生合成などにより生成した粒状物のうち、米、麦などの禾穀(かこく)類に含まれる穀類は、主要食品材料として全世界で利用されている。米、麦類の外観形質は異なっているが、それらの基本的構造は、細胞内小器官であるアミロプラスト内に貯蔵澱粉を蓄えている胚乳部、その外側に形成された食物繊維、脂質、たんぱく質を多く含む糊粉層および表皮層、ならびに発芽部位の胚乳で穀粒組織が形成されている。これらの組織において、脂質含量の低い胚乳は精白米、小麦一等粉などの貯蔵性の良い主食として利用されているが、白米あるいは小麦粉の製造工程において生じる糊粉層、表皮、胚乳を含む画分は脂質含量が高く、米ぬかあるいは小麦ふすまとして油脂原料や飼料原料などに利用されている。
白米の製造を目的とする精米工程においては、脂質含量の高い米ぬかはこめ油の原料などとして利用されているが、精米工程で残存する米ぬかが白米に肌ぬかとして付着すると、貯蔵中に不飽和脂肪酸の酸化反応などに起因するヘキサナールなどのアルデヒド類などが生成し、異臭や変色の原因となる。また製造工程において脂肪酸のラジカルが高温・多湿条件下で生じると、所謂なだれ現象で脂質の酸化が一気に進み、貯蔵時において強いぬか臭や酸敗臭が発生する場合もある。精米工程でも、摩擦熱による脂質の酸化や澱粉の糊化により付着性となったぬかが白米に付着して、肌ぬかが付着した製品となる。
このような米の品質劣化は製造工程の品質管理上の問題以外に、米のリパーゼやリポキシゲナーゼなどの脂質分解酵素活性が高いことにも起因しており、稲育種ではリポキシゲナーゼを欠損したうるち米品種(農研機構:品種名Daw Dam)が育成されている。大型の精米設備において温度調整がされて原料米の穀温は、約10℃(冬季)~25℃(夏季)程度の変動幅であるが、精米直後の穀温は精米時の摩擦熱などにより20℃以上も上昇する場合がある。また、日本食品標準成分表2015年版(文部科学省)によると、玄米および白米の水分は約15%であり、脂質の変質要因である高温、水分、大気中の酸素にさらされる精米工程において生じる肌ぬかを除去する無洗米工程において精白米の劣化を防ぐためには、肌ぬかを脱離後は排気流で速やかに系外に排出するのが望ましい。
一般的に米の流通形態は袋詰めで、消費者は使用する米を計量後、通常は洗米して炊飯調理を行っている。このときの洗米を省略するため、あるいはぬか臭を除去するために、精製白米に付着した肌ぬかを除去することにより無洗米が製造されている。近年、生産されている無洗米は、水質汚濁などの原因となる洗米が不要とされているが、それに対する消費者の不安や疑問を含めた関心の高いことが、非特許文献1の国民生活センターによる無洗米に関する詳細な調査資料に報告されている。これは消費者が単に洗米を省略できるだけではなく、洗米しなくても安心して食することが可能な品質を求めていることを示している。すなわち精米等の調製工程では発熱等により脂質の酸化などが起きるが、無洗米製造工程でも同様の品質低下が起きないことが要望されている。
無洗米などの無洗穀類は、白米等の精製穀類に付着している肌ぬか等の異物が除去され、洗浄による洗浄排水は低濁度であり、調理の際の洗浄が省略可能な精製穀類である。このような無洗米、無洗麦などの無洗穀類は、玄米、原麦等の原料穀類を精米、精麦等の精製工程で精製した後、無洗米化工程等の無洗穀類化工程で無洗穀類化して製造される。一般には精製工程と無洗穀類化工程は別工程であるが、一工程とされたものもある。
従来の無洗穀類化処理は以下述べるように、原料穀類を密に充填した状態で機械的に移動させたり、水や他の粒状物と接触させたり、加熱したりするので、摩擦により原料穀類の損失が生じるとともに、水や他の物質による変質や、摩擦熱や加熱による酸化、変質、表面糊化などのおそれがあり、また複雑な構造の装置と操作が必要になるなどの問題点がある。
特許文献1(特開平10-15408)には、機械的にぬかを除去する研米装置が示されており、一部に砥石を装着した外筒内部で、内周部に充填された米粒を、一部にブラシを装着した回転体を中心部で回転させて上部に圧送し表面を研磨しながら、ブラシによりブラッシングして研米する装置が示されている。しかしこの装置は、米粒同士がすれることにより精米を行い、脱離したぬかをブラッシングで除去する研米装置であり、搗精では除去しきれなかった米粒表面の微細溝等に残留している糊粉層などの肌ぬかを完全には除去できず、無洗米は得られない。また摩擦により研磨するので、摩擦熱による酸化が起こり、糠臭が除去できないという問題点がある。
精米された白米から無洗米を製造する方法として特許文献2(特開平7-274857)には、原料穀類を水で洗った後水を分離して得られる洗い米が提案されており、水の分離として自然乾燥、加熱乾燥、送風乾燥、機械的分離などが示されている。しかしこの方法では、洗浄、水分離の過程で米の品質が低下するほか、洗浄水の処理が必要であり、加熱乾燥などの場合には熱により酸化生成物が生じるなどの問題点がある。
特許文献3(特開2002-95981)には、精白穀類に微量の水分を添加してその表面を軟化させ、該精白穀類と60℃以上に加熱した粒状物とを混合・攪拌し、精白穀類の穀粒表面に残存するぬかを粒状物に吸着させて除去し、該精白穀類と粒状物とを分離して無洗穀類を製造する方法が提案されている。しかしこの方法では、脂質などを含むぬか類の吸着塊が加工部から直ちに系外に除去される機能を有していない。したがって加工部後方では、吸着された脂質などが浸潤により精米に移行し、品質が低下するおそれがある。また原料穀類に水分を添加することにより、さらには加熱した粒状物と混合・攪拌することにより、原料穀類の損失が生じるとともに、有用物の変質、減損などが生じやすい。
特許文献4(特開平10-15408)には、筒体内に回転自在に支持された攪拌ロールの奥端に輸送方向のスクリューと、それに続いてこれと逆方向に捻じった抵抗羽根と、さらにその先端に略軸線方向に延びる高突条と、この高突条と周方向反対側に低突条が固着された攪拌装置により、精白米に付着している肌糠を筒体の内周面が構成する硬質物に打ち付けて付着させ、更に肌ぬかを脱離することを繰り返した後、別の分離装置により分離する無洗米の製造方法が提案されており、これにより排水処理が不要で、水洗式と同等の除糠度で安定した高品質の無洗米を製造できるとされている。しかしこの方法でも、硬質物への付着物中の脂溶性物質やそれらの分解物などの精白米への浸潤を回避することは困難で、摩擦により原料穀類の損失が生じるとともに、摩擦熱による酸化や糊化のおそれがあり、複雑な構造の装置と操作が必要となる。
非特許文献2(日本作物学会関東支部会報)には、精白米の表面は、玄米中のデンプン粒の搗精過程における摩擦熱による糊化物により形成された糊化層に覆われているとされており、その一部が炊飯工程の浸漬時に溶け出し濁度を上昇させる一因と考えられている。またデンプン粒の糊化層から突出する突出部が観察されており、これが肌ぬかであることが推察できる。このような糊化層の形成は、噴風等を摩擦式ロール精米装置から発生させて空気冷却を行う近年の精米装置では回避できるが、冷却機構を有しない精米機では表面温度が上昇した熱履歴を有する精白米が生産される恐れがある。
本発明の目的は、上記従来の問題点を解決するため、簡単な構造の装置と簡単な操作により、原料穀類に付着している肌ぬかやデンプン粒の糊化層他の異物が除去され、調理の際の洗浄が省略可能で、かつ優れた品質を有する無洗穀類を製造することができる無洗穀類の製造装置および製造方法を提案することである。
本発明は次の無洗穀類の製造装置および製造方法である。
(1) 傾斜状に配置された処理筒と、
この処理筒との間に旋回流路を形成するように内部に配置された回転処理体と、
この回転処理体の回転により穀物粒を処理筒の内周面側に放出分散させるように設けられた放出分散材と、
旋回流路の上端部側へ原料穀物粒を供給する原料供給部と、
処理筒の谷部に設けられた空気流入部と、
処理筒の稜線部に設けられた脱離滓排出部とを備え、
脱離滓排出部からの吸引により空気流入部から空気が流入して穀物粒の流動層が形成されるとともに、回転処理体の回転により旋回流路に旋回流動層が形成され、穀物粒の表面に付着した付着物が脱離し、脱離滓が脱離滓排出部から排出されるように構成されていることを特徴とする無洗穀類の製造装置。
(2) 内周面に沿って穀物粒が回転移動するように傾斜状に配置された処理筒と、
この処理筒の内周面との間に旋回流路を形成するように配置された回転処理体と、
この回転処理体を構成する放出分散材であって、処理筒の内周面に向け穀物粒を放出分散させるように、基部から放射状に伸びる突出部を有する放出分散板が、回転処理体の回転軸を通して積層されている放出分散材と、
処理筒の上端部側へ原料穀物粒を供給する原料供給部と、
処理筒の下端部側から製品穀物粒を取出す製品取出部と、
処理筒の谷部に設けられた空気流入部と、
処理筒の稜線部に設けられた脱離滓排出部とを備え、
脱離滓排出部からの吸引により、空気流入部から空気が流入して穀物粒の流動層が形成されるとともに、回転処理体の回転により旋回流路において旋回流が形成されることにより、穀物粒の表面に付着した付着物が脱離し、脱離滓が脱離滓排出部から排出されるように構成されていることを特徴とする無洗穀類の製造装置。
(3) 処理筒の内周面と回転処理体との間に形成される旋回流路が原料供給部側から製品取出部側に向かって拡大するように構成されている上記(1)または(2)記載の装置。
(4) 処理筒が原料供給部側から製品取出部側に向かって拡大するように構成されている上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の装置。
(5) 処理筒は旋回流により移動する穀物粒に対して抵抗となる抵抗部材が内周部に形成されている上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の装置。
(6) 抵抗部材が凹凸部を有する上記(5)記載の装置。
(7) 抵抗部材が多孔板からなる上記(5)または(6)記載の装置。
(8) 放出分散材は、同一もしくは異なる形状および/または大きさの放出分散板が同一もしくは異なる位相で回転軸を通して積層されたものである上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の装置。
(9) 原料供給部は処理筒に連なる搬送筒内に設けられたスクリューフィーダを含む上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の装置。
(10) 製品取出部は、処理筒の終端部から取出される製品穀物粒を選別する選別部を備える上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の装置。
(11) 空気流入部は、空気が通過しかつ穀物粒が通過しないように処理筒の谷部に沿って長手方向に形成された開口部を有する上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の装置。
(12) 脱離滓排出部は、空気および脱離滓が通過しかつ穀物粒が通過しないように処理筒の稜線部に沿って長手方向に形成された開口部、この開口部を覆う脱離滓捕集部、およびこの脱離滓捕集部から脱離滓および空気を排出する脱離滓排出路を有する上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の装置。
(13) 傾斜状に配置された処理筒とその内部に配置された回転処理体との間に形成される旋回流路の上端部側へ原料穀物粒を供給し、
処理筒の稜線部に設けられた脱離滓排出部から吸引することにより、処理筒の谷部に設けられた空気流入部から空気を流入させて穀物粒の流動層を形成させ、
回転処理体を回転させ、放出分散材により穀物粒を処理筒の内周面側に放出分散させて、処理筒の内周面との間に旋回流動層を形成させ、
放出分散材による穀物粒の放出および穀物粒の処理筒の内周面への衝突に伴う衝撃により穀物粒の表面に付着した付着物を脱離させるとともに、脱離滓を空気とともに脱離滓排出部から排出することを特徴とする無洗穀類の製造方法。
(14) 旋回流路を原料供給部側から製品取出部側に向かって拡大するように構成することにより、旋回流路を移動する穀物粒の密度の上昇を防止し、付着物の脱離と脱離滓の排出を促進する上記(13)記載の方法。
(15) 旋回流により移動する穀物粒に対して抵抗となる抵抗部材を処理筒の内周部に形成することにより、穀物粒の処理筒の内周面への衝突に伴う衝撃による穀物粒の付着物の脱離を促進する上記(13)または(14)記載の方法。
(16) 上記(1)ないし(12)のいずれかに記載の装置を用いる上記(13)ないし(15)のいずれかに記載の製造方法。
本発明において、無洗穀類化処理の対象となる穀類は、米、麦などの禾穀(かこく)類に含まれる穀類であり、精米、精麦などの調製工程を経て肌ぬかその他の付着物が付着した穀類が主な対象となるが、調製工程を経ない玄米、原麦などでもよい。肌ぬか等の付着物は、主に穀類の表層部、特に糊粉層に含まれる脂質、またはその酸化物等の粘着性に起因する付着性を有する。このような付着性を有する肌ぬか、デンプン粒の糊化層等の付着物は、いったん穀類に付着するとその脱離は困難であり、脱離したとしても容易に再付着する。このため無洗穀類化のためには、付着物を効果的に脱離するとともに、脱離した付着物を直ちに排出して、再付着を防止することが必要である。脱離に際しては水や他の粒状物等の脱離媒体を用いたり、熱や圧力をかけると製品の品質を損なったり、製品のロスが生じるので、温和な操作で短時間に処理を行うことが重要である。
本発明の無洗穀類の製造方法は、傾斜状に配置された処理筒とその内部に配置された回転処理体との間に形成される旋回流路の上端部側へ原料穀物粒を供給し、処理筒の稜線部に設けられた脱離滓排出部から吸引することにより、処理筒の谷部に設けられた空気流入部から空気を流入させて穀物粒の流動層を形成させ、回転処理体を回転させ、放出分散材により穀物粒を処理筒の内周面側に放出分散させて、処理筒の内周面との間に旋回流動層を形成させ、放出分散材による穀物粒の放出および穀物粒の処理筒の内周面への衝突に伴う衝撃により穀物粒の表面に付着した付着物を脱離させるとともに、脱離滓を空気とともに直近の脱離滓排出部からすみやかに排出して無洗穀類の製造をする。
回転処理体の回転により、放出分散材が処理筒の内周面側に穀物粒を放出分散させる際、穀物粒は流動化状態で放出分散材と接触するので、穀物粒自体は強い衝撃を受けることなく、穀物粒の表面に付着した付着物が放出分散材の掃引またはたたき(sweepまたはbeat)作用により脱離する。放出分散された穀物粒が処理筒の内周面へ衝突するときも同様であり、衝突に伴う衝撃による穀物粒の損傷は少なく、付着物は効果的に脱離する。そして脱離滓は空気とともに脱離滓排出部から直ちに排出され、再付着は防止される。
このような無洗穀類の製造方法に用いる本発明の無洗穀類の製造装置は、内周面に沿って穀物粒が回転移動するように傾斜状に配置された処理筒と、この処理筒の内周面との間に旋回流路を形成するように配置された回転処理体と、この回転処理体を構成する放出分散材であって、処理筒の内周面に向け穀物粒を放出分散させるように、基部から放射状に伸びる突出部を有する放出分散板が、回転処理体の回転軸を通して積層されている放出分散材と、処理筒の上端部側へ原料穀物粒を供給する原料供給部と、処理筒の下端部側から製品穀物粒を取出す製品取出部と、処理筒の谷部に設けられた空気流入部と、処理筒の稜線部に設けられた脱離滓排出部とを備えている。ここでは脱離滓排出部からの吸引により、空気流入部から空気が流入して穀物粒の流動層が形成されるとともに、回転処理体の回転により旋回流路において旋回流が形成されることにより、穀物粒の表面に付着した付着物が脱離し、脱離滓が脱離滓排出部から排出されるように構成されている。
処理筒は内周面に沿って穀物粒が回転移動するように構成されていればよく、その形状に制限はなく、円筒または近似の形状を基本とするものが好ましいが、楕円、卵形など円筒に近い異形のものでもよい。処理筒はその軸心に沿って回転処理体の回転軸が設けられるが、処理筒の内周面と回転処理体の間に旋回流路が形成される。処理筒は傾斜状に配置されるが、その傾斜角度は10~45度、好ましくは15~30度程度であり、処理中に穀物粒が重力を利用して移動し、自由落下できる角度が好ましい。
処理筒は旋回流路における旋回流または乱流により回転、移動する穀物粒に対して抵抗となる抵抗部材が内周部に形成されているのが好ましい。これは内周面に沿って回転移動する穀物粒が旋回流路を通過する際、穀物粒に対して抵抗となる抵抗部材が内周部に形成されていると、回転処理体の回転により回転、移動する穀物粒が処理筒内周部の抵抗を受けることにより、処理筒内周部でも穀物粒の付着物の脱離が行われることになり、粒状物表層部における付着物の脱離が促進される。抵抗部材は凹凸部を有するように形成することができる。凹凸部を有する部材としてはパンチングメタル等の多孔板が好ましく、多孔板の小孔の部分に穀物粒がはまり込んで一時的に保持される構造にすることにより、穀物粒が小孔を離脱するときに穀物粒表層部の付着物の脱離が行われる。多孔板の小孔の縁部または他の内周部に内向きの突起を設けると、さらに有効に付着物の脱離が行われる。多孔板は処理筒の形状に合わせて内周部のほぼ全体に形成することができる。
処理筒および多孔板は単一または複数の板状部材から円筒状に構成し、筒径を変化させる筒径調節材を設けることができ、筒径調節材は外部から操作して筒径を変化させるものが好ましい。筒径調節材を操作して筒径を変化させることにより、処理筒および多孔板の内側に形成される穀物粒の流路すなわち旋回流路の大きさを調整することができ、これにより穀物粒の表面研磨率を調節することができる。処理筒および多孔板を単一または複数の板状部材で構成する場合、接合部をスライド可能に重ねて接合することができ、これにより接合する部分を調製可能にすることができ、処理筒および多孔板の大きさを調整することが容易になる。この場合外部からの操作で圧縮荷重を付加して筒径を変化させるものが好ましい。複数の多孔板は、同一または異なる保持部および/または透孔を形成することができる。
処理筒の内周面と回転処理体との間に形成される旋回流路は、原料供給部側から製品取出部側に向かって拡大するように構成されているのが好ましい。この場合、回転処理体が原料供給部側から製品取出部側に向かって縮小するように構成することもできるが、処理筒が原料供給部側から製品取出部側に向かって拡大するように構成すると、容易に旋回流路を原料供給部側から製品取出部側に向かって拡大するようにできるので好ましい。旋回流路内を回転移動する穀物粒は旋回流路の抵抗を受けるため、旋回流路が全長にわたって同じ断面積であると、穀物粒の充填密度は出口側ほど高くなり、付着物の脱離効果が低くなる傾向がある。これに対して旋回流路が原料供給部側から製品取出部側に向かって拡大するように構成されていると、穀物粒の充填密度は出口側でも低くなり、穀物粒が自由落下するようになり、付着物の脱離効果が高くなる。
回転処理体は、処理筒の内周面との間に旋回流路を形成するように処理筒内に回転可能に配置される。回転処理体は、処理筒の内周面に向け穀物粒を放出分散させるように、基部から放射状に伸びる突出部を有する放出分散板が、回転処理体の回転軸を通して積層されて放出分散材が形成されている。放出分散材は、同一もしくは異なる形状および/または大きさの放出分散板が同一もしくは異なる位相で回転軸を通して積層されて形成される。同一の形状および/または大きさの放出分散板が同一の位相で回転軸を通して積層されていると、横断面形状が同じで単純な表面を有する放出分散材が形成される。この場合、いずれかの要素が異なる放出分散板が積層されて複雑な表面が形成されると、穀物粒と接触する際の掃引、たたき作用が有効に発揮され、付着物の脱離効果が高くなる。この場合においても、部分的にでもある程度位相を揃えて、外周部に穀物粒を保持できる凹部を形成すると、穀物粒の放出分散性が増し、掃引、たたき作用がさらに有効に発揮される。
放出分散板は、回転により処理筒の内周面側に穀物粒を放出分散させるように、ディスク状基部から放射状に突出部が突出するタービン翼状に構成されるのが好ましい。突出部は穀物粒と直接接触して処理筒の内周面側に押出すことにより穀物粒を放出分散させるので、穀物粒に衝撃を与えないように、緩やかなサインカーブ状に突出する突出部をディスク状基部の周縁部に沿って形成するのが好ましい。具体的には放出分散板は、山部と谷部が外周部に均等に分散する花びら形のものが好ましいが、穀物粒の量、回転処理体の回転数等に応じて、穀物粒の放出分散が可能な形状にすることができる。突出部のディスク状基部の直径に対する寸法比は、0.02~0.52、好ましくは0.1~0.4が好ましい。回転処理体の回転速度は、放出分散材の回転により穀物粒を処理筒の内周面側に分散させ、旋回流路内に旋回流動層を形成させる速度であり、装置の規模によって異なるが、周速として1~25m/s、好ましくは2~10m/s程度である。
放出分散材を構成する各部材は、回転方向および/または軸方向に揺動または摺動できるように回転処理体の回転軸に緩やかに取り付けられているのが好ましく、これにより放出分散材を構成する各部材が粒状物に当たるときの衝撃を緩和して、穀物粒の過度の研磨を防止し、表面を万遍なく掃引して、付着物を脱離することができる。回転方向および/または軸方向に揺動または摺動できるようにするためには、各部材と回転軸間、ならびに各部材と係合部(例えばキー溝)間にわずかな隙間が存在し、衝撃を吸収するように、緩やかに取り付けられていることを意味する。放出分散材の端部は、ダブルナットとばね座金等で構成される固定具により、軸方向にわずかな隙間が存在するように固定することができる。
原料供給部は処理筒の上端部側へ原料穀物粒を供給するように構成される。原料供給部は処理筒の旋回流路に連なる搬送筒内に設けられたスクリューフィーダを備えているのが好ましい。製品取出部は処理筒の下端部側から製品穀物粒を取出すように構成される。製品取出部は処理筒の終端部から取出される製品穀物粒を選別する選別部を備えることができる。空気流入部は処理筒の谷部に設けられるが、空気が通過しかつ穀物粒が通過しないように処理筒の谷部に沿って長手方向に形成された開口部を有するように構成される。脱離滓排出部は処理筒の稜線部に設けられるが、空気および脱離滓が通過しかつ穀物粒が通過しないように処理筒の稜線部に沿って長手方向に形成された開口部、この開口部を覆う脱離滓捕集部、およびこの脱離滓捕集部から脱離滓および空気を排出する脱離滓排出路を有するように構成される。処理筒の内周部に多孔板からなる抵抗部材が形成されている場合は、抵抗部材の多孔板を残した状態で処理筒に開口部を形成することにより、空気および脱離滓が通過しかつ穀物粒が通過しない開口部を形成することができる。
上記の無洗穀類の製造装置では、処理筒とその内部に配置された回転処理体との間に形成される旋回流路の上端部側へ原料供給部から原料穀物粒を供給し、処理筒の稜線部に設けられた脱離滓排出部から吸引することにより、処理筒の谷部に設けられた空気流入部から空気が流入し、穀物粒が浮上して流動層が形成される。この状態で回転処理体を回転させることにより、旋回流路において旋回流動層が形成され、放出分散材により穀物粒が処理筒の内周面側に放出分散させられ、処理筒の内周面から穀物粒が跳ね返り、これらが繰り返される。この間の回転処理体および処理筒の内周面の掃引またはたたき作用により、穀物粒の表面に付着した肌ぬか等の付着物が脱離する。付着物としてデンプン粒や糊化層が形成されている場合は、これらの付着物も脱離する。
穀物粒から脱離した付着物は脱離滓として直ちに脱離滓排出部から空気とともに排出され、穀物粒への再付着が防止される。装置に形成される旋回流路に対する穀物粒の処理量が多い場合は、旋回流路内の穀物粒の充填密度が高くなり、脱離滓の排出が十分に行われなくなる。無洗穀類化の処理効果を高くするためには、旋回流路に対する穀物粒の処理量を適切に調整することが重要であるが、このためには旋回流路が原料供給部側から製品取出部側に向かって拡大するように構成されているのが好ましい。旋回流路が原料供給部側から製品取出部側に向かって拡大するように構成されていると、穀物粒の充填密度は出口側でも低くなり、また回転による旋回流形成が弱まるので、穀物粒が自由落下するようになり、付着物の脱離効果が高くなる。
旋回流路を原料供給部側から製品取出部側に向かって拡大させるために、回転処理体が原料供給部側から製品取出部側に向かって縮小するように構成することもでき、この場合は異なる大きさの放出分散板を準備する必要があるが、処理筒を原料供給部側から製品取出部側に向かって拡大するように構成すると、処理筒の形状を変えるように加工することにより、容易に旋回流路を原料供給部側から製品取出部側に向かって拡大するようにできるので好ましい。
上記の処理において、処理筒の内周面および回転処理体と接触する穀物粒は、旋回流路における旋回流中で浮上して流動層が形成された状態であるため、従来法における圧送下の接触の場合とは異なり、接触による衝撃は小さく、有用物を熱変性、変質あるいは実質的に除去することなく表面に付着した付着物が脱離し、穀物粒自体が削り取られる処理損失は少ない。特に放出分散材を構成する各部材が、回転方向および/または軸方向に揺動または摺動できるように回転処理体の回転軸に緩やかに取り付けられている場合は、接触による衝撃はさらに小さくなり、さらに効率よく無洗穀類化を行うことができる。このように穀物粒が旋回流中で浮上して流動層が形成された状態で、回転処理体の放出分散材を構成する放出分散板の突出部が回転するので、穀物粒の損傷が少ない状態で、突出部の掃引、たたき作用により付着物が効率よく脱離する。
処理筒の谷部に設けられる空気流入部は、空気が通過しかつ穀物粒が通過しないように処理筒の谷部に沿って長手方向に形成された開口部を有するように構成されるのが好ましいが、開口部は直線状に開口するものでも、点線状に開口するものでもよい。これらの場合の開口部は旋回流路にほぼ対応する長さ、すなわち放出分散材にほぼ対応する長さの領域に構成されるのが好ましい。これにより放出分散材により旋回流が形成される全領域において空気が流入し、穀物粒が浮上して流動層が形成され、旋回流が形成される全領域で付着物の脱離が行われるので、付着物の脱離効率は高くなる。
処理筒の稜線部に設けられる脱離滓排出部は、空気および脱離滓が通過しかつ穀物粒が通過しないように処理筒の稜線部に沿って長手方向に形成された開口部、この開口部を覆う脱離滓捕集部、およびこの脱離滓捕集部から脱離滓および空気を排出する脱離滓排出路を有するように構成されるのが好ましいが、この場合の開口部および脱離滓捕集部は旋回流路にほぼ対応する長さ、すなわち放出分散材にほぼ対応する長さの領域に構成されるのが好ましい。これにより放出分散材により旋回流が形成される全領域において脱離滓が空気とともに排出される。この場合、旋回流が形成される全領域で付着物が脱離するので、付着物は脱離と同時に排出されることになり、無洗穀類化が効率よく行われる。脱離滓排出路は、脱離滓捕集部の1または複数の部位から脱離滓および空気を排出するように構成されるのが好ましいが、脱離滓捕集部の均等な位置に分散した複数の部位から脱離滓および空気を排出するように構成されると、付着物の脱離と排出の間の時間差が小さくなり、脱離滓の再付着を低減できる。
処理筒の内周部に形成される抵抗部材としては多孔板を用いる場合、空気および脱離滓が通過しかつ穀物粒が通過しない小孔を有する多孔板を採用するのが好ましく、これにより抵抗部材の多孔板を残した状態で処理筒に開口部を形成することにより、空気および脱離滓が通過しかつ穀物粒が通過しない開口部を容易に形成することができる。従って処理筒の内周部の全域および/または一部に多孔板(パンチングメタル)で形成される抵抗部材を形成すると、処理筒の谷部に空気流入部の開口部を形成し、稜線部に脱離滓排出部の開口部を形成するだけで、空気および脱離滓が通過しかつ穀物粒が通過しない開口部を形成することができる。
旋回流路を通過し無洗穀類化処理が終わった穀物粒は、処理筒の下端部側に設けられた製品取出部から製品穀物粒を取出される。このとき選別部において、処理筒の終端部から取出される製品穀物粒の選別を色選や篩別で行って、残留する異物や不良品を除去し、製品無洗穀類とすることができる。
こうして穀物粒の表面付着物が脱離して得られる製品無洗穀類は、原料穀物粒に対する搗精率0.01%(搗精歩合99.99%)ないし搗精率0.5%(搗精歩合99.5%)以下であり、全国無洗米協会および米穀公正取引推進協議会方式(旧食糧庁方式)による供試量3gの試験洗浄法における濁度が20ppm以下の無洗穀類である。この無洗穀類は、原料穀類に付着している肌ぬかやデンプン粒の糊化層他の異物が除去され、原料穀類の有用物が熱変性、変質あるいは実質的に除去されることなく、穀物粒自体が削り取られる処理損失も少なく、調理の際の洗浄が省略可能で、優れた品質を有する無洗穀類である。無洗米の場合、洗米による排水中の濁度は全国無洗米協会の濁度基準の28ppm以下となり、無洗米として利用できる。この無洗穀類の加工品は無洗穀類加工品として利用することができる。
従来法で製造される無洗米等の無洗穀類の製品ロスは一般に2%程度とされているが、本発明では穀物粒が旋回流中で浮上して流動層が形成された状態で、回転処理体の掃引、たたき作用により付着物が脱離され、穀物粒は重力により自然落下する状態で移動するので、製品ロスは少ない。無洗穀類化工程の原料穀物粒に対する搗精率は任意に選択できるが、搗精率0.01~0.5%(搗精歩合99.99~99.5%)程度にすることにより、製品ロスを搗精率に相当する低い値にすることができる。
本発明の製品無洗穀類の製造では、原料穀類を密に充填した状態で機械的に移動させたり、水や他の粒状物と接触させたり、加熱したりすることがないので、摩擦による原料穀類の損失が少なく、水や他の物質による変質や、摩擦熱による酸化や糊化のおそれがなく、また複雑な構造の装置と操作が必要でなく、加水、脱水、加熱、冷却等の操作が必要でない。
本発明の無洗穀類の製造装置および製造方法によれば、加水、脱水、加熱、冷却等の操作が必要でなく、簡単な構造の装置と簡単な操作により、有用物の変質や減損がなく、原料穀類に付着している肌ぬかやデンプン粒の糊化層他の異物が除去され、調理の際の洗浄が省略可能で、かつ優れた品質を有する無洗穀類を効率よく製造することができる。
以下、本発明の実施形態を図面により説明する。
図1ないし図6は実施形態の無洗穀類の製造装置を示し、図7は穀類粒(玄米)の断面図を示している。
図7に示されているように、穀類粒(玄米)1は、表面側から表皮2、果皮3、種皮4、糊粉層5、胚乳6が層状に形成され、胚乳6の一端部に胚芽7が胚盤8を介して付着している。表皮2は外皮とも呼ばれ、穀類粒(玄米)1の最外層を構成しており、難破壊性および/または難透水性の強靭な膜からなる。この表皮2は強靭で破壊されにくく、剥離しても付着性はない。果皮3は中果皮、横細胞、管細胞など複数の層が重なった複合層で、主として繊維層からなり、表皮2に近い層ほど脂質が少なく非付着性であり、種皮4に近い層ほど脂質が多く付着性である。種皮4は果皮3と糊粉層5を隔てる膜である。糊粉層5は蛋白、脂質その他の栄養成分を多く含む層であり、脂質の相当部分は糊粉層5に含まれている。胚乳6は主として澱粉を含む層である。胚芽7はやがて成長して芽になる胚を含む部分であり、胚盤8により胚乳6に付着している。
図8に示すように、(a)、(c)に示された穀類粒(玄米、小麦)1のF、G部の胚乳から胚盤、胚芽に至る横軸を頭頂部の真上からみた2次元赤外分光分析画像による脂質マッピング図が(b)、(d)に示され、穀類粒(玄米、小麦)1の脂質の分布状態が波長(1720cm-1)における脂質カルボニルの吸収により示されている。図中、脂質の濃いスペクトル(白色)が胚盤8近傍に見られるほか、胚芽7全体および糊粉層5の一部にも認められるが、デンプンを主体とする胚乳6には脂質のスペクトルは殆ど認められない。このことは、穀類粒(玄米)1の脂質が、胚芽7全体および胚盤8のほか糊粉層5に局在し、これらが脱離してぬかに移行して、ぬかに付着性を付与していることが分かる。
従来の精米は、穀物粒(玄米)1の表皮2、果皮3、種皮4、糊粉層5、胚芽7および胚盤8の一部をぬかとして除去し、澱粉を含む胚乳6を白米として残す処理であり、搗精率10%(搗精歩合90%)程度で、穀物粒(玄米)1の10%程度がぬかとして除去される。一方、栄養価が高い胚芽7、胚盤8の相当部分を残すものが胚芽米として販売されているが、搗精率7%(搗精歩合93%)程度であり、穀物粒(玄米)1の7%程度にあたる米ぬかが除去されている。
このような精米を行った白米や胚芽米は、付着性の高いぬかが肌ぬか9としてデンプン粒や糊化層他の異物とともに付着している。無洗穀類としての無洗米は、このような精米を行った白米や胚芽米を原料穀物粒として無洗米化処理して肌ぬか9をデンプン粒や糊化層等とともに除去したものである。図8に示すように、脂質は穀物粒1の表面に局在し、図7に示される果皮3、種皮4、糊粉層5、胚芽7および胚盤8に、特に糊粉層5に脂質が局在しており、これが付着性の一因ともなっている。無洗穀類としての無洗米は、このような白米や胚芽米を原料穀物粒から無洗米化処理により肌ぬか9をデンプン粒や糊化層等とともに除去することにより製造される。
図1ないし図6において、実施形態の無洗穀類の製造装置10は、内周面に沿って穀物粒1が回転移動するように傾斜状に配置された処理筒11と、この処理筒11の内周面との間に旋回流路12を形成するように配置された回転処理体13と、この回転処理体13を構成する放出分散材14であって、処理筒11の内周面に向け穀物粒1を放出分散させるように、ディスク状基部15b、16bから放射状に伸びる突出部15a、16aを有する大径および小径放出分散板15、16が、回転処理体13の回転軸17を通して積層されている放出分散材14と、処理筒11の上端部側へ原料穀物粒1aを供給する原料供給部18と、処理筒11の下端部側から製品穀物粒1cを取出す製品取出部19と、処理筒11の谷部11aに設けられた空気流入部21と、処理筒11の稜線部11bに設けられた脱離滓排出部22とを備えている。ここでは脱離滓排出部22からの吸引により、空気流入部21から空気が流入して穀物粒1の流動層が形成されるとともに、回転処理体13の回転により旋回流路12において旋回流が形成されることにより、穀物粒1の表面に付着した付着物が脱離し、脱離滓23が脱離滓排出部22から排出されるように構成されている。
処理筒11は内周面に沿って穀物粒1が回転移動するように構成されていればよく、その形状に制限はなく、円筒または近似の形状を基本とするものが好ましいが、楕円、卵形など円筒に近い異形のものでもよい。処理筒11はその軸心に沿って回転処理体13の回転軸17が設けられ、処理筒11の内周面と回転処理体13の間に旋回流路12が形成される。処理筒11は傾斜状に配置されるが、その傾斜角度は10~45度とすることができるが、ここでは15~30度程度とされ、処理中に穀物粒が重力を利用して移動し、自由落下できる角度とされている。
処理筒11は旋回流路12における矢印R3、R4方向の旋回流または乱流により回転、移動する穀物粒1に対して抵抗となる抵抗部材24が内周部に形成されている。すなわち内周面に沿って回転移動する穀物粒1が旋回流路12を通過する際、穀物粒1に対して抵抗となる抵抗部材24が内周部に形成されているので、回転処理体13の回転により回転、移動する穀物粒1が処理筒11内周部の抵抗を受けることにより、処理筒11内周部でも穀物粒1の付着物の脱離が行われることになり、穀物粒1表層部における付着物の脱離が促進される。抵抗部材24は凹凸部を有するように形成することができる。抵抗部材24は凹凸部を有する部材としてパンチングメタルの筒状体が処理筒11の内周部に積層された構造となっており、抵抗部材24(多孔板)の小孔24aの部分に穀物粒1がはまり込んで一時的に保持される構造にすることにより、穀物粒1が小孔24aを離脱するときに穀物粒1表層部の肌ぬか9等の付着物の脱離が行われる。付着物としてデンプン粒や糊化層が形成されている場合は、これらの付着物も脱離する。多孔板の小孔の縁部または他の内周部に内向きの突起24bが設けられており、この突起24bの部分でもさらに有効に付着物の脱離が行われる。多孔板製の抵抗部材24は処理筒11の形状に合わせて内周部の一部またはほぼ全体に形成されている。
処理筒11および多孔板24は単一または複数の板状部材から円筒状に構成され、筒径を変化させる筒径調節材が設けられ、筒径調節材は外部から操作して筒径を変化させるように構成されているが、図示は省略されている。ここでは筒径調節材を操作して筒径を変化させることにより、処理筒および多孔板の内側に形成される穀物粒の流路すなわち旋回流路の大きさを調整することができ、これにより穀物粒の表面研磨率を調節することができる。処理筒11および多孔板を単一または複数の板状部材で構成する場合、接合部をスライド可能に重ねて接合することができ、これにより接合する部分を調製可能にすることができ、処理筒11および抵抗部材(多孔板)24の大きさを調整することが容易になる。この場合外部からの操作で圧縮荷重を付加して筒径を変化させるものが好ましい。複数の多孔板は、同一または異なる保持部および/または透孔を形成することができる。
処理筒11の内周面と回転処理体13との間に形成される旋回流路12は、原料供給部18側から製品取出部19側に向かって拡大するように構成されている。このためには回転処理体13が原料供給部18側から製品取出部19側に向かって縮小するように構成することもできるが、ここでは処理筒11が原料供給部18側から製品取出部19側に向かって拡大するように構成されており、容易に旋回流路12を原料供給部18側から製品取出部19側に向かって拡大できるようにされている。旋回流路12内を回転移動する穀物粒1は旋回流路12の抵抗を受けるため、旋回流路12が全長にわたって同じ断面積であると、穀物粒1の充填密度は出口側ほど高くなり、付着物の脱離効果が低くなる傾向があるが、旋回流路12が原料供給部18側から製品取出部19側に向かって拡大するように構成されているので、穀物粒1の充填密度は出口側でも低くなり、穀物粒1が自由落下するようになり、付着物の脱離効果が高くなる。
回転処理体13は、処理筒11の内周面との間に旋回流路12を形成するように処理筒11内に回転可能に配置されている。回転処理体13は、処理筒11の内周面に向け穀物粒1を放出分散させるように、ディスク状基部15bから放射状に伸びる突出部15aを有する大径放出分散板15、およびディスク状基部16bから放射状に伸びる突出部16aを有する小径放出分散板16が、回転処理体13の回転軸17を通して交互に積層されて放出分散材14が形成されている。放出分散材14は、同一もしくは異なる形状および/または大きさの放出分散板が同一もしくは異なる位相で回転軸を通して積層されて形成できるが、ここでは同一の形状で大きさの異なる大径放出分散板15および小径放出分散板16が同一の位相で回転軸を通して積層されている。これにより横断面形状が同じで単純な表面を有する放出分散材14が形成されており、いずれかの要素が異なる放出分散板が積層されている場合に比べて、穀物粒と接触する際の掃引、たたき作用が有効に発揮され、付着物の脱離効果が高くなるようにされている。
放出分散板15、16は、回転により処理筒11の内周面側に穀物粒1を放出分散させるように、ディスク状基部15b、16bから放射状に突出部15a、16aが突出するタービン翼状に構成される。突出部15a、16aは穀物粒1と直接接触して処理筒11の内周面側に押出すことにより穀物粒1を放出分散させるので、穀物粒1に過度の衝撃を与えないように、緩やかなサインカーブ状に突出する突出部15a、16aがディスク状基部15b、16bの周縁部に沿って形成されている。具体的には大径および小径放出分散板15、16は、突出部15a、16aと凹部15c、16cが外周部に均等に分散する花びら形のものが採用されているが、穀物粒1の量、回転処理体13の回転数等に応じて、穀物粒1の放出分散が可能な形状に変えてもよい。突出部15a、16aのディスク状基部15b、16bの直径に対する寸法比は、0.1~0.4とされている。回転処理体13の回転速度は2~10m/sとされており、放出分散材14の回転により穀物粒1を処理筒11の内周面側に分散させ、旋回流路12内に旋回流動層を形成させる速度となっている。
放出分散材14を構成する大径放出分散板15および小径放出分散板16は交互に、係合部25(キー25aと溝25b)により回転を防止した状態で、回転軸17を通して積層されている。このとき必要により積層されるスペーサ等の他の部材も同様に積層されていてもよい。各部材と回転軸17間、ならびに各部材と係合部25(キー25aと溝25b)間にわずかな隙間26が存在し、回転方向に揺動または摺動して衝撃を吸収するように、緩やかに取り付けられている。また軸方向に揺動または摺動できるようにするためには、回転処理体13の終端部は、ダブルナットとばね座金等で構成される末端固定具27により、軸方向にわずかな隙間が存在するように固定されている。これにより放出分散材14を構成する各部材が穀物粒1に当たるときの衝撃を緩和して、穀物粒1の過度の研磨を防止し、表面を万遍なく掃引して、付着物を脱離することができるようにされている。
原料供給部18は処理筒11の上端部側へ原料穀物粒1aを供給するように構成されている。すなわち原料供給部18は処理筒11の旋回流路の上端側に連なる搬送筒18a内にスクリューフィーダ18bが設けられており、原料穀物粒1aを原料供給路18cから旋回流路12の始端部に供給するようにされている。ここで原料供給部18は、処理筒11に連なるほぼ同じ形状、大きさの搬送筒18a内に、回転処理体13に対応する形状、大きさの回転体18dの外周面にスクリューフィーダ18bが形成された構造とされ、処理筒11内における処理に適した量の原料穀物粒1aを旋回流路12に送り込むようにされている。
原料供給部18の搬送筒18aの始端側は、支持体28に取り付けられた保持部材29により保持されている。搬送筒18aの終端側の外周部は、処理筒11の始端側の内周側に固定具30により固定されている。処理筒11の終端側は、図示しない筒径調節材によって始端側より大筒径に調整されるので、その差に相当する厚みの間隔保持部材31を介在させて、支持体28aに取り付けられた保持部材29aにより保持されている。スクリューフィーダ18bは、回転処理体13を取り付ける回転軸17に取り付けられており、回転軸17の始端側は、支持体28に取り付けられた駆動装置32にカップリング33を介して連結している。回転軸17の終端側は、保持部材29aに取り付けられたベアリング34に回転可能に取り付けられている。
空気流入部21は処理筒11の谷部11aに開口部として設けられている。この空気流入部21は、空気が通過しかつ穀物粒1が通過しないように処理筒11の谷部11aに沿って長手方向に形成された開口部を有するように構成されている。抵抗部材24としての多孔板を残した状態で処理筒11に開口部を形成することにより、空気が通過しかつ穀物粒1が通過しない開口部を有する空気流入部21が形成されている。これにより多孔板からなる抵抗部材24は空気流入部21に対応する部分がそのまま残っていて空気流入部21を横切るスクリーンを形成している。そしてこれにより狭隘な空気流入部21が形成され、この空気流入部21から抵抗部材24の小孔24aを通して空気が流入することにより、旋回流路12の粒状物1を噴流により浮上させて流動床が形成され、回転処理体13の回転により旋回流路12に旋回流動床が形成されるようにされている。空気流入部21における抵抗部材24の小孔24aは、空気を通過させ、穀物粒1を通過させない大きさに形成されている。
脱離滓排出部22は処理筒11の稜線部11bに設けられている。この脱離滓排出部22は、空気および脱離滓23が通過しかつ穀物粒1が通過しないように処理筒11の稜線部11bに沿って長手方向に形成された開口部22a、この開口部22aを覆う脱離滓捕集部22b、およびこの脱離滓捕集部22bから脱離滓23および空気を排出する2本の脱離滓排出路22c、22dを有するように構成されている。抵抗部材24としての多孔板を残した状態で処理筒11に開口部22aを形成することにより、脱離滓23および空気が通過しかつ穀物粒1が通過しない開口部22aが形成されている。これにより多孔板からなる抵抗部材24は開口部22aに対応する部分がそのまま残っていて開口部22aを横切るスクリーンを形成している。脱離滓排出路22c、22dは外部のバグフィルタ等の吸引部(図示せず)に連結しており、この脱離滓排出路22c、22dから抵抗部材24の小孔24aを通して吸引することにより、処理筒11内の粒状物1を浮遊させて流動層を形成させるとともに、脱離した脱離滓23が処理筒11外へ排出されるように構成されている。脱離滓排出部22における抵抗部材24の小孔24aは、空気および脱離滓23を通過させ、穀物粒1を通過させない大きさに形成されている。
製品取出部19は処理筒11終端部の旋回流路12から処理済穀物粒1bを取出すように構成される。ここで製品取出部19は、処理筒11の終端部から取出される処理済穀物粒1bを選別する選別部35を備えており、処理済穀物粒1bを選別し製品穀物粒1cとして取出すようにされている。選別部35としては異物、不良品などを選別して除去できるものが用いられる。製造装置10の構成材料に鋼材等の磁性材料を用いる場合は、その破片を異物として磁選機により除去することができるようにされている。このほか可視光等の電磁波による選別、篩別、風選などが採用できる。脱離滓排出部22から排出できない粗大な脱離滓23を除去するためには、篩別装置が選別部35として設けられる。
上記の無洗穀類の製造装置10では、処理筒11とその内部に配置された回転処理体13との間に形成される旋回流路12の上端部側へ原料供給部18から原料穀物粒1aを供給し、処理筒11の稜線部11bに設けられた脱離滓排出部22から吸引することにより、処理筒11の谷部11aに設けられた空気流入部21から空気が流入し、穀物粒1が浮上して流動層が形成される。この状態で回転処理体13を回転させることにより、旋回流路12において旋回流動層が形成され、放出分散材14により穀物粒1が処理筒11の内周面側に放出分散させられ、処理筒11の内周面から穀物粒1が跳ね返り、これらが繰り返される。
詳細には、駆動装置32を駆動して原料供給部18から原料供給路18cを通して原料穀物粒1aを供給し、スクリューフィーダ18bにより処理筒11始端部の旋回流路12へ原料穀物粒1aを供給する。これと同時に脱離滓排出部22に連結しているバグフィルタ等の吸引部により吸引することにより、空気流入部21から抵抗部材24を通して旋回流路12に空気が矢印R1方向に流入し、原料穀物粒1aが浮上して流動層が形成される。この状態で回転処理体13が矢印R2方向に回転することにより、旋回流路12において矢印R3方向の旋回流動層が形成されて、回転処理体13および処理筒11の内周面の掃引またはたたき作用により穀物粒1の表面に付着した肌ぬか9やデンプン粒の糊化層他の異物などの付着物が脱離する。このとき旋回流路12において処理筒11の内周面および回転処理体13と接触する穀物粒1は浮上して流動層が形成された状態であるため、従来法における圧送下の接触の場合とは異なり、接触による衝撃は小さく、有用物が熱変性、変質あるいは実質的に除去されることなく、表層部に付着する肌ぬかが脱離する。特に放出分散材14を構成する各部材が、回転方向および/または軸方向に揺動または摺動できるように回転処理体13の回転軸17に緩やかに取り付けられているので、接触による衝撃はさらに小さくなり、さらに温和な条件で処理することができる。
上記の処理は主に放出分散材14と穀物粒1の接触により行われるが、処理筒11の内周部でも付随的に行われ、旋回流および乱流により移動する穀物粒1に対して抵抗となる抵抗部材24、特に多孔板などの凹凸部を有する抵抗部材24が内周部に形成されているので、抵抗部材24と穀物粒1の接触によっても脱離が行われ、脱離効果がさらに高くなる。抵抗部材24が多孔板からなる場合は、穀物粒1が多孔板の小孔24aに嵌まり込み、また脱離するときに肌ぬか9やデンプン粒の糊化層等の付着物の脱離が進行する。
回転処理体13は大径放出分散板15と小径放出分散板16が、それぞれの突出部15aおよび凹部15cと突出部16aおよび凹部16cが同一の位相で回転軸17に積層されているので、凹部15c、16cの連なりにより形成される溝に穀物粒1が捕捉され、この捕捉された穀物粒1が突出部15a、16aの連なりにより形成される稜線部により放出されることになり、放出分散性は高く、肌ぬか9やデンプン粒の糊化層他の付着物は効率よく脱離する。穀物粒1から脱離した肌ぬか9やデンプン粒の糊化層等の付着物は脱離滓23として直ちに脱離滓排出部22から空気とともに排出され、穀物粒1への再付着が防止される。脱離滓排出部22では、処理筒11の稜線部11bから抵抗部材24の小孔24aを通して吸引することにより、穀物粒1を浮遊させるとともに、脱離した脱離滓23が開口部22aにおける抵抗部材24の小孔24aを通して矢印R5方向に流れ、脱離滓捕集部22bに捕集されて、脱離滓排出路22c、22dから矢印R6方向に処理筒11外へ排出され、バグフィルタ等により捕集される。脱離滓排出部22は本来このような脱離滓23を排出するために設けられるが、穀物粒1を浮上させて流動層を形成して脱離の衝撃を緩和するとともに、処理による穀物粒1の発熱を防止するという効果も得られ、有用物の熱変性、変質あるいは実質的な除去を妨げるとともに、発芽性なども維持される。これにより脱離滓23の穀物粒1への再付着を防止するほか、発熱、蓄熱などによる異臭の発生も防止することができる。
旋回流路12に対する穀物粒1の処理量が多い場合は、旋回流路12内の穀物粒1の充填密度が高くなり、脱離滓23の排出が十分に行われなくなる。無洗穀類化の処理効果を高くするためには、旋回流路12に対する穀物粒1の処理量を適切に調整することが重要であるが、ここでは旋回流路12が原料供給部18側から製品取出部19側に向かって拡大するように構成されているので、穀物粒1の充填密度は出口側でも低くなり、また回転による旋回流の形成が弱まるので、穀物粒1が自由落下するようになり、肌ぬか9やデンプン粒の糊化層他の異物等の付着物の脱離効果が高くなる。旋回流路12を原料供給部18側から製品取出部19側に向かって拡大させるために、回転処理体13が原料供給部18側から製品取出部19側に向かって縮小するように構成すると、異なる大きさの放出分散板15、16を準備する必要があるが、ここでは処理筒11を原料供給部18側から製品取出部19側に向かって拡大するように構成しているので、処理筒11の形状を変えるように加工することにより、容易に旋回流路12を原料供給部18側から製品取出部19側に向かって拡大するようにできる。
上記の処理においては、処理筒11の内周面および回転処理体13と接触する穀物粒1は、旋回流路12における旋回流中で浮上して流動層が形成された状態であるため、従来法における圧送下の接触の場合とは異なり、接触による衝撃は小さく、有用物を熱変性、変質あるいは実質的に除去することなく表面に付着した付着物が脱離し、穀物粒1自体が削り取られる処理損失は少ない。特に放出分散材14を構成する各部材が、回転方向および/または軸方向に揺動または摺動できるように回転処理体13の回転軸17に緩やかに取り付けられているので、接触による衝撃はさらに小さくなり、さらに効率よく無洗穀類化を行うことができる。このように穀物粒1が旋回流中で浮上して流動層が形成された状態で、回転処理体の放出分散材を構成する放出分散板の突出部が回転するので、穀物粒1の損傷が少ない状態で、突出部15a、16aの掃引、たたき作用により付着物が効率よく脱離する。
処理筒11の谷部11aに設けられる空気流入部21は、空気が通過しかつ穀物粒1が通過しないように処理筒11の谷部11aに沿って長手方向に形成された開口部として構成されているが、この開口部からなる空気流入部21は連続した直線状に開口するものでも、点線状に開口するものでもよい。これらの場合の開口部からなる空気流入部21は旋回流路12にほぼ対応する長さ、すなわち放出分散材14にほぼ対応する長さの領域に構成されているので、放出分散材14により旋回流が形成される全領域において空気が流入して、穀物粒1が浮上して流動層が形成され、旋回流が形成される全領域で付着物の速やかな脱離が行われるので、付着物の脱離効率は高くなる。
処理筒11の稜線部11bに設けられる脱離滓排出部22は、空気および脱離滓23が通過しかつ穀物粒1が通過しないように処理筒11の稜線部11bに沿って長手方向に形成された開口部22a、この開口部22aを覆う脱離滓捕集部22b、およびこの脱離滓捕集部22bから脱離滓23および空気を排出する脱離滓排出路22cを有するように構成されているが、この場合の開口部22aおよび脱離滓捕集部22bは旋回流路12にほぼ対応する長さ、すなわち放出分散材14にほぼ対応する長さの領域に構成されているので、放出分散材14により旋回流が形成される全領域において脱離滓23が空気とともに排出される。これにより旋回流が形成される全領域で付着物が脱離するので、付着物は脱離と同時に排出されることになり、再付着は防止され、無洗穀類化が効率よく行われる。脱離滓排出路22c、22dは脱離滓捕集部22bの2つの部位から脱離滓および空気を排出するように構成されているが、脱離滓捕集部22の均等な位置に分散したさらに多くの数の部位から脱離滓および空気を排出するように構成されると、付着物の脱離と排出の間の時間差が小さくなり、脱離滓23の再付着がなくなる。
処理筒11の内周部に形成される抵抗部材24として用いる多孔板は、空気および脱離滓23が通過しかつ穀物粒1が通過しない小孔24aを有する多孔板が採用されており、これにより抵抗部材24の多孔板を残した状態で処理筒11に開口部からなる空気流入部21を形成することにより、空気が通過しかつ穀物粒1が通過しない開口部を容易に形成することができる。従って処理筒11の内周部の全域に多孔板で形成される抵抗部材24を形成することにより、処理筒11の谷部11aに空気が通過しかつ穀物粒1が通過しない開口部からなる空気流入部21を形成することができる。また稜線部11bに脱離滓排出部22の開口部22aを形成するだけで、空気および脱離滓23が通過しかつ穀物粒1が通過しない開口部22aを形成することができる。
旋回流路12を通過し無洗穀類処理を終わった穀物粒1は、処理筒11の下端部側に設けられた製品取出部19から製品穀物粒1cが取出される。このとき製品取出部19では処理筒11の終端部から取出される処理済穀物粒1bを選別部35において選別し、異物や不良品を除去して、製品穀物粒1cとして取出す。製造装置10の構成材料、特に処理筒11および回転処理体13の構成材料として鋼材等の磁性材料を用いる場合は、その摩耗片等が製品穀物粒1cに混入しても選別部35において磁選により除去される。小石、プラスチック等の他の異物は、可視光その他の電磁波、重力等により除去される。脱離滓排出部22から排出されない破砕物なども選別部35において除去され、製品穀物粒1cが選別される。このように選別部35において、処理筒11の終端部から取出される製品穀物粒1cの選別が行われ、残留する異物や不良品が除去されて、製品無洗穀類が得られる。
上記の無洗穀類化工程の搗精率は任意に選択できるが、原料穀物粒に対し搗精率0.01%(搗精歩合99.99%)ないし搗精率0.5%(搗精歩合99.5%)とすることができる。こうして得られる製品無洗穀類は、原料穀物粒に対する搗精率0.01%(搗精歩合99.99%)ないし搗精率0.5%(搗精歩合99.5%)以下であり、全国無洗米協会および米穀公正取引推進協議会方式(旧食糧庁方式)による供試量3gの試験洗浄法における濁度が20ppm以下の無洗穀類である。
この製品無洗穀類は、原料穀類に付着している肌ぬかやデンプン粒、糊化層等の付着物が除去され、原料穀類の有用物が熱変性、変質あるいは実質的に除去されることなく、穀物粒自体が削り取られる処理損失も少なく、調理の際の洗浄が省略可能で、優れた品質を有する無洗穀類である。無洗米の場合、洗米による排水中の濁度は日本無洗米協会の濁度基準の28ppm以下となり、無洗米として利用できる。従来法で製造される無洗米等の無洗穀類の製品ロスは一般に2%程度とされているが、ここでは穀物粒1が旋回流中で浮上して流動層が形成された状態で、回転処理体13の掃引、たたき作用により付着物が脱離され、穀物粒1は重力により自然落下する状態で移動するので、製品ロスは少なく、原料穀物粒に対する搗精率に相当する0.01~0.5%程度の低い値にすることもできる。
上記の製品無洗穀類の製造では、原料の穀類粒を密に充填した状態で機械的に移動させたり、水や他の粒状物と接触させたり、加熱したりすることがないので、摩擦による原料穀類の損失が少なく、水や他の物質による変質や、摩擦熱による酸化や糊化のおそれがなく、また複雑な構造の装置と操作が必要でなく、加水、脱水、加熱、冷却等の操作が必要でない。このため上記の無洗穀類の製造装置および製造方法によれば、加水、脱水、加熱、冷却等の操作が必要でなく、簡単な構造の装置と簡単な操作により、有用物の変質や減損がなく、原料穀類に付着している肌ぬかや他の異物が除去され、調理の際の洗浄が省略可能で、かつ優れた品質を有する無洗穀類を効率よく製造することができる。
本発明の無洗穀類化処理では、原料穀類粒に付着した肌ぬか等の異物を、熱付着材の添加、あるいは肌ぬかの粘性による付着性を利用した造粒物の肥厚効果などを利用せずに、掃引、たたき作用により常温で浮遊させて速やかに装置外に排出し、洗米工程における濁度の低い製品穀類粒(無洗米)を生産するようにしている。炊飯工程の洗米により生じる米のとぎ汁の濁度の低減は、下水道処理における環境への負担軽減という理由で推進されており、数種類の製法が実用化されている。精白米の濁度については、日本精米工業会の供試量5g/400mL水道水における濁度基準値40ppm(供試量を3g/400mLとすると単純換算で24ppm)、および全国無洗米協会の供試量3g/400mLにおける濁度基準値28ppmがある。精白米の洗米時に生じる一般的な濁度40ppmと、全国無洗米協会の28ppmの濁度基準の差12ppmは、JIS K0101におけるmg/Lに換算すると12mgの差となる。振盪に供した水は400mLであることより、400mL中の濁度換算値は4.8mgとなり、洗米で除去する肌ぬか類は3gの精白米の0.16%となる。しかし精白米から無洗米を製造する一般的な工程による製品の重量減少は2%前後とされており、濁度の低減には関与しない成分除去が行われている可能性がある。本発明の無洗穀類化処理では、無洗穀類化処理工程で生じる原料粒状物の重量減少を一般的な無洗米製造工程の50%以下に低減することができる。
また精白米を原料粒状物として用いたこしひかり精白米を含むうるち白米の成分組成は、日本食品データベース(7訂 文部科学省偏)によると、炭水化物(77.6%)、たんぱく質(6.1%)、脂質(0.9%)で構成され、水分含量は14.9%である。一般的な圧力精米では、精白米の製造工程で摩擦熱が発生し、穀温は20~30℃上昇するとされており、精白米の無洗米工程で更なる加熱などの温度上昇は、精白米に含まれる脂質の酸化に悪影響を及ぼす可能性がある。
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔試験例1〕
穀類の貯蔵中の酸化臭発生の一因と考えられる脂質の穀粒内の分布について2次元赤外分光分析で脂質が有する官能基(Functional group)のカルボニルの吸収スペクトル(1720cm-1)を利用して局在性の解析を行った。分析に供した玄米(コシヒカリ)および小麦(春よ恋)の鏡面切片試料は、ダイアモンドディスクの高速回転(35,000rpm)とダイアモンド砥粒が発生する気流冷却効果により熱変性を防止して調製した。脂質の局在性の分析は、図8(a)、(c)の胚乳6から胚盤8、胚芽7に至る切断面F、Gを頭頂部(胚芽)の真上からみた平面について行った。2次元赤外分光分析画像の分析スポットは、1ピクセル当たり6.25×6.25μmの顕微測光で分析し、主成分分析とKramers-Kronig変換によりイメージング画像を取得した。結果を図8に示す。
図8(a)は穀物粒(玄米)1の正面図、(b)は試験例1において切断面Fの胚乳から胚盤、胚芽に至る横軸を頭頂部の真上からみた波長(1720cm-1)における2次元赤外分光分析画像、(c)は穀物粒(小麦)1の側面図、(d)は試験例1において切断面Gの胚乳中心部の切断面Gを頭頂部の真上からみた波長(1720cm-1)における2次元赤外分光分析画像である。図中、白色で示す脂質の吸収(1720cm-1)に由来するピクセルは胚芽全体、糊粉層を含む表層部に認められるが、胚盤近傍では非常に強いピークが認められる。デンプンを主体とする胚乳には脂質のスペクトルは殆ど認められなかった。精白米には0.9%程度の脂質が含まれている(7訂正日本食品成分分析表)。後述の試験例2における表1より搗精歩合90%程度の精白米は95%程度の胚芽が除去されており、果皮や糊粉層も米ぬかとしてほとんど除去されている。したがって、精白米の脂質画分のかなりの部分は、窪んだ形状で一般の精米機の圧力精米で除去されにくい胚盤組織に由来するものと考えられる。
このことから胚芽組織、表層部、糊粉層などで形成される肌ぬかには脂質が含まれており、付着性の一因となると考えられる。また精白米では、胚芽の95%程度は除去されているため、0.9%の残存脂質は胚芽の基底部にある胚盤に由来するものと考えられる。摩擦熱や加熱工程を伴う精白米の製造工程では、胚盤の脂質がさらなる酸化をうける可能性があり、発熱を伴わない無洗穀類化技術が有用であることが分かる。
〔試験例2〕
図1ないし図6の装置を用いて原料玄米(富山産コシヒカリ)の無洗穀類化処理試験を行った。本実施例では、処理は乾式条件下で行われ、生じた脱離滓23は処理筒11外部に吸引除去され、穀類粒表面への付着残存が防止されている。そこで富山産コシヒカリ(うるち米)の玄米、およびこれを精米した精製白米を供試して製造した各種無洗穀類化処理米を洗米して濁度を測定し、脱離滓の付着残存について検討した。試験洗米法は、全国無洗米協会および米穀公正取引推進協議会方式(旧食糧庁方式)に従い、濁度測定はディジタル濁度計(野田通信株式会社 M204)で日本工業規格K0101(工業用水試験方法)に準拠して行った。この濁度計では、濁度は「ppm」で表示されるが、これはJIS K0101における「mg/L」または「度」に相当する。
胚芽残存率は、100粒の検体を目視にて分析し、胚芽が残存している粒の割合を質量%で表した((胚芽残存粒量/供試米重)×100(%))。胚芽残存粒は、胚芽がほとんど残っている検体を1.0、わずかに残っている検体を0.5として換算した(準拠:お米の品質評価テキスト 一般社団法人日本精米工業会編)。
また、外観形質を評価するために白度計を用いて分光反射率を測定した。分光反射率計の測定は、青色光(440nm)による反射率測定(45度)、白色および黒色標準板による等分割計測で行った(JISZ8722準拠、ケット科学研究所白度計C-300)。上記の試験の結果を表1に示す。表1における搗精率および搗精歩合は、それぞれの欄に示された原料穀物粒に対する搗精率および搗精歩合を示す。
表1:各種の付着物脱離穀物粒、搗精率、搗精歩合、濁度、胚芽残存率および白度
表1の分析結果において、搗精率0.03%(搗精歩合99.97%)の付着物脱離穀物粒(白米)の濁度測定の結果は、14.3ppmであった。全国無洗米協会の無洗米の濁度基準値は28ppmであるが、付着物脱離穀物粒(白米)の濁度は、洗米が不要とされる無洗米の濁度28ppmの約1/2の低い値であった。一方、市販の白米は、一般的に数回の研米が行われるが、供試した原料白米の濁度は37.5ppmであり、付着物脱離穀物粒(白米)の濁度は約38%低下していた。付着物脱離穀物粒(白米)の白度は51.7%の高い数値を示し、原料玄米の白度45.3%より14%上昇した。これは、原料玄米に付着した粒状の肌ぬかの一部が除去されて滑面化し、拡散反射の低下に起因すると考えられる。
米飯製造などを行う施設では、工場排水に起因する水質汚濁防止の観点から生物化学的酸素要求量(BOD)および化学的酸素要求量(COD)に対する規制があるが、上記実施例で得られた付着物脱離穀物粒は白米および玄米ともに肌ぬかや加工滓などの残存が少ないため、排水基準が適用される米飯工場などにおいて業務用無洗米として利用できる製品であった。