本発明の態様に係るミスト発生方法およびそれを実施するミスト発生装置、ミスト発生方法を用いて薄膜を形成する成膜方法およびそれを実施する成膜装置、並びに、ミスト発生方法を用いて電子デバイスを製造するデバイス製造方法について、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。なお、本発明の態様は、これらの実施の形態に限定されるものではなく、多様な変更または改良を加えたものも含まれる。つまり、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれ、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態のデバイス製造システム(基板処理システム)10の概略的な構成を示す概略構成図である。なお、以下の説明においては、特に断わりのない限り、重力方向をZ方向とするX・Y・Zの直交座標系を設定し、図に示す矢印にしたがって、X方向、Y方向、および、Z方向を説明する。
デバイス製造システム10は、可撓性のフィルム状のシート基板FSに所定の処理を施して、電子デバイスを製造する製造システムである。デバイス製造システム10は、例えば、電子デバイスとしてのフレキシブル・ディスプレイ(フィルム状のディスプレイ)、フィルム状のタッチパネル、液晶表示パネル用のフィルム状のカラーフィルター、フレキシブル配線、または、フレキシブル・センサなどを製造する製造ラインが構築された製造システムである。以下、電子デバイスとしてフレキシブル・ディスプレイを前提として説明する。フレキシブル・ディスプレイとしては、例えば、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイなどがある。
デバイス製造システム10は、シート基板(以下、基板という)FSをロール状に巻いた供給ロールFR1から基板FSが送出され、送出された基板FSに対して各処理を連続的に施した後、各種処理後の基板FSを回収ロールFR2で巻き取る、いわゆる、ロール・ツー・ロール(Roll To Roll)方式の構造を有する。基板FSは、基板FSの移動方向(搬送方向)が長手方向(長尺)となり、幅方向が短手方向(短尺)となる帯状の形状を有する。本第1の実施の形態では、シート状の基板FSが、少なくとも処理装置PR1〜PR6における各々の処理を経て、回収ロールFR2に巻き取られるまでの例を示している。
なお、本第1の実施の形態では、X方向は、デバイス製造システム10の設置面に対して平行な水平面内において、基板FSが供給ロールFR1から回収ロールFR2に向かう方向(基板FSの搬送方向)である。Y方向は、前記水平面内においてX方向と直交する方向であり、基板FSの幅方向(短尺方向)である。Z方向は、X方向とY方向とに直交する方向(上方向)であり、重力が働く方向と平行である。
基板FSの材料としては、例えば、樹脂フィルム、または、ステンレス鋼などの金属または合金からなる箔(フォイル)などが用いられる。樹脂フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、エチレンビニル共重合体樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアリレート樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、および、酢酸ビニル樹脂のうち、少なくとも1つ以上を含んだものを用いてもよい。また、基板FSの厚みや剛性(ヤング率)は、基板FSに座屈による折れ目や非可逆的なシワが生じないような範囲であればよい。基板FSの母材として、厚みが25μm〜200μm程度のPET(ポリエチレンテレフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート)、PES(ポリエーテルスルホン)などのフィルムは、シート基板の典型である。
基板FSは、デバイス製造システム10の各処理装置PR1〜PR6の各々で施される処理において熱を受ける場合があるため、熱膨張係数が顕著に大きくない材質の基板を選定することが好ましい。例えば、無機フィラーを樹脂フィルムに混合することによって熱膨張係数を抑えることができる。無機フィラーは、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、または酸化ケイ素などでもよい。また、基板FSは、フロート法などで製造された厚さ100μm以下の極薄ガラスの単層体であってもよいし、この極薄ガラスに上記の樹脂フィルム、または、箔などを貼り合わせた積層体であってもよい。例えば、極薄ガラスの一方の表面に真空蒸着やメッキ(電解または無電解)によって一定厚み(数μm)の銅箔層を一様に形成し、その銅箔層を加工して電子回路の配線や電極などを形成するようにしてもよい。
ところで、基板FSの可撓性(flexibility)とは、基板FSに自重程度の力を加えてもせん断したり破断したりすることはなく、その基板FSを撓めることが可能な性質をいう。また、自重程度の力によって屈曲する性質も可撓性に含まれる。また、基板FSの材質、大きさ、厚さ、基板FS上に成膜される層構造、温度、または、湿度などの環境に応じて、可撓性の程度は変わる。いずれにしろ、本第1の実施の形態によるデバイス製造システム10内の搬送路に設けられる各種の搬送用ローラ、回転ドラムなどの搬送方向転換用の部材に基板FSを正しく巻き付けた場合に、座屈して折り目がついたり、破損(破れや割れが発生)したりせずに、基板FSを滑らかに搬送できれば、可撓性の範囲といえる。
処理装置PR1は、供給ロールFR1から搬送されてきた基板FSを処理装置PR2に向けて、長尺方向に沿った搬送方向(+X方向)に所定の速度で搬送しつつ、基板FSに対して下地処理を施す処理装置である。この下地処理としては、例えば、超音波洗浄処理やUVオゾン洗浄処理などが挙げられる。特に、UVオゾン洗浄処理を行うことによって、基板FSの表面に付着している有機物汚染が除去されるとともに、基板FSの表面が親液性に改質される。したがって、後述する処理装置PR2によって形成される薄膜の基板FSに対する密着性が向上する。なお、下地処理として、プラズマ表面処理を行ってもよい。プラズマ表面処理でも同様に、基板FSの表面に付着している有機物汚染を除去し、基板FSの表面を親液性に改質させることができる。
処理装置PR2は、処理装置PR1から搬送されてきた基板FSを処理装置PR3に向けて、長尺方向に沿った搬送方向(+X方向)に所定の速度で搬送しつつ、基板FSに対して成膜処理を施す処理装置である。処理装置PR2は、微粒子を含むミストを発生させ、発生させたミストを用いて基板FS上の薄膜を形成する。本第1の実施の形態では、金属性の微粒子を用いるので、基板FS上に金属性の薄膜(金属性薄膜)が形成されることになる。なお、有機性の微粒子または無機性の微粒子を用いる場合は、基板FS上に有機性または無機性の薄膜が形成されることになる。
処理装置PR3は、処理装置PR2から搬送されてきた基板FSを処理装置PR4に向けて、長尺方向に沿った搬送方向(+X方向)に所定の速度で搬送しつつ、基板FSに対して塗布処理を施す処理装置である。処理装置PR3は、基板FSの金属性薄膜の上に感光性機能液を塗布して、感光性機能層を形成する。本第1の実施の形態では、感光性機能液(層)としてフォトレジストを用いる。
処理装置(露光装置)PR4は、処理装置PR3から搬送されてきた基板FSを処理装置PR5に向けて、長尺方向に沿った搬送方向(+X方向)に所定の速度で搬送しつつ、基板FSの感光面(感光性機能層の表面)に対して露光処理を施す。処理装置PR4は、基板FSに対してディスプレイ用の回路の配線または電極などに応じたパターンを露光する。これにより、感光性機能層にパターンに応じた潜像(改質部)が形成される。
処理装置PR5は、処理装置PR4から搬送されてきた基板FSを処理装置PR6に向けて、長尺方向に沿った搬送方向(+X方向)に所定の速度で搬送しつつ、基板FSに対して湿式処理を施す。処理装置PR5は、湿式処理として現像処理(洗浄処理も含む)を行う。これにより、感光性機能層に潜像として形成されたパターンに対応した形状のレジスト層が出現する。
処理装置PR6は、処理装置PR5から搬送されてきた基板FSを回収ロールFR2に向けて、長尺方向に沿った搬送方向(+X方向)に所定の速度で搬送しつつ、基板FSに対して湿式処理を施す。処理装置PR6は、湿式処理としてエッチング処理(洗浄処理も含む)を行う。これにより、レジスト層をマスクとしてエッチング処理が行なわれて、金属性薄膜に、ディスプレイ用の回路の配線や電極などに応じたパターンが出現する。このパターンが形成された金属性薄膜は、電子デバイスであるフレキシブル・ディスプレイを構成するパターン層となる。なお、複数の処理装置PR1〜PR6の各々は、基板FSを搬送方向(+X方向)に搬送する搬送機構を備えているが、それら個々の搬送機構はデバイス製造システム10の全体の基板搬送装置として機能するように上位制御装置12によって統括的に制御される。原則として、各処理装置PR1〜PR6における基板FSの搬送速度は互いに同一とするが、各処理装置PR1〜PR6の処理状態、処理状況などによって各処理装置PR1〜PR6における基板FSの搬送速度を互いに異ならせることも可能である。
上位制御装置12は、デバイス製造システム10の各処理装置PR1〜PR6、供給ロールFR1、および、回収ロールFR2を制御する。上位制御装置12は、供給ロールFR1および回収ロールFR2の各々に設けられた図示しない回転駆動源のモータを制御することで、供給ロールFR1および回収ロールFR2の回転速度を制御する。処理装置PR1〜PR6の各々は、下位制御装置14(14a〜14f)を含み、下位制御装置14a〜14fは、上位制御装置12の制御下で、処理装置PR1〜PR6内の各機能(搬送機構、処理部など)を制御する。上位制御装置12および下位制御装置14a〜14fは、コンピュータと、プログラムが記憶された記憶媒体とを含み、前記コンピュータが前記記憶媒体に記憶されたプログラムを実行することで、本第1の実施の形態の上位制御装置12および下位制御装置14a〜14fとして機能する。なお、この下位制御装置14は、上位制御装置12の一部であってもよく、上位制御装置12とは別の制御装置であってもよい。
〔処理装置PR2の構成〕
図2は、処理装置(成膜装置)PR2の構成を示す図である。処理装置PR2は、ミスト発生装置MG1、MG2、ガス供給部(気体供給部)SG、噴霧ノズルNZ1、NZ2、成膜室22、基板搬送機構24、および、乾燥処理ユニット26を備える。
ミスト発生装置MG1、MG2は、薄膜を形成するための薄膜原料である分散質(微粒子NP)を含む分散液(スラリー)DILを霧化させ、霧化した微粒状液体、つまり、ミストMTを発生する。このミストMTの粒径は、2〜5μmであり、これよりも十分に小さいナノサイズの微粒子NPが、ミストMTに内包されて分散液DILの表面から放出される。微粒子NPは、金属性の微粒子、有機性の微粒子、および、無機性の微粒子のうち、少なくとも1つを含むものであってもよい。したがって、ミストMTに包含される微粒子は、金属ナノ粒子、有機ナノ粒子、および、無機ナノ粒子の少なくとも1つを含むことになる。本第1の実施の形態では、微粒子NPとして金属性であるITO(酸化インジウムスズ)の微粒子を用い、溶媒(分散媒)として水(純水)を用いる。したがって、分散液DILは、ITOの微粒子NPが水中に分散した水分散液となる。ミスト発生装置MG1、MG2は、超音波振動を用いてミストMTを発生する。なお、ミスト発生装置MG1、MG2には、分散媒(水)をミスト発生装置MG1、MG2に供給する分散媒供給部SWが液体流路WTを介して接続されている。分散媒供給部SWからの水は、ミスト発生装置MG1、MG2の各々に設けられた後述する容器30a、30b(図3参照)に供給される。
ミスト発生装置MG1、MG2には、供給管ST1、ST2を介して噴霧ノズルNZ1、NZ2が接続されている。また、ミスト発生装置MG1、MG2には、圧縮ガスであるキャリアガスを発生するガス供給部SGがガス流路GTを介して接続されており、ガス供給部SGが発生したキャリアガスは、ガス流路GTを通って、所定の流量でミスト発生装置MG1、MG2に供給される。このミスト発生装置MG1、MG2に供給されたキャリアガスは、供給管ST1、ST2を通って噴霧ノズルNZ1、NZ2から放出される。したがって、ミスト発生装置MG1、MG2が発生したミストMTは、このキャリアガスによって噴霧ノズルNZ1、NZ2に搬送され、噴霧ノズルNZ1、NZ2から放出される。ミスト発生装置MG1、MG2に供給するキャリアガスの流量(NL/min)を変えることによって、噴霧ノズルNZ1、NZ2に供給するミストMTの流量を変えることができる。キャリアガスとしては、窒素や希ガスなどの不活性ガスを用いることができ、本第1の実施の形態では窒素を用いるものとする。なお、供給管ST1、ST2は、蛇腹状のホースであり、流路を任意に折り曲げることができる。
供給管ST1、ST2の下流側に設けられている噴霧ノズルNZ1、NZ2の先端部分は、成膜室22内に挿入されている。噴霧ノズルNZ1、NZ2に供給されたミストMTは、キャリアガスとともに噴霧ノズルNZ1、NZ2の噴霧口OP1、OP2から噴霧される。これにより、成膜室22内で、噴霧ノズルNZ1、NZ2の−Z方向側で、連続的に搬送される基板FSの表面にITOの金属性薄膜(機能性材料層)を形成することができる。この成膜(薄膜の形成)は、大気圧下で行ってもよいし、所定の圧力下で行ってもよい。
成膜室(成膜部、ミスト処理部)22には、成膜室22内の気体を外部に排気する排気部22aが設けられるとともに、成膜室22内へ気体を供給するための供給部22bが設けられている。この排気部22aおよび供給部22bは、成膜室22の壁に設けられている。排気部22aには、気体を吸引する図示しない吸引装置が設けられている。これにより、成膜室22内の気体が排気部22aに吸い込まれて成膜室22の外に排気されるとともに、供給部22bから気体が成膜室22内に吸気される。また、成膜室22には、ドレイン流路22cが設けられている。このドレイン流路22cは、基板FSに定着しなかった薄膜原料や分散媒(水など)を、排水処理装置DRへ向けて排出するものである。
なお、本第1の実施の形態では、国際公開第2015/159983号パンフレットに示すように、排気部22aの排気口を噴霧ノズルNZ1、NZ2の噴霧口OP1、OP2に対して重力が働く方向とは反対側(+Z方向側)に配置し、且つ、処理装置PR2内で、重力と直交する平面(XY平面と平行な平面)に対して基板FSを傾斜させて搬送している。これにより、形成される薄膜の膜厚を均一化することができる。
基板搬送機構24は、デバイス製造システム10の前記基板搬送装置の一部を構成するものであり、処理装置PR1から搬送される基板FSを、処理装置PR2内で所定の速度で搬送した後、処理装置PR2に所定の速度で送り出す。基板FSが基板搬送機構24の複数のローラなどに掛け渡されて搬送されることによって、処理装置PR2内で搬送される基板FSの搬送路が規定される。基板搬送機構24は、基板FSの搬送方向の上流側(−X方向側)から順に、ニップローラNR1、案内ローラR1〜R3、エアーターンバーAT1、案内ローラR4、エアーターンバーAT2、案内ローラR5、エアーターンバーAT3、ニップローラNR2、および、案内ローラR6を備える。成膜室22は、案内ローラR1と案内ローラR2との間に設けられ、案内ローラR2〜R6、エアーターンバーAT1〜AT3、および、ニップローラNR2は、乾燥処理ユニット26内に配置されている。したがって、成膜室22内で表面に薄膜が形成された基板FSが乾燥処理ユニット26に送られる。成膜室22内で基板FSを傾斜させて搬送すべく、案内ローラR2を案内ローラR1に対して+Z方向側に配置したが、案内ローラR2を案内ローラR1に対して−Z方向側に配置させてもよい。
ニップローラNR1、NR2は、基板FSの表裏両面を保持しながら回転し、基板FSを搬送するが、各ニップローラNR1、NR2の基板FSの裏面側に接触するローラは駆動ローラとし、基板FSの表面側に接触するローラは従動ローラとする。従動ローラは、基板FSの幅方向(Y方向)の両端部のみと接触するように構成され、基板FSの表面で薄膜が形成される領域(デバイス形成領域)には極力接触しないように設定される。エアーターンバーAT1〜AT3は、外周面に形成された多数の微細な噴出孔から気体(空気など)を吹き出すことによって、基板FSの表面の成膜面(薄膜が形成された面)側から、成膜面と非接触状態(または低摩擦状態)で基板FSを支持する。案内ローラR1〜R6は、基板FSの成膜面とは反対側の面(裏面)と接触しながら回転するように配置されている。図1に示す下位制御装置14bは、ニップローラNR1、NR2の各駆動ローラに設けられた図示しない回転駆動源のモータを制御することで、処理装置PR2内における基板FSの搬送速度を制御する。
乾燥処理ユニット26は、成膜された基板FSに対して乾燥処理を施す。乾燥処理ユニット26は、ドライエアーなどの乾燥用エアー(温風)を基板FSの表面に吹き付けるブロワー、赤外線光源、セラミックヒータなどによって、基板FSの表面に含まれる水などの分散媒(溶媒)を除去して、形成された金属性薄膜を乾燥させる。また、乾燥処理ユニット26は、基板FSを所定長に亘って蓄積可能は蓄積部(バッファ)として機能する。これにより、処理装置PR1から送られてくる基板FSの搬送速度と、処理装置PR3に送る基板FSの搬送速度とを異なる速度にした場合であっても、その速度差を乾燥処理ユニット26で吸収することができる。乾燥処理ユニット26は、主に、乾燥部26aと蓄積部26bとに区分けすることができる。乾燥部26aは、上述したように基板FSの表面に形成された薄膜を乾燥させるものであり、案内ローラR2と案内ローラR3との間で薄膜の乾燥を行う。そして、蓄積部26bは、案内ローラR3とニップローラNR2との間で、その蓄積長を変化させる。蓄積部26b内では、基板FSを蓄積することができる所定長(最大蓄積長)を長くするために、案内ローラR3〜R5およびニップローラNR2を、エアーターンバーAT1〜AT3に対して+X方向側に配置することで、基板FSの搬送路を蛇行させて基板FSを−Z方向に搬送させている。
エアーターンバーAT1〜AT3は、−X方向に送られる基板FSを+X方向に折り返すように構成されるとともに、所定のストロークの範囲内で±X方向に移動可能に構成される。そしてエアーターンバーAT1〜AT3は、常時、−X方向側に所定の力(テンション)で変位するように付勢されている。したがって、乾燥処理ユニット26に入出する基板FSの搬送速度の差、具体的には2つのニップローラNR1、NR2の各々の位置における基板FSの搬送速度の差によって生じる乾燥処理ユニット26内の基板FSの蓄積長の変化に応じてエアーターンバーAT1〜AT3がX方向(+X方向または−X方向)に移動する。これにより、乾燥処理ユニット26は、基板FSに所定のテンションを付与した状態で所定長に亘って基板FSを蓄積することができる。
次に、ミスト発生装置MG1、MG2の具体的な構成について説明する。ミスト発生装置MG1、MG2は、互いに同一の構成を有することから、ミスト発生装置MG1についてのみ説明する。図3は、ミスト発生装置MG1の構成を示す図である。ミスト発生装置MG1は、容器30a、30bを有する。容器30a、30bは、分散液DILを保持するものである。この分散液DILは、微粒子NPの凝集を抑えるための界面活性剤が添加されていない溶液、つまり、界面活性剤としての化学成分の含有量が実質的に零の分散液である。容器30aには、振動部32a、34aが設けられており、容器30bには、振動部34bが設けられている。振動部32a、34a、34bは、超音波振動子を含み、分散液DILに超音波振動を与える。なお、便宜的に、容器30aが保持する分散液(第1の分散液)DILをDIL1で表し、容器30bが保持する分散液(第2の分散液)DILをDIL2で表す場合がある。
ここで、微粒子NPは、時間の経過とともに分散液DIL中で凝集してしまう。また、微粒子NPが分散液DIL中で一様に拡散していない場合もある。そのため、振動部(第1振動部)32aは、その凝集した微粒子NPを粉砕(分散)し、且つ、微粒子NPの分散液DIL1中での凝集を抑えるために、第1の周波数の振動を容器30a中の分散液(粒子分散液)DIL1に与える。これにより、分散液DIL1中の微粒子NPが拡散する。一般的に、超音波振動は周波数が高いほどエネルギーが高いが、液中においてはエネルギーが高い分、液による吸収が発生し、振動が広く拡散しない。そのため、凝集した微粒子NPを効率よく分散するためには比較的低い周波数の方が好ましい。例えば、溶媒が水の場合は、第1の周波数は、1MHzより低い周波数であり、好ましくは200kHz以下である。本第1の実施の形態では、ITOの微粒子NPを含む水分散液(粒子分散液)DIL1を用い、第1の周波数を20kHzとする。振動部32aの振動によって粉砕されたITOの微粒子NPの径は、大きなものから、小さいものまで様々である。振動部32aを設けることによって、微粒子NPの凝集を抑える界面活性剤を分散液DIL1に添加する必要がなくなる。
振動部(第2振動部)34aは、分散液DIL1の表面から霧化したミストMT(以下、MTaと呼ぶ場合がある)を発生させるために、第2の周波数を容器30a中の分散液DIL1に与える。比較的高い周波数では、液体がキャビテーションによりミスト化して、液表面から連続して大気中に放出される。例えば、溶媒が水の場合は、第2の周波数は、1MHz以上の周波数である。本第1の実施の形態では、第2の周波数を2.4MHzとする。振動部34aの振動によって霧化されたミストMTaの径(粒径)は、例えば、2μm〜5μmであり、これより十分に小さい粒径のITOの微粒子(ナノ粒子)NPがミストMTaに内包されて、容器30a中の分散液DIL1の表面から放出される。つまり、比較的大きいITOの微粒子NPは、そのまま分散液DIL1中に残ることになる。なお、ミストMTの一粒のサイズ(直径2〜5μm)に内包される微粒子(ナノ粒子)NPは、一粒ずつ綺麗に分散されている必要は無く、数粒〜十数粒が凝集した塊であっても良い。例えば、微粒子NPの一粒のサイズが数nm〜数十nmである場合、この微粒子NPの粒の10個程度が塊となって凝集していたとしても、その塊のサイズは数十nm〜数百nm程度となり、これはミストMTの一粒のサイズよりは十分に小さく、霧化時にミストMTに内包される。従って、振動部32aによって分散液DIL中での微粒子(ナノ粒子)NPの凝集を抑えるとは、微粒子(ナノ粒子)NPを、必ずしも一粒単位にまで分散させることに限定されるものではなく、例え微粒子(ナノ粒子)NPの凝集した塊が有っても、その塊のサイズがミストMTのサイズよりも十分に小さくなる程度に振動部32aによって分散されていれば良い。
容器30aと容器30bとは、ミスト搬送流路36aによって接続されており、ガス供給部SGから供給されたキャリアガスによって、容器30a内で発生したミストMTaが容器30bに搬送される。つまり、容器30b内に、キャリアガスとミストMTaとが混合した処理ガスMPaが搬送される。なお、容器30a内には、ロート状のミスト収集部材38aが設けられ、霧化されて発生したミストMTaはミスト収集部材38aによって収集された後ミスト搬送流路36aに搬入される。
容器30bは、キャリアガスによって搬送されてきたミストMTaが液化した分散液(ナノ粒子分散液)DIL2を保持する。つまり、容器30bに搬送されてきたミストMTaのうち、液化したものが分散液DIL2として容器30b内に蓄積される。容器30b内の分散液DIL2中の微粒子NPは、ミストMTの径(例えば、2μm〜5μm)よりも十分に小さい粒径の微粒子(ナノ粒子)NPとなっている。容器30bに設けられた振動部(第4振動部)34bが第2の周波数(本第1の実施の形態では、2.4MHz)の振動を容器30b中の分散液(ナノ粒子分散液)DIL2に与える。これにより、分散液(ナノ粒子分散液)DIL2の表面から再び霧化したミストMT(以下、MTbと呼ぶ場合がある)が発生する。したがって、分散液DIL2中のITOの微粒子(ナノ粒子)NPもミストMTbに内包されて、容器30b中の分散液の表面から放出されることになる。
なお、微粒子NPは、時間がある程度経過した後徐々に凝集していくので、第1の周波数による振動の付与を停止しても直ちに凝集し始めることはない。しかし、容器30bが分散液(ナノ粒子分散液)DIL2を一定時間以上保持する必要がある場合には、容器30bにも第1の周波数の振動を分散液DIL2に与える振動部(第3振動部)32b(一点鎖線で図示)を設けるようにしてもよい。これにより、容器30b内の分散液(ナノ粒子分散液)DIL2中のナノ粒子である微粒子NPが凝集することを抑えることができる。なお、振動部32a、32bによって分散液DILに与える超音波振動は所定時間毎に間欠的であってもよい。
容器30bと供給管ST1とは、ミスト搬送流路36bによって接続されており、容器30b内に供給されたキャリアガスによって、容器30b内に搬送されてきたミストMTaと容器30b内で発生したミストMTbとが供給管ST1に搬送される。つまり、容器30b内に存在するミストMTa、MTbとキャリアガスとが混合した処理ガスMPbがミスト搬送流路36bを通って供給管ST1に搬送される。これにより、容器30b内に存在するミストMTa、MTbが噴霧ノズルNZ1の噴霧口OP1から噴霧される。つまり、噴霧ノズルNZ1から処理ガスMPbが噴霧される。容器30b内には、ミスト収集部材38bが設けられ、容器30b内に存在するミストMTa、MTbはミスト収集部材38bによって収集された後ミスト搬送流路36bに搬入される。なお、ミスト発生装置MG2の場合は、ミスト搬送流路36bによって容器30bが供給管ST2と接続されており、ガス供給部SGから供給されたキャリアガスによって、容器30b内に存在するミストMTa、MTbが供給管ST2に搬送される。これにより、容器30b内に搬送されてきたミストMTaと容器30b内で発生したミストMTbとが噴霧ノズルNZ2の噴霧口OP2から噴霧される。
容器30aには、分散質であるITOの微粒子NPを容器30a内に供給する分散質供給部DDが設けられている。したがって、分散媒供給部SW(図2参照)から容器30a内に供給された分散媒(水)と、分散質供給部DDから供給された分散質(微粒子NP)とによって、容器30a内に蓄積される分散液DIL1が生成されるとともに、分散液DIL1中の微粒子NPの濃度が調整される。生成された分散液DIL中の微粒子NPは、分散していない場合もあるが、振動部32aによる振動によって分散される。また、分散媒供給部SWによって、容器30b内の分散液DIL2中の微粒子NPの濃度が調整される。容器30a、30bには、霧化を促進するために分散液DILを冷却するためのクーラCO1、CO2が設けられている。このクーラCO1、CO2は、例えば、容器30a、30bの外周に巻き付けられた環状の管によって構成され、その管の中に冷却された空気や液体を流すことで分散液DIL1、DIL2を冷却することができる。
ミスト搬送流路36a、36bには、濃度センサーSC1、SC2が設けられている。濃度センサーSC1は、ミスト搬送流路36a内の処理ガスMPaに含まれる微粒子(ナノ粒子)NPの濃度を検出し、濃度センサーSC2は、ミスト搬送流路36b内の処理ガスMPbに含まれる微粒子(ナノ粒子)NPの濃度を検出する。濃度センサーSC1、SC2は、処理ガスMPa、MPbの吸光度を測定することで、微粒子NPの濃度を検出する。例えば、濃度センサーSC1、SC2として、分光光度計を用いることができる。なお、濃度センサーSC1、SC2を容器30a、30bに設けることで、容器30a、30bの分散液DIL1、DIL2中の微粒子NPの濃度を検出するようにしてもよい。
下位制御装置14bは、濃度センサーSC1、SC2が検出した微粒子(ナノ粒子)NPの濃度に基づいて、ミスト搬送流路36a、36b内の微粒子(ナノ粒子)NPの濃度、または、分散液DIL1、DIL2中の微粒子NPの濃度が、所定の濃度となるように制御する。具体的には、下位制御装置14bは、ガス供給部SGが供給するキャリアガスの流量、分散媒供給部SWが供給する水の流量、分散質供給部DDが供給する微粒子NPの量、振動部32a、34a、34bを制御することで、微粒子(ナノ粒子)NPの濃度を制御する。
なお、成膜する微粒子NPの種類によっては、噴霧ノズルNZ1、NZ2に供給するキャリアガスを混合ガスにしたい場合がある。したがって、このような場合には、ミスト搬送流路36bと供給管ST1(ST2)との接続部分に混合部MXを設け、混合部MXに、容器30a、30bに供給される圧縮ガス(例えば、窒素)とは別の不活性ガス、例えば、アルゴンの圧縮ガスを供給する。これにより、供給管ST1(ST2)に供給されるキャリアガスを窒素とアルゴンとの混合ガスにすることができる。
容器30aで発生したミストMTaを容器30bに搬送するようにしたが、容器30aで発生したミストMTaを、そのまま噴霧ノズルNZ1(NZ2)を介して成膜室(ミスト処理部、成膜部)22に供給してもよい。この場合は、容器30bとミスト搬送流路36bは不要となり、ミスト搬送流路36aを供給管ST1(ST2)に接続すればよい。
〔処理装置PR3の構成〕
図4は、処理装置(塗布装置)PR3の構成を示す図である。処理装置PR3は、基板搬送機構42、ダイコータヘッドDCH、アライメント顕微鏡AMm(AM1〜AM3)、および、乾燥処理部44を備える。
基板搬送機構42は、デバイス製造システム10の前記基板搬送装置の一部を構成するものであり、処理装置PR2から搬送される基板FSを、処理装置PR3内で所定の速度で搬送した後、処理装置PR4に所定の速度で送り出す。基板FSが基板搬送機構42のローラなどに掛け渡されて搬送されることによって、処理装置PR3内で搬送される基板FSの搬送路が規定される。基板搬送機構42は、基板FSの搬送方向の上流側(−X方向側)から順に、ニップローラNR11、テンション調整ローラRT11、回転ドラムDR1、案内ローラR11、エアーターンバーAT11、案内ローラR12、エアーターンバーAT12、案内ローラR13、エアーターンバーAT13、案内ローラR14、エアーターンバーAT14、および、ニップローラNR12を備える。案内ローラR11〜R14およびエアーターンバーAT11〜AT14は、乾燥処理部44内に配置されている。
ニップローラNR11、NR12は、図3中のニップローラNR1、NR2と同様に構成された駆動ローラと従動ローラとで構成され、基板FSの表裏両面を保持しながら回転し、基板FSを搬送する。回転ドラムDR1は、Y方向に延びるとともに重力方向と交差した方向に延びた中心軸AXo1と、中心軸AXo1から一定半径の円筒状の外周面を有する。回転ドラムDR1は、外周面(円筒面)に倣って基板FSの一部を長尺方向に沿って湾曲させて支持しつつ、中心軸AXo1を中心に回転して、基板FSを搬送方向(+X方向)に移動させる。回転ドラムDR1は、基板FSの塗布面とは反対側の面(裏面)側から基板FSを支持する。テンション調整ローラRT11は、−Z方向に付勢されており、回転ドラムDR1に巻き付けられて支持されている基板FSに長尺方向に所定のテンションを与えている。これにより、回転ドラムDR1にかかる基板FSに付与される長尺方向のテンションを所定の範囲内に安定化させている。このテンション調整ローラRT11は、基板FSの塗布面と接触しながら回転するように設けられている。エアーターンバーAT11〜AT14は、基板FSの塗布面側から、塗布面と非接触状態(または低摩擦状態)で基板FSを支持する。案内ローラR11〜R14は、基板FSの裏面と接触しながら回転するように配置されている。図1に示す下位制御装置14cは、ニップローラNR11、NR12および回転ドラムDR1の各々に設けられた図示しない回転駆動源のモータを制御することで、処理装置PR3内における基板FSの搬送速度を制御する。
アライメント顕微鏡AMm(AM1〜AM3)は、後述する基板FS上に形成されたアライメント用のマークMKm(MK1〜MK3)を検出するためのものであり(図6参照)、Y方向に沿って3ヶ所に設けられている。アライメント顕微鏡AMm(AM1〜AM3)は、回転ドラムDR1の円周面で支持されている基板FS上のマークMKm(MK1〜MK3)を撮像する。
アライメント顕微鏡AMmは、アライメント用の照明光を基板FSに投射する光源と、その反射光を撮像するCCD、CMOSなどの撮像素子とを有する。アライメント顕微鏡AM1は、観察領域(検出領域)内に存在する基板FSの+Y方向の端部に形成されたマークMK1を撮像する。アライメント顕微鏡AM2は、観察領域内に存在する基板FSの−Y方向の端部に形成されたマークMK2を撮像する。アライメント顕微鏡AM3は、観察領域内に存在する基板FSの幅方向中央に形成されたマークMK3を撮像する。アライメント顕微鏡AMm(AM1〜AM3)が撮像した撮像信号は、下位制御装置14cに送られる。下位制御装置14cは、撮像信号に基づいて、マークMKm(MK1〜MK3)の基板FS上の位置情報を検出する。なお、アライメント用の照明光は、基板FSの感光性機能層に対してほとんど感度を持たない波長域の光、例えば、波長500〜800nm程度の光である。アライメント顕微鏡AMmの観察領域の大きさは、マークMK1〜MK3の大きさやアライメント精度(位置計測精度)に応じて設定されるが、100〜500μm角程度の大きさである。このアライメント顕微鏡AMm(AM1〜AM3)は、後述するアライメント顕微鏡AMm(AM1〜AM3)と同様の構成を有する。
ダイコータヘッドDCHは、回転ドラムDR1の円周面で支持されている基板FSに対して感光性機能液を幅広く一様に塗布する。但し、ダイコータヘッドDCHの塗布液(感光性機能液)を基板FSに吐出するスリット状開口のY方向の長さは、基板FSの幅方向の寸法よりも短く設定されている。そのため、基板FSの幅方向の両端部には塗布液が塗布されない。ダイコータヘッドDCHは、アライメント顕微鏡AMm(AM1〜AM3)に対して基板FSの搬送方向の下流側(+X方向側)に設けられている。ダイコータヘッドDCHは、少なくとも、後述する処理装置PR4によってパターンが描画露光される基板FS上の電子デバイスの形成領域である露光領域W(図6参照)に感光性機能液を塗布する。下位制御装置14cは、アライメント顕微鏡AMm(AM1〜AM3)を用いて検出したマークMKm(MK1〜MK3)の基板FS上の位置に基づいて、ダイコータヘッドDCHを制御して、感光性機能液を基板FS上に塗布する。
ここで、処理装置PR3は、後述するエンコーダシステムESと同様のエンコーダシステムを備える。つまり、回転ドラムDR1の両端部に設けられた一対のスケール部(スケール円盤)と、スケール部に対向して設けられた複数の一対のエンコーダヘッドとを備える。ある一対のエンコーダヘッドは、XZ平面に関して、回転ドラムDR1の中心軸AXo1とアライメント顕微鏡AMm(AM1〜AM3)の観察領域とを通る設置方位線Lg1上に設けられている。また、他の一対のエンコーダヘッドは、XZ平面に関して、回転ドラムDR1の中心軸AXo1とダイコータヘッドDCHによる基板FSへの塗布位置(処理位置)とを通る設置方位線Lg2上に設けられている。このようなエンコーダシステムを設けることで、基板FS上のマークMKmの位置を回転ドラムDR1の回転角度位置に対応づけることができる。そして、複数の一対のエンコーダヘッドの各々が検出した検出信号に基づいて、マークMKm(MK1〜MK3)の位置、および、基板FS上の露光領域(デバイス形成領域)Wと塗布位置(処理位置)との搬送方向(X方向)における位置関係などを特定することができる。
なお、処理装置PR3は、ダイコータヘッドDCHに代えてインクジェットヘッドを備えてもよく、ダイコータヘッドDCHとともにインクジェットヘッドを備えてもよい。このインクジェッヘッドは、感光性機能液を基板FSに対して選択的に塗布することが可能である。そのため、回転ドラムDR1の回転角度位置を計測するエンコーダシステムの計測分解能は、処理装置PR3での感光性機能液の選択的な塗布の位置決め精度に対応して設定される。
乾燥処理部44は、ダイコータヘッドDCHによって感光性機能液が塗布された基板FSに対して乾燥処理を施す。乾燥処理部44は、ドライエアーなどの乾燥用エアー(温風)を基板FSの表面に吹き付けるブロワー、赤外線光源、または、セラミックヒータなどによって、感光性機能液に含まれる溶質(溶剤または水)を除去して感光性機能液を乾燥させる。これにより、感光性機能層が形成される。乾燥処理部44内に設けられた案内ローラR11〜R14およびエアーターンバーAT11〜AT14は、基板FSの搬送経路を長くすべく、蛇行状の搬送路となるように配置されている。本第1の実施の形態では、案内ローラR11〜R14を、エアーターンバーAT11〜AT14に対して+X方向側に配置することで、基板FSの搬送路を蛇行させて基板FSを−Z方向に搬送させている。搬送経路を長くすることで、感光性機能液を効果的に乾燥させることができる。
また、乾燥処理部44は、基板FSを所定長に亘って蓄積可能な蓄積部(バッファ)として機能する。これにより、処理装置PR2から送られてくる基板FSの搬送速度と、処理装置PR4に送る基板FSの搬送速度とを異なる速度にした場合であっても、その速度差を乾燥処理部44で吸収することができる。乾燥処理部44を蓄積部としても機能させるために、エアーターンバーAT11〜AT14をX方向に移動可能とし、且つ、−X方向側に常時一定の力(テンション)で付勢している。したがって、乾燥処理部44(或いは処理装置PR3)に入出する基板FSの搬送速度の差、具体的には回転ドラムDR1の回転(或いはニップローラNR11の回転駆動)による基板FSの送り速度とニップローラNR12の回転駆動による基板FSの送り速度との差によって生じる乾燥処理部44内の基板FSの蓄積長の変化に応じてエアーターンバーAT11〜AT14はX方向(+X方向または−X方向)に移動する。これにより、乾燥処理部44は、基板FSに所定のテンションを付与した状態で所定長に亘って基板FSを蓄積することができる。なお、基板FSの搬送経路を蛇行させて長くしたことによって、乾燥処理部44が蓄積することができる所定長(最大蓄積長)も長くすることができる。
〔処理装置PR4の構成〕
図5は、処理装置(露光装置)PR4の構成を示す図である。処理装置PR4は、マスクを用いない直描方式の露光装置、いわゆるラスタースキャン方式のパターン描画装置である。後で詳細に説明するが、処理装置PR4は、基板FSを長尺方向(副走査方向)に搬送しながら、露光用のパルス状のビームLBのスポット光SPを、基板FSの被照射面(感光面)上で所定の走査方向(Y方向)に1次元に走査(主走査)しつつ、スポット光SPの強度をパターンデータ(描画データ)に応じて高速に変調(オン/オフ)する。これにより、基板FSの被照射面に電子デバイスの回路構成に対応した所定のパターンに応じた光パターンが描画露光される。つまり、基板FSの副走査と、スポット光SPの主走査とで、スポット光SPが基板FSの被照射面上で相対的に2次元走査されて、基板FSに所定のパターンが描画露光される。また、基板FSは、長尺方向に沿って連続的に搬送されているので、処理装置PR4によってパターンが露光される露光領域Wは、基板FSの長尺方向に沿って所定の間隔Tdをあけて複数設けられることになる(図6参照)。この露光領域Wに電子デバイスが形成されるので、露光領域Wは、デバイス形成領域でもある。
処理装置PR4は、基板搬送機構52、ポストベーク処理部54、光源装置56、ビーム分配光学部材58、露光ヘッド60、アライメント顕微鏡AMm(AM1〜AM3)、および、エンコーダシステムESをさらに備えている。基板搬送機構52、ポストベーク処理部54、光源装置56、ビーム分配光学部材58、露光ヘッド60、および、アライメント顕微鏡AMm(AM1〜AM3)は、図示しない温調チャンバー内に設けられている。この温調チャンバーは、内部を所定の温度に保つことで、内部において搬送される基板FSの温度による形状変化を抑制するとともに、内部の湿度を基板FSの吸湿性や搬送に伴って発生する静電気の帯電などを考慮した湿度に設定する。
基板搬送機構52は、デバイス製造システム10の前記基板搬送装置の一部を構成するものであり、処理装置PR3から搬送される基板FSを、処理装置PR4内で所定の速度で搬送した後、処理装置PR5に所定の速度で送り出す。基板FSが基板搬送機構52のローラなどに掛け渡されて搬送されることによって、処理装置PR4内で搬送される基板FSの搬送路が規定される。基板搬送機構52は、基板FSの搬送方向の上流側(−X方向側)から順に、ニップローラNR21、テンション調整ローラRT21、回転ドラムDR2、テンション調整ローラRT22、ニップローラNR22、エアーターンバーAT21、案内ローラR21、エアーターンバーAT22、および、ニップローラNR23を備える。ニップローラNR22、NR23、エアーターンバーAT21、AT22、および、案内ローラR21は、ポストベーク処理部54内に配置されている。
ニップローラNR21〜NR23は、先に説明したニップローラNR1、NR2と同様の駆動ローラと従動ローラとで構成され、基板FSの表裏両面を保持しながら回転し、基板FSを搬送する。回転ドラムDR2は、回転ドラムDR1と同様の構成を有し、Y方向に延びるとともに重力方向と交差したY方向に延びた中心軸AXo2と、中心軸AXo2から一定半径の円筒状の外周面を有する。回転ドラムDR2は、外周面(円筒面)に倣って基板FSの一部を長尺方向に沿って湾曲させて支持しつつ、中心軸AXo2を中心に回転して、基板FSを搬送方向(+X方向)に移動させる。回転ドラムDR2は、基板FSの感光面とは反対側の面(裏面)側から基板FSを支持する。テンション調整ローラRT21、RT22は、−Z方向に付勢されており、回転ドラムDR2に巻き付けられて支持されている基板FSに長尺方向に所定のテンションを与えている。これにより、回転ドラムDR2にかかる基板FSに付与される長尺方向のテンションを所定の範囲内に安定化させている。このテンション調整ローラRT21、RT22は、基板FSの感光面と接触しながら回転するように設けられているため、外周面には基板FSの感光面に傷などを付け難い弾性体(ラバーシート、樹脂シートなど)が被覆されている。エアーターンバーAT21、AT22は、基板FSの感光面側から、感光面と非接触状態(或いは低摩擦状態)で基板FSを支持する。案内ローラR21は、基板FSの裏面と接触しながら回転するように配置されている。図1に示す下位制御装置14dは、ニップローラNR21〜NR23および回転ドラムDR2の各々に設けられた図示しない回転駆動源のモータを制御することで、処理装置PR4内における基板FSの搬送速度を制御する。なお、便宜的に、中心軸AXo2を含み、YZ平面と平行な平面を中心面Pocと呼ぶ。
ポストベーク処理部54は、後述する露光ヘッド60によって描画露光された基板FSに対してポストベーク(PEB;Post Exposure Bake)を行う。ポストベーク処理部54内に設けられたニップローラNR22、NR23、エアーターンバーAT21、AT22、および、案内ローラR21は、基板FSの搬送経路を長くすべく、蛇行状の搬送路となるように配置されている。本第1の実施の形態では、ニップローラNR22、NR23および案内ローラR21を、エアーターンバーAT21、AT22に対して+Z方向側に配置することで、基板FSの搬送路を蛇行させて基板FSを+X方向に搬送させている。搬送経路を長くすることで、ポストベークを効果的に行うことができる。
また、ポストベーク処理部54は、基板FSを所定長に亘って蓄積可能な蓄積部(バッファ)として機能する。これにより、処理装置PR3から送られてくる基板FSの搬送速度と、処理装置PR5に送る基板FSの搬送速度とを異なる速度にした場合であっても、その速度差をポストベーク処理部54で吸収することができる。ポストベーク処理部54を蓄積部としても機能させるために、エアーターンバーAT21、AT22をZ方向に移動可能とし、且つ、−Z方向側に、常時、所定の力(テンション)で付勢している。したがって、ポストベーク処理部54に入出する基板FSの搬送速度の差によって生じるポストベーク処理部54内の基板FSの蓄積長の変化に応じてエアーターンバーAT21、AT22はZ方向(+Z方向または−Z方向)に移動する。これにより、ポストベーク処理部54は、基板FSに所定のテンションを付与した状態で所定長に亘って基板FSを蓄積することができる。なお、基板FSの搬送経路を蛇行させて長くしたことによって、ポストベーク処理部54が蓄積することができる所定長(最大蓄積長)も長くすることができる。
光源装置(光源)56は、パルス状のビーム(パルスビーム、パルス光、レーザ)LBを発生して射出する。このビームLBは、370nm以下の波長帯域の特定波長(例えば、355nm)にピーク波長を有する紫外線光であり、発光周波数(発振周波数)Faで発光する。光源装置56が射出したビームLBは、ビーム分配光学部材58を介して露光ヘッド60に入射する。光源装置56は、紫外波長域で高輝度なビームLBを高い発光周波数Faで発光可能なファイバーアンプレーザ光源装置であってもよい。ファイバーアンプレーザ光源装置は、100MHz以上の高い発光周波数Faで、赤外波長域のパルス光を発光することができる半導体レーザと、赤外波長域のパルス光を増幅するファイバーアンプと、増幅された赤外波長域のパルス光を紫外波長域のパルス光に変換する波長変換素子(高調波発生素子)とで構成される。半導体レーザからの赤外波長域のパルス光は種光とも呼ばれ、種光の発光特性(パルス持続時間、立ち上がりおよび立ち下がりの急峻性など)を変えることで、ファイバーアンプでの増幅効率(増幅率)を変えることができ、最終的に出力される紫外波長域のビームLBの強度を高速に変調することもできる。また、ファイバーアンプレーザ光源装置から出力される紫外波長域のビームLBは、その発光持続時間を数ピコ秒〜数十ピコ秒と極めて短くすることができる。そのため、ラスタースキャン方式の描画露光であっても、基板FSの被照射面(感光面)上で投射されるビームLBのスポット光SPは、殆どぶれることがなく、ビームLBのスポット光SPの断面内での形状と強度分布(例えば、円形のガウス分布)とが一定に保たれる。このようなファイバーアンプレーザ光源装置を直描方式のパターン描画装置に組み合せた構成は、例えば国際公開第2015/166910号パンフレットに開示されている。
露光ヘッド60は、同一構成の複数の走査ユニットUn(U1〜U6)を配列した、いわゆるマルチビーム型の露光ヘッドとなっている。露光ヘッド60は、回転ドラムDR2の外周面(円周面)で支持されている基板FSの一部分に、複数の走査ユニットUn(U1〜U6)によってパターンを描画する。各走査ユニットUn(U1〜U6)は、光源装置56からのビームLBを基板FSの被照射面上でスポット光SPに収斂するように投射しつつ、そのスポット光SPを主走査方向(Y方向)に1次元に走査する。走査ユニットUnは、ビームLBを偏向させるためのポリゴンミラーPMと、回転したポリゴンミラーPMによって偏向されたビームLBのスポット光SPをテレセントリック状態で基板FSの被照射面上に投射するためのFθレンズFTとを備える。このスポット光SPの走査によって、基板FS上(基板FSの被照射面上)に、1ライン分のパターンが描画される直線的な描画ラインSLn(SL1〜SL6)が規定される。この描画ラインSLn(SL1〜SL6)は、各走査ユニットUn(U1〜U6)によって走査されるスポット光SPの走査軌跡を示す走査線である。なお、便宜上、走査ユニットUn(U1〜U6)に入射する光源装置56からのビームLBをLBn(LB1〜LB6)で表す場合がある。
複数の走査ユニットUn(U1〜U6)は、図6に示すように、複数の描画ラインSLn(SL1〜SL6)が、Y方向に関して互いに分離することなく継ぎ合わせるように配置されている。つまり、複数の走査ユニットUn(U1〜U6)全部で露光領域Wの幅方向の全てをカバーするように、各走査ユニットUn(U1〜U6)は、走査領域を分担している。これにより、各走査ユニットUn(U1〜U6)は、基板FSの幅方向に分割された複数の領域毎にパターンを描画することができる。例えば、1つの走査ユニットUnによるY方向の走査長(描画ラインSLnの長さ)を20〜50mm程度とすると、奇数番の走査ユニットU1、U3、U5の3個と、偶数番の走査ユニットU2、U4、U6の3個との計6個の走査ユニットUnをY方向に配置することによって、描画可能なY方向の幅を120〜300mm程度に広げている。各描画ラインSL1〜SL6の長さは、原則として同一とする。つまり、描画ラインSL1〜SL6の各々に沿って走査されるビームLBn(LB1〜LB6)のスポット光SPの走査距離は、原則として同一とする。なお、露光領域Wの幅を長くしたい場合は、描画ラインSLn自体の長さを長くするか、Y方向に配置する走査ユニットUnの数を増やすことで対応することができる。
複数の走査ユニットUn(U1〜U6)は、複数の描画ラインSLn(SL1〜SL6)が中心面Pocを挟んで回転ドラムDR2の周方向に2列に千鳥配列で配置されるように、中心面Pocを挟んで回転ドラムDR2の周方向に2列に千鳥配列で配置される。奇数番の走査ユニットU1、U3、U5は、中心面Pocに対して基板FSの搬送方向の上流側(−X方向側)で、且つ、Y方向に沿って所定の間隔だけ離して配置されている。偶数番の走査ユニットU2、U4、U6は、中心面Pocに対して基板FSの搬送方向の下流側(+X方向側)で、Y方向に沿って所定の間隔だけ離して配置されている。したがって、奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5は、中心面Pocに対して基板FSの搬送方向の上流側(−X方向側)で、且つ、Y方向に沿って所定の間隔だけ離して直線上に配置される。偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6は、中心面Pocに対して基板FSの搬送方向の下流側(+X方向側)で、且つ、Y方向に沿って所定の間隔だけ離して直線上に配置される。
このとき、描画ラインSL2は、基板FSの幅方向に関して、描画ラインSL1と描画ラインSL3との間に配置される。同様に、描画ラインSL3は、基板FSの幅方向に関して、描画ラインSL2と描画ラインSL4との間に配置されている。描画ラインSL4は、基板FSの幅方向に関して、描画ラインSL3と描画ラインSL5との間に配置され、描画ラインSL5は、基板FSの幅方向に関して、描画ラインSL4と描画ラインSL6との間に配置されている。本第1の実施の形態では、描画ラインSL1、SL3、SL5に沿って走査されるビームLBnのスポット光SPの走査方向を−Y方向とし、描画ラインSL2、SL4、SL6に沿って走査されるビームLBnのスポット光SPの走査方向を+Y方向とする。これにより、描画ラインSL1、SL3、SL5の描画開始点側の端部と、描画ラインSL2、SL4、SL6の描画開始点側の端部とはY方向に関して隣接または一部重複する。また、描画ラインSL3、SL5の描画終了点側の端部と、描画ラインSL2、SL4の描画終了点側の端部とはY方向に関して隣接または一部重複する。Y方向に隣り合う描画ラインSLnの端部同士を一部重複させるように、各描画ラインSLnを配置する場合は、例えば、各描画ラインSLnの長さに対して、描画開始点、または描画終了点を含んでY方向に走査長の数%以下の範囲で重複させるとよい。なお、描画ラインSLnをY方向に継ぎ合わせるとは、描画ラインSLnの端部同士をY方向に関して隣接または一部重複させることを意味する。
本第1の実施の形態の場合、光源装置56からのビームLBがパルス光であるため、主走査の間に描画ラインSLn上に投射されるスポット光SPは、ビームLBの発振周波数Fa(例えば、100MHz)に応じて離散的になる。そのため、ビームLBの1パルス光によって投射されるスポット光SPと次の1パルス光によって投射されるスポット光SPとを、主走査方向にオーバーラップさせる必要がある。そのオーバーラップの量は、スポット光SPのサイズφ、スポット光SPの走査速度(主走査の速度)、および、ビームLBの発振周波数Faによって設定される。スポット光SPの実効的なサイズφは、スポット光SPの強度分布がガウス分布で近似される場合、スポット光SPのピーク強度の1/e2(または1/2)で決まる。本第1の実施の形態では、実効的なサイズ(寸法)φに対して、φ×1/2程度スポット光SPがオーバーラップするように、スポット光SPの走査速度Vsおよび発振周波数Faが設定される。したがって、スポット光SPの主走査方向に沿った投射間隔は、φ/2となる。そのため、副走査方向(描画ラインSLnと直交した方向)に関しても、描画ラインSLnに沿ったスポット光SPの1回の走査と、次の走査との間で、基板FSがスポット光SPの実効的なサイズφの略1/2の距離だけ移動するように設定することが望ましい。なお、スポット光SPの走査速度は、ポリゴンミラーPMの回転速度に応じて決定される。
各走査ユニットUn(U1〜U6)は、少なくともXZ平面において、各ビームLBnが回転ドラムDR2の中心軸AXo2に向かって進むように、各ビームLBnを基板FSに向けて射出する。これにより、各走査ユニットUn(U1〜U6)から基板FSに向かって進むビームLBnの光路(ビーム中心軸)は、XZ平面において、基板FSの被照射面の法線と平行となる。また、各走査ユニットUn(U1〜U6)は、描画ラインSLn(SL1〜SL6)に照射するビームLBnが、YZ平面と平行な面内では基板FSの被照射面に対して垂直となるように、ビームLBnを基板FSに向けて照射する。すなわち、被照射面でのスポット光SPの主走査方向に関して、基板FSに投射されるビームLBn(LB1〜LB6)はテレセントリックな状態で走査される。ここで、各走査ユニットUn(U1〜U6)から描画ラインSLn(SL1〜SL6)上の任意の点(例えば、中点)に照射されるビームLBの光軸を照射軸Len(Le1〜Le6)とする。この各照射軸Le(Le1〜Le6)は、XZ平面において、描画ラインSLn(SL1〜SL6)と中心軸AXo2とを結ぶ線となっている。
奇数番の走査ユニットU1、U3、U5の各々の照射軸Le1、Le3、Le5は、XZ平面において同じ方向となっており、偶数番の走査ユニットU2、U4、U6の各々の照射軸Le2、Le4、Le6は、XZ平面において同じ方向となっている。また、照射軸Le1、Le3、Le5と照射軸Le2、Le4、Le6とは、XZ平面において、中心面Pocに対して角度が±θ1となるように設定されている。
ビーム分配光学部材58は、光源装置56からのビームLBを複数の走査ユニットUn(U1〜U6)に導く。ビーム分配光学部材58は、複数の走査ユニットUn(U1〜U6)の各々に対応した複数のビーム分配光学系BDUn(BDU1〜BDU6)を備える。ビーム分配光学系BDU1は、光源装置56からのビームLB(LB1)を走査ユニットU1に導き、同様にビーム分配光学系BDU2〜BDU6は、光源装置56からのビームLB(LB2〜LB6)を走査ユニットU2〜U6に導く。複数のビーム分配光学系BDUn(BDU1〜BDU6)は、ビームLBn(LB1〜LB6)を照射軸Len(Le1〜Le6)上に沿って走査ユニットUn(U1〜U6)に射出する。つまり、ビーム分配光学系BDU1から走査ユニットU1に導かれるビームLB1は、照射軸Le1上を通る。同様に、ビーム分配光学系BDU2〜BDU6から走査ユニットU2〜U6に導かれるビームLB2〜LB6は、照射軸Le2〜Le6上を通る。ビーム分配光学部材58は、不図示のビームスプリッタなどによって、光源装置56からのビームLBを分岐させて複数のビーム分配光学系BDUn(BDU1〜BDU6)の各々に入射させる。なお、ビーム分配光学部材58は、スイッチング用の光偏向器など(例えば、音響光学変調器)によって、光源装置56からビームLBを時分割にして複数のビーム分配光学系BDUn(BDU1〜BDU6)のいずれか1つに選択的に入射させてもよい。
複数のビーム分配光学系BDUn(BDU1〜BDU6)の各々は、複数の走査ユニットUn(U1〜U6)に導くビームLBn(LB1〜LB6)の強度をパターンデータに応じて高速に変調(オン/オフ)する描画用光学素子AOMn(AOM1〜AOM6)を有する。ビーム分配光学系BDU1は、描画用光学素子AOM1を有し、同様に、ビーム分配光学系BDU2〜BDU6は、描画用光学素子AOM2〜AOM6を有する。描画用光学素子AOMn(AOM1〜AOM6)は、ビームLBに対して透過性を有する音響光学変調器(Acousto-Optic Modulator)である。描画用光学素子AOMn(AOM1〜AOM6)は、駆動信号としての高周波信号の周波数に応じた回折角で、光源装置56からのビームLBを回折させた1次回折光を発生し、その1次回折光を、各走査ユニットUn(U1〜U6)に向かうビームLBn(LB1〜LB6)として射出する。描画用光学素子AOMn(AOM1〜AOM6)は、下位制御装置14dからの駆動信号(高周波信号)のオン/オフにしたがって、入射したビームLBを回折させた1次回折光(ビームLBn)の発生をオン/オフする。
描画用光学素子AOMn(AOM1〜AOM6)は、下位制御装置14dからの駆動信号(高周波信号)がオフの状態のときは、入射したビームLB(0次光)を回折させずに透過することで、ビーム分配光学系BDUn(BDU1〜BDU6)内に設けられた図示しない吸収体にビームLBを導く。したがって、駆動信号がオフの状態のときは、描画用光学素子AOMn(AOM1〜AOM6)を透過したビームLBn(LB1〜LB6)は、走査ユニットUn(U1〜U6)に入射しない。つまり、走査ユニットUn内を通るビームLBnの強度が低レベル(ゼロ)になる。このことは、基板FSの被照射面上でみると、被照射面上に照射されるビームLBnのスポット光SPの強度が低レベル(ゼロ)に変調されていることを意味する。一方、描画用光学素子AOMn(AOM1〜AOM6)は、下位制御装置14dからの駆動信号(高周波信号)がオンの状態のときは、入射したビームLBを回折させて1次回折光を射出することで、走査ユニットUn(U1〜U6)にビームLBn(LB1〜LB6)を導く。したがって、駆動信号がオンの状態のときは、走査ユニットUn内を通るビームLBnの強度が高レベルになる。このことは、基板FSの被照射面上でみると、被照射面上に照射されるビームLBnのスポット光SPの強度が高レベルに変調されていることを意味する。このように、オン/オフの駆動信号を描画用光学素子AOMn(AOM1〜AOM6)に印加することで、描画用光学素子AOMn(AOM1〜AOM6)をオン/オフにスイッチングすることができる。
パターンデータは、走査ユニットUn(U1〜U6)毎に設けられており、下位制御装置14dは、各走査ユニットUn(U1〜U6)によって描画されるパターンのパターンデータ(例えば、所定の画素単位を1ビットに対応させて、論理値「0」、または「1」でオフ状態とオン状態とを表すデータ列)に基づいて、各描画用光学素子AOMn(AOM1〜AOM6)に印加する駆動信号を高速にオン状態/オフ状態にスイッチングする。これによって、走査ユニットUn(U1〜U6)毎にパターンデータに応じた描画動作が行われ、基板FSの露光領域(パターン形成領域)には、6つの走査ユニットUn(U1〜U6)の各々による描画パターンがY方向に継いで露光される。
本体フレームUBは、複数のビーム分配光学系BDUn(BDU1〜BDU6)と複数の走査ユニットUn(U1〜U6)を保持する。本体フレームUBは、複数のビーム分配光学系BDUn(BDU1〜BDU6)を保持する第1フレームUb1と、複数の走査ユニットUn(U1〜U6)を保持する第2フレームUb2とを有する。第1フレームUb1は、第2フレームUb2によって保持された複数の走査ユニットUn(U1〜U6)の上方(+Z方向側)で、複数のビーム分配光学系BDUn(BDU1〜BDU6)を保持する。第1フレームUb1は、複数のビーム分配光学系BDUn(BDU1〜BDU6)を下方(−Z方向側)から支持する。奇数番のビーム分配光学系BDU1、BDU3、BDU5は、奇数番の走査ユニットU1、U3、U5の位置に対応して、中心面Pocに対して基板FSの搬送方向の上流側(−X方向側)で、Y方向に沿って1列に配置されるように、第1フレームUb1に支持されている。偶数番のビーム分配光学系BDU2、BDU4、BDU6は、偶数番の走査ユニットU2、U4、U6の位置に対応して、中心面Pocに対して基板FSの搬送方向の下流側(+X方向側)で、Y方向に沿って1列に配置されるように、第1フレームUb1に支持されている。第1フレームUb1には、複数のビーム分配光学系BDUn(BDU1〜BDU6)の各々から射出されるビームLBn(LB1〜LB6)が、対応する走査ユニットUn(U1〜U6)に入射するための開口部Hsn(Hs1〜Hs6)が設けられている。
第2フレームUb2は、各走査ユニットUn(U1〜U6)が照射軸Len(Le1〜Le6)回りに微少量(例えば±2°程度)だけ回動できるように、走査ユニットUn(U1〜U6)を回動可能に保持する。この走査ユニットUn(U1〜U6)の回転によって、描画ラインSLn(SL1〜SL6)が照射軸Len(Le1〜Le6)を中心に回転するので、描画ラインSLn(SL1〜SL6)をY軸と平行な状態に対して僅かな範囲(例えば±2°)内で傾けることができる。なお、この走査ユニットUn(U1〜U6)の照射軸Len(Le1〜Le6)回りの回動は、下位制御装置14dの制御の下、図示しないアクチュエータによって行われる。
図6に示すように、アライメント系を構成するアライメント顕微鏡AMm(AM1〜AM3)は、基板FSに形成されたアライメント用のマークMKm(MK1〜MK3)の位置情報(マーク位置情報)を検出するためのものであり、Y方向に沿って設けられている。マークMKm(MK1〜MK3)は、基板FSの被照射面上の露光領域Wに描画される所定のパターンと、基板FS、或いは基板FSに既に形成された下地パターンの層とを相対的に位置合わせする(アライメントする)ための基準マークである。マークMKm(MK1〜MK3)は、基板FSの幅方向の両端部に、基板FSの長尺方向に沿って一定間隔で形成されているとともに、基板FSの長尺方向に沿って並んだ露光領域W間で、基板FSの幅方向中央に形成されている。アライメント顕微鏡AMm(AM1〜AM3)は、回転ドラムDR2の円周面で支持されている基板FS上のマークMKm(MK1〜MK3)を撮像する。アライメント顕微鏡AMm(AM1〜AM3)は、露光ヘッド60から基板FSの被照射面上に投射されるスポット光SPの位置(描画ラインSL1〜SL6の位置)よりも基板FSの搬送方向の上流側(−X方向側)に設けられている。
アライメント顕微鏡AMmは、アライメント用の照明光を基板FSに投射する光源と、その反射光を撮像するCCD、CMOSなどの撮像素子とを有する。アライメント顕微鏡AM1は、観察領域(検出領域)Vw1内に存在する基板FSの+Y方向の端部に形成されたマークMK1を撮像する。アライメント顕微鏡AM2は、観察領域Vw2内に存在する基板FSの−Y方向の端部に形成されたマークMK2を撮像する。アライメント顕微鏡AM3は、観察領域Vw3内に存在する基板FSの幅方向中央に形成されたマークMK3を撮像する。アライメント顕微鏡AMm(AM1〜AM3)が撮像した撮像信号は、下位制御装置14dに送られる。下位制御装置14dは、撮像信号に基づいて、マークMKm(MK1〜MK3)の基板FS上の位置情報を検出する。なお、アライメント用の照明光は、基板FSの感光性機能層に対してほとんど感度を持たない波長域の光、例えば、波長500〜800nm程度の光である。アライメント顕微鏡AM1〜AM3の観察領域Vw1〜Vw3の大きさは、マークMK1〜MK3の大きさやアライメント精度(位置計測精度)に応じて設定されるが、100〜500μm角程度の大きさである。
エンコーダシステムESは、回転ドラムDR2の回転角度位置(すなわち基板FSの移動位置や移動量)を精密に計測する。具体的には、図5および図6に示すように、エンコーダシステムESは、回転ドラムDR2の両端部に設けられたスケール部(スケール円盤)SDa、SDbと、スケール部SDa、SDbに対向して設けられた複数の一対のエンコーダヘッドENja(EN1a〜EN3a)、ENjb(EN1b〜3b)とを有する。スケール部SDa、SDbは、回転ドラムDR2の外周面の周方向の全体に亘って環状に形成された目盛を有する。このスケール部SDa、SDbは、回転ドラムDR2の外周面の周方向に一定のピッチ(例えば、20μm)で凹状または凸状の格子線(目盛)を刻設した回折格子であり、インクリメンタル型のスケールとして構成される。このスケール部SDa、SDbは、中心軸AXo2回りに回転ドラムDR2と一体に回転する。
エンコーダヘッドENja、ENjbは、スケール部SDa、SDbに対して計測用の光ビームを投射し、その反射光束(回折光)を光電検出することにより、パルス信号である検出信号(2相信号)を下位制御装置14dに出力する。下位制御装置14dは、エンコーダヘッドENja、ENjbごとの検出信号(2相信号)を内挿処理してスケール部SDa、SDbの格子の移動量をデジタル計数(カウント)することで、回転ドラムDR2の回転角度位置および角度変化、或いは基板FSの移動量をサブミクロンの分解能で計測する。回転ドラムDR2の角度変化からは、基板FSの搬送速度も計測することができる。
一対のエンコーダヘッドEN1a、EN1bおよびアライメント顕微鏡AMm(AM1〜AM3)は、中心面Pocに対して基板FSの搬送方向の上流側(−X方向側)に設けられている。一対のエンコーダヘッドEN1a、EN1bおよびアライメント顕微鏡AMm(AM1〜AM3)は、XZ平面に関して、回転ドラムDR2の中心軸AXo2を通る設置方位線Lx1上に配置されている。したがって、アライメント顕微鏡AM1〜AM3の観察領域Vw1〜Vw3内でマークMK1〜MK3を撮像した瞬間のエンコーダヘッドEN1a、EN1bに基づくデジタル計数値(カウント値)をサンプリングすることで、基板FS上のマークMKmの位置を回転ドラムDR2の回転角度位置に対応づけることができる。
一対のエンコーダヘッドEN2a、EN2bは、中心面Pocに対して基板FSの搬送方向の上流側(−X方向側)に設けられており、且つ、エンコーダヘッドEN1a、EN1bより基板FSの搬送方向の下流側(+X方向側)に設けられている。エンコーダヘッドEN2a、EN2bは、XZ平面に関して、回転ドラムDR2の中心軸AXo2を通る設置方位線Lx2上に配置されている。この設置方位線Lx2は、XZ平面に関して、照射軸Le1、Le3、Le5と同角度位置となって重なっている。したがって、エンコーダヘッドEN2a、EN2bに基づくデジタル計数値(カウント値)は、描画ラインSL1、SL3、SL5上における回転ドラムDR2の回転角度位置を示していることになる。
一対のエンコーダヘッドEN3a、EN3bは、中心面Pocに対して基板FSの搬送方向の下流側(+X方向側)に設けられており、XZ平面に関して、回転ドラムDR2の中心軸AXo2を通る設置方位線Lx3上に配置されている。この設置方位線Lx3は、XZ平面に関して、照射軸Le2、Le4、Le6と同角度位置となって重なっている。したがって、エンコーダヘッドEN3a、EN3bに基づくデジタル計数値(カウント値)は、描画ラインSL2、SL4、SL6上における回転ドラムDR2の回転角度位置を示していることになる。
このように、アライメント顕微鏡AMmおよびエンコーダヘッドENja、ENjbを配置したので、エンコーダヘッドENja(EN1a〜EN3a)、ENjb(EN1b〜EN3b)の各々に対応したデジタル計数値に基づいて、マークMKm(MK1〜MK3)の位置、および、基板FS上の露光領域Wと各描画ラインSLn(処理位置)との副走査方向(搬送方向、X方向)における位置関係などを特定することができる。その他、そのデジタル計数値に基づいて、基板FS上に描画すべきパターンの描画データ(例えばビットマップデータ)を記憶するメモリ部の副走査方向に関するアドレス位置を指定することもできる。
処理装置PR4は、以上のような構成を有し、下位制御装置14dは、検出したマークMKmの位置情報とエンコーダヘッドEN1a、EN1bに基づくデジタル計数値に基づいて、露光領域Wの副走査方向(X方向)における露光開始位置を決定する。そして、下位制御装置14dは、エンコーダヘッドEN2a、EN2bに基づくデジタル計数値に基づいて、描画ラインSL1、SL3、SL5上に露光領域Wの露光開始位置が達したか否かを判断する。露光領域Wの露光開始位置が描画ラインSL1、SL3、SL5上に到達したと判断した場合は、下位制御装置14dは、描画用光学素子AOM1、AOM3、AOM5のスイッチングを開始することで、走査ユニットU1、U3、U5によるスポット光SPの走査による描画露光を開始させる。このとき、下位制御装置14dは、エンコーダヘッドEN2a、EN2bに基づくデジタル計数値に基づいて、描画データが記憶されるメモリ部のアクセス番地を指定し、該指定したアクセス番地のデータをシリアルに呼び出して描画用光学素子AOM1、AOM3、AOM5をスイッチングする。同様にして、下位制御装置14dは、エンコーダヘッドEN3a、EN3bに基づくデジタル計数値に基づいて、描画ラインSL2、SL4、SL6上に露光領域Wの露光開始位置が達したと判断した場合は、描画用光学素子AOM2、AOM4、AOM6のスイッチングを開始することで、走査ユニットU2、U4、U6によるスポット光SPの走査による描画露光を開始させる。このとき、下位制御装置14dは、エンコーダヘッドEN3a、EN3bに基づくデジタル計数値に基づいて、描画データが記憶されるメモリ部のアクセス番地を指定し、該指定したアクセス番地のデータをシリアルに呼び出して描画用光学素子AOM2、AOM4、AOM6をスイッチングする。これにより、基板FSの被照射面上に電子デバイス用のパターンが描画露光される。
なお、下位制御装置14dは、描画用光学素子AOMnのスイッチング制御などの他に、光源装置56によるビームLBの発光制御、ポリゴンミラーPMの回転制御なども行う。また、処理装置PR4は、ラスタースキャン方式の露光装置としたが、マスクを用いた露光装置であってもよく、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD:Digital Micromirror Device)、或いは空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)デバイスを用いて所定のパターンを露光する露光装置であってもよい。
マスクを用いる露光装置としては、例えば国際公開第2013/146184号パンフレットに開示されているように、円筒状の透過型または反射型の円筒マスク(回転マスク)の外周面に形成されたマスクパターンを、投影光学系を介して基板FSに投影する投影露光方式、或いは透過型の円筒マスクの外周面と基板FSとを一定のギャップで近接させた近接(プロキシミティ)露光方式の露光装置が使用できる。また、反射型の円筒面状の回転マスクや部分球面状の回転マスクを用いる場合は、例えば、国際公開第2014/010274号パンフレットや国際公開第2013/133321号パンフレットに開示された投影露光装置を用いることもできる。なお、マスクは以上のような回転マスクに限られず、平面の石英による基板上に遮光層や反射層でパターンを形成した平面マスクであってもよい。
〔処理装置PR5、PR6の構成〕
図7は、処理装置(湿式処理装置)PR5、PR6の構成を示す図である。処理装置PR5は、湿式処理の一種である現像処理を施す現像装置であり、処理装置PR6は、湿式処理の一種であるエッチング処理を施すエッチング装置である。処理装置PR5と処理装置PR6とは基板FSを浸す処理液LQ1が異なるだけであって、その構成は同一である。処理装置PR5(PR6)は、基板搬送機構62、処理槽64、洗浄槽66、液切槽68、および、乾燥処理部70を備える。
基板搬送機構62は、デバイス製造システム10の前記基板搬送装置の一部を構成するものであり、処理装置PR4(またはPR5)から搬送される基板FSを、処理装置PR5(またはPR6)内で所定の速度で搬送した後、処理装置PR6(または回収ロールFR2)に所定の速度で送り出す。基板FSが基板搬送機構62のローラなどに掛け渡されて搬送されることによって、処理装置PR5(またはPR6)内で搬送される基板FSの搬送路が規定される。基板搬送機構62は、基板FSの搬送方向の上流側(−X方向側)から順に、ニップローラNR51、エアーターンバーAT51、案内ローラR51〜R59、エアーターンバーAT52、案内ローラR60、エアーターンバーAT53、案内ローラR61、エアーターンバーAT54、案内ローラR62、エアーターンバーAT55、および、ニップローラNR52を備える。案内ローラR60〜R62、エアーターンバーAT53〜AT55、および、ニップローラNR52は、乾燥処理部70内に配置されている。
ニップローラNR51、NR52は、先に説明したニップローラNR1、NR2と同様の駆動ローラと従動ローラとで構成され、基板FSの表裏両面を保持しながら回転し、基板FSを搬送する。エアーターンバーAT51〜AT55は、基板FSの湿式処理が施される処理面側から、処理面と非接触状態(或いは低摩擦状態)で基板FSを支持する。案内ローラR53、R56、R58は、基板FSの処理面(感光面)と接触しながら回転し、それ以外の案内ローラRは、基板FSの処理面とは反対側の面(裏面)と接触しながら回転するように配置されている。なお、基板FSの処理面(感光面)と接触する案内ローラR53、R56、R58は、基板FSの幅方向(Y方向)の両端部のみで基板FSと接触して基板FSの搬送方向を180度折り曲げる構成としてもよい。図1に示す下位制御装置14e(または14f)は、ニップローラNR51、NR52の各々に設けられた図示しない回転駆動源のモータを制御することで、処理装置PR5(またはPR6)内における基板FSの搬送速度を制御する。
縦型の処理槽64は、処理液LQ1を保持するものであり、基板FSに対して湿式処理を施すためのものである。案内ローラR53は、基板FSが処理液LQ1に浸るように処理槽64内に設けられ、案内ローラR52、R54は、処理槽64に対して+Z方向側に設けられている。案内ローラR53は、処理槽64によって保持される処理液LQ1の液面(表面)より−Z方向側に位置する。これにより、案内ローラR52と案内ローラR54の間にある基板FSの一部の表面が処理槽64によって保持されている処理液LQ1と接触するように、基板FSを搬送することができる。処理装置RP5の場合は、処理槽64は、処理液LQ1として現像液を保持する。これにより、基板FSに対して現像処理が施される。つまり、処理装置PR4によって描画露光された感光性機能層(フォトレジスト)が現像され、感光性機能層に形成された潜像に応じた形状で食刻されたレジスト層が出現する。処理装置RP6の場合は、処理槽64は、処理液LQ1としてエッチング液を保持する。これにより、基板FSに対してエッチング処理が施される。つまり、フォトレジスト層(パターンが形成された感光性機能層)をマスクとして、感光性機能層の下層に形成された金属性薄膜がエッチングされ、金属性薄膜に電子デバイス用の回路などに応じたパターン層が出現する。
縦型の洗浄槽66は、湿式処理が施された基板FSに対して洗浄処理を施すためのものである。洗浄槽66内には、洗浄液(例えば、水)LQ2を基板FSの表面に対して放出する洗浄ノズル66aがZ方向沿って複数設けられている。複数の洗浄ノズル66aの各々は、−X方向側と+X方向側との2方向に洗浄液LQ2をシャワー状に放出する。案内ローラR56は、洗浄槽66内であって、複数の洗浄ノズル66aより−Z方向側に設けられ、案内ローラR55、R57は、洗浄槽66に対して+Z方向側に設けられている。これにより、案内ローラR55から案内ローラR56に向かう基板FSは、複数の洗浄ノズル66aに対して−X方向側の位置で、その表面(処理面)が洗浄ノズル66a側を向くように、−Z方向側に搬送される。また、案内ローラR56から案内ローラR57に向かう基板FSは、複数の洗浄ノズル66aに対して+X方向側の位置で、その表面(処理面)が洗浄ノズル66aを向くように+Z方向側に搬送される。したがって、案内ローラR55から案内ローラR56に向かう基板FSの表面は、洗浄槽66に設けられた複数の洗浄ノズル66aから−X方向側に放出される洗浄液LQ2によって洗浄される。同様にして、案内ローラR56から案内ローラR57に向かう基板FSの表面は、洗浄槽66に設けられた複数の洗浄ノズル66aから+X方向側に放出される洗浄液LQ2によって洗浄される。また、複数の洗浄ノズル66aから放出された洗浄液LQ2を洗浄槽66の外部へ排出するための排出口66bが洗浄槽66の底壁に設けられている。
液切槽68は、洗浄処理が施された基板FSに対して液切処理を施す、つまり、基板FSに付着した洗浄液(例えば、水)LQ2を切るためのものである。液切槽68内には、空気などの気体を基板FSに対して放出するエアーノズル68aが複数設けられている。このエアーノズル68aは、液切槽68のZ方向と平行な各内壁面に、Z方向に沿って複数設けられている。これにより、複数のエアーノズル68aは、±X方向側および±Y方向側から気体を基板FSに対して放出する。案内ローラR58は、液切槽68内であって、複数のエアーノズル68aより−Z方向側に設けられ、案内ローラR57、R59は、液切槽68に対して+Z方向側に設けられている。案内ローラR57から案内ローラR58に向かう基板FSは、液切槽68の−X方向側の内壁面にZ方向に沿って複数設けられたエアーノズル68aに対して+X方向側の位置で、−Z方向側に搬送される。案内ローラR58から案内ローラR59に向かう基板FSは、液切槽68の+X方向側の内壁面にZ方向に沿って複数設けられたエアーノズル68aに対して−X方向側の位置で、+Z方向側に搬送される。液切槽68の±Y方向側の内壁面にZ方向に沿って複数設けられたエアーノズル68aは、X方向に関して、案内ローラR57から案内ローラR58に向かって搬送される基板FSの位置と、案内ローラR58から案内ローラR59に向かって搬送される基板FSの位置との間に設けられている。これにより、液切槽68内に設けられた複数のエアーノズル68aから±X方向側および±Y方向側に気体が放出されて、案内ローラR57から案内ローラR59に向かう基板FSに付着した洗浄液LQ2が除去される。また、複数のエアーノズル68aによって基板FSから除去された洗浄液LQ2を液切槽68の外部へ排出するための排出口68bが液切槽68の底壁に設けられている。この排出口68bは、複数のエアーノズル68aから放出された気体を逃がすための排気口としても機能する。
乾燥処理部70は、液切処理が施された基板FSに対して乾燥処理を施す。乾燥処理部70は、ドライエアーなどの乾燥用エアー(温風)を基板FSの表面に吹き付けるブロワー、赤外線光源、または、セラミックヒータなどによって、基板FSに残存している洗浄液LQ2を乾燥させて除去する。乾燥処理部70内に設けられた案内ローラR60〜R62、エアーターンバーAT53〜AT55、および、ニップローラNR52は、基板FSの搬送経路を長くすべく、蛇行状の搬送路となるように配置されている。本第1の実施の形態では、案内ローラR60〜R62およびニップローラNR52を、エアーターンバーAT53〜AT55に対して+Z方向側に配置することで、基板FSの搬送路を蛇行させて基板FSを+X方向に搬送させている。
また、乾燥処理部70は、基板FSを所定長に亘って蓄積可能な蓄積部(バッファ)として機能する。これにより、処理装置PR4(またはPR5)から送られてくる基板FSの搬送速度と、処理装置PR6(または回収ロールFR2)に送る基板FSの搬送速度とを異なる速度にした場合であっても、その速度差を乾燥処理部70で吸収することができる。乾燥処理部70を蓄積部としても機能させるために、エアーターンバーAT53〜AT55は、Z方向に移動可能とし、且つ、−Z方向側に常時所定の力(テンション)で付勢されている。したがって、乾燥処理部70に入出する基板FSの搬送速度の差によって生じる乾燥処理部70内の基板FSの蓄積長の変化に応じてエアーターンバーAT53〜AT55はZ方向(+Z方向または−Z方向)に移動する。これにより、乾燥処理部70は、基板FSに所定のテンションを付与した状態で所定長に亘って基板FSを蓄積することができる。なお、搬送経路を蛇行させて長くすることで、基板FSに残留した液体の残渣、基板FSに浸潤した液体の分子などを効果的に乾燥させることができるとともに、乾燥処理部70が蓄積することができる所定長(最大蓄積長)も長くすることができる。
以上のように、処理装置(成膜装置)PR2の一部を構成するミスト発生装置MG1(MG2)は、微粒子NPを含む分散液DIL1を保持する容器30aと、第1の周波数の振動を容器30a内の分散液DILに与えることで、微粒子NPの分散液DIL1中での凝集を抑える振動部32aと、第1の周波数よりも高く、分散液DIL1の表面から微粒子NPを含むミストMTaを発生させるための第2の周波数の振動を容器30a内の分散液DIL1に与える振動部34aと、を備える。これにより、微粒子NPの凝集を抑える界面活性剤を分散液DILに添加する必要がなくなり、成膜のための工程、工数が減り、且つ、成膜精度を向上させることができる。
また、ミスト発生装置MG1(MG2)は、容器30a内に発生したミストMTaが液化した分散液DIL2を保持する容器30bと、容器30b内の分散液DIL2に第2の周波数を与える振動部34bとをさらに備え、容器30a内に発生したミストMTaは、キャリアガスによって容器30bに搬送される。これにより、容器30a内で分散しきれなかった粒径が比較的大きい微粒子NP(或いは凝集状態で残留する微粒子の塊)がミストMTaと一緒に容器30aから供給された場合であっても、容器30bが存在することでフィルタリングすることができる。したがって、別途、特別なフィルタリング機能を設ける必要はない。
振動部32a(32b)が分散液DILに与える振動の第1の周波数は、1MHzより低い周波数である。したがって、振動部32a(32b)によって凝集した微粒子NPを効果的に粉砕(分散)し、且つ、微粒子NPの分散液DIL1中での凝集を効果的に抑えることができる。また、振動部34a(34b)が分散液DILに与える振動の第2の周波数は、1MHz以上の周波数である。したがって、振動部34a(34b)によって分散液DILの表面から霧化したミストMTを効果的に発生させることができる。
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態では、上記第1の実施の形態で説明した構成と同様の構成については同一の符号を付し、特に説明する必要のない構成についてはその説明および図示を省略する。
図8は、第2の実施の形態におけるミスト発生装置MGaの簡略的な構成を示す図である。ミスト発生装置MGaは、容器30a、30b、ミスト搬送流路36a、および、振動部32a、32b、34aなどを備える。容器30aは分散液DIL1を保持する。振動部32aは、容器30aで保持されている分散液DIL1に対して第1の周波数(1MHzより低い周波数であり、例えば、20kHz)の振動を与える。これにより、分散液DIL1中で凝集した微粒子NPが粉砕(分散)されるとともに、微粒子NPの分散液DIL1中での凝集が抑えられる。振動部34aは、容器30aで保持されている分散液DIL1に対して第2の周波数(1MHz以上の周波数であり、例えば、2.4MHz)の振動を与える。これにより、分散液DIL1の表面から霧化したミストMTが発生する。数μm程度の大きさのミストMTの粒の各々には、ミストMTの径よりも十分小さい微粒子NPは内包されるが、ミストMTの大きさよりも大きい微粒子NPの塊は内包されない。なお、第2の実施の形態では、振動部32aを分散液DIL1に浸し、振動部34aを容器30aの外壁に設けるようにしたが、振動部32a、34aの設置位置はこれに限定されない。要は、振動部32a、34aが分散液DIL1に対して所定の周波数の振動を与えることができればよい。このことは、上記第1の実施の形態でも同様であり、後述する第3の実施の形態でも同様である。
容器30a内に供給されたキャリアガス(例えば、窒素の圧縮ガス)によって、容器30a内で発生したミストMTは、ミスト搬送流路36aを介して容器30bに搬送される。容器30bは、容器30aから搬送されてきたミストMTが液化した分散液(ナノ粒子分散液)DIL2を保持する。したがって、容器30b内の分散液DIL2中の微粒子NPは、ミストMTの寸法よりも十分に小さいナノ粒子となっている。容器30bは、ミスト搬送流路36bが設けられておらず、ミスト搬送流路36aとの接続口以外は密閉されている。そのため、容器30bは、ミスト搬送流路36aを介して容器30aから供給されたミストMTを効率よく液化させることができる。
振動部(第3振動部)32bは、容器30bで保持されている分散液DIL2に対して第1の周波数(例えば、20kHz)の振動を与える。これにより、分散液DIL2中の微粒子NPの凝集を抑えることができる。したがって、分散液DIL2をナノ粒子である微粒子NPが分散した状態、つまり、微粒子NPが凝集されていない分散液(ナノ粒子分散液)の状態で保存しておくことができる。なお、第2の実施の形態では、振動部32bを容器30bの外壁に設けるようにしたが、振動部32bの設置位置はこれに限定されない。要は、振動部32bは、分散液DIL2に対して所定の周波数の振動を与えることができればよい。このことは、上記第1の実施の形態でも同様である。
そして、成膜を行う際に、容器30bで保持、保存されている分散液DIL2を使用すればよい。この場合は、容器30bの分散液DIL2を、成膜のために用いられる別のミスト発生装置の容器に移してもよい。また、上記第1の実施の形態のように、供給管ST1(ST2)に接続されるミスト搬送流路36bを容器30bに接続し、且つ、容器30bに、第2の周波数で振動する振動部34bを設ければよい。したがって、本第2の実施の形態でも、微粒子NPの凝集を抑える界面活性剤を分散液DILに添加する必要がなくなり、成膜のための工程、工数が減り、且つ、成膜精度を向上させることができる。なお、容器30aで発生させたミストMTを容器30bで効率的に液体(分散液DIL2)に戻すために、容器30a内の温度に対して容器30b内の温度(容器30bの内壁温度)を低く設定して、結露を促進してもよい。
[第3の実施の形態]
次に、第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態においても、上記第1の実施の形態で説明した構成と同様の構成については同一の符号を付し、特に説明する必要のない構成についてはその説明および図示を省略する。
図9は、第3の実施の形態におけるミスト発生装置MGbの簡略的な構成を示す図である。ミスト発生装置MGbは、容器30a、30b、ミスト搬送流路36a、36b、および、振動部32a、34a、34bなどを備える。上記第1の実施の形態と異なる点は、容器30b内に容器30bの内部空間を第1空間80aと第2空間80bとに区切るセパレータ82を設けた点と、第1空間80a内の気体(ミストMTも含む)を排気する排気部84を設けた点と、第2空間80b内に、容器30aに供給するキャリアガス(例えば、窒素などの圧縮ガス)と異なるキャリアガス(例えば、窒素とアルゴンとが混合された圧縮ガス)を供給するためのガス流路GT2を設けた点とである。なお、両者のキャリアガスを区別するために、便宜的に、容器30aに供給されるキャリアガスを第1のキャリアガスと呼び、第2空間80b内に供給されるキャリアガスを第2のキャリアガスと呼ぶ場合がある。また、第1空間80a内の分散液DIL1から発生したミストMTをMTaとし、第2空間80b内の分散液DIL2から発生したミストMTをMTbとする。
ミスト搬送流路36aは、第1空間80aと連通しており、ミスト搬送流路36aを介して容器30aから搬送されてきたミストMTaは、第1のキャリアガスとともにこの第1空間80a内に入り込む。つまり、第1空間80aには、容器30aから搬送されてきたミストMTaが存在している。セパレータ82は、容器30aから搬送されてきたミストMTaおよび第1のキャリアガスの第2空間80b内への侵入を阻止する。セパレータ82は、その下端が容器30b内で保持されている分散液DIL2に浸かっており、上端が容器30bの上壁まで延びていることが好ましい。なお、セパレータ82の下端が容器30bの下壁まで延びていると、容器30aから搬送されてきたミストMTaが液化した分散液DIL2は、第2空間80bに浸入できず、第1空間80a内で留まるので、セパレータ82の下端は、容器30bの下壁(底板)より上方に位置している。また、セパレータ82の下端を容器30bの下壁まで延ばす場合は、セパレータ82の下端部(分散液DIL2の液面よりも低い位置)に、第1空間80aと第2空間80bとを連通させるための孔を設ければよい。
排気部84は、第1空間80aと連通しており、主に、容器30aから容器30bの第1空間80aに供給されてきた第1のキャリアガスを排気するものである。なお、排気部84はミストMTaも排気する場合があり得るため、ミストMTaの排気を低減させるためのフィルタを排気部84に設けることが好ましい。
第2空間80bには、振動部34bによる振動によって容器30b内の分散液DIL2の表面から霧化したミストMTbが存在している。振動部34bによる振動によって分散液DIL2の表面から発生したミストMTbの殆どまたは全部が第2空間80b内へ放出されるように、振動部34bを第2空間80b側に設けることが好ましい。第2空間80bとミスト搬送流路36bとは連通し、第2空間80bとガス流路GT2とは連通している。そのため、ガス流路GT2を介して図示しないガス供給部から第2空間80b内へ供給された第2のキャリアガスによって、ミストMTbは、ミスト搬送流路36bを介してミスト処理部(成膜部)に供給される。この第2のキャリアガスの第1空間80a内への侵入はセパレータ82によって阻止される。このミスト処理部は、ミストMTbを用いて基板FSの表面に対して成膜処理を施す。
このように、セパレータ82を設けることによって容器30aに供給するキャリアガスとミスト処理部に供給するキャリアガスとを異ならせることができる。したがって、ミスト処理部による成膜処理に適したキャリアガスをミスト処理部に供給することが可能となる。セパレータ82によってキャリアガスを分離しているので、第2のキャリアガスの流量を制御することで、ミスト処理部に供給する微粒子NPの濃度または量を簡単に制御することができる。この制御は、処理装置PR2の下位制御装置14bによって行われる。
[変形例]
上記第1〜第3の実施の形態の少なくとも1つは、以下のような変形が可能である。なお、上記第1〜第3の実施の形態で説明した構成と同様の構成については同一の符号を付し、特に説明する必要のない構成についてはその説明および図示を省略する。
(変形例1)上記第1または第3の実施の形態では、ミスト発生装置MG1、MG2、MGbによって発生したミストMTと不活性なキャリアガス(例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、窒素など)とが混合された処理ガスを基板FSの表面に噴霧して、ミストMTに含まれる微粒子(ナノ粒子)を基板FSの表面に堆積させるミストデポジション法を用いて薄膜を形成している。このミストデポジション法は、例えば、特開平10−130851号公報に開示されているように、大気圧近傍の圧力下で、シート状基板の表面に機能性の薄膜を形成するプラズマ処理装置に適用することができる。この特許公開公報には、上部電極と下部電極との間にシート状基板を配置して、金属−水素化合物、金属−ハロゲン化合物、金属アルコラートなどの処理ガスをシート状基板の表面に噴霧した状態で、上部電極と下部電極との間に高電圧のパルス電界を印加して放電プラズマを発生させることで、シート状基板の表面にSiO2、TiO2、SnO2などの金属酸化物薄膜を形成することが開示されている。
プラズマ処理装置は、電極の構成や配置、高電圧の印加方法などに関して種々の方式があるが、いずれも処理ガスが基板の表面と接触する領域に均一なプラズマを発生させることで、一様な厚さの薄膜を形成するものである。ミストデポジション法(或いはミストCVD法)にプラズマアシストを加える場合は、成膜すべき基板の表面の近くで、ミストを含む処理ガスが噴霧される空間中に非熱平衡の大気圧プラズマを発生させるのが好ましく、ヘリコン波を用いた大気圧プラズマ発生装置を用いてもよい。低温(200℃以下)環境下で非熱平衡大気圧プラズマ処理によって成膜する装置は、例えば、特表2014−514454号公報に開示されている。
上記したミスト発生装置MG1、MG2、MGbを用いると、ミストMTの発生時にも超音波振動によって微粒子NPの凝集が抑えられているため、個々のミストMTに含まれる微粒子NPは殆ど凝集することなく、或いは凝集したとしてもミストMTのサイズよりは十分に小さいサイズの塊となって基板FSの表面に達する。したがって、上述したプラズマ処理装置と組み合わせることで、形成される薄膜が一様な厚さで緻密になるとともに、成膜レート(単位時間当たりに堆積する膜厚量)も向上する。なお、プラズマ処理装置を上記した実施の形態に適用する場合は、ミスト処理部(図2の成膜室22)内に、プラズマ処理装置(上部電極および下部電極などを含む)を設ければよい。
(変形例2)図10は、変形例2におけるデバイス製造システム10aの概略的な構成を示す概略構成図である。デバイス製造システム10aにおいては、供給ロールFR1から供給された基板FSは、処理装置PR1、処理装置PR3、処理装置PR4、処理装置PR2の順に、処理装置PR1〜PR4内を通るように搬送され、回収ロールFR2によって巻き取られる。したがって、基板FSには、下地処理、塗布処理、露光処理、成膜処理の順で、各処理が施されることになる。
本変形例2においては、処理装置PR3による塗布処理によって塗布される感光性機能液(層)を、国際公開第2013/176222号パンフレットに開示されているような、紫外線の照射によって親撥液性でコントラストを付けることができる感光性シランカップリング剤(感光性SAM)とする。したがって、処理装置PR3から処理装置PR4に搬送される基板FSの表面には、感光性シランカップリング剤の感光性機能層が形成されている。そして、処理装置RP4が、基板FS上にパターンを露光すると、基板FSの表面に形成された感光性シランカップリング剤の感光性機能層は、パターンに応じて露光された部分が撥液性から親液性に改質され、未露光の部分が撥液性のままとなる。
そして、処理装置PR2が処理装置PR4から送られてきた基板FSに対して薄膜を形成するために基板FSの表面にミストMTを噴霧すると、未露光の部分に付着したミストMTは密着力が弱い状態となる。そのため、図2中の成膜室22内、または、乾燥処理ユニット26内のブロワーなどによって、未露光の部分に付着したミストは流されてしまう。これとは逆に、露光された部分に付着したミストMTは、ブロワーなどによって流されることなく、成膜される。このように、基板FSに対して処理を施すことで、ミストデポジション法で、基板FS上にパターンの形状やサイズに応じて選択的に薄膜を形成することができる。なお、基板FSの搬送方向からみて、噴霧ノズルNZ1、NZ2の下流側であって乾燥処理ユニット26の上流側に、未露光の部分に付着したミストMTを吹き飛ばす専用のエアーノズルを設けてもよい。
(変形例3)ミスト発生装置MG1、MG2、MGa、MGbの容器30aによって保持される分散液DILに、例えば、発生するミストMTの粒子の径よりも大きい粒子、例えば、粒径が5〜30μm以上の大きな粒子を混入させてもよい。粒径が比較的大きな粒子(以下、粉砕用粒子)を混在させることで、凝集した微粒子NPを効率良く粉砕することができる。粉砕用粒子の粒径を2.4MHzの超音波で発生するミストMTよりも大きな粒径とすることで、ミストMTに含まれるナノ粒子の微粒子NPと粉砕用粒子を分別することができるため、凝集した微粒子NPの粉砕後に、粉砕用粒子の沈殿を待って上澄み液を採取する、と言った手間が不要となり、連続してナノ粒子の微粒子NPを作り出すことができる。
(変形例4)以上の図3、図8、図9に示したミスト発生装置MG1、MG2、MGa、MGbでは、ミストMTを発生させる場合、分散液DIL中の微粒子NPの凝集を抑えるための第1の振動部32a、32bと、分散液DILの表面からミストMTを発生させるための第2の振動部34a、34bを略同時に作動させるのがよい。分散液DIL中の微粒子NPの材料によっては、微粒子NPがミストMT(実効的な径2〜5μm)中に効率的に含有されるようなサイズ(1粒のミストに含有可能なサイズ)に分散された状態で、第1の振動部32a、32bの駆動を停止した後、分散していた微粒子NPがミストMTに有効に含有されないようなサイズ(1粒のミストに含有不可能なサイズ)以上に凝集するまでの時間に差異がある場合もある。そこで、分散液DIL中の微粒子NPがミストMTの1粒に含有可能なサイズまで分散したエントロピーが大きい状態から、微粒子NPがミストMTの1粒に含有不可能なサイズまで凝集したエントロピーが小さい状態に遷移する時間を考慮して、第1の振動部32a、32bの駆動を間欠的に行ってもよい。
ここで、超音波振動を用いた分散と霧化について、さらに詳しく説明する。超音波を用いた分散は、分散液中でのキャビティ効果が作用していると考えられる。これは、分散液DILに付与した超音波が液体を引きちぎる際に液体中にキャビティ(空洞)が発生し、発生したキャビティが破壊されるときに生じる非常に高いエネルギーの衝撃波によって、凝集した微粒子の塊が粉砕されるものと考えられる。したがって、分散の効率化のためには、分散液に付与する超音波の周波数と出力が大きく影響する。分散に必要とされる周波数は、分散液中にキャビティを発生させるものであれば限定されないが、一般的には数十KHz程度である。それよりも周波数が高くなると、キャビティの発生数は増加するものの、一つ一つのキャビティの大きさが小さくなるため、衝撃波のエネルギーは相対的に低下してくる傾向となる。分散液に付与する超音波の出力(振動振幅)は、大きいほど効率的であって、大容量の分散液DIL中での微粒子NPの分散を短時間で達成できる。
一方、分散液DILからミストを発生させる超音波の周波数帯域では、分散液中で大きなキャビティが発生し難く、微粒子NPの凝集した塊を粉砕する能力は低い。しかしながら、分散液の液中から液面に向けて超音波を照射すると、液面付近の分散液が数μm程度の大きさの液滴に引きちぎられてミストが発生する。ミスト(液滴)発生のメカニズムには、キャビテーション説とキャピラリ波説があるが、Earozoru Kenkyu,26(1).18−23(2011)に掲載された論文「超音波霧化によるナノ液滴の発生」によると、キャピラリ波説に基づく以下のラングの式によって、発生するミスト径Dが理論的に求められる。
この式で、Λ(cm)は液面に生じるキャピラリ波の波長を表し、ρ(g/cm3)は液体の密度、γ(mN/m)は液体の表面張力、F(Hz)は超音波の周波数である。Xは実験的に求められている比例定数で、0.34とされている。分散液DILから数μm以下の径のミストを発生させる超音波周波数は、分散液DILの分散媒が水の場合は2.4MHzが好適であるが、分散媒が水以外の液体、例えばエチレングリコールでは、上記の式に基づくと、さらに低い周波数の1.1MHz付近でもミストが発生することになる。したがって、効率的に所望する径のミストを発生させるためには、分散液DILの分散媒の違いによって超音波の周波数を調整するのがよいことが判る。さらに、分散液DILの霧化は液面より発生するため、振動部34a、34bなどの超音波振動子は、超音波の進行方向を液面方向に向けるとともに、伝搬する超音波が減衰せずに液面に到達するような状態で配置される。
(変形例5)図11は、以上のことを踏まえて第1、第2の実施の形態におけるミスト発生装置を変形した例を示す。図11において、先の図3中に示した部材や構成と同じものには同じ符号を付し、その説明は省略、または簡略化する。本変形例では、図3と同様に、密閉された容器30aと、容器30a内に窒素(N2)などのキャリアガスを供給するガス流路(配管)GTと、容器30a内で発生したミストMTをキャリアガスとともに外部に導く搬送流路(配管)36aとが設けられている。本変形例では、分散液DILを溜めてミストMTを発生する内部容器33が容器30a内に設けられ、発生したミストMTを収集して搬送流路(配管)36aに導くロート状のミスト収集部材38cが内部容器33の上方の開口部を覆うように設けられる。ガス流路(配管)GTから供給されるキャリアガスは、内部容器33の外周壁とミスト収集部材38cの下方部の内周壁との間の隙間を通り、ミスト収集部材38cを介して搬送流路(配管)36aに貫けるように流される。
内部容器33内には所定の深さで分散液DILが満たされ、その液面の高さは液面レベルセンサLLSによって逐次計測される。液面レベルセンサLLSで計測される液面レベルに関する計測情報Svは分散液生成部90に送られる。分散液生成部90は、図3に示した構成と同様の分散質供給部DDから供給される微粒子NPを、分散媒(液体)としての純水(H2O)に所定の濃度(重量%)で混ぜて分散液DILを生成する混合機構と、生成された分散液DILを一時的に蓄積するタンクと、タンク内の分散液DILを内部容器33に送り込む液体流路(配管)WT1に送出するポンプ機構とで構成される。ミストMTの発生に伴って内部容器33内の分散液DILの液面は低下するので、分散液生成部90のポンプ機構は、液面レベルセンサLLSからの計測情報Svに基づいて内部容器33内の分散液DILの液面が指定された高さに維持されるようにサーボ制御される。
さらに内部容器33内には、分散液DIL中の微粒子NPの凝集を抑える(分散を促進する)ための振動部(超音波振動子)32aと、分散液DILの液面からミストMTを発生するための振動部(超音波振動子)34aとが設けられる。微粒子NPの凝集を抑えるための振動部(超音波振動子)32aは、内部容器33の内部の側壁に設けられ、例えば20KHzで振動する。この場合、振動部32aからの振動波は分散液DIL中を液面と平行な方向に進行して、微粒子NPの凝集を抑えたり、微粒子NPが凝集して大きな塊となった場合は、その塊を破砕したりする。分散液DIL中で微粒子NPを分散状態(非凝集状態)にするための振動部32aは、内部容器33の内部であればどこでも良く、条件によっては内部容器33の外壁部に固定してもよい。
内部容器33内の振動部(超音波振動子)34aは、本変形例では、分散液DIL内での位置や姿勢を調整できる調整機構92によって支持されている。調整機構92は、内部容器33の底部壁を貫通して振動部34aを保持する複数のロッド状の支持部材92a、92bを備え、支持部材92a、92bの各々を上下方向(Z方向)に移動させることで、振動部34aの高さ位置や傾きなどの姿勢を調整する。振動部34aは、ミストMTを発生するための振動波が分散液DILの液面に向かうように設定されるが、ミスト発生を効率的にするために、分散液DILの液面から振動部34aまでの深さDP、或いは振動波が進行する方向と液面(ここではXY平面と平行)との成す角度α(通常は90度)を調整するのがよい。これは、分散液DILの分散質(微粒子)の種類や分散媒(液体)の種類を変える場合、効率的なミスト発生のための振動部34aの配置条件が変わる可能性があるからである。なお、深さDPは、複数の支持部材92a、92bを同じ距離だけZ方向に移動させることで調整でき、角度αは複数の支持部材92a、92bの各々を異なる距離だけZ方向に移動させることで調整できる。角度αは、通常は90度でよいが、90度から±10度程度の範囲(80度〜100度)で傾けると、ミスト発生の効率が向上する場合もある。
以上の本変形例によれば、分散液DILの液面の高さを調整できる液面調整機能と、ミスト発生用の振動部34aの分散液DIL中での設置状態を調整できる設置調整機能とを設けたので、少なくともいずれか一方の機能を用いることによって、発生するミストMTのキャリアガス中での濃度を安定にすることが可能となる。さらに、設置調整機能によれば、ミスト発生の効率を高い状態に保つことが可能となる。また、本変形例のように、分散液DILの液面調整機能やミスト発生用の振動部34a(34b)の設置調整機能は、先の各実施の形態(図3、図8、図9)に対しても、同様に設けることができる。
(変形例6)図12は、第1、第2の実施の形態におけるミスト発生装置を変形した例を示す。図12において、先の図3中に示した部材や構成と同じものには同じ符号を付し、その説明は省略、または簡略化する。本変形例では、先の図11と同様に、分散液DILを溜める第2の内部容器33A(金属性がよい)を容器30aの内部に設ける。この内部容器33Aの底部は球面状に形成されており、容器30a内に貯留された水(H2O)の中に浸かるように設置される。容器30a内の水には、例えば20KHzの駆動信号Ds1で加振される振動部32a(セラミック振動子など)によって振動波が与えられる。その振動波は、内部容器33Aの壁面を介して分散液DILに伝搬し、分散液DILには微粒子NPを有効に分散する振動波が与えられる。内部容器33Aの内部には、分散液DILの液面からミストMTを発生するために、例えば2.4MHzの駆動信号Ds2で加振される振動部34aが設置される。内部容器33Aで発生したミストMTは、ガス流路(配管)GTを介して導入される窒素(N2)などのキャリアガスとともに、ミスト収集部材38aで収集されてミスト搬送流路36aに貫けていく。本変形例でも、図11に示した分散液生成部90で作られた分散液DILが、液体流路(配管)WT1を介して内部容器33Aに注入される。なお、図12では、ミスト収集部材38aを内部容器33Aの直上の位置からX方向にずらして示したが、図11のミスト収集部材38cのように、内部容器33Aの上方の開口部を覆うような構成とするのがよい。
本変形例では、内部容器33Aの壁面が液体(水)を媒介として振動部32aからの振動波によって振動することによって、分散液DIL中の微粒子NPを分散状態にする。したがって、本変形例では、分散のための振動を分散液DILに与える振動部が、振動部32aと容器30a内の水(液体)と内部容器33Aの壁とによって構成される。内部容器33Aは容器30a内に支持されるが、内部容器33Aの壁が駆動信号Ds1の周波数(例えば20KHz)で振動することを極力阻害しないように、弾性材料などを用いた保持構造とするのがよい。また、本変形例では、容器30a内の水(H2O)からはミストが発生しない構成とするため、容器30a内の水(H2O)を溜める空間と、分散液DILからのミストMTが発生する空間とを仕切り部材(内部容器)33Bによって分離しておくのがよい。それによって、容器30a内の水(H2O)を溜める空間は密閉された空間になる。そのため、図12のように液体流路(配管)WTを介して頻繁に水(H2O)を供給する必要はないが、長期間に渡って同じ水を使い続けると、バクテリア、カビ、雑菌の繁殖などの問題もあるので、時々、液体流路(配管)WTを介して水(H2O)を交換するのがよい。
以上の本変形例によれば、内部容器33A内にはミスト発生用の振動部34aだけが設けられるので、図11の変形例に比べて内部容器33Aの容積を小さくすることができ、分散液DILの容量を少なくすることができる。なお、本変形例においても、図11の変形例と同様の分散液DILの液面調整機能やミストMTを発生するための振動部34aの配置調整機能を設けることができる。
(変形例7)図13は、図11の変形例における振動部32a、34aのための駆動制御回路部の一例を示す回路ブロック図である。図13の駆動方式は、図11の構成に限られず、先の第1の実施の形態、第2の実施の形態、その他の各変形例の各々の構成に対しても、全く同様に適用できる。本変形例では、ミスト発生用の周波数(例えば2.4MHz)を持った高周波信号SF0を発振する発振回路200、周波数シンセサイザー回路202、増幅回路204A、204Bを備えた回路構成によって、微粒子NPの粉砕や凝集抑制のための振動部32aと、ミスト発生用の振動部34aとを駆動する。この図13の回路構成では、振動部32a、34aの形態によって、2つのモードのうちのいずれか一方のモードで振動部32a、34aを駆動する。第1モードでは、振動部32aが微粒子NPの粉砕や凝集抑制に適した周波数(例えば100KHz以下)にチューニングされた超音波振動子であり、振動部34aがミスト発生に適した周波数(例えば1MHz〜数MHz)にチューニングされた超音波振動子であり、振動部32aを駆動する駆動信号Ds1と、振動部34aを駆動する駆動信号Ds2との各周波数を大きく異ならせるものである。第2モードでは、2つの振動部32a、34aの両方をミスト発生に適した周波数(例えば1MHz〜数MHz)にチューニングされた超音波振動子とし、駆動信号Ds1、Ds2の周波数の間に、微粒子NPの粉砕や凝集抑制に適した周波数(例えば100KHz以下)分の差を与え、その差分のビート周波数による振動波を分散液DIL中に発生させるものである。第1モードか第2モードかの選択は周波数シンセサイザー回路202によって行われる。
周波数シンセサイザー回路202は、微粒子NPの粉砕や凝集抑制に適した周波数(例えば20KHz)を指定する設定情報SFvを、図1または図10に示した成膜装置PR2の下位制御装置14bから入力する。第1モードの場合、周波数シンセサイザー回路202は、発振回路200からの高周波信号SF0(例えば2.4MHz)をそのまま高周波信号SF2として増幅回路204Aに印加し、増幅された駆動信号Ds2がミスト発生用の振動部34aに印加される。さらに、第1モードの場合、周波数シンセサイザー回路202は、入力した高周波信号SF0の周波数(例えば2.4MHz)を所定の分周比で分周した高周波信号SF1を生成する。本変形例の場合、その分周比は、例えば1/120に設定されるため、高周波信号SF1の周波数は20KHzとなり、振動部32aには、増幅回路204Bを介して微粒子NPの分散用に適した周波数(20KHz)の駆動信号Ds1が印加される。なお、周波数シンセサイザー回路202による高周波信号SF0の分周比は1/120に限られず、高周波信号SF0の周波数と設定情報SFvで指定される周波数との比に基づいて自動設定される。
一方、第2モードの場合、周波数シンセサイザー回路202は、第1モードと同様に、発振回路200からの高周波信号SF0をそのまま高周波信号SF2として増幅回路204Aに印加し、増幅された駆動信号Ds2をミスト発生用の振動部34aに印加する。第2モードの場合、周波数シンセサイザー回路202は、高周波信号SF0の周波数に対して設定情報SFvで指定される周波数分だけ高い周波数、または低い周波数の高周波信号SF1を生成する。すなわち、周波数シンセサイザー回路202は、周波数がSF2=SF0、SF1=SF2+SFv(或いは、SF2−SFv)の関係になるように周波数合成を行う。このような周波数合成は、デジタル処理回路とアナログ処理回路のいずれであっても可能である。これによって、振動部34aは、例えば2.40MHzの駆動信号Ds2に応答して振動し、振動部32aは、例えば2.42MHz(または2.38MHz)の駆動信号Ds1に応答して振動する。振動部34aからの振動波と振動部32aからの振動波との間には、0.02MHz(20KHz)の差があるため、その差分のビート周波数による振動波が分散液DIL中に生成される。ビート周波数による振動波は、分散液DIL中の微粒子NPの塊を粉砕したり、凝集を抑制したりするのに適した周波数となる。
一般に、圧電セラミック素子などの超音波振動子は固有の共振周波数を有するため、その共振周波数の駆動信号で駆動するのが効率的である。本変形例の第2モードでは、共振周波数が例えば2.4MHzの2つの超音波振動子(32a、34a)の各々に印加する駆動信号Ds1、Ds2の周波数差は0.02MHzと極めて小さく、2つの超音波振動子はいずれも共振周波数帯域で駆動されることになる。
以上、本変形例の第2モードによれば、微粒子NPの塊の粉砕や凝集の抑制のための振動部32aと、ミスト発生用の振動部34aとは、ミスト発生用の高い周波数に対してチューニングされた同じ超音波振動子にすることができる。また、第2モードの場合、2つの振動部32a、34aはいずれも分散液DILの内部から液面に向けて振動波が進行するように配置するとともに、振動部32aからの振動波と振動部34aからの振動波とが分散液DILの液面下で交差するように互いに少し傾けて配置するとよい。本変形例の第2モードの場合、2つの振動部32a、34aは、いずれもミスト発生に適した高い周波数で振動する超音波振動子とされ、微粒子NPの塊の粉砕や凝集の抑制に適した低い周波数で直接的に振動する超音波振動子は存在しない。しかしながら、2つの振動部32a、34aを僅かに異なる周波数でともに振動させることで、分散液DIL中の微粒子NPの塊の粉砕や凝集の抑制と、ミスト発生とを同時に行うことができる。このことから、本変形例の第2モードでは、2つの振動部32a、34aのいずれか一方を振動する状態と、2つの振動部32a、34aの両方を振動する状態とを所定時間毎に切替えることで、分散液DIL中の微粒子NPの塊の粉砕(凝集の解除)や分散状態の促進を、一定の時間間隔で行うこともできる。
本変形例では、分散液DILに対して互いに異なる周波数の振動を与える複数(3個以上であってもよい)の振動部(超音波振動子)を設けることで、分散液DIL中の微粒子NPの凝集を抑制して分散状態を促進する機能と、分散液DILの液面から微粒子NPを含むミストを発生する機能との両方を同時に達成することができる。互いに異なる周波数とは、2つの振動の周波数の比を10倍以上(1MHz以上と100KHz以下)にする場合と、ビート発生のために2つの振動の周波数の差をいずれかの振動の周波数の1/10以下(100KHz以下/1MHz以上)にする場合とのいずれか一方を含むものである。そして、本変形例の場合、2つの振動部32a、34aは、超音波振動子を別々の筐体(金属ケース)に収納したものとしたが、互いに異なる周波数の駆動信号Ds1、Ds2の各々が印加される超音波振動子を1つの筐体(金属ケース)内に収納した構成であってもよい。
例えば、分散媒(液体)の種類、分散質(微粒子)の種類によっては、ミスト発生のために分散液に与える振動周波数(SF2)が1MHz程度、微粒子の分散のために分散液に与えられる振動周波数(SF1)が100KHz程度になる場合は、図13の駆動制御回路部による第2モードでの駆動のために、2つの振動部32a、34aのうちの一方は、例えば、1MHzに固有共振周波数を有する圧電セラミック素子とし、他方は0.9MHzまたは1.1MHzに固有共振周波数を有する圧電セラミック素子とすればよい。或いは、固有共振周波数の差が0.1MHzとなるように、それぞれ1.05MHzと0.95MHzに固有共振周波数を有する2つの圧電セラミック素子としてもよい。
[第4の実施の形態]
図14は、第4の実施形態によるミスト発生装置の構成を示し、全体的な構成は先の図12で示したミスト発生装置と同様であるが、分散液DIL中の微粒子NPを強制的に分散させる(凝集を防止する)為の振動部32aと、分散液DILの表面からミストMTを発生させる為の振動部34aとの配置を、図12の配置に対して逆にする。すなわち、容器30a(第2容器)の内側には、溜められる液体LW(水:H2O)に底面部が浸るように設置された内部容器33B(第1容器)が設けられ、内部容器33B内には微粒子NPを含有した分散液DILが所定の深さDOLで溜められ、分散液DIL中の微粒子NPの分散用のプローブ状(棒状)の振動部32aが、内部容器33Bの上方の開口部33Boを介して分散液DIL中に浸される。容器30aに溜められた液体LW中には、ミスト発生用の振動部34aが設けられる。図14において、重力方向をZ方向とし、それと垂直な平面をXY面とすると、分散液DILの表面SQはXY面と平行になる。内部容器33Bは、例えば、ポリプロピレン製であり、底面はXY面と平行な平面状に形成され、側壁面には分散液DILの液面SQよりも高い位置(+Z方向)に排気口EPが形成されている。発生したミストMTを効率的に成膜部に導く為に、成膜部側を負圧にする(吸気する)ことで、内部容器33Bの開口部33Boの隙間から流入した大気がミストMTを伴って排気口EPから流出するフローが形成される。容器30aの底部の液体LW中に設けられる振動部34aは、純水を媒体とした分散液DILからミストMTを効率的に発生させる為に、振動周波数が2.4MHz又は1.6MHzの超音波振動子を用いる。振動部34aの振動方向(超音波の発生方向)は+Z方向に設定され、超音波は液体LWを介して内部容器33Bの平面状の底面にほぼ垂直に投射される。さらに、分散用のプローブ状の振動部32aのXY面内での位置と、ミスト発生用の振動部34aのXY面内での位置とは、間隔SPLだけ離れているものとする。なお、本実施の形態では、分散用の振動部32aの振動周波数が20KHz程度に設定される。
以上のような構成のミスト発生装置において、分散液DILからミストMTを効率的に発生させる条件を実験により確かめてみた。実験では、堺化学工業社製の二酸化ジルコニウム(ZrO2、5wt.%)を水(純水)に分散させ、ZrO2のナノ粒子(粒子径は3〜5nm)を含有する分散液(ミスト生成用の溶液)DILを用意し、分散用のプローブ状の振動部32aとして、家田貿易株式会社より販売されている20KHzの超音波ホモジナイザー(SONICS社製のVCシリーズ、又はVCXシリーズ)を用い、ミスト発生用の振動部34aとしては、株式会社星光技研より販売されている投込型超音波霧化ユニットIM1−24/LW(振動子径20mmφ、駆動周波数1.6MHz)を用いた。超音波ホモジナイザーの振動部32aは、直径が数mm〜十数mm程度のチタン合金製の丸棒(プローブロッド)の上端部にP.Z.T素子による振動源を取付けた構造となっており、振動源の振動(20KHz)がプローブロッドを介して分散液DILに印加される。また、図14に示した内部容器33Bの排気口EPからは、循環アスピレータを使って、内部容器33B内のミストMTを含む気体(空気)が一定流量で吸気されるように調整した。
図14の構成において、100ccの分散液DILを内部容器33B内に入れ、距離SPLを数cm程度にした状態で、分散用の振動部32aに20KHzの駆動信号Ds1を印加せずに分散液DILを霧化した場合(強制分散無しでの霧化状態)と、分散用の振動部32aに20KHzの駆動信号Ds1を印加しつつ分散液DILを霧化した場合(強制分散併用での霧化状態)とで、霧化の効率が変わるかを調べた。まず、強制分散無しでの霧化と強制分散併用での霧化との各々を一定時間だけ行った後に、内部容器33B内に残存した残液量を比較したところ、強制分散無しでの霧化での残液量は約97cc(3%の霧化量)となり、強制分散併用での霧化での残液量は約95cc(5%の霧化量)となった。このことから、強制分散を併用して霧化すると、霧化効率が向上することが判った。なお、本実施の形態では、XY面内で見たとき、距離SPLが零の場合、或いは分散用(凝集防止用)の振動部32aと霧化用の振動部34aとが少なくとも一部重なっている場合、ミストMTがほとんど発生しないことがある。これは、液体LWを介して伝搬される振動部34aの1.6MHzの振動波が最も強く照射される内部容器33Bの底面部分と、その上方の分散液DILの液面SQの部分との間に、障害物となり得る分散用の振動部32aが存在する為である。
本実施の形態では、ポリプロピレン製の内部容器33Bの底面を介して、霧化用の超音波振動(1.6MHz)を分散液DILに伝える構成とした。その為、内部容器33Bの底面から分散液DILの液面SQまでの距離である深さDOLによっては、ミストMTの発生時に液面SQに現れるべき液柱が効率的に発生せず、その結果、ミストMTが発生しない場合が生じる。そこで、図14の構成において、分散液DILの液面SQの高さ、すなわち分散液DILの深さDOLを変えて、霧化効率の変化を調べた。図15は、プローブ状の振動部32a(超音波ホモジナイザー)によって20KHzで分散液DILを強制分散させつつ、深さDOLを10〜50mmの間の何点か、ここでは10mm、20mm、40mm、50mmの4点に変えた場合に得られる霧化効率の特性の一例を示すグラフである。図15のグラフにおいて、縦軸は霧化効率を表す分散液DILの残液量の百分率(%)を表し、横軸は深さDOL(mm)を表す。内部容器33Bに貯留される分散液DILの深さDOLを変える場合、貯留する分散液DILの容量を変えることになる為、図15の縦軸の残液量(%)は、一定時間の霧化動作の後に残る分散液DILの容量の初期容量に対する比率(%)として表す。
図14の構成のミスト発生装置の場合、図15に示すように、分散液DILの深さDOLが50mmの場合、残液量は100%であり、ミストMTはほとんど発生しない。分散液DILの深さDOLが40mmの場合の残液量は約99%であり、ミストMTは僅かに発生するものの、効率的な発生とは言えない。図14の構成のミスト発生装置の場合、分散液DILの深さDOLが20mm、10mmの各々のとき、残液量は約95%であり、霧化効率が最も高くなることが判った。従って、長時間に渡ってミストMTを発生させ続ける必要がある場合、内部容器33B内の分散液DILの深さDOLが10〜20mmの範囲に維持されるように、先の図11で説明したような液面レベルセンサLLSを設けて、その計測情報Svに基づいて、ときどき分散液DILを注入する機構を設けるのが良い。
次に、図14の構成のミスト発生装置において、分散液DILの初期の容量を同一とし、深さDOLが20mmとなるように設定した状態で、プローブ状の振動部32a(超音波ホモジナイザー)と霧化用の振動部34aとの間隔SPLを、5〜50mmの間の何点か、ここでは5mm、20mm、35mm、50mmに変えて、一定の時間だけ霧化させた場合の霧化効率の変化を実験にて調べてみた。図16は、プローブ状の振動部32a(直径数mm〜十数mmの金属棒)と霧化用の振動部34a(振動子径20mmφ)との間隔SPLに応じた霧化効率の変化特性を示すグラフであり、縦軸の残液量(%)は、先の図15と同様に分散液DILの初期容量に対する残液量の比率(%)を表し、横軸は間隔SPL(mm)を表す。図16中の変化特性A1は、分散用の振動部32a(20KHz)を振動させずに、霧化用の振動部34a(1.6MHz)のみを振動させた強制分散無しでの霧化状態のときの特性であり、変化特性B1は、分散用の振動部32a(20KHz)と霧化用の振動部34a(1.6MHz)とを共に振動させた強制分散併用での霧化状態のときの特性である。
強制分散無しでの霧化状態の場合、変化特性A1に示すように、間隔SPLが20mm〜50mmにおける残液量(%)は約97%(霧化効率3%)でほぼ一定になった。間隔SPLが20mm以下になると、振動部34aからの振動波が最も強く照射される内部容器33Bの底面部分と、その上方の分散液DILの液面SQの部分との間に、障害物となり得る分散用の振動部32aが近づいてくるため、液面SQに伝搬される1.6MHzの振動波が弱まり、液面SQに現れる液柱の減少によってミストMTの発生効率が低下するものと考えられる。これに対して、強制分散併用での霧化状態の場合、変化特性B1に示すように、間隔SPLが20mm〜35mmの間で、残液量(%)は約95%(霧化効率5%)となり、間隔SPLが50mmでは、変化特性A1とほぼ同じ97%の残液量となった。また、強制分散併用での霧化状態の場合(変化特性B1)でも、間隔SPLが20mm以下になると、ミストMTの発生効率(霧化効率)が低減する。その原因は、先に説明したように、霧化用の振動波(1.6MHz)の伝搬に対して障害物となる分散用の振動部32aが近づき、液面SQに現れる液柱が安定に発生しなくなる為である。
以上のように、霧化用の振動部34aによる1.6MHzの振動波と分散用の振動部32aによる20KHzの振動波とを共に分散液DILに印加し、間隔SPLを適当に設定することにより、図16の変化特性B1に示すように霧化効率を向上(加速)させることができる。従って、霧化用の強い振動波(1.6MHz又は2.4MHz)が分散液DILの液面SQに向かう照射範囲と物理的に干渉しない程度の距離(間隔SPL)で、分散用の振動部32aを霧化用の振動部34aに近づけて配置することにより、霧化効率を大きくすることができる。このような配置条件は、先の図3、図8、図9の各々に示されたミスト発生装置(ミスト発生部)の分散用の振動部32aと霧化用の振動部34aの配置関係でも同様に適用され得る。以上の実験より、先の図15で示した分散液DILの深さDOLが10〜20mmの範囲(最適な深さ範囲)でミストMTの霧化効率が最大となることから、分散用の振動部32aと霧化用の振動部34aとの間隔SPLは、厳密には、最適な深さ範囲の下限値(10mm)よりは大きく、最適深さ範囲の上限値(20mm)の2倍よりも小さい距離範囲にすると、最大の霧化効率が得られることになる。但し、大まかで良い場合は、間隔SPLを分散液DILの深さDOLと同程度に設定すれば、良好な霧化効率が得られる。
[第4の実施の形態の変形例]
図17は、先の図14で示した第4の実施の形態のミスト発生装置の変形例を示す図であり、図14中の部材と同じ構成、又は同じ機能の部材には同じ符号を付してある。図17の変形例では、図14の構成に対して2ヶ所の構成を変更する。第1の変更は、XY面内で見たとき、プローブ状の振動部32aを内部容器33Bの中心付近に配置し、外部容器30a内の液体LW中に配置される霧化用の振動部34aを、XY面内で見たとき、振動部32aから+X方向と−X方向とに間隔SPLだけ離した2ヶ所に設けたことであり、第2の変更は、内部容器33B(ポリプロピレン製)のプローブ状の振動部32aを通す開口部33Boの下に、振動部32aを囲んで分散液DILの液面SQの近くまで−Z方向に延設された筒状のパイプ33Bpを設けたことである。これらの変更点のうち、特に第1の変更によれば、液体LWを介して内部容器33Bの底面に照射される霧化用の1.6MHz(又は2.4MHZ)の振動波が、底面の広い範囲に渡って照射される為、霧化量(ミストMTの濃度)を増加できる。また、第2の変更によれば、パイプ33Bpの下側(−Z方向側)の先端開口部が、液面SQの近くに設定されるので、開口部33Boから流入した気体が、液面SQに沿って流れた後に排気口EPに向かうように流れる為、液面SQから発生したミストMTは効率的に捕集されて排気口EPに送られる。なお、霧化用の振動部34aは、XY面内でみたとき、プローブ状の振動部32aの回りに間隔SPLだけ離して輪帯状に複数配置しても良い。
[第5の実施の形態]
先の第4の実施の形態(図14)によるミスト発生装置を用いて、サンプル基板上にミスト法によりナノ粒子NPによる成膜を行い、基板上に形成される膜の状態を、強制分散無しでの霧化の場合と、強制分散併用での霧化の場合とで比較する実験を行った。その実験では、図18に示すように、図14のミスト発生装置の排気口EPから流出するミストMTを含む気体(空気)を、ミスト搬送路(配管)36aを介して導入する密閉型の容器(チャンバー)30aで構成される第5の実施の形態による成膜ユニット(成膜部)を用いた。チャンバー30aの下方には、サンプル基板PFが、重力方向と垂直な水平面(XY面)に対して一定の角度θαだけ傾くように配置され、チャンバー30aの上方の天井から導入されるミスト搬送路(配管)36aの先には、−Z方向に向いた噴霧口OP1を有する噴霧ノズルNZ1が設けられている。サンプル基板PFを角度θα傾ける理由は、先の図2で説明したように成膜室22内で基板FSを傾斜させる理由と同じである。
さらに、チャンバー30aの側壁(天井側であっても良い)であって、傾けたサンプル基板FPのZ方向の位置が高い側には、噴霧ノズルNZ1よりも高い位置に排気口EX1が形成され、不図示のアスピレータにより排気口EX1から一定流量でチャンバー30a内の気体を吸引する。これにより、図14のミスト発生装置の内部容器33B内で発生したミストMTを含む気体は、ミスト搬送路(配管)36aを通って負圧側となるチャンバー30a内の噴霧口OP1から放出される。噴霧口OP1から放出されるミストMTを含む気体は、排気口EX1の配置とサンプル基板PFの傾斜により、サンプル基板Pの表面に沿った方向に流れ易くすると共に、サンプル基板PF上に液溜まりが発生することを防ぐことができる。その為、サンプル基板PFの表面には効率的にミストMTが付着する。なお、図14のミスト発生装置の内部容器33B内を陽圧にして、ミスト搬送路(配管)36aを通って噴霧口OP1からミストMTを含む気体を加圧状態で噴出させる場合(押し出しの場合)は、噴霧口OP1からの気体(ミストMT)が四方に分散し易くなり、ミストMTの付着効率が低下する場合がある。
また、図18の成膜ユニットでは、サンプル基板PFを耐熱性のあるガラス基板とし、サンプル基板PFは温度200℃に加熱されるホットプレート(加熱器)HPT上に傾斜して保持される。これは、噴霧口OP1からのミストMTがサンプル基板PFに付着又は近接したときに、ミストの主成分である水を瞬時に蒸発させて、一定時間中に、サンプル基板PF上に堆積され得るナノ粒子NPによる最大の膜厚を把握する為である。
ここで、図14のミスト発生装置の内部容器33B内には、ナノ粒子NPとして二酸化ジルコニア(ZrO2)の粒子(5wt.%)を含む分散液DILの200ccが貯留される。ZrO2の1つの粒子の平均的な粒径は3〜5nmであるが、純水による分散液DIL中では、凝集により様々な粒径の塊となって分布している。そこで、分散液DIL中でのZrO2の粒径の分布を動的光散乱法により測定し、強制分散無しでの霧化の場合(1.6MHzの印加のみ)と、強制分散併用での霧化の場合(1.6MHz+20KHzの印加)とで比較してみた。図19は、縦軸に動的光散乱法で得られる散乱強度分布を表し、横軸は推定される粒径(nm)を表したグラフであり、特性SCは、スタティックな状態(1.6MHz、20KHzのどちらの振動も与えない無振動状態)での粒度分布を表し、特性SAは、強制分散無しでの霧化の場合(1.6MHzの印加のみ)での粒度分布を表し、特性SBは、強制分散併用での霧化の場合(1.6MHz+20KHzの印加)での粒度分布を表す。この測定結果から明らかなように、強制分散無しでの霧化の場合(1.6MHzの印加のみ)の特性SAはブロードな粒度分布となっており、強制分散併用での霧化の場合(1.6MHz+20KHzの印加)の特性SBは、特性SAに比べてシャープなピークを持つ粒度分布になっている。
図19のグラフの特性SBでは、20〜50nm辺りの粒径に凝集したZrO2の粒子塊が分散液DIL中に多く含まれることを意味し、特性SAでは、20〜100nmの範囲の粒径に凝集したZrO2の粒子塊が、同程度の割合で分散液DIL中に含まれることを意味する。すなわち、強制分散併用での霧化の場合は、振動部34aによる1.6MHzの振動と、振動部32aによる20KHzの振動との重畳効果によって、凝集が起こったとしても、比較的に揃った粒径の粒子塊となって分散されることになる。なお、図19のグラフでは省略したが、霧化用の振動部34aを振動させずに、分散用の振動部32aのみを振動させた場合の粒度分布の特性は、特性SBに対して粒径(nm)のバンド幅が僅かに狭くなる程度で、概ね同じであった。
次に、図14のミスト発生装置で発生するミストMTを含む気体を、図18の成膜ユニット内のサンプル基板PFに一定時間だけ噴霧したときに、サンプル基板PF上に堆積されるZrO2のナノ粒子による膜の厚みを、強制分散無しでの霧化の場合と、強制分散併用での霧化の場合とで比較してみた。その際、図18のホットプレートHPT(サンプル基板PF)の温度は200℃に設定し、排気口EX1から吸気される流量は一定に設定した。図18の構成による成膜ユニットでは、強制分散無しでの霧化状態で一定時間だけミストMTをサンプル基板PFに噴霧して得られるZrO2粒子による膜厚は約2μmであり、同じ時間だけ強制分散併用での霧化状態でミストMTをサンプル基板PFに噴霧して得られるZrO2粒子による膜厚は約3μmであり、成膜効率が1.5倍に高められていることが判った。
さらに、図14のミスト発生装置で生成されたミストMTを、図18の成膜ユニットに導入して、サンプル基板PF(ガラス)上に膜厚60nmのZrO2粒子による膜(サンプル1)と、膜厚2μmのZrO2粒子による膜(サンプル2)とを作成し、サンプル1、2の各々の膜のヘイズ(HAZE)率を測定してみた。ヘイズ率は、膜体を透過する全透過光量中の拡散透過光量の比率(%)で表わされ、この比率が小さくなるほど、膜を構成するZrO2のナノ粒子よる粒子径(又は粒子塊の径)も小さくなって、緻密な膜とみなされる。サンプル1、2の各々の膜のヘイズ(HAZE)率の測定結果を図20に示す。
図20Aはサンプル1(膜厚60nm)のヘイズ率の特性A1、B1を示し、図20Bはサンプル2(膜厚2μm)のヘイズ率の特性A2、B2を示し、それぞれ、縦軸はヘイズ(HAZE)率(%)を表し、横軸は波長(nm)を表す。計測した波長範囲は380nm〜780nmとした。サンプル1の場合、強制分散無しでの霧化状態で形成されたZrO2粒子の膜(60nm厚)の平均的なヘイズ率は、特性A1から約0.38%であり、強制分散併用での霧化状態で形成されたZrO2粒子の膜(60nm厚)の平均的なヘイズ率は、特性B1から約0.2%に低減している。さらに、サンプル2の場合も、強制分散無しでの霧化状態で形成されたZrO2粒子の膜(2μm厚)の平均的なヘイズ率は、特性A2から約14%であり、強制分散併用での霧化状態で形成されたZrO2粒子の膜(2μm厚)の平均的なヘイズ率は、特性B2から約10%に低減している。このように、分散用の振動部32aを併用した霧化によって、成膜された膜の粗さが低減され、緻密さを向上させる顕著な効果が得られることが確認できた。なお、以上で説明した実験では、分散液DIL中のナノ粒子の凝集を抑制する為の超音波振動波の周波数を20KHzとしたが、その周波数は固定的なものではなく、ナノ粒子単体のサイズ、ナノ粒子の材質によって調整される。また、分散液DILからミストMTを発生させる実験でも、霧化用の超音波振動波の周波数を1.6MHzとしたが、これも固定的なものではなく、1MHZ〜3MHz程度の範囲で霧化効率が高くなる周波数に設定される。
[その他の変形例]
以上の第1〜第5の各実施の形態では、ミスト発生装置(ミスト発生部)において、霧化用の振動部34aと分散用の振動部32aとの両方からの振動波を、界面活性剤となる化学組成成分の含有量が実質的に零とみなせる溶液による分散液DIL(DIL1)に印加することにより、例え凝集したとしても、ミストMTに含まれるようにナノ粒子NPの塊の粒径を小さく揃えられることができる。その為、基板FSに形成される膜質を良好にできる。このような効果は、分散用の振動部32aからの振動波を分散液(界面活性剤となる化学組成成分を実質的に含まない溶液)に印加した状態で、霧化用の振動部34aを用いずに発熱体(ヒーター)によって分散液DIL(DIL1)を加熱させてミストMTを発生させる場合でも同様に得られる。この場合、分散液DILから発生するミストMTや、ミスト搬送流路36aを通るミストMTを含む気体の温度は100℃前後になることがあるので、図2に示した成膜室22内の温度、或いは図18に示したチャンバー30a内の温度も、それに近い温度に設定される。このように、微粒子を分散させた分散液DIL(溶液)から、微粒子を含むミスト(直径が数十μm以下の液滴)を発生させる方法は、分散液DILに振動波(周波数が1MHz以上)を印加する加振方式、分散液DILの液面から蒸気(湯気)を発生させる加熱方式のいずれであっても良い。