以下に、本発明の好ましい形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図においては、各構成要素を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、構成要素毎に縮尺を異ならせてあるものであり、本発明は、これらの図に記載された構成要素の数量、構成要素の形状、構成要素の大きさの比率、及び各構成要素の相対的な位置関係のみに限定されるものではない。
図1に示す本実施形態の自動操舵システム100は、車両に搭載され、当該車両が備える操舵装置1の動作を制御する装置である。操舵装置1は、例えば電動アクチュエータを備え、電動アクチュエータの出力により車両の舵角を変更する電動パワーステアリング装置である。自動操舵システム100は、操舵装置1を制御することにより、車両の自動運転機能および運転支援機能における自動操舵を実行する。
自動操舵システム100は、操舵支援装置10、操舵制御装置20および制駆動力制御装置30を備える。また、車両は、操舵装置1、制駆動力分配装置2、状態量検出装置3、報知部4および通信ネットワーク5を備える。
本実施形態では一例として、操舵支援装置10、操舵制御装置20および制駆動力制御装置30は、通信ネットワーク5に接続されており、当該通信ネットワーク5を介して互いにデータ通信を行う。
制駆動力分配装置2は、車両の左右輪における制動力差および駆動力差の少なくとも一方を発生する。制駆動力分配装置2の動作は、後述する制駆動力制御装置30によって制御される。制駆動力分配装置2によって左右輪における制動力差または駆動力差が発生すると、車両にはヨーモーメントが付加される。制駆動力分配装置2は、横滑り防止装置を構成するものであり、制駆動力分配装置2の構成は公知であるため、詳細な説明は省略する。
状態量検出装置3は、車両の状態量を検出する複数のセンサからなる。車両の状態量には、車両の速度である車速V、車両の前後方向の加速度α、車両のヨー方向の角速度であるヨーレートYawr、および操舵装置1の舵角が少なくとも含まれる。すなわち、状態量検出装置3は、車速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサおよび舵角センサを少なくとも含む。これらのセンサは公知の技術であるため、詳細な説明は省略する。なお、車両の前後方向の加速度αは、車速Vから算出可能であるため、状態量検出装置3は、加速度センサを備えていなくともよい。
状態量検出装置3の一部または全部は、自動操舵システム100に含まれていてもよい。本実施形態では一例として、制駆動力制御装置30が備えるヨーレートセンサ3aが、状態量検出装置3の一部を構成している。
状態量検出装置3から出力される状態量の情報は、後述する操舵支援装置10、操舵制御装置20および制駆動力制御装置30に入力される。状態量検出装置3と操舵支援装置10、操舵制御装置20および制駆動力制御装置30との間の通信は、車両が備える通信ネットワーク5を経由して行われる。なお、状態量検出装置3と操舵支援装置10、操舵制御装置20および制駆動力制御装置30との間の通信は、通信ネットワーク5を用いずに専用の通信ケーブルを用いて行われてもよい。
報知部4は、例えば画像や文字を表示する表示装置、光を発する発光装置、音を発するスピーカ、振動を発するバイブレータ、またはこれらの組み合わせ等、を含み、自動操舵システム100から運転者に対して情報を出力する。
操舵支援装置10は、地図情報認識装置11、外部認識装置12、第1操舵指示値演算部13、および第1異常診断部15を備える。
地図情報認識装置11は、衛星測位システム(GNSS)、慣性航法装置および路車間通信の少なくとも一つを用いて車両の現在位置(緯度、経度)を検出する測位装置11aと、地図情報を記憶する地図情報記憶部11bと、を備える。地図情報には、道路の曲率、縦断面勾配、他の道路との交差の様子等の道路の形状を示す情報が含まれる。
地図情報認識装置11は、測位装置11aにより検出された車両の現在位置と、地図情報記憶部11bが記憶している地図情報と、に基づいて、車両前方の走行路の形状を認識する。
外部環境認識装置12は、車両の外部環境を認識するセンサからの情報に基づいて車両前方の走行路の形状や、走行路上および走行路の周囲に存在する物体の位置を認識し、これらの情報を外部環境情報として出力する。
外部環境認識装置12は、例えば車両前方を視野内に収めるステレオカメラを備え、ステレオカメラによって撮像された画像に既知の画像処理等を施すことによって、車両前方の環境を認識する。具体的には、外部環境認識装置12は、車両の走行路に沿って路面上に設けられた線状標示や路面上の他車両、歩行者等を認識する。線状標示とは、車両通行帯を示すために車両通行帯の左右の境界に沿って路面上に形成された線状や破線状の道路標示である。ステレオカメラを用いた車両前方の環境を認識する装置は公知であるため、詳細な構成の説明を省略する。なお、外部環境認識装置12は、カメラの他にレーダーまたはレーザーレーダを用いる形態であってもよい。
第1操舵指示値演算部13は、CPU、ROM、RAM、入出力装置等がバスに接続されたコンピュータより構成されている。第1操舵指示値演算部13は、地図情報認識装置11から出力される地図情報および外部環境認識装置12により認識される外部環境情報の少なくとも一方に基づいて、車両を走行させる走行路の形状である目標進路形状を算出する。
また、第1操舵指示値演算部13は、車両の自動操舵時において、地図情報認識装置11または外部環境認識装置12により認識される目標進路形状に対する状態量(ヨー角度偏差や横位置偏差等)と、状態量検出装置3により検出される状態量に基づいて、目標進路形状に沿って車両を走行させるために操舵装置1に出力する制御データである第1操舵指示値を算出する。第1操舵指示値は、車両が目標進路形状に沿って走行するように、操舵装置1が実行すべき操舵の目標値となる情報である。第1操舵指示値は、本実施形態では一例として、操舵装置1が変更すべき目標舵角の値である。なお、第1操舵指示値は、操舵装置1が備える電動アクチュエータが発生すべき操舵トルクの値等であってもよい。
第1操舵指示値演算部13から出力された第1操舵指示値は、後述する操舵制御装置20に入力される。
また、第1操舵指示値演算部13は、地図情報および外部環境情報の少なくとも一方に基づいて、現在から所定時間後であるA秒後までに車両を走行させる目標進路形状である将来進路形状の情報を算出する。所定の時間Aは、例えば5秒程度である。第1操舵指示値演算部13は、将来進路形状の情報を、後述する操舵制御装置20および制駆動力制御装置30に出力する。
なお、将来進路形状の算出は、後述する操舵制御装置20および制駆動力制御装置30において行われてもよい。この場合には、操舵支援装置10は、将来進路形状の算出に必要な情報である地図情報および外部環境情報を、操舵制御装置20および制駆動力制御装置30の双方に出力する。
第1異常診断部15は、自動操舵時において、操舵支援装置10の制御に基づく操舵制御装置20による車両の舵角変更動作が不可能となる操舵制御異常状態の発生を検出する。操舵制御異常状態は、操舵装置1および操舵制御装置20の少なくとも一方が故障している状態である。
第1異常診断部15が、操舵制御異常状態の発生を検出する方法は特に限定されるものではない。本実施形態では一例として、第1異常診断部15は、操舵制御装置20から自らの動作に障害が発生していることを示す情報が出力されている場合、または第1操舵指示値に基づくヨーレートの発生を状態量検出装置3により検出できない場合、において、操舵制御異常状態が発生していると判定する。
本実施形態の第1操舵指示値演算部13は、第1異常診断部15により操舵制御異常状態の発生が検出されている場合において、ヨーレート指示値の情報を算出し、制駆動力制御装置30に出力する。ヨーレート指示値は、車両を舵角の変更を行わずに目標進路形状に沿って走行させるために制駆動力分配装置2が車両に発生させるべきヨーレートの値である。第1操舵指示値演算部13は、ヨーレート指示値を、目標進路形状に対する状態量(ヨー角度偏差や横位置偏差等)と、状態量検出装置3により検出される状態量に基づいて算出する。
操舵制御装置20は、CPU、ROM、RAM、入出力装置等がバスに接続されたコンピュータより構成されている。操舵制御装置20は、記憶部22、第2異常診断部23、指示値演算部24および切替部25を備える。また、操舵制御装置20は、操舵装置1に電気的に接続されている。操舵制御装置20が備えるこれらの構成は、個々の機能を実行する別個のハードウェアとして実装されていてもよいし、所定のプログラムをCPUが実行することによって個々の機能が達成されるようにソフトウェア的に実装されていてもよい。
記憶部22は、現在から所定時間であるA秒後までに車両を走行させる目標進路形状である将来進路形状と、現在の状態量とを記憶する。現在の状態量とは、状態量検出装置3から出力された最新の状態量のデータのことである。記憶部22が記憶する車両の状態量には、車両の速度である車速V、車両の前後方向の加速度α、車両のヨー方向の角速度であるヨーレートYawr、および操舵装置1の舵角、が少なくとも含まれる。
記憶部22が記憶する将来進路形状および状態量は、所定の周期で常に更新される。なお、将来進路形状の更新周期と、状態量の更新周期とは同一であってもよいし異なっていてもよい。
第2異常診断部23は、自動操舵時において、通信ネットワーク5が故障している通信ネットワーク異常状態の発生の検出と、自動操舵時において、操舵支援装置10が故障している操舵指示異常状態の発生の検出と、を行う。
ネットワーク異常状態は、通信ネットワーク5を介したデータ通信が不可能な状態である。操舵指示異常状態は、操舵支援装置10から自らの動作に障害が発生していることを示す情報が出力されている状態か、もしくは操舵支援装置10とのデータ通信ができない状態である。また操舵指示異常状態では、操舵装置1、状態量検出装置3、通信ネットワーク5、操舵制御装置20および制駆動力制御装置30は正常に動作している状態である。
すなわち、ネットワーク異常状態である場合には、操舵制御装置20は、操舵支援装置10から出力される第1操舵指示値および将来進路形状の情報の受信と、状態量検出装置3から出力される状態量の情報の受信が不可能となる。また、操舵指示異常状態である場合には、操舵制御装置20は、操舵支援装置10から出力される第1操舵指示値および将来進路形状の情報の受信が不可能であるが、状態量検出装置3から出力される状態量の情報の受信が可能である。
指示値演算部24は、車両の自動操舵時において、第2異常診断部23によりネットワーク異常状態または操舵指示異常状態であることが検出されている場合に、記憶部22に記憶されている将来進路形状に沿って車両を走行させるために操舵装置1に出力する指示値を算出する。
詳細には、指示値演算部24は、自動操舵時において、操舵指示異常状態である場合には、状態量検出装置3から入力される状態量および記憶部22に記憶されている将来進路形状に基づいて、将来進路形状に沿って車両を走行させるために操舵装置1に出力する第2操舵指示値を算出する。
また、指示値演算部24は、自動操舵時において、ネットワーク異常状態である場合には、記憶部22に記憶されている最新の状態量および将来進路形状に基づいて、将来進路形状に沿って前記車両を走行させるために操舵装置1に出力する第3操舵指示値を算出する。
切替部25は、自動操舵時において、ネットワーク異常状態または操舵指示異常状態ではない場合には、操舵支援装置10から出力される第1操舵指示値に基づいて操舵装置1を制御し、操舵指示異常状態である場合には、指示値演算部24から出力される第2操舵指示値に基づいて操舵装置1を制御し、ネットワーク異常状態である場合には、指示値演算部24から出力される第3操舵指示値に基づいて操舵装置1を制御する。
すなわち、自動操舵システム100は、操舵支援装置10、状態量検出装置3および通信ネットワーク5の動作が正常である場合には、操舵支援装置10が算出する第1操舵指示値に基づいて車両の自動操舵を行う。
また、自動操舵システム100は、車両の自動操舵時において、操舵支援装置10に障害が発生し、通信ネットワーク5および状態量検出装置3の動作は正常である操舵指示異常状態となった場合には、操舵制御装置20が備える指示値演算部24が算出する第2操舵指示値に基づいて車両の自動操舵を行う。
また、自動操舵システム100は、車両の自動操舵時において、通信ネットワーク5に障害が発生した場合であるネットワーク異常状態では、操舵制御装置20が備える指示値演算部24が算出する第3操舵指示値に基づいて車両の自動操舵を行う。
次に、操舵制御装置20の自動操舵に関する動作について図2に示すフローチャートを参照して説明する。操舵制御装置20は、図2に示す処理を車両の走行時に実行する。
操舵制御装置20は、まずステップS100において、車両の運転者による、自動操舵を開始する指示操作が入力されるまで待機する。操舵制御装置20は、運転者による自動操舵を開始する指示操作が入力されたと判定した場合に、ステップS110以降の処理を開始する。
以下の説明では、時間を変数tで表し、現在時刻をt=0であるとする。また、車両の速度である車速を時間の経過とともに変化する変数V(t)とし、車両の前後方向の加速度を時間の経過とともに変化する変数α(t)とし、車両のヨー方向の角速度であるヨーレートを時間の経過とともに変化する変数Yawr(t)とする。また、目標進路形状に対する車両位置の車幅方向のずれ量である横位置偏差を、時間の経過とともに変化する変数ErrX(t)とし、目標進路形状に対する車両の向きのヨー方向のずれ量であるヨー角度偏差を、時間の経過とともに変化する変数ErrYaw(t)とする。
ステップS110では、操舵制御装置20は、記憶部22による、将来進路形状および車両の現在の状態量の記憶と当該記憶内容の更新を開始する。前述のように、将来進路形状は、現在から所定時間後であるA秒後まで車両を走行させるための目標進路形状である。また、状態量は、車両の速度である車速V(0)、車両の前後方向の加速度α(0)、車両のヨー方向の角速度であるヨーレートYawr(0)、および操舵装置1の舵角が少なくとも含まれる。
また、本実施形態では一例として、記憶部22は、車両の速度である車速V(0)、車両の前後方向の加速度α(0)、車両のヨー方向の角速度であるヨーレートYawr(0)、目標進路形状に対する現在の車両のずれを表す横位置偏差ErrX(0)およびヨー角度偏差ErrYaw(0)を記憶する。位置偏差ErrX(0)およびヨー角度偏差ErrYaw(0)は、操舵支援装置10において算出される値であり、操舵制御装置20に入力される。記憶部22が記憶する情報は、車両が走行中であれば常に変化するため、正常状態である場合には常に更新され続ける。
次に、ステップS120において、操舵制御装置20は、操舵支援装置10が備える第1操舵指示値演算部13が算出する第1操舵指示値に基づき操舵装置1を制御する自動操舵を開始する。操舵支援装置10による自動操舵の制御は、公知の技術と同様であるため詳細な説明は省略する。概略的には、操舵支援装置10の第1操舵指示値演算部13は、地図情報認識装置11および外部認識装置12による最新の認識結果に基づいて目標進路形状を決定し、地図情報認識装置11および外部認識装置12により認識される目標進路形状に対する自車両のヨー角度偏差および横位置偏差等の情報と、車両の状態量と、に基づくフィードフォワード制御およびフィードバック制御により、第1操舵指示値を算出する。
第1操舵指示値に基づく自動操舵を開始した後は、操舵制御装置20は、正常状態であれば、運転者による自動操舵を終了する指示操作が入力されるまで自動操舵を継続する(ステップS150のYES)。
そして、操舵制御装置20は、自動操舵の実行中において、異常検出部23によりネットワーク異常状態であることが検出された場合(ステップS130のYES)には、ステップS200へ移行する。
ステップS200では、操舵制御装置20は、障害が発生し、自動操舵をA秒後に終了することを報知部4を介して運転者に知らせる。ステップS210では、操舵制御装置20は、指示値演算部24が算出する第3操舵指示値に基づいて操舵装置1を制御する自動操舵を、ネットワーク異常状態の発生検出からA秒間だけ継続する。
指示値演算部24による、第3操舵指示値の算出方法の概要を図3に示す。以下では、時刻t=T1においてネットワーク異常状態が発生したものとし、時刻T1からの経過時間をδTとする。
ネットワーク異常状態は操舵指示装置10および状態量検出装置3の双方と操舵制御装置20との間の通信が途絶した状態であることから、ネットワーク異常状態の発生後は、記憶部22に記憶されている将来進路形状、横位置偏差ErrX(t)およびヨー角度偏差ErrYaw(t)の値と、車両の状態量が更新されなくなる。したがって、ネットワーク異常状態の発生後は、記憶部22には、時刻T1における将来進路形状と、時刻T1における横位置偏差ErrX(T1)およびヨー角度偏差ErrYaw(T1)と、時刻T1における状態量が記憶されている。時刻T1における状態量は、車速V(T1)、加速度α(T1)およびヨーレートYawr(0)である。図3における破線の矩形枠で囲んだ値は、記憶部22に記憶されている値である。
ネットワーク異常状態の発生時には、指示値演算部24は、ネットワーク異常状態の発生時(t=T1)に記憶部22に記憶した将来進路形状および車両の状態量と、ネットワーク異常状態の発生からの経過時間δtと、に基づいて、目標進路の曲率Ce(0)を推定する。具体的には、指示値演算部24は、ネットワーク異常状態の発生時の車速V(T1)および加速度α(T1)と、経過時間δtとに基づいて、車両の現在の車速Ve(0)を推定する。そして、現在から過去δt秒間の推定車速Ve(0)の積分値から走行距離を算出し、記憶している将来進路形状上における車両の現在位置を推定し、この現在位置と将来進路形状から目標進路の曲率Ce(0)を推定する。
そして、指示値演算部24は、目標ヨーレート算出部において、現在の推定車速Ve(0)と目標進路の推定曲率Ce(0)に基づき、車両のヨー角度を目標進路に沿ったヨー角度に変更させるために必要な目標ヨーレートを算出する。目標ヨーレートは、現在の推定車速Ve(0)と目標進路の推定曲率Ce(0)により算出される値である。
また、指示値演算部24は、ネットワーク異常状態の発生時(t=T1)において目標進路に対する現在の車両の車幅方向のずれである横位置偏差ErrX(T1)や目標進路に対する現在の車両のヨー方向の角度ずれであるヨー角度偏差ErrYaw(T1)が所定の値を超えていた場合には、車両を将来進路上に復帰させるために必要な修正ヨーレートを、修正ヨーレート算出部において、横位置偏差ErrX(T1)およびヨー角度偏差ErrYaw(T1)を用いて算出する。すなわち、修正ヨーレートは、例えば、路面のカントや横風等の外乱に起因する車両の目標進路からのずれを補償するためのものである。
そして、指示値演算部24は、目標ヨーレートおよび修正ヨーレートを加算し、この結果に基づいて、第1目標舵角算出部において第1目標舵角を算出する。なお、第1目標舵角の算出には、あらかじめ設定された車両の運動特性と実際の車両の運動特性とのずれを補正するための舵角補正ゲインが加味される。
そして、指示値演算部24は、第1目標舵角を第3操舵指示値として出力する。すなわち、ネットワーク異常状態の発生時において自動操舵に用いられる第3操舵指示値は、記憶部22に記憶された将来進路形状と車両の状態量の情報に基づき操舵装置1をフィードフォワード制御するための第1目標舵角の成分のみを含む。第3操舵指示値には、操舵装置1をフィードバック制御するための成分が含まれていない。
ネットワーク異常状態の発生時において記憶部22に記憶されている将来進路形状の情報は、所定の時間(A秒間)内のものであるため、ネットワーク異常状態の発生からA秒後に、指示値演算部24は第3操舵指示値の算出を終了する。
図2のフローチャートに戻り、操舵制御装置20は、自動操舵の実行中において、異常検出部23により操舵指示異常状態であることが検出された場合(ステップS140のYES)には、ステップS300へ移行する。
ステップS300では、操舵制御装置20は、障害が発生し、自動操舵をA秒後に終了することを報知部4を介して運転者に知らせる。ステップS310では、操舵制御装置20は、指示値演算部24が算出する第2操舵指示値に基づいて操舵装置1を制御する自動操舵を、ネットワーク異常状態の発生検出からA秒間だけ継続する。
指示値演算部24による、第2操舵指示値の算出方法の概要を図4に示す。以下では、時刻t=T1において操舵指示異常状態が発生したものとし、時刻T1からの経過時間をδTとする。
操舵指示異常状態は操舵支援装置10と操舵制御装置20との間の通信が途絶した状態であることから、操舵指示異常状態の発生後は、記憶部22に記憶されている将来進路形状と、横位置偏差ErrX(t)およびヨー角度偏差ErrYaw(t)の値が更新されなくなる。したがって、操舵指示異常状態の発生後は、記憶部22には、時刻T1における将来進路形状と、時刻T1における横位置偏差ErrX(T1)およびヨー角度偏差ErrYaw(T1)が記憶されている。図4における破線の矩形枠で囲んだ値は、記憶部22に記憶されている値である。
操舵指示異常状態の発生時には、指示値演算部24は、操舵指示異常状態の発生時(t=T1)に記憶部22に記憶した将来進路形状と、操舵指示異常状態の発生からの経過時間δtと、現在の車速V(0)と、に基づいて、目標進路の曲率Ce(0)を推定する。具体的には、指示値演算部24は、現在から過去δt秒間の車速の積分値から走行距離を算出し、記憶している将来進路形状上における車両の現在位置を推定し、この現在位置と将来進路形状から目標進路の曲率Ce(0)を推定する。
そして、指示値演算部24は、目標ヨーレート算出部において、現在の車速V(0)と目標進路の推定曲率Ce(0)に基づき、車両のヨー角度を目標進路に沿ったヨー角度に変更させるために必要な目標ヨーレートを算出する。目標ヨーレートは、現在の車速V(0)と目標進路の推定曲率Ce(0)により算出される値である。
また、指示値演算部24は、操舵指示異常状態の発生時(t=T1)において目標進路に対する現在の車両の車幅方向のずれである横位置偏差ErrX(T1)や目標進路に対する現在の車両のヨー方向の角度ずれであるヨー角度偏差ErrYaw(T1)が所定の値を超えていた場合には、車両を将来進路上に復帰させるために必要な修正ヨーレートを、修正ヨーレート算出部において、横位置偏差ErrX(T1)およびヨー角度偏差ErrYaw(T1)を用いて算出する。すなわち、修正ヨーレートは、例えば、路面のカントや横風等の外乱に起因する車両の目標進路からのずれを補償するためのものである。
そして、指示値演算部24は、目標ヨーレートおよび修正ヨーレートを加算し、この結果に基づいて、第1目標舵角算出部において第1目標舵角を算出する。なお、第1目標舵角の算出には、あらかじめ設定された車両の運動特性と実際の車両の運動特性とのずれを補正するための舵角補正ゲインが加味される。
また、指示値演算部24は、目標ヨーレートおよび修正ヨーレートを加算した値と、現在の車両の状態量であるヨーレートYawr(0)とに基づき、第2目標舵角算出部において、車両のヨー角度を目標進路に沿ったヨー角度となるようにフィードバック制御する第2目標舵角を算出する。
指示値演算部24は、第1目標舵角および第2目標舵角を加算した値を第2操舵指示値として出力する。すなわち、操舵指示異常状態の発生時において自動操舵に用いられる第2操舵指示値は、記憶部22に記憶された将来進路形状と現在の車速V(0)に基づき操舵装置1をフィードフォワード制御するための第1目標舵角の成分と、現在の車両のヨーレートYawr(0)の値に基づき操舵装置1をフィードバック制御するための第2目標舵角の成分と、を含む。
操舵指示異常状態の発生時において記憶部22に記憶されている将来進路形状の情報は、所定の時間(A秒間)内のものであるため、操舵指示異常状態の発生からA秒後に、指示値演算部24は第2操舵指示値の算出を終了する。
以上に説明したように、本実施形態の操舵制御装置20は、自動操舵時において、現在から所定の時間後の将来までに車両が走行する道路の形状に応じた将来進路形状と、車両の車速等の状態量を記憶部22に記憶する。
そして、地図情報認識装置11および外部認識装置12を備える操舵支援装置10と、操舵装置1を制御する操舵制御装置20との間の通信が途絶する操舵指示異常状態が発生した場合には、操舵制御装置20は、記憶している将来進路形状と、状態量検出装置3によりリアルタイムで検出される車速およびヨーレートの情報に基づいて操舵装置1を制御し、所定の期間だけ自動操舵を継続する。この場合、車両の状態量の変化に応じて車両の位置の推定と、舵角のフィードバック制御の実行が可能であるため、自動操舵システム100は、記憶している将来進路形状に沿って所定の期間だけ正確に車両を走行させることができる。
また、本実施形態の操舵制御装置20は、操舵支援装置10および状態量検出装置3の双方と、操舵制御装置20との間の通信が途絶する通信ネットワーク異常状態が発生した場合においても、記憶している最新の将来進路形状および状態量に基づいて、操舵装置1を制御し、所定の期間だけ車両を将来進路形状に沿って走行させる自動操舵を継続することができる。
よって、本実施形態の自動操舵システム100によれば、通信ネットワークに障害が発生した後や操舵支援装置10に障害が発生した後にも、所定の期間中は車両を将来進路形状に沿って走行させる自動操舵を継続することができる。そして、本実施形態の自動操舵システム100によれば、障害発生後の将来進路形状に沿った自動操舵の実行期間中に、運転者による手動運転に移行させることができるため、自動操舵が異常終了する場合における車両の挙動の乱れを防止することができる。
制駆動力制御装置30は、CPU、ROM、RAM、入出力装置等がバスに接続されたコンピュータより構成されている。制駆動力制御装置30は、ヨーレートセンサ3a、記憶部32、第3異常診断部33、および制駆動力制御部34を備える。また、制駆動力制御装置30は、制駆動力分配装置2に電気的に接続されている。前述のように、本実施形態では、ヨーレートセンサ3aは、状態量検出装置3の一部を構成している。
制駆動力制御装置30が備えるこれらの構成は、個々の機能を実行する別個のハードウェアとして実装されていてもよいし、所定のプログラムをCPUが実行することによって個々の機能が達成されるようにソフトウェア的に実装されていてもよい。
記憶部32は、現在から所定時間であるA秒後までに車両を走行させる目標進路形状である将来進路形状と、現在の状態量とを記憶する。記憶部32が記憶する車両の状態量には、車両の速度である車速V、車両の前後方向の加速度α、および車両のヨー方向の角速度であるヨーレートYawr、が少なくとも含まれる。
記憶部32が記憶する将来進路形状および状態量は、所定の周期で常に更新される。なお、将来進路形状の更新周期と、状態量の更新周期とは同一であってもよいし異なっていてもよい。
第3異常診断部33は、自動操舵時において、操舵支援装置10の動作に障害が発生している状態、および通信ネットワーク5の動作に障害が発生している状態、の少なくとも一方である通信障害状態の発生を検出する。
通信障害状態は、操舵支援装置10から自らの動作に障害が発生していることを示す情報が出力されている状態か、もしくは操舵支援装置10とのデータ通信ができない状態である。
なお、通信ネットワーク5の動作に障害が発生している状態であっても、制駆動力制御装置30は、状態量検出装置3により検出される状態量のうち、少なくともヨーレートセンサ3aにより検出されるヨーレートYawrの情報を取得することが可能である。
また、第3異常診断部33は、自動操舵時において、操舵支援装置10の制御に基づく操舵制御装置20による車両の舵角変更動作が不可能となる操舵制御異常状態の発生を検出する。前述のように、操舵制御異常状態は、操舵装置1および操舵制御装置20の少なくとも一方が故障している状態である。
本実施形態の第3異常診断部33は、通信障害状態が発生していない場合には、操舵支援装置10または操舵制御装置20から操舵制御異常状態が発生していることを示す情報を受信した場合に、操舵制御異常状態が発生したと判定する。
また、第3異常診断部33は、通信障害状態が発生している場合には、記憶部32に記憶されている将来進路形状および状態量に基づいて算出される推定ヨーレートと、ヨーレートセンサ3aにより検出される車両の実ヨーレートとの差の絶対値が所定の閾値以上である場合に、操舵制御異常状態が発生していると判定する。
より具体的に、通信障害状態の発生時には、第3異常診断部33は、通信障害状態の発生時(t=T1)に記憶部32に記憶した将来進路形状および車両の状態量と、通信障害状態の発生からの経過時間δtと、に基づいて、目標進路の曲率Ce(0)を推定する。具体的には、第3異常診断部33は、通信障害状態の発生時の車速V(T1)および加速度α(T1)と、経過時間δtとに基づいて、車両の現在の車速Ve(0)を推定する。車速Ve(0)を推定では、車両の加速度はα(T1)で一定であると仮定する。そして、現在から過去δt秒間の推定車速Ve(0)の積分値から走行距離を算出し、記憶している将来進路形状上における車両の現在位置を推定し、この現在位置と将来進路形状から目標進路の曲率Ce(0)を推定する。
次に、第3異常診断部33は、車両が前記推定車速Ve(0)および前記推定曲率Ce(0)で走行した場合に発生するヨーレートを算出し、この値を推定ヨーレートYawre(0)とする。
そして、第3異常診断部33は、この推定ヨーレートYawre(0)と、実ヨーレートYawr(0)との差の絶対値が所定の閾値以上である場合に、操舵制御異常状態が発生していると判定する。
前述のように、将来進路形状は5秒程度の比較的短い期間におけるものであるから、操舵制御装置20によって操舵装置1が制御されている場合には、推定ヨーレートYawre(0)と実ヨーレートYawr(0)との差はそれほど大きくなることはない。したがって、推定ヨーレートYawre(0)と実ヨーレートYawr(0)との差が所定の閾値以上となる場合とは、車両を将来進路形状に沿って走行させるための操舵が行われていない場合であり、操舵制御異常状態が発生していると言える。
制駆動力制御部34は、車両の自動操舵時において、第3異常診断部33により操舵制御異常状態であることが検出されており、かつ通信障害状態が発生しておらず操舵支援装置10からヨーレート指示値の情報を受信している場合には、制駆動力分配装置2にヨーモーメントを発生させ、車両のヨーレートが前記ヨーレート指示値となるように制駆動力分配装置2を制御する。
また、制駆動力制御部34は、車両の自動操舵時において、第3異常診断部33により操舵制御異常状態であることが検出されており、かつ通信障害状態が発生している場合には、記憶部32に記憶されている将来進路形状に沿って車両が走行するように、制駆動力分配装置2にヨーモーメントを発生させる。この場合、制駆動力制御部34は、ヨーレートセンサ3aにより検出される実ヨーレート、記憶部32に記憶されている最新の状態量および将来進路形状に基づいて、将来進路形状に沿って車両を走行させるために制駆動力分配装置2が発生すべきヨーモーメントの情報である指示ヨーモーメントを算出する。
指示ヨーモーメントの算出では、まず制駆動力制御部34は、通信障害状態の発生時(t=T1)に記憶部32に記憶した将来進路形状および車両の状態量と、ネットワーク異常状態の発生からの経過時間δtと、に基づいて、推定車速Ve(0)および目標進路の推定曲率Ce(0)を算出する。推定車速Ve(0)および目標進路の推定曲率Ce(0)の算出方法は前述の通りである。
そして、制駆動力制御部34は、現在の推定車速Ve(0)と目標進路の推定曲率Ce(0)に基づき、車両のヨー角度を目標進路に沿ったヨー角度に変更させるために必要な目標ヨーレートを算出する。
また、制駆動力制御部34は、通信障害状態の発生時(t=T1)において目標進路に対する現在の車両の車幅方向のずれである横位置偏差ErrX(T1)や目標進路に対する現在の車両のヨー方向の角度ずれであるヨー角度偏差ErrYaw(T1)が所定の値を超えていた場合には、車両を将来進路上に復帰させるために必要な修正ヨーレートを算出する。
そして、制駆動力制御部34は、目標ヨーレートおよび修正ヨーレートを加算し、この結果に基づいて、指示ヨーモーメントを算出する。指示ヨーモーメントの算出には、目標ヨーレートおよび修正ヨーレートの値の他に、ヨーレートセンサ3aにより検出される実ヨーレートの値と、あらかじめ設定された車両の質量の情報および車両の重心に対する各車輪の位置の情報と、が使用される。実ヨーレートの値は、車両のヨーレートのフィードバック制御に用いられる。
指示ヨーモーメントの値に基づいて制駆動力分配装置2が車両にヨーモーメントを与えることにより、車両の進行方向が将来進路形状に沿って走行するように変化する。通信障害状態の発生時において記憶部32に記憶されている将来進路形状の情報は、所定の時間(A秒間)内のものであるため、制駆動力制御部34による指示ヨーモーメントの算出は、A秒間だけ継続する。
以上に説明したように、本実施形態の自動操舵システム100は、車両の自動操舵時において、操舵装置1または操舵制御装置20に障害が発生しているが、通信ネットワーク5、状態量検出装置3および操舵支援装置10の動作は正常である場合には、操舵支援装置10が算出する情報に基づいて制駆動力制御装置30および制駆動力分配装置2による車両の進行方向の変更制御を所定の時間(A秒間)だけ継続する。
また、自動操舵システム100は、車両の自動操舵時において、通信障害状態が発生しており操舵支援装置10による制駆動力制御装置30の制御が不可能である場合には、制駆動力制御装置30は、操舵装置1または操舵制御装置20が障害が発生しているか否かを、単独で判定する。そして、自動操舵システム100は、通信障害状態が発生し、かつ操舵装置1または操舵制御装置20に障害が発生している場合には、駆動力制御装置30が記憶している情報に基づいて制駆動力制御装置30および制駆動力分配装置2による車両の進行方向の変更制御を所定の時間(A秒間)だけ継続する。
よって、本実施形態の制駆動力制御部34を備える自動操舵システム100によれば、操舵装置1または操舵制御装置20に障害が発生した後にも、所定の期間中は車両を将来進路形状に沿って走行させることができる。そして、本実施形態の自動操舵システム100によれば、障害発生後の将来進路形状に沿った自動的な走行の実行期間中に、運転者による手動運転に移行させることができるため、自動操舵が異常終了する場合における車両の挙動の乱れを防止することができる。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う制駆動力制御装置および自動操舵システムもまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。