642において幅が最大になる、楔形の形状に形成されている。下流端641は定着ニップNp内にあり、上流端642は定着ニップNp外にある。上流端642は、回転方向DR1において、定着ニップNpの入口Np1と摺動部材620の上流側端部621との間に配置されている。
図3に示すように固定部材615によって摺動部材620を固定する場合、切り込み630,640が回転方向DR1における端部にまで延びていると、隣り合う切り込み630,640の間の摺動部材620を固定することになる。この場合、摺動部材620を固定するときのバラつきが大きくなり、摺動部材620の不適切な取り付けが摺動部材620の凹凸変形をもたらす可能性がある。
そのため、摺動部材620の端部にまで延ばさなくても切り込み630,640の定着ニップNp外の長さを十分に確保できるのであれば、図12に示すように、回転方向DR1における摺動部材620の端部にまで延びない切り込み630,640を形成してもよい。このようにすれば、摺動部材620の取り付けに係るバラつきを小さくできる点で有効である。
以上のように各実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。