本発明者らは、鋭意検討した結果、以下のような理由から、本発明を見出すに至った。なお、これらの推定は、何ら本発明を限定するものではない。
錆が発生していない鋼材に防食塗装として塗膜を形成した場合、一般的に、前記塗膜の遮断性が高く、前記塗膜の長期の付着性が良い程、前記塗膜の劣化速度は小さくなることが知られている。しかし、前記塗膜の遮断性を高くするには、前記塗膜の硬化密度を上げて緻密な膜とする必要があり、その結果、前記塗膜の内部応力は増大するため、長期の付着性は、反対に低下する方向に向かう。つまり、前記塗膜の劣化速度を決める前記塗膜の遮断性と前記塗膜の長期の付着性とは、相反する関係にある。このため、錆が発生していない鋼材に防食塗装を施した場合、前記塗膜の塗膜劣化速度と、前記塗膜の遮断性を表す水蒸気透過量とは、相反する長期の塗膜の付着性の影響を受けるため、相関関係を示さない。ところが、錆が発生した鋼材への防食塗装の場合、錆が発生していない鋼材への防食塗装と比較して、長期の付着性という点は、錆が原因となり著しく劣る。このため、錆が発生した鋼材への防食塗装の場合、前記塗膜について、長期の付着性という因子を考慮する必要がなく、錆面に形成した塗膜について、その塗膜の劣化速度は、水蒸気透過量との間で、相関関係が得られることがわかった。そして、本発明者らは、その相関関係から、錆が発生した鋼材に対して、水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)以下となる塗膜を設けることによって、前述のように、前記塗膜の膨れ、割れ、発錆等を防止できるという本発明を見出すに至った。
本発明の錆面用塗料は、例えば、前記樹脂成分が、エポキシ樹脂と硬化剤とを含み、
前記硬化剤が、ポリアミン化合物を含み、前記顔料が、鱗片状顔料を含む。
本発明の錆面用塗料は、例えば、前記顔料が、タルク、マイカ、ガラスフレーク、およびアルミニウムフレークからなる群から選択された少なくとも一つを含む。
本発明の錆面用塗料は、例えば、前記組成物の不揮発分中の前記顔料の含有量が、1〜70質量%である。
本発明の塗装方法は、例えば、前記塗料として、前記本発明の錆面用塗料を使用する。
本発明の塗装方法は、例えば、前記鋼材の錆面において、錆の厚みが、0.1〜400μm、0.1〜300μm、0.1〜200μm、または0.1〜100μmである。
本発明の塗装方法は、例えば、前記鋼材の錆面において、錆の最大厚みが、0.1〜3000μm、0.1〜2000μm、0.1〜1400μm、または0.1〜700μmである。
本発明の塗装方法は、例えば、前記錆面上の塗膜の膜厚が、50〜1000μmである。
本発明の塗装方法は、例えば、前記塗膜工程において、前記鋼材に前記塗料を塗布して、硬化することにより塗膜を形成する。
本発明の塗装方法は、例えば、前記塗膜が、積層膜であり、前記塗膜工程において、前記鋼材への前記塗料の塗布と乾燥とを繰り返し行う。
本発明の塗装鋼材は、例えば、前記樹脂成分が、エポキシ樹脂と硬化剤とを含み、
前記硬化剤が、ポリアミン化合物を含み、前記顔料が、鱗片状顔料を含む。
本発明の塗装鋼材は、例えば、前記顔料が、タルク、ガラスフレーク、マイカ、およびアルミニウムフレークからなる群から選択された少なくとも一つを含む。
本発明の塗装鋼材は、例えば、前記塗膜における前記顔料の含有量が、1〜70質量%である。
本発明の塗装鋼材は、例えば、前記鋼材において、前記塗膜と接触する面が、錆面を有し、前記錆面の錆の厚みが、0.1〜400μm、0.1〜300μm、0.1〜200μm、または0.1〜100μmである。
本発明の塗装鋼材は、例えば、前記鋼材の錆面において、錆の最大厚みが、0.1〜3000μm、0.1〜2000μm、0.1〜1400μm、または0.1〜700μmである。
本発明の塗装鋼材は、例えば、前記塗膜の厚みが、50〜1000μmである。
以下に、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態には限定されない。
<錆面用塗料>
本発明の錆面用塗料(以下、本発明の塗料ともいう)は、前述のように、樹脂成分と顔料とを含む組成物であり、前記組成物から塗膜を形成した場合において、前記塗膜の水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)以下となることを特徴とする。
本発明の塗料は、錆面用の塗料、すなわち、錆が発生した鋼材に対する塗料である。本発明の塗料は、例えば、前記鋼材における、錆が発生した錆面はもちろんのこと、錆がまだ発生していない面にも使用できる。前記鋼材および錆等については、後述する本発明の塗装方法の記載を援用できる。
前記塗膜の水蒸気透過量は、1.5g/(m2・24h)以下であればよい。前記水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)を超えると、前記鋼材に対する防食が不十分となり、特に長期にわたる防食性の確保が困難となる。前記塗膜の水蒸気透過量は、好ましくは、1.2g/(m2・24h)以下、より好ましくは0.8g/(m2・24h)以下、さらに好ましくは0.5g/(m2・24h)以下である。水蒸気透過量の測定方法は、後述する。
本発明の塗料は、前述のように、塗膜形成した際に、前記塗膜の水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)以下となることを満たし、前記樹脂成分および前記顔料を含むものであればよく、その組成等は特に制限されない。本発明の塗料は、例えば、一種類の単品の塗料でもよいし、二種類以上の単品の塗料を含む塗料キットでもよい。前記樹脂成分は、例えば、バインダー成分として樹脂を含み、さらに、前記樹脂に対する硬化剤を含んでもよい。本発明の塗料は、具体例として、前記水蒸気透過量の点から、前記樹脂成分の樹脂として、エポキシ樹脂を含み、前記顔料として、鱗片状顔料を含む組成物(以下、塗料tともいう)が好ましい。以下、本発明の塗料として、前記エポキシ樹脂および前記鱗片状顔料を含む塗料tを例にあげて説明する。
(1)塗料t
前記塗料tは、前述のように、前記エポキシ樹脂と前記鱗片状顔料を含む組成物である。
前記樹脂成分は、例えば、前述のように、前記水蒸気透過量の低減の点から、前記樹脂としてエポキシ樹脂を含む。前記エポキシ樹脂は、例えば、いわゆるピュアエポキシ樹脂でもよいし、化学的に樹脂骨格を変えたエポキシ樹脂でもよい。また、前記組成物において、前記エポキシ樹脂は、例えば、前記エポキシ樹脂以外の樹脂と併用する混合系として使用されてもよい。前記エポキシ樹脂は、エポキシ基を有する樹脂であり、前記エポキシ基の数は、例えば、1分子中に2個以上、好ましくは1分子中に2〜5個である。前記エポキシ樹脂の分子量は、特に制限されず、具体例として、数平均分子量で示す場合、例えば、350〜3,000、400〜1,500であり、エポキシ当量は、例えば、約80〜1,000、150〜700である。
本発明において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて被検樹脂(例えば、前記エポキシ樹脂)の保持時間(保持容量)を測定し、前記測定結果について、同一条件で測定した分子量既知の標準ポリスチレンの保持時間(保持容量)により、ポリスチレンの分子量に換算して求めた値である。具体的に、ゲルパーミュエーションクロマトグラフは、「HLC8120GPC」(商品名、東ソー社製)を使用し、カラムは、「TSKgel G−4000HXL」、「TSKgel G−3000HXL」、「TSKgel G−2500HXL」、および「TSKgel G−2000HXL」(商品名、いずれも東ソー社製)の4本を使用し、移動相はテトラヒドロフラン、測定温度40℃、流速1mL/min、および検出器RIの条件下で、保持時間(保持容量)を測定し、数平均分子量を求めることができる。
前記エポキシ樹脂は、例えば、多価アルコールまたは多価フェノール等と、過剰のエピクロルヒドリンまたはアルキレンオキシドとを反応させて、得られるエポキシ樹脂があげられる。前記多価アルコールは、例えば、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、ソルビトール等があげられる。前記多価フェノールは、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[別名ビスフェノールA]、ハロゲン化ビスフェノールA、4,4−ジヒドロキシフェニルメタン[別名ビスフェノールF]、トリス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、レゾルシン、テトラヒドロキシフェニルエタン、ノボラック型多価フェノール、クレゾール型多価フェノール等があげられる。
前記エポキシ樹脂は、これらの例には限定されず、例えば、1,2,3−トリス(2,3−エポキシプロポキシ)プロパン、フタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレート、トリグリシジルイソシアヌレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル等を合成材料として使用し、エピクロルヒドリンまたはアルキレンオキシドと反応させて、得られるエポキシ樹脂等もあげられる。
前記樹脂成分は、前記樹脂として、前述のように、例えば、前記エポキシ樹脂と、それ以外の樹脂とを含んでもよい。前記エポキシ樹脂以外の樹脂は、例えば、キシレン樹脂、トルエン樹脂、ケトン樹脂、クマロン樹脂、および石油樹脂等があげられ、これらは、前記エポキシ樹脂に対する併用樹脂として使用できる。前記併用樹脂は、例えば、いずれか1種類でもよいし、2種類以上の樹脂を含んでもよい。前記樹脂が、例えば、前記エポキシ樹脂の他に、さらに前記併用樹脂を含むことによって、例えば、錆面に対する防食性をより向上できる。
前記塗料tにおいて、前記樹脂成分は、例えば、前記樹脂の種類に応じて、さらに、硬化剤を含んでもよい。すなわち、例えば、前記樹脂が、前記硬化剤との反応によって硬化する場合、または、前記硬化剤との反応によって、より効率よく硬化する場合、前記樹脂成分は、さらに前記硬化剤を含むことが好ましい。前記硬化剤の種類は、特に制限されず、例えば、前記樹脂の種類に応じて、適宜選択できる。
前記硬化剤は、例えば、ポリアミン化合物があげられる。前記樹脂が前記エポキシ樹脂を含む場合、前記硬化剤は、前記ポリアミン化合物が好ましく、前記硬化剤は、架橋剤ともいう。前記樹脂が前記エポキシ樹脂の場合、前記ポリアミン化合物は、例えば、前記エポキシ樹脂との硬化反応のため、第1級アミノ基、第2級アミノ基、または両方を有することが好ましい。また、前記ポリアミン化合物は、その活性水素当量が、例えば、約2,000以下であり、約30〜1,000の範囲であることが好ましい。
前記ポリアミン化合物は、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン等の脂肪族ポリアミン類;メタキシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、フェニレンジアミン等の芳香族ポリアミン類;イソホロンジアミン、シクロヘキシルプロピルジアミン、ノルボルネンジアミン等の脂環族ポリアミン類;これらポリアミン類のエポキシアダクト物等の変性ポリアミン類;分子末端に少なくとも1個の第1級アミノ基を有するポリアミド類等があげられる。前記硬化剤としては、例えば、これらの前記ポリアミン化合物のケチミン化物を使用することもできる。前記ケチミン化物は、例えば、前記ポリアミン化合物をカルボニル化合物でブロックすることにより得られる。前記カルボニル化合物は、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類等があげられる。
前記塗料tにおいて、前記樹脂成分の含有量は、特に制限されない。前記組成物の不揮発分中の前記樹脂成分の含有量は、例えば、1〜70質量%、10〜40質量%である。
前記塗料tにおいて、前記樹脂の含有量は、特に制限されず、前記組成物の不揮発分中の前記樹脂の含有量は、例えば、1〜70質量%、10〜40質量%である。また、前記組成物の不揮発分中の前記エポキシ樹脂の含有量は、例えば、1〜70質量%、10〜40質量%である。また、前記樹脂が、前記エポキシ樹脂と前記併用樹脂とを含む場合、前記併用樹脂の含有量は、特に制限されず、例えば、前記エポキシ樹脂100質量部を基準として、1〜100質量部、10〜50質量部の範囲、または、10〜350質量部、30〜300質量部の範囲等が例示できる。
前記塗料tが、前記樹脂成分として、さらに前記硬化剤を含む場合、前記硬化剤の含有量は、特に制限されず、例えば、前記樹脂の種類、前記樹脂の含有量等に応じて、適宜決定できる。前記樹脂成分が、前記樹脂として前記エポキシ樹脂を含み、且つ、前記硬化剤として前記ポリアミン化合物を含む場合、前記硬化剤の含有量は、前記エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、前記ポリアミン化合物中の活性水素当量が、例えば、0.4〜1.2当量程度であり、0.4〜1.0当量程度であることが、塗装対象の鋼材の防食性の点から好ましい。
前記顔料は、例えば、前記水蒸気透過量の低減の点から、前述のように鱗片状顔料が好ましい。前記鱗片状顔料は、例えば、タルク、マイカ、ガラスフレーク、およびアルミニウムフレーク等があげられる。前記塗料tにおいて、前記鱗片状顔料は、例えば、1種類でもよいし、2種類以上を含んでもよい。
前記塗料tにおいて、前記顔料の含有量は、特に制限されない。前記顔料が前記鱗片状顔料を含む場合、前記組成物の不揮発分中の前記鱗片状顔料の含有量は、例えば、1〜70質量%の範囲である。
前記塗料tは、例えば、塗装対象の鋼材の防食性の点から、前記鱗片状顔料を含む。前記鱗片状顔料の大きさは、特に制限されず、例えば、防食性能をより向上できる点から、平均厚さが、例えば、0.1〜15μm、平均長径が、例えば、0.01〜2mm、粒度分布のピークが、例えば、0.01〜2mmであるものが好ましい。前記鱗片状顔料は、例えば、タルク、マイカ、ガラスフレーク、およびアルミニウムフレーク等が好ましい。前記塗料tは、例えば、前記鱗片状顔料として、いずれか一種類を含んでもよいし、二種類以上を含有してもよい。前記塗料tにおいて、これらの前記鱗片状顔料の含有量は、特に制限されない。具体例として、前記塗料tの不揮発分中の前記鱗片状顔料の含有量は、例えば、1〜70質量%である。前記鱗片状顔料は、例えば、フレーク状ともいう。前記鱗片状顔料の形質は、特に制限されない。
前記鱗片状顔料の大きさは、特に制限されず、その粒子の平均粒径は、例えば、1〜1500μmである。前記平均粒径は、例えば、数値範囲ごとに、以下のように算出でき、また定義できる。すなわち、平均粒径が1〜500μmであるとは、前記鱗片状顔料の粒径をレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定し、得られた50%平均粒径(体積基準で累計50%となる粒子径、メジアン径ともいう)が1〜500μmであることを意味し、レーザー回折・散乱法による球相当径で表される。また、平均粒径が500μmを超え1500μm以下であるとは、前記鱗片状顔料を光学顕微鏡で観察し、任意の粒子50個について、それぞれの長径を測定し、前記50個の粒径の平均値が、500μmを超え1500μm以下であることを意味する。前記鱗片状顔料において、「長径」とは、前記鱗片状顔料である粒子を、水平面に置いて光学顕微鏡で観察した際、面方向において前記粒子の最も長い方向における長さであり、「短径」とは、前記面方向において前記粒子の最も短い方向における長さであり、「厚み」とは、前記面方向に対して垂直方向における長さである。
前記鱗片状顔料のアスペクト比は、特に制限されず、例えば、1〜750である。前記鱗片状顔料のアスペクト比は、平均粒径(D)と平均厚み(T)との比(D/T)で表される。前記鱗片状顔料の平均粒径は、前述の通りである。前記鱗片状顔料の平均厚み(T)は、SEM(走査電子顕微鏡)または光学顕微鏡を用いて、前記鱗片状顔料の厚み(長径と短径とに垂直な方向の長さ)を測定し、任意の50個の粒子の厚みの平均値として算出することができる。
前記顔料は、例えば、前記鱗片状顔料の他に、前記塗装対象の鋼材の防食性の点から、さらに、防錆顔料を含んでもよい。
前記防錆顔料は、例えば、亜鉛、リン酸亜鉛、リン・ケイ酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸アルミニウム亜鉛、リン酸カルシウム亜鉛、リン酸カルシウム、ピロリン酸アルミニウム、ピロリン酸カルシウム、トリポリリン酸二水素アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、メタリン酸カルシウム、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウム、トリポリリン酸二水素アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ハイドロカルマイト等があげられる。前記防錆顔料は、例えば、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を含んでもよい。
前記塗料tにおいて、前記防錆顔料の含有量は、前記樹脂成分100質量部を基準として、例えば、1〜50質量部、1〜30質量部である。
前記塗料tは、必要に応じて、前述した前記樹脂成分および前記顔料の他に、さらに、例えば、着色顔料、体質顔料等の顔料類、有機溶剤、添加剤(例えば、シランカップリング剤、増粘剤、可塑剤、タレ止め剤、顔料分散剤等)等の成分を含んでもよい。これらの成分は、例えば、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を含んでもよい。
前記着色顔料は、例えば、二酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の着色顔料;マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の体質顔料;ニッケル、クロム、錫、銅、銀、白金、金等の光輝顔料等があげられる。前記着色顔料は、例えば、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を含んでもよい。
前記塗料tにおいて、前記鱗片状顔料の他に、前述のような前記防錆顔料等を含む場合、これらの前記各種顔料の合計含有量は、特に制限されず、前記樹脂成分100質量部を基準として、例えば、100〜200質量部の範囲である。前記塗料tにおいて、前記塗料tの不揮発分中の前記各種顔料の合計含有量は、例えば、1〜80質量%である。
前記塗料tは、前記樹脂成分および前記顔料等の不揮発分の他に、さらに、揮発分として、揮発成分を含んでもよい。前記揮発成分は、例えば、前記有機溶剤があげられる。前記塗料tにおいて、前記揮発成分は、例えば、前記塗料tに含まれる前記樹脂成分等の各成分の製造時、前記塗料tの製造時等に配合され、前記塗料tの使用時には含まれるが、前記塗装対象に塗布され、後述するように、前記鋼材上に塗布膜として形成された際には、揮発により、実質的には含まれない成分である。前記塗料tにおいて、前記揮発成分は、例えば、前記成分の製造および前記塗料tの製造、前記塗料tの塗装における作業性を向上できることから、含まれることが好ましい。
前記有機溶剤の種類は、特に制限されず、例えば、前記塗料tにおける他の不揮発分の種類、それらの含有量等に応じて、適宜選択できる。前記有機溶剤は、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;ミネラルスピリット;n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、n−ドデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤;エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール系溶剤;これらグリコール系溶剤のメチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤等の従来公知の溶剤が使用できる。
前記塗料tにおいて、前記揮発分の含有量は、特に制限されず、例えば、前述のような製造時または塗装時における作業性、および前記不揮発分の濃度調整の点から、前記樹脂成分100質量部を基準として、例えば、100〜200質量部の範囲である。また、前記塗料tにおいて、前記不揮発分は、例えば、一般的に、50〜100質量%、60〜90質量%である。
前記塗料tは、例えば、前記樹脂成分の種類、具体的には、前記樹脂の種類および前記硬化剤の種類等に応じて、塗料形態を、1液型としてもよいし、2液型等としてもよい。前記塗料tが前記2液型の場合、例えば、使用直前に、両者を混合して、前記塗料tを調製してもよい。
本発明の塗料は、後述する本発明の錆面鋼材への塗装方法に使用でき、後述する本発明の塗装鋼材における塗膜を形成できる。
本発明の塗料を用いて形成される前記塗膜は、例えば、単層体でもよいし、2層以上の積層体でもよい。後者の場合、前記積層体を構成する各単層体の形成に使用する前記塗料は、例えば、同じ塗料でもよいし、異なる塗料でもよい。
前記塗膜が積層体の場合、本発明の塗料として、例えば、一種類の前記塗料tを使用してもよいし、二種類以上の異なる組成の塗料tを使用してもよい。後者の場合、本発明の塗料は、例えば、二種類以上の塗料tを含むキットでもよい。
本発明の塗料が、前述のように、二種類以上の塗料tを含むキットの場合、例えば、前記鋼材に対する第1層目の単層を形成する塗料tは、下塗り塗料t1ともいう。
前記下塗り塗料t1が、前述のように、前記樹脂として、前記エポキシ樹脂の他に、前記併用樹脂を含む場合、前記併用樹脂は、例えば、ウレタン変性エポキシ樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、ケトン樹脂、クマロン樹脂、および石油樹脂等があげられ、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を含んでもよい。前記ウレタン変性エポキシ樹脂は、例えば、アミン付加エポキシ樹脂に、ポリイソシアネート化合物またはモノイソシアネート化合物を反応させて得られる樹脂等があげられる。前記アミン付加エポキシ樹脂は、例えば、前記エポキシ樹脂にアミン類を反応させて得ることができる。前記ウレタン変性エポキシ樹脂の分子量は、特に制限されず、具体例として、数平均分子量で示す場合、例えば、1,000〜65,000、2,000〜25,000である。前記下塗り塗料t1において、前記樹脂が、前記エポキシ樹脂と前記併用樹脂とを含む場合、前記併用樹脂の含有量は、特に制限されず、例えば、前記エポキシ樹脂100質量部を基準として、10〜350質量部、30〜300質量部の範囲が例示できる。前記エポキシ樹脂の質量部は、例えば、前記エポキシ樹脂の不揮発分の質量で表すことができる。
前記下塗り塗料t1は、必要に応じて、さらに、例えば、着色顔料、体質顔料、防錆顔料等の顔料類、有機溶剤、添加剤(例えば、シランカップリング剤、増粘剤、可塑剤、タレ止め剤、顔料分散剤等)等の成分を含んでもよい。これらの成分は、例えば、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を含んでもよい。
また、前記塗膜が積層体の場合、例えば、前記塗料tによる塗膜(以下、塗膜Tともいう)を形成した後、前記塗膜の上に、後述する上塗り塗料bを用いた塗膜Bを形成してもよい。このため、本発明の塗料は、例えば、前記塗料tと前記上塗り塗料bとを含むキットでもよい。この場合、前記塗料tは、例えば、前述のように、一種類でもよいし、二種類以上でもよく、後者の場合、例えば、前記第1層用の下塗り塗料t1を含んでもよい。本発明の塗料が前記キットの場合、例えば、各塗料は、それぞれ別個の容器に収容されてもよい。
(2)下塗り塗料a
本発明の塗料が、前述のようなキットの場合、前記塗料tの他に、例えば、下塗り塗料aを含んでもよい。ここで、前記下塗り塗料aは、前記塗料t(具体的には、例えば、前記下塗り塗料t1)とは別の塗料について説明する。前記下塗り塗料aは、例えば、塗装対象である鋼材の防食の点から使用される。前記下塗り塗料aは、例えば、樹脂成分として、樹脂と硬化剤とを含む。前記樹脂は、例えば、エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂に対する併用樹脂とを含む。
前記エポキシ樹脂は、例えば、前記塗料tで例示した樹脂があげられる。前記併用樹脂は、例えば、ウレタン変性エポキシ樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、ケトン樹脂、クマロン樹脂、および石油樹脂等があげられ、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を含んでもよい。前記ウレタン変性エポキシ樹脂は、例えば、アミン付加エポキシ樹脂に、ポリイソシアネート化合物またはモノイソシアネート化合物を反応させて得られる樹脂等があげられる。前記アミン付加エポキシ樹脂は、例えば、前記エポキシ樹脂にアミン類を反応させて得ることができる。前記ウレタン変性エポキシ樹脂の分子量は、特に制限されず、具体例として、数平均分子量で示す場合、例えば、1,000〜65,000、2,000〜25,000である。前記樹脂が、前記エポキシ樹脂と前記併用樹脂とを含む場合、前記併用樹脂の含有量は、特に制限されず、例えば、前記エポキシ樹脂100質量部を基準として、10〜300質量部、30〜200質量部の範囲が例示できる。前記エポキシ樹脂の質量部は、例えば、前記エポキシ樹脂の不揮発分の質量で表すことができる。
前記硬化剤は、例えば、ポリアミン化合物があげられる。前記ポリアミン化合物は、例えば、前記塗料tで例示した樹脂があげられる。
前記下塗り塗料aは、必要に応じて、さらに、例えば、着色顔料、体質顔料、防錆顔料等の顔料類、有機溶剤、添加剤(例えば、シランカップリング剤、増粘剤、可塑剤、タレ止め剤、顔料分散剤等)等の成分を含んでもよい。これらの成分は、例えば、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を含んでもよい。
前記下塗り塗料aは、例えば、前記樹脂成分の種類、具体的には、前記樹脂の種類および前記硬化剤の種類等に応じて、塗料形態を、1液型としてもよいし、2液型等としてもよい。前記下塗り塗料aが前記2液型の場合、例えば、使用直前に、両者を混合して、前記下塗り塗料aを調製してもよい。
本発明のキットは、例えば、前記塗料tと前記下塗り塗料aとを含むキット、前記塗料tと前記下塗り塗料aと後述する上塗り塗料bとを含むキットでもよい。本発明の塗料が前記キットの場合、例えば、各塗料は、それぞれ別個の容器に収容されてもよい。
(3)上塗り塗料b
前記上塗り塗料bは、例えば、塗装対象の鋼材の耐久性の点から使用される。前記上塗り塗料bは、例えば、樹脂成分として、樹脂を含む。前記樹脂は、例えば、アクリル樹脂を含む。
前記アクリル樹脂は、例えば、(メタ)アクリロイル化合物、および必要に応じてその他の重合性不飽和化合物を、共重合成分とする樹脂があげられる。前記共重合成分となる化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート(ラウリル(メタ)アクリレート)、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート等のアルキルまたはシクロアルキル(メタ)アクリレート;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基含有重合性不飽和化合物;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スルホエチルメタクリレートおよびそのナトリウム塩やアンモニウム塩等のスルホン酸基含有重合性不飽和化合物;2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート等のリン酸基含有重合性不飽和化合物等の酸基含有重合性不飽和化合物;2ーヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2ーヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の炭素数2〜8個のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;Nーメチロールアクリルアミド;アリルアルコール;炭素数2〜8個のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性アクリル化合物;ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレンポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等の水酸基含有重合性不飽和化合物;ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族環含有重合性不飽和化合物;N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメトキシ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノアルコキシ(メタ)アクリレート等のアルコキシ基含有重合性不飽和化合物;パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;フルオロオレフィン等のフッ素化アルキル基を有する重合性不飽和化合物;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物等の含窒素重合性不飽和化合物;分子末端がアルコキシ基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート;等があげられる。これらの重合性不飽和化合物は、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。
前記アクリル樹脂は、例えば、水蒸気透過量の点から、水酸基を含有することが好ましい。前記アクリル樹脂が水酸基を含有する場合、前記アクリル樹脂の水酸基価は、例えば、10〜200mgKOH/g、50〜100mgKOH/gの範囲である。
前記樹脂成分は、例えば、前記樹脂の他に、さらに、硬化剤を含んでもよい。前記樹脂が、前記水酸基を含有するアクリル樹脂の場合、前記硬化剤は、例えば、ポリイソシアネート化合物が好ましい。
前記ポリイソシアネート化合物は、特に制限されず、例えば、1分子中に2個以上のイソシアネート基を含有する化合物が好ましい。前記ポリイソシアネート化合物は、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ポリトリレンポリイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンジイソシアネート、ポリフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート等があげられる。また、前記硬化剤としては、例えば、これらのポリイソシアネート化合物の他に、例えば、前記ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体、ウレタンポリマー(例えば、ポリオールと過剰のポリイソシアネートとの反応生成物であり、且つ、イソシアネート基を分子末端に持つもの)、ビュウレット体等の類似の化合物があげられる。前記硬化剤は、例えば、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。
前記上塗り塗料bは、例えば、前記樹脂成分の種類、具体的には、前記樹脂の種類および前記硬化剤の種類等に応じて、塗料形態を、1液型としてもよいし、2液型等としてもよい。前記上塗り塗料bが前記2液型の場合、例えば、使用直前に、両者を混合して、前記上塗り塗料bを調製してもよい。前記上塗り塗料bは、例えば、市販品が使用でき、具体例として、硬化剤としてウレタンポリマーを含むウレタン系上塗り塗料等が使用できる。
本発明のキットは、例えば、前記塗料tと前記上塗り塗料bとを含むキット、前記塗料tと前記下塗り塗料aと前記上塗り塗料bとを含むキットでもよい。本発明の塗料が前記キットの場合、例えば、各塗料は、それぞれ別個の容器に収容されてもよい。
<塗装方法>
本発明の錆面鋼材への塗装方法は、前述のように、錆面を有する鋼材に、樹脂成分と顔料とを含む塗料を用いて塗膜を形成する塗膜工程を含み、前記塗膜工程において、前記塗料として、前記本発明の錆面用塗料を使用し、前記塗膜の水蒸気透過量を1.5g/(m2・24h)以下とすることを特徴とする。
本発明は、錆面を有する鋼材に、水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)以下となるように前記塗膜を形成することが、特徴であり、その他の工程および条件は、何ら制限されない。本発明によれば、例えば、鋼材に錆が発生している場合でも、前記塗膜の水蒸気透過量を1.5g/(m2・24h)以下とすることで、前述のような問題を回避できる。すなわち、前記条件の塗膜を形成することによって、例えば、前記塗膜下における前記鋼材の腐食の進行、前記塗膜の膨れ、割れの発生、前記鋼材の塗膜形成面における、さらなる錆の発生等を抑制することができる。
本発明は、錆面を有する鋼材に対する塗膜を水蒸気透過量1.5g/(m2・24h)以下とするがポイントであるが、塗膜の水蒸気透過量を1.5g/(m2・24h)以下に調整する方法自体は、何ら制限されない。
前記塗膜の水蒸気透過量は、1.5g/(m2・24h)以下であればよい。前記水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)を超えると、前記鋼材に対する防食が不十分となり、特に長期にわたる防食性の確保が困難となる。前記塗膜の水蒸気透過量は、好ましくは、1.2g/(m2・24h)以下、より好ましくは0.8g/(m2・24h)以下、さらに好ましくは0.5g/(m2・24h)以下である。
前記塗膜の水蒸気透過量の測定方法は、「JIS Z 0208 防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)」に準じて、以下のようにして実施できる。なお、前記水蒸気透過量の測定においては、前記錆面を有する鋼材に対する塗膜の形成と同様にして、ポリプロピレン等の基板上に塗膜を形成し、前記基板から剥離した前記塗膜を、評価対象として使用する。
(I)開口する口部の上面を平らに研磨したサンプル瓶を準備し、前記サンプル瓶中に塩化カルシウム15gを入れた。そして、前記サンプル瓶の口部の前記上面に、エポキシ系弾性接着剤セメダイン(登録商標)EP001K(製品名、セメダイン社)を塗布し、前記口を覆うように、前記評価対象の塗膜を貼り付ける。前記サンプル瓶の口部の内径は、41mmとする。
(II)塩化カルシウムと前記評価対象の塗膜とを含む前記サンプル瓶の重量を測定する。この重量を、前記塩化カルシウムおよび前記サンプル瓶込みの前記塗膜の初期重量とする。
(III)前記サンプル瓶を、シリカゲル入りのデシケータ内で保管する。そして、測定開始時に、前記サンプル瓶を、水の入ったデシケータ(湿度99%)に移し、毎日決まった時間に(つまり、24時間ごとに)、前記サンプル瓶の重量を測定し、この重量を、前記塩化カルシウムおよび前記サンプル瓶込みの前記塗膜の重量とする(4桁天秤)。
(IV)初期の重量変化は無視し、安定した重量増箇所から、水蒸気透過量(g/(m2・24h))を算出する。
(V)重量の測定は、1週間以上行う。同じ塗膜について3回の試験を行い(×3式)、その平均値を測定データとする。
本発明において、塗装とは、対象物の表面を、塗料の被膜で覆う表面処理のことを意味する。
本発明において、塗装対象となる鋼材は、前述のように錆面を有する鋼材が好ましい。本発明によれば、錆面を有する鋼材であっても、例えば、前記錆面から錆を除去することなく、塗装を行うことができる。また、本発明によれば、前記錆面上への塗装であっても、例えば、前記塗膜下における前記鋼材の腐食の進行を抑制し、前記塗膜の膨れ、および剥がれ、ならびに塗装面への新たな錆の発生等を防止できる。
前記鋼材の種類は、特に制限されず、例えば、鋼構造物を構成する鋼材があげられる。前記鋼材の種類は、特に制限されず、例えば、冷延鋼材、熱延鋼材、亜鉛メッキ鋼材、合金亜鉛メッキ鋼材、亜鉛−鉄合金メッキ鋼材、亜鉛−アルミ合金メッキ鋼材、亜鉛−アルミ−マグネシウム合金メッキ鋼材、アルミメッキ鋼材、クロムメッキ鋼材、ニッケルメッキ鋼材、亜鉛−ニッケル合金鋼材、錫メッキ鋼材等の金属メッキ鋼材、亜鉛溶射鋼材、亜鉛−アルミ合金溶射鋼材、亜鉛−アルミ擬合金溶射鋼材、アルミ溶射鋼材等の金属溶射鋼材、および耐候性鋼材等があげられる。前記鋼構造物は、特に制限されず、例えば、送電鉄塔、プラント、橋梁、タンク、港湾施設等の屋外に建設された鋼構造物等があげられる。
本発明の塗装方法において、前記塗膜工程を施す前記鋼材は、例えば、錆が発生した鋼材でもよいし、従前の処理で形成された塗膜(以下、旧塗膜ともいう)が残存する鋼材であってもよい。このように、前記鋼材に、前の塗膜が残存したり、錆が発生している場合でも、本発明によれば、前記塗膜の水蒸気透過量を前記条件とすることで、例えば、前記旧塗膜を剥離(除去)したり、前記錆を除去することなく前記塗膜を形成しても、この塗膜によって、前述のような効果を得ることができる。
なお、本発明の塗装方法は、例えば、前記鋼材からの錆の除去や、前記旧塗膜の除去等を行う形態を、除外するものではない。すなわち、本発明の塗装方法は、例えば、前記塗膜工程に先立って、例えば、前記鋼材に対する下地処理を行う下地処理工程を含んでもよい。前記下地処理工程は、例えば、前記鋼材から錆を除去する工程、または、前記鋼材から前記旧塗膜を除去する工程等があげられる。前記鋼材からの錆の除去は、例えば、ブラスト処理、動力工具による処理、ワイヤーブラシ等による手ケレン処理等があげられる。前記旧塗膜が劣化している場合、例えば、前記鋼材からの前記旧塗膜の除去は、前記錆の除去と同様の方法が使用できる。前記旧塗膜が劣化していない場合も、例えば、同様の処理によって行うことができる。前記旧塗膜が劣化していない場合、例えば、前記旧塗膜には、前記下地処理として、目粗し処理を行うことが好ましい。
前記鋼材における錆の厚みは、特に制限されない。本発明の方法によれば、例えば、以下のような厚みの錆を有する鋼材にも適用できる。前記鋼材における錆の厚みの下限は、特に制限されず、例えば、0.1μm、50μm、70μmであり、上限は、例えば、400μmであり、好ましくは、300μmであり、より好ましくは250μm、200μm、100μmである。前記錆の厚みの範囲は、例えば、0.1〜400μmであり、好ましくは0.1〜300μmであり、より好ましくは0.1〜250μm、0.1〜200μm、0.1〜100μmである。前記錆の厚みは、特に示さない限り、前記鋼材の表面における平均厚みである。前記平均厚みは、前記鋼材の面積150cm2に対し、無作為に測定した錆が発生している場所の52点の錆厚みから、それらの平均値として算出できる。
前記鋼材における錆の最大厚みは、特に制限されない。錆は、一般的に、局所的な孔食を発生する。錆の発生箇所において、前記孔食部は、例えば、他の部分に比べて、極端に錆厚が厚くなる傾向にある。このため、錆の生成環境にもよるが、錆の平均厚みと錆の最大厚みとは、一般的に、相関関係にあり、具体的に、錆の最大厚みは、例えば、錆の前記平均厚みの約2〜10倍、より具体的には約5〜7倍程度である。前記最大厚みの上限は、例えば、3000μm、2000μm、1400μm、700μm等が例示できる。前記平均厚みが0.1〜400μmの場合、前記最大厚みは、例えば、0.1〜3000μmであり、前記平均厚みが0.1〜300μmの場合、前記最大厚みは、例えば、0.1〜2000μmであり、前記平均厚みが0.1〜200μmの場合、前記最大厚みは、例えば、0.1から1400μmであり、前記平均厚みが0.1〜100μmの場合、前記最大厚みは、例えば、0.1〜700μmである。
本発明において、錆の厚みの測定方法は、例えば、JIS K 5600−1−7に準じ、磁気誘電電磁膜厚計により求めることができる。具体的には、鋼材における150cm2の面積に対し、無作為に52点の錆の厚みを測定し、その平均値を、錆の厚みとして算出できる。
前記塗膜工程において、前記塗膜の形成方法は、特に制限されず、前述のように、水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)以下となるように、前記塗膜を形成すればよい。前記塗膜の形成方法としては、例えば、前記本発明の錆面用塗料を使用し、前記鋼材の表面、特に、錆が発生した錆面を有する表面に、前記本発明の塗料を塗布して、前記塗膜を形成することができる。
前記鋼材への前記塗料の塗布方法は、何ら制限されず、例えば、塗ったり、吹き付けたりする手法があげられる。前記塗布には、例えば、刷毛、ローラー、スプレーガン等の一般的な道具を用いた方法が採用できる。
前記塗膜工程において、前記鋼材に塗布した前記塗料は、例えば、乾燥により硬化させて塗膜とすることが好ましい。前記乾燥条件は、特に制限されず、例えば、前記塗料を塗布した後、前記塗料中に含まれる前記揮発成分が消失(揮発)する条件であればよい。前記乾燥条件は、例えば、常温乾燥であり、具体例として、温度20〜30℃、湿度0〜70%、日数1〜7日があげられる。なお、前記乾燥条件は、例示であって、本発明は、これには制限されず、前記鋼材が、屋外に設置された鋼構造物の場合、前記乾燥は屋外で行われるため、例えば、屋外温度および屋外湿度に応じて、乾燥日数を調整すればよい。
前記鋼材の表面に形成する塗膜は、前述のように、例えば、単層膜でも、複数の単層膜が積層された積層膜でもよい。前記塗膜が前記積層膜の場合、前記塗膜工程は、例えば、前記塗料の塗布と乾燥とを繰り返し行うことが好ましい。
前記塗膜工程は、前述のように、前記塗料として、前記本発明の塗料を使用することができ、具体的には、前記塗料tの使用が好ましい。前記塗料tにより形成される塗膜Tが前記積層膜の場合、例えば、一種類の塗料tのみを使用してもよいし、二種類以上の塗料tを併用してもよい。前記塗料tにより形成される塗膜Tは、例えば、前記下塗りおよび前記上塗り膜の少なくとも一方を含む場合、その全体膜厚は、例えば、50〜1000μm、100〜500μm、100〜400μmである。
前記塗膜が前記積層膜の場合、各単層膜の厚みは、特に制限されず、例えば、50〜1000μm、100〜500μm、100〜400μmであり、前記単層膜の積層数は、例えば、2〜8層、2〜5層、2〜3層である。
本発明の塗装方法は、例えば、前記塗膜工程の前に、さらに、下塗り膜の形成工程を含んでもよく、また、前記塗膜工程の後に、さらに、上塗り膜の形成工程を含んでもよい。本発明の塗装方法は、例えば、前記下塗り膜の形成工程と前記上塗り膜の形成工程のいずれか一方のみを含んでもよいし、両方を含んでもよい。
前記下塗り膜の形成工程は、前記塗膜工程に先立って、前記鋼材の表面に、前記下塗り塗料aを用いて下塗り膜Aを形成する工程である。前記下塗り膜の形成工程は、具体的には、例えば、前記鋼材の表面に前記下塗り塗料aを塗布し、下塗り膜Aを形成する工程であり、この工程の後、前記塗膜工程は、前記下塗り膜Aの上に、前記塗料tを使用して前記塗膜Tを形成する。前記鋼材に塗布した前記下塗り塗料aは、例えば、塗布後に乾燥させて前記下塗り膜Aとすることが好ましい。前記乾燥条件は、特に制限されず、例えば、前述と同様である。前記下塗り膜Aの厚みは、特に制限されず、例えば、10〜200μm、30〜100μmである。前記下塗り膜Aは、例えば、単層膜でも、単層膜が積層された積層膜でもよい。前記鋼材の表面に形成される前記下塗り膜Aと前記塗膜Tとは、全体として、水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)以下であることが好ましい。
前記上塗り膜の形成工程は、前記塗膜工程の後、前記塗膜Tの表面に、前記上塗り塗料bを用いて上塗り膜Bを形成する工程である。前記上塗り膜の形成工程は、具体的には、例えば、前記塗膜Tの表面に前記上塗り塗料bを塗布し、上塗り膜Bを形成する工程である。前記塗膜Tの表面に塗布した前記上塗り塗料bは、例えば、塗布後に乾燥させて前記上塗り膜Bとすることが好ましい。前記乾燥条件は、特に制限されず、例えば、前述と同様である。前記上塗り膜Bの厚みは、特に制限されず、例えば、20〜100μm、25〜50μmである。前記上塗り膜Aは、例えば、単層膜でも、単層膜が積層された積層膜でもよい。前記鋼材の表面に形成される前記塗膜Tと前記上塗り膜Bとは、全体として、水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)以下であることが好ましい。
前記鋼材上に形成した膜が、前記下塗り膜Aと前記塗膜Tとの積層膜である場合、前記塗膜Tと前記上塗り膜Bとの積層膜である場合、前記下塗り膜Aと前記塗膜Tと前記上塗り膜Bとの積層膜である場合、前記各積層膜の全体膜厚は、例えば、50〜1000μm、100〜500μmである。前記積層膜の全体膜厚を、例えば、50μm以上とすることによって、水蒸気透過量を1.5g/(m2・24h)以下に調整することがより容易となり、また、1000μm以下とすることによって、前記鋼材に設けた前記積層膜の内部応力の増大による脆弱な鋼材の錆面からの前記積層膜の剥離を、十分に防止できる。
<塗装鋼材>
本発明の塗装鋼材は、前述のように、鋼材と塗膜とを含み、前記鋼材の錆面上に、前記塗膜を有し、前記塗膜は、樹脂成分と顔料とを含み、水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)以下であることを特徴とする。
本発明の塗装鋼材は、例えば、前記鋼材に前記本発明の塗装方法を施すことによって得られる。すなわち、本発明の塗装鋼材は、例えば、前記本発明の塗装方法で前記鋼材を塗装することにより製造される塗装鋼材ということもできる。前記塗膜が形成される鋼材、前記塗膜を形成する塗料、および塗装方法は、例えば、前記本発明の塗料および前記本発明の塗装方法の記載を援用できる。
本発明の塗装鋼材において、前記塗膜は、例えば、前記鋼材に塗布された前記塗料から、有機溶剤等の揮発成分が揮発することによって形成された膜である。前記塗膜は、前述のように、前記単層膜でもよいし、前記積層膜でもよい。前記塗膜が前記単層膜の場合、前記単層膜は、例えば、前記塗膜Tであることが好ましい。前記塗膜が前記積層膜の場合、例えば、1層または2層以上の前記塗膜Tを含み、さらに、前記下塗り膜Aおよび前記上塗り膜Bの少なくとも一方または両方を含んでもよい。
鋼材に塗膜を形成し、前記塗膜の各種性質を確認した。
(1)塗料
下記表1に示す4種類の塗料(Z、X、Y、Y’)を調製した。塗料Fとして、市販品の塗料(関西ペイント社製、ウレタン系上塗り塗料「商品名レタン6000」)を使用し、塗料F’として、市販品の塗料(カーボライン社製、ウレタン系上塗り塗料「商品名カーボライン134K」)を使用した。下記表1において、各成分の単位は、「質量部」である。6種類の塗料(Z、X、Y、Y’、F、F’)のうち、塗料Z、X、Y、Y’は、それぞれ前述の前記エポキシ樹脂と前記顔料とを含む塗料tに該当する。塗料Yと塗料Y’とは、同種のエポキシ樹脂とタルクを含む、同等の性質の塗料である。塗料FおよびF’は、前述の上塗り塗料bに該当する。
(2)錆面を有する錆鋼板(錆鋼材)の調製
「JIS G 3101 一般構造用圧延鋼材」で定められる冷間圧延鋼板SPCC−SB(日本テストパネル(株)社製)3.2×100×300mmを、複数準備した。前記鋼板を、2年程度、海浜地区に暴露し、表面に錆を発生させた。前記鋼板の錆が発生した表面に対して、ディスクサンダー等の動力工具で表面処理を行い、錆の平均厚みが129〜184μmとなったものを、錆鋼板Aとした。なお、前記錆の平均厚みは、前述のように、前記鋼板の面積150cm2に対し、無作為に52点の錆厚みを測定し、その平均値として求めた。前記表面処理後の錆鋼板Aにおいて、錆厚みを測定した52点の中で、最大錆厚みは、いずれの錆鋼板Aでも1400μm程度であった。
また、前記錆を発生させた鋼板に対して、前記錆鋼板Aよりも、さらに時間をかけて表面処理を行い、平均錆厚みが78〜98μmとなったものを、錆鋼板Bとした。前記錆鋼板Bにおいて、錆厚みを測定した52点の中で、最大錆厚みは、いずれの錆鋼板Bでも1400μm程度であった。
(3)錆鋼板に対する塗装処理
前記錆鋼板Aおよび錆鋼板Bの錆面に対して、下記表2に示す塗装処理の条件に基づいて、各種塗料を用いて、塗布膜として、単層膜が2層から8層に積層された積層膜を形成した。具体的に、前記各塗料は、それぞれ、刷毛塗装により塗布し、塗布後、23℃、50%RHの環境下、1日乾燥することで単層膜を形成した。そして、前記乾燥の後、さらに、前記単層膜の上に、次の層の塗料を塗布し、同様に乾燥を行うことで、順次、単層膜を積層していった。最後に前記上塗り塗料FまたはF’を塗布した後、23℃、50%RHの環境下、7日間養生を行った。これにより、前記錆鋼板の錆面に前記塗膜(前記積層膜)が形成された塗装鋼材が得られた。下記表2において、各単層膜(1層目から8層目)の厚み、および前記積層膜の総膜厚は、いずれも、乾燥後の膜厚を示す。前記塗装鋼材について、以下に示す試験を行った。いずれの塗膜も、最上層は、上塗り膜であり、以下の試験は、前記上塗り膜を含めた積層膜として評価を行った。
前記表2に示す乾燥膜厚に必要な前記各種塗料の塗付量は、下記式で求めた理論塗付量とした。なお、下記式において、「規定塗膜厚」は、前記表2における「乾燥膜厚」である。
(4)各種試験
(4−1)水蒸気透過試験
各塗膜について、水蒸気透過量を測定した。前記各塗膜の水蒸気透過量の測定は、前記錆鋼板上に形成した塗膜の代替品として、同様の塗膜(前記積層膜)を、前記表2の塗装処理条件に基づいて、以下の方法により調製した。なお、塗装方法は、エアスプレー塗装とした。
まず、2mm(厚み)×100mm×300mmのポリプロピレン板を準備し、前記ポリプロピレン板の表面に、前記各塗料をエアスプレー塗装により塗布し、23℃、50%RHの環境下、1日乾燥して、単層膜を形成した。そして、前記乾燥の後、さらに、次の塗料を塗布し、同様に乾燥を行うことで、順次、単層膜を積層していった。最後に前記上塗り塗料Fを塗布した後、23℃、50%RHの環境下、7日間養生を行った。養生後、前記ポリプロピレン板上に形成された塗膜(積層膜)を剥離し、これを水蒸気透過試験に供した。
調製した前記積層膜である塗膜について、水蒸気透過量の測定を、「JIS Z 0208 防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)」に準じて、以下のように実施した。
(I)開口する口部の上面を平らに研磨したサンプル瓶を準備し、前記サンプル瓶中に塩化カルシウム15gを入れた。そして、前記サンプル瓶の口部の前記上面に、エポキシ系弾性接着剤セメダイン(登録商標)EP001K(製品名、セメダイン社)を塗布し、前記口を覆うように、前記評価対象の塗膜を貼り付けた。前記サンプル瓶の口部の内径は、41mmとした。
(II)塩化カルシウムと前記評価対象の塗膜とを含む前記サンプル瓶の重量を測定した。この重量を、前記塩化カルシウムおよび前記サンプル瓶込みの前記塗膜の初期重量とした。
(III)前記サンプル瓶を、シリカゲル入りのデシケータ内で保管した。そして、測定開始時に、前記サンプル瓶を、水の入ったデシケータ(湿度99%)に移し、毎日決まった時間に(つまり、24時間ごとに)、前記サンプル瓶の重量を測定し、この重量を、前記塩化カルシウムおよび前記サンプル瓶込みの前記塗膜の重量とした(4桁天秤)。
(IV)初期の重量変化は無視し、安定した重量増箇所から、水蒸気透過量(g/(m2・24h))を算出した。
(V)重量の測定は、1週間以上行った。同じ塗膜について3回の試験を行い(×3式)、その平均値を測定データとした。
(4−2)加速試験
加速試験は、前記錆鋼板上に形成した前記塗膜について、「JIS Z 2371 塩水噴霧試験方法」に基づいて実施した。加速時間は、後述するように所定時間を設定した。そして、前記錆鋼板上に形成した前記塗膜について、所定時間経過後、全面積中の膨れ発生面積を膨れ発生面積率(%)として算出した。そして、前記膨れ発生率から、前記塗膜の劣化の評価を行った。
(5)結果
(5−1)水蒸気透過量、錆の厚み、および膨れ発生面積率
前記錆鋼板Aに前記表2の実施例1の塗膜が形成された塗装鋼材を実施例1A、前記錆鋼板Aに前記表2の実施例2の塗膜が形成された塗装鋼材を実施例2A、前記錆鋼板Aに前記表2の比較例1の塗膜が形成された塗装鋼材を比較例1Aとした。前記実施例1A、前記実施例2A、前記比較例1Aの塗装鋼材について、前記膨れ発生面積率を、加速時間1,000、3,000、6,900、8,500時間後にそれぞれ評価した。そして、これらの実施例および比較例の結果として、水蒸気透過量、錆の厚み、加速時間8500時間経過後の膨れ発生面積率を、下記表3に示す。
また、前記実施例1A、前記比較例1Aの塗装鋼材について、前記膨れ発生率を、加速時間1,500、2,000、3,900、5,500時間後にそれぞれ評価した。そして、これらの実施例および比較例の結果として、水蒸気透過量、錆の厚み、加速時間5500時間経過後の膨れ発生面積率を、下記表4に示す。
前記表3に示すように、比較例1Aの塗装鋼材は、その塗膜の水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)を超え、加速時間8500時間における劣化の指標である膨れ発生率が16.47%であった。これに対して、実施例1Aおよび実施例2Aの塗装鋼材は、いずれも、塗膜の水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)以下であり、劣化の指標である膨れ発生率は、比較例1Aの1/2以下であった。このことから、前記塗膜の水蒸気透過量を1.5g/(m2・24h)以下とすることで、錆鋼材に対する塗膜の劣化を抑制できることがわかった。また、前記表4に示すように、加速時間5500時間とした場合も、実施例1Aの塗装鋼材は、比較例1Aの塗装鋼材よりも、劣化の優れた抑制を示した。さらに、前記表3の実施例1Aおよび実施例2Aの結果から、水蒸気透過量が相対的に低い程、劣化の指標である膨れ発生率を低減できることもわかった。
(5−2)塗膜の劣化速度と期待寿命
前記実施例1A、前記実施例2A、比較例1Aの塗装鋼材について、それぞれ、膨れ発生面積率と加速試験時間との関係を、図1のグラフに示す。図1において、縦軸は、膨れ発生面積率(%)を示し、横軸は、加速試験時間(h)を示し、●は、実施例1Aの結果、■は、実施例2Aの結果、▲は、比較例1Aの結果を示す。
前記図1のそれぞれの塗装鋼材の結果について、膨れ発生面積率と加速試験時間とを線形近似し、その傾きを、塗膜劣化速度として求めた。そして、塗膜の期待寿命を、比較例1Aの塗膜劣化速度(傾き)を基準1として、相対値として算出した。これらの結果を、下記表5に示す。
前記表5に示すように、水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)以下の塗膜を有する実施例1Aおよび実施例2Aの塗装鋼材は、水蒸気透過量が前記値を満たさない比較例1Aと比べて、塗膜の期待寿命値が極めて優れていることがわかった。また、実施例1Aおよび実施例2Aの結果から、水蒸気透過量が相対的に低い程、期待寿命値が向上できることもわかった。
(5−3)塗膜劣化速度と水蒸気透過量との関係(錆鋼板A)
前記錆鋼板Aに対して、前記(3)と同様にして、前記表2に示す実施例3−5、比較例2および3に示すようにして、塗膜を形成した。そして、前記錆鋼板Aの錆面に前記塗膜が形成された塗装鋼材(実施例3A、4A、5A、比較例2A、3A)について、前記(4)と同様にして、水蒸気透過量、膨れ発生面積率を測定した。そして、前記膨れ発生面積率と前記加速試験時間とから、前記(5−2)と同様にして、膨れ発生面積率と加速試験時間とを線形近似し、その傾きを、塗膜劣化速度として求めた。そして、塗膜の期待寿命を、前記表5における比較例1Aの塗膜劣化速度(傾き)を基準1として、相対値として算出した。これらの結果を、前記(5−2)の実施例1A、実施例2Aおよび比較例1Aの結果と合わせて、下記表6に示す。
前記表6に示すように、実施例1Aから実施例5Aの塗装鋼材は、いずれの塗膜も水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)以下を満たしたのに対して、比較例1Aから3Aは、いずれも水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)を超えていた。そして、水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)以下の塗膜を有する全ての実施例の塗装鋼材は、水蒸気透過量が前記値を満たさない比較例1Aから3Aと比べて、塗膜の期待寿命値が極めて優れていることがわかった。また、実施例1Aから実施例5Aの結果より、水蒸気透過量が相対的に低い程、期待寿命値が向上できることもわかった。
さらに、前記表6に示す水蒸気透過量と線形近似線の傾き(塗膜劣化速度)との関係を、図2のグラフに示す。図2において、縦軸は、水蒸気透過量[g/(m2・24h)]を示し、横軸は、傾き(塗膜劣化速度)を示す。図2のグラフの各プロットは、水蒸気透過量が小さい値から大きい値に向かって、実施例1A(●)、実施例2A(■)、実施例3A(▲)、実施例4A(◆)、実施例5A(×)、比較例2A(□)、比較例1A(○)、比較例3A(△)となっている。
図2に示すように、線形近似線の傾き(塗膜劣化速度)と水蒸気透過量とは、正の相関を示している。この結果から、前述のように、錆面塗装の場合、塗膜について、長期の付着性という因子を考慮する必要がなく、その塗膜の劣化速度は、水蒸気透過量との間で、相関関係が得られることがわかった。
また、以下のようなことも推測される。すなわち、前記表2に示す塗装処理条件において、実施例1、実施例2、実施例5、および比較例1は、いずれも、4層の塗膜を、同じ塗料セット(塗料X、塗料Z、上塗り塗料F)を用いて形成しており、前記塗料セットには、比較的、緻密な膜となる緻密性の高い樹脂(相対的に分子量の小さいビスフェノールF型エポキシ樹脂)が使用されている。そして、これらの実施例は、前記塗料Zを用いた単層膜(2層目および3層目)の厚みを、比較例1よりも厚くし、塗膜(積層膜)全体の総膜厚を、比較例1よりも厚くすることで、遮断性を、比較例1よりも向上させている。一方、実施例3、実施例4、比較例2、および比較例3の場合、これらはそれぞれ異なる塗料セットを使用しており、いずれの塗料セットも、比較的緻密ではない膜となる緻密性の低い樹脂(相対的に分子量の大きいビスフェノールA型エポキシ樹脂)が使用されている。そして、これらの実施例も、単層膜の積層数を増加させることで、塗膜(積層膜)全体の総膜厚を、比較例2および比較例3よりも向上させている。このように、緻密性の高い樹脂を含む樹脂セットと、緻密性の低い樹脂を含む樹脂セットとは、それぞれ緻密性の違いから、形成される塗膜の遮断性と付着性とのバランスが、前者と後者とで異なる。このため、錆の無い鋼材に、前者の樹脂セットまたは後者の樹脂セットを塗装した場合、前記図2に示すような、水蒸気透過量と線形近似線の傾き(塗膜劣化速度)との間に正の相関関係は得られない。しかしながら、本発明は、塗装の対象が錆面であるため、前述のように、付着性の要因が影響せず、このため、塗膜の劣化は、遮断性(すなわち水蒸気透過量)のみに依存し、結果として、正の相関が得られたと推測される。
(5−3)塗膜劣化速度と水蒸気透過量との関係(錆鋼板B)
前記錆鋼板Bに対して、前記錆鋼板Aと同様にして、塗装処理(実施例1から実施例5)を施して、塗装鋼板を得た。そして、前記塗装鋼板に形成された塗膜について、前記(5−3)と同様に、塗膜劣化速度(傾き)と水蒸気透過量との関係を確認した。これらの結果を下記表7に示す。また、下記表7に示す水蒸気透過量と線形近似線の傾き(塗膜劣化速度)との関係を、図3のグラフに示す。図3において、縦軸は、水蒸気透過量[g/(m2・24h)]を示し、横軸は、傾き(塗膜劣化速度)を示す。
図3に示すように、錆の厚みが錆鋼板Aよりも薄い錆鋼板Bについて塗装処理を行った場合も、前述の結果と同様に、線形近似線の傾き(塗膜劣化速度)と水蒸気透過量とは、正の相関を示した。また、前記図2との比較から、錆の厚みが薄い錆鋼板Bの方が、錆の厚みが厚い錆鋼板Aよりも、塗膜劣化速度が遅いことがわかった。
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載しうるが、以下に限定されない。
(付記1)
樹脂成分と顔料とを含む組成物であり、
前記組成物から塗膜を形成した場合において、前記塗膜の水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)以下となることを特徴とする鋼材の錆面用塗料。
(付記2)
前記樹脂成分は、樹脂と硬化剤とを含み、前記樹脂が、エポキシ樹脂を含み、
前記硬化剤が、ポリアミン化合物を含み、
前記顔料が、鱗片状顔料を含む、付記1記載の錆面用塗料。
(付記3)
前記顔料が、タルク、マイカ、ガラスフレーク、およびアルミニウムフレークからなる群から選択された少なくとも一つを含む、付記1または2記載の錆面用塗料。
(付記4)
前記組成物の不揮発分中の前記顔料の含有量が、1〜70質量%である、付記1から3のいずれかに記載の錆面用塗料。
(付記5)
錆面を有する鋼材に、樹脂成分と顔料とを含む塗料を用いて塗膜を形成する塗膜工程を含み、
前記塗膜工程において、水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)以下となるように前記塗膜を形成する
ことを特徴とする錆面鋼材への塗装方法。
(付記6)
前記塗料として、付記1から4のいずれかに記載の錆面用塗料を使用する、付記5記載の塗装方法。
(付記7)
前記鋼材の錆面において、錆の厚みが、0.1〜400μmである、付記5または6に記載の塗装方法。
(付記8)
前記鋼材の錆面において、錆の厚みが、0.1〜300μmである、付記7に記載の塗装方法。
(付記9)
前記鋼材の錆面において、錆の厚みが、0.1〜200μmである、付記7に記載の塗装方法。
(付記10)
前記鋼材の錆面において、錆の厚みが、0.1〜100μmである、付記7に記載の塗装方法。
(付記11)
前記鋼材の錆面において、錆の最大厚みが、0.1〜3000μmである、付記5から10のいずれかに記載の塗装方法。
(付記12)
前記鋼材の錆面において、錆の最大厚みが、0.1〜2000μmである、付記11に記載の塗装方法。
(付記13)
前記鋼材の錆面において、錆の最大厚みが、0.1〜1400μmである、付記11に記載の塗装方法。
(付記14)
前記鋼材の錆面において、錆の最大厚みが、0.1〜700μmである、付記11に記載の塗装方法。
(付記15)
前記錆面上の塗膜の膜厚が、50〜1000μmである、付記5から14のいずれかに記載の塗装方法。
(付記16)
前記塗膜工程において、前記鋼材に前記塗料を塗布して、硬化することにより塗膜を形成する、付記5から15のいずれかに記載の塗装方法。
(付記17)
前記塗膜が、積層膜であり、
前記塗膜工程において、前記鋼材への前記塗料の塗布と乾燥とを繰り返し行う、付記16に記載の塗膜方法。
(付記18)
鋼材と塗膜とを含み、
前記鋼材の錆面上に、前記塗膜を有し、
前記塗膜は、樹脂成分と顔料とを含み、水蒸気透過量が1.5g/(m2・24h)以下であることを特徴とする塗装鋼材。
(付記19)
前記樹脂成分が、エポキシ樹脂と硬化剤とを含み、
前記硬化剤が、ポリアミン化合物を含み、
前記顔料が、鱗片状顔料を含む、付記18記載の塗装鋼材。
(付記20)
前記顔料が、タルク、マイカ、ガラスフレーク、およびアルミニウムフレークからなる群から選択された少なくとも一つを含む、付記18または19に記載の塗装鋼材。
(付記21)
前記塗膜における前記顔料の含有量が、1〜70質量%である、付記18から20のいずれかに記載の塗装鋼材。
(付記22)
前記鋼材において、前記塗膜と接触する面が、錆面を有し、
前記錆面の錆の厚みが、0.1〜400μmである、付記18から21のいずれかに記載の塗装鋼材。
(付記23)
前記鋼材の錆面において、錆の厚みが、0.1〜300μmである、付記22に記載の塗装鋼材。
(付記24)
前記鋼材の錆面において、錆の厚みが、0.1〜200μmである、付記22に記載の塗装鋼材。
(付記25)
前記鋼材の錆面において、錆の厚みが、0.1〜100μmである、付記22に記載の塗装鋼材。
(付記26)
前記鋼材の錆面において、錆の最大厚みが、0.1〜3000μmである、付記18から25のいずれかに記載の塗装鋼材。
(付記27)
前記鋼材の錆面において、錆の最大厚みが、0.1〜2000μmである、付記26に記載の塗装鋼材。
(付記28)
前記鋼材の錆面において、錆の最大厚みが、0.1〜1400μmである、付記26に記載の塗装鋼材。
(付記29)
前記鋼材の錆面において、錆の最大厚みが、0.1〜700μmである、付記26に記載の塗装鋼材。
(付記30)
前記塗膜の厚みが、50〜1000μmである、付記18から29のいずれかに記載の塗装鋼材。
以上、実施形態および実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。