JP6996676B2 - マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の製造方法、及び蛍光基結合型マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の細胞内分布を検出する方法 - Google Patents

マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の製造方法、及び蛍光基結合型マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の細胞内分布を検出する方法 Download PDF

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Description

本発明は、マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の製造方法、及び蛍光基結合型マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の細胞内分布を検出する方法に関する。
細胞内で機能する糖蛋白質遺伝子の欠損症では、細胞内での該糖蛋白質の機能が不全となり、重篤な疾患を引き起こすことが知られている。例えば、リソソーム病は、細胞内小器官であるリソソームに存在する加水分解酵素(リソソーム酵素)等の遺伝的欠損により発症する難病であり、現在の治療法としては、調製した酵素(組み換え酵素)を静脈内投与して治療する酵素補充療法が知られている。酵素補充療法とは、糖蛋白質が有するN結合型糖鎖の非還元末端のマンノース-6-リン酸基(以下、Man6Pと称する)と、細胞表面及びリソソームに存在するMan6Pレセプターとの結合に伴うエンドサイトーシスによる細胞内への取り込み現象を利用した療法であり、リソソーム病患者の標的となる細胞に、Man6Pを有するリソソーム酵素を細胞外から与えることにより、治療効果を発揮させる治療法である。
ここで、標的とする細胞内、あるいは細胞内小器官に、高効率に目的の糖蛋白質を導入したい場合には、N結合型糖鎖の非還元末端にMan6Pが付加された該糖蛋白質を用いることが重要であり、これにより治療効果の高い酵素補充療法が可能となると考えられる。
Man6Pを有する糖蛋白質の調製方法としては、以前より、個々の糖蛋白質の遺伝子を導入した細胞によって調製する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
特表2007-523648号公報
しかし、糖蛋白質の遺伝子を導入した細胞によって調製する方法では、リン酸基の糖蛋白質への付加が必ずしもおこるわけではなく、糖蛋白質によっては、Man6Pの含有量を高められないという問題がある。また宿主となる細胞等の脱リン酸化酵素の影響等により、得られる糖蛋白質には、Man6Pが全く結合していないものが多く混入するという問題もある。
一方、糖蛋白質のN結合型糖鎖を変換する酵素-化学的な方法としては、特開平7-59587号公報に記載されるように、毛カビ由来のエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼM(エンドM)により、糖鎖供与体であるN結合型糖鎖の非還元末端側の大きなオリゴ糖鎖部位を、糖鎖受容体に一度に糖鎖転移する方法が報告されている。また、エンドMのアミノ酸を改変した変異体(グライコシンターゼ)は、目的とするN結合型糖鎖由来の構造を含む糖鎖供与体の糖鎖を糖鎖受容体に効率よく糖鎖転移できることが、梅川らの文献[J. Biol. Chem., Vol. 285(1), 511-521, (2010)]によって報告されている。
従って、グライコシンターゼが、Man6Pを有するN結合型糖鎖を糖鎖供与体として、糖鎖受容体に糖鎖転移することが可能であれば、結果的に、Man6Pの含有量が高い所望の糖蛋白質が得られることが期待できる。
しかし、前記文献に用いられている糖鎖供与体には、その調製のために強い酸性条件を必要とするオキサゾリン化された化合物を用いているため、Man6Pを有するオキサゾリン化された糖鎖供与体を調製する場合には、酸性条件に弱いリン酸基を脱離しないようにオキサゾリン化する必要があるという難点を有する。また、オキサゾリン環は不安定であるため、オキサゾリン化した後にリン酸基を導入することは難しい。
また、オキサゾリン化した糖鎖供与体の糖鎖転移反応においては、糖鎖転移が、糖鎖受容体のGlcNAc以外の残基、例えばアミノ酸残基にもおこるという懸念がある。
このように、Man6Pを容易に調製する方法として、グライコシンターゼを利用し、かつオキサゾリン化していない糖鎖供与体を用いる新たな製造方法が望まれていた。
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、糖鎖転移反応を用いてMan6P含有糖蛋白質を容易に製造可能な製造方法、及び蛍光基結合型マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の細胞内分布を検出する方法の提供を課題とする。
課題を解決するための具体的手段には、以下の形態が含まれる。
<1> 下記(a)又は(b)のエンドM変異体の存在下、マンノース-6-リン酸基が非還元末端に結合したN結合型糖鎖に由来する構造を有する糖鎖供与体と、下記一般式(1)で表される糖鎖受容体と、の間の糖鎖転移反応により、マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質を製造するマンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の製造方法:
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列の175番目のアミノ酸残基がグルタミン又はアラニンであるアミノ酸配列を有するエンドM変異体
(b)前記(a)のアミノ酸配列の175番目のアミノ酸残基以外の1個又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加又は置換により、前記(a)のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列を有し且つ前記糖鎖転移反応を触媒する活性を有するエンドM変異体。
Figure 0006996676000001

(一般式(1)中、Yは糖蛋白質に由来する構造を含むアシルアミノ基を表す。GlcNAcはN-アセチルグルコサミニル基を表す。)
<2>前記一般式(1)中、Yは、リソソーム酵素に由来する構造を含むアシルアミノ基である<1>に記載のマンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の製造方法。
<3>前記糖鎖供与体が、下記一般式(2)で表される<1>又は<2>に記載のマンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の製造方法。
Figure 0006996676000002

(一般式(2)中、X、X、X、X、X及びXは、それぞれ独立に水素原子又は糖質由来の基を表し、X、X、X、X、X及びXの少なくとも一つは、非還元末端にマンノース-6-リン酸基を有する糖質由来の基である。Zは、水素原子又はGlcNAcを表し、ZがGlcNAcである場合には、前記GlcNAcはβ1-4でGlcNAcに結合したManにβ1-4で結合している。Yは一価の置換基を表す。GlcNAcはN-アセチルグルコサミニル基を表し、β1-4はGlcNAcの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合又はManの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合を表す。Manはマンノシル基を表し、α1-6はManの1位とManの6位とのαグリコシド結合を表し、α1-3はManの1位とManの3位とのαグリコシド結合を表す。)
<4>前記糖鎖供与体が、下記一般式(3)で表される<1>~<3>のいずれか1つに記載のマンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の製造方法。
Figure 0006996676000003

(一般式(3)中、X、X及びXは、それぞれ独立して、水素原子、Man、Manα1-2Man、Man6P、Man6Pα1-2Man又はMan6Pα1-6Manを表す。Manはマンノシル基を表す。Man6Pは、6位にリン酸基が結合したマンノシル基を表す。また、X-6は、Manの6位に結合したXを示し、X-3は、Manの3位に結合したXを示し、X-2は、Manの2位に結合したXを示す。X、X及びXの少なくとも一つは、Man6P、Man6Pα1-2Man及びMan6Pα1-6Manのいずれかであることを示す。GlcNAcはN-アセチルグルコサミニル基を表す。α1-6はManの1位とManの6位とのαグリコシド結合又はMan6Pの1位とManの6位とのαグリコシド結合を表し、α1-3はManの1位とManの3位とのαグリコシド結合を表し、α1-2はManの1位とManの2位とのαグリコシド結合又はMan6Pの1位とManの2位とのαグリコシド結合を表す。β1-4はGlcNAcの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合又はManの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合を表す。Yは一価の置換基を表す。)
<5>前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の製造方法によって得られるマンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質に、さらに蛍光基を導入して得られる蛍光基結合型マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質を、細胞に付与することによって、前記蛍光基結合型マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の細胞内分布を検出する方法。
本発明によれば、糖鎖転移反応を用いてMan6P含有糖蛋白質を容易に製造可能な製造方法、及び蛍光基結合型マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の細胞内分布を検出する方法を提供できる。
ヒトαイズロニダーゼ(IDUA)遺伝子を導入したトランスジェニックカイコが生産する中部絹糸腺から得られた抽出液のIDUA活性を示す図である。 IDUA遺伝子を導入したトランスジェニックカイコが生産する中部絹糸腺から得られた抽出液に対して、抗IDUA抗体を用いたウェスタンブロッティングを行った結果を示す図である。 IDUA遺伝子を導入したトランスジェニックカイコの中部絹糸腺から得られた抽出液を各クロマトグラフィー操作によって精製した溶液に対して、SDS-PAGEを行った結果を示す図である。 本発明における糖鎖供与体である化合物12のH-NMRスペクトルを示す図である。 図4のH-NMRスペクトルの拡大図である。 化合物12のMALDI-TOF MS測定により得られたマススペクトルを示す図である。 (A)は、糖鎖供与体(化合物12)の糖鎖受容体(エンド酵素処理後のIDUA(GlcNAc-IDUA))への糖鎖転移後の試料について、SDS-PAGEを行った結果を示す図である。レーン1は、IDUA遺伝子を導入したチャイニーズハムスター(CHO)細胞から得られたIDUAを含む試料であり、レーン2はエンド酵素処理前のIDUAを含む試料であり、レーン3は糖鎖受容体(エンド酵素処理後のIDUA(GlcNAc-IDUA))を含む試料であり、レーン4は、糖鎖供与体(化合物12)の糖鎖受容体(GlcNAc-IDUA)への糖鎖転移後の試料である。 (B)は、(A)と同じ試料について、Man6P特異的に結合するレクチン(Dom9-His)によるレクチンブロットを行った結果を示す図である。 (A)は、ムコ多糖症1型(MPS-1)患者皮膚繊維芽細胞等にM6P含有IDUAを添加して24時間インキュベートした後の細胞内のIDUA活性における活性回復比を示す図である。 (B)は、ムコ多糖症1型(MPS-1)患者皮膚繊維芽細胞等にM6P含有IDUAを添加してインキュベートした後に得られた細胞内溶液(酵素源)の、4-メチルウンベリフェリル(4MU)-N-アセチル-β-D-グルコピラノシド(MUG)に対するβ-ヘキソサミニダーゼ(Hex)(対照酵素)活性を測定した図である。 Man6P含有化合物(Man6P-Man5-AFO)への蛍光基の修飾方法を示す概略を示す図である。 蛍光基修飾されたMan6P含有化合物(Man6P-Man5-AFO)のMALDI-TOF MSスペクトルを示す図である。 蛍光基修飾されたMan6P含有化合物(Man6P-Man5-AFO)を添加し24時間インキュベートした後のムコ多糖症1型(MPS-1)患者皮膚繊維芽細胞を、蛍光顕微鏡で観察した結果を示す図である。 蛍光基修飾されたMan6P含有IDUA(Man6P-IDUA-AFO)を添加し24時間インキュベートした後のムコ多糖症1型(MPS-1)患者皮膚繊維芽細胞を、蛍光顕微鏡で観察した結果を示す図である。 (A)は、糖鎖供与体(化合物12)の糖鎖受容体(エンド酵素処理後のCTSA(GlcNAc-CTSA))への糖鎖転移後の試料について、SDS-PAGEを行った結果を示す図である。レーン1は、CTSA遺伝子を導入したチャイニーズハムスター(CHO)細胞から得られたCTSAを含む試料であり、レーン2は糖鎖受容体(エンド酵素処理後のCTSA(GlcNAc-CTSA))を含む試料であり、レーン3は、糖鎖供与体(化合物12)の糖鎖受容体(GlcNAc-CTSA)への糖鎖転移後の試料である。 (B)は、(A)と同じ試料について、Man6P特異的に結合するレクチン(Dom9-His)によるレクチンブロットを行った結果を示す図である。
本明細書及び特許請求の範囲を通じて示された用語について説明する。
数値範囲を表す「~」はその上限及び下限の数値を含む範囲を表す。
「エンドM」とは「エンド酵素」の一種を示し、「エンド酵素」とは、「エンド-β-N―アセチルグルコサミニダーゼ」と同じ意味であり、下記一般式(4)の矢印の先を伸ばした位置、すなわちGlcNAcとGlcNAcの間のグリコシド結合を加水分解する酵素を意味する。「エンド酵素変異体」とは、エンド酵素のアミノ酸の1個又は複数個のアミノ酸残基が欠失、付加又は置換したものである。糖鎖転移する対象となる物質とは、糖鎖転移反応における糖鎖供与体及び糖鎖受容体のことを指す。
Figure 0006996676000004

一般式(4)中、XはN結合型糖鎖中の、還元末端のキトビオシル残基(GlcNAcβ1-4GlcNAc)の非還元末端側のGlcNAcの4位に結合するオリゴ糖を示し、Rはポリペプチドを示す。矢印はエンド酵素又はエンド酵素変異体が加水分解する位置を表す。
「糖鎖転移」とは、糖鎖供与体の糖鎖構造の部分、例えば前記一般式(4)であれば、矢印の先を伸ばした位置(β1-4グリコシド結合部分)から左側の部分を、糖鎖受容体に結合(転移)させることをいう。本発明における糖鎖受容体とは、前記一般式(1)で表されるようなGlcNAcを非還元末端に有する糖含有物質を指す。
「糖鎖転移活性」とは、エンドM又はエンドM変異体が、糖鎖供与体を糖鎖受容体に転移させ、新たな生成物を生成する(糖鎖転移する)能力をいう。
「糖鎖転移収量」とは、糖鎖転移反応後に生ずる生成物であって、糖鎖受容体に、糖鎖供与体において、上記一般式(4)の矢印の先を伸ばした位置から左側の部分が転移されて生成した糖蛋白質の量をいう。当該生成物を、糖鎖転移後生成物と称することがある。
ここで、「エンドM変異体」とは、エンドMのアミノ酸配列(配列番号1参照)のアミノ酸が欠失、付加又は置換されているエンド酵素変異体を示す。「エンドM」とは、毛カビであるムコールヒエマリス由来のエンド酵素(GenBank Accession No.BAB43869)、「エンドD」とはストレプトコッカス ニューモニエ由来のエンド酵素(GenBank Accession No.BAB62042.1)を意味する。
「相同性」とは、蛋白質のアミノ酸配列の変異体において、最大の相同性(パーセント)を達成するために、必要ならば間隙を導入して、配列を整列させた後に同一である残基のパーセンテージとして定義される。アライメントのための方法及びコンピュータープログラムは本技術分野においてよく知られており、本明細書中ではClustralW2 (http://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalw2/)を使用している。
またアミノ酸残基の表記方法としては、3文字表記及び1文字表記のどちらかで表記する。
また、蛋白質におけるアミノ酸配列中の特定のアミノ酸残基を示す表記について、例えばエンドMのアミノ酸配列においては、175番目のアスパラギン残基は、N175と示される。また、アミノ酸残基を置換、すなわち他のアミノ酸に置換されたアミノ酸残基の表記について、例えばエンドMの175番目のアスパラギン残基をグルタミン残基(もしくはアラニン)に置換した残基は、N175Q(もしくはN175A)と示され、これを含むエンドMを、エンドMのN175Q変異体、もしくは単にN175Q変異体のように称することがある。
また、エンドM変異体のうち、配列番号1で示されるアミノ酸配列の175番目のアミノ酸残基がグルタミン又はアラニンであるアミノ酸配列を有する変異体を、「本発明のエンドM変異体」と称することがある。また、本発明のエンドM変異体のうち、配列番号1で示されるアミノ酸配列の175番目のアミノ酸残基がグルタミン又はアラニンであるアミノ酸配列を有し、かつ配列番号1で示されるアミノ酸配列の175番目のアミノ酸残基以外の1個又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加又は置換により、前記エンドM変異体のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列を有し糖鎖転移活性を有しているエンドM変異体を、上記のN175Q変異体もしくはN175A変異体等と区別する観点から、特に「本発明のエンドM変異体ホモログ」と称することがある。
エンドM変異体による糖鎖転移活性は、反応後の溶液中に生成したMan6P含有糖蛋白質を、例えば、SDS-PAGE、レクチンブロット及びMALDI-TOF MSで測定することによって確認することができる。
MALDI-TOF MSとしては、例えば、次の方法が挙げられる。
すなわち、反応後の溶液に一定量のアセトンを加え、溶解した部分を乾燥後、一定量のDHBA溶液(20mg/mLの2、5-ジヒドロキシ安息香酸を50%メタノール水溶液に溶解させた溶液)に溶解させる。その後、溶解させた溶液の一部をMALDI-TOF MS分析用のplateにスポットし乾燥させ、autoflex speed-tko1リフレクタ システム(ブルーカー・ダルトニクス社製)によって、下記の条件にて測定することで、反応後の生成物の質量を確認できる。
<条件>
・測定モード:positive ion mode又はnegative ion mode及びreflector mode又はLinear mode
・測定電圧:1.5Kv~2.5Kv
・測定分子量の範囲:0~10000(m/z)
・積算回数:500~10000
また、レクチンブロットとしては、例えば、Man6Pに対するレクチンを用いることができ、該レクチンとしては、Akeboshiらの文献[APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY, Vol. 73, 4805-4812, (2007)]に記載のCI-Man6PR(Dom9-Hisと称することがある)が挙げられる。
また、糖鎖転移後生成物については、例えば、上記のSDS-PAGE、レクチンブロット及びMALDI-TOF MSで測定することによって同定することができ、さらにSDS-PAGE及びレクチンブロット等で得られた糖鎖転移後生成物のバンドの濃さ等の比較から、糖鎖転移後生成物の収量(糖鎖転移収量)の大きさについて定性的に確認することができる。また、この結果から、エンドM変異体の糖鎖転移活性についての大きさについても定性的に確認することができる。
本明細書等では、炭水化物の部分は、オリゴ糖の記述に通常用いられる命名法を参照して記載される。これらの命名法は、例えば、Hubbardらの文献[Ann.Rev.Biochem., Vol.50, 555, (1981)]に見出される。この方法に従って、マンノースはMan、2-N-アセチルグルコサミンはGlcNAc、ガラクトースはGal、フコースはFuc及びグルコースはGlc、という略式表記によって表記される。シアル酸は、5-N-アセチルノイラミン酸に対するNeuAc、及び5-グリコリルノイラミン酸に対するNeuGcという略式表記によって表記される。また、N-アセチルグルコサミニル基はGlcNAc残基、マンノシル基はMan残基と称することもある。
単糖とは、上記の糖、例えばManやGlcNAcそのもののみを意味する。
糖を形成する炭素の位置は、還元末端を1位、その隣の炭素原子を2位のように表し、それらの炭素原子それぞれに結合する水酸基又は酸素原子を1位の水酸基又は1位の酸素原子のように表し、グリコシド結合を表す場合には、単に「GlcNAcの1位とGlcNAcの4位とのグリコシド結合」のように示す。なお、これらの2以上の単糖が結合したものをオリゴ糖といい、その誘導体はオリゴ糖誘導体と称する。すなわち、N結合型糖鎖はオリゴ糖である。
「グリコシド結合」とは、糖鎖中の糖ユニットの1位の水酸基と他の糖の水酸基が脱水縮合することで、互いが酸素原子を介して結合する結合をいい、例えばα1-6グリコシド結合とは、糖の1位(の炭素)と他の糖の6位(6位の酸素原子)がα型で結合したグリコシド結合であることをいう。なお、糖の1位の水酸基はα型とβ型が存在する。
上記に従い、例えば前記一般式(4)について示すと、そのキトビオシル部位(-GlcNAcβ1-4GlcNAc-)の非還元末端側のグルコサミニル基(GlcNAc)は、そのGlcNAcの1位の酸素原子を含まず、かつ4位の酸素原子を含むことを示す。還元末端側のYに結合するGlcNAcは、1位の酸素原子を含まず、4位の酸素原子を含むことを示す。
なお、ManやGlcNAcにおいて、グリコシド結合していない2位、3位、4位及び6位の炭素は、水酸基が結合していることを示す。
また、糖鎖を説明する表現として、単糖を3つ含む糖鎖は3糖、5つ含む場合は5糖、のように称することもある。
「コア糖鎖」とは、N結合型糖鎖の中で、下記C-1で表される糖鎖部分をいい、「トリマンノシル」とは、コア糖鎖の中の3つのマンノース部分をいう。また、C-1の左側の破線部分に示すように、トリマンノシル部分のうち、非還元末端側のα1-6で結合するManをMan2、非還元末端側のα1-3で結合するManをMan3及び還元末端側のManをMan1と称する。
Figure 0006996676000005

また、一般式(4)の矢印の先を伸ばした位置の左側に示すようなオリゴ糖を、トリマンノシルGlcNAc含有糖鎖と称することがある。
本明細書中、「蛋白質」は、ペプチドを含むことを意味する。すなわち、糖蛋白質は糖ペプチドを含む。また、糖ペプチドと称する場合には、該糖ペプチドのアミノ酸残基数が50以下の糖蛋白質のことをさす。本明細書中、「蛋白質」には、特に断わらない限り、糖蛋白質も前記糖蛋白質でない蛋白質も含む。
また「糖蛋白質」は、それらのペプチドやポリペプチド部分に、N結合型糖鎖が少なくとも1つ以上存在していることを示し、特に説明されない限り、複数のN結合型糖鎖の種類は1種のものも、2種以上のものも含む。
また、「リソソーム酵素」とは、真核細胞内のリソソーム内で酵素として機能する糖蛋白質のことをいう。
本発明においては、化学-酵素的なMan6P含有糖蛋白質の調製において、安定な天然型の基質を用いることができ、かつ従来技術では達成できなかったMan6P含有糖蛋白質を製造することができる。
エンドMの糖鎖転移反応において、糖鎖供与体としてキトビオシル骨格を有するN結合型糖鎖誘導体を用いる場合には、エンドMの非還元末端側の糖鎖構造によって、糖鎖転移における反応性が大きく変わることが知られていた。特に、リン酸基のような大きな極性残基を有するN結合型糖鎖は、エンドM変異体による糖鎖転移反応の糖鎖供与体には適さないと予想されるところ、本発明においては、予想外にも高い糖鎖転移収量を達成できることが示された。
上記の高い糖鎖転移収量を達成できる理由は定かではないが、発明者は以下のように考えている。すなわち、エンドM変異体は、Man6Pを非還元末端に有するN結合型糖鎖を認識しにくいながらも糖鎖供与体として認識し、前記一般式(1)で表される糖鎖受容体が水よりも優先的に該糖鎖供与体と結合することによって、糖鎖転移反応が進行するものと考えられ、糖鎖転移後生成物が一旦形成された場合には、再度エンドM変異体が糖鎖転移後生成物を認識しにくいために、結果として、糖鎖転移後生成物の収量が増加するものと推察される。
また、上記の糖鎖転移反応に用いるオキサゾリン骨格を有しない糖鎖供与体は、リン酸基を酸性条件に晒さない方法で合成することが可能であるという利点を有する上に、緩衝溶液中でも安定に存在できる。加えて、本発明におけるキトビオシル骨格を有する糖鎖供与体は、オキサゾリン化された糖鎖供与体のように、糖鎖受容体のGlcNAc以外の基と結合する可能性は著しく低い。
このため、本発明における糖鎖転移反応は、従来のオキサゾリン化された糖鎖供与体では容易に製造することができなかったMan6P含有糖蛋白質の製造を容易にする反応であり、さらに、工業的な大量調製への応用も視野に入れることができる。
以下、本発明のMan6P含有糖蛋白質の製造方法を説明する。
≪Man6P含有糖蛋白質の製造方法≫
本発明のMan6P含有糖蛋白質の製造方法は、下記(a)又は(b)のエンドM変異体の存在下、Man6Pが非還元末端に結合したN結合型糖鎖に由来する構造を有する糖鎖供与体と、上記一般式(1)で表される糖鎖受容体と、の間の糖鎖転移反応により、Man6P含有糖蛋白質を製造するMan6P含有糖蛋白質の製造方法である。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列の175番目のアミノ酸残基がグルタミン又はアラニンであるアミノ酸配列を有するエンドM変異体
(b)前記(a)のアミノ酸配列の175番目のアミノ酸残基以外の1個又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加又は置換により、前記(a)のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列を有し且つ前記糖鎖転移反応を触媒する活性を有するエンドM変異体。
(Man6P含有糖蛋白質)
本発明において製造されるMan6P含有糖蛋白質としては、天然に見いだされているものも、合成によるものも含む。また、天然に存在する糖蛋白質におけるN-結合型糖鎖が結合するアスパラギンのC末端側には、該アスパラギンから2つ目のアミノ酸残基が必ずスレオニン残基かセリン残基であることが知られているが、本発明においても同様である。
本発明の製造方法で製造されるMan6P含有糖蛋白質のうちの糖蛋白質は、特に制限されない。例えば、動物細胞由来であれば、細胞内外又は細胞表面に分泌しかつN-結合型糖鎖を有する糖蛋白質などが挙げられ、例として、各種酵素、各種ホルモン、細胞接着因子、各種受容体及び各種サイトカインなどが挙げられる。
この中でも、動物細胞内で機能するという観点から、各種酵素が好ましく、各種酵素としては、細胞内で機能する酵素が挙げられ、中でもリソソーム酵素が好ましい。リソソーム酵素としては、βヘキソサミニダーゼ(βN-アセチルグルコサミニダーゼ、βN-アセチルガラクトサミニダーゼ)、αN-アセチルグルコサミニダーゼ、βガラクトシダーゼ、αガラクトシダーゼ、αグルコシダーゼ、αイズロニダーゼ、αイズロン酸2スルファターゼ、βグルクロニダーゼ、βグルコセレブロシダーゼ、βガラクトセレブロシダーゼ、αN-アセチルガラクトサミニダーゼ、αフコシダーゼ、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンD、カテプシンH、カテプシンL、アスパルチルグルコサミニダーゼ、エンドβガラクトシダーゼ、エンドβN-アセチルグルコサミニダーゼ、βマンノシダーゼ、αマンノシダーゼ、アリルスルファターゼ、ヒアルロニダーゼ、酸性リパーゼ、酸性セラミダーゼ、酸性スフィンゴミエリナーゼ、αノイラミニダーゼ1、αノイラミニダーゼ4、N-アセチルグルコサミン-1-ホスホトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-1-ホスホジエステルαN-アセチルグルコサミニダーゼ、トリペプチジルペプチダーゼ、シアリン、へパランN-スルファターゼ、アセチル-CoAαN-アセチルグルコサミニド アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ、ガラクトース-6-硫酸スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、チオエステラーゼ、カテプシンK、プロサポシン、サポシンA、サポシンB、サポシンC、サポシンD、GM2活性化タンパク質、NPC1タンパク質、及びリポタンパクリパーゼ等が挙げられる。
また、上記の糖蛋白質の由来は、本発明の効果を損なうものでない限り特に限定されないが、動物細胞内に導入させて機能させるという観点から、動物細胞由来が好ましく、さらに、ヒトへの酵素補充療法の効果を高めるという観点から、ヒト由来であることがより好ましい。
<エンドM変異体>
本発明におけるエンドM変異体は、(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列の175番目のアミノ酸残基がグルタミン又はアラニンであるアミノ酸配列を有するエンドM変異体又は(b)前記(a)のアミノ酸配列の175番目のアミノ酸残基以外の1個又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加又は置換により、前記(a)のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列を有し且つ糖鎖転移反応を触媒する活性を有するエンドM変異体(エンドM変異体ホモログ)である。ここで、糖鎖転移反応とは、Man6Pが非還元末端に結合したN結合型糖鎖に由来する構造を有する糖鎖供与体と、上記一般式(1)で表される糖鎖受容体と、の間の糖鎖転移反応のことをいう。
本発明のエンドM変異体は、エンドMのアミノ酸に変異を導入した変異体である。配列番号1で示されるエンド酵素は、ムコールヒエマリス由来のエンドβ-Nアセチルグルコサミニダーゼ(GenBank Accession No.BAB43869)である。
本発明では、エンドM変異体としては、N175QもしくはN175Aであることで、糖鎖転移反応後の生成物の加水分解を十分に抑えることができる。また、糖鎖転移収量の観点からは、N175Q変異体であることが好ましい。
本発明のエンドM変異体は、通常の遺伝子工学的な手法によって調製することができ、様々な宿主の種類や、対応する適切な蛋白質発現ベクターを用いて調製することができる。宿主としては、大腸菌、ブレビバシラス菌、シアノバクテリウム、乳酸菌、酵母、昆虫細胞及び動物細胞などが挙げられる。この中でも調製のしやすさ、及び発現量の観点から、大腸菌を宿主とする方法や、酵母を宿主とする方法によって調製することが好ましい。具体的な製造方法としては、大腸菌であれば梅川らの文献[J. Biol. Chem., Vol.285(1), 511-521, (2010)]に詳しく記載され、酵母であれば特開平11-332568号公報に詳しく記載されている。
本発明のエンドM変異体及びエンドM変異体ホモログは、糖鎖転移反応において、他のペプチドもしくは蛋白質とそれらのC末端側もしくはN末端側で融合させた融合型エンドM変異体(もしくは融合型エンドM変異体ホモログ)としても用いることができる。融合させることができるペプチドもしくは蛋白質としては、糖鎖転移反応を阻害するものでなければ特に限定されないが、例えば、ヘキサヒスチジンペプチド(アミノ酸配列はN末端からHHHHHH)、フラッグペプチド(アミノ酸配列はN末端からDYKDDDDK)、インフルエンザHAポリペプチド(アミノ酸配列はN末端からYPYDVPDYA)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、ルシフェラーゼ、アビジン、キチン結合蛋白質、c-myc、チオレドキシン、ジスルフィド異性化酵素(DsbA)、マルトース結合蛋白質(MBP)、及び緑色蛍光蛋白質(GFP)などが挙げられる。この中でも、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの調製のしやすさという観点から、ヘキサヒスチジンペプチド及びフラッグペプチドが特に好ましい。
なお、上記の融合型エンドM変異体もしくは融合型エンドM変異体ホモログにおいては、融合させるペプチド又は蛋白質のポリペプチド部分と、エンドM変異体もしくはエンドM変異体ホモログのポリペプチド部分との間には数残基から50残基のリンカー領域としてのペプチド部分を含む。なお、リンカー領域を構成するアミノ酸残基の種類としては特に限定されない。リンカー領域には、プロテアーゼによって加水分解されるアミノ酸配列部分(プロテアーゼサイト)を含めてもよい。プロテアーゼサイトとしては特に限定されないが、例えば、ファクターXaサイト、トロンビンサイト、エンテロキナーゼサイト、プレシジョンプロテアーゼサイトが挙げられる。
天然から見いだされている糖質加水分解酵素は、公知の情報(http://www.cazy.org/)で示されるように、アミノ酸配列の相同性等から、百数十のグリコシルヒドラーゼファミリー(GHファミリー)に分類されている。エンドMは、GHファミリー85に属するグリコシルヒドラーゼであり、他のGHファミリー85に属する蛋白質としては、ヒトから細菌類までに広く分布すること知られている。エンドMのアミノ酸配列(配列番号1)を基に、一般に使用できるホモロジー検索(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を行うと、エンドMと他のGHファミリー85に属する蛋白質とは、アミノ末端側から500番目のアミノ酸付近までの触媒領域を含む領域内で、高い相同性を有することがわかる。
このため、本発明のエンド酵素変異体ホモログは、エンドMの触媒領域を含む500残基程度のアミノ酸配列の長さを有していれば、エンドMとしての糖鎖転移活性を有すると推定できる。
本発明のエンドM変異体ホモログは、N175Q変異体もしくはN175A変異体と80%以上の相同性を有し、かつ糖鎖転移活性を有するものであれば、175番目のアミノ酸残基以外のどのアミノ残基を他のアミノ酸に置換、欠失又は付加により調製されたものでもよい。
以上の観点から、本発明においては、本発明のエンドM変異体のアミノ酸配列の175番目のアミノ酸残基以外の1個又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加又は置換により生じるエンドM変異体ホモログのアミノ酸配列の前記エンドM変異体のアミノ酸配列に対する相同性が80%以上であれば糖鎖転移活性を十分に維持できる。また、90%以上であれば、糖鎖転移収量が向上しやすいことから好ましく、より好ましくは95%以上であり、特に好ましくは98%以上であり、最も好ましくは99%以上である。
本発明において、反応溶液中のエンドM変異体もしくはエンドM変異体ホモログの濃度は、0.1U/ml~1U/mlであることが好ましい。0.1U/ml以上であることで、糖鎖転移収量を高めることができ、1U/ml以下であることで、糖鎖転移反応後の生成物の加水分解反応をより抑制することができる。こここで、1ユニット(U)とは、シアログライコペプチド(以下SGPと称する)1μモルを、1分間で、βパラニトロフェニルGlcNAc(GlcNAcβ1-O-pNP)に転移する酵素量を示す。さらに、濃度としては、0.1U/ml~1U/mlであることがより好ましく、0.2U/ml~0.5U/mlであることが特に好ましい。
また、反応に用いるエンドM変異体もしくはエンドM変異体ホモログの精製度においては、反応時間の短縮化、糖鎖転移収量の観点から、SDS-ポリアクリルアミド電気泳動の結果等から、精製度が50%以上であることが好ましく、さらに70%以上であることが好ましく、80%以上であることが特に好ましく、90%以上であることが最も好ましい。精製度が50%以上であることで、反応時間を短縮化することができ、かつ糖鎖転移収量を高めやすい。
(糖鎖供与体)
糖鎖供与体としては、Man6Pが非還元末端に結合したN結合型糖鎖に由来する構造を有していればよく、一般式(1)で表される糖鎖受容体に糖鎖転移できるものであれば特に限定されない。N結合型糖鎖に由来する構造とは、N結合型糖鎖そのもの、及びN結合型糖鎖の誘導体も含むことを意味する。
また、糖鎖転移収量をより高める観点からは、下記一般式(2)で表される糖鎖供与体であることが好ましい。
Figure 0006996676000006

一般式(2)中、X~Xは、それぞれ独立に水素原子又は糖質由来の基を表し、X~Xの少なくとも一つは、非還元末端にMan6Pを有する糖質由来の基である。Zは、水素原子又はGlcNAcを表し、ZがGlcNAcである場合は、前記GlcNAcはβ1-4でGlcNAcに結合したManにβ1-4で結合している。Yは一価の置換基を表す。
一般式(2)中、X~Xが水素原子又は糖質由来の基であって、X~Xの少なくとも一つは、非還元末端にMan6Pを有する糖質由来の基であればよく、糖質由来の基としては、本発明の効果を損なうものでない限り特に限定されない。なお、Man6Pを有する糖質由来の基には、Man6Pそのものを含む。
上記一般式(2)中、X~Xのうち、Man6Pを非還元末端に有する糖質由来の基以外の基としては、水素原子以外に例えば、GlcNAcβ1-2、Galβ1-4GlcNAcβ1-2、NeuAcα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2、NeuAcα2-3Galβ1-4GlcNAcβ1-2、NeuGcα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2及びNeuGcα2-3Galβ1-4GlcNAcβ1-2、異種抗原:Galα1-3Galβ1-4GlcNAcβ1-2、ポリラクトサミン:[Galβ1-4GlcNAcβ1-3]nGalβ1-4GlcNAcβ1-2(nは任意の数)、ケラタン硫酸[Galβ1-4GlcNAc(6SO)β1-3]nGalβ1-4GlcNAcβ1-2(nは任意の数)、[Gal(6SO)β1-4GlcNAc(6SO)β1-3]nGalβ1-4GlcNAcβ1-2(nは任意の数)、LacDiNAc:GalNAcβ1-4GlcNAcβ1-2、硫酸化LacDiNAc:GalNAcβ1-4GlcNAcβ1-2、末端硫酸修飾(3SO)Galβ1-4GlcNAcβ1-2、ルイス糖鎖:Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-2、Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-2、Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAcβ1-2、Fucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAcβ1-2、血液型抗原:Fucα1-2Galβ1-4GlcNAcβ1-2、Galα1-3(Fucα1-2)Galβ1-4GlcNAcβ1-2、GalNAcα1-3(Fucα1-2)Galβ1-4GlcNAcβ1-2、HNK1抗原:(3SO)GlcAβ1-3Galβ1-4GlcNAcβ1-2、GlcAβ1-2及びGlcNAcAβ1-2が挙げられる。
また、X~Xのうち、Man6Pを非還元末端に有する糖質由来の基としては、GlcNAcβ1-2、Galβ1-4GlcNAcβ1-2、[Galβ1-4GlcNAcβ1-3]nGalβ1-4GlcNAcβ1-2(nは任意の数)、[Galβ1-4GlcNAc(6SO)β1-3]nGalβ1-4GlcNAcβ1-2(nは任意の数)等のオリゴ糖残基の非還元末端に、Man6Pがα1-2等で結合したものが挙げられる。
また、X~Xのうち、Man6Pを非還元末端に有する糖質由来の基以外の基は、水素原子以外にハイマンノース型糖鎖由来の構造のいずれかを有していてもよく、X~Xは、例えば、Manα1-6、Manα1-3、Manα1-2Manα1-3、Manα1-2Manα1-6、Manα1-2、Manα1-2Manα1-2等が挙げられる。
また、X~Xのうち、Man6Pを非還元末端に有する糖質由来の基としては、例えば、Man6Pα1-6、Man6Pα1-3、Man6Pα1-2Manα1-3、Man6Pα1-2Manα1-6、Man6Pα1-2、Man6Pα1-2Manα1-2等が挙げられる。
~Xが上記の場合には、Zは水素原子でもGlcNAcβ1-4であってもよい。
前記一般式(2)において、Yとしては酸素原子、窒素原子、炭素原子又は硫黄原子がGlcNAcの1位の炭素に直接結合する構造を含む置換基が挙げられる。
としては、糖鎖転移活性を低下させるものでなければ、特に限定されない。例えば、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アシルオキシ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アルキルエステル基、アリールエステル基、アミノ基、アシルアミノ基、イミド基、アジド基、カルボキシル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基、又はハロゲン基が挙げられ、これらの基の中で、アルコキシ基、アシルアミノ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基及びアリールスルホニルオキシ基が挙げられる。これらの置換基は、さらに置換基を有していてもよい。
以上の中でも、調製のしやすさから、Yはヒドロキシル基、置換基を有していてもよい炭素数1~30のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6~30のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1~30のアルケニルオキシ基及び置換基を有していてもよいアシルアミノ基が好ましい。
さらに、糖鎖供与体としての調製のしやすさ及び糖鎖転移収量の観点から、Yは炭素数1~10の置換基を有していてもよいアルコキシ基、炭素数2~10の置換基を有していてもよいアルケニルオキシ基、炭素数6~24の置換基を有していてもよいアリールオキシ基及び置換基を有していてもよいアシルアミノ基が好ましく、さらに炭素数1~8の置換基を有していてもよいアルコキシ基、炭素数2~6の置換基を有していてもよいアルケニルオキシ基、炭素数6~12の置換基を有していてもよいアリールオキシ基及び置換基を有していてもよいアシルアミノ基が特に好ましい。
具体的には、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、パラメトキシフェノキシ基、パラニトロフェノキシ基などが挙げられる。
また、置換基を有していてもよいアシルアミノ基としては、ペプチド又は蛋白質のアスパラギンの側鎖のアミノ基が結合したアシルアミノ基であることが好ましく、反応溶液中への溶解度及び糖鎖転移収量の観点からはペプチドのアスパラギンの側鎖のアミノ基が結合したアシルアミノ基がより好ましい。
また、上記の置換されていてもよい置換基は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、ピリジル基から選択される少なくとも1つであり、置換基が2以上ある場合には、それぞれの置換基は同一であっても異なっていてもよい。
上記一般式(2)で表される糖鎖供与体の調製方法としては特に限定されないが、調製方法の容易さから、例えば、N結合型糖鎖を調製し、さらにMan6Pを化学的に導入する方法が挙げられる。
N結合型糖鎖としては、ハイマンノース型糖鎖と複合型糖鎖が挙げられるが、ハイマンノース型糖鎖の調製方法としては、化学合成による方法であっても、天然物から調製する方法であってもよい。化学合成による方法としては、例えば、松尾らの文献[Tetrahedron, Vol. 62, 8262-8277, (2006)]に記載されるように、マンノシル残基を順次グリコシル化して調製する方法や、特開2007-297429号公報に記載されるように、化学合成的な手法とマンノシダーゼを組み合わせた方法が挙げられる。また、天然物から調製する方法としては、例えば、特許第3776952号及び特開平10-251304号公報に記載されるように、卵白アルブミンから抽出する方法が挙げられる。
上記のハイマンノース型糖鎖の調製方法の中でも、非還元末端にMan6Pを導入する観点から、合成による調製方法が好ましい。
複合型糖鎖の調製方法としては、化学合成による方法であっても、天然物から調製する方法であってもよい。化学合成による方法としては、例えば、Wangらの文献[J.Am.Chem.Soc., Vol.134(29), 12308, (2012)]に記載の方法によって調製することができる。天然物から調製する方法としては、例えば、卵黄から抽出する方法(例えば国際公開第962255号及び特開2011-231293号公報)を挙げることができる。
上記の複合型糖鎖の調製方法の中でも、非還元末端にMan6Pを導入する観点から、合成によって得られるものであることが好ましい。
また、上記で得られるN結合型糖鎖の非還元末端にMan6Pを導入する方法としては、化学的な導入方法を挙げることができる。化学的な導入方法としては、N結合型糖鎖の非還元末端にMan6Pが導入できれば、どのような合成経路であってもよく、目的とする糖鎖供与体の構造によって適宜選択される。また、リン酸基のマンノースへの導入方法は特に限定されないが、例えば、N結合型糖鎖の非還元末端のマンノース残基の6位水酸基にリン酸化試薬を反応させることによって導入することができる。リン酸化試薬としては、例えば、ピロリン酸テトラベンジル、環状亜リン酸アミド、ホスファイト、リン酸トリエステル、アミダイトが挙げられる。リン酸基を導入する場合には、N結合型糖鎖の非還元末端のマンノース残基の6位水酸基のみにリン酸基を導入する観点から、前記水酸基以外は保護基によって保護化されていることが好ましい。なお、保護化とは、水酸基が、上記のリン酸化試薬とは反応性を有しない基に変換されていることをいう。
また、糖鎖転移収量及び糖鎖転移後生成物の細胞内への導入効率からは、下記一般式(3)で表される糖鎖供与体であることが好ましい。
Figure 0006996676000007

一般式(3)中、X、X及びXは、それぞれ独立して、水素原子、Man、Manα1-2Man、Man6P、Man6Pα1-2Man又はMan6Pα1-6Manを表す。Manはマンノシル基を表す。Man6Pは、6位にリン酸基が結合したマンノシル基を表す。また、X-6は、Manの6位に結合したXを示し、X-3は、Manの3位に結合したXを示し、X-2は、Manの2位に結合したXを示す。X、X及びXの少なくとも一つは、Man6P、Man6Pα1-2Man及びMan6Pα1-6Manのいずれかであることを示す。GlcNAcはN-アセチルグルコサミニル基を表す。α1-6はManの1位とManの6位とのαグリコシド結合又はMan6Pの1位とManの6位とのαグリコシド結合を表し、α1-3はManの1位とManの3位とのαグリコシド結合を表し、α1-2はManの1位とManの2位とのαグリコシド結合又はMan6Pの1位とManの2位とのαグリコシド結合を表す。β1-4はGlcNAcの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合又はManの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合を表す。Yは一価の置換基を表す。
一般式(3)中、X、X及びXの少なくとも一つが、Man6P、Man6Pα1-2Man又はMan6Pα1-6Manのいずれかであれば、他は水素原子、Man、Manα1-2Man、Man6P、Man6Pα1-2Man又はMan6Pα1-6Manのいずれかであってよい。また、一般式(3)中、Man6Pを非還元末端に有するものは、X~Xのうちのいずれであってもよく、糖鎖転移させる目的のペプチド又は糖蛋白質の種類によって適宜調整されることが好ましい。しかし、糖鎖転移後生成物の細胞内への導入効率からは、XがMan6P、Man6Pα1-2Man又はMan6Pα1-6Manのいずれかであることがより好ましい。また、X~XのうちのMan6Pの数は、2以上がより好ましく、3であることが特に好ましい。
一般式(3)で表される糖鎖供与体のうち、すでに天然の糖蛋白質中に見出されているハイマンノース型糖鎖であるという観点からは、以下の一般式(3-1)~一般式(3-10)で表されるものが好ましく、中でも、一般式3-3がより好ましい。
Figure 0006996676000008

Figure 0006996676000009

上記一般式(3-1)~一般式(3-10)中、Yは一価の置換基を表す。Man6Pは、6位にリン酸基が結合したマンノシル基を表す。
は一般式(2)のYと同義であり、好ましい範囲も同じである。
上記一般式(3)で表される化合物は、例えば、公知の化学的なグリコシル化法と、上記のリン酸基などの導入法などを適宜組み合わせることにより調製できる。
(糖鎖受容体)
糖鎖受容体は、以下の一般式(1)で表されるGlcNAc含有糖蛋白質である。糖鎖受容体としては、前記一般式(1)で表されるものであれば、エンドM変異体の糖鎖転移活性を阻害するものでない限り、特に限定されない。
Figure 0006996676000010

一般式(1)中、Yは糖蛋白質に由来する構造を含むアシルアミノ基を表す。GlcNAcはN-アセチルグルコサミニル基を表す。
において、糖蛋白質としては、例えば、各種酵素、各種ホルモン、細胞接着因子、各種受容体及び各種サイトカインなどが挙げられる。中でも、細胞内で機能させる観点から各種酵素が好ましく、さらに、リソソーム膜上Man6Pレセプターを利用してリソソーム内で機能させる観点からは、リソソーム酵素が好ましい。リソソーム酵素としては、βヘキソサミニダーゼ(βN-アセチルグルコサミニダーゼ、βN-アセチルガラクトサミニダーゼ)、αN-アセチルグルコサミニダーゼ、βガラクトシダーゼ、αガラクトシダーゼ、αグルコシダーゼ、αイズロニダーゼ、αイズロン酸2スルファターゼ、βグルクロニダーゼ、βグルコセレブロシダーゼ、βガラクトセレブロシダーゼ、αN-アセチルガラクトサミニダーゼ、αフコシダーゼ、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンD、カテプシンH、カテプシンL、アスパルチルグルコサミニダーゼ、エンドβガラクトシダーゼ、エンドβN-アセチルグルコサミニダーゼ、βマンノシダーゼ、αマンノシダーゼ、アリルスルファターゼ、ヒアルロニダーゼ、酸性リパーゼ、酸性セラミダーゼ、酸性スフィンゴミエリナーゼ、αノイラミニダーゼ1、αノイラミニダーゼ4、N-アセチルグルコサミン-1-ホスホトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-1-ホスホジエステルαN-アセチルグルコサミニダーゼ、トリペプチジルペプチダーゼ、シアリン、へパランN-スルファターゼ、アセチル-CoAαN-アセチルグルコサミニド アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ、ガラクトース-6-硫酸スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、チオエステラーゼ、カテプシンK、プロサポシン、サポシンA、サポシンB、サポシンC、サポシンD、GM2活性化タンパク質、NPC1タンパク質、及びリポタンパクリパーゼ等が挙げられる。
また、上記の糖蛋白質の由来は、本発明の効果を損なうものでない限り特に限定されないが、動物細胞内に導入させて機能させるという観点から、動物細胞由来が好ましく、さらに、ヒトへの酵素補充療法の効果を高めるという観点から、ヒト由来であることがより好ましい。
一般式(1)で表される糖鎖受容体のうち、Yがアミノ酸残基数で30残基以下の糖蛋白質に由来する構造を含むアシルアミノ基であるものは、例えば、Huangら[Chembiochem., Vol.12(6), 932-941, (2011)]に示されるように、化学的な方法や特許文献(特開平10-45788号公報)に示されるようなペプチド伸長工程を含む化学的な合成法によって調製できる。さらに、試薬メーカーによって得られる糖ペプチド又はN結合型糖鎖の誘導体を、本発明のエンドM変異体もしくは市販のエンド酵素によって加水分解することで容易に調製できる。
また、Yが糖蛋白質に由来する構造を含むアシルアミノ基であるものは、市販の試薬や食品を購入して得られる糖蛋白質、遺伝子工学的な手法によって調製した糖蛋白質、あるいは食品や天然物を一般的な抽出分離法によって得られた糖蛋白質に対し、本発明のエンドM変異体もしくは市販のエンド酵素で加水分解することで容易に調製できる。
前記市販のエンド酵素としては、エンドH(ニューイングランドバイオラボ社製)、エンドS(シグマ-アルドリッチ社製)、エンドD(コスモバイオ社製)、エンドM(東京化成工業社製)、エンドF1~F3(シグマ-アルドリッチ社製)などが挙げられる。また、市販されていない酵素としては、GHファミリー85に属するグリコシルヒドラーゼ、又はGHファミリー18に属し、かつN-結合型糖鎖を加水分解する酵素であることが示されているものを挙げることができる。
上記の遺伝子工学的な手法による糖蛋白質の調製においては、目的の糖蛋白質をコードする遺伝子を、宿主となる細胞や個体に導入(トランスジェニック)して、所望とする糖蛋白質を調製することができる。宿主としては特に限定されないが、糖蛋白質を容易に調製する観点からは、酵母、昆虫細胞及び各種動物由来の細胞、並びに、個体である昆虫、両生類及び哺乳類等の動物が挙げられる。これらの宿主の中でも、糖鎖受容体の調製における経済性の観点から、昆虫細胞又は個体である昆虫がより好ましく、さらにカイコ細胞又はカイコが特に好ましく、個体であるカイコが最も好ましい。
カイコについては、例えば、伊藤らの文献[日本糖質学会年会要旨集(2011)、30th、54頁]に示されるように、外来遺伝子を導入されたカイコ(トランスジェニックカイコ)は、その中部絹糸腺中に大量に外来蛋白質を発現することが知られている。また、発現された該蛋白質が有する糖鎖は、ヒト型様部分構造を含み、昆虫特異的な糖鎖構造が付加されないという利点がある。
また、トランスジェニックカイコから調製される糖蛋白質は、例えば特開2015-208260号公報に示されるように、N結合型糖蛋白質糖鎖が主にハイマンノース型糖鎖であるため、多くのエンド酵素の基質となりやすく、糖鎖受容体の調製に有利である。
このため、大量にかつ安価に飼育が可能なカイコは、上記の糖蛋白質の調製にとって経済的に有利であるといえる。
(反応)
反応は、糖鎖転移反応を意味し、糖鎖転移反応は、エンドM変異体、糖鎖供与体及び糖鎖受容体を溶解させた溶液中で行われる。反応に用いる溶液としては、エンドM変異体の糖鎖転移活性を阻害しないものであれば特に限定されないが、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、炭酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、MES緩衝液、MOPS緩衝液、HEPES緩衝液、ホウ酸緩衝液及び酒石酸緩衝液などが挙げられる。これらの緩衝液は、単独でも組み合わせて用いられてもよい。
上記の中でも、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの糖転移活性の点から、MES緩衝液、MOPS緩衝液、HEPES緩衝液及びリン酸緩衝液が好ましい。
また、リン酸緩衝液の濃度としては、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの糖転移活性の点から、10mM~250mMが好ましく、20mM~150mMがより好ましく、特に好ましくは50mM~100mMである。10mM以上とすることで緩衝能力を高め、250mM以下とすることで、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの糖鎖転移活性を高め、糖鎖転移収量を高めることができる。
また、反応における溶液のpHは、糖鎖転移収量を高める観点から、5.5~8.5が好ましく、6.0~8.0がより好ましく、6.5~7.5が特に好ましい。
反応における温度としては、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの糖鎖転移活性の観点、糖鎖転移収量を高める観点及び糖鎖受容体やエンドM変異体等の安定性の観点から、4℃~40℃であることが好ましく、20℃~40℃であることがより好ましく、25℃~35℃であることが特に好ましい。4℃以上とすることで、エンドM変異体等の糖鎖転移活性を高めることができ、40℃以下とすることで、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの安定性を高めることができる。
糖鎖転移反応においては、反応溶液中のエンドM変異体(もしくはエンドM変異体ホモログ)の濃度は、0.005μg/μL~0.5μg/μLであることが好ましい。0.005μg/μL以上であることで、糖鎖転移活性を向上させ、0.5μg/μL以下であることで、エンドM変異体(もしくはエンドM変異体ホモログ)の糖鎖転移後生成物の再加水分解を抑制し、糖鎖転移収量を向上させることができる。
糖鎖転移反応において、糖鎖受容体の反応溶液中の濃度としては、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの糖鎖転移反応を阻害するものでなければ特に限定されるものでなく、所望とする糖鎖転移収量や糖鎖受容体の反応溶液中への溶解度等を考慮して適宜調整される。しかし、前記一般式(1)で表される糖鎖受容体が蛋白質を含むものでは、1.0mg/mL~20mg/mLが好ましい。この範囲であることで、より高い糖鎖転移収量を得ることができる。中でも、2.0mg/mL~10mg/mLであることがより好ましい。
糖鎖転移反応においては、糖鎖供与体の糖鎖受容体に対するモル比率(糖鎖供与体のモル数/糖鎖受容体のモル数)は、用いる糖鎖供与体もしくは糖鎖受容体の種類や、反応後における、それらの回収等を考慮して、適宜設定することができる。しかし、糖鎖転移収量の観点からは、モル比率は10~3000で行うことが好ましく、100~2000で行うことがより好ましく、200~1500で行うことが特に好ましく、さらに300~1000で行うことが最も好ましい。モル比率が10以上で、より十分な糖鎖転移収量を得ることができ、3000以下で行うことで、より高い糖鎖転移収量を得ることができる。
糖鎖転移反応における反応時間は、反応温度及びエンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの溶液中の濃度等によって、適宜設定されるが、3時間~100時間であることが好ましい。3時間以上であることで、糖鎖転移収量をより高めることができ、100時間以下であることで、糖鎖転移後の生成物の加水分解の影響をより抑制し、糖鎖転移収量を高めることができる。上記の反応時間の中でも、10時間~50時間であることがより好ましい。
また、反応方法としては、反応の糖鎖転移収量をさらに高める観点から、一定時間の反応後に、再度、反応溶液中に糖鎖供与体とエンドM変異体又はエンドM変異体ホモログを添加して、一定時間反応させることが好ましい。
本発明のMan6P含有糖蛋白質の製造方法では、個体、動物組織及び細胞等を使用しないので、外部からの夾雑物又はウィルスなどは混入する可能性は極めて低い。このため、上記の製造方法で製造されたMan6P含有糖蛋白質は、安全かつ機能を維持した医薬用組成物や薬品の構成成分として提供できる。また、医薬用組成物は、本発明によって製造されたMan6P含有糖蛋白質の他、製薬上許容し得る安定化剤、緩衝剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、嬌味剤、着色剤、香料等を適宜添加して、注射剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の剤形にすることができる。
また、本発明のMan6P含有糖蛋白質の製造方法では、多くの種類の糖鎖供与体を用いて、対応する多くの種類のMan6P含有糖鎖を高い割合で有する蛋白質が得られるため、得られたものは糖蛋白質標品としても有用である。
≪蛍光基結合型Man6P含有糖蛋白質の細胞内分布を検出する方法≫
本発明の蛍光基結合型Man6P含有糖蛋白質の細胞内分布を検出する方法は、上記の製造方法によって得られたMan6P含有糖蛋白質に、さらに蛍光基を導入して得られる蛍光基結合型Man6P含有糖蛋白質を、細胞に付与することによって、該糖蛋白質の細胞内分布を検出する方法である。蛍光基結合型とは、Man6P含有糖蛋白質に共有結合又はイオン結合で蛍光基が結合していることを意味する。
すなわち、上記の製造方法によって得られたMan6P含有糖蛋白質に、さらに蛍光基を導入し、これを目的の細胞に付与することにより、前記Man6P含有糖蛋白質の細胞内での局在性などの分布を検出することができる。前記方法では、蛍光基結合型Man6P含有糖蛋白質等が、Man6Pレセプターによって容易に細胞内に侵入するので、侵入後の蛍光Man6P糖蛋白質等の細胞内での挙動を、蛍光基が発する蛍光によって追跡することができる。
蛍光基の導入方法としては、例えば、Asanumaらの文献[Angew. Chem. Int. Ed. Engl., Vol. 53(24) 6085-6089, (2014)]及び五稜化薬株式会社のホームページに記載の文献(http://goryochemical.com/products/acidifluor/acidifluor-orange.html)を参考にして、適宜所望とする蛍光基を、上記の製造方法によって得られたMan6P含有糖蛋白質に導入することによって調製できる。また、蛍光基を導入する試薬は市販されており、例えば、五稜化薬株式会社製のAcidiFluor ORANGE-NHSを利用することができる。
前記検出方法においては、例えば、目的とする細胞や組織等に、前記蛍光Man6P糖蛋白質を添加させ、一定の雰囲気、温度、及び時間にてインキュベートした後に、蛍光顕微鏡等で観察することによって、前記蛍光Man6P糖蛋白質の細胞内での局在性や分布を知ることができる。前記蛍光Man6P糖蛋白質の細胞への添加量雰囲気、温度及び時間は、細胞の種類、前記蛍光Man6P糖蛋白質における蛋白質としての機能や性質等によって適宜調整される。
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に記載された態様に限定されるものではない。
以下、ヒトαイズロニダーゼはIDUAと称する。また特に断らない限り、IDUAは酵素としての活性を有するものであるものをさす。
「GlcNAc-IDUA」とは、IDUAのN結合型糖鎖を、エンド酵素によって加水分解した後に得られる蛋白質であり、IDUAを構成するポリペプチドに1つのGlcNAcが、少なくとも1か所結合していることを示す。
「Man6P-IDUA」とは、Man6P含有糖蛋白質をさし、特に断らない限り、後述するトランスジェニックカイコ(TGカイコとも称する)から得た後に3段階のクロマトグラフィーにより精製されたものをさす。
また、ヒトIDUAは、通常、6個のN結合型糖鎖を有し、以下TGカイコによって調製されるIDUAは、1個~6個のN結合型糖鎖の混合物である。
〔実施例1〕
<糖鎖受容体(GlcNAc-IDUA)の調製>
(IDUA遺伝子を導入したTGカイコの作製)
Takahashiらの文献[Proc Natl Acad Sci USA.,Vol.104,8941-8946, (2007)]及びKobayashiらの文献[Arch Insect Biochem Physiol.,Vol.76(4),195-210, (2011)]を参考にして、piggyBacトランスポゾンベクターに、カイコ中部絹糸腺(組織)に特異的な転写プロモーター(セリンシン1プロモーター)下流に転写因子GAL4、及びその認識配列UASの下流に、ヒトαイズロニダーゼ(IDUA)遺伝子、さらに遺伝子導入個体の選別用のキヌレニン酸化酵素遺伝子を挿入し、カイコ卵にインジェクションした。本方法により、遺伝子導入カイコ幼虫の中部絹糸腺特異的にIDUAを高発現するトランスジェニックカイコを作製した。
(カイコによるαイズロニダーゼの発現及び精製)
まず、上記で得られたTGカイコからIDUAを得ることを確認するための各種測定方法について説明し、次に、TGカイコからのIDUAの抽出及び分離精製方法について説明する。
<各種測定方法>
~SDS-PAGE/CBB染色~
SDS-PAGEには、スラブ電気泳動装置(バイオクラフト社製)を使用し、10%ポリアクリルアミド均一ゲルを用いて電気泳動を行った。SDS-PAGE後のゲル内タンパク質の検出は、CBB染色液[10%CBB-R350(GE社製)、27%メタノール、9%酢酸、0.1%CuSO]中で振盪し、1h以上染色を行った後、脱色液(10%酢酸)を用い6時間以上脱色することにより行った。
~ウェスタンブロッティング~
サンプルを10%SDS-PAGEで電気泳動を行った後、Trans-Blot SD Semi-Dry Electrophoretic Transfer Cell(バイオラッド社製)を使用しPVDF膜へのタンパク質の転写を、15Vの定電圧で1時間行った。転写用の緩衝液は48mMトリス、39mMグリシン、20%メタノールの混合溶液を用いた。転社したPVDF膜を、50%Blocking one(ナカライテスク)/TBS中で、室温で1.5時間振盪してブロッキングした。
stプローブとしてIDUA抗体(Anti-IDUA、sheep IgG polyclonal antibody、(R&D社製))を使用し、50%Blocking one/TBS中でPVDF膜を振盪した(4℃、O/N)。その後0.1%Tween20/TBS(TBST)中、PVDF膜について、室温で5分間の洗浄を5回繰り返した後、さらにTBS中、室温で5分間洗浄した。2ndプローブとして抗ヒツジ抗体(Biotin-conjugated anti-sheep antibody(Vector社製))を使用し、50%Blocking one/TBS中、PVDF膜を室温で1時間振盪した。その後TBST中、PVDF膜について、室温で5分間の洗浄を5回繰り返した後、さらにTBS中で室温で5分間洗浄した。3rdプローブとしてHRP-conjugated anti-biotin antibody(Cell Signaling社製)を使用し、50%Blocking one/TBS中でPVDF膜を室温で1時間振盪した。その後TBST中、PVDF膜について、室温で5分間の洗浄を5回繰り返した後、さらにTBS中、室温で5分間洗浄した。PVDF膜はWestern lightning Chemiluminescence Reagent Ultra/Plus(Perkin Elmer社製)により化学発光させ、画像解析装置[LAS-4000miniEPUV(富士フイルム社製)]を用いてシグナル(バンド)検出を行った。
~人工蛍光基質を用いる酵素活性測定法~
ヒトαイズロニダーゼ(IDUA)活性は4-メチルウンベリフェリル(4MU)-α-L-イドピラノシド(Tronto Research Chemicals社製)(以下、4MU-Idoと称することがある)を基質としてクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)中にて37℃で30分間インキュベートした後、遊離した4MUの蛍光強度(Ex:355nm、Em:460nm)を指標にして測定した。なお、4MU-Idoを基質とする酵素活性は、IDUA活性と称することがある。
<中部絹糸腺の採取方法>
カイコからの中部絹糸腺の採取は、公知の一般的な方法によって行った。5令~熟蚕期のTGカイコの腹側(第4節~第5節付近)の外皮を(手術用手袋を装着した人手で)割き、割かれた部分から押し出されてくる絹糸腺を引き出した。生理食塩水中で、採取した絹糸腺組織全体から、前部、後部絹糸腺及び付着した脂肪体組織を除去し、中部絹糸腺のみを分取して回収した。生理食塩水での洗浄を2回行った後に50頭分ずつをコニカルチューブに詰め、-20~-30℃で凍結保存した。
<中部絹糸腺からのIDUA精製>
IDUAは、3段階のクロマトグラフィー操作(アフィニティークロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー)と、上記のIDUA活性測定方法を併せて行うことによって精製することで得られた。
まず、上記のTGカイコから採取した中部絹糸腺を解凍後、細断し、0.5MのNaClを含有した20mM酢酸ナトリウム緩衝液 (pH4.5)中で超音波破砕し、抽出液Aを調製した。
得られた抽出液Aについて、4MU-Idoに対する酵素活性(IDUA活性)を測定した結果を図1に示す。なお、図1中、未導入とは、IDUA遺伝子を導入していないカイコから、上記の方法と同様に得られた中部絹糸腺の抽出液BについてIDUA活性を測定したものである。
結果から、IDUA遺伝子を導入したTGカイコから得られた抽出液Aは、抽出液Bに比べて顕著に高いIDUA活性を示した。
また、得られた抽出液に対してヒトIDUA抗体を用いたウェスタンブロッティングを行ったところ、図2中のレーン1及び2に示すように、IDUA遺伝子未導入のカイコから抽出された蛋白質含有溶液では何らのバンドも得られなかったのに対し、レーン3及び4に示すように、IDUA遺伝子を導入したTGカイコから抽出された蛋白質含有溶液では80kDa付近に強いバンドが見出された。
以上の結果から、ヒトIDUA遺伝子を導入したTGカイコから、IDUA活性を有するIDUAを含む抽出液Aが得られた。
上記にて得られた抽出液Aを、遠心分離[20、000xg、4℃、20分(ベックマンコールター社製、AvantiJ-E、ロータ:JRA16.250)]によって遠心後、上清を回収した。得られた上清にまず終濃度が1mMとなるようにCaCl及びMnClを添加し、予め結合用緩衝液[20mM酢酸ナトリウム緩衝液、500mMのNaCl、1mMCaCl及び1mMのMnCl含有(pH4.5)]で平衡化したConA樹脂(ConAセファロース4B、GE社製)を含む遠心管内で、蓋で密閉後、ローテータ(Taitec社製のRT-50)で緩やかに撹拌し、抽出液A内の糖タンパク質のConA樹脂への吸着を行った(4℃、O/N)。遠心後の上清を除去し、ConA樹脂の洗浄用緩衝液[20mM酢酸ナトリウム緩衝液、1MのNaCl、1mMのCaCl及び1mMのMnCl含有(pH4.5)]を用いてConA樹脂の洗浄を行った。その後、溶出用緩衝液[20mM酢酸ナトリウム緩衝液、500mMのNaCl、1mMのCaCl、1mMのMnCl、及び0.5Mのメチル-α-D-マンノピラノシド(pH4.5)]により溶出を行った。得られた溶出画分(以下、ConA溶出画分と称する)を、アミコンウルトラフィルターユニット(分画分子量30kDa)(ミリポア社製)を用いて濃縮後、陽イオン交換カラム結合用緩衝液[10mM酢酸ナトリウム緩衝液、150mMのNaCl含有(pH6.0)]を用いて緩衝液交換を行った。その後、0.22μmのフィルター(ミリポア社製)を用いて、前記溶出画分中の不溶物を除去した後、AKTA purifier UPC-10(GE社製)に装備されている陽イオン交換クロマトグラフィー用のカラム(HiTrap SP HP(GE社製))にアプライし、NaCl濃度を150mMから500mMまで連続的に増大させる条件によって精製操作を行った。IDUA活性を示す溶出画分(以下、SP溶出画分と称する)をアミコンウルトラフィルターユニット(分画分子量30kDa)(ミリポア社製)を用いて濃縮後、ブチル-セファロースカラム結合用緩衝液[50mM酢酸ナトリウム、1M硫酸アンモニウム、150mMのNaCl含有(pH4.5)]との緩衝液交換を行った。その後、0.22μmフィルターで濾過を行い、AKTA purifier UPC-10に装備されている疎水性相互作用クロマトグラフィー用のカラム(HiTrap Butyl FF、GE社製)にアプライし、硫酸アンモニウム濃度を1Mから0Mまで連続的に低下させる条件によって精製操作を行い、分画された各画分のIDUA活性を測定し、活性を有する画分(以下、Butyl溶出画分と称する)を集めた。上記の各精製方法によって得られた画分の比活性の結果を、表1に示す。また、抽出液、ConA溶出画分及びSP溶出画分についてSDS-PAGEを行った結果を図3に示す。表1及び図3中、Extractは、上記抽出液Aを示し、ConA eluateは、上記のConA溶出画分を示し、SP eluateは、上記のSP溶出画分を示し、Butyl eluateは、上記のButyl溶出画分を表す。なお、SDS-PAGEは各レーンに同量(10μg)のタンパク量をアプライして行った。
Figure 0006996676000011

結果から、上記の精製方法によって得られたButyl溶出画分の4MU-Idoに対する比活性は、抽出液A(Extract)の4MU-Idoに対する比活性の30倍以上に向上していることから、前記TGカイコから、高度に精製されたIDUAを得ることができた。
また、図3のSDS-PAGEの結果から、SP溶出画分及びButyl溶出画分の80kDa付近のバンド以外のバンドの染色濃度が、抽出液のものに比べて顕著に薄くなっていることから、得られたSP溶出画分及びButyl溶出画分に存在するIDUAが高度に精製されていることが示された。なお、以下、前記Butyl溶出画分に存在するIDUAをTG-IDUAと称する。
上記の精製操作によって得られたIDUAを含む画分は、以下に示す糖鎖受容体の調製に用いた。
〈エンド酵素によるGlcNAc-IDUA(糖鎖受容体)の調製〉
糖鎖受容体は、以下のように、上記にて得られたTG-IDUAを、エンド酵素(Endo-D、New England Biolabs社製)によってマンノース残基数が5以下のN結合型糖鎖を加水分解することにより調製した。
4mgのTG-IDUA と1000UのEndo-Dを50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)(500mMのNaCl含有)800μLに溶解し,37℃で24時間インキュベートした。インキュベート後はChitin resin(New England Biolab社製)によってEndo-Dを吸着除去した。具体的には50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)(500mMのNaCl含有)で平衡化したChitin resin 100μLに対して上記インキュベート後溶液を加えて、4℃で2時間穏やかに撹拌した。その後サンプルをムロマックカラム(ムロマチテクノス社製)に加え,素通り画分を回収した。この画分はアミコンウルトラフィルターユニット(分画分子量30kDa)(ミリポア社製)を用いて濃縮し、さらに50mMの2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液(pH6.0)への緩衝液交換を行った。得られた画分をGlcNAc-IDUA(糖鎖受容体)とした。
<糖鎖供与体の調製>
(試薬及び測定方法)
用いた試薬は特に記載がない場合、東京化成工業株式会社のものを使用した。NMRは日本電子株式会社製ECA-400を使用した。MALDI-TOF MS測定はブルカー・ダルトニクス社製autoflex speed-tko1リフレクタ システムを使用した。薄層クロマトグラフィー(以下TLCと称する)はメルク社製60F 254を用い、10%硫酸エタノールにて発色させた。
<各種測定方法>
~MALDI-TOF MS~
反応液をそのままもしくは精製後のサンプルを溶媒(例えば塩化メチレン、酢酸エチル、メタノール、トルエン、アセトン、水)に溶解した溶液及びDHBA溶液(20mg/mlの2,5-ジヒドロキシ安息香酸を50%メタノール水溶液に溶解させた溶液)の0.5~2μLずつを、MALDI-TOF MS分析用のplateにスポットし乾燥させ、MALDI-TOF MS分析を、autoflex speed-tko1リフレクタ システム(ブルーカー・ダルトニクス社製)を用い、下記の測定条件で行った。
・測定モード:positive ion mode又はnegative ion mode及びreflector mode又はLinear mode
・測定電圧:1.5Kv~2.5Kv
・測定分子量の範囲:0~10000(m/z)
・積算回数:500~10000
以下、具体的な糖鎖供与体の調製方法を示す。
(化合物12(糖鎖供与体)の合成)
糖鎖供与体として化合物12を、下記に示す経路で合成した。
Figure 0006996676000012

上記経路で示すように、公知のグリコシル化法にて6糖の誘導体(化合物6)を合成した。その後、還元末端のパラメトキシフェニル基を脱離基であるフルオロ基に変換し、後述するようなグリコシル化の条件でグリコシル化を行って、7糖の誘導体である化合物9を合成した後、リン酸基を導入する位置の2つの保護基を脱保護し、続いてリン酸基を導入した後、保護基を脱保護することで、末端にMan6Pを有する7糖のパラメトキシフェニル誘導体(糖鎖供与体)を得た。
~化合物6の合成~
東京化成工業株式会社製のMan[2Bz、3All、46Bzd]β(1-4)GlcNPhth[36Bn]-β-MP(製品コード:M2442)より誘導した化合物1(2.9g、3.1mmol)と文献[Tetrahedron Lett., Vol.51, 4323-4327, (2010)]に従い合成した化合物2(4.7g、4.6mol)をトルエン150mlに溶解しモレキュラーシーブス4Å15gを加え室温で1時間撹拌した。反応液を-30℃に冷却し、N-ヨードスクシンイミド1.6g(7.0mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸61μL(0.7mmol)を加え3時間撹拌した。TLCにて反応を確認後、反応液にトリエチルアミン210μL(1.5mmol)を加え反応を停止し、セライトで濾過した。反応液を酢酸エチルで希釈し、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後に濾過し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=11:1)で精製し、化合物3(4.5g、2.5mmol)を収率76%で得た。
次にナスフラスコにトリフルオロメタンスルホン酸銀0.91g(3.5mmol)、ハフノセンジクロリド0.67g(1.8mmol)、モレキュラーシーブス4Å4.2gを入れ、化合物3のベンジリデンアセタール保護基を脱保護することにより得られた化合物4(1.3g、0.7mmol)のトルエン21mL溶液を加え1.5時間撹拌した。反応液を-30℃に冷却後、文献[Tetrahedron Lett., Vol.40, 8049-8053, (1999)]に従い合成したO-(6-O-アセチル-2、3、4-トリ-O-ベンジル-α-D-マンノピラノシル)-(1→6)-2、3、4-トリ-O-ベンジル-α-D-マンノピラノースより調製した化合物5(0.82g、0.88mmol)のトルエン21mL溶液を、前記反応液に加え1時間撹拌した。この溶液をセライト濾過後に、酢酸エチルで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=8:1→5:1)で精製し、1.7gの生成物を得た。生成物について、NMR測定を行い下記の結果を得た
H-NMR(CDCl、400MHz)δ(ppm):5.54(d、1H、J=8.7Hz、H-1a)、4.67(brs、1H、H-1b)、4.33(m、1H、H-2a)、4.18(m、1H、H-3a)、4.06(m、1H、H-4a)、3.42(m、1H、H-5a)、1.93(s、3H、Ac)、1.88(s、3H、Ac).
13C-NMR(CDCl、100MHz)δ:170.92、170.73、155.34、150.87、137.90-139.10(arom.)、126.86-128.51(arom.)、118.72、114.30、101.99、101.49、99.28、98.43、98.00、97.62、83.15、79.84、79.67、79.40、79.06、78.60、75.36、75.17、75.10、74.97、74.82、74.71、74.57、74.41、74.12、73.47、73.35、72.70、72.54、72.20、72.01、71.36、71.05、70.58、69.97、68.12、66.68、65.61、63.57、63.48、55.57、20.84.
以上の測定結果によって、糖鎖供与体である化合物6(0.61mmol)を収率87%で得られたことが示された。
~化合物9の合成~
化合物6(1.0g、0.36mmol)をアセトニトリル20mL、トルエン15mL、水10mLに溶解した。0℃に冷却し、硝酸アンモニウムセリウム(IV)2.0g(3.6mmol)を加え2時間撹拌した。反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=3:1)で精製し、還元末端が脱保護された1-OH体0.81g(0.31mmol)を収率84%で得た。得られた1-OH体0.81g(0.31mmol)を塩化メチレン8.1mLに溶解させた後に-20℃に冷却し、(ジエチルアミノ)サルファートリフルオリド0.16mL(1.2mmol)を加え1.5時間撹拌した。TLCにて反応を確認後、反応液にメタノール(0.1mL、3.1mmol)を加え反応を停止し、塩化メチレンで希釈した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=5:1)で精製し、化合物7(0.72g、0.27mmol)を得た。
次にナスフラスコにトリフルオロメタンスルホン酸銀0.21g(0.82mmol)、ハフノセンジクロリド0.28g(1.6mmol)、モレキュラーシーブス4Å2.2gを加え[参考文献;文献1(Tetrahedron Lett., Vol.30, 4853-4856, (1989))及び文献2(Carbohydr Lett., Vol.295, 25-39, (1996))]、さらに東京化成工業株式会社製の化合物8(製品コード:M1615)(0.24g、0.41mmol)をトルエン11mL溶液に加え、アルゴン雰囲気下2時間撹拌した。反応液を-30℃に冷却後、化合物7(0.72g、0.27mmol)のトルエン(11mL)溶液を加え13時間撹拌した。TLCにて反応を確認後、この溶液をセライト濾過し、酢酸エチルで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製し、化合物9(0.70g、0.22mmol)を化合物6に対し収率72%で得た。
~化合物10の合成~
化合物9(0.52g、0.16mmol)をn-ブタノール10mLに溶解し、エチレンジアミン0.54mL(8.1mmol)加え110℃で6時間撹拌後、室温で10時間撹拌し、さらに140℃に昇温して10時間撹拌した。TLCにて反応を確認後、反応液を減圧濃縮し、トルエン共沸をおこなった。得られた残渣にピリジン(5mL)を加え溶解させ、無水酢酸(0.24mL、2.58mmol)及び4-ジメチルアミノピリジン5.0mg(0.041mmol)加え、室温で4時間撹拌し、さらに50℃で3時間撹拌した。TLCにて反応を確認後、反応液を減圧濃縮し、トルエン共沸後、酢酸エチルで希釈した。有機層を2M塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:メタノール=100:1→80:1)で精製し、アセチル化された化合物0.35g(0.11mmol)を収率71%で得た。得られた前記化合物0.34g(0.12mmol)をテトラヒドロフラン1.7mLとメタノール1.7mLの混合溶媒に溶解させ、ナトリウムメトキシド(2.5μL、0.012mmol)を加え2.5時間撹拌した。その後さらにナトリウムメトキシド(5.0μL、0.023mmol)加え17時間撹拌した。DOWEX(50WX8(200-400H))を加え中和し、濾過後に、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:メタノール=70:1)で精製し、化合物10(0.24g、0.085mmol)を収率73%で得た。
~化合物11の合成~
文献[Bull.Chem.Soc.Jpn., Vol.81, No.7, 796-819, (2008)]に従いリン酸化を行った。化合物10(0.10g、0.034mmol)をテトラヒドロフラン3mLに溶解しアルゴン雰囲気下ピロリン酸テトラベンジル0.18g(0.34mmol)を加え-60℃に冷却した。その後、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド(約26%テトラヒドロフラン溶液、約1.3mol/L)の67μL(0.088mmol)を加え1.5時間撹拌した。さらに、2時間、3.5時間後にそれぞれリチウムビス(トリメチルシリル)アミド(約26%テトラヒドロフラン溶液、約1.3mol/L)の67μL(0.088mmol)を加え0.5時間攪拌した。TLCにて反応を確認後、反応液に酢酸エチル及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え反応を停止した。酢酸エチルで希釈後、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後に濾過し、減圧濃縮した。得られた残渣をゲル濾過カラムクロマトグラフィーで粗精製した。次いで、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:アセトン=8:1→7:1)で精製し、化合物11(90mg、0.026mmol)を収率76%で得た。
~化合物12の合成~
化合物11(0.085g、0.024mmol)をテトラヒドロフラン15mL、エタノール6mL、水6mLの混合溶液に溶解し、パラジウム炭素(0.34g)加え水素気流下で22時間撹拌した。TLCにて反応を確認後、反応液をセライト濾過し、減圧濃縮した。得られた残渣をDOWEX(Na)にてナトリウム塩に変換後、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーで精製し、0.035gの生成物を得た。生成物について、NMR測定を行い下記の結果を得た。NMR測定により得られた測定値を下記に示す。また、得られたH-NMRスペクトルを図4に示し、その拡大したスペクトルを図5にそれぞれ示す。また、生成物をMALDI-TOF MS測定により得られた測定値を下記に示し、得られたマススペクトルを図6に示す。
H-NMR(DO、400MHz)δ(ppm):6.94-7.03(m、4H)、5.39(brs、1H)、5.01-5.03(m、2H)、4.90(m、2H)、4.81(brs、1H)、4.62(d、1H、H-1、J1,2=7.78Hz)、3.62-4.22(m、44H)、2.08(s、3H、Ac)、2.02(s、3H、Ac).
13C-NMR(DO、100MHz)δ(ppm):175.53、175.44、155.53、151.73、118.94、115.76、103.15、102.08、101.61、101.15、100.51、100.19、80.43、79.75、75.43、75.09、72.85、72.64、71.39、71.35、71.01、70.87、70.63、67.20、66.68、60.64、56.48、55.63、22.92、22.81.
31P-NMR(DO、162MHz)δ(ppm):3.03(brs、2P).
MALDI-TOF/MS calcd for [M-H]1499.40;found、1499.96.
以上の測定結果によって、糖鎖供与体である化合物12を収率86%で得られたことが示された。
<エンドM変異体>
本実施例で用いられるエンドM変異体は、N175Q変異体(東京化成工業社製、グライコシンターゼリコンビナント)を用いた。
(エンドM変異体による糖鎖転移)
〈Man6PR(Dom9-His)の調製方法〉
Man6Pを検出するためのレクチン(CI-Man6PR)は、以下のように調製した。
すなわち、Akeboshiらの文献[APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY, Vol. 73, 4805-4812, (2007)]を参考にして作製したCI-Man6PR(Dom9-His)発現用プラスミドベクターを、メタノール資化性酵母株(Pichia pastorisGS11)5株にエレクトロポレーション法により導入した。2%メタノールを含むBMGY培地で5日培養した後、培養後の酵母を含む培養液全量を遠心分離(6000rpm、4℃、1h、KUBOTA6800(ロータ:RA-1500))し、培養上清を回収した。培養上清は0.22μmフィルター(ミリポア社製)を用いてフィルトレーションし、限外ろ過[Labscale TFF System、PelliconXL5K(ミリポア社製)]により濃縮した。
濃縮された培養上清を、Hisタグ精製用樹脂(Ni-Sepharose 6 Fast Flow、GE社製)に結合させた後、前記樹脂に付属されているプロトコールに従って、洗浄用緩衝液[20mMリン酸ナトリウム、0.5MのNaCl含有(pH8.0)]で洗浄し、溶出用緩衝液[20mMリン酸ナトリウム、0.5MのNaCl含有、50mMイミダゾール(pH8.0)]を用いて溶出させることで、CI-Man6PR(Dom9-His)を含む溶液を得た。得られた溶液を適宜希釈して、後述する糖鎖転移反応後溶液中の生成物中のMan6Pの検出に用いた。
<エンドM変異体による糖鎖転移反応>
糖鎖受容体として、上記のGlcNAc-IDUA、糖鎖供与体として、上記の化合物12を、50mMの2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液(pH6.0)10μLに溶解し、下記の条件にて糖鎖転移反応を行った。
<条件>
・糖鎖供与体:化合物12・・・200nmol
・糖鎖受容体:GlcNAc-IDUA・・・200pmol
・エンドM変異体:N175Q・・・2mU
・糖鎖受容体(A)に対する糖鎖供与体(D)のモル比(D/A):1000
・反応温度:30℃
・反応時間:24時間
<レクチンブロット>
サンプル(糖鎖転移反応後の溶液等)について、7.5%SDS-PAGEで電気泳動を行った後、Trans-Blot SD Semi-Dry Electrophoretic Transfer Cell(バイオラッド社製)を使用しPVDF膜へのタンパク質の転写を、15Vの定電圧で1時間行った。転写用の緩衝液は48mMトリス、39mMグリシン、20%メタノールの混合溶液を用いた。転社したPVDF膜を、50%Blocking one(ナカライテスク)/TBS中で、室温で1.5時間振盪してブロッキングした。
stプローブとして上記のDom9-Hisを使用し、50%Blocking one/TBS中でPVDF膜を振盪した(4℃、O/N)。その後0.1%Tween20/TBS(TBST)中、PVDF膜について、室温で5分間の洗浄を5回繰り返した後、さらにTBS中、室温で5分間洗浄した。2ndプローブとして抗His抗体(Anti-His tag-mouse IgG(QIAGEN社製))を使用し、50%Blocking one/TBS中、PVDF膜を室温で1時間振盪した。その後TBST中、PVDF膜について、室温で5分間の洗浄を5回繰り返した後、さらにTBS中で室温で5分間洗浄した。3rdプローブとしてHRP-conjugated anti-mouse IgG(Biosource社製)を使用し、50%Blocking one/TBS中でPVDF膜を室温で1時間振盪した。その後TBST中、PVDF膜について、室温で5分間の洗浄を5回繰り返した後、さらにTBS中、室温で5分間洗浄した。PVDF膜はWestern lightning Chemiluminescence Reagent Ultra/Plus(Perkin Elmer社製)により化学発光させ、画像解析装置[LAS-4000miniEPUV(富士フイルム社製)]を用いて、露光時間1秒でかつ高感度の取込み条件でシグナル(バンド)検出を行った。
上記の反応後の溶液について、SDS-PAGEを行った結果を図7Aに示し、さらにレクチンブロットを行った結果を図7Bに示す。なお図7A及び図7B中のレーン1は、IDUA遺伝子を導入したCHO細胞(K1株、理化学研究所セルバンク)の培養後に精製して得られたIDUA(以下、CHO-IDUAと称する)を含む試料の結果であり、レーン2は、TG-IDUAを含む試料の結果であり、レーン3は、TG-IDUAをエンドDで処理した後の試料の結果であり、レーン4は糖鎖転移反応後の結果である。
図7Aから、レーン3に示すように、レーン3のバンドがレーン2のバンドよりも低分子量側にバンドが現れていることから、上記のエンドDの処理によって、TG-IDUAからGlcNAc-IDUAが得られていることが示された。次に、レーン4に示すように、糖鎖転移反応を行った後は、レーン3の80kDa付近のGlcNAc-IDUAのバンドが消滅し、代わりに、高分子量側にバンドが現れた。従って、糖鎖受容体であるGlcNAc-IDUAに糖鎖転移が起こり、1個~6個のN結合型糖鎖に2個~12個のMan6Pが結合した糖鎖転移後生成物が得られたことが示された。
また、図7Bの結果から、図7Bのレーン2~4中、レーン4のバンドに相当するバンドのみに強い発光シグナルが得られることから、糖鎖転移後生成物がMan6Pを有することが示唆されたことから、糖鎖供与体中のMan6Pを含む糖鎖が、糖鎖受容体に糖鎖転移したことが示された。以上の結果から、糖鎖転移後生成物のほぼすべてが、少なくとも1つのM6P含有糖鎖を有していることが示唆された。
このように、上記のMan6Pを有する糖鎖供与体を用いた糖鎖転移反応は、Man6P含有糖蛋白質の調製に有効であることが示された。
<Man6P含有糖蛋白質(Man6P-IDUA)の調製>
実施例1の糖鎖転移反応後の溶液を、アミコンウルトラフィルターユニット(分画分子量30kDa)(ミリポア社製)を用いて限外ろ過を行い,未反応の糖鎖供与体を除去した。またリン酸生理緩衝溶液(以下、PBSと称する)への緩衝液交換を行い、Man6P-IDUA(10.5μg)を得た。得られたMan6P-IDUAを、以下のムコ多糖症1型患者繊維芽細胞(MPS1患者由来繊維芽細胞)等に対する補充効果の検討に用いた。
また、以下、TG-IDUA、GlcNAc-IDUA及びMan6P-IDUAを総称して、補充酵素と称することがある。
(MPS1患者由来繊維芽細胞への補充効果)
補充効果は、以下のように、各補充酵素を、各種細胞に添加した後に得られる前記細胞内の酵素(酵素源)についての活性を比較することによって検討した。
<各種細胞>
MPS1患者由来繊維芽細胞は、徳島大学病院小倫理委員会の承認と患者様へのインフォームド・コンセントを経て、口腔粘膜組織から、Ham‘s F-10培地(+10% Fetal bovine serum)存在下で誘導し、接着培養及び継代操作により樹立することで得た。健常人の繊維芽細胞である”normal fibro”(Hs68)は、ATCC製品(製品番号:CRL-1635)を購入して入手し、同様に接着培養及び継代した。
<各酵素源>
各酵素源は以下のように調製した。
コラーゲンコート24ウェルプレート(Collagen-coated microplate 24well、IWAKI社製)に培養された5x10cells/ウェルのMPS1患者由来細胞又は健常人の繊維芽細胞(HS68)を有する培養液1mLに、それぞれ上記の、TG-IDUA(エンド酵素未処理のIDUA)を2000nmol/h(2.5μg)、GlcNAc-IDUAを2000nmol/h(2.85μg)及びMan6P-IDUA2000nmol/h(4.6μg)のいずれかを添加し、5%CO雰囲気下、37℃の条件で24時間培養した。培養後、細胞をPBS1mLで2回洗浄後、さらに0.2mLの0.5%トリプシンEDTA溶液を添加し、5分間インキュベートすることによって細胞をウェルから剥がした。培養液1mLを加え、トリプシンの反応を停止させた後、4℃、200xgで5分間遠心分離することで細胞を回収した。得られた細胞に対し50mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)(500mMのNaCl、1%のNP40、1μMのペプスタチンA、20μMのロイペプチン及び2mMのEDTAを含む)100μLを加え、超音波発生装置(MUS-10、東京理化器械株式会社製)によって細胞を破砕した。その後4℃、17,900xgで15分間遠心分離し、得られた上清を酵素源として次の酵素活性測定に供した。また健常者の繊維芽細胞についても同様の抽出処理を行い、得られた酵素源を次の酵素活性測定に供した。
なお、MPS1患者由来繊維芽細胞に、補充酵素のいずれも加えずにインキュベートした後、上記の調製方法によって得られた酵素源をMPS-Eと称し、健常人の繊維芽細胞(HS68)に、補充酵素のいずれも加えずにインキュベートした後、上記の調製方法によって得られた酵素源をNF-Eと称する。また、MPS1患者由来繊維芽細胞に、TG-IDUAを添加してインキュベートした後、上記の調製方法によって得られた酵素源をMPS-C-Eと称し、MPS1患者由来繊維芽細胞にGlcNAc-IDUAを添加してインキュベートした後、上記の調製方法によって得られた酵素源をMPS-GI-Eと称し、MPS1患者由来繊維芽細胞に、Man6P-IDUAを添加してインキュベートした後、上記の調製方法によって得られた酵素源をMPS-MI-Eと称する。
<酵素活性測定>
IDUA活性については、4-メチルウンベリフェリル(4MU)-α-L-イドピラノシド(Tronto Research Chemicals社製)(以下、4MU-Idoと称することがある)を基質としてクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)中にて37℃で30分間インキュベートした後、遊離した4MUの蛍光強度(Ex:355nm、Em:460nm)を指標にして測定した。なお、4MU-Idoを基質とする酵素活性は、IDUA活性と称することがある。
また、β-ヘキソサミニダーゼ活性であるMUG分解活性は、4-メチルウンベリフェリル(4MU)-N-アセチル-β-D-グルコサミニド(SIGMA社製)を基質としてクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)中にて37℃、30分間インキュベート後、遊離した4MUの蛍光強度(Ex:355nm、Em:460nm)を指標にして測定した。
<評価>
MPS1患者由来繊維芽細胞への補充効果は、以下のように評価した。すなわち、各酵素源(MPS-E、NF-E、MPS-C-E、MPS-GI-E及びMPS-MI-E)のそれぞれのIDUA活性の活性回復比を、各酵素源のMUG分解活性を対照酵素活性として、以下の式1によって算出することにより求めた。
各活性回復比=(各酵素源のIDUA活性/各酵素源のMUG分解活性)/MPS-EのIDUA活性・・・式1
図8Aは、上記の各補充酵素をMPS1患者由来繊維芽細胞等に添加して24時間インキュベートした後の細胞内のIDUA活性における活性回復比を示し、図8Bは、上記の各酵素源のMUG分解活性を示す。また、図8Aの各カラム上の数字は、活性回復比の値を示し、図8Bの各カラム上の数字は、MUG分解活性の値を示す。
結果から、MPS-E以外の、他の酵素源の活性回復比は、MPS-Eの23倍~52倍という非常に高い値を示した。また、MPS-MI-Eの活性回復比は、他の酵素源の活性回復比に比較して最も活性回復比が高いことが示された。従って、Man6P-IDUAを、IDUA活性を有しない細胞(MPS1患者由来繊維芽細胞)に添加した場合には、該細胞内のIDUA活性を著しく向上させることが示された。このように、Man6P-IDUAを細胞に添加することで、細胞内にIDUA活性を有する酵素が補充され、該活性をより向上させることが示された。
(蛍光基修飾されたMan6P含有化合物の細胞内分布の検出)
以下のように、蛍光基修飾されたMan6P含有化合物(Man6P-Man5-AFO)、及び蛍光基修飾されたMan6P-IDUAを調製し、それらを用いて、細胞内でのMan6P含有化合物及びMan6P-IDUAの局在性及び分布を調べた。
<蛍光基修飾されたMan6P含有化合物の合成>
非還元末端にMan6Pを含有する化合物は、Asanumaらの文献[Angew.Chem.Int.Ed.Engl., Vol.53(24), 6085-6089, (2014)]及び五稜化薬株式会社のホームページに記載の文献(http://goryochemical.com/products/acidifluor/acidifluor-orange.html)を参考にして合成した。すなわち、上記で得られた化合物7と、文献[Tetrahedron Lett., Vol.61, 4313-4321, (2005)]に従い合成した3-(Carbobenzoxyamino)-1-propyl 3,6-di-O-benzyl-2-deoxy-2-phthalimido-β-D-glucopyranosideとを用い、化合物12の合成法と同様の方法により、図9に示すように、3位にアミノ基を有するn-プロポキシ基を有する化合物AFを合成した。さらに、酸性pHで活性化する蛍光分子(AcidiFluor ORANGE-NHS、五稜化薬株式会社製)と結合させることで、化合物AF1を作製した。得られた化合物AF1と化合物AFのMALDI-TOF MSスペクトルを図10に示す。結果から、原料化合物である化合物AFから、蛍光基修飾されたMan6P付加型化合物(Man6P-Man5-AFO)が得られたことが示された。なお、AFOとは蛍光化合物(AcidiFluor ORANGE)をさす。
次に6糖のオリゴ糖の誘導体であるMan6P-Man5-AFOがMPS1患者由来繊維芽細胞表面のMan6Pレセプターとの結合を介して、細胞内に取り込まれるかどうかを評価した。Man6P-Man5-AFOを最終濃度50nMで、35mmコラーゲンコートディッシュ(35mm/Collagen-coated dish、IWAKI社製)中に培養されたMPS1患者由来繊維芽細胞を含む培養液に添加し、24時間後に、Man6P-Man5-AFOの蛍光を蛍光顕微鏡(BZ-9000、KEYENCE社製)で観察した。結果を図11に示す。
結果から、AFO試薬自体は、細胞内に取り込まれなかったのに対し、Man6P-Man5-AFOは細胞名に取り込まれ、蛍光が観察された。一方、M6Pレセプターの取り込みにおける競合阻害剤である5mMのマンノース6リン酸(M6P)存在下では細胞内蛍光は観察されなかったことから、Man6P-Man5-AFOは、細胞表面のM6Pレセプターを介して取り込まれ、酸性pHを有する細胞内小器官である後期エンドソーム/リソソームまで輸送されていることを示した。したがってMan6P-Man5-AFOは、Man6Pに結合した分子を、細胞内小器官(リソソーム)へと送達するためのタグとして機能することが示された。
<蛍光基修飾されたMan6P-IDUAの合成>
上記によって得られたMan6P-IDUA30μgを、0.1M重炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.3)300μLに溶解後、DMSOに溶解したAcidiFluor ORANGE-NHS(五稜化薬株式会社製)60μgを(DMSO量6μL)を加え、チューブ内で混合し、遮光しながら室温で2時間撹拌した。アミコンウルトラフィルターユニット(分画分子量30kDa)(ミリポア社製)にて限外ろ過し、未反応のAcidiFluor ORANGE-NHSを除去することで、蛍光基修飾された(蛍光基結合型)Man6P-IDUA(Man6P-IDUA-AFO)を得た。得られたMan6P-IDUA-AFOは、使用直前まで-80℃で保存した。
<Man6P-IDUA-AFOの細胞内分布の検出>
上記で得られたMan6P-IDUA-AFOを、最終濃度70nMで、8ウェルチャンバースライド(8-well chamber slide、Nunc社製)に培養されたMPS1患者由来繊維芽細胞の培養液に添加し、24時間後にPBSで細胞を洗浄し、その後にAFOの蛍光を蛍光顕微鏡(BZ-9000、KEYENCE社製)で観察した。結果を図12に示す。
結果から、細胞内に取り込まれ、酸性pHオルガネラ(後期エンドソーム/リソソーム)での蛍光が観察された。一方、M6Pレセプターの取り込みにおける競合阻害剤である5mMのマンノース6リン酸(M6P)存在下では細胞内蛍光は著しく減少していた。また、この場合に、Man6P-IDUA-AFOは、細胞内に取り込まれず、酸性pHオルガネラでの蛍光は観察されなかった。したがって、Man6P-IDUA-AFOは、繊維芽細胞表面のM6Pレセプターを介して取り込まれ、酸性を有する細胞内小器官である後期エンドソーム/リソソームまで輸送されていることが示された。
このように、蛍光基が導入されたMan6P含有糖蛋白質を用いることによって、目的とするMan6P含有糖蛋白質の細胞内での局在や分布を容易に検出できることから、当該Man6P含有糖蛋白質を用いる検出方法の有効性が示された。
〔実施例2〕
<Man6P含有CTSAの調製>
(CTSA遺伝子恒常発現CHO細胞株の培養上清からのCTSAの精製)
組換えヒトCTSA(組換えヒトカテプシンA;CTSA)遺伝子を恒常的に発現しているCHO細胞株(CHO/CTSA株)からCTSAタンパク質を3段階の精製法(アフィニティークロマトグラフィー→疎水性相互作用クロマトグラフィー→アフィニティークロマトグラフィー)で精製した。
はじめに、CHO/CTSA株の培養上清についてConAセファロース4B(GE Healthcare社製)を用いたアフィニティークロマトグラフィーを行い、CTSAタンパク質を精製した。具体的には、培養上清を集め、終濃度が1mMとなるようにCaCl及びMnClを培養上清に加えた。次にConAセファロースを結合用緩衝液[20mM MES緩衝液、150mM NaCl、1mM CaCl、1mM MnCl(pH5.5)]で平衡化し,これに培養上清をアプライしてConAへの吸着を行った。素通り画分を除去した後,ConA洗浄用緩衝液[20mM MES緩衝液、500mM NaCl、1mM CaCl、1mM MnCl(pH5.5)]を用いてConAセファロースの洗浄を行った。その後,溶出用緩衝液[20mM MES緩衝液、150mM NaCl、1mM CaCl、1mM MnCl2、0.5M メチル-α-D-マンノピラノシド(pH5.5)]により溶出を行った。
次に得られたConAカラム溶出画分をアミコンウルトラフィルターユニット30kDaカットで濃縮し、Butyl結合用緩衝液[50mM MES, 1M 硫酸アンモニウム(pH5.5)]に緩衝液を交換した。その後,0.22μmフィルターでフィルトレーションを行い,HiTrap Butyl HPカラム(GE Healthcare社製)を用いた疎水性相互作用クロマトグラフィーにて精製した。精製にはAKTA purifier UPC-10を使用し,カラムへのCTSAタンパク質吸着後に硫酸アンモニウム濃度を1Mから0Mまで連続的に変化させながら溶出した。得られたButylカラム溶出画分は、アミコンウルトラフィルターユニット30kDaカット(Millipore製)を用いて、Phos-tag(登録商標)結合用緩衝液[100mM トリス-酢酸緩衝液 (pH7.5)]に緩衝液を交換した。
その後,Phos-tag(登録商標)アガロース(Wako社製)を用いたアフィニティークロマトグラフィーにて精製した。Phos-tag(登録商標)アガロースを結合用緩衝液[100mM トリス-酢酸緩衝液 (pH7.5)]で平衡化し,これにサンプルをアプライしてPhos-tag(登録商標)アガロースへの吸着を行った。素通り画分を除去した後,Phos-tag(登録商標)洗浄用緩衝液[100mM トリス-酢酸緩衝液 (pH7.5)]を用いてPhos-tag(登録商標)アガロースの洗浄を行った。その後,溶出用緩衝液[20mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)]によりCTSAの溶出を行った。
(エンド酵素によるGlcNAc-CTSA(糖鎖受容体)の調製)
糖鎖受容体は、上記により得られたCTSAについて、エンド酵素(Endo-Hf、New England Biolabs社製)を用いて、マンノース数が5以上のN結合型糖鎖のキトビオース構造を加水分解することにより調製した。60μgのCTSAと120UのEndo-Hfとを50mM MES緩衝液(pH6.0)の緩衝液200μLに溶解し,4℃で48hインキュベートした。反応後、MBPトラップカラム(GE Healthcare社製)を用いて、Endo-Hfを吸着除去した。具体的には反応溶液について、アミコンウルトラフィルターユニット10kDaカット(Millipore製)を用いて、20mM トリス-HCl緩衝液(pH7.0)、200mM NaClに緩衝液を交換した。その後,0.22μmフィルター(Millipore製)でフィルトレーションを行い,20mM トリス-HCl緩衝液(pH7.0)、200mM NaClで平衡化したMBPトラップカラム1mLに対して反応溶液を加えて、Endo-HfをMBPトラップカラムに吸着させた。素通り画分を回収し、さらに20mM トリス-HCl緩衝液(pH7.0)、200mM NaCl 2mLを、MBPトラップカラムに加えて素通り画分を洗い出した。素通り画分はアミコンウルトラフィルターユニット10kDaカット(Millipore製)を用いて濃縮し、50mM MES緩衝液(pH6.0)に緩衝液を交換した。得られた画分をGlcNAc-CTSA(糖鎖受容体)とした。
(エンドM変異体による糖鎖転移反応)
糖鎖受容体として、前記のGlcNAc-CTSA、糖鎖供与体として、前記の化合物12、糖鎖転移酵素として、エンドM変異体(グライコシンターゼ(Endo-M-N175Q)、東京化成工業社製;製品コードG0365)を、60μLの50mM MES緩衝液(pH6.0)、150mM NaClに溶解して下記の条件にて糖鎖転移反応を行った。
〈条件〉
・糖鎖供与体:化合物12・・・200nmol
・糖鎖受容体:GlcNAc-CTSA・・・200pmol
・糖鎖転移酵素:グライコシンターゼ(Endo-M-N175Q)・・・2mU
・糖鎖受容体(A)に対する糖鎖供与体(D)のモル比(D/A):1000
・反応温度:30℃
・反応時間:24h
上記の反応後の溶液について、SDS-PAGE後のゲルのCBB染色を行った結果を図13Aに示し、さらにレクチン(Dom9-His(Akeboshi H.らの文献、Glycobiology(2009)19(9):1002-1009を参照))を1次プローブとしてレクチンブロットを行った結果を図13Bに示す。なお図13A及びB中のレーン1はCTSAを含む試料の結果であり、レーン2は、GlcNAc-CTSAを含む試料の結果であり、レーン3は、糖鎖転移反応後の結果である。
図13Aの結果から、レーン2のバンドがレーン1のバンドよりも低分子量側に現れていることから、上記のEndo-Hfの処理によって、CTSAからGlcNAc-CTSAが得られていることが示された。次にレーン3に示すように、エンドM変異体(Endo-M(N175Q)を用いて糖転移反応を行った後は、レーン3のバンドがレーン2のバンドよりも高分子量側に現れた。したがって、糖鎖受容体であるGlcNAc-CTSAに糖転移反応が起こり、末端Man6P含有N型糖鎖が1~2本結合した糖鎖転移後生成物が得られたことが示された。
また、図13Bの結果から、図13Bのレーン2において消失した発光シグナルが、レーン3において新たに得られることから、糖鎖供与体中のMan6Pを含む糖鎖が、糖鎖受容体に糖鎖転移したことが示された。

Claims (5)

  1. 下記(a)のエンドM変異体の存在下、マンノース-6-リン酸基が非還元末端に結合したN結合型糖鎖に由来する構造及びキトビオシル骨格を有する糖鎖供与体と、下記一般式(1)で表される糖鎖受容体と、の間の糖鎖転移反応により、マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質を製造するマンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の製造方法:
    (a)配列番号1で示されるアミノ酸配列の175番目のアミノ酸残基がグルタミン又はアラニンであるアミノ酸配列を有するエンドM変異体。
    Figure 0006996676000013

    (一般式(1)中、Yは糖蛋白質に由来する構造を含むアシルアミノ基を表す。GlcNAcはN-アセチルグルコサミニル基を表す。)
  2. 前記一般式(1)中、Yは、リソソーム酵素に由来する構造を含むアシルアミノ基である請求項1に記載のマンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の製造方法。
  3. 前記糖鎖供与体が、下記一般式(2)で表される請求項1又は請求項2に記載のマンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の製造方法。
    Figure 0006996676000014

    (一般式(2)中、X、X、X、X、X及びXは、それぞれ独立に水素原子又は糖質由来の基を表し、X、X、X、X、X及びXの少なくとも一つは、非還元末端にマンノース-6-リン酸基を有する糖質由来の基である。Zは、水素原子又はGlcNAcを表し、ZがGlcNAcである場合には、前記GlcNAcはβ1-4でGlcNAcに結合したManにβ1-4で結合している。Yは一価の置換基を表す。GlcNAcはN-アセチルグルコサミニル基を表し、β1-4はGlcNAcの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合又はManの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合を表す。Manはマンノシル基を表し、α1-6はManの1位とManの6位とのαグリコシド結合を表し、α1-3はManの1位とManの3位とのαグリコシド結合を表す。)
  4. 前記糖鎖供与体が、下記一般式(3)で表される請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のマンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の製造方法。
    Figure 0006996676000015

    (一般式(3)中、X、X及びXは、それぞれ独立して、水素原子、Man、Manα1-2Man、Man6P、Man6Pα1-2Man又はMan6Pα1-6Manを表す。Manはマンノシル基を表す。Man6Pは、6位にリン酸基が結合したマンノシル基を表す。また、X-6は、Manの6位に結合したXを示し、X-3は、Manの3位に結合したXを示し、X-2は、Manの2位に結合したXを示す。X、X及びXの少なくとも一つは、Man6P、Man6Pα1-2Man及びMan6Pα1-6Manのいずれかであることを示す。GlcNAcはN-アセチルグルコサミニル基を表す。α1-6はManの1位とManの6位とのαグリコシド結合又はMan6Pの1位とManの6位とのαグリコシド結合を表し、α1-3はManの1位とManの3位とのαグリコシド結合を表し、α1-2はManの1位とManの2位とのαグリコシド結合又はMan6Pの1位とManの2位とのαグリコシド結合を表す。β1-4はGlcNAcの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合又はManの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合を表す。Yは一価の置換基を表す。)
  5. マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質を請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法により製造する工程と、
    前記製造する工程によって得られるマンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質に、さらに蛍光基を導入して蛍光基結合型マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質を取得する工程と、
    前記蛍光基結合型マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質を細胞に付与する工程と、
    を含む、前記蛍光基結合型マンノース-6-リン酸基含有糖蛋白質の細胞内分布を検出する方法。
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