以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
<アルミニウム箔積層体の構成>
図1および図2に示されるように、アルミニウム箔積層体1は、アルミニウム箔2および保護層3を備える。
アルミニウム箔2において、予め定められた表面積の領域内に存在する晶出物の総表面積が、当該領域の表面積に対して2%以下である。上記晶出物の1個当たりの平均表面積が2μm2以下である。上記領域の表面粗さRaが20nm未満である。
予め定められた表面積の領域とは、アルミニウム箔の表面全体であってもよく、また一部であってもよい。ここで、アルミニウム箔の表面とは、アルミニウム箔の外観において目視、顕微鏡等によって確認され得る表面をいう。よって、予め定められた表面積の領域とは、例えば顕微鏡などで観察したときの観察視野における領域である。つまり、晶出物に関する上記パラメータおよび表面粗さRa,RzJISは、アルミニウム箔の表面を顕微鏡などで観察したときに、それぞれ予め定められた表面積の観察視野内で測定される。晶出物の総表面積および平均表面積は、例えば光学顕微鏡の予め定められた観察視野内で観察、測定される。表面粗さRa,RzJISは、例えば原子間力顕微鏡の予め定められた観察視野内で測定される。予め定められた表面積の領域は、晶出物の総表面積および平均表面積を測定する際の観察視野、および表面粗さRa,RzJISを測定する際の観察視野のそれぞれを含む領域である。
図1に示されるように、アルミニウム箔2は、表面のうち最も表面積が大きい第1主面2Aおよび第2主面2Bを有している。図3は、後述するアルミニウム箔の製造方法において表面洗浄前の冷延材21(図6参照)の表面21A(表面洗浄後にアルミニウム箔2の第1主面2Aとなるべき表面)の平面図である。図3に示されるように、予め定められた領域Eは、例えば第1主面2Aの一部領域である。領域Eの平面形状は、任意の形状であればよいが例えば矩形状である。領域Eは、晶出物の総表面積および平均表面積を測定する際の観察視野内の観察領域Gと、表面粗さRa,RzJISを測定する際の観察視野内の観察領域Hとを含んでいる。観察領域G,Hの各々は、面積および領域Eでの位置が任意に選択され得る。各観察領域G,Hは、少なくとも一部が互いに重なっていてもよいし、重なっていなくてもよい。
晶出物とは、例えば、Al‐鉄(Fe)系、Al‐Fe‐マンガン(Mn)系、Al‐Mg‐珪素(Si)系、Al‐Mn系等の種々の金属間化合物をいう。図4に示されるように、晶出物Dの総表面積とは、観察領域Gを有する面(例えば第1主面2A)に対して成す角度が90°±2°の方向(略垂直な方向)から観察領域Gを見たときに確認される晶出物Dの当該方向に垂直な平面への投影面積S1の総和である。上記晶出物の1個当たりの平均表面積とは、晶出物Dの上記総表面積を、観察領域G内に存在する晶出物Dの個数で除したものである。
アルミニウム箔2の表面粗さRaはJIS B0601(2001年版)およびISO4287(1997年版)で定義されている算術平均粗さRaを、面に対して適用できるように三次元に拡張して算出された値である。
アルミニウム箔は、その製造方法において冷間圧延されている。そのため、アルミニウム箔の表面(第1主面2Aおよび第2主面2B)には、圧延方向X(図1参照)に沿って延びる圧延ロールの転写筋(図示しない)が形成されている。アルミニウム箔の表面には、転写筋に起因した凹凸が形成されている。一定以上の大きさの転写筋からなるアルミニウム箔の表面の凹凸は、紫外線の反射角度に異方性をもたらし、反射光の乱反射を引き起こす。そのため、アルミニウム箔において一定以上の大きさの転写筋が形成されている部分は、紫外線に対する反射率が低い。このような圧延ロールの転写筋に起因する凹凸は、圧延方向Xに対して垂直な方向Y、すなわちTD方向の表面粗さRzJISの値として評価することができる。
アルミニウム箔2は、上記領域Eにおいて、圧延方向Xと垂直な方向Y(図1参照)の表面粗さRzJISが100nm以下であるのが好ましい。より好ましくは、領域EのRzJISは80nm以下である。なお、垂直な方向Yの表面粗さRzJISは、垂直な方向Yに沿った断面における2次元でのRzJIS値をJIS B0601(2001年版)に基づいた評価方法で測定される値である。なお、上記の表面粗さRaとRzJISを得る方法としては、物理的な研磨、電解研磨、化学研磨等の研磨加工、あるいは、表面が鏡面状態である圧延ロールを用いた冷間圧延、等がある。表面が鏡面状態である圧延ロールを用いた冷間圧延については後述する。
アルミニウム箔2の厚みT(図1参照)は4μm以上300μm以下であることが好ましい。アルミニウム箔の厚みが4μm未満であると、アルミニウム箔として機械的強度を維持することができず、製造時のハンドリング等によってアルミニウム箔の表面にシワが生じる。アルミニウム箔の厚みが300μmを超えると、アルミニウム箔の重量が増大するだけでなく、成形等の加工に制限が加えられるので好ましくない。さらに好ましくは、アルミニウム箔2の厚みは6μm以上250μm以下である。アルミニウム箔の厚みを上記範囲にするためには、一般的なアルミニウム箔の製造方法に従って鋳造と圧延を行えばよい。
このようなアルミニウム箔2単体では、波長域254nm以上265nm以下の深紫外線の全反射率が80%以上である。アルミニウム箔2は、従来のアルミニウム箔と比べて、波長域254nm以上265nm以下の深紫外線に対し高い反射率を有している。
晶出物の表面に入射された深紫外線の反射率は、アルミニウム自体の表面に入射された深紫外線の反射率よりも低い。そのため、アルミニウム箔において予め定められた表面積の領域に存在する晶出物の総表面積が当該領域の表面積に対して2%を超えるほどに晶出物がアルミニウム箔の表面に存在していると、アルミニウム箔の深紫外線に対する反射率は低下してしまう。晶出物の1個当たりの平均表面積が2μm2を超えるほどに大きいと、アルミニウム箔の表面内における深紫外線に対する反射率のムラが大きくなる。
さらに、アルミニウム箔の表面に存在する晶出物は、アルミニウム箔の表面に凹凸を生じさせる。特に、最終仕上げ冷間圧延される被圧延材(冷延材)の表面に晶出物が存在する場合、晶出物はアルミニウムの素地よりも硬いため、アルミニウムが優先的に塑性変形を起こす。晶出物は、塑性変形しているアルミニウム箔の表面の上を転がり、一部の晶出物はアルミニウム箔の表面から欠落してアルミニウム箔の表面に凹凸を生じさせる。このため、晶出物の総表面積が上記表面積に対して2%を超えるほどに晶出物がアルミニウム箔の表面に存在していると、アルミニウム箔の表面に凹凸を生じさせる度合いが大きくなる。さらに、晶出物の1個当たりの平均表面積が2μm2を超えるほどに大きいと、晶出物がアルミニウム箔の表面から欠落したときに形成される凹部は大きくなる。これらの結果、アルミニウム箔の表面に入射した深紫外線が、アルミニウム箔の表面に形成された凹凸部において乱反射するので、反射率が低下する。
これに対し、アルミニウム箔2によれば、予め定められた表面積の領域内に存在する晶出物の総表面積は、当該領域の表面積に対して2%以下である。このため、アルミニウム箔2は深紫外線に対して高い反射率を有している。さらに、アルミニウム箔2は、上記領域内に存在する晶出物の1個当たりの平均表面積が2μm2以下である。そのため、アルミニウム箔2は、深紫外線に対する反射率のムラが抑制されている。
表面粗さRaが20nm以上であると、表面の凹凸によりアルミニウム箔の深紫外線に対する反射率が低下してしまう。自然法則に基づくと、入射した深紫外線がある表面で反射する際、その表面に凹凸があれば、入射した箇所によって反射する角度は変化する。場合によってはある凹凸部で反射した光は、たとえば、その凹凸部の隣に存在する凹凸部にさらに当たり(入射し)、複数回反射を起こす可能性が生まれる。1回の反射において反射光は減衰することは知られているが、複数回反射すると、その光はその分だけ全反射率が低下する。
これに対し、予め定められた表面積の領域の表面粗さRaが20nm未満であることによって、アルミニウム箔の表面の凹凸が低減するので、アルミニウム箔の表面の凹凸部で反射した深紫外線が別の凹凸部に再び当たって反射光が減衰することを抑えることができる。さらに、アルミニウム箔2は、方向Y(図1参照)の表面粗さRzJISが100nm以下であることが好ましい。これにより、アルミニウム箔の表面の凹凸がさらに低減するので、アルミニウム箔の表面の凹凸部で反射した深紫外線が別の凹凸部に再び当たって反射光が減衰することをより抑えることができる。
保護層3は、アルミニウム箔2の上記領域上に形成されている。保護層3は、耐水性を有しており、かつ上記のようなアルミニウム箔2自体の深紫外線に対する反射特性を損なわない。保護層3を構成する材料は、耐水性を有しており、かつ上記のようなアルミニウム箔2自体の深紫外線に対する反射特性を損なわない任意の材料であればよいが、例えばシリコーン組成物を含む。
保護層3を構成する材料がシリコーン組成物を含むため、該保護層3は、耐水性を有しており、かつ上記のようなアルミニウム箔2自体の深紫外線に対する反射特性を損なわない。該保護層3を備えるアルミニウム箔積層体1は、水道水に浸漬された後にも、波長域254nm以上265nm以下の深紫外線に対する全反射率が75%以上に維持され得る。さらに、保護層3を構成する材料がシリコーン組成物を含むため、該保護層3は、耐熱性を有している。
ここで、シリコーン組成物とは、珪素(Si)および酸素(O)を含む材料をいう。シリコーン組成物は、結晶質であってもよいが、非晶質であるのが好ましい。保護層を構成する材料が非晶質のシリコーン組成物であれば、アルミニウム箔2自体の高い曲げ加工性を損なうことがないため、保護層にクラック等を発生させることなくアルミニウム箔積層体1を曲げ加工することができる。好ましくは、保護層3を構成する材料に含まれる樹脂等の有機物は、総量の半数以下に抑えられている。好ましくは、保護層3を構成する材料には樹脂等の有機物が含まれない。樹脂等の有機物は、深紫外線が照射されると分解される。そのため、保護層3に含まれる有機物が総量の半数超えであると、保護層3は深紫外線を照射され続けたときに顕著に継時劣化する。これに対し保護層3に含まれる有機物が総量の半数以下であれば、保護層3は深紫外線を照射され続けたときに顕著に継時劣化しない。好ましくは、保護層3を構成する材料に含まれるシリコーン組成物は、総量の半数以上である。好ましくは、保護層3は透明である。
保護層3を構成する材料がシリコーン組成物を含む場合、保護層3の厚みは53nm以上89nm以下である。保護層3を構成する材料がシリコーン組成物を含む場合、保護層3の厚みが53nm未満または89nm超えであると、アルミニウム箔積層体1の深紫外線に対する反射率が低下する。アルミニウム箔積層体1に照射された深紫外線は、その一部が保護層3の表面で反射され、他の一部が保護層3を透過してアルミニウム箔2の表面で反射される。2つの反射光は、屈折の原理により、保護層3の屈折率および厚みに応じて干渉する。保護層3の厚みが88nmより厚いと、上記干渉作用によりアルミニウム箔積層体1の深紫外線に対する反射率は、アルミニウム箔2の深紫外線に対する反射率よりも大きく低下する。また、保護層3の厚みが53nmより薄いと、上記干渉作用によりアルミニウム箔積層体1の深紫外線に対する反射率が、アルミニウム箔2の深紫外線に対する反射率よりも大きく低下する。さらに、保護層3の厚みが薄いほど、保護層3にはいわゆるピンホールなどの欠陥が多数形成されやすく、保護層3の耐水性が低下する。
保護層3の厚みが53nm以上89nm以下であれば、保護層3にはピンホールなどの欠陥が多数形成されておらず、保護層3を備えるアルミニウム箔積層体1は高い耐水性を有している。さらに、シリコーン組成物を含む保護層3の厚みが53nm以上89nm以下であれば、アルミニウム箔積層体1の反射率が上記干渉作用によってアルミニウム箔2単体の反射率と比べて大きく低下することを抑制し得る。好ましくは、保護層3の厚みは60nm以上80nm以下である。より好ましくは保護層3の厚みは60nm以上75nm以下である。
保護層3の表面粗さRaは10nm以下である。上述のように、自然法則に基づくと、入射した深紫外線がある表面で反射する際、その表面に凹凸部があれば該表面での全反射率が低下する。保護層3の表面粗さRaが10nmを超えると、アルミニウム箔積層体1の深紫外線に対する反射率が、アルミニウム箔2の深紫外線に対する反射率よりも大きく低下する。そのため、表面粗さRaが10nmを超えた保護層は、アルミニウム箔2の深紫外線に対する反射特性を損なう。保護層3の表面の表面粗さRaが10nm以下であれば、保護層3の表面の凹凸部で反射した深紫外線が該表面上の別の凹凸部に当たって減衰することを抑制できる。
本発明者らは、上記アルミニウム箔積層体1の波長域254nm以上265nm以下の深紫外線に対する全反射率が、水道水に浸漬された後にも75%以上であることを確認した。また、本発明者らは、厚みおよび表面粗さの少なくともいずれかが上記数値範囲外である保護層を備えるアルミニウム箔積層体では、水道水に浸漬されたか否かにかかわらず、波長域254nm以上265nm以下の深紫外線の全反射率が75%未満となり得ることを確認した。
さらに、本発明者らは、上記アルミニウム箔積層体1の波長域254nm以上265nm以下の深紫外線に対する全反射率が、300℃に加熱された後にも75%以上であることを確認した。詳細は後述する。
<アルミニウム積層体の製造方法>
次に、本実施の形態に係るアルミニウム積層体の製造方法の一例について説明する。図5に示されるように、本実施の形態に係るアルミニウム箔の製造方法は、鋳塊を準備する工程(S10)、鋳塊に均質化処理を行う工程(S20)、鋳塊を熱間圧延する工程(S30)、熱間圧延により得られた熱延材を冷間圧延する工程(S40)、冷間圧延により得られた冷延材を最終仕上げとして冷間圧延(以下、最終仕上げ冷間圧延という)してアルミニウム箔を形成する工程(S50)と、アルミニウム箔の表面上に保護層を形成する工程(S60)とを備える。
まず、鋳塊を準備する(工程(S10))。具体的には、所定の組成のアルミニウムの溶湯を調製し、アルミニウムの溶湯を凝固させることにより鋳塊を鋳造(例えば半連続鋳造)する。溶湯中のFe、Mn、Siなどの金属元素の含有量は、アルミニウム箔において予め定められた表面積の領域内に存在する晶出物の総表面積が、当該領域の表面積に対して2%以下となり、かつ晶出物の1個当たりの平均表面積が2μm2以下となるように制御されている。
次に、得られた鋳塊に均質化熱処理を行う(工程(S20))。均質化熱処理は、たとえば加熱温度を400℃以上630℃以下、加熱時間を1時間以上20時間以下とする条件で行われる。
次に、鋳塊を熱間圧延する(工程(S30))。本工程により、所定の厚みW1を有する熱延材が得られる。熱間圧延は、1回または複数回行われてもよい。なお、連続鋳造によって薄板のアルミニウム鋳塊を製造する場合には、当該薄板状の鋳塊は本工程を介さずに冷間圧延されてもよい。
次に、熱間圧延により得られた熱延材を冷間圧延する(工程(S40))。本工程により、所定の厚みW2を有する冷延材(最終仕上げ冷間圧延工程(S50)における被圧延材)が得られる。本工程において、冷間圧延はたとえば中間焼鈍工程を挟んで複数回行われる。たとえば、まず熱延材に対し第1冷間圧延工程(S40A)を実施して熱延材の厚みW1よりも薄く冷延材の厚みW2よりも厚い圧延材を形成する。次に、得られた圧延材に対し中間焼鈍工程(S40B)を施す。中間焼鈍は、例えば焼鈍温度を50℃以上500℃以下、焼鈍時間を1秒以上20時間以下とする条件で行われる。次に、焼鈍後の圧延材に対し第2冷間圧延工程(S40C)を実施して厚みW2の冷延材を形成する。
次に、図6に示されるように、冷延材(被圧延材20)を最終仕上げ冷間圧延する(工程(S50))。本工程では、圧延ロール101,102を用いて圧下率が25%以上の条件で被圧延材20を最終仕上げ冷間圧延する。圧延ロール101,102は被圧延材と接触して圧延するロール面を有している。被圧延材20を挟んで配置される一対の圧延ロール101,102のうち、少なくとも一方の圧延ロール101のロール面の表面粗さRaが40nm以下である。
最終仕上げ冷間圧延に使用する圧延油の種類は特に限定されないが、圧延油の粘度は低い方が好ましい。圧延油の粘度は、油温度が37.8℃(100°F)の時に1.7cSt以上3.5cSt以下であることが好ましく、より好ましくは2.0cSt以上3.0cSt以下である。
このようにして、図1に示される本実施の形態に係るアルミニウム箔2を得ることができる。アルミニウム箔2の上記領域Eは、最終仕上げ冷間圧延工程(S50)において表面粗さRaが40nm以下である圧延ロールにより圧延されることにより形成された面(例えば第1主面2A)上の領域である。すなわち、上記領域Eは、アルミニウム箔2の第1主面2A上にのみ形成される場合に限られるものでは無く、第2主面2B上にのみ形成されていてもよいし、第1主面2Aおよび第2主面2Bの両面上に形成されていてもよい。
次に、アルミニウム箔2の上記領域E上に保護層3を形成する(工程(S60))。保護層3は、任意の方法により形成され得る。保護層3は、例えばイオンプラズマ処理、イオンプレーティング処理、スパッタリング処理、蒸着処理、陽極酸化処理などにより形成されていてもよい。ただし、これらの処理によって53nm以上89nm以下の厚みの保護層3を形成した場合、該保護層3は多くの表面欠陥を含み得る。そのような保護層3を備えるアルミニウム箔積層体1は、十分な耐水性を有していない場合がある。そのため、保護層3は、例えばゾルゲル法を用いた塗工により形成されるのが好ましい。ゾルゲル法を用いた塗工によれば、53nm以上89nm以下の厚みを有し、かつ表面欠陥の少ない保護層3を形成し得る。
上記のような塗工に用いられる塗工剤は、シリコーン組成物を含んでいる。一例としての塗工剤は、非晶質珪素酸化物の1種であるエポキシ基を有するオルガノポリシロキサンを含有する主剤と、アルミ基を有するオルガノシランオリゴマーを含有する硬化剤とを混合したものであってもよい。このような塗工剤により形成された保護層3を備えるアルミニウム箔積層体1は、水道水に浸漬されても劣化が抑制されており、また高温環境下にも耐え得る。上記塗工剤の主剤にはシリコーン樹脂等が添加されていてもよい。また、上記塗工剤の硬化剤には、合成雲母、ガラス繊維、ガラス繊維粉、強化ガラス微粉、グラファイト粉、石英粉、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも1つが添加されていてもよい。なお、塗工剤における主剤と硬化剤との割合は特に限定されないが、主剤のエポキシ基当量と硬化剤の活性水素当量との比が1.4以上1.8以下であるのが好ましい。
他の例としての塗工剤は、重量平均分子量が500以上5,000以下のオルガノポリシロキサンと、水と、親水性有機溶媒と、親水性有機溶媒に分散されたコロイド状シリカと、アミン系シランカップリング剤とを含む。このような塗工剤により形成された保護層3を備えるアルミニウム箔積層体1は、水道水に浸漬されても劣化が抑制されており、また高温環境下にも耐え得る。
オルガノポリシロキサンは、一般式RSi(OR´)3で表されるオルガノアルコキシシランを加水分解および重縮合して得られるものであり、結合剤として作用する。コロイド状シリカは、高純度の無水ケイ酸を親水性有機溶媒に分散させた分散液のものを用いることができる。無水ケイ酸の平均粒径は5μm以上30μm以下であり、無水ケイ酸の固形分濃度は10重量%以上40重量%以下であるのが好ましい。親水性有機溶媒としては、アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、およびテトラヒドロフランなどからなる群から選択される少なくとも1つを用いることができる。アミン系シランカップリング剤としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される1種以上のシランカップリング剤を用いることができる。塗工剤におけるオルガノポリシロキサンと、水と、コロイド状シリカと、親水性有機溶媒と、アミン系シランカップリング剤との割合は特に限定されない。例えば、オルガノポリシロキサンの原料となるオルガノアルコキシシランを100重量部とすると、水を5重量部以上55重量部以下、コロイド状シリカを固形分換算で5重量部以上50重量部以下、親水性有機溶媒を15重量部以上500重量部以下、アミン系シランカップリング剤を0.3重量部以上100重量部以下であると好ましい。
本実施の形態に係るアルミニウム箔の製造方法の最終仕上げ冷間圧延工程において、表面粗さRaが40nm以下である圧延ロールを用いる理由は以下のとおりである。最終仕上げ冷間圧延工程で使用する圧延ロールの表面粗さは、最終仕上げ冷間圧延工程後に得られるアルミニウム箔の表面粗さに大きく影響する。表面粗さRaが40nmより大きい圧延ロールを用いてアルミニウム箔を圧延すると、得られたアルミニウム箔は圧延方向Xに対して垂直な方向Yの表面粗さRzJISが100nmよりも大きくなり、表面粗さRaも20nm以上となってしまう。最終仕上げ冷間圧延工程で使用する圧延ロールの表面粗さRaは、できるだけ小さいことが好ましく、より好ましくは30nm以下である。
最終仕上げ冷間圧延工程における圧下率が25%以上である理由は以下のとおりである。一般的に圧下率が低くなると、圧延ロールと被圧延材との間に噛み込まれる圧延油膜量が増える傾向にある。そのため、低い圧下率で最終仕上げ冷間圧延を行った場合、被圧延材の表面に圧延油が押し込まれることにより、当該表面には深さ数十〜数百nmの複数のオイルピットが形成される。その結果、得られた冷延材の表面には、オイルピットに起因した凹凸が多数形成されている。特に、25%よりも小さい圧下率で圧延を行うと、得られるアルミニウム箔の表面粗さRaは、オイルピットによる凹凸に大きく影響され、20nm以上となってしまう。また、被圧延材の表面に形成されたオイルピットによる凹凸は、アルミニウム粒子(例えば図3および図4中において参照番号Cで示される)の発生要因となり得る。そのため、最終仕上げ冷間圧延工程における圧下率を25%以上とすれば、アルミニウム箔の表面粗さRaを抑えることができ、アルミニウム箔の表面の凹凸に起因した反射光の減衰を抑制することができる。さらに、最終仕上げ冷間圧延工程における圧下率を25%以上とすれば、アルミニウム粒子の発生を抑制することができ、アルミニウム粒子に起因した反射率の低下を抑制することができる。圧下率の上限値は、特に限定されないが、好ましくは60%である。60%以上の圧下率では圧延性が悪いだけでなく、圧延中のせん断力が高くなり、アルミニウム粒子の生成が多くなる。
最終仕上げ冷間圧延に使用する圧延油の粘度は低い方が好ましい理由は以下の通りである。圧延油粘度が低い程、圧延ロールとアルミニウム箔との間にかみこまれる圧延油の潤滑がより高くなり、最終仕上げ冷間圧延工程中にアルミニウム箔表面に圧延油が押し込まれてできるオイルピットが生成しにくくなる。そのため、本工程により得られた冷延材の表面粗さRaを低く抑え、かつアルミニウム粒子の発生を抑制することができる。特に、油温度が37.8℃(100°F)の時に粘度が1.7cSt以上3.5cSt以下である圧延油を最終仕上げ冷間圧延に用いることにより、得られた冷延材の表面粗さRaをより低く抑え、かつアルミニウム粒子の発生をより抑制することができる。さらに、油温度が37.8℃(100°F)の時に粘度が2.0cSt以上3.0cSt以下である圧延油を最終仕上げ冷間圧延に用いることにより、得られた冷延材の表面粗さRaをさらに低く抑え、かつアルミニウム粒子の発生をさらに抑制することができる。
<変形例>
図7に示されるように、本実施の形態に係るアルミニウム箔の製造方法は、最終仕上げ冷間圧延する工程(S50)の後であって保護層を形成する工程(S60)の前に、冷延材21(図6参照)を表面洗浄する工程(S70)をさらに備えていてもよい。本工程では、冷延材21の表面の少なくとも一部を酸性溶液またはアルカリ性溶液を用いて洗浄する。冷延材21において表面洗浄される表面は、最終仕上げ冷間圧延工程(S50)において表面粗さRaが40nm以下である圧延ロール101(図6参照)により延ばされた表面21A(図6参照)を含んでいる。酸性溶液は、例えば、フッ酸、リン酸、塩酸、および硫酸などの強酸性溶液から選択され得る。アルカリ性溶液は、例えば水酸化ナトリウムなどの強アルカリ性溶液から選択され得る。表面洗浄に関するその他条件は、適宜選択され得る。
この場合、アルミニウム箔2の上記領域Eは、最終仕上げ冷間圧延工程(S50)において表面粗さRaが40nm以下である圧延ロールにより圧延されることにより形成された面(例えば第1主面2A)上の領域であって、表面洗浄工程(S70)において表面洗浄されることにより形成された面(例えば第1主面2A)上の領域である。
図8に示されるように、アルミニウム箔積層体の製造方法は、最終仕上げ冷間圧延する工程(S50)の後であって保護層を形成する工程(S60)の前に、表面洗浄工程(S60)に代えて冷延材21(図6参照)の表面を電解研磨する工程(S70)を備えていてもよい。冷延材21において電解研磨される表面は、最終仕上げ冷間圧延工程(S50)において表面粗さRaが40nm以下である圧延ロール101(図6参照)により延ばされた表面21A(図6参照)を含んでいる。このようにして得られたアルミニウム箔積層体1では、アルミニウム箔2および保護層3の表面の平滑性が高められている。
また、図5に示されるアルミニウム箔の製造方法は、表面洗浄工程(S60)の後に、表面洗浄されたアルミニウム箔の表面を電解研磨する工程をさらに備えていてもよい。
また、アルミニウム箔の製造方法は、表面洗浄工程(S60)または電解研磨工程(S70)後に、アルミニウム箔を加熱する工程をさらに備えていてもよい。例えばアルミニウム箔に対し、加熱温度が250℃以上450℃以下程度であり、加熱時間が1〜30時間程度の熱処理を施してもよい。このようにすれば、紫外線に対し高い反射率を有し、かつ軟質のアルミニウム箔を製造することができる。
アルミニウム箔は、上述した予め定められた表面積の領域を有する表面の一部のみが紫外線反射材として使用され、アルミニウム箔の表面の残部が他の部品に固定されてもよい。
なお、上記のような保護層3は、例えばロールツーロールプロセスにより形成されてもよい。この場合、図9に示されるように、アルミニウム箔積層体1は、巻芯4にロール状に巻き付けられて、ロールツーロール用アルミニウム箔積層体5を構成していてもよい。
アルミニウム箔積層体1は、任意の形状に成型されていてもよい。アルミニウム箔積層体1の成型は、例えば張り出し成型や深絞り成型などで実施されていてもよいし、折り曲げたり湾曲させたりすることで目的に応じた形状に成型されていてもよい。また、アルミニウム箔2において保護層3が形成されていない面には、深紫外線殺菌装置等の他の部品に貼り付けるための接着層が形成されていてもよい。
アルミニウム箔積層体1には、上述した予め定められた表面積の領域を有する表面の一部に、配線パターンが形成されていてもよい。このような配線パターンは、例えば以下のように形成され得る。まず、アルミニウム箔2の表面の当該一部以外の残部上にエッチングマスクとしての第1マスクパターンが形成される。次に、アルミニウム箔2の表面の上記一部上にエッチングマスクとしての第2マスクパターンが形成される。第1および第2マスクパターンは例えばレジストなどの感光性材料が写真製版などされることにより形成される。次に、アルミニウム箔の表面の上記一部に対し、アルミニウムと第1および第2マスクパターンとのエッチング選択比が大きく設定されうる条件でエッチングが施される。さらに、アルミニウム箔2上に保護層3を形成することで、アルミニウム箔2と保護層3との間に配線パターンを有するアルミニウム箔積層体1を得ることができる。
上記で説明してきたように本実施の形態に係るアルミニウム箔は、文字通り「箔」であって、一般的に厚みが500μm程度以上となる「アルミニウム板」とは異なり以下のような種々のメリットを有する。すなわち、アルミニウム箔は、軽量化に特に優れるとともに成形加工が容易であり、またアルミニウム板では困難である湾曲物への貼り付け等の形状追従性やフレキシブル性を示すというメリットがある。また、廃棄物の減量につながる等、環境に対する負荷の面でもアルミニウム板に対するメリットを有する。
したがって、本実施の形態に係るアルミニウム箔は、上記のメリットを活かし、水や海水の殺菌、有機物の分解、紫外線治療、光触媒、樹脂硬化に使用される紫外線ランプの反射板用途に特に有利に適用され得る。
以下に説明するように本発明の実施例と比較例のアルミニウム箔の試料を作製した。
表1に示す組成A〜Cのアルミニウムを用いて、表2に示す製造工程に従って、表3に示す実施例1〜8と比較例1〜13のアルミニウム箔の試料を作製した。なお、表1において「その他元素計」とは、JISで規定される元素以外の不可避不純物元素(B、Bi、Pb、Naなど)の合計含有量を示す。
表2に示すように、製造工程は、DC(Direct Casting)鋳造によって得られたアルミニウムの鋳塊を加熱炉にて所定の温度と時間で均質化熱処理を行った。その後、厚みが約6.5mmになるまで熱間圧延を行った。得られた熱間圧延材を用いて複数回の冷間圧延を行い、冷間圧延の途中で所定の温度と時間で中間焼鈍を実施し、厚みが所定の値になるまで冷間圧延(最終仕上げ冷間圧延を含む)を行い、表3に示す厚みのアルミニウム箔の試料を作製した。
この際、実施例1〜8と比較例5〜13については、最終仕上げ冷間圧延において表面粗さRaが40nmの圧延ロールを使用し、25%の圧下率で圧延を行った。比較例1および2については、最終仕上げ冷間圧延において表面粗さRaが150nmの圧延ロールを使用し、35%の圧下率で圧延を行った。比較例3および4については、最終仕上げ冷間圧延において表面粗さRaが150nmの圧延ロールを使用し、2枚のアルミニウム箔を重ねた状態で35%の圧下率で圧延を行った。
なお、均質化熱処理時間は、一般的な処理時間内であればよく、表2に示す時間に限定されるものではない。中間焼鈍条件は、表2に示す温度と時間に限定されるものではなく、一般的な操業条件の範囲内であればよい。
最終仕上げ冷間圧延後、実施例1〜8、比較例1〜13について、液温35℃、1質量%の水酸化ナトリウム水溶液に20秒間浸漬させ、表面洗浄を行った。
得られた各試料について、光学顕微鏡にて表面状態を観察し、晶出物の表面積と1個当たりの平均表面積を測定した。また、各試料について表面凹凸を評価するために原子間力顕微鏡による観察に基づいて表面粗さRaの値を測定した。
上記表面洗浄後、実施例1〜8、比較例1〜12について、一方の面上に保護層を形成した。実施例1〜8、比較例1〜4,9〜12では、保護層を構成する材料を珪素酸化物(表3中Dで示す)とした。該珪素酸化物は、JSR株式会社製グラスカT2202AおよびT2202B、具体的にはT2202A30部に対しT2202Bを10部配合したものとした。比較例5では、保護層を構成する材料をフッ素樹脂(表3中Eで示す)とした。該フッ素樹脂は、日本ペイント株式会社製FPG−TA001とした。比較例6では、保護層を構成する材料をアクリル樹脂(表3中Fで示す)とした。該アクリル樹脂は、東洋インキ株式会社製LCH2100とした。比較例7および8では、保護層を構成する材料をアルミニウム酸化物(表3中Gで示す)とした。実施例1〜8、比較例1〜13の各保護層の厚みは、表3に示されるものとした。
実施例1〜8、比較例1〜6,9〜12について、保護層の形成は、上記各材料をスピンコータ(ミカサ株式会社製SpinCoraterMS−A150)を用いて塗布することにより行った。具体的には、まず上記各材料に対して、固形分濃度が10%以下になるように溶剤で希釈したコーティング剤(塗工剤)を準備した。次に、上記スピンコータを用いて、各試料の一方の面上に各コーティング剤を塗布した。回転速度は500rpm以上7000rpm以下、回転時間は10秒間とした。塗布後、各試料を180℃で1分間焼成させた。これにより、実施例1〜8、比較例1〜6,9〜12が準備された。
比較例7および8について、保護層の形成は、比較例7および8のアルミニウム箔に対する硫酸浴中での陽極酸化処理と、陽極酸化処理後に得られたアルミニウム酸化物層に対する封孔処理により行った。なお、比較例13は、保護層を形成せずにアルミニウム箔のみとした。
得られた実施例1〜8および比較例1〜12の各試料について、保護層の表面凹凸を評価するために原子間力顕微鏡による観察に基づいて表面粗さRaを測定した。さらに、各試料について、保護層の厚み、および保護層の抜け数(ピンホール数)を測定した。
さらに、実施例1〜8および比較例1〜13の各試料について、水道水への浸漬前および炉加熱前の反射特性を評価するために深紫外線の全反射率(初期値)を測定した。測定後、実施例1〜8および比較例1〜13の各試料を、遊離塩素濃度が0.3mg/L以上0.6mg/L以下であって温度が15℃以上25℃以下である水道水の流水流に14日間浸漬させた。この後、各試料を水道水から引き挙げてその表面の水分を拭き取った後、再度浸漬前と同様の条件で深紫外線領域の全反射率の測定を行った。
また、上記初期値の測定後、水道水に浸漬されたものとは異なる実施例1〜8および比較例1〜13の各試料を炉内温度が300℃に設定された箱型炉に1時間放置した後、上述の方法と同様にして深紫外線領域の全反射率の測定を行った。
また、上記初期値の測定後、水道水に浸漬されたものおよび炉加熱されたものとは異なる実施例1〜8および比較例1〜13の各試料対し曲げ加工を行い、曲げた部分において保護層にクラックが生じているか否かを光学顕微鏡を用いて観察した。曲げ加工は、曲率半径2mm、曲げ角度180度とした。
以下、各測定方法について説明する。
光学顕微鏡による晶出物の観察では、ニコン株式会社製のECLIPSE L200を用い、500倍の倍率にてアルミニウム箔の表面を観察した。得られた174μm×134μmの矩形の視野における表面観察画像より、晶出物とアルミニウム素地とを2値化して、視野内に存在するすべての晶出物の表面積を測定した。個々の晶出物の表面積の測定値と視野の表面積とから、視野の表面積に対するすべての晶出物の総表面積の割合を算出した。さらに、個々の晶出物の表面積の測定値と視野内で観察される晶出物の個数とから、晶出物の1個当たりの平均表面積を算出した。表面観察画像は試料の幅方向で中央部付近を5点取り、それぞれの視野内ごとに算出した晶出物の総表面積の割合と晶出物の1個当たりの平均表面積について5点の平均値を表3に示す。なお、厳密には視野中に析出物が存在する可能性も否定できないが、本明細書においては、視野中で観察された金属間化合物はすべて晶出物とした。
光学顕微鏡による保護層のクラックの観察では、上記ニコン株式会社製のECLIPSE L200を用い、100倍の倍率にてアルミニウム箔の表面を観察した。
原子間力顕微鏡によるアルミニウム箔および保護層の表面凹凸の観察は、株式会社日立ハイテクサイエンス製の走査型プローブ顕微鏡AFM5000IIを用いて、ダイナミックフォースモード方式(非接触)による表面形状を80μm×80μmの矩形の視野で行った。得られた観察結果に対して、最小二乗近似によって曲面を求めてフィッティングを行う3次曲面自動傾き補正で試料の傾きを補正し、表面粗さRaと圧延方向に対して垂直な幅(TD)方向の表面粗さRzJISとを測定した。表面粗さRaは、JIS B0601(2001年版)で定義されている算術平均粗さRaを、観察された表面全体に対して適用できるように三次元に拡張して算出された値である。アルミニウム箔(Al箔)の表面粗さRaおよび保護層の表面粗さRaの値を表3に示す。
保護層の厚み測定は、株式会社バイテック静Filmetric F20を用いた。保護層の表面に可視光を照射して得られた反射光から波長範囲400nm〜1100nmの反射率スペクトラムを得た。当該反射率スペクトラムと理論上の反射率スペクトラムとの一致度が95%以上となる厚みを、保護層の厚みとした。保護層の厚みの値を表3に示す。
保護層の抜け数の測定では、まず実施例1〜8および比較例1〜12の各試料に置換めっき処理を施した。具体的には、各試料を、2.5質量%の塩酸と2.5質量%の硫酸銅(II)を含んだ25℃の水溶液中に10秒間浸漬させた。これにより、各試料の保護層の抜け部、すなわちアルミニウム箔において保護層に覆われていない部分に銅を析出させた。次に、走査型電子顕微鏡を用いて各試料の表面を300倍の倍率で観察した。得られた2次電子像の423μm×317μmの短形の視野内で銅が析出した部分を保護層の抜け部としてその個数を測定した。走査型電子顕微鏡は、日本電子株式会社製JSM−5510を用いた。保護層の抜け数の値を表3に示す。
全反射率の測定では、日本分光株式会社製紫外可視分光光度計V570を用い、Labsphere社製積分球用標準白板をリファレンスとして積分球での全反射率を波長域250nm〜2000nmの範囲で測定した。得られた全反射率測定値から、波長域250nm〜400nmの紫外線の平均値と、波長域254nm〜265nmの紫外線の平均値を求めた。全反射率の測定は圧延方向(MD)と圧延方向に対して垂直な方向(TD)との二つの方向で測定し、これらの平均値として全反射率を評価した。水道水に浸漬前、水道水に浸漬後、および炉加熱後の各試料の全反射率の平均値を表3に示す。
表3に示す結果から、実施例1〜8のアルミニウム箔は、174μm×134μmの領域に存在している晶出物の総表面積が当該領域の面積に対して2%以下であるとともに晶出物の1個当たりの平均表面積が2μm2以下であった。さらに、実施例1〜8のアルミニウム箔積層体は、シリコーン組成物を含む保護層を備え、保護層の厚みが53nm以上89nm以下であり、保護層の表面の表面粗さRaが10nm以下であった。
実施例1〜8のアルミニウム箔積層体では、水道水に浸漬前の波長域254nm以上265nm以下の深紫外線の全反射率が75%以上であり、水道水に浸漬後においても該全反射率が75%以上を維持していた。つまり、実施例1〜8のアルミニウム箔積層体は、水道水に浸漬された後にも深紫外線に対し高い反射率を有していることが確認された。
また、実施例1〜8のアルミニウム箔積層体では、炉加熱後でも波長域254nm以上265nm以下の深紫外線の全反射率が75%以上であった。つまり、実施例1〜8のアルミニウム箔積層体は、炉加熱後にも深紫外線に対し高い反射率を有していることが確認された。
さらに、実施例1〜8のアルミニウム箔積層体では、曲げ加工後の保護層にクラックが形成されていなかった。つまり、実施例1〜8のアルミニウム箔積層体は、高い加工性を有していることが確認された。
これに対し、実施例1〜8のアルミニウム箔と同等の構成を備えるが保護層を備えない比較例13のアルミニウム箔では、水道水に浸漬前の波長域254nm以上265nm以下の深紫外線の全反射率が75%以上であるのにもかかわらず、水道水に浸漬後の該全反射率が27%まで低下していた。また、比較例13と同様のアルミニウム箔を備えるが、保護層の種類、保護層の厚さ、および保護層の表面粗さRaの、少なくとも1つが上記範囲から外れていた比較例5〜12のアルミニウム箔積層体では、水道水に浸漬後の波長域254nm以上265nm以下の深紫外線の全反射率が75%未満であった。また、174μm×134μmの領域に存在している晶出物の総表面積が当該領域の面積に対して2%超えであるとともに晶出物の1個当たりの平均表面積が2μm2超えであった比較例3および4のアルミニウム箔積層体では、水道水に浸漬後の波長域254nm以上265nm以下の深紫外線の全反射率が75%未満であった。これにより、水道水に浸漬後においても該全反射率が75%以上を維持するためには、予め定められた表面積の領域内に存在する晶出物の総表面積の該表面積に対する割合、晶出物の1個当たりの平均表面積、保護層を構成する材料、保護層の厚み、および保護層の表面粗さを上記範囲内とする必要があることが確認された。
保護層を構成する材料がフッ素樹脂、アクリル樹脂またはアルミニウム酸化物である比較例5〜8のアルミニウム箔積層体では、アルミニウム箔および保護層に関するその他の各パラメータが上記範囲内であるにもかかわらず、水道水に浸漬後の上記全反射率が水道水に浸漬前の上記全反射率に対し大きく低下し、また炉加熱後の上記全反射率が水道水に浸漬後の上記全反射率に対し大きく低下した。このことから、保護層を構成する材料には、フッ素樹脂、アクリル樹脂およびアルミニウム酸化物よりもシリコーン組成物が好適であることが確認された。
保護層の厚みが53nm未満である比較例9および10のアルミニウム箔積層体、および保護層の厚みが89nm超えである比較例11および12のアルミニウム箔積層体では、水道水に浸漬前の上記全反射率も75%未満であった。一方、比較例9〜12のアルミニウム箔積層体のアルミニウム箔と同等の構成を有する比較例13のアルミニウム箔の水道水に浸漬前の上記全反射率が75%以上であった。このことから、シリコーン組成物を含み、かつ厚みが53nm未満である保護層および厚みが89nm超えである保護層は、水道水への浸漬前後に関わらず、アルミニウム箔自体の反射特性を損なうことが確認された。
保護層の表面粗さRaが10nm以下である実施例1〜8のアルミニウム箔積層体は、保護層の表面粗さRaが10nm超えである比較例1〜4,7,8のアルミニウム箔積層体と比べて、水道水に浸漬前後に関わらず上記全反射率が高いことが確認された。さらに保護層を構成する材料がシリコーン組成物であって保護層の厚みが53nm以上89nm以下である試料間で比べると、実施例1〜8のアルミニウム箔積層体の上記全反射率は75%以上であるのに対し、比較例1〜4のアルミニウム箔積層体の上記全反射率は75%未満であった。このことから、シリコーン組成物を含み、厚みが53nm以上89nm以下であるが、表面粗さRaが10nm超えである保護層は、水道水への浸漬前後に関わらず、アルミニウム箔自体の反射特性を損なうことが確認された。
また、アルミニウム箔の表面粗さRaが20nm超えである比較例1〜4のアルミニウム箔積層体では、該アルミニウム箔の表面上に形成された保護層の表面粗さRaが10nm超えており、水道水の浸漬前後に関わらず上記全反射率は75%未満であった。このことから、水道水に浸漬後においても該全反射率が75%以上を維持するためには、アルミニウム箔の表面粗さRaを20nm以下とする必要があることが確認された。
以上の結果より、本発明によって、水道水に浸漬された後にも、深紫外線に対し従来実現しなかった高い反射率を有しているアルミニウム箔積層体を得ることができたことがわかった。
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。