JP6980206B2 - 標識タンパク質の製造方法、標識ペプチドの製造方法、及びキット - Google Patents
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Description
[1]無細胞タンパク質合成系で、トリプトファナーゼ又はトリプトファンシンターゼにより、18F又は19Fで標識された標識インドールと、L−セリン、又はピルビン酸及びアンモニウムイオンとから18F又は19Fで標識された標識トリプトファンを合成させ、さらに前記無細胞タンパク質合成系で前記標識トリプトファンを用いて18F又は19Fで標識された標識タンパク質を合成する、標識タンパク質の製造方法。
[2]前記標識タンパク質が、トラスツズマブにおけるトリプトファン残基の側鎖のインドール環が18Fで標識された標識トラスツズマブである、[1]に記載の標識タンパク質の製造方法。
[3][1]又は[2]に記載の標識タンパク質の製造方法により、トリプトファン残基の側鎖のインドール環が18Fで標識された標識タンパク質からなるPET用試薬を製造する、PET用試薬の製造方法。
[4]無細胞タンパク質合成系で、トリプトファナーゼ又はトリプトファンシンターゼにより、18F又は19Fで標識された標識インドールと、L−セリン、又はピルビン酸及びアンモニウムイオンとから18F又は19Fで標識された標識トリプトファンを合成させ、さらに前記無細胞タンパク質合成系で前記標識トリプトファンを用いて18F又は19Fで標識された標識ペプチドを合成する、標識ペプチドの製造方法。
[5]無細胞タンパク質合成系を備える、18F若しくは19Fで標識された標識タンパク質又は標識ペプチドを合成するためのキット。
[6]トリプトファン残基の側鎖のインドール環が18Fで標識された標識タンパク質からなるPET用試薬。
[7]トリプトファン残基の側鎖のインドール環が18Fで標識された標識トラスツズマブ。
[8][7]に記載の標識トラスツズマブを含む医薬組成物。
[9][5]に記載のキットを含むHER2タンパク質検出キット。
本発明の標識タンパク質の製造方法は、18F又は19Fで標識された標識タンパク質を製造する方法である。
本発明において、「タンパク質」とは、25個以上のアミノ酸がペプチド結合により結合した化合物と定義する。また、「18F又は19Fで標識された標識タンパク質」とは、分子内に18F又は19Fを有するタンパク質と定義する。
「無細胞タンパク質合成系」とは、DNAを鋳型としてRNAを合成する無細胞転写系と、mRNAの情報を読み取ってリボソーム上でタンパク質を合成する無細胞翻訳系とを含む無細胞転写翻訳系、並びに無細胞翻訳系の両方を包含する。
細胞抽出液の具体例としては、大腸菌S30細胞からの細胞抽出液が挙げられる。S30細胞抽出液は、公知の方法で調製したものを使用してもよく、市販品を使用してもよい。
標識インドールは、公知の方法により製造することができる。例えば、無保護のインドールボロン酸をK18Fで処理することにより、5位の水素原子が18Fに置換された標識インドールが得られる。
なお、本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、L−トリプトファンを用いてもよい。
反応液中のL−セリンの含有量は、0.001〜20mMが好ましく、0.01〜5.0mMがより好ましい。L−セリンの含有量が前記範囲の下限値以上であれば、標識タンパク質を高効率に製造しやすい。L−セリンの含有量が前記範囲の上限値以下であれば、標識タンパク質をより高効率に製造しやすい。
反応液中のエネルギー源の含有量は、細胞抽出液のタンパク質合成活性、合成する標識タンパク質の種類等によって適宜設定することができる。
例えば、トラスツズマブのアミノ酸配列をコードする核酸を用いることで、トラスツズマブにおけるトリプトファン残基の側鎖のインドール環が18Fで標識された標識トラスツズマブを製造することができる。
反応液中の添加剤の含有量は、使用する細胞抽出液のタンパク質合成活性、目的の標識タンパク質の種類等に応じて適宜設定すればよい。
バッチ法を用いる場合、例えば、細胞抽出液に、目的の標識タンパク質のアミノ酸配列をコードする核酸、18F又は19Fで標識された標識インドール、トリプトファン以外の19種のアミノ酸を含むアミノ酸組成物、ピルビン酸及びアンモニウムイオン、ATP、GTP、CTP、UTP、緩衝液、塩類、RNアーゼ阻害剤、抗菌剤の他、必要によりT7RNAポリメラーゼ等のRNAポリメラーゼ(DNAを鋳型として用いる場合)、tRNA等を加えて反応液とする。
反応温度は、バッチ法、透析法の両方で20〜40℃が好ましく、23〜37℃がより好ましい。
反応時間は、バッチ法の場合、90分以内が好ましく、5〜90分がより好ましい。透析法の場合、1〜24時間が好ましく、5〜16時間がより好ましい。
透析の温度は、20〜40℃が好ましく、23〜37℃がより好ましい。
振とう速度又は撹拌速度は、例えば、100〜300rpmとすることができる。
透析法の場合の反応時間は、目的の標識タンパク質の生成を監視しながら適当に選択することができる。
得られた標識タンパク質の同定及び定量は、活性測定、免疫学的測定、分光学的測定、アミノ酸分析等により、必要に応じて標準サンプルと比較しながら行うことができる。
具体的には、標識アミノ酸を合成する場合は、複数の保護基が必要となるうえ、標識アミノ酸の精製に長時間を要する問題がある。これに対して、18F又は19Fで標識した標識インドールは、無保護で合成できるうえ、疎水性が高いためにシリカゲルやODS等の簡易カラムで容易に精製することができる。本発明では、原料として標識インドールを用い、標識トリプトファンを経て標識タンパク質まで一度に合成できるため、複数の保護基を使用して標識トリプトファンを合成する必要がなく、標識トリプトファンを一旦精製する必要もない。このように、煩雑な合成及び精製を経ずに、短時間で容易に18F又は19Fで標識された標識タンパク質を製造することができる。
また、標識インドールは、18F又は19Fで標識された標識トリプトファンに比べて低コストで製造できるため、低コストに標識タンパク質を製造できる。
本発明の標識ペプチドの製造方法は、18F又は19Fで標識された標識ペプチドを製造する方法である。
本発明において、「ペプチド」とは、2個以上25個未満のアミノ酸がペプチド結合により結合した化合物と定義する。また、「18F又は19Fで標識された標識ペプチド」とは、分子内に18F又は19Fを有するペプチドと定義する。
本発明のキットは、18F若しくは19Fで標識された標識タンパク質又は標識ペプチドを合成するためのキットであって、無細胞タンパク質合成系を備える。無細胞タンパク質合成系としては、前記した細胞抽出液を備えてもよく、細胞抽出液に代えて、前記した再構成型無細胞タンパク質合成法に用いられる溶液を備えてもよい。
本発明のキットは、前記した成分のうち、標識トリプトファン又は標識インドール、及び、目的の標識タンパク質又は標識ペプチドのアミノ酸配列をコードする核酸以外の成分を含有していることが好ましい。具体的には、本発明のキットは、トリプトファン以外の19種のアミノ酸、エネルギー源等を含有していることが好ましい。
本発明のPET用試薬は、トリプトファン残基の側鎖のインドール環が18Fで標識された標識タンパク質からなるPET用試薬である。PET用試薬は、PETイメージングに用いる試薬、すなわちPETイメージングの画像化プローブとなるポジトロン標識抗体である。
本発明のPET用試薬は、前述した本発明の標識タンパク質の製造方法により製造することができる。
トラスツズマブは、ヒト癌遺伝子HER2/neu(c−erbB−2)の遺伝子産物であるHER2タンパク質に特異的に結合するため、標識トラスツズマブは、PET用試薬として有用である。
本発明の医薬組成物は、標識トラスツズマブを含む。本発明の医薬組成物は、標識トラスツズマブ以外の他の成分を含んでいてもよい。医薬組成物に含まれる他の成分としては、例えば、安定化剤、可溶化剤、アフィニティカラム精製用バッファー等が挙げられる。
[標識タンパク質(CATタンパク質)の定量]
各例で製造した標識タンパク質(CATタンパク質)の定量は、W.V.Shawらの方法(Methods Enzymol. 735−755, 1975参照)に従って行った。すなわち、アセチルコエンザイムAとクロラムフェニコールを基質としてCATタンパク質によるクロラムフェニコールのアセチル化反応を行い、その結果生じた還元型コエンザイムAを5,5’−ジチオビス−2−ニトロ安息香酸(DNTB)を用いて発色定量した。30℃、412nmにおける吸光度の単位時間当たりの増加量よりCATタンパク質の活性を定量し、これを指標としてCATタンパク質の量を決定した。
表1に示す組成の反応液を調製し、37℃で1時間反応させ、5位の水素原子が19Fに置換された標識インドール(5−19F−インドール)を含む無細胞タンパク質合成系で、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CATタンパク質)を19Fで標識した標識タンパク質を製造した。細胞抽出液としては、木川らの方法(国際公開第2003/053910号、特許第3317983号公報、特許第3145431号公報、Tugarinov,V.,et.al.,J.Am.Chem.Soc.,(2003) vol.125,pp.13868−13878.)により、大腸菌から抽出したS30抽出液を用いた。S30抽出液にはトリプトファナーゼ又はトリプトファンシンターゼが含まれている。鋳型DNAとしてはpUC−CAT(Kim et al.,Eur. J. Biochem. 239, 881−886, 1996参照)を用いた。
反応液中の標識インドール(5−19F−インドール)の濃度を3.0mMに変更した以外は、例1と同様にして標識タンパク質を製造した。
反応液中の標識インドール(5−19F−インドール)の濃度を7.5mMに変更した以外は、例1と同様にして標識タンパク質を製造した。
標識インドール(5−19F−インドール)の代わりに、L−トリプトファンを1.5mMの濃度となるように反応液に添加した以外は、例1と同様にして標識タンパク質を製造した。
標識インドールの代わりにインドールを用いる以外は、例1と同様にしてCATタンパク質を製造した。
このように、無細胞タンパク質合成系に内在するトリプトファナーゼ又はトリプトファンシンターゼの作用により、5−19F−インドールから標識トリプトファンが合成され、さらにタンパク質合成に組み込まれて標識タンパク質が得られることが確認された。
反応液にトリプトファナーゼをそれぞれ0.05、0.1、0.4mg/mLとなるように添加し、37℃で1時間反応させた以外は、例1と同様にして標識タンパク質を製造した。また、例1及び例5と同様にしてCATタンパク質を製造した。結果を図2に示す。
標識インドール(5−19F−インドール)の代わりに、2−メチルインドール、4−ニトリインドール、5−アミノ−2−メチルインドール、5−アミノインドール、5−ブロモインドール、5−シアノインドール、5−フルオロインドール(5−18F−インドール)、5−ヒドロキシインドール、5−メトキシインドール、6−シアノインドール、又はインドールを用い、37℃で1時間反応させた以外は、例1と同様にして標識タンパク質(CATタンパク質)を製造した。また、反応液にトリプトファナーゼを0.05mg/mLを添加して同様に標識タンパク質(CATタンパク質)を製造した。結果を図3に示す。
以下の表2に示す組成の反応液(全量500μL)を調製し、37℃で30分間加温することにより、トリプトファン残基のインドール環の5位の水素原子が18Fで置換された標識トラスツズマブ([18F]tra−scFv)を製造した。得られた[18F]tra−scFvは、[18F]tra−scFvに結合しているSBPタグとアフィニティカラムの親和性を利用して精製した。
トラスツズマブは、細胞の悪性化に関与しているHER2タンパク質に特異的に結合することで抗腫瘍効果を発揮する抗癌剤であり、SK−OV−3にはHER2タンパク質が存在している。
例8で製造された[18F]tra−scFvの腫瘍部位への集積を確かめるため、正常マウス及びSK−OV−3細胞を移植して人工的に腫瘍を作らせたICRマウス(メス、13週齢、腫瘍モデル:BALB/c Slc−nu/nu、SK−OV−3移植後30日)に、[18F]tra−scFv溶液200μL(8.6〜9.2MBq)を尾静脈から注入し、PET撮像試験を行った。PET撮像試験はイソフルラン麻酔下(流量:1.0L/分、濃度:1.0%)で行い、[18F]tra−scFv溶液の投与後90分間マウスを撮像した。撮像機器としてClairvivo PETを用い、表示画像は最大値投影表示(MIP)とした。結果を図4に示す。
また、腫瘍を作らせていない正常なICRマウス(オス、6週齢、30〜32g)についても、同様にして[18F]tra−scFv溶液200μL(3.0〜5.3MBq)を尾静脈から注入し、PET撮像試験を行った。PET撮像試験は、イソフルラン麻酔下(流量:1.5L/分、濃度:1.5%)で行い、[18F]tra−scFv溶液の投与後60分間マウスを撮像した以外は、腫瘍を作らせたマウスの場合と同様に行った。結果を図5に示す。
MCF7にもHER2タンパク質が存在している。SK−OV−3(HER2高発現)及びMCF7(HER2低発現)の腫瘍細胞株をそれぞれ用いて作成した腫瘍モデルの腫瘍組織切片に、例8で製造された[18F]tra−scFv(100μL、0.2MBq)を添加し、in vitro オートラジオグラフィによる30分後の結合状態を観察した。SK−OV−3の腫瘍細胞株を用いた腫瘍組織切片の結果を図6A、MCF7の腫瘍細胞株を用いた腫瘍組織切片の結果を図6Bに示す。
また、[18F]tra−scFvを添加する60分前に、非標識のトラスツズマブを添加してHER2タンパク質をブロックした以外は、同様にして各腫瘍組織切片における結合状態を観察した。SK−OV−3の腫瘍細胞株を用いた腫瘍組織切片(HER2ブロック)の結果を図6C、MCF7の腫瘍細胞株を用いた腫瘍組織切片(HER2ブロック)の結果を図6Dに示す。
Claims (8)
- 無細胞タンパク質合成系で、トリプトファナーゼ又はトリプトファンシンターゼにより、18F又は19Fで標識された標識インドールと、L−セリン、又はピルビン酸及びアンモニウムイオンとから18F又は19Fで標識された標識トリプトファンを合成させ、
さらに前記無細胞タンパク質合成系で前記標識トリプトファンを用いて18F又は19Fで標識された標識タンパク質を合成する、標識タンパク質の製造方法。 - 前記標識タンパク質が、トラスツズマブにおけるトリプトファン残基の側鎖のインドール環が18Fで標識された標識トラスツズマブである、請求項1に記載の標識タンパク質の製造方法。
- 請求項1又は2に記載の標識タンパク質の製造方法により、トリプトファン残基の側鎖のインドール環が18Fで標識された標識タンパク質からなるPET用試薬を製造する、PET用試薬の製造方法。
- 無細胞タンパク質合成系で、トリプトファナーゼ又はトリプトファンシンターゼにより、18F又は19Fで標識された標識インドールと、L−セリン、又はピルビン酸及びアンモニウムイオンとから18F又は19Fで標識された標識トリプトファンを合成させ、
さらに前記無細胞タンパク質合成系で前記標識トリプトファンを用いて18F又は19Fで標識された標識ペプチドを合成する、標識ペプチドの製造方法。 - 無細胞タンパク質合成系を備えるキットであって、トリプトファナーゼ又はトリプトファンシンターゼにより、 18 F又は 19 Fで標識された標識インドールと、L−セリン、又はピルビン酸及びアンモニウムイオンとから 18 F又は 19 Fで標識された標識トリプトファンを合成させ、さらに前記無細胞タンパク質合成系で前記標識トリプトファンを用いて 18F若しくは19Fで標識された標識タンパク質又は標識ペプチドを合成するためのキット。
- トリプトファン残基の側鎖のインドール環が18Fで標識された標識トラスツズマブ。
- 請求項6に記載の標識トラスツズマブを含む医薬組成物。
- 請求項5記載のキットを含む、HER2タンパク質検出キット。
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