以下、実施形態のレーダシステム及び信号処理方法を、図面を参照して説明する。以下の実施形態では、同一の符号を付した構成は同様の動作を行うものとして、重複する説明を適宜省略する。
[第1の実施形態]
第1の実施形態によるレーダシステムは、送信装置と受信装置とを備える。送信装置と受信装置とは一つの装置として構成されてもよい。また、送信装置及び受信装置それぞれは、複数の装置として構成されてもよい。
図1は、第1の実施形態における送信装置の構成例を示すブロック図である。送信装置は、アレイアンテナ101(送信アレイアンテナ)と、M個の送信部100a−1〜100a−Mとを備える。アレイアンテナ101に備えられる複数のアンテナ素子はM個のグループに分けられ、グループごとにサブアレイアンテナ10−1〜10−Mを構成する。サブアレイアンテナ10−1〜10−Mは、送信部100a−1〜100a−Mのうち対応する一つにそれぞれ接続されている。図1に示す構成例では、サブアレイアンテナ10−1が送信部100a−1に接続され、サブアレイアンテナ10−Mが送信部100a−Mに接続されている。M個の送信部100a−1〜100a−Mは、同じ構成を有している。以下、送信部100a−1〜100a−Mそれぞれを区別する必要がない場合には送信部100aと総称される。同様に、サブアレイアンテナ10−1〜10−Mそれぞれを区別する必要がない場合にはサブアレイアンテナ10と総称される。
送信部100aは、目標の検出に用いる送信信号を生成し、接続されたサブアレイアンテナ10へ生成した送信信号を供給する。送信信号はサブアレイアンテナ10から送出される。サブアレイアンテナ10−1〜10−Mそれぞれから送出される送信信号のうち目標又は物体で反射された信号は、複数のアンテナ素子を備える受信装置にて受信される。すなわち、第1の実施形態のレーダシステムは、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)レーダとして動作する(非特許文献5)。
図2は、第1の実施形態のレーダシステムに適用されるMIMOの一例を示す図である。図2に示す例では、送信Mチャンネルの信号と受信Nチャンネルの信号とを用いたM×Nのデジタル信号を得ることにより、送受信DBF(Digital Beam Forming)が行われる。符号信号にて拡散されたチャープ信号が、送信アレイアンテナに備えられるM個のアンテナ素子それぞれに供給され、送出される。受信アレイアンテナに備えられるN個のアンテナ素子それぞれにて受信された信号は、送信側で用いられた各符号信号にて圧縮される。N個の受信アンテナ素子で受信された受信信号それぞれを符号信号にて圧縮することにより、M個の送信アンテナ素子から送出された信号それぞれが受信信号ごとに抽出される。すなわち、M×N個の素子信号が得られる。各素子信号を合成することにより、任意の送受信ビームが任意に形成できる。
図3は、MIMOレーダにおける送受信ビームの一例を示す図である。MIMOレーダにおける送信ビーム範囲は、アレイアンテナに備えられる送信アンテナ素子の数と配置とに応じて定まる。M×N個の素子信号に対する信号処理により、送信ビーム範囲における任意の範囲に対して送受信ビームを形成することができる。送受信ビームを形成することにより、当該範囲の方向への高い指向性を得ることができる。
図1に戻り、送信装置についての説明を続ける。送信部100aは、基準信号生成器1a、符号生成器5、変調器6、パルス制御部7、周波数変換器8及び高出力増幅器9を備える。基準信号生成器1aは、送信パルスを生成し、生成した送信パルスを変調器6へ供給する。符号生成器5は、送信パルスに含まれるパルスそれぞれに対する符号系列を変調器6へ供給する。変調器6は、パルス制御部7からの指示に応じて、送信パルスに含まれるパルスそれぞれを符号系列により変調して変調信号を生成する。パルス制御部7は、基準信号生成器1aが生成する送信パルスのパルス幅、パルス間隔、パルス振幅を制御する。また、パルス制御部7は、符号生成器5が供給する符号系列の切り替えを制御する。
周波数変換器8は、パルス制御部7の制御に応じたキャリア周波数で、変調器6により生成された変調信号の周波数を高周波数へ変換し、高周波数の変調信号を高出力増幅器9へ供給する。高出力増幅器9は、高周波数の変調信号を増幅し、増幅した変調信号を送信信号としてサブアレイアンテナ10へ供給する。送信信号はサブアレイアンテナ10から送出される。サブアレイアンテナ10では、アンテナ素子ごとに設けられた移相器が、供給される送信信号に対して送信ビーム方向を制御するための位相を制御する。
サブアレイアンテナ10それぞれから送出される送信信号のキャリア周波数は、予め定められた複数のキャリア周波数から選択される。図4は、サブアレイアンテナ10(送信開口)とキャリア周波数との組み合わせの一例を示す図である。図4に示す例は、アレイアンテナ101が同じ大きさで規則的に配置される4つのサブアレイアンテナ10を含み、各サブアレイアンテナ10に対して異なるキャリア周波数f1、f2、f3及びf4が割り当てられている。すなわち、各送信部100aに対して異なるキャリア周波数f1、f2、f3及びf4が割り当てられている。このようなキャリア周波数の割り当てが行われることで、4つの異なるキャリア周波数の送信信号が同時に送出される。送信装置において利用できるキャリア周波数の数がサブアレイアンテナ10の数以上である場合、図4に示したように、各サブアレイアンテナ10に対して重複がないようにキャリア周波数を割り当ててもよい。
図4に示す送信開口を有するMIMOレーダでは、4つの送信開口と同じ大きさの受信開口で受信する信号に対する信号処理により、同図に示すような仮想受信開口を得ることができる。このように、送受信のアンテナ開口を拡張することにより、角度軸の分解能を向上することができる。ただし、図4に示す例において、4つのキャリア周波数の信号のうちいずれか一つでもノイズなどで利用できない場合、当該信号のキャリア周波数に対応する送信開口が利用できず、(送信数×受信数)のアンテナパターンが乱れることになる。
図5は、サブアレイアンテナ10(送信開口)とキャリア周波数との組み合わせの他の例を示す図である。図5に示す例は、図4に示す例におけるサブアレイアンテナ10(送信開口)よりも多くのサブアレイアンテナ10が形成されている。サブアレイアンテナ10それぞれに、キャリア周波数f1、f2、f3及びf4がランダムに割り当てられている。4つのキャリア周波数の信号のうち1つのキャリア周波数が利用できないとしても、このような割り当てでは、送信開口のランダムな欠損(間引き)となるため、(送信数×受信数)のアンテナパターンが乱れにくくなる。一方で、図4に示した例のように、仮想開口による角度軸に対する分解能向上の効果を得ることはできない。そのため、各サブアレイアンテナ10に対するキャリア周波数の割り当ては、用途や状況に応じて決定するとよい。各サブアレイアンテナ10に対するキャリア周波数の割り当ては、レーダシステムの使用環境に応じて変更されてもよいし、ランダムに変更されてもよい。
図6は、送信装置が送信する送信信号に含まれる送信パルスの一例を示す図である。基準信号生成器1aが生成する送信パルスは、ドップラ抽出用パルス列P1と、レンジ抽出用パルス列P2とを合成した合成パルス列である。図6における、横軸はfast−time軸の時間を表し、縦軸はパルスの振幅を表す。fast−time軸は、後述する受信装置に備えられるAD(Analogue-Digital)変換器のサンプリングタイミングに応じた時間間隔で定められる時間軸である。基準信号生成器1aは、ドップラ抽出用パルス列P1とレンジ抽出用パルス列P2とを合成せずに、それぞれを変調器6へ供給してもよい。ドップラ抽出用パルス列P1とレンジ抽出用パルス列P2とは、符号系列での変調後に合成されてもよい。
ドップラ抽出用パルス列P1は、パルスの間隔が時間軸で等間隔のパルス列である。ドップラ抽出用パルス列P1に含まれるパルスに対するキャリア周波数は、パルス制御部7により選択される。パルス制御部7は、自身を含む送信部100aに接続されたサブアレイアンテナ10に対して割り当てられたキャリア周波数を選択する。各サブアレイアンテナ10に対して割り当てられるキャリア周波数は、送信装置を制御する上位の装置により設定されてもよいし、予め設定されていてもよい。
ドップラ抽出用パルス列P1は、目標を検出する際のドップラ周波数の抽出に用いられるため、パルス制御部7は、ドップラ抽出用パルス列P1に対する符号系列を一定にするように符号生成器5を制御する。図6に示す例では、ドップラ抽出用パルス列P1に対する符号系列が「1」である。パルスの不規則な出現はLPI性を高めることができるので、ドップラ抽出用パルス列P1のパルスをランダムに間引いてもよい。図6に示す例では、ドップラ抽出用パルス列P1のパルスのうち間引かれるパルスを破線にて示している。ドップラ抽出用パルス列P1を表す信号Sig1は、式(1)として表される。
式(1)において、A(tf)は時間tfにおける振幅を表す。tfはfast−time軸における時間を表す。MOD1(tf)は各パルスに対する符号系列を表す。なお、MOD1(tf)は、上述のように、一定である。fnは、複数のキャリア周波数(f1,f2,…,fNf)から選択されるキャリア周波数を表す。
レンジ抽出用パルス列P2は、パルス間隔が時間軸でパルスごとにランダムに異なるパルス列である。パルス制御部7は、レンジ抽出用パルス列P2におけるパルス間隔をパルスごとに変化させるように、基準信号生成器1aを制御する。図6に示す例では、レンジ抽出用パルス列P2のパルス振幅及びパルス幅が一定であるが、パルスごとに異なっていてもよい。この場合、パルス制御部7は、レンジ抽出用パルス列P2におけるパルス振幅及びパルス幅をパルスごとに変化させるように基準信号生成器1aを制御する。
図6に示す例では、レンジ抽出用パルス列P2に対する符号系列は「0」と「1」とからランダムに選択されている。しかし、レンジ抽出用パルス列P2に対する符号系列として、M系列などのランダム符号(非特許文献3)が用いられてもよい。変調器6は、基準信号生成器1aにより生成されるレンジ抽出用パルス列P2を、符号生成器5により生成される符号系列で変調する(非特許文献4)。ドップラ抽出用パルス列P1の各パルスに割り当てられるキャリア周波数と同様に、レンジ抽出用パルス列P2の各パルスに割り当てられるキャリア周波数は、サブアレイアンテナ10に対して割り当てられたキャリア周波数である。レンジ抽出用パルス列P2を表す信号Sig2は、式(2)として表される。
式(2)において、A(tf)は時間tfにおける振幅を表す。tfはfast−time軸における時間を表す。MOD2(tf)は各パルスに対する符号系列を表す。なお、MOD2(tf)は、上述のように、パルスごとに選択される。fnは、複数のキャリア周波数(f1,f2,…,fNf)から選択されるキャリア周波数を表す。サブアレイアンテナ10ごとにキャリア周波数が設定されるため、レンジ抽出用パルス列P2に割り当てられるキャリア周波数と、ドップラ抽出用パルス列P1に割り当てられるキャリア周波数とは同じである。レンジ抽出用パルス列P2の各パルスに対する符号系列の選択は、キャリア周波数の割り当てと独立して行われる。
ドップラ抽出用パルス列P1とレンジ抽出用パルス列P2とを合成して得られる信号は、キャリア周波数ごとの加算により式(3)で表される。
式(3)において、tfはfast−time軸における時間を表す。fnは、キャリア周波数(f1,f2,…,fNf)を表す。
送信装置は、パルス間隔(PI:Pulse Interval)が一定のドップラ抽出用パルス列P1と、パルス間隔が変化するレンジ抽出用パルス列P2とを符号系列でそれぞれ変調する。送信装置は、変調された各パルス列を合成して得られる変調信号を各サブアレイアンテナ10に割り当てられたキャリア周波数で高周波数の変調信号に変換する。サブアレイアンテナ10ごとに得られる高周波数の変調信号は、送信信号としてサブアレイアンテナ10から送出される。送信装置は、図6に示すような合成パルス列を含む送信信号を、各サブアレイアンテナ10に割り当てられた複数のキャリア周波数にて同時に送信する。
ドップラ抽出用パルス列P1におけるパルスの間引きと、レンジ抽出用パルス列P2のPIとはランダムに決定されるので、各サブアレイアンテナ10で送信される送信信号においてパルスが現れるタイミングは不規則になる。送信装置は、このような送信信号を用いることにより、電子支援対策(ESM:Electronic Support Measures)に用いられる装置による、パルス幅、パルス間隔及びパルス振幅を含むパルス諸元の特定や、測角値による識別を困難にし、レーダが検知される可能性を低くすることができる。すなわち、第1の実施形態における送信装置は、LPI性を向上させることができる。
図7は、第1の実施形態における受信装置の構成例を示すブロック図である。受信装置は、送信装置により送信された高周波数の変調信号であって目標又は物体で反射された変調信号を含む信号をアレイアンテナで受信する。受信装置は、受信した受信信号に対する信号処理を行って、目標にて変調信号が反射した際のドップラ周波数を検出するとともに、目標までの距離(レンジ)を測る。
送信装置では、分割されたサブアレイアンテナ10ごとに割り当てられたキャリア周波数で送信が行われる。これに対して、受信装置では、目標及び物体で反射される送信信号を受信開口すべてで受信しないと、受信信号に対する合成処理においてシステムロスが発生してしまう。このため、受信装置のアレイアンテナを複数のサブアレイアンテナに分割してもよいが、各サブアレイアンテナで複数のキャリア周波数それぞれの送信信号すべての受信及び合成処理が必要となる。以下、受信装置のアレイアンテナを図4及び図5に示すように1つの受信開口(N=1)で受信を行う場合を説明する。この場合、受信装置のアレイアンテナに備えられるアンテナ素子ごとに移相器が設けられ、受信ビーム方向を送信ビーム方向と一致させるように移相器の位相が制御される。
受信装置は、アレイアンテナ21、低雑音増幅器22、周波数変換器23、AD変換器24、ドップラ用パルス列抽出部25、FFT(Fast Fourier Transform)部26、ドップラ補正部27、コヒーレント積分部28a(第1の合成部)、ドップラ抽出部29、レンジ用パルス列抽出部30、参照信号補正部31、相関算出部32、コヒーレント積分部33a(第2の合成部)、レンジ抽出部34及び出力部35を備える。受信装置が備える各部のうち、周波数変換器23、AD変換器24、ドップラ用パルス列抽出部25、FFT部26、ドップラ補正部27、レンジ用パルス列抽出部30、参照信号補正部31及び相関算出部32は、送信信号に用いられるキャリア周波数の数と同じ数備えられる。
アレイアンテナ21で受信された受信信号は、低雑音増幅器22で増幅され、送信信号に用いられるキャリア周波数それぞれに対応する周波数変換器23へ供給される。周波数変換器23は、低雑音増幅器22から供給される信号をベースバンドへ変換し、ベースバンドの信号をAD変換器24へ供給する。各周波数変換器23における周波数変換に用いられるローカル信号(局部発振信号)の周波数は、対応するキャリア周波数に応じた周波数であり、周波数変換器23ごとに異なる。各AD変換器24に供給されるベースバンドの信号には、符号系列により変調された送信パルスの周波数を含む周波数帯の信号が含まれる。各AD変換器24は、供給されるベースバンドの信号をデジタル信号に変換する。
受信信号に含まれる信号成分であって送信信号Sig(fn,tf)の反射波の信号成分Sr(fn,tf)は、キャリア周波数でミキシングすることを考慮して、式(4)で表される。
式(4)において、c、Rは、光速、目標までの距離である。fn、tfは、キャリア周波数、fast−time軸における時間である。すなわち、式(4)は、Sr(fn,tf)を目標までの距離を含めた関数として表している。
小目標を検出する場合には高いSN比(Signal to Noise ratio)が必要であり、高いSN比を得るための積分処理には比較的長い観測時間が必要となる。レンジ抽出用パルス列P2に対する積分処理におけるロスを低減させるためには、レンジ抽出用パルス列P2に対するドップラ補正が必要となる。
図8は、ドップラ補正に用いるドップラ周波数を取得する処理例を示す図である。ドップラ周波数を取得する処理では、ドップラ用パルス列抽出部25、FFT部26及びドップラ補正部27によりキャリア周波数ごとにレンジ−ドップラ軸でデータが取得され、キャリア周波数ごとのデータがコヒーレント積分部28aによりコヒーレント積分され、積分結果からドップラ抽出部29によりドップラ周波数が取得される。コヒーレント積分は、送信装置における各サブアレイアンテナ10(分割開口)で送信された送信信号を合成して受信ビームを形成することに相当する。
低雑音増幅器22からAD変換器24までの処理により、送信装置において用いられる複数のキャリア周波数(f1,f2,…,fNf)ごとの変調信号がベースバンドのデジタル信号として得られる。キャリア周波数ごとに設けられたドップラ用パルス列抽出部25は、デジタル信号に含まれる受信パルス列から、ドップラ抽出用パルス列P1を抽出する。ドップラ用パルス列抽出部25は、ドップラ抽出用パルス列P1のPRI(Pulse Repetition Interval)でデジタル信号を分割するごとにより、ドップラ抽出用パルス列P1の各パルスを抽出する。抽出されるドップラ抽出用パルス列P1の信号Sr1は、式(5)で表される。
式(5)において、DIV[・]はドップラ抽出用パルス列P1の抽出処理を表す。tsはslow−time軸の時間を表し、tfはfast−time軸の時間を表す。slow−time軸は、ドップラ抽出用パルス列P1におけるパルス間隔(パルス周波数)に応じた時間間隔で定められる時間軸である。
FFT部26は、分割されたデジタル信号に対してslow−time軸のFFTを行う。分割されたデジタル信号には、送信装置におけるパルスの間引きによりパルスが含まれないデジタル信号が存在する。しかし、ドップラ抽出用パルス列P1においてパルスの間隔は一定であるため、パルスを含む分割後のデジタル信号では、ドップラ抽出用パルス列P1のパルスが現れる時刻はほぼ一定である。これに対して、レンジ抽出用パルス列P2のパルスが現れる時刻は一定ではない。そのため、受信パルス列に含まれるレンジ抽出用パルス列P2は、slow−time軸のFFTにより抑圧される。図8における受信パルス列に対する抽出結果は、簡略のために、レンジ抽出用パルス列P2を省いた記載としている。
FFT部26は、ドップラ周波数を抽出するために、図8に示すようにfast−time軸のレンジセルに対してslow−time軸のFFTを行う。FFTの結果Sr1outは、式(6)により表される。キャリア周波数ごとに設けられたFFT部26は、式(6)で表される演算を行い、演算結果をドップラ補正部27へ供給する。
式(6)において、FFT[・]はslow−time軸のFFT演算を表す。ωsはfast−time軸のレンジセルごとのドップラ周波数を表す。
ドップラ周波数fdは、キャリア周波数の中心周波数(波長)に応じて、式(7)に表されるように異なる。ドップラ周波数は、式(7)に示すように、波長に反比例し周波数に比例するので、キャリア周波数ごとに設けられたドップラ補正部27は、レンジ−ドップラ軸上で補正を行う。
式(7)において、Vは目標との相対速度を表す。λは波長(c/fn)を表す。
図9は、ドップラ周波数のずれを補正する処理の一例を示す図である。図9に示すように、各ドップラ補正部27は、キャリア周波数f1のRDデータ(レンジ−ドップラ軸データ)に他のキャリア周波数のRDデータを揃えるように補正する。ドップラ周波数のずれが補正された各キャリア周波数の演算結果Sr1outは、コヒーレント積分部28aに供給される。
コヒーレント積分部28aに供給される各キャリア周波数の演算結果Sr1outには、未知の目標までの距離とキャリア周波数とによる初期位相差がある。結果Sr1out(fn,ωs,tf)の合成におけるロスを低減させるために、位相差を揃える補正が必要になる。初期位相差は未知であるため、コヒーレント積分部28aは、位相の探索法を適用して位相差を推定する。コヒーレント積分部28aは、0から360度における所定のステップで結果Sr1out(fn,ωs,tf)に位相差を与えて合成し、合成結果が最大値となる位相差を探索する。位相差の探索において、送信装置の各サブアレイアンテナ10の位置と送信ビーム方向とに応じて定まる走査位相の補正も行う。位相差を探索する際に、コヒーレント積分部28aは、予め定められたスレショルド以上の信号を対象として探索法を適用することにより、振幅の小さいノイズなどを抑圧してもよい。
コヒーレント積分部28aは、探索法により得られた合成結果の最大値Sr1max(ωs,tf)をドップラ抽出部29へ供給する。最大値Sr1max(ωs,tf)は、式(8)で表される。最大値Sr1max(ωs,tf)は、キャリア周波数ごとに得られた結果Sr1out(fn,ωs,tf)の位相を揃えた合成結果となる。
式(8)において、SRC[・]は位相探索法を表す。fnは、キャリア周波数(f1,f2,…,fNf)を表す。Φpは、0から360度(2π)の所定ステップ間隔の位相(p=1,2,…,P)を表す。Φsは、送信装置のサブアレイアンテナ10の位置と送信ビーム方向とに対応した走査位相を表す。走査位相Φsは、例えば、リニアアレイアンテナの場合、送信信号の波長λと、受信装置のアレイアンテナ21の位相中心からサブアレイアンテナ10までの距離dtと、送信ビーム方向Θtとを用いて、Φs=(−2π/λ)dt×sinΘtとして得られる。
送信装置がNf個のキャリア周波数を各サブアレイアンテナ10に割り当てる場合、コヒーレント積分部28aは、各キャリア周波数に対して与える位相の組み合わせ数(P×(Nf−1))の合成を行い、合成結果の最大値Sr1max(ωs,tf)を探索する。あるいは、コヒーレント積分部28aは、複数のキャリア周波数から2つを選択し、選択した2つのキャリア周波数間で合成結果が最大となる位相を式(8)にて探索し、その結果と選択していないキャリア周波数のSr1out(fn,ωs,tf)とに対して式(8)を適用することを繰り返し行ってもよい。この手法により、組み合わせ数(P×(Nf−1))の合成を行う場合に比べ、合成回数を削減できる可能性がある。
ドップラ抽出部29は、コヒーレント積分部28aから供給される最大値Sr1max(ωs,tf)に対するCFAR処理(非特許文献6)により目標を検出し、検出した目標のドップラ周波数fd(ωs=2π・fd)を抽出する。抽出したドップラ周波数fdと式(9)とから目標の相対速度vtが得られる。ドップラ抽出部29は、ドップラ周波数fdと目標の相対速度vtとを、参照信号補正部31と出力部35とへ供給する。
式(9)において、fdはドップラ周波数であり、λは波長である。
以上のドップラ周波数を取得する処理では、サブアレイアンテナ10間の信号合成が行われる。複数のキャリア周波数における周波数差によるドップラ周波数のずれと、初期位相ずれとの補正は、MIMOにおけるビーム形成のための位相合成に相当する。式(8)で表される位相探索法は、各サブアレイアンテナ10による角度軸とレンジ−ドップラ軸とで絞り込みが行われた後のRDデータのレンジセルに対する探索法であるため、誤検知を低減できる探索法であるといえる。後述するレンジを取得する処理における位相探索法についても同様である。
次に、受信装置における、レンジ抽出用パルス列P2に基づいた測距について説明する。図10は、レンジ抽出用パルス列P2から目標のレンジを取得する処理例を示す図である。目標のレンジを取得する処理では、レンジ用パルス列抽出部30、参照信号補正部31及び相関算出部32により参照信号との相関処理によりレンジ抽出用パルス列P2がキャリア周波数ごとに抽出される。キャリア周波数ごとに抽出されたレンジ抽出用パルス列P2がコヒーレント積分部33aによるコヒーレント積分で合成され、積分結果からレンジ抽出部34により目標のレンジが取得される。コヒーレント積分部33aによるコヒーレント積分は、コヒーレント積分部28aによるコヒーレント積分部28aと同様に、送信装置における各サブアレイアンテナ10(分割開口)で送信された送信信号を合成して受信ビームを形成することに相当する。
低雑音増幅器22からAD変換器24までの処理により、送信装置において用いられる複数のキャリア周波数(f1,f2,…,fNf)ごとの変調信号がベースバンドのデジタル信号として得られる。キャリア周波数ごとに設けられたレンジ用パルス列抽出部30は、デジタル信号に含まれる受信パルス列からレンジ抽出用パルス列P2を抽出する。レンジ抽出用パルス列P2に対する変調に用いられる符号系列はパルスごとに異なるため、送信されたレンジ抽出用パルス列P2に対応する参照信号を用いた相関処理が行われる。レンジ用パルス列抽出部30は、AD変換器24から出力されるデジタル信号からレンジ抽出用パルス列P2を抽出する。レンジ抽出用パルス列P2を抽出するために、レンジ用パルス列抽出部30は、各キャリア周波数に対応するデジタル信号に対して、fast−time軸でFFTを行う。FFTにより得られる周波数領域の信号Sr_fft(fn,ωf)は、式(10)で表される。レンジ用パルス列抽出部30は、信号Sr_fft(fn,ωf)を相関算出部32へ供給する。
式(10)において、FFT[・]はfast−time軸のFFT演算を表す。Sr(fn,tf)は受信信号に含まれる送信信号Sig(fn,tf)の反射波の信号である。tfは、fast−time軸における時間を表す。ωfは、fast−time軸に対応する周波数を表す。fnは、キャリア周波数(f1,2,…,fNf)を表す。
キャリア周波数ごとに設けられた参照信号補正部31は、相関処理に用いる参照信号を、対応するキャリア周波数において送信されたレンジ抽出用パルス列P2とそれに対する符号系列とに基づいて生成する。参照信号補正部31は、ドップラ抽出部29により得られた目標の相対速度vtに基づいて、レンジ抽出用パルス列P2の各パルスに割り当てられたキャリア周波数(fn)ごとのドップラ周波数を算出する。参照信号補正部31は、算出したドップラ周波数で、送信装置から送信されたレンジ抽出用パルス列P2を補正する。このとき、参照信号補正部31は、信号Sr(fn,tf)のデータ長と、参照信号の信号長とを揃えるため、ゼロ埋め(zero padding)を行う。参照信号ref(fn,tf)は、式(11)で表される。
式(11)において、[・,・]はデータの連結を表す。zero(・)は与えられたパラメータで示される数(Nall−N)のゼロ埋めを表す。Nallは信号Sr(fn,tf)のデータ長を表し、Nはレンジ抽出用パルス列P2に基づくデータ長を表す。tfは、fast−time軸における時間を表す。fdは、相対速度vtから算出されるキャリア周波数(fn)のドップラ周波数を表す。A(tf)は、時間tfにおける振幅を表す。MOD2(fn,tf)は、変調されたレンジ抽出用パルス列P2を表す。fnは、キャリア周波数(f1,f2,…,fNf)を表す。
参照信号補正部31は、参照信号ref(fn,tf)に対してFFTを行い、周波数領域の信号Ref(fn,ωf)を算出する。参照信号補正部31は、式(12)で表される信号Ref(fn,ωf)を相関算出部32へ供給する。
式(12)において、FFT[・]はfast−time軸のFFT演算を表す。ωfは、fast−time軸に対応する周波数を表す。
キャリア周波数ごとに設けられる相関算出部32は、レンジ用パルス列抽出部30から供給される信号Sr_fft(fn,ωf)(式(10))と、参照信号補正部31から供給される信号Ref(fn,ωf)(式(12))とに対する相関演算を行う。各相関算出部32による式(13)で示される演算で、相関出力Sr2(fn,tf)は、キャリア周波数ごとに算出される。
式(13)において、IFFT[・]はfast−time軸のIFFT(Inverse Fast Fourier Transform)演算を表す。*(アスタリスク)は共役演算を表す。
相関算出部32は、式(13)により、レンジ(fast−time)軸で相関出力Sr2(fn,tf)を取得する。各相関算出部32は、相関出力Sr2(fn,tf)をコヒーレント積分部33aへ供給する。
相関算出部32それぞれで算出されたキャリア周波数ごとの相関出力Sr2(fn,tf)をコヒーレント合成するには、初期位相を補正する必要がある。初期位相差が未知であるため、コヒーレント積分部33aは、位相探索法を適用して初期位相差を推定する。コヒーレント積分部33aは、0から360度における所定のステップで相関出力Sr2(fn,tf)に位相差を与えて合成し、合成結果が最大値となる位相差を探索する。位相差の探索において、送信装置の各サブアレイアンテナ10の位置と送信ビーム方向とに応じて定まる走査位相の補正も行う。位相差を探索する際に、コヒーレント積分部33aは、予め定められたスレショルド以上の信号を対象として探索法を適用することにより、振幅の小さいノイズなどを抑圧してもよい。
コヒーレント積分部33aは、位相探索法により得られた合成結果の最大値Sr2max(tf)をレンジ抽出部34へ供給する。最大値Sr2max(tf)は、式(14)により表される。
式(14)において、SRC[・]は、位相探索法を表す。fnは、キャリア周波数(f1,f2,…,fNf)を表す。Φpは、0から360度の所定ステップ間隔の位相(p=1,2,…,P)を表す。Φsは、式(8)におけるΦsと同様に、走査位相を表し、M×N(送信数×受信数、本実施形態ではN=1)のMIMOビームを制御する位相に相当する。
コヒーレント積分部28aが合成結果の最大値Sr1max(ωs,tf)を探索する場合と同様に、コヒーレント積分部33aは、複数のキャリア周波数から2つを選択し、選択した2つのキャリア周波数間で合成結果が最大となる位相を式(14)にて探索し、その結果と選択していないキャリア周波数のSr2(fn,tf)とに対して式(14)を適用することを繰り返し行ってもよい。
レンジ抽出部34は、各キャリア周波数の相関出力Sr2(fn,tf)を合成した最大値Sr2max(tf)に対するCFAR処理等により、目標のレンジを抽出する。レンジ抽出部34は、目標のレンジを出力部35へ供給する。出力部35は、ドップラ抽出部29により抽出された目標のドップラ周波数fd及び相対速度vtと、レンジ抽出部により抽出された目標のレンジとを組み合わせた目標に関する情報を出力する。
以上説明した、ドップラ抽出用パルス列P1を用いたドップラ周波数の抽出と、レンジ抽出用パルス列P2に基づいた測距とにより、受信装置は、送信装置においてLPI性が高められた送信信号の反射波から目標のレンジ及び相対速度を観測できる。また、送信に用いられた複数のキャリア周波数のうち少なくとも一つのキャリア周波数で反射波を受信装置が受信できれば、目標のレンジ及び相対速度の観測を行えるため、観測を安定して行うことができる。第1の実施形態における送信装置及び受信装置を組み合わせたレーダシステムは、LPI性を向上させつつ、安定した目標の観測を行うことができる。
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、送信装置において、ドップラ抽出用パルス列P1とレンジ抽出用パルス列P2との各パルスに対して割り当てるキャリア周波数を周波数変換器8がパルス制御部7の制御に応じて切り替える方式について説明した。第2の実施形態では、周波数変換器8において高周波数への周波数変換においてミキシングする信号の周波数を一定にしつつ、各パルスに割り当てるキャリア周波数をランダムに変化させる方式について説明する。
図11は、第2の実施形態における送信装置の構成例を示すブロック図である。送信装置は、アレイアンテナ101と、M個の送信部100b−1〜100b−Mとを備える。アレイアンテナ101を形成するサブアレイアンテナ10−1〜10−Mは、送信部100b−1〜100b−Mのうち対応する一つにそれぞれ接続されている。図11に示す構成例では、サブアレイアンテナ10−1が送信部100b−1に接続され、サブアレイアンテナ10−Mが送信部100b−Mに接続されている。M個の送信部100b−1〜100b−Mは、同じ構成を有している。以下、送信部100b−1〜100b−Mそれぞれを区別する必要がない場合には送信部100bと総称される。
送信部100bは、第1の実施形態における送信部100aと同様に、目標の検出に用いる送信信号を生成し、接続されたサブアレイアンテナ10へ生成した送信信号を供給する。送信部100bは、広帯域信号生成器1、FFT部2、周波数選択部3、IFFT部4、符号生成器5、変調器6、パルス制御部7、周波数変換器8及び高出力増幅器9を備える。第2の実施形態における送信部100bは、基準信号生成器1aに代えて、広帯域信号生成器1、FFT部2、周波数選択部3及びIFFT部4を備える構成が、第1の実施形態における送信部100aと異なる。
第2の実施形態における周波数変換器8では、周波数変換においてミキシングする高周波信号を周波数Fの一波として、ドップラ抽出用パルス列P1とレンジ抽出用パルス列P2との各パルスに対するキャリア周波数(f1,f2,…,fNf)を得る。図12は、第2の実施形態における周波数変換器8による周波数変換を示す模式図である。図12には、パルスに割り当てるキャリア周波数(f1,f2,f3,f4)が示されている。第2の実施形態では、ドップラ抽出用パルス列P1及びレンジ抽出用パルス列P2それぞれの変調信号と、周波数Fの高周波信号とのミキシングにより、選択するキャリア周波数(f1,f2,f3,f4)が送信帯域において得られるように、キャリア周波数に対応する周波数にパワーを有する変調信号が生成される。高周波信号の周波数Fは、送信装置における各サブアレイアンテナ10に割り当てられる複数のキャリア周波数に基づいて定められる。例えば、送信帯域の中心周波数が高周波信号の周波数Fに定められる。
図13は、第2の実施形態における送信装置において行われる処理を示す模式図である。広帯域信号生成器1は、広帯域信号を生成し、生成した広帯域信号をFFT部2へ供給する。広帯域信号は、図13に示すように、高周波数の送信信号の送信帯域Wと同じ帯域を有し、この帯域において所定の振幅を有する。FFT部2は、広帯域信号に対してFFTを行う。広帯域信号に対して行われるFFTは、受信装置に備えられるAD変換器24のサンプリングタイミングに相当するfast−time軸で行われる。FFTにより得られた周波数領域の信号は、周波数選択部3へ供給される。
周波数選択部3は、供給される周波数領域の信号をキャリア周波数に対応する帯域ごとに分割する。この信号分割によって図13に示すように、Nf個のキャリア周波数(f1,f2,…,fNf)それぞれに対応するNf個の分割帯域が得られる。周波数選択部3は、パルス制御部7の制御に応じて、サブアレイアンテナ10に割り当てられたキャリア周波数に対応する分割帯域の信号を選択する。分割帯域の選択は送信部100b−1〜100b−Mごとに行われ、各サブアレイアンテナ10に割り当てられたキャリア周波数に対応する分割帯域が選択される。周波数選択部3は、選択した分割帯域の信号をIFFT部4へ供給する。IFFT部4は、選択された分割帯域の信号に対して、fast−time軸へのIFFTを行う。IFFT部4は、IFFTにより得られた時間領域の信号を変調器6へ供給する。
符号生成器5は、パルス制御部7の制御に応じて、ドップラ抽出用パルス列P1のパルスとレンジ抽出用パルス列P2のパルスとに対する符号系列を生成し、生成した符号系列を変調器6へ供給する。変調器6は、IFFT部4から供給される信号(パルス)を、符号生成器5で生成された符号系列で変調した変調信号を生成し、変調信号を周波数変換器8へ供給する。周波数変換器8は、送信帯域に応じて定められた周波数Fの高周波信号で変調信号を高周波数に変換し、高周波数の変調信号を高出力増幅器9へ供給する。高出力増幅器9は、高周波数の変調信号を増幅し、増幅した変調信号を送信信号としてサブアレイアンテナ10より送信する。
第2の実施形態におけるレーダシステムが備える受信装置は、第1の実施形態における受信装置と同じ構成を有し、同様に動作する。
第2の実施形態の送信装置では、周波数変換器8において高周波数の変調信号を得るためにミキシングする高周波信号が一つであるため、複数の高周波信号から選択された信号を用いて所望のキャリア周波数を得る場合に比べて各パルスに対するキャリア周波数に生じるばらつきを抑えることができ、キャリア周波数の精度を向上できる。また、送信装置では、精度の維持が必要となる高周波信号を減らすことができるため、メンテナンス性も向上する。第2の実施形態における送信装置と受信装置とを備えるレーダシステムは、送信信号のキャリア周波数ばらつきを抑え、キャリア周波数の精度を向上させることで、受信装置におけるドップラ周波数を精度よく推定できる。レーダシステムは、ドップラ周波数を推定する精度の向上により、レンジ抽出用パルス列P2に対するコヒーレント積分におけるロスを低減でき、目標のレンジ及び相対速度の観測精度を改善できる。
[第3の実施形態]
第1の実施形態では、受信装置におけるドップラ周波数の抽出と目標レンジの抽出とにおいて、各サブアレイアンテナ10で送信された送信信号の反射信号をコヒーレント積分する。しかし、コヒーレント積分における位相補正に大きな誤差があると、合成におけるロスが増加し、位相補正の演算負荷に見合う観測結果(目標のレンジ及び相対速度)が得られない場合がある。そこで、第3の実施形態では、受信装置における演算負荷の増加を抑えつつ、観測結果を得る構成について説明する。
図14は、第3の実施形態における受信装置の構成例を示すブロック図である。受信装置は、アレイアンテナ21、低雑音増幅器22、周波数変換器23、AD変換器24、ドップラ用パルス列抽出部25、FFT部26、ドップラ補正部27、振幅積分部28b(第1の合成部)、ドップラ抽出部29、レンジ用パルス列抽出部30、参照信号補正部31、相関算出部32、振幅積分部33b(第2の合成部)、レンジ抽出部34及び出力部35を備える。第3の実施形態における受信装置は、コヒーレント積分部28a及びコヒーレント積分部33aに代えて、振幅積分部28b及び振幅積分部33bを備える構成が第1の実施形態における受信装置と異なる。第3の実施形態における受信装置では、振幅積分部28bが式(6)で得られる演算結果Sr1out(fn,ωs,tf)を振幅積分して合成結果を取得し、振幅積分部33bが式(13)で得られる相関出力Sr2(fn,tf)を振幅積分して合成結果を取得する。
第3の実施形態における受信装置においても、演算結果Sr1out(fn,ωs,tf)及び相関出力Sr2(fn,tf)を合成する際に、キャリア周波数間において生じるドップラ周波数差に対する補正は必要である。しかし、振幅積分では振幅のみの積分が行われるため、目標までの距離に応じて生じる初期位相に関してキャリア周波数間の位相差の補正が不要となる。すなわち、キャリア周波数間の位相差を補正するために位相探索法が不要となり、受信装置における信号処理が簡易化される。
第3の実施形態における受信装置は、位相補正に伴う演算負荷を省くことができ、演算負荷に見合う観測結果を安定的に得ることができる。なお、振幅積分では位相差によるロスが少なからず生じるため、第3の実施形態の受信装置は、レーダシステムの利得に余裕があるときに用いてもよい。例えば、受信信号におけるドップラ抽出用パルス列P1とレンジ抽出用パルス列P2とのSN比が一定以上の場合に、第3の実施形態の受信装置を用いてもよい。
図14に示した受信装置は、演算結果Sr1out(fn,ωs,tf)の合成と、相関出力Sr2(fn,tf)の合成との両方に振幅積分を用いる構成を有する。しかし、演算結果Sr1out(fn,ωs,tf)の合成と、相関出力Sr2(fn,tf)の合成とのいずれか一つに振幅積分を用いる構成としてもよい。例えば、受信装置は、演算結果Sr1out(fn,ωs,tf)を振幅積分で合成してドップラ周波数を取得し、相関出力Sr2(fn,tf)をコヒーレント積分で合成して目標のレンジを取得してもよい。振幅積分とコヒーレント積分とを組み合わせて用いることにより、受信装置の処理を簡易にしつつ、目標のレンジの精度を高めることができる。
第3の実施形態におけるレーダシステムが備える送信装置は、第1の実施形態及び第2の実施形態における送信装置のいずれかと同じ構成を有し、同様に動作する。例えば、第3の実施形態における送信装置が第2の実施形態における送信装置と同じである場合、キャリア周波数に生じるばらつきを抑えてドップラ周波数の推定精度を向上させつつ、受信装置における処理を簡易にすることができる。
上記の第1から第3の実施形態では、送信装置が複数の送信部100a又は複数の送信部100bを備える構成を説明したが、サブアレイアンテナ10ごとに割り当てられた複数のキャリア周波数の送信信号を、サブアレイアンテナ10それぞれへ供給できれば1つの送信部を備える構成としてもよい。また、送信装置に備えられる複数の送信部100a又は送信部100bにおけるドップラ抽出用パルス列P1に対するパルスの間引きは、同期して行われてもよいし、送信部100a又は送信部100bごとに独立して行われてもよい。
上記の第1から第3の実施形態では、各送信部100a、100bにおいて、サブアレイアンテナ10に割り当てられたキャリア周波数をドップラ抽出用パルス列P1とレンジ抽出用パルス列P2との送信に用いる構成を説明した。しかし、各サブアレイアンテナ10に2つのキャリア周波数を割り当て、ドップラ抽出用パルス列P1とレンジ抽出用パルス列P2との送信に異なるキャリア周波数を用いてもよい。
上記の第1から第3の実施形態では、送信装置及び受信装置がアレイアンテナ101及びアレイアンテナ21をそれぞれ備える構成について説明した。しかし、送信装置と受信装置とが1つのアレイアンテナを共用してもよい。また、各アレイアンテナに含まれるサブアレイアンテナは、複数の場所に分散して配置されていてもよい。
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、ドップラ抽出用パルス列P1(第1のパルス列)とレンジ抽出用パルス列P2(第2のパルス列)とを合成した送信信号を、サブアレイアンテナ10ごとに割り当てられるキャリア周波数でサブアレイアンテナ10それぞれから送信する送信部を持つことにより、送信信号におけるパルス間隔が不均一になり、LPI性を向上させることができる。また、複数のキャリア周波数で送信信号が送信されるため、特定の周波数に存在する不要波やノイズに対する耐性を高め、安定した目標の観測を行うことができる。
上記の実施形態における送信装置及び受信装置は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、CPUがプログラムを実行することにより、デジタル信号に対する信号処理を行ってもよい。CPUは、補助記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、送信装置における一部又はすべての動作と、受信装置における一部又はすべての動作とを行ってもよい。また、送信装置及び受信装置における動作のすべて又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置などの非一時的な記憶媒体である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。