以下、本開示の一側面に係る計測システムについて図を参照しつつ説明する。但し、本開示の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
本実施形態は、撮像素子を備えた光学式カメラで撮影された、物体上の斜め方向に配置され且つ繰り返しを有する規則性模様から、物体の面内及び面外の変位及び振動を測定する技術に関する。
従来のサンプリングモアレ法による変位計測手法では、撮像素子を備えた光学式カメラで撮影された物体上の規則的に繰り返しのある模様(例えば格子模様)の変形前後の画像が解析される。この変位計測手法では、図1A〜図1Dに示すような1次元のライン状の格子マーカー又は2次元のドット格子マーカーが用いられる。この変位計測手法では、水平方向の変位計測に対しては垂直方向の格子(図1A)の変位量が測定及び解析され、垂直方向の変位計測に対しては水平方向の格子(図1B)の変位量が測定及び解析される。一方、2次元の格子マーカーを用いて、水平及び垂直の両方の方向に対して同時に十分な変位計測を行うためには、水平及び垂直方向の格子を両方含む格子が長方形(図1C)もしくは正方形(図1D)のメッシュ形状又は2次元ドットの模様(メッシュを反転させた形状)を有している必要がある。
また、この変位計測手法では、マーカーは、格子ピッチの2倍以上の幅及び高さを有している必要がある。そのため、ナノ・マイクロ構造体の機械的試験、又は、橋梁等の路面上の変位の計測を実行する際、マーカーの設置場所は限られる。加えて、曲面物体である電柱、街灯又は宇宙構造物等の柱状の構造物へのマーカーの設置が困難である。
また、1次元の正弦波又は矩形波格子のマーカーを使用する場合、変位計測方向に対してラインが直交するマーカーを使用する必要がある。
以下では、上記したようなマーカーの設置サイズの制限緩和、又は、より高精度な変位解析を実現するために、斜め格子を利用して物体の変位又は振動を測定する新たな方法について説明する。
本実施形態では、水平格子、垂直格子又は直交格子が、一般的に用いられるように水平方向又は垂直方向のいずれかに対して平行に配置される代わりに、斜め格子が用いられる。これにより、以下のことが実現される。
なお、水平格子は、空間座標の水平方向に延伸する複数のライン(平行線)のそれぞれが一定間隔毎に配置された格子である。垂直格子は、空間座標の垂直方向に延伸する複数のラインのそれぞれが一定間隔毎に配置された格子である。直交格子は、水平方向に延伸する複数のラインのそれぞれが一定間隔毎に配置され、且つ、垂直方向に延伸する複数のラインのそれぞれが一定間隔毎に配置された格子である。本実施形態では、格子方向は、格子の規則的変化が現れる方向と直交する方向のことを意味する。斜め格子は、格子方向が水平方向又は垂直方向に対して斜めである格子である。即ち、斜め格子には、斜め格子の長手方向又は短手方向に対して傾いて延伸する複数のラインのそれぞれが一定間隔毎に配置される。
斜め格子は、矩形状の計測領域における水平方向又は垂直方向に対して、水平格子、垂直格子を傾けて配置することにより設けられてもよい。また、斜め格子が矩形状に設けられる場合、斜め格子は、斜め格子の短手方向に対して水平格子を傾けることにより設けられてもよい。
(1)従来の1次元サンプリングモアレ法の代わりに、2次元サンプリングモアレ法(特許文献3)を利用することが可能となり、より高精度に位相解析を行うことが可能となる。2次元サンプリングモアレ法では、x方向及びy方向の両方向において、間引き処理及び輝度補間処理により得られる位相シフトしたモアレ縞に対して、2次元離散的フーリエ変換が実行される。
(2)変位を測定する方向に対して直交する方向を解析方向とする(x方向の変位についてはy方向で解析し、y方向の変位についてはx方向で解析する)ことにより、マーカーサイズの制限を大幅に緩和することが可能となる。
(3)2段モアレ法をより容易に利用することが可能となる。2段モアレ法では、モアレ縞を格子とみなして、算出したモアレ縞から、適切な間引き処理と輝度補間処理により、さらに2段モアレ縞が算出され、広視野で且つ高感度な変形計測が実行される。
図2は、実施形態に従った計測システム100の概略構成の一例を示す図である。
計測システム100は、試料200と、撮像装置300と、情報処理装置400とを有する。
試料200は、例えば、電柱、街灯、宇宙構造物(ロケット等)等の柱状の構造物である。試料200は、試料200の一部である矩形状の計測領域201を含む。計測領域201は、少なくとも撮像装置300により撮像されたときの各辺の画素数が一画素以上あればよく、例えば直線状(横又は縦のライン状)でもよい。計測領域201には、矩形状の斜め格子202が貼付けられる。斜め格子202には、斜め格子202の長手方向又は短手方向に対して傾いて延伸する複数のラインのそれぞれが一定間隔毎に配置される。斜め格子202は、背面に糊等が付着されたテープとして形成され、計測者により、計測領域201の長手方向と、斜め格子202の長手方向とがあうように計測領域201に貼付けられる。
撮像装置300は、例えば光学式カメラである。撮像装置300は、CCD(Charge Coupled Device)素子又はC−MOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)素子等の撮像素子と、その撮像素子上に像を結像する結像光学系と、撮像素子から出力された電気信号を増幅し、アナログ/デジタル変換するA/D変換器とを有する。撮像装置300は、試料200の計測領域201を定期的に撮像するように固定設置される。撮像装置300は、斜め格子202が貼付けられた計測領域201が変形した場合、計測領域201の変形前後の画像を撮影する。撮像装置300は、情報処理装置400と接続され、撮影した画像を各画素が0〜255の範囲の輝度値(8bitの画像センサの場合)を有するデジタル画像に変換して情報処理装置400へ出力する。
情報処理装置400は、例えばパーソナルコンピュータである。情報処理装置400は、インタフェース装置401と、通信装置402と、入力装置403と、表示装置404と、記憶装置405と、CPU(Central Processing Unit)410とを有する。
インタフェース装置401は、USB(Universal Serial Bus)等のシリアルバスに準じるインタフェース回路を有し、撮像装置300と電気的に接続して画像データ及び各種の情報を送受信する。
通信装置402は、TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)等の有線通信インタフェース回路を有し、イーサネット(登録商標)等の通信方式に従って、外部装置と通信接続する。なお、通信装置402は、無線LAN(Local Area Network)通信方式に従って不図示のアクセスポイントを介して外部装置と通信してもよい。
入力装置403は、タッチパネル式の入力装置、キーボード、マウス等の入力デバイス及び入力デバイスから信号を取得するインタフェース回路を有する。入力装置403は、計測者により入力された入力データを受け付け、受け付けた入力データに応じた信号をCPU410に出力する。
表示装置404は、液晶、有機EL(Electro-Luminescence)等から構成されるディスプレイ及びディスプレイに画像データ又は各種の情報を出力するインタフェース回路を有する。表示装置404は、CPU410と接続されて、CPU410から出力された画像データをディスプレイに表示する。
記憶装置405は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のメモリ装置、ハードディスク等の固定ディスク装置、又はフレキシブルディスク、光ディスク等の可搬用の記憶装置等を有する。また、記憶装置405には、情報処理装置400の各種処理に用いられるコンピュータプログラム、データベース、テーブル等が格納される。コンピュータプログラムは、例えばCD−ROM(compact disk read only memory)、DVD−ROM(digital versatile disk read only memory)等のコンピュータ読み取り可能な可搬型記録媒体からインストールされてもよい。コンピュータプログラムは、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶装置405にインストールされる。また、記憶装置405には、データとして、斜め格子202のピッチ(相互に隣接する各ラインの間隔)、各ラインの角度、撮像装置300が撮影する画像の解像度、フレームレート、撮像装置300が撮影した画像内における斜め格子202の相互に隣接する各ラインの間の画素数等が記憶される。
CPU410は、予め記憶装置405に記憶されているプログラムに基づいて動作する。CPU410は、汎用プロセッサであってもよい。なお、CPU410に代えて、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(digital signal processor)、LSI(large scale integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等が用いられてもよい。
CPU410は、インタフェース装置401、通信装置402、入力装置403、表示装置404及び記憶装置405と接続され、これらの各部を制御する。CPU410は、記憶装置405に記憶された各プログラムを読み取り、読み取った各プログラムに従って動作する。これにより、CPU410は、取得部411、第1算出部412及び第2算出部413として機能する。
図3は、撮像装置300及び情報処理装置400による計測処理の動作の例を示すフローチャートである。
以下、図3に示したフローチャートを参照しつつ、計測処理の動作の例を説明する。なお、以下に説明する動作のフローは、予め記憶装置405に記憶されているプログラムに基づき主にCPU410により情報処理装置400の各要素と協働して実行される。
本実施形態では、試料200の計測領域201に、図4Aに示すような斜め方向の格子202を配置することにより、単一の格子から水平方向又は垂直方向の変位又は振動を測定する手法について説明する。
情報処理装置400は、試料200の矩形状の計測領域201の短手方向の変位又は振動を計測したい場合、その長手方向の変位又は振動を計測する。これにより、情報処理装置400は、例えば、街灯、電柱、宇宙構造物等の柱状の構造物のように、格子方向が垂直方向である格子を貼付けることが困難な試料に対する水平方向の変位又は振動を解析することが可能となる。同様に、情報処理装置400は、例えば、高さが十分に低い平板状のマーカーを利用して中央部の変位を測定する必要がある路面等の構造物のように、格子方向が水平方向である格子を貼付けることが困難な試料に対する垂直方向の変位又は振動を解析することが可能となる。
例えば、試料200の矩形状の計測領域201の短手方向が水平方向である場合、情報処理装置400は、モアレ法解析により、格子202のサイズが十分に大きい長手方向(垂直方向)の変位又は振動を解析する。情報処理装置400は、算出した変位量の値(変位値)に対して数値的な補正演算を行うことにより、格子202のサイズが小さい水平方向の変位又は振動を算出する。これにより、情報処理装置400は、斜め格子を用いて、変位又は振動を正しく計測することが可能となる。
なお、この水平方向及び垂直方向と撮像装置300の撮像素子の縦及び横の並び方向とは一致する必要はないが、処理を簡潔にするためには一致することが望ましい。仮に、この水平方向及び垂直方向と撮像装置300の撮像素子の縦及び横の並び方向とが一致しない場合、撮像装置300が有する水準器、又は、撮像装置300と別個に設けられた水準器等により、ずれ角が計測される。そして、情報処理装置400は、計測したずれ角を用いて、撮影した画像を補正する。
最初に、撮像装置300は、斜め格子202が貼付けられた計測領域201の変形前後の画像を撮影する(ステップS101)。
次に、情報処理装置400の取得部411は、インタフェース装置401を介して撮像装置300から計測領域201の変形前後の画像を取得する(ステップS102)。
次に、第1算出部412は、取得した変形前後の画像から、モアレ法解析により、斜め格子202の長手方向の位相差を算出する(ステップS103)。例えば、第1算出部412は、1次元サンプリングモアレ法により、斜め格子202の長手方向の位相差を算出する。
以下、図4Aに示した斜め格子を用いて、1次元サンプリングモアレ法を適用した場合の計測領域201の変形前後のモアレ縞の位相の変化について説明する。格子202のx方向及びy方向のピッチをそれぞれPx及びPyとすると、変形前の画像における格子202の輝度Iは、式(1)で表される。
ここで、x及びyは、それぞれ変形前の画像内の水平方向及び垂直方向の位置(座標)であり、A及びBは、それぞれ格子202の変調振幅及び背景輝度である。式(1)のcos関数における角度は格子202の位相φを表す。即ち、位相φは、式(2)で表される。
一方、変形後の画像における輝度Iに対応する格子202の位相φ’は、式(3)で表される。但し、変形は、単なる剛体変位であるものとする。または、変形によるひずみ量は十分小さく、無視できるものとする。
ここで、x’及びy’は、それぞれ変形後の画像内の輝度Iに対応する水平方向及び垂直方向の位置(座標)である。式(2)及び式(3)から、試料200(計測領域201)の変形によって生じる格子202の位相変化(位相差)Δφは、式(4)で表される。
式(2)の位相φ及び式(3)の位相φ’に対して、1次元サンプリングモアレ法を適用して、x方向に間引き数T
xでダウンサンプリングして得られる変形前後のモアレ縞の位相φ
mx及び位相φ’
mxは、それぞれ式(5)及び式(6)で表される。なお、1次元サンプリングモアレ法によりモアレ縞の位相を算出する方法の詳細な説明については、例えば特許第5818218号公報を参照されたい。
式(5)及び式(6)から、x方向の解析によって得られる試料200(計測領域201)の変形によって生じるモアレ縞の位相差Δφ
mxは、式(7)で表される。
また、式(2)の位相φ及び式(3)の位相φ’に対して、1次元サンプリングモアレ法を適用して、y方向に間引き数T
yでダウンサンプリングして得られる変形前後のモアレ縞の位相φ
my及び位相φ
my’はそれぞれ式(8)及び式(9)で表される。
式(8)及び式(9)から、y方向の解析によって得られる試料200(計測領域201)の変形によって生じるモアレ縞の位相差Δφ
mxは、式(10)で表される。
式(4)、式(7)及び式(10)に示されるように、試料200(計測領域201)の変位である格子202の位相差は、x方向での解析とy方向での解析とで、結果が同じになる。即ち、格子202の位相差Δφは、式(11)で表される。
このように、斜め格子202が使用される場合、x方向で解析してもy方向で解析しても、位相差は、理論上同じ値となる。したがって、情報処理装置400は、斜め格子202を垂直方向に解析することにより、水平方向の変位を算出することができる。同様に、情報処理装置400は、斜め格子202を水平方向に解析することにより、垂直方向の変位を算出することができる。
次に、第2算出部413は、第1算出部412が算出した長手方向の位相差に基づいて、計測領域201の変形前後の短手方向の変位又は振動を算出する(ステップS104)。
(座標系の定義)
まず、1次元サンプリングモアレ法による変位測定における空間座標系を定義する。図5Aに示すように、水平方向をx軸、垂直方向をy軸としたx−y座標を定義する。水平方向、即ちx方向の変位をuxとし、垂直方向、即ちy方向の変位をuyとする。
次に、1次元サンプリングモアレ法による解析上の座標系を定義する。図5Bに示すように、X−Y座標を定義する。1次元サンプリングモアレ法による解析上の水平方向をX座標とし、1次元サンプリングモアレ法による解析上の垂直方向をY座標とする。
なお、従来の垂直格子、水平格子及び直交格子では、x−y座標とX−Y座標が一致していることになる。図5Cに示すように、格子内の各ラインがY軸と平行である場合、X方向(水平方向)に解析することにより、X方向の変位が算出される。また、図5Dに示すように、格子内の各ラインがX軸と平行である場合、Y方向(垂直方向)に解析することにより、Y方向の変位が算出される。
(単一の斜め格子の場合の変位量の算出)
一方、図6Aに示すように、斜め格子202内の各ラインは、x−y座標系において、x軸に対して角度θ(反時計回りを正とする)だけ傾いて配置される。なお、説明を簡単にするために、図内において、格子は1本のみ表示している。この場合、図6B及び図6Cに示すように、X−Y座標系におけるX軸及びY軸は、それぞれx−y座標系におけるx軸及びy軸に対して角度−φだけ傾いて配置される。ここで、x軸及びy軸とX軸及びY軸とのなす角度φは、−90°<φ≦90°とする。
X方向に変位解析される場合、図6Bに示されるように、斜め格子202の各ラインはY軸と平行な状態で解析されるため、x軸及びy軸とX軸及びY軸とのなす角度φは、式(12)で表される。
したがって、X方向に変位解析される場合、格子角度θは、0°<θ≦180°となる。
Y方向に変位解析される場合、図6Cに示されるように、斜め格子202の各ラインはX軸と平行な状態で解析されるため、x軸及びy軸とX軸及びY軸とのなす角度φは、式(13)で表される。
したがって、Y方向に変位解析される場合、格子角度θは、−90°<θ≦90°となる。
ここで、図7Aに示すように、斜め格子202が特定の方向に特定の変位量だけ変位した場合を考える。この場合、斜め格子202の変位を、変位ベクトルuで表すと、図7Bに示すように、変位ベクトルuは、x方向の変位ベクトルu
xと、y方向の変位ベクトルu
yの和で表される。即ち、変位ベクトルuは、式(14)で表される。
(X方向に変位解析した場合の変位量の算出)
ここで、図6Aに示したように、各ラインがx−y座標系のx軸に対して角度θ(反時計回りを正とする)だけ傾いて配置された斜め格子202の変位量について考える。図8Aに示すように、斜め格子202の変位ベクトルuは、X−Y座標系で表される。X方向に1次元サンプリングモアレ法で変位解析すると、解析値uXが算出される。解析値uXを有するベクトルuXは、図8Bに示すように、x方向の変位uxに対するベクトルuX-xと、y方向の変位uyに対するベクトルuX-yに分解される。即ち、ベクトルuXは、式(15)で表される。
図8Bに示すように、x方向の変位量uxに対する解析値uX-x、及び、y方向の変位量uyに対する解析値uX-yは、それぞれ式(16)及び式(17)で表される。
式(15)、式(16)及び式(17)から、解析値uXは、x方向の変位量uxおよびy方向の変位量uyを用いて、式(18)で表される。
ここで、x方向のみに変位した場合、即ち、ux≫uyの場合、式(18)の右辺の第2項は零とみなすことができる。したがって、式(19)のように、x方向の変位量uxは、斜め格子の解析値uXから算出される。
同様に、y方向のみに変位した場合、即ち、uy≫uxの場合、式(18)の右辺の第1項は零とみなすことができる。したがって、式(20)のように、y方向の変位量uyは、斜め格子の解析値uXから算出される。
このように、変位方向がx方向又はy方向の内の何れか1方向のみである場合、情報処理装置400は、1次元サンプリングモアレ法でX方向にu
Xを解析することにより、x方向又はy方向の変位を算出することができる。ここで、u
Xは、従来の1次元サンプリングモアレ法の変位計測と同じ原理で、X方向のモアレ縞の位相差に格子ピッチP(図4A)を乗算して(−2π)で除算することにより算出される。
(Y方向に変位解析した場合の変位量の算出)
同様に、図9Aに示すように、斜め格子202の変位ベクトルuは、X−Y座標系で表せる。Y方向に1次元サンプリングモアレ法で変位解析すると、解析値uYが算出される。解析値uYを有するベクトルuYは、図9Bに示すように、x方向の変位uxに対するベクトルuY-xと、y方向の変位uyに対するベクトルuY-yに分解される。このベクトルuYについて、X方向に変位解析した場合と同様にして、式(21)〜式(24)が成立する。
ここで、x方向のみに変位した場合、即ち、ux≫uyの場合、式(24)の右辺の第2項は零とみなすことができる。したがって、式(25)のように、x方向の変位量uxは、斜め格子の解析値uYから算出される。
同様に、y方向のみに変位した場合、即ち、uy≫uxの場合、式(24)の右辺の第1項は零とみなすことができる。したがって、式(26)のように、y方向の変位量uyは、斜め格子の解析値uYから算出される。
このように、変位方向がx方向又はy方向の内の何れか1方向のみである場合、情報処理装置400は、1次元サンプリングモアレ法でY方向にu
Yを解析することにより、x方向又はy方向の変位を算出することができる。ここで、u
Yは従来の1次元サンプリングモアレ法の変位計測と同じ原理で、Y方向のモアレ縞の位相差に格子ピッチP(図4A)を乗算して(−2π)で除算することにより算出される。
また、第2算出部413は、取得した画像毎に算出した変位を時系列に並べた波形に対して、高速フーリエ変換(FFT)を用いて、周波数変換を行う。第2算出部413は、周波数変換を行った波形から、予め定められた一又は複数の周波数帯におけるピーク周波数を検出し、検出した各ピーク周波数を、計測領域201の変形前後の短手方向又は長手方向の振動(数)として算出する。
(2次元サンプリングモアレ法による位相差の算出)
なお、ステップS103において、第1算出部412は、モアレ法解析として、1次元サンプリングモアレ法の代わりに、2次元サンプリングモアレ法を用いて、斜め格子202の長手方向の位相差を算出してもよい。2次元サンプリングモアレ法によりモアレ縞の位相を算出する方法の詳細な説明については、例えば特許第5818218号公報を参照されたい。
特許第5818218号公報に記載されているように、変形前の斜め格子に対して、2次元サンプリングモアレ法を適用した場合、x方向及びy方向の格子ピッチであるP
x及びP
yに近い間引き数T
x、T
yでそれぞれダウンサンプリングして算出されるモアレ縞の位相φ
mxyは、式(27)で表される。
同様に、変形後の斜め格子に対して、2次元サンプリングモアレ法を適用した場合、モアレ縞の位相φ'
mxyは、式(28)で表される。
したがって、変形前後のモアレ縞の位相差Δφ
mxyは、式(29)で表される。
式(30)に示すように、2次元サンプリングモアレ法により算出されるモアレ縞の位相差は、式(4)に示した1次元サンプリングモアレ法により算出される位相差と等価となる。即ち、2次元サンプリングモアレ法による解析結果と1次元サンプリングモアレ法による解析結果とは同じになる。但し、2次元サンプリングモアレ法は、1次元サンプリングモアレと比較して、より長い計測時間を必要とするが、カメラのランダムノイズに強いため、雑音の多い画像を用いた変位解析に向いている。
即ち、2次元サンプリングモアレ法によっても、1次元サンプリングモアレ法と同様に、物体の変形によって生じる格子の位相差を、斜め格子の変位測定に利用することが可能である。各方向における変位及び振動は、変形前後のモアレ縞の位相差Δφmxyから、1次元サンプリングモアレ法を用いる場合と同様にして、算出される。
(2段モアレ法による位相差の算出)
ステップS103において、第1算出部412は、モアレ法解析として、1次元サンプリングモアレ法の代わりに、2段モアレ法を用いて、斜め格子202の長手方向の位相差を算出してもよい。2段モアレ法によりモアレ縞の位相を算出する方法の詳細な説明については、例えば国際公開WO2018/061321号公報を参照されたい。
国際公開WO2018/061321号公報に記載されているように、変形前の斜め格子に対して、2段モアレ法をx方向の解析に適用した場合、1次元サンプリングモアレ法と同様に、まずx方向の格子ピッチであるP
xに近い間引き数T
xでダウンサンプリングしてモアレ縞が算出される。そして、算出されたモアレ縞が格子とみなされて、その格子のピッチに近い間引き数T
x (2)で再度ダウンサンプリングして2段モアレ(モアレのモアレ)縞が算出される。この2段モアレ縞の位相φ
mx (2)は、式(31)で表される。
同様に、変形後の斜め格子に対して、2段モアレ法をx方向の解析に適用した場合、2段モアレ縞の位相φ'
mx (2)は、式(32)で表される。
したがって、変形前後のx方向のモアレ縞の位相差Δφ
mx (2)は、式(33)で表される。
このように、斜め格子のx方向に2段モアレ法を適用することにより算出されるモアレ縞の位相差は、式(4)に示した1次元サンプリングモアレ法により算出される位相差と等価となる。即ち、2段モアレ法による解析結果と1次元サンプリングモアレ法による解析結果は同じになる。但し、2段モアレ法では、1次元サンプリングモアレ法と比較して、空間分解能が低下するが、広視野且つ高精度に変位を測定することが可能となる。
同様に、変形前の斜め格子に対して、2段モアレ法をy方向の解析に適用した場合、1次元サンプリングモアレ法と同様に、まずy方向の格子ピッチであるP
yに近い間引き数T
yでダウンサンプリングしてモアレ縞が算出される。そして、算出されたモアレ縞が格子とみなされて、その格子のピッチに近い間引き数T
y (2)で再度ダウンサンプリングして2段モアレ(モアレのモアレ)縞が算出される。この2段モアレ縞の位相φ
my (2)は、式(34)で表される。
同様に、変形後の斜め格子に対して、2段モアレ法をy方向の解析に適用した場合、2段モアレ縞の位相φ'
my (2)は、式(35)で表される。
したがって、変形前後のy方向のモアレ縞の位相差Δφ
my (2)は、式(36)で表される。
このように、斜め格子のy方向に2段モアレ法を適用することにより算出されるモアレ縞の位相差は、式(4)に示した1次元サンプリングモアレ法により算出される位相差と等価となる。即ち、2段モアレ法による解析結果と1次元サンプリングモアレ法による解析結果とは同じになる。
即ち、2段モアレ法によっても、1次元サンプリングモアレ法と同様に、物体の変形によって生じる格子の位相差を、斜め格子の変位測定に利用することが可能である。各方向における変位及び振動は、変形前後のモアレ縞の位相差Δφmx (2)又はΔφmy (2)から、1次元サンプリングモアレ法を用いる場合と同様にして、算出される。
式(4)、式(11)、式(30)、式(33)及び式(36)をまとめると、式(37)が成立する。
即ち、高速処理可能な1次元サンプリングモアレ法、ノイズに強い2次元サンプリングモアレ法、及び、高精度且つ広視野である2段モアレ法の何れにおいても、物体の変形によって生じる格子の位相差を斜め格子の変位測定に利用することが可能である。
(一組の斜め格子対を用いた変位の算出)
変位がx方向又はy方向のみである場合、単一の斜め格子を用いることにより変位を算出することができる。しかしながら、変位がx方向又はy方向以外の任意の方向である場合、即ち、変位がx成分及びy成分の両方を有する場合、情報処理装置400は、uxとuyの2変数を算出する必要がある。この場合、情報処理装置400は、単一の斜め格子を用いるだけでは、変位を算出できない。
そこで、図4B又は図4Cに示すように、試料200の計測領域201には、単一の斜め格子202ではなく、矩形状の二つの斜め格子202(一組の斜め格子対)が貼付けられてもよい。または、図4Dに示すように、試料200の計測領域201には、二つの斜め格子を重ねた斜め方向のメッシュ状の格子が貼り付けられてもよい。この場合、予めフーリエ変換やローパスフィルター処理等の画像処理により、二つの異なる斜め方向の格子が抽出される。この場合も、二つの斜め格子202のそれぞれには、斜め格子202の長手方向又は短手方向に対して傾いて延伸する複数のラインのそれぞれが一定間隔毎に配置される。二つの斜め格子202のそれぞれは、背面に糊等が付着されたテープとして形成され、計測者により、二つの斜め格子202内のラインの延伸方向が互いに異なるように(互い違いに)計測領域201に貼付けられる。特に、二つの斜め格子202は、図4Eに示すように、計測領域201の長手方向と、各斜め格子202の長手方向とがあうように、試料200の矩形状の計測領域201に貼付けられる。但し、二つの斜め格子202の変位量は、同一であるものとする。即ち、二つの斜め格子202内において、各ラインは同様に変化するものとする(剛体変位)。なお、二つの斜め格子202は、二つのマーカー又はシート格子として別個に形成されてもよいし、一つのマーカー又はシート格子として一体に形成されてもよい。
情報処理装置400は、二つの斜め格子202上のそれぞれの点Q1およびQ2を1つの点とみなすことにより、二つの斜め格子202における任意の方向の変位を算出する。
情報処理装置400は、変位を測定する方向とは異なる方向において変位を解析する(水平方向の変位測定に対しては垂直方向に変位解析を行う)。これにより、情報処理装置400は、水平方向又は垂直方向の変位を個別に測定することができる。または、情報処理装置400は、水平方向及び垂直方向の変位を同時に測定することができる。
この場合、ステップS101において、撮像装置300は、二つの斜め格子202が貼付けられた計測領域201の変形前後の画像を撮影する。
ステップS102において、取得部411は、撮像装置300から計測領域201の変形前後の画像を取得する。
ステップS103において、第1算出部412は、単一の斜め格子202を使用する場合と同様にして、取得した変形前後の画像から、モアレ法解析により、二つの斜め格子202の長手方向の位相差を算出する。例えば、第1算出部412は、1次元サンプリングモアレ法により、各斜め格子202の長手方向の位相差を算出する。なお、第1算出部412は、2次元サンプリングモアレ法により、各斜め格子202の長手方向の位相差を算出してもよい。または、第1算出部412は、2段モアレ法により、各斜め格子202の長手方向の位相差を算出してもよい。
ステップS104において、第2算出部413は、単一の斜め格子202を使用する場合と同様にして、第1算出部412が算出したそれぞれの長手方向の位相差に基づいて、計測領域201の変形前後の2次元面内変位又は振動を算出する。
図10Aに示すように、二つの斜め格子1及び2の水平方向に対する角度をそれぞれθ1、θ2とする。なお、1次元サンプリングモアレ法でX方向に変位解析する場合、θ1とθ2はそれぞれ、0°<θ1≦180°,0°<θ2≦180°であり、Y方向に変位解析する場合、−90°<θ1≦90°,−90°<θ2≦90°である。
以下では、図10Bに示すように、二つの斜め格子202が任意の方向に変位uだけ移動した場合の処理について説明する。以下では、1次元サンプリングモアレ法でX方向に変位解析した場合と、1次元サンプリングモアレ法でY方向に変位解析した場合とについて説明する。
(X方向に変位解析した場合の変位の算出)
二つの斜め格子202が任意の方向に変位uだけ移動したときに、1次元サンプリングモアレ法でX方向に変位解析した場合、斜め格子1上の点Q1の変位量としてuX1が算出され、斜め格子2上の点Q2の変位量としてuX2が算出される。uX1及びuX2は、式(18)により、それぞれ式(38)及び式(39)で表される。
式(38)および式(39)を連立方程式として解くことにより、二つの斜め格子202のx方向の変位量ux及びy方向の変位量uyは、それぞれ式(40)及び式(41)のように算出される。
ここで、K
1及びK
2は、それぞれ式(42)及び式(43)で表される。
このように、二つの斜め格子202を用いた場合、1次元サンプリングモアレ法によってX方向に解析することにより、x方向およびy方向の変位のそれぞれが算出される。
(Y方向に変位解析した場合の変位の算出)
二つの斜め格子202が任意の方向に変位uだけ移動したときに、1次元サンプリングモアレ法でY方向に変位解析した場合、斜め格子1上の点Q1の変位量としてuY1が算出され、斜め格子2上の点Q2の変位量としてuY2が算出される。uY1及びuY2は、式(24)により、それぞれ式(44)及び式(45)で表される。
式(44)及び式(45)を連立方程式として解くことにより、二つの斜め格子202のx方向の変位量ux及びy方向の変位量uyは、それぞれ式(46)及び式(47)のように算出される。
ここで、K1及びK2は、それぞれ上記した式(42)及び式(43)で表される。
このように、二つの斜め格子202を用いた場合、1次元サンプリングモアレ法によってY方向に解析することにより、x方向およびy方向の変位のそれぞれが算出される。
[測定例1]
(水平方向のみに変位させた場合の単一の斜め格子による変位測定)
単一の斜め格子による水平方向(x方向)の変位測定を実証するための室内実験の結果を以下に示す。
図11は、室内実験のセットアップを示す。本実験では、格子ピッチが4mmであり、各ラインが様々な角度を有する斜め格子6が用いられる。格子角度は、45°,60°,−45°(135°),−60°(120°)である。格子6は、移動ステージ7により、水平方向(x方向)8に0〜1mmの範囲内で0.1mmずつ変位しながら、デジタルカメラ5により動画撮影されている。カメラ5は、撮影画像上の格子ピッチが10画素となるように設置されている。
撮影した動画画像において連続するフレーム(静止画像)が、変形前後の画像として、1次元サンプリングモアレ法で変位解析される。撮影画像の変位解析は、X方向及びY方向のそれぞれについて行われる。
解析結果に対して本発明の手法を適用し、本実施形態の有効性が確認された。図12Aは、格子角度が45°と60°である格子パターン6を用いて1次元サンプリングモアレ法でX方向に変位解析した場合の変位量のグラフを示す。図12Bは、本実施形態の手法を適用して式(19)により補正した変位量のグラフを示す。各グラフにおいて、横軸は与えた変位量を示し、縦軸は変位解析の結果算出された変位量を示す。図12Aに示される変位量に対し、本実施形態の手法による補正を適用することにより、図12Bに示すように、いずれの格子角度においても変位量が正確に算出されていることが確認された。
同様に、図12Cは、1次元サンプリングモアレ法でY方向に変位解析した場合の変位量のグラフを示す。図12Dは、本実施形態の手法を適用して式(25)により算出した変位量のグラフを示す。1次元サンプリングモアレ法でY方向に変位解析した場合においても、1次元サンプリングモアレ法でX方向に変位解析した場合と同様に、変位量が正確に算出されていることが確認された。
[測定例2]
(垂直方向のみに変位させた場合の単一の斜め格子による変位測定)
測定例1と同様の条件及び手順で、格子を垂直方向(y方向)に変位させた場合の変位測定の室内実験の結果を以下に示す。
格子6は、移動ステージ7により、垂直方向に0〜1mmの範囲で0.1mmずつ変位しながら、デジタルカメラ5により動画撮影されている。
図13Aは、格子角度が45°と60°である格子パターン6を用いて1次元サンプリングモアレ法でX方向に変位解析した場合の変位量のグラフを示す。図13Bは、本実施形態の手法を適用して式(20)により算出した変位量の値を示す。各グラフにおいて、横軸は与えた変位量を示し、縦軸は変位解析の結果算出された変位量を示す。図13Aに示される変位量に対し、本実施形態の手法を適用することにより、図13Bに示すように、いずれの格子角度においても変位量が正確に算出されていることが確認された。
同様に、図13Cは、1次元サンプリングモアレ法でY方向に変位解析した場合の変位量のグラフを示す。図13Dは、本実施形態の手法を適用して式(26)により補正した変位量のグラフを示す。1次元サンプリングモアレ法でY方向に変位解析した場合においても、1次元サンプリングモアレ法でX方向に変位解析した場合と同様に、変位量が正確に算出されていることが確認された。
[測定例3]
(水平方向および垂直方向に同時に変位させた場合の一組の斜め格子対による変位測定)
一組の斜め格子対による、任意方向に変位させた場合の変位測定を実証するための室内実験の結果を以下に示す。
測定例3では、測定例1及び測定例2と同様に、図11に示したセットアップが用いられる。斜め格子対の格子角として、1次元サンプリングモアレ法でX方向に変位解析する場合は、θ1=45°とθ2=135°の組合せ、及び、θ1=60°とθ2=120°の組合せが用いられた。斜め格子対の格子角として、1次元サンプリングモアレ法でY方向に変位解析する場合は、θ1=45°とθ2=−45°の組合せ、及び、θ1=60°とθ2=−60°の組合せが用いられた。図14に示すように、斜め格子対6は、移動ステージ7により、任意方向10の変位として、水平方向(x方向)に0〜1mmの範囲内で0.1mmずつ、且つ、垂直方向(y方向)に0〜2mmの範囲内で0.2mmずつ変位しながら、デジタルカメラ5により動画撮影されている。
図15Aは、1次元サンプリングモアレ法でX方向に変位解析した場合の変位量のグラフを示す。図15Cは、本実施形態の手法を適用して式(40)〜式(43)により算出した変位量のグラフを示す。図15Aのグラフにおいて、横軸は与えた変位量を示し、縦軸は変位解析の結果算出された変位量を示す。図15Cのグラフにおいて、横軸は変位解析の結果算出されたx方向の変位量uxを示し、縦軸は変位解析の結果算出されたy方向の変位量uyを示す。図15Cに示すように、いずれの格子角度においても変位量が正確に算出されていることが確認された。
同様に、図15Bは、1次元サンプリングモアレ法でY方向に変位解析した場合の変位量のグラフを示す。図15Dは、本実施形態の手法を適用して式(46)〜式(47)、式(42)〜式(43)により算出した変位量のグラフを示す。1次元サンプリングモアレ法でY方向に変位解析した場合においても、変位量が正確に算出さていることが確認された。
室内実験の結果より、1次元サンプリングモアレ法でX方向及びY方向のいずれの方向に変位解析する場合にも、x方向の変位及びy方向の変位量は適切に分離され、正確に計測されることが確認された。
[測定例4]
(橋梁上における橋梁の変位測定)
実際の構造物における変位測定を実証するための変位測定の結果を以下に示す。
図16は、本実験の格子マーカーのセッティングを示す。従来手法の格子11のピッチは40mmに設定され、本実施形態の格子12のピッチは10mmに設定されている。本実施形態の斜め格子12の格子角は、θ1=45°、θ2=135°に設定されている。本測定では、y方向の変位に対し、X方向に解析が行われた。
従来手法及び本実施形態の手法によって、それぞれ、橋梁上をトラックが通過する際の橋梁の変位が測定され、変位の測定結果が比較・検証された。
図17Aは、従来手法による変位の測定結果を示し、図17Bは、本実施形態の手法による変位の測定結果を示す。この変位の測定結果から、本実施形態の手法でも、従来手法と同等に、変位が測定されることが確認された。
[測定例5]
(柱状構造物の変位および振動の測定)
柱状構造物の変位測定及び振動測定の結果を以下に示す。
図18は、本測定のセットアップを示す。本測定では、直径50mmの円柱形状を有する柱状構造物において地上から1.5mの高さの位置に本実施形態の手法による格子マーカー14と、従来手法による格子マーカー15とがそれぞれ取付けられている。そして、本実施形態の手法及び従来手法による柱状構造物の水平方向16の変位及び振動数の測定結果が比較されている。なお、この柱状構造物には、基準点として、柱状構造物の地表高さの位置に、従来手法によるマーカー及び本実施形態の手法によるマーカーが取付けられている。
測定開始から30秒後に水平方向16の振動が加えられ、測定開始から60秒後に前後方向17の振動が加えられ、24fps(Frame Per Sec)のサンプリングレートのシネマカメラ13で動画撮影が行われた。
柱状構造物とカメラの間の距離は3mである。本実施形態の手法による斜め格子14の格子ピッチは10mmに設定され、格子角は45°に設定されている。従来手法による格子マーカー15として、格子ピッチが10mmである垂直方向の格子が使用されている。
変位測定結果にFFT周波数解析処理を行うことにより、振動解析が行われた。振動解析として、国際公開WO2018/061321号公報の実施例3の手法が援用された。
変位量の解析として、従来手法ではX方向に解析が行われるのに対し、本実施形態の手法ではY方向に解析が行われた。
図19Aは、従来手法による変位の測定結果を示し、図19Bは、本実施形態の手法による変位の測定結果を示す。この変位の測定結果から、本実施形態の手法でも、従来手法と同等に、0.3mm以内の精度で変位が測定されることが確認された。
図20Aは、従来手法による静止時(測定開始から30秒間)の振動の測定結果を示し、図20Bは、本実施形態の手法による静止時(測定開始から30秒間)の振動の測定結果を示す。この振動の測定結果から、本実施形態の手法でも、従来手法と同様に、周波数成分が算出されることが確認された。
図21Aは、従来手法による水平方向16の振動印加時(測定開始後30秒から60秒までの間)の振動の測定結果を示し、図21Bは、本実施形態の手法による水平方向16の振動印加時(測定開始後30秒から60秒までの間)の振動の測定結果を示す。この測定結果から、水平方向16の振動印加時において、本実施形態の手法でも、従来手法と同様に、周波数成分が算出されることが確認された。
図22Aは、従来手法による前後方向17の振動印加時(測定開始から60秒経過以降)の振動の測定結果を示し、図22Bは、本実施形態の手法による前後方向17の振動印加時(測定開始から60秒経過以降)の振動の測定結果を示す。この振動の測定結果から、前後方向17の振動印加時においても、本実施形態の柱状構造物の長手方向の解析手法により、従来手法と同様に、周波数成分が算出されることが確認された。
この測定例では、比較的細かい格子ピッチの模様を有する格子が使用されたため、従来手法でも変位及び振動が正しく計測された。しかし、カメラがより遠方に設置される際に使用されるような、より粗い格子ピッチの模様を有する垂直格子が使用される場合、筒状構造物の円周方向の曲率の影響により、変位及び振動は正しく解析されない可能性がある。例えば、筒状構造物の1周分における格子ピッチが2である場合、撮像した画像には、格子の変化点が一つしか写らず、変位及び振動は正しく解析されない。一方、本実施形態の手法であれば、筒状構造物の長手方向は、平面の一部(直線状)とみなせるため、高精度に変位及び振動が算出される。
本実施形態により、サンプリングモアレ法による変位解析における格子取付けの制約が緩和されるため、様々な形状の計測対象に格子を取付けることが可能となる。したがって、計測システム100は、構造物又は計測対象の形状による制約を受けることなく、変位を測定することが可能となる。
図23Aに示すように、例えば、路面上の変位を測定する際、従来手法では、路面の端部でしか変位測定を行うことができなかった。一方、図23Bに示すように、本実施形態の手法では、薄い箱型のブロック又はハンプ等に斜め格子22を取付けることにより、道路中央部など様々な箇所において変位測定を行うことが可能となる。
また、図24Aに示すように、従来手法では、細い柱状の構造物に対して、変位測定のために必要な大きさの格子を取付けることが困難であり、高精度に変位測定を行うことが困難であった。一方、図24Bに示すように、本実施形態の手法では、細い柱状の構造物に対して、変位測定のために必要な大きさの格子25を取付けることが可能となるため、柱状の構造物の変位測定を高精度に行うことが可能となる。
以上詳述したように、本実施形態の手法により、構造物の形状に制約されることなく、様々な形状の構造物の面内又は面外の変位又は振動の計測を行うことが可能となる。
特に、本実施形態の手法では、MEMS(メムス、Micro Electro Mechanical Systems)機械等の微小構造物から、社会インフラである橋、トンネル又は高層ビル等の大型構造物まで、より精度よく且つより簡易に変位又は振動を計測することが可能となる。