以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。
図1は、実施の形態に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。図1では、車両用灯具システム1の構成要素の一部を機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックは、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。これらの機能ブロックがハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
車両用灯具システム1は、車両前方の左右に配置される一対の前照灯ユニットを有する車両用前照灯装置に適用される。一対の前照灯ユニットは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、図1には車両用灯具2として一方の前照灯ユニットの構造を示す。車両用灯具システム1が備える車両用灯具2は、車両前方側に開口部を有するランプボディ4と、ランプボディ4の開口部を覆うように取り付けられた透光カバー6とを備える。透光カバー6は、透光性を有する樹脂やガラス等で形成される。ランプボディ4と透光カバー6とにより形成される灯室8内には、非可視光源部9と、可視光源部10と、非可視光撮像部52と、可視光撮像部35と、制御装置50とが収容される。
非可視光源部9は、所定形状の非可視光パターンを自車前方の所定領域に形成する装置である。非可視光源部9は、図示しない非可視光源とパターン形成機構とを有する。非可視光源は、赤外光などの非可視光を出射する。本実施の形態の非可視光源部9は、赤外光を出射する。非可視光源としては、LED(Light emitting diode)、LD(Laser diode)、EL(Electroluminescence)素子等の半導体発光素子や、電球、白熱灯(ハロゲンランプ)、放電灯(ディスチャージランプ)等を用いることができる。パターン形成機構としては、従来公知のシェード機構や、DMD(Digital Mirror Device)、非可視光源の光で自車前方を走査するスキャン光学系等を用いることができる。また、非可視光源としてのLEDが所定位置に配列されたLEDアレイであってもよい。また、回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)であってもよい。
図2は、非可視光源部が形成する非可視光パターンの模式図である。非可視光源部9は、所定形状の非可視光パターンPを形成する。好ましくは、非可視光パターンPは幾何学模様の配光パターンである。幾何学模様としては、格子状、縦線の集合、横線の集合などが挙げられる。図2には、格子状の非可視光パターンPが図示されている。非可視光源部9は、非可視光パターンPを所定領域に形成する。好ましくは、所定領域は水平線H以下の領域である。この場合、非可視光パターンPの外形は、例えば水平方向に長い矩形状である。また、より好ましくは、所定領域は自車走行路Q1および路肩Q2を含む領域、さらには自車走行路Q1および路肩Q2と重なる領域である。この場合、非可視光パターンPの外形は、例えば水平方向に長い略台形状である。自車走行路には、自車線側の領域と対向車線側の領域とが含まれる。
可視光源部10は、少なくとも所定領域、すなわち非可視光パターンPの形成領域に可視光を照射可能な装置である。本実施の形態の可視光源部10は、自車前方に並ぶ複数の個別領域(図4参照)それぞれに照射する可視光の照度(強度)を独立に調節可能な装置である。可視光源部10は、可視光源22と、反射光学部材24と、光偏向装置26と、投影光学部材28とを有する。各部は、図示しない支持機構によりランプボディ4に取り付けられる。
可視光源22は、LED、LD、EL素子等の半導体発光素子や、電球、白熱灯、放電灯等を用いることができる。反射光学部材24は、可視光源22から出射した可視光を光偏向装置26の反射面に導くように構成される。反射光学部材24は、内面が所定の反射面となっている反射鏡で構成される。なお、反射光学部材24は、中実導光体などであってもよい。また、可視光源22から出射した光を光偏向装置26に直接導くことができる場合は、反射光学部材24を設けなくてもよい。
光偏向装置26は、投影光学部材28の光軸上に配置され、可視光源22から出射された光を選択的に投影光学部材28へ反射するように構成される。光偏向装置26は、例えばDMDで構成される。すなわち、光偏向装置26は、複数の微小ミラーをアレイ(マトリックス)状に配列したものである。これらの複数の微小ミラーの反射面の角度をそれぞれ制御することで、可視光源22から出射された光の反射方向を選択的に変えることができる。つまり、光偏向装置26は、可視光源22から出射された光の一部を投影光学部材28へ向けて反射し、それ以外の光を、投影光学部材28によって有効に利用されない方向へ向けて反射することができる。ここで、有効に利用されない方向とは、例えば、投影光学部材28には入射するが配光パターンの形成にほとんど寄与しない方向や、図示しない光吸収部材(遮光部材)に向かう方向と捉えることができる。
図3(A)は、光偏向装置の概略構成を示す正面図である。図3(B)は、図3(A)に示す光偏向装置のA−A断面図である。光偏向装置26は、複数の微小なミラー素子30がマトリックス状に配列されたマイクロミラーアレイ32と、ミラー素子30の反射面30aの前方側(図3(B)に示す光偏向装置26の右側)に配置された透明なカバー部材34とを有する。カバー部材34は、例えば、ガラスやプラスチック等で構成される。
ミラー素子30は略正方形であり、水平方向に延びミラー素子30をほぼ等分する回動軸30bを有する。マイクロミラーアレイ32の各ミラー素子30は、可視光源22から出射された光を所望の配光パターンの一部として利用されるように投影光学部材28へ向けて反射する第1反射位置(図3(B)において実線で示す位置)と、可視光源22から出射された光が有効に利用されないように反射する第2反射位置(図3(B)において点線で示す位置)とを切り替え可能に構成されている。各ミラー素子30は、回動軸30b周りに回動して、第1反射位置と第2反射位置との間で個別に切り替えられる。各ミラー素子30は、オン時に第1反射位置をとり、オフ時に第2反射位置をとる。
図4は、自車前方の様子を模式的に示す図である。上述のように可視光源部10は、灯具前方に向けて互いに独立に光を照射可能な個別照射部としてのミラー素子30を複数有する。可視光源部10は、ミラー素子30によって自車前方に並ぶ複数の個別領域Rに光を照射することができる。各個別領域Rは、可視光撮像部35、より具体的には例えば高速カメラ36の1ピクセルまたは複数ピクセルの集合に対応する領域である。本実施の形態では各個別領域Rと各ミラー素子30とが対応付けられている。
図3(A)および図4では、説明の便宜上、ミラー素子30および個別領域Rを横10×縦8の配列としているが、ミラー素子30および個別領域Rの数は特に限定されない。例えば、マイクロミラーアレイ32の解像度(言い換えればミラー素子30および個別領域Rの数)は1000〜30万ピクセルである。また、可視光源部10が1つの配光パターンの形成に要する時間は、例えば0.1〜5msである。すなわち、可視光源部10は、0.1〜5ms毎に配光パターンを変更することができる。
投影光学部材28は、例えば、前方側表面および後方側表面が自由曲面形状を有する自由曲面レンズからなる。投影光学部材28は、その後方焦点を含む後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方に投影する。投影光学部材28は、その後方焦点が車両用灯具2の光軸上、且つマイクロミラーアレイ32の反射面の近傍に位置するように配置される。なお、投影光学部材28は、リフレクタであってもよい。
可視光源22から出射された光は、反射光学部材24で反射されて、光偏向装置26のマイクロミラーアレイ32に照射される。光偏向装置26は、第1反射位置にある所定のミラー素子30によって投影光学部材28へ向けて光を反射する。この反射された光は、投影光学部材28を通過して灯具前方に進行し、各ミラー素子30に対応する各個別領域Rに照射される。これにより、複数の部分照射領域が集まって構成される、所定形状の配光パターンが灯具前方に形成される。
非可視光撮像部52は、自車前方に形成される非可視光パターンPを撮像するための装置である。非可視光撮像部52は、非可視光のスペクトル領域に感度を有する非可視光カメラなどで構成される。本実施の形態の非可視光撮像部52は、赤外光カメラで構成される。非可視光撮像部52は、フレームレートが例えば5fps以上10000fps以下(1フレームあたり0.1〜200ms)であり、解像度が例えば30万ピクセル以上500万ピクセル未満である。非可視光撮像部52は、少なくとも非可視光パターンPの形成領域を撮像する。
可視光撮像部35は、自車前方を撮像する装置である。可視光撮像部35は、高速カメラ36と低速カメラ38とを含む。高速カメラ36および低速カメラ38は、可視光のスペクトル領域に感度を有する。高速カメラ36は、比較的フレームレートが高く、例えば200fps以上10000fps以下(1フレームあたり0.1〜5ms)である。一方、低速カメラ38は、比較的フレームレートが低く、例えば30fps以上120fps以下である(1フレームあたり約8〜33ms)。また、高速カメラ36は、比較的解像度が小さく、例えば30万ピクセル以上500万ピクセル未満である。一方、低速カメラ38は、比較的解像度が大きく、例えば500万ピクセル以上である。高速カメラ36および低速カメラ38は、全ての個別領域Rを撮像する。なお、高速カメラ36および低速カメラ38の解像度は、上記数値に限定されず、技術的に整合する範囲で任意の値に設定することができる。
制御装置50は、第1物標解析部54と、輝度解析部14と、第2物標解析部16と、灯具制御部18と、光源制御部20とを備える。非可視光撮像部52が取得した画像データは、第1物標解析部54に送られる。また、可視光撮像部35が取得した画像データは、輝度解析部14および第2物標解析部16に送られる。
第1物標解析部54は、非可視光撮像部52から得られる情報(画像データ)に基づいて、非可視光パターンPの形成領域に存在する物標を検出する。具体的には、第1物標解析部54には、非可視光撮像部52のフレームレートに応じたタイミングで、非可視光撮像部52から繰り返し画像データが送られる。第1物標解析部54は、非可視光撮像部52から得られる2つの画像フレームの差分を演算し、非可視光パターンPが形成される所定領域に存在する物標を検出する。第1物標解析部54は、例えば0.1〜5ms毎に物標を検出する。
図5(A)〜図5(C)は、第1物標解析部54による物標検出を説明するための模式図である。図5(A)の左側には、非可視光撮像部52によってNフレーム目(Nは1以上の整数)の画像が撮像された際の自車前方の様子が図示されている。この状況で撮像されたNフレーム目の画像は、図5(B)の左側に示す通りであり、非可視光撮像部52から第1物標解析部54に送られる。
また、図5(A)の右側には、N+1フレーム目の画像が撮像された際の自車前方の様子が図示されている。N+1フレーム目の画像が撮像された状況では、自車走行路Q1上に物標としての突起物300が存在している。この状況で撮像されたN+1フレーム目の画像データは、図5(B)の右側に示す通りであり、非可視光撮像部52から第1物標解析部54に送られる。
第1物標解析部54は、Nフレーム目の画像とN+1フレーム目の画像とを取得すると、図5(C)に示すように、この2つの画像の差分画像を生成する。そして、生成した差分画像を解析して、周囲とは不連続な構造体である突起物300の存在を検知する。第1物標解析部54の検出結果、すなわち非可視光パターンPの形成領域における物標情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。第1物標解析部54によって検出される物標としては、自車走行路Q1上および路肩Q2上の障害物や、路肩Q2の縁石などが挙げられる。
本実施の形態では、第1物標解析部54はNフレーム目の画像とN+1フレーム目の画像との差分を演算しているが、特にこの構成に限定されない。比較する2つの画像フレームの時間間隔やフレーム間隔は、連続する2つの画像フレームにおける間隔に限定されず、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
例えば第1物標解析部54は、自車両の車速に応じて、比較する2つの画像フレームの間隔を調整してもよい。具体的には、第1物標解析部54は、自車両の車速が所定の第1速度にあるとき所定の第1間隔だけ離れた2つの画像フレームの差分を演算し、車速が第1速度よりも速い所定の第2速度にあるとき第1間隔よりも短い所定の第2間隔だけ離れた2つの画像フレームの差分を演算する。このように、車速が遅いときは比較する2つの画像フレームの時間間隔あるいはフレーム間隔を大きくすることで、物標の検出精度を維持しながら、第1物標解析部54にかかる負荷を軽減することができる。第1物標解析部54は、車両に搭載される車速センサ60から自車両の車速情報を取得することができる。
輝度解析部14は、可視光撮像部35から得られる情報(画像データ)に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。本実施の形態の輝度解析部14は、高速カメラ36から得られる情報に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。したがって、輝度解析部14は、第2物標解析部16に比べて精度の低い画像解析を実行し、高速に解析結果を出力する高速低精度解析部である。輝度解析部14は、例えば0.1〜5ms毎に各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14の検出結果、すなわち個別領域Rの輝度情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
第2物標解析部16は、可視光撮像部35から得られる情報(画像データ)に基づいて、自車前方に存在する物標を検出する。本実施の形態の第2物標解析部16は、低速カメラ38から得られる情報に基づいて物標を検出する。したがって、第2物標解析部16は、輝度解析部14に比べて精度の高い画像解析を実行し、低速に解析結果を出力する低速高精度解析部である。第2物標解析部16は、例えば50ms毎に物標を検出する。第2物標解析部16によって検出される物標としては、図4に示すように、対向車100や歩行者200等が例示される。また、先行車や、自車両の走行に支障を来す障害物、道路標識、道路標示、道路形状等も物標に含まれる。
第2物標解析部16は、アルゴリズム認識やディープラーニング等を含む、従来公知の方法を用いて物標を検出することができる。例えば、第2物標解析部16は、対向車100を示す特徴点を予め保持している。そして、第2物標解析部16は、低速カメラ38の撮像データの中に対向車100を示す特徴点を含むデータが存在する場合、対向車100の位置を認識する。前記「対向車100を示す特徴点」とは、例えば対向車100の前照灯の推定存在領域に現れる所定光度以上の光点102(図4参照)である。同様に、第2物標解析部16は、歩行者200やその他の物標を示す特徴点を予め保持しており、低速カメラ38の撮像データの中にこれらの特徴点を含むデータが存在する場合、当該特徴点に対応する物標の位置を認識する。第2物標解析部16の検出結果、すなわち自車前方の物標情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
灯具制御部18は、第1物標解析部54の検出結果を用いて、第1物標解析部54により検出された物標へ可視光を照射する制御を実行する。また、灯具制御部18は、輝度解析部14および/または第2物標解析部16の検出結果を用いて、特定物標の決定、特定物標の変位検出、特定個別領域R1の設定、各個別領域Rに照射する光の照度値の設定等を実行する。
一例として、灯具制御部18は、トラッキング部40と、照度設定部42とを含む。トラッキング部40は、第2物標解析部16により検出された物標の中から特定物標を決定する。また、トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果に基づいて特定物標の変位を検出する。以下では、対向車100を特定物標とした場合を例に挙げて説明する。
具体的には、トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果と第2物標解析部16の検出結果とを統合する。そして、輝度解析部14で検出された各個別領域Rの輝度のうち、特定物標である対向車100の光点102が位置する個別領域Rの輝度を対向車100と関連付ける。トラッキング部40は、その後に取得する輝度解析部14の検出結果において、対向車100と関連付けた輝度の位置を認識することで、特定物標である対向車100の変位を検出することができる。トラッキング部40は、例えば50ms毎に特定物標の決定処理を実行する。また、トラッキング部40は、例えば0.1〜5ms毎に特定物標の変位検出処理(トラッキング)を実行する。
照度設定部42は、第1物標解析部54の検出結果と、輝度解析部14の検出結果と、トラッキング部40の検出結果とに基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。複数の個別領域Rのうち、トラッキング部40により決定された特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対しては、第1特定照度値が定められる。また、複数の個別領域Rのうち、第1物標解析部54により検出された物標と重なる物標重畳個別領域R2に対しては、第2特定照度値が定められる。
第1特定照度値について、まず照度設定部42は、特定物標である対向車100の存在位置に基づいて特定個別領域R1を定める。例えば照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に含まれる対向車100の位置情報に基づいて、特定個別領域R1を定める。特定個別領域R1の設定について、例えば照度設定部42は、対向車100の前照灯に対応する2つの光点102間の水平方向距離a(図4参照)に対して、予め定められた所定比率の鉛直方向距離bを定め、横a×縦bの寸法範囲と重なる個別領域Rを特定個別領域R1(図4参照)とする。特定個別領域R1には、対向車100の運転者と重なる個別領域Rが含まれる。そして、照度設定部42は、特定個別領域R1に対する第1特定照度値を定める。特定物標が対向車100である場合、第1特定照度値は、例えば「0」である。
第2特定照度値について、照度設定部42は、第1物標解析部54により検出された物標に対して可視光が照射されるように、物標重畳個別領域R2に対して第2特定照度値を定める。第2特定照度値は、例えば可視光源部10の最大照度に設定される。あるいは、第2特定照度値は、物標重畳個別領域R2の周囲に位置する個別領域Rに対して定められる照度値よりも高い照度値に設定される。
また、照度設定部42は、特定個別領域R1および物標重畳個別領域R2を除く他の個別領域Rについても照度値を定める。例えば、照度設定部42は、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲に含まれる個別領域Rについて、目標輝度値を同じ値に設定する。すなわち、輝度均一化制御を実行する。目標輝度値とは、配光パターンが形成された状態で輝度解析部14により検出されるべき輝度を意味する。
図6は、輝度均一化制御における検出輝度値と設定照度値との関係を示す図である。図6に示すように、輝度均一化制御では、特定個別領域R1および物標重畳個別領域R2を除く個別領域Rについて、検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に高い照度値が設定され、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に低い照度値が設定される。輝度均一化制御により、自車前方の明るさを均一にする輝度均一化配光パターンが形成される。輝度均一化配光パターンによれば、自車前方の暗い領域に存在する物標を明るく照らし出すことができる。これにより、運転者あるいは可視光撮像部35の視認性を高めることができる。なお、前記「所定の範囲」は、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲であってもよいし、一部の範囲であってもよい。図6では、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲を、前記「所定の範囲」としている。
輝度均一化制御における検出輝度値と設定照度値との関係は、次のようであってもよい。図7(A)〜図7(C)は、輝度均一化制御における検出輝度値と設定照度値との関係の他の例を示す図である。すなわち、図6に示す例では、検出輝度値に対して設定照度値を連続的且つ直線的に変化させている。しかしながら、特にこの関係に限定されず、図7(A)および図7(B)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を段階的に変化させてもよい。また、図7(C)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を曲線的に変化させてもよい。なお、図7(C)では上に凸の曲線を図示しているが、下に凸の曲線であってもよい。
照度設定部42は、輝度均一化制御に代えてまたは加えて、ハイコントラスト制御を実行してもよい。ハイコントラスト制御とは、特定個別領域R1および物標重畳個別領域R2を除く個別領域Rのうち、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲に含まれる個別領域Rについて、検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に低い照度値を設定し、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に高い照度値を設定する制御である。ハイコントラスト制御により、ハイコントラスト配光パターンが形成される。前記「所定の範囲」は、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲であってもよいし、一部の範囲であってもよい。以下に説明する図8(A)および図8(B)では、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲を、前記「所定の範囲」としている。
例えば照度設定部42は、予め定められたしきい値よりも輝度の低い個別領域Rには、当該しきい値よりも輝度の高い個別領域Rに対して設定する照度値よりも低い照度値を設定する。一方、当該しきい値よりも輝度の高い個別領域Rには、当該しきい値よりも輝度の低い個別領域Rに対して設定する照度値よりも高い照度値を設定する。設定する照度値の高低の程度は、物標の検出精度の向上度合い等を考慮して、実験やシミュレーションの結果に基づいて適宜設定することができる。
この結果、輝度が相対的に低い個別領域Rの照度値は、輝度が相対的に高い個別領域Rの照度値よりも低い値となる。逆に、輝度が相対的に高い個別領域Rの照度値は、輝度が相対的に低い個別領域Rの照度値よりも高い値となる。一例として、照度設定部42は、しきい値よりも輝度の低い個別領域Rには、現在設定されている照度値よりも低い照度値を設定する。一方、しきい値よりも輝度の高い個別領域Rには、現在設定されている照度値よりも高い照度値を設定する。なお、しきい値を用いずに、例えば最も輝度の高い個別領域Rの輝度を基準として、輝度が低くなるにつれて設定する照度値を下げていってもよい。
つまり、ハイコントラスト配光パターンは、明るい個別領域Rはより明るくなり、暗い個別領域Rはより暗くなる配光パターンである。ハイコントラスト配光パターンによれば、自車前方の照射対象物は、明暗コントラストが強調される。これにより、輝度均一化配光パターンとは異なる方法あるいは態様で、運転者あるいは可視光撮像部35の視認性を高めることができる。
ハイコントラスト制御では、新たに設定される相対的に低い照度値は、現在設定されている照度値よりも低い照度値となり、新たに設定される相対的に高い照度値は、現在設定されている照度値よりも高い照度値となり得る。したがって、ハイコントラスト配光パターンの形成が繰り返されると、正帰還がかかって、いずれは設定照度値が0と最大値とに二極化してしまう。照度値が二極化すると、照度値0が設定される個別領域Rにおいて、運転者の視認性を確保することが困難となり得る。
これに対し、以下のように基準照度値Mと係数とを用いることで、当該二極化による運転者の視認性低下を回避することができる。図8(A)は、ハイコントラスト制御における検出輝度値と係数との関係を示す図である。図8(B)は、ハイコントラスト制御における検出輝度値と設定照度値との関係を示す図である。
照度設定部42は、図8(A)に示すように、検出輝度値の大きさに応じて予め設定された所定の係数を有する。相対的に大きい検出輝度値には相対的に大きい係数が設定され、相対的に小さい検出輝度値には相対的に小さい係数が設定される。係数の値は、物標の検出精度の向上度合い等を考慮して、実験やシミュレーションの結果に基づいて適宜設定することができる。ここでは一例として、検出輝度値のしきい値に対して係数1.0が設定され、最大輝度値に対して係数1.5が設定され、最小輝度値に対して係数0.5が設定されている。照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果に基づいて、各個別領域Rに対して係数を設定する。
また、照度設定部42は、図8(B)に示すように、予め設定された所定の基準照度値Mを有する。照度設定部42は、各個別領域Rに設定した係数を基準照度値Mに乗じて、各個別領域Rの照度値を設定する。これにより、検出輝度値が低い個別領域Rには低い照度値が設定され、検出輝度値が高い個別領域Rには高い照度値が設定される。
また、基準照度値Mに代えて各個別領域Rの現在設定されている照度値と、係数と、照度値の下限値および上限値とを用いることでも、照度値の二極化による運転者の視認性低下を回避することができる。すなわち、照度設定部42は、予め設定された照度値の下限値および上限値を有する。そして、照度設定部42は各個別領域Rについて、検出された輝度値の大きさに応じて所定の係数を設定する。そして、設定した係数を、現在の照度値に乗じて新たな照度値を算出する。
照度設定部42は、算出した照度値が所定の下限値以上である場合は現在の照度値を算出した照度値に更新し、算出した照度値が下限値を下回る場合は現在の照度値を維持する。また、照度設定部42は、算出した照度値が所定の上限値以下である場合は現在の照度値を算出した照度値に更新し、算出した照度値が上限値を上回る場合は現在の照度値を維持する。なお、照度設定部42が少なくとも照度値の下限値を有していれば、暗い個別領域Rに対して照度値0が設定されることは回避することができる。
また、ハイコントラスト配光パターンを形成する可視光源部10に加えて、可視光源部10と独立に制御される他の可視光源部(図示せず)を設けることでも、上記二極化による運転者の視認性低下を回避することができる。例えば、車両用灯具システム1には、車両に設けられた図示しないライトスイッチが運転者に操作されることで点消灯が切り替えられ、また形成する配光パターンの種類が切り替えられる、従来公知の灯具ユニットが設けられる。当該灯具ユニットは、従来公知のロービーム用配光パターンやハイビーム用配光パターン等を形成することができる。以下では適宜、この灯具ユニットにより形成される配光パターンを、通常配光パターンと称する。
照度設定部42は、灯具ユニットにより通常配光パターンが形成されている状況下で、ハイコントラスト制御を実行する。この結果、ハイコントラスト配光パターンが通常配光パターンに重ね合わされる。ハイコントラスト配光パターンにおける各個別領域Rの照度が二極化したとしても、ハイコントラスト配光パターンにおいて照度の低い個別領域Rに対しては通常配光パターンが照射されるため、運転者の視認性を確保することができる。
なお、一例として照度設定部42は、ハイコントラスト制御の最初に、特定個別領域R1および物標重畳個別領域R2を除く全ての個別領域Rの照度を一定にした配光パターンを可視光源部10により形成する。この照度一定配光パターンの照射により得られる各個別領域Rの輝度が、ハイコントラスト配光パターンの形成に利用される。可視光源部10に加えて灯具ユニットを備える場合には、ハイコントラスト制御の最初に灯具ユニットにより通常配光パターンを形成してもよい。この場合、通常配光パターンの照射により得られる各個別領域Rの輝度が、ハイコントラスト配光パターンの形成に利用される。
ハイコントラスト制御における検出輝度値と設定照度値との関係は、次のようであってもよい。図9(A)〜図9(C)は、ハイコントラスト制御における検出輝度値と設定照度値との関係の他の例を示す図である。すなわち、図8(B)に示す例では、検出輝度値に対して設定照度値を連続的且つ直線的に変化させている。しかしながら、特にこの関係に限定されず、図9(A)および図9(B)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を段階的に変化させてもよい。また、図9(C)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を曲線的に変化させてもよい。なお、図9(C)では上に凸の曲線を図示しているが、下に凸の曲線であってもよい。また、検出輝度値と係数との関係は、検出輝度値と設定照度値との関係と同様であるため、図示するまでもなく明らかである。
照度設定部42は、第1物標解析部54の検出結果に基づいて、物標重畳個別領域R2の変位を認識し、物標重畳個別領域R2の位置情報を更新する。また、トラッキング部40の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の変位を認識し、特定個別領域R1の位置情報を更新する。そして、物標重畳個別領域R2に対する第2特定照度値および特定個別領域R1に対する第1特定照度値を含む、各個別領域Rの照度値を更新する。第1物標解析部54、トラッキング部40および照度設定部42のそれぞれの処理は、少なくとも一時において並行して実行される。照度設定部42は、各個別領域Rの照度値を示す信号を、光源制御部20に送信する。照度設定部42は、例えば0.1〜5ms毎に照度値を設定する。
光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて可視光源部10を制御する。つまり、光源制御部20は、第1物標解析部54により検出された物標に第2特定照度値の可視光を照射するよう可視光源部10を制御する。また、特定個別領域R1に対して第1特定照度値の光を照射するよう可視光源部10を制御する。また、その他の個別領域Rに対して、輝度均一化制御あるいはハイコントラスト制御に準じて定まる照度値の光を照射するよう可視光源部10を制御する。
光源制御部20は、可視光源22の点消灯と、各ミラー素子30のオン/オフ切り替えとを制御する。光源制御部20は、各個別領域Rに照射する光の照度値に基づいて、各ミラー素子30のオンの時間比率(幅や密度)を調節する。これにより、各個別領域Rに照射される光の照度を調節することができる。光源制御部20は、例えば0.1〜5ms毎に、可視光源22および/または光偏向装置26に駆動信号を送信する。照度設定部42が定めた照度値に基づいて可視光源部10から光が照射され、その結果としての実際の各個別領域Rの輝度値が輝度解析部14により検出される。そして、この検出結果に基づいて、照度設定部42が再び照度値を設定する。
車両用灯具システム1は、自車前方の特定物標の位置に応じて最適な配光パターンを形成するADB(Adaptive Driving Beam)制御を実行する。一例として、照度設定部42は、突起物300と重なる物標重畳個別領域R2に対して第2特定照度値「最大」を設定し、他の個別領域Rに対して照度値「1」を設定する。この設定を第1照度情報とする。また、照度設定部42は、対向車100の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対して第1特定照度値「0」を設定し、他の個別領域Rに対して照度値「1」を設定する。この設定を、第2照度情報とする。また、照度設定部42は、輝度均一化制御またはハイコントラスト制御に準じて、特定個別領域R1および物標重畳個別領域R2を含む全ての個別領域Rに対する照度値を設定する。この設定を、第3照度情報とする。
そして、照度設定部42は、第1照度情報、第2照度情報および第3照度情報をAND演算する。これにより、物標重畳個別領域R2に対する照度値が最大または最大に近い値であり、特定個別領域R1に対する照度値が0であり、その他の個別領域Rに対する照度値が輝度均一化制御またはハイコントラスト制御に準じて定まる照度値である合成照度情報が生成される。すなわち、物標重畳個別領域R2には最大あるいは最大に近い照度の可視光が照射され、特定個別領域R1は遮光され、その他の各個別領域Rには輝度均一化配光パターンまたはハイコントラスト配光パターンが形成される。
図10、図11(A)および図11(B)は、実施の形態に係る車両用灯具システムにおいて実行されるADB制御の一例を示すフローチャートである。このフローは、例えば図示しないライトスイッチによってADB制御の実行指示がなされ、且つイグニッションがオンのときに所定のタイミングで繰り返し実行され、ADB制御の実行指示が解除される(あるいは停止指示がなされる)か、イグニッションがオフにされた場合に終了する。また、図10および図11(B)に示すフローは、例えば0.1〜5ms毎に繰り返される高速処理であり、図11(A)に示すフローは、例えば50ms毎に繰り返される低速処理である。これらの低速処理と高速処理とは、並行して実行される。また、ここでは、ハイコントラスト配光パターンを形成する場合を例に挙げて説明する。
図10に示すフローは、非可視光を用いて物標を検出する制御フローである。本フローではまず、非可視光源部9によって、自車前方の所定領域に所定形状の非可視光パターンが形成される(S101)。次に、非可視光撮像部52によって、所定領域に形成された非可視光パターンが撮像される(S102)。次に、第1物標解析部54によって、非可視光撮像部52から得られる2つの画像フレームの差分が演算され、所定領域に存在する物標が検出される(S103)。そして、照度設定部42によって、物標の存在位置に基づいて物標重畳個別領域R2が設定され(S104)、本ルーチンが終了する。
図11(A)に示すフローは、可視光を用いて物標を検出する制御フローである。本フローではまず、低速カメラ38によって自車前方が撮像される(S201)。次に、第2物標解析部16によって、低速カメラ38の画像データに基づいて、自車前方に存在する物標が検出される(S202)。次に、検出された物標の中に特定物標が含まれているか判断される(S203)。当該判断は、例えばトラッキング部40により実行される。特定物標が含まれている場合(S203のY)、トラッキング部40によって、特定物標が決定される(S204)。次に、照度設定部42によって、特定物標の存在位置に基づいて特定個別領域R1が設定され(S205)、本ルーチンが終了する。特定物標が含まれていない場合(S203のN)、本ルーチンが終了する。
図11(B)に示すフローは、非可視光を用いて検出された物標と、可視光を用いて検出された物標とを考慮して所定照度の可視光を自車前方に照射する制御フローである。本フローではまず、ハイコントラスト配光パターン形成フラグがオンであるか判断される(S301)。当該判断は、例えば照度設定部42により実行される。ハイコントラスト配光パターン形成フラグがオンである場合(S301のY)、ハイコントラスト配光パターンが形成されている状態にあることを示す。この場合、高速カメラ36によって自車前方が撮像される(S303)。ハイコントラスト配光パターン形成フラグがオンでない場合(S301のN)、照度一定配光パターンが形成された後に(S302)、高速カメラ36によって自車前方が撮像される(S303)。
次に、輝度解析部14によって、高速カメラ36の画像データに基づいて、各個別領域Rの輝度が検出される(S304)。続いて、特定個別領域R1が設定されているか判断される(S305)。当該判断は、例えばトラッキング部40により実行される。特定個別領域R1が設定されている場合(S305のY)、トラッキング部40によって、特定物標がトラッキングされて特定個別領域R1の位置(変位)が検出される。照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の設定(位置情報)を更新する(S306)。
次に、照度設定部42によって、ハイコントラスト制御に準じて各個別領域Rに照射する光の照度値が設定される(S307)。特定個別領域R1に対しては、第1特定照度値が設定される。また、物標重畳個別領域R2に対しては、第2特定照度値が設定される。次に、光源制御部20によって可視光源部10が駆動され、定められた照度の光が可視光源部10から照射される(S308)。この結果、第1物標解析部54により検出された物標に可視光が照射される。そして、照度設定部42によりハイコントラスト配光パターン形成フラグがオンにされて(S309)、本ルーチンが終了する。
特定個別領域R1が設定されていない場合(S305のN)、照度設定部42によって、個別領域Rに照射する光の照度値が設定される(S306)。この場合、設定される照度値の中には、特定個別領域R1に対する第1特定照度値は含まれない。物標重畳個別領域R2に対する第2特定照度値が含まれるか否かは、図10のフローにおける物標の検出結果次第である。その後は、ステップS307〜S309の処理が実行されて、本ルーチンが終了する。
ステップS306において、トラッキングにより特定物標の消失が検出された場合には、特定個別領域R1の設定も消失する。したがって、ステップS307で設定される照度値の中には、第1特定照度値は含まれないこととなる。また、次回のルーチンにおけるステップS305では、図11(A)におけるステップS205の処理が実行されるまでは、特定個別領域R1が設定されていない(S305のN)と判定される。なお、上記フローチャートでは、図11(A)の制御フローにおいて特定個別領域が設定されているが、当該設定は図11(B)の制御フローにおいて実行されてもよい。
以上説明したように、本実施の形態に係る車両用灯具システム1は、非可視光源部9と、可視光源部10と、非可視光撮像部52と、第1物標解析部54と、光源制御部20とを備える。非可視光源部9は、所定形状の非可視光パターンを自車前方の所定領域に形成する。可視光源部10は少なくとも、非可視光パターンが形成される所定領域に可視光を照射可能である。非可視光撮像部52は、非可視光パターンを撮像する。第1物標解析部54は、非可視光撮像部52から得られる2つの画像フレームの差分を演算し、所定領域に存在する物標を検出する。光源制御部20は、物標に可視光を照射するように可視光源部10を制御する。
このように、非可視光を用いて検出された物標に対して可視光を照射することで、当該物標の存在を運転者に迅速に認識させることができる。これにより、運転者は前方の障害物をより確実に認識することができるため、運転の安全性を向上させることができる。また、本実施の形態では、赤外光等の非可視光を用いて物標を検出している。このため、LIDAR(Light Detection and RangingあるいはLaser Imaging Detection and Ranging)やミリ波レーダ等を用いて物標を検出する場合に比べて、安価且つ簡単な構成で物標を検出することができる。
また、本実施の形態に係る車両用灯具システム1では、非可視光を用いた物標の検出から当該物標への可視光の照射までを、高速に、例えば5ms以内に完了させることができる。このため、物標移動の予測制御といった複雑な制御を用いずとも、簡単な演算のみで高精度に物標に可視光を照射することができる。また、高速な制御であるため、走行中に自車両のピッチング等が生じた場合でも、物標に対して高精度に可視光を照射し続けることができる。
また、本実施の形態に係る車両用灯具システム1によれば、自車走行路Q1および路肩Q2上の障害物だけでなく、道路の縁石なども検出することができる。このため、自車前方の道路形状を運転者に認識させやすくすることができる。この結果、より運転しやすい走行環境を提供することができる。また、本実施の形態では、非可視光パターンPは格子状の配光パターンである。これにより、少ない情報量で物標を高精度に検出することができる。また、自車両から物標までの距離も把握することができる。
また、非可視光パターンPが形成される所定領域は、水平線H以下の領域である。これにより、可視光の照射によるグレアを回避すべき物標、例えば他車両の運転者や歩行者を、第1物標解析部54により検出される物標から除外することができる。よって、グレアの回避を考慮することなく、第1物標解析部54により検出された物標に対して一律に可視光を照射することができる。この結果、非可視光を用いた物標検出の制御を簡略化することができる。さらに、所定領域を自車走行路Q1および路肩Q2を含む領域とすることで、第1物標解析部54の検出対象から、グレアを回避すべき物標をより確実に除外することができる。
また、車両用灯具システム1は、可視光撮像部35と、輝度解析部14と、第2物標解析部16と、トラッキング部40と、照度設定部42とを備える。輝度解析部14は、可視光撮像部35から得られる情報に基づいて、複数の個別領域Rそれぞれの輝度を検出する。第2物標解析部16は、可視光撮像部35から得られる情報に基づいて、自車前方に存在する物標を検出する。トラッキング部40は、第2物標解析部16により検出された物標の中から特定物標を決定し、輝度解析部14の検出結果に基づいて特定物標の変位を検出する。
照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果とトラッキング部40の検出結果とに基づいて、特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対する第1特定照度値を含む、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。また、照度設定部42は、第1物標解析部54により検出された物標と重なる物標重畳個別領域R2に対して第2特定照度値を定める。可視光源部10は、複数の個別領域Rそれぞれに照射する可視光の照度を独立に調節可能であり、光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて可視光源部10を制御する。
第2物標解析部16は、高精度に物標を検出できるが画像処理に比較的長時間を要するため、解析速度が劣る。このため、第2物標解析部16の解析結果のみに基づいてADB制御を実行すると、例えば特定物標が対向車100である場合、遮光領域を絞り込んで自車運転者の視認性を高めた配光パターンの形成が可能であるが、対向車100の変位に遮光領域を高精度に追従させることが困難である。
一方、簡単な輝度検出を行う輝度解析部14は、画像処理に要する時間が比較的短時間であるため、高速な解析が可能である。しかしながら、物標の検出精度が低いため、物標の存在位置を正確に把握することが困難である。このため、輝度解析部14の解析結果のみに基づいてADB制御を実行すると、配光パターンの遮光領域を広めに設定する必要があり、自車運転者の視認性が犠牲となる。
これに対し、本実施の形態の車両用灯具システム1では、低速だが高度な画像解析手段である第2物標解析部16と、単純だが高速な画像解析手段である輝度解析部14とを組み合わせて、対向車100の存在位置を高精度に把握し、配光パターンを決定している。このため、車両用灯具2における光の照射精度、言い換えれば配光パターンの形成精度を高めることができる。その結果、対向車100の運転者に与えるグレアの回避と、自車両の運転者の視認性確保とをより高い次元で両立することができる。
また、本実施の形態の可視光撮像部35は、高速カメラ36と低速カメラ38とを含む。そして、輝度解析部14は、高速カメラ36から得られる情報に基づいて輝度を検出する。また、第2物標解析部16は、低速カメラ38から得られる情報に基づいて物標を検出する。このように、輝度解析部14と第2物標解析部16とのそれぞれにカメラを割り当てることで、それぞれの画像解析に必要とされる性能に特化したカメラを採用することができる。一般に、輝度解析部14と第2物標解析部16の画像解析に必要とされる性能を兼ね備えるカメラは高価である。このため、本実施の形態によれば、可視光撮像部35の低コスト化を図ることができ、ひいては車両用灯具システム1の低コスト化を図ることができる。
さらに、第1物標解析部54は、自車両の車速が所定の第1速度にあるとき所定の第1間隔だけ離れた2つの画像フレームの差分を演算し、車速が第1速度よりも速い所定の第2速度にあるとき第1間隔よりも短い所定の第2間隔だけ離れた2つの画像フレームの差分を演算する。これにより、物標の検出精度を維持しながら、第1物標解析部54にかかる負荷を軽減することができる。
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれる。上述した実施の形態と変形との組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。
車両用灯具システム1は、第1物標解析部54と第2物標解析部16のうち一方の解析部のみを備え、当該一方の解析部が他方の解析部の処理を実行してもよい。また、実施の形態では、非可視光での物標検出と当該物標への可視光照射を、輝度解析部14および第2物標解析部16を用いたADB制御に組み込んだ態様を説明したが、特にこの構成に限定されない。非可視光での物標検出と当該物標への可視光照射は、ADB制御とは独立に実行されてもよい。この場合、第1物標解析部54と光源制御部20との間に灯具制御部18を介さず、光源制御部20が直に第1物標解析部54の解析結果に基づいて可視光源部10を制御する構成であってもよい。
実施の形態では、非可視光源部9、非可視光撮像部52、第1物標解析部54、可視光撮像部35、輝度解析部14、第2物標解析部16、灯具制御部18および光源制御部20が灯室8内に設けられているが、それぞれは適宜、灯室8外に設けられてもよい。例えば、可視光撮像部35のうち低速カメラ38は、車室内に搭載されている既存のカメラを利用することができる。なお、可視光撮像部35と可視光源部10、および非可視光撮像部52と非可視光源部9とは、それぞれ画角が一致していることが望ましい。また、非可視光を用いた物標検出制御の速度を向上させるために、非可視光撮像部52、第1物標解析部54および光源制御部20は、それぞれ近距離に配置することが好ましい。
また、高速カメラ36が低速カメラ38と同等の解像度を有する場合には、低速カメラ38を省略してもよい。これにより、車両用灯具システム1の小型化を図ることができる。この場合、第2物標解析部16は、高速カメラ36の画像データを用いて物標を検出する。
特定物標は歩行者200であってもよい。この場合、特定個別領域R1の第1特定照度値は、一例として他の個別領域Rに比べて高い値に設定される。これにより、より高い照度の光を歩行者200に照射して、自車運転者が歩行者200を視認しやすくすることができる。なお、歩行者200の顔が位置する個別領域Rは、遮光することが望ましい。トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果である各個別領域Rの輝度データにエッジ強調等の公知の画像処理を施すことで、歩行者200の位置を検出することができる。エッジ強調は、輝度解析部14の処理に含めてもよい。
可視光源部10は、DMDである光偏向装置26に代えて、光源光で自車前方を走査するスキャン光学系や、各個別領域Rに対応するLEDが配列されたLEDアレイを備えてもよい。
以下の態様も本発明に含めることができる。
自車前方の所定領域に形成された所定形状の非可視光パターンPを撮像する非可視光撮像部52から得られる2つの画像フレームの差分を演算し、所定領域に存在する物標を検出する第1物標解析部54と、
物標に可視光を照射するよう可視光源部10を制御する光源制御部20と、
を備える、車両用灯具2の制御装置50。
所定形状の非可視光パターンPを自車前方の所定領域に形成するステップと、
非可視光撮像部52から得られる2つの画像フレームの差分を演算し、所定領域に存在する物標を検出するステップと、
物標に可視光を照射するステップと、
を含む、車両用灯具2の制御方法。