以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。説明に用いる各図は概念図であり、各部の形状は必ずしも厳密なものではない場合がある。車両用制動装置BFは、図1及び図2に示すように、マスタシリンダ1と、反力発生装置2と、第1制御弁22と、第2制御弁23と、サーボ圧発生装置4と、アクチュエータ(「液圧制動部」に相当する)5と、ホイールシリンダ(「液圧室」に相当する)541〜544と、各種センサ71〜79と、上流側ECU6と、下流側ECU6Aと、ブレーキパッドZ1と、を備えている。
また、本実施形態の車両はハイブリッド車両であるため、車両用制動装置BFには、車輪Wに回生制動力を発生させ、アクチュエータ5との協調制御を実行する回生制動装置(「回生制動部」に相当する)8が設けられている。回生制動装置8は、後輪Wrに対して設けられ、ハイブリッドECU81と、発電機82と、インバータ83と、バッテリ84と、を備えている。回生制動装置8の詳細については公知であるため省略する。本実施形態の車両は後輪駆動の車両である。なお、説明において、車輪Wfl、Wfr、Wrl、Wrrは車輪Wと、前輪Wfl、Wfrは前輪Wfと、後輪Wrl、Wrrは後輪Wrと記載することがある。
マスタシリンダ1は、ブレーキペダル(「ブレーキ操作部材」に相当する)10の操作量に応じてブレーキ液をアクチュエータ5に供給する部位であり、メインシリンダ11、カバーシリンダ12、入力ピストン13、第1マスタピストン14、および第2マスタピストン15を備えている。ブレーキペダル10は、ドライバがブレーキ操作可能なブレーキ操作手段であれば良い。
メインシリンダ11は、前方が閉塞されて後方に開口する有底略円筒状のハウジングである。メインシリンダ11の内周側の後方寄りに、内向きフランジ状に突出する内壁部111が設けられている。内壁部111の中央は、前後方向に貫通する貫通孔111aとされている。また、メインシリンダ11の内部の内壁部111よりも前方に、内径がわずかに小さくなっている小径部位112(後方)、113(前方)が設けられている。つまり、小径部位112、113は、メインシリンダ11の内周面から内向き環状に突出している。メインシリンダ11の内部には、小径部位112に摺接して軸方向に移動可能に第1マスタピストン14が配設されている。同様に、小径部位113に摺接して軸方向に移動可能に第2マスタピストン15が配設されている。
カバーシリンダ12は、略円筒状のシリンダ部121、蛇腹筒状のブーツ122、およびカップ状の圧縮スプリング123で構成されている。シリンダ部121は、メインシリンダ11の後端側に配置され、メインシリンダ11の後側の開口に同軸的に嵌合されている。シリンダ部121の前方部位121aの内径は、内壁部111の貫通孔111aの内径よりも大きい。また、シリンダ部121の後方部位121bの内径は、前方部位121aの内径よりも小さい。
防塵用のブーツ122は蛇腹筒状で前後方向に伸縮可能であり、その前側でシリンダ部121の後端側開口に接するように組み付けられている。ブーツ122の後方の中央には貫通孔122aが形成されている。圧縮スプリング123は、ブーツ122の周りに配置されるコイル状の付勢部材であり、その前側がメインシリンダ11の後端に当接し、後側はブーツ122の貫通孔122aに近接するように縮径されている。ブーツ122の後端および圧縮スプリング123の後端は、操作ロッド10aに結合されている。圧縮スプリング123は、操作ロッド10aを後方に付勢している。
入力ピストン13は、ブレーキペダル10の操作に応じてカバーシリンダ12内を摺動するピストンである。入力ピストン13は、前方に底面を有し後方に開口を有する有底略円筒状のピストンである。入力ピストン13の底面を構成する底壁131は、入力ピストン13の他の部位よりも径が大きくなっている。入力ピストン13は、シリンダ部121の後方部位121bに軸方向に摺動可能かつ液密的に配置され、底壁131がシリンダ部121の前方部位121aの内周側に入り込んでいる。
入力ピストン13の内部には、ブレーキペダル10に連動する操作ロッド10aが配設されている。操作ロッド10aの先端のピボット10bは、入力ピストン13を前側に押動できるようになっている。操作ロッド10aの後端は、入力ピストン13の後側の開口およびブーツ122の貫通孔122aを通って外部に突出し、ブレーキペダル10に接続されている。ブレーキペダル10が踏み込み操作されたときに、操作ロッド10aは、ブーツ122および圧縮スプリング123を軸方向に押動しながら前進する。操作ロッド10aの前進に伴い、入力ピストン13も連動して前進する。
第1マスタピストン14は、メインシリンダ11の内壁部111に軸方向に摺動可能に配設されている。第1マスタピストン14は、前方側から順番に加圧筒部141、フランジ部142、および突出部143が一体となって形成されている。加圧筒部141は、前方に開口を有する有底略円筒状に形成され、メインシリンダ11の内周面との間に間隙を有し、小径部位112に摺接している。加圧筒部141の内部空間には、第2マスタピストン15との間にコイルばね状の付勢部材144が配設されている。付勢部材144により、第1マスタピストン14は後方に付勢されている。換言すると、第1マスタピストン14は、設定された初期位置に向けて付勢部材144により付勢されている。
フランジ部142は、加圧筒部141よりも大径で、メインシリンダ11の内周面に摺接している。突出部143は、フランジ部142よりも小径で、内壁部111の貫通孔111aに液密に摺動するように配置されている。突出部143の後端は、貫通孔111aを通り抜けてシリンダ部121の内部空間に突出し、シリンダ部121の内周面から離間している。突出部143の後端面は、入力ピストン13の底壁131から離間し、その離間距離は変化し得るように構成されている。
ここで、メインシリンダ11の内周面、第1マスタピストン14の加圧筒部141の前側、および第2マスタピストン15の後側により、「第1マスタ室1D」が区画されている。また、メインシリンダ11の内周面(内周部)と小径部位112と内壁部111の前面、および第1マスタピストン14の外周面により、第1マスタ室1Dよりも後方の後方室が区画されている。第1マスタピストン14のフランジ部142の前端部および後端部は後方室を前後に区分しており、前側に「第2液圧室1C」が区画され、後側に「サーボ室1A」が区画されている。第2液圧室1Cは、第1マスタピストン14の前進により容積が減少し第1マスタピストン14の後退により容積が増加する。また、メインシリンダ11の内周部、内壁部111の後面、シリンダ部121の前方部位121aの内周面(内周部)、第1マスタピストン14の突出部143(後端部)、および入力ピストン13の前端部により「第1液圧室1B」が区画されている。
第2マスタピストン15は、メインシリンダ11内の第1マスタピストン14の前方側に、小径部位113に摺接して軸方向に移動可能に配置されている。第2マスタピストン15は、前方に開口を有する筒状の加圧筒部151、および加圧筒部151の後側を閉塞する底壁152が一体となって形成されている。底壁152は、第1マスタピストン14との間に付勢部材144を支承している。加圧筒部151の内部空間には、メインシリンダ11の閉塞された内底面111dとの間に、コイルばね状の付勢部材153が配設されている。付勢部材153により、第2マスタピストン15は後方に付勢されている。換言すると、第2マスタピストン15は、設定された初期位置に向けて付勢部材153により付勢されている。メインシリンダ11の内周面、内底面111d、および第2マスタピストン15により、「第2マスタ室1E」が区画されている。
マスタシリンダ1には、内部と外部を連通させるポート11a〜11iが形成されている。ポート11aは、メインシリンダ11のうち内壁部111よりも後方に形成されている。ポート11bは、ポート11aと軸方向の同様の位置に、ポート11aに対向して形成されている。ポート11aとポート11bは、メインシリンダ11の内周面とシリンダ部121の外周面との間の環状空間を介して連通している。ポート11aおよびポート11bは、配管161に接続され、かつリザーバ171(低圧源)に接続されている。
また、ポート11bは、シリンダ部121および入力ピストン13に形成された通路18により第1液圧室1Bに連通している。通路18は入力ピストン13が前進すると遮断され、これによって第1液圧室1Bとリザーバ171とが遮断される。ポート11cは、内壁部111より後方かつポート11aよりも前方に形成され、第1液圧室1Bと配管162とを連通させている。ポート11dは、ポート11cよりも前方に形成され、サーボ室1Aと配管163とを連通させている。ポート11eは、ポート11dよりも前方に形成され、第2液圧室1Cと配管164とを連通させている。
ポート11fは、小径部位112の両シール部材G1、G2の間に形成され、リザーバ172とメインシリンダ11の内部とを連通している。ポート11fは、第1マスタピストン14に形成された通路145を介して第1マスタ室1Dに連通している。通路145は、第1マスタピストン14が前進するとポート11fと第1マスタ室1Dが遮断される位置に形成されている。ポート11gは、ポート11fよりも前方に形成され、第1マスタ室1Dと管路31とを連通させている。
ポート11hは、小径部位113の両シール部材G3、G4の間に形成され、リザーバ173とメインシリンダ11の内部とを連通させている。ポート11hは、第2マスタピストン15の加圧筒部151に形成された通路154を介して第2マスタ室1Eに連通している。通路154は、第2マスタピストン15が前進するとポート11hと第2マスタ室1Eが遮断される位置に形成されている。ポート11iは、ポート11hよりも前方に形成され、第2マスタ室1Eと管路32とを連通させている。
また、マスタシリンダ1内には、適宜、Oリング等のシール部材が配置されている。シール部材G1、G2は、小径部位112に配置され、第1マスタピストン14の外周面に液密的に当接している。同様に、シール部材G3、G4は、小径部位113に配置され、第2マスタピストン15の外周面に液密的に当接している。また、入力ピストン13とシリンダ部121との間にもシール部材G5、G6が配置されている。
ストロークセンサ71は、ドライバによりブレーキペダル10が操作された操作量(ストローク)を検出するセンサであり、検出信号を上流側ECU6及び下流側ECU6Aに送信する。ブレーキストップスイッチ72は、ドライバによるブレーキペダル10の操作の有無を2値信号で検出するスイッチであり、検出信号を上流側ECU6に送信する。
反力発生装置2は、ブレーキペダル10が操作されたとき操作力に対抗する反力を発生する装置であり、ストロークシミュレータ21を主にして構成されている。ストロークシミュレータ21は、ブレーキペダル10の操作に応じて第1液圧室1Bおよび第2液圧室1Cに反力液圧を発生させる。ストロークシミュレータ21は、シリンダ211にピストン212が摺動可能に嵌合されて構成されている。ピストン212は圧縮スプリング213によって後方に付勢されており、ピストン212の後面側に反力液圧室214が形成される。反力液圧室214は、配管164およびポート11eを介して第2液圧室1Cに接続され、さらに、反力液圧室214は、配管164を介して第1制御弁22および第2制御弁23に接続されている。
第1制御弁22は、非通電状態で閉じる構造の電磁弁であり、上流側ECU6により開閉が制御される。第1制御弁22は、配管164と配管162との間に接続されている。ここで、配管164はポート11eを介して第2液圧室1Cに連通し、配管162はポート11cを介して第1液圧室1Bに連通している。また、第1制御弁22が開くと第1液圧室1Bが開放状態になり、第1制御弁22が閉じると第1液圧室1Bが密閉状態になる。したがって、配管164および配管162は、第1液圧室1Bと第2液圧室1Cとを連通するように設けられている。
第1制御弁22は通電されていない非通電状態で閉じており、このとき第1液圧室1Bと第2液圧室1Cとが遮断される。これにより、第1液圧室1Bが密閉状態になってブレーキ液の行き場がなくなり、入力ピストン13と第1マスタピストン14とが一定の離間距離を保って連動する。また、第1制御弁22は通電された通電状態では開いており、このとき第1液圧室1Bと第2液圧室1Cとが連通される。これにより、第1マスタピストン14の進退に伴う第1液圧室1Bおよび第2液圧室1Cの容積変化が、ブレーキ液の移動により吸収される。
圧力センサ73は、第2液圧室1Cおよび第1液圧室1Bの反力液圧を検出するセンサであり、配管164に接続されている。圧力センサ73は、第1制御弁22が閉状態の場合には第2液圧室1Cの圧力を検出し、第1制御弁22が開状態の場合には連通された第1液圧室1Bの圧力も検出することになる。圧力センサ73は、検出信号を上流側ECU6に送信する。
第2制御弁23は、非通電状態で開く構造の電磁弁であり、上流側ECU6により開閉が制御される。第2制御弁23は、配管164と配管161との間に接続されている。ここで、配管164はポート11eを介して第2液圧室1Cに連通し、配管161はポート11aを介してリザーバ171に連通している。したがって、第2制御弁23は、第2液圧室1Cとリザーバ171との間を非通電状態で連通して反力液圧を発生させず、通電状態で遮断して反力液圧を発生させる。
サーボ圧発生装置4は、いわゆる油圧式ブースタ(倍力装置)であって、減圧弁41、増圧弁42、圧力供給部43、およびレギュレータ44を備えている。減圧弁41は、非通電状態で開く常開型の電磁弁(常開弁)であり、上流側ECU6により流量(又は圧力)が制御される。減圧弁41の一方は配管411を介して配管161に接続され、減圧弁41の他方は配管413に接続されている。つまり、減圧弁41の一方は、配管411、161、およびポート11a、11bを介してリザーバ171に連通している。減圧弁41は、閉弁することで、パイロット室4Dからブレーキ液が流出することを阻止する。なお、リザーバ171とリザーバ434とは、図示していないが連通している。リザーバ171とリザーバ434が同一のリザーバであっても良い。
増圧弁42は、非通電状態で閉じる常閉型の電磁弁(常閉弁)であり、上流側ECU6により流量(又は圧力)が制御されている。増圧弁42の一方は配管421に接続され、増圧弁42の他方は配管422に接続されている。圧力供給部43は、レギュレータ44に主に高圧の作動液を供給する部位である。圧力供給部43は、アキュムレータ431、液圧ポンプ432、モータ433、およびリザーバ434を備えている。圧力センサ75は、アキュムレータ431の液圧を検出する。圧力供給部43は、の構成は公知であるため説明は省略する。
レギュレータ44は、機械式のレギュレータであって、内部にパイロット室4Dが形成されている。また、レギュレータ44には、複数のポート4a〜4hが形成されている。パイロット室4Dは、ポート4f及び配管413を介して減圧弁41に接続され、ポート4g及び配管421を介して増圧弁42に接続されている。増圧弁42の開弁により、アキュムレータ431からポート4a、4b、4gを介して高圧のブレーキ液がパイロット室4Dに供給され、ピストンが移動し、パイロット室4Dが拡大する。当該拡大に応じて弁部材が移動し、ポート4aとポート4cが連通し、配管163を介して高圧のブレーキ液がサーボ室1Aに供給される。一方、減圧弁41の開弁により、パイロット室4Dの液圧(パイロット圧)が低下し、ポート4aとポート4cとの間の流路が弁部材により遮断される。このように、上流側ECU6は、減圧弁41及び増圧弁42を制御することで、サーボ圧に対応するパイロット圧を制御し、サーボ圧を制御している。実際のサーボ圧は、圧力センサ74により検出される。本実施形態は、ブレーキ操作機構と調圧機構とが分離されたバイワイヤ構成になっている。
アクチュエータ5は、マスタ圧が発生する第1マスタ室1D及び第2マスタ室1Eと、ホイールシリンダ541〜544の間に配置されている。アクチュエータ5と第1マスタ室1Dとは管路31により接続され、アクチュエータ5と第2マスタ室1Eは管路32により接続されている。アクチュエータ5は、下流側ECU6Aの指示に応じて、ホイールシリンダ541〜544の液圧(ホイール圧)を調整する装置である。アクチュエータ5は、下流側ECU6Aの指令に応じて、ブレーキ液をマスタ圧からさらに加圧する加圧制御、増圧制御、減圧制御、又は保持制御を実行する。アクチュエータ5は、下流側ECU6Aの指令に基づき、これら制御を組み合わせて、アンチスキッド制御(ABS制御)、又は横滑り防止制御(ESC制御)等を実行する。
具体的に、アクチュエータ5は、図3に示すように、油圧回路5Aと、モータ90と、を備えている。油圧回路5Aは、第1配管系統50aと、第2配管系統50bと、を備えている。第1配管系統50aは、前輪Wfl、Wfrに加えられる液圧(ホイール圧)を制御する系統である。第2配管系統50bは、後輪Wrl、Wrrに加えられる液圧(ホイール圧)を制御する系統である。また、各車輪Wに対して、車輪速度センサ76が設置されている。本実施形態では前後配管が採用されている。
第1配管系統50aは、主管路Aと、差圧制御弁(「電磁弁」に相当する)51と、増圧弁52、53と、減圧管路Bと、減圧弁54、55と、調圧リザーバ56と、還流管路Cと、ポンプ57と、補助管路Dと、オリフィス部58と、ダンパ部59と、を備えている。説明において、「管路」の用語は、例えば液圧路、流路、油路、通路、又は配管等に置換可能である。
主管路Aは、管路32とホイールシリンダ541、542とを接続する管路である。差圧制御弁51は、主管路Aに設けられ、主管路Aを連通状態と差圧状態に制御する電磁弁である。差圧状態は、弁により流路が制限された状態であり、絞り状態ともいえる。差圧制御弁51は、下流側ECU6Aの指示に基づく制御電流に応じて、自身を中心としたマスタシリンダ1側の液圧とホイールシリンダ541、542側の液圧との差圧を制御する。換言すると、差圧制御弁51は、制御電流に応じて、主管路Aのマスタシリンダ1側の部分の液圧と主管路Aのホイールシリンダ541、542側の部分の液圧との差圧を制御可能に構成されている。
差圧制御弁51は、非通電状態で連通状態となるノーマルオープンタイプである。差圧制御弁51に印加される制御電流が大きいほど、差圧は大きくなる。差圧制御弁51が差圧状態に制御されてポンプ57が駆動している場合、制御電流に応じて、マスタシリンダ1側の液圧よりもホイールシリンダ541、542側の液圧のほうが大きくなる。差圧制御弁51に対しては、チェックバルブ51aが設置されている。主管路Aは、ホイールシリンダ541、542に対応するように、差圧制御弁51の下流側の分岐点Xで2つの管路A1、A2に分岐している。
増圧弁52、53は、下流側ECU6Aの指示により開閉する電磁弁であって、非通電状態で開状態(連通状態)となるノーマルオープンタイプの電磁弁である。増圧弁52は管路A1に配置され、増圧弁53は管路A2に配置されている。増圧弁52、53は、増圧制御時に非通電状態で開状態となってホイールシリンダ541〜544と分岐点Xと連通させ、保持制御及び減圧制御時に通電されて閉状態となりホイールシリンダ541〜544と分岐点Xとを遮断する。
減圧管路Bは、管路A1における増圧弁52とホイールシリンダ541、542との間と調圧リザーバ56とを接続し、管路A2における増圧弁53とホイールシリンダ541、542との間と調圧リザーバ56とを接続する管路である。減圧弁54、55は、下流側ECU6Aの指示により開閉する電磁弁であって、非通電状態で閉状態(遮断状態)となるノーマルクローズタイプの電磁弁である。減圧弁54は、ホイールシリンダ541、542側の減圧管路Bに配置されている。減圧弁55は、ホイールシリンダ541、542側の減圧管路Bに配置されている。減圧弁54、55は、主に減圧制御時に通電されて開状態となり、減圧管路Bを介してホイールシリンダ541、542と調圧リザーバ56とを連通させる。調圧リザーバ56は、シリンダ、ピストン、及び付勢部材を有するリザーバである。
還流管路Cは、減圧管路B(又は調圧リザーバ56)と、主管路Aにおける差圧制御弁51と増圧弁52、53の間(ここでは分岐点X)とを接続する管路である。ポンプ57は、吐出ポートが分岐点X側で吸入ポートが調圧リザーバ56側に配置されるように、還流管路Cに設けられている。ポンプ57は、モータ90によって駆動されるギア式の電動ポンプ(ギアポンプ)である。ポンプ57は、還流管路Cを介して、調圧リザーバ56からマスタシリンダ1側又はホイールシリンダ541、542側にブレーキ液を流動させる。また、ポンプ57は、例えばアンチスキッド制御の際、開状態の減圧弁54、55を介して、ホイールシリンダ541、542内のブレーキ液をマスタシリンダ1に汲み戻す。このように、ポンプ57は、マスタシリンダ1とホイールシリンダ541、542との間に配置され、ホイールシリンダ541、542内のブレーキ液をホイールシリンダ541、542外に吐出することができる。
ポンプ57は、ブレーキ液を吐出する吐出過程と、ブレーキ液を吸入する吸入過程と、を繰り返すように構成されている。つまり、ポンプ57は、モータ90により駆動されると、吐出過程と吸入過程とを交互に繰り返して実行する。吐出過程では、吸入過程で調圧リザーバ56から吸入したブレーキ液が、分岐点Xに供給される。モータ90は、下流側ECU6Aの指示により、リレー(図示せず)を介して通電され、駆動する。ポンプ57とモータ90は、併せて電動ポンプともいえる。
オリフィス部58は、還流管路Cのポンプ57と分岐点Xとの間の部分に設けられた、絞り形状部位(いわゆるオリフィス)である。ダンパ部59は、還流管路Cのポンプ57とオリフィス部58との間の部分に接続されたダンパ(ダンパ機構)である。ダンパ部59は、還流管路Cのブレーキ液の脈動に応じて、当該ブレーキ液を吸収・吐出する。オリフィス部58及びダンパ部59は、脈動を低減(減衰、吸収)する脈動低減機構といえる。
補助管路Dは、調圧リザーバ56の調圧孔56aと、主管路Aにおける差圧制御弁51よりも上流側(又はマスタシリンダ1)とを接続する管路である。調圧リザーバ56は、ストローク増加による調圧孔56aへのブレーキ液の流入量増加に伴い、弁孔56bが閉塞されるように構成されている。弁孔56bの管路B、C側にはリザーバ室56cが形成される。
ポンプ57の駆動により、調圧リザーバ56又はマスタシリンダ1内のブレーキ液が、還流管路Cを介して主管路Aにおける差圧制御弁51と増圧弁52、53の間の部分(分岐点X)に吐出される。そして、差圧制御弁51及び増圧弁52、53の制御状態に応じて、ホイール圧が加圧される。このようにアクチュエータ5では、ポンプ57の駆動と各種弁の制御により加圧制御が実行される。つまり、アクチュエータ5は、ホイール圧を加圧可能に構成されている。なお、主管路Aの差圧制御弁51とマスタシリンダ1の間の部分には、当該部分の液圧(マスタ圧)を検出する圧力センサ77が設置されている。圧力センサ77は、検出結果を上流側ECU6及び下流側ECU6Aに送信する。
第2配管系統50bは、第1配管系統50aと同様の構成であって、後輪Wrl、Wrrのホイールシリンダ543、544の液圧を調整する系統である。第2配管系統50bは、主管路Aに相当し管路31とホイールシリンダ543、544とを接続する主管路Abと、差圧制御弁51に相当する差圧制御弁(「電磁弁」に相当する)91と、増圧弁52、53に相当する増圧弁92、93と、減圧管路Bに相当する減圧管路Bbと、減圧弁54、55に相当する減圧弁94、95と、調圧リザーバ56に相当する調圧リザーバ96と、還流管路Cに相当する還流管路Cbと、ポンプ57に相当するポンプ97と、補助管路Dに相当する補助管路Dbと、オリフィス部58に相当するオリフィス部58aと、ダンパ部59に相当するダンパ部59aと、を備えている。第2配管系統50bの詳細構成については、第1配管系統50aの説明を参照できるため、説明を省略する。また、以下の説明において、アクチュエータ5の各部の記載は、第1配管系統50aの符号を用い、第2配管系統50bの符号は省略する。
上流側ECU6及び下流側ECU6Aは、CPUやメモリ等を備える電子制御ユニット(ECU)である。上流側ECU6は、ホイール圧の目標値である目標ホイール圧(又は目標減速度)に基づいて、サーボ圧発生装置4に対する制御を実行するECUである。上流側ECU6は、目標ホイール圧に基づいて、サーボ圧発生装置4に対して、増圧制御(加圧制御)、減圧制御、又は保持制御を実行する。増圧制御では、増圧弁42が開状態となり、減圧弁41が閉状態となる。減圧制御では、増圧弁42が閉状態となり、減圧弁41が開状態となる。保持制御では、増圧弁42及び減圧弁41が閉状態となる。
上流側ECU6には、各種センサ71〜77が接続されている。また、上流側ECU6には、車両の前後方向の加速度(減速度)を検出する加速度センサ78、及びステアリングホイールの舵角を検出する舵角センサ79が接続されている。上流側ECU6は、これらセンサから、ストローク情報、マスタ圧情報、反力液圧情報、サーボ圧情報、車輪速度情報、加速度情報(減速度情報)、及び舵角情報等を取得する。上記センサと上流側ECU6とは、図示しない通信線(CAN)により接続されている。また、上流側ECU6は、下流側ECU6Aからアクチュエータ5の制御状況に関する情報(アンチスキッド制御中等)を取得する。
下流側ECU6Aは、ホイール圧の目標値である目標ホイール圧(又は目標減速度)に基づいて、アクチュエータ5に対する制御を実行するECUである。下流側ECU6Aは、目標ホイール圧に基づいて、アクチュエータ5に対して、増圧制御、減圧制御、保持制御、又は加圧制御を実行する。下流側ECU6Aは、上流側ECU6を介して又は直接的に、各種センサ71〜79から情報を取得する。なお、上流側ECU6及び下流側ECU6Aは、1つのECUで構成されても良い。
ここで、ホイールシリンダ541に対する制御を例に下流側ECU6Aによる各制御状態について簡単に説明すると、増圧制御では、増圧弁52(及び差圧制御弁51)が開状態となり、減圧弁54が閉状態となる。なお、差圧制御弁51と並列に設置されたチェックバルブ51aにより、上流から下流へのブレーキ液の流れは許容され、その逆は禁止される。したがって、上流側の液圧が下流側の液圧より高い場合、差圧制御弁51への制御なしに、チェックバルブ51aを介してブレーキ液は下流に供給される。減圧制御では、増圧弁52が閉状態となり、減圧弁54が開状態となる。保持制御では、増圧弁52及び減圧弁54が閉状態となる。また、保持制御は、増圧弁52を閉じず、減圧弁54を閉じ、差圧制御弁51を閉じる(絞る)ことでも実行できる。また、保持制御では、加圧応答性の観点からモータ90及びポンプ57を駆動させたまま、差圧制御弁51からブレーキ液を上流側に漏らしつつ、差圧を維持する制御もなされる。つまり、差圧制御弁51及び/又は増圧弁52は、ホイール圧を保持する保持弁に相当する。加圧制御では、差圧制御弁51が差圧状態(絞り状態)となり、増圧弁52が開状態となり、減圧弁54が閉状態となり、モータ90及びポンプ57が駆動する。
両ECU6、6Aの協調制御の例について簡単に説明すると、上流側ECU6は、ストローク情報に基づいて目標減速度(減速度の目標値)を設定し、通信線を介して目標減速度情報を下流側ECU6Aに伝達する。目標マスタ圧及び目標ホイール圧は、目標減速度に基づいて決定される。上流側ECU6と下流側ECU6Aは、協調制御により、ホイール圧を目標ホイール圧に(減速度を目標減速度に)近づけるようにブレーキ液の液圧を制御する。上流側ECU6ではストロークに基づき目標減速度を演算して目標マスタ圧を演算し、下流側ECU6Aでは目標減速度に基づき目標ホイール圧を演算し、検出されたマスタ圧(又は目標マスタ圧)と目標ホイール圧とに基づき加圧量(制御量)を設定する。
また、両ECU6、6Aは、ハイブリッドECU81との協調制御(回生協調制御)を実行する。回生協調制御では、例えば、ブレーキ操作開始から所定状況までは、回生制動装置8による回生制動力とアクチュエータ5によるホイール圧の加圧(液圧制動力)により目標減速度を達成させる。そして、所定状況以降は液圧制動力としてサーボ圧発生装置4によるマスタ圧の加圧も加えられ、回生制動力とともに目標減速度を達成させる。ブレーキ操作終了付近では、例えば回生制動力のみで目標減速度を達成し、その後、所定のタイミングで、回生制動力から液圧制動力(アクチュエータ5による加圧)に切り替えるすり替え制御が実行される。
ブレーキパッドZ1は、ホイール圧に基づいて車輪WのロータZ2に押し付けられることで液圧制動力を発生させる摩擦部材である。ブレーキパッドZ1は、図示しないが、例えば各車輪Wのキャリパに配設されており、ホイール圧に応じて駆動するピストンにより押圧され、ロータZ2に当接して液圧制動力を発生させる。このように、車両用制動装置BFは、車両の車輪Wに付与される液圧制動力に対応する液圧(ホイール圧)が発生するホイールシリンダ541〜544に接続され、ホイール圧を調整する差圧制御弁51を有し、液圧制動力の目標値に対応する電流を差圧制御弁51に供給することにより、車両の減速度を調整するアクチュエータ5と、ブレーキパッドZ1と、を備えている。そして、差圧制御弁51は、供給電流に基づいて自身の一方側の液圧であるホイール圧と自身の他方側の液圧との差圧を制御可能に構成されている。
(特性設定制御)
ここで、差圧制御弁51における供給電流(制御電流)と差圧との関係(IP特性)の設定について説明する。下流側ECU6Aには、差圧制御弁51、91のIP特性が予め記憶されている。特性設定制御に関して、下流側ECU6Aは、機能として、取得部61と、設定部62と、すり替え制御部63と、を備えている。取得部61は、取得情報として、液圧制動力の目標値が異なる少なくとも2つのタイミングにおける、「液圧制動力の目標値」と「車両の実減速度」と「目標減速度」とを取得するように構成されている。
車両の実減速度は、液圧制動力と回生制動力との合計の制動力に対応する。したがって、液圧制動力の目標値(以下「目標液圧制動力」ともいう)は、目標減速度と回生制動力の目標値(以下「目標回生制動力」ともいう)に応じて設定される。また、目標液圧制動力は、目標ホイール圧に対応する。「車両の実減速度」は、実際の車両の減速度であって、加速度センサ78で検出された検出値に対応する。取得部61は、実減速度として加速度センサ78の検出値を取得する。
設定部62は、取得部61により取得された少なくとも2つのタイミングにおける目標液圧制動力と実減速度と目標減速度に基づいて、所望の液圧制動力の目標値と車両の実減速度との関係を設定するように構成されている。本実施形態の設定部62は、「所望の液圧制動力の目標値と車両の実減速度との関係」として、差圧制御弁51における供給電流と差圧との関係(IP特性)を設定する。図3に示すように、差圧制御弁51のIP特性では、供給電流が増大するほど差圧が大きくなる。なお、当該IP特性は、「電磁弁(差圧制御弁51)への供給電流と液圧室内の液圧(ホイール圧)との関係」ともいえる。
より具体的に、設定部62は、第1タイミングにおける目標減速度と実減速度との差である第1差分値、及び第2タイミングにおける目標減速度と実減速度との差である第2差分値に基づいて、補正値として第1差分値と第2差分値との差を演算し、当該補正値及び目標液圧制動力(指示差圧)に基づいて、差圧制御弁51のIP特性を補正する。演算される補正値は、第1タイミングでの差分値(目標減速度−実減速度)から第2タイミングでの差分値(目標減速度−実減速度)を引いた値である。補正値は、2つのタイミングで目標減速度が一定である場合、2つのタイミングの実減速度の差(減速度変動)となる。設定部62は、実際に補正する実補正値として、演算された補正値の所定割合(例えば数十%)の値を演算する。
設定部62は、2つのタイミングにおける目標液圧制動力に対応する差圧制御弁51への供給電流(指示差圧)と、実補正値とに基づいて、次回のすり替え制御に備えてIP特性を補正する。例えば、第1指示差圧(第1タイミングで取得)から第2指示差圧(第2タイミングで取得)までの指示差圧の変化において、補正値がHであり、実補正値がHaであった場合、設定部62は、次回の制御において差圧制御弁51への指示差圧を第1指示差圧から第2指示差圧に変化させた際、実補正値Ha分だけ前回よりも実減速度が目標減速度に近づくように、IP特性を補正・設定する。設定部62は、指示差圧の変化量と実補正値に基づいて、IP特性(例えばIP特性の傾き)を補正・設定する。設定部62は、例えば、実補正値を第1指示差圧と第2指示差圧との差で除算した値に基づいて、IP特性の傾きを補正しても良い。設定部62によるIP特性の補正・設定は、ブレーキペダル10がリリースされたタイミング(ブレーキ操作が解除されたタイミング)で行われる。
すり替え制御部63は、アクチュエータ5による液圧制動力と回生制動装置8による回生制動力との割合を変化させる「すり替え制御」を実行する。換言すると、すり替え制御部63は、制動中に、回生制動装置8が発生させている回生制動力をアクチュエータ5が発生させる液圧制動力にすり替える「すり替え制御」を実行する。すり替え制御は、回生制動力により停車しようとしている車両において、回生制動力を0に向けて低下させるとともに、液圧制動力を目標減速度に応じて増大させる制御である。すり替え制御部63は、目標液圧制動力に応じて、アクチュエータ5の駆動のみにより液圧制動力を発生させる。すり替え制御部63は、所定のタイミングで、ハイブリッドECU81にすり替え制御実行の指示を送信する。すり替え制御部63は、前輪Wfと後輪Wrに対して、それぞれ独立してすり替え制御を実行することができる。本実施形態の取得部61は、当該すり替え制御に関連する2つのタイミングで、目標液圧制動力と実減速度とを取得する。
ここで、本実施形態の特性設定制御の一例を、図4を参照して説明する。図4の例は、目標液圧制動力が0である際に行われるすり替え制御であって、前輪Wfに対するすり替え制御の実行後に後輪Wrに対するすり替え制御が実行される。後輪Wrに対するすり替え制御が終了すると、回生制動力が0となり、液圧制動力が目標減速度に応じた値となる。また、この例において、目標減速度は一定であり、マスタ圧は0である。取得部61は、目標減速度が維持された状態におけるすり替え制御部63によるすり替え制御の実行に際し、取得情報を取得する。
まず、回生制動力のみで目標減速度が実現された状態で、前輪Wfでのすり替え制御が実行されると、回生制動力が低下するとともに、当該低下に応じて前輪Wfの目標ホイール圧(前輪Wfの目標液圧制動力)が上昇する。つまり、下流側ECU6Aは、アクチュエータ5(第1配管系統50a)に加圧制御を実行させ、設定されている差圧制御弁51のIP特性と前輪Wfの目標ホイール圧とに基づいて差圧制御弁51に電流を供給し、モータ90及びポンプ57を駆動させる。
ここで、取得部61において、第1タイミングt1は、すり替え制御部63が前輪Wfでのすり替え制御を実行する直前、すなわちすり替え制御により前輪Wfの目標ホイール圧が上昇する直前に設定されている。また、取得部61において、第2タイミングt2は、前輪Wfでのすり替え制御が終了した直後、すなわちすり替え制御による前輪Wfの目標ホイール圧の上昇が終了した直後(ここでは前輪Wfの目標ホイール圧が一定になった直後)に設定されている。このように、取得部61は、すり替え制御開始前のタイミングt1とすり替え制御終了後のタイミングt2における、目標液圧制動力と実減速度とを取得する。換言すると、取得部61は、すり替え制御開始の第1所定時間前のタイミングt1とすり替え制御終了から第2所定時間経過後のタイミングt2における、目標液圧制動力と実減速度とを取得する。取得部61は、すり替え制御部63からの情報提供により、すり替え制御の実行タイミングを予め認識することができる。
目標液圧制動力は目標ホイール圧に対応し、目標ホイール圧は差圧制御弁51への指示差圧に対応する。したがって、取得部61は、第1タイミングにおける第1指示差圧と第1実減速度と、第2タイミングにおける第2指示差圧と第2実減速度とを取得する。設定部62は、前輪Wf側の補正値として、第1実減速度と第2実減速度との差を演算する。つまり、設定部62は、前輪Wf側の補正値として、すり替え制御前後における減速度変動を演算する。設定部62は、この補正値に所定係数(割合)を乗算して実補正値を演算する。設定部62は、ブレーキ操作終了後に、差圧制御弁51のIP特性に対して、指示差圧の変化量と実補正値とに基づいて傾きを補正する。なお、目標減速度(例えばストローク)が一定であるため、補正値の演算に目標減速度を用いなくても良く、この場合、取得部61は、各タイミングにおける目標減速度を取得する必要はない。
続いて、前輪Wf同様、後輪Wrでのすり替え制御が実行されると、回生制動力が低下するとともに、後輪Wrの目標ホイール圧(後輪Wrの目標液圧制動力)が上昇する。つまり、下流側ECU6Aは、アクチュエータ5(第2配管系統50b)に加圧制御を実行させ、設定されている差圧制御弁91のIP特性と後輪Wrの目標ホイール圧に基づいて差圧制御弁91に電流を供給し、モータ90及びポンプ57を駆動させる。
取得部61は、前輪Wf同様、後輪Wrについて、すり替え制御開始前のタイミング(ここではt2とする)とすり替え制御終了後のタイミングt3における、目標液圧制動力と実減速度とを取得する。設定部62は、後輪Wr側の補正値として、第2実減速度と第3実減速度(タイミングt3における実減速度)との差、すなわちすり替え制御前後の減速度変動を演算する。設定部62は、この補正値から実補正値を演算し、ブレーキ操作終了後に、差圧制御弁91のIP特性に対して、指示差圧の変化量と実補正値とに基づいて傾きを補正する。例えば、図5に示すように、実補正値を用いた複数回の補正の後には、減速度変動が0に近い状態とすることができる。
本実施形態の特性設定制御によれば、差圧制御弁51、91のIP特性が精度良く補正され、次回以降のすり替え制御における減速度変動は抑制される。つまり、本実施形態の課題(目的)は、IP特性を補正し、すり替え制御時の運転者の意図しない減速度変動を抑制することともいえる。また、実際の減速度変動(実減速度の差分)を検出することで、不特定のタイミングにおいてIP特性と実際のIP特性とにずれがある場合でも、全体として減速度変動をなくすようにIP特性を補正することができる。
また、実補正値を用いてIP特性を徐々に補正することで、誤補正によるハンチングの発生を抑制することができ、より精度良くIP特性の補正及び減速度変動の抑制を実現することができる。なお、減速度変動が閾値以上である場合、設定部62は、実補正値の演算における所定割合(所定係数)の値を大きくする。すなわち、設定部62は、減速度変動が大きいほど、所定割合の値を大きく設定するといえる(所定割合≦100%)。大きな減速度変動に対して大きく補正することで、より早い段階で(次回から)、減速度変動を抑制すること(実際のIP特性に近づけること)ができる。
また、本実施形態の特性設定制御は、図4の例のように、目標液圧制動力が0である際(前後輪ともに目標ホイール圧が0である際)に行われるすり替え制御に対して実行される。これは、目標液圧制動力が0である際のすり替え制御では、目標液圧制動力が0でない際のすり替え制御よりも、減速度変動が起きやすいためである。つまり、この際にIP特性のずれ等による減速度変動が起きやすく、この際に特性設定制御を実行することが特に効果的である。したがって、本実施形態では、目標液圧制動力が所定値以下(ここでは所定値=0)である際に行われるすり替え制御に対してのみ特性設定制御が実行される。このように、設定部62は、目標液圧制動力が所定値以下である際に行われるすり替え制御において取得部61により取得された取得情報に基づいて、各差圧制御弁51、91のIP特性を設定する。
また、本実施形態の特性設定制御は、所定の特定状況では実行されないように設定されている。つまり、設定部62は、所定の特定状況において取得部61により取得された取得情報を除いた取得情報に基づいて、各差圧制御弁51、91のIP特性を設定する。特定状況は、ブレーキ操作部材のストロークの変化勾配(単位時間当たりのストローク変化量)が規定値以上である状況、舵角が所定角度以上である状況、アクチュエータ5でアンチスキッド制御(その他、横滑り防止制御等の特性制御)が実行されている状況、悪路走行中と判定されている状況、及び所定勾配以上の坂路を走行中と判定されている状況の少なくとも1つを含むように(本実施形態ではすべて含むように)設定されている。
上記の特性状況は、いずれもブレーキ操作以外の原因により減速度変動が生じる状況である。特定状況以外で特性設定制御を実行することで、誤補正が抑制され、より精度良くIP特性を設定することができる。各ECU6、6Aは、ストロークセンサ71の検出値に基づいてストロークの変化勾配を算出することができ、舵角センサ79の検出値に基づいて舵角情報を取得することができる。また、各ECU6、6Aは、加速度情報等に基づいて、公知の方法により悪路や坂路を判定することができる。
また、目標減速度が一定でなく且つストロークの変化勾配が所定値未満である場合(目標減速度が所定変動範囲内である場合)も、設定部62が、補正値として、第1タイミングでの差分値(目標減速度−実減速度)から第2タイミングでの差分値(目標減速度−実減速度)を引いた値を演算することで、上記同様の効果が発揮される。
また、本実施形態の取得部61は、所定タイミングにおける目標液圧制動力と実減速度を、所定タイミングにおける目標液圧制動力と所定タイミングから所定時間後の実減速度とを取得することで取得する。図4の例によれば、取得部61は、前輪Wf側のすり替え制御に対する第2タイミングt2での取得情報として、第2タイミングt2における目標液圧制動力(指示差圧)と、第2タイミングt2から所定時間後の実減速度とを取得する。所定時間は、ノイズ除去処理等による加速度センサ78からの情報伝達遅れや、差圧制御弁51、91への電流供給から液圧が応答するまでの液圧応答遅れに基づいて設定されている。
情報伝達遅れや液圧応答遅れなどにより、指示差圧に応じた電流を差圧制御弁51、91に供給した時点と、加速度センサ78がその結果を検出する時点との間にずれが生じる。したがって、例えば、回生制動力が0又は一定の状態において、目標減速度の上昇に応じて指示差圧を上昇させても、実減速度が上昇するまでにはタイムラグがある。しかし、この構成によれば、目標液圧制動力を取得した時点から所定時間後の実減速度を取得することで、取得される制御目標(指示差圧)と制御結果(実減速度)との対応関係がより実際の対応関係に近づき、IP特性の補正精度も向上する。なお、図4及び図5の実減速度は、説明上、これらの遅れを排除して表されている。また、図4及び図5において回生制動力の記載は省略されている。回生制動力は、前輪すり替え制御開始前では一定の目標減速度に合わせて一定であり、前輪すり替え制御開始後では後輪すり替え制御終了時点で0になるように徐々に低下している。
また、下流側ECU6Aは、所定の補正値である特定補正値又は特定補正値に基づく値を記憶する記憶部64を備えている。特定補正値は、ブレーキパッドZ1の温度に相関する温度相関値が所定範囲内の値である状況において取得部61により取得された取得情報に基づいて設定部62により演算された補正値である。記憶部64は、不揮発性メモリで構成されている。下流側ECU6Aは、温度相関値として、例えば継続制動時間及び制動力等の情報からブレーキパッドZ1の温度を推定する。記憶部64は、当該推定温度が常温域(例えば数十℃〜数十℃)内の値である状況における取得情報に基づいて演算された補正値を、特定補正値とし、当該特定補正値又は特定補正値の実補正値を記憶する。
記憶部64に、例えば複数の特定補正値又はその実補正値が記憶されることで、パッド特性(ブレーキパッドZ1の温度と効きの関係)に基づく実減速度の変動要素を極力排除した補正値の傾向を学習することができる。記憶部64に1以上の特定補正値又は特定補正値に基づく値(ここでは実補正値)が記憶されることで、次回の下流側ECU6A起動時に、当該特定補正値又は特定補正値に基づく値をIP特性に反映させることができる。なお、記憶部64は、ブレーキパッドZ1の温度相関値にかかわらず、補正値又は補正値に基づく値(以下「補正値等」ともいう)を記憶するように構成されても良い。また、例えば、記憶部64は、ブレーキパッドZ1の温度相関値毎に分類して、補正値等を記憶しても良い。換言すると、記憶部64は、温度相関値とそれに対応する補正値等とをセットで記憶しても良い。これにより、例えば、ブレーキパッドZ1の温度と補正値等との関係や、温度とブレーキパッドZ1の効きに関する数値(係数)との関係を設定(学習)することができる。
(第1変形態様)
設定部62は、「所望の目標減速度と車両の実減速度との関係」として、差圧制御弁51、91のIP特性以外の別の特性又は数値を補正・設定しても良い。例えば、設定部62は、取得部61か取得した取得情報に基づいて、差圧制御弁51、91のIP特性の補正・設定に代えて、目標液圧制動力とアクチュエータ5への指示値(指示圧)との関係(以下「PP特性」という)、又はブレーキパッドZ1の効きに関する数値(以下「パッド係数」という)を設定するように構成されても良い。つまり、上記本実施形態の説明において、「差圧制御弁のIP特性」を、「PP特性」又は「パッド係数」に置き換えることができる。PP特性を補正・設定することで、結果として差圧制御弁51、91への指示差圧(供給電流)が変更され、上記同様の効果が発揮される。
また、パッド係数は、液圧制動力の演算に用いられる数値であって、液圧制動力は、例えばホイール圧に基づき演算される一次液圧制動力にパッド係数を乗算することで演算される。したがって、同じ目標液圧制動力であっても、互いにパッド係数が異なると、演算される一次液圧制動力の目標値も異なり、結果としてアクチュエータ5及び差圧制御弁51、91への制御も異なる。つまり、前輪Wf及び/又は後輪Wrのパッド係数を補正・設定することで、上記同様の効果が発揮される。本実施形態によれば、結果としてブレーキパッドZ1のバラツキも補正することができる。
このように、本実施形態によれば、すり替え制御時の減速度変動に基づいて液圧補正(IP特性補正、PP特性補正、又はパッド係数補正)が実行され、その結果、ホイール圧センサがなくても、特性又は数値が精度良く設定され、すり替え制御時の減速度変動が抑制される。本実施形態によれば、液圧制動力を発生させる装置に対する制御目標とその制御結果とのずれを精度良く抑制することができる。
(第2変形態様)
本実施形態の特性設定制御は、車両の駆動方式に応じて実行される。例えば、4輪駆動の車両において、一般にすり替え制御は前後輪同時に実行されるが、特性設定制御を実行するにあたり、前後輪独立してすり替え制御が実行されても良い。つまり、4輪駆動の車両において、下流側ECU6A(及びハイブリッドECU81)は、すり替え制御時の減速度変動が補正により所定の許容範囲内に抑制されるまで、前後輪で別々に(順に)すり替え制御を実行する(図4参照)。これにより、精度良く特性又は数値を設定することができる。また、この場合、車両挙動の安定性の観点から、すり替え制御は、前輪Wfが先に(後輪Wrが後に)実行されることが好ましい。
また、後輪駆動、前輪駆動、又は4輪駆動の車両において、前後輪同時にすり替え制御を実行する場合、前輪Wfのみを特性設定制御の実行対象(補正対象)とすることが好ましい。減速度への影響については、前輪Wfの影響度が後輪Wrの影響度よりも大きいため、前輪Wfのみの補正によっても比較的有効な補正となる。また、この場合、後輪Wr側のずれを考慮し、アクチュエータ5の制御に不感帯を設けても良い。
(その他)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、設定部62は、少なくとも2つのタイミングにおける目標液圧制動力(供給電流)と実減速度とに基づいて、供給電流の単位電流変化に対する実減速度の変化(すなわち変化勾配:傾き)を演算し、演算された変化勾配に基づいて、IP特性、PP特性、又はパッド係数を設定しても良い。2つ以上の取得情報から変化勾配を演算し、例えば、対応するIP特性の傾きを当該変化勾配に近づけることで、特性又は係数を精度良く設定することができる。この制御は、回生制動装置8がない車両であっても実行可能である。
また、取得部61は、目標減速度を維持しつつ、アクチュエータ5による液圧制動力と回生制動装置8による回生制動力との割合を変化させて、少なくとも2つのタイミングにおける目標液圧制動力と実減速度とを取得しても良い。換言すると、取得部61は、目標減速度を一定に保ち且つ液圧制動力と回生制動力との割合を変化させる割合変化制御を実行している期間(割合変化制御の直前及び直後を含む)に、少なくとも2つのタイミングを設定しても良い。例えば取得部61は、目標液圧制動力の変動前(目標液圧制動力が一定)と変動後(目標液圧制動力が一定)とのタイミングで取得情報を取得しても良い。図4のすり替え制御は、割合変化制御の1つもといえる。
この構成において、IP特性等を設定する場合、1つの観点として、取得する2つのタイミングにおける目標液圧制動力の差が大きいほど、その設定精度が向上すると考えられる。一方で、液圧制動力及び回生制動力以外のノイズ成分(外乱等)が車両の減速度に影響することが懸念される。このノイズ成分の影響度が2つのタイミングで大きく異なると、上記設定精度の低下につながるため、ノイズ成分が少ない時期での取得情報の取得、又は2つのタイミングの時間差が小さいことが好ましい。そこで、上記の割合変化制御によれば、車両挙動に影響を及ぼすことなく僅かな時間で目標液圧制動力を大きく変化させることも可能となり、そうすることでIP特性等の設定精度を向上させることができる。なお、本発明は、自動運転や自動ブレーキの機能を有する車両に対しても適用できる。