JP6998818B2 - オレフィン系複合繊維およびオレフィン系複合繊維の製造方法 - Google Patents

オレフィン系複合繊維およびオレフィン系複合繊維の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、ポリメチルペンテン系樹脂と熱可塑性樹脂を用いた耐摩擦性に優れるオレフィン系複合繊維に関する。
ポリオレフィン繊維は軽量性や撥水性等に優れているため、産業用途に幅広く用いられている。その中でも近年ポリメチルペンテン繊維が注目を浴びているが、ポリプロピレン繊維と同様に染料により染色されにくいため、衣料用途に適用することは困難であった。
染色性を改善するために、特許文献1では、芯成分が分散染料および/またはカチオン染料で染色することが可能なポリエステル樹脂や酸性染料で染色することが可能なポリアミド樹脂であり、鞘成分がポリメチルペンテン樹脂である芯鞘型複合繊維が提案されている。このような構成とすることで高発色性、高光沢性、かつ耐光性、洗濯耐久性に優れた繊維が得られることが記載されている。
また、特許文献2では、海成分がポリメチルペンテン系樹脂であり、島成分が熱可塑性樹脂である海島構造とし、繊維横段面における島成分の分散径の変動係数CVが1~50%である複合繊維や多孔質繊維が提案されている。このような構成とすることで軽量性と発色性に優れた繊維が得られることが記載されている。
一方、ポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂やポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂とからなる繊維は、相溶性が低いため、樹脂の接合面で剥離し易く、製糸安定性や染色性の悪化が生じ、取り扱いが難しいという問題があった。
そこで、特許文献3では、鞘成分がポリメチルペンテン系樹脂、芯成分がポリエステル樹脂からなる芯鞘型複合繊維であって、芯部は鞘部との接合面に10個以上の突起構造を有した芯鞘型複合繊維にすることで鞘部と芯部の剥離が抑制できると記載されている。
特開平09-87927号公報 国際公開番号WO2013/141033 特開2016-194169号公報
しかしながら、特許文献1~2記載の繊維は、染色が可能で発色性に優れたオレフィン系複合繊維が得られると記載されているものの、耐摩擦性については記載されておらず、実際に衣料素材として用いると、摩擦による繊維の変形等から白化が生じ易く、耐摩擦性に劣ったものとなる。
また、特許文献3記載の繊維は、発色性かつ耐剥離性に優れたオレフィン系複合繊維が得られると記載されているものの、近年、より改善された耐摩擦性が求められている。
したがって、本発明は、オレフィン樹脂と可染性の熱可塑性樹脂とからなる複合繊維において、より耐摩擦性が良好なオレフィン系複合繊維を得ることを目的としたものである。
本発明者は、ポリメチルペンテン系樹脂が摩擦した時に形状変化が容易に生じ易いことを発見し、これを解決するために、架橋したポリメチルペンテン系樹脂を用い、生地を摩擦した時に白化が生じ難く、耐摩擦性が改善されること見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は、架橋したポリメチルペンテン系樹脂とポリメチルペンテン系樹脂以外の熱可塑性樹脂からなる複合繊維であって、以下の要件(1)~(2)を満たすオレフィン系複合繊維をその要旨とする。
(1)繊維外周は架橋したポリメチルペンテン系樹脂で覆われている
(2)前記ポリメチルペンテン系樹脂以外の熱可塑性樹脂は分散染料で染色可能
上記の中でも、分散染料で染色可能な熱可塑性樹脂はポリエステル樹脂であることが好ましい。
また、本発明のオレフィン系複合繊維は、撥水試験で湿潤しないものであることが好ましい。
また、本発明は、ポリメチルペンテン系樹脂とポリメチルペンテン系樹脂以外の熱可塑性樹脂からなる複合繊維を電子線照射によってポリメチルペンテン系樹脂を改質することを特徴とするオレフィン系複合繊維の製造方法でもある。なかでも、吸収線量が10kGy以上、150kGy以下であるように電子線を照射することが好ましい。
本発明によれば、摩擦による繊維の変形を抑制することができ、生地の白化現象が生じ難い、耐摩擦性に優れたオレフィン系複合繊維を得ることができる。また、適切な条件で電子線照射して改質することにより、オレフィン繊維の特徴である撥水性も損なうことなく、優れた効果を奏する。
図1は、本発明のオレフィン系複合繊維の横断面形状の例を示す。 図2は、本発明のオレフィン系複合繊維の横断面形状の例を示す。 図3は、本発明の範囲外の横断面形状の例を示す。
本発明のオレフィン系複合繊維は、架橋したポリメチルペンテン系樹脂(以下、改質PMP樹脂ということがある)とポリメチルペンテン系樹脂以外の熱可塑性樹脂からなる複合繊維である。
本発明のオレフィン系複合繊維は、繊維外周が改質PMP樹脂で覆われている。改質PMP樹脂とは、例えば、電子線照射によって改質したポリメチルペンテン系樹脂が挙げられる。
本発明における電子線照射は「EB照射」ともいう。ポリメチルペンテン系樹脂に電子線が当たると分子同士の結合が切れて、ラジカルが発生する。発生したラジカル同士が結合し、ポリメチルペンテン系樹脂が架橋され、耐熱性や耐摩擦性が向上する。
本発明において、ポリメチルペンテン系樹脂とは、ポリメチルペンテンが主成分である樹脂をいう。このポリメチルペンテンは、例えば、繰り返し単位が4-メチルペンテン-1であるものが挙げられる。この成分単体を繰り返し単位として用いた単独重合体であっても、他の成分を繰り返し単位として含む共重合体であってもよい。共重合体としては、4-メチルペンテン-1に、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、デセン-1、テトラデセン-1、オクタデセン-1等を1種以上共重合したものが挙げられる。
本発明において、樹脂の融点とは、示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下、10℃/minで300℃まで昇温した時の吸熱ピークのピークトップが示す値のことをいう。
上記ポリメチルペンテン系樹脂の融点は200℃以上、240℃以下が好ましい。融点が200℃より低いと、十分な耐熱性が得られない傾向がある。融点が240℃より高いと、溶融紡糸において、熱可塑性樹脂との複合が困難となる傾向があり、オレフィン系複合繊維を得難い傾向がある。すなわち、上記の範囲であると、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂からなる繊維を混用して繊維構造物とした際、通常実施する、プレセットやファイナルセット等の後加工における乾熱処理(例えば、120~190℃の乾熱処理)や染色処理(例えば、100~135℃の湿熱処理)を行うのに、十分良好な耐熱性を備えるものを得られ易い。より好ましいポリメチルペンテン系樹脂の融点は、210℃以上、235℃以下である。
上記ポリメチルペンテン系樹脂の260℃、ノズル径2.095mm、荷重5.0kgにおけるメルトフレート(MFR)は、80g/10min以上、300g/10min以下が好ましい。すなわち、MFRが80g/10min以上であれば、紡糸時の流動性が高く、紡糸工程や延撚工程での製糸安定性が良好となる。また繊維の機械的強度を良好に保つ点からは、MFRが300g/10min以下であることが好ましい。なかでも、MFRは100g/10min以上が好ましく、250g/10min以下が好ましい。より好ましくは100g/10min以上、200g/10min以下である。
上記ポリメチルペンテン系樹脂は、耐熱性を損なわない範囲内において、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のオレフィン樹脂やポリスチレン樹脂等のポリメチルペンテン以外の樹脂をブレンドしても良い。具体例として、ポリプロピレン樹脂をブレンドする場合、40質量%以下とすることが好ましい。40質量%を超えてブレンドすると、通常ポリエステルやポリアミドの後処理で行われる185℃程度の乾熱処理を行った際に、糸が融着し易く、布帛の風合いが硬くなる傾向がある。より好ましいブレンド比率は、30質量%以下であり、さらに好ましくは25質量%以下である。
上記ポリメチルペンテン系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲内で、添加物を添加されたものであっても良い。添加物としては、相溶化剤、熱安定化剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、架橋助剤等が挙げられる。また、添加物は単独で用いても良いし併用しても良い。
本発明におけるポリメチルペンテン系樹脂以外の熱可塑性樹脂は分散染料で染色可能な熱可塑性樹脂である。
上記分散染料で染色可能な熱可塑性樹脂の融点は180℃以上、280℃以下が好ましい。
本発明のオレフィン系複合繊維において、分散染料で染色可能な熱可塑性樹脂の具体例として、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂が挙げられる。これらの中でも、耐熱性や機械的特性の観点からポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂が好ましく、さらに濃染化の観点から、ポリエステル樹脂がより好ましい。
上記分散染料で染色可能な熱可塑性樹脂は、改質PMP樹脂に覆われており、通常のプレセットやファイナルセット等の後加工における乾熱処理でも問題のない良好な耐熱性を備えている。分散染料で染色可能な熱可塑性樹脂の融点が低過ぎると、乾熱処理により、融解が生じ易くなる傾向がある。また高過ぎると、ポリメチルペンテン系樹脂との複合紡糸が難しくなる傾向がある。より好ましい融点は、210℃以上、270℃以下であり、さらに好ましくは220℃以上、265℃以下である。
上記分散染料で染色可能な熱可塑性樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲内で、添加物を添加されたものであっても良い。添加物としては相溶化剤、熱安定化剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、赤外線反射剤、赤外線吸収剤等が挙げられる。また、添加物は単独で用いても良いし併用しても良い。
上記ポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸類またはそのエステル形成誘導体とジオールまたはそのエステル形成誘導体を原料として重縮合反応によって製造される線状飽和ポリエステルであればよく、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETということがある)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特に、ポリエチレンテレフタレートを主体とするものが好ましく、またホモポリエステルであってもコポリエステルであってもよい。共重合成分としては、例えば、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、p-オキシエトキシ安息香酸などのジカルボン酸類、または/および1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコールなどの脂肪族ジオールを含んでいるものが挙げられる。コポリエステルの場合は、これらの共重合成分を少なくとも1種以上用いることができる。
上記ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド10、ポリアミド12、ポリアミド66などの単独の重合体または共重合体が挙げられ、これらに限定されるものではない。
本発明のオレフィン系複合繊維の断面形状について、以下説明する。
本発明のオレフィン系複合繊維は、分散染料で染色可能な熱可塑性樹脂を改質PMP樹脂が覆っており、繊維外周に改質PMP樹脂が露出していることが好ましい。すなわち、繊維横断面(繊維長さ方向に垂直な繊維断面)においては、外周に改質PMP樹脂が露出しており、外周は全表面に改質PMP樹脂が露出していることが好ましい。
図1は、本発明のオレフィン系複合繊維の繊維横断面の断面形状の一例を示す図である。この例では、丸断面の繊維の鞘部aと芯部bが同心に配置されている。また、鞘部と芯部の接合面に突起構造を芯部中心から放射状に形成しており、芯部は繊維外周に露出していない。この場合、鞘部aは改質PMP樹脂、芯部bは分散染料で染色可能な熱可塑性樹脂で構成されている。
図2は、本発明のオレフィン系複合繊維の繊維横断面の断面形状の一例を示す図である。この例では、丸断面の繊維の海部cと島部dが配置されている。また、島部は繊維外周に露出していない。この場合、海部cは改質PMP樹脂、島部dは分散染料で染色可能な熱可塑性樹脂で構成されている。
芯部bと島部dが繊維外周に露出した場合、延伸工程、製織編工程、染色工程において、剥離が生じ易くなる。このため、製糸安定性の悪化、染色斑の発生、染色後の白化現象が生じ易い傾向があるため、芯部bと島部dは繊維外周に露出させないことが好ましい。
本発明のオレフィン系複合繊維の繊維横断面において、繊維横断面全体に対する改質PMP樹脂の面積比率は、20%を超えることが好ましい。すなわち、繊維横断面において、改質PMP樹脂の面積比率が20%以下であると、分散染料で染色可能な熱可塑性樹脂が繊維外周に露出し易くなる。また、改質PMP樹脂の面積比率が大きいと染色後に淡色となる傾向があるため、好ましくは面積比率が20%より大きく50%以下であり、より好ましくは、20%より大きく40%以下であり、さらに好ましくは20%より大きく35%以下である。
本発明のオレフィン系複合繊維の繊維横断面において、繊維横断面全体に対する分散染料で染色可能な熱可塑性樹脂の面積比率は80%以下が好ましく、染色性とのバランスを考慮して、適宜設定するとよい。
本発明のオレフィン系複合繊維において、総繊度は、製糸安定性の点から、40dtex以上、200dtex以下が好ましい。より好ましくは40dtex以上、150dtex以下、さらに好ましくは40dtex以上、100dtex以下である。
また、本発明のオレフィン系複合繊維において、布帛にした時の風合いの点から、単糸繊度は5dtex以下が好ましい。5dtexを超えると布帛にした時に風合いが硬いものとなり易い。より好ましくは4dtex以下、さらに好ましくは3dtex以下である。
また、本発明のオレフィン系複合繊維の強度は、2.5cN/dtex以上が好ましく、より好ましくは、3cN/dtex以上である。また伸度は、25%以上が好ましく、より好ましくは30%以上である。
本発明のオレフィン系複合繊維の撥水性について説明する。本発明に用いるポリメチルペンテン系樹脂は表面張力が、例えば、24mN/m程度と非常に小さいため、ポリオレフィン樹脂のなかでも撥水性に優れている。本発明のオレフィン系複合繊維において、分散染料で染色可能な熱可塑性樹脂が繊維外周に露出していると撥水性が阻害されるため好ましくない。また、このような本発明のオレフィン系複合繊維は、適切な条件で架橋した改質PMP樹脂とすることで、撥水性が阻害されず、オレフィン系樹脂の優れた特徴を享受できるものとなる。
本発明において、耐熱性について説明する。本発明のオレフィン系複合繊維は、185℃の乾熱処理で溶融・融着が発生しないものであることが好ましい。通常、製織、製編された生地は、プレセットやファイナルセット等の乾熱処理を行う必要がある。ポリエステル繊維やポリアミド繊維を用いた生地の場合、通常120℃~190℃で熱処理が行われる。その際に耐熱性が低い繊維を併用すると、乾熱処理時に繊維の融着・溶断が発生し、風合いの硬い生地や穴が開いた生地となってしまい、衣料用途や産業資材用途等に用いることができなくなる。この点から、185℃の乾熱処理で溶融・融着が発生しないものであることが好ましい。
本発明のオレフィン系複合繊維を用いて、種々の繊維構造物を得ることができる。繊維構造物としては、例えば、撚糸、組紐などの糸束、仮撚糸やタスラン加工糸などの加工糸、紡績糸、各種混繊糸、織編物や不織布等の布帛、詰め綿等の形態をとることができる。
特に好ましくは、ポリエステル繊維やポリアミド繊維等の熱可塑性樹脂からなる繊維と混繊や交織や交編した織編物・不織布等の布帛とした繊維構造物であれば、染色性、耐熱性、軽量性、撥水性などの特徴を、適宜、活用して用いることができる点で好ましい。
本発明におけるEB照射について、以下説明する。
上記のように、EB照射によって分子同士の結合が切れ、発生したラジカル同士が結合した場合、耐熱性や耐摩擦性が向上し、ポリメチルペンテン系樹脂が改質される。
しかしながら、EB照射によって発生したラジカルは、酸素と結合しやすく、オキシラジカル等を生成する。オキシラジカルはポリメチルペンテンを分解させる作用があるため、酸素存在下でEB照射を行うとポリメチルペンテンが劣化し易くなる。
EB照射雰囲気は、空気中でも脱酸素雰囲気下でもよいが、劣化を防止する観点から脱酸素雰囲気下が好ましい。より好ましくは窒素雰囲気下である。
次に、本発明のオレフィン系複合繊維を製造する方法の好適な例について説明する。
まず、上記ポリメチルペンテン系樹脂および上記のポリメチルペンテン系樹脂以外の熱可塑性樹脂を準備する。
準備した各樹脂を別々に溶融して、上記のような断面形状となるように、紡糸口金より吐出し、冷却した後、延伸して、オレフィン系複合繊維を得ることができる。
紡糸温度は、ポリメチルペンテン系樹脂と上記熱可塑性樹脂の耐熱性や紡糸性の点から220℃以上、300℃以下が好ましく、250℃以上、290℃以下がより好ましい。紡糸速度は800m/min以上、4500m/min以下が好ましく、1000m/min以上、3800m/min以下がより好ましい。
本発明のオレフィン系複合繊維は、各樹脂が繊維の長さ方向に連続した状態で互いに接合していることが好ましい。この場合、延伸工程、製織編工程及び染色工程等で接合面での剥離が生じ難く、製糸安定性の悪化、白化現象を抑制し易い。一方、繊維の長さ方向において、接合面が途切れると、製糸安定性の悪化、染色後の白化現象を抑制することは困難となる傾向があるため好ましくない。
延伸温度は、製糸安定性の点から90℃以上、120℃以下が好ましく、95℃以上、110℃以下がより好ましい。延伸倍率は、安定的にオレフィン系複合繊維の断面形状を得る点から2.0倍以上、3.5倍以下程度が好ましい。
なお、本発明のオレフィン系複合繊維を製造する際には、溶融紡糸した後に一旦巻き取った後に延伸する方法や溶融紡糸した後、一旦巻き取ることなく延伸する直接紡糸延伸法など任意の方法を採用することができる。
このようにして準備したオレフィン系複合繊維を、EB照射等により架橋する。
EB照射の場合、吸収線量が10kGy以上、150kGy以下となるように電子線を照射することが好ましい。10kGy未満では、電子線によるポリメチルペンテン系樹脂の改質が十分ではなく、耐摩擦性が得られにくい傾向がある。150kGyを超えると、ポリメチルペンテン系樹脂の改質よりも、劣化による強伸度低下が起こり易くなる。好ましくは30~150kGy、より好ましくは50~140kGyである。なお電子線は繊維又は繊維構造物の全面に照射してもよいが、電子線は透過力があるため、繊維又は繊維構造物の片面に照射するだけでもよい。
またEB照射は、空気中で行ってもよいが、劣化を防止する観点から脱酸素雰囲気下で行うことが好ましい。より好ましくは窒素雰囲気下である。
EB照射の場合、照射エネルギーは、特に限定するものではないが、10MeV程度であることが好ましい。
EB照射の場合、製糸段階でオレフィン系複合繊維に電子線を照射してもよいし、巻き取った後のオレフィン系複合繊維パッケージの状態で電子線照射してもよいし、オレフィン系複合繊維を織編物等の繊維構造物とした後に、電子線を照射してもよい。
このようにして得られた本発明のオレフィン系複合繊維は、分散染料によって好適に染色できる。すなわち、分散染料による染色では染料が熱可塑性樹脂まで浸透するため濃色に染色することができる。一方、カチオン染料や酸性染料を用いた染色の場合、改質PMP樹脂が高い撥水性を示すため、熱可塑性樹脂まで染料が浸透しないので染色され難く、好ましくない。
このようにして得られた本発明のオレフィン系複合繊維は、耐摩擦性が良好なため、延伸工程、仮撚工程、製編織工程、精練工程、染色工程等での取り扱い性に優れる。特に、摩擦による白化現象が生じないため、染色の際に濃色に染色ができる。また、適宜調整することにより、目的に応じて、良好な軽量性や撥水性を容易に得ることができる。
以下、本発明の実施例を示して具体的に説明するが、下記実施例は本発明を例示するものであって、本発明を限定するものではない。なお、各種物性の測定及び評価の方法は下記のように行った。
(1)融点
示差走査熱量計(DSC)(株式会社リガク製 「DSC 8230」)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minで300℃まで昇温し、吸熱ピークのピークトップを熱可塑性樹脂の融点とした。
(2)製糸安定性
20kgの糸を生産した際の平均糸切れ回数で製糸安定性を評価した。
○:糸切れ回数が1回未満の場合
×:糸切れ回数が1回以上の場合
(3)接合面の状況(融合・剥離)
得られたオレフィン系複合繊維の任意の2箇所を長さ方向に垂直に切断し、切断面を電子顕微鏡により1500倍で観察し、接合面の融合・剥離の発生状況を確認した。これらの欠点が発生していないものは「良好」とした。

(4)繊維の強度・伸度
JIS L1013に準じて、株式会社島津製作所製オートグラフAGSを用いた引張試験を行い、測定長:200mm、引張り速度:200mm/minの条件下にて、繊維が破断したときの破断強度、および破断伸度をそれぞれ5回測定し、その平均値を求め、繊維の強度・伸度とした。
(5)撥水性評価
得られたオレフィン系複合繊維を用いて筒編地を作製し、水平に置いた筒編地表面に250mLの水をシャワー散布し、余分な水滴を落としてから比較見本に基づいて評価した。
◎:表面に湿潤及び水滴の付着がないもの
○:表面に湿潤しないが、小さな水滴の付着を示すもの
×:表面に小さな個々の水滴状の湿潤を示すもの
(6)染色耐久性評価
得られたオレフィン系複合繊維で作製した筒編地を、70℃で20分間の精練を行い、水洗、風乾し、分散染料(Kayalon Polyester Black ECX 300)1.0%o.w.f、浴比1:50、130℃で1時間の高圧染色後、還元洗浄を常法で行い、染色による剥離等を下記の基準により評価した。
○:白化現象がない場合
×:白化現象がある場合
(7)耐摩擦性評価
上記染色した筒編地を、ユニバーサル型屈曲摩擦試験機を用いて2.23Nの押圧荷重で100回往復摩擦した。摩擦した部分を目視で観察し、下記の基準により評価した。
○:白化していない場合
×:白化している場合
(8)吸収線量測定
富士フイルム社製CTA線量計FTR-125をオレフィン系複合繊維と同時にEB照射した。EB照射したCTA線量計を島津製作所製分光光度計UVmini-1240を用いて280nmの吸光度測定により、吸収線量を求めた。
〔実施例1〕
図1のように芯部と鞘部の接合面に突起構造を有する芯鞘口金を用いて、芯部:鞘部の面積比率が70:30となるように、鞘部にポリメチルペンテン(三井化学社製「TPX(登録商標) DX820」、MFR180g/10min、融点233℃)、芯部にポリエチレンテレフタレート(融点258℃)を供給し、285℃で紡出し、延伸倍率3.1倍、98℃で延伸し、70dtex/25fの繊維を3100m/minで巻取った。得られた繊維に、空気中で、IBA社製電子加速器ロードトロンTT200装置を用い、10MeVで、吸収線量が66kGyとなるようにEB照射を行い、オレフィン系複合繊維を得た。繊維横断面で、鞘部と芯部の界面での剥離は認められず、製糸安定性は良好であった。染色性評価では色斑なく、撥水性評価では筒編生地に湿潤を示さなかった。また、耐摩擦性評価においても白化は見られなかった。得られた結果を表1に示す。
〔実施例2〕
EB照射を吸収線量が132kGyとなるように照射した以外は実施例1と同様の方法でオレフィン系複合繊維を作製した。得られたオレフィン系複合繊維の繊維横断面で、鞘部と芯部の界面での剥離は認められなかった。製糸安定性、染色性評価、撥水性評価および耐摩擦性評価は良好であった。得られた結果を表1に示す。
〔実施例3〕
EB照射を吸収線量が165kGyとなるように照射した以外は実施例1と同様の方法でオレフィン系複合繊維を作製した。得られたオレフィン系複合繊維の繊維横断面で、鞘部と芯部の界面での剥離は認められず、製糸安定性も良好であった。撥水性評価では筒編生地に水滴状の湿潤を示したが、染色性評価、耐摩擦性評価は良好であった。得られた結果を表1に示す。
〔実施例4〕
EB照射を脱酸素雰囲気下で照射した以外は実施例1と同様の方法でオレフィン系複合繊維を作製した。得られたオレフィン系複合繊維の繊維横断面で、鞘部と芯部の界面での剥離は認められなかった。製糸安定性、染色性評価、撥水性評価および耐摩擦性評価は良好であった。得られた結果を表1に示す。
〔実施例5〕
図2のように島成分が外周に露出しない海島口金を用いて、海部:島部の面積比率が40:60となるように、海部にポリメチルペンテン(三井化学社製「TPX(登録商標) DX820」、MFR180g/10min、融点233℃)、島部にポリエチレンテレフタレート(融点258℃)を供給した以外は実施例1と同様の方法でオレフィン系複合繊維を作製した。得られたオレフィン系複合繊維の繊維横断面で、海部と島部の界面での剥離は認めらなかった。製糸安定性、染色性評価、撥水性評価および耐摩擦性評価は良好であった。得られた結果を表1に示す。
Figure 0006998818000001
〔比較例1〕
EB照射を行わない以外は実施例1と同様の方法でオレフィン系複合繊維を作製した。得られたオレフィン系複合繊維の繊維横断面で、鞘部と芯部の界面での剥離は認められなかった。製糸安定性、染色性評価および撥水性評価は良好であった。しかし、上記の耐摩擦性評価において、ユニバーサル屈曲試験機で摩擦した面は白化しており、繊維表面が変形していた。得られた結果を表2に示す。
〔比較例2〕
図3のように一部の繊維外周にポリエチレンテレフタレートが露出する口金を用いた以外は実施例1と同様の方法でオレフィン系複合繊維を作製した。得られたオレフィン系複合繊維の繊維横断面で、海部と島部の界面での剥離が認められた。製糸安定性は糸切れが多発し、撥水性評価では湿潤を示し、染色性評価と耐摩擦性評価では白化現象が発生した。得られた結果を表2に示す。
Figure 0006998818000002
実施例1~5で得られたオレフィン系複合繊維は、染色性、耐摩擦性が良好であったが、比較例から得られた複合繊維は、染色性、耐摩擦性の少なくとも一つが不良であった。
本発明のオレフィン系複合繊維は、種々の繊維構造体とすることができ、インナーやスポーツウェア等の衣料用のみならず、傘地やテント地のアウトドア用品等の産業資材に好適に用いることができる。
a 鞘部
b 芯部
c 海部
d 島部

Claims (6)

  1. 架橋した繰り返し単位が4-メチルペンテン-1の単独重合体であるポリメチルペンテン系樹脂とポリメチルペンテン系樹脂以外の熱可塑性樹脂からなる複合繊維であって、以下の要件(1)~(2)を満たすオレフィン系複合繊維。
    (1)繊維外周は前記架橋したポリメチルペンテン系樹脂で覆われている
    (2)前記ポリメチルペンテン系樹脂以外の熱可塑性樹脂は分散染料で染色可能
  2. 分散染料で染色可能な熱可塑性樹脂が、ポリエステル系樹脂である請求項1記載のオレフィン系複合繊維。
  3. 繊維表面に水滴を落とした際に水が湿潤しない請求項1または2記載のオレフィン系複合繊維。
  4. 請求項1~いずれか1項に記載の衣料用複合繊維。
  5. ポリメチルペンテン系樹脂とポリメチルペンテン系樹脂以外の熱可塑性樹脂からなる複合繊維を電子線照射によってポリメチルペンテン系樹脂を改質することを特徴とする請求項1~4いずれか1項に記載のオレフィン系複合繊維の製造方法。
  6. 吸収線量が10kGy以上、150kGy以下となるように電子線照射することを特徴とする請求項5記載のオレフィン系複合繊維の製造方法。
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