以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限り、この用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。図1では、車両用灯具システム1の構成要素の一部を機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックは、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。これらの機能ブロックがハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
車両用灯具システム1(1A)は、車両前方の左右に配置される一対の前照灯ユニットを有する車両用前照灯装置に適用される。一対の前照灯ユニットは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、図1には車両用灯具2として一方の前照灯ユニットの構造を示す。
車両用灯具システム1が備える車両用灯具2は、車両前方側に開口部を有するランプボディ4と、ランプボディ4の開口部を覆うように取り付けられた透光カバー6とを備える。透光カバー6は、透光性を有する樹脂やガラス等で形成される。ランプボディ4と透光カバー6とにより形成される灯室8内には、光源部10と、撮像部12と、制御装置50とが収容される。
光源部10は、自車前方に並ぶ複数の個別領域(図3参照)のそれぞれに照射する光の照度(強度)を独立に調節可能な装置である。光源部10は、光源22と、反射光学部材24と、光偏向装置26と、投影光学部材28とを有する。各部は、図示しない支持機構によりランプボディ4に取り付けられる。
光源22は、LED(Light emitting diode)、LD(Laser diode)、EL(Electroluminescence)素子等の半導体発光素子や、電球、白熱灯(ハロゲンランプ)、放電灯(ディスチャージランプ)等を用いることができる。
反射光学部材24は、光源22から出射した光を光偏向装置26の反射面に導くように構成される。反射光学部材24は、内面が所定の反射面となっている反射鏡で構成される。なお、反射光学部材24は、中実導光体などであってもよい。また、光源22から出射した光を光偏向装置26に直接導くことができる場合は、反射光学部材24を設けなくてもよい。
光偏向装置26は、投影光学部材28の光軸上に配置され、光源22から出射された光を選択的に投影光学部材28へ反射するように構成される。光偏向装置26は、例えばDMD(Digital Mirror Device)で構成される。すなわち、光偏向装置26は、複数の微小ミラーをアレイ(マトリックス)状に配列したものである。これらの複数の微小ミラーの反射面の角度をそれぞれ制御することで、光源22から出射された光の反射方向を選択的に変えることができる。つまり、光偏向装置26は、光源22から出射された光の一部を投影光学部材28へ向けて反射し、それ以外の光を、投影光学部材28によって有効に利用されない方向へ向けて反射することができる。ここで、有効に利用されない方向とは、例えば、投影光学部材28には入射するが配光パターンの形成にほとんど寄与しない方向や、図示しない光吸収部材(遮光部材)に向かう方向と捉えることができる。
図2(A)は、光偏向装置の概略構成を示す正面図である。図2(B)は、図2(A)に示す光偏向装置のA-A断面図である。光偏向装置26は、複数の微小なミラー素子30がマトリックス状に配列されたマイクロミラーアレイ32と、ミラー素子30の反射面30aの前方側(図2(B)に示す光偏向装置26の右側)に配置された透明なカバー部材34とを有する。カバー部材34は、例えば、ガラスやプラスチック等で構成される。
ミラー素子30は略正方形であり、水平方向に延びミラー素子30をほぼ等分する回動軸30bを有する。マイクロミラーアレイ32の各ミラー素子30は、光源22から出射された光を所望の配光パターンの一部として利用されるように投影光学部材28へ向けて反射する第1反射位置(図2(B)において実線で示す位置)と、光源22から出射された光が有効に利用されないように反射する第2反射位置(図2(B)において点線で示す位置)とを切り替え可能に構成されている。各ミラー素子30は、回動軸30b周りに回動して、第1反射位置と第2反射位置との間で個別に切り替えられる。各ミラー素子30は、オン時に第1反射位置をとり、オフ時に第2反射位置をとる。
図3は、自車前方の様子を模式的に示す図である。上述のように光源部10は、灯具前方に向けて互いに独立に光を照射可能な個別照射部としてのミラー素子30を複数有する。光源部10は、ミラー素子30によって自車前方に並ぶ複数の個別領域Rに光を照射することができる。各個別領域Rは、撮像部12、より具体的には例えば高速カメラ36の1ピクセル又は複数ピクセルの集合に対応する領域である。本実施の形態では、各個別領域Rと各ミラー素子30とが対応付けられている。
図2(A)及び図3では、説明の便宜上、ミラー素子30及び個別領域Rを横10×縦8の配列としているが、ミラー素子30及び個別領域Rの数は特に限定されない。例えば、マイクロミラーアレイ32の解像度(言い換えればミラー素子30及び個別領域Rの数)は1000~30万ピクセルである。また、光源部10が1つの配光パターンの形成に要する時間は、例えば0.1~5msである。すなわち、光源部10は、0.1~5ms毎に配光パターンを変更することができる。
図1に示すように、投影光学部材28は、例えば、前方側表面及び後方側表面が自由曲面形状を有する自由曲面レンズからなる。投影光学部材28は、その後方焦点を含む後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方に投影する。投影光学部材28は、その後方焦点が車両用灯具2の光軸上、且つマイクロミラーアレイ32の反射面の近傍に位置するように配置される。なお、投影光学部材28は、リフレクタであってもよい。
光源22から出射された光は、反射光学部材24で反射されて、光偏向装置26のマイクロミラーアレイ32に照射される。光偏向装置26は、第1反射位置にある所定のミラー素子30によって投影光学部材28へ向けて光を反射する。この反射された光は、投影光学部材28を通過して灯具前方に進行し、各ミラー素子30に対応する各個別領域Rに照射される。これにより、所定形状の配光パターンが灯具前方に形成される。
撮像部12は、自車前方を撮像する装置である。撮像部12は、高速カメラ36と低速カメラ38とを含む。高速カメラ36は、比較的フレームレートが高く、例えば200fps以上10000fps以下(1フレームあたり0.1~5ms)である。一方、低速カメラ38は、比較的フレームレートが低く、例えば30fps以上120fps以下である(1フレームあたり約8~33ms)。また、高速カメラ36は、比較的解像度が小さく、例えば30万ピクセル以上500万ピクセル未満である。一方、低速カメラ38は、比較的解像度が大きく、例えば500万ピクセル以上である。高速カメラ36及び低速カメラ38は、全ての個別領域Rを撮像する。なお、高速カメラ36及び低速カメラ38の解像度は、上記数値に限定されず、技術的に整合する範囲で任意の値に設定することができる。
制御装置50は、輝度解析部14と、状況解析部16と、灯具制御部18と、光源制御部20とを有する。撮像部12が取得した画像データは、輝度解析部14及び状況解析部16に送られる。
輝度解析部14は、撮像部12から得られる情報(画像データ)に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14は、状況解析部16に比べて精度の低い画像解析を実行し、高速に解析結果を出力する高速低精度解析部である。本実施の形態の輝度解析部14は、高速カメラ36から得られる情報に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14は、例えば0.1~5ms毎に各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14の検出結果、すなわち個別領域Rの輝度情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
状況解析部16は、撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方の状況を検出する。例えば、状況解析部16は、自車前方に存在する物標を検出する。状況解析部16は、輝度解析部14に比べて精度の高い画像解析を実行し、低速に解析結果を出力する低速高精度解析部である。本実施の形態の状況解析部16は、低速カメラ38から得られる情報に基づいて自車前方の状況を検出する。状況解析部16は、例えば50ms毎に状況を検出する。状況解析部16によって検出される物標としては、図3に示すように、対向車100や歩行者200等が例示される。また、先行車や、自車両の走行に支障を来す障害物、道路標識、道路標示、道路形状等も物標に含まれる。
状況解析部16は、アルゴリズム認識やディープラーニング等を含む、従来公知の方法を用いて物標を検出することができる。例えば、状況解析部16は、対向車100を示す特徴点を予め保持している。そして、状況解析部16は、低速カメラ38の撮像データの中に対向車100を示す特徴点を含むデータが存在する場合、対向車100の位置を認識する。前記「対向車100を示す特徴点」とは、例えば対向車100の前照灯の推定存在領域に現れる所定光度以上の光点102(図3参照)である。同様に、状況解析部16は、歩行者200やその他の物標を示す特徴点を予め保持しており、低速カメラ38の撮像データの中にこれらの特徴点を含むデータが存在する場合、当該特徴点に対応する物標の位置を認識する。状況解析部16の検出結果、すなわち自車前方の物標情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
灯具制御部18は、輝度解析部14及び/又は状況解析部16の検出結果を用いて、特定物標の決定、特定物標の変位検出、特定個別領域R1の設定、各個別領域Rに照射する光の照度値の設定等を実行する。一例として、灯具制御部18は、トラッキング部40と、照度設定部42とを含む。
照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。照度設定部42は、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲に含まれる個別領域Rについて、検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に低い照度値を設定し、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に高い照度値を設定する。前記「所定の範囲」は、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲であってもよいし、一部の範囲であってもよい。以下に説明する図4(A)及び図4(B)では、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲を、前記「所定の範囲」としている。
例えば照度設定部42は、予め定められたしきい値よりも輝度の低い個別領域Rには、当該しきい値よりも輝度の高い個別領域Rに対して設定する照度値よりも低い照度値を設定する。一方、当該しきい値よりも輝度の高い個別領域Rには、当該しきい値よりも輝度の低い個別領域Rに対して設定する照度値よりも高い照度値を設定する。この結果、輝度が相対的に低い個別領域Rの照度値は、輝度が相対的に高い個別領域Rの照度値よりも低い値となる。逆に、輝度が相対的に高い個別領域Rの照度値は、輝度が相対的に低い個別領域Rの照度値よりも高い値となる。一例として、照度設定部42は、しきい値よりも輝度の低い個別領域Rには、現在設定されている照度値よりも低い照度値を設定する。一方、しきい値よりも輝度の高い個別領域Rには、現在設定されている照度値よりも高い照度値を設定する。なお、しきい値を用いずに、例えば最も輝度の高い個別領域Rの輝度を基準として、輝度が低くなるにつれて設定する照度値を下げていってもよい。
つまり、照度設定部42は、明るい個別領域Rはより明るくなり、暗い個別領域Rはより暗くなるような配光パターンを決定する。この配光パターンによれば、自車前方の照射対象物は、明暗コントラストが強調される。したがって、状況解析部16による物標の検出精度を向上させることができる。このような照度設定部42による制御をハイコントラスト制御と称し、ハイコントラスト制御において決定される配光パターンを、ハイコントラスト配光パターンと称する。照度設定部42は、各個別領域Rの照度値を示す信号を、光源制御部20に送信する。照度設定部42は、例えば0.1~5ms毎に照度値を設定する。
光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10を制御する。光源制御部20は、光源22の点消灯と、各ミラー素子30のオン/オフ切り替えとを制御する。光源制御部20は、各個別領域Rに照射する光の照度値に基づいて、各ミラー素子30のオンの時間比率(幅や密度)を調節する。これにより、各個別領域Rに照射される光の照度を調節することができる。そして、複数の部分照射領域が集まって、配光パターンが構成される。光源制御部20は、例えば0.1~5ms毎に、光源22及び/又は光偏向装置26に駆動信号を送信する。
光源制御部20による光源部10の制御により、ハイコントラスト配光パターンが形成される。そして、ハイコントラスト配光パターンを形成した結果である、実際の各個別領域Rの輝度値が、輝度解析部14により検出される。また、この検出結果に基づいて、照度設定部42が再び照度値を設定する。なお、一例として照度設定部42は、ハイコントラスト制御の最初に、全ての個別領域Rの照度を一定にした配光パターンを形成する。
ハイコントラスト制御では、新たに設定される相対的に低い照度値は、現在設定されている照度値よりも低い照度値となり、新たに設定される相対的に高い照度値は、現在設定されている照度値よりも高い照度値となり得る。この場合、正帰還がかかって、いずれは設定照度値が0と最大値とに二極化してしまう。照度値が二極化すると、照度値0が設定される個別領域Rにおいて、運転者の視認性を確保することが困難となり得る。
これに対し、以下のように基準照度値Mと係数とを用いることで、当該二極化による運転者の視認性低下を回避することができる。より具体的には、照度設定部42は、各個別領域Rについて、検出された輝度値の大きさに応じて所定の係数を設定し、設定した係数を所定の基準照度値Mに乗じて照度値を設定する。図4(A)は、ハイコントラスト制御における検出輝度値と係数との関係を示す図である。図4(B)は、ハイコントラスト制御における検出輝度値と設定照度値との関係を示す図である。
照度設定部42は、図4(A)に示すように、検出輝度値の大きさに応じて予め設定された所定の係数を有する。相対的に大きい検出輝度値には相対的に大きい係数が設定され、相対的に小さい検出輝度値には相対的に小さい係数が設定される。係数の値は、物標の検出精度の向上度合い等を考慮して、実験やシミュレーションの結果に基づいて適宜設定することができる。ここでは一例として、検出輝度値のしきい値に対して係数1.0が設定され、最大輝度値に対して係数1.5が設定され、最小輝度値に対して係数0.5が設定されている。照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果に基づいて、各個別領域Rに対して係数を設定する。
また、照度設定部42は、図4(B)に示すように、予め設定された所定の基準照度値Mを有する。照度設定部42は、各個別領域Rに設定した係数を基準照度値Mに乗じて、個別領域Rの照度値を設定する。これにより、検出輝度値が低い個別領域Rには低い照度値が設定され、検出輝度値が高い個別領域Rには高い照度値が設定される。
また、現在設定されている照度値と、係数と、照度値の下限値及び上限値とを用いることでも、照度値の二極化による運転者の視認性低下を回避することができる。すなわち、照度設定部42は、予め設定された照度値の下限値及び上限値を有する。そして、照度設定部42は、各個別領域Rについて、検出された輝度値の大きさに応じて所定の係数を設定する。そして、設定した係数を、基準照度値Mに代えて現在の照度値に乗じて新たな照度値を算出する。
照度設定部42は、算出した照度値が所定の下限値以上である場合は現在の照度値を算出した照度値に更新し、算出した照度値が下限値を下回る場合は現在の照度値を維持する。また、照度設定部42は、算出した照度値が所定の上限値以下である場合は現在の照度値を算出した照度値に更新し、算出した照度値が上限値を上回る場合は現在の照度値を維持する。なお、照度設定部42が少なくとも照度値の下限値を有していれば、暗い個別領域Rに対して照度値0が設定されることは回避することができる。
車両用灯具システム1は、ハイコントラスト配光パターンを利用して、自車前方の状況に応じて最適な配光パターンを形成するADB(Adaptive Driving Beam)制御を実行する。すなわち、車両用灯具システム1は、ハイコントラスト配光パターンが形成された状況下で低速カメラ38により自車前方を撮像する。状況解析部16は、この撮像データを用いて物標を検出する。このため、より高精度に物標を検出することができる。
トラッキング部40は、状況解析部16により検出された物標の中から特定物標を決定する。また、トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果に基づいて特定物標の変位を検出する。本実施の形態では、一例として対向車100を特定物標とする。
具体的には、トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果と状況解析部16の検出結果とを統合する。そして、輝度解析部14で検出された各個別領域Rの輝度のうち、特定物標である対向車100の光点102が位置する個別領域Rの輝度を対向車100と関連付ける。トラッキング部40は、その後に取得する輝度解析部14の検出結果において、対向車100と関連付けた輝度の位置を認識することで、特定物標である対向車100の変位を検出することができる。トラッキング部40は、例えば50ms毎に特定物標の決定処理を実行する。また、トラッキング部40は、例えば0.1~5ms毎に特定物標の変位検出処理(トラッキング)を実行する。
照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果と、トラッキング部40の検出結果とに基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。各個別領域Rのうち、特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対しては特定照度値を定める。具体的には、照度設定部42はまず、特定物標である対向車100の存在位置に基づいて特定個別領域R1を定める。例えば照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に含まれる対向車100の位置情報に基づいて、特定個別領域R1を定める。特定個別領域R1の設定について、例えば照度設定部42は、対向車100の前照灯に対応する2つの光点102間の水平方向距離a(図3参照)に対して、予め定められた所定比率の鉛直方向距離bを定め、横a×縦bの寸法範囲と重なる個別領域Rを特定個別領域R1(図3参照)とする。特定個別領域R1には、対向車の運転者と重なる個別領域Rが含まれる。
そして、照度設定部42は、特定個別領域R1に対する特定照度値を定める。また、照度設定部42は、特定個別領域R1を除く他の個別領域Rについて、ハイコントラスト制御に基づいて照度値を定める。また、照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の変位を認識し、特定個別領域R1の位置情報を更新する。そして、各個別領域Rに照射する光の照度値を更新する。トラッキング部40による処理と照度設定部42による処理とは、少なくとも一時において並行して実行される。
一例として、照度設定部42は、対向車100の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対して、特定照度値「0」を設定し、他の個別領域Rに対して、照度値「1」を設定する。この設定を、第1照度情報とする。また、照度設定部42は、ハイコントラスト制御に準じて、特定個別領域R1を含む全ての個別領域Rに対する照度値を設定する。この設定を、第2照度情報とする。そして、照度設定部42は、第1照度情報と第2照度情報とをAND演算する。これにより、特定個別領域R1に対する特定照度値が「0」であり、他の個別領域Rに対する照度値がハイコントラスト制御に準じて定まる照度値である照度情報が生成される。すなわち、特定個別領域R1は遮光され、特定個別領域R1を除く各個別領域Rにはハイコントラスト配光パターンが形成される。
図5(A)及び図5(B)は、実施の形態1に係る車両用灯具システムにおいて実行されるADB制御の一例を示すフローチャートである。このフローは、例えば図示しないライトスイッチによってADB制御の実行指示がなされ、且つイグニッションがオンのときに所定のタイミングで繰り返し実行され、ADB制御の実行指示が解除される(あるいは停止指示がなされる)か、イグニッションがオフにされた場合に終了する。また、図5(A)に示すフローは、例えば0.1~5ms毎に繰り返される高速処理であり、図5(B)に示すフローは、例えば50ms毎に繰り返される低速処理である。この低速処理と高速処理とは、並行して実行される。
図5(A)に示すように、高速処理では、まずハイコントラスト配光パターン形成フラグがオンであるか判断される(S101)。当該判断は、例えば照度設定部42により実行される。ハイコントラスト配光パターン形成フラグがオンである場合(S101のY)、ハイコントラスト配光パターンが形成されている状態にあることを示す。この場合、高速カメラ36によって自車前方が撮像される(S103)。ハイコントラスト配光パターン形成フラグがオンでない場合(S101のN)、照度一定配光パターンが形成された後に(S102)、高速カメラ36によって自車前方が撮像される(S103)。
次に、輝度解析部14によって、高速カメラ36の画像データに基づいて、各個別領域Rの輝度が検出される(S104)。続いて、特定個別領域R1が設定されているか判断される(S105)。当該判断は、例えばトラッキング部40により実行される。特定個別領域R1が設定されている場合(S105のY)、トラッキング部40によって、特定物標がトラッキングされて特定個別領域R1の位置(変位)が検出される。照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の設定(位置情報)を更新する(S106)。
次に、照度設定部42によって、ハイコントラスト制御に準じて各個別領域Rに照射する光の照度値が設定される(S107)。特定個別領域R1に対しては、特定照度値が設定される。次に、光源制御部20によって光源部10が駆動され、定められた照度の光が光源部10から照射される(S108)。そして、照度設定部42によりハイコントラスト配光パターン形成フラグがオンにされて(S109)、本ルーチンが終了する。特定個別領域R1が設定されていない場合(S105のN)、照度設定部42によって、個別領域Rに照射する光の照度値が設定される(S106)。この場合、設定される照度値の中には、特定照度値は含まれない。その後は、ステップS107,S108,S109の処理が実行されて、本ルーチンが終了する。
ステップS106において、トラッキングにより特定物標の消失が検出された場合には、特定個別領域R1の設定も消失する。したがって、ステップS107で設定される照度値の中には、特定照度値は含まれないこととなる。また、次回のルーチンにおけるステップS105では、後述するステップS205の処理が実行されるまでは、特定個別領域R1が設定されていない(S105のN)と判定される。
図5(B)に示すように、低速処理では、まず低速カメラ38によって自車前方が撮像される(S201)。次に、状況解析部16によって、低速カメラ38の画像データに基づいて、自車前方に存在する物標が検出される(S202)。次に、検出された物標の中に特定物標が含まれているか判断される(S203)。当該判断は、例えばトラッキング部40により実行される。
特定物標が含まれている場合(S203のY)、トラッキング部40によって、特定物標が決定される(S204)。次に、照度設定部42によって、特定物標の存在位置に基づいて特定個別領域R1が設定され(S205)、本ルーチンが終了する。特定物標が含まれていない場合(S203のN)、本ルーチンが終了する。なお、上記フローチャートでは、低速処理において特定個別領域が設定されているが、当該設定は高速処理において実行されてもよい。
以上説明したように、本実施の形態に係る車両用灯具システム1は、撮像部12と、輝度解析部14と、照度設定部42と、光源部10と、光源制御部20とを備える。輝度解析部14は、自車前方に並ぶ複数の個別領域Rそれぞれの輝度を検出する。照度設定部42は、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲に含まれる個別領域Rについて、検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に低い照度値を設定し、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に高い照度値を設定する。これにより、自車前方に存在する照射対象物の明暗コントラストを強調することができる。よって、撮像部12の画像データを用いた物標の検出精度を向上させることができる。このため、ADB制御における光の照射精度、言い換えれば配光パターンの形成精度を高めることができる。
また、照度設定部42は、各個別領域Rについて、検出された輝度値の大きさに応じて所定の係数を設定し、設定した係数を所定の基準照度値に乗じて照度値を設定する。あるいは、照度設定部42は、各個別領域Rについて、検出された輝度値の大きさに応じて所定の係数を設定し、設定した係数を現在の照度値に乗じて新たな照度値を算出し、算出した照度値が所定の下限値以上である場合は現在の照度値を算出した照度値に更新し、算出した照度値が前記下限値を下回る場合は現在の照度値を維持する。これらにより、ハイコントラスト配光パターンが繰り返し形成されることで設定照度値が0と最大値とに二極化し、一部の個別領域Rにおける運転者の視認性が低下することを回避することができる。
また、本実施の形態の車両用灯具システム1では、低速だが高度な画像解析手段である状況解析部16と、単純だが高速な画像解析手段である輝度解析部14とを組み合わせて、対向車100の存在位置を高精度に把握し、配光パターンを決定している。このため、ADB制御における光の照射精度、言い換えれば配光パターンの形成精度を高めることができる。その結果、対向車100の運転者に与えるグレアの回避と、自車両の運転者の視認性確保とをより高い次元で両立することができる。
(実施の形態2)
実施の形態2に係る車両用灯具システムは、光源部10に加えて他の光源部を用いてハイコントラスト制御が実行される点を除いて実施の形態1に係る車両用灯具システムの構成と共通する。以下、実施の形態2に係る車両用灯具システムについて、実施の形態1と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
図6は、実施の形態2に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。図6では、図1と同様に車両用灯具システムの構成要素の一部を機能ブロックとして描いている。車両用灯具システム1(1B)は、光源部10と、撮像部12と、制御装置50と、他の光源部としての灯具ユニット60とを備える。灯具ユニット60は、光源部10とは独立に制御される。灯具ユニット60は、例えば車両に設けられた図示しないライトスイッチが運転者に操作されることで、点消灯が切り替えられ、また形成する配光パターンの種類が切り替えられる。灯具ユニット60は、従来公知のロービーム用配光パターンやハイビーム用配光パターン等を形成することができる。以下では適宜、灯具ユニット60により形成される配光パターンを、通常配光パターンと称する。
照度設定部42は、灯具ユニット60により通常配光パターンが形成されている状況下で、ハイコントラスト制御を実行する。例えば照度設定部42は、輝度が低い個別領域Rには、現在設定されている照度値よりも低い照度値を設定し、輝度が高い個別領域Rには、現在設定されている照度値よりも高い照度値を設定する。設定する照度値の高低の程度は、物標の検出精度の向上度合い等を考慮して、実験やシミュレーションの結果に基づいて適宜設定することができる。なお、新たな照度値を設定する際に実施の形態1で説明した係数を用いてもよい。すなわち、現在設定されている照度値に係数を乗じて、新たな照度値を設定してもよい。
光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10を制御する。この結果、ハイコントラスト配光パターンが通常配光パターンに重ね合わされる。ハイコントラスト配光パターンの形成により、自車前方の明暗コントラストが強調される。また、ハイコントラスト配光パターンにおける各個別領域Rの照度が二極化したとしても、ハイコントラスト配光パターンにおいて照度の低い個別領域Rに対しては通常配光パターンが照射されている。すなわち、灯具ユニット60は、照度設定部42によって相対的に低い照度値が設定される個別領域Rに対して光を照射する。このため、ハイコントラスト配光パターンにおける照度値の二極化によって運転者の視認性が低下することを、回避することができる。
なお、一例として照度設定部42は、ハイコントラスト制御の最初に、特定個別領域R1を除く全ての個別領域Rの照度を一定にした配光パターンを光源部10により形成する。または、光源部10による配光パターンの形成を行わず、灯具ユニット60により通常配光パターンのみが形成される。この場合、通常配光パターンの照射により得られる各個別領域Rの輝度を、ハイコントラスト配光パターンの形成に利用する。2回目以降のハイコントラスト配光パターンは、通常配光パターンのみが形成された状況で決定されてもよいし、通常配光パターンとハイコントラスト配光パターンとが重ね合わされた状況で決定されてもよいし、ハイコントラスト配光パターンのみが形成された状況で決定されてもよい。
本発明は、上述の実施の形態1,2に限定されるものではなく、各実施の形態を組み合わせたり、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような組み合わせられ、もしくは変形が加えられて得られる新たな実施の形態も本発明の範囲に含まれる。このような新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態及び変形それぞれの効果をあわせもつ。
実施の形態1,2では、撮像部12、輝度解析部14、状況解析部16、灯具制御部18及び光源制御部20が灯室8内に設けられているが、それぞれは適宜、灯室8外に設けられてもよい。例えば、撮像部12のうち低速カメラ38は、車室内に搭載されている既存のカメラを利用することができる。なお、撮像部12と光源部10とは画角が一致していることが望ましい。
また、高速カメラ36が低速カメラ38と同等の解像度を有する場合には、低速カメラ38を省略してもよい。これにより、車両用灯具システム1の小型化を図ることができる。この場合、状況解析部16は、高速カメラ36の画像データを用いて物標を検出する。
また、特定物標は、歩行者200であってもよい。この場合、特定個別領域R1の特定照度値は、例えば最大値に設定される。これにより、より高い照度の光を歩行者200に照射して、自車運転者が歩行者200を視認しやすくすることができる。この場合、歩行者200の顔が位置する個別領域Rは、遮光することが望ましい。トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果である各個別領域Rの輝度データにエッジ強調等の公知の画像処理を施すことで、歩行者200の位置をトラッキングすることができる。エッジ強調は、輝度解析部14の処理に含めてもよい。
光源部10は、DMDである光偏向装置26に代えて、光源光で自車前方を走査するスキャン光学系や、各個別領域Rに対応するLEDが配列されたLEDアレイを備えてもよい。
ハイコントラスト制御における検出輝度値と設定照度値との関係は、次のようであってもよい。図7(A)~図7(C)は、ハイコントラスト制御における検出輝度値と設定照度値との関係の他の例を示す図である。すなわち、図4(B)に示す例では、検出輝度値に対して設定照度値を連続的且つ直線的に変化させている。しかしながら、特にこの関係に限定されず、図7(A)及び図7(B)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を段階的に変化させてもよい。また、図7(C)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を曲線的に変化させてもよい。なお、図7(C)では上に凸の曲線を図示しているが、下に凸の曲線であってもよい。また、検出輝度値と係数との関係は、検出輝度値と設定照度値との関係と同様であるため、図示するまでもなく明らかである。
以下の態様も本発明に含めることができる。
自車前方を撮像する撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域Rのそれぞれの輝度を検出する輝度解析部14と、
輝度解析部14の検出結果に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める照度設定部42と、
照度設定部42が定めた照度値に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部10を制御する光源制御部20と、
を備え、
照度設定部42は、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲に含まれる個別領域Rについて、検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に低い照度値を設定し、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に高い照度値を設定する、車両用灯具2の制御装置50。
自車前方を撮像する撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域Rのそれぞれの輝度を検出するステップと、
検出した輝度に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定めるステップと、
定めた照度値に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部10を制御するステップと、
を含み、
照度値を定めるステップにおいて、検出された輝度が所定の範囲に含まれる個別領域Rについて、検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に低い照度値を設定し、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に高い照度値を設定する、車両用灯具2の制御方法。
(実施の形態3)
図8は、実施の形態3に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。図8では、車両用灯具システム1の構成要素の一部を機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックは、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。これらの機能ブロックがハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
車両用灯具システム1(1A)は、車両前方の左右に配置される一対の前照灯ユニットを有する車両用前照灯装置に適用される。一対の前照灯ユニットは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、図8には車両用灯具2として一方の前照灯ユニットの構造を示す。
車両用灯具システム1が備える車両用灯具2は、車両前方側に開口部を有するランプボディ4と、ランプボディ4の開口部を覆うように取り付けられた透光カバー6とを備える。透光カバー6は、透光性を有する樹脂やガラス等で形成される。ランプボディ4と透光カバー6とにより形成される灯室8内には、灯具部62と、撮像部12と、制御装置50とが収容される。
灯具部62は、少なくとも光源部10を有する。光源部10は、自車前方に並ぶ複数の個別領域(図3参照)のそれぞれに照射する光の照度(強度)を独立に調節可能な装置である。光源部10は、光源22と、反射光学部材24と、光偏向装置26と、投影光学部材28とを有する。各部は、図示しない支持機構によりランプボディ4に取り付けられる。
光源22は、LED(Light emitting diode)、LD(Laser diode)、EL(Electroluminescence)素子等の半導体発光素子や、電球、白熱灯(ハロゲンランプ)、放電灯(ディスチャージランプ)等を用いることができる。
反射光学部材24は、光源22から出射した光を光偏向装置26の反射面に導くように構成される。反射光学部材24は、内面が所定の反射面となっている反射鏡で構成される。なお、反射光学部材24は、中実導光体などであってもよい。また、光源22から出射した光を光偏向装置26に直接導くことができる場合は、反射光学部材24を設けなくてもよい。
光偏向装置26は、投影光学部材28の光軸上に配置され、光源22から出射された光を選択的に投影光学部材28へ反射するように構成される。光偏向装置26は、例えばDMD(Digital Mirror Device)で構成される。すなわち、光偏向装置26は、複数の微小ミラーをアレイ(マトリックス)状に配列したものである。これらの複数の微小ミラーの反射面の角度をそれぞれ制御することで、光源22から出射された光の反射方向を選択的に変えることができる。つまり、光偏向装置26は、光源22から出射された光の一部を投影光学部材28へ向けて反射し、それ以外の光を、投影光学部材28によって有効に利用されない方向へ向けて反射することができる。ここで、有効に利用されない方向とは、例えば、投影光学部材28には入射するが配光パターンの形成にほとんど寄与しない方向や、図示しない光吸収部材(遮光部材)に向かう方向と捉えることができる。
図2(A)は、光偏向装置の概略構成を示す正面図である。図2(B)は、図2(A)に示す光偏向装置のA-A断面図である。光偏向装置26は、複数の微小なミラー素子30がマトリックス状に配列されたマイクロミラーアレイ32と、ミラー素子30の反射面30aの前方側(図2(B)に示す光偏向装置26の右側)に配置された透明なカバー部材34とを有する。カバー部材34は、例えば、ガラスやプラスチック等で構成される。
ミラー素子30は略正方形であり、水平方向に延びミラー素子30をほぼ等分する回動軸30bを有する。マイクロミラーアレイ32の各ミラー素子30は、光源22から出射された光を所望の配光パターンの一部として利用されるように投影光学部材28へ向けて反射する第1反射位置(図2(B)において実線で示す位置)と、光源22から出射された光が有効に利用されないように反射する第2反射位置(図2(B)において点線で示す位置)とを切り替え可能に構成されている。各ミラー素子30は、回動軸30b周りに回動して、第1反射位置と第2反射位置との間で個別に切り替えられる。各ミラー素子30は、オン時に第1反射位置をとり、オフ時に第2反射位置をとる。
図3は、自車前方の様子を模式的に示す図である。上述のように光源部10は、灯具前方に向けて互いに独立に光を照射可能な個別照射部としてのミラー素子30を複数有する。光源部10は、ミラー素子30によって自車前方に並ぶ複数の個別領域Rに光を照射することができる。各個別領域Rは、撮像部12、より具体的には例えば高速カメラ36の1ピクセル又は複数ピクセルの集合に対応する領域である。本実施の形態では、各個別領域Rと各ミラー素子30とが対応付けられている。
図2(A)及び図3では、説明の便宜上、ミラー素子30及び個別領域Rを横10×縦8の配列としているが、ミラー素子30及び個別領域Rの数は特に限定されない。例えば、マイクロミラーアレイ32の解像度(言い換えればミラー素子30及び個別領域Rの数)は1000~30万ピクセルである。また、光源部10が1つの配光パターンの形成に要する時間は、例えば0.1~5msである。すなわち、光源部10は、0.1~5ms毎に配光パターンを変更することができる。
図8に示すように、投影光学部材28は、例えば、前方側表面及び後方側表面が自由曲面形状を有する自由曲面レンズからなる。投影光学部材28は、その後方焦点を含む後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方に投影する。投影光学部材28は、その後方焦点が車両用灯具2の光軸上、且つマイクロミラーアレイ32の反射面の近傍に位置するように配置される。なお、投影光学部材28は、リフレクタであってもよい。
光源22から出射された光は、反射光学部材24で反射されて、光偏向装置26のマイクロミラーアレイ32に照射される。光偏向装置26は、第1反射位置にある所定のミラー素子30によって投影光学部材28へ向けて光を反射する。この反射された光は、投影光学部材28を通過して灯具前方に進行し、各ミラー素子30に対応する各個別領域Rに照射される。これにより、所定形状の配光パターンが灯具前方に形成される。
撮像部12は、自車前方を撮像する装置である。撮像部12は、高速カメラ36と低速カメラ38とを含む。高速カメラ36は、比較的フレームレートが高く、例えば200fps以上10000fps以下(1フレームあたり0.1~5ms)である。一方、低速カメラ38は、比較的フレームレートが低く、例えば30fps以上120fps以下である(1フレームあたり約8~33ms)。また、高速カメラ36は、比較的解像度が小さく、例えば30万ピクセル以上500万ピクセル未満である。一方、低速カメラ38は、比較的解像度が大きく、例えば500万ピクセル以上である。高速カメラ36及び低速カメラ38は、全ての個別領域Rを撮像する。なお、高速カメラ36及び低速カメラ38の解像度は、上記数値に限定されず、技術的に整合する範囲で任意の値に設定することができる。
制御装置50は、輝度解析部14と、状況解析部16と、灯具制御部18と、光源制御部20とを有する。撮像部12が取得した画像データは、輝度解析部14及び状況解析部16に送られる。
輝度解析部14は、撮像部12から得られる情報(画像データ)に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14は、状況解析部16に比べて精度の低い画像解析を実行し、高速に解析結果を出力する高速低精度解析部である。本実施の形態の輝度解析部14は、高速カメラ36から得られる情報に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14は、例えば0.1~5ms毎に各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14の検出結果、すなわち個別領域Rの輝度情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
状況解析部16は、撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方の状況を検出する。例えば、状況解析部16は、自車前方に存在する物標を検出する。状況解析部16は、輝度解析部14に比べて精度の高い画像解析を実行し、低速に解析結果を出力する低速高精度解析部である。本実施の形態の状況解析部16は、低速カメラ38から得られる情報に基づいて自車前方の状況を検出する。状況解析部16は、例えば50ms毎に状況を検出する。状況解析部16によって検出される物標としては、図3に示すように、対向車100や歩行者200等が例示される。また、先行車や、自車両の走行に支障を来す障害物、道路標識、道路標示、道路形状等も物標に含まれる。
状況解析部16は、アルゴリズム認識やディープラーニング等を含む、従来公知の方法を用いて物標を検出することができる。例えば、状況解析部16は、対向車100を示す特徴点を予め保持している。そして、状況解析部16は、低速カメラ38の撮像データの中に対向車100を示す特徴点を含むデータが存在する場合、対向車100の位置を認識する。前記「対向車100を示す特徴点」とは、例えば対向車100の前照灯の推定存在領域に現れる所定光度以上の光点102(図3参照)である。同様に、状況解析部16は、歩行者200やその他の物標を示す特徴点を予め保持しており、低速カメラ38の撮像データの中にこれらの特徴点を含むデータが存在する場合、当該特徴点に対応する物標の位置を認識する。状況解析部16の検出結果、すなわち自車前方の物標情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
灯具制御部18は、輝度解析部14及び/又は状況解析部16の検出結果を用いて、特定物標の決定、特定物標の変位検出、特定個別領域R1の設定、各個別領域Rに照射する光の照度値の設定、配光パターンの形成制御等を実行する。一例として、灯具制御部18は、トラッキング部40と、照度設定部42と、パターン形成制御部46とを含む。
照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果に基づいて、すなわち各個別領域Rの輝度に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。つまり、照度設定部42は、各個別領域Rの輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定される第1配光パターンを決定する。本実施の形態の照度設定部42は、第1配光パターンとしてハイコントラスト配光パターンを決定する。
ハイコントラスト配光パターンは、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲にある個別領域Rについて、検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に低い照度値が設定され、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に高い照度値が設定されて得られる配光パターンである。前記「所定の範囲」は、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲であってもよいし、一部の範囲であってもよい。以下に説明する図4(A)及び図4(B)では、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲を、前記「所定の範囲」としている。
例えば照度設定部42は、予め定められたしきい値よりも輝度の低い個別領域Rには、当該しきい値よりも輝度の高い個別領域Rに対して設定する照度値よりも低い照度値を設定する。一方、当該しきい値よりも輝度の高い個別領域Rには、当該しきい値よりも輝度の低い個別領域Rに対して設定する照度値よりも高い照度値を設定する。この結果、輝度が相対的に低い個別領域Rの照度値は、輝度が相対的に高い個別領域Rの照度値よりも低い値となる。逆に、輝度が相対的に高い個別領域Rの照度値は、輝度が相対的に低い個別領域Rの照度値よりも高い値となる。一例として、照度設定部42は、しきい値よりも輝度の低い個別領域Rには、現在設定されている照度値よりも低い照度値を設定する。一方、しきい値よりも輝度の高い個別領域Rには、現在設定されている照度値よりも高い照度値を設定する。なお、しきい値を用いずに、例えば最も輝度の高い個別領域Rの輝度を基準として、輝度が低くなるにつれて設定する照度値を下げていってもよい。
つまり、ハイコントラスト配光パターンは、明るい個別領域Rはより明るくなり、暗い個別領域Rはより暗くなる配光パターンである。ハイコントラスト配光パターンによれば、自車前方の照射対象物は、明暗コントラストが強調される。これにより、後述する状況解析部16による物標の検出精度を向上させることができる。物標としては、対向車、歩行者、先行車、自車両の走行に支障を来す障害物、道路標識、道路標示、道路形状等が例示される。
ハイコントラスト配光パターンの形成においては、新たに設定される相対的に低い照度値は、現在設定されている照度値よりも低い照度値となり、新たに設定される相対的に高い照度値は、現在設定されている照度値よりも高い照度値となり得る。したがって、ハイコントラスト配光パターンの形成が繰り返されると、正帰還がかかって、いずれは設定照度値が0と最大値とに二極化してしまう。照度値が二極化すると、照度値0が設定される個別領域Rにおいて、運転者の視認性を確保することが困難となり得る。
これに対し、以下のように基準照度値Mと係数とを用いることで、当該二極化による運転者の視認性低下を回避することができる。より具体的には、照度設定部42は、各個別領域Rについて、検出された輝度値の大きさに応じて所定の係数を設定し、設定した係数を所定の基準照度値Mに乗じて照度値を設定する。図4(A)は、ハイコントラスト配光パターンを形成する際の検出輝度値と係数との関係を示す図である。図4(B)は、ハイコントラスト配光パターンを形成する際の検出輝度値と設定照度値との関係を示す図である。
照度設定部42は、図4(A)に示すように、検出輝度値の大きさに応じて予め設定された所定の係数を有する。相対的に大きい検出輝度値には相対的に大きい係数が設定され、相対的に小さい検出輝度値には相対的に小さい係数が設定される。係数の値は、物標の検出精度の向上度合い等を考慮して、実験やシミュレーションの結果に基づいて適宜設定することができる。ここでは一例として、検出輝度値のしきい値に対して係数1.0が設定され、最大輝度値に対して係数1.5が設定され、最小輝度値に対して係数0.5が設定されている。照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果に基づいて、各個別領域Rに対して係数を設定する。
また、照度設定部42は、図4(B)に示すように、予め設定された所定の基準照度値Mを有する。照度設定部42は、各個別領域Rに設定した係数を基準照度値Mに乗じて、個別領域Rの照度値を設定する。これにより、検出輝度値が低い個別領域Rには低い照度値が設定され、検出輝度値が高い個別領域Rには高い照度値が設定される。
また、現在設定されている照度値と、係数と、照度値の下限値及び上限値とを用いることでも、照度値の二極化による運転者の視認性低下を回避することができる。すなわち、照度設定部42は、予め設定された照度値の下限値及び上限値を有する。そして、照度設定部42は、各個別領域Rについて、検出された輝度値の大きさに応じて所定の係数を設定する。そして、設定した係数を、基準照度値Mに代えて現在の照度値に乗じて新たな照度値を算出する。
照度設定部42は、算出した照度値が所定の下限値以上である場合は現在の照度値を算出した照度値に更新し、算出した照度値が下限値を下回る場合は現在の照度値を維持する。また、照度設定部42は、算出した照度値が所定の上限値以下である場合は現在の照度値を算出した照度値に更新し、算出した照度値が上限値を上回る場合は現在の照度値を維持する。なお、照度設定部42が少なくとも照度値の下限値を有していれば、暗い個別領域Rに対して照度値0が設定されることは回避することができる。
また、照度設定部42は、第1配光パターンとは異なる第2配光パターンを決定することができる。第2配光パターンは、第1配光パターンとの合成により、運転者に視認される第3配光パターンを形成するための配光パターンである。第3配光パターンは、例えば人間工学に基づいて定められる、運転者の眼に最適な配光パターンであり、予め設定される。第2配光パターンは、最終的に形成される第3配光パターンと、第3配光パターンの合成成分である第1配光パターンとを考慮して決定される。
例えば、第2配光パターンは、第1配光パターンが形成された状態における各個別領域Rの輝度に依存して、各個別領域Rの照度値が設定されて得られる。具体的には、第2配光パターンは、第1配光パターンが形成された状況において運転者が視認できる所定の輝度未満である個別領域Rの輝度を、第3配光パターンが形成された状況において高める配光パターンである。また、第2配光パターンは、第1配光パターンが形成された状況において運転者がグレアを受ける所定の輝度以上である個別領域Rの輝度を、第3配光パターンが形成された状況において低減する配光パターンである。照度設定部42は、運転者が視認できる所定の輝度値と運転者がグレアを受ける所定の輝度値とを予め所持している。そして、照度設定部42は、第1配光パターンの形成状態で得られた画像データに基づく輝度解析部14の検出結果から、各個別領域Rの照度値を設定し、第2配光パターンを決定する。
照度設定部42は、各個別領域Rの照度値を示す信号を、光源制御部20に送信する。照度設定部42は、例えば0.1~5ms毎に照度値を設定する。光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10を制御する。光源制御部20は、光源22の点消灯と、各ミラー素子30のオン/オフ切り替えとを制御する。光源制御部20は、各個別領域Rに照射する光の照度値に基づいて、各ミラー素子30のオンの時間比率(幅や密度)を調節する。これにより、各個別領域Rに照射される光の照度を調節することができる。そして、複数の部分照射領域が集まって、各種の配光パターンが構成される。光源制御部20は、例えば0.1~5ms毎に、光源22及び/又は光偏向装置26に駆動信号を送信する。
パターン形成制御部46は、第1配光パターンと第2配光パターンとを合成して、運転者に視認させる第3配光パターンを形成する。パターン形成制御部46は、第1配光パターン及び第2配光パターンの形成を指示する信号を照度設定部42に送信する。照度設定部42は、パターン形成制御部46から当該信号を受信すると、各配光パターンに応じた照度値を設定し、光源制御部20に照度値信号を送信する。
図9は、低速カメラによる撮像、高速カメラによる撮像、第1配光パターンの形成及び第2配光パターンの形成の推移の一例を示すタイミングチャートである。図9に示すように、パターン形成制御部46は、第1配光パターンと第2配光パターンとの間で、形成する配光パターンを周期的に切り替える。これにより、第1配光パターンと第2配光パターンとが合成されてなる第3配光パターンを形成する。第1配光パターンの形成とこれに続く第2配光パターンの形成とを繰り返し単位Pとしたとき、繰り返しの周期は例えば60Hz以上(16.6ms以下)である。これにより、配光パターンの切り替わりを運転者に認識させることなく、第3配光パターンを安定的に視認させることができる。
また、本実施の形態の車両用灯具システム1は、第1配光パターンを利用して、自車前方の状況に応じて最適な配光パターンを形成するADB(Adaptive Driving Beam)制御を実行する。したがって、図9に示すように、パターン形成制御部46は、撮像部12の低速カメラ38が自車前方を撮像している間は第1配光パターンを形成する。すなわち、車両用灯具システム1は、第1配光パターンが形成された状況下で低速カメラ38により自車前方を撮像する。状況解析部16は、この撮像データを用いて物標を検出する。このため、より高精度に物標を検出することができる。
トラッキング部40は、状況解析部16により検出された物標の中から特定物標を決定する。また、トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果に基づいて特定物標の変位を検出する。本実施の形態では、一例として対向車100を特定物標とする。
具体的には、トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果と状況解析部16の検出結果とを統合する。そして、輝度解析部14で検出された各個別領域Rの輝度のうち、特定物標である対向車100の光点102が位置する個別領域Rの輝度を対向車100と関連付ける。トラッキング部40は、その後に取得する輝度解析部14の検出結果において、対向車100と関連付けた輝度の位置を認識することで、特定物標である対向車100の変位を検出することができる。トラッキング部40は、例えば50ms毎に特定物標の決定処理を実行する。また、トラッキング部40は、例えば0.1~5ms毎に特定物標の変位検出処理(トラッキング)を実行する。
照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果と、トラッキング部40の検出結果とに基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。各個別領域Rのうち、特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対しては特定照度値を定める。具体的には、照度設定部42はまず、特定物標である対向車100の存在位置に基づいて特定個別領域R1を定める。例えば照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に含まれる対向車100の位置情報に基づいて、特定個別領域R1を定める。特定個別領域R1の設定について、例えば照度設定部42は、対向車100の前照灯に対応する2つの光点102間の水平方向距離a(図3参照)に対して、予め定められた所定比率の鉛直方向距離bを定め、横a×縦bの寸法範囲と重なる個別領域Rを特定個別領域R1(図3参照)とする。特定個別領域R1には、対向車の運転者と重なる個別領域Rが含まれる。
そして、照度設定部42は、特定個別領域R1に対する特定照度値を定める。例えば、特定照度値0が設定される。また、照度設定部42は、特定個別領域R1を除く他の個別領域Rについて、第1配光パターンと第2配光パターンの切替制御に基づいて照度値を定める。また、照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の変位を認識し、特定個別領域R1の位置情報を更新する。そして、各個別領域Rに照射する光の照度値を更新する。トラッキング部40による処理と照度設定部42による処理とは、少なくとも一時において並行して実行される。
また特定物標は、歩行者200であってもよい。この場合、特定個別領域R1の特定照度値は、例えば最大値に設定される。これにより、より高い照度の光を歩行者200に照射して、自車運転者が歩行者200を視認しやすくすることができる。この場合、歩行者200の顔が位置する個別領域Rは、遮光することが望ましい。トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果である各個別領域Rの輝度データにエッジ強調等の公知の画像処理を施すことで、歩行者200の位置をトラッキングすることができる。エッジ強調は、輝度解析部14の処理に含めてもよい。
パターン形成制御部46は、特定個別領域R1を除く全ての個別領域Rについて、第1配光パターンと第2配光パターンの切替制御に基づく照度値の設定を行ってもよいし、一部の個別領域Rについて、当該切替制御に基づく照度値の設定を行ってもよい。
一例として、パターン形成制御部46は、所定の位置範囲にある個別領域Rに対してのみ、第1配光パターンと第2配光パターンとの切替制御を実行する。すなわち、パターン形成制御部46は、所定の位置範囲にある個別領域Rに第1~第3配光パターンを形成する。他の個別領域Rに対しては、第4配光パターンを形成する。第4配光パターンは、照度設定部42によって、輝度解析部14により検出される輝度に依存せずに照度値が設定される配光パターンである。第4配光パターンとしては、各個別領域Rに照射する光の照度値が同じ値である、照度一定配光パターンが例示される。このように、切替制御の実行対象となる個別領域Rを限定することで、第1配光パターンの決定処理の際に制御装置50にかかる負荷を軽減することができる。また、自車前方を複数の領域に分けてそれぞれに異なる配光パターンを形成することができる。このため、自車前方の状況により適した配光パターンの形成が可能となる。
図10(A)及び図10(B)は、第1配光パターンと第2配光パターンとの切替制御が実行される個別領域の位置範囲を模式的に示す図である。例えば図10(A)に示すように、パターン形成制御部46は、水平線より下方の領域M1に位置する個別領域Rに第1~第3配光パターンを形成する。また、水平線より上方の領域M2に位置する個別領域Rに第4配光パターンを形成する。水平線より下方の領域M1は、視認されるべき物標が存在する可能性が高いため、第1配光パターンと第2配光パターンの切替制御が実行される。一方、水平線より上方の領域M2は、視認されるべき物標が存在する可能性が低いため、第4配光パターンが形成される。
また、例えば図10(B)に示すように、パターン形成制御部46は、走行路面の外側で且つ自車上空を除く側方領域N1,N2と重なる個別領域Rに第1~第3配光パターンを形成する。また、自車上空の領域N3と重なる個別領域Rに第4配光パターンを形成する。また、走行路面の領域N4と重なる個別領域Rに第1~第3配光パターン又は第4配光パターンを形成する。
視認されるべき物標として優先度が高いものは、歩行者200であることが多い。側方領域N1,N2は、歩行者200が存在する可能性が高いため、第1配光パターンと第2配光パターンの切替制御が実行される。一方、自車上空の領域N3は、歩行者200が存在する可能性が低いため、第4配光パターンが形成される。走行路面の領域N4は、自車上空の領域N3に比べれば歩行者200が存在する可能性は高いが、側方領域N1,N2に比べれば歩行者200が存在する可能性は低い。このため、走行路面の領域N4については、制御装置50にかかる負荷の軽減と、運転の安全性の向上とのどちらを優先するかで、形成する配光パターンを選択することができる。
また、パターン形成制御部46は、自車両の状態又は周囲環境に応じて第1~第3配光パターンを形成する個別領域Rと第4配光パターンを形成する個別領域Rとを設定することができる。例えば、パターン形成制御部46は、自車両の車速が所定速度以上であるとき、走行路面の領域N4と重なる個別領域Rに第1~第3配光パターンを形成し、他の個別領域Rに第4配光パターンを形成する。また、車速が所定速度未満であるとき、走行路面の外側で且つ自車上空を除く側方領域N1,N2と重なる個別領域Rに第1~第3配光パターンを形成し、他の個別領域Rに第4配光パターンを形成する。前記「所定速度」は、例えば80km/hである。
車両が所定速度以上の高速で走行する場合、側方領域N1,N2よりも走行路面の領域N4において物標の有無を確認したい要求が高まる。また、車両が所定速度以上の高速で走行することが一般的である、高速道路等の自動車専用道路では、走行路面の側方領域N1,N2に視認すべき物標(特に歩行者200)が存在する可能性は低い。このため、車速が所定速度以上であるときは、走行路面の領域N4と重なる個別領域Rに第1~第3配光パターンを形成し、他の個別領域Rに第4配光パターンを形成する。
一方、車両が所定速度未満の低速で走行する状況では、走行路面の側方領域N1,N2に視認すべき物標(特に歩行者200)が存在する可能性が高まる。このため、走行路面の領域N4よりも側方領域N1,N2において物標の有無を確認したい要求が高まる。このため、車速が所定速度未満であるときは、側方領域N1,N2と重なる個別領域Rに第1~第3配光パターンを形成し、他の個別領域Rに第4配光パターンを形成する。
パターン形成制御部46は、低速カメラ38の画像データあるいは状況解析部16の検出結果に基づいて、領域M1,M2,N1~N4を決定することができる。また、パターン形成制御部46は、車両に搭載される図示しない車速センサから車速情報を取得することができる。自車両の状態や周囲環境に関する情報は、車両に搭載される図示しないカーナビゲーションシステムや操舵角センサ、照度センサ、撮像部12の画像データ等からも取得することができる。例えば、パターン形成制御部46は、カーナビゲーションシステムから得られる情報に基づいて、前方の道路形状を認識して走行路面の領域N4を変更することができる。
ADB制御の一例として、照度設定部42は、対向車100の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対して、特定照度値「0」を設定し、他の個別領域Rに対して、照度値「1」を設定する。この設定を、第1照度情報とする。また、照度設定部42は、第1配光パターンと第2配光パターンの切替制御に準じて、特定個別領域R1を除く所定の位置範囲にある個別領域Rに対する照度値を設定する。また、第4配光パターンの形成制御に準じて、残りの個別領域Rに対して同じ照度値を設定する。この設定を、第2照度情報とする。
そして、照度設定部42は、第1照度情報と第2照度情報とをAND演算する。これにより、特定個別領域R1に対する特定照度値が「0」であり、他の個別領域Rに対する照度値が切替制御あるいは第4配光パターンの形成制御に準じて定まる照度値である照度情報が生成される。すなわち、特定個別領域R1は遮光され、特定個別領域R1を除く各個別領域Rには第1配光パターンと第2配光パターンとが交互に形成されるか、第4配光パターンが形成される。
図11(A)及び図11(B)は、実施の形態3に係る車両用灯具システムにおいて実行されるADB制御の一例を示すフローチャートである。このフローは、例えば図示しないライトスイッチによってADB制御の実行指示がなされ、且つイグニッションがオンのときに所定のタイミングで繰り返し実行され、ADB制御の実行指示が解除される(あるいは停止指示がなされる)か、イグニッションがオフにされた場合に終了する。また、図11(A)に示すフローは、例えば0.1~5ms毎に繰り返される高速処理であり、図11(B)に示すフローは、例えば50ms毎に繰り返される低速処理である。この低速処理と高速処理とは、並行して実行される。また、低速処理の実行タイミングと同期して高速処理において第1配光パターンが形成されるように、予め設計されている。
図11(A)に示すように、高速処理では、まず高速カメラ36によって自車前方が撮像される(S2101)。次に、輝度解析部14によって、高速カメラ36の画像データに基づいて、各個別領域Rの輝度が検出される(S2102)。続いて、特定個別領域R1が設定されているか判断される(S2103)。当該判断は、例えばトラッキング部40により実行される。特定個別領域R1が設定されている場合(S2103のY)、トラッキング部40によって、特定物標がトラッキングされて特定個別領域R1の位置(変位)が検出される。照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の設定(位置情報)を更新する(S2104)。
次に、照度設定部42によって、各個別領域Rに照射する光の照度値が設定される(S2105)。低速処理の実行タイミングにある場合は、所定の位置範囲にある個別領域Rに対して第1配光パターンに準じた照度値が設定され、低速処理の実行タイミングにない場合は、所定の位置範囲にある個別領域Rに対して第2配光パターンに準じた照度値が設定される。特定個別領域R1に対しては、特定照度値が設定される。残りの個別領域Rに対しては、第4配光パターンに準じた照度値が設定される。次に、光源制御部20によって光源部10が駆動され、定められた照度の光が光源部10から照射されて(S2106)、本ルーチンが終了する。特定個別領域R1が設定されていない場合(S2103のN)、照度設定部42によって、個別領域Rに照射する光の照度値が設定される(S2105)。この場合、設定される照度値の中には、特定照度値は含まれない。その後は、ステップS2106の処理が実行されて、本ルーチンが終了する。
ステップS2104において、トラッキングにより特定物標の消失が検出された場合には、特定個別領域R1の設定も消失する。したがって、ステップS2105で設定される照度値の中には、特定照度値は含まれないこととなる。また、次回のルーチンにおけるステップS2103では、後述するステップS2205の処理が実行されるまでは、特定個別領域R1が設定されていない(S2103のN)と判定される。
図11(B)に示すように、低速処理では、まず低速カメラ38によって自車前方が撮像される(S2201)。このとき、自車前方には第1配光パターンが形成されている。次に、状況解析部16によって、低速カメラ38の画像データに基づいて、自車前方に存在する物標が検出される(S2202)。次に、検出された物標の中に特定物標が含まれているか判断される(S2203)。当該判断は、例えばトラッキング部40により実行される。
特定物標が含まれている場合(S2203のY)、トラッキング部40によって、特定物標が決定される(S2204)。次に、照度設定部42によって、特定物標の存在位置に基づいて特定個別領域R1が設定され(S2205)、本ルーチンが終了する。特定物標が含まれていない場合(S2203のN)、本ルーチンが終了する。なお、上記フローチャートでは、低速処理において特定個別領域が設定されているが、当該設定は高速処理において実行されてもよい。
以上説明したように、本実施の形態に係る車両用灯具システム1は、撮像部12と、輝度解析部14と、照度設定部42と、灯具部62と、光源制御部20と、パターン形成制御部46とを備える。輝度解析部14は、自車前方に並ぶ複数の個別領域Rそれぞれの輝度を検出する。照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて、灯具部62を制御する。これにより、車両用灯具システム1は、輝度解析部14により検出される輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定される第1配光パターンを形成することができる。
照度設定部42は、第1配光パターンとして、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲にある個別領域Rについて、検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に低い照度値が設定され、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に高い照度値が設定されるハイコントラスト配光パターンを決定する。また、照度設定部42は、第1配光パターンとは異なる第2配光パターンを決定する。そして、パターン形成制御部46は、第1配光パターンと第2配光パターンとの間で、形成する配光パターンを周期的に切り替えて、第1配光パターンと第2配光パターンとが合成されてなる第3配光パターンを運転者に視認させる。
このように、運転者に視認させる第3配光パターンを2つの配光パターンの合成によって形成しているため、多様な第3配光パターンを形成することができる。よって、状況に応じて最適な配光パターンの形成が可能となる。この結果、運転の安全性を向上させることができる。
また、車両用灯具システム1は、撮像部12(より具体的には低速カメラ38)から得られる情報に基づいて自車前方の状況を検出する状況解析部16をさらに備える。そして、パターン形成制御部46は、撮像部12(より具体的には低速カメラ38)が自車前方を撮像している間は第1配光パターンを形成する。第1配光パターンは、自車前方に存在する照射対象物の明暗コントラストを強調することができる配光パターンである。このため、撮像部12の画像データを用いた物標の検出精度を向上させることができる。この結果、ADB制御における光の照射精度、言い換えれば配光パターンの形成精度を高めることができる。
状況解析部16による物標検出に好適な配光パターンと、運転者が視認する上で好適な配光パターンとは、一致しない場合もあり得る。これに対し、車両用灯具システム1は、物標検出用の画像データを撮像部12が取得する際に形成する配光パターンと、運転者に視認させる配光パターンとを異ならせている。これにより、物標の検出精度の向上と運転者の視認性の向上とを、より高い次元で両立させることができる。
第1配光パターンと合成される第2配光パターンは、第1配光パターンにおいて運転者が視認できる所定の輝度未満である個別領域Rの輝度を第3配光パターンにおいて高める配光パターンである。また、第2配光パターンは、第1配光パターンにおいて運転者がグレアを受ける所定の輝度以上である個別領域Rの輝度を第3配光パターンにおいて低減する配光パターンである。これらにより、第3配光パターンの形成によって得られる運転者の視認性向上効果を、より高めることができる。
また、パターン形成制御部46は、所定の位置範囲にある個別領域Rに第1~第3配光パターンを形成する。また、他の個別領域Rに対しては、輝度解析部14により検出される輝度に依存せずに照度値が設定される第4配光パターンを形成する。これにより、制御装置50にかかる負荷を軽減することができる。このため、配光パターンの形成に要する時間を短縮することができ、配光パターンの変化を自車前方の状況の変化に高精度に追従させることができる。また、自車前方の複数の区画に対して異なる配光パターンを形成できるため、自車前方の状況により適した配光パターンの形成が可能となる。これらの結果、運転の安全性を向上させることができる。
(実施の形態4)
実施の形態4に係る車両用灯具システムは、第1配光パターンとしてハイコントラスト配光パターンに加えて輝度均一化配光パターンを形成する点を除いて、実施の形態3に係る車両用灯具システムの構成と共通する。以下、実施の形態4に係る車両用灯具システムについて、実施の形態3と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
本実施の形態に係る車両用灯具システム1は、灯具部62と、撮像部12と、制御装置50とを備える。制御装置50は、輝度解析部14と、状況解析部16と、灯具制御部18と、光源制御部20とを有する。灯具制御部18は、トラッキング部40と、照度設定部42と、パターン形成制御部46とを含む。
照度設定部42は、各個別領域Rの輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定される第1配光パターンを決定する。本実施の形態の照度設定部42は、第1配光パターンとしてハイコントラスト配光パターンに加えて、輝度均一化配光パターンを形成する。
輝度均一化配光パターンは、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲にある個別領域Rについて、輝度均一化配光パターンが形成された状態で輝度解析部14により検出される輝度が各個別領域Rで同じ値となるように、各個別領域Rの照度値が設定されて得られる配光パターンである。前記「所定の範囲」は、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲であってもよいし、一部の範囲であってもよい。以下に説明する図12では、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲を、前記「所定の範囲」としている。
図12は、輝度均一化配光パターンを形成する際の検出輝度値と、目標輝度値と、設定照度値との関係を示す図である。図12に示すように、例えば照度設定部42は照度値の設定に際し、まずは目標輝度値を設定する。目標輝度値とは、配光パターンが形成された状態で輝度解析部14により検出されるべき輝度を意味する。照度設定部42は、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲に含まれる個別領域Rについて、目標輝度値を同じ値に設定する。
そして、照度設定部42は、各個別領域Rの目標輝度値と輝度解析部14の検出結果とに基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。具体的には、照度設定部42は、検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に高い照度値を設定し、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に低い照度値を設定する。この結果、自車前方の明るさを均一にする輝度均一化配光パターンが形成される。輝度均一化配光パターンによれば、自車前方の暗い領域に存在する物標を明るく照らし出すことができる。このため、ハイコントラスト配光パターンとは異なる方法あるいは態様で、状況解析部16による物標の検出精度を向上させることができる。
パターン形成制御部46は、撮像部12の低速カメラ38が自車前方を撮像している間は、第1配光パターンを形成し、他の時間は第1配光パターンとは異なる第2配光パターンを形成する。パターン形成制御部46は、第1配光パターンと第2配光パターンとを合成して第3配光パターンを形成し、当該第3配光パターンを運転者に視認させる。第1配光パターンは、自車前方に存在する照射対象物の明暗コントラストを強調することができるハイコントラスト配光パターンであるか、自車前方の暗い領域に存在する物標を明るく照らし出すことができる輝度均一化配光パターンである。このため、撮像部12の画像データを用いた物標の検出精度を向上させることができる。この結果、ADB制御における光の照射精度、言い換えれば配光パターンの形成精度を高めることができる。
第2配光パターンは、第1配光パターンとの合成により、運転者に視認される第3配光パターンを形成するための配光パターンである。第2配光パターンは、第1配光パターンが形成された状態における各個別領域Rの輝度に依存して、各個別領域Rの照度値が設定されて得られる。例えば、第2配光パターンは、第1配光パターンが形成された状況において運転者が視認できる所定の輝度未満である個別領域Rの輝度を、第3配光パターンが形成された状況において高める配光パターンである。また、第2配光パターンは、第1配光パターンが形成された状況において運転者がグレアを受ける所定の輝度以上である個別領域Rの輝度を、第3配光パターンが形成された状況において低減する配光パターンである。
また、パターン形成制御部46は、所定の位置範囲にある個別領域Rに対してのみ、第1配光パターンと第2配光パターンとの切替制御を実行することができる。すなわち、パターン形成制御部46は、所定の位置範囲にある個別領域Rに第1~第3配光パターンを形成する。他の個別領域Rに対しては、第4配光パターンを形成する。第4配光パターンとしては、各個別領域Rに照射する光の照度値が同じ値である、照度一定配光パターンが例示される。
以上説明したように、本実施の形態に係る車両用灯具システム1は、撮像部12と、状況解析部16と、照度設定部42と、灯具部62と、光源制御部20と、パターン形成制御部46とを備える。状況解析部16は、撮像部12から得られる情報に基づいて自車前方の状況を検出する。照度設定部42は、各個別領域Rの輝度に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて灯具部62を制御する。
照度設定部42は、各個別領域Rの輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定される第1配光パターンとして、ハイコントラスト配光パターンと輝度均一化配光パターンとを決定する。また、照度設定部42は、第1配光パターンとは異なる第2配光パターンを決定する。そして、パターン形成制御部46は、撮像部12(より具体的には低速カメラ38)が撮像している間は、第1配光パターンを形成する。また、他の時間は第2配光パターンを形成し、第1配光パターンと第2配光パターンとが合成されてなる第3配光パターンを運転者に視認させる。
これにより、状況解析部16による物標の検出精度を高めることができるとともに、運転者には、人の眼に最適な配光パターンを視認させることができる。このため、物標の検出精度の向上と運転者の視認性の向上とを、より高い次元で両立させることができる。この結果、運転の安全性を向上させることができる。
(実施の形態5)
実施の形態5に係る車両用灯具システムは、灯具部62が光源部10に加えて他の光源部を備える点を除いて実施の形態3に係る車両用灯具システムの構成と共通する。以下、実施の形態5に係る車両用灯具システムについて、実施の形態3と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
図13は、実施の形態5に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。図13では、図8と同様に車両用灯具システムの構成要素の一部を機能ブロックとして描いている。車両用灯具システム1(1B)は、灯具部62と、撮像部12と、制御装置50とを備える。灯具部62は、光源部10に加えて、他の光源部としての灯具ユニット60を有する。灯具ユニット60は、輝度解析部14により検出される輝度に依存せずに照度値が設定される配光パターンとして、従来公知のロービーム用配光パターンやハイビーム用配光パターン等を形成することができる。以下では適宜、灯具ユニット60により形成される配光パターンを、通常配光パターンと称する。通常配光パターンの形成範囲は、シェード等の従来公知の技術により調整することができる。
制御装置50は、輝度解析部14と、状況解析部16と、灯具制御部18と、光源制御部20とを有する。灯具制御部18は、トラッキング部40と、照度設定部42と、パターン形成制御部46とを含む。
照度設定部42は、輝度解析部14が検出する輝度に依存して照度値が設定される第1配光パターンとして、ハイコントラスト配光パターンを決定する。なお、実施の形態4と同様に、第1配光パターンには輝度均一化配光パターンが含まれてもよい。また、照度設定部42は、第1配光パターンとは異なる第2配光パターンを決定することができる。第2配光パターンは、第1配光パターンとの合成により、運転者に視認される第3配光パターンを形成するための配光パターンである。
第2配光パターンは、第1配光パターンが形成された状態における各個別領域Rの輝度に依存して、各個別領域Rの照度値が設定されて得られる。例えば、第2配光パターンは、第1配光パターンが形成された状況において運転者が視認できる所定の輝度未満である個別領域Rの輝度を、第3配光パターンが形成された状況において高める配光パターンである。また、第2配光パターンは、第1配光パターンが形成された状況において運転者がグレアを受ける所定の輝度以上である個別領域Rの輝度を、第3配光パターンが形成された状況において低減する配光パターンである。
パターン形成制御部46は、第1配光パターンと第2配光パターンとの間で、形成する配光パターンを周期的に切り替える。これにより、第1配光パターンと第2配光パターンとが合成されてなる第3配光パターンを形成する。本実施の形態においても、第1配光パターンを形成するタイミングと低速カメラ38が撮像するタイミングとが同期している。これにより、状況解析部16による物標検出の精度を高めることができる。
また、パターン形成制御部46は、所定の位置範囲にある個別領域Rに対してのみ、第1配光パターンと第2配光パターンとの切替制御を実行することができる。すなわち、パターン形成制御部46は、所定の位置範囲にある個別領域Rに第1~第3配光パターンを形成する。他の個別領域Rに対しては、第4配光パターンを形成する。本実施の形態では、第4配光パターンは、灯具ユニット60により形成される通常配光パターンである。パターン形成制御部46は、照度設定部42を介して第4配光パターンの形成を指示する信号を光源制御部20に送信する。光源制御部20は、当該信号を受信すると灯具ユニット60を点灯させる。これにより、第2配光パターンが形成される。なお、灯具ユニット60は、ハイコントラスト配光パターンが形成される際に、ハイコントラスト配光パターンが形成される個別領域Rに対して光を照射してもよい。これにより、ハイコントラスト配光パターンにおける照度値の二極化によって運転者の視認性が低下することを、回避することができる。
本発明は、上述の実施の形態3~5に限定されるものではなく、各実施の形態を組み合わせたり、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような組み合わせられ、もしくは変形が加えられて得られる新たな実施の形態も本発明の範囲に含まれる。このような新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態及び変形それぞれの効果をあわせもつ。
実施の形態3~5では、撮像部12、輝度解析部14、状況解析部16、灯具制御部18及び光源制御部20が灯室8内に設けられているが、それぞれは適宜、灯室8外に設けられてもよい。例えば、撮像部12のうち低速カメラ38は、車室内に搭載されている既存のカメラを利用することができる。なお、撮像部12と光源部10とは画角が一致していることが望ましい。
高速カメラ36が低速カメラ38と同等の解像度を有する場合には、低速カメラ38を省略してもよい。これにより、車両用灯具システム1の小型化を図ることができる。この場合、状況解析部16は、高速カメラ36の画像データを用いて物標を検出する。また、高速カメラ36の撮像タイミングと第1配光パターンの形成タイミングとが同期される。
第1配光パターンの形成時間に対して第2配光パターンの形成時間が長くなるにつれて、第3配光パターンは実質的に第2配光パターンと同じ配光パターンとなり得る。この場合、第2配光パターンを、人間工学に基づいて定められる運転者の眼に最適な配光パターンとしてもよい。また、第2配光パターンの形成に灯具ユニット60が利用されてもよい。
第1配光パターンは実質的に人に視認されないため、特定個別領域R1を含めた個別領域Rに対して第1配光パターンを形成してもよい。一方、第2配光パターンは、特定個別領域R1を除く個別領域Rに対して形成する。これにより、例えば特定物標が歩行者200である場合には、歩行者200にグレアを与えることを回避しながら歩行者200を高精度にトラッキングすることができる。
光源部10は、DMDである光偏向装置26に代えて、光源光で自車前方を走査するスキャン光学系や、各個別領域Rに対応するLEDが配列されたLEDアレイを備えてもよい。
輝度均一化配光パターンを形成する際の検出輝度値と設定照度値との関係は、次のようであってもよい。図14(A)~図14(C)は、輝度均一化配光パターンを形成する際の検出輝度値と設定照度値との関係の他の例を示す図である。すなわち、図12に示す例では、検出輝度値に対して設定照度値を連続的且つ直線的に変化させている。しかしながら、特にこの関係に限定されず、図14(A)及び図14(B)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を段階的に変化させてもよい。また、図14(C)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を曲線的に変化させてもよい。なお、図14(C)では上に凸の曲線を図示しているが、下に凸の曲線であってもよい。
ハイコントラスト配光パターンを形成する際の検出輝度値と設定照度値との関係は、次のようであってもよい。図7(A)~図7(C)は、ハイコントラスト配光パターンを形成する際の検出輝度値と設定照度値との関係の他の例を示す図である。すなわち、図4(B)に示す例では、検出輝度値に対して設定照度値を連続的且つ直線的に変化させている。しかしながら、特にこの関係に限定されず、図7(A)及び図7(B)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を段階的に変化させてもよい。また、図7(C)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を曲線的に変化させてもよい。なお、図7(C)では上に凸の曲線を図示しているが、下に凸の曲線であってもよい。また、検出輝度値と係数との関係は、検出輝度値と設定照度値との関係と同様であるため、図示するまでもなく明らかである。
以下の態様も本発明に含めることができる。
自車前方を撮像する撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域Rのそれぞれの輝度を検出する輝度解析部14と、
輝度解析部14の検出結果に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める照度設定部42と、
照度設定部42が定めた照度値に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部10を少なくとも有する灯具部62を制御する光源制御部20と、
輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲にある個別領域Rについて、検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に低い照度値が設定され、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に高い照度値が設定される第1配光パターンと、第1配光パターンとは異なる第2配光パターンとの間で、形成する配光パターンを周期的に切り替えて、第1配光パターンと第2配光パターンとが合成されてなる第3配光パターンを運転者に視認させるパターン形成制御部46と、
を備える、車両用灯具2の制御装置50。
自車前方を撮像する撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域Rのそれぞれの輝度を検出するステップと、
検出した輝度に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定めるステップと、
定めた照度値に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部10を少なくとも有する灯具部62を制御するステップと、
検出した輝度が所定の範囲にある個別領域Rについて、検出した輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に低い照度値を設定し、検出した輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に高い照度値を設定して得られる第1配光パターンと、第1配光パターンとは異なる第2配光パターンとの間で、形成する配光パターンを周期的に切り替えて、第1配光パターンと第2配光パターンとが合成されてなる第3配光パターンを運転者に視認させるステップと、
を含む、車両用灯具2の制御方法。
(実施の形態6)
図8は、実施の形態6に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。図8では、車両用灯具システム1の構成要素の一部を機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックは、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。これらの機能ブロックがハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
車両用灯具システム1(1A)は、車両前方の左右に配置される一対の前照灯ユニットを有する車両用前照灯装置に適用される。一対の前照灯ユニットは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、図8には車両用灯具2として一方の前照灯ユニットの構造を示す。
車両用灯具システム1が備える車両用灯具2は、車両前方側に開口部を有するランプボディ4と、ランプボディ4の開口部を覆うように取り付けられた透光カバー6とを備える。透光カバー6は、透光性を有する樹脂やガラス等で形成される。ランプボディ4と透光カバー6とにより形成される灯室8内には、灯具部62と、撮像部12と、制御装置50とが収容される。
灯具部62は、少なくとも光源部10を有する。光源部10は、自車前方に並ぶ複数の個別領域(図3参照)のそれぞれに照射する光の照度(強度)を独立に調節可能な装置である。光源部10は、光源22と、反射光学部材24と、光偏向装置26と、投影光学部材28とを有する。各部は、図示しない支持機構によりランプボディ4に取り付けられる。
光源22は、LED(Light emitting diode)、LD(Laser diode)、EL(Electroluminescence)素子等の半導体発光素子や、電球、白熱灯(ハロゲンランプ)、放電灯(ディスチャージランプ)等を用いることができる。
反射光学部材24は、光源22から出射した光を光偏向装置26の反射面に導くように構成される。反射光学部材24は、内面が所定の反射面となっている反射鏡で構成される。なお、反射光学部材24は、中実導光体などであってもよい。また、光源22から出射した光を光偏向装置26に直接導くことができる場合は、反射光学部材24を設けなくてもよい。
光偏向装置26は、投影光学部材28の光軸上に配置され、光源22から出射された光を選択的に投影光学部材28へ反射するように構成される。光偏向装置26は、例えばDMD(Digital Mirror Device)で構成される。すなわち、光偏向装置26は、複数の微小ミラーをアレイ(マトリックス)状に配列したものである。これらの複数の微小ミラーの反射面の角度をそれぞれ制御することで、光源22から出射された光の反射方向を選択的に変えることができる。つまり、光偏向装置26は、光源22から出射された光の一部を投影光学部材28へ向けて反射し、それ以外の光を、投影光学部材28によって有効に利用されない方向へ向けて反射することができる。ここで、有効に利用されない方向とは、例えば、投影光学部材28には入射するが配光パターンの形成にほとんど寄与しない方向や、図示しない光吸収部材(遮光部材)に向かう方向と捉えることができる。
図2(A)は、光偏向装置の概略構成を示す正面図である。図2(B)は、図2(A)に示す光偏向装置のA-A断面図である。光偏向装置26は、複数の微小なミラー素子30がマトリックス状に配列されたマイクロミラーアレイ32と、ミラー素子30の反射面30aの前方側(図2(B)に示す光偏向装置26の右側)に配置された透明なカバー部材34とを有する。カバー部材34は、例えば、ガラスやプラスチック等で構成される。
ミラー素子30は略正方形であり、水平方向に延びミラー素子30をほぼ等分する回動軸30bを有する。マイクロミラーアレイ32の各ミラー素子30は、光源22から出射された光を所望の配光パターンの一部として利用されるように投影光学部材28へ向けて反射する第1反射位置(図2(B)において実線で示す位置)と、光源22から出射された光が有効に利用されないように反射する第2反射位置(図2(B)において点線で示す位置)とを切り替え可能に構成されている。各ミラー素子30は、回動軸30b周りに回動して、第1反射位置と第2反射位置との間で個別に切り替えられる。各ミラー素子30は、オン時に第1反射位置をとり、オフ時に第2反射位置をとる。
図3は、自車前方の様子を模式的に示す図である。上述のように光源部10は、灯具前方に向けて互いに独立に光を照射可能な個別照射部としてのミラー素子30を複数有する。光源部10は、ミラー素子30によって自車前方に並ぶ複数の個別領域Rに光を照射することができる。各個別領域Rは、撮像部12、より具体的には例えば高速カメラ36の1ピクセル又は複数ピクセルの集合に対応する領域である。本実施の形態では、各個別領域Rと各ミラー素子30とが対応付けられている。
図2(A)及び図3では、説明の便宜上、ミラー素子30及び個別領域Rを横10×縦8の配列としているが、ミラー素子30及び個別領域Rの数は特に限定されない。例えば、マイクロミラーアレイ32の解像度(言い換えればミラー素子30及び個別領域Rの数)は1000~30万ピクセルである。また、光源部10が1つの配光パターンの形成に要する時間は、例えば0.1~5msである。すなわち、光源部10は、0.1~5ms毎に配光パターンを変更することができる。
図8に示すように、投影光学部材28は、例えば、前方側表面及び後方側表面が自由曲面形状を有する自由曲面レンズからなる。投影光学部材28は、その後方焦点を含む後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方に投影する。投影光学部材28は、その後方焦点が車両用灯具2の光軸上、且つマイクロミラーアレイ32の反射面の近傍に位置するように配置される。なお、投影光学部材28は、リフレクタであってもよい。
光源22から出射された光は、反射光学部材24で反射されて、光偏向装置26のマイクロミラーアレイ32に照射される。光偏向装置26は、第1反射位置にある所定のミラー素子30によって投影光学部材28へ向けて光を反射する。この反射された光は、投影光学部材28を通過して灯具前方に進行し、各ミラー素子30に対応する各個別領域Rに照射される。これにより、所定形状の配光パターンが灯具前方に形成される。
撮像部12は、自車前方を撮像する装置である。撮像部12は、高速カメラ36と低速カメラ38とを含む。高速カメラ36は、比較的フレームレートが高く、例えば200fps以上10000fps以下(1フレームあたり0.1~5ms)である。一方、低速カメラ38は、比較的フレームレートが低く、例えば30fps以上120fps以下である(1フレームあたり約8~33ms)。また、高速カメラ36は、比較的解像度が小さく、例えば30万ピクセル以上500万ピクセル未満である。一方、低速カメラ38は、比較的解像度が大きく、例えば500万ピクセル以上である。高速カメラ36及び低速カメラ38は、全ての個別領域Rを撮像する。なお、高速カメラ36及び低速カメラ38の解像度は、上記数値に限定されず、技術的に整合する範囲で任意の値に設定することができる。
制御装置50は、輝度解析部14と、状況解析部16と、灯具制御部18と、光源制御部20とを有する。撮像部12が取得した画像データは、輝度解析部14及び状況解析部16に送られる。
輝度解析部14は、撮像部12から得られる情報(画像データ)に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14は、状況解析部16に比べて精度の低い画像解析を実行し、高速に解析結果を出力する高速低精度解析部である。本実施の形態の輝度解析部14は、高速カメラ36から得られる情報に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14は、例えば0.1~5ms毎に各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14の検出結果、すなわち個別領域Rの輝度情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
状況解析部16は、撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方の状況を検出する。例えば、状況解析部16は、自車前方に存在する物標を検出する。状況解析部16は、輝度解析部14に比べて精度の高い画像解析を実行し、低速に解析結果を出力する低速高精度解析部である。本実施の形態の状況解析部16は、低速カメラ38から得られる情報に基づいて自車前方の状況を検出する。状況解析部16は、例えば50ms毎に状況を検出する。状況解析部16によって検出される物標としては、図3に示すように、対向車100や歩行者200等が例示される。また、先行車や、自車両の走行に支障を来す障害物、道路標識、道路標示、道路形状等も物標に含まれる。
状況解析部16は、アルゴリズム認識やディープラーニング等を含む、従来公知の方法を用いて物標を検出することができる。例えば、状況解析部16は、対向車100を示す特徴点を予め保持している。そして、状況解析部16は、低速カメラ38の撮像データの中に対向車100を示す特徴点を含むデータが存在する場合、対向車100の位置を認識する。前記「対向車100を示す特徴点」とは、例えば対向車100の前照灯の推定存在領域に現れる所定光度以上の光点102(図3参照)である。同様に、状況解析部16は、歩行者200やその他の物標を示す特徴点を予め保持しており、低速カメラ38の撮像データの中にこれらの特徴点を含むデータが存在する場合、当該特徴点に対応する物標の位置を認識する。状況解析部16の検出結果、すなわち自車前方の物標情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
灯具制御部18は、輝度解析部14及び/又は状況解析部16の検出結果を用いて、特定物標の決定、特定物標の変位検出、特定個別領域R1の設定、各個別領域Rに照射する光の照度値の設定、配光パターンの形成制御等を実行する。一例として、灯具制御部18は、トラッキング部40と、照度設定部42と、パターン形成制御部46とを含む。
照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果に基づいて、すなわち各個別領域Rの輝度に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。つまり、照度設定部42は、各個別領域Rの輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定される第1配光パターンを決定する。本実施の形態の照度設定部42は、第1配光パターンとしてハイコントラスト配光パターンと輝度均一化配光パターンとを決定する。
ハイコントラスト配光パターンは、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲にある個別領域Rについて、検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に低い照度値が設定され、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に高い照度値が設定されて得られる配光パターンである。前記「所定の範囲」は、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲であってもよいし、一部の範囲であってもよい。以下に説明する図4(A)及び図4(B)では、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲を、前記「所定の範囲」としている。
例えば照度設定部42は、予め定められたしきい値よりも輝度の低い個別領域Rには、当該しきい値よりも輝度の高い個別領域Rに対して設定する照度値よりも低い照度値を設定する。一方、当該しきい値よりも輝度の高い個別領域Rには、当該しきい値よりも輝度の低い個別領域Rに対して設定する照度値よりも高い照度値を設定する。この結果、輝度が相対的に低い個別領域Rの照度値は、輝度が相対的に高い個別領域Rの照度値よりも低い値となる。逆に、輝度が相対的に高い個別領域Rの照度値は、輝度が相対的に低い個別領域Rの照度値よりも高い値となる。一例として、照度設定部42は、しきい値よりも輝度の低い個別領域Rには、現在設定されている照度値よりも低い照度値を設定する。一方、しきい値よりも輝度の高い個別領域Rには、現在設定されている照度値よりも高い照度値を設定する。なお、しきい値を用いずに、例えば最も輝度の高い個別領域Rの輝度を基準として、輝度が低くなるにつれて設定する照度値を下げていってもよい。
つまり、ハイコントラスト配光パターンは、明るい個別領域Rはより明るくなり、暗い個別領域Rはより暗くなる配光パターンである。ハイコントラスト配光パターンによれば、自車前方の照射対象物は、明暗コントラストが強調される。これにより、後述する状況解析部16による物標の検出精度を向上させることができる。あるいは、自車前方に存在する物標を運転者が視認しやすくなり得る。物標としては、対向車、歩行者、先行車、自車両の走行に支障を来す障害物、道路標識、道路標示、道路形状等が例示される。
ハイコントラスト配光パターンの形成においては、新たに設定される相対的に低い照度値は、現在設定されている照度値よりも低い照度値となり、新たに設定される相対的に高い照度値は、現在設定されている照度値よりも高い照度値となり得る。したがって、ハイコントラスト配光パターンの形成が繰り返されると、正帰還がかかって、いずれは設定照度値が0と最大値とに二極化してしまう。照度値が二極化すると、照度値0が設定される個別領域Rにおいて、運転者の視認性を確保することが困難となり得る。
これに対し、以下のように基準照度値Mと係数とを用いることで、当該二極化による運転者の視認性低下を回避することができる。より具体的には、照度設定部42は、各個別領域Rについて、検出された輝度値の大きさに応じて所定の係数を設定し、設定した係数を所定の基準照度値Mに乗じて照度値を設定する。図4(A)は、ハイコントラスト配光パターンを形成する際の検出輝度値と係数との関係を示す図である。図4(B)は、ハイコントラスト配光パターンを形成する際の検出輝度値と設定照度値との関係を示す図である。
照度設定部42は、図4(A)に示すように、検出輝度値の大きさに応じて予め設定された所定の係数を有する。相対的に大きい検出輝度値には相対的に大きい係数が設定され、相対的に小さい検出輝度値には相対的に小さい係数が設定される。係数の値は、物標の検出精度の向上度合い等を考慮して、実験やシミュレーションの結果に基づいて適宜設定することができる。ここでは一例として、検出輝度値のしきい値に対して係数1.0が設定され、最大輝度値に対して係数1.5が設定され、最小輝度値に対して係数0.5が設定されている。照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果に基づいて、各個別領域Rに対して係数を設定する。
また、照度設定部42は、図4(B)に示すように、予め設定された所定の基準照度値Mを有する。照度設定部42は、各個別領域Rに設定した係数を基準照度値Mに乗じて、個別領域Rの照度値を設定する。これにより、検出輝度値が低い個別領域Rには低い照度値が設定され、検出輝度値が高い個別領域Rには高い照度値が設定される。
また、現在設定されている照度値と、係数と、照度値の下限値及び上限値とを用いることでも、照度値の二極化による運転者の視認性低下を回避することができる。すなわち、照度設定部42は、予め設定された照度値の下限値及び上限値を有する。そして、照度設定部42は、各個別領域Rについて、検出された輝度値の大きさに応じて所定の係数を設定する。そして、設定した係数を、基準照度値Mに代えて現在の照度値に乗じて新たな照度値を算出する。
照度設定部42は、算出した照度値が所定の下限値以上である場合は現在の照度値を算出した照度値に更新し、算出した照度値が下限値を下回る場合は現在の照度値を維持する。また、照度設定部42は、算出した照度値が所定の上限値以下である場合は現在の照度値を算出した照度値に更新し、算出した照度値が上限値を上回る場合は現在の照度値を維持する。なお、照度設定部42が少なくとも照度値の下限値を有していれば、暗い個別領域Rに対して照度値0が設定されることは回避することができる。
輝度均一化配光パターンは、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲にある個別領域Rについて、輝度均一化配光パターンが形成された状態で輝度解析部14により検出される輝度が各個別領域Rで同じ値となるように、各個別領域Rの照度値が設定されて得られる配光パターンである。前記「所定の範囲」は、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲であってもよいし、一部の範囲であってもよい。以下に説明する図12では、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲を、前記「所定の範囲」としている。
図12は、輝度均一化配光パターンを形成する際の検出輝度値と、目標輝度値と、設定照度値との関係を示す図である。図12に示すように、例えば照度設定部42は照度値の設定に際し、まずは目標輝度値を設定する。目標輝度値とは、配光パターンが形成された状態で輝度解析部14により検出されるべき輝度を意味する。照度設定部42は、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲に含まれる個別領域Rについて、目標輝度値を同じ値に設定する。
そして、照度設定部42は、各個別領域Rの目標輝度値と輝度解析部14の検出結果とに基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。具体的には、照度設定部42は、検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に高い照度値を設定し、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に低い照度値を設定する。この結果、自車前方の明るさを均一にする輝度均一化配光パターンが形成される。輝度均一化配光パターンによれば、自車前方の暗い領域に存在する物標を明るく照らし出すことができる。このため、ハイコントラスト配光パターンとは異なる方法あるいは態様で、後述する状況解析部16による物標の検出精度を向上させることができる。あるいは、自車前方に存在する物標を運転者が視認しやすくなり得る。
また、照度設定部42は、輝度解析部14により検出される輝度に依存せずに照度値が設定される第2配光パターンを決定する。第2配光パターンは、例えば各個別領域Rに照射する光の照度値が同じ値である、照度一定配光パターンが例示される。
照度設定部42は、各個別領域Rの照度値を示す信号を、光源制御部20に送信する。照度設定部42は、例えば0.1~5ms毎に照度値を設定する。光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10を制御する。光源制御部20は、光源22の点消灯と、各ミラー素子30のオン/オフ切り替えとを制御する。光源制御部20は、各個別領域Rに照射する光の照度値に基づいて、各ミラー素子30のオンの時間比率(幅や密度)を調節する。これにより、各個別領域Rに照射される光の照度を調節することができる。そして、複数の部分照射領域が集まって、各種の配光パターンが構成される。光源制御部20は、例えば0.1~5ms毎に、光源22及び/又は光偏向装置26に駆動信号を送信する。
本実施の形態の車両用灯具システム1は、第1配光パターンを利用して、自車前方の状況に応じて最適な配光パターンを形成するADB(Adaptive Driving Beam)制御を実行する。すなわち、車両用灯具システム1は、第1配光パターンが形成された状況下で低速カメラ38により自車前方を撮像する。状況解析部16は、この撮像データを用いて物標を検出する。このため、より高精度に物標を検出することができる。この結果、ADB制御における光の照射精度、言い換えれば配光パターンの形成精度を高めることができる。
トラッキング部40は、状況解析部16により検出された物標の中から特定物標を決定する。また、トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果に基づいて特定物標の変位を検出する。本実施の形態では、一例として対向車100を特定物標とする。
具体的には、トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果と状況解析部16の検出結果とを統合する。そして、輝度解析部14で検出された各個別領域Rの輝度のうち、特定物標である対向車100の光点102が位置する個別領域Rの輝度を対向車100と関連付ける。トラッキング部40は、その後に取得する輝度解析部14の検出結果において、対向車100と関連付けた輝度の位置を認識することで、特定物標である対向車100の変位を検出することができる。トラッキング部40は、例えば50ms毎に特定物標の決定処理を実行する。また、トラッキング部40は、例えば0.1~5ms毎に特定物標の変位検出処理(トラッキング)を実行する。
照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果と、トラッキング部40の検出結果とに基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。各個別領域Rのうち、特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対しては特定照度値を定める。具体的には、照度設定部42はまず、特定物標である対向車100の存在位置に基づいて特定個別領域R1を定める。例えば照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に含まれる対向車100の位置情報に基づいて、特定個別領域R1を定める。特定個別領域R1の設定について、例えば照度設定部42は、対向車100の前照灯に対応する2つの光点102間の水平方向距離a(図3参照)に対して、予め定められた所定比率の鉛直方向距離bを定め、横a×縦bの寸法範囲と重なる個別領域Rを特定個別領域R1(図3参照)とする。特定個別領域R1には、対向車の運転者と重なる個別領域Rが含まれる。
そして、照度設定部42は、特定個別領域R1に対する特定照度値を定める。例えば、特定照度値0が設定される。また、照度設定部42は、特定個別領域R1を除く他の個別領域Rについて、形成する配光パターンに応じた照度値を定める。また、照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の変位を認識し、特定個別領域R1の位置情報を更新する。そして、各個別領域Rに照射する光の照度値を更新する。トラッキング部40による処理と照度設定部42による処理とは、少なくとも一時において並行して実行される。
また特定物標は、歩行者200であってもよい。この場合、特定個別領域R1の特定照度値は、例えば最大値に設定される。これにより、より高い照度の光を歩行者200に照射して、自車運転者が歩行者200を視認しやすくすることができる。この場合、歩行者200の顔が位置する個別領域Rは、遮光することが望ましい。トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果である各個別領域Rの輝度データにエッジ強調等の公知の画像処理を施すことで、歩行者200の位置をトラッキングすることができる。エッジ強調は、輝度解析部14の処理に含めてもよい。
パターン形成制御部46は、所定の位置範囲にある個別領域Rに対して、第1配光パターンを形成し、他の個別領域Rに対して第2配光パターンを形成する。このように、第1配光パターンの形成対象となる個別領域Rを限定することで、第1配光パターンの決定処理の際に制御装置50にかかる負荷を軽減することができる。また、自車前方を複数の領域に分けてそれぞれに異なる配光パターンを形成することができる。このため、自車前方の状況により適した配光パターンの形成が可能となる。
図10(A)及び図10(B)は、第1配光パターンが形成される個別領域の位置範囲と第2配光パターンが形成される個別領域の位置範囲とを模式的に示す図である。例えば図10(A)に示すように、パターン形成制御部46は、水平線より下方の領域M1に位置する個別領域Rに第1配光パターンを形成する。また、水平線より上方の領域M2に位置する個別領域Rに第2配光パターンを形成する。水平線より下方の領域M1は、視認されるべき物標が存在する可能性が高いため、第1配光パターンが形成される。一方、水平線より上方の領域M2は、視認されるべき物標が存在する可能性が低いため、第2配光パターンが形成される。
また、例えば図10(B)に示すように、パターン形成制御部46は、走行路面の外側で且つ自車上空を除く側方領域N1,N2と重なる個別領域Rに第1配光パターンを形成する。また、自車上空の領域N3と重なる個別領域Rに第2配光パターンを形成する。また、走行路面の領域N4と重なる個別領域Rに第1配光パターン又は第2配光パターンを形成する。視認されるべき物標として優先度が高いものは、歩行者200であることが多い。側方領域N1,N2は、歩行者200が存在する可能性が高いため、第1配光パターンが形成される。一方、自車上空の領域N3は、歩行者200が存在する可能性が低いため、第2配光パターンが形成される。走行路面の領域N4は、自車上空の領域N3に比べれば歩行者200が存在する可能性は高いが、側方領域N1,N2に比べれば歩行者200が存在する可能性は低い。このため、走行路面の領域N4については、制御装置50にかかる負荷の軽減と、運転の安全性の向上とのどちらを優先するかで、形成する配光パターンを選択することができる。
また、パターン形成制御部46は、自車両の状態又は周囲環境に応じて第1配光パターンを形成する個別領域Rと第2配光パターンを形成する個別領域Rとを設定することができる。例えば、パターン形成制御部46は、自車両の車速が所定速度以上であるとき、走行路面の領域N4と重なる個別領域Rに第1配光パターンを形成し、他の個別領域Rに第2配光パターンを形成する。また、車速が所定速度未満であるとき、走行路面の外側で且つ自車上空を除く側方領域N1,N2と重なる個別領域Rに第1配光パターンを形成し、他の個別領域Rに第2配光パターンを形成する。前記「所定速度」は、例えば80km/hである。
車両が所定速度以上の高速で走行する場合、側方領域N1,N2よりも走行路面の領域N4において物標の有無を確認したい要求が高まる。また、車両が所定速度以上の高速で走行することが一般的である、高速道路等の自動車専用道路では、走行路面の側方領域N1,N2に視認すべき物標(特に歩行者200)が存在する可能性は低い。このため、車速が所定速度以上であるときは、走行路面の領域N4と重なる個別領域Rに第1配光パターンを形成し、他の個別領域Rに第2配光パターンを形成する。
一方、車両が所定速度未満の低速で走行する状況では、走行路面の側方領域N1,N2に視認すべき物標が存在する可能性が高まる。このため、走行路面の領域N4よりも側方領域N1,N2において物標の有無を確認したい要求が高まる。このため、車速が所定速度未満であるときは、側方領域N1,N2と重なる個別領域Rに第1配光パターンを形成し、他の個別領域Rに第2配光パターンを形成する。
パターン形成制御部46は、低速カメラ38の画像データあるいは状況解析部16の検出結果に基づいて、領域M1,M2,N1~N4を決定することができる。また、パターン形成制御部46は、車両に搭載される図示しない車速センサから車速情報を取得することができる。自車両の状態や周囲環境に関する情報は、車両に搭載される図示しないカーナビゲーションシステムや操舵角センサ、照度センサ、撮像部12の画像データ等からも取得することができる。例えば、パターン形成制御部46は、カーナビゲーションシステムから得られる情報に基づいて、前方の道路形状を認識して走行路面の領域N4を変更することができる。
また、パターン形成制御部46は、第1配光パターンと、第1配光パターンとは異なる第3配光パターンとを合成して、運転者に第4配光パターンを視認させる制御を実行することができる。すなわち、パターン形成制御部46は、撮像部12の低速カメラ38が自車前方を撮像している間は第1配光パターンを形成し、他の時間は第1配光パターンとは異なる第3配光パターンを形成する。パターン形成制御部46は、第1配光パターンと第3配光パターンとを合成して第4配光パターンを形成し、当該第4配光パターンを運転者に視認させる。
照度設定部42は、第1配光パターンとは異なる第3配光パターンを決定する。第3配光パターンは、第1配光パターンとの合成により、運転者に視認される第4配光パターンを形成するための配光パターンである。第4配光パターンは、例えば人間工学に基づいて定められる、運転者の眼に最適な配光パターンであり、予め設定される。第3配光パターンは、最終的に形成される第4配光パターンと、第4配光パターンの合成成分である第1配光パターンとを考慮して決定される。
例えば、第3配光パターンは、第1配光パターンが形成された状態における各個別領域Rの輝度に依存して、各個別領域Rの照度値が設定されて得られる。具体的には、第3配光パターンは、第1配光パターンが形成された状況において運転者が視認できる所定の輝度未満である個別領域Rの輝度を、第4配光パターンが形成された状況において高める配光パターンである。また、第3配光パターンは、第1配光パターンが形成された状況において運転者がグレアを受ける所定の輝度以上である個別領域Rの輝度を、第4配光パターンが形成された状況において低減する配光パターンである。照度設定部42は、運転者が視認できる所定の輝度値と運転者がグレアを受ける所定の輝度値とを予め所持している。そして、照度設定部42は、第1配光パターンの形成状態で得られた画像データに基づく輝度解析部14の検出結果から、各個別領域Rの照度値を設定し、第3配光パターンを決定する。
図15は、低速カメラによる撮像、高速カメラによる撮像、第1配光パターンの形成及び第3配光パターンの形成の推移の一例を示すタイミングチャートである。図15に示すように、パターン形成制御部46は、第1配光パターンと第3配光パターンとの間で、形成する配光パターンを周期的に切り替える。これにより、第1配光パターンと第3配光パターンとが合成されてなる第4配光パターンを形成する。第1配光パターンの形成とこれに続く第3配光パターンの形成とを繰り返し単位Pとしたとき、繰り返しの周期は例えば60Hz以上(16.6ms以下)である。これにより、配光パターンの切り替わりを運転者に認識させることなく、第4配光パターンを安定的に視認させることができる。
このように、運転者に視認させる第4配光パターンを2つの配光パターンの合成によって形成しているため、多様な第4配光パターンを形成することができる。よって、状況に応じて最適な配光パターンの形成が可能となる。この結果、運転の安全性を向上させることができる。また、第1配光パターンは、状況解析部16による物標検出に好適な配光パターンではあるが、運転者が視認する上で好適な配光パターンとは言えない可能性もある。これに対し、本実施の形態では、物標検出用の画像データを撮像部12が取得する際に第1配光パターンを形成し、運転者には第1配光パターンと第3配光パターンとを合成して第4配光パターンを視認させる。これにより、状況解析部16による物標の検出精度を高めることができるとともに、運転者には、人の眼に最適な配光パターンを視認させることができる。このため、物標の検出精度の向上と運転者の視認性の向上とを、より高い次元で両立させることができる。この結果、運転の安全性を向上させることができる。
ADB制御の一例として、照度設定部42は、対向車100の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対して、特定照度値「0」を設定し、他の個別領域Rに対して、照度値「1」を設定する。この設定を、第1照度情報とする。また、照度設定部42は、第1配光パターンと第3配光パターンの切替制御に準じて、特定個別領域R1を除く所定の位置範囲にある個別領域Rに対する照度値を設定する。また、第2配光パターンの形成制御に準じて、残りの個別領域Rに対して同じ照度値を設定する。この設定を、第2照度情報とする。
そして、照度設定部42は、第1照度情報と第2照度情報とをAND演算する。これにより、特定個別領域R1に対する特定照度値が「0」であり、他の個別領域Rに対する照度値が切替制御あるいは第2配光パターンの形成制御に準じて定まる照度値である照度情報が生成される。すなわち、特定個別領域R1は遮光され、特定個別領域R1を除く各個別領域Rには第1配光パターンと第3配光パターンとが交互に形成されるか、第2配光パターンが形成される。
図11(A)及び図11(B)は、実施の形態6に係る車両用灯具システムにおいて実行されるADB制御の一例を示すフローチャートである。このフローは、例えば図示しないライトスイッチによってADB制御の実行指示がなされ、且つイグニッションがオンのときに所定のタイミングで繰り返し実行され、ADB制御の実行指示が解除される(あるいは停止指示がなされる)か、イグニッションがオフにされた場合に終了する。また、図11(A)に示すフローは、例えば0.1~5ms毎に繰り返される高速処理であり、図11(B)に示すフローは、例えば50ms毎に繰り返される低速処理である。この低速処理と高速処理とは、並行して実行される。また、低速処理の実行タイミングと同期して高速処理において第1配光パターンが形成されるように、予め設計されている。
図11(A)に示すように、高速処理では、まず高速カメラ36によって自車前方が撮像される(S2101)。次に、輝度解析部14によって、高速カメラ36の画像データに基づいて、各個別領域Rの輝度が検出される(S2102)。続いて、特定個別領域R1が設定されているか判断される(S2103)。当該判断は、例えばトラッキング部40により実行される。特定個別領域R1が設定されている場合(S2103のY)、トラッキング部40によって、特定物標がトラッキングされて特定個別領域R1の位置(変位)が検出される。照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の設定(位置情報)を更新する(S2104)。
次に、照度設定部42によって、各個別領域Rに照射する光の照度値が設定される(S2105)。低速処理の実行タイミングにある場合は、所定の位置範囲にある個別領域Rに対して第1配光パターンに準じた照度値が設定され、低速処理の実行タイミングにない場合は、所定の位置範囲にある個別領域Rに対して第3配光パターンに準じた照度値が設定される。特定個別領域R1に対しては、特定照度値が設定される。残りの個別領域Rに対しては、第2配光パターンに準じた照度値が設定される。次に、光源制御部20によって光源部10が駆動され、定められた照度の光が光源部10から照射されて(S2106)、本ルーチンが終了する。特定個別領域R1が設定されていない場合(S2103のN)、照度設定部42によって、個別領域Rに照射する光の照度値が設定される(S2105)。この場合、設定される照度値の中には、特定照度値は含まれない。その後は、ステップS2106の処理が実行されて、本ルーチンが終了する。
ステップS2104において、トラッキングにより特定物標の消失が検出された場合には、特定個別領域R1の設定も消失する。したがって、ステップS2105で設定される照度値の中には、特定照度値は含まれないこととなる。また、次回のルーチンにおけるステップS2103では、後述するステップS205の処理が実行されるまでは、特定個別領域R1が設定されていない(S2103のN)と判定される。
図11(B)に示すように、低速処理では、まず低速カメラ38によって自車前方が撮像される(S2201)。このとき、自車前方には第1配光パターンが形成されている。次に、状況解析部16によって、低速カメラ38の画像データに基づいて、自車前方に存在する物標が検出される(S2202)。次に、検出された物標の中に特定物標が含まれているか判断される(S2203)。当該判断は、例えばトラッキング部40により実行される。
特定物標が含まれている場合(S2203のY)、トラッキング部40によって、特定物標が決定される(S2204)。次に、照度設定部42によって、特定物標の存在位置に基づいて特定個別領域R1が設定され(S2205)、本ルーチンが終了する。特定物標が含まれていない場合(S2203のN)、本ルーチンが終了する。なお、上記フローチャートでは、低速処理において特定個別領域が設定されているが、当該設定は高速処理において実行されてもよい。
以上説明したように、本実施の形態に係る車両用灯具システム1は、撮像部12と、輝度解析部14と、照度設定部42と、灯具部62と、光源制御部20と、パターン形成制御部46とを備える。輝度解析部14は、自車前方に並ぶ複数の個別領域Rそれぞれの輝度を検出する。照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて、灯具部62を制御する。これにより、車両用灯具システム1は、輝度解析部14により検出される輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定される第1配光パターンを形成することができる。また、車両用灯具システム1は、輝度解析部14により検出される輝度に依存せずに照度値が設定される第2配光パターンを形成することができる。
パターン形成制御部46は、所定の位置範囲にある個別領域Rに対して、第1配光パターンを形成する。また、他の個別領域Rに対して、第2配光パターンを形成する。これにより、第1配光パターンの決定処理の際に制御装置50にかかる負荷を軽減することができる。このため、配光パターンの形成に要する時間を短縮することができ、配光パターンの変化を自車前方の状況の変化に高精度に追従させることができる。また、自車前方の複数の区画に対して異なる配光パターンを形成できるため、自車前方の状況により適した配光パターンの形成が可能となる。これらの結果、運転の安全性を向上させることができる。
また、第1配光パターンは、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲にある個別領域Rについて、検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に低い照度値が設定され、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に高い照度値が設定されるハイコントラスト配光パターン、又は、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲にある個別領域Rについて、検出される輝度が同じ値となるように各個別領域Rの照度値が設定される輝度均一化配光パターンである。これらによれば、状況解析部16による物標の検出精度を向上させることができる。また、自車前方に存在する物標を運転者が視認しやすくなり得る。よって、運転の安全性をより高めることができる。
また、パターン形成制御部46は、水平線より下方の領域M1に位置する個別領域Rに第1配光パターンを形成し、水平線より上方の領域M2に位置する個別領域Rに第2配光パターンを形成する。あるいは、パターン形成制御部46は、走行路面の外側で且つ自車上空を除く側方領域N1,N2と重なる個別領域Rに第1配光パターンを形成し、自車上空の領域N3と重なる個別領域Rに第2配光パターンを形成し、走行路面の領域N4と重なる個別領域Rに第1配光パターン又は第2配光パターンを形成する。
また、パターン形成制御部46は、自車両の状態又は周囲環境に応じて第1配光パターンを形成する個別領域Rと第2配光パターンを形成する個別領域Rとを設定する。例えば、パターン形成制御部46は、自車両の車速が所定速度以上であるとき、走行路面の領域N4と重なる個別領域Rに第1配光パターンを形成し、他の個別領域Rに第2配光パターンを形成する。また、車速が所定速度未満であるとき、走行路面の外側で且つ自車上空を除く側方領域N1,N2と重なる個別領域Rに第1配光パターンを形成し、他の個別領域Rに第2配光パターンを形成する。これらにより、第1配光パターンの形成による物標の検出精度の向上と、制御装置50にかかる負荷の軽減とを両立させることができる。
(実施の形態7)
実施の形態7に係る車両用灯具システムは、灯具部62が光源部10に加えて他の光源部を備える点を除いて実施の形態6に係る車両用灯具システムの構成と共通する。以下、実施の形態7に係る車両用灯具システムについて、実施の形態6と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
図13は、実施の形態7に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。図13では、図8と同様に車両用灯具システムの構成要素の一部を機能ブロックとして描いている。車両用灯具システム1(1B)は、灯具部62と、撮像部12と、制御装置50とを備える。灯具部62は、光源部10に加えて、他の光源部としての灯具ユニット60を有する。灯具ユニット60は、輝度解析部14により検出される輝度に依存せずに照度値が設定される第2配光パターンとして、従来公知のロービーム用配光パターンやハイビーム用配光パターン等を形成することができる。以下では適宜、灯具ユニット60により形成される配光パターンを、通常配光パターンと称する。通常配光パターンの形成範囲は、シェード等の従来公知の技術により調整することができる。
制御装置50は、輝度解析部14と、状況解析部16と、灯具制御部18と、光源制御部20とを有する。灯具制御部18は、トラッキング部40と、照度設定部42と、パターン形成制御部46とを含む。
照度設定部42は、輝度解析部14が検出する輝度に依存して照度値が設定される第1配光パターンとして、ハイコントラスト配光パターン及び輝度均一化配光パターンを決定する。照度設定部42は、各個別領域Rの照度値を示す信号を、光源制御部20に送信する。光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10を制御する。これにより、第1配光パターンが形成される。
また、照度設定部42は、第2配光パターンを形成することができる。本実施の形態では、第2配光パターンは、灯具ユニット60により形成される通常配光パターンである。照度設定部42は、通常配光パターンの形成を指示する信号を、光源制御部20に送信する。光源制御部20は、照度設定部42から当該信号を受信すると灯具ユニット60を点灯させる。これにより、第2配光パターンが形成される。なお、灯具ユニット60は、ハイコントラスト配光パターンが形成される際に、ハイコントラスト配光パターンが形成される個別領域Rに対して光を照射してもよい。これにより、ハイコントラスト配光パターンにおける照度値の二極化によって運転者の視認性が低下することを、回避することができる。
パターン形成制御部46は、所定の位置範囲にある個別領域Rに対して、第1配光パターンを形成し、他の個別領域Rに対して第2配光パターンを形成する。例えば、パターン形成制御部46は、水平線より下方に位置する個別領域Rに第1配光パターンを形成し、水平線より上方に位置する個別領域Rに第2配光パターンを形成する。また、例えばパターン形成制御部46は、走行路面の外側で且つ自車上空を除く側方領域と重なる個別領域Rに第1配光パターンを形成し、自車上空と重なる個別領域Rに第2配光パターンを形成し、走行路面と重なる個別領域Rに第1配光パターン又は第2配光パターンを形成する。
また、パターン形成制御部46は、自車両の状態又は周囲環境に応じて第1配光パターンを形成する個別領域Rと第2配光パターンを形成する個別領域Rとを設定することができる。例えば、パターン形成制御部46は、自車両の車速が所定速度以上であるとき、走行路面と重なる個別領域Rに第1配光パターンを形成し、他の個別領域Rに第2配光パターンを形成する。また、車速が所定速度未満であるとき、走行路面の外側で且つ自車上空を除く側方領域と重なる個別領域Rに第1配光パターンを形成し、他の個別領域Rに第2配光パターンを形成する。
また、パターン形成制御部46は、第1配光パターンと第3配光パターンとの間で、形成する配光パターンを周期的に切り替え、第1配光パターンと第3配光パターンとが合成されてなる第4配光パターンを形成することができる。なお、本実施の形態においても、第1配光パターンを形成するタイミングと低速カメラ38が撮像するタイミングとが同期している。
本発明は、上述の実施の形態6,7に限定されるものではなく、各実施の形態を組み合わせたり、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような組み合わせられ、もしくは変形が加えられて得られる新たな実施の形態も本発明の範囲に含まれる。このような新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態及び変形それぞれの効果をあわせもつ。
実施の形態6,7では、撮像部12、輝度解析部14、状況解析部16、灯具制御部18及び光源制御部20が灯室8内に設けられているが、それぞれは適宜、灯室8外に設けられてもよい。例えば、撮像部12のうち低速カメラ38は、車室内に搭載されている既存のカメラを利用することができる。なお、撮像部12と光源部10とは画角が一致していることが望ましい。
高速カメラ36が低速カメラ38と同等の解像度を有する場合には、低速カメラ38を省略してもよい。これにより、車両用灯具システム1の小型化を図ることができる。この場合、状況解析部16は、高速カメラ36の画像データを用いて物標を検出する。また、高速カメラ36の撮像タイミングと第1配光パターンの形成タイミングとが同期される。
第1配光パターンの形成時間に対して第3配光パターンの形成時間が長くなるにつれて、第4配光パターンは実質的に第3配光パターンと同じ配光パターンとなり得る。この場合、第3配光パターンを、人間工学に基づいて定められる運転者の眼に最適な配光パターンとしてもよい。また、第3配光パターンの形成に灯具ユニット60が利用されてもよい。
第1配光パターンと第3配光パターンの切替制御によれば第1配光パターンは実質的に人に視認されないため、特定個別領域R1を含めた個別領域Rに対して第1配光パターンを形成してもよい。一方、第3配光パターンは、特定個別領域R1を除く個別領域Rに対して形成する。これにより、例えば特定物標が歩行者200である場合には、歩行者200にグレアを与えることを回避しながら歩行者200を高精度にトラッキングすることができる。
光源部10は、DMDである光偏向装置26に代えて、光源光で自車前方を走査するスキャン光学系や、各個別領域Rに対応するLEDが配列されたLEDアレイを備えてもよい。
輝度均一化配光パターンを形成する際の検出輝度値と設定照度値との関係は、次のようであってもよい。図14(A)~図14(C)は、輝度均一化配光パターンを形成する際の検出輝度値と設定照度値との関係の他の例を示す図である。すなわち、図12に示す例では、検出輝度値に対して設定照度値を連続的且つ直線的に変化させている。しかしながら、特にこの関係に限定されず、図14(A)及び図14(B)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を段階的に変化させてもよい。また、図14(C)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を曲線的に変化させてもよい。なお、図14(C)では上に凸の曲線を図示しているが、下に凸の曲線であってもよい。
ハイコントラスト配光パターンを形成する際の検出輝度値と設定照度値との関係は、次のようであってもよい。図7(A)~図7(C)は、ハイコントラスト配光パターンを形成する際の検出輝度値と設定照度値との関係の他の例を示す図である。すなわち、図4(B)に示す例では、検出輝度値に対して設定照度値を連続的且つ直線的に変化させている。しかしながら、特にこの関係に限定されず、図7(A)及び図7(B)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を段階的に変化させてもよい。また、図7(C)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を曲線的に変化させてもよい。なお、図7(C)では上に凸の曲線を図示しているが、下に凸の曲線であってもよい。また、検出輝度値と係数との関係は、検出輝度値と設定照度値との関係と同様であるため、図示するまでもなく明らかである。
以下の態様も本発明に含めることができる。
自車前方を撮像する撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域Rのそれぞれの輝度を検出する輝度解析部14と、
輝度解析部14の検出結果に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める照度設定部42と、
照度設定部42が定めた照度値に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部10を少なくとも有する灯具部62を制御する光源制御部20と、
所定の位置範囲にある個別領域Rに対して、輝度解析部14により検出される輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定される第1配光パターンを形成し、他の個別領域Rに対して、輝度解析部14により検出される輝度に依存せずに照度値が設定される第2配光パターンを形成するパターン形成制御部46と、
を備える、車両用灯具2の制御装置50。
自車前方を撮像する撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域Rのそれぞれの輝度を検出するステップと、
検出した輝度に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定めるステップと、
定めた照度値に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部10を少なくとも有する灯具部62を制御するステップと、
所定の位置範囲にある個別領域Rに対して、検出した輝度に依存して各個別領域Rの照度値を設定して得られる第1配光パターンを形成し、他の個別領域Rに対して、検出した輝度に依存せずに照度値を設定して得られる第2配光パターンを形成するステップと、
を含む、車両用灯具2の制御方法。
(実施の形態8)
図16は、実施の形態8に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。図16では、車両用灯具システム1の構成要素の一部を機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックは、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。これらの機能ブロックがハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
車両用灯具システム1(1A)は、車両前方の左右に配置される一対の前照灯ユニットを有する車両用前照灯装置に適用される。一対の前照灯ユニットは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、図16には車両用灯具2として一方の前照灯ユニットの構造を示す。
車両用灯具システム1が備える車両用灯具2は、車両前方側に開口部を有するランプボディ4と、ランプボディ4の開口部を覆うように取り付けられた透光カバー6とを備える。透光カバー6は、透光性を有する樹脂やガラス等で形成される。ランプボディ4と透光カバー6とにより形成される灯室8内には、灯具部62と、撮像部12と、制御装置50とが収容される。
灯具部62は、少なくとも光源部10を有する。光源部10は、自車前方に並ぶ複数の個別領域(図3参照)のそれぞれに照射する光の照度(強度)を独立に調節可能な装置である。光源部10は、光源22と、反射光学部材24と、光偏向装置26と、投影光学部材28とを有する。各部は、図示しない支持機構によりランプボディ4に取り付けられる。
光源22は、LED(Light emitting diode)、LD(Laser diode)、EL(Electroluminescence)素子等の半導体発光素子や、電球、白熱灯(ハロゲンランプ)、放電灯(ディスチャージランプ)等を用いることができる。
反射光学部材24は、光源22から出射した光を光偏向装置26の反射面に導くように構成される。反射光学部材24は、内面が所定の反射面となっている反射鏡で構成される。なお、反射光学部材24は、中実導光体などであってもよい。また、光源22から出射した光を光偏向装置26に直接導くことができる場合は、反射光学部材24を設けなくてもよい。
光偏向装置26は、投影光学部材28の光軸上に配置され、光源22から出射された光を選択的に投影光学部材28へ反射するように構成される。光偏向装置26は、例えばDMD(Digital Mirror Device)で構成される。すなわち、光偏向装置26は、複数の微小ミラーをアレイ(マトリックス)状に配列したものである。これらの複数の微小ミラーの反射面の角度をそれぞれ制御することで、光源22から出射された光の反射方向を選択的に変えることができる。つまり、光偏向装置26は、光源22から出射された光の一部を投影光学部材28へ向けて反射し、それ以外の光を、投影光学部材28によって有効に利用されない方向へ向けて反射することができる。ここで、有効に利用されない方向とは、例えば、投影光学部材28には入射するが配光パターンの形成にほとんど寄与しない方向や、図示しない光吸収部材(遮光部材)に向かう方向と捉えることができる。
図2(A)は、光偏向装置の概略構成を示す正面図である。図2(B)は、図2(A)に示す光偏向装置のA-A断面図である。光偏向装置26は、複数の微小なミラー素子30がマトリックス状に配列されたマイクロミラーアレイ32と、ミラー素子30の反射面30aの前方側(図2(B)に示す光偏向装置26の右側)に配置された透明なカバー部材34とを有する。カバー部材34は、例えば、ガラスやプラスチック等で構成される。
ミラー素子30は略正方形であり、水平方向に延びミラー素子30をほぼ等分する回動軸30bを有する。マイクロミラーアレイ32の各ミラー素子30は、光源22から出射された光を所望の配光パターンの一部として利用されるように投影光学部材28へ向けて反射する第1反射位置(図2(B)において実線で示す位置)と、光源22から出射された光が有効に利用されないように反射する第2反射位置(図2(B)において点線で示す位置)とを切り替え可能に構成されている。各ミラー素子30は、回動軸30b周りに回動して、第1反射位置と第2反射位置との間で個別に切り替えられる。各ミラー素子30は、オン時に第1反射位置をとり、オフ時に第2反射位置をとる。
図3は、自車前方の様子を模式的に示す図である。上述のように光源部10は、灯具前方に向けて互いに独立に光を照射可能な個別照射部としてのミラー素子30を複数有する。光源部10は、ミラー素子30によって自車前方に並ぶ複数の個別領域Rに光を照射することができる。各個別領域Rは、撮像部12、より具体的には例えば高速カメラ36の1ピクセル又は複数ピクセルの集合に対応する領域である。本実施の形態では、各個別領域Rと各ミラー素子30とが対応付けられている。
図2(A)及び図3では、説明の便宜上、ミラー素子30及び個別領域Rを横10×縦8の配列としているが、ミラー素子30及び個別領域Rの数は特に限定されない。例えば、マイクロミラーアレイ32の解像度(言い換えればミラー素子30及び個別領域Rの数)は1000~30万ピクセルである。また、光源部10が1つの配光パターンの形成に要する時間は、例えば0.1~5msである。すなわち、光源部10は、0.1~5ms毎に配光パターンを変更することができる。
図16に示すように、投影光学部材28は、例えば、前方側表面及び後方側表面が自由曲面形状を有する自由曲面レンズからなる。投影光学部材28は、その後方焦点を含む後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方に投影する。投影光学部材28は、その後方焦点が車両用灯具2の光軸上、且つマイクロミラーアレイ32の反射面の近傍に位置するように配置される。なお、投影光学部材28は、リフレクタであってもよい。
光源22から出射された光は、反射光学部材24で反射されて、光偏向装置26のマイクロミラーアレイ32に照射される。光偏向装置26は、第1反射位置にある所定のミラー素子30によって投影光学部材28へ向けて光を反射する。この反射された光は、投影光学部材28を通過して灯具前方に進行し、各ミラー素子30に対応する各個別領域Rに照射される。これにより、所定形状の配光パターンが灯具前方に形成される。
撮像部12は、自車前方を撮像する装置である。撮像部12は、高速カメラ36を含む。高速カメラ36は、比較的フレームレートが高く、例えば200fps以上10000fps以下(1フレームあたり0.1~5ms)である。また、高速カメラ36は、比較的解像度が小さく、例えば30万ピクセル以上500万ピクセル未満である。高速カメラ36は、全ての個別領域Rを撮像する。
制御装置50は、輝度解析部14と、灯具制御部18と、光源制御部20とを有する。撮像部12が取得した画像データは、輝度解析部14に送られる。
輝度解析部14は、撮像部12から得られる情報(画像データ)に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14は、高速に解析結果を出力する高速解析部である。本実施の形態の輝度解析部14は、高速カメラ36から得られる情報に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14は、例えば0.1~5ms毎に各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14の検出結果、すなわち個別領域Rの輝度情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
灯具制御部18は、各個別領域Rに照射する光の照度値の設定や、形成する配光パターンの切替等を実行する。一例として、灯具制御部18は、照度設定部42と、切替制御部44とを含む。
照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。つまり、照度設定部42は、輝度解析部14により検出される輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定される配光パターンを決定する。本実施の形態の照度設定部42は、輝度解析部14が検出する輝度に依存して照度値が設定される配光パターンとして、ハイコントラスト配光パターンと輝度均一化配光パターンとを決定する。
ハイコントラスト配光パターンは、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲にある個別領域Rについて、検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に低い照度値が設定され、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に高い照度値が設定されて得られる配光パターンである。前記「所定の範囲」は、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲であってもよいし、一部の範囲であってもよい。以下に説明する図4(A)及び図4(B)では、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲を、前記「所定の範囲」としている。
例えば照度設定部42は、予め定められたしきい値よりも輝度の低い個別領域Rには、当該しきい値よりも輝度の高い個別領域Rに対して設定する照度値よりも低い照度値を設定する。一方、当該しきい値よりも輝度の高い個別領域Rには、当該しきい値よりも輝度の低い個別領域Rに対して設定する照度値よりも高い照度値を設定する。この結果、輝度が相対的に低い個別領域Rの照度値は、輝度が相対的に高い個別領域Rの照度値よりも低い値となる。逆に、輝度が相対的に高い個別領域Rの照度値は、輝度が相対的に低い個別領域Rの照度値よりも高い値となる。一例として、照度設定部42は、しきい値よりも輝度の低い個別領域Rには、現在設定されている照度値よりも低い照度値を設定する。一方、しきい値よりも輝度の高い個別領域Rには、現在設定されている照度値よりも高い照度値を設定する。なお、しきい値を用いずに、例えば最も輝度の高い個別領域Rの輝度を基準として、輝度が低くなるにつれて設定する照度値を下げていってもよい。
つまり、ハイコントラスト配光パターンは、明るい個別領域Rはより明るくなり、暗い個別領域Rはより暗くなる配光パターンである。ハイコントラスト配光パターンによれば、自車前方の照射対象物は、明暗コントラストが強調される。これにより、自車前方に存在する物標を運転者が視認しやすくなる。物標としては、対向車、歩行者、先行車、自車両の走行に支障を来す障害物、道路標識、道路標示、道路形状等が例示される。
ハイコントラスト配光パターンの形成においては、新たに設定される相対的に低い照度値は、現在設定されている照度値よりも低い照度値となり、新たに設定される相対的に高い照度値は、現在設定されている照度値よりも高い照度値となり得る。したがって、ハイコントラスト配光パターンの形成が繰り返されると、正帰還がかかって、いずれは設定照度値が0と最大値とに二極化してしまう。照度値が二極化すると、照度値0が設定される個別領域Rにおいて、運転者の視認性を確保することが困難となり得る。
これに対し、以下のように基準照度値Mと係数とを用いることで、当該二極化による運転者の視認性低下を回避することができる。より具体的には、照度設定部42は、各個別領域Rについて、検出された輝度値の大きさに応じて所定の係数を設定し、設定した係数を所定の基準照度値Mに乗じて照度値を設定する。図4(A)は、ハイコントラスト配光パターンを形成する際の検出輝度値と係数との関係を示す図である。図4(B)は、ハイコントラスト配光パターンを形成する際の検出輝度値と設定照度値との関係を示す図である。
照度設定部42は、図4(A)に示すように、検出輝度値の大きさに応じて予め設定された所定の係数を有する。相対的に大きい検出輝度値には相対的に大きい係数が設定され、相対的に小さい検出輝度値には相対的に小さい係数が設定される。係数の値は、物標の検出精度の向上度合い等を考慮して、実験やシミュレーションの結果に基づいて適宜設定することができる。ここでは一例として、検出輝度値のしきい値に対して係数1.0が設定され、最大輝度値に対して係数1.5が設定され、最小輝度値に対して係数0.5が設定されている。照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果に基づいて、各個別領域Rに対して係数を設定する。
また、照度設定部42は、図4(B)に示すように、予め設定された所定の基準照度値Mを有する。照度設定部42は、各個別領域Rに設定した係数を基準照度値Mに乗じて、個別領域Rの照度値を設定する。これにより、検出輝度値が低い個別領域Rには低い照度値が設定され、検出輝度値が高い個別領域Rには高い照度値が設定される。
また、現在設定されている照度値と、係数と、照度値の下限値及び上限値とを用いることでも、照度値の二極化による運転者の視認性低下を回避することができる。すなわち、照度設定部42は、予め設定された照度値の下限値及び上限値を有する。そして、照度設定部42は、各個別領域Rについて、検出された輝度値の大きさに応じて所定の係数を設定する。そして、設定した係数を、基準照度値Mに代えて現在の照度値に乗じて新たな照度値を算出する。
照度設定部42は、算出した照度値が所定の下限値以上である場合は現在の照度値を算出した照度値に更新し、算出した照度値が下限値を下回る場合は現在の照度値を維持する。また、照度設定部42は、算出した照度値が所定の上限値以下である場合は現在の照度値を算出した照度値に更新し、算出した照度値が上限値を上回る場合は現在の照度値を維持する。なお、照度設定部42が少なくとも照度値の下限値を有していれば、暗い個別領域Rに対して照度値0が設定されることは回避することができる。
輝度均一化配光パターンは、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲にある個別領域Rについて、輝度均一化配光パターンが形成された状態で輝度解析部14により検出される輝度が各個別領域Rで同じ値となるように、各個別領域Rの照度値が設定される配光パターンである。前記「所定の範囲」は、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲であってもよいし、一部の範囲であってもよい。以下に説明する図12では、輝度解析部14により検出可能な輝度の全範囲を、前記「所定の範囲」としている。
図12は、輝度均一化配光パターンを形成する際の検出輝度値と、目標輝度値と、設定照度値との関係を示す図である。図12に示すように、例えば照度設定部42は照度値の設定に際し、まずは目標輝度値を設定する。目標輝度値とは、配光パターンが形成された状態で輝度解析部14により検出されるべき輝度を意味する。照度設定部42は、輝度解析部14により検出された輝度が所定の範囲に含まれる個別領域Rについて、目標輝度値を同じ値に設定する。
そして、照度設定部42は、各個別領域Rの目標輝度値と輝度解析部14の検出結果とに基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。具体的には、照度設定部42は、検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に高い照度値を設定し、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に低い照度値を設定する。この結果、自車前方の明るさを均一にする輝度均一化配光パターンが形成される。輝度均一化配光パターンによれば、自車前方の暗い領域に存在する物標を明るく照らし出すことができる。このため、ハイコントラスト配光パターンとは異なる方法あるいは態様で、自車前方に存在する物標を運転者が視認しやすくなる。
また、照度設定部42は、輝度解析部14により検出される輝度に依存せずに照度値が設定される配光パターンを決定する。このような配光パターンは、例えば各個別領域Rに照射する光の照度値が同じ値である、照度一定配光パターンが例示される。
照度設定部42は、各個別領域Rの照度値を示す信号を、光源制御部20に送信する。照度設定部42は、例えば0.1~5ms毎に照度値を設定する。光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10を制御する。光源制御部20は、光源22の点消灯と、各ミラー素子30のオン/オフ切り替えとを制御する。光源制御部20は、各個別領域Rに照射する光の照度値に基づいて、各ミラー素子30のオンの時間比率(幅や密度)を調節する。これにより、各個別領域Rに照射される光の照度を調節することができる。そして、複数の部分照射領域が集まって、各種の配光パターンが構成される。光源制御部20は、例えば0.1~5ms毎に、光源22及び/又は光偏向装置26に駆動信号を送信する。
切替制御部44は、輝度解析部14により検出される輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定される第1配光パターンと、輝度解析部14により検出される輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定され且つ第1配光パターンとは異なるか、又は輝度解析部14により検出される輝度に依存せずに照度値が設定される第2配光パターンとの間で、形成する配光パターンを切り替える。切替制御部44は、配光パターンの切り替えを指示する信号を照度設定部42に送信する。照度設定部42は、この信号を受けて各個別領域Rの照度値を設定し、光源制御部20に照度値信号を送信する。
例えば、第1配光パターンはハイコントラスト配光パターンであり、第2配光パターンは輝度均一化配光パターンか照度一定配光パターンである。つまり、切替制御部44は、ハイコントラスト配光パターンと輝度均一化配光パターンとの間で、又はハイコントラスト配光パターンと照度一定配光パターンとの間で、形成する配光パターンを切り替える。なお、両方の切り替えを組み合わせることもできる。
あるいは、第1配光パターンは輝度均一化配光パターンであり、第2配光パターンはハイコントラスト配光パターンか照度一定配光パターンである。つまり、切替制御部44は、輝度均一化配光パターンとハイコントラスト配光パターンとの間で、又は輝度均一化配光パターンと照度一定配光パターンとの間で、形成する配光パターンを切り替える。なお、両方の切り替えを組み合わせることもできる。
例えば切替制御部44は、自車の周囲状況又は運転者の状態に応じて形成する配光パターンを動的に切り替える。一例として切替制御部44は、図16に示すように、車両に搭載されるカーナビゲーションシステム70又は運転者を撮像する運転者カメラ72から得られる情報に基づいて配光パターンを切り換える。
自車周囲の状況に応じた配光パターンの切り替えについて、第1配光パターンとしてハイコントラスト配光パターンを形成している状況を例に挙げて説明する。例えば片側車線で工事が行われている道路では、車両の通行が規制される区域にロードコーン、コーンバー、柵、工事に用いられる各種装置等が多数置かれていることが多い。このような道路を自車両が走行している状況下でハイコントラスト配光パターンが形成されていると、通行規制区域、すなわち運転者が視認する必要性の低い区域と重なる個別領域Rが明るく、通行区域、すなわち運転者が視認する必要性の高い区域と重なる個別領域Rが暗くなってしまう可能性がある。
これに対し、切替制御部44は、自車両が工事区間に進入することを示す情報を、例えばカーナビゲーションシステム70から受領する。切替制御部44は、カーナビゲーションシステム70から当該情報を受領すると、形成する配光パターンをハイコントラスト配光パターンから第2配光パターンとしての輝度均一化配光パターン又は照度一定配光パターンに切り替える。これにより、通行区域に対する運転者の視認性が低下することを抑制することができる。また、切替制御部44は、自車両が工事区間を通過し終えたことを示す情報をカーナビゲーションシステム70から受領する。切替制御部44は、カーナビゲーションシステム70から当該情報を受領すると、形成する配光パターンをハイコントラスト配光パターンに戻す。
次に、運転者の状態に応じた配光パターンの切り替えについて、第1配光パターンとしてハイコントラスト配光パターンを形成している状況を例に挙げて説明する。切替制御部44は、運転者カメラ72から運転者の画像データを受領する。切替制御部44は従来公知の画像センシング技術等に基づいて、運転者の画像データから、運転者が眠気を感じている状態にあることを認識する。切替制御部44は、当該認識に基づいて、形成する配光パターンをハイコントラスト配光パターンから第2配光パターンとしての輝度均一化配光パターン又は照度一定配光パターンに切り替える。
また、切替制御部44は、輝度均一化配光パターン又は照度一定配光パターンを、例えば数十ms~数百ms形成した後に、ハイコントラスト配光パターンに戻す。このような配光パターンの変化により、運転者に対して注意喚起することができる。第1配光パターンと第2配光パターンとの切り替えは、複数回繰り返されてもよい。
また、切替制御部44は、運転者の操作に基づいて、形成する配光パターンを切り替えることもできる。例えば、車両には、ライトスイッチ74が搭載されている。運転者は、ライトスイッチ74を操作することで、形成する配光パターンの種類を選択することができる。運転者がライトスイッチ74を操作すると、操作内容を示す信号がライトスイッチ74から切替制御部44に送信される。切替制御部44は、ライトスイッチ74から受信した信号に基づいて、運転者が選択した配光パターンに切り替える。
ライトスイッチ74は、切替制御部の一部とみなすことができる。あるいは、ライトスイッチ74は、切替制御部そのものとみなすこともできる。この場合、灯具制御部18が有する切替制御部44を省略することができる。切替制御部としてのライトスイッチ74は、配光パターンの切り替えを指示する信号を照度設定部42に対して直に送信する。なお、ライトスイッチ74は、配光パターンの形成と非形成の切り替えも選択できるものであってもよい。
上述したハイコントラスト配光パターン及び輝度均一化配光パターンは、自車前方の特定物標の位置に応じて最適な配光パターンを形成するADB(Adaptive Driving Beam)制御に利用することができる。具体的には図16に示すように、撮像部12は、低速カメラ38を含む。低速カメラ38は、比較的フレームレートが低く、例えば30fps以上120fps以下である(1フレームあたり約8~33ms)。また、低速カメラ38は、比較的解像度が大きく、例えば500万ピクセル以上である。低速カメラ38は、全ての個別領域Rを撮像する。低速カメラ38による撮像は、ハイコントラスト配光パターン又は輝度均一化配光パターンが形成されている状況において実行される。なお、高速カメラ36及び低速カメラ38の解像度は、上記数値に限定されず、技術的に整合する範囲で任意の値に設定することができる。
制御装置50は、状況解析部16を有する。状況解析部16は、撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方の状況を検出する。例えば、状況解析部16は、自車前方に存在する物標を検出する。状況解析部16は、輝度解析部14に比べて精度の高い画像解析を実行し、低速に解析結果を出力する低速高精度解析部である。本実施の形態の状況解析部16は、低速カメラ38から得られる情報に基づいて自車前方の状況を検出する。低速カメラ38の画像データは、ハイコントラスト配光パターン又は輝度均一化配光パターンが形成された状態で取得された情報である。このため、状況解析部16は、物標をより高精度に検出することができる。
状況解析部16は、例えば50ms毎に状況を検出する。状況解析部16によって検出される物標としては、図3に示すように、対向車100や歩行者200等が例示される。また、先行車や、自車両の走行に支障を来す障害物、道路標識、道路標示、道路形状等も物標に含まれる。
状況解析部16は、アルゴリズム認識やディープラーニング等を含む、従来公知の方法を用いて物標を検出することができる。例えば、状況解析部16は、対向車100を示す特徴点を予め保持している。そして、状況解析部16は、低速カメラ38の撮像データの中に対向車100を示す特徴点を含むデータが存在する場合、対向車100の位置を認識する。前記「対向車100を示す特徴点」とは、例えば対向車100の前照灯の推定存在領域に現れる所定光度以上の光点102(図3参照)である。同様に、状況解析部16は、歩行者200やその他の物標を示す特徴点を予め保持しており、低速カメラ38の撮像データの中にこれらの特徴点を含むデータが存在する場合、当該特徴点に対応する物標の位置を認識する。状況解析部16の検出結果、すなわち自車前方の物標情報を示す信号は、灯具制御部18に送信される。
灯具制御部18は、トラッキング部40を有する。トラッキング部40は、状況解析部16により検出された物標の中から特定物標を決定する。また、トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果に基づいて特定物標の変位を検出する。本実施の形態では、一例として対向車100を特定物標とする。
具体的には、トラッキング部40は、輝度解析部14の検出結果と状況解析部16の検出結果とを統合する。そして、輝度解析部14で検出された各個別領域Rの輝度のうち、特定物標である対向車100の光点102が位置する個別領域Rの輝度を対向車100と関連付ける。トラッキング部40は、その後に取得する輝度解析部14の検出結果において、対向車100と関連付けた輝度の位置を認識することで、特定物標である対向車100の変位を検出することができる。トラッキング部40は、例えば50ms毎に特定物標の決定処理を実行する。また、トラッキング部40は、例えば0.1~5ms毎に特定物標の変位検出処理(トラッキング)を実行する。
照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果と、トラッキング部40の検出結果とに基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。各個別領域Rのうち、特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対しては特定照度値を定める。具体的には、照度設定部42はまず、特定物標である対向車100の存在位置に基づいて特定個別領域R1を定める。例えば照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に含まれる対向車100の位置情報に基づいて、特定個別領域R1を定める。特定個別領域R1の設定について、例えば照度設定部42は、対向車100の前照灯に対応する2つの光点102間の水平方向距離a(図3参照)に対して、予め定められた所定比率の鉛直方向距離bを定め、横a×縦bの寸法範囲と重なる個別領域Rを特定個別領域R1(図3参照)とする。特定個別領域R1には、対向車の運転者と重なる個別領域Rが含まれる。
そして、照度設定部42は、特定個別領域R1に対する特定照度値を定める。例えば、特定照度値0が設定される。また、照度設定部42は、特定個別領域R1を除く他の個別領域Rについて、切替制御部44による配光パターンの切替制御に準じて所定の配光パターンを形成する。また、照度設定部42は、トラッキング部40の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の変位を認識し、特定個別領域R1の位置情報を更新する。そして、各個別領域Rに照射する光の照度値を更新する。トラッキング部40による処理と照度設定部42による処理とは、少なくとも一時において並行して実行される。
以上説明したように、本実施の形態に係る車両用灯具システム1は、撮像部12と、輝度解析部14と、照度設定部42と、灯具部62と、光源制御部20と、切替制御部44とを備える。輝度解析部14は、撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域Rそれぞれの輝度を検出する。照度設定部42は、輝度解析部14の検出結果に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて、灯具部62を制御する。これにより、車両用灯具システム1は、輝度解析部14により検出される輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定される配光パターンを形成することができる。また、車両用灯具システム1は、輝度解析部14により検出される輝度に依存せずに照度値が設定される配光パターンも形成することができる。
そして、切替制御部44は、輝度解析部14により検出される輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定される第1配光パターンと、同じく検出輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定され且つ第1配光パターンとは異なる第2配光パターン、又は検出輝度に依存せずに照度値が設定される第2配光パターンとの間で、形成する配光パターンを切り替える。これにより、状況に応じて最適な配光パターンの形成が可能となるため、運転の安全性を向上させることができる。
また、輝度に依存して照度値が設定される配光パターンは、輝度解析部14により検出された輝度が相対的に低い個別領域Rには相対的に低い照度値が設定され、検出された輝度が相対的に高い個別領域Rには相対的に高い照度値が設定されるハイコントラスト配光パターン、又は、輝度解析部14により検出される輝度が同じ値となるように各個別領域Rの照度値が設定される輝度均一化配光パターンである。これらによれば、自車前方に存在する物標を運転者が視認しやすくなる。よって、運転の安全性をより高めることができる。
また、切替制御部44は、自車の周囲状況又は運転者の状態に応じて、形成する配光パターンを動的に切り替える。例えば、切替制御部44は、カーナビゲーションシステム70又は運転者を撮像する運転者カメラ72から得られる情報に基づいて配光パターンを切り換える。あるいは、切替制御部44は、運転者の操作に基づいて配光パターンを切り替える。これらによっても、運転の安全性を向上させることができる。
(実施の形態9)
実施の形態9に係る車両用灯具システムは、灯具部62が光源部10に加えて他の光源部を備える点を除いて、実施の形態8に係る車両用灯具システムの構成と共通する。以下、実施の形態9に係る車両用灯具システムについて、実施の形態8と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
図17は、実施の形態9に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。図17では、図16と同様に車両用灯具システムの構成要素の一部を機能ブロックとして描いている。車両用灯具システム1(1B)は、灯具部62と、撮像部12と、制御装置50とを備える。灯具部62は、光源部10に加えて、他の光源部としての灯具ユニット60を有する。灯具ユニット60は、輝度解析部14により検出される輝度に依存せずに照度値が設定される配光パターンとして、従来公知のロービーム用配光パターンやハイビーム用配光パターン等を形成することができる。以下では適宜、灯具ユニット60により形成される配光パターンを、通常配光パターンと称する。
照度設定部42は、輝度解析部14が検出する輝度に依存して照度値が設定される配光パターンとして、ハイコントラスト配光パターンと輝度均一化配光パターンとを決定する。照度設定部42は、各個別領域Rの照度値を示す信号を、光源制御部20に送信する。光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10を制御する。これにより、ハイコントラスト配光パターン又は輝度均一化配光パターンが形成される。
切替制御部44は、輝度解析部14により検出される輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定される第1配光パターンと、輝度解析部14により検出される輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定され且つ第1配光パターンとは異なるか、又は輝度解析部14により検出される輝度に依存せずに照度値が設定される第2配光パターンとの間で、形成する配光パターンを切り替える。切替制御部44は、配光パターンの切り替えを指示する信号を照度設定部42に送信する。
切り替え後に形成する配光パターンが、検出輝度に依存する配光パターンである場合、照度設定部42は各個別領域Rの照度値を設定し、光源制御部20に照度値信号を送信する。切り替え後に形成する配光パターンが、検出輝度に依存しない配光パターンである場合、照度設定部42は灯具ユニット60の点灯を指示する信号を光源制御部20に送信する。光源制御部20は、照度設定部42が定めた照度値に基づいて光源部10を制御するか、光源部10を消灯して灯具ユニット60を点灯させる。なお、灯具ユニット60は、ハイコントラスト配光パターンにおいて相対的に低い照度値が設定される個別領域Rに光を照射する光源として利用してもよい。これにより、ハイコントラスト配光パターンにおける各個別領域Rの照度が二極化したとしても、照度の低い個別領域Rにおける運転者の視認性の低下を抑制することができる。
本発明は、上述の実施の形態8,9に限定されるものではなく、各実施の形態を組み合わせたり、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような組み合わせられ、もしくは変形が加えられて得られる新たな実施の形態も本発明の範囲に含まれる。このような新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態及び変形それぞれの効果をあわせもつ。
実施の形態8,9では、撮像部12、輝度解析部14、灯具制御部18及び光源制御部20が灯室8内に設けられているが、それぞれは適宜、灯室8外に設けられてもよい。光源部10は、DMDである光偏向装置26に代えて、光源光で自車前方を走査するスキャン光学系や、各個別領域Rに対応するLEDが配列されたLEDアレイを備えてもよい。
輝度均一化配光パターンを形成する際の検出輝度値と設定照度値との関係は、次のようであってもよい。図14(A)~図14(C)は、輝度均一化配光パターンを形成する際の検出輝度値と設定照度値との関係の他の例を示す図である。すなわち、図12に示す例では、検出輝度値に対して設定照度値を連続的且つ直線的に変化させている。しかしながら、特にこの関係に限定されず、図14(A)及び図14(B)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を段階的に変化させてもよい。また、図14(C)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を曲線的に変化させてもよい。なお、図14(C)では上に凸の曲線を図示しているが、下に凸の曲線であってもよい。
ハイコントラスト配光パターンを形成する際の検出輝度値と設定照度値との関係は、次のようであってもよい。図7(A)~図7(C)は、ハイコントラスト配光パターンを形成する際の検出輝度値と設定照度値との関係の他の例を示す図である。すなわち、図4(B)に示す例では、検出輝度値に対して設定照度値を連続的且つ直線的に変化させている。しかしながら、特にこの関係に限定されず、図7(A)及び図7(B)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を段階的に変化させてもよい。また、図7(C)に示すように、検出輝度値に対して設定照度値を曲線的に変化させてもよい。なお、図7(C)では上に凸の曲線を図示しているが、下に凸の曲線であってもよい。また、検出輝度値と係数との関係は、検出輝度値と設定照度値との関係と同様であるため、図示するまでもなく明らかである。
以下の態様も本発明に含めることができる。
自車前方を撮像する撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域Rそれぞれの輝度を検出する輝度解析部14と、
輝度解析部14の検出結果に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める照度設定部42と、
照度設定部42が定めた照度値に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部10を少なくとも有する灯具部62を制御する光源制御部20と、
輝度解析部14により検出される輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定される第1配光パターンと、輝度解析部14により検出される輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定され且つ第1配光パターンとは異なるか、又は輝度解析部14により検出される輝度に依存せずに照度値が設定される第2配光パターンとの間で、形成する配光パターンを切り替える切替制御部44と、
を備える、車両用灯具2の制御装置50。
自車前方を撮像する撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域Rのそれぞれの輝度を検出するステップと、
検出した輝度に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定めるステップと、
定めた照度値に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部10を少なくとも有する灯具部62を制御するステップと、
検出した輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定される第1配光パターンと、検出した輝度に依存して各個別領域Rの照度値が設定され且つ第1配光パターンとは異なるか、又は検出した輝度に依存せずに照度値が設定される第2配光パターンとの間で、形成する配光パターンを切り替えるステップと、
を含む、車両用灯具2の制御方法。