JP6990139B2 - 移植材料の製造方法 - Google Patents
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Description
この工程では、健常な哺乳動物から皮膚組織(例えば表皮組織および/または真皮組織)を採取し、採取した組織から細胞を分離し、培養対象細胞(例えば表皮細胞や線維芽細胞)を準備する。このとき、トリプシンなどの酵素を用いて組織から培養対象細胞を分離してもよい。また、皮膚組織(例えば真皮組織)を組織片の状態で基材(例えばプラスティック基材)上に置き、組織片から遊走する細胞を培養対象細胞(例えば線維芽細胞)として分離してもよい。哺乳動物とはヒトを含むあらゆる哺乳動物を意味する。
この工程では、組織から分離した細胞を培養する。この工程では、例えばヒト表皮細胞を培養する場合、不活化したフィーダー細胞(例えばマウス由来線維芽細胞)を基材(例えばプラスティック基材)上にあらかじめ播種し、そこに培養対象細胞(ヒト表皮細胞)を播種してフィーダー細胞と共培養することが好ましい。培地は、たとえばウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ変法イーグル最少必須培地(DMEM)を使用し、定期的に新鮮な培地に交換する。培養増殖させた細胞は、コンフルエントに達する前にトリプシン等の酵素を用いて基材より剥離し、新たな培養容器に低密度で播種することにより培養を継続してもよい。必要に応じ、凍結保護剤(グリセロール、ジメチルスルホキシド(DMSO)など)を含む凍結液に細胞を懸濁後、凍結保存してもよい。凍結保存は、-150℃以下の温度で保存することが好ましく、例えば、液体窒素中、液体窒素気相中又は超低温冷凍庫で保存することができる。凍結保存した細胞は必要時に解凍し、培養を再開すればよい。培養工程では、最終的に、培養容器(例えば培養フラスコ)内で細胞がコンフルエントに達するまで培養を継続する。
この工程では、コンフルエントまで培養した細胞シートを、ディスパーゼなどの酵素を用いて基材から剥離する。その際、支持体を細胞シート上(基材とは反対側の面)に配置し、細胞シートの周縁を支持体に接着又は懸架させて剥離してもよい。支持体を用いることで、細胞シートの収縮を抑制できるし、細胞シートを把持しやすくなる。支持体の大きさや形状は特に限定されないが、細胞シートの収縮を抑制でき、細胞シートの把持が容易になるような大きさや形状が好ましく、例えば細胞シートよりひとまわり小さい薄板状のものが好ましい。支持体の形状は、例えば、角板状、円盤状、枠状などの種々の形状であってもよい。支持体の材質は、たとえばセルロース製の不織布や非固着性の創傷被覆材とすることができる。必要に応じて乾燥工程の前に細胞シートを支持体から剥脱してもよい。また、乾燥時に細胞シートの収縮が懸念される場合などには、細胞シートを支持体に接着又は懸架させたまま乾燥工程に用いてもよい。この工程で得られる細胞シートの厚みは、例えば50μm以下であり、多くは10μm以上30μm以下である。細胞シートの厚みの測定は、例えばパラフィン切片を作製し、HE染色を行い、各切片の厚さを画像解析ソフトWinRoofを用いて測定する。3箇所の視野×各視野(切片の長さ400μm)5カ所の計15カ所で測定した厚みの平均値を細胞シートの厚みとする。
この工程では、送風乾燥、加温乾燥、自然乾燥及び化学乾燥のうちの1以上で、細胞が死滅するまで細胞シートを乾燥させて移植材料を得る。細胞が死滅したか否かは、以下のように確認する。乾燥させた細胞シートをトリプシンで処理して細胞を分離し、再び工程(b)と同様に培養容器に播種し(再播種)、フィーダー細胞と共培養する。細胞が増殖する場合には細胞が死滅しておらず、細胞が増殖しない場合には細胞が死滅していると判断することができる(以下では、再播種試験とも称する)。
この工程では、乾燥細胞シート(移植材料)を、包装する。このとき、乾燥台座から剥脱し、あるいは乾燥台座に接着させた状態で包装容器に封入してもよいし、支持体に接着又は懸架させた状態で包装容器に封入してもよい。包装容器としては、水分を透過しない材質で構成されたものや、包装容器内に乾燥剤が封入されたものなど、移植材料の含水量が過度に高くなることを防ぐ構造のものが好ましい。また、移植材料は、乾燥工程で細胞が死滅しているため、包装前あるいは包装後に、γ線照射などにより滅菌を行ってもよい。包装後に滅菌することで、移植時まで滅菌状態を維持できるとともに、培養工程や乾燥工程において求められるクリーン環境の要件を包装後に滅菌しない場合よりも緩和できる。
[実施例1]
<表皮細胞シートの作製>
健常なヒトの皮膚組織よりトリプシンなどの酵素を用いて表皮細胞を分離した(工程(a))。
剥離した表皮細胞シートを、送風乾燥により乾燥させた。送風乾燥は、シリコーンシート製の乾燥台座に表皮細胞シートを置き、25℃の風に90分間表皮細胞シートをさらすことで乾燥させ、乾燥細胞シートを得た(工程(d))。このときの乾燥速度は、0.15g/h・cm2であった。
表皮細胞シートの乾燥/乾燥細胞シートの作製において、送風乾燥(加温送風乾燥)にあたり、乾燥台座の一方(表皮細胞シートを載置する面)を45℃に加熱し、45分間表皮細胞シートを送風にさらした以外は、実施例1と同様とした。
表皮細胞シートの乾燥/乾燥細胞シートの作製において、加温送風乾燥に先立って、表皮細胞シートをイソプロパノールと接触させて、化学脱水した。それ以外は、実施例2と同様とした。
表皮細胞シートの乾燥/乾燥細胞シートの作製において、送風乾燥に代えて、凍結乾燥を行った以外は、実施例1と同様とした。凍結乾燥では、まず-80℃の超低温冷凍庫で約24時間凍結し、それを真空凍結乾燥機にて乾燥させ、乾燥細胞シートを得た。
<乾燥細胞シートの含水量>
得られた乾燥細胞シートの含水量を以下のようにして測定した。メタノールに乾燥細胞シートを2時間浸漬して水分を抽出後、0.45μmフィルターでろ過を行い、得られたろ液をガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)にて測定した。
以下のように、再播種試験を行い、細胞が死滅していることを確認した。まず、乾燥細胞シートをトリプシンにより分散し、得られた細胞懸濁液(細胞シート25cm2分)をフィーダー細胞をあらかじめ播種した培養フラスコ(培養面積25cm2)に播種し、CO2インキュベーターに入れて37℃、10%CO2の条件下で培養した。培養フラスコ内の培地は、定期的に新鮮なものに交換した。コンフルエントに達するか培養14日目に達するかのいずれかを満たしたときに培地を除去し、1%ローダミンB染色液を添加して60分以上処理し、水道水で十分に染色液を洗浄して風乾させ、表皮細胞で被覆された面積を評価した。その結果、実施例1~3の乾燥細胞シートでは、表皮細胞での被覆率が0%であった。すなわち、再播種試験で細胞が増殖しなかった。このことから、細胞が死滅していることが確認された。
表皮細胞から放出される生理活性物質は、それぞれ役割が明らかにされつつあり、創傷治癒等の効果が得られることが知られている。特に、培養した表皮細胞は、正常な表皮よりも多くの生理活性物質を放出していると言われている。乾燥細胞シートの創傷治癒効果を検討するため、以下のように生理活性物質の定量を行った。
得られた乾燥細胞シートを、生理食塩水に1分間浸漬し、含水細胞シートを得た。含水細胞シートは、乾燥前の表皮細胞シートのような状態に戻る。含水細胞シートの質感について官能試験を行い、柔軟性を評価した。その結果、実施例1~3の含水細胞シートは、乾燥前の表皮細胞シートと同等の柔軟性を有していた。なお、実施例1~3のうち、化学脱水を行った実施例3では、実施例1,2に比してやや硬質であった。このような柔軟性を有する移植材料では、移植創面の複雑な凹凸に極めてよく追従することができるため、実施例1~3の移植材料は、乾燥していない表皮細胞シート(生細胞で構成された表皮細胞シート)と同程度に創傷治癒効果に貢献するものと考えられる。
実施例1~3の乾燥細胞シートを、乾燥した状態のままマウスの全層欠損部に適用し、生理食塩水で浸潤させて、経過を観察した。その結果、無移植群に比べ明らかな創傷治癒促進効果が確認できた。なお、動物実験では、異種動物の細胞から製造した移植材料を用いたが、同種動物の細胞から製造した移植材料を用いた場合でも同様の効果が得られると推察され、本発明の移植材料は、患者と同種動物の細胞から製造したものであることが好ましい。
Claims (4)
- 哺乳動物皮膚由来の細胞をシート状に培養した細胞シートを、送風乾燥、加温乾燥、自然乾燥及び化学乾燥のうちの1以上で前記細胞が死滅するまで乾燥させる工程を含む、移植材料の製造方法。
- 前記細胞シートを、含水量3μg/cm2以上100μg/cm2以下まで乾燥する、請求項1に記載の移植材料の製造方法。
- 前記細胞シートは、表皮細胞シートである、請求項1又は2に記載の移植材料の製造方法。
- 請求項1~3のいずれか1項に記載の移植材料の製造方法であって、
前記細胞シートを乾燥させる工程に先立って、不活化したフィーダー細胞をプラスティック基材上にあらかじめ播種し、哺乳動物皮膚由来の前記細胞を共培養し、その後前記細胞シートを剥離することによって、前記細胞シートを得る工程を含む、移植材料の製造方法。
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