JP6953085B2 - 弾性表面波センサ - Google Patents

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Description

本発明は、液状の検体をSAWデバイスに供給して特性を測定する弾性表面波センサに関する。
従来、液状の検体中の物質を検出する手法としてラテラルフロー法が知られており、ラテラルフロー法の一形態としてイムノクロマトグラフィー(イムノクロマトアッセイ)が汎用されている。イムノクロマトアッセイの代表的な形態では、2種類の抗体で検体に含まれる標的物質を挟み込むサンドイッチアッセイが用いられる。
このサンドイッチアッセイを利用したテストストリップ(例えば、特許文献1参照)は、例えば標的物質として抗原を検出する場合、抗原を含む液状の検体が滴下されるサンプルパッドと、このサンプルパッドに一部が重ねられ、抗原との抗原抗体反応に関与する2次抗体がフリーズドライのような乾燥状態で付着されて保持されたコンジュゲートパッドと、このコンジュゲートパッドに一部が重ねられ、抗原抗体反応により抗原を捕捉する1次抗体が固定された抗体固定化パッドと、この抗体固定化パッドに一部が重ねられ、検体を吸収してサンプルパッドから抗体固定化パッドへと検体を流動させる吸収パッドとを備える。このテストストリップによれば、サンプルパッドに滴下された検体がコンジュゲートパッドを通過する際に2次抗体が溶け出して抗原と抗原抗体反応を生じ、この検体が抗体固定化パッドを流れる間に1次抗体との間で抗原抗体反応が生じると、1次抗体と抗原とが相互に結合され、抗原抗体反応の生成物質として1次抗体と抗原との複合体が形成される。この複合体中の抗原に結合している2次抗体の標識物を観察すれば、上記抗原抗体反応に関与した物質(抗原)を視覚的に判別することができる。
また、従来、各種物質の検出や物性値などの特性を測定するための弾性表面波センサが知られている(特許文献2参照)。この弾性表面波センサは、圧電基板上に弾性表面波の伝搬路を挟んで櫛形の送信電極と受信電極とが対向配置されたSAW(Surface Acoustic Wave)デバイスを備えている。この弾性表面波センサにサンドイッチアッセイを適用することで、視覚観察によらずに、抗原抗体反応に関与する物質などを検出することができる。
より具体的には、例えば、特許文献3の段落[0004]に記載があるように、1次抗体をSAWデバイスの伝搬路に固定し、滴下された検体がSAWデバイスの伝搬路まで流動するように上述したテストストリップを配置する。そして、検体の流動中に抗原と2次抗体(反応物質)との間で抗原抗体反応を生じさせ、検体が伝搬路に到達したときに抗原と1次抗体との間で抗原抗体反応を生じさせる。この場合、伝搬路を伝搬する弾性表面波の位相が抗原抗体反応の前後で変化し、この変化した弾性表面波を受信電極で受信して得られる特性変化を電気信号の増幅変化としてとらえることで、抗原抗体反応を検出することができる。
特開2012−189355号公報 特開2013−096866号公報 特開2017−009492号公報
弾性表面波センサは、液相系を測定する場合に伝搬路の表面全体がほぼ同時に濡れている必要があるので、数十μl程度の検体を伝搬路に向けて一度に流す必要がある。この液量は、従来のテストストリップに流れる検体の液量と同等である。しかしながら、テストストリップの抗体固定化パッドには、流量の少ないニトロセルロースが用いられているため、そのままでは弾性表面波センサには適用できない。
そこで、ニトロセルロースの代わりに、ニトロセルロースよりも流量の多い多孔性基材などのメンブレンを用いることが考えられるが、検体の流量が多くなると、検体と2次抗体との抗原抗体反応が不完全になることがあった。これは、従来のテストストリップでは、ニトロセルロースの流量が少なく、コンジュゲートパッドから2次抗体が溶け出すまでにある程度の時間がかかるため、弾性表面波センサに必要な液量の検体を多孔性基材によって流すと、2次抗体が溶け出す前に検体がコンジュゲートパッドを通過してしまい、抗原と2次抗体との間で適切な抗原抗体反応が得られないからである。
本発明は、上記課題を解決するために、SAWデバイスに必要な液量の検体に反応物質を溶かして検体と反応させることが可能な弾性表面波センサを提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、上流側から流れてきた液状の検体と反応する反応物質を保持する物質保持部と、前記物質保持部の下流側に配置され前記反応物質と反応した前記検体をSAWデバイスへ供給する検体供給部とを備え、前記物質保持部と前記検体供給部との間に前記反応物質が溶けて前記検体と反応する時間を得るための空隙を設けた、ことを特徴とする弾性表面波センサである。
請求項1に記載の発明によれば、上流側から流れてきた液状の検体は、物質保持部を通過する際、およびその下流側の空隙において反応物質を溶かし、溶けた反応物質と反応する。反応物質と反応した検体は、検体供給部によってSAWデバイスに供給される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の弾性表面波センサであって、前記物質保持部の上流側に、前記反応物質が溶けて前記検体と反応する時間を得るための第2の空隙を備える、ことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の弾性表面波センサであって、前記検体の通過方向を残して前記物質保持部の周囲を密閉することにより、前記検体が前記物質保持部内を通過してから前記空隙に流れるようにした、ことを特徴とする。
請求項1に記載の発明によれば、物質保持部と検体供給部との間に空隙を設けたので、SAWデバイスに必要な液量の検体が流れる場合でも、この空隙内で反応物質を十分に溶かして検体と反応させる時間を得ることができる。したがって、反応物質に対して適切に反応した検体の特性をSAWデバイスで測定することができるので、弾性表面波センサの測定精度が向上する。また、物質保持部と、その下流側の空隙とで反応物質が溶けて検体と反応するので、検体をSAWデバイスまで到達させるために必要な液量に対して、反応物質の量を少なくすることができる。
請求項2に記載の発明によれば、物質保持部の上流側に第2の空隙を設けたので、検体が物質保持部を通過するために第2の空隙内に留まっている状態(時間)を利用して反応物質を溶かし、検体と反応させることが可能である。
請求項3に記載の発明によれば、検体の通過方向を残して物質保持部の周囲を密閉することにより、検体が必ず物質保持部内を通過してから空隙に流れるようにしたので、例えば、検体が物質保持部内を通過せずに物質保持部の上や下を流れてしまうのを防ぐことができる。これにより、反応物質が溶けて検体と反応する効率を向上させることが可能である。
(A)はこの発明の実施の形態に係る弾性表面波センサの平面図、(B)は側面図である。 (A)は図1の弾性表面波センサの上面ケースを外した平面図、(B)は図1(A)のA−A断面図である。 (A)は図1の弾性表面波センサのB−B断面図、(B)はC−C断面図、(C)はD−D断面図である。 サンプルパッドから検体供給部まで検体が流れる状態を示す説明図である。 サンプルパッドからSAWデバイスまで検体が流れる状態を示す写真である。 抗原と2次抗体との抗原抗体反応に失敗した状態を示す写真である。 弾性表面波センサから出力された抗原抗体反応の検出信号を信号処理装置で処理した結果を示すグラフである。
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
図1ないし図5は、この発明の実施の形態を示し、図1(A)、(B)は、この実施の形態に係る弾性表面波センサ1の平面図および側面図である。この弾性表面波センサ1は、サンドイッチアッセイ法を利用して、液状の検体に含まれる抗原に抗原抗体反応により1次抗体と2次抗体(反応物質)とを結合させ、その検体の物性値などの特性をSAWデバイスを利用して測定するものである。
弾性表面波センサ1は、内部にSAWデバイスなどを収容した長方体形状のケース2と、ケース2の正面から一部が突出されたプリント基板3とを備え、その長さは、例えば50mm程度となっている。弾性表面波センサ1は、いわゆるカセット状のセンサ装置であり、図示しない信号処理装置に設けられたカセット挿入口に、プリント基板3側から挿入される。プリント基板3には、SAWデバイスと電気的に接続された一対の接点31が設けられている。これらの接点31は、弾性表面波センサ1が信号処理装置のカセット挿入口に挿入された際に、カセット挿入口内の接続端子と接触する。これにより、SAWデバイスと信号処理装置とが電気的に接続される。
ケース2は、ケース2の底面側を構成する底面ケース21と、ケース2の上面側を構成する上面ケース22とからなり、この底面ケース21と上面ケース22とが組み合わされることにより長方体形状のケース2となる。上面ケース22の上面で、左端側(プリント基板3とは反対側の端縁側)には、液状の検体をケース2内に滴下するための滴下孔221が設けられている。底面ケース21および上面ケース22は、例えば、プラスチックなどの絶縁性を有する材質で形成されている。
図2(A)は、弾性表面波センサ1から上面ケース22を取り外した状態を示す平面図であり、同図(B)は、図1(A)のA−A断面を示す断面図である。プリント基板3は、底面ケース21上に載置されるように固定されており、ケース2の正面側から、ケース2の長手方向に沿ってケース2内に延ばされた長方形状をしている。
プリント基板3の上には、SAWデバイス4が固定されている。SAWデバイス4は、例えば、反射型のSAWデバイスであり、圧電基板41と、伝搬路42と、櫛形電極43と、櫛形電極43に検体が付着するのを防ぐために上方を覆う封止部材44とを備えている。
圧電基板41は、弾性表面波を伝搬させることができるものであれば、特に限定されないが、例えば36度Y板90度X軸伝播の水晶基板であり、または、36度Y板X軸伝播タンタル酸リチウム(LiTaO3)である。弾性表面波は、圧電基板41の表面に沿って伝搬する波であり、例えば、横波の伝播するすべり弾性表面波である。
伝搬路42は、検体が載置される領域であり、櫛形電極43に隣接する位置から圧電基板41の長手方向に沿って一端側まで延びるように、圧電基板41の表面に形成されている。伝搬路42は、例えば、圧電基板41上に蒸着された金属膜からなり、この金属膜の材料には、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、金(Au)、などが用いられ、より具体的には検体に対して化学的に安定している材質が好ましい。
伝搬路42の上面には、検体内の抗原を抗原抗体反応により捕捉する1次抗体が固定化されている。この1次抗体は、例えば、伝搬路42の上面に塗布して固定化し安定剤とともに乾燥状態となっており、伝搬路42に検体が供給されると、検体内の抗原を抗原抗体反応により捕捉し、伝搬路42上を伝わる表面波の位相(速度)を変化させる。
櫛形電極43は、伝搬路42に隣接するように圧電基板41の他端側に配置されている。櫛形電極43は、一対の入力端子431がボンディングワイヤ45によってプリント基板3の接点31に電気的に接続されている。弾性表面波センサ1が信号処理装置にセットされると、櫛形電極43は、接点31およびボンディングワイヤ45を介して信号処理装置と電気的に接続される。櫛形電極43は、入力端子431に信号処理装置から高周波発振信号が印加されると、これにより励振されて圧電基板41上に弾性表面波を発生させる。圧電基板41上に発生した弾性表面波は、伝搬路42上を圧電基板41の一端側に向けて伝搬され、圧電基板41の一端側で反射されて櫛形電極43により受信される。
なお、圧電基板41の一端側を弾性表面波の反射に用いているが、櫛形電極などからなる反射器を設けてもよい。また、伝搬路42を挟むように送信用の櫛形電極と受信用の櫛形電極とを配置したものを用いてもよい。
ケース2内には、滴下孔221に対面する位置からSAWデバイス4に向かうように、ケース2の長手方向に沿って延ばされた検体の供給路5が設けられている。この供給路5は、SAWデバイス4の伝搬路42と同程度の高さとなるように底面ケース21に設けられた下側供給路51と、下側供給路51の上部に対面する上側供給路52とを備える。
図1(A)のB−B断面、C−C断面およびD−D断面を表す図3(A)、(B)、(C)に示すように、下側供給路51は、底面ケース21に設けられた突条部511と、この突条部511の上面の両端縁に長手方向に沿い、かつ上方に向かって突出するように設けられた一対の下側側壁512とを備える。また、上側供給路52は、下側側壁512に対面する位置に、上面ケース22の長手方向に沿い、かつ下方に向かって突出して下側側壁512に当接するように設けられた一対の上側側壁521を備える。これにより、供給路5は、その上下および両側面が閉じられた角管状の通路となる。
供給路5内には、下側供給路51の上にフイルム6が配置されている。このフイルム6は、例えば撥水性のプラスチックフイルムであり、供給路5内で検体を流動しやすくする。なお、フイルム6は、その一端が供給路5から圧電基板41の上まで延ばされている。これは、検体が供給路5を流動した検体が下側供給路51と圧電基板41との間の隙間に垂れ落ちるのを防ぐためである。
フイルム6上には、滴下孔221に対面する位置からSAWデバイス4側へと向かって延ばされたサンプルパッド7が重ねられている。このサンプルパッド7は、多孔性基材(例えば、繊維素材など)で構成されたシート(いわゆるメンブレン)である。滴下孔221から滴下された検体は、サンプルパッド7に吸収され、サンプルパッド7内をSAWデバイス4側へと向かって流動する。
サンプルパッド7の下流側には、フイルム6の上にテストストリップのコンジュゲートパッドに相当する物質保持部8が配置されている。物質保持部8は、多孔性基材やグラスファイバのシートからなり、その表面または内部にフリーズドライのような乾燥状態とされた2次抗体(反応物質)が付着して保持されている。
上側供給路52には、物質保持部8に当接するように下方に向かって突出された狭路部522が設けられている。この狭路部522は、物質保持部8の上面に当接することにより、検体の通過方向を残して物質保持部8の周囲を密閉する。これにより、サンプルパッド7から流れ出た検体は、必ず物質保持部8内を通過してから下流側に向かって流れるようになるので、検体と2次抗体との接触を増やし、2次抗体が検体に溶けて抗原と結合する効率を高めることができる。
物質保持部8の下流側には、フイルム6の上に検体供給部9が配置されている。検体供給部9は、多孔性基材で構成されたシートであり、物質保持部8を通過した検体を吸収してSAWデバイス4の伝搬路42まで検体を供給(流動)させる。検体供給部9は、供給路5から伝搬路42の上まで延ばされており、検体を吸収して膨張することにより伝搬路42に接触し、伝搬路42の上面全体をほぼ同時に均一に濡らす。
供給路5内には、物質保持部8と検体供給部9との間に空隙10Aが設けられている。この空隙10Aは、物質保持部8に検体供給部9が接触しないように配置したことにより生じた隙間であり、この空隙10A内ではフイルム6が供給路5内に露呈されている。
また、供給路5内には、サンプルパッド7と物質保持部8との間に上流側空隙(第2の空隙)10Bが設けられている。この上流側空隙10Bは、物質保持部8にサンプルパッド7が接触しないように配置したことにより生じた隙間であり、この上流側空隙10B内ではフイルム6が供給路5内に露呈されている。
図4は、サンプルパッド7から物質保持部8を経て検体供給部9に検体が流れる状態を示す模式図である。なお、図では、斜線部分を検体Sとし、点部分を2次抗体とする。同図(A)に示すように、滴下孔221から滴下された検体Sは、サンプルパッド7に吸収されて下流側(SAWデバイス4側)へ流動する。サンプルパッド7の端部まで流れた検体Sは、同図(B)に示すように、サンプルパッド7から流出して上流側空隙10Bに滞留し、流動速度が遅くなる。検体Sが上流側空隙10Bを満たして物質保持部8に接触すると、同図(C)に示すように、物質保持部8は上流側空隙10B内の検体Sを吸収して下流側へ流動させる。その際に、2次抗体が検体Sに溶け出して抗原と抗原抗体反応を起こすための時間が得られる。物質保持部8を通過した検体Sは、同図(D)に示すように、物質保持部8から流出して下流側の空隙10Aに滞留し、再び流動速度が遅くなることにより、この空隙10Aでも検体Sの抗原と2次抗体との抗原抗体反応を生じさせるための時間が得られる。抗原と2次抗体との抗原抗体反応により、抗原に2次抗体が結合した検体は、同図(E)に示すように、検体供給部9に吸収されて伝搬路42まで流動される。
このように、空隙10Aおよび上流側空隙10Bは、検体Sをフイルム6上に滞留させることにより、物質保持部8の2次抗体が検体Sに溶けて抗原と抗原抗体反応を生じる時間を作るために設けられている。すなわち、物質保持部8がサンプルパッド7と検体供給部9とに接触していると、検体Sは検体供給部9の吸収力によって物質保持部8をすぐに通過してしまい、2次抗体が検体Sに溶けて抗原と抗原抗体反応を生じる時間が得られなくなる。しかしながら、物質保持部8の上流側と下流側とに上流側空隙10Bと空隙10Aとを設けることにより、検体Aが供給路5内で滞留して流動速度が低下するので、検体Sと物質保持部8との接触時間が長くなり、2次抗体が検体に溶けて抗原と抗原抗体反応を生じやすくなる。
なお、空隙10Aおよび上流側空隙10Bの流動方向における長さは、例えば1mmから数mm程度であり、サンプルパッド7や物質保持部8、検体供給部9などの検体Sの吸収力、すなわち検体Sの流動速度に応じて適宜設定される。
図5は、ケース2を半透明のプラスチックで形成してケース2の内部を外側から観察できるようにした弾性表面波センサ1を利用して、検体Sの流動状態を撮影したものである。同図(A)に示すように、検体Sが滴下される前の弾性表面波センサ1では、物質保持部8に固定した2次抗体が黒っぽく写し出されている。なお、2次抗体を確認できるようにするため、2次抗体には着色が施されている。
滴下孔221から検体Sを滴下すると、検体Sはサンプルパッド7内を物質保持部8まで流れる。これにより、図5(B)に示すように、2次抗体が検体Sに溶け出し、検体Sの抗原と2次抗体との抗原抗体反応が起こる。なお、図5(B)の物質保持部8が同図(A)の物質保持部8よりも濃く見えるのは、同図(B)に示す状態では、角管状の供給路5内が検体Sで満たされて上面ケース22の凹凸による乱反射が抑えられたためである。2次抗体が溶けて抗原に結合した検体Sは、検体供給部9により伝搬路42に向けて流動される。図5(C)では、物質保持部8は視認できなくなっているが、供給路5とSAWデバイス4の上に流動中の検体Sを表す白っぽい影が表れていることが分かる。図5(D)は、検体Sの供給を終えてから所定時間を経過した状態であり、供給路5上の検体Sが薄くなっていることから、検体SがSAWデバイス4の伝搬路42上に供給されていることが分かる。
比較として、空隙10Aおよび上流側空隙10Bを設けていない弾性表面波センサで検体Sを流し、図5(D)と同様に、検体Sの滴下から所定時間経過した状態を図6に示す。この図から分かるように、空隙10Aおよび上流側空隙10Bが無い弾性表面波センサでは、物質保持部8に溶け切らずに残るので、2次抗体が黒っぽく写ってしまう。
図7は、弾性表面波センサ1から出力された抗原抗体反応の検出信号を信号処理装置で処理した結果を示すグラフであり、横軸が時間、縦軸は検出信号の位相変化を表している。また、このグラフ内の線L1、L2、L3は、所定の抗原濃度に対して2次抗体の濃度が0%、50%、100%の場合の位相変化を示し、特にL3は、本実施の形態の弾性表面波センサ1を利用した場合を示している。すなわち、L1は、従来の空隙10Aおよび上流側空隙10Bを備えていない弾性表面波センサで検体Sの特性を測定し、2次抗体が検体Sに溶けて反応する時間が得らなかった場合を表し、L2は、2次抗体が検体Sに僅かに溶けて反応したものの、2次抗体の濃度が薄い場合を表している。これに対し、L3は、本実施の形態の弾性表面波センサ1によって検体Sの特性を測定することにより、2次抗体が検体Sに十分に溶けて反応し、2次抗体の濃度が濃くなっている場合を表している。このグラフから分かるように、L1、L2では、2次抗体と抗原との抗原抗体反応が十分に行われていないので、抗原抗体反応を表す位相変化は僅かしか表れていない。これに対し、L3で示すように、本実施の形態の弾性表面波センサ1を利用すれば、検体Sに2次抗体を十分に溶かして抗原と抗原抗体反応させることができるので、高い抗原抗体反応を得ることができる。
次に、上記実施の形態の作用について説明する。信号処理装置のカセット挿入口に弾性表面波センサ1をそのプリント基板3側から挿入(セット)する。これにより、プリント基板3の一対の接点31がカセット挿入口内の接続端子と接触し、SAWデバイス4信号処理装置とが電気的に接続される。
信号処理装置は、接点31およびボンディングワイヤ45を介して櫛形電極43に高周波発振信号を印加する。これにより圧電基板41が励振されて弾性表面波が発生し、この弾性表面波は、伝搬路42上を圧電基板41の一端側に向けて伝搬され、圧電基板41の一端側で反射されて櫛形電極43により受信される。櫛形電極43は、弾性表面波を電気信号に変換して信号処理装置に送信する。信号処理装置は、検体Sが滴下される前の電気信号の位相変化と振幅変化の電気的特性量を求める。
次に、信号処理装置に弾性表面波センサ1が挿入された状態で、滴下孔221から検体Sを滴下する。滴下された検体Sは、サンプルパッド7に吸収されて下流側へ流動する。サンプルパッド7の端部まで流れた検体Sは、サンプルパッド7から流出して上流側空隙10Bに滞留し、流動速度が遅くなる。検体Sが上流側空隙10Bを満たして物質保持部8に接触すると、物質保持部8は上流側空隙10B内の検体Sを吸収して下流側へ流動させる。その際に、2次抗体が検体Sに溶け出して抗原と抗原抗体反応を起こす。
物質保持部8を通過した検体Sは、物質保持部8から流出して下流側の空隙10Aに滞留し、再び流動速度が遅くなる。この空隙10Aでも滞留している検体Sの抗原と2次抗体との抗原抗体反応が生じる。抗原と2次抗体との抗原抗体反応により、抗原に2次抗体が結合した検体は、検体供給部9に吸収されて伝搬路42まで流動される。伝搬路42に到達した検体Sは、伝搬路42に固定された1次抗体との抗原抗体反応により1次抗体に捕捉される。
信号処理装置は、検体Sの滴下から所定時間の経過後に、櫛形電極43に高周波発振信号を印加して弾性表面波が発生させる。圧電基板41の一端側で反射した弾性表面波は、櫛形電極43により受信され、電気信号に変換して信号処理装置に送信される。信号処理装置は、検体Sの抗原抗体反応後の電気信号の位相変化と振幅変化の電気的特性量を求める。信号処理装置は、検体Sが伝搬路42まで流動されたタイミング、すなわちSAWデバイス4が液相状態となった時点の信号と、所定時間経過後の信号とを比較して検体Sの特性を算出する。または、信号処理装置は、抗原抗体反応中の傾斜から検体Sの特性を算出する。この信号処理装置による測定は、検体Sの滴下前から所定時間経過後まで連続で行われる。
以上のように、この実施の形態に係る弾性表面波センサ1によれば、物質保持部8と検体供給部9との間に空隙10Aを設けたので、SAWデバイス4に必要な液量の検体Sが流れる場合でも、この空隙10A内で2次抗体(反応物質)を十分に溶かして検体Sの抗原と抗原抗体反応させることが可能となる。したがって、2次抗体に対して適切に反応した検体Sの特性をSAWデバイス4で測定することができるので、弾性表面波センサ1の測定精度が向上する。また、物質保持部8と、その下流側の空隙10Aとで2次抗体が溶けて検体Sと抗原抗体反応するので、検体SをSAWデバイス4まで到達させるために必要な液量に対して、2次抗体の量を少なくすることができる。
また、物質保持部8の上流側に上流側空隙(第2の空隙)10Bを設けたので、検体Sが物質保持部8を通過するために上流側空隙(第2の空隙)10B内に留まっている状態を利用して2次抗体を溶かし、検体Sと抗原抗体反応させることが可能である。
さらに、検体Sの通過方向を残して物質保持部8の周囲を密閉することにより、検体Sが必ず物質保持部8内を通過してから空隙10Aに流れるようにしたので、例えば、検体Sが物質保持部8内を通過せずに物質保持部8の上や下を流れてしまうのを防ぐことができる。これにより、2次抗体が溶けて検体Sと抗原抗体反応する効率を向上させることが可能である。
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、物質保持部8の上流側に上流側空隙10Bを設けたが、少なくとも下流側の空隙10Aのみを設けるようにしてもよい。また、サンプルパッド7によって検体Sを物質保持部8まで流動させるようにしたが、例えば、物質保持部8の上流側の供給路5に傾斜を設けて検体Sが物質保持部8に流れるようにしてもよい。
1 弾性表面波センサ
2 ケース
3 プリント基板
4 SAWデバイス
41 圧電基板
42 伝搬路
43 櫛形電極
5 供給路
6 フイルム
7 サンプルパッド
8 物質保持部
9 検体供給部
10A 空隙
10B 上流側空隙
S 検体

Claims (3)

  1. 上流側から流れてきた液状の検体と反応する反応物質を保持する物質保持部と、前記物質保持部の下流側に配置され前記反応物質と反応した前記検体をSAWデバイスへ供給する検体供給部とを備え、前記物質保持部と前記検体供給部との間に前記反応物質が溶けて前記検体と反応する時間を得るための空隙を設けた、
    ことを特徴とする弾性表面波センサ。
  2. 前記物質保持部の上流側に、前記反応物質が溶けて前記検体と反応する時間を得るための第2の空隙を備える、
    ことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波センサ。
  3. 前記検体の通過方向を残して前記物質保持部の周囲を密閉することにより、前記検体が前記物質保持部内を通過してから前記空隙に流れるようにした、
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の弾性表面波センサ。
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