空間に一様に分布させた磁界で異物などの検出対象物を励磁し、磁界中に局所的な乱れを生じさせ、その磁界の乱れを検出することで、検出対象物を高感度に検知することが可能となる。局所的な磁界の乱れを高感度に検出するためには、一様に分布する磁界には不感で局所的な磁界の乱れのみに反応することが望ましい。グラディオメータは、2地点における磁界の強さの差に反応する勾配磁界センサの1つで、上記の目的を達成するために利用することができる。
グラディオメータは、理想的には2地点における磁界の差のみに反応するが、2地点の磁界を別々のセンサヘッドで検知する場合、それぞれのセンサヘッドの製造誤差などから生じる特性の不整合により、実際には一様磁界の強度にも反応して検知してしまう場合がある。本来不必要である一様磁界に反応する感度が大きくなってしまうと、一様磁界強度に比べて極めて小さい磁界の乱れしか生じない微小な異物等を検出する能力が低下してしまう。
上記のような問題に関連して、例えば特許文献1に、グラディオメータに関する技術が開示されている。特許文献1に示す技術は、勾配磁界センサ(4)は、磁性コア(110、120)と、当該磁性コアに巻かれた検出コイル(11、12)と、を有し、当該磁性コアに励磁用交流電流及び励磁用直流電流が印加され、各々の延在方向の磁界に応じた検出電圧を出力する第1センサヘッド(1)及び第2センサヘッド(2)と、第1センサヘッドが出力する検出電圧と、第2センサヘッドが出力する検出電圧と、の合成電圧が入力され、当該合成電圧に応じた勾配磁界検出信号を出力するセンサ回路(3)と、を備え、第1センサヘッド及び第2センサヘッドは、互いに離間されながら、各々の延在方向が同一軸線上又は平行となるように配置されるものである。
また、特許文献1にはセンサヘッドの調整方法についても開示されている。図10は、従来のグラディオメータにおけるセンサヘッドの調整方法を示す図である。図10において、センサヘッド1の磁性コアとセンサヘッド2の磁性コアとは、交流電源と、その振幅より大きな電圧値を持つ直流電源と、直列に接続される。交流電源及び直流電源が、センサヘッド1の磁性コア、センサヘッド2の磁性コアに対し所定の交流電圧及び直流電圧を印加して通電することで、センサヘッド1、2が励磁される。このとき、交流電流より直流電流が大きくなるように調整されている。これにより、センサヘッド1、2は、各々の延在方向に沿う磁界に応じた検出電圧を出力可能な、いわゆる直交フラックスゲート(基本波型直交フラックスゲート(MF−OFG:Fundamental mode orthogonal fluxgate))をなす。これにより、バルクハウゼンノイズの低減及びセンサの高感度化を図ることができる。なお、検出方法についての説明は、上記特許文献に記載されているためここでは省略する。
そして、図10において、一様磁界の影響を完全になくす事ができるのはセンサヘッド1とセンサヘッド2で感度(係数K)が完全に等しい場合である。センサヘッド1、2の感度が異なると、一様磁界は完全には打ち消されず、局所磁界検出信号に影響を与えてしまう。実際のセンサヘッド1、2の感度は、上述したように、それぞれの磁性コアの励磁条件を同じにしても、製作時に生じる個体差によって、センサヘッド1、2とで若干異なる。ここで、基本波型直交フラックスゲートにおいては、励磁用交流電流(交流電源の交流電圧の印加により流れる電流)を一定とした場合、センサヘッド1、2の感度(係数K)は、励磁用交流電流に重畳される直流バイアス電流(直流電源の直流電圧の印加により流れる電流)に対し、単調減少の関係を有することが知られている。
すなわち、図10に示すような回路構成とすることで、直流電源E’が出力する直流電圧は、抵抗器Rvを通じてセンサヘッド2の磁性コアにのみ印加され、センサヘッド2の磁性コアには、抵抗Rvに基づく直流電流Idc2(直流バイアス電流)が更に流れるため、センサヘッド2の感度を調整することができる。つまり、センサヘッド2の感度(係数K)がセンサヘッド1の感度よりも大きいときは、直流電流Idc2を大きくする(可変抵抗Rvの抵抗値を減少させる)ことで、センサヘッド1、2の感度を同一とすることができる。なお、このとき、基本波型直交フラックスゲートの動作を保証するためには、Idc>Iacである必要があるが、例えば、Idc2の調整量は、非特許文献1に示すように、Idc1が40mAに対して、Idc2が1.84mA(すなわち、Idc2はIdc1の5%以下程度)で実現できるものとなっているため、基本波型直交フラックスゲートの動作は保証されている。
しかしながら、図10に示す回路構成の場合は、センサヘッドの感度調整ように別途電源(直流電源E’)が必要となるため、構成が複雑になると共に、装置が大型してしまう。また、図10の構成においては、センサヘッド2の感度(係数K)がセンサヘッド1の感度よりも大きいときは、直流電流Idc2を大きくすることで、センサヘッド2の感度を小さくしてセンサヘッド1、2の感度を同一とすることができるが、逆の場合は、直流電源E’の極性を変えてセンサヘッド2に流れる直流バイアス電流量を小さく調整して感度を大きくする必要があり、極性の切替手段を有する必要がある。
本発明は、グラディオメータにおける一対のセンサヘッドの感度を受動部品のみからなる簡単な回路を付加することで容易に調整し、局所磁界を高感度に検知することができる勾配磁界センサを提供する。
本発明に係る勾配磁界センサは、励磁用の交流電流及びバイアス直流電流を供給する電源部と、当該電源部に直列接続される第1の磁気コアと、当該第1の磁気コアに直列接続される第2の磁気コアとで閉回路が形成されており、前記第1の磁気コアに並列接続され、一端側の端子が前記第1の磁気コアの電源部側に接続され、他端側の端子が前記第1の磁気コアと前記第2の磁気コアとの間の配線に接続され、前記第1の磁気コアに通電されるバイアス直流電流を調整可能な受動素子の回路からなる第1の調整手段と、前記第2の磁気コアに並列接続され、一端側の端子が前記第1の磁気コアと前記第2の磁気コアとの間の配線に接続され、他端側の端子が前記第2の磁気コアの電源部側に接続され、前記第2の磁気コアに通電されるバイアス直流電流を調整可能な受動素子の回路からなる第2の調整手段と、前記第1の磁気コアに巻回される第1の検出コイルと、前記第1の磁気コア及び前記第1の検出コイルからなる第1のセンサヘッドが外部からの一様磁界に対して出力する検出信号を打ち消すように、前記第2の磁気コアに巻回され、前記第1の検出コイルと直列接続される第2の検出コイルと、前記第1の検出コイル及び第2の検出コイルが出力する検出電圧に基づいて、局所磁界を出力するセンサ回路とを備えるものである。
このように、本発明に係る勾配磁界センサにおいては、励磁用の交流電流及びバイアス直流電流を供給する電源部と、当該電源部に直列接続される第1の磁気コアと、当該第1の磁気コアに直列接続される第2の磁気コアとで閉回路が形成されており、前記第1の磁気コアに並列接続され、一端側の端子が前記第1の磁気コアの電源部側に接続され、他端側の端子が前記第1の磁気コアと前記第2の磁気コアとの間の配線に接続され、前記第1の磁気コアに通電されるバイアス直流電流を調整可能な受動素子の回路からなる第1の調整手段と、前記第2の磁気コアに並列接続され、一端側の端子が前記第1の磁気コアと前記第2の磁気コアとの間の配線に接続され、他端側の端子が前記第2の磁気コアの電源部側に接続され、前記第2の磁気コアに通電されるバイアス直流電流を調整可能な受動素子の回路からなる第2の調整手段と、前記第1の磁気コアに巻回される第1の検出コイルと、前記第1の磁気コア及び前記第1の検出コイルからなる第1のセンサヘッドが外部からの一様磁界に対して出力する検出信号を打ち消すように、前記第2の磁気コアに巻回され、前記第1の検出コイルと直列接続される第2の検出コイルと、前記第1の検出コイル及び第2の検出コイルが出力する検出電圧に基づいて、局所磁界を出力するセンサ回路とを備えるため、第1のセンサヘッド及び第2のセンサヘッドの感度調整のために、別途電源を用意する必要がなく、回路構成を簡単にして小型化することができるという効果を奏する。
また、第1のセンサヘッド及び第2のセンサヘッドの感度調整の操作は、受動素子を調整するのみで、電源の極性を変えるような切替手段を別途用意する必要がなく、センサの構成を簡素化して小型化することができるという効果を奏する。
さらに、第1のセンサヘッド及び第2のセンサヘッドのそれぞれの感度を第1の調整手段及び第2の調整手段で個別に調整することが可能であり、精密な感度調整を行うことができるという効果を奏する。
本発明に係る勾配磁界センサは、前記第1の調整手段における受動素子の回路が、直列接続された第1のコイルと第1の可変抵抗器とを有し、前記第2の調整手段における受動素子の回路が、直列接続された第2のコイルと第2の可変抵抗器とを有するものである。
このように、本発明に係る勾配磁界センサにおいては、前記第1の調整手段における受動素子の回路が、直列接続された第1のコイルと第1の可変抵抗器とを有し、前記第2の調整手段における受動素子の回路が、直列接続された第2のコイルと第2の可変抵抗器とを有するため、第1のセンサヘッド及び第2のセンサヘッドの感度調整を第1の可変抵抗器及び/又は第2の可変抵抗器を調整するという簡単な操作で行うことができるという効果を奏する。
本発明に係る勾配磁界センサは、前記第1の調整手段における受動素子の回路が第1のコイルを有し、前記第2の調整手段における受動素子の回路が第2のコイルを有しており、前記第1の調整手段における受動素子の回路、及び、前記第2の調整手段における受動素子の回路に共通し、前記第1のコイル及び前記第2のコイルに両端部がそれぞれ接続される第3の可変抵抗器を備え、前記第1の調整手段の他端側の端子、及び、前記第2の調整手段の一端側の端子が、前記第3の可変抵抗器の抵抗値を可変する第3の端子を介して前記第1の磁気コアと前記第2の磁気コアとの間の配線に接続されているものである。
このように、本発明に係る勾配磁界センサにおいては、前記第1の調整手段における受動素子の回路が第1のコイルを有し、前記第2の調整手段における受動素子の回路が第2のコイルを有しており、前記第1の調整手段における受動素子の回路、及び、前記第2の調整手段における受動素子の回路に共通し、前記第1のコイル及び前記第2のコイルに両端部がそれぞれ接続される第3の可変抵抗器を備え、前記第1の調整手段の他端側の端子、及び、前記第2の調整手段の一端側の端子が、前記第3の可変抵抗器の抵抗値を可変する第3の端子を介して前記第1の磁気コアと前記第2の磁気コアとの間の配線に接続されているため、1つの可変抵抗器で第1のセンサヘッド及び第2のセンサヘッドの感度を調整することができ、回路構成を簡単にして小型化することができると共に、1つの可変抵抗器を調整するだけで、第1のセンサヘッド及び第2のセンサヘッドの感度を相補的に調整することが可能になるという効果を奏する。
本発明に係る勾配磁界センサは、前記第1のコイル及び第2のコイルが、前記第1の磁気コア及び第2の磁気コアの長手方向とは異なる方向に当該第1のコイル及び第2のコイル内の磁束が発生するように配置されているものである。
このように、本発明に係る勾配磁界センサにおいては、第1のコイル及び第2のコイルが、第1の磁気コア及び第2の磁気コアの長手方向とは異なる方向に当該第1のコイル及び第2のコイルの磁束が発生するように配置されるため、感度調整用の第1のコイル及び第2のコイルによる磁束の影響が第1のセンサヘッド及び第2のセンサヘッドに及ぶことを防止して、高感度に局所磁界を検知することができるという効果を奏する。特に、センサヘッドを作成する基板と共通の基板上に各調整手段を作成する場合に有効である。
本発明に係る勾配磁界センサは、前記第1のコイル及び第2のコイルが、それぞれが発生する磁束の方向が反対方向となるように隣接して並設されているものである。
このように、本発明に係る勾配磁界センサにおいては、第1のコイル及び第2のコイルが、それぞれが発生する磁束の方向が反対方向となるように隣接して並設されているため、第1のコイルと第2のコイルとで生じる磁束の大部分が一巡し、遠方にその影響を及ぼさず、第1のセンサヘッド及び第2のセンサヘッドへの第1のコイル及び第2のコイルからの磁界の影響を低減することができるという効果を奏する。
本発明に係る勾配磁界センサは、少なくとも前記第1のコイル及び第2のコイルが磁気シールド筐体内に配設されるものである。
このように、本発明に係る勾配磁界センサにおいては、少なくとも前記第1のコイル及び第2のコイルが磁気シールド筐体内に配設されるため、第1のコイル及び第2のコイルで生じる磁束を外部に漏らすことなく、第1のセンサヘッド及び第2のセンサヘッドへの第1のコイル及び第2のコイルからの磁界の影響を排除することができるという効果を奏する。
本発明に係る勾配磁界センサは、励磁用の交流電流及びバイアス直流電流を供給する電源部と、前記電源部に直列接続される第1の磁気コアと、前記電源部に直列接続され、前記第1の磁気コアに並列接続される第2の磁気コアと、前記第1の磁気コアに直列接続され、前記第1の磁気コアに通電されるバイアス直流電流を調整可能な受動素子の回路からなる第1の調整手段と、前記第2の磁気コアに直列接続され、前記第2の磁気コアに通電されるバイアス直流電流を調整可能な受動素子の回路からなる第2の調整手段と、前記第1の磁気コアに巻回される第1の検出コイルと、前記第1の磁気コア及び前記第1の検出コイルからなる第1のセンサヘッドが外部からの一様磁界に対して出力する検出信号を打ち消すように、前記第2の磁気コアに巻回され、前記第1の検出コイルと直列接続される第2の検出コイルと、前記第1の検出コイル及び第2の検出コイルが出力する検出電圧に基づいて、局所磁界を出力するセンサ回路とを備えるものである。
このように、励磁用の交流電流及びバイアス直流電流を供給する電源部と、前記電源部に直列接続される第1の磁気コアと、前記電源部に直列接続され、前記第1の磁気コアに並列接続される第2の磁気コアと、前記第1の磁気コアに直列接続され、前記第1の磁気コアに通電されるバイアス直流電流を調整可能な受動素子の回路からなる第1の調整手段と、前記第2の磁気コアに直列接続され、前記第2の磁気コアに通電されるバイアス直流電流を調整可能な受動素子の回路からなる第2の調整手段と、前記第1の磁気コアに巻回される第1の検出コイルと、前記第1の磁気コア及び前記第1の検出コイルからなる第1のセンサヘッドが外部からの一様磁界に対して出力する検出信号を打ち消すように、前記第2の磁気コアに巻回され、前記第1の検出コイルと直列接続される第2の検出コイルと、前記第1の検出コイル及び第2の検出コイルが出力する検出電圧に基づいて、局所磁界を出力するセンサ回路とを備えるため、第1のセンサヘッド及び第2のセンサヘッドの感度調整のために、別途電源を用意する必要がなく、回路構成を簡単にして小型化することができるという効果を奏する。
また、第1のセンサヘッド及び第2のセンサヘッドの感度調整の操作は、受動素子を調整するのみで、電源の極性を変えるような切替手段を別途用意する必要がなく、センサの構成を簡素化して小型化することができるという効果を奏する。
さらに、第1のセンサヘッド及び第2のセンサヘッドのそれぞれの感度を第1の調整手段及び第2の調整手段で個別に調整することが可能であり、精密な感度調整を行うことができるという効果を奏する。
以下、本発明の実施の形態を説明する。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る勾配磁界センサについて、図1を用いて説明する。本実施形態に係る勾配磁界センサは、基本波型直交フラックスゲートセンサを構成する2つのセンサヘッドを用いて局所磁界(勾配磁界)を検知するグラディオメータを用いたものであり、それぞれのセンサヘッドの製造誤差などによる特性の差を容易且つ高精度に調整して、極めて微小な異物などの局所磁界を高感度に検知するものである。
図1は、本実施形態に係る勾配磁界センサの構成を示す回路ブロック図である。センサヘッド1(第1のセンサヘッド)は、磁性コア110(第1の磁性コア)と、検出コイル11(第1の検出コイル)とを有する。また、センサヘッド2(第2のセンサヘッド)は、磁性コア120(第2の磁性コア)と、検出コイル12(第2の検出コイル)とを有する。磁性コア110及び磁性コア120は、例えば、U字型(又はヘアピン型)やW型に形成されたCo基アモルファスワイヤにより構成される。検出コイル11は、磁性コア110の周囲を包むように、その延在方向(Z軸線)回りに巻回されるコイルである。同様に、検出コイル12は、磁性コア120の周囲を囲うように、その延在方向回りに巻回されるコイルである。検出コイル11及び検出コイル12は、例えば、巻き数を1000ターンとされる。
なお、磁性コア110及び磁性コア120は、U字型やW型以外にI字型(棒状)であってもよい。その場合、折り返し部分を導線などの配線で構成するようにしてもよい。
また、磁性コア110及び磁性コア120に用いる材料は、導電率が高く適切な軟磁性を有する材料であればこれに限定されない。例えば、磁気歪みが小さい、幅1mm、厚さ20μm程度の断面を持つ細長いコバルト基アモルファス磁性薄帯を用いることができる。さらに、直径0.1mm程度のパーマロイワイヤや、断面が幅1mm、厚さ10〜20μm程度のパーマロイ薄帯を用いることもできる。
さらにまた、図1においては、センサヘッド1及びセンサヘッド2は、各々の磁性コア(磁性コア110、120)の延在方向が平行となるように配置されているが、各々の磁性コアの延在方向が同軸となるように配置することもできる。
図1に示すように、磁性コア110及び磁性コア120は、交流電源VEXと、その振幅より大きな値を持つ直流電源Eとを有する電源部40と、調整部20を介して直列に接続される。交流電源VEX及び直流電源Eが、磁性コア110及び磁性コア120に対して、調整部20を介して所定の交流電圧及び直流電圧を印加して通電することで、センサヘッド1、2が励磁される。これにより、センサヘッド1、2は、各々の延在方向に沿う磁界に応じた検出電圧を出力可能な、いわゆる直交フラックスゲートセンサ(基本波型直交フラックスゲート(MF−OFG:Fundamental mode orthogonal fluxgate))をなす。これにより、バルクハウゼンノイズの低減及びセンサの高感度化を図ることができる。
また、図1に示すように、検出コイル11と、検出コイル12とは、直列接続となるように各々の一端が電気配線で結線される。また、検出コイル12の他端側がフラックスゲートセンサ回路3に接続されるとともに、検出コイル11の他端側がグラウンドに接続される。また、検出コイル11と、検出コイル12とは、同一方向の磁界に対して生じる誘起電圧(検出電圧V1、V2)が互いに打ち消し合うように(互いの極性が逆向きとなるように)接続される。これにより、同一方向の磁界に対しては、センサヘッド1の検出電圧V1及びセンサヘッド2の検出電圧V2の合成電圧(センサ出力)として、それぞれのセンサヘッド1、2から出力される検出電圧の差分を取ったもの(V2−V1)が現れる。このようにすることで、遠方から到達してくるような一様磁界に関しては、センサヘッド1、2の両方で同様にピックアップされてセンサ出力には現れない。しかし、局所的な磁界に対しては、一方のセンサヘッド(例えば、センサヘッド2)でのみピックアップされるので、センサ出力として観測される。これにより、一様磁界の雑音を除去して信号を検出する事ができるようになり、対雑音性能を向上させることができる。
フラックスゲートセンサ回路3は、同期検波回路30(PSD:Phase Sensitive Detector)、平滑回路31(smoothing filter)、及び誤差増幅器32(Error Amplifier)を有して負帰還回路(参考文献:笹田一郎・村上雅則:「負帰還構成にした基本波型直交フラックスゲートの動作と特性」,電気学会研究会資料,MAG-08-133 (2008)を参照)を構成する。センサヘッド1、2からのセンサ出力V2−V1は、コンデンサC、同期検波回路30及び平滑回路31を通じて、センサ出力V2−V1に応じた所定電圧となって、誤差増幅器32に送られる。その後、誤差増幅器32への入力(センサ出力V2−V1)が0になるように、帰還抵抗Rfを通して帰還電流ifが検出コイル11、12に流れる。このときに帰還抵抗Rfに生じる電圧の変位(局所磁界検出信号Vo)がセンサ出力V2−V1に相当する。
調整部20は、交流電源VEX及び直流電源Eに直列接続され、磁気コア110に並列接続される調整コイル211及び可変抵抗器212からなる第1調整部210と、磁気コア120に並列接続される調整コイル221及び可変抵抗器222からなる第2調整部220とを備える。第1調整部210及び第2調整部220は、それぞれ調整コイル211及び221を有することで、電源部40からの交流電流に対するインピーダンスを大きくし、第1調整部210及び第2調整部220に直流電流のみが流れるように構成している。センサヘッド1、2のインピーダンスは、アモルファスワイヤの抵抗値に基づくもので、例えば10Ω程度である。したがって、調整コイル211及び221のインピーダンスは、その10倍以上、すなわち100Ω程度以上であることが望ましい。このとき、可変抵抗器212及び222の抵抗値の最大値は、1kΩ〜50kΩ(すなわち、0kΩ〜1kΩないし0kΩ〜50kΩ程度)とすることが望ましい。
上述したように、従来は、センサヘッド1、2が2地点の磁界をそれぞれ検知する必要があるため、検出感度が同一である必要がある。しかしながら、製造誤差などから生じる特性の不整合により、実際には一様磁界の強度にも反応して検知してしまう場合があるため、図10に示すような、磁性コア120に通電する直流電流を調整して感度調整をすることが行われていた。これに対して、本実施形態に係る勾配磁界センサにおいては、第1調整部210に通電される直流電流と、第2調整部220に通電される直流電流とを、可変抵抗器212及び222で調整することで、それぞれの磁性コア110、120に通電される直流電流量を調整し、それぞれのセンサヘッド1、2の感度調整を行う。つまり、感度が高い方のセンサヘッドについては、直流電流を増やして感度を小さく、感度が低い方のセンサヘッドについては、直流電流を減らして感度を大きくするように、可変抵抗器212及び222を調整する。
このような調整部20による各センサヘッドの感度調整を行うことで、センサヘッド1の感度調整、及びセンサヘッド2の感度調整をフレキシブルに行うことが可能となる。また、感度調整用の電源が不要となり、装置の小型化を図ることが可能となる。さらに、可変抵抗器212及び222の抵抗値を変えることで、磁性コア110、120に通電される直流電流量の増減を調整することが可能であるため、極性を変えるような手間を省いて、簡単に感度調整を行うことが可能となる。
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る勾配磁界センサについて、図2を用いて説明する。本実施形態に係る勾配磁界センサは、前記第1の実施形態における勾配磁界センサの調整部の回路構成を変更したものである。なお、本実施形態において、前記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
図2は、本実施形態に係る勾配磁界センサの調整部の回路構成を示す図である。図2に示すように、本実施形態においては、調整部20が、交流電源VEX及び直流電源Eに直列接続され、磁気コア110及び120に並列接続される調整コイル211、可変抵抗器212及び調整コイル221を有する。調整コイル211、可変抵抗器212及び調整コイル221は、この順番で順次直列接続されている。可変抵抗器212は、調整コイル211及び調整コイル221にそれぞれ接続する両端子211a及び221aを有し、さらに、磁気コア110及び120の間と抵抗器の間とを結線して接続するための第3の端子230aを有している。この第3の端子230aの位置は、摺動子により抵抗器上で変更可能となっている。すなわち、調整コイル211と可変抵抗器212の一の部分で第1調整部210を構成し、調整コイル221と可変抵抗器212の他の部分で第2調整部220を構成している。
図2においては、可変抵抗器212の摺動子の位置を調整することにより、磁性コア110及び120に通電するバイアス直流電流量を相補的に調整することが可能となる。すなわち、可変抵抗器212の摺動子の位置を変えて調整コイル211側の抵抗値を大きくすると、磁性コア110のバイアス直流電流量が増加し感度が下がる。同時に、調整コイル221側の抵抗値は小さくなるため、磁性コア120のバイアス直流電流量が減少し感度が上がる。
このように、センサヘッド1、2の感度の大小に応じて、可変抵抗器212の摺動子の位置を調整するだけの簡単な操作で、センサヘッド1、2の感度を相補的に調整して一致させることが可能となる。
(本発明の第3の実施形態)
本実施形態に係る勾配磁界センサについて、図3及び図4を用いて説明する。本実施形態に係る勾配磁界センサは、前記各実施形態における勾配磁界センサと同じ原理であるが、回路構成が異なるものである。なお、本実施形態において、前記各実施形態と重複する説明は省略する。
図3は、本実施形態に係る勾配磁界センサの調整部の回路構成を示す第1の図、図4は、勾配磁界センサの調整部の回路構成を示す第2の図である。図3は、前記第1の実施形態における図1の構成に対応するものであり、図4は、前記第2の実施形態における図2の構成に対応するものである。図3及び図4において、前記各実施形態と異なるのは、磁性コア110、120が並列接続になっており、第1調整部210は磁性コア110に直列接続され、第2調整部220は磁性コア120に直列接続されていることである。
図3において、磁性コア110と磁性コア120とはそれぞれが並列接続されてると共に、電源部40に直列接続されている。つまり、磁性コア110と磁性コア120とには、それぞれの抵抗値に応じた電圧が印加されて電流が分流される。上述したように、磁性コア110、120は理論上同一の性能であっても、製造誤差等により僅かな特性の差が生じている可能性が高いため、磁性コア110、120に流れる電流が完全に1:1にならない場合がある。図3においては、磁性コア110に対しては第1調整部210が、磁性コア120に対しては第2調整部220がそれぞれ直列接続されている。第1調整部210は、コンデンサ311と可変抵抗器212とが並列接続された回路からなり、第2調整部220は、コンデンサ321と可変抵抗器222とが並列接続された回路からなる。このような回路で可変抵抗器212及び/又は可変抵抗器222の抵抗値を調整することで、各磁性コア110、120に流れるバイアス直流電流の増減を調整し、センサヘッド1、2の感度調整を行うことが可能となる。
また、図4の場合は、図3における第1調整部210の可変抵抗器212、及び第2調整部220の可変抵抗器222の代わりに、それぞれの可変抵抗器212と可変抵抗器222とが一体になった共通の可変抵抗器310を備えており、可変抵抗器310の摺動子の位置を調整することにより、磁性コア110及び120に通電するバイアス直流電流量を相補的に調整する。そうすることで、センサヘッド1、2の感度調整を行うことが可能となる。
なお、図3及び図4の場合、前記第1の実施形態や第2の実施形態の場合と異なり、可変抵抗器212、222及び310は、各磁性コア110、120に対して直列接続となることから、抵抗値は0〜数Ω程度であればよい。
(本発明のその他の実施形態)
本実施形態に係る勾配磁界センサについて、図5及び図6を用いて説明する。本実施形態に係る勾配磁界センサは、前記各実施形態における勾配磁界センサの各構成部品の配置構成を変更したものである。なお、本実施形態において、前記各実施形態と重複する説明は省略する。
本実施形態に係る勾配磁界センサは、調整部20に2つの調整用のコイル(調整コイル211と調整コイル221)を有することから、電流が通電されることでそれぞれのコイルに磁界が発生する。また、本実施形態に係る勾配磁界センサは、外部の一様磁界を完全に打消し、極めて微細な異物等の局所磁界を検出する場合があり、そのためには外部のノイズ磁界を完全に遮断する必要がある。そこで、本実施形態においては、図1及び図2に示すように、調整用のコイルの磁束がセンサヘッド1、2の感度に影響しないよう、調整コイル211と調整コイル221が、磁気コア110及び120の長手方向とは異なる方向(例えば、垂直方向)に当該調整コイル211と調整コイル221の磁束が発生するように配置されることが望ましい。
また、図5に示すように、調整コイル211と調整コイル221の磁束が、磁気コア110及び120の長手方向とは異なる方向となるように配置すると共に、調整コイル211で発生する磁束と調整コイル221で発生する磁束とが反対方向となるように配置することで、調整コイル211と調整コイル221とで生じる磁束の大部分が一巡し、遠方にその影響を及ぼさず、センサヘッド1、2への影響をより低減することが可能となる。特に、センサヘッド1、2と調整コイル211、221とが同一基板上に形成されるような場合には、それぞれの磁束の影響を排除して、高性能なセンサを実現することが可能となる。
さらに、図6に示すように、少なくとも調整コイル211、221を含む調整部20を磁界をシールドすることが可能な筐体41に内包することで、センサヘッド1、2への影響を排除するようにしてもよい。
本発明に係る勾配磁界センサを使って、以下の実験を行った。以下の実験では、図1に示した回路で勾配磁界センサを作成して測定を行なった。センサヘッド1、2の長さを30mm、検出コイル11、12の巻き数を各1000ターンとし、センサヘッド1、2の励磁は、100kHzで実効値12mA、直流バイアス電流を40mAとした。センサヘッド1、2は、端部を揃えて平行となるように配置し、センサ間を12mm離隔して配置した。実効値が1.27μT、周波数20Hzの一様磁界を印加した状態で勾配磁界センサの抑圧特性を調べた。図7は、印加した一様磁界の波形を示している。本実施例における一つのセンサヘッドで構成されるマグネットメータは1μTに対して250mVを出力する。
まず、図1に示す回路図において、可変抵抗器212、222(理論値はどちらも50kΩ)を調整せずに、勾配磁界センサの出力を測定した。この測定結果を図8に示す。このとき、波形の実効値は1.89mVである。図8における勾配磁界センサの一様磁界に対する抑圧比を、(マグネットメータの出力/グラディオメータの出力(本発明の勾配磁界センサ))で評価すると、0.250/(0.00189/1.27)≒168となる。
次に、図1に示す回路図において、可変抵抗器212、222(理論値はどちらも50kΩ)を調整して、勾配磁界センサの出力を測定した。この測定結果を図9に示す。このとき、可変抵抗器212、222を調整して振幅が最小となった状態において、実効値が0.128mVである。上記と同様に抑圧比を求めると、0.250/(0.000128/1.27)≒2480となる。
以上のことから、図9の測定結果に示されるように、本発明に係る勾配磁界センサは、可変抵抗器212、222を調整することで、理論上は同一の特性を有するセンサヘッドであっても、製造誤差などにより僅かな差が生じているセンサヘッドに対して、それぞれの誤差を低減し、限りなく同一特性の状態に調整して高感度に局所磁界を検出することが可能であることが明らかとなった。