本発明の一実施の形態に係る回転電機は、電機子コイルを有するステータと、ロータコアおよびロータコアにおけるステータへの対向面に設けられた複数の突極を有するロータと、を備える回転電機であって、ロータは、隣り合う突極同士を接続する第1バイパス路と、第1バイパス路に、該第1バイパス路の延伸方向に磁極を向くように配置された第1永久磁石と、ロータコアと第1バイパス路との間に形成される第1フラックスバリアと、を備え、回転電機の駆動中に、電機子コイルに通電する電流の電流位相角を制御することを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る回転電機は、動作点を広くすることができ、リラクタンストルクを大きくすることができる。
以下、本発明に係る回転電機の一実施例について、図面を用いて説明する。
図1、図2、図3に示すように、本実施例に係る回転電機1は、永久磁石をロータ内部に埋め込んだ埋込磁石同期回転電機(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)である。回転電機1は、例えばハイブリッド自動車や電気自動車に搭載するのに好適な性能を有している。
回転電機1は、環状に形成されたステータ10と、ステータ10内に回転自在に収容されたロータ20とを備えている。ロータ20は、軸心Oを中心に回転する回転軸2に固定されており、回転軸2と一体回転するようになっている。
ステータ10は、図示しないモータケースに固定されている。ステータ10は、高透磁率の磁性材料からなる環状のステータコア11を備えている。ステータコア11は、回転軸2の軸線に沿った軸方向に電磁鋼板を積層したものからなる。
ステータコア11には、径方向の内方側に突出したステータティース12が周方向に沿って複数(本実施例では48)設けられている。周方向に隣り合うステータティース12の間には、溝状の空間であるスロット13が形成されている。
ここで、径方向とは、上述の軸方向と直交する方向を示す。径方向の内方側とは、径方向において回転軸2に近い側を示し、径方向の外方側とは、径方向において回転軸2から遠い側を示す。周方向とは、回転軸2を中心とする円周方向を示す。
ステータコア11の各スロット13には、ステータコア11の周方向に沿ってW相、V相、U相の三相の電機子コイル14がそれぞれ配置されている。W相、V相、U相の各電機子コイル14は、それぞれのステータティース12に分布巻されている。
ステータ10は、電機子コイル14に三相交流が供給されることで、周方向に回転する回転磁界を発生させる。ステータ10で発生した磁束は、ロータ20に鎖交するようになっている。これにより、ステータ10は、ロータ20を回転させることができる。
電機子コイル14には、この電機子コイル14に流れる電流を制御するためのインバータ(不図示)が接続されており、インバータは、電機子コイル14に供給される三相交流、すなわち供給電機子電流の振幅および位相を制御する。
電機子電流の振幅および位相は、要求される動作点を満たす範囲で適切に制御される。モータの電力効率に応じて、そのときどきで振幅および位相のいずれか一方のみを制御してもよいし、その両方を制御してもよい。
ロータ20は、環状のロータコア21を備えている。ロータコア21は、回転軸2の軸線に沿った軸方向に、高透磁率の磁性材料である電磁鋼板を積層したものからなる。
ロータコア21の外周面には、ロータ20の周方向に沿って複数(8つ)の突極22が等間隔で形成されている。突極22は、径方向外方、すなわちステータ10方向に突出している。隣り合う突極22は、周方向に機械角で45[deg]離れている。
ここで、ロータコア21と突極22とは、一体で構成されており磁気的にも結合されている。このため、本実施例におけるロータコア21はヨーク部として機能し、複数の突極22の基部を機械的および磁気的に結合している。
本実施例において、突極22を通る軸をd軸とし、このd軸と電気的および磁気的に直交する軸(電気角で90[deg]離れた軸)をq軸としている。q軸は、d軸から周方向に機械角で22.5[deg]離れており、周方向に隣り合う突極22の中間を通過している。突極22は磁束が通過する磁路であり、突極22のことを以下、突極磁路またはd軸磁路ともいう。
本実施例に係る回転電機1において、ロータ20は、隣り合う突極22同士を接続する第1バイパス路BP1を備えている。
第1バイパス路BP1は、突極22におけるロータコア21側の基端部同士を接続しており、ロータ20の接線と平行に直線状に延伸している。
ロータ20は、第1バイパス路BP1に、この第1バイパス路BP1の延伸方向に磁極を向くように配置された第1永久磁石PM1を備えている。第1永久磁石PM1は、本実施例は分割されていない1つの永久磁石からなる。
ロータ20は、ロータコア21と第1バイパス路BP1との間に形成される第1フラックスバリアFB1を備えている。
第1フラックスバリアFB1および後述する第2フラックスバリアFB2、第3フラックスバリアFB3、第4フラックスバリアFB4は、磁束の回り込みを防止するものであり、透磁率の低い物質(本実施例では空気)から構成されている。
ここで、ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載する回転電機は、動作点が広く、リラクタンスが大きいことが望まれている。そこで、本実施例では、動作点の拡大とリラクタンストルクの向上のため、回転電機1の負荷時において強め界磁を行うように電流位相角を制御することでトルクを向上させ、ロータ20が高速回転している無負荷時において弱め界磁を行うように電流位相角を制御することで永久磁石の磁束をロータ20内で短絡させて誘起電圧を低減させるようになっている。このように、本実施例では、回転電機1の駆動中に、電機子コイル14に通電する電流の電流位相角を制御するようになっている。電流位相角を制御の詳細について後述する。
また、隣り合う突極22の間であって第1バイパス路BP1よりステータ10側に、ロータ20のステータ10との対向面における一方の突極22の近傍からq軸を跨いで他方の突極22の近傍に向かって延伸する第2バイパス路BP2が設けられている。
第2バイパス路BP2は、ロータ20の外周面における一方の突極22の先端部の近傍において、突極22と平行に径方向内方に延伸した後、q軸を跨いで他方の突極22に向かうようにU字状に湾曲して延伸し、他方の突極22の先端部の近傍に到達している。
言い換えれば、第2バイパス路BP2は、隣り合う一方の突極22の先端の側部から、ロータコア21の内周側を経て、他方の突極22の先端の側部に向かうように、U字状に湾曲している。
また、第2バイパス路BP2に、該第2バイパス路BP2の延伸方向に磁極を向くように第2永久磁石PM2が配置されている。第2永久磁石PM2は、q軸を挟んで対向配置される1組の永久磁石である。
また、第2バイパス路BP2と後述する第3バイパス路BP3との間に第2フラックスバリアFB2が設けられている。したがって、第1バイパス路BP1と第2バイパス路BP2との間に第2フラックスバリアFB2が設けられている。
ここで、本実施例のロータ20はインナロータ型のラジアルギャップロータであるため、ロータ20のステータ10との「対向面」は、ロータ20の外周面を意味している。仮にロータ20がアウタロータ型のラジアルギャップロータである場合、ロータ20の内周面がステータ10との対向面を構成する。また、ロータ20がアキシャルギャップロータである場合、ステータ10に軸方向に対向する面が対向面を構成する。
また、突極22の「近傍」の範囲は、隣り合う突極22同士の間であって、d軸である突極22からq軸の間である。すなわち、一方または他方の突極22の近傍とは、当該突極22とq軸との間の空間を意味する。
隣り合う突極22の間であって第1バイパス路BP1と第2バイパス路BP2との間に、ロータ20のステータ10との対向面における一方の突極22の近傍からq軸を跨いで他方の突極22の近傍に向かって延伸する第3バイパス路BP3が設けられている。また、第1バイパス路BP1と第3バイパス路BP3との間に第3フラックスバリアFB3が設けられている。
第3バイパス路BP3は、ロータ20の外周面における一方の突極22の先端部の近傍において、突極22と平行に径方向内方に延伸した後、q軸を跨いで他方の突極22に向かうようにU字状に湾曲して延伸し、他方の突極22の先端部の近傍に到達している。
言い換えれば、第3バイパス路BP3は、隣り合う一方の突極22の先端の側部から、ロータコア21の内周側を経て、他方の突極22の先端の側部に向かうように、U字状に湾曲している。
隣り合う突極22の間であって第1バイパス路BP1と第3バイパス路BP3との間に、ロータのステータ10との対向面における一方の突極22の近傍からq軸を跨いで他方の突極22の近傍に向かって延伸する第4バイパス路BP4が設けられている。
また、第4バイパス路BP4に、該第4バイパス路BP4の延伸方向に磁極を向くように第3永久磁石PM3が配置されている。第3永久磁石PM3は、q軸を挟んで対向配置される1組の永久磁石である。また、第1バイパス路BP1と第4バイパス路BP4との間に第4フラックスバリアFB4が設けられている。
第4バイパス路BP4は、ロータ20の外周面における一方の突極22の先端部の近傍において、突極22と平行に径方向内方に延伸した後、q軸を跨いで他方の突極22に向かうようにU字状に湾曲して延伸し、他方の突極22の先端部の近傍に到達している。
言い換えれば、第4バイパス路BP4は、隣り合う一方の突極22の先端の側部から、ロータコア21の内周側を経て、他方の突極22の先端の側部に向かうように、U字状に湾曲している。
ステータ10の近傍における第2フラックスバリアFB2、第3フラックスバリアFB3および第4フラックスバリアFB4の幅をWbとし、ステータ10におけるロータ20への対向部のティース間隔をWsとしたとき、第2フラックスバリアFB2、第3フラックスバリアFB3および第4フラックスバリアFB4のうち少なくとも1つは、Wb<Wsを満たす。例えばWsが1.8mmのとき、Wbを1.0mmとする。ここで、ティース間隔とは、スロット13の開口幅、すなわち隣り合うステータティース12の間隔のことである。
隣り合う突極22の一方を挟んで隣り合う一対の第2永久磁石PM2および一対の第3永久磁石PM3は、何れもロータ20の外周側がN極になるように配置されている。また、隣り合う突極22の他方を挟んで隣り合う一対の第2永久磁石PM2および一対の第3永久磁石PM3は、何れもロータ20の外周側がS極の他方になるように配置されている。したがって、ロータ20には、N極の突極22とS極の突極22とが周方向に交互に配置されている。
ロータ20の表面近傍における第2バイパス路BP2に囲まれる部位には、q軸を挟んで一対の空気層23が設けられており、この空気層23によって磁束の回り込みが防止される。
突極22の基端部にはフラックスバリア31が設けられている。このフラックスバリア31は、突極22の基端部におけるロータコア21との連結部に配置されている。フラックスバリア31は、突極22の基端部がロータコア21に対して斜めに連結されるように、三角形に形成されている。
また、第1バイパス路BP1にはブリッジ部27が設けられており、第4バイパス路BP4にはブリッジ部26が設けられている。ブリッジ部27、26は、それぞれ第1バイパス路BP1、第4バイパス路BP4における第1永久磁石PM1、第3永久磁石PM3の外径側に配置されており、第1バイパス路BP1、第4バイパス路BP4の機械強度を確保する機能を有する。また、本実施例では、ロータ20の外周のq軸上にロータコア21に向かって凹む凹部25が設けられている。
また、本実施例では、第1バイパス路BP1に鉤爪形状の係止部30を設け、第2バイパス路BP2に鉤爪形状の係止部28を設け、第4バイパス路BP4に鉤爪形状の係止部29を設けている。これにより、第1永久磁石PM1、第2永久磁石PM2、第3永久磁石PM3の組付性を向上でき、特別な治具を用いることなく第1永久磁石PM1、第2永久磁石PM2、第3永久磁石PM3の位置決めを容易に行うことができる。
次に、本実施例に係る回転電機1の動作と作用効果について説明する。
このように、本実施例では、永久磁石を備えたバイパス路である第1バイパス路BP1、第2バイパス路BP2および第4バイパス路BP4を、3層の層構造にしている。これにより、第1永久磁石PM1の磁石磁束、第2永久磁石PM2の磁石磁束および第3永久磁石PM3の磁石磁束が、第1バイパス路BP1、第2バイパス路BP2および第4バイパス路BP4をそれぞれ通って流れやすくなり、これらの磁石磁束をロータ20内で短絡しやすくできる。なお、第1永久磁石PM1、第2永久磁石PM2、第3永久磁石PM3を総称して単に永久磁石ともいう。また、第1永久磁石PM1の磁石磁束、第2永久磁石PM2の磁石磁束および第3永久磁石PM3の磁石磁束を総称して単に磁石磁束ともいう。
第1のフラックスバリアFB1、第3のフラックスバリアFB3、第4のフラックスバリアFB4はq軸を跨いでおり、第1永久磁石PM1はq軸上に配置されている。このため、q軸方向においては磁束が通過しにくい。一方、突極22のあるd軸においては磁束が通過しやすい。
すなわち、突極22を通るd軸方向のインダクタンス(d軸インダクタンスLd)は、q軸方向のインダクタンス(q軸インダクタンスLq)よりも大きい。したがって、ロータ20は順突極性)(Ld>Lq)を有する構造(以下、順突極構造ともいう)であり、ハイブリッド車両等において今日一般的に用いられている逆突極性(Ld<Lq)を有する構造(以下、逆突極構造ともいう)の回転電機とは異なっている。
このようにロータ20を順突極構造とすることで、本実施例の回転電機1は、第1永久磁石PM1、第2永久磁石PM2、第3永久磁石PM3が発生するマグネットトルクに加えて、d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqとの差に応じたリラクタンストルクを発生することができる。
本実施例の回転電機1は、順突極性(Ld>Lq)の構造のロータ20を備えているため、d−q座標上に電機子電流(id)およびq軸電流(iq)を表したベクトル図において、d軸電流(id)が正の値かつ、q軸電流(iq)が正の値となる第1象限(+idかつ+iq)に電流ベクトルを配置するようにして駆動される。
すなわち、この回転電機1では、磁石磁束ベクトルと同方向に、ロータ界磁電流としてd軸電流(id)を通電することで、強め界磁を行いながらトルクを発生できる。すなわち、d軸電流(id)の振幅を調整することによって、ロータ界磁量を調整できる。
一方、逆突極構造においては、負のd軸電流(−id)によって、ロータ20の磁石磁束ベクトルに対して反磁界になるようにd軸電流ベクトルを大きくさせて磁束の打ち消し合いによって弱め界磁を実現している。
しかし、逆突極性を有する回転電機は、弱め界磁のためにトルクに寄与しない負のd軸電流(−id)を用いているため効率が悪化してしまう。また、逆突極性を有する回転電機は、磁束波形が大きく歪むことにより鉄損が大幅に増加してしまう。また、逆突極性を有する回転電機は、磁束波形の歪によって、空間高調波が増加し、トルクリプル、電磁振動および振動が増加してしまう。
これに対し、本実施例の回転電機1は、順突極性を有することから、正のd軸電流(+id)を減少させる(q軸側に進角させる、もしくは振幅を減少させる)ことによって、d軸磁化量を調整できる。このため、トルクに直接寄与しないd軸電流が減少し、効率を増加させることができる。
また、正のd軸電流(+id)を減少させるよりも負のd軸電流(−id)による弱め界磁で駆動した方が効率の良い場合、弱め界磁で駆動してもよい。弱め界磁で駆動しても、漏れ磁束の効果により従来技術よりも負のd軸電流(−id)の電流値を低減できるため、効率が向上する。
また、第2バイパス路BP2と第4バイパス路BP4の間に第3バイパス路BP3が設けられているため、ロータ20は多層磁石磁路と多層突極磁路とが交互に形成された構造となっている。ここで、回転電機1において、電機子コイル14の各相の線間電圧は直流バス電圧により制約される。
本実施例では、線間電圧が電圧制限に達した場合に、負のd軸電流(−id)による逆磁界により磁石磁束が突極磁路に漏れ、ロータ20内に短絡磁路が形成される。これにより、電機子コイル14に鎖交する磁束量を大幅に低減でき、広い可変界磁特性を得ることができる。
また、本実施例では、第1永久磁石PM1、第2永久磁石PM2、第3永久磁石PM3の磁極が図2、図3に示すように配置されているため、N極の突極22とS極の突極22とがロータ20の周方向に交互に配置される。
このような回転電機1において、正のd軸電流(+id)となる強め界磁領域で駆動する場合、最もインダクタンスが大きいd軸磁路に、ステータ10の電機子コイル14で発生した磁束(以下、電機子磁束ともいう)が多く鎖交し、磁石磁路をバイパス路として磁気回路が構成される。
一方、負のd軸電流(−id)となる弱め界磁領域で回転電機1を駆動する場合、最もインダクタンスが大きいd軸磁路に、磁石磁束ベクトルとは逆方向の電機子磁束が鎖交する。そして、負のd軸電流(−id)によって作り出された逆磁界が発生しているステータ10よりも磁気抵抗が小さくなる突極磁路に、磁石磁束の漏れ磁束経路が形成される。このため、ロータ20内で磁石磁束が短絡する。
このような漏れ磁束効果によって、ロータ20からステータ10に鎖交する磁束(以下、電機子鎖交磁束ともいう)を低減でき、可変界磁効果を得ることができる。
無負荷時において磁石磁束は、図3、図4に示すように、第1バイパス路BP1のブリッジ部27、および第4バイパス路BP4のブリッジ部26を介して、突極磁路に短絡する。ブリッジ部27、26は第1永久磁石PM1および第3永久磁石PM3を径方向に支持している。このため、第1永久磁石PM1および第3永久磁石PM3に作用する遠心力をブリッジ部27、26に受け持たせることができ、遠心力に対する第1永久磁石PM1および第3永久磁石PM3の耐力を向上できる。
本実施例では、ブリッジ部26、27を介して磁石磁束が突極磁路に短絡するので、ステータに鎖交する磁束量を低減でき、無負荷時において、鉄損を低減でき、コギングトルクを低減でき、誘起電圧を低減できる。
また、本実施例では、突極磁路におけるロータ20の最内径部分に、磁石磁路のバイパス経路が設けられている。
これにより、正のd軸電流(+id)となる強め界磁駆動時は、+d軸磁束による磁束アシスト効果によって、電機子コイル14に鎖交する磁束量が増加するように強め界磁が行われる。
一方、負のd軸電流(−id)となる弱め界磁駆動時は、−id軸磁束による逆界磁効果によって、磁石バイパス路上の磁石磁束が、突極磁路におけるロータ20の最内径部分に短絡するように短絡磁路が形成される。
このため、磁石磁路のバイパス路を形成しない場合と比較し、強め界磁時はトルクの向上を実現でき、弱め界磁時は電機子鎖交磁束の大幅な低減を実現できる。
また、本実施例では、ロータ20に凹部25が設けられている。このため、凹部25によってq軸における磁気抵抗を増大でき、図4に示すように磁束が形成される。このため、q軸インダクタンスを低減でき、d軸インダクタンスとの差(Ld−Lq)を向上させることができる。この結果、突極比を大きくでき、リラクタンストルクを向上できる。
また、本実施例では、第2フラックスバリアFB2、第3フラックスバリアFB3、第4フラックスバリアFB4の幅(Wb)を、ティース間隔(Ws)よりも小さくしているため、強め界磁時はLd>Lqの突極比を高めてリラクタンストルクを向上できる。
また、弱め界磁時は、磁石磁束がステータ10とのギャップを介してステータ10に鎖交するよりも、ロータ20内で第2フラックスバリアFB2、第3フラックスバリアFB3、第4フラックスバリアFB4を通り抜けて漏れ磁束になりやすくなる。その結果、弱め界磁領域で駆動する際に磁石磁束をロータ20内に多く漏らすことができ、ステータ10に鎖交する磁束を大幅に削減できる。
図5に示すように、本実施例では、最大トルク点(MTPA:Max Torque Per Ampere)は+d軸から+q軸の間に存在しており、回転電機1が順突極モータ(Ld>lq)であること、およびリラクタンストルクおよび磁石トルクの活用が可能である。
これに加え、本実施例の回転電機1は、一般的なPMSMと異なり、電流位相角を変えることでロータ20内に短絡する磁路が変化するため、強め界磁領域(−90[deg]から0[deg]の範囲)で駆動した場合と、弱め界磁領域(0[deg]から+90[deg]の範囲)で駆動した場合とで、電流位相−トルク特性が異なるという特徴を有する。
図6に示すように、負のd軸電流(−id)となる弱め界磁領域で回転電機1を駆動することで、磁石磁束がロータ20内で短絡するため、電機子電圧を大幅に低減できている。
図7(a)、図7(b)に示すように、最大トルク時(電流位相は例えば−30[deg])では、磁石磁束ベクトルと同じ方向に電機子磁束ベクトルが向いており、強め界磁で回転電機1を駆動できている。また、図3、図10に示すように、磁石磁束をアシストするように電機子磁束が作用している。
一方、図8(a)、図8(b)に示すように、漏れ磁束駆動時(電流位相は例えば+30[deg]のとき)は、磁石磁束ベクトルと逆方向に電機子ベクトルが向いており、突極磁路に磁石磁束が漏れることが誘発されている。
図9に示すように、負のd軸電流(−id)による逆磁界により、磁石磁束がステータ10に鎖交するときの磁気抵抗が増加する。一方で、突極磁路はインダクタンスが大きく磁気抵抗が小さいため、磁石磁束が第3フラックスバリアFB3を通って突極磁路に漏れる。このため、磁石磁路の短絡磁路がロータ20内に形成される。これにより、電機子コイル14に鎖交する磁束量を大幅に低減でき、広い可変界磁特性を得ることができる。
また、ロータ20の最内径部分の突極磁路に磁石磁路のバイパス経路を設けることで、正のd軸電流(+id)となる強め界磁駆動時は、+d軸磁束による磁束アシスト効果により電機子コイル14に鎖交する磁束量が増加し、負のd軸電流(−id)となる弱め界磁駆動時は、負のd軸電流(−id)の磁束による逆界磁効果により磁石バイパス路上の磁石磁束が最内径部分の突極磁路内に短絡磁路を形成する。
このため、磁石磁路のバイパス路を形成しなかった場合と比較し、強め界磁時はトルク向上を実現でき、弱め界磁時は電機子鎖交磁束の大幅な低減を実現できる。
以上のように、本実施例に係る回転電機1において、ロータ20は、隣り合う突極22同士を接続する第1バイパス路BP1と、第1バイパス路BP1に、該第1バイパス路BP1の延伸方向に磁極を向くように配置された第1永久磁石PM1と、ロータコア21と第1バイパス路BP1との間に形成される第1フラックスバリアFB1と、を備えている。
これにより、隣り合う突極22と第1バイパス路BP1とロータコア21とにより、第1フラックスバリアFB1の周囲を周回するような磁石磁束のバイパス回路が形成される。
このため、第1永久磁石PM1の磁石磁束がロータ20内で短絡しやすくなるため、ステータ10側に鎖交する磁石磁束量を低減することができる。このため、電機子コイル14に通電していない無負荷時にロータ20が高速回転している状態で、電機子コイル14に発生する誘起電圧を低減でき、無負荷状態での許容回転数を広げることができる。このため、動作点を広くすることができる。
また、突極22を通る電機子コイル14の磁束が、図1に破線の矢印Aで示すように、ロータ20のロータコア21のある深部まで回り込むことができるため、リラクタンストルクを大きくすることができる。ここで、ロータ20の「深部」とは、第1フラックスバリアFB1よりも軸心O(図1参照)側の位置のことである。言い換えれば、ロータ20の「深部」とは、ロータ20のコア21のうち、ステータ10から見て遠い側の部位のことである。本発明をアウタロータ型のラジアルギャップロータに適用した場合、アウタロータのコアのうち、ステータから見て外周方向に遠い側の部位が深部となる。また、本発明をアキシャルギャップロータに適用した場合、アキシャルギャップロータのコアのうち、ステータから見て軸線方向に遠い側の部位が深部となる。
これに加え、本実施例に係る回転電機1は、回転電機1の駆動中に、電機子コイル14に通電する電流の電流位相角を制御するようになっている。
これにより、無負荷時は永久磁石の磁束をロータ20内で短絡させつつ、負荷時にロータ20内で短絡する永久磁石の磁束を可変できるため、回転電機1の動作点を広げることができる。
より詳しくは、負荷時において、電機子コイル14に通電する電流位相角を、電機子磁束が作用して磁石磁束のステータ10鎖交磁束量が増える方向に変更(例えば進角。現在の位相によっては遅角)して強め界磁を行うことで、トルクを向上させることができる。
一方、ロータ20が高速回転している無負荷時において、電機子コイル14に通電する電流位相角を、電機子磁束が作用して磁石磁束のステータ10への鎖交磁束量が弱まる方向に変更(例えば進角。現在の位相によっては遅角)して弱め界磁を行うことで、誘起電圧を低減できる。
この結果、動作点を広くすることができ、リラクタンストルクを大きくすることができる。
また、本実施例に係る回転電機1において、隣り合う突極22の間であって第1バイパス路BP1よりステータ10側に、ロータ20のステータ10との対向面における一方の突極22の近傍からq軸を跨いで他方の突極22の近傍に向かって延伸する第2バイパス路BP2が設けられている。
また、第2バイパス路BP2に、該第2バイパス路BP2の延伸方向に磁極を向くように第2永久磁石PM2が配置されている。
また、第1バイパス路BP1と第2バイパス路BP2との間に第2フラックスバリアFB2が設けられている。
これにより、弱め界磁制御中は、第2永久磁石PM2の磁石磁束を、第2永久磁石PM2の短絡経路に合流させて第1永久磁石PM1の短絡経路内に循環させて閉じ込めることができ、磁石磁束のうち電機子磁束に鎖交する磁束量を低減できる。
また、弱め界磁制御中は、電機子磁束と衝突した磁石磁束を短絡経路に逃がすことができ、永久磁石に作用する電機子磁束を低減でき、永久磁石が減磁することを抑制できる。
また、本実施例に係る回転電機1において、隣り合う突極22の間であって第1バイパス路BP1と第2バイパス路BP2との間に、ロータ20のステータ10との対向面における一方の突極22の近傍からq軸を跨いで他方の突極22の近傍に向かって延伸する第3バイパス路BP3が設けられている。また、第1バイパス路BP1と第3バイパス路BP3との間に第3フラックスバリアFB3が設けられている。
これにより、第3バイパス路BP3からも磁石磁束が短絡するので、無負荷時の高速回転時に発生する誘起電圧を低減できる。また、電機子磁束が、ロータコア21と突極22とを通過するルートに加えて、第3バイパス路BP3も通過することで、リラクタンストルクを向上させることができる。
また、本実施例に係る回転電機1において、隣り合う突極22の間であって第1バイパス路BP1と第3バイパス路BP3との間に、ロータのステータ10との対向面における一方の突極22の近傍からq軸を跨いで他方の突極22の近傍に向かって延伸する第4バイパス路BP4が設けられている。
また、第4バイパス路BP4に、該第4バイパス路BP4の延伸方向に磁極を向くように第3永久磁石PM3が配置されている。また、第1バイパス路BP1と第4バイパス路BP4との間に第4フラックスバリアFB4が設けられている。
これにより、強め界磁時はマグネットトルクの向上を図ることができる。
また、弱め界磁時は、ロータコア21から最も遠い位置にある第2永久磁石PM2の磁束が、第2バイパス路BP2、第3バイパス路BP3、第4バイパス路BP4および突極22を経てロータコア21に到達した後、第1バイパス路BP1とロータコア21との間で短絡する。
このため、ステータ10側に鎖交する電機子鎖交磁束を低減できる。また、第3永久磁石PM3がロータコア21側へ短絡できるので、電機子磁束が永久磁石に作用して永久磁石が減磁することを抑制できる。
また、本実施例に係る回転電機1において、ステータ10の近傍における、第2フラックスバリアFB2、第3フラックスバリアFB3および第4フラックスバリアFB4の幅をWbとし、ステータ10におけるロータ20への対向部のステータティース12の間隔をWsとしたとき、第2フラックスバリアFB2、第3フラックスバリアFB3および第4フラックスバリアFB4のうち少なくとも1つは、Wb<Wsを満たす。
これにより、強め界磁時は、突極比を高めてリラクタンストルクを向上できる。
また、弱め界磁時は、磁石磁束が、ロータ20とステータ10とのギャップを介してステータ10に鎖交するよりも、ロータ20内で第2フラックスバリアFB2、第3フラックスバリアFB3、第4フラックスバリアFB4を通り抜けて漏れ磁束になりやすくなる。このため、磁石磁束をロータ20内に多く漏らすことができ、電機子鎖交磁束を低減できる。
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
本実施例では、インナロータ型のラジアルギャップロータに本発明を適用したが、アウタロータ型のラジアルギャップロータや、アキシャルギャップロータにも本発明を適用できる。
また、本実施例では、各パイパス路に配置した複数の永久磁石をq軸に対して斜めに配置したが、永久磁石の磁極がq軸と直行する方向に向くように永久磁石を配置してもよいし、永久磁石をクロスポール状に配置してもよい。
本実施例では、極数が8極の回転電機を例示したが、6極や10極などの、8極以外の極数の場合においても、同様の磁気回路構成を採用することができる。