JP6973158B2 - ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法 - Google Patents
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例えば特許文献1に開示されているヒートシンク付パワーモジュール用基板は、セラミックス基板からなる絶縁層の一方の面に純アルミニウム板、アルミニウム合金板、純銅板、銅合金板等からなる回路層が接合され、絶縁層の他方の面に純アルミニウム又はアルミニウム合金の金属板からなる金属層が接合され、この金属層に、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されたヒートシンクが銅層を介して接合されている。この場合、絶縁層と金属層とはろう材を用いて接合され、金属層とヒートシンクとは、その間に介在した銅層との間で固相拡散接合されている。
しかしながら、これらパワーモジュール用基板の金属層とアルミニウム炭化珪素複合体とを銅層を介して500℃程度の温度で同時に接合しようとすると、金属層と銅層との接合には不十分であり、金属層と銅層との間に金属間化合物(CuAl2、CuAl等)が十分に成長せずに接合不良を生じ易い。これを解決するため、接合温度を高めようとすると、アルミニウム炭化珪素複合体の一部が溶融するおそれがある。
前記ヒートシンク接合工程は、前記パワーモジュール用基板の前記金属層と前記銅層との間に、アルミニウムとアルミニウムよりもイオン化傾向の大きい金属との共蒸着膜を介在した状態で、前記パワーモジュール用基板と前記ヒートシンクとを接合しており、前記アルミニウムよりもイオン化傾向の大きい金属はマグネシウムであり、前記共蒸着膜は、マグネシウムの混合比率が20at%以上50at%以下である。
この製造方法によれば、アルミニウムとこれよりイオン化傾向の大きい金属との共蒸着膜をパワーモジュール用基板の金属層と銅層との間に介在したことにより、その金属元素が拡散して金属層やヒートシンク表面の酸化膜と反応してアルミニウム酸化膜を破壊し、アルミニウムと銅との金属間化合物の生成が、酸化膜により阻害されることが抑制される。
アルミニウムよりイオン化傾向の大きい金属としてマグネシウムを用いた場合によりさらに具体的に説明すると、アルミニウムとマグネシウムとの共蒸着膜をパワーモジュール用基板の金属層と銅層との間に介在したことにより、マグネシウムが拡散して金属層やヒートシンク表面の酸化膜と反応してアルミニウム酸化膜を破壊し、マグネシウム酸化物(MgAl2O4やMgO)として分散する。この場合、マグネシウムとアルミニウムとの共蒸着膜は、マグネシウムとアルミニウムとが原子レベルで混在した状態で蒸着膜の面方向に分散していたものであるから、アルミニウム表面のアルミニウム酸化膜を破壊して生成されるマグネシウム酸化物は、アルミニウムと銅との界面に微細な粒子として分散した状態となる。したがって、このマグネシウム酸化物がアルミニウムと銅との金属間化合物の生成を阻害することが抑制され、その結果、アルミニウムと銅との金属間化合物の成長が促進され、低温(例えば500℃以下)でもパワーモジュール用基板とヒートシンクとを強固に接合することができる。
また、本発明の別の態様としては、前記共蒸着膜は、前記金属層の前記セラミックス基板とは反対側の表面に形成されていてもよい。
図1に、第1実施形態の製造方法により製造されたヒートシンク付パワーモジュール用基板1を示す。このヒートシンク付パワーモジュール用基板1は、パワーモジュール用基板10とヒートシンク20とが銅層30を介して積層状態で接合されている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13の間の電気的接続を防止する絶縁材であって、例えばAlN(窒化アルミ)、窒化珪素Si3N4等により形成され、その板厚は0.2mm〜1.5mmである。
また、これら回路層12及び金属層13の板厚は0.1mm〜1.0mmが好適である。これら回路層12及び金属層13は、セラミックス基板11の両面にアルミニウム板を、例えばAl−Si系のろう材を介して積層し、これらを積層方向に加圧して加熱することにより接合される。
ヒートシンク20としては、平板が好適に用いられ、その厚さは0.4mm〜6.0mmとするとよい。
なお、ヒートシンク20の表面には、含侵されたアルミニウム合金からなるスキン層(図示なし)が形成されており、このスキン層と銅層30が接合されている。
また、含浸されるアルミニウム合金としては、例えば、ASTM規格のA356や、JIS規格のADC12、6063、3003等を用いることができる。これらアルミニウム合金はいずれも溶融開始温度が645℃以下である。
銅層30は、特に限定されないが、熱伝導性の面で純銅からなるものが好ましい。例えば、無酸素銅の圧延板によって形成されており、0.05mm以上3.0mm以下の厚さに形成される。
その製造方法は、セラミックス基板11に回路層12及び金属層13を接合してパワーモジュール用基板10を形成するパワーモジュール用基板形成工程と、パワーモジュール用基板10にヒートシンク20を接合するヒートシンク接合工程とからなる。以下、この工程順に説明する。
図2に示すように、セラミックス基板11の一方の面11aに回路層12となるアルミニウム板12A、他方の面11bに金属層13となるアルミニウム板13Aを、それぞれAl−Si系ろう材箔15を介して積層し、その積層体を積層方向に加圧した状態で加熱した後、冷却することにより、セラミックス基板11の一方の面11aに回路層12、他方の面11bに金属層13が接合されたパワーモジュール用基板10を形成する。ろう材箔15は加熱により溶融し、回路層12や金属層13中に拡散して、これらをセラミックス基板11と強固に接合する。
このときの接合条件は、必ずしも限定されるものではないが、真空雰囲気中で、積層方向の加圧力が0.3MPa〜1.0MPaで、640℃以上650℃以下の加熱温度に1分以上60分以下保持するのが好適である。
図3に示すように、パワーモジュール用基板10の金属層13に銅層30を介してヒートシンク20を接合する。この接合は、金属層13及びヒートシンク20のアルミニウムと銅層30の銅との固相拡散接合である。
また、この接合に際しては、アルミニウムとマグネシウムとの共蒸着膜41を形成した金属箔40を金属層13と銅層30との間に挿入しておく。この金属箔40は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材箔42の一方の面又は両面にアルミニウムとマグネシウムとの共蒸着膜41を形成したものである。図示例では、基材箔42の一方の面に共蒸着膜41が形成されており、その共蒸着膜41が銅層30に向けた状態で介在しているが、金属層13側に向けて介在させてもよい。
この金属箔40を金属層13と銅層30との間に介在させ、積層方向に加圧した状態で加熱することにより、金属層13とヒートシンク20とをアルミニウムと銅との拡散接合によって接合する。このときの接合条件としては、必ずしも限定されないが、真空雰囲気で、積層方向の加圧力が0.3MPa以上3.5MPa以下で、400℃以上500℃以下の加熱温度に5分以上240分以下保持するのが好適である。
なお、この第1実施形態の場合、共蒸着膜41は銅層30に向けて介在させており、したがって、共蒸着膜41が銅層30の表面に接触した状態となる。このため、金属層13には、基材箔42を経由して金属層13の表面に共蒸着膜41のマグネシウムが到達する。
マグネシウムの混合比率が0.1at%未満ではアルミニウムと銅との界面にマグネシウム酸化物が十分に形成されない結果、アルミニウム酸化膜が残存してアルミニウムと銅との拡散接合が阻害され、接合不良を生じるおそれがある。
マグネシウムの混合比率が増えると、相対的にアルミニウムの混合比率が減少する。このアルミニウムはマグネシウムと原子レベルで混在していることにより、拡散速度の大きいマグネシウムの拡散を制御する機能があるが、マグネシウムの混合比率が50at%を超え、アルミニウムの混合比率がその分小さくなると、マグネシウムの拡散を抑える効果が少なくなり、マグネシウムの拡散を制御しきれずにカーケンダルボイドが発生するおそれがある。したがって、マグネシウム単体の膜ではボイドが発生して良好な接合が得られない。
なお、ヒートシンク20と銅層30との間の接合もアルミニウムと銅との固相拡散接合であるが、ヒートシンク20のアルミニウム純度が低いため、金属層13と銅層30との間におけるようなマグネシウムの作用がなくても、500℃以下で十分な接合強度を得ることができる。
このヒートシンク付パワーモジュール用基板1では、金属層13と銅層30との間及び銅層30とヒートシンク20との間に、図6に示すように、それぞれアルミニウムと銅との金属間化合物が成長した接合層50が形成され、これらが強固に接合される。
この接合層50は、主としてアルミニウムと銅との拡散層であり、アルミニウムから銅に向かうにしたがって漸次アルミニウム原子の濃度が低くなり、銅原子の濃度が高くなる濃度勾配を有する。また、この接合層50を構成するアルミニウムと銅との金属間化合物は、金属層13と銅層30との界面及び銅層30とヒートシンク20との界面に複数種(例えば、アルミニウム側から銅側に向けて順にθ相、η2相、ζ2相の3種)の金属間化合物が積層される。なお、金属層13と銅層30との間に金属箔40を介して接合する場合、金属層13と金属箔40との接合、及び金属箔40と銅層30との接合が同時になされることになるが、金属箔40の基材箔42の厚みが大きくなると、基材箔42内のマグネシウム拡散の方が銅の拡散より速いので、マグネシウムによる金属層13と金属箔40とが接合されても、アルミニウムと銅との金属間化合物が金属層13と金属箔40との界面まで達するとは限らない。
この接合層50は、金属層13と銅層30との接合部及び銅層30とヒートシンク20との接合部の断面をEPMA(電子線マイクロアナライザ)によってライン分析することにより確認することができ、銅とアルミニウムの金属間化合物形成領域(図6にCu−Al IMCsと示した範囲)を含み、酸化マグネシウムが偏析されている層までの領域をいう。
また、金属箔40を用いずに、図5に示す第3実施形態のように、パワーモジュール用基板10の金属層13上に共蒸着膜41を直接形成してもよい。この場合、金属層13の表面を残してパワーモジュール用基板10をマスクにより覆って共蒸着膜41を形成する必要がある。
さらに、金属箔40を用いる場合、基材箔42の材料をAl−Si合金としたが、純アルミニウムや他のアルミニウム合金を用いてもよい。
この共蒸着膜41は、金属を熱して蒸発させて形成した膜に限らず、スパッタリングやイオンプレーティングにより形成した膜も含む。
その他、細部構成は実施形態の構成のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
さらに、アルミニウムとともに共蒸着膜を形成する金属元素としてマグネシウムを例示したが、マグネシウム以外にも、アルミニウムよりもイオン化傾向の大きい金属であれば適用することができ、例えば、ナトリウム、カルシウム、カリウムを用いることができる。
このパワーモジュール用基板の金属層と銅層との接合の際に形成した共蒸着膜としては、厚さ10μm又は50μmの基材箔(表1に「Al箔」と示す)に形成したもの、基材箔を用いずに金属層に直接形成したもの(表1のNo.6)、基材箔を用いずに銅層に形成したもの(表1のNo.14)の3通りの形態で用いた。共蒸着膜を基材箔に形成したものは、基材箔の一方の表面のみに形成し、接合の際に銅層又は金属層のいずれの側に配置したかを成膜箇所の欄に「Cu側」「金属層側」として示した。また、基材箔としてSiを含有するアルミニウム箔、Siを含有しないアルミニウム箔の両方を用い、表1にSi含有の有無を記載した。No.12は共蒸着膜を用いない従来技術である。
共蒸着膜におけるアルミニウムとマグネシウムとの混合比率(Al:Mg)及び膜厚は表1の通りである。表1の「Al:Mg」の欄における混合比率の数値は原子量比率(at比率)である。
このパワーモジュール用基板の金属層と銅層との接合においては、加圧力2.1MPaで490℃の温度に150分保持した。
接合率は、接合面の超音波探傷像を二値化処理して、剥離部分を除く接合された面積を求め、これを接合すべき界面の面積で割った比率とした。その接合率が95%以上を「優」、90%以上95%未満を「良」、90%未満を「不良」とする。
断面のボイド判定は、レーザー顕微鏡で接合部の断面を観察し、空隙(ボイド)が認められなかったか、空隙が認められた場合でも接合界面に沿って3μm以下の空隙であったものを「〇」、3μmを超える空隙が認められたものを「×」と判定した。試料12、15は接合率が悪すぎたため、ボイド判定は行わなかった。
これらの結果を表1に示す。
図6は、本発明例の接合部における顕微鏡写真であり、銅とアルミニウムとの間の接合層50に、複数種の金属間化合物が層状に積層されている。また、その接合層50とアルミニウムとの界面に沿ってマグネシウム酸化物(MgO、MgAl2O4)や珪化マグネシウム(Mg2Si)、Siの偏析層が認められる。
10 パワーモジュール用基板
11 セラミックス基板
12 回路層
13 金属層
20 ヒートシンク
30 銅層
40 金属箔
41 共蒸着膜
42 基材箔
50 接合層
Claims (4)
- セラミックス基板の一方の面に回路層が接合されるとともに、前記セラミックス基板の他方の面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属層が接合されてなるパワーモジュール用基板における前記金属層と、炭化珪素の多孔体にアルミニウム合金を含浸して形成されたアルミニウム炭化珪素複合体からなるヒートシンクとを銅層を介して拡散接合することにより、前記パワーモジュール用基板と前記ヒートシンクとを接合するヒートシンク接合工程を有し、
前記ヒートシンク接合工程は、前記パワーモジュール用基板の前記金属層と前記銅層との間に、アルミニウムとアルミニウムよりもイオン化傾向の大きい金属との共蒸着膜を介在した状態で、前記パワーモジュール用基板と前記ヒートシンクとを接合しており、
前記アルミニウムよりもイオン化傾向の大きい金属はマグネシウムであり、前記共蒸着膜は、マグネシウムの混合比率が20at%以上50at%以下であることを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。 - 前記共蒸着膜は、膜厚が0.05μm以上3.0μm以下であることを特徴とする請求項1記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
- 前記ヒートシンク接合工程において、前記共蒸着膜は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材箔の少なくとも一方の面に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
- 前記ヒートシンク接合工程において、前記共蒸着膜は、前記金属層の前記セラミックス基板とは反対側の表面に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
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