JP6957886B2 - 繊維強化プラスチック - Google Patents
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Description
プリプレグ基材としては、例えば、連続した繊維長の長い強化繊維を一方向に引き揃えたものに、熱可塑性樹脂を含浸してシート状にしたものが挙げられる。このような連続した長い強化繊維を用いたプリプレグ基材で形成した繊維強化プラスチックでは、優れた機械物性を有する構造材を製造できる。しかし、前記繊維強化プラスチックでは、連続した強化繊維であるがゆえに賦形時の流動性が低く、スタンピング成形により3次元形状等の複雑な形状に賦形することは難しい。そのため、前記繊維強化プラスチックを用いる場合、製造する構造材は主として平面形状に近いものに限られる。
しかし、前記方法(I)は、製造の簡便さやコストの面ではまだ充分ではない。特に繊維強化プラスチックや構造材(成形品)の工業的な生産においては、より簡便かつ低コストに製造できることが重要である。また、より複雑な形状の構造材を得るためには、繊維強化プラスチックの賦形時の流動性をより高くすることが重要である。
また、賦形時の流動性を高くする方法としては、不連続な強化繊維をランダムに配置させる方法がある。例えば、幅の狭いテープ状のプリプレグ基材から一定の長さで切り出した複数のプリプレグ片を平面上に分散させ、それらをプレス成形で一体化させてシート状の繊維強化プラスチックとする方法(II)が開示されている(特許文献2)。
また、前記方法(I)で得られた繊維強化プラスチックは、切込み形状に沿った方向に応力が生じた場合に、この切込み部分が破壊の起点となり機械物性が低下する問題がある。また、この切込み部分には実質的に樹脂のみが存在するため、マトリックス樹脂のガラス転移温度以上の温度においては、上記特許文献2に開示されている方法(II)と同様に、耐熱性が劣る問題がある。
しかし、前記方法(III)で得られた繊維強化プラスチックにおいては、強化繊維が3次元的に絡まり合っているため、賦型時の流動性が劣っている。また製造工程も極めて煩雑であり、コスト的に劣っている。加えて、前記方法(III)で強化繊維の含有率が高い繊維強化プラスチックを製造しようとした場合は、より強化繊維が密な状態で抄紙する必要がある。しかし、こうした高密度に抄紙された強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させようとすると、3次元的に絡まった強化繊維のうち、特に厚み方向(含浸方向)に配向している強化繊維が含浸時のプレス力の応力を担うため、樹脂に圧力が伝達されず、極めて含浸が困難になる。また、強化繊維の繊維長が長い場合も、3次元的な絡まりが強固となるため、同様に含浸が困難となる。
(1)繊維長5〜100mmの強化繊維と熱可塑性樹脂とから構成され、前記熱可塑性樹脂の融点±25℃の範囲のtanδ’の平均値が0.01≦tanδ’(平均値)≦0.2を満たす繊維強化プラスチック(特許文献4)。tanδ’は、以下の2式で定義される。
tanδ=G’’/G’
tanδ’=Vf×tanδ/(100−Vf)
(ただし、Vfは繊維強化プラスチック中の強化繊維の体積分率(%)であり、G’は繊維強化プラスチックの貯蔵弾性率(Pa)であり、G’’は繊維強化プラスチックの損失弾性率(Pa)である。)
(1)の繊維強化プラスチックは、tanδ’(平均値)が特定の範囲に制御されていることで、機械物性が良好になる。
しかし、(1)の繊維強化プラスチックにおいては、実施例1、2に示されているように、熱可塑性樹脂であるナイロン樹脂(融点:225℃)の融点まで加熱した状態においてもtanδ’がほとんど変化していない。Vf/(100−Vf)は一定であるため、tanδ’がほとんど変化していないことは、tanδの値自体がほとんど変化していないことを意味するが、融点以上の温度域でもtanδの値が小さく弾性体としての性質が大きいと、賦形時に加熱した際に強化繊維及び熱可塑性樹脂の流動性が充分に高くならず、賦形時に強化繊維が切断されてより短くなることで、賦形後の構造材の機械物性が不充分になるおそれがある。
(1) 強化繊維とマトリックス樹脂を含む繊維強化プラスチックであって、
少なくとも1種以上の熱安定剤を含有し、
T−30(℃)〜T−10(℃)の温度範囲(ただし、Tは前記マトリックス樹脂の融点、又は融点を有しないときはガラス転移温度である。)での繊維強化プラスチックの下式(1)で表される粘弾性特性tanδの平均値をtanδ(ave)、T−10(℃)〜T+10(℃)の温度範囲での前記粘弾性特性tanδの最大値をtanδ(max)としたとき、tanδ(ave)が0.01〜0.25であり、tanδ(max)−tanδ(ave)が0.15以上である、繊維強化プラスチック。
tanδ=G’’/G’ ・・・(1)
ただし、前記式(1)中の記号は以下の意味を示す。
G’’:損失弾性率、
G’:貯蔵弾性率。
(2) 前記強化繊維の平均繊維長が1〜100mmである、上記(1)の繊維強化プラスチック。
(3) 前記熱安定剤がフェノール系熱安定剤および/またはリン系熱安定剤である、上記(1)または(2)に記載の繊維強化プラスチック。
(4) 前記マトリックス樹脂100質量部に対して前記熱安定剤を0.01〜4質量部含む、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック。
(5) 前記マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック。
tanδ=G’’/G’ ・・・(1)
ただし、前記式(1)中の記号は以下の意味を示す。
G’’:損失弾性率、
G’:貯蔵弾性率。
強化繊維としては、特に限定されず、例えば、無機繊維、有機繊維、金属繊維、又はこれらを組み合わせたハイブリッド構成の強化繊維が使用できる。強化繊維は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
好ましい炭素繊維は、JIS R7601(1986)に準じて測定したストランド引張強度が1.0GPa以上9.0GPa以下で、かつストランド引張弾性率が150GPa以上1000GPa以下の炭素繊維である。
より好ましい炭素繊維は、JIS R7601(1986)に準じて測定したストランド引張強度が1.5GPa以上9.0GPa以下で、かつストランド引張弾性率が200GPa以上1000GPa以下の炭素繊維である。
一般に強化繊維が長いほど機械物性に優れた構造材が得られるが、特にスタンピング成形時において、流動性が低下するために複雑な3次元形状の構造材が得られにくくなる。強化繊維の平均繊維長が上限値以下であれば、賦形時に優れた流動性が得られ、強化繊維とマトリックス樹脂が流動しやすい。そのため、リブやボス等の複雑な3次元形状の構造材を得ることが容易である。また、強化繊維の平均繊維長が下限値以上であれば、機械物性に優れた構造材を製造できる。
繊維強化プラスチック中の樹脂を焼き飛ばして、強化繊維のみを取り出し、前記強化繊維の繊維長をノギス等で測定する。測定は無作為に選択した100本の強化繊維について行い、平均繊維長はそれらの質量平均として算出する。
強化繊維の平均繊維直径は、1〜50μmが好ましく、5〜20μmがより好ましい。
マトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよい。マトリックス樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
マトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂は一般的に熱硬化性樹脂よりも靱性値が高いため、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いることで、強度、特に耐衝撃性に優れた構造材が得られやすくなる。また、熱可塑性樹脂は化学反応を伴うことなく冷却固化により形状が定まる。そのため、熱可塑性樹脂を用いる場合は短時間成形が可能となり、繊維強化プラスチックや構造材の生産性に優れる。
変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、マレイン酸等の酸によりポリオレフィン樹脂を変性した樹脂(酸変性ポリプロピレン樹脂)等が挙げられる。
熱可塑性樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよく、2種以上をポリマーアロイとして使用とてもよい。
熱可塑性樹脂としては、強化繊維との接着性、強化繊維への含浸性及び熱可塑性樹脂の原料コストの各々のバランスの点から、ポリオレフィン樹脂、変性ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂及びポリカーボネート樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
熱硬化性樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
熱硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂を硬化させた後の繊維強化プラスチックの機械物性の発現性の観点から、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、イミド系樹脂が好ましく、繊維強化プラスチックの製造の容易さの観点から、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂がより好ましい。
熱安定剤としては特に限定されず、一般的に酸化防止剤や難燃剤と呼ばれる樹脂の酸化や樹脂の熱分解等の化学反応を抑制する効果があるものであれば良い。中でも酸化反応を抑制する酸化防止剤が好ましい。
熱安定剤として、例えば、フェノール系熱安定剤、リン系熱安定剤、ヒドロキシルアミン系熱安定剤、チオエーテル系熱安定剤、銅塩系熱安定剤などが挙げられる。中でもフェノール系熱安定剤、リン系熱安定剤が好ましい。またマトリックス樹脂がポリアミド樹脂の場合は銅塩系熱安定剤が好ましい。
これらのうち、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,6−ヘキサンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌル酸が好ましい。
具体的な商品名としては、ADEKA社製のアデカスタブAOシリーズ、AO−20、AO−30、AO−40、AO−50、AO−60、AO−70、AO−80、AO−330、BASF社製のイルガノックスシリーズ、イルガノックス245、259、565、1010、1035、1076、1098、1222、1330、1425、1520、3114、5057、住友化学社製のスミライザーシリーズ、スミライザーBHT−R、MDP−S、BBM−S、WX−R、NW、BP−76、BP−101、GA−80、GM、GS、サンケミカル社製のサイアノックスCY−1790などが挙げられる。
ホスファイト系化合物の具体例としては、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−1,6−ヘキサメチレン−ビス(N−ヒドロキシエチル−N−メチルセミカルバジド)−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−1,10−デカメチレン−ジ−カルボキシリックアシッド−ジ−ヒドロキシエチルカルボニルヒドラジド−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−1,10−デカメチレン−ジ−カルボキシリックアシッド−ジ−サリシロイルヒドラジド−ジホスファイト、テトラキス[2−t(ブチル−4−チオ(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−ジ(ヒドロキシエチルカルボニル)ヒドラジド−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−N,N’−ビス(ヒドロキシエチル)オキサミド−ジホスファイトなどが挙げられる。
ホスファイト系化合物の具体的な商品名としては、ADEKA社製のアデカスタブC、PEP−4C、PEP−8、PEP−11C、PEP−24G、PEP−36、HP−10、2112、260、522A、329A、1178、1500、135A、3010、TPP、BASF社製のイルガフォス168、住友化学社製のスミライザーP−16、クラリアント社製のサンドスタブPEPQ、GE社製のウエストン618、619G、624などが挙げられる。
ヒドロキシルアミン系熱安定剤の具体的な商品名としては、BASF社製のイルガスタブ FS042等が挙げられる。
その他の添加剤としては、例えば、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、非繊維状フィラー、導電性フィラー、離型剤、界面活性剤等が挙げられ、また熱可塑性樹脂をその他の添加剤として用いても良い。
「tanδ(ave)」とは、T−30(℃)〜T−10(℃)の温度範囲(ただし、Tはマトリックス樹脂の融点、又は融点を有しないときはガラス転移温度である。)での繊維強化プラスチックの粘弾性特性tanδの平均値である。
「tanδ(max)」とは、T−10(℃)〜T+10(℃)の温度範囲での粘弾性特性tanδの最大値である。
粘弾性特性tanδは、下式(b1)で表される。
tanδ=G’’/G’ ・・・(b1)
(ただし、G’’は損失弾性率(Pa)であり、G’は貯蔵弾性率(Pa)である。)
tanδ(max)−tanδ(ave)が極端に大きい、つまりtanδ(max)が極端に大きい場合は、賦型時にマトリックス樹脂のみが流動して、マトリックス樹脂の流動に強化繊維が追随しない。この観点から、本発明の繊維強化プラスチックのtanδ(max)−tanδ(ave)は、1.5以下が好ましく、0.9以下がより好ましい。
また加えて、繊維強化プラスチックにおける強化繊維同士の絡まり合いや強化繊維同士の摩擦もtanδ(max)に影響を及ぼし、これら絡まり合いや摩擦が大きい程、tanδ(max)が小さくなる傾向がある。
またポリマーアロイのように、複数個の融点およびガラス転移温度を有する場合は、本発明のtanδ(ave)およびtanδ(max)−tanδ(ave)の範囲を満たす融点もしくはガラス転移温度Tを1つ以上有していればよい。
なお、繊維強化プラスチックのVf値は、繊維強化プラスチックにおける強化繊維、マトリックス樹脂、熱安定剤、及びその他の添加剤等のその他の成分の合計体積に対する強化繊維の体積割合を意味する。JIS K7075に基づいて測定されたVf値は繊維強化プラスチック中のボイドの存在量により変動する値であるため、本発明においてはボイドの存在量に依存しない繊維体積含有率を採用する。
本発明の繊維強化プラスチックにおける厚み方向と直交する方向への強化繊維の配向度pfは、0.001〜0.8が好ましい。pfは、繊維強化プラスチック中における厚み方向と直交する方向への強化繊維の配向状態を表す指標である。pfが「0」とは、繊維強化プラスチックの厚み方向と直交する方向に強化繊維が理想的な状態で配向していることを意味する。pfの値が大きくなるほど、厚み方向と直交する面の外方向へ向かって強化繊維が乱れている度合いが高いことを示している。
強化繊維の繊維長にもよるが、pfの値が大きいほど、強化繊維同士の絡まり合いや強化繊維同士の摩擦により、賦形時の流動性が得られにくい。すなわち、強化繊維が厚み方向と直交する面の外方向に向かって乱れているほど、強化繊維同士の絡まり合いや強化繊維同士の摩擦が起こりやすく、賦形時の流動性が得られにくい。強化繊維の平均繊維長が1mm〜100mmの場合、pfが0.8以下であれば、賦形時に優れた流動性が得られやすく、優れた機械物性の構造材が得られやすくなる。pfの下限値は、繊維強化プラスチックの物性上は特に制約はない。しかし、pfを0にすることは困難であり、0.001以上が現実的な値である。pfの上限値は、0.5が好ましく、0.3がより好ましく、0.15がさらに好ましい。
図1に示すように、厚み2mmの繊維強化プラスチック2200から幅2mmの測定試料2210を切り出して、次のように測定を実施する。
測定試料2210における幅方向をx方向、厚み方向をy方向、長さ方向をz方向とする。
測定試料2210に対してx方向にX線を照射し、黒鉛の002面の回折に由来する1次元配向プロファイルを得る。黒鉛の002面の回折に由来する1次元配向プロファイルは、2次元検出器を用いて像を取り込んだ後、解析ソフトを用いて002回折部分において周方向にプロファイルを得る方法で得られる。また、1次元検出器であれば、002回折のところで検出器を固定して、試料を360°回転させることでも、黒鉛の002面の回折に由来する1次元配向プロファイルが得られる。
次いで、得られた1次元配向プロファイルから、下式(b2)によりx方向の実測積分値Sxを算出する。
強化繊維がx方向に完全配向しているときにSxは最大の値をとる。強化繊維がx方向から傾きを持つことでSxの値は小さくなる。Sxが小さくなる要因としては、強化繊維のx方向に対する傾きにおける厚み方向の成分と、厚み方向に直交する平面内の成分がある。すなわち、強化繊維のx方向に対する傾きにおけるyz平面内の成分と、xz平面内の成分の両方が、Sxが小さくなる要因となる。pfでは、厚み方向と直交する面の外方向へ向かって強化繊維が乱れている度合いを評価するため、強化繊維の傾きにおけるxz平面内の成分の影響を除去するために、次の操作を行う。
測定試料2210に対してy方向にX線を照射し、黒鉛の002面の回折に由来する1次元配向プロファイルを得る。次いで、下式(b3)によりI(ψ)を規格化して方位角ψにおける繊維割合G(ψ)を算出する。
次いで、下式(b4)により、x方向の予測積分値Fを算出する。
強度補正係数A(ψ)は次のように求める。
補正用の標準試料として、z方向に完全に配向するように強化繊維を一方向に引き揃えた厚み2mmのUD材を作製し、これを0°材とする。標準試料に用いる強化繊維及びマトリックス樹脂は、測定試料2210と同一種とする。測定試料2210中の強化繊維の繊維体積含有率(Vf)であるVaと、補正用の標準試料中の強化繊維の繊維体積含有率(Vf)であるVbとは、同じであっても異なっていてもよい。
次いで、さらなる標準試料として、方位角ψが15°の方向に完全に配向するように強化繊維を一方向に引き揃える以外は、0°材と同様にして15°材を作製する。同様に、方位角ψが30°、45°、60°、75°、90°のそれぞれの方向に完全に配向するように強化繊維を一方向に引き揃えた30°材、45°材、60°材、75°材、90°材を作製する。
次いで、各標準試料から測定試料2210と同様に幅2mmの標準測定試料を切り出す。標準測定試料に対してx方向にX線を入射して、黒鉛の002面の回折に由来する1次元配向プロファイルを得る。90°材由来の標準測定試料の1次元配向プロファイルにおいては、強度はほぼ一定な値となる。各標準測定試料の1次元配向プロファイルから、下式(b5)により方位角ψの材料の強度I(ψ、δ)の積分値S(ψ)を算出する。
積分値S(ψ)においては、S(ψ)=S(π−ψ)の関係にある。横軸にψ、縦軸にS(ψ)をとってプロットし、ψが0°〜180°の範囲で正規分布近似したものを方位角ψにおける強度補正係数A(ψ)とする。
x方向の予測積分値Fと実測積分値Sxは必ずしも一致しない。そこで、標準試料を用いて積分値補正係数B(Sx)を算出する。
強度補正係数A(ψ)の算出と同様にして各標準試料から標準測定試料を切り出す。各標準測定試料について、前記したx方向の実測積分値の算出方法により実測積分値Sx(α)を算出する。なお、αは0°、15°、30°、45°、60°、75°、90°である。また各標準測定試料について、前記したx方向の予測積分値の算出方法により、x方向の予測積分値F(α)を求める。横軸にSx(α)、縦軸にSx(α)/F(α)をとってプロットすると高い相関があり、線形近似したものを積分補正係数B(Sx)とする。
x方向の予測積分値Fに前記積分補正係数B(Sx)を乗じて、x方向の補正の予測積分強度F’とする。
本発明の繊維強化プラスチックにおける厚み方向と直交する面の強化繊維の配向プロファイルの楕円乖離係数ecは、1×10−5〜9×10−5が好ましい。ecは、本発明の繊維強化プラスチック中の厚み方向と直交する面における強化繊維の2次元的な配向の分散性を表す指標である。ecは、前記した配向プロファイルのその近似楕円からの乖離係数である。
強化繊維がランダムに配向した繊維強化プラスチックにおいて、ecが大きいほど、機械物性のバラつきが大きいことを意味する。ecが9×10−5以下であれば、機械物性のバラつきを抑制しやすい。本発明の繊維強化プラスチックのecは、8.5×10−5以下が好ましく、8×10−5以下がより好ましい。
ecの好ましい下限値は、繊維強化プラスチックの機械物性上は特に制約はない。しかし、例えば、強化繊維の繊維長が長くなるにつれて、ecの値が小さい繊維強化プラスチックの製造の難易度は上がる。強化繊維の繊維長を長くすれば機械物性が向上するが、それに伴いecの値が増加する傾向にあり、機械物性のバラつきが増加する。機械物性とそのバラつきのバランスを考慮すると、製造上の観点から現実的な、強化繊維の平均繊維長に応じたecの好ましい下限値は以下のようになる。強化繊維の平均繊維長が1〜3mmの場合、ecは1×10−5以上が好ましい。強化繊維の平均繊維長が3mm超10mm以下の場合、ecは1.5×10−5以上が好ましい。強化繊維の平均繊維長が10mm超35mm以下の場合、ecは2×10−5以上が好ましい。強化繊維の平均繊維長が35mm超70mm以下の場合、ecは3×10−5以上が好ましい。強化繊維の平均繊維長が70mm超100mm以下の場合、ecは4×10−5以上が好ましい。
pfの測定においてx方向の予測積分値を求める際に測定した、方位角ψにおける強度I(ψ)のプロファイルを、下式(b7)で表される楕円Ia(ψ)で近似する。
Ia(ψ)がI(ψ)に最も近くなるときのa、b、βは、下式(b8)で表される楕円からの乖離度Rが最少になるように数値計算すればよい。そして、そのときの乖離度Rの最少値をecとする。
本発明の繊維強化プラスチックの厚み方向の断面における、強化繊維の分散パラメーターdpは、100〜80が好ましい。dpは、繊維強化プラスチック中における強化繊維の3次元的分散を表す指標である。dpが「100」であるとは、強化繊維が理想的な状態でマトリックス樹脂中に分散していることを意味する。dpの値が小さいほど、強化繊維が局所的に凝集している割合が高く、樹脂リッチ部分の割合が高いことを意味する。
dpの値が小さく強化繊維の分散性が悪いほど耐熱性が悪くなる。dpが80以上であれば、良好な耐熱性が得られやすい。本発明の繊維強化プラスチックのdpは、84以上がより好ましく、88以上がさらに好ましい。本発明の繊維強化プラスチックのdpの上限値は理論値には100である。製造上の観点から現実的な好ましいdpの上限値は98である。
繊維強化プラスチックの賦形時の流動性は、賦形時における樹脂の流れもしくは樹脂層の滑りにより生じる。そのため、繊維強化プラスチック中の樹脂が流動可能が経路が広いほど、賦形の際により高い流動性が得られる。すなわち、dpが小さいほど、賦形時の流動性は高い。本発明の繊維強化プラスチックにおいては、pfを前記した範囲に制御することにより、dpの値が高くても高い流動性を発現する。
dpは、繊維強化プラスチックから切り出した試料片の厚み方向の断面写真を、画像編集ソフトを用いて処理することにより測定できる。
具体的には、例えば、繊維強化プラスチックから試料片を切り出し、前記試料片の断面写真を撮影する。断面写真の撮影には、例えば、光学顕微鏡を使用できる。dpによる評価の精度がより高くなる点から、撮影時の解像度におけるドットピッチは、強化繊維の直径の10分の1以下が好ましく、20分の1以下がより好ましい。
次いで、画像編集ソフトを用いて切断写真を以下のように処理する。
切断写真において、試料片の断面における厚み方向に2mm、厚み方向に対する直交方向に1.5mmの矩形の範囲に相当する部分を処理対象画像とする。画像編集ソフトにより、処理対象画像において、強化繊維部分と、樹脂部分及びボイド部分とで2値化する。例えば、強化繊維部分が白、樹脂部分が灰色、ボイド部分が黒となっている処理対象画像において、強化繊維部分を黒、樹脂部分とボイド部分を緑として2値化する。
強化繊維の半径がr(μm)、繊維体積含有率がVf(体積%)の繊維強化プラスチックの切断面において、図2に示すように強化繊維Cが完全理論分散したときの単位正六角形Hの一辺の長さLaは、下式(b9)で求められる。
前記の画像編集ソフトによる膨張処理後、下式(b11)によりdpを算出する。
本発明の繊維強化プラスチックの厚みは、0.1〜10.0mmが好ましく、0.25〜6.0mmがより好ましく、0.4〜4.0mmがさらに好ましい。厚みが上限値以下であれば、繊維強化プラスチックの製造における加圧時にマトリックス樹脂がはみ出しにくく、厚み制御が容易である。厚みが下限値以上であれば、繊維強化プラスチックの製造における加圧時にせん断応力が掛かりやすく、強化繊維をランダム化させて機械物性の等方性や異方性をコントロールすることが容易になる。
本発明の繊維強化プラスチックの製造方法としては、tanδ(ave)及びtanδ(max)−tanδ(ave)を前記した範囲に制御しやすい点から、下記工程(i)〜(iii)を有する方法が好ましい。
(i)一方向に引き揃えた強化繊維にマトリックス樹脂が含浸され、かつ繊維軸に交差するように切込みが形成されたプリプレグ基材を含む材料(A)を得る工程。
(ii)前記材料(A)の走行方向に対する直交方向に略均一に加圧する加圧装置を用い、前記強化繊維の繊維軸の方向が前記走行方向と交差するようにして、前記材料(A)を一方向に走行させつつ、前記マトリックス樹脂の融点以上、又は融点を有しないときはガラス転移温度以上の温度Tに加熱した状態で加圧する工程。
(iii)前記加圧装置で加圧された前記材料(A)を冷却して繊維強化プラスチックを得る工程。
本発明の繊維強化プラスチックの製造方法における工程(i)では、プリプレグ基材を含む材料(A)を得る。材料(A)は、1枚のプリプレグ基材のみからなる単層の材料であってもよく、2枚以上のプリプレグ基材を積層したプリプレグ積層体であってもよい。
工程(i)で用いるプリプレグ基材は、一方向に引き揃えた強化繊維にマトリックス樹脂が含浸されたものである。プリプレグ基材には、目的の構造材の要求特性に応じて添加剤を配合してもよい。
工程(i)で用いるプリプレグ基材には、繊維軸に交差するように切込みが形成されている。これにより、前記プリプレグ基材においては、一方向に引き揃えられた繊維長の長い強化繊維が切込みによって分断され、繊維長が1〜100mmとなっている。
本発明の繊維強化プラスチックの製造方法に用いるプリプレグ基材に形成する切込みの強化繊維の繊維軸に対する角度も、特に限定されないが、強化繊維の繊維軸と切込みとがなす角度θが0°<θ<90°となる切込み(以下、切込み(b)ともいう。)と、前記角度θが−90°<θ<0°となる切込み(以下、切込み(c)ともいう。)が形成されていることが好ましい。なお、角度θは、平面視において強化繊維の繊維軸に対して反時計回りを正とする。
また、工程(i)で用いるプリプレグ基材においては、切込み(b)が強化繊維の繊維軸方向に複数形成された領域(以下、領域(B)ともいう。)と、切込み(c)が強化繊維の繊維軸方向に複数形成された領域(以下、領域(C)ともいう。)とが、強化繊維の繊維軸に直交する方向に交互に形成されていることが好ましい。このように、工程(i)で用いるプリプレグ基材では、一方向に引き揃えられた強化繊維の繊維軸方向が横方向となるように配置した状態の平面視において、左肩下がりの直線状の切込み(b)が複数形成された領域(B)と、右肩下がりの直線状の切込み(c)が複数形成された領域(C)とが、強化繊維の繊維軸に直交する方向に交互に形成されていることが好ましい。
なお、領域(B)と領域(C)とが強化繊維の繊維軸に直交する方向に交互に形成されている態様は、一列の切込み(b)からなる領域(B)と、一例の切込み(c)からなる領域(C)とが交互に形成される態様には限定されない。二列の切込み(b)からなる領域(B)と、二例の切込み(c)からなる領域(C)とが交互に形成される態様や、三列の切込み(b)からなる領域(B)と、三例の切込み(c)からなる領域(C)とが交互に形成される態様であってもよい。
領域(B)における各々の切込み(b)についての角度θは、同じであってもよく、異なっていてもよい。強化繊維の繊維軸方向のランダム化がより均一に起きやすくなる点では、領域(B)における各々の切込み(b)についての角度θは、同じであることが好ましい。
切込み(b)の長さは、特に限定されず、適宜設定できる。各々の切込み(b)の長さは、同じになっていることが好ましい。なお、各々の切込み(b)の長さは、それぞれ異なっていてもよい。
領域(B)における強化繊維の繊維軸方向の切込み(b)の数は、特に限定されず、切込みによって分断された強化繊維の長さが所望の長さとなるように適宜決定すればよい。
領域(B)における切込み(b)の列数は、1列であってもよく、2列以上であってもよい。
領域(C)における各々の切込み(c)についての角度θは、同じであってもよく、異なっていてもよい。強化繊維の繊維軸方向のランダム化がより均一に起きやすくなる点では、領域(C)における各々の切込み(c)についての角度θは、同じであることが好ましい。
強化繊維の繊維軸方向のランダム化がさらに均一に起きやすくなる点では、領域(B)における各切込み(b)の角度θの絶対値と、領域(C)における各切込み(c)の角度θの絶対値とは同じであることがより好ましい。なお、領域(B)における各切込み(b)の角度θの絶対値と、領域(C)における各切込み(c)の角度θの絶対値とは異なっていてもよいが、これらの絶対値の差はなるべく小さい方が好ましい。
切込み(c)の長さは、特に限定されず、適宜設定できる。各々の切込み(c)の長さは、同じになっていることが好ましい。なお、各々の切込み(c)の長さは、それぞれ異なっていてもよい。
切込み(c)の長さは、切込み(b)の長さと同じであることが好ましい。なお、切込み(c)の長さと切込み(b)の長さは、異なっていてもよい。
領域(C)における強化繊維の繊維軸方向の切込み(c)の数は、特に限定されず、切込みによって分断された強化繊維の長さが所望の長さとなるように適宜決定すればよい。
領域(C)における切込み(c)の列数は、1列であってもよく、2列以上であってもよい。領域(C)における切込み(c)の列数は、領域(B)における切込み(b)の列数と同じであることが好ましい。
また、領域(B)における最も領域(C)に近い切込み(b)の端部と、領域(C)における最も領域(B)に近い切込み(c)の端部とは、強化繊維の繊維軸方向において互い違いになっていることが好ましい。これにより、強化繊維の繊維軸方向のランダム化がより均一に起きやすくなる。
領域(B)における強化繊維の繊維軸に直交する方向の長さと、領域(C)における強化繊維の繊維軸に直交する方向の長さは、同じであることが好ましい。
プリプレグ基材12は、一方向に引き揃えられた強化繊維13にマトリックス樹脂14が含浸され、かつ強化繊維13の繊維軸に交差するように切込み(b)15及び切込み(c)16が形成されている。切込み(b)15は、強化繊維13の繊維軸とのなす角度θが0°<θ<90°である切込みである。切込み(c)16は、強化繊維13の繊維軸とのなす角度θが−90°<θ<0°である切込みである。
プリプレグ基材12においては、強化繊維13の繊維軸方向に形成された一列の複数の切込み(b)15からなる領域(B)17と、強化繊維13の繊維軸方向に形成された一列の複数の切込み(c)16からなる領域(C)18とが、強化繊維13の繊維軸に直交する方向に交互に形成されている。すなわち、プリプレグ基材12においては、切込み(b)15からなる列と、切込み(c)16からなる列とが、強化繊維13の繊維軸に直交する方向に交互に形成されている。
また、プリプレグ基材は、図4に例示したプリプレグ基材12Aであってもよい。
プリプレグ基材12Aは、領域(B)17の代わりに領域(B)17Aを備え、領域(C)18の代わりに領域(C)18Aを備える以外は、プリプレグ基材12と同じである。領域(B)17Aは、強化繊維13の繊維軸方向に二列の切込み(b)15が形成されている以外は、領域(B)17と同じである。領域(C)18Aは、強化繊維13の繊維軸方向に二列の切込み(c)16が形成されている以外は、領域(C)18と同じである。プリプレグ基材12Aにおいては、切込み(b)15からなる列と、切込み(c)16からなる列とが、強化繊維13の繊維軸に直交する方向に2列ごとに交互に形成されている。
なお、プリプレグ基材のVf値は、プリプレグ基材における強化繊維、マトリックス樹脂、熱安定剤、及びその他の添加剤等のその他の成分の合計体積に対する強化繊維の体積割合を意味する。JIS K7075に基づいて測定されたVf値は繊プリプレグ基材中のボイドの存在量により変動する値であるため、本発明の繊維強化プラスチックの製造方法においてはボイドの存在量に依存しない繊維体積含有率を採用する。
本発明の繊維強化プラスチックの製造方法では、プリプレグ基材の厚みが最終的に得られる構造材の強度に与える影響は小さい。
前記樹脂層に用いる樹脂としては、特に限定されず、例えば、プリプレグ基材に用いるマトリックス樹脂と同じものが挙げられる。前記樹脂層に用いるマトリックス樹脂は、プリプレグ基材に用いるマトリックス樹脂と同一の樹脂であることが好ましい。なお、前記樹脂層に用いる樹脂は、プリプレグ基材に用いるマトリックス樹脂と異なる樹脂であってもよい。
材料(A)のプリプレグ積層体の積層態様の具体例としては、例えば、2枚以上のプリプレグ基材を、各プリプレグ基材の強化繊維の繊維軸が同一方向となるように揃えて積層する態様が挙げられる。前記態様は各プリプレグ基材の強化繊維の繊維軸の方向が揃っているため、工程(ii)において各プリプレグ基材について、強化繊維の繊維軸の方向と材料(A)の走行方向とが交差するようにそれらの角度関係を制御することが容易である。
また、プリプレグ積層体を形成する各プリプレグ基材間で強化繊維の繊維軸の方向がずれている態様としてもよい。つまり、複数のプリプレグ基材を積層する際には、必ずしも各プリプレグ基材の強化繊維の繊維軸の方向が完全に揃うように各プリプレグ基材の角度を厳密に制御することは要しない。
また、積層した各プリプレグ基材間において強化繊維の繊維軸の方向にずれがある場合でも、プリプレグ積層体における積層枚数に対して66%以上のプリプレグ基材についての強化繊維の繊維軸の方向のずれは、40°以下が好ましく、10°以下がより好ましい。各プリプレグ基材間の強化繊維の繊維軸の方向のずれが小さいほど、工程(ii)において、材料(A)の走行方向と各プリプレグ基材の強化繊維の繊維軸の方向との角度関係を制御することが容易になる。
工程(ii)は、材料(A)の走行方向に対する直交方向にわたって加圧が略均一となるように、材料(A)を厚み方向に加圧できる加圧装置を用いて、材料(A)を一方向に走行させつつ、マトリックス樹脂の融点以上、又は融点を有しないときはガラス転移温度以上の温度Tに加熱した状態で加圧する。
工程(ii)では、前記加圧装置による加圧の際に、材料(A)における強化繊維の繊維軸の方向が、材料(A)の走行方向と交差するようにする。これにより、マトリックス樹脂とともに切込みによって切断された強化繊維が流動し、強化繊維の繊維軸の方向が様々な方向に変化する。その結果、材料(A)における強化繊維の繊維軸の方向がランダム化する。また、強化繊維の分散性が向上することで、tanδが低く制御されて前記範囲内とされた繊維強化プラスチックを得ることができる。加えて、熱安定剤の分散性も向上するため、優れた熱安定性を有する繊維強化プラスチックを得ることができる。
工程(ii)では、材料(A)の走行方向に対する直交方向と、材料(A)における強化繊維の繊維軸の方向がなす角度φは、−20°〜20°が好ましく、−5〜5°がより好ましい。これにより、強化繊維の繊維軸の方向がよりランダム化しやすくなり、強化繊維の分散性がより向上する。本発明の繊維強化プラスチックの製造方法における工程(ii)では、材料(A)の走行方向に対する直交方向に対して、全ての強化繊維の繊維軸方向がなす角度φが−20°〜20°となるようにすることが好ましい。
なお、前記角度φの条件は、材料(A)としてプリプレグ積層体を用いる場合には、前記プリプレグ積層体の積層枚数に対して66%以上のプリプレグ基材中の強化繊維について満たされるようにしてもよい。
工程(ii)の加圧装置として、ロールの軸線方向が材料(A)の走行方向に対する直交方向と一致する、少なくとも一対のプレスロールを備える加圧装置を用いる場合、角度θは、前記プレスロールの軸線方向と、材料(A)におけるプリプレグ基材中の強化繊維の繊維軸の方向とがなす角度に一致する。
本の発明における工程(ii)の温度Tの好ましい範囲は、プリプレグ基材に含浸したマトリックス樹脂の融点以上か、又は前記マトリックス樹脂が融点を有しないときは前記マトリックス樹脂のガラス転移温度以上の温度である。材料(A)が2種以上のマトリックス樹脂を含む場合、温度Tは、それらマトリックス樹脂の融点又はガラス転移温度のうち、最も高い温度を基準とするものとする。
温度Tは、マトリックス樹脂の種類によっても異なるが、マトリックス樹脂が溶融する範囲で、150〜450℃が好ましく、200〜400℃がより好ましい。温度Tが前記範囲であれば、マトリックス樹脂とともに強化繊維を流動させやすく、機械物性の等方性や異方性がコントロールされ、かつ機械物性のバラつきが少ない繊維強化プラスチックが得られやすい。
材料(A)を予熱する方法としては、特に限定されず、例えば、IRヒーター、循環式熱風オーブン等を用いる方法が挙げられる。
一対のプレスロールで加圧する地点でのロール直下のベルト間のクリアランスは、材料(A)の厚みに対して、30〜80%が好ましく、40〜70%がより好ましい。ベルト間のクリアランスが下限値以上であれば、材料(A)が過度に潰されて大きく変形することを抑制しやすく、目的の形状の繊維強化プラスチックが得られやすい。ベルト間のクリアランスが上限値以下であれば、強化繊維の分散性が向上し、tanδの値が小さく機械物性に優れた繊維強化プラスチックが得られやすい。なお、プレス間のクリアランスとは、加圧する際に材料(A)に接するプレス面同士の距離を意味する。例えば、ダブルベルト式加熱加圧機を用いる場合は、プレス間のクリアランスはベルト間の距離となる。一対のプレスロールで直接材料(A)を加圧する際は、プレス間のクリアランスはロール外周面同士の距離となる。
材料(A)を加圧する時間は、0.1〜30分間が好ましく、0.5〜10分間がより好ましい。
工程(ii)における材料(A)の加圧時のクリアランス、加圧時間、温度Tをコントロールすれば、得られる繊維強化プラスチックの機械物性を等方性に優れたものにするだけでなく、機械物性の異方性を所望の通りにコントロールすることができる。
工程(ii−1)では、図5に示すように、一対のプレスロール10の軸線方向は、材料(A)の走行方向に対する直交方向Xと一致している。一対のプレスロール10により、材料(A)100を一方向に走行させつつ、温度Tに加熱した状態で加圧する。このとき、材料(A)100における強化繊維110の繊維軸の方向Yが、材料(A)の走行方向と交差するように、材料(A)100の加圧を行う。
一対のプレスロールにおいては、上下のプレスロールの軸線方向は一致している。
工程(ii−1)において材料(A)を温度Tに加熱する方法としては、プレスロールとして加熱ロールを用いて、材料(A)を加熱しつつ加圧する方法が好ましい。
材料(A)を加圧する前に加熱するのみで、プレスロールで加圧するときに材料(A)が温度Tに加熱された状態が確保できる場合は、加熱機能を有さないプレスロールを用いてもよい。また、プレスロールとして用いる加熱ロールのみで材料(A)を温度Tに加熱できる場合は、予熱を行わなくてもよい。
工程(ii−1)では、一対のプレスロールを1段のみ用いてもよく、2段以上用いてもよい。工程(ii−1)において上下で対になったプレスロールを2段以上設ける場合は、全てのプレスロールの軸線方向を、材料(A)の走行方向に対する直交方向Xに一致させる。
工程(ii−1)では、材料(A)を少なくとも一対のベルトで挟持して少なくとも一対のプレスロール間を通過するように走行させながら加熱し、前記少なくとも一対のプレスロールで前記材料(A)を加圧するダブルベルト式加熱加圧機を用いることが好ましい。この場合、材料(A)とベルトの間に離型紙もしくは離型フィルムを配置するか、又はベルト表面に予め離型処理を施しておくことが好ましい。ベルトの材質としては、特に限定されず、耐熱性及び耐久性の点では、金属製が好ましい。
なお、工程(ii−1)は、前記ダブルベルト式加熱加圧機を用いて行う態様には限定されない。例えば、一対のベルトで挟持することなく帯状の材料(A)を走行させながら、前記材料(A)を一対のプレスロールで加圧する態様としてもよい。この場合には、一対のプレスロール間のクリアランスを前記した範囲内とすることが好ましい。
工程(ii)は、少なくとも一対のプレスロールを備える加圧装置を用いる態様には限定されない。例えば、平面とプレスロールでプレスする加圧装置や、平面と平面でプレスするプレス盤による加圧装置、複数の球状プレスを備える加圧装置で加圧する態様としてもよい。
工程(iii)では、工程(ii)において加圧装置で加圧された材料(A)を冷却し、繊維強化プラスチックを得る。マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合は、材料(A)の温度をマトリックス樹脂の融点未満まで、又はガラス転移温度未満まで降下させて固化させて、繊維強化プラスチックを得る。
材料(A)としてプリプレグ積層体を用いる場合、得られる繊維強化プラスチックは、各プリプレグ基材同士が接着されて一体化したシート状になっている。そのため、プリプレグ積層体を用いる場合でも、得られる繊維強化プラスチックは取扱いが容易である。
材料(A)を冷却する方法は、特に限定されず、例えば、温水ロールを用いる方法等が挙げられる。材料(A)を放冷することで冷却する方法を採用してもよい。
冷却時間は、0.5〜30分間が好ましい。
以下、工程(ii−1)及び工程(iii)を実施する態様の一例として、図6に例示したダブルベルト式加熱加圧機1(以下、単に加熱加圧機1という。)を用いる例について説明する。なお、工程(ii)及び工程(iii)を実施する態様は加熱加圧機1を用いる態様には限定されない。
加熱加圧機1は、帯状の材料(A)100を上下から挟持した状態で一方向に走行させる一対のベルト12と、材料(A)100を予熱する一対のIRヒーター14と、予熱された材料(A)100を上下から挟み込んで加圧する一対のプレスロール10を3段と、プレスロール10で加圧された材料(A)100を上下から挟み込んで冷却する一対の温水ロール16を3段と、冷却固化された繊維強化プラスチック120を巻き取る巻取りロール18と、を有している。
一対のプレスロール10は、その間を通過する材料(A)100を下流側に送り出す向きに回動しつつ、材料(A)100を加圧する。加熱加圧機1では、一対のプレスロール10の軸線方向は、供給される材料(A)100の走行方向に対する直交方向Xと一致している。一対の温水ロールは、その間を通過する材料(A)100を下流側に送り出す向きに回動しつつ、材料(A)100を冷却する。
この加熱加圧機1を用いる態様では、工程(ii−1)として、材料(A)100における強化繊維の繊維軸の方向が材料(A)100の走行方向と交差するように、帯状の材料(A)100を加熱加圧機1に連続的に供給する。具体的には、強化繊維の繊維軸の方向が長さ方向に対して交差している帯状の材料(A)100を、長さ方向に連続的に加熱加圧機1に供給する。
また、この例では、プレスロール10として加熱ロールを用いて、材料(A)100を温度Tに加熱すると同時に加圧することが好ましい。なお、IRヒーター14による予熱だけで、材料(A)100が温度Tに加熱された状態でプレスロール10により加圧できる場合は、プレスロール10では材料(A)100が加熱されずに加圧のみが行われるようにしてもよい。
次に、工程(iii)として、プレスロール10によって加圧された材料(A)100を、一対のベルト12に挟持された状態のまま一対の温水ロール16間を通過するように走行させ、温水ロール16によって冷却させることで帯状の繊維強化プラスチック120を得る。
得られた繊維強化プラスチック120は、従動ロール22の下流側において、一対のベルト12から剥離された後にガイドロール24を介して巻取りロール18に巻き取られる。
加熱加圧機1のようなダブルベルト式加熱加圧機は、材料(A)の加熱、加圧から、冷却までの一連の工程が簡便に行える点で有利である。
ウォータージェットカッターにて、各例で得た繊維強化プラスチックから直径25mmの円板を切り出し、試験体とした。
試験装置として、TAインスツルメント社製レオメーター(製品名「AR−G2」)を用いた。直径25mmのアルミニウム製の上下2枚のパラレルプレートを取り付け、マッピングを行って残留トルクを除去した。この「マッピング」を行うことで、精度の良い測定が可能となる。試験体のマトリックス樹脂の融点(マトリックス樹脂がポリプロピレンの場合は165℃、ナイロン6の場合は225℃)にてパラレルプレートギャップの0点調整を行った後、上下のパラレルプレートの下側のプレートに試験体をセットして、上側のプレートをその全面が試験体に接する位置まで下げた。このときの上下のパラレルプレートのギャップ(クリアランス)を測定時の試験体厚みとした。クリアランス一定のまま、測定開始温度である融点よりも30℃低い温度で(マトリックス樹脂がポリプロピレンの場合は135℃、ナイロン6の場合は195℃)から、下記の測定条件にて、2枚のパラレルプレートで試験体を挟んで一定の歪をかけ、そのときの応答である貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’を記録した。損失弾性率G’’を貯蔵弾性率G’で除した値をtanδとした。
(測定条件)
周波数:1Hz、
歪:0.1%、
測定温度範囲:マトリックス樹脂の融点よりも30℃低い温度〜マトリックス樹脂の融点よりも10℃高い温度(マトリックス樹脂がポリプロピレンの場合は135℃〜175℃、マトリックス樹脂がナイロン6の場合は195〜235℃)
昇温速度:2℃/分、
測定点:30秒毎(1℃毎)。
各例で得た繊維強化プラスチックの賦形時の流動性は、以下の方法で評価した。
得られた繊維強化プラスチックより、縦78mm、横78mmの板状物を切り出した。その板状物を約4mm厚になる枚数重ねて、ミニテストプレス(東洋精機製、製品名:MP−2FH)を用いて、マトリックス樹脂がポリプロピレンの場合は230℃で10分間加熱後、145℃、5MPaの条件で60秒間プレスした。またマトリックス樹脂がナイロン6の場合は290℃で10分間加熱後、200℃、5MPaの条件で60秒間プレスした。プレス成形前の初期厚みhA(mm)とプレス成形後の最終厚みhB(mm)とを測定し、初期厚みを最終厚みで除した比hA/hBにより流動性を評価した。なお、繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が軟化することで強化繊維の残留応力によって繊維強化プラスチックの厚みが増すこと、スプリングバックと呼ばれる現象がある。加熱によってスプリングバックした繊維強化プラスチックを上記条件ではプレス成形により初期厚みhA(mm)までプレスすることでできなかった場合は×と記録した。
<曲げ強度、変動係数(CV値)、80℃曲げ強度保持率の測定>
各例で得られた繊維強化プラスチックを300mm角に切り出し、これを同じ方向に(MD、TDなどが積層時に方向が同じになるように)厚さ2mm分重ねた。その積層物を300mm角で深さ15mmの印籠金型内に配置して、マトリックス樹脂がポリプロピレンの場合は200℃、マトリックス樹脂がナイロン6の場合は250℃まで加熱した後、多段プレス機(神藤金属工業所製圧縮成形機、製品名:SFA−50HH0)にてマトリックス樹脂がポリプロピレンの場合は200℃、マトリックス樹脂がナイロン6の場合は250℃の盤面により0.1MPaの圧力で両面側から2分間加熱加圧した。その後、同一の圧力で室温まで冷却し、板状の厚さ2mmの繊維強化プラスチック板を得た。得られた繊維強化プラスチック板より、湿式カッターにて長さ100mm、幅25mmの曲げ試験片を切り出し、JIS K7074に規定する試験方法に従って3点曲げ試験を行って曲げ強さを測定した。このとき、曲げ試験片の長手方向が、繊維強化プラスチック製造時のMD方向(ロールの軸線方向に対して90°の方向)と一致するもの、及びTD方向(ロールの軸線方向)と一致するもののそれぞれを各6本ずつ作製して、計12本の試験を行いその平均値を曲げ強度として記録した。試験機としてはインストロン万能試験機4465型を用いた。また、試験は室温(23℃)および80℃で実施した。さらに、室温(23℃)での曲げ強度の測定値より標準偏差を算出し、その標準偏差を平均値で除することにより、バラつきの指標である変動係数(CV値、単位:%)を算出した。
また80℃曲げ強度保持率として、比σ80℃/σRT(単位:%)を算出した。ただし、σ80℃は、80℃で測定した曲げ強度である。σRTは、室温で測定した曲げ強度である。
なお、製造時に明確なMD方向、TD方向がない比較例5〜7に関しては、任意の方向をMD方向とし、その方向と直交する方向をTD方向として評価した。
<曲げ強度、スタンピング成形前後の強度比の測定>
各例で得た繊維強化プラスチックのスタンピング後の構造材の機械物性は、以下の方法で評価した。
各例で得られた繊維強化プラスチックを180mm角に切り出し、これを同じ方向に(MD、TDなどが積層時に方向が同じになるように)厚さ6mm分重ね、マトリックス樹脂の融点よりも125℃高い温度(マトリックス樹脂がポリプロピレンの場合は290℃、マトリックス樹脂がナイロン6の場合は350℃)に設定した遠赤外線ヒーター式加熱装置(NGKキルンテック株式会社製、製品名:H7GS−71289)に投入して、5分間加熱した。310mm角で深さ40mmの印籠型(下型が凹、上型が凸)が取り付けられた300tプレス機(川崎油工株式会社製)を用いて、金型温度を90℃、成形圧力18MPaに設定して、加熱により樹脂が溶融した繊維強化プラスチックを金型の下型の中央部にチャージして1分間プレスすることにより、310mm角で厚さ2mmのスタンピング成形品(構造材)を得た。この時、繊維強化プラスチックが遠赤外線ヒーター式加熱装置から取り出されてからプレスされるまでの時間は25秒であった。
得られたスタンピング成形品(構造材)の中央部より、湿式カッターにて長さ100mm、幅25mmの曲げ試験片を切り出し、JIS K7074に規定する試験方法に従って3点曲げ試験を行った。このとき、曲げ試験片の長手方向が、繊維強化プラスチック製造時のMD方向(ロールの軸線方向に対して90°の方向)と一致するもの、及びTD方向(ロールの軸線方向)と一致するもののそれぞれを各6本ずつ作製して、計12本の試験を行いその平均値を曲げ強度σafterとして記録した。試験機としてはインストロン万能試験機4465型を用いた。
またスタンピング前後の強度比率として、比σafter/σbefore(単位:%)を算出した。ただし、σbeforeは、上記[スタンピング成形前の曲げ物性]にて室温で測定した曲げ強度である。
得られたスタンピング成形品(構造材)の表面に、強化繊維の露出や、外観の白化、樹脂の焼け・焦げがあったものを×と記録し、強化繊維の露出や、外観の白化、樹脂の焼け・焦げなく外観性に優れるものを○と記録した。
[pf、ecの評価]
上述したpfの測定方法及びecの測定方法に従い、pfとecをそれぞれ測定した。X線回折測定は、繊維試料台を備えたX線回折装置(リガク社製、TTR−III)を用い、台上に測定試料を載せ、ターゲットをCuとして行った。具体的には、測定試料の上方からX線を照射しながら、該測定試料をその厚さ方向を軸に回転させて、回折角2θ=24.5°に配置した検出器で回折X線を取り込んだ。標準試料としては、Vfが35体積%のものを用いた。
繊維強化プラスチックから3cm角の試料片を切り出し、kulzer社製テクノビット4000に埋包した。テクノビット4000が硬化した後、試料片の断面が露出するように研磨して鏡面処理した。
次いで、試料片の断面写真を以下の条件で撮影した。
(撮影条件)
装置:オリンパス社製 工業用光学顕微鏡 BX51M
レンズ倍率:500倍
撮影ドットピッチ:0.17μm
得られた断面写真において、試料片の断面における(厚さ方向×厚さ方向に対する直交方向に0.5mm)の範囲に相当する部分を処理対象画像とした。画像編集ソフトとしてソフトフェアWin−Roofを用いて、上述したdpの測定方法に従ってdpを算出した。dpの算出は、各試料片の断面における5箇所について行い、その平均値を求めた。
ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ社製ノバッテック、品番:SA06GA、MFR:60、比重0.91)を100質量部に対し、フェノール系熱安定剤(サンケミカル社製CY1790、構造式(i))を0.2質量部、リン系熱安定剤(BASF社製イルガフォス168、構造式(ii))を0.2質量部、ヒドロキシルアミン系熱安定剤(BASF社製イルガスタブ FS042、構造式(iii))を0.2質量部、予備混合した後、押出機とT−ダイにて目付が38g/m2のフィルムを作製した。
炭素繊維(三菱レイヨン社製パイロフィルCFトウ、品番:TR 50S15L、炭素繊維直径7μm、フィラメント数:15,000本、トウ目付:1.0g/m、比重1.82)を一方向に、かつ平面状に引き揃えて目付が75g/m2である繊維シートとした。
該繊維シートの両面から上記フィルムで挟み、カレンダロールを複数回通して加熱と加圧を行い、樹脂を繊維シートに含浸させ、繊維体積含有率(Vf)が33体積%、目付151g/m2、理論厚み125μmmのプリプレグ基材Aを作製した。
ポリプロピレン樹脂の代わりに酸変性ポリプロピレン樹脂(三菱化学社製モディック、品番:P958V、MFR:50、比重0.91)を用いた以外は製造例1と同様にして、プリプレグ基材Bを作製した。このプリプレグ基材Bは、繊維体積含有率(Vf)が33体積%、目付151g/m2、理論厚み125μmmである。なお、プリプレグ基材Bは熱安定剤を含有している。
ポリアミド6樹脂(宇部興産社製UBEナイロン、品番:1013B、比重1.14)を100質量部に対し、銅塩系熱安定剤(宇部興産社製1013U−M1、熱安定剤としてヨウ化銅0.3wt%含有、ヨウ化カリウム5wt%含有、ナイロン6ベースマスターバッチ)を5質量部、予備混合した後、押出機とT−ダイにて目付が48g/m2のフィルムを作製した以外は、製造例1と同様にして、プリプレグ基材Cを作製した。このプリプレグ基材Cは、繊維体積含有率(Vf)が33体積%、目付170g/m2、理論厚み125μmmである。
ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ社製ノバッテック、品番:SA06GA、MFR:60、比重0.91)のみから成るフィルムを作製した以外は、製造例1と同様にして、プリプレグ基材Dを作製した。このプリプレグ基材は、繊維体積含有率(Vf)が33体積%、目付151g/m2、理論厚み125μmmである。なお、プリプレグ基材Dは熱安定剤を含有していない。
酸変性ポリプロピレン樹脂(三菱化学社製モディック、品番:P958V、MFR:50、比重0.91)のみから成るフィルムを作製した以外は、製造例2と同様にして、プリプレグ基材Eを作製した。このプリプレグ基材は、繊維体積含有率(Vf)が33体積%、目付151g/m2、理論厚み125μmmである。なお、プリプレグ基材Eは酸化防止剤を含有していない。
フィルム目付を29g/m2とし、繊維シート目付を110g/m2とした以外は、製造例2と同様にして、プリプレグ基材Fを作製した。このプリプレグ基材は、繊維体積含有率(Vf)が49体積%、目付167g/m2、理論厚み123μmmである。なお、プリプレグ基材Fは熱安定剤を含有していない。
ポリアミド6樹脂(宇部興産社製UBEナイロン、品番:1013B、比重1.14)のみから成るフィルムを作製した以外は、製造例3と同様にして、プリプレグ基材Gを作製した。このプリプレグ基材は、繊維体積含有率(Vf)が33体積%、目付170g/m2、理論厚み125μmmである。なお、プリプレグ基材Gは熱安定剤を含有していない。
製造例1で得たプリプレグ基材Aから、300mm(繊維軸に対して0゜方向)×900mm(繊維軸に対して90゜方向)の矩形のプリプレグ基材を切り出した。カッティングプロッター(レザック製L−2500カッティングプロッター)を用いて、該プリプレグ基材に強化繊維を切断する深さの切込みを入れ、切込入りプリプレグ基材を得た。切込み加工は、図5に示すように、強化繊維の繊維軸と切込みとがなす角度θが+45°となる切込み(b)が強化繊維の繊維軸方向に一列に複数形成された領域(B)と、角度θが−45°となる切込み(c)が強化繊維の繊維軸方向に一列に複数形成された領域(C)とが、強化繊維の繊維軸に直交する方向に交互に成形されるように実施した。角度θは平面視で強化繊維の繊維軸に対して反時計回りを正とした。切込みによって分断された強化繊維の繊維長は25mmであった。
該切込入りプリプレグ基材を、強化繊維の繊維軸が同一方向となるように4枚積層してプリプレグ積層体を得た。該プリプレグ積層体の厚みは0.5mmであった。
上下のベルトが1.0m/分で駆動する図6で例示したダブルベルト式加熱加圧機に、プリプレグ積層体の走行方向に対する直交方向(プレスロールの軸線方向)に対してプリプレグ積層体における強化繊維の繊維軸方向がなす角度φが0°となるように、かつ各プリプレグ積層体の前後で隙間ができないように、複数のプリプレグ積層体を連続的に投入した。該ダブルベルト式加熱加圧機では、ロール温度270℃、ロール直下のベルト間クリアランス300μmの条件の2段式のプレスロールにより、プリプレグ積層体を加熱して熱可塑性樹脂を溶融させた状態で加圧した。その後、ロール温度30℃、ロール直下のベルト間クリアランス300μmの条件の1段式の温水ロールを備えた1.5mの冷却区間を通過させ、熱可塑性樹脂を固化させて繊維強化プラスチックを得た。なお、プリプレグ積層体の見かけ上の走行速度は、ベルトの駆動速度と同じである。
得られた繊維強化プラスチックの厚さは0.5mmであり、目付は600g/m2であった。
加熱および冷却時のロール直下のベルト間クリアランスを400μmとした以外は実施例1と同様にして、繊維強化プラスチックを得た。得られた繊維強化プラスチックの厚さは0.5mmであり、目付は600g/m2であった。
製造例2で得たプリプレグ基材Bを用いた以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。得られた繊維強化プラスチックの厚さは0.5mmであり、目付は600g/m2であった。
製造例3で得たプリプレグ基材Cを用いて、加熱加圧時のロール温度を380℃として、ベルト駆動速度を0.8m/分とした以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。得られた繊維強化プラスチックの厚さは0.5mmであり、目付は680g/m2であった。
加熱および冷却時のロール直下のベルト間クリアランスを400μmとした以外は実施例4と同様にして、繊維強化プラスチックを得た。得られた繊維強化プラスチックの厚さは0.5mmであり、目付は680g/m2であった。
製造例4で得たプリプレグ基材Dを用いた以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。得られた繊維強化プラスチックの厚さは0.5mmであり、目付は670g/m2であった。
製造例5で得たプリプレグ基材Eを用いた以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。得られた繊維強化プラスチックの厚さは0.5mmであり、目付は600g/m2であった。
製造例6で得たプリプレグ基材Fを用いて、ベルト駆動速度を0.5m/minとした以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。得られた繊維強化プラスチックの厚さは0.5mmであり、目付は600g/m2であった。
製造例7で得たプリプレグ基材Gを用いた以外は、実施例4と同様にして繊維強化プラスチックを得た。得られた繊維強化プラスチックの厚さは0.5mmであり、目付は680g/m2であった。
比較例5では前記方法(I)にて繊維強化プラスチックを作製する。
製造例6で得たプリプレグ基材Eから、300mm角のプリプレグ基材を切り出し、カッティングプロッタ(レザック社製、製品名:L−2500)を用いて、一定間隔で直線状の切込みを入れて切込入りプリプレグ基材を得た。切込み加工は、プリプレグ基材における周縁から5mmの部分よりも内側の部分に、炭素繊維の繊維長が25.0mm、切込みの長さが20.0mm、強化繊維の繊維軸と切込みとのなす角度θが全て+45°となるように施した。16枚の切込入りプリプレグ基材を、各切込入りプリプレグ基材の繊維方向が、上から0°/45°/90°/−45°/−45°/90°/45°/0°/0°/45°/90°/−45°/−45°/90°/45°/0°となるように積層した。積層した切込入りプリプレグ基材同士を、超音波溶着機(日本エマソン社製、製品名:2000LPt)でスポット溶接して、疑似等方([0/45/90/−45]s2)のプリプレグ積層体を作製した。
前記プリプレグ積層体を、300mm角で深さ15mmの印籠金型内に配置して、200℃まで加熱した後、多段プレス機(神藤金属工業所製圧縮成形機、製品名:SFA−50HH0)にて200℃の盤面により0.1MPaの圧力で2分間加熱加圧した。その後、同一の圧力で積層体を室温まで冷却し、板状の厚さ2mmの繊維強化プラスチックを得た。
比較例6では前記方法(II)にて繊維強化プラスチックを作製する。
製造例6で得られたプリプレグ基材Fを、幅15.0mmの帯状にスリットした後、ギロチン方式の裁断機を用いて、長さ25.0mmに連続的に裁断し、繊維長が25.0mmのチョップドストランドプリプレグを得た。得られたチョップドストランドプリプレグを244g計量し、300mm角で深さ15mmの印籠金型内に、高さ30cmのところから一枚一枚自由落下させて、繊維配向がランダムになるように積層させた。
チョップドストランドプリプレグが積層された印籠金型を、200℃まで加熱した後、多段プレス機(神藤金属工業所製圧縮成形機、製品名:SFA−50HH0)にて200℃の盤面により0.1MPaの圧力で2分間加熱加圧した。その後、同一の圧力で積層体を室温まで冷却し、板状の厚さ2mmの繊維強化プラスチックを得た。
比較例7では前記方法(III)にて繊維強化プラスチックを作製する。
ロータリーカッターを用いて、炭素繊維(三菱レイヨン製パイロフィルTR 50S)を6mmにカットして、チョップド炭素繊維を得た。同様に、酸変性ポリプロピレン樹脂(三菱化学製モディックP958V、MFR50)からなる繊維を3mmにカットして、チョップドポリプロピレン繊維を得た。質量濃度0.12%のポリエチレンオキシド水溶液110kgに対し、チョップドポリプロピレン繊維0.74kgを投入し、撹拌機を用いて充分に撹拌した。続いて、チョップド炭素繊維を0.37kg投入して、10秒間撹拌して、分散液を得た。得られた分散液を100cm角のメッシュ枠に流し込み、ポリエチレンオキシド水溶液をろ過した後、120℃の乾燥機内にて水分を完全に除いて、繊維体積含有率20体積%(繊維質量含有率33質量%)で目付が1.11kg/m2のプリプレグ基材を得た。得られたプリプレグ基材を30cm角に切り出し、2枚重ねてプリプレグ積層体を得た。該プリプレグ積層体を、300mm角で深さ15mmの印籠金型内に配置して、200℃まで加熱した後、多段プレス機(神藤金属工業所製圧縮成形機、製品名:SFA−50HH0)にて200℃の盤面により0.1MPaの圧力で2分間加熱加圧した。その後、同一の圧力でプリプレグ積層体を室温まで冷却し、板状の厚さ2mmの繊維強化プラスチックを得た。
12、12A:プリプレグ基材
13:強化繊維
14:マトリックス樹脂
15:切込み(b)
16:切込み(c)
17、17A:領域(B)
18、18A:領域(C)
110:プレスロール
112:ベルト
114:IRヒーター
116:温水ロール
118:巻取りロール
120:駆動ロール
122:従動ロール
124:ガイドロール
1100:材料(A)
1110:強化繊維
1120:繊維強化プラスチック
X:材料(A)の走行方向に対する直交方向
Y:強化繊維の繊維軸方向
Claims (4)
- 強化繊維とマトリックス樹脂を含む繊維強化プラスチックであって、
少なくとも1種以上の熱安定剤を含有し、
前記強化繊維が炭素繊維を含み、前記炭素繊維の平均繊維長が1〜100mmであり、
T−30(℃)〜T−10(℃)の温度範囲(ただし、Tは前記マトリックス樹脂の融点、又は融点を有しないときはガラス転移温度である。)での繊維強化プラスチックの下式(1)で表される粘弾性特性tanδの平均値をtanδ(ave)、T−10(℃)〜T+10(℃)の温度範囲での前記粘弾性特性tanδの最大値をtanδ(max)としたとき、tanδ(ave)が0.01〜0.25であり、tanδ(max)−tanδ(ave)が0.15以上である、繊維強化プラスチック。
tanδ=G’’/G’ ・・・(1)
ただし、前記式(1)中の記号は以下の意味を示す。
G’’:損失弾性率、
G’:貯蔵弾性率。 - 前記熱安定剤がフェノール系熱安定剤および/またはリン系熱安定剤である、請求項1に記載の繊維強化プラスチック。
- 前記マトリックス樹脂がポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑樹脂を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック。
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