以下、本発明の実施形態を、図1〜図8を参照して詳細に説明する。なお、各図面においては、同一または同等の部分に同一の符号を付している。また、本明細書において、「故障」とは、直ちに修理あるいは部品交換を必要とする状態、つまり、事後保全の対象となる状態を言う。「異常」とは、故障の前兆と言うべき現象が発生している状態であって、比較的早期に、点検あるいは修理が必要な状態を言う。「軽微な異常」とは、異常の予兆と言うべき現象が発生している状態であって、点検の必要があるが、「異常」の場合程の緊急性が存在しない状態を言う。
図1は、一般的な可動ホーム柵1の構成を説明する説明図である。図1(A)は、可動ホーム柵1の外形を示す正面図であり、図1(B)は可動ホーム柵1の制御装置と駆動装置の概念的な構成を示す説明図である。図1(A)に示すように、可動ホーム柵1はマスタ側の可動ホーム柵1Aとスレーブ側の可動ホーム柵1Bを、プラットホームの床面2に乗降通路3を挟んで設置して構成される。なお、以下において、マスタ側の可動ホーム柵1Aの構成要素を示す符号とスレーブ側の可動ホーム柵1Bの構成要素を示す符号を、添え字a,bで区別する。符号の末尾に添え字aが添えられた構成要素はマスタ側の可動ホーム柵1Aの構成要素であり、符号の末尾に添え字bが添えられた構成要素はスレーブ側の可動ホーム柵1Bの構成要素である。マスタ側及びスレーブ側の可動ホーム柵1A,1Bは、それぞれ、床面2に固定される戸袋4a,4bと、戸袋4a,4bに進退自在に支持される扉体5a,5bと、を備えている。図1(A)は、扉体5a,5bが戸袋4a,4bから引き出された状態、つまり、乗降通路3が閉鎖された状態を示している。扉体5a,5bが戸袋4a,4bの中に引き込まれると、乗降通路3は開放される。マスタ側の可動ホーム柵1Aの戸袋4aの内部には、制御盤6が内蔵されている。マスタ側及びスレーブ側の可動ホーム柵1A,1Bは、制御盤6によって制御される。
次に、図1(B)を参照して、可動ホーム柵1の制御装置と駆動装置の構成を説明する。図1(B)に示すように、戸袋4a,4bの内部には、駆動用モータ7a,7bと駆動用モータ7a,7bによって回転駆動される駆動プーリ8a,8bが内蔵されている。戸袋4a,4bの内部の、駆動プーリ8a,8bから離隔した位置には、従動プーリ9a,9bが軸支され、駆動プーリ8a,8bと従動プーリ9a,9bの間には、無端ベルト10a,10bが巻き回されている。そして、無端ベルト10a,10bはベルトクランプ11a,11bで扉体5a,5bに連結されている。扉体5a,5bは、戸袋4a,4bに固定された図示しないガイドレールに摺動自在に支持されていて、図1(B)において矢印Fwd及び矢印Bwdで示す方向に移動することができる。
駆動用モータ7aを動作させて、駆動プーリ8aを時計回りに、つまり矢印Cwで示す方向に回転させると、無端ベルト10aは駆動プーリ8aと従動プーリ9aの間で時計回りに循環移動する。無端ベルト10aが時計回りに循環移動すると、ベルトクランプ11aは図1(B)において右手方向に移動する。ベルトクランプ11aが右手方向に移動すると、扉体5aは、無端ベルト10aに曳かれて、矢印Fwdで示す方向、つまり戸袋4aから引き出される方向に移動する。
駆動用モータ7bを動作させて、駆動プーリ8bを反時計回りに、つまり矢印CCwで示す方向に回転させると、無端ベルト10bは駆動プーリ8bと従動プーリ9bの間で反時計回りに循環移動する。無端ベルト10bが反時計回りに循環移動すると、ベルトクランプ11bは図1(B)において左手方向に移動する。ベルトクランプ11bが左手方向に移動すると、扉体5bは、無端ベルト10bに曳かれて、矢印Fwdで示す方向、つまり戸袋4bから引き出される方向に移動する。
このように、駆動用モータ7a,7bを動作させて、駆動プーリ8a,8bをそれぞれ、時計回り、反時計回りに回転させると、扉体5a,5bは、それぞれ戸袋4a,4bから引き出されて、乗降通路3が閉鎖される。
また、駆動用モータ7a,7bを逆方向に動作させて、駆動プーリ8a,8bをそれぞれ、反時計回り、時計回りに回転させると、扉体5a,5bは、それぞれ戸袋4a,4bの中に引き込まれて、乗降通路3が開放される。
前述したように、マスタ側の可動ホーム柵1Aの戸袋4aの内部には、制御盤6が内蔵されている。そして、図1(B)に示すように、制御盤6は、図示しない上位の制御装置によって制御される制御基板12と、制御基板12からトルク指令を受けて、駆動用モータ7a,7bに駆動用の電力を供給するモータドライバ13a,13bを備えている。モータドライバ13a,13bは図示しない電源から電力の供給を受けて、制御基板12から受けたトルク指令に見合う電力を駆動用モータ7a,7bに供給する。つまり、モータドライバ13a,13bは、必要な電力を駆動用モータ7a,7bに供給して、駆動用モータ7a,7bにおいて、トルク指令に見合うトルクを発生させる。
図2は、本発明の実施形態に係る健全性診断装置20と可動ホーム柵1の関係を示す構成図である。図2に示すように、健全性診断装置20は、プラットホームに設置される複数台の可動ホーム柵11,12,13,‥‥1Nの開閉動作を包括して監視及び制御する総合制御盤40を介して、可動ホーム柵11,12,13,‥‥1Nに接続されて、可動ホーム柵11,12,13,‥‥1Nの健全性診断を行うように構成されている。
図3は、健全性診断装置20の概念的な構成を示すブロック図である。前述したように、健全性診断装置20は総合制御盤40を介して、複数台の可動ホーム柵11,12,13,‥‥1Nに接続されているが、図3及び本明細書の以下の説明においては、1台の可動ホーム柵1で、複数台の可動ホーム柵11,12,13,‥‥1Nを代表させている。図3に示すように健全性診断装置20は、制御基板12とは別の装置であり、総合制御盤40を介して、制御基板12と通信することでトルク指令値を収集する。そのために、健全性診断装置20は、総合制御盤40を介して制御盤6の制御基板12に接続されて、制御基板12からモータドライバ13a,13bに出力されるトルク指令を監視するトルク指令値列取得部21を備えている。トルク指令値列取得部21は、制御基板12からモータドライバ13a,13bにトルク指令が出力されると、つまり、駆動用モータ7a,7bの動作開始が指示されると、トルク指令値の取得を開始する。そして、トルク指令値列取得部21は、トルク指令値の出力が停止するまで一定の時間間隔でトルク指令値の取得を繰り返す。例えば、トルク指令値列取得部21は110ms周期で64回の取得を繰り返す。その結果、64点のトルク指令値の配列、つまりトルク指令値列が得られる。なお、本明細書では、可動ホーム柵1の運用時に取得されたトルク指令値列を運用時トルク指令値列と呼ぶことにする。このように、トルク指令値列取得部21は運用時トルク指令値列取得部として機能する。
図3に示すように健全性診断装置20は、ハードディスク装置22を備えている。トルク指令値列取得部21で取得されたトルク指令値列は、可動ホーム柵1の機体を特定する情報、モータドライバ13a,13bを区別する情報、閉扉動作と開扉動作を区別する情報、取得日時を示す情報とともに、ハードディスク装置22に記憶される。ハードディスク装置22には、運用時において、可動ホーム柵1が動作する度に、トルク指令値列が記憶される。このように、ハードディスク装置22は運用時トルク指令値列記憶部として機能する。
また、ハードディスク装置22には、可動ホーム柵1が新設されて、試運転・調整が終わって、完成試験を行うタイミングで取得されたトルク指令値列、つまり初期トルク指令値列が記憶されている。そのため、ハードディスク装置22は、初期トルク指令値列記憶部として機能する。なお、初期トルク指令値列は、可動ホーム柵1の新設時に取得されたトルク指令値列には限定されない。初期トルク指令値列は、可動ホーム柵1の保守作業の完了後に取得されたトルク指令値列であっても良い。要するに、初期トルク指令値列は可動ホーム柵1の健全性が確認された直後に取得されたトルク指令値列である。つまり、初期トルク指令値列は健全な状態にある可動ホーム柵1から取得されたトルク指令値列である。
図3に示すように健全性診断装置20は、診断部23を備えている。診断部23は、ハードディスク装置22から運用時トルク指令値列と初期トルク指令値列を、読み出して、両者を比較して、可動ホーム柵1の健全性を診断するコンピュータである。診断部23による診断結果は、外部装置30に出力される。外部装置30は、特に限定されないが、例えば、可動ホーム柵1を制御する上位の制御装置、診断結果を文字あるいは図形の形で表示するディスプレイ装置、診断結果をまとめたレポートを印刷するプリンタである。なお、診断部23において運用時トルク指令値列に基づいて、可動ホーム柵1の健全性を診断する手法については後述する。
(トルク指令値列)
図4は、トルク指令値列を説明するグラフであり、横軸に時間を、縦軸にトルク指令値の大きさを取っている。図4に示した曲線はトルク指令値の時間変化を示す曲線である。一般にトルク指令値は、駆動用モータ7a,7bの動作の初期の段階では時間の経過とともに増加し、その後、減少する。駆動用モータ7a,7bの回転速度が目標に達したら、トルク指令値は一定の水準に保たれ、駆動用モータ7a,7bは目標回転数を維持する。その後、トルク指令値は減少を始め、やがて負のトルク指令値が出力される。さらにその後、トルク指令値は一旦増加し、最後に0になる。駆動用モータ7a,7bは停止する。
前述したように、トルク指令値列は、トルク指令値を一定の時間間隔で繰り返し取得されたM個のデータの配列であって、トルク指令値の時間変化を離散化して表示するものである。図4においては、トルク指令値列の要素T1,T2,‥‥TM−1,TMをプロットしている。縦軸に示したトルクの大きさが、T1,T2,‥‥TM−1,TMの値に相当する。以下においては、運用時トルク指令値列を一般式{To1,To2,‥‥ToM−1,ToM}で表すことにする。また、異常の有無を判定する基準となる基準トルク指令値列を一般式{Ts1,Ts2,‥‥TsM−1,TsM}で表すことにする。
可動ホーム柵1において、駆動用モータ7a,7bを制御する制御基板12は、扉体5a,5bが常に、同じ時間的経過を辿って動作するように、駆動用モータ7a,7bを制御している。つまり、制御基板12は、扉体5a,5bが戸袋4a,4bに対して進退する速度と、開閉動作に要する時間が、一定になるように、駆動用モータ7a,7bを制御している。そのため、可動ホーム柵1のメカニズムの状態に変化がなければ、トルク指令値列は変化しない。可動ホーム柵1のメカニズムの状態が変化すれば、トルク指令値列は変化する。運用時トルク指令値列{To1,To2,‥‥ToM−1,ToM}と基準トルク指令値列{Ts1,Ts2,‥‥TsM−1,TsM}を比較して、両者の間に大きな差異があれば、可動ホーム柵1に異常が発生していると推定することが出来る。
(異常の有無を判定する手法)
本実施例では、基準トルク指令値列として初期トルク指令値列{Ti1,Ti2,‥‥TiM−1,TiM}を使用する。そして、初期トルク指令値列{Ti1,Ti2,‥‥TiM−1,TiM}と運用時トルク指令値列{To1,To2,‥‥ToM−1,ToM}を比較して、可動ホーム柵1における異常の有無を判定する。そのために、診断部23は、ハードディスク装置22から運用時トルク指令値列{To1,To2,‥‥ToM−1,ToM}を、ハードディスク装置22から初期トルク指令値列{Ti1,Ti2,‥‥TiM−1,TiM}をそれぞれ読み出す。そして、診断部23は、運用時トルク指令値列{To1,To2,‥‥ToM−1,ToM}の全ての構成要素Toについて、構成要素Toと構成要素Toに隣接する構成要素To’の差分Doを求める。つまり、下式で表される差分Donを、n≦M−1の範囲にある全ての自然数nについて求める。
Don=Ton+1−Ton
次に、診断部23は、運用時トルク指令値列の構成要素Toに対応する初期トルク指令値列{Ti1,Ti2,‥‥TiM−1,TiM}の構成要素Tiと構成要素Tiに隣接する構成要素Ti’の差分Diを求める。つまり、下式で表される差分Dinを、n≦M−1の範囲にある全ての自然数nについて求める。
Din=Tin+1−Tin
次に、診断部23は、全ての差分Doと差分Diについて、差分Doと差分Diの差の絶対値Dを求める。つまり、下式で表される差の絶対値Dnを、n≦M−1の範囲にある全ての自然数nについて求める。
Dn=|(Ton+1−Ton)−(Tin+1−Tin)|
そして、診断部23は、すべてのDnと基準値S1を比較する。そしていずれかのDnが基準値S1を超えていたら、可動ホーム柵1に異常が発生していると判断する。つまり、運用時のトルク指令のいずれかの時間区間における時間変化率が、健全な状態におけるトルク指令の対応する時間区間における時間変化率に対して、大きく相違している場合に、可動ホーム柵1に異常が発生していると判断する。なお、基準値S1は、可動ホーム柵1の機種ごとに、あるいは設置場所ごとに、あるいは機体ごとに定められる閾値である。基準値S1は、実験あるいは過去の運用実績に基づいて決定される。
(軽微な異常の有無を判定する手法)
上記において、可動ホーム柵1における異常の有無を判定する手法を説明した。健全性診断装置20によれば、故障の発生の前兆現象となる異常の発生を検出することができる。これに加えて、健全性診断装置20によれば、「異常発生の前兆現象」と言うべき、軽微な異常の有無を判定することができる。以下において、軽微な異常の有無を判定する手法を説明する。
前述したように、駆動用モータ7a,7bは、扉体5a,5bが常に、同じ時間的経過を辿って動作するように、制御基板12によって制御される。駆動用モータ7a,7bは、動作の初期段階において、回転速度を徐々に増加させ、予定された回転速度に到達したら、回転速度を一定に保持し、その後、回転速度を徐々に減少させ、予定されたタイミングで停止するように制御される。また、図5に示すように、駆動用モータ7a,7bの回転速度が一定に保持される時間的区間、つまり定速度回転区間においては、加減速のためのトルクを必要としないので、トルク指令値の変動幅は限定される。
定速度回転区間において生じるトルク指令値の変動は、駆動用モータ7a,7bに外乱が加わることによって生じる。可動ホーム柵1において、なんらかの軽微な異常があれば、外乱の増加の形で顕在化されると考えられる。外乱が増加すれば、定速度回転区間におけるトルク指令値の変動幅は大きくなると考えられる。そこで、診断部23は、運用時トルク指令値列{To1,To2,‥‥ToM−1,ToM}の構成要素の内、定速度回転区間にある構成要素から最大値と最小値を求めて、最大値と最小値の差が基準値を超える場合に、可動ホーム柵1に軽微な異常があると判断する。図5に示す例においては、Tom,‥‥Tom’が定速度回転区間にある構成要素に該当するので、Tom,‥‥Tom’の中で最大値Tomaxと最小値Tominを求めて、Tomax−Tominを基準値S2と比較する。そして、Tomax−Tominが基準値S2を超えていれば、可動ホーム柵1において軽微な異常があると判断する。Tomax−Tominが基準値S2を超えていなければ、可動ホーム柵1は正常な状態にあると判断する。なお、基準値S2は、可動ホーム柵1の機種ごとに、あるいは設置場所ごとに、あるいは機体ごとに定められる閾値である。基準値S2は、実験あるいは過去の運用実績に基づいて決定される。なお、定速度回転区間の範囲は、駆動用モータ7a,7bの制御プログラムの作成時に、つまり駆動用モータ7a,7bの加減速スケジュールの決定時に、決定又は推定することができる。あるいは、初期トルク指令値列{Ti1,Ti2,‥‥TiM−1,TiM}において、トルク指令値Tinが一定になる範囲を定速度回転区間とすることができる。
(過大負荷の除外)
可動ホーム柵1においては、偶発的に過大負荷が加わることがある。例えば、異物の挟み込み、接触、強風によって、偶発的に過大負荷が加わることがある。このような偶発的な過大負荷の結果、生じたトルク指令値列は、可動ホーム柵1の健全性とは直接には関係しない。過大負荷が消滅すれば、可動ホーム柵1は元の状態に戻るからである。
そこで、健全性診断装置20においては、運用時トルク指令値列が平常の運転状態、つまり、偶発的な過大負荷が加わらない状態で取得されたものか、異常な運転状態、つまり、偶発的な過大負荷が加わった状態で取得されたものかを判別して、異常な運転状態で取得された運用時トルク指令値列を、可動ホーム柵1の健全性を判断する材料から除外している。そのために、診断部23は、運用時トルク指令値列{To1,To2,‥‥ToM−1,ToM}の全ての構成要素の中の最大値Tmaxと最小値Tminを求め、最大値Tmaxと最小値Tminの差が基準値を超える場合に、運用時トルク指令値列{To1,To2,‥‥ToM−1,ToM}を、健全性診断の判断対象から除外する。図6に示す例においては、駆動用モータ7a,7bを増速する区間における増速トルクのピークの近傍にTmaxが存在し、駆動用モータ7a,7bを減速する区間における制動トルクのピークの近傍にTminが存在する。診断部23は、最大値Tmaxと最小値Tminの差、つまり差Tmax−Tminを基準値S3と比較して、Tmax−Tminが基準値S3を超えていれば、その運用時トルク指令値列{To1,To2,‥‥ToM−1,ToM}を可動ホーム柵1の健全性を判断する材料から除外する。Tmax−Tminが基準値S3を超えていなければ、可動ホーム柵1の健全性を判断する材料とする。なお、基準値S3は、可動ホーム柵1の機種ごとに、あるいは設置場所ごとに、あるいは機体ごとに定められる閾値である。基準値S3は、実験あるいは過去の運用実績に基づいて決定される。
(健全性診断)
診断部23には、図7に示すような健全性診断プログラムがインストールされている。診断部23は健全性診断プログラムに記載された処理を実行して、可動ホーム柵1の健全性診断を行う。以下、図7を参照して、診断部23による可動ホーム柵1の健全性診断の手順を説明する。
健全性診断は、可動ホーム柵1の運用終了後、または可動ホーム柵1の運用開始前に、当日または前日に取得された運用時トルク指令値列を解析対象にして、実施される。健全性診断プログラムが起動されると、まず、ハードディスク装置22から初期トルク指令値列を読み出す(ステップ1)。次に、ハードディスク装置22から解析対象となる運用時トルク指令値列を1組読み出す(ステップ2)。
次に、ハードディスク装置22から読み出された運用時トルク指令値列について、過大負荷の有無を確認する。つまり、読み出された運用時トルク指令値列中の最大値Tmaxと最小値Tminを求めて、その差Tmax−Tminを基準値S3と比較する。Tmax−Tminが基準値S3を超えていれば(ステップ3:Yes)、当該運用時トルク指令値列は、可動ホーム柵1に偶発的に過大負荷が加わった状態で取得されたデータだと推定されるので、可動ホーム柵1の健全性判断の対象から除外する。そして、当該運用時トルク指令値列について、「判断対象から除外」した旨を記録して(ステップ4)、ステップ10に進む。
ステップ3において、Tmax−Tminが基準値S3を超えていなければ(ステップ3:No)、ステップ5に進む。ステップ5においては、初期トルク指令値列と運用時トルク指令値列のそれぞれについて、隣接する要素の差分を求め、その差分同士の差の絶対値を求めて行う。つまり、下式に示すDnを、n≦M−1の範囲にあるすべてのnについて算出する。
Dn=|(Ton+1−Ton)−(Tin+1−Tin)|
そして、いずれかのDnが、基準値S1を超えていれば(ステップ5:Yes)、可動ホーム柵1において何らかの異常が生じていると判定される。そこで、当該運用時トルク指令値列について、「異常あり」と判断した旨を記録して(ステップ6)、ステップ10に進む。全てのDnが、基準値S1を超えていなければ(ステップ5:No)、ステップ7に進む。
ステップ7においては、運用時トルク指令値列から、定速回転区間にある構成要素、つまり図5に示す例において、Tom,‥‥Tom’を抽出し、その中の最大値Tomaxと最小値Tominを求めて、それらの差、つまりTomax−Tominを基準値S2と比較する。前述したように、Tomax−Tominが基準値S2を超えていれば(ステップ7:Yes)、可動ホーム柵1において軽微な異常があると推定される。そこで、当該運用時トルク指令値列について、「軽微な異常あり」と判断した旨を記録して(ステップ8)、ステップ10に進む。Tomax−Tominが基準値S2を超えていなければ(ステップ7:No)、当該運用時トルク指令値列について、「異常なし」と判断した旨を記録して(ステップ9)、ステップ10に進む。
ステップ10においては、未処理の運用時トルク指令値列の有無を確認する。ハードディスク装置22に未処理の運用時トルク指令値列が残っていれば(ステップ10:Yes)、ステップ2に戻って、未処理の運用時トルク指令値列を読み出して、上記の処理を行う。ハードディスク装置22に未処理の運用時トルク指令値列が残っていなければ(ステップ10:No)、診断結果のレポートを外部装置30に出力して(ステップ11)、処理を終える。
なお、診断結果のレポートは、外部装置30において利用可能な電子データの形で出力される。そして、レポートには、運用時トルク指令値列の生データ、運用時トルク指令値列を取得した日時、運用時トルク指令値列を取得した可動ホーム柵1の機体を特定する情報、及び診断結果、つまり、「異常なし」、「軽微な異常あり」、「異常あり」、「判断対象除外」の記録が含まれる。レポートは外部装置30において、さまざまな形で利用することができる。レポートの内容を紙媒体に印刷して出力することもできるし、ディスプレイ装置に表示することもできる。あるいは、外部装置30において2次的な解析や統計処理を行うこともできる。
また、前述したように、可動ホーム柵1はマスタ側の可動ホーム柵1Aとスレーブ側の可動ホーム柵1Bを備えている。また、健全性診断装置20は、マスタ側の可動ホーム柵1Aとスレーブ側の可動ホーム柵1Bのそれぞれについて健全性診断を行う。また、トルク指令値の時間変化のパターンは、開放動作の場合と、閉鎖動作の場合で異なる。そのため、ハードディスク装置22には、マスタ側の可動ホーム柵1Aの開放動作時の初期トルク指令値列と閉鎖動作時の初期トルク指令値列、スレーブ側の可動ホーム柵1Bの開放動作時の初期トルク指令値列と閉鎖動作時の初期トルク指令値列、つまり、合計4種類の初期トルク指令値列が記録される。また、ハードディスク装置22には、マスタ側の可動ホーム柵1Aの開放動作時の運用時トルク指令値列と閉鎖動作時の運用時トルク指令値列、スレーブ側の可動ホーム柵1Bの開放動作時の運用時トルク指令値列と閉鎖動作時の運用時トルク指令値列、が区別して記録される。そして、診断部23は、同種の初期トルク指令値列と運用時トルク指令値列を比較して健全性診断を行う。基準値S1,S2,S3も、マスタ側の可動ホーム柵1Aとスレーブ側の可動ホーム柵1Bで異なる。基準値S1,S2,S3は、開放動作時と閉鎖動作時で異なる。
最後に、健全性診断装置20を備える可動ホーム柵1の動作について説明する。前述したように、可動ホーム柵1を制御する制御基板12は、上位の制御装置に制御されて、マスタ側の可動ホーム柵1Aとスレーブ側の可動ホーム柵1Bを開閉する。つまり、プラットホームに接する軌道に列車が到着すると、制御基板12は駆動用モータ7a,7bを動作させて、扉体5a,5bを戸袋4a,4bの中に引き込んで、乗降通路3を開放して、乗客の乗降を可能にする。乗客の乗降が終了したら、制御基板12は駆動用モータ7a,7bを、開放時とは逆方向に動作させて、扉体5a,5bを戸袋4a,4bの外に引き出して、乗降通路3を閉鎖する。乗降通路3が閉鎖されると、列車は発車し、プラットホームに接する軌道を離れる。このように、制御基板12は、プラットホームに接する軌道に列車が発着する度に、扉体5a,5bを戸袋4a,4bに対して進退させる。扉体5a,5bを戸袋4a,4bに対して進退させるため、制御基板12は必要なトルク指令をモータドライバ13a,13bに出力する。そして、モータドライバ13a,13bは、トルク指令に見合う電力を駆動用モータ7a,7bに供給する。
トルク指令値列取得部21は、制御基板12がマスタ側の可動ホーム柵1Aとスレーブ側の可動ホーム柵1Bを開閉する度に動作して、制御基板12からモータドライバ13a,13bに出力されるトルク指令をモニタして、トルク指令値の大きさを一定の時間間隔で記録して、運用時トルク指令値列を作成して、ハードディスク装置22に送信する。ハードディスク装置22は、運用時トルク指令値列を受信する度に、運用時トルク指令値列を記憶して、蓄積する。つまり、運用時トルク指令値列は、可動ホーム柵1が動作される度に、トルク指令値列取得部21で作成され、ハードディスク装置22に蓄積される。
診断部23は、当日における可動ホーム柵1の運用が終了した後に、つまり、プラットホームに接する軌道から、当日における最終列車が離れた後に、手動操作によって、あるいは上位の制御装置によって起動される。診断部23が起動されると、診断部23は、ハードディスク装置22に蓄積された運用時トルク指令値列を逐次読み出して、前述した処理を行う。
診断部23は、ハードディスク装置22から運用時トルク指令値列を読み出したら、まず、過大負荷の有無を確認する。つまり、読み出された運用時トルク指令値列が可動ホーム柵1に偶発的な過大負荷が加わった状態で取得されたものであったら、当該運用時トルク指令値列を可動ホーム柵1の健全性判断の対象から除外して、その旨を記録する。運用時トルク指令値列が、可動ホーム柵1に過大負荷が加わった状態で取得されたものでなかったら、ハードディスク装置22に記憶された初期トルク指令値列と運用時トルク指令値列を比較して異常の有無を判定する。運用時トルク指令値列に異常があれば、その旨を記録する。運用時トルク指令値列に異常が無ければ、運用時トルク指令値列の定速度回転区間にある構成要素の中の最大値と最小値の差を基準値と比較して、つまり定速度回転区間におけるトルク指令値の振れ幅を基準値と比較して、振れ幅が基準値を超えていれば、運用時トルク指令値列に軽微な異常があると判定して、その旨を記録する。運用時トルク指令値列に軽微な異常がなければ、当該運用時トルク指令値列に異常がない旨を記録する。
ハードディスク装置22に蓄積された全ての運用時トルク指令値列について、上記の処理が終わったら、診断部23はレポートを作成して外部装置30に出力する。なお、レポートには、運用時トルク指令値列の生データ、運用時トルク指令値列を取得した日時、運用時トルク指令値列を取得した可動ホーム柵1の機体を特定する情報、及び診断結果、つまり、「異常なし」、「軽微な異常あり」、「異常あり」、「判断対象除外」の記録が含まれる。
以上、説明したように、上記実施形態に係る健全性診断装置20によれば、可動ホーム柵1の初期トルク指令値列と運用時トルク指令値列を比較して、可動ホーム柵1の健全性診断を行うので、可動ホーム柵1における異常の発生を早期に発見することができる。そのため、可動ホーム柵1の信頼性を向上させることができる。
また、健全性診断装置20は、運用時トルク指令値列の定速度回転区間にある構成要素の中の最大値と最小値の差を基準値と比較して、つまり定速度回転区間におけるトルク指令値の振れ幅を基準値と比較して、振れ幅が基準値を超えていれば、運用時トルク指令値列に軽微な異常があると判定する。そのため、健全性診断装置20によれば、可動ホーム柵1における軽微な異常の発生を早期に発見することができる。その結果、可動ホーム柵1の信頼性を更に向上させることができる。
なお、上記実施形態に示された健全性診断装置20の構成と健全性診断装置20による健全性診断の手法は、本発明の具体的な実施態様の例示である。したがって、本発明の技術的範囲は各上記実施形態によっては限定されない。本発明は、特許請求の範囲に記載された技術的思想の限りにおいて、応用、変形、あるいは改良して実施することができる。
上記実施形態においては、初期トルク指令値{Ti1,Ti2,‥‥TiM−1,TiM}を基準トルク指令値列として使用する例を示したが、基準トルク指令値列は初期トルク指令値には限定されない。前日に作成された運用時トルク指令値列{Tp1,Tp2,‥‥TpM−1,TpM}を基準トルク指令値列として、当日に作成された運用時トルク指令値列{Tt1,Tt2,‥‥TtM−1,TtM}について異常の有無を判定するようにしても良い。
この場合、ハードディスク装置22に、当日に作成された運用時トルク指令値列{Tt1,Tt2,‥‥TtM−1,TtM}と前日に作成された運用時トルク指令値列{Tp1,Tp2,‥‥TpM−1,TpM}を記憶させる。診断部23は、ハードディスク装置22から、当日及び前日に作成された運用時トルク指令値列を読み出して、当日に作成された運用時トルク指令値列の全ての構成要素Ttについて、構成要素Ttと構成要素Ttに隣接する構成要素Tt’の差分Dtと、前日に作成された運用時トルク指令値列において構成要素Ttに対応する構成要素Tpと構成要素Tpに隣接する構成要素Tp’の差分Dpを求める。そして、差分Dtと差分Dpの差の絶対値を基準値と比較する。運用時トルク指令値列の少なくとも1個の構成要素Ttについて、差分Dtと差分Dpの差の絶対値が基準値を超える場合に、可動ホーム柵1に異常があると判断する。
また、可動ホーム柵1に異常があると判断する条件は、運用時トルク指令値列の少なくとも1個の構成要素Ttについて、差分Dtと差分Dpの差の絶対値が基準値を超えることには限定されない。複数個の構成要素Ttについて、差分Dtと差分Dpの差の絶対値が基準値を超えることを条件としても良い。
要するに、基準トルク指令値列は、運用時トルク指令値列に先行して取得されたデータであれば、十分であり、基準トルク指令値列の取得時期は限定されない。基準トルク指令値列は、運用時トルク指令値列が取得される日の前日に取得されたデータでも良いし、1週間あるいは1月前あるいは数月前に取得されたデータでも良い。あるいは、運用時トルク指令値列の取得に先行して取得された複数個のデータを平均したデータを基準トルク指令値列としても良い。運用時トルク指令値列の取得に先行する複数日に渉ってして取得された複数個のデータを平均したデータを基準トルク指令値列としても良い。あるいは、移動平均を行って、常に直近の複数日に渉って取得されたデータの平均を基準トルク指令値列とするようにしても良い。
初期トルク指令値列を取得する手段は、特に限定されない。専用の装置で初期トルク指令値列を取得して、その結果をハードディスク装置22に書き込んでも良い。あるいは、トルク指令値列取得部21で取得して、その結果をハードディスク装置22に書き込んでも良い。
ハードディスク装置22は、運用時トルク指令値列記憶手段と初期トルク指令値列記憶手段の具体例の例示である。運用時トルク指令値列記憶手段と初期トルク指令値列記憶手段は、ハードディスク装置22には限定されない。各種の記憶装置を任意に選択して、運用時トルク指令値列記憶手段あるいは初期トルク指令値列記憶手段として使用することができる。
また、図8に示すように、総合制御盤40にEPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)41を備えて、EPROM41に初期トルク指令値{Ti1,Ti2,‥‥TiM−1,TiM}を記憶させるようにしても良い。つまり、総合制御盤40が備えるEPROM41を初期トルク指令値列記憶手段として使用するようにしても良い。
ハードディスク装置22を省いて、トルク指令値列取得部21で取得された運用時トルク指令値列を診断部23で、逐次、初期トルク指令値列と比較して、その結果を外部装置30に出力するようにしても良い。
上記実施形態においては、トルク指令値列取得部21と診断部23を、それぞれ、別のハードウェアで構成する例を示したが、単一のハードウェアで、トルク指令値列取得部21と診断部23を構成するようにしても良い。健全性診断装置20の設置場所は限定されない。健全性診断装置20は、戸袋4aの内部に配置されても良いし、可動ホーム柵1から離隔した場所に配置されても良い。あるいは、トルク指令値列取得部21を戸袋4aの内部に配置して、診断部23を可動ホーム柵1から離隔した場所に配置するようにしても良い。また、健全性診断装置20は総合制御盤40と一体に構成されても良い。
上記実施形態においては、1台の健全性診断装置20が複数台の可動ホーム柵11,12,13,‥‥1Nに接続される例を示したが、健全性診断装置20と可動ホーム柵1は1対複数で配置されるものには限定されない。健全性診断装置20と可動ホーム柵1を1対1で配置して、1台の健全性診断装置20で、1台の可動ホーム柵1の健全性診断を行うようにしても良い。
初期トルク指令値列を取得する時期は、可動ホーム柵1の新設時には限定されない。可動ホーム柵1の工場出荷時に初期トルク指令値列を取得するようにしても良いし、あるいは、可動ホーム柵1の試作試験時に初期トルク指令値列を取得して、可動ホーム柵1の機種ごとに初期トルク指令値列を定めるようにしても良い。あるいは、可動ホーム柵1の重整備、つまり重要部品の交換がされる度に、初期トルク指令値列を取得するようにしても良い。
運用時トルク指令値列を取得する頻度は、限定されない。可動ホーム柵1が動作する度に運用時トルク指令値列を取得するようにしても良いし、可動ホーム柵1が11回動作するごとに1回、運用時トルク指令値列を取得する。あるいは30分に運用時トルク指令値列を取得するようにしても良い。