JP6996676B2 - マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の製造方法、及び蛍光基結合型マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の細胞内分布を検出する方法 - Google Patents
マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の製造方法、及び蛍光基結合型マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の細胞内分布を検出する方法 Download PDFInfo
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Description
ここで、標的とする細胞内、あるいは細胞内小器官に、高効率に目的の糖蛋白質を導入したい場合には、N結合型糖鎖の非還元末端にMan6Pが付加された該糖蛋白質を用いることが重要であり、これにより治療効果の高い酵素補充療法が可能となると考えられる。
<1> 下記(a)又は(b)のエンドM変異体の存在下、マンノース-6-リン酸基が非還元末端に結合したN結合型糖鎖に由来する構造を有する糖鎖供与体と、下記一般式(1)で表される糖鎖受容体と、の間の糖鎖転移反応により、マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質を製造するマンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の製造方法:
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列の175番目のアミノ酸残基がグルタミン又はアラニンであるアミノ酸配列を有するエンドM変異体
(b)前記(a)のアミノ酸配列の175番目のアミノ酸残基以外の1個又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加又は置換により、前記(a)のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列を有し且つ前記糖鎖転移反応を触媒する活性を有するエンドM変異体。
数値範囲を表す「~」はその上限及び下限の数値を含む範囲を表す。
「糖鎖転移活性」とは、エンドM又はエンドM変異体が、糖鎖供与体を糖鎖受容体に転移させ、新たな生成物を生成する(糖鎖転移する)能力をいう。
またアミノ酸残基の表記方法としては、3文字表記及び1文字表記のどちらかで表記する。
すなわち、反応後の溶液に一定量のアセトンを加え、溶解した部分を乾燥後、一定量のDHBA溶液(20mg/mLの2、5-ジヒドロキシ安息香酸を50%メタノール水溶液に溶解させた溶液)に溶解させる。その後、溶解させた溶液の一部をMALDI-TOF MS分析用のplateにスポットし乾燥させ、autoflex speed-tko1リフレクタ システム(ブルーカー・ダルトニクス社製)によって、下記の条件にて測定することで、反応後の生成物の質量を確認できる。
<条件>
・測定モード:positive ion mode又はnegative ion mode及びreflector mode又はLinear mode
・測定電圧:1.5Kv~2.5Kv
・測定分子量の範囲:0~10000(m/z)
・積算回数:500~10000
糖を形成する炭素の位置は、還元末端を1位、その隣の炭素原子を2位のように表し、それらの炭素原子それぞれに結合する水酸基又は酸素原子を1位の水酸基又は1位の酸素原子のように表し、グリコシド結合を表す場合には、単に「GlcNAcの1位とGlcNAcの4位とのグリコシド結合」のように示す。なお、これらの2以上の単糖が結合したものをオリゴ糖といい、その誘導体はオリゴ糖誘導体と称する。すなわち、N結合型糖鎖はオリゴ糖である。
上記に従い、例えば前記一般式(4)について示すと、そのキトビオシル部位(-GlcNAcβ1-4GlcNAc-)の非還元末端側のグルコサミニル基(GlcNAc)は、そのGlcNAcの1位の酸素原子を含まず、かつ4位の酸素原子を含むことを示す。還元末端側のYに結合するGlcNAcは、1位の酸素原子を含まず、4位の酸素原子を含むことを示す。
なお、ManやGlcNAcにおいて、グリコシド結合していない2位、3位、4位及び6位の炭素は、水酸基が結合していることを示す。
また、糖鎖を説明する表現として、単糖を3つ含む糖鎖は3糖、5つ含む場合は5糖、のように称することもある。
また「糖蛋白質」は、それらのペプチドやポリペプチド部分に、N結合型糖鎖が少なくとも1つ以上存在していることを示し、特に説明されない限り、複数のN結合型糖鎖の種類は1種のものも、2種以上のものも含む。
エンドMの糖鎖転移反応において、糖鎖供与体としてキトビオシル骨格を有するN結合型糖鎖誘導体を用いる場合には、エンドMの非還元末端側の糖鎖構造によって、糖鎖転移における反応性が大きく変わることが知られていた。特に、リン酸基のような大きな極性残基を有するN結合型糖鎖は、エンドM変異体による糖鎖転移反応の糖鎖供与体には適さないと予想されるところ、本発明においては、予想外にも高い糖鎖転移収量を達成できることが示された。
上記の高い糖鎖転移収量を達成できる理由は定かではないが、発明者は以下のように考えている。すなわち、エンドM変異体は、Man6Pを非還元末端に有するN結合型糖鎖を認識しにくいながらも糖鎖供与体として認識し、前記一般式(1)で表される糖鎖受容体が水よりも優先的に該糖鎖供与体と結合することによって、糖鎖転移反応が進行するものと考えられ、糖鎖転移後生成物が一旦形成された場合には、再度エンドM変異体が糖鎖転移後生成物を認識しにくいために、結果として、糖鎖転移後生成物の収量が増加するものと推察される。
このため、本発明における糖鎖転移反応は、従来のオキサゾリン化された糖鎖供与体では容易に製造することができなかったMan6P含有糖蛋白質の製造を容易にする反応であり、さらに、工業的な大量調製への応用も視野に入れることができる。
本発明のMan6P含有糖蛋白質の製造方法は、下記(a)又は(b)のエンドM変異体の存在下、Man6Pが非還元末端に結合したN結合型糖鎖に由来する構造を有する糖鎖供与体と、上記一般式(1)で表される糖鎖受容体と、の間の糖鎖転移反応により、Man6P含有糖蛋白質を製造するMan6P含有糖蛋白質の製造方法である。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列の175番目のアミノ酸残基がグルタミン又はアラニンであるアミノ酸配列を有するエンドM変異体
(b)前記(a)のアミノ酸配列の175番目のアミノ酸残基以外の1個又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加又は置換により、前記(a)のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列を有し且つ前記糖鎖転移反応を触媒する活性を有するエンドM変異体。
本発明において製造されるMan6P含有糖蛋白質としては、天然に見いだされているものも、合成によるものも含む。また、天然に存在する糖蛋白質におけるN-結合型糖鎖が結合するアスパラギンのC末端側には、該アスパラギンから2つ目のアミノ酸残基が必ずスレオニン残基かセリン残基であることが知られているが、本発明においても同様である。
この中でも、動物細胞内で機能するという観点から、各種酵素が好ましく、各種酵素としては、細胞内で機能する酵素が挙げられ、中でもリソソーム酵素が好ましい。リソソーム酵素としては、βヘキソサミニダーゼ(βN-アセチルグルコサミニダーゼ、βN-アセチルガラクトサミニダーゼ)、αN-アセチルグルコサミニダーゼ、βガラクトシダーゼ、αガラクトシダーゼ、αグルコシダーゼ、αイズロニダーゼ、αイズロン酸2スルファターゼ、βグルクロニダーゼ、βグルコセレブロシダーゼ、βガラクトセレブロシダーゼ、αN-アセチルガラクトサミニダーゼ、αフコシダーゼ、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンD、カテプシンH、カテプシンL、アスパルチルグルコサミニダーゼ、エンドβガラクトシダーゼ、エンドβN-アセチルグルコサミニダーゼ、βマンノシダーゼ、αマンノシダーゼ、アリルスルファターゼ、ヒアルロニダーゼ、酸性リパーゼ、酸性セラミダーゼ、酸性スフィンゴミエリナーゼ、αノイラミニダーゼ1、αノイラミニダーゼ4、N-アセチルグルコサミン-1-ホスホトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-1-ホスホジエステルαN-アセチルグルコサミニダーゼ、トリペプチジルペプチダーゼ、シアリン、へパランN-スルファターゼ、アセチル-CoAαN-アセチルグルコサミニド アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ、ガラクトース-6-硫酸スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、チオエステラーゼ、カテプシンK、プロサポシン、サポシンA、サポシンB、サポシンC、サポシンD、GM2活性化タンパク質、NPC1タンパク質、及びリポタンパクリパーゼ等が挙げられる。
また、上記の糖蛋白質の由来は、本発明の効果を損なうものでない限り特に限定されないが、動物細胞内に導入させて機能させるという観点から、動物細胞由来が好ましく、さらに、ヒトへの酵素補充療法の効果を高めるという観点から、ヒト由来であることがより好ましい。
本発明におけるエンドM変異体は、(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列の175番目のアミノ酸残基がグルタミン又はアラニンであるアミノ酸配列を有するエンドM変異体又は(b)前記(a)のアミノ酸配列の175番目のアミノ酸残基以外の1個又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加又は置換により、前記(a)のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列を有し且つ糖鎖転移反応を触媒する活性を有するエンドM変異体(エンドM変異体ホモログ)である。ここで、糖鎖転移反応とは、Man6Pが非還元末端に結合したN結合型糖鎖に由来する構造を有する糖鎖供与体と、上記一般式(1)で表される糖鎖受容体と、の間の糖鎖転移反応のことをいう。
本発明では、エンドM変異体としては、N175QもしくはN175Aであることで、糖鎖転移反応後の生成物の加水分解を十分に抑えることができる。また、糖鎖転移収量の観点からは、N175Q変異体であることが好ましい。
このため、本発明のエンド酵素変異体ホモログは、エンドMの触媒領域を含む500残基程度のアミノ酸配列の長さを有していれば、エンドMとしての糖鎖転移活性を有すると推定できる。
本発明のエンドM変異体ホモログは、N175Q変異体もしくはN175A変異体と80%以上の相同性を有し、かつ糖鎖転移活性を有するものであれば、175番目のアミノ酸残基以外のどのアミノ残基を他のアミノ酸に置換、欠失又は付加により調製されたものでもよい。
糖鎖供与体としては、Man6Pが非還元末端に結合したN結合型糖鎖に由来する構造を有していればよく、一般式(1)で表される糖鎖受容体に糖鎖転移できるものであれば特に限定されない。N結合型糖鎖に由来する構造とは、N結合型糖鎖そのもの、及びN結合型糖鎖の誘導体も含むことを意味する。
また、X1~X6のうち、Man6Pを非還元末端に有する糖質由来の基としては、例えば、Man6Pα1-6、Man6Pα1-3、Man6Pα1-2Manα1-3、Man6Pα1-2Manα1-6、Man6Pα1-2、Man6Pα1-2Manα1-2等が挙げられる。
Y2としては、糖鎖転移活性を低下させるものでなければ、特に限定されない。例えば、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アシルオキシ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アルキルエステル基、アリールエステル基、アミノ基、アシルアミノ基、イミド基、アジド基、カルボキシル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基、又はハロゲン基が挙げられ、これらの基の中で、アルコキシ基、アシルアミノ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基及びアリールスルホニルオキシ基が挙げられる。これらの置換基は、さらに置換基を有していてもよい。
具体的には、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、パラメトキシフェノキシ基、パラニトロフェノキシ基などが挙げられる。
N結合型糖鎖としては、ハイマンノース型糖鎖と複合型糖鎖が挙げられるが、ハイマンノース型糖鎖の調製方法としては、化学合成による方法であっても、天然物から調製する方法であってもよい。化学合成による方法としては、例えば、松尾らの文献[Tetrahedron, Vol. 62, 8262-8277, (2006)]に記載されるように、マンノシル残基を順次グリコシル化して調製する方法や、特開2007-297429号公報に記載されるように、化学合成的な手法とマンノシダーゼを組み合わせた方法が挙げられる。また、天然物から調製する方法としては、例えば、特許第3776952号及び特開平10-251304号公報に記載されるように、卵白アルブミンから抽出する方法が挙げられる。
上記のハイマンノース型糖鎖の調製方法の中でも、非還元末端にMan6Pを導入する観点から、合成による調製方法が好ましい。
上記の複合型糖鎖の調製方法の中でも、非還元末端にMan6Pを導入する観点から、合成によって得られるものであることが好ましい。
Y3は一般式(2)のY2と同義であり、好ましい範囲も同じである。
糖鎖受容体は、以下の一般式(1)で表されるGlcNAc含有糖蛋白質である。糖鎖受容体としては、前記一般式(1)で表されるものであれば、エンドM変異体の糖鎖転移活性を阻害するものでない限り、特に限定されない。
また、上記の糖蛋白質の由来は、本発明の効果を損なうものでない限り特に限定されないが、動物細胞内に導入させて機能させるという観点から、動物細胞由来が好ましく、さらに、ヒトへの酵素補充療法の効果を高めるという観点から、ヒト由来であることがより好ましい。
また、Y1が糖蛋白質に由来する構造を含むアシルアミノ基であるものは、市販の試薬や食品を購入して得られる糖蛋白質、遺伝子工学的な手法によって調製した糖蛋白質、あるいは食品や天然物を一般的な抽出分離法によって得られた糖蛋白質に対し、本発明のエンドM変異体もしくは市販のエンド酵素で加水分解することで容易に調製できる。
カイコについては、例えば、伊藤らの文献[日本糖質学会年会要旨集(2011)、30th、54頁]に示されるように、外来遺伝子を導入されたカイコ(トランスジェニックカイコ)は、その中部絹糸腺中に大量に外来蛋白質を発現することが知られている。また、発現された該蛋白質が有する糖鎖は、ヒト型様部分構造を含み、昆虫特異的な糖鎖構造が付加されないという利点がある。
また、トランスジェニックカイコから調製される糖蛋白質は、例えば特開2015-208260号公報に示されるように、N結合型糖蛋白質糖鎖が主にハイマンノース型糖鎖であるため、多くのエンド酵素の基質となりやすく、糖鎖受容体の調製に有利である。
このため、大量にかつ安価に飼育が可能なカイコは、上記の糖蛋白質の調製にとって経済的に有利であるといえる。
反応は、糖鎖転移反応を意味し、糖鎖転移反応は、エンドM変異体、糖鎖供与体及び糖鎖受容体を溶解させた溶液中で行われる。反応に用いる溶液としては、エンドM変異体の糖鎖転移活性を阻害しないものであれば特に限定されないが、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、炭酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、MES緩衝液、MOPS緩衝液、HEPES緩衝液、ホウ酸緩衝液及び酒石酸緩衝液などが挙げられる。これらの緩衝液は、単独でも組み合わせて用いられてもよい。
上記の中でも、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの糖転移活性の点から、MES緩衝液、MOPS緩衝液、HEPES緩衝液及びリン酸緩衝液が好ましい。
また、リン酸緩衝液の濃度としては、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの糖転移活性の点から、10mM~250mMが好ましく、20mM~150mMがより好ましく、特に好ましくは50mM~100mMである。10mM以上とすることで緩衝能力を高め、250mM以下とすることで、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの糖鎖転移活性を高め、糖鎖転移収量を高めることができる。
また、反応方法としては、反応の糖鎖転移収量をさらに高める観点から、一定時間の反応後に、再度、反応溶液中に糖鎖供与体とエンドM変異体又はエンドM変異体ホモログを添加して、一定時間反応させることが好ましい。
また、本発明のMan6P含有糖蛋白質の製造方法では、多くの種類の糖鎖供与体を用いて、対応する多くの種類のMan6P含有糖鎖を高い割合で有する蛋白質が得られるため、得られたものは糖蛋白質標品としても有用である。
本発明の蛍光基結合型Man6P含有糖蛋白質の細胞内分布を検出する方法は、上記の製造方法によって得られたMan6P含有糖蛋白質に、さらに蛍光基を導入して得られる蛍光基結合型Man6P含有糖蛋白質を、細胞に付与することによって、該糖蛋白質の細胞内分布を検出する方法である。蛍光基結合型とは、Man6P含有糖蛋白質に共有結合又はイオン結合で蛍光基が結合していることを意味する。
すなわち、上記の製造方法によって得られたMan6P含有糖蛋白質に、さらに蛍光基を導入し、これを目的の細胞に付与することにより、前記Man6P含有糖蛋白質の細胞内での局在性などの分布を検出することができる。前記方法では、蛍光基結合型Man6P含有糖蛋白質等が、Man6Pレセプターによって容易に細胞内に侵入するので、侵入後の蛍光Man6P糖蛋白質等の細胞内での挙動を、蛍光基が発する蛍光によって追跡することができる。
以下、ヒトαイズロニダーゼはIDUAと称する。また特に断らない限り、IDUAは酵素としての活性を有するものであるものをさす。
「GlcNAc-IDUA」とは、IDUAのN結合型糖鎖を、エンド酵素によって加水分解した後に得られる蛋白質であり、IDUAを構成するポリペプチドに1つのGlcNAcが、少なくとも1か所結合していることを示す。
「Man6P-IDUA」とは、Man6P含有糖蛋白質をさし、特に断らない限り、後述するトランスジェニックカイコ(TGカイコとも称する)から得た後に3段階のクロマトグラフィーにより精製されたものをさす。
また、ヒトIDUAは、通常、6個のN結合型糖鎖を有し、以下TGカイコによって調製されるIDUAは、1個~6個のN結合型糖鎖の混合物である。
<糖鎖受容体(GlcNAc-IDUA)の調製>
Takahashiらの文献[Proc Natl Acad Sci USA.,Vol.104,8941-8946, (2007)]及びKobayashiらの文献[Arch Insect Biochem Physiol.,Vol.76(4),195-210, (2011)]を参考にして、piggyBacトランスポゾンベクターに、カイコ中部絹糸腺(組織)に特異的な転写プロモーター(セリンシン1プロモーター)下流に転写因子GAL4、及びその認識配列UASの下流に、ヒトαイズロニダーゼ(IDUA)遺伝子、さらに遺伝子導入個体の選別用のキヌレニン酸化酵素遺伝子を挿入し、カイコ卵にインジェクションした。本方法により、遺伝子導入カイコ幼虫の中部絹糸腺特異的にIDUAを高発現するトランスジェニックカイコを作製した。
まず、上記で得られたTGカイコからIDUAを得ることを確認するための各種測定方法について説明し、次に、TGカイコからのIDUAの抽出及び分離精製方法について説明する。
<各種測定方法>
~SDS-PAGE/CBB染色~
SDS-PAGEには、スラブ電気泳動装置(バイオクラフト社製)を使用し、10%ポリアクリルアミド均一ゲルを用いて電気泳動を行った。SDS-PAGE後のゲル内タンパク質の検出は、CBB染色液[10%CBB-R350(GE社製)、27%メタノール、9%酢酸、0.1%CuSO4]中で振盪し、1h以上染色を行った後、脱色液(10%酢酸)を用い6時間以上脱色することにより行った。
サンプルを10%SDS-PAGEで電気泳動を行った後、Trans-Blot SD Semi-Dry Electrophoretic Transfer Cell(バイオラッド社製)を使用しPVDF膜へのタンパク質の転写を、15Vの定電圧で1時間行った。転写用の緩衝液は48mMトリス、39mMグリシン、20%メタノールの混合溶液を用いた。転社したPVDF膜を、50%Blocking one(ナカライテスク)/TBS中で、室温で1.5時間振盪してブロッキングした。
1stプローブとしてIDUA抗体(Anti-IDUA、sheep IgG polyclonal antibody、(R&D社製))を使用し、50%Blocking one/TBS中でPVDF膜を振盪した(4℃、O/N)。その後0.1%Tween20/TBS(TBST)中、PVDF膜について、室温で5分間の洗浄を5回繰り返した後、さらにTBS中、室温で5分間洗浄した。2ndプローブとして抗ヒツジ抗体(Biotin-conjugated anti-sheep antibody(Vector社製))を使用し、50%Blocking one/TBS中、PVDF膜を室温で1時間振盪した。その後TBST中、PVDF膜について、室温で5分間の洗浄を5回繰り返した後、さらにTBS中で室温で5分間洗浄した。3rdプローブとしてHRP-conjugated anti-biotin antibody(Cell Signaling社製)を使用し、50%Blocking one/TBS中でPVDF膜を室温で1時間振盪した。その後TBST中、PVDF膜について、室温で5分間の洗浄を5回繰り返した後、さらにTBS中、室温で5分間洗浄した。PVDF膜はWestern lightning Chemiluminescence Reagent Ultra/Plus(Perkin Elmer社製)により化学発光させ、画像解析装置[LAS-4000miniEPUV(富士フイルム社製)]を用いてシグナル(バンド)検出を行った。
ヒトαイズロニダーゼ(IDUA)活性は4-メチルウンベリフェリル(4MU)-α-L-イドピラノシド(Tronto Research Chemicals社製)(以下、4MU-Idoと称することがある)を基質としてクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)中にて37℃で30分間インキュベートした後、遊離した4MUの蛍光強度(Ex:355nm、Em:460nm)を指標にして測定した。なお、4MU-Idoを基質とする酵素活性は、IDUA活性と称することがある。
カイコからの中部絹糸腺の採取は、公知の一般的な方法によって行った。5令~熟蚕期のTGカイコの腹側(第4節~第5節付近)の外皮を(手術用手袋を装着した人手で)割き、割かれた部分から押し出されてくる絹糸腺を引き出した。生理食塩水中で、採取した絹糸腺組織全体から、前部、後部絹糸腺及び付着した脂肪体組織を除去し、中部絹糸腺のみを分取して回収した。生理食塩水での洗浄を2回行った後に50頭分ずつをコニカルチューブに詰め、-20~-30℃で凍結保存した。
IDUAは、3段階のクロマトグラフィー操作(アフィニティークロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー)と、上記のIDUA活性測定方法を併せて行うことによって精製することで得られた。
まず、上記のTGカイコから採取した中部絹糸腺を解凍後、細断し、0.5MのNaClを含有した20mM酢酸ナトリウム緩衝液 (pH4.5)中で超音波破砕し、抽出液Aを調製した。
得られた抽出液Aについて、4MU-Idoに対する酵素活性(IDUA活性)を測定した結果を図1に示す。なお、図1中、未導入とは、IDUA遺伝子を導入していないカイコから、上記の方法と同様に得られた中部絹糸腺の抽出液BについてIDUA活性を測定したものである。
結果から、IDUA遺伝子を導入したTGカイコから得られた抽出液Aは、抽出液Bに比べて顕著に高いIDUA活性を示した。
また、得られた抽出液に対してヒトIDUA抗体を用いたウェスタンブロッティングを行ったところ、図2中のレーン1及び2に示すように、IDUA遺伝子未導入のカイコから抽出された蛋白質含有溶液では何らのバンドも得られなかったのに対し、レーン3及び4に示すように、IDUA遺伝子を導入したTGカイコから抽出された蛋白質含有溶液では80kDa付近に強いバンドが見出された。
以上の結果から、ヒトIDUA遺伝子を導入したTGカイコから、IDUA活性を有するIDUAを含む抽出液Aが得られた。
また、図3のSDS-PAGEの結果から、SP溶出画分及びButyl溶出画分の80kDa付近のバンド以外のバンドの染色濃度が、抽出液のものに比べて顕著に薄くなっていることから、得られたSP溶出画分及びButyl溶出画分に存在するIDUAが高度に精製されていることが示された。なお、以下、前記Butyl溶出画分に存在するIDUAをTG-IDUAと称する。
上記の精製操作によって得られたIDUAを含む画分は、以下に示す糖鎖受容体の調製に用いた。
糖鎖受容体は、以下のように、上記にて得られたTG-IDUAを、エンド酵素(Endo-D、New England Biolabs社製)によってマンノース残基数が5以下のN結合型糖鎖を加水分解することにより調製した。
4mgのTG-IDUA と1000UのEndo-Dを50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)(500mMのNaCl含有)800μLに溶解し,37℃で24時間インキュベートした。インキュベート後はChitin resin(New England Biolab社製)によってEndo-Dを吸着除去した。具体的には50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)(500mMのNaCl含有)で平衡化したChitin resin 100μLに対して上記インキュベート後溶液を加えて、4℃で2時間穏やかに撹拌した。その後サンプルをムロマックカラム(ムロマチテクノス社製)に加え,素通り画分を回収した。この画分はアミコンウルトラフィルターユニット(分画分子量30kDa)(ミリポア社製)を用いて濃縮し、さらに50mMの2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液(pH6.0)への緩衝液交換を行った。得られた画分をGlcNAc-IDUA(糖鎖受容体)とした。
(試薬及び測定方法)
用いた試薬は特に記載がない場合、東京化成工業株式会社のものを使用した。NMRは日本電子株式会社製ECA-400を使用した。MALDI-TOF MS測定はブルカー・ダルトニクス社製autoflex speed-tko1リフレクタ システムを使用した。薄層クロマトグラフィー(以下TLCと称する)はメルク社製60F 254を用い、10%硫酸エタノールにて発色させた。
~MALDI-TOF MS~
反応液をそのままもしくは精製後のサンプルを溶媒(例えば塩化メチレン、酢酸エチル、メタノール、トルエン、アセトン、水)に溶解した溶液及びDHBA溶液(20mg/mlの2,5-ジヒドロキシ安息香酸を50%メタノール水溶液に溶解させた溶液)の0.5~2μLずつを、MALDI-TOF MS分析用のplateにスポットし乾燥させ、MALDI-TOF MS分析を、autoflex speed-tko1リフレクタ システム(ブルーカー・ダルトニクス社製)を用い、下記の測定条件で行った。
・測定モード:positive ion mode又はnegative ion mode及びreflector mode又はLinear mode
・測定電圧:1.5Kv~2.5Kv
・測定分子量の範囲:0~10000(m/z)
・積算回数:500~10000
以下、具体的な糖鎖供与体の調製方法を示す。
糖鎖供与体として化合物12を、下記に示す経路で合成した。
東京化成工業株式会社製のMan[2Bz、3All、46Bzd]β(1-4)GlcNPhth[36Bn]-β-MP(製品コード:M2442)より誘導した化合物1(2.9g、3.1mmol)と文献[Tetrahedron Lett., Vol.51, 4323-4327, (2010)]に従い合成した化合物2(4.7g、4.6mol)をトルエン150mlに溶解しモレキュラーシーブス4Å15gを加え室温で1時間撹拌した。反応液を-30℃に冷却し、N-ヨードスクシンイミド1.6g(7.0mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸61μL(0.7mmol)を加え3時間撹拌した。TLCにて反応を確認後、反応液にトリエチルアミン210μL(1.5mmol)を加え反応を停止し、セライトで濾過した。反応液を酢酸エチルで希釈し、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後に濾過し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=11:1)で精製し、化合物3(4.5g、2.5mmol)を収率76%で得た。
次にナスフラスコにトリフルオロメタンスルホン酸銀0.91g(3.5mmol)、ハフノセンジクロリド0.67g(1.8mmol)、モレキュラーシーブス4Å4.2gを入れ、化合物3のベンジリデンアセタール保護基を脱保護することにより得られた化合物4(1.3g、0.7mmol)のトルエン21mL溶液を加え1.5時間撹拌した。反応液を-30℃に冷却後、文献[Tetrahedron Lett., Vol.40, 8049-8053, (1999)]に従い合成したO-(6-O-アセチル-2、3、4-トリ-O-ベンジル-α-D-マンノピラノシル)-(1→6)-2、3、4-トリ-O-ベンジル-α-D-マンノピラノースより調製した化合物5(0.82g、0.88mmol)のトルエン21mL溶液を、前記反応液に加え1時間撹拌した。この溶液をセライト濾過後に、酢酸エチルで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=8:1→5:1)で精製し、1.7gの生成物を得た。生成物について、NMR測定を行い下記の結果を得た
1H-NMR(CDCl3、400MHz)δ(ppm):5.54(d、1H、J=8.7Hz、H-1a)、4.67(brs、1H、H-1b)、4.33(m、1H、H-2a)、4.18(m、1H、H-3a)、4.06(m、1H、H-4a)、3.42(m、1H、H-5a)、1.93(s、3H、Ac)、1.88(s、3H、Ac).
13C-NMR(CDCl3、100MHz)δ:170.92、170.73、155.34、150.87、137.90-139.10(arom.)、126.86-128.51(arom.)、118.72、114.30、101.99、101.49、99.28、98.43、98.00、97.62、83.15、79.84、79.67、79.40、79.06、78.60、75.36、75.17、75.10、74.97、74.82、74.71、74.57、74.41、74.12、73.47、73.35、72.70、72.54、72.20、72.01、71.36、71.05、70.58、69.97、68.12、66.68、65.61、63.57、63.48、55.57、20.84.
以上の測定結果によって、糖鎖供与体である化合物6(0.61mmol)を収率87%で得られたことが示された。
化合物6(1.0g、0.36mmol)をアセトニトリル20mL、トルエン15mL、水10mLに溶解した。0℃に冷却し、硝酸アンモニウムセリウム(IV)2.0g(3.6mmol)を加え2時間撹拌した。反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=3:1)で精製し、還元末端が脱保護された1-OH体0.81g(0.31mmol)を収率84%で得た。得られた1-OH体0.81g(0.31mmol)を塩化メチレン8.1mLに溶解させた後に-20℃に冷却し、(ジエチルアミノ)サルファートリフルオリド0.16mL(1.2mmol)を加え1.5時間撹拌した。TLCにて反応を確認後、反応液にメタノール(0.1mL、3.1mmol)を加え反応を停止し、塩化メチレンで希釈した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=5:1)で精製し、化合物7(0.72g、0.27mmol)を得た。
次にナスフラスコにトリフルオロメタンスルホン酸銀0.21g(0.82mmol)、ハフノセンジクロリド0.28g(1.6mmol)、モレキュラーシーブス4Å2.2gを加え[参考文献;文献1(Tetrahedron Lett., Vol.30, 4853-4856, (1989))及び文献2(Carbohydr Lett., Vol.295, 25-39, (1996))]、さらに東京化成工業株式会社製の化合物8(製品コード:M1615)(0.24g、0.41mmol)をトルエン11mL溶液に加え、アルゴン雰囲気下2時間撹拌した。反応液を-30℃に冷却後、化合物7(0.72g、0.27mmol)のトルエン(11mL)溶液を加え13時間撹拌した。TLCにて反応を確認後、この溶液をセライト濾過し、酢酸エチルで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製し、化合物9(0.70g、0.22mmol)を化合物6に対し収率72%で得た。
化合物9(0.52g、0.16mmol)をn-ブタノール10mLに溶解し、エチレンジアミン0.54mL(8.1mmol)加え110℃で6時間撹拌後、室温で10時間撹拌し、さらに140℃に昇温して10時間撹拌した。TLCにて反応を確認後、反応液を減圧濃縮し、トルエン共沸をおこなった。得られた残渣にピリジン(5mL)を加え溶解させ、無水酢酸(0.24mL、2.58mmol)及び4-ジメチルアミノピリジン5.0mg(0.041mmol)加え、室温で4時間撹拌し、さらに50℃で3時間撹拌した。TLCにて反応を確認後、反応液を減圧濃縮し、トルエン共沸後、酢酸エチルで希釈した。有機層を2M塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:メタノール=100:1→80:1)で精製し、アセチル化された化合物0.35g(0.11mmol)を収率71%で得た。得られた前記化合物0.34g(0.12mmol)をテトラヒドロフラン1.7mLとメタノール1.7mLの混合溶媒に溶解させ、ナトリウムメトキシド(2.5μL、0.012mmol)を加え2.5時間撹拌した。その後さらにナトリウムメトキシド(5.0μL、0.023mmol)加え17時間撹拌した。DOWEX(50WX8(200-400H+))を加え中和し、濾過後に、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:メタノール=70:1)で精製し、化合物10(0.24g、0.085mmol)を収率73%で得た。
文献[Bull.Chem.Soc.Jpn., Vol.81, No.7, 796-819, (2008)]に従いリン酸化を行った。化合物10(0.10g、0.034mmol)をテトラヒドロフラン3mLに溶解しアルゴン雰囲気下ピロリン酸テトラベンジル0.18g(0.34mmol)を加え-60℃に冷却した。その後、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド(約26%テトラヒドロフラン溶液、約1.3mol/L)の67μL(0.088mmol)を加え1.5時間撹拌した。さらに、2時間、3.5時間後にそれぞれリチウムビス(トリメチルシリル)アミド(約26%テトラヒドロフラン溶液、約1.3mol/L)の67μL(0.088mmol)を加え0.5時間攪拌した。TLCにて反応を確認後、反応液に酢酸エチル及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え反応を停止した。酢酸エチルで希釈後、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後に濾過し、減圧濃縮した。得られた残渣をゲル濾過カラムクロマトグラフィーで粗精製した。次いで、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:アセトン=8:1→7:1)で精製し、化合物11(90mg、0.026mmol)を収率76%で得た。
化合物11(0.085g、0.024mmol)をテトラヒドロフラン15mL、エタノール6mL、水6mLの混合溶液に溶解し、パラジウム炭素(0.34g)加え水素気流下で22時間撹拌した。TLCにて反応を確認後、反応液をセライト濾過し、減圧濃縮した。得られた残渣をDOWEX(Na+)にてナトリウム塩に変換後、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーで精製し、0.035gの生成物を得た。生成物について、NMR測定を行い下記の結果を得た。NMR測定により得られた測定値を下記に示す。また、得られた1H-NMRスペクトルを図4に示し、その拡大したスペクトルを図5にそれぞれ示す。また、生成物をMALDI-TOF MS測定により得られた測定値を下記に示し、得られたマススペクトルを図6に示す。
1H-NMR(D2O、400MHz)δ(ppm):6.94-7.03(m、4H)、5.39(brs、1H)、5.01-5.03(m、2H)、4.90(m、2H)、4.81(brs、1H)、4.62(d、1H、H-1、J1,2=7.78Hz)、3.62-4.22(m、44H)、2.08(s、3H、Ac)、2.02(s、3H、Ac).
13C-NMR(D2O、100MHz)δ(ppm):175.53、175.44、155.53、151.73、118.94、115.76、103.15、102.08、101.61、101.15、100.51、100.19、80.43、79.75、75.43、75.09、72.85、72.64、71.39、71.35、71.01、70.87、70.63、67.20、66.68、60.64、56.48、55.63、22.92、22.81.
31P-NMR(D2O、162MHz)δ(ppm):3.03(brs、2P).
MALDI-TOF/MS calcd for [M-H]-1499.40;found、1499.96.
以上の測定結果によって、糖鎖供与体である化合物12を収率86%で得られたことが示された。
本実施例で用いられるエンドM変異体は、N175Q変異体(東京化成工業社製、グライコシンターゼリコンビナント)を用いた。
〈Man6PR(Dom9-His)の調製方法〉
Man6Pを検出するためのレクチン(CI-Man6PR)は、以下のように調製した。
すなわち、Akeboshiらの文献[APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY, Vol. 73, 4805-4812, (2007)]を参考にして作製したCI-Man6PR(Dom9-His)発現用プラスミドベクターを、メタノール資化性酵母株(Pichia pastorisGS11)5株にエレクトロポレーション法により導入した。2%メタノールを含むBMGY培地で5日培養した後、培養後の酵母を含む培養液全量を遠心分離(6000rpm、4℃、1h、KUBOTA6800(ロータ:RA-1500))し、培養上清を回収した。培養上清は0.22μmフィルター(ミリポア社製)を用いてフィルトレーションし、限外ろ過[Labscale TFF System、PelliconXL5K(ミリポア社製)]により濃縮した。
濃縮された培養上清を、Hisタグ精製用樹脂(Ni-Sepharose 6 Fast Flow、GE社製)に結合させた後、前記樹脂に付属されているプロトコールに従って、洗浄用緩衝液[20mMリン酸ナトリウム、0.5MのNaCl含有(pH8.0)]で洗浄し、溶出用緩衝液[20mMリン酸ナトリウム、0.5MのNaCl含有、50mMイミダゾール(pH8.0)]を用いて溶出させることで、CI-Man6PR(Dom9-His)を含む溶液を得た。得られた溶液を適宜希釈して、後述する糖鎖転移反応後溶液中の生成物中のMan6Pの検出に用いた。
糖鎖受容体として、上記のGlcNAc-IDUA、糖鎖供与体として、上記の化合物12を、50mMの2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液(pH6.0)10μLに溶解し、下記の条件にて糖鎖転移反応を行った。
<条件>
・糖鎖供与体:化合物12・・・200nmol
・糖鎖受容体:GlcNAc-IDUA・・・200pmol
・エンドM変異体:N175Q・・・2mU
・糖鎖受容体(A)に対する糖鎖供与体(D)のモル比(D/A):1000
・反応温度:30℃
・反応時間:24時間
サンプル(糖鎖転移反応後の溶液等)について、7.5%SDS-PAGEで電気泳動を行った後、Trans-Blot SD Semi-Dry Electrophoretic Transfer Cell(バイオラッド社製)を使用しPVDF膜へのタンパク質の転写を、15Vの定電圧で1時間行った。転写用の緩衝液は48mMトリス、39mMグリシン、20%メタノールの混合溶液を用いた。転社したPVDF膜を、50%Blocking one(ナカライテスク)/TBS中で、室温で1.5時間振盪してブロッキングした。
1stプローブとして上記のDom9-Hisを使用し、50%Blocking one/TBS中でPVDF膜を振盪した(4℃、O/N)。その後0.1%Tween20/TBS(TBST)中、PVDF膜について、室温で5分間の洗浄を5回繰り返した後、さらにTBS中、室温で5分間洗浄した。2ndプローブとして抗His抗体(Anti-His tag-mouse IgG(QIAGEN社製))を使用し、50%Blocking one/TBS中、PVDF膜を室温で1時間振盪した。その後TBST中、PVDF膜について、室温で5分間の洗浄を5回繰り返した後、さらにTBS中で室温で5分間洗浄した。3rdプローブとしてHRP-conjugated anti-mouse IgG(Biosource社製)を使用し、50%Blocking one/TBS中でPVDF膜を室温で1時間振盪した。その後TBST中、PVDF膜について、室温で5分間の洗浄を5回繰り返した後、さらにTBS中、室温で5分間洗浄した。PVDF膜はWestern lightning Chemiluminescence Reagent Ultra/Plus(Perkin Elmer社製)により化学発光させ、画像解析装置[LAS-4000miniEPUV(富士フイルム社製)]を用いて、露光時間1秒でかつ高感度の取込み条件でシグナル(バンド)検出を行った。
図7Aから、レーン3に示すように、レーン3のバンドがレーン2のバンドよりも低分子量側にバンドが現れていることから、上記のエンドDの処理によって、TG-IDUAからGlcNAc-IDUAが得られていることが示された。次に、レーン4に示すように、糖鎖転移反応を行った後は、レーン3の80kDa付近のGlcNAc-IDUAのバンドが消滅し、代わりに、高分子量側にバンドが現れた。従って、糖鎖受容体であるGlcNAc-IDUAに糖鎖転移が起こり、1個~6個のN結合型糖鎖に2個~12個のMan6Pが結合した糖鎖転移後生成物が得られたことが示された。
また、図7Bの結果から、図7Bのレーン2~4中、レーン4のバンドに相当するバンドのみに強い発光シグナルが得られることから、糖鎖転移後生成物がMan6Pを有することが示唆されたことから、糖鎖供与体中のMan6Pを含む糖鎖が、糖鎖受容体に糖鎖転移したことが示された。以上の結果から、糖鎖転移後生成物のほぼすべてが、少なくとも1つのM6P含有糖鎖を有していることが示唆された。
このように、上記のMan6Pを有する糖鎖供与体を用いた糖鎖転移反応は、Man6P含有糖蛋白質の調製に有効であることが示された。
実施例1の糖鎖転移反応後の溶液を、アミコンウルトラフィルターユニット(分画分子量30kDa)(ミリポア社製)を用いて限外ろ過を行い,未反応の糖鎖供与体を除去した。またリン酸生理緩衝溶液(以下、PBSと称する)への緩衝液交換を行い、Man6P-IDUA(10.5μg)を得た。得られたMan6P-IDUAを、以下のムコ多糖症1型患者繊維芽細胞(MPS1患者由来繊維芽細胞)等に対する補充効果の検討に用いた。
また、以下、TG-IDUA、GlcNAc-IDUA及びMan6P-IDUAを総称して、補充酵素と称することがある。
補充効果は、以下のように、各補充酵素を、各種細胞に添加した後に得られる前記細胞内の酵素(酵素源)についての活性を比較することによって検討した。
MPS1患者由来繊維芽細胞は、徳島大学病院小倫理委員会の承認と患者様へのインフォームド・コンセントを経て、口腔粘膜組織から、Ham‘s F-10培地(+10% Fetal bovine serum)存在下で誘導し、接着培養及び継代操作により樹立することで得た。健常人の繊維芽細胞である”normal fibro”(Hs68)は、ATCC製品(製品番号:CRL-1635)を購入して入手し、同様に接着培養及び継代した。
各酵素源は以下のように調製した。
コラーゲンコート24ウェルプレート(Collagen-coated microplate 24well、IWAKI社製)に培養された5x104cells/ウェルのMPS1患者由来細胞又は健常人の繊維芽細胞(HS68)を有する培養液1mLに、それぞれ上記の、TG-IDUA(エンド酵素未処理のIDUA)を2000nmol/h(2.5μg)、GlcNAc-IDUAを2000nmol/h(2.85μg)及びMan6P-IDUA2000nmol/h(4.6μg)のいずれかを添加し、5%CO2雰囲気下、37℃の条件で24時間培養した。培養後、細胞をPBS1mLで2回洗浄後、さらに0.2mLの0.5%トリプシンEDTA溶液を添加し、5分間インキュベートすることによって細胞をウェルから剥がした。培養液1mLを加え、トリプシンの反応を停止させた後、4℃、200xgで5分間遠心分離することで細胞を回収した。得られた細胞に対し50mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)(500mMのNaCl、1%のNP40、1μMのペプスタチンA、20μMのロイペプチン及び2mMのEDTAを含む)100μLを加え、超音波発生装置(MUS-10、東京理化器械株式会社製)によって細胞を破砕した。その後4℃、17,900xgで15分間遠心分離し、得られた上清を酵素源として次の酵素活性測定に供した。また健常者の繊維芽細胞についても同様の抽出処理を行い、得られた酵素源を次の酵素活性測定に供した。
なお、MPS1患者由来繊維芽細胞に、補充酵素のいずれも加えずにインキュベートした後、上記の調製方法によって得られた酵素源をMPS-Eと称し、健常人の繊維芽細胞(HS68)に、補充酵素のいずれも加えずにインキュベートした後、上記の調製方法によって得られた酵素源をNF-Eと称する。また、MPS1患者由来繊維芽細胞に、TG-IDUAを添加してインキュベートした後、上記の調製方法によって得られた酵素源をMPS-C-Eと称し、MPS1患者由来繊維芽細胞にGlcNAc-IDUAを添加してインキュベートした後、上記の調製方法によって得られた酵素源をMPS-GI-Eと称し、MPS1患者由来繊維芽細胞に、Man6P-IDUAを添加してインキュベートした後、上記の調製方法によって得られた酵素源をMPS-MI-Eと称する。
IDUA活性については、4-メチルウンベリフェリル(4MU)-α-L-イドピラノシド(Tronto Research Chemicals社製)(以下、4MU-Idoと称することがある)を基質としてクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)中にて37℃で30分間インキュベートした後、遊離した4MUの蛍光強度(Ex:355nm、Em:460nm)を指標にして測定した。なお、4MU-Idoを基質とする酵素活性は、IDUA活性と称することがある。
また、β-ヘキソサミニダーゼ活性であるMUG分解活性は、4-メチルウンベリフェリル(4MU)-N-アセチル-β-D-グルコサミニド(SIGMA社製)を基質としてクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)中にて37℃、30分間インキュベート後、遊離した4MUの蛍光強度(Ex:355nm、Em:460nm)を指標にして測定した。
MPS1患者由来繊維芽細胞への補充効果は、以下のように評価した。すなわち、各酵素源(MPS-E、NF-E、MPS-C-E、MPS-GI-E及びMPS-MI-E)のそれぞれのIDUA活性の活性回復比を、各酵素源のMUG分解活性を対照酵素活性として、以下の式1によって算出することにより求めた。
各活性回復比=(各酵素源のIDUA活性/各酵素源のMUG分解活性)/MPS-EのIDUA活性・・・式1
結果から、MPS-E以外の、他の酵素源の活性回復比は、MPS-Eの23倍~52倍という非常に高い値を示した。また、MPS-MI-Eの活性回復比は、他の酵素源の活性回復比に比較して最も活性回復比が高いことが示された。従って、Man6P-IDUAを、IDUA活性を有しない細胞(MPS1患者由来繊維芽細胞)に添加した場合には、該細胞内のIDUA活性を著しく向上させることが示された。このように、Man6P-IDUAを細胞に添加することで、細胞内にIDUA活性を有する酵素が補充され、該活性をより向上させることが示された。
以下のように、蛍光基修飾されたMan6P含有化合物(Man6P-Man5-AFO)、及び蛍光基修飾されたMan6P-IDUAを調製し、それらを用いて、細胞内でのMan6P含有化合物及びMan6P-IDUAの局在性及び分布を調べた。
非還元末端にMan6Pを含有する化合物は、Asanumaらの文献[Angew.Chem.Int.Ed.Engl., Vol.53(24), 6085-6089, (2014)]及び五稜化薬株式会社のホームページに記載の文献(http://goryochemical.com/products/acidifluor/acidifluor-orange.html)を参考にして合成した。すなわち、上記で得られた化合物7と、文献[Tetrahedron Lett., Vol.61, 4313-4321, (2005)]に従い合成した3-(Carbobenzoxyamino)-1-propyl 3,6-di-O-benzyl-2-deoxy-2-phthalimido-β-D-glucopyranosideとを用い、化合物12の合成法と同様の方法により、図9に示すように、3位にアミノ基を有するn-プロポキシ基を有する化合物AFを合成した。さらに、酸性pHで活性化する蛍光分子(AcidiFluor ORANGE-NHS、五稜化薬株式会社製)と結合させることで、化合物AF1を作製した。得られた化合物AF1と化合物AFのMALDI-TOF MSスペクトルを図10に示す。結果から、原料化合物である化合物AFから、蛍光基修飾されたMan6P付加型化合物(Man6P-Man5-AFO)が得られたことが示された。なお、AFOとは蛍光化合物(AcidiFluor ORANGE)をさす。
結果から、AFO試薬自体は、細胞内に取り込まれなかったのに対し、Man6P-Man5-AFOは細胞名に取り込まれ、蛍光が観察された。一方、M6Pレセプターの取り込みにおける競合阻害剤である5mMのマンノース6リン酸(M6P)存在下では細胞内蛍光は観察されなかったことから、Man6P-Man5-AFOは、細胞表面のM6Pレセプターを介して取り込まれ、酸性pHを有する細胞内小器官である後期エンドソーム/リソソームまで輸送されていることを示した。したがってMan6P-Man5-AFOは、Man6Pに結合した分子を、細胞内小器官(リソソーム)へと送達するためのタグとして機能することが示された。
上記によって得られたMan6P-IDUA30μgを、0.1M重炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.3)300μLに溶解後、DMSOに溶解したAcidiFluor ORANGE-NHS(五稜化薬株式会社製)60μgを(DMSO量6μL)を加え、チューブ内で混合し、遮光しながら室温で2時間撹拌した。アミコンウルトラフィルターユニット(分画分子量30kDa)(ミリポア社製)にて限外ろ過し、未反応のAcidiFluor ORANGE-NHSを除去することで、蛍光基修飾された(蛍光基結合型)Man6P-IDUA(Man6P-IDUA-AFO)を得た。得られたMan6P-IDUA-AFOは、使用直前まで-80℃で保存した。
上記で得られたMan6P-IDUA-AFOを、最終濃度70nMで、8ウェルチャンバースライド(8-well chamber slide、Nunc社製)に培養されたMPS1患者由来繊維芽細胞の培養液に添加し、24時間後にPBSで細胞を洗浄し、その後にAFOの蛍光を蛍光顕微鏡(BZ-9000、KEYENCE社製)で観察した。結果を図12に示す。
結果から、細胞内に取り込まれ、酸性pHオルガネラ(後期エンドソーム/リソソーム)での蛍光が観察された。一方、M6Pレセプターの取り込みにおける競合阻害剤である5mMのマンノース6リン酸(M6P)存在下では細胞内蛍光は著しく減少していた。また、この場合に、Man6P-IDUA-AFOは、細胞内に取り込まれず、酸性pHオルガネラでの蛍光は観察されなかった。したがって、Man6P-IDUA-AFOは、繊維芽細胞表面のM6Pレセプターを介して取り込まれ、酸性を有する細胞内小器官である後期エンドソーム/リソソームまで輸送されていることが示された。
このように、蛍光基が導入されたMan6P含有糖蛋白質を用いることによって、目的とするMan6P含有糖蛋白質の細胞内での局在や分布を容易に検出できることから、当該Man6P含有糖蛋白質を用いる検出方法の有効性が示された。
<Man6P含有CTSAの調製>
組換えヒトCTSA(組換えヒトカテプシンA;CTSA)遺伝子を恒常的に発現しているCHO細胞株(CHO/CTSA株)からCTSAタンパク質を3段階の精製法(アフィニティークロマトグラフィー→疎水性相互作用クロマトグラフィー→アフィニティークロマトグラフィー)で精製した。
糖鎖受容体は、上記により得られたCTSAについて、エンド酵素(Endo-Hf、New England Biolabs社製)を用いて、マンノース数が5以上のN結合型糖鎖のキトビオース構造を加水分解することにより調製した。60μgのCTSAと120UのEndo-Hfとを50mM MES緩衝液(pH6.0)の緩衝液200μLに溶解し,4℃で48hインキュベートした。反応後、MBPトラップカラム(GE Healthcare社製)を用いて、Endo-Hfを吸着除去した。具体的には反応溶液について、アミコンウルトラフィルターユニット10kDaカット(Millipore製)を用いて、20mM トリス-HCl緩衝液(pH7.0)、200mM NaClに緩衝液を交換した。その後,0.22μmフィルター(Millipore製)でフィルトレーションを行い,20mM トリス-HCl緩衝液(pH7.0)、200mM NaClで平衡化したMBPトラップカラム1mLに対して反応溶液を加えて、Endo-HfをMBPトラップカラムに吸着させた。素通り画分を回収し、さらに20mM トリス-HCl緩衝液(pH7.0)、200mM NaCl 2mLを、MBPトラップカラムに加えて素通り画分を洗い出した。素通り画分はアミコンウルトラフィルターユニット10kDaカット(Millipore製)を用いて濃縮し、50mM MES緩衝液(pH6.0)に緩衝液を交換した。得られた画分をGlcNAc-CTSA(糖鎖受容体)とした。
糖鎖受容体として、前記のGlcNAc-CTSA、糖鎖供与体として、前記の化合物12、糖鎖転移酵素として、エンドM変異体(グライコシンターゼ(Endo-M-N175Q)、東京化成工業社製;製品コードG0365)を、60μLの50mM MES緩衝液(pH6.0)、150mM NaClに溶解して下記の条件にて糖鎖転移反応を行った。
〈条件〉
・糖鎖供与体:化合物12・・・200nmol
・糖鎖受容体:GlcNAc-CTSA・・・200pmol
・糖鎖転移酵素:グライコシンターゼ(Endo-M-N175Q)・・・2mU
・糖鎖受容体(A)に対する糖鎖供与体(D)のモル比(D/A):1000
・反応温度:30℃
・反応時間:24h
図13Aの結果から、レーン2のバンドがレーン1のバンドよりも低分子量側に現れていることから、上記のEndo-Hfの処理によって、CTSAからGlcNAc-CTSAが得られていることが示された。次にレーン3に示すように、エンドM変異体(Endo-M(N175Q)を用いて糖転移反応を行った後は、レーン3のバンドがレーン2のバンドよりも高分子量側に現れた。したがって、糖鎖受容体であるGlcNAc-CTSAに糖転移反応が起こり、末端Man6P含有N型糖鎖が1~2本結合した糖鎖転移後生成物が得られたことが示された。
また、図13Bの結果から、図13Bのレーン2において消失した発光シグナルが、レーン3において新たに得られることから、糖鎖供与体中のMan6Pを含む糖鎖が、糖鎖受容体に糖鎖転移したことが示された。
Claims (5)
- 前記一般式(1)中、Y1は、リソソーム酵素に由来する構造を含むアシルアミノ基である請求項1に記載のマンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の製造方法。
- 前記糖鎖供与体が、下記一般式(2)で表される請求項1又は請求項2に記載のマンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の製造方法。
(一般式(2)中、X1、X2、X3、X4、X5及びX6は、それぞれ独立に水素原子又は糖質由来の基を表し、X1、X2、X3、X4、X5及びX6の少なくとも一つは、非還元末端にマンノース-6-リン酸基を有する糖質由来の基である。Z1は、水素原子又はGlcNAcを表し、Z1がGlcNAcである場合には、前記GlcNAcはβ1-4でGlcNAcに結合したManにβ1-4で結合している。Y2は一価の置換基を表す。GlcNAcはN-アセチルグルコサミニル基を表し、β1-4はGlcNAcの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合又はManの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合を表す。Manはマンノシル基を表し、α1-6はManの1位とManの6位とのαグリコシド結合を表し、α1-3はManの1位とManの3位とのαグリコシド結合を表す。) - 前記糖鎖供与体が、下記一般式(3)で表される請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のマンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の製造方法。
(一般式(3)中、X7、X8及びX9は、それぞれ独立して、水素原子、Man、Manα1-2Man、Man6P、Man6Pα1-2Man又はMan6Pα1-6Manを表す。Manはマンノシル基を表す。Man6Pは、6位にリン酸基が結合したマンノシル基を表す。また、X7-6は、Manの6位に結合したX7を示し、X8-3は、Manの3位に結合したX8を示し、X9-2は、Manの2位に結合したX9を示す。X7、X8及びX9の少なくとも一つは、Man6P、Man6Pα1-2Man及びMan6Pα1-6Manのいずれかであることを示す。GlcNAcはN-アセチルグルコサミニル基を表す。α1-6はManの1位とManの6位とのαグリコシド結合又はMan6Pの1位とManの6位とのαグリコシド結合を表し、α1-3はManの1位とManの3位とのαグリコシド結合を表し、α1-2はManの1位とManの2位とのαグリコシド結合又はMan6Pの1位とManの2位とのαグリコシド結合を表す。β1-4はGlcNAcの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合又はManの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合を表す。Y3は一価の置換基を表す。) - マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質を請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法により製造する工程と、
前記製造する工程によって得られるマンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質に、さらに蛍光基を導入して蛍光基結合型マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質を取得する工程と、
前記蛍光基結合型マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質を細胞に付与する工程と、
を含む、前記蛍光基結合型マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の細胞内分布を検出する方法。
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