本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
〔実施形態〕
実施形態に係るレーザ加工方法及びレーザ加工装置1について説明する。レーザ加工方法は、被加工物Wの被加工面Waにパルスレーザ光を照射して被加工面Waを加工する方法である。レーザ加工装置1は、レーザ加工方法を実施するための装置であり、パルスレーザ光LBを被加工物Wに照射して当該被加工物Wを加工する。ここで、被加工物Wは、例えば、金属素材等から形成される。被加工物Wは、例えば、3Dプリンタによる積層造形物や、ツールマーク等が形成された金属加工物である。以下、レーザ加工方法及びレーザ加工装置1について詳細に説明する。
なお、以下の説明では、第一方向(X方向)と第二方向(Y方向)と第三方向(Z方向)とは、それぞれ直交する方向である。第一方向と第二方向とは、後述する被加工物Wを載置する載置面81b上で直交する方向である。第三方向は、載置面81bに直交する方向である。なお、第一方向と前記第二方向とは、典型的には、被加工物Wの厚み方向に直交する面を仮想平面とした場合、当該仮想平面上で直交する方向であり、第三方向は、仮想平面に直交する方向である。
レーザ加工装置1は、例えば、パルスレーザ光LBの焦点を固定し当該パルスレーザ光LBを被加工物Wの被加工面Waに集光して加工する。レーザ加工装置1は、図1に示すように、レーザ光照射部10と、シャッター20と、アッテネータ30と、ビームエキスパンダ40と、ビーム伝送光学系50と、落射光学系60と、対物レンズ70と、駆動部80と、ランプ照明90と、カメラ100と、ガス供給装置110と、制御部120とを備える。
レーザ光照射部10は、パルス状の出力(パルスレーザ光LB)を一定の繰り返し周波数で発振するレーザ光発振器である。レーザ光照射部10は、例えば、パルス幅可変光源をシード光源に用いた主発振器出力増幅器(MOPA;Master Oscillator Power Amplifier)である。レーザ光照射部10は、MOPAを用いた場合、パルスレーザ光LBの出力特性の一例は次の通りである。すなわち、パルスレーザ光LBの動作波長は、1030nm±1nm程度であり、繰り返し周波数は、5kHz〜10MHz程度であり、パルス幅は、50ps〜1μs程度であり、出力パワーは、10W以上であり、偏波は、直線であり、ビーム品質であるスクエア(M2)は、1.2未満であり、真円度は、80%超過である。レーザ光照射部10は、パルスレーザ光LBをシャッター20に出力(出射)する。なお、パルス幅とは、パルスレーザ光LBのピークパワーの半分の地点におけるパルスの立ち上がりと立ち下がりの時間間隔である。レーザ光照射部10は、MOPAを用いることによりパルス幅を可変することができるので、様々な加工に対応することができ、加工コストを抑制することができる。
シャッター20は、パルスレーザ光LBの透過と遮断とを切り替えるものである。シャッター20は、レーザ光照射部10とアッテネータ30との間に設置され、レーザ光照射部10から出力されたパルスレーザ光LBを透過又は遮断する。シャッター20は、透過したパルスレーザ光LBをアッテネータ30に出力する。
アッテネータ30は、パルスレーザ光LBの強度を調整する減衰器である。アッテネータ30は、シャッター20とビームエキスパンダ40との間に設置され、シャッター20から出力されたパルスレーザ光LBの強度を調整してビームエキスパンダ40に出力する。
ビームエキスパンダ40は、パルスレーザ光LBのビーム径を広げるものである。ビームエキスパンダ40は、アッテネータ30とビーム伝送光学系50との間に設置され、アッテネータ30から出力されたパルスレーザ光LBのビーム径を広げてビーム伝送光学系50に出力する。
ビーム伝送光学系50は、パルスレーザ光LBを導光する導光ミラー等から構成される光学系である。ビーム伝送光学系50は、ビームエキスパンダ40と落射光学系60との間に設置され、ビームエキスパンダ40から出力されたパルスレーザ光LBを導光して落射光学系60に出力する。
落射光学系60は、パルスレーザ光LBが進行する方向を変更する方向変更ミラー等から構成される光学系である。落射光学系60は、ビーム伝送光学系50と対物レンズ70との間に設置され、ビーム伝送光学系50から出力されたパルスレーザ光LBの進行方向を変更して対物レンズ70に出力する。
対物レンズ70は、パルスレーザ光LBを集光して被加工物Wの被加工面Waにパルスレーザ光LBを照射するものである。対物レンズ70は、落射光学系60と駆動部80との間に設置され、落射光学系60から出力されたパルスレーザ光LBを集光し、駆動部80に載置された被加工物Wの被加工面Waにパルスレーザ光LBを照射する。
駆動部80は、被加工物Wを保持すると共に対物レンズ70等を含む光学系に対して被加工物Wを相対移動させるものである。駆動部80は、XY軸駆動部81と、Z軸駆動部82とを備える。XY軸駆動部81は、平板状の載置台81aと、固定部(図示省略)と、ボールネジ等から構成されるXY軸駆動機構(図示省略)とを備える。XY軸駆動部81は、固定部により被加工物Wを載置台81aの載置面81bに固定し、XY軸駆動機構により対物レンズ70等の光学系に対して被加工物WをX方向又はY方向に相対移動させる。Z軸駆動部82は、ボールネジ等から構成されるZ軸駆動機構(図示省略)を備え、Z軸駆動機構により対物レンズ70等の光学系に対して被加工物WをZ方向に相対移動させる。
ランプ照明90は、被加工物Wを照明により照らすものである。ランプ照明90は、例えば、駆動部80の載置面81bに対向して設置され、載置面81bに載置された被加工物Wに照明を照らす。
カメラ100は、被加工物Wを撮像するものである。カメラ100は、駆動部80の載置面81bに対向して設置され、載置面81bに載置された被加工物Wの被加工面Waの凹凸を撮像する。カメラ100は、撮像した画像を制御部120に出力する。
ガス供給装置110は、ガスを供給するものである。ガス供給装置110は、例えば、図2に示すように、空気配管111と、ガス配管112と、分岐コネクタ113と、混合ガス配管114と、第1流量調整部115と、第2流量調整部116と、集塵機117とを含んで構成される。
空気配管111は、酸化促進用ガス(助燃性ガス)としての空気(大気)を供給可能な配管である。空気配管111は、一端が空気供給部(図示省略)に接続され他端が分岐コネクタ113に接続されている。空気配管111は、空気供給部から供給される空気を分岐コネクタ113に向けて流す。
ガス配管112は、酸化抑制用ガスとしての不活性ガス(例えばアルゴン、窒素ガス等)を供給可能な配管である。ガス配管112は、一端が不活性ガス供給部(図示省略)に接続され他端が分岐コネクタ113に接続されている。ガス配管112は、不活性ガス供給部から供給される不活性ガスを分岐コネクタ113に向けて流す。
分岐コネクタ113は、流体を分岐又は混合させるコネクタである。分岐コネクタ113は、いわゆるT型分岐コネクタであり、第1流入口113a、第2流入口113b、及び、流出口113cを有している。分岐コネクタ113は、第1流入口113aが空気配管111に接続され、第2流入口113bがガス配管112に接続され、流出口113cが混合ガス配管114に接続されている。分岐コネクタ113は、例えば、空気配管111を介して流れる空気、及び、ガス配管112を介して流れる不活性ガスを混合する。そして、分岐コネクタ113は、空気及び不活性ガスを混合した混合ガスを混合ガス配管114に向けて流す。
混合ガス配管114は、空気、不活性ガス、又は、混合ガスが流通可能な配管である。混合ガス配管114は、一端が分岐コネクタ113に接続され、他端にノズル114aが設けられている。混合ガス配管114は、ノズル114aが被加工物Wに向けられている。混合ガス配管114は、分岐コネクタ113から流出した空気、不活性ガス、又は、混合ガスをノズル114aから被加工物Wの被加工面Waに噴射する。
第1流量調整部115は、流体の流量を調整及び計測する計測器である。第1流量調整部115は、第1調整バルブ115a及び第1流量計115bを有する。第1調整バルブ115a及び第1流量計115bは、空気配管111に設けられ、それぞれ制御部120に接続される。第1調整バルブ115aは、制御部120から出力される制御信号に基づいて空気配管111を流れる空気の流量を調整する。第1流量計115bは、空気配管111を流れる空気の流量を計測し、計測した空気の流量を制御部120に出力する。
第2流量調整部116は、流体の流量を調整及び計測する計測器である。第2流量調整部116は、第2調整バルブ116a及び第2流量計116bを有する。第2調整バルブ116a及び第2流量計116bは、ガス配管112に設けられ、それぞれ制御部120に接続される。第2調整バルブ116aは、制御部120から出力される制御信号に基づいてガス配管112を流れる不活性ガスの流量を調整する。第2流量計116bは、ガス配管112を流れる不活性ガスの流量を計測し、計測した不活性ガスの流量を制御部120に出力する。
制御部120は、レーザ加工装置1を制御するものである。制御部120は、CPU、記憶部を構成するROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子回路を含んで構成される。制御部120は、レーザ光照射部10及びシャッター20等の光学系を制御し、パルスレーザ光LBの出力を調整する。また、制御部120は、第1流量計115bから出力される空気の流量に基づいて制御信号を出力し第1調整バルブ115aを制御する。また、制御部120は、第2流量計116bから出力される不活性ガスの流量に基づいて制御信号を出力し第2調整バルブ116aを制御する。
集塵機117は、粉塵を収集する機器である。集塵機117は、粉塵を収集する収集管117aを有し、当該収集管117aの一端が被加工物Wに向けられている。集塵機117は、被加工物Wを加工する際に生じる酸化デブリD(粉塵)を収集管117aを介して収集する。
次に、レーザ加工装置1によるアブレーション加工について説明する。ここで、アブレーション加工とは、パルスレーザ光LBが照射された部分が瞬時に蒸発、飛散することで行われる除去加工である。アブレーション加工は、加工部が瞬時に蒸発、飛散し除去されるため、加工部周辺への熱影響が少なく熱損傷の少ない非熱加工である。レーザ加工装置1は、アブレーション加工では、パルス幅がピコ秒オーダー又はそれ以下の短パルス幅である第一パルスレーザ光LB1(第一レーザ光)を用いる。第一パルスレーザ光LB1は、後述する第二パルスレーザ光LB2(第二レーザ光)及び第三パルスレーザ光LB3(第三レーザ光)よりもレーザ強度のピーク値が高く(図4、図14参照)且つパルス幅が短い。第一パルスレーザ光LB1は、レーザ強度のピーク値が、第一被加工面W1の凸部P1の最大の高さ(例えば10μmを超える高さ)に相当する加工深さを得ることが可能な光エネルギー密度である。第一被加工面W1の凸部P1は、第一被加工面W1の最も深い部分(凹部Qの底)を基準位置とした場合、Z方向に沿って突出している部分である(図3参照)。第一パルスレーザ光LB1は、第一被加工面W1に照射された部分の径であるスポット径r1が第三パルスレーザ光LB3のスポット径r2よりも小さい(図3、図13参照)。
レーザ加工装置1は、アブレーション工程の場合、被加工物Wの酸化(酸化層Vの生成)を促進する酸化雰囲気を形成する。ここで、酸化雰囲気とは、大気下による酸化雰囲気及び意図的に形成する酸化雰囲気を含む。大気下による酸化雰囲気は、大気(空気)により形成される。また、意図的に形成する酸化雰囲気は、酸化を促進させる気体(例えば酸素等)を意図的に混合した混合気体により形成される。大気下による酸化雰囲気でアブレーション工程を行う場合には、意図的に酸化雰囲気を形成するような雰囲気の調整が必要ないため、作業負荷を軽減することができる。本実施形態では、レーザ加工装置1は、ガス供給装置110により空気(大気)を被加工物Wに噴射することで大気下による酸化雰囲気を形成する。レーザ加工装置1は、例えば、制御部120により空気を供給するための制御信号を第1調整バルブ115aに送信し、当該第1調整バルブ115aにより空気が空気配管111を通過可能である空気通過状態とする。また、レーザ加工装置1は、制御部120により不活性ガスを供給停止とするための制御信号を第2調整バルブ116aに送信し、当該第2調整バルブ116aにより不活性ガスがガス配管112を通過不可であるガス停止状態とする。レーザ加工装置1は、空気通過状態且つガス停止状態とすることにより空気を被加工物Wに向けて噴射し、当該被加工物Wの酸化(酸化層Vの生成)を促進する酸化雰囲気を形成する。レーザ加工装置1は、図5に示すように、この酸化雰囲気において、第一被加工面W1に第一パルスレーザ光LB1を照射して第一被加工面W1の表層、特に凸部P1を選択的に除去する。そして、レーザ加工装置1は、図6に示すように、第一被加工面W1の凸部P1よりも低い凸部P2を有する第二被加工面W2を形成する。つまり、レーザ加工装置1は、第一被加工面W1に第一パルスレーザ光LB1を照射し第一被加工面W1の表層、特に凸部P1を選択的に瞬時に蒸発、飛散することで第一被加工面W1の凸部P1を除去して第二被加工面W2を形成する。レーザ加工装置1は、アブレーション加工により第一被加工面W1の表面粗さ(凹凸)Raを例えば0.5μm程度〜0.8μm程度まで低減させた第二被加工面W2を形成する。レーザ加工装置1は、例えば、加工影響範囲を相対的に小さくすることで第一被加工面W1のより細かい凸部P1を除去し、0.5μm程度まで低減させた第二被加工面W2を形成することができる。ここで、表面粗さRaは、公知の数式により求められた値であり、一例として算術平均粗さであるがこれ以外でもよい。レーザ加工装置1は、酸化雰囲気でアブレーション加工を行うので、被加工物Wの酸化(酸化層Vの生成)を抑制する酸化抑制雰囲気でアブレーション加工する場合と比較して酸化反応熱によりアブレーション加工を促進することができる。このとき、レーザ加工装置1は、図6、図7、図8に示すように、酸化雰囲気で照射される第一パルスレーザ光LB1により第二被加工面W2の表面が酸化した酸化層Vが形成され、酸化層Vの一部が気化したもの同士が結合して生じる酸化デブリDが酸化層Vの上に堆積される。ここで、図6は、酸化層V及び酸化デブリDの形成例を示す模式図である。図7は、酸化層V及び酸化デブリDの形成例を示す画像(上面図)である。図8は、酸化層V及び酸化デブリDの形成例を示す画像(断面図)である。レーザ加工装置1は、混合ガス配管114のノズル114aから噴射する空気により酸化デブリDを吹き飛ばして除去するが、完全には酸化デブリDを除去することができない。
レーザ加工装置1は、酸化層除去加工では、第二被加工面W2に形成された酸化層V及び酸化デブリDを除去する。レーザ加工装置1は、第二パルスレーザ光LB2(第二レーザ光)を用いて、第二被加工面W2に形成された酸化層V及び酸化デブリDを除去し、且つ、第二被加工面W2の凸部P2を可能な限り溶融しない。第二パルスレーザ光LB2は、例えば、パルス幅がナノ秒〜マイクロ秒オーダーのパルス幅である。第二パルスレーザ光LB2は、第一パルスレーザ光LB1よりもレーザ強度のピーク値が低く、且つ、後述する溶融加工で用いる第三パルスレーザ光LB3(第三レーザ光)よりもレーザ強度のピーク値が低い。第二パルスレーザ光LB2は、例えば、レーザ強度のピーク値が、第二被加工面W2の酸化層V及び酸化デブリDを除去可能であり、且つ、可能な限り第二被加工面W2を加工しない光エネルギー密度である。第二パルスレーザ光LB2は、第二パルスレーザ光LB2は、第一パルスレーザ光LB1よりもパルス幅が広く、且つ、第三パルスレーザ光LB3とパルス幅が同等である。
レーザ加工装置1は、酸化層除去工程の場合、ガス供給装置110により不活性ガスを被加工物Wに供給する。レーザ加工装置1は、例えば、制御部120により空気を供給停止するための制御信号を第1調整バルブ115aに送信し、当該第1調整バルブ115aにより空気が空気配管111を通過不可である空気停止状態とする。また、レーザ加工装置1は、制御部120により不活性ガスを供給するための制御信号を第2調整バルブ116aに送信し、当該第2調整バルブ116aにより不活性ガスがガス配管112を通過可能であるガス通過状態とする。レーザ加工装置1は、空気停止状態且つガス通過状態とすることにより不活性ガスを被加工物Wに向けて噴射し、当該被加工物Wの酸化(酸化層Vの生成)を抑制する酸化抑制雰囲気(不活性ガス雰囲気)を形成する。レーザ加工装置1は、図9に示すように、この酸化抑制雰囲気において、第二被加工面W2の酸化層V及び酸化デブリDに第二パルスレーザ光LB2を照射して酸化層V及び酸化デブリDを除去する。ここで、例えば、光波長1μmにおける光吸収率は、鉄の非酸化物が35%であり、鉄の酸化物が85%であり、酸化物のほうが非酸化物より光吸収率が高い。従って、酸化層Vは、第二パルスレーザ光LB2により加熱されて気化し、又は、高温下で還元反応が促進されて除去される。そして、レーザ加工装置1は、図10、図11、図12に示すように、酸化層V及び酸化デブリDを除去した第二被加工面W2を形成する。ここで、図10は、酸化層V及び酸化デブリDが除去された第二被加工面W2の形成例を示す模式図である。図11は、酸化層V及び酸化デブリDが除去された第二被加工面W2の形成例を示す画像(上面図)である。図12は、酸化層V及び酸化デブリDが除去された第二被加工面W2の形成例を示す画像(断面図)である。
レーザ加工装置1は、酸化層V及び酸化デブリDを除去した第二被加工面W2の表層、特に凸部P2を選択的に溶融して平坦化する。レーザ加工装置1は、溶融加工では、例えば、パルス幅がナノ秒〜マイクロ秒オーダーのパルス幅である第三パルスレーザ光LB3(第三レーザ光)を用いる。第三パルスレーザ光LB3は、第一パルスレーザ光LB1よりもレーザ強度のピーク値が低く、且つ、酸化層除去工程で用いる第二パルスレーザ光LB2よりもレーザ強度のピーク値が高い。第三パルスレーザ光LB3は、レーザ強度のピーク値が、加工深さ方向(Z方向)への加工影響が第一パルスレーザ光LB1より小さく第二被加工面W2の凸部P2を溶融することが可能な光エネルギー密度である。第二パルスレーザ光LB2は、第一パルスレーザ光LB1よりもパルス幅が広く、且つ、第三パルスレーザ光LB3とパルス幅が同等である。第三パルスレーザ光LB3のスポット径r2は、第一パルスレーザ光LB1のスポット径r1よりも大きい。また、第三パルスレーザ光LB3のスポット径r2は、第二被加工面W2の隣接する凸部P2の間隔よりも大きいことが好ましい。これは、加工時間を低減できるほか、第二被加工面W2の隣接する凸部P2と当該凸部P2の間の凹部とに第三パルスレーザ光LB3の加工スポットが及ぶことにより表面張力を得やすくうねりを除去できるため、長周期の凹凸成分に対して効率的に平滑化ができる。
レーザ加工装置1は、溶融工程の場合、ガス供給装置110により不活性ガスに微量の空気を混合した混合ガスを被加工物Wに供給する。レーザ加工装置1は、例えば、制御部120により微量の空気を供給するための制御信号を第1調整バルブ115aに送信し、当該第1調整バルブ115aにより微量の空気が空気配管111を通過可能である微量空気通過状態とする。また、レーザ加工装置1は、制御部120により不活性ガスを供給するための制御信号を第2調整バルブ116aに送信し、当該第2調整バルブ116aにより不活性ガスがガス配管112を通過可能であるガス通過状態とする。レーザ加工装置1は、微量空気通過状態且つガス通過状態とすることにより混合ガスを被加工物Wに向けて噴射し、当該被加工物Wの顕著な酸化による硬度低下等の物性変化を抑制すると共に、微量の空気で生じる酸化反応による酸化熱により溶融加工を促進させる混合ガス雰囲気を形成する。レーザ加工装置1は、図15に示すように、酸化層Vが除去された第二被加工面W2に第三パルスレーザ光LB3を照射して当該第二被加工面W2の表層、特に凸部P2を選択的に溶融させる。そして、レーザ加工装置1は、図16、図17、図18に示すように、第二被加工面W2を平坦化した加工平坦面W3を形成する。つまり、レーザ加工装置1は、第二被加工面W2に第三パルスレーザ光LB3を照射し、第二被加工面W2(極表面)の特に凸部P2を溶融して液状化し表面張力により第二被加工面W2を平坦化した加工平坦面W3を形成する。ここで、図16は、加工平坦面W3の形成例を示す模式図である。図17は、加工平坦面W3の形成例を示す画像(上面図)である。図18は、加工平坦面W3の形成例を示す画像(断面図)である。レーザ加工装置1は、溶融加工により第二被加工面W2の表面粗さ(凹凸)Raを0.1μm以下まで低減させて平坦化する。なお、レーザ加工装置1は、不活性ガス(例えばアルゴン)に対する空気の混合率を例えば0%〜9.4%の範囲で徐々に増やすことにより、酸化反応による酸化熱が増加して溶融加工が促進することが分かった。また、レーザ加工装置1は、混合ガス雰囲気において溶融加工をする場合が、不活性ガス(例えばアルゴン)による酸化抑制雰囲気において溶融加工をした場合と比較して、レーザ光照射部10が3割程度低いレーザ出力で溶融加工することができた。
次に、図19を参照してレーザ加工装置1の動作例について説明する。レーザ加工装置1は、作業者により予め加工条件が設定される(ステップS1)。ここで、加工条件は、例えば、パルスレーザ光LBのエネルギー密度、走査時のスポット径r1、r2の重なり、繰り返し照射数、加工時間等である。これらの加工条件は、被加工物Wの材質や被加工面Waの凹凸の粗さ等に基づいて、予め実験等により求めておく。
レーザ加工装置1は、加工条件が設定された後、アブレーション工程を実施する(ステップS2)。レーザ加工装置1は、駆動部80の載置台81aに載置された被加工物Wを駆動部80に固定し、XY軸駆動部81によりX方向又はY方向に被加工物Wを移動させ、さらにZ軸駆動部82によりZ方向に被加工物Wを移動させて被加工物Wを加工開始位置に移動させる。レーザ加工装置1は、ガス供給装置110を空気通過状態且つガス停止状態とすることにより空気を被加工物Wに向けて噴射し酸化雰囲気を形成する。そして、レーザ加工装置1は、カメラ100により被加工物Wの第一被加工面W1を撮像しながら、第一被加工面W1の凸部P1に対して第一パルスレーザ光LB1を照射する。レーザ加工装置1は、当該第一パルスレーザ光LB1を照射した状態でXY軸駆動部81によりX方向又はY方向に被加工物Wを移動させることで、第一被加工面W1に対して第一パルスレーザ光LB1を走査させながら第一被加工面W1の表層、特に凸部P1を選択的に除去する。レーザ加工装置1は、非熱加工であるアブレーション加工を行うことにより、被加工物Wの加工部周辺への熱影響を抑制することができる。また、レーザ加工装置1は、酸化雰囲気においてアブレーション加工を行うことにより、酸化反応熱によりアブレーション加工を促進することができる。
次に、レーザ加工装置1は、第一被加工面W1の全域に渡ってアブレーション加工を行うアブレーション工程が終了したか否かを判定する(ステップS3)。レーザ加工装置1は、アブレーション工程が終了したと判定すると(ステップS3;Yes)、酸化層除去工程を実施する(ステップS4)。レーザ加工装置1は、酸化層除去工程において、ガス供給装置110を空気停止状態且つガス通過状態とすることにより不活性ガスを被加工物Wに向けて噴射し酸化抑制雰囲気を形成する。レーザ加工装置1は、カメラ100により第二被加工面W2の酸化層V及び酸化デブリDを撮像した画像に基づいて、Z軸駆動部82によりZ方向に被加工物Wを移動させて被加工物Wを所望の高さに設定する。そして、レーザ加工装置1は、カメラ100により酸化層V及び酸化デブリDを撮像しながら、酸化層V及び酸化デブリDに対して第二パルスレーザ光LB2を照射する。レーザ加工装置1は、当該第二パルスレーザ光LB2を照射した状態でXY軸駆動部81によりX方向又はY方向に被加工物Wを移動させることで、酸化層V及び酸化デブリDに対して第二パルスレーザ光LB2を走査させながら酸化層V及び酸化デブリDを除去する。レーザ加工装置1は、酸化抑制雰囲気において酸化層除去加工を行うことにより、第二被加工面W2の酸化を抑制した上で酸化層V及び酸化デブリDを除去することができる。次に、レーザ加工装置1は、第二被加工面W2の全域に渡って酸化層V及び酸化デブリDを除去する酸化層除去工程が終了したか否かを判定する(ステップS5)。レーザ加工装置1は、酸化層除去工程が終了したと判定すると(ステップS5;Yes)、溶融工程を実施する(ステップS6)。
レーザ加工装置1は、溶融工程において、ガス供給装置110を微量空気通過状態且つガス通過状態とすることにより混合ガスを被加工物Wに向けて噴射し混合ガス雰囲気を形成する。レーザ加工装置1は、カメラ100により第二被加工面W2を撮像した画像に基づいて、Z軸駆動部82によりZ方向に被加工物Wを移動させて被加工物Wを所望の高さに設定する。そして、レーザ加工装置1は、カメラ100により第二被加工面W2を撮像しながら、第二被加工面W2の凸部P2に対して第三パルスレーザ光LB3を照射する。レーザ加工装置1は、当該第三パルスレーザ光LB3を照射した状態でXY軸駆動部81によりX方向又はY方向に被加工物Wを移動させることで、第二被加工面W2に対して第三パルスレーザ光LB3を走査させながら第二被加工面W2の凸部P2を溶融する。レーザ加工装置1は、混合ガス雰囲気において溶融加工を行うことにより、顕著な酸化による硬度低下等の物性変化を抑制でき、微量の空気で生じる酸化反応による酸化熱により溶融加工を促進させることができる。次に、レーザ加工装置1は、第二被加工面W2の全域に渡って溶融加工を行う溶融工程が終了したか否かを判定する(ステップS7)。レーザ加工装置1は、溶融工程が終了したと判定すると(ステップS7;Yes)、加工処理を終了する。
なお、上述のステップS3で、レーザ加工装置1は、アブレーション工程が終了していないと判定すると(ステップS3;No)、ステップS2に戻って第一被加工面W1の凸部P1の除去を継続する。また、上述のステップS5で、レーザ加工装置1は、酸化層除去工程が終了していないと判定すると(ステップS5;No)、ステップS4に戻って酸化層V及び酸化デブリDの除去を継続する。また、上述のステップS7で、レーザ加工装置1は、溶融工程が終了していないと判定すると(ステップS7;No)、ステップS6に戻って第二被加工面W2の凸部P2の溶融を継続する。
以上のように、実施形態に係るレーザ加工方法は、アブレーション工程と、酸化層除去工程とを有する。アブレーション工程は、酸化を促進する酸化雰囲気において、凹凸を有する第一被加工面W1に第一パルスレーザ光LB1を照射して第一被加工面W1の凸部P1を除去し、第一被加工面W1の凸部P1よりも低い凸部P2を有する第二被加工面W2を形成する。酸化層除去工程は、アブレーション工程の後、酸化を抑制する酸化抑制雰囲気において、アブレーション工程で第二被加工面W2に形成された酸化層Vに第一パルスレーザ光LB1とは異なる第二パルスレーザ光LB2を照射して当該酸化層Vを除去する。
これにより、レーザ加工方法は、第一被加工面W1をアブレーション加工するので、従来のように第一被加工面W1を溶融させて平坦化する場合と比較して第一被加工面W1に与える熱影響を抑制することができ、第一被加工面W1の変形、うねり、変質、変色等の軟化、変態を抑制することができる。レーザ加工方法は、酸化雰囲気でアブレーション加工するので、酸化抑制雰囲気でアブレーション加工する場合と比較して酸化反応熱によりアブレーション加工を促進することができる(図20、図21参照)。ここで、図20は、比較例に係る酸化抑制雰囲気においてアブレーション加工を行う加工量を示す図である。図21は、実施形態に係る酸化雰囲気においてアブレーション加工を行う加工量を示す図である。比較例に係るアブレーション加工は、実施形態に係るアブレーション加工と同じ条件の第一パルスレーザ光LB1を用いて加工している。比較例に係るアブレーション加工は、図20に示すように、加工量が1μm程度である。これに対して、実施形態に係るアブレーション加工は、図21に示すように、加工量が3μm程度である。このように、実施形態に係るアブレーション加工は、酸化雰囲気において加工が行われるので酸化抑制雰囲気でアブレーション加工する場合と比較して酸化反応熱により加工量を3倍程度増加することができ、エネルギー効率を向上することができる。この結果、レーザ加工方法は、被加工物Wが受ける熱影響を抑制した上で加工時間を短縮することができる。また、レーザ加工方法は、アブレーション工程で第二被加工面W2に形成された酸化層Vを除去するので、当該酸化層Vを起因として被加工物Wの本体にクラックやひび割れ等が生じることを防止することができる。
上記レーザ加工方法において、溶融工程をさらに有する。当該溶融工程は、酸化層除去工程の後、酸化層Vが除去された第二被加工面W2に第一パルスレーザ光LB1及び第二パルスレーザ光LB2とは異なる第三パルスレーザ光LB3を照射して当該第二被加工面W2の凸部P2を溶融し当該第二被加工面W2を平坦化した加工平坦面W3を形成する。これにより、レーザ加工方法は、従来のように溶融加工のみで平坦化する場合と比較してアブレーション工程で表面をある程度滑らかにした後に溶融加工により平坦化するので、被加工物Wに対する熱影響を抑制することができる。従って、レーザ加工方法は、熱影響により加工平坦面W3の変形、うねり、変質、変色等の軟化、変態を抑制することができる。レーザ加工方法は、例えば、図18に示すように、加工平坦面W3において結晶構造や再凝固によるボイド(空洞)を防ぐことができ、酸化や熱影響の深さ方向への影響を抑制することができた。また、レーザ加工方法は、従来のように手研磨を実施することなく自動で表面粗さ(凹凸)Raを0.1μm以下まで低減することができる。これにより、レーザ加工方法は、被加工面Waを平坦化して鏡面加工を実施することができる。また、レーザ加工方法は、隣接する凸部P1の間隔が広い被加工物Wにおいても、低周波なうねりの成分を抑制した平坦化加工を実施することができる。
実施形態に係るレーザ加工装置1は、レーザ光照射部10と、制御部120とを備える。レーザ光照射部10は、凹凸を有する第一被加工面W1に、第一パルスレーザ光LB1と、第一パルスレーザ光LB1とは異なる第二パルスレーザ光LB2とを照射する。ガス供給装置110は、酸化を促進する酸化雰囲気を形成するための空気又は酸化を抑制する酸化抑制雰囲気を形成するための不活性ガスを供給する。制御部120は、レーザ光照射部10及びガス供給装置110を制御する。制御部120は、ガス供給装置110を制御し空気を供給した酸化雰囲気を形成し、レーザ光照射部10を制御し第一被加工面W1に第一パルスレーザ光LB1を照射して第一被加工面W1の凸部P1を除去し、第一被加工面W1の凸部P1よりも低い凸部P2を有する第二被加工面W2を形成する。制御部120は、第二被加工面W2を形成後、ガス供給装置110を制御し不活性ガスを供給した酸化抑制雰囲気を形成し、レーザ光照射部10を制御し第二被加工面W2に形成された酸化層Vに第一パルスレーザ光LB1とは異なる第二パルスレーザ光LB2を照射して酸化層Vを除去する。この構成により、レーザ加工装置1は、上述のレーザ加工方法と同等の効果を奏することができる。
〔変形例〕
次に、実施形態の変形例について説明する。レーザ加工方法は、第二パルスレーザ光LB2により酸化層V及び酸化デブリDを除去する酸化層除去工程と、第三パルスレーザ光LB3により第二被加工面W2の凸部P2を溶融し当該第二被加工面W2を平坦化した加工平坦面W3を形成する溶融工程とを別々に行う例について説明したが、これに限定されない。レーザ加工方法は、例えば、酸化層V及び酸化デブリDの除去と加工平坦面W3の形成とを同時に行ってもよい。この場合、第二パルスレーザ光LB2は、例えば、レーザ強度のピーク値が、第二被加工面W2の酸化層V及び酸化デブリDを除去可能であり、且つ、第二被加工面W2の凸部P2を溶融可能な光エネルギー密度である。レーザ加工方法は、例えば、酸化層除去工程としての酸化層除去溶融工程では、第二パルスレーザ光LB2により第二被加工面W2に形成された酸化層V及び酸化デブリDを除去し、且つ、第二パルスレーザ光LB2により第二被加工面W2の凸部P2を溶融し、当該第二被加工面W2を平坦化した加工平坦面W3を形成する。これにより、レーザ加工方法は、酸化層V及び酸化デブリDの除去と加工平坦面W3の形成とを同時に行うことができるので、加工時間をさらに短縮することができる。なお、酸化層V及び酸化デブリDの除去と加工平坦面W3の形成とを同時に行い、さらに、その後に溶融加工を行って平坦度をより向上させてもよい。
酸化を促進させる気体としては、空気の他に、酸素、オゾン、亜酸化窒素、一酸化窒素、二酸化窒素、フッ素、塩素、二酸化塩素、三フッ化窒素、三フッ化塩素、四塩化ケイ素、二フッ化酸素、ペルクロリルフルオリド等があり、これらの混合気体も含まれる。
第一〜第三パルスレーザ光LB1、LB2、LB3は、ライン状に照射するビームを形成してもよい。これにより、第一〜第三パルスレーザ光LB1、LB2、LB3は、点状のビームと比較して広範囲に照射することができるので加工時間(タクトタイム)を削減することができる。
レーザ加工装置1は、不活性ガスに微量の空気を混合した混合ガス雰囲気において溶融加工を行う例について説明したが、これに限定されない。レーザ加工装置1は、例えば、上述の酸化抑制雰囲気において溶融加工を行ってもよい。
レーザ加工装置1は、対物レンズ70等を含む光学系の位置を固定し、被加工物WをX方向、Y方向、又は、Z方向に相対移動させて加工する例について説明したが、これに限定されない。レーザ加工装置1は、例えば、被加工物Wの位置を固定し、対物レンズ70等を含む光学系をX方向、Y方向、又は、Z方向に相対移動させて被加工物Wを加工するガルバノスキャナ等を用いてもよい。
レーザ光照射部10は、パルス幅可変光源をシード光源に用いた主発振器出力増幅器(MOPA)である例について説明したが、これに限定されない。レーザ光照射部10は、例えば、パルス幅毎に別のレーザ光源を用いてもよい。この場合、第一パルスレーザ光LB1としては、フェムト秒レーザやピコ秒レーザを用いる。また、第二及び第三パルスレーザ光LB2、LB3としては、ナノ秒、マイクロ秒、ミリ秒のパルスレーザを用いる。第二及び第三パルスレーザ光LB2、LB3は、一定の出力を連続して発振する連続波レーザ光(CW(Continuous Wave)レーザ光))でもよい。