しかしながら、上述した特許文献1、2の発明では、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1の発明では、放射性物質を吸着させた吸着剤102を含む液104は、ろ液106が分離された分だけ濃縮化され、濃縮化された液107は、貯蔵槽103へ帰還される。そのため、濃縮化された液107と共に貯蔵槽103へ帰還された吸着剤102には、多量の放射性物質が吸着されている。したがって、貯蔵槽103へ帰還された吸着剤102を、周期的に新しい吸着剤102と交換する必要がある。
しかし、放射性物質を多量に吸着した吸着剤102を、放射性物質を含む液(汚染水)101を貯留する貯蔵槽103から回収するのは、安全性等の問題から容易ではない。また、放射性物質を多量に吸着した吸着剤102は、仮に回収したとしても、天然鉱物からなるゼオライトや、シアノ基を有し加熱するとシアン化水素が発生する恐れがあるプルシアンブルーなどの吸着剤102を、簡単に焼却処理することはできない。そのため、放射性物質を多量に吸着した吸着剤102を、そのまま地中等に廃棄せざるを得ず、その廃棄量が膨大な量となる問題があった。
また、中空糸型ろ過膜を数百本束ねたろ過モジュール105についても、放射性物質を含む液(汚染水)101中の異物や微粒子状の吸着剤102等によって目詰まりが生じ得るため、周期的に新しいろ過モジュール105に交換又は洗浄する必要がある。しかし、ろ過モジュール105には、放射性物質を吸着した吸着剤102又は放射性物質自体が付着されているので、交換又は洗浄作業において、安全性等に対する問題があった。
また、大量に貯留された放射性物質を含む液(汚染水)101を迅速に除染処理するためには、中空糸型ろ過膜を数百本束ねたろ過モジュール105を数多く設置する必要があり、コスト的に嵩むという問題があった。
また、特許文献2の発明では、汚染液201の蓋付の貯水タンク202内部に、有底筒体形状に固形化した放射性物質吸着体をフィルター筒体203として複数本垂直に配置し、同フィルター筒体203内に気体及び液体を吸引するポンプ204に接続された吸引管205を配置し、貯水タンク202内部の汚染液201がフィルター筒体203内へ透過して移動する間に浄化する方法であるので、フィルター筒体203の外周面近傍に多くの異物や放射性物質が偏在して吸着されやすい。そのため、フィルター筒体203の内周面近傍に位置する放射性物質吸着体が、まだ十分に放射性物質を吸着し得るにもかかわらず、フィルター筒体203を新しい物に交換する必要が生じてしまう。したがって、フィルター筒体203に対する費用が嵩むという問題があった。
また、フィルター筒体203は、アルミナセメントを主成分として、これに活性シリカを混合して作製した粉粒状セメント系固化材に対し、粉粒状のゼオライトを重量比で1:2~4の割合で混合した粉粒状放射性物質吸着材を形成し、当該粉粒状放射性物質吸着材に所要の水を加えて混練して所定形状に固形化したものであるので、簡単に焼却処理することはできない。その結果、放射性物質を多量に吸着したフィルター筒体203を、そのまま地中等に廃棄せざるを得ず、その廃棄量が膨大な量となる問題があった。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、放射能汚染水の除染処理をする上で、放射性物質を吸着する放射性物質吸着フィルタの吸着効率を高めることができると共に、放射性物質吸着フィルタを安全に交換でき、交換した放射性物質吸着フィルタを焼却処理して、その廃棄量を大幅に低減できる放射能汚染水の除染処理方法及び除染処理装置を提供することである。
上記課題を解決するために、本発明の放射能汚染水の除染処理方法及び除染処理装置は、次のような構成を有している。
(1)放射性物質を吸着する吸着剤が固着された放射性物質吸着フィルタに放射能汚染水を透過させて当該放射能汚染水に含まれる放射性物質を前記吸着剤に吸着させて除染処理する放射能汚染水の除染処理方法であって、
前記放射性物質吸着フィルタは、外縁部が燃焼可能な枠体によって保持され且つ各繊維糸の表面が高分子系保護膜によって被覆処理された平膜状の燃焼可能な繊維シートに、燃焼可能な前記吸着剤が、前記高分子系保護膜より露出した状態で固着されて、形成されていることを特徴とする。
本発明においては、放射性物質吸着フィルタは、外縁部が燃焼可能な枠体によって保持され且つ各繊維糸の表面が高分子系保護膜によって被覆処理された平膜状の燃焼可能な繊維シートに、燃焼可能な吸着剤が、高分子系保護膜より露出した状態で固着されて、形成されているので、放射能汚染水の除染処理をする上で、放射性物質を吸着する放射性物質吸着フィルタの吸着効率を高めることができると共に、放射性物質吸着フィルタを安全に交換でき、交換した放射性物質吸着フィルタを焼却処理して、その廃棄量を大幅に低減できる。
すなわち、放射性物質吸着フィルタは、各繊維糸の表面が高分子系保護膜によって被覆処理されているので、繊維シートにおける各繊維糸の表面から突出する起毛(毛羽立ち)を低減させて、各繊維間の隙間を拡大でき、放射能汚染水の透過性を高めることができる。また、各繊維糸の表面が高分子系保護膜によって被覆処理された平膜状の繊維シートに、吸着剤が、高分子系保護膜より露出した状態で固着されているので、透過性が高められた放射能汚染水が、平膜状の繊維シートに固着されたそれぞれの吸着剤に接触でき、吸着剤による放射性物質の吸着効率を高めつつ、放射能汚染水を除染処理することができる。また、平膜状の繊維シートの外縁部が枠体によって保持されているので、枠体をロボット等により把持して投入又は取り出すことができ、放射性物質吸着フィルタを安全に交換することができる。また、放射性物質吸着フィルタを構成する繊維シートと吸着剤と枠体とが、すべて燃焼可能な物質からなるので、交換した放射性物質吸着フィルタをそのまま焼却処理することによって、放射性物質のみが残り、その廃棄量を大幅に低減させることができる。
よって、本発明によれば、放射能汚染水の除染処理をする上で、放射性物質を吸着する放射性物質吸着フィルタの吸着効率を高めることができると共に、放射性物質吸着フィルタを安全に交換でき、交換した放射性物質吸着フィルタを焼却処理して、その廃棄量を大幅に低減できる放射能汚染水の除染処理方法を提供することができる。
(2)(1)に記載された放射能汚染水の除染処理方法であって、
前記吸着剤は、前記高分子系保護膜の膜厚以上で前記繊維シートの繊維糸径以下の大きさに粉砕して微粒子化された竹炭からなることを特徴とする。
本発明においては、吸着剤は、高分子系保護膜の膜厚以上で繊維シートの繊維糸径以下の大きさに粉砕して微粒子化された竹炭からなるので、多量の放射性物質を効率的に吸着でき、放射能汚染水の除染能力をより一層高めることができる。
すなわち、一般に放射性物質の吸着剤として知られているゼオライトやプルシアンブルー(プルシアンブルー型錯体を含む)などは、結晶構造の内部に空孔を備え、その空孔に放射性物質が吸着される構造である。ところが、ゼオライトやプルシアンブルー(プルシアンブルー型錯体を含む)などは、複数の結晶構造からなる1次粒子が立体的に結合して造粒され、吸着剤として使用される微粒子(2次粒子)を形成する。そのため、2次粒子の外周側に位置する1次粒子の空孔に対しては、放射能汚染水が接触でき、放射性物質を吸着することができるが、2次粒子の内周側に位置する1次粒子の空孔には放射能汚染水が浸入しにくく、放射性物質を吸着させることが困難である。
したがって、ゼオライトやプルシアンブルー(プルシアンブルー型錯体を含む)などを放射性物質の吸着剤として使用する場合は、2次粒子の大きさをできる限り小さくしないと、放射性物質の吸着効率を高めることができない。しかし、ゼオライトやプルシアンブルー(プルシアンブルー型錯体を含む)などの2次粒子を小さくし過ぎると、繊維シートに固着させる接着剤等によって2次粒子が覆われ、吸着機能を果たせなくなる問題があった。
これに対して、竹炭は、細かく粉砕した微粒子の大きさに関わらず、放射性物質を吸着する数多くの細孔が、略同一方向に延びて微粒子を貫通する構造(ハチの巣状構造)に形成されているので、高分子系保護膜より露出する微粒子化された竹炭における細孔の奥深くまで放射能汚染水が浸入でき、細孔内の各所に放射性物質を吸着することができる。また、吸着剤は、高分子系保護膜の膜厚以上で繊維シートの繊維糸径以下の大きさに粉砕して微粒子化された竹炭からなるので、繊維シートの繊維糸の表面に固着されやすく、大半の竹炭の微粒子を高分子系保護膜から露出させることができる。そのため、放射性物質の吸着効率をより一層高めることができる。したがって、多量の放射性物質を効率的に吸着でき、放射能汚染水の除染能力をより一層高めることができる。
(3)(1)又は(2)に記載された放射能汚染水の除染処理方法であって、
前記放射性物質吸着フィルタには、前記放射能汚染水を常圧で複数回透過させることを特徴とする。
本発明においては、放射性物質吸着フィルタには、放射能汚染水を常圧で透過させるので、放射性物質吸着フィルタに対する透過前の液圧と透過後の液圧との圧力差が略ゼロとなり、平膜状に形成された繊維シート全体に放射能汚染水を透過させても、繊維シートに過大な負荷をかけることがない。そのため、繊維シートの繊維糸間の隙間を粗くして、放射能汚染水を短時間で大量に透過させることができる。また、繊維シートの繊維糸間の隙間を粗くしても、放射性物質吸着フィルタには、放射能汚染水を複数回透過させるので、放射能汚染水に含まれる放射性物質を確実に低減させることができる。また、放射性物質吸着フィルタには、平膜状に形成された繊維シート全体に放射能汚染水が透過しても、過大な負荷をかけることがないので、繊維シートの外縁部を保持する枠体及び繊維シートに対する補強構造を不要又は簡素化できる。その結果、放射性物質吸着フィルタを低コスト化させつつ、大量の放射能汚染水を除染処理できる。
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された放射能汚染水の除染処理方法であって、
前記高分子系保護膜は、セルロースエーテルをアルカリ水溶液に溶解させた溶媒液に前記吸着剤を混錬させて前記繊維シートに塗工した後に乾燥させて形成することを特徴とする。
本発明においては、高分子系保護膜は、セルロースエーテルをアルカリ水溶液に溶解させた溶媒液に吸着剤を混錬させて繊維シートに塗工した後に乾燥させて形成するので、繊維シートにおける各繊維糸の表面に耐水性に優れたセルロース系保護膜を形成できると同時に、セルロース系保護膜によって各繊維糸の表面に吸着剤を固着させることができる。また、セルロース系保護膜によって、耐水性を高めつつ各繊維糸の表面から突出する起毛をより一層低減させて、各繊維間の隙間を拡大でき、放射能汚染水の透過性をより一層高めることができる。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載された放射能汚染水の除染処理方法に使用する除染処理装置であって、
前記放射能汚染水を貯留する汚染水タンクと、前記汚染水タンクから汲み上げた前記放射能汚染水を循環させて異物を除去する中継濾過装置と、前記中継濾過装置で濾過された前記放射能汚染水を貯留する中間受タンクと、前記中間受タンクに貯留する前記放射能汚染水を複数回循環させて前記放射性物質を吸着させる前記放射性物質吸着フィルタが着脱可能に装着された複数のフィルタユニットと、を備えていることを特徴とする。
本発明においては、放射能汚染水を貯留する汚染水タンクと、汚染水タンクから汲み上げた放射能汚染水を循環させて異物を除去する中継濾過装置と、中継濾過装置で濾過された放射能汚染水を貯留する中間受タンクと、中間受タンクに貯留する放射能汚染水を複数回循環させて放射性物質を吸着させる放射性物質吸着フィルタが着脱可能に装着された複数のフィルタユニットと、を備えているので、放射能汚染水の除染処理をする上で、放射性物質を吸着する放射性物質吸着フィルタの吸着効率を高めることができると共に、放射性物質吸着フィルタを安全に交換でき、交換した放射性物質吸着フィルタを焼却処理して、その廃棄量を大幅に低減できる。
すなわち、放射能汚染水を貯留する汚染水タンクと、汚染水タンクから汲み上げた放射能汚染水を循環させて異物を除去する中継濾過装置とを備えているので、放射能汚染水に含まれる各種の異物を中継濾過装置によって事前に除去することができ、放射性物質吸着フィルタの目詰まりを低減させて、その吸着効率を高めることができる。また、中継濾過装置で濾過された放射能汚染水を貯留する中間受タンクと、中間受タンクに貯留する放射能汚染水を複数回循環させて放射性物質を吸着させる放射性物質吸着フィルタが着脱可能に装着された複数のフィルタユニットと、を備えているので、放射能汚染水が中間受タンクとフィルタユニットとの間を複数回循環することによって、放射性物質吸着フィルタの吸着剤に放射性物質を大量に吸着させることができる。そして、放射能汚染水の放射性物質含有量が規定値以下となった後に、処理水として中間受タンクから外部へ排出することができる。また、放射性物質を大量に吸着した放射性物質吸着フィルタを、フィルタユニットから取り出して、そのまま焼却処理することによって、放射性物質のみが残り、その廃棄量を大幅に低減させることができる。
よって、本発明によれば、放射能汚染水の除染処理をする上で、放射性物質を吸着する放射性物質吸着フィルタの吸着効率を高めることができると共に、放射性物質吸着フィルタを安全に交換でき、交換した放射性物質吸着フィルタを焼却処理して、その廃棄量を大幅に低減できる放射能汚染水の除染処理方法に使用する除染処理装置を提供することができる。
(6)(5)に記載された除染処理装置において、
前記フィルタユニットは、前記中間受タンクに対して並列状に接続されていることを特徴とする。
本発明においては、フィルタユニットは、中間受タンクに対して並列状に接続されているので、各フィルタユニットの放射性物質吸着フィルタには、中間受タンク内に貯留した放射能汚染水を各フィルタユニット毎に分割して同時に循環させることができ、大量の放射能汚染水に対する除染処理時間の短縮化を図ることができる。また、フィルタユニットの数を増加させるだけで、放射能汚染水の除染処理能力を簡単に高めることができる。
(7)(5)又は(6)に記載された除染処理装置において、
前記フィルタユニットの出力ポートと前記中間受タンクの帰還ポートとを接続している前記放射能汚染水の帰還管路には、前記フィルタユニットの出力ポートから排出される前記放射能汚染水を一時溜めおく補助タンクを前記フィルタユニットの出力ポートより下方に備え、当該補助タンクに貯留された前記放射能汚染水を送給ポンプを介して前記中間受タンクに帰還させることを特徴とする。
本発明においては、フィルタユニットの出力ポートと中間受タンクの帰還ポートとを接続している放射能汚染水の帰還管路には、フィルタユニットの出力ポートから排出される放射能汚染水を一時溜めおく補助タンクをフィルタユニットの出力ポートより下方に備え、当該補助タンクに貯留された放射能汚染水を送給ポンプを介して中間受タンクに帰還させるので、各フィルタユニットの放射性物質吸着フィルタに対して、帰還管路から放射能汚染水の逆流を回避又は低減して、大量の放射能汚染水を迅速に透過させることができる。その結果、中間受タンク内の放射能汚染水を、より一層迅速に除染処理することができる。
(8)(5)乃至(7)のいずれか1つに記載された除染処理装置において、
前記フィルタユニットには、前記放射性物質吸着フィルタを上下方向に起立させて収容し、当該放射性物質吸着フィルタに対して前記放射能汚染水を左右方向へ透過させる放射能汚染水収納ケースを備え、
前記放射能汚染水収納ケースの上端開口部には、前記放射性物質吸着フィルタを投入・取出し可能に形成された蓋部材が装着されていることを特徴とする。
本発明においては、フィルタユニットには、放射性物質吸着フィルタを上下方向に起立させて収容し、当該放射性物質吸着フィルタに対して放射能汚染水を左右方向へ透過させる放射能汚染水収納ケースを備え、放射能汚染水収納ケースの上端開口部には、放射性物質吸着フィルタを投入・取出し可能に形成された蓋部材が装着されているので、蓋部材を開放することによって、放射能汚染水収納ケースの上端開口部から、起立した状態で大量の放射性物質を吸着した放射性物質吸着フィルタを上下方向へ移動させるだけで、簡単かつ安全に取り出すことができる。したがって、放射能汚染水収納ケースの上端開口部から、大量の放射性物質を吸着した放射性物質吸着フィルタと新しい放射性物質吸着フィルタとを、簡単かつ安全に交換することができる。
(9)(8)に記載された除染処理装置において、
前記蓋部材は、上下方向へ伸縮自在に形成されたシリンダ部材に連結され、当該シリンダ部材が前記放射能汚染水収納ケースに左右方向へ回動可能に装着されていることを特徴とする。
本発明においては、蓋部材は、上下方向へ伸縮自在に形成されたシリンダ部材に連結され、当該シリンダ部材が放射能汚染水収納ケースに左右方向へ回動可能に装着されているので、シリンダ部材が伸長することによって蓋部材を放射能汚染水収納ケースの上端開口部から上方へ離間させ、また、シリンダ部材を放射能汚染水収納ケースに対して左右方向へ回動させることによって、放射能汚染水収納ケースの上端開口部から上方へ離間させた蓋部材を、更に左右方向へ移動させることができる。そのため、放射能汚染水収納ケースの上端開口部から放射性物質吸着フィルタを上下方向へ取り出して、新たな放射性物質吸着フィルタを放射能汚染水収納ケースの上端開口部に上下方向から投入することができる。したがって、大量の放射性物質を吸着した放射性物質吸着フィルタと新しい放射性物質吸着フィルタとを、放射能汚染水収納ケースの上端開口部から、より一層簡単かつ安全に交換することができる。
本発明によれば、放射能汚染水の除染処理をする上で、放射性物質を吸着する放射性物質吸着フィルタの吸着効率を高めることができると共に、放射性物質吸着フィルタを安全に交換でき、交換した放射性物質吸着フィルタを焼却処理して、その廃棄量を大幅に低減できる放射能汚染水の除染処理方法及び除染処理装置を提供することができる。
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
はじめに、本実施形態に係る放射能汚染水の除染処理方法について説明する。次に、本放射能汚染水の除染処理方法に使用する除染処理装置(他の実施形態)について説明する。
<放射能汚染水の除染処理方法>
まず、本実施形態に係る放射能汚染水の除染処理方法について、図1~図8を用いて説明する。図1に、本実施形態に係る放射能汚染水の除染処理方法に使用するフィルタユニットの模式的断面図を示す。図2に、図1に示す放射性物質吸着フィルタの平面図を示す。図3に、図1に示す放射性物質吸着フィルタにおいて、各繊維糸の表面が高分子系保護膜によって被覆処理された平膜状の繊維シートに、吸着剤(微粒化された竹炭)が、高分子系保護膜より露出した状態で固着されている状態を表す模式的斜視図を示す。図4に、図3に示す吸着剤(微粒化された竹炭)の細孔を表す拡大図を示す。図5に、図4に示す竹炭の細孔の内壁に放射性物質(例えば、セシウム陽イオン)が吸着されている状態を表す模式的断面図を示す。図6に、ゼオライトの結晶構造の内部に形成される空孔に放射性物質(例えば、セシウム陽イオン)が吸着される構造を表す模式的斜視図を示す。図7に、プルシアンブルー(プルシアンブルー型錯体を含む)の結晶構造の内部に形成される空孔に放射性物質が吸着される構造を表す模式的斜視図を示す。図8に、ゼオライトやプルシアンブルー(プルシアンブルー型錯体を含む)などは、複数の結晶構造からなる1次粒子が立体的に結合されて微粒子(2次粒子)化されている様子を表す模式的斜視図を示す。
図1~図3に示すように、本実施形態に係る放射能汚染水の除染処理方法は、放射性物質Hを吸着する吸着剤11が固着された放射性物質吸着フィルタ1に放射能汚染水HWを透過させて当該放射能汚染水HWに含まれる放射性物質Hを吸着剤11に吸着させて除染処理する方法である。ここで、放射性物質Hとは、原子核が崩壊してα線、β線、γ線などの放射線を放出する物質を意味し、例えば、セシウム(Cs)やストロンチウム(Sr)などの陽イオンが挙げられる。また、放射能汚染水HWとは、放射性物質Hを含む水溶液を意味し、例えば、原子力発電所事故等に伴い外部に飛散した放射性物質Hを含む水溶液や、原子炉の冷却系から排出された放射性物質Hを含む水溶液などが挙げられる。
また、放射性物質吸着フィルタ1は、外縁部121が燃焼可能な枠体13によって保持され且つ各繊維糸122の表面が高分子系保護膜123によって被覆処理された平膜状の燃焼可能な繊維シート12に、燃焼可能な吸着剤11が、高分子系保護膜123より露出した状態で固着されて、形成されている。ここで、燃焼可能な繊維シート12とは、不燃性繊維(例えば、ガラス繊維、金属繊維など)を除く繊維によって形成された織布又は不織布を意味するが、当該繊維は、容易に火が付き、すぐ燃え広がる容焼性繊維(例えば、綿、麻、レーヨンなど)又は、容易に火が付くが燃え方はゆっくりしている可燃性繊維(例えば、毛、絹、ナイロン、ポリエステルなど)等が好ましい。また、繊維シート12は、所定の引張り強度を確保しつつ、各繊維糸間の隙間を大きくとることができて、放射能汚染水HWの透過性を向上させやすい等の理由から、厚さ寸法が2~3mm程度の不織布が好ましい。また、放射性物質吸着フィルタ1を構成する枠体13、繊維シート12、及び吸着剤11の燃焼温度は、いずれも600℃以下であることが好ましい。なお、繊維シート12は、複数枚重ね合わせた状態で、枠体13に保持されてもよい。
また、高分子系保護膜123は、高分子系の天然物質又は合成物質からなる保護膜を意味し、例えば、数μm~数十μmの膜厚で形成されたセルロース系保護膜123Sが好ましい。セルロース系保護膜123Sは、例えば、セルロースエーテルをアルカリ水溶液に溶解させた溶媒液に吸着剤11(T)を混錬させて繊維シート12に塗工し、中和後に乾燥させて形成する。塗工・乾燥装置については、後述する。
また、燃焼可能な枠体13は、例えば、略一定幅で四角形環状体に形成した木製の枠体が該当する。各繊維糸122の表面が高分子系保護膜123によって被覆処理された四角形の平膜状の燃焼可能な繊維シート12の外縁部121が、四角形環状体に形成した木製の枠体に、止め部材131によって連結されている。繊維シート12の外縁部121は、枠体13における放射能汚染水HWの入力ポート211側の側面に対して、周方向で略等間隔に配置された止め部材131によって連結されている。止め部材131は、例えば、コの字状の針(ステープラ)でもよい。
また、燃焼可能な吸着剤11は、例えば、竹炭、ヤシ殻炭、木炭などの微粒子が該当するが、高分子系保護膜123の膜厚d2以上で繊維シート12の繊維糸径d3以下の大きさd1に粉砕して微粒子化された竹炭Tからなることが好ましい。微粒子化された竹炭Tの大きさd1は、ふるい分け法(JIS Z8801に規定する試験法に準拠)によって測定し、メッシュ140~160番程度の目開きを通過する大きさであることが、更に好ましい。なお、微粒化する前の竹炭は、細かく切断した竹チップを燃焼させた後、水等で急冷させて形成することが好ましい。
また、竹炭Tは、図4、図5に示すように、細かく粉砕した微粒子の大きさに関わらず、放射性物質Hを吸着する数多くの細孔111が、略同一方向に延びて竹炭Tの微粒子を貫通する構造(ハチの巣状構造)に形成されている。そのため、図3に示す高分子系保護膜123より露出する微粒子化された竹炭Tにおける細孔111の奥深くまで放射能汚染水HWが浸入でき、細孔111内の各凹所に放射性物質Hを吸着させることができる。
これに比較して、図6~図8に示すように、一般に放射性物質の吸着剤として知られているゼオライトZ1やプルシアンブルーZ2(プルシアンブルー型錯体を含む)などは、結晶構造の内部に空孔K1、K2を備え、その空孔K1、K2に放射性物質Hが吸着される構造である。ところが、ゼオライトZ1やプルシアンブルーZ2(プルシアンブルー型錯体を含む)などは、複数の結晶構造からなる1次粒子Z11、Z21が立体的に結合して造粒され、吸着剤として使用される微粒子(2次粒子Z12、Z22)を形成する。そのため、2次粒子Z12、Z22の外周側に位置する1次粒子Z11、Z21の空孔K1、K2に対しては、放射能汚染水HWが接触でき、放射性物質Hを吸着することができるが、2次粒子Z12、Z22の内周側に位置する1次粒子Z11、Z21の空孔K1、K2には放射能汚染水HWが浸入しにくく、放射性物質Hを吸着させることが困難である。
したがって、ゼオライトZ1やプルシアンブルーZ2(プルシアンブルー型錯体を含む)などを放射性物質Hの吸着剤11として使用する場合は、2次粒子Z12、Z22の大きさd4をできる限り小さくしないと、放射性物質Hの吸着効率を高めることができない。しかし、ゼオライトZ1やプルシアンブルーZ2(プルシアンブルー型錯体を含む)などの2次粒子Z12、Z22を小さくし過ぎると、繊維シート12に固着させる接着剤又は高分子系保護膜123によって2次粒子Z12、Z22が覆われ、吸着機能を果たせなくなる問題があった。また、天然鉱物からなるゼオライトZ1や、シアノ基を有し加熱するとシアン化水素が発生する恐れがあるプルシアンブルーZ2などを、簡単に焼却処理することはできないという問題があった。そのため、本実施形態に係る放射能汚染水の除染処理方法に用いる吸着剤11には、ゼオライトZ1やプルシアンブルーZ2(プルシアンブルー型錯体を含む)などを使用していない。
また、図1に示すように、放射性物質吸着フィルタ1には、放射能汚染水HWを常圧で複数回透過させることが好ましい。常圧とは、大気圧に等しい圧力を意味し、略1気圧(≒1013hPa)に相当する。放射能汚染水HWを透過させる回数は、2~4回程度が好ましいが、放射能汚染水HWの時間当たり透過量と放射性物質Hの体積当たり含有量に応じて適宜設定する。また、放射能汚染水HWを常圧で透過させることによって、放射性物質吸着フィルタ1に対する透過前の液圧V1と透過後の液圧V2との圧力差が略ゼロとなり、平膜状に形成された繊維シート12全体に放射能汚染水HWを略均一に透過させることが可能となる。この場合でも、放射性物質吸着フィルタ1に過大な負荷をかけることがない。したがって、繊維シート12の外縁部121を保持する枠体13及び繊維シート12に対する補強構造は、不要又は簡素化が可能となる。例えば、略一定幅で四角形環状体に形成した枠体13に対して、繊維シート12の中央部を支持する補強枠等が装着されていない。
<放射能汚染水の除染処理方法に使用する除染処理装置>
次に、本実施形態に係る放射能汚染水の除染処理方法に使用する除染処理装置(他の実施形態)について、図1、図9~図12を用いて説明する。図9に、本実施形態に係る放射能汚染水の除染処理方法に使用する除染処理装置(他の実施形態)の全体構成図を示す。図10に、図9に示すフィルタユニットの正面図を示す。図11に、図10に示すA矢視図を示す。図12に、図1に示す放射性物質吸着フィルタの繊維シートに対して高分子系保護膜を形成すると同時に吸着剤を固着させる塗工・乾燥装置の側面図を示す。
本除染処理装置10は、図1、図9~図11に示すように、放射能汚染水HWを貯留する汚染水タンク3と、汚染水タンク3から汲み上げた放射能汚染水HWを循環させて異物Xを除去する中継濾過装置4と、中継濾過装置4で濾過された放射能汚染水HWを貯留する中間受タンク5と、中間受タンク5に貯留する放射能汚染水HWを複数回循環させて放射性物質Hを吸着させる放射性物質吸着フィルタ1が着脱可能に装着された複数のフィルタユニット2と、を備えている。
具体的には、汚染水タンク3には、放射能汚染水HWを貯留するタンク本体31と、タンク本体31に貯留する放射能汚染水HWを汲み上げる汲み上げポンプ32と、当該汲み上げポンプ32に接続された汚染水供給管路33とを備え、汲み上げポンプ32を作動させて、タンク本体31に貯留する放射能汚染水HWを汚染水供給管路33を経由して中継濾過装置4へ供給する。
中継濾過装置4には、汚染水タンク3から供給された放射能汚染水HWを濾過する第1濾過器42、第2濾過器43、第3濾過器44と、各濾過器から分離された異物Xを搬送する搬送コンベア45と、搬送コンベア45によって搬送された異物Xを回収する回収ボックス48と、各濾過器を透過した放射能汚染水HWを貯留する貯留槽41と、貯留槽41に貯留する放射能汚染水HWを第2濾過器43と第3濾過器44とへ帰還させる中間帰還管路46と、貯留槽41から放射能汚染水HWを中間帰還管路46へ送り出す送給ポンプ461と、を備えている。
また、第1濾過器42、第2濾過器43、第3濾過器44には、放射能汚染水HWに含まれる異物を大きい物から順に分離させるため、それぞれ所定幅のスリット間隔を有するウェッジワイヤースクリーンを備えている。ウェッジワイヤースクリーンのスリット間隔は、第1濾過器42、第2濾過器43、第3濾過器44の順で狭く形成されている。また、中間帰還管路46には、第2濾過器43へ帰還させる放射能汚染水HWを遮断する開閉弁431と、第3濾過器44へ帰還させる放射能汚染水HWを遮断する開閉弁441と、を備えている。
また、中継濾過装置4の作動方法は、以下のように行う。すなわち、汲み上げポンプ32を作動させて、汚染水タンク3内に貯留する放射能汚染水HWを第1濾過器42に透過させることによって、第1濾過器42に備えるウェッジワイヤースクリーンのスリット間隔以上の大きさの異物を除去する。その後、第2濾過器43へ帰還させる放射能汚染水HWを遮断する開閉弁431のみ開放して、送給ポンプ461を一定時間作動させる。このとき、貯留槽41内に貯留する放射能汚染水HWを第2濾過器43のみに透過させることによって、第2濾過器43に備えるウェッジワイヤースクリーンのスリット間隔以上の大きさの異物を除去する。
更に、第3濾過器44へ帰還させる放射能汚染水HWを遮断する開閉弁441のみ開放して、送給ポンプ461を一定時間作動させる。このとき、貯留槽41内に貯留する放射能汚染水HWを第3濾過器44のみに透過させることによって、第3濾過器44に備えるウェッジワイヤースクリーンのスリット間隔以上の大きさの異物を除去する。以上のように、中継濾過装置4を作動させて、放射能汚染水HWに含まれる一定以上の大きさの異物Xを、放射性物質Hを吸着する前に、予め除去しておく。
また、中間帰還管路46には、中継濾過装置4で濾過された放射能汚染水HWを中間受タンク5に供給する分岐管路47を備えている。分岐管路47には、中間受タンク5に供給する放射能汚染水HWを遮断する開閉弁471を備えている。中継濾過装置4によって一定以上の大きさの異物Xを予め除去した放射能汚染水HWは、中間帰還管路46の開閉弁431、441を閉じ、分岐管路47の開閉弁471を開放して、送給ポンプ461を作動させることによって、貯留槽41から中間受タンク5へ移動させる。
また、複数のフィルタユニット2は、中間受タンク5に対して並列状に接続されている。中間受タンク5と各フィルタユニット2との間には、放射能汚染水HWの供給管路51と帰還管路52とを備えている。供給管路51は、中間受タンク5の下部に設けた出力ポート511から、送給ポンプ512を経由して各フィルタユニット2の下部に設けた入力ポート211に接続されている。
また、帰還管路52は、各フィルタユニット2の上部に設けた出力ポート212から、送給ポンプ522を経由して中間受タンク5の上部に設けた帰還ポート521に接続されている。各フィルタユニット2の入力ポート211と出力ポート212には、それぞれ開閉弁が装着されている。また、供給管路51には、放射能汚染水HWの放射性物質含有量が規定値以下となった後に、処理水SWとして中間受タンク5から外部へ排出する排出管54とその開閉弁541とが接続されている。
なお、各フィルタユニット2の出力ポート212と中間受タンク5の帰還ポート521とを接続している放射能汚染水HWの帰還管路52には、フィルタユニット2の出力ポート212から排出される放射能汚染水HWを一時溜めおく補助タンク6をフィルタユニット2の出力ポート212より下方に備え、当該補助タンク6に貯留された放射能汚染水HWを送給ポンプ522を介して中間受タンク5の帰還ポート521に帰還させることが好ましい。補助タンク6をフィルタユニット2の出力ポート212より下方に備えることによって、フィルタユニット2の出力ポート212から排出される放射能汚染水HWの逆流を簡単に回避又は低減できるからである。
また、フィルタユニット2には、上下方向に起立して配置された放射性物質吸着フィルタ1を収容し、当該放射性物質吸着フィルタ1に対して放射能汚染水HWを左右方向へ透過させる放射能汚染水収納ケース21を備えている。放射性物質吸着フィルタ1は、放射能汚染水収納ケース21の左右方向の略中央部に垂直状に配置されている。また、放射能汚染水収納ケース21の上端開口部213には、放射性物質吸着フィルタ1を投入・取出し可能に形成された蓋部材22が装着されている。
なお、放射性物質吸着フィルタ1には、放射能汚染水HWを常圧で透過させる場合、平膜状に形成された繊維シート12全体に放射能汚染水HWを略均一に透過させることが可能となるため、放射性物質吸着フィルタ1の枠体13と、放射能汚染水収納ケース21の内壁との間に、わざわざシール部材を介在させる必要がなくなる。放射性物質吸着フィルタ1と放射能汚染水収納ケース21との間のシール部材を不要としたことによって、フィルタユニット2に対する放射性物質吸着フィルタ1の投入・取出し作業を更に簡素化させることができる。
また、蓋部材22は、上下方向へ伸縮自在に形成されたシリンダ部材23に連結され、当該シリンダ部材23が放射能汚染水収納ケース21に左右方向へ回動可能に装着されている。すなわち、前後方向に延びる蓋部材22の前端部221及び後端部222には、シリンダ部材23、23のロッド部231、231が連結されている。シリンダ部材23、23のケース下端部232、232は、放射能汚染水収納ケース21の前側壁及び後側壁から突出する支持部223、224に軸支されている。また、シリンダ部材23、23のケース下端部232、232には、左方へ延びるブラケット233、233が固着され、当該ブラケット233、233に上下方向へ伸縮自在に形成された補助シリンダ部材24、24のロッド部241、241が連結されている。補助シリンダ部材24のケース下端部242、242は、放射能汚染水収納ケース21の前側壁及び後側壁から突出する支持部223、224に軸支されている。
したがって、シリンダ部材23、23が伸長することによって、蓋部材22を放射能汚染水収納ケース21の上端開口部213から上方へ離間させ、また、補助シリンダ部材24、24が伸長することによって、シリンダ部材23、23を放射能汚染水収納ケース21に対して左右方向へ回動させる。これによって、放射能汚染水収納ケース21の上端開口部213から上方へ離間させた蓋部材22を、更に左右方向へ移動させることができる。そのため、放射能汚染水収納ケース21の上端開口部213から放射性物質吸着フィルタ1を上下方向へ取り出して、新たな放射性物質吸着フィルタ1を放射能汚染水収納ケース21の上端開口部213に上下方向から投入することができる。
次に、図1、図3に示す放射性物質吸着フィルタ1の繊維シート12に対して高分子系保護膜123を形成すると同時に吸着剤11(T)を固着させる塗工・乾燥装置20について、説明する。図12に示すように、本塗工・乾燥装置20には、コーティング部60とヒーター部7とシリンダ乾燥部8と巻取り部9とを備えている。
具体的には、コーティング部60には、帯状の不織布611がコイル状に巻かれた原反61を巻出す巻出し機62と、巻き出した不織布611に塗工するスキージコータ63と、スキージコータ63と対向して配置され不織布611を送り出す送りローラ64とを、備えている。不織布611の繊維糸(例えば、ポリエステル繊維など)は、放射性物質吸着フィルタ1の繊維シート12を構成する繊維糸122に相当する。スキージコータ63では、繊維シート12を構成する繊維糸122の表面を被覆する高分子系保護膜123の原料成分(例えば、セルロースエーテルなど)と微粒子化された竹炭Tと必要なバインダ成分等を溶媒液に混錬したペースト状の塗工液を、巻き出した不織布611に塗工する。
また、ヒーター部7は、ガスストーブと遠赤外線ヒーターなどを備えた乾燥室である。ヒーター部7内に、スキージコータ63で塗工された不織布611を通過させるとき、塗工液に含まれる水分を急速に飛ばすことによって、繊維糸の表面を被覆する高分子系成分やバインダ成分を濃縮化させて、繊維糸表面からの脱落を防止する。
また、シリンダ乾燥部8には、複数の中空シリンダ体81、82が上下2列で千鳥状に配置され、ヒーター部7を通過した不織布611を、中空シリンダ体81、82の外周面を上下交互に巻きながら通過させている。送り方向上流側の中空シリンダ体81は、蒸気熱によって加熱されているが、送り方向下流側の中空シリンダ体82は、冷媒によって冷却されている。不織布611を複数の中空シリンダ体81、82を通過させることによって、繊維糸の表面を被覆する高分子系成分やバインダ成分を固化させ、各繊維糸の表面を高分子系保護膜123で被覆処理するとともに、微粒子化された竹炭Tを各繊維糸の表面に固着させる。
また、巻取り部9には、塗工・乾燥された帯状の不織布611をコイル状に巻き取る巻取り機91と、巻取り機91の駆動モータ92とを備えている。各繊維糸122の表面が高分子系保護膜123で被覆処理されるとともに、微粒子化された竹炭Tが各繊維糸122の表面に固着された帯状の不織布611は、巻取り部9によってコイル状に巻き取られた状態で、図示しない切断装置に搬送され、放射性物質吸着フィルタ1に必要なサイズに切断して使用する。
<作用効果>
以上詳細に説明したように、本実施形態に係る放射能汚染水の除染処理方法によれば、放射性物質吸着フィルタ1は、外縁部121が燃焼可能な枠体13によって保持され且つ各繊維糸122の表面が高分子系保護膜123によって被覆処理された平膜状の燃焼可能な繊維シート12に、燃焼可能な吸着剤11が、高分子系保護膜123より露出した状態で固着されて、形成されているので、放射能汚染水HWの除染処理をする上で、放射性物質Hを吸着する放射性物質吸着フィルタ1の吸着効率を高めることができると共に、放射性物質吸着フィルタ1を安全に交換でき、交換した放射性物質吸着フィルタ1を焼却処理して、その廃棄量を大幅に低減できる。
すなわち、放射性物質吸着フィルタ1は、各繊維糸122の表面が高分子系保護膜123によって被覆処理されているので、繊維シート12における各繊維糸122の表面から突出する起毛(毛羽立ち)を低減させて、各繊維間の隙間を拡大でき、放射能汚染水HWの透過性を高めることができる。また、各繊維糸122の表面が高分子系保護膜123によって被覆処理された平膜状の繊維シート12に、吸着剤11が、高分子系保護膜123より露出した状態で固着されているので、透過性が高められた放射能汚染水HWが、平膜状の繊維シート12に固着されたそれぞれの吸着剤11に接触でき、吸着剤11による放射性物質Hの吸着効率を高めつつ、放射能汚染水HWを除染処理することができる。また、平膜状の繊維シート12の外縁部121が枠体13によって保持されているので、枠体13をロボット等により把持して投入又は取り出すことができ、放射性物質吸着フィルタ1を安全に交換することができる。また、放射性物質吸着フィルタ1を構成する繊維シート12と吸着剤11と枠体13とが、すべて燃焼可能な物質からなるので、交換した放射性物質吸着フィルタ1をそのまま焼却処理することによって、放射性物質Hのみが残り、その廃棄量を大幅に低減させることができる。
よって、本実施形態によれば、放射能汚染水HWの除染処理をする上で、放射性物質Hを吸着する放射性物質吸着フィルタ1の吸着効率を高めることができると共に、放射性物質吸着フィルタ1を安全に交換でき、交換した放射性物質吸着フィルタ1を焼却処理して、その廃棄量を大幅に低減できる放射能汚染水の除染処理方法を提供することができる。
また、本実施形態によれば、吸着剤11は、高分子系保護膜123の膜厚以上で繊維シート12の繊維糸径以下の大きさd1に粉砕して微粒子化された竹炭Tからなるので、多量の放射性物質Hを効率的に吸着でき、放射能汚染水HWの除染能力をより一層高めることができる。
すなわち、一般に放射性物質Hの吸着剤として知られているゼオライトZ1やプルシアンブルーZ2(プルシアンブルー型錯体を含む)などは、結晶構造の内部に空孔K1、K2を備え、その空孔K1、K2に放射性物質H(Cs+)が吸着される構造である。ところが、ゼオライトZ1やプルシアンブルーZ2(プルシアンブルー型錯体を含む)などは、複数の結晶構造からなる1次粒子Z11、Z21が立体的に結合して造粒され、吸着剤として使用される微粒子(2次粒子Z12、Z22)を形成する。そのため、2次粒子Z12、Z22の外周側に位置する1次粒子Z11、Z21の空孔K1、K2に対しては、放射能汚染水HWが接触でき、放射性物質Hを吸着することができるが、2次粒子Z12、Z22の内周側に位置する1次粒子Z11、Z21の空孔K1、K2には放射能汚染水HWが浸入しにくく、放射性物質Hを吸着させることが困難である。
したがって、ゼオライトZ1やプルシアンブルーZ2(プルシアンブルー型錯体を含む)などを放射性物質Hの吸着剤として使用する場合は、2次粒子Z12、Z22の大きさd4をできる限り小さくしないと、放射性物質Hの吸着効率を高めることができない。しかし、ゼオライトZ1やプルシアンブルーZ2(プルシアンブルー型錯体を含む)などの2次粒子Z12、Z22を小さくし過ぎると、繊維シート12に固着させる接着剤や高分子系保護膜123によって2次粒子Z12、Z22が覆われ、吸着機能を果たせなくなる問題があった。
これに対して、竹炭Tは、細かく粉砕した微粒子の大きさd1に関わらず、放射性物質Hを吸着する数多くの細孔111が、略同一方向に延びて竹炭Tの微粒子を貫通する構造(ハチの巣状構造)に形成されているので、高分子系保護膜123より露出する微粒子化された竹炭Tにおける細孔111の奥深くまで放射能汚染水HWが浸入でき、細孔111内の各凹所に放射性物質Hを吸着することができる。また、吸着剤11は、高分子系保護膜123の膜厚d2以上で繊維シート12の繊維糸径d3以下に粉砕して微粒子化された竹炭Tからなるので、繊維シート12の繊維糸122の表面に固着されやすく、大半の竹炭Tの微粒子を高分子系保護膜123から露出させることができる。そのため、放射性物質Hの吸着効率をより一層高めることができる。したがって、多量の放射性物質Hを効率的に吸着でき、放射能汚染水HWの除染能力をより一層高めることができる。
また、本実施形態によれば、放射性物質吸着フィルタ1には、放射能汚染水HWを常圧で透過させるので、放射性物質吸着フィルタ1に対する透過前の液圧V1と透過後の液圧V2との圧力差が略ゼロとなり、平膜状に形成された繊維シート12全体に放射能汚染水HWを透過させても、繊維シート12に過大な負荷をかけることがない。そのため、繊維シート12の繊維糸間の隙間を粗くして、放射能汚染水HWを短時間で大量に透過させることができる。また、繊維シート12の繊維糸間の隙間を粗くしても、放射性物質吸着フィルタ1には、放射能汚染水HWを複数回透過させるので、放射能汚染水HWに含まれる放射性物質Hを確実に低減させることができる。また、放射性物質吸着フィルタ1には、平膜状に形成された繊維シート12全体に放射能汚染水HWが透過しても、過大な負荷をかけることがないので、繊維シート12の外縁部121を保持する枠体13及び繊維シート12に対する補強構造を不要又は簡素化できる。その結果、放射性物質吸着フィルタ1を低コスト化させつつ、大量の放射能汚染水HWを除染処理できる。
また、本実施形態によれば、高分子系保護膜123は、セルロースエーテルをアルカリ水溶液に溶解させた溶媒液に吸着剤11(T)を混錬させて繊維シート12に塗工した後に乾燥させて形成するので、繊維シート12における各繊維糸122の表面に耐水性に優れたセルロース系保護膜123Sを形成できると同時に、セルロース系保護膜123Sによって各繊維糸122の表面に吸着剤11(T)を固着させることができる。また、セルロース系保護膜123Sによって、耐水性を高めつつ各繊維糸122の表面から突出する起毛をより一層低減させて、各繊維間の隙間を拡大でき、放射能汚染水HWの透過性をより一層高めることができる。
本他の実施形態に係る放射能汚染水の除染処理方法に使用する処理装置10によれば、放射能汚染水HWを貯留する汚染水タンク3と、汚染水タンク3から汲み上げた放射能汚染水HWを循環させて異物Xを除去する中継濾過装置4と、中継濾過装置4で濾過された放射能汚染水HWを貯留する中間受タンク5と、中間受タンク5に貯留する放射能汚染水HWを複数回循環させて放射性物質Hを吸着させる放射性物質吸着フィルタ1が着脱可能に装着された複数のフィルタユニット2と、を備えているので、放射能汚染水HWの除染処理をする上で、放射性物質Hを吸着する放射性物質吸着フィルタ1の吸着効率を高めることができると共に、放射性物質吸着フィルタ1を安全に交換でき、交換した放射性物質吸着フィルタ1を焼却処理して、その廃棄量を大幅に低減できる。
すなわち、放射能汚染水HWを貯留する汚染水タンク3と、汚染水タンク3から汲み上げた放射能汚染水HWを循環させて異物Xを除去する中継濾過装置4とを備えているので、放射能汚染水HWに含まれる各種の異物Xを中継濾過装置4によって事前に除去することができ、放射性物質吸着フィルタ1の目詰まりを低減させて、その吸着効率を高めることができる。また、中継濾過装置4で濾過された放射能汚染水HWを貯留する中間受タンク5と、中間受タンク5に貯留する放射能汚染水HWを複数回循環させて放射性物質Hを吸着させる放射性物質吸着フィルタ1が着脱可能に装着された複数のフィルタユニット2と、を備えているので、放射能汚染水HWが中間受タンク5とフィルタユニット2との間を複数回循環することによって、放射性物質吸着フィルタ1の吸着剤11に放射性物質Hを大量に吸着させることができる。そして、放射能汚染水HWの放射性物質含有量が規定値以下となった後に、処理水SWとして中間受タンク5から外部へ排出することができる。また、放射性物質Hを大量に吸着した放射性物質吸着フィルタ1を、フィルタユニット2から取り出して、そのまま焼却処理することによって、放射性物質Hのみが残り、その廃棄量を大幅に低減させることができる。
よって、本他の実施形態によれば、放射能汚染水HWの除染処理をする上で、放射性物質Hを吸着する放射性物質吸着フィルタ1の吸着効率を高めることができると共に、放射性物質吸着フィルタ1を安全に交換でき、交換した放射性物質吸着フィルタ1を焼却処理して、その廃棄量を大幅に低減できる放射能汚染水の除染処理方法に使用する処理装置10を提供することができる。
また、本他の実施形態によれば、フィルタユニット2は、中間受タンク5に対して並列状に接続されているので、各フィルタユニット2の放射性物質吸着フィルタ1には、中間受タンク5内に貯留した放射能汚染水HWを各フィルタユニット2毎に分割して同時に循環させることができ、大量の放射能汚染水HWに対する除染処理時間の短縮化を図ることができる。また、フィルタユニット2の数を増加させるだけで、放射能汚染水HWの除染処理能力を簡単に高めることができる。
また、本他の実施形態によれば、フィルタユニット2の出力ポート212と中間受タンク5の帰還ポート521とを接続している放射能汚染水HWの帰還管路52には、フィルタユニット2の出力ポート212から排出される放射能汚染水HWを一時溜めおく補助タンク6をフィルタユニット2の出力ポート212より下方に備え、当該補助タンク6に貯留された放射能汚染水HWを送給ポンプ522を介して中間受タンク5に帰還させるので、各フィルタユニット2の放射性物質吸着フィルタ1に対して、帰還管路52から放射能汚染水HWの逆流を回避又は低減して、大量の放射能汚染水HWを迅速に透過させることができる。その結果、中間受タンク5内の放射能汚染水HWを、より一層迅速に除染処理することができる。
また、本他の実施形態によれば、フィルタユニット2には、放射性物質吸着フィルタ1を上下方向に起立させて収容し、当該放射性物質吸着フィルタ1に対して放射能汚染水HWを左右方向へ透過させる放射能汚染水収納ケース21を備え、放射能汚染水収納ケース21の上端開口部213には、放射性物質吸着フィルタ1を投入・取出し可能に形成された蓋部材22が装着されているので、蓋部材22を開放することによって、放射能汚染水収納ケース21の上端開口部213から、起立した状態で大量の放射性物質Hを吸着した放射性物質吸着フィルタ1を上下方向へ移動させるだけで、簡単かつ安全に取り出すことができる。したがって、放射能汚染水収納ケース21の上端開口部213から、大量の放射性物質Hを吸着した放射性物質吸着フィルタ1と新しい放射性物質吸着フィルタ1とを、簡単かつ安全に交換することができる。
また、本他の実施形態によれば、蓋部材22は、上下方向へ伸縮自在に形成されたシリンダ部材23に連結され、当該シリンダ部材23が放射能汚染水収納ケース21に左右方向へ回動可能に装着されているので、シリンダ部材23が伸長することによって蓋部材22を放射能汚染水収納ケース21の上端開口部213から上方へ離間させ、また、シリンダ部材23を放射能汚染水収納ケース21に対して左右方向へ回動させることによって、放射能汚染水収納ケース21の上端開口部213から上方へ離間させた蓋部材22を、更に左右方向へ移動させることができる。そのため、放射能汚染水収納ケース21の上端開口部213から放射性物質吸着フィルタ1を上下方向へ取り出して、新たな放射性物質吸着フィルタ1を放射能汚染水収納ケース21の上端開口部213に上下方向から投入することができる。したがって、大量の放射性物質Hを吸着した放射性物質吸着フィルタ1と新しい放射性物質吸着フィルタ1とを、放射能汚染水収納ケース21の上端開口部213から、より一層簡単かつ安全に交換することができる。