(第1実施形態)
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態は、内燃機関である車載多気筒4サイクルガソリンエンジンであって、筒内噴射式かつ火花点火式のエンジンを対象にエンジン制御システムを構築するものとしている。当該制御システムにおいては、電子制御ユニット(以下、ECUという)を中枢として、燃料噴射量の制御や点火時期の制御等を実施する。このエンジン制御システムの全体概略構成図を図1に示す。
図1に示すエンジン10において、吸気管11には、DCモータ等のスロットルアクチュエータ13によって開度調節されるスロットルバルブ14が設けられている。スロットルバルブ14の開度(スロットル開度)は、スロットルアクチュエータ13に内蔵されたスロットル開度センサにより検出される。
スロットルバルブ14の下流側にはサージタンク15が設けられ、サージタンク15において、吸気管内圧力を検出するための吸気管内圧力センサ16が設けられている。サージタンク15には、エンジン10の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド17が接続されている。吸気マニホールド17は、各気筒の吸気ポートに接続されている。
エンジン10の吸気ポート及び排気ポートには、それぞれ吸気バルブ18及び排気バルブ19が設けられている。吸気バルブ18の開動作によりサージタンク15内の空気が燃焼室21内に導入され、排気バルブ19の開動作により燃焼後の排ガスが排気管22に排出される。吸気バルブ18及び排気バルブ19の開閉タイミング(バルブタイミング)は、可変バルブタイミング装置20によりそれぞれ可変制御される。
エンジン10の各気筒の上部には、燃焼室21内に燃料を直接供給する燃料噴射弁23が取り付けられている。燃料噴射弁23は、図示しない燃料配管を介して燃料タンクに接続されている。燃料タンク内の燃料は各気筒の燃料噴射弁23に供給され、燃料噴射弁23から燃焼室21内に噴射される。
エンジン10のシリンダヘッドには点火プラグ24が取り付けられている。点火プラグ24には、点火コイル等よりなる点火装置25を通じて、所望とする点火時期に高電圧が印加される。点火プラグ24に対する高電圧の印加により、各点火プラグ24の対向電極間に火花放電が発生し、燃焼室21内における燃料と吸気との混合気が着火されて燃焼に供される。エンジン10の燃焼制御は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を1燃焼サイクルとして行われる。
排気管22には、排気を浄化するための排気浄化装置として、三元触媒26とGPF(ガソリンパティキュレートフィルタ)27とが設けられている。三元触媒26は、排気中の成分である一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)及び窒素酸化物(NOx)を酸化又は還元するための触媒である。GPF27は、排気中の粒子状物質(PM)を捕集するフィルタ装置であり、三元触媒26の下流側に設けられている。GPF27は、基材表面に酸化触媒36(例えばPt等)がコーティングされた触媒コート付きフィルタである。なお、三元触媒26及び酸化触媒36が、「排気に含まれる成分を酸化又は還元する触媒」である。
排気管22において三元触媒26の上流側及び下流側には、排気を検出対象として混合気の酸素濃度を検出する酸素濃度センサが設けられている。酸素濃度センサとして本実施形態では、三元触媒26の上流側にリニア検出式のA/Fセンサ28が配置され、三元触媒26の下流側であってGPF27の上流側に二値検出式のO2センサ29が配置されている。また、排気管22には、GPF27の上流側と下流側との差圧を検出する差圧センサ31が設けられている。差圧センサ31により、GPF27に堆積したPM量を検出可能である。排気管22において三元触媒26の下流側であってGPF27の上流側には、排気温度を検出する排気温度センサ32が設けられている。
本システムには、排気を利用して空気の圧縮を行う過給機が設けられている。過給機は、吸気管11においてスロットルバルブ14の上流側に配置された吸気コンプレッサ33と、排気管22において排気ポートの出口付近であって三元触媒26の上流側に配置された排気タービン34と、を備えている。吸気コンプレッサ33と排気タービン34とは回転軸35によって連結されている。排気管22内を流れる排気によって排気タービン34が回転されると、その回転に伴い吸気コンプレッサ33が回転される。このとき、吸気コンプレッサ33の回転により生じる遠心力によって吸気管11内の吸気が圧縮される。吸気管11には、吸気コンプレッサ33の下流側に、熱交換器としてのインタクーラ12が配置されている。過給された吸気がインタクーラ12によって冷却されることで、圧縮効率の低下が抑制される。
その他、エンジン10には、冷却水温を検出する冷却水温センサ41や、エンジン10の所定クランク角毎に矩形状のクランク角信号を出力するクランク角センサ42などが設けられている。
ECU50は、周知の通りCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータ(以下、マイコンという)を主体として構成され、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、都度のエンジン運転状態に応じてエンジン10の各種制御を実施する。すなわち、ECU50は、前述した各種センサなどから各々検出信号を入力し、それら入力した各種検出信号に基づいて、燃料噴射量や燃料噴射時期、点火時期等を演算して燃料噴射弁23や点火装置25の駆動等を制御する。燃料噴射制御について、ECU50は、都度のエンジン運転状態(例えばエンジン回転速度やエンジン負荷)に基づいて、噴射時期及び噴射量を算出する。また、ECU50は、算出した噴射時期に所望量の燃料が噴射されるよう燃料噴射弁23の駆動を制御する。
ECU50は、スロットルバルブ14の開度(以下、「スロットル開度」という。)や、燃料噴射弁23から燃焼室21内に噴射される燃料の量を調整することで空燃比制御を実施している。通常時には、エンジン10の空燃比が理論空燃比(A/F≒14.7)となるようにスロットル開度及び燃料噴射量を制御するストイキ運転を行っている。
ECU50は、GPF27が捕集したPMが所定の堆積状態になったと判断した場合に、その堆積したPMを燃焼除去するフィルタ再生制御を実施する。これにより、GPF27のPM捕集機能の再生(フィルタ再生)を行う。フィルタ再生は、GPF27の温度(以下、「フィルタ温度」ともいう。)が目標温度Tpm(例えば600℃又はその近傍)以上であり、かつGPF27に酸素が存在している状況下で行われる。
本システムには、GPF27に酸素を供給する酸素供給部としてエアポンプ45が設けられている。エアポンプ45は、供給管46を介して排気管22に接続されており、ECU50によりその駆動が制御されることにより、排気管22内へのエア(以下、「2次エア」という。)の供給量が制御される。
ECU50は、GPF27が捕集したPMが所定の堆積状態になったと判断した場合に、フィルタ温度が目標温度Tpmに満たないと判断される状況では、エンジン10の燃焼時における空燃比(以下「燃焼A/F」ともいう。)を、理論空燃比よりもリッチ側で制御するとともに、エアポンプ45を駆動してGPF27に酸素を供給する。これにより、エンジン10で燃焼しきれなかった残存燃料と酸素とを酸化触媒36上で反応させ、その反応熱によって排気温度を上昇させる。こうした処理により、PMの燃焼除去に必要な温度を確保するとともに、PMを燃焼させるのに必要な量の酸素をGPF27に供給することとしている。
エンジン10から排出されたNOxは、三元触媒26で浄化されることにより窒素(N2)に変換される。ところが、酸素供給部により排気管22内に酸素を供給してフィルタ再生制御を行う場合、三元触媒26の浄化作用によって生成した窒素(N2)が酸化されてNOxに戻ることがある。この場合、車外へのNOx排出を十分に抑制できないことが懸念される。
ここで、燃料の燃焼によってエンジン10から排出されるNOx量は、エンジン10の燃焼時の空燃比に応じて異なり、図2に示すように、空燃比をストイキからリッチ限界に近付けると減少する。この点に着目し、本実施形態では、フィルタ再生要求に伴いGPF27を昇温させる場合には、エンジン10から排出されるNOxの量(以下、「エンジン排出NOx量」ともいう。)が、予め定めた排出許容値NOth以下になるように、エンジン10の燃焼時における空燃比(燃焼A/F)を理論空燃比よりもリッチ側で制御することとしている。これにより、フィルタ昇温期間では、GPF27に十分な量の酸素を供給しつつ、エンジン10から排出されるNOx量自体が十分に少なくなるようにしている。
具体的には、図2に示すように、リッチ側において、エンジン排出NOx量が排出許容値NOth以下となる空燃比範囲の上限値であるA/F上限値Amax(例えば、A/F≒11.8)と、エンジン10において正常燃焼が可能な空燃比のリッチ限界であるA/F下限値Amin(例えば、A/F≒10.3)とによって定められる範囲をNOx抑制範囲Rafとしている。そして、フィルタ再生時には、燃焼A/FがNOx抑制範囲Raf内となるように制御している。
図3を用いて、本実施形態のフィルタ再生処理についてさらに詳しく説明する。ECU50は、フィルタ再生要求があった場合にフィルタ温度が所定温度よりも低いと判断される状況では、GPF27に堆積したPMを燃焼するために十分に高い温度(例えば600℃程度)までGPF27を昇温するための昇温要求を満たし、かつエンジン10からのNOxの排出量を排出許容値NOth以下に抑制するためのNOx抑制要求を満たすように燃焼A/Fを制御する。
具体的には、フィルタ温度と目標温度Tpmとの差分に基づいて、昇温要求を満たすための空燃比である昇温要求A/F値Aupを算出するとともに、その算出した昇温要求A/F値Aupと、A/F上限値Amaxとを比較する。そして、これらのうち、理論空燃比(ストイキ)からの乖離量が大きい空燃比、すなわち、よりリッチ側の空燃比を用いて燃焼を行う。例えば、昇温要求A/F値Aupが、A/F上限値Amaxよりもリッチ側の所定値A2である場合には、昇温要求A/F値Aupを燃焼A/Fに設定する。一方、昇温要求A/F値Aupが、A/F上限値Amaxよりもリーン側の所定値A1である場合には、NOx抑制要求を満たすA/Fのうち、よりリーン側に設定された境界値であるA/F上限値Amaxを燃焼A/Fに設定する。また、その設定した燃焼A/Fとなるようにエンジン10の燃料噴射量を制御する。なお、「昇温要求A/F値Aup」が第1要求空燃比に相当し、「A/F上限値Amax」が第2要求空燃比に相当する。
次に、本実施形態のフィルタ再生処理の処理手順について、図4のフローチャートを用いて説明する。この処理は、ECU50により所定時間毎に実行される。
図4において、ステップS100では、フィルタ再生要求が生じているか否かを判定する。ここでは、GPF27にPMが再生判定値Wth以上堆積しているか否かを判定する。具体的には、差圧センサ31の検出値を用い、GPF27の上流側と下流側との差圧が所定圧以上になった場合に肯定判定される。
なお、フィルタ再生要求の有無を判定する方法としては、差圧センサ31を用いる方法に限らない。例えば、(1)GPF27に堆積したPM量を検出するPMセンサを取り付け、PMセンサにより検出したPM量が所定値以上になったこと、(2)前回のフィルタ再生処理から所定時間以上が経過したこと、及び(3)前回のフィルタ再生処理から所定距離以上走行したこと、の条件の少なくとも1つを満たしている場合に、GPF27にPMが所定量以上堆積した状態となっており、フィルタ再生要求有りと判定してもよい。
フィルタ再生要求有りと判定されると、ステップS101〜S104で、フィルタ再生処理の実施条件が成立しているか否かを判定する。具体的には、まずステップS101で、エンジン10が稼働中であるか否かを判定する。エンジン稼働中であれば、ステップS102へ進み、冷却水温センサ41の検出値等を用いて、エンジン10の暖機完了後か否かを判定する。
エンジン10の暖機完了後であればステップS103へ進み、現在のエンジン運転状態が、フィルタ再生を実施可能な運転領域か否かを判定する。本実施形態では、図5に示すように、フィルタ再生を実施可能なエンジン運転領域が、エンジン回転速度とエンジン負荷(例えば、吸気管内圧力)とに対応したマップとして予め定められている。このマップを用いて、エンジン回転速度及びエンジン負荷の検出値から、フィルタ再生を実施可能なエンジン運転領域にあるか否かを判定する。
図5のマップによれば、低回転/低負荷領域Aではフィルタ再生が禁止され、低〜中回転/低〜中負荷領域B、中〜高回転/中〜高負荷領域C、及び高回転/高負荷領域Dではフィルタ再生が許可される。領域Aは、燃焼安定性の要求からA/F上限値Amaxまでリッチ化できないエンジン運転領域である。領域Bは、昇温要求が大きくなりやすいエンジン運転領域であり、領域Cは、NOx抑制要求が大きくなりやすいエンジン運転領域である。領域Dは、排気温度が高く、フィルタ再生のための昇温が不要なエンジン運転領域である。
フィルタ再生を実施可能なエンジン運転領域にあると判定されると、ステップS104へ進み、現在のGPF27の温度(フィルタ温度)が開始温度Tstartよりも高温であるか否かを判定する。開始温度Tstartは、燃料の着火温度又はそれよりも高温側に設定された値であり、例えば300℃又はその近傍の値が設定されている。フィルタ温度は、エンジン運転状態(エンジン負荷及びエンジン回転速度)や、排気温度センサ32で検出した排気温度から推定してもよいし、あるいはフィルタ温度を検出する温度センサを設けて直接検出してもよい。
ステップS101〜S104の少なくともいずれかで否定判定された場合には、フィルタ再生処理の実施条件が全て成立するまでフィルタ再生を開始せずにそのまま待機する。ステップS101〜S104の全てで肯定判定された場合、ステップS105へ進み、フィルタ再生処理の実施条件が成立したとしてフィルタ再生を許可し、ステップS106へ進む。
ステップS106では、A/F上限値Amaxを算出する。エンジン排出NOx量はエンジン運転状態に応じて異なり、図6に示すように、エンジン負荷が高負荷であるほどエンジン排出NOx量が多くなる。また、これに伴い、エンジン10が高負荷であるほど、エンジン排出NOx量が排出許容値NOth以下となるリッチ側空燃比範囲の上限値が理論空燃比に近くなる。そこで本実施形態では、エンジン負荷に基づいてA/F上限値Amaxを算出する。具体的には、図6に示すマップを予め定めて記憶させておき、このマップを用いて、都度のエンジン負荷に対応するA/F上限値Amaxを読み出す。図6のマップによれば、エンジン10が高負荷ほど、A/F上限値Amaxとしては理論空燃比に近い値が設定される。
ステップS107では、フィルタ再生時におけるGPF27の目標温度Tpmと、フィルタ温度(現在温度)との差分から昇温要求A/F値Aupを算出する。目標温度Tpmは、PMの着火温度に基づき予め定められており、例えば600℃又はその近傍の値が設定されている。なお、目標温度Tpmとフィルタ温度との差分が、フィルタ温度を目標温度Tpmまで昇温させるための昇温要求量に相当する。昇温要求A/F値Aupは、目標温度Tpmとフィルタ温度との差分が大きいほど、小さい値(つまり、よりリッチ側の値)が設定される。
本実施形態では、エアポンプ45によって排気通路に導入される2次エアによる温度低下を考慮して、昇温要求A/F値Aupを算出する。具体的には、目標温度Tpmとフィルタ温度との差分が大きいほど、排気通路に導入される2次エア流量Qが多くなり、2次エア導入による排気温度の低下が大きくなる。この温度低下分を補償するように昇温要求A/F値Aupを設定する。
続くステップS108では、排気温度センサ32により検出した排気温度が、昇温判定温度Tregene(例えば700℃又はその近傍)よりも低いか否かを判定する(昇温判定処理)。排気温度が昇温判定温度Tregene未満であれば、ステップS109へ進み、昇温要求A/F値AupがA/F上限値Amaxよりも小さいか否か、つまり昇温要求A/F値AupがA/F上限値Amaxよりもリッチ側の値であるか否かを判定する。昇温要求A/F値AupがA/F上限値Amaxよりもリッチ側の値であれば、ステップS110へ進み、フィルタ再生中における燃焼A/F(以下、「再生中燃焼A/F」ともいう。)として昇温要求A/F値Aupを設定する。
一方、昇温要求A/F値AupがA/F上限値Amaxよりもリーン側の値である場合には、ステップS111へ進み、再生中燃焼A/FとしてA/F上限値Amaxを設定する。その後、ステップS112へ進む。
ステップS112では、再生中燃焼A/Fと排気中の酸素濃度要求値とに基づいて2次エア流量Qを算出する。酸素濃度要求値は、GPF27に供給される排気中の酸素濃度を、排気通路に排出された残存燃料の燃焼後においてもPMの燃焼速度の要求に基づき定めた所定濃度以上にするための酸素濃度である。
図7に、GPF27に供給される排気中の酸素濃度とPM燃焼速度との関係を示す。図7に示すように、排気中の酸素濃度が低濃度の範囲では、PM燃焼速度が大きく低下する。このため、限られた時間内に確実にフィルタ再生を行うようにするためには、GPF27に供給される排気中の酸素濃度を十分に高くする必要がある。そこで本実施形態では、排気中の酸素濃度を増大側へ変化させた場合にPM燃焼速度の変化量が所定値以下に収束する酸素濃度範囲の下限値D1(例えば5%程度)を酸素濃度要求値としている。2次エア流量Qの設定に際しては、燃焼A/Fのリッチ化により排気側に排出された燃料を燃焼させるのに必要な酸素量を確保でき、かつ、GPF27に供給される排気中の酸素濃度が残存燃料の燃焼後においても下限値D1となるように2次エア流量Qの値を算出する。2次エア流量Qとしては、再生中燃焼A/Fがリッチ側の値であるほど大きい値が設定される。
ステップS108で排気温度が昇温判定温度Tregene以上であると判定された場合には、ステップS113へ進み、再生中燃焼A/Fをストイキに設定する。また、ステップS114では、酸素濃度要求値を満たすように2次エア流量Qを算出する。
ステップS115では、空燃比が再生中燃焼A/Fとなるように燃料噴射量を制御するとともに、ステップS112又はS114で算出した2次エア流量QがGPF27の上流側に導入されるようにエアポンプ45を駆動する。ステップS116では、差圧センサ31の検出値に基づいて、フィルタ再生処理によるPM燃焼量を算出し、ステップS117で、所定のPM量(例えば、フィルタ再生処理の開始時のPM堆積量)を燃焼できたかどうかを判定する。ステップS117で否定判定された場合には、ステップS101以降の処理を再度実行する。ステップS117で肯定判定されると、ステップS118へ進み、フィルタ再生を終了して本ルーチンを終了する。
次に、本実施形態のフィルタ再生処理の具体的態様について、図8のタイムチャートを用いて説明する。図8中、(a)は車速、(b)はエンジン10の吸気量、(c)はフィルタ再生要求の有無、(d)はフィルタ再生許可の有無、(e)は排気温度センサ32で検出された排気温度、(f)はフィルタ温度、(g)は燃焼A/F、(h)はエアポンプ45から排気管22内に供給される2次エア流量Q、(i)は酸素濃度要求値、(j)はPM堆積量の推移をそれぞれ示している。
図8において、PM堆積量が再生判定値Wth以上となり、時刻t10でフィルタ再生要求有りと判定された場合、フィルタ温度が開始温度Tstartよりも低い間はフィルタ再生処理が開始されず、燃焼A/Fはストイキで制御される。そして、排気温度が上昇してフィルタ温度が開始温度Tstartよりも高温になると、その時刻t11でエアポンプ45が駆動される。また、時刻t11での排気温度が昇温判定温度Tregeneよりも低ければ、再生中燃焼A/Fとしてストイキよりもリッチ側の値が設定される。
フィルタ再生中は、フィルタ温度と目標温度Tpmとの差分に基づき算出された昇温要求A/F値Aupと、A/F上限値Amaxとが比較される。時刻t11において、昇温要求A/F値AupがA/F上限値Amaxよりもリッチ側であれば、図8(g)に示すように、再生中燃焼A/Fとして昇温要求A/F値Aupが設定され、ストイキよりもリッチ側で空燃比が制御される。また、エンジン10から排出された燃料を燃焼させるのに必要な酸素量と、酸素濃度要求値とを満たす酸素が排気通路に供給されるようにエアポンプ45が駆動される。
燃焼A/Fのリッチ化によりエンジン10で燃え残った燃料がエンジン10から排出され、その排出された燃料が燃焼されて、フィルタ温度が目標温度Tpmまで上昇すると(時刻t12)、GPF27に堆積したPMが燃焼してPM堆積量が徐々に減少していく。
その後、時刻t13で、運転者のアクセル操作によりエンジン負荷及びエンジン回転速度が上昇したことに伴い排気温度が上昇し、昇温要求A/F値AupがA/F上限値Amaxよりもリーン側になると、再生中燃料A/Fが、昇温要求A/F値AupからA/F上限値Amaxに切り替えられる。なお、図8(g)には、時刻t13〜t16の期間における昇温要求A/F値Aupを一点鎖線で示している。
また、エンジン運転領域がさらに高回転・高負荷の領域に移行し、排気温度が更に上昇して昇温判定温度Tregeneよりも高温になると、フィルタ昇温のための空燃比のリッチ化は不要と判断され、再生中燃焼A/Fがストイキに変更される(時刻t14)。これによりGPF27が過昇温することが抑制される。
なお、車両の加速により吸気量が多くなると、そのままの2次エア流量では排気中の酸素濃度が低下して、PM燃焼のための酸素が不足することが懸念される。そのため、フィルタ再生中にストイキで制御している期間では、図8(h)に示すように、2次エア流量Qを増量側に変更することにより酸素濃度要求値を満たすようにする。排気温度が昇温判定温度Tregene以下になると、その時刻t15で、再生中燃料A/Fがストイキよりもリッチ側(図8ではA/F上限値Amax)に変更される。
車両の減速によりエンジン運転領域がより低回転・低負荷の運転領域に移行し、フィルタ温度が低下すると、昇温要求A/F値AupがA/F上限値Amaxよりもリッチ側の値となり、再生中燃焼A/FがA/F上限値Amaxから昇温要求A/F値Aupに切り替えられる(時刻t16)。そして、フィルタ再生によりGPF27に堆積したPMが燃焼除去されると、その時刻t17で空燃比のリッチ化が終了され、ストイキ制御に切り替えられる。
以上詳述した本実施形態によれば、次の優れた効果が得られる。
エンジン10から排出されるNOx量は、エンジン10の燃焼の際の空燃比に応じて異なり、空燃比をストイキからリッチ側に近付けるほど、エンジン排出NOx量は少なくなる点に着目し、GPF27を昇温させるべく空燃比をリッチ化する場合には、エンジン排出NOx量が排出許容値NOth以下になる範囲で空燃比を制御する。これにより、エンジン排出NOx量をできるだけ抑えることができる。したがって、排気エミッションの悪化を抑制しながら、GPF27に捕集されたPMを燃焼除去することができる。
GPF27を目標温度Tpmに昇温するための空燃比である昇温要求A/F値Aupと、エンジン10から排出されるNOx量を排出許容値NOth以下とするための空燃比であるA/F上限値Amaxとを算出し、昇温要求A/F値Aup及びA/F上限値Amaxのうち、よりリッチ側の値を用いた空燃比制御によりフィルタ再生処理を実施する構成とした。この構成によれば、昇温要求A/F値AupではNOx抑制要求を満たさない場合には、A/F上限値Amaxでフィルタ再生を行うことにより、排気エミッションの悪化抑制を図ることができる。また、昇温要求A/F値AupがA/F上限値Amaxよりもリッチ側にあり、昇温要求A/F値Aupによって昇温要求とNOx抑制要求とを満たすことができる場合には、再生中燃焼A/Fを昇温要求A/F値Aupとするため、燃焼安定性を確保しながら排気エミッションの悪化を抑制することができる。
エンジン負荷に基づいてA/F上限値Amaxを設定する構成とした。このため、エンジン負荷に応じてエンジン排出NOx量が異なる場合でも、NOx抑制のための適切なリッチ空燃比でフィルタ再生を行うことができる。
フィルタ再生速度は、GPF27に供給される酸素濃度が高いほど速くなる傾向がある。したがって、NOx排出抑制要求に基づき再生中燃焼A/Fを設定するとともに、フィルタ再生速度を確保するために必要な酸素濃度を考慮して酸素を供給することにより、NOx排出を抑制しつつ、迅速なフィルタ再生を行うことができる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。第1実施形態では、再生中燃焼A/Fと酸素濃度要求値とに基づいて2次エア流量Qを可変に設定したが、本実施形態では2次エア流量Qを固定流量とする点で第1実施形態と相違する。PM燃焼速度は排気中の酸素濃度に依存する点を考慮し、本実施形態では、できるだけ2次エア流量Qを多くすることによりフィルタ再生を効率的に行う。
本実施形態のフィルタ再生処理の処理手順について、図9のフローチャートを用いて説明する。この処理は、ECU50により所定周期毎に実行される。なお、図9の説明では、図4と同じ処理については図4のステップ番号を付してその説明を省略する。
図9において、ステップS200〜S206では、図4のステップS100〜S106と同じ処理を実行する。続くステップS207では、2次エア流量Qを固定流量Q1に設定するとともに、2次エアを排気通路に導入した後の排気温度の推定値である推定フィルタ温度Treを算出する。固定流量Q1としては、再生中燃料A/FをNOx抑制範囲Raf内にして排気通路内で残余の燃料を燃焼させた場合にも、GPF27に供給される排気中の酸素濃度が下限値D1(例えば5%程度)以上となるように十分に大きい値が設定されている。
ステップS208では、目標温度Tpmと推定フィルタ温度Treとの差分から昇温要求A/F値Aupを算出する。なお、目標温度Tpmと推定フィルタ温度Treとの差分が、フィルタ温度を目標温度Tpmまで昇温させるための昇温要求量に対応する。昇温要求A/F値Aupとしては、目標温度Tpmと推定フィルタ温度Treとの差分が大きいほど、小さい値(つまり、よりリッチ側の値)が設定される。
続くステップS209では、排気温度が昇温判定温度Tregeneよりも低いか否かを判定する(昇温判定処理)。排気温度が昇温判定温度Tregene未満であれば、ステップS210へ進み、昇温要求A/F値AupがA/F上限値Amaxよりもリッチ側の値であるか否かを判定する。Aup<Amaxであれば、ステップS211へ進み、再生中燃焼A/Fとして昇温要求A/F値Aupを設定する。一方、昇温要求A/F値AupがA/F上限値Amaxよりもリーン側の値である場合には、ステップS212へ進み、再生中燃焼A/FとしてA/F上限値Amaxを設定する。その後、ステップS214へ進む。
ステップS209で、排気温度が昇温判定温度Tregene以上であれば、ステップS213へ進み、再生中燃料A/Fを理論空燃比(ストイキ)に設定する。その後、ステップS214へ進む。
ステップS214では、空燃比が再生中燃焼A/Fとなるように燃料噴射量を制御するとともに、固定流量Q1の2次エアがGPF27の上流側に導入されるようにエアポンプ45を駆動する。その後のステップS215〜S217では、図4のステップS116〜S118と同じ処理を実施し、本ルーチンを終了する。
次に、本実施形態のフィルタ再生処理の具体的態様について、図10のタイムチャートを用いて説明する。図10中の(a)〜(j)は上記図8と同じである。
図10において、時刻t20でフィルタ再生要求があり、時刻t21でフィルタ再生が許可されると、エアポンプ45が駆動されて固定流量Q1に対応する二次エアが排気中に供給されるとともに、再生中燃焼A/Fとしてストイキよりもリッチ側の値が設定され、フィルタ再生が開始される。なお、フィルタ再生要求が生じた後に、排気温度が着火温度Tburn未満の場合には、点火遅角等によって排気の昇温制御を実施してもよい。
燃焼A/Fのリッチ化によってエンジン10から排出された残存燃料と酸素とが反応し、その燃焼熱によりフィルタ温度が目標温度Tpmまで上昇すると(時刻t22)、GPF27に堆積したPMが燃焼してPM堆積量が徐々に減少していく。
その後の時刻t23で、エンジン負荷及びエンジン回転速度の上昇に伴い排気温度が上昇し、昇温要求A/F値Aup(図10(g)中の一点鎖線)がA/F上限値Amaxよりもリーン側になると、再生中燃料A/Fが、昇温要求A/F値AupからA/F上限値Amaxに切り替えられる(時刻t23〜24)。また、排気温度が昇温判定温度Tregene以上である時刻t24〜t25の期間では、昇温のための空燃比のリッチ化は不要と判断され、再生中燃焼A/Fがストイキに変更される。
そして、フィルタ再生によりGPF27に堆積したPMが燃焼除去されると、その時刻t26で空燃比のリッチ化が終了され、ストイキ制御に切り替えられる。
以上詳述した第2実施形態によれば、エアポンプ45により供給される2次エア流量Qを固定流量Q1で一定にしてフィルタ再生を実施するため、流量調整のための複雑な制御を行わずに排気エミッションの低減を図ることができる。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について、第1実施形態及び第2実施形態との相違点を中心に説明する。第1実施形態及び第2実施形態では、昇温要求A/F値AupとA/F上限値Amaxとを比較し、よりリッチ側の値を再生中燃料A/Fに設定したが、本実施形態では、再生中燃料A/Fを、NOx抑制範囲Rafのうちリッチ限界で固定する点で第1実施形態及び第2実施形態と相違する。
本実施形態のフィルタ再生処理の処理手順について、図11のフローチャートを用いて説明する。この処理は、ECU50により所定周期毎に実行される。なお、図11の説明では、図4と同じ処理については図4のステップ番号を付してその説明を省略する。
図11において、ステップS300〜S305では、図4のステップS100〜S105と同じ処理を実行する。続くステップS306では、排気温度センサ32で検出された排気温度が昇温判定温度Tregeneよりも低いか否かを判定する(昇温判定処理)。
排気温度が昇温判定温度Tregene未満であれば、ステップS307へ進み、再生中燃焼A/Fとして、空燃比のリッチ限界であるA/F下限値Aminを設定する。続くステップS308では、図4のステップS112と同様にして、再生中燃焼A/Fと酸素濃度要求値とから2次エア流量Qを算出する。
一方、排気温度が昇温判定温度Tregene以上であれば、ステップS309へ進み、再生中燃料A/Fをストイキに設定する。続くステップS310では、図4のステップS114と同様にして、酸素濃度要求値から2次エア流量Qを算出する。その後のステップS311〜S314では、図4のステップS115〜S118と同じ処理を実施し、本ルーチンを終了する。
次に、本実施形態のフィルタ再生処理の具体的態様について、図12のタイムチャートを用いて説明する。図12中の(a)〜(j)は上記図8と同じである。なお、図12(f)のTmaxは、GPF27の熱保護の観点から予め設定されている上限温度であり、例えば850℃又はその近傍が設定されている。
図12において、時刻t30でフィルタ再生要求があり、時刻t31でフィルタ再生が許可されると、再生中燃焼A/FとしてA/F下限値Aminが設定される。また、時刻t31では、排気通路に排出された残存燃料を燃焼させるのに必要な酸素量と、酸素濃度要求値とを満たす酸素が排気通路に供給されるようにエアポンプ45が駆動される。
時刻t32で、エンジン負荷及びエンジン回転速度の上昇に伴い排気温度が上昇し、昇温判定温度Tregeneよりも高温になると、昇温のための空燃比のリッチ化は不要と判断され、再生中燃料A/Fとしてストイキが設定される(時刻t32〜33)。そして、フィルタ再生によりGPF27に堆積したPMが燃焼除去された時刻t34で空燃比のリッチ化が終了され、ストイキ制御に切り替えられる。
以上詳述した第3実施形態では、フィルタ昇温要求がある場合には、再生中燃焼A/FをA/F下限値Aminに設定し、A/F下限値Aminで空燃比を制御してフィルタ再生処理を実施するため、NOx排出の抑制効果を一層高くすることができる。また、排気中の残存燃料が多く、フィルタ昇温を速やかに行うことができる。これにより、PMの燃焼速度を速くすることができ、フィルタ再生処理を短期間で終了させることができる。
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態に限定されず、例えば以下のように実行されてもよい。
・上記実施形態では、三元触媒26の下流側に触媒コート付きのGPF27を配置する排気系システムに適用する場合を一例に挙げて説明したが、排気系の構成はこれに限定されない。例えば、図1のシステムにおいて、触媒コート付きのGPF27が上流側に配置され、三元触媒26が下流側に配置されていてもよい。この場合、エアポンプ45については、GPF27の上流側に2次エアを供給するように配置する。
・GPF27として、酸化触媒がコーティングされていないフィルタを用いることもできる。この場合、例えば、三元触媒26の下流側であってGPF27の上流側に、別の三元触媒を更に配置するとともに、別の三元触媒の上流側に対してエアポンプ45から二次エアが供給されるようにしてもよい。また、さらに別の構成として、三元触媒26の下流側に、触媒コートなしのGPF27を配置するとともに、三元触媒26の上流側に対してエアポンプ45から二次エアが供給されるようにしてもよい。
・図1のシステムにおいて、エアポンプ45が排気通路に2次エアを供給する位置は、三元触媒26とGPF27との間に限定されず、三元触媒26の上流側に2次エアを供給するようにエアポンプ45を配置してもよい。
・上記実施形態では、排気通路に酸素を供給する酸素供給部としてエアポンプ45を備えるシステムについて説明したが、酸素供給部としてエアポンプ45以外の構成を備えていてもよい。例えば、エンジン10の排気を吸気系に還流させるEGR装置を備えるシステムにおいて、EGRポンプの駆動により吸気を排気通路に導入可能にすることによりEGR装置を酸素供給部として利用し、EGR通路を介してGPF27の上流側に酸素を供給するようにしてもよい。あるいは、過給機を備えるシステムにおいて、吸気通路の排気タービン34の下流側と、排気通路のGPF27の上流側とを供給通路で連結するとともに、その供給通路の途中に開閉バルブを取り付ける。そして、加給圧を利用して、供給通路を介してGPF27の上流側に吸気を供給するようにしてもよい。
・上記第2実施形態では、2次エア流量Qを固定流量Q1の1段階で固定したが、エンジン10の吸気量に応じて多段(例えば2段階や3段階)で2次エア流量Qを変更してもよい。
・エンジン負荷及びエンジン回転速度の少なくとも一方に基づいて、GPF27に堆積したPMを燃焼除去する際のエンジン10の空燃比を設定してもよい。フィルタ温度は排気温度に依存し、排気温度が高いほどフィルタ温度も高くなる。また、排気温度はエンジン運転状態から推定することができ、エンジン10が高回転であるほど、又は高負荷であるほど、排気温度が高くなる傾向にある。具体的には、図5の領域Bでは、昇温要求により再生中燃焼A/Fが決定され、領域Cでは、NOx抑制要求により再生中燃焼A/Fが決定される。この点を考慮し、エンジン負荷とエンジン回転速度と再生中燃焼A/Fとを対応付けたマップ(例えば図5のマップ)を記憶部に記憶させておき、このマップを用いて、都度のエンジン負荷及びエンジン回転速度から再生中燃焼A/Fを設定する構成としてもよい。図5のマップによれば、フィルタ再生要求時のエンジン運転領域が領域Bである場合には、再生中燃焼A/Fとして昇温要求A/F値Aupが選択される。また、エンジン運転領域が領域Cである場合には、再生中燃焼A/FとしてA/F上限値Amaxが選択される。
・上記第3実施形態では、再生中燃料A/Fをリッチ限界であるA/F下限値Aminに固定してフィルタ昇温及びフィルタ再生処理を行ったが、NOx抑制範囲Raf内の任意の空燃比(例えば、A/F上限値Amaxや、A/F下限値AminとA/F上限値Amaxとの間の中間値)を再生中燃料A/Fに設定してもよい。
・上記実施形態では、排気温度と昇温判定温度Tregeneとの比較結果に基づいて、GPF27を昇温させる昇温要求が発生していることを判定したが、フィルタ温度と判定値(例えば、目標温度Tpmよりも所定値だけ高温側の値、又は上限値Tmax)との比較結果に基づいて昇温要求が発生していることを判定してもよい。
・上記実施形態において、エンジン10の燃焼制御を行うに当たっては、実空燃比を目標空燃比に一致させるべく空燃比フィードバック制御を実施してもよい。具体的には、フィルタ再生時であれば、再生中燃焼A/Fを目標空燃比に設定し、酸素濃度センサで検出した実空燃比が再生中燃焼A/Fに一致するように空燃比フィードバック制御を実施する構成としてもよい。
・上記実施形態では、火花点火式のエンジン10に適用する場合について説明したが、圧縮自着火式のエンジンに適用してもよい。また、過給機を備えるエンジンに適用したが、過給機を備えない自然吸気エンジン(N/A)に適用してもよい。
・上記の各構成要素は概念的なものであり、上記実施形態に限定されない。例えば、一つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分散して実現したり、複数の構成要素が有する機能を一つの構成要素で実現したりしてもよい。