JP6945545B2 - マンガン鋼中間材の熱処理方法およびそのような方法によって熱処理される鋼中間材 - Google Patents

マンガン鋼中間材の熱処理方法およびそのような方法によって熱処理される鋼中間材 Download PDF

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Description

本発明は、マンガン鋼中間材の熱処理方法に関する。また、本発明は、大幅に減少したリューダースひずみを得るために特殊なプロセスで熱処理されたマンガン鋼中間材からなる特殊合金に関する。本願は、2016年3月23日に出願された欧州特許出願第16162073.7号に基づく優先権を主張する。
組成および合金それぞれと、製造プロセスにおける熱処理は、共に鋼材の特性に著しい影響を及ぼす。
熱処理中の加熱、保持および冷却は、鋼材の最終構造に影響を及ぼし得ることが知られている。また、上述したように、鋼材の合金組成も重要な役割を果たすことは言うまでもない。合金鋼における熱力学的および材料技術的関係は非常に複雑であり、多くのパラメータに依存する。
鋼材の微細組織における異なる相の組み合わせが、機械的特性および変形能に影響を及ぼし得ることも知られている。
そのため、特定の要件に応じて異なる鋼が使用される。
現在の鋼合金の重要な成分はマンガン(Mn)である。これは、いわゆる中マンガン鋼である。マンガン含有量(重量%)は、多くの場合、3%〜12%の範囲にある。中マンガン鋼は、その微細組織により、高い引張強度および伸び率を有する。自動車産業における典型的な用途として、複雑に深絞り加工された安全性に関連する部品が挙げられる。
図1は、引張強度(MPa)に対する破断時の(全伸びとしても知られる)伸び率A80(%)をプロットした、典型的で非常に概略的な図である。ここでは、引張強度をRと示す。また、図1は、自動車業界で現在使用されている鋼材の強度クラスの概要を示す。一般に、鋼合金の引張強度Rが高いほど、その合金の全伸びA80が低くなるとされている。すなわち、引張強度Rが増加するに伴って全伸びA80は減少し、その逆もまた同様であるということができる。したがって、全伸びA80と引張強度Rとの間の最適な妥協点を用途毎に見出す必要性がある。
自動車の分野では多種多様な鋼合金が使用されており、これらの鋼合金は、車両に適用される特定の領域にあわせてそれぞれ明確に最適化されている。内装パネルおよび外装パネル、構造部品ならびにバンパーの場合には、良好なエネルギー吸収性を有する合金が使用される。車両の外板となる鋼板は、比較的「軟質」であり、例えば、約300MPaの引張強度Rおよび30%を上回る良好な全伸びA80を有する。安全性に関連する部品の鋼合金は、例えば、600MPa〜1000MPaの範囲の引張強度Rを有する。例えば、TRIP(transformation-induced plasticity:変態誘起塑性)鋼(図1に示す符号1)は、この目的に非常に適している。
事故が起きた際に車両の部品の侵入を防ぐことを意図した(例えば、側面衝撃吸収のための)鋼製の防壁には、通常1000MPaを上回る高い引張強度Rを有する鋼合金が使用される。この場合、例えば、より高い張力を有する先進的なAHSS鋼(Advanced High-Strength Steels:先進高張力鋼)が好適である(図1に示す符号2)。これは、TBF(Trip Bainitic Ferrite:TRIP型ベイニティックフェライト)鋼やQP(Quenching & Partitioning:焼入−分配)鋼を含む。これらの高張力AHSS鋼は、例えば、1.2重量%〜3重量%の範囲のマンガンおよび0.05重量%〜0.25重量%の範囲の炭素Cを含有する。
図1において符号3として示す領域は、上述した中マンガン鋼を模式的に示す。この符号3として示す領域は、3重量%〜12重量%の範囲のMnおよび1重量%以下の炭素を含有する中マンガン鋼を含む。
現在の中マンガン鋼は、その超微細粒(典型的には1μm以下)による顕著な降伏点強度を有しており、これは、引張試験においてみることができる。例示的な引張曲線(応力−ひずみ曲線ともいう)4を図2に示す。図2では、伸びε(%)に対する引張強度σ(MPa)がプロットされている。引張曲線4は、上降伏点強度(ReH)としての中間最大値5およびそれに続く水平線6を示す。下降伏点強度(ReL)の領域において、水平線6は、上昇する曲線領域へと変化する。図2に示すような水平線6の「長さ」をリューダースひずみ(A)という。このように顕著な降伏点強度を有する鋼材は、自動車産業において望ましくないリューダース帯(伸縮−ひずみ模様)を部品の表面に形成する場合がある。したがって、一般には、この顕著な降伏点強度を再圧延プロセスによって減少させる必要性がある。対応する再圧延設備(通常、スキンパスミルを用いる)での後処理は、スキンパス圧延ともいう。
このスキンパス圧延が要するエネルギーおよび技術的労力は、時として非常に高い。また、スキンパス圧延によって、有用な伸びが減少する場合がある。
したがって、本発明の目的は、リューダースひずみがより少ないマンガン鋼中間材の製造方法を提供することである。また、マンガン鋼中間材が、(測定可能な)リューダースひずみを有さないことが好ましい。
異なる合金組成を有する複数の中マンガン鋼を検査した結果、これらの鋼の旧オーステナイト結晶粒の粒径とリューダースひずみとの間には、相関があることが分かった。これは、旧オーステナイト結晶粒の粒径が、これらの鋼の機械的特性に影響を及ぼすことを意味する。一般に、リューダースひずみが、旧オーステナイト結晶粒の粒径に反比例すると仮定することができる。
したがって、本発明の目的の1つは、旧オーステナイト結晶粒の粒径を増大させて、増大されたオーステナイト結晶粒を中マンガン鋼の組織内に顕出させるための合金組成および熱処理方法を提供することである。本発明は、超微細組織(平均粒径が約1μmの超微細粒を含む)に関する先行技術(例えば、国際公開第2014095082A1号参照)とは異なる方向性を提供する。また、例示した国際公開第2014095082A1号では、他の温度およびプロセス手順で機能する二重焼なましプロセスを用いている。国際公開WO2014095082A1号に開示された方法によって作製された鋼材は、顕著な降伏点強度を有する。
本発明によれば、マンガン鋼中間材を熱処理するのに特に適したマンガン鋼合金および最適化された熱処理プロセスが提供される。
本発明のマンガン鋼合金は、
・ 次のマンガン範囲にあるマンガン(Mn):3重量%≦Mn≦12重量%、
・ ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、リン(P)、硫黄(S)、窒素(N)、銅(Cu)、ホウ素(B)、コバルト(Co)およびタングステン(W)からなる群より選択される1種または数種の合金元素、
・ 任意の炭素(C):1重量%未満、および
・ 合計含有量が0.45重量%未満である、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)等を含む任意の1種または数種の微細合金元素
を含有し、
・ 残部は、鉄(Fe)および不可避的不純物からなる。
該マンガン鋼合金の溶融物から作製されたマンガン鋼中間材を、本発明に係る熱処理方法に含まれる第1の熱処理プロセスおよびそれに続く第2の熱処理プロセスに供する。
第1の熱処理プロセスは、鋼中間材を、第1の保持期間の間にわたって限界臨界温度(TKG)を上回る第1の焼なまし温度に保持する高温プロセスであり、この限界臨界温度(TKG)は、勾配値をSとすると、TKG≧(856−S*マンガン含有量)℃によって定義される。
限界臨界温度(TKG)を定義する上記式は、マンガン含有量の増加に伴ってマンガン範囲の限界臨界温度(TKG)が減少することを示す。
すべての実施形態において、上述した勾配値がS=7.83±10%によって定義されることが好ましく、S=7.83であることがより好ましい。
第2の熱処理プロセスは、鋼中間材を、第1の焼なまし温度T1を下回る第2の焼なまし温度T2に供する焼なましプロセスである。
すべての実施形態において、第1の焼なまし温度T1が、合金のマンガン範囲に依存しており、T1≧TKGによって定義されることが好ましい。
特に、S=7.83±10%としたときに、臨界温度が、T≧(866−S*マンガン含有量)℃を満たす本発明の実施形態がより好ましい。
すべての実施形態において、第1の保持期間は少なくとも10秒であることが好ましい。特に、すべての実施形態において、第1の保持期間が、10秒〜7000分の範囲にあることがより好ましい。
すべての実施形態において、第2の焼なまし温度T2が、温度A〜温度Aの範囲にあることが好ましい。
鋼中間材の加熱、第2の焼なまし温度での保持および鋼中間材の冷却を含む第2の熱処理プロセスが6000分未満であると、有利な結果を得ることができる。特に、このプロセスの合計時間が5000分未満であることがより好ましい。
本発明は、1種または数種の合金元素の含有量が以下の範囲にある合金に特に有利に適用することができる:
・ ケイ素(Si):3重量%以下、好ましくは2重量%以下、
・ アルミニウム(Al):8重量%以下、好ましくは6重量%以下、
・ ニッケル(Ni):2重量%以下、好ましくは1重量%以下、
・ クロム(Cr):2重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、
・ モリブデン(Mo):0.5重量%以下、好ましくは0.25重量%以下、
・ リン(P):0.05重量%以下、好ましくは0.025重量%以下、
・ 硫黄(S):0.03重量%以下、好ましくは0.01重量%以下、
・ 窒素(N):0.05重量%以下、好ましくは0.025重量%以下、
・ 銅(Cu):1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、
・ ホウ素(B):0.005重量%以下、好ましくは0.0035重量%以下、
・ タングステン(W):1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、および
・ コバルト(Co):2重量%以下、好ましくは1重量%以下。
すべての実施形態において、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)およびバナジウム(V)からなる群の元素が微細合金元素として使用されると、有利な結果を得ることができる。
本発明によって、3%未満、好ましくは1%未満のリューダースひずみAを有する鋼中間材を初めて提供することができる。
同時に、すべての実施形態において、本発明の鋼中間材が、平均粒径が3μmより大きい旧オーステナイト結晶粒を有することが好ましい。
本発明の鋼中間材の合金は、本発明による平均マンガン含有量を有することが好ましく、これは、マンガン含有量が3重量%≦Mn≦12重量%の範囲にあることを意味する。すべての実施形態において、マンガン含有量が3.5重量%≦Mn≦8.5重量%の範囲にあることが好ましい。
本発明の鋼材の炭素含有量は、一般にかなり低い。また、すべての実施形態において、炭素の含有は任意である。すなわち、本発明の炭素は、C≦1重量%の範囲にある。特に、炭素含有量が以下のいずれかの範囲にある実施形態がより好ましい。
a) 0.01重量%≦C≦0.8重量%、または
b) 0.05重量%≦C≦0.3重量%
本発明の好ましい方法において、第1の熱処理プロセスは、連続ストリップ処理設備(焼なまし設備)で実施される。このプロセスは、連続焼なましとしても知られている。あるいは、他の可能性として、鋼中間材への非連続熱処理(フード型焼なまし)が挙げられる。
熱延鋼板への熱処理の場合、本発明の第1の熱処理は、熱間圧延中に実施される特別な温度制御によって実施することもできる。この特別な温度制御によって、熱間圧延中の熱延鋼板の圧延終了温度が、限界臨界温度TKGを上回る範囲にあることを保証することができる。
本発明の好ましい方法において、第2の熱処理プロセスは、非連続運転設備で実施され、鋼中間材は、該設備において焼なましプロセス中に保護ガス雰囲気に曝される。このプロセスは、フード型焼なまし設備で実施されることが好ましい。しかしながら、すべての実施形態において、第2の熱処理プロセスを連続ストリップ処理設備(焼なまし設備)または溶融亜鉛メッキ設備で実施することもできる。
すべての実施形態における鋼中間材を、主に鋼中間材の表面を調整する役割を担うスキンパス圧延プロセスに任意に供してもよい。本発明の鋼中間材が有するリューダースひずみは低いため、強力なスキンパス圧延は不要である。
したがって、本発明によれば、スキンパス圧延の頻度を減少または完全になくすことができる。
本発明の利点は、3%未満、好ましくは1%未満のリューダースひずみを有する鋼中間材を作製できることである。
本発明のさらなる利点は、490MPaを上回る引張強度(最小強度ともいう)Rを有する鋼中間材を作製できることである。
本発明のさらなる利点は、減少したリューダースひずみによって得られた(最小)全伸び(A80)が10%を上回る鋼中間材を作製できることである。
本発明のさらなる利点は、鋼中間材が、減少したリューダースひずみによって得られる、より有用な技術的伸びを有することである。
本発明は、例えば、冷間圧延鋼板(例えばコイル)の形状を有する冷間圧延鋼材を提供するために用いることができる。また、本発明は、例えば、薄板や線材および線製品を作製するために用いることもできる。
また、本発明は、熱間圧延鋼材を提供するために用いることもできる。
本発明のさらなる有利な実施形態は、添付の従属請求項の主題を構成する。
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながらより詳細に説明する。
自動車産業で用いられる様々な鋼について、引張強度R(MPa)に対する(最小)全伸びA80(%)をプロットした非常に概略的な図である。 顕著な降伏点強度(リューダースひずみA)を有する鋼材を示す模式的な応力−ひずみ線図である。 2つの熱処理プロセスを示す概略図である。 臨界温度Tおよび対応する限界臨界温度TKGの経過を示す概略図である。 2つの異なる試料に対応する曲線を示す概略図であり、一方では、第1の焼なまし温度T1に対するリューダースひずみA(%)を示し、他方では、第1の焼なまし温度T1に対する旧オーステナイト結晶粒の平均粒径(DUAK M)を示す。 伸びε(%)に対する引張強度σ(MPa)を示す(図2に類似する)概略図であり、4つの同様の合金を、4つの異なる熱処理プロセスに供した場合を示す。
本発明は、特殊な微細構造配置および特性を有することを特徴とする鋼材または鋼中間材に関する。
以下の説明において「鋼中間材」という用語は、最終的に得られた鋼材ではなく、多段階製造プロセスにおける予備的鋼材または中間材に関することを強調するときに用いられる場合がある。通常、溶融物からこのような製造プロセスが開始される。以下に溶融物の合金組成を示すが、これは、製造プロセスの開始点側で合金組成を(例えば、合金元素および任意選択の微細合金元素などの成分を添加することにより)比較的的確に調整することができるからである。鋼中間材の合金組成は、通常、溶融物の合金組成からわずかに異なる。
以下に説明する量または比率は、特に明記されない限り、主に重量パーセント(すなわち重量%)で示す。合金または鋼材の組成に関する説明がある場合、これらの組成は、明示的に列挙された材料または物質の他に、母材としての鉄(Fe)と、溶融浴内で必ず発生し且つ結果として得られた鋼中間材にも現れるいわゆる不可避的不純物とを含む。重量%で示すすべての記述を加算すると常に合計100重量%となり、容量%で示すすべての記述を加算すると常に合計100容量%となる。
合金元素の特別な組合せに加えて、特別に最適化された熱処理プロセスが用いられる。以下でより詳細に説明する図3は、これに対応する。
鋼中間材の熱処理方法は、第1の熱処理プロセスS.1と、それに続く第2の熱処理プロセスS.2とを含む。図3の隣り合う2つの温度−時間線図は、これらの熱処理プロセスS.1およびS.2を示す。
第1の熱処理プロセスS.1は、鋼中間材を、第1の保持期間Δ1(この段階を保持H1ともいう)の間にわたって第1の焼なまし温度T1に保持する高温プロセスである。この焼なまし温度T1は、保持H1中の限界臨界温度TKGを上回る。
この限界臨界温度TKGの経過は、多数の試験によって決定されるように、(特に)マンガン鋼中間材の合金中のマンガンMnの含有量に依存する。図4には、臨界温度T(直線7)および対応する限界臨界温度TKG(直線8)の経過が示されている。
横軸には、マンガン範囲MnB(重量%)がプロットされている。上述したように、本発明は、3重量%≦Mn≦12重量%のマンガン範囲MnBにおいて、特に優れた結果を示す。図4において、このマンガン範囲MnBを、Mn=3重量%およびMn=12重量%の位置にある2本の垂直境界線の間に示す。
図4において、4つの試料の計測結果を小さな円で例示的に示す。これら4つの例示的試料および本発明の他の試料に関する詳細を、表1および表2に示す。
Figure 0006945545
Figure 0006945545
表1にタイプ毎の合金組成を示すが、ここでは、必須である合金成分のみを説明する。タイプ毎に、複数の実施形態を用いて試験を行った。対応する試料には、表2の左の列に示す1〜26の番号を付与した。
図4において、タイプ4,18、タイプ1,1、タイプ3,14およびタイプ7,24の4つの試料を上述した円で示す(例えば、タイプ4,18という記載は、タイプ4,試料18の合金組成を示す)。
図4に示す円または計測結果を直線で補間すると、図4に示す一定に下降する直線7が得られる。この直線7は、温度(℃)をTとすると、次式(1)によって定義することができる。
=(866−S*マンガン含有量) (1)
絶対値866(℃)は垂直軸との交点を定義し、値Sは勾配を定義する。そのため、Sを勾配値ともいう。
これらの試験の結果、すべての実施形態において、勾配値Sが7.83±10%であること好ましいことが分かった。
また、本発明による合金組成の臨界温度Tが、常に下限臨界温度TKGを上回ることも分かった。図4において、下限臨界温度TKGを直線8で示す。
この直線8は、温度(℃)をTKGとすると、次式(2)によって定義することができる。
KG=(856−S*マンガン含有量) (2)
直線8は、直線7に対して平行である。
次の条件であることが仮定することができる。すなわち、上に定義したマンガン鋼中間材の鋼合金の場合、3%未満のリューダースひずみAを有するマンガン鋼中間材を得るために、第1の焼なまし温度T1は常に下限臨界温度TKGを上回る必要がある。
第2の熱処理プロセスS.2もまた、リューダースひずみに影響を及ぼすことが分かった。構造中のオーステナイト結晶粒の粒径を維持するためには、第2の焼なまし温度T2は、いずれの場合も第1の焼なまし温度T1を下回る必要がある。第1の焼なまし温度T1は常に下限臨界温度TKGを上回るため、第2の焼なまし温度T2は下限臨界温度TKGを下回ることが好ましいといえる。
図3に概略的に示す例から、第1の焼なまし温度T1が限界温度TKGを上回り、第2の焼なまし温度T2がA〜Aの範囲にあることが分かる。この場合、第2の熱処理S.2を二相域焼鈍ともいう。
すべての実施形態において、第1の保持期間Δ1は、少なくとも10秒であることがこのましく、10秒〜6000分の範囲にあることがより好ましい。
すべての実施形態において、第2の保持期間Δ2は、少なくとも10秒である。図3は、2つの保持期間Δ1およびΔ2を例示的に示す。第1の熱処理プロセスS.1と第2の熱処理プロセスS.2との間隔は、適宜選択することができる。典型的には、第2の熱処理プロセスS.2は、第1の熱処理プロセスS.1の直後に実施される。
好ましい実施形態は、鋼中間材の加熱E1、第1の焼なまし温度T1での保持H1および鋼中間材の冷却Ab1を含む第1の熱処理プロセスS.1が、7000分未満のものである。
また、好ましい実施形態は、鋼中間材の加熱E2、第2の焼なまし温度T2での保持H2および鋼中間材の冷却Ab2を含む第2の熱処理プロセスS.2が、6000分未満、好ましくは5000分未満のものである。
さらに、リューダースひずみAの大幅な減少は、第1の熱処理プロセスS.1および/または第2の熱処理プロセスS.2が連続ストリップ処理設備(例えば、連続運転設備)あるいは非連続運転設備(例えば、フード型焼なまし装置)で実施されることと無関係であることが分かる。
本発明は、冷延鋼板中間材および熱延鋼板中間材の両方に適用することができる。いずれの場合も、リューダースひずみAが大幅に減少されたことが分かる。
第1の焼なまし温度T1を、限界臨界温度TKGを上回る値まで増加させ、旧オーステナイト結晶粒の平均粒径を増加させることによって、リューダースひずみAは大幅に減少する。
図5は、以下に示すタイプ1およびタイプ2の2つの試料(表1も参照)において、焼なまし温度T1の増加に対するリューダースひずみAの減少率(%)および旧オーステナイト結晶粒の平均粒径(DUAK M)(μm)の依存性を示す。
微細化されていないタイプ1の合金試料の化学組成は、
Mn=5.08重量%、および
C=0.096重量%
を含有し、残部は鉄Feおよび不可避的不純物からなる。
微細化されたタイプ2の合金試料の化学組成は、
Mn=5.13重量%、
C=0.097重量%、および
Nb=0.90重量%
を含有し、残部は鉄Feおよび不可避的不純物からなる。
図5に示すように、試験が行われたタイプ1の合金組成(曲線9)において、3%未満のリューダースひずみを得ることが望ましい場合、限界臨界温度TKGは820℃以下である。曲線10は、温度T1に対する旧オーステナイト結晶粒の平均粒径DUAK M 1に対応する経過を示す。タイプ1の試料では、3μmより大きい粒径を得ることができる。
図5に示すように、試験が行われたタイプ2の合金組成(曲線11)において、3%未満のリューダースひずみを得ることが望ましい場合、限界臨界温度TKG2は970℃以下である。曲線12は、温度T1に対する旧オーステナイト結晶粒の平均粒径(DUAK M)に対応する曲線を示す。タイプ2の試料では、8μmより大きい粒径を得ることができる。微細合金要素であるニオブ(Nb)の影響によって、TKG2は、3%未満のAに対して、(TKG1と比較して)より高い臨界温度に変化する。
図5に示す曲線10および12は、温度T1の上昇に伴って旧オーステナイト結晶粒の粒径が増大することを示す。
上記式(2)に基づいて、タイプ1の合金組成における下限温度TKG1を、以下の式によって定義することができる。
KG1=(856−7.83*5)=817℃以下 (2.1)
図5において、対応する下限温度TKG1を垂直方向の破線で示す。これにより、タイプ1の合金組成が、焼なまし温度T1>TKG1より、3μmより大きい平均粒径を有することが分かる。図4において、下限温度TKG1を小さな黒三角で示す。
上記式(2)に基づいて、タイプ2の合金組成における下限臨界温度TKG2を、以下の式によって定義することができる。
KG2=(856−7.83*5)=817℃以下=TKG1 (2.2)
Nbを含有する合金組成において、微細合金は、限界臨界温度TKGの増加をもたらす。図5に示すように、タイプ2の試料を用いると、限界臨界温度TKG2はタイプ1の合金組成の試料の場合より約150℃高くなる。図5では、対応する有効な下限臨界温度T*KG2を垂直方向の破線で示す。タイプ2の合金組成の場合、焼なまし温度はT1>T*KG2=TKG2+150℃を満たす。この場合、得られた旧オーステナイト結晶粒の平均粒径は、8μm以上である。
図6は、伸びε(%)に対する引張強度σ(MPa)を示す概略図である。図6は、図2に対する比較例であり、図6はその一部のみを示す。
具体的には、4つの同様の試料(表1に示すタイプ3の合金)を比較した。タイプ3の合金も、本発明の要件を満たす。4つの試料を、第1の熱処理プロセスS.1およびそれに続く第2の熱処理プロセスS.2にそれぞれ供した。これらの試験のパラメータは、第1の熱処理プロセスS.1において第1の焼なまし温度T1を以下(表3の2列目参照)のように変化させたことを除いて、同じである。
Figure 0006945545
これらの試験において、タイプ3の合金の主要組成は、
Mn=6.38重量%、および
C=0.1重量%
を含有し、残部は鉄Feおよび不可避的不純物からなる。
図6に示す実曲線13.1(表2に示すタイプ3,14)は、顕著な降伏点強度を明らかに示し、リューダースひずみAは2.6%以下である。ここで、温度T1は810℃であり、これは、勾配値S=7.83を有するタイプ3の合金において、下限臨界温度TKGをわずかに上回る。
曲線13.2は、タイプ3の別の例示的な試料(表2に示すタイプ3,15)を示し、これによると、降伏点強度はまだわずかに顕著である。
別の同様の試料(図6に示す一点斜曲線13.3参照)は、より高い温度T1=900℃(すなわち、T1>TKG)で熱処理されたが、顕著な降伏点強度はみられなかった。これは、表2に示すタイプ3,16に関する。
曲線13.4は、さらに別のタイプ3の試料を示し、この場合も、顕著な降伏点強度はみられなかった。これは、表2に示すタイプ3,17に関する。
図1に示す本発明のマンガン鋼中間材を適用する場合、対応する(例えば、タイプ1、タイプ2およびタイプ3の合金組成の)計測値は、約700MPa〜1000MPaの範囲にあり、全伸びA80は、約20%〜40%の範囲にある。
1:TRIP鋼、2:QP鋼およびTBF鋼、3:中マンガン鋼、4:引張曲線、5:中間最大値、6:水平線、7:直線、8:直線、9:曲線、10:曲線、11:曲線、12:曲線、13.1,13.2,13.3,13.4:曲線
:オーステナイト化開始温度、A:完全オーステナイト化開始温度、A80:全伸び、A:リューダースひずみ、Ab1:第1の冷却、Ab2:第2の冷却、DUAK M:旧オーステナイト結晶粒の平均粒径境界、Δ1:第1の保持期間、Δ2:第2の保持期間、E1:第1の加熱、E2:第2の加熱、ε:伸び、H1:第1の保持、H2:第2の保持、MnB:マンガン範囲、RA:残留オーステナイト量、ReH:上降伏点強度、ReL:下降伏点強度、R:引張強度、Rp0.2:0.2%の降伏点強度、S.1:第1の熱処理プロセス、S.2:第2の熱処理プロセス、σ:引張強度、S:勾配値、T1:第1の焼なまし温度、T2:第2の焼なまし温度、TKG:限界臨界温度KG1:限界臨界温度、TKG2:限界臨界温度T*KG2:有効な限界臨界温度

Claims (14)

  1. マンガン鋼中間材の熱処理方法であって、
    前記マンガン鋼中間材の合金は、
    ・ 次のマンガン範囲(MnB)にあるマンガン(Mn):3重量%≦Mn≦12重量%、および
    ・ 炭素(C):1重量%未満を含有し、
    ・ 残部は鉄(Fe)および不可避的不純物からなり、
    前記マンガン鋼中間材の熱処理は、第1の熱処理プロセス(S.1)と、前記第1の熱処理プロセス(S.1)に続く第2の熱処理プロセス(S.2)とを含み、
    ・ 前記第1の熱処理プロセス(S.1)は、前記マンガン鋼中間材を、第1の保持期間(Δ1)の間にわたって限界臨界温度(TKG)を上回る第1の焼なまし温度(T1)に保持する高温プロセスであって、前記限界臨界温度(TKG)は、勾配値をSとし、前記勾配値をS=7.83とすると、TKG=(856−S*マンガン含有量)℃によって定義され、
    ・ 前記第2の熱処理プロセス(S.2)は、前記マンガン鋼中間材を、前記第1の焼なまし温度(T1)を下回る第2の焼なまし温度(T2)に供する焼なましプロセスであることを特徴とする、
    熱処理方法。
  2. 前記マンガン範囲(MnB)における前記第1の焼なまし温度(T1)は、以下に定義する関係を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
    T1=(866−S*マンガン含有量)℃
  3. 前記第1の保持期間(Δ1)は、少なくとも10秒の範囲にあることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記第1の保持期間(Δ1)は、10秒〜6000分の範囲にあることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
  5. オーステナイト化の開始温度をAとし、完全オーステナイト化の開始温度をAとすると、前記第2の焼なまし温度(T2)は、温度A〜温度Aの範囲にあることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記第2の焼なまし温度(T2)は、630℃〜675℃の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  7. 前記第2の熱処理プロセス(S.2)において、前記第2の焼なまし温度(T2)は、少なくとも10秒間の第2の保持期間(Δ2)中、保持されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 前記マンガン鋼中間材の加熱プロセス(E2)、前記第2の焼なまし温度(T2)での保持(H2)および前記マンガン鋼中間材の冷却プロセス(A2)を含む前記第2の熱処理プロセス(S.2)は、6000分未満実施されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  9. 前記第2の熱処理プロセス(S.2)は、5000分未満実施されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
  10. 前記第1の熱処理プロセス(S.1)は、連続ストリップ処理設備または非連続運転設備で実施されるプロセスであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
  11. 前記第2の熱処理プロセス(S.2)は、連続ストリップ処理設備または非連続運転設備で実施されるプロセスであって、前記マンガン鋼中間材は、前記連続ストリップ処理設備または前記非連続運転設備において、前記焼なましプロセス中に保護ガス雰囲気に曝されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
  12. フード型焼なまし装置が、前記非連続運転設備として用いられることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
  13. 前記第2の熱処理プロセス(S.2)の下流の段階において、前記マンガン鋼中間材を、前記マンガン鋼中間材の表面を調整する役割を担うスキンパス圧延プロセスに供することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
  14. 前記第1の熱処理プロセス(S.1)は、熱間圧延プロセス中に実施され、前記熱間圧延プロセスは、前記限界臨界温度(TKG)を上回る範囲にある圧延終了温度で実施されることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
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