(第1の実施形態)
第1の実施形態の干渉低減方法が適用されたレーダ装置について図面を参照して説明する。
図1は、第1の実施形態の干渉低減方法が適用されたレーダ装置の構成例を示すブロック図である。
本実施形態のレーダ装置10は、例えば気象観測用レーダや航空管制用レーダに適用されるものであり、空中線12、送受切替部14、送信機16、受信機18、および信号処理装置20を備えている。
空中線12は例えばパラボラアンテナであり、送信機16からの送信ビームを発射し、この送信ビームが、検出対象(例えば、気象観測用レーダの場合、雨)に反射して得られる受信波(反射エコー)を受信し、この受信信号を、受信機18に出力する。受信波の中には、他のレーダ装置である与干渉局レーダからの干渉波も含まれる。
送受切替部14は、送信機16による電波の送信、または受信機18による電波の受信を切り替える。
信号処理装置20は、受信波の含まれる干渉波を検出し、必要であれば受信波から干渉波を除去することによって、受信信号における干渉の影響を低減するための装置である。
レーダ装置10は、限定される訳ではないが、一例として、パルス圧縮レーダとすることができる。パルス圧縮レーダでは、従来の電子管型から、固体化レーダに移行されることに伴い、送信機16は、低い送信電力でパルス内変調を加えた長いパルスを送信し、受信機18による受信時に、信号処理装置20においてなされるパルス圧縮と呼ばれる相関処理により、自局レーダ(レーダ装置10)が送信した変調と同一の反射波を積み上げる。
信号処理装置20は、このようなパルス圧縮等によって干渉波の検出および除去を行うために、干渉検出部22、干渉除去部24、および本来の検出対象(例えば、レーダ装置10が気象観測用レーダである場合、雨)に対する信号処理部26を備えている。
干渉検出部22は、検出対象からの受信波の処理前に、単数または複数の与干渉局レーダにおける送信パルス情報(例えば、中心周波数、パルス幅、パルス内変調、パルス繰り返し周期(以下、「PRI」とも称する)、初期位相符号)に基づいて、与干渉局レーダによる干渉波を検出する。
干渉波を検出するために、与干渉局レーダの中心周波数を予め記録していることは有利である。すなわち、与干渉局レーダの中心周波数を予め記録していれば、干渉波の検出はより容易になる。
また、通常、与干渉局レーダのパルス内変調は自局レーダとは異なるが、与干渉局レーダのパルス幅とパルス内変調方式も予め記録していれば、与干渉局レーダの変調方式でパルス圧縮処理を行うことで、干渉波の検出はより容易になる。
さらには、与干渉局レーダのPRIも予め記録していれば、干渉波の見逃しを減らすことができることから、干渉波の検出はより確実となる。
本実施形態において、与干渉局レーダとは、例えば、他の気象観測用レーダ、航空管制用レーダのように、同一または関連する機関が運用している固定レーダとする。従って、自局レーダは、これら与干渉局レーダの設置場所や、送信パルス情報(例えば、中心周波数、パルス幅、パルス内変調方式、PRI、初期位相符号)を、予め記録している。
与干渉局レーダの送信パルス情報(中心周波数、パルス幅、パルス内変調、パルス繰り返し周期、初期位相符号)は、気象観測用レーダや航空管制用レーダのように同一または関連する機関が運用している場合は、これら全てのレーダ局の送信パルス情報の設定値をデータベース化し、共有することができる。同一または関連する機関が運用していない場合でも、自局レーダで繰り返し受信される干渉波を解析すれば、同様の送信パルス情報をデータベース化することができる。
これによって、干渉検出部22は、与干渉局レーダの送信パルス情報を活用することにより、干渉波をより高い確率で検出することができる。
干渉除去部24は、干渉検出部22によって検出された干渉波を除去する。具体的な除去方法は、干渉波の全体をゼロにする、干渉波をノイズレベルまで下げる、または干渉波を別の電力や位相に置き換えることを含むが、本実施形態では、自局レーダの中心周波数と、与干渉局レーダの中心周波数との関係から決定される以下の2つのケース毎に、異なるタイプの受信機18を用いるとともに、干渉検出部22においても異なる方式で干渉波を検出する。
第1のケースは、自局レーダと与干渉局レーダとの中心周波数が同じ場合である。
この場合、受信機18は、図2を用いて後述するような広帯域の受信帯域を有する必要はなく、狭帯域の受信帯域を有していればよい。
また、干渉検出部22は、自局レーダと与干渉局レーダとの共通の中心周波数に加えて、与干渉局レーダのパルス幅、パルス内変調、およびPRIを考慮して、干渉波を検出する。なお、オプションとして、与干渉局レーダの初期位相符号をさらに考慮すれば、干渉波を検出する確率をさらに高めることができる。
第2のケースは、自局レーダと与干渉局レーダとの中心周波数が異なる場合である。
この場合、受信機18としては、図2に例示するように、自局レーダの中心周波数fαと、与干渉局レーダの中心周波数fbとの両方を検出できるように、受信帯域が、広帯域型のものを使用する。
図2は、受信機の広帯域受信帯域を例示するスペクトラム図であり、縦軸は強度、横軸は周波数を表す。
図2において曲線αは、自局レーダからのレーダによる受信波の強度を表し、曲線βは、与干渉局レーダによる受信波の強度を表す。図2に例示するように、受信機18は、自局レーダの中心周波数fαのみならず、与干渉局レーダの中心周波数fbをも検出できるように広い受信帯域を有しているので、自局レーダによる受信波のみならず、与干渉局レーダによる受信波も受信できる。
図2において、受信波βの、周波数fa側のすそ野部分の成分β1が、自局レーダに対する干渉となる。すなわち、受信波βは、自局レーダに対する干渉波βでもある。従来は、干渉除去する場合、干渉波βを検出したら、そのパルスを受信している時間のデータは受信波αもろとも全て除去している。
成分β1は、受信波(干渉波)βのうち、コントロールされずに、自局レーダの中心周波数fa側に漏れ出て来たものであるために、強度は低く、不安定であるため、特定は困難である。
しかしながら、図2のように、広い受信帯域を有する受信機18によれば、与干渉局レーダによる受信波βを、信号強度の高い与干渉局レーダの中心周波数fbで検出できる。中心周波数fbで検出された受信波βは、コントロールされた分かりやすい信号であり、例えば、成分β1が自局レーダの周波数範囲に現れる時には、受信波βの最大強度から50(dB)低い値になると把握できるので、干渉検出部22は、干渉波βを高い精度で検出することが可能となる。
したがって、干渉除去部24は、自局レーダの受信波αから、干渉波βを確実に除去することができる。
このように、自局レーダと与干渉局レーダとの中心周波数が異なる場合、本実施形態のレーダ装置10は、与干渉局レーダからの干渉波βを、与干渉局レーダの中心周波数fbにおいて検出し、除去する。
なお、干渉検出部22は、前述したような与干渉局レーダの中心周波数fbに加えて、与干渉局レーダのパルス幅およびパルス内変調をも考慮して、干渉波βを検出してもよい。さらには、オプションとして、与干渉局レーダのPRIおよび初期位相符号をさらに考慮すれば、干渉波βを除去する精度をさらに高めることができる。
図3は、干渉波の発生タイミングを例示する図であり、縦軸は強度、横軸は時間を表す。
前述したように、干渉検出部22は、干渉波βの検出を非常に容易に、高精度で行うので、干渉波βの発生するタイミングも高い精度で把握することができる。干渉波βの発生するインタバルは、PRIに等しくなる。したがって、干渉波βの発生タイミングから、次の干渉波βがどの時間に来るのかを把握することができる。
したがって、干渉除去部24は、干渉波βの発生タイミングにあわせて干渉が発生すると仮定し、自局レーダによる干渉波βのパルス幅分のデータを受信波αもろとも周期的に除去することができる。
このような特徴により、個別のパルスでは干渉波βが検出できないような状況であっても、干渉波βの周期性を利用して全ての干渉波βを受信波αもろとも除去することが可能となる。この原理について図4を用いて説明する。
図4もまた、干渉波の発生タイミングを例示する図であり、図4(a)、図4(b)、図4(c)ともに、縦軸は強度、横軸は時間を表す。
図4(a)は、与干渉局レーダによるレーダパルスを示している。例えば気象観測用レーダや航空管制用レーダである与干渉局レーダは、近距離観測用の短いパルスPSと、遠距離観測用の長いパルスPLとをセットで送信する。パルス内変調を加えた長いパルスPLの送信においては、送信波の受信系統への漏れ込みにより、近距離の観測ができないため、このように、短いパルスPS(一般的には無変調)と長いパルスPL(周波数変調等)とを交互に送信することが一般的であり、気象観測用レーダでも、航空管制用レーダでもなされている。また、短いパルスPSと長いパルスPLとの時間間隔Tは一定値に定められている。例えば、短いパルスPSが打たれた後、30μ秒の時間間隔Tを置いた後に、30μ秒の長さの長いパルスPLが打たれるという具合である。このように、それぞれのパルス幅と時間間隔Tとが仮に決定されれば、短いパルスPSの干渉波も除去することができる。
図4(a)において、長いパルスPLに示される右上がりの矢印は、長いパルスPLの変調方式が、最初は低周波数で、時間とともに周波数を上げて行く変調方式であるアップチャープ変調であることを示している。
このように短いパルスPSと、長いパルスPLとのセットを、パルス圧縮により相関処理を行うと、図4(b)のように、長いパルスPLだけが、あたかも短くて強い圧縮パルスP(P1、P2、P3、・・・)を出したように、はっきりと表れる一方、短いパルスPSは拡散されて見えなくなる。
また、図4(b)には、自局レーダの受信波(例えば、雨からの反射波)Rも例示されている。図4(b)に例示されているように、受信波Rの強度が高いと、圧縮パルスP2、P3、・・・のように、受信波Rに埋もれてしまって見えない場合がある。図4(b)の場合、1発目の圧縮パルスP1だけは受信波Rよりも強度が高いので干渉波として検出可能であるが、2発目以降の圧縮パルスP2、P3、・・・に関しては、実際には干渉波となって入って来ているにも関わらず、検出できないということになる。
なお、図4(b)において、受信波Rの周期は、自局レーダのPRIに相当する。図4(b)の例では、自局レーダのPRIは、与干渉局レーダのPRIよりも長くなっている。
このような場合、干渉検出部22は、圧縮パルスP1すなわち干渉波を検出すると、与干渉局レーダのPRI後に、次の圧縮パルスP2すなわち干渉波が来て、さらに与干渉局レーダのPRI後に、次の圧縮パルスP3すなわち干渉波が来るという具合に、1つの圧縮パルスP1さえ検出できれば、他のすべての圧縮パルスPが来るタイミングを推定することができる。
この推定に基づいて、干渉検出部22は、図4(c)に例示するように、与干渉局レーダからの干渉波βとなる短いパルスPSおよび長いパルスPLの発生タイミングを復元し、干渉除去部24は、このタイミングに従って、干渉波βを受信波αもろとも除去することができる。これによって、個別の干渉波βが検出されない場合であっても、周期性を利用して全ての干渉波βを除去することができる。
図5を用いて、個別の干渉波βが検出できない状況であっても、全ての干渉波βを除去する別の手法を説明する。
図5もまた、干渉波の発生タイミングを例示する図であり、図5(a)、図5(b)、図5(c)、図5(d)ともに、縦軸は強度、横軸は時間を表す。
図5(a)は、図4(a)と同様であり、図5(b)は、図4(b)と同様であるので、重複説明を避ける。
図5(c)は、図5(b)に示すようなN個の圧縮パルスP1、P2、P3、・・・PNを積算して得られた積算圧縮パルスPtotである。積算圧縮パルスPtotを得るためには、具体的には、受信信号を、与干渉局レーダのPRI毎に時間的に区切り、各周期において同じ時間に受信された信号を積算する。積算により、各PRIにおいて同じタイミングで圧縮パルスPが発生しているところに強い積算圧縮パルスPtotが出現するので、N個の圧縮パルスP1、P2、P3、・・・PNをそれぞれ個別に考慮する場合よりも、干渉波の発生タイミングをより正確に把握できるので、干渉検出確率を向上させることができる。
実際に干渉波を除去する場合は、図5(c)に示す積算圧縮パルスPtotを、図5(d)に示すように、周期数Nで除して分解することによって、各周期における干渉波に復元する。この復元結果に基づいて、図4(c)で説明したように、受信信号から干渉波βを受信波αもろとも除去する。このような手法を用いることにより、個別の干渉波βが検出されない場合であっても、周期性を利用して全ての干渉波βを除去することができる。
次に、図5(c)でなされている積算のための具体的な3つの手法について詳述する。
第1の手法は、ノンコヒーレント積分である。ノンコヒーレント積分では、PRIごとに発生する干渉波βの強度を単純に積分する、すなわち、電力情報のみを積算する手法である。
第2の手法は、コヒーレント積分である。コヒーレント積分では、干渉波の強度だけではなく、位相情報をも考慮した積算を行うことにより、干渉波をより高い精度で検出をすることができる。位相情報の考慮は例えば以下のようにして行う。
例えば、与干渉局レーダの位相系列が、‘0110001100010111’であると仮に決定する。
このような位相系列の場合、与干渉局レーダは、初期位相0(ゼロ)でパルスを打ち、次の位相である1のときは逆位相である位相πでパルスを打つ。これに応じて、干渉検出部22は、1発目のパルスに応じた電力に、2発目のパルスに応じた電力を積算する場合、180°戻してから積算する。このように、干渉検出部22は、符号系列を考慮して、電力を積算する。
ただし、1発目のパルスが、上記位相系列の最初に対応しているか否かは自局レーダでは不明である。すなわち、積算を開始する1発目のパルスが、上記位相系列の最初に対応しているとは限らない。上記位相系列は周期関数あり、繰り返されている。したがって、まずどのパルスが位相系列の最初に対応しているのかを把握する必要がある。パルスがどの開始点か不明な場合、電力を正しく積算することができないからである。コヒーレント積分では、正しい開始点から積算を開始すれば、積算値は積み上がるが、正しい開始点から積算を開始していなければ、積算値は積み上がらない。
したがって、干渉検出部22は、積算値が積み上がった場合には、正しい開始点から積算を開始していると判定し、積算を継続する。一方、積算値が積み上がらない場合には、正しい開始点から積算を開始していないと判定し、位相系列を1つずらしてから再び積算を開始する。これによって積算値が積み上がれば、正しい開始点から積算を開始していると判定し、積算を継続する。一方、積算値が積み上がらない場合には、まだ正しい開始点から積算を開始していないと判定し、位相系列を再度1つずらしてから積算を開始する。
干渉検出部22は、このような処理を繰り返すことによって、正しい開始点から積算を開始することが可能となり、積算値を積み上げることが可能となる。
また、自局レーダと与干渉局レーダとの間での位相同期が取られていない場合や、与干渉局レーダの初期位相符号系列が不明の場合や、あるいはランダムである場合や、あるいは与干渉局レーダとの位相同期が保てない場合には、前述したノンコヒーレント積算を採用する。
第3の手法は、PRIも符号もすべてわかっている場合に採用可能な手法である。パルス圧縮処理をするときに、通常は1パルスだけで参照波を作って相関をとるが、本手法では、周期関数との相関をとる。
これによって、初期位相の符号系列までが仮に決定できる場合は、複数のPRIにまたがる与干渉局レーダの参照波を、この初期位相符号系列で生成し、パルス圧縮することにより一気に干渉波を検出することが可能である。
これを、前述した図4、図5に加えて、図6を用いて説明する。
図6もまた、干渉波の発生タイミングを例示する図であり、図6(a)、図6(b)、図6(c)ともに、縦軸は強度、横軸は時間を表す。図6に示される符号の意味は、図4および図5に示される符号の意味と同一であるので、重複説明を避ける。
図4(b)は、図4(a)に例示するような干渉波を、1つのPRI毎にパルス圧縮した状態を示すものであるが、図6(b)は、図4(a)と同一である図6(a)に例示するような干渉波を、N個(Nは、2以上の整数)のPRIの分まとめて干渉波をパルス圧縮したものである。すなわち、図6(b)には、は、Nパルス分の干渉波が積み上げられた積分圧縮パルスPtotが示されている。
図6(c)は、図5(b)に示す積算圧縮パルスPtotを、周期数Nで除して分解することによって、各周期における干渉波に復元する。この復元結果に基づいて、図4(c)で説明したように、受信波αから干渉波βを除去する。このような手法を用いても、干渉波βが検出されない場合であっても、受信波αから干渉波βを除去することができる。
ただし、この手法の採用は、位相の同期が取られていることが前提となる。位相の同期が取られていないと、ベクトルの打ち消しが発生し、同じ所で積みあがらないからである。
ところで、気象観測用レーダでも航空管制用レーダでも、検出対象のドップラー速度検出範囲を拡大するために、異なるPRIを時間的に切り替えて運用する与干渉局レーダを対象として、上述したようなコヒーレント積算やノンコヒーレント積算を行う場合、コヒーレント積算やノンコヒーレント積算を異なるPRIの数だけ行い、複数種類のPRIの干渉パルス列を検出することが考えられる。
図7に示すように、PRI1、PRI2(PRI1<PRI2)のように、2つの周期、つまり周波数を切り換えながら回転するレーダを例に説明する。ここで、短い周期であるPRI1と、長い周期であるPRI2とが交互に切り換わる。これによって、ドップラー観測のような風の観測時に、2つの周期の組み合わせによって、観測範囲を拡大することができ、台風のように風速50〜60mのような風も観測できるようになる。
ただし、異なるPRIを時間的に切り替えて運用する与干渉局レーダを対象として、上述したようなコヒーレント積算やノンコヒーレント積算を行う場合、与干渉局レーダの周期がわからないので、与干渉局レーダの参照波でパルス圧縮処理をする。その結果、与干渉局レーダのPRIがわかる。積算するときには、このPRIで区切ってから行う。
ところが、図7のように、与干渉局レーダのPRIが2つ存在すると、この区切り方も2通り存在する。つまり、PRI1の積算と、PRI2の積算とが発生する。積算値は、PRIが与干渉局レーダのものと一致している場合には積み上がるものの、一致していない場合は積み上がらない。したがって、実際に積み上げながら確認することを、複数の異なるPRIの数だけ実施する。
また、パルス毎のパルス圧縮結果を元に、異なるPRIの切替タイミングを推定し、除去するパルス列のPRIを途中で切り替えることにより、不要なパルス列の除去を避けることも可能である。
例えば、PRI1とPRI2との境目のところに自局レーダが存在する場合、前半のPRIのPRI1であり、後半のPRIはPRI2となり、小さな山が2個できる。この場合、1個前に戻って、どこまでがPRI1で、どこまでがPRI2であるかを把握すれば、途中まではPRI1を考慮して干渉波を除去し、その後はPRI2を考慮して干渉波を除去することができる。
別の手法では、PRI1を考慮した干渉波の除去と、PRI2を考慮した干渉波の除去との両方を実施する。ただし、この場合、干渉を受けていない時間においても無用な干渉除去を行ってしまう恐れもある。したがって、PRI1における積算で積み上がったと分かっているところ、PRI2における積算で積み上がったと分かっているところ、不明なところとがあった場合、不明なところは、PRI1を考慮した干渉波の除去と、PRI2を考慮した干渉波の除去との両方を実施し、不明ではないところは、PRI1を考慮した干渉波と、PRI2を考慮した干渉波とを除去する。
以上説明したように、干渉検出部22によって干渉波を検出し、干渉除去部24によって、与干渉局レーダによる干渉波を一度に除去することができる。具体的な除去方法は、受信波αに含まれる干渉波βの強度をゼロにする、または受信波αに含まれる干渉波βの強度をノイズレベルにする、または受信波αに含まれる干渉波βの強度を別の電力や位相に置き換えることを含む。
これによって、信号処理部26は、干渉波が除去された受信信号を用いて信号処理を行うことができる。したがって、本実施形態のレーダ装置10は、干渉の影響を低減することが可能となる。
以上説明したように、本実施形態のレーダ装置10によれば、与干渉局レーダの中心周波数が自局レーダと同一の場合は、信号処理装置20において、与干渉局レーダの送信パルス情報(中心周波数、パルス幅、パルス内変調、パルス繰り返し周期、初期位相符号)を元に干渉波を検出し、干渉除去した上で、本来の検出対象からの反射エコーを受信波として解析することができる。また、与干渉局レーダの中心周波数が自局レーダから離れている場合でも、自局レーダの受信装置、信号処理装置を広帯域化することにより、干渉検出/除去と受信波解析を1つの信号処理装置20内で実施することが可能である。
レーダ装置10は、与干渉局レーダの送信パルス情報を共有している場合はもちろんであるが、送信パルス情報を共有していない場合でも、与干渉局レーダから発せられるパルスを解析することにより、干渉波を推定することが可能である。また、与干渉局レーダの方位が分かっている場合には、自局レーダのアンテナを与干渉局レーダ方向に固定することにより、短時間で干渉波の推定が可能となる。
また、複数のレーダが近距離で運用される場合、これらレーダ局には、通常は異なる中心周波数が割り当てられる。この場合、自局レーダの中心周波数のみの解析では、与干渉局レーダのパルス内変調を参照波としたパルス圧縮による信号の積み上げが期待できず干渉波を検出することは困難である。しかしながら、本実施形態のレーダ装置10によれば、与干渉局レーダの中心周波数を受信し、与干渉局レーダのパルス内変調でパルス圧縮することができるので、自局レーダの検出対象からの反射波がない状況で干渉波を検出することができるので、干渉波の検出は容易となる。干渉検出が容易なので、複数のPRIをまとめて検出し、パルス列として除去するのではなく、1パルスずつ検出し除去することも可能である。
また図8に例示するように、与干渉局レーダの中心周波数λ1からa(MHz)離れた周波数λ2を自局レーダが中心周波数として使用しており、その中心周波数λ2において、与干渉局レーダの送信エネルギーが、最大値maxからb(dB)低下(離調減衰量)する場合、与干渉局レーダの中心周波数λ1で検出された干渉波の受信電力から、自局レーダの中心周波数λ2へ漏れ込む干渉波の電力を推定することができる。
離調減衰量b(dB)は、与干渉局レーダで測定した結果を入手する方法、定められたスペクトルマスクの値を用いる方法、与干渉局レーダから実際に受けている干渉波を実測する方法等によって取得することができる。
したがって、干渉波は、与干渉局レーダの中心周波数λ1における信号の最大値maxよりもb(dB)弱いと分かっていれば、レーダ装置10は、与干渉局レーダの中心周波数λ1で信号強度を検出すれば、自局レーダに到来する干渉波の信号強度を推定することができる。
また、干渉判定部23から、干渉波の強度がノイズレベル以上との判定結果が出力された場合、自局レーダの中心周波数で干渉が検出されていない場合でも、個別の干渉パルスとして、あるいは想定されるパルス幅、パルス繰り返し周波数の周期的なパルス列として、干渉波の受信時間の信号を除去することも可能となる。
(変形例)
次に、第1の実施形態の変形例について説明する。
図9は、第1の実施形態の変形例のレーダ装置の構成例を示すブロック図である。
第1の実施形態で説明したように推定された干渉波は、必ずしもすべて除去される必要はない。自局の中心周波数での干渉波の信号強度の推定値がノイズレベル以下の場合であれば除去しないことができる。また、実際に受信した自局の中心周波数の受信波の信号強度に対して、自局の中心周波数での干渉波の推定値が十分低く、信号処理に与える影響が無視できる場合であれば、除去する必要はない。
これに対応するために、本変形例のレーダ装置10aでは、図9に示すように、干渉検出部22と干渉除去部24との間に干渉判定部23を備えている。
干渉判定部23は、干渉検出部22によって検出された干渉波において与干渉局の中心周波数の干渉波の強度から推定した自局の中心周波数での干渉波の強度が、ノイズレベル以下であるか、実際に受信した自局の中心周波数の受信信号よりも予め定められたレベルだけ小さいか否かを判定し、判定結果を、干渉検出部22からの受信信号とともに干渉除去部24へ出力する。この受信信号には干渉信号も含まれている。
干渉除去部24は、干渉判定部23からノイズレベル以上との判定結果が出力された場合、自局の中心周波数の干渉レベルの推定値と実際に受信した自局の中心周波数の受信信号のレベル差が優位でないと判定された場合、干渉時間の信号を除去し、その結果を、信号処理部26へ出力する。一方、干渉判定部23からノイズレベル以上ではないとの判定結果が出力された場合、あるいは実際に受信した受信信号が干渉レベルの推定値よりも十分に大きいとの判断結果が出力された場合、干渉除去部24は、干渉信号の除去を行わず、干渉検出部22からの受信信号を、信号処理部26へ出力する。
これによって、例えば、自局レーダからの送信波が検出対象物において反射された反射波の強度が支配的である場合のように、干渉波よりも受信波の強度が十分大きい場合、干渉除去を省略することが可能となる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態の干渉低減方法が適用されたレーダ装置について図面を参照して説明する。
なお、本実施形態の説明において、第1の実施形態で説明した部分と同一部分については、同一符号を用いて示し、重複説明を避ける。
図10は、第2の実施形態の干渉低減方法が適用されたレーダ装置の構成例を示すブロック図である。
本実施形態のレーダ装置10bは、レーダ標準機能40と、レーダ標準機能40の外部に設けられた分配器17および干渉検出部22とを備えている。
レーダ標準機能40は、空中線12、送受切替部14、送信機16、受信機18、および信号処理装置20を備えている。空中線12、送信機16、および受信機18については、第1の実施形態で説明したように動作するので、ここでは重複説明を避ける。
信号処理装置20は、干渉除去部24および信号処理部26を備えている。干渉除去部24、および信号処理部26についても、第1の実施形態で説明したように動作するので、ここでは重複説明を避ける。
送受切替部14は、空中線12からの検出信号を、分配器17へ出力する。
分配器17は、送受切替部14からの検出信号を、受信機18と、干渉検出部22とに分配する。
干渉検出部22は、第1の実施形態で説明したように、与干渉局レーダの中心周波数、あるいはそれを含む広帯域での受信/信号処理を行うことが可能であり、第1の実施形態で説明したように動作することによって干渉を検出すると、信号処理装置20とタイミングを同期させ、干渉除去すべき時間列を信号処理装置20に通知する。これによって、干渉除去部24が機能し、干渉除去部24は、受信機18からの受信信号から、干渉信号を除去する。
なお、オプションとして、信号処理装置20に、第1の実施形態の変形例で説明したような干渉判定部23を備えてもよい。
干渉判定部23を備えた場合、第1の実施形態の変形例で説明したように、干渉波の信号強度が、受信波の信号強度に対して十分低く、信号処理に与える影響が無視できる場合であれば、干渉除去を省略することができる。
(変形例)
次に、第2の実施形態の変形例について説明する。
図11は、第2の実施形態の変形例のレーダ装置の構成例を示すブロック図である。
レーダ装置10cは、レーダ標準機能40aの中に低雑音増幅器19を備え、低雑音増幅器19を、送受切替部14と分配器17との間に設けた点が、レーダ装置10bと異なっている。
レーダ装置10bの場合、分配器17によって受信系統を分配することにより、本来の検出対象からの反射エコーの検出感度が低下し、低い強度の受信信号しか得られない恐れがある。これを補うために、本実施形態の変形例のレーダ装置10cは、図11に示すように、送受切替部14と分配器17との間に低雑音増幅器19を備えている。これによって、送受切替部14からの信号を、低雑音増幅器19で増幅して分配器17へ提供することができるので、本来の検出対象からの反射エコーの検出感度の低下を補うことができる。
なお、オプションとして、信号処理装置20に、第1の実施形態の変形例で説明したような干渉判定部23を備えてもよい。
干渉判定部23を備えた場合、第1の実施形態の変形例で説明したように、干渉波の信号強度が、受信波の信号強度に対して十分低く、信号処理に与える影響が無視できるのであれば、干渉除去を省略することができる。
(第3の実施形態)
第3の実施形態の干渉低減方法が適用されたレーダ装置について図面を参照して説明する。
なお、本実施形態の説明において、第1および第2の実施形態で説明した部分と同一部分については、同一符号を用いて示し、重複説明を避ける。
図12は、第3の実施形態の干渉低減方法が適用されたレーダ装置の構成例を示すブロック図である。
本実施形態のレーダ装置10dは、第1の実施形態のレーダ装置10に、干渉波の検出専用のアンテナである干渉検出用空中線30を付加した構成をしている。
干渉検出用空中線30は、パラボラアンテナのような指向性アンテナではなく、無指向性アンテナを用いる。これは与干渉局方向にメインローブを向けるためであり、与干渉局方向が分かっている場合は指向性アンテナを与干渉局方向に向けておくことでも同様の効果が得られる。また、指向性アンテナを複数組み合わせて干渉除去対象となる全ての与干渉局方向にメインローブを向けることでも同様の効果が得られる。この方法を採用する理由を、無指向アンテナを使う場合を例に図13を用いて以下に説明する。
図13は、指向性アンテナのアンテナパターンを例示する概念図であり、横軸は方位角、縦軸はアンテナ利得を示す。
図13に例示するアンテナパターンに示すように、指向性アンテナは、正面に対する利得が高く、正面から離れると利得が低くなる。パルス状に鋭く立ち上がっている部分をメインローブ、メインローブの両端側をサイドローブという。
図13においてアンテナパターンf1は、与干渉局レーダの中心周波数におけるアンテナパターンを示し、アンテナパターンf2は、自局レーダの中心周波数におけるアンテナパターンを示している。
アンテナパターンf1、f2ともに、メインローブは、コントロールされた方位における利得なので、通常は多少周波数が変動しても、形状は変わらない。
一方、サイドローブは、コントロールされた利得ではなく、結果として出たものなので、僅かに周波数がずれただけでも、形状が変わってしまう。
サイドローブには、指向性が低いヌルが存在する。ヌルは、周波数がずれると、位置が変わってしまう。ヌルの位置がどこに変わるのかは、コントロール不能である。このため、与干渉局レーダの中心周波数のときにヌルであっても、自局レーダの中心周波数ではヌルではない場合もあり、そのときには、実際には干渉を受けているにも関わらず、干渉を検出できないことになる。
図14は、自局レーダと与干渉局レーダとの位置関係の一例を示す模式図である。
干渉とは、図14のように、2台のレーダ、すなわち、自局レーダJと与干渉局レーダKとがあり、図中矢印に示すようにアンテナが回転している場合、自局レーダJの指向が与干渉局レーダK側を向いたとき、および与干渉局レーダKの指向が自局レーダJ側を向いたときに生じる。そして、自局レーダJの指向が与干渉局レーダK側を向き、与干渉局レーダKの指向が自局レーダJ側を向き、丁度向き合った場合に、干渉は最大となる。
例えば、自局レーダJの指向が、与干渉局レーダK側を向いていないときに、与干渉局レーダKの指向が、自局レーダJ側を向いている場合に、自局レーダJの利得がヌルであれば、自局レーダJは、干渉波を検出できないために、干渉がわからない。つまり、パラボラアンテナのような指向性アンテナの場合、ヌルの場所によっては、与干渉局レーダKによる干渉を検出できない場合がある。
一方、無指向性アンテナは無指向なので、図13に示すような利得はなく、ヌルもない。また、干渉波は強いので、利得が無くても検出可能である。したがって、無指向性アンテナが適用された干渉検出用空中線30は、干渉波を確実に検出し、干渉波に関する検出信号を受信機18へ送ることができる。
空中線12は、第1の実施形態で説明したのと同様に、干渉波を含む受信波を検出し、干渉波を含む受信波の検出信号を受信機18へ送る。
受信機18は、図2を用いて説明したように、広帯域の受信帯域を有しており、空中線12からの受信信号と、干渉検出用空中線30からの受信信号との両方を受け取り、干渉検出部22へ出力することができる。
その後は、第1の実施形態で説明したのと同様に、干渉除去部24において、空中線12からの受信信号から、干渉検出用空中線30の受信時間の信号を除去することによって、干渉を除去することができる。
干渉検出用空中線30は、無指向性アンテナであり、干渉波を確実に検出することができるので、干渉検出用空中線30からの受信信号は、精度が高い。したがって、干渉除去の精度を高めることが可能となる。
なお、オプションとして、図9を用いて説明したような干渉判定部23を、図9に示す構成と同様、干渉検出部22と干渉除去部24との間に設けてもよい。
これによって、例えば、自局レーダからの送信波が検出対象物において反射されてなる反射波の強度が支配的である場合のように、干渉波よりも受信波の強度が十分大きい場合、干渉除去を省略することが可能となる。
(変形例1)
次に、第3の実施形態の変形例1について説明する。
図15は、第3の実施形態の変形例1のレーダ装置の構成例を示すブロック図である。
図15に示すレーダ装置10eの構成を、図12に示すレーダ装置10dの構成との相違点に着目して説明する。
すなわち、図15に示すレーダ装置10eは、図12に示すレーダ装置10dの干渉検出用空中線30の後段に、干渉検出用受信機31および干渉検出部22を直列に備えている。干渉検出用受信機31は、信号処理装置20の外部に、干渉検出部22は、信号処理装置20の内部に備えられる。さらに、これに応じて、図12に示すレーダ装置10dの受信機18の後段に、干渉除去部24を直接備えている。干渉除去部24は、干渉検出部22からも信号を受け取るように構成されている。
なお、図8を用いて説明したような離調減衰量(b(dB))が大きい場合、干渉検出のための受信信号レベルは、反射エコーの受信信号レベルよりも大きくなる。その場合、1つの受信レベル範囲で両方を解析しようとするとアンプやA/D変換器が飽和し、干渉検出が困難になるため、干渉波検出用の系統である干渉検出用空中線30、干渉検出用受信機31、および干渉検出部22では、はカップラーやアッテネータ等で受信レベルを下げることが必要となる。この考えを拡張すると、これら干渉波検出用の系統では、多チャンネルのA/D変換器等を用いて、周波数帯域毎にアッテネータ量を調整することにより、様々な与干渉局レーダの干渉波に対応することも可能となる。
なお、オプションとして、図9を用いて説明したような干渉判定部23を、図9に示す構成と同様、干渉検出部22と干渉除去部24との間に設けてもよい。
これによって、例えば、自局レーダからの送信波が検出対象物において反射されてなる反射波の強度が支配的である場合のように、干渉波よりも受信波の強度が十分大きい場合、干渉除去を省略することが可能となる。
(変形例2)
次に、第3の実施形態の変形例2について説明する。
図16は、第3の実施形態の変形例2のレーダ装置の構成例を示すブロック図である。
図16に示すレーダ装置10fの構成を、図10に示すレーダ装置10bの構成との相違点に着目して説明する。
すなわち、図16に示すレーダ装置10fは、図10に示すレーダ装置10bにおける分配器17を省略し、送受切替部14からの信号を、受信機18に入力する構成とするとともに、干渉検出部22の前段に、前述したように干渉波の検出専用のアンテナである干渉検出用空中線30を備えている。
干渉検出部22は、どの周波数帯域から干渉波が来ても検出できるように、広帯域での信号処理を行う。一方、干渉波の強度は、経験的にわかっているので、ダイナミックレンジは低くすることができる。このように、干渉検出部22は、広帯域低ダイナミックレンジでの信号処理を行う。
一方、自局レーダの中心周波数は既知であるので、信号処理装置20は、広帯域での信号処理を行う必要はなく、狭帯域の信号処理を行う。また、自局レーダが気象観測用レーダである場合、雨が降っていない状態から、ゲリラ豪雨のように激しく雨が降っている状態までの受信波(反射エコー)も検出できるように、ダイナミックレンジを高くする必要がある。このように、信号処理装置20は、狭帯域高ダイナミックレンジでの信号処理を行う。
干渉検出部22と信号処理装置20とはクロック同期しており、干渉検出部22によって検出された干渉信号が信号処理装置20へ入力されると、信号処理装置20の干渉除去部24が、受信機18からの信号から、干渉信号を除去することができる。
なお、オプションとして、図9を用いて説明したような干渉判定部23を、図9に示す構成と同様、干渉検出部22と干渉除去部24との間に設け、信号処理装置20に備えてもよい。
これによって、例えば、自局レーダからの送信波が検出対象物において反射されてなる反射波の強度が支配的である場合のように、干渉波よりも受信波の強度が十分大きい場合、干渉除去を省略することが可能となる。
以上、上記各実施形態の干渉低減方法が提供されたレーダ装置は、与干渉局レーダの中心周波数で干渉波を検出し、自局レーダの中心周波数に漏れ込んで来る干渉波の影響を推定することができる。さらには、その影響が、無視できない場合には、干渉を除去し、無視できる場合には、干渉除去を省略する。これによって、不要な信号処理をすることなく、干渉の影響を低減することが可能となる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。