JP6929718B2 - フッ化イットリウム系溶射膜及びその製造方法、並びに、溶射膜付き基材及びその製造方法 - Google Patents

フッ化イットリウム系溶射膜及びその製造方法、並びに、溶射膜付き基材及びその製造方法 Download PDF

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本発明は、半導体製造装置などの部材に形成し得るフッ化イットリウム系溶射膜及びその製造方法に関する。
CVD装置、PVD装置、イオン注入装置、拡散炉、エッチング装置などの半導体製造装置においては、一般に腐食性の高いガスや薬剤が用いられ、プロセスを実行するチャンバー内のチャックなどの各部材はそのようなガスや薬剤に晒される。そのため、各部材を構成する材料が腐食することでパーティクルが発生することがある。このようなパーティクルは、製造する半導体に悪影響を及ぼし、品質の低下や歩留まりの低下の原因となる。そのため、各部材の表面には、上記のようなガスや薬剤に対する耐性がある材料によるコーティングがなされる。このようなコーティングに用いられる材料は種々のものが知られているが、最近では、フッ化物系の材料が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
特許文献1には、半導体製造装置の部材表面に耐食性や耐プラズマエッチング特性に優れた皮膜を形成するため、粗面化と予熱の処理をした基材表面に、フッ化物溶射材料を、所定の溶射ガンを用い、所定の条件下で吹き付けることにより、フッ化物皮膜を被覆形成するフッ化物の溶射皮膜の形成方法が開示されている。そして、フッ化物皮膜として、フッ化イットリウム(YF3)が開示されている。
特許文献2には、半導体デバイスの製造において用いられるエッチング装置の腐食を防止するためのコーティング材料として、イットリウムのオキシフッ化物(YOF)を含む顆粒からなる溶射材料が開示されている。
このように、イットリウムのフッ化物又はオキシフッ化物は、腐食性の高いガスや薬剤に対する耐性があることから、半導体製造装置の部材のコーティング材料として有用である。
特開2015−42786号公報 特開2014−136835号公報
しかしながら、フッ化イットリウム(YF3)を原料とし、プラズマ溶射により溶射膜を形成すると、斜方晶のYF3(以下、「YF3(斜方晶)」とも呼ぶ)以外に、異相のYF3(以下、「YF3(異相)」とも呼ぶ。)が生成する。このYF3(異相)は、200〜500℃の熱処理でYF3(斜方晶)に相変化する。そのため、耐プラズマ性などを付与するための皮膜としてYF3の溶射膜を半導体製造装置の部材に形成すると、プラズマの熱によりYF3(異相)がYF3(斜方晶)に相変化することとなる。その相変化に起因し、溶射膜表面においてマイクロクラックが発生することがあり、パーティクル発生の原因となる。
本発明は、以上の従来の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、高温に加熱してもマイクロクラックの発生を抑制し得るフッ化イットリウム系溶射膜及びその製造方法を提供することにある。
本発明のフッ化イットリウム系溶射膜は、斜方晶のフッ化イットリウム(YF3)結晶相と、オキシフッ化イットリウム(YOF)結晶相とを含むフッ化イットリウム系溶射膜であって、X線回折スペクトルにおいて、前記斜方晶のYF3結晶相及び前記YOF結晶相に由来する回折ピークのうちの最大ピークに対して、斜方晶のYF3結晶相及び前記YOF結晶相以外の結晶相に由来する回折ピークのうちの最大ピークのピーク強度が40%以下であることを特徴とする。斜方晶のYF3結晶相及びYOF結晶相以外の結晶相に由来する回折ピークは、高温に加熱するとYF3(斜方晶)に相変化するYF3(異相)の回折ピークを含む。従って、そのような回折ピークが40%以下の場合、すなわち溶射膜中における上記YF3(異相)の割合が少ない場合、YF3(異相)の相変化に起因するマイクロクラックが生じにくく、パーティクルの発生が抑えることができる。ひいては、半導体製造装置の部材に対する溶射膜として好適に使用することができる。
本発明のフッ化イットリウム系溶射膜は、具体的な態様においては、斜方晶のフッ化イットリウム(YF3)結晶相と、オキシフッ化イットリウム(YOF)結晶相とを含むフッ化イットリウム系溶射膜であって、X線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=21°±1°における回折ピーク強度が回折角28±1°に現われる最大ピーク強度の40%以下であることを特徴とする。高温に加熱するとYF3(斜方晶)に相変化するYF3(異相)のX線回折スペクトルの回折ピークは、具体的には、回折角2θ=21°±1°に存在する。従って、その回折ピークが回折角28±1°に現われる最大ピーク強度の40%以下の場合、すなわち溶射膜中における上記YF3(異相)の割合が少ない場合、YF3(異相)の相変化に起因するマイクロクラックが生じにくく、パーティクルの発生が抑えることができる。ひいては、半導体製造装置の部材に対する溶射膜として好適に使用することができる。
尚、本発明のフッ化イットリウム系溶射膜は、X線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=29°±1°にも、回折角28±1°に現われる最大ピークとは異なるYF3(異相)を示す顕著な回折ピークが現われることがある。このピークを基準にすると回折角28±1°に現われる最大ピーク強度の90%以下が好ましい範囲になる。
X線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=21°±1°における回折ピーク強度は実質的に0%であることが好ましい。当該回折ピーク強度が0%であれば、上記のようなYF3(異相)は存在しないか、あるいは極めて少なく、マイクロクラックの発生をより効果的に抑えることができる。
本発明のフッ化イットリウム系溶射膜の製造方法は、第1の態様においては、斜方晶のフッ化イットリウム(YF3)を含む原料を高速フレーム溶射(HVOF)により溶射する工程と、大気雰囲気でアニールする工程と、を含むことを特徴とする。支燃性ガスとして酸素を使用するHVOF溶射において は、原料は酸化性雰囲気に晒されるため、YF3(異相)が生じる代わりに一部がオキシフッ化イットリウム(YOF)となる。YOFは、YF3(異相)と比較して安定であり 、200〜500℃程度の温度では相変化しないため、相変化によりマイクロクラックが発生することない。ひいてはパーティクルの発生が抑えられる。
本発明のフッ化イットリウム系溶射膜の製造方法は、第2の態様においては、斜方晶のフッ化イットリウム(YF3)と、オキシフッ化イットリウム(YOF)とを含む混合原料をプラズマ溶射する工程と、大気雰囲気でアニールする工程と、を含むことを特徴とする。プラズマ溶射の場合であっても、原料の全部をYF3(斜方晶)とするのではなく、安定なオキシフッ化イットリウム(YOF)とを併用することで、YF3(異相)の生成が抑えられる。従って、第2の態様も、YF3(異相)に起因するマイクロクラックの発生が抑えられ、ひいてはパーティクルが抑えられる。この場合、マイクロクラックの発生をより抑える観点から、混合原料中のYF3(斜方晶)の含有率は60質量%以下とすることが好ましい。
本発明の一実施形態としてのフッ化イットリウム系溶射膜により少なくとも部分的に被覆された基材の構成に関する説明図。 実施例1で使用した原料(A)、フッ化イットリウム系溶射膜(B)、及びアニール後のフッ化イットリウム系溶射膜(C)のX線回折スペクトル。 実施例2で使用した原料(A)、フッ化イットリウム系溶射膜(B)、及びアニール後のフッ化イットリウム系溶射膜(C)のX線回折スペクトル。 実施例3で使用した原料(A)、フッ化イットリウム系溶射膜(B)、及びアニール後のフッ化イットリウム系溶射膜(C)のX線回折スペクトル。 比較例1で使用した原料(A)、フッ化イットリウム系溶射膜(B)、及びアニール後のフッ化イットリウム系溶射膜(C)のX線回折スペクトル。
<フッ化イットリウム系溶射膜>
本発明のフッ化イットリウム系溶射膜は、斜方晶のフッ化イットリウム(YF3)結晶相と、オキシフッ化イットリウム(YOF)結晶相とを含むフッ化イットリウム系溶射膜であって、X線回折スペクトルにおいて、前記斜方晶のYF3結晶相及び前記YOF結晶相に由来する回折ピークのうちの最大ピークに対して、斜方晶のYF3結晶相及び前記YOF結晶相以外の結晶相に由来する回折ピークのうちの最大ピークのピーク強度が40%以下であることを特徴とする。上述の通り、斜方晶のYF3結晶相及びYOF結晶相以外の結晶相に由来する回折ピークが40%以下の場合、すなわち溶射膜中におけるYF3(異相)の割合が少ない場合、YF3(異相)の相変化に起因するマイクロクラックが生じにくく、パーティクルの発生が抑えることができる。ひいては、半導体製造装置の部材に対する溶射膜として好適に使用することができる。
また、本発明のフッ化イットリウム系溶射膜は、具体的な態様においては、斜方晶のフッ化イットリウム(YF3)結晶相と、オキシフッ化イットリウム(YOF)結晶相とを含むフッ化イットリウム系溶射膜であって、X線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=21°±1°における回折ピーク強度が回折角28±1°に現われる最大ピーク強度の40%以下であることを特徴とする。
本発明のフッ化イットリウム系溶射膜において、X線回折スペクトルにおける、回折角2θ=21°±1°の回折ピークが回折角28±1°に現われる最大ピーク強度の40%以下の結晶相はYF3(異相)である。既述の通り、YF3(異相)は、200〜500℃の熱処理で斜方晶に相変化するが、本発明のフッ化イットリウム系溶射膜においては、当該YF3(異相)の回折ピーク強度が回折角28±1°に現われる最大ピーク強度の40%以下と小さく、溶射膜中におけるYF3(異相)の割合が少ない。従って、YF3(異相)の相変化に起因するマイクロクラックが生じにくく、パーティクルの発生が抑えることができる。ひいては、半導体製造装置の部材に対する溶射膜として好適に使用することができる。つまり、本発明においては、フッ化イットリウム系溶射膜の特性(耐食性など)を備えつつ、高温に加熱してもマイクロクラックの発生を抑制し得ることから、半導体製造装置の部材のコーティングに好適である。
本発明においては、X線回折スペクトルにおける、回折角2θ=21°±1°における回折ピーク強度を回折角28±1°に現われる最大ピーク強度の40%以下としているが、当該ピーク強度が40%を超えると、YF3(異相)の割合が大きくなり、熱処理時におけるYF3(異相)の相変化に起因するマイクロクラックが生じやすくなる。該ピーク強度は10%以下であることが好ましく、実質的に0%であることがより好ましい。
本発明のフッ化イットリウム系溶射膜の膜厚は、例えば、アルミニウム合金又はアルミナ(Al23)などの半導体製造装置の部材のコーティング膜とする場合50〜1000μmとすることができる。
本発明のフッ化イットリウム系溶射膜は、以下に説明する本発明のフッ化イットリウム系溶射膜の製造方法により製造することができる。
<フッ化イットリウム系溶射膜の製造方法>
本発明のフッ化イットリウム系溶射膜の製造方法は、2つの態様があり、それぞれの態様について順次説明する。なお、いずれの態様においても、溶射膜を形成する対象となる部材としては特に制限はないが、パーティクルの発生が抑えることができる観点から、半導体製造装置の部材を対象とするのが好適である。
[第1の態様(HVOF溶射)]
本発明の第1の態様によるフッ化イットリウム系溶射膜の製造方法は、斜方晶のフッ化イットリウム(YF3)を含む原料を高速フレーム溶射(HVOF)により基材に対して溶射する工程を含むことを特徴とする。これにより、本発明の第1の態様のフッ化イットリウム系溶射膜2により少なくとも部分的に被覆された基材1が作製される(図1参照)。
本発明の第1の態様の製造方法においては、原料としてYF3(斜方晶)を用いる。形成する溶射膜の純度を高める観点から、原料であるYF3の純度は高い方が好ましい。当該原料は、HVOF溶射に際し、HVOF装置に対して粉末の状態で供給してもよいしスラリー状で供給してもよい。
YF3を含むスラリーの平均粒子径(D50)は1〜10μmである。1μm未満であると溶融した粒子が凝集しやすく、堆積物が塊状凝集組織になり、10μmを超えると基材に溶融粒子が付着しにくくなり溶射膜を形成することが困難になる。
スラリーの調製に用いる溶剤としては、水やエタノール、メタノール、IPA、などのアルコール類、他の有機溶剤、石油、灯油等が用いることができる。
また、上記スラリーには、1次粒子の分散性の改善目的として、セラミックス用分散剤、高級アルコールを主成分とした消泡剤を添加してもよい。
YF3の濃度は5〜60質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましい。
本発明の第1の態様の製造方法においては、HVOF溶射法により溶射を行う。HVOF溶射法は、燃料と酸素とを混合して高圧で燃焼させた燃焼炎を溶射のための熱源として利用し、原料を高速で基材に衝突させて皮膜を形成するフレーム溶射法の一種である。HVOF溶射で使用する燃料は、アセチレン、エチレン、プロパン、プロピレンなどの炭化水素や水素などの気体燃料であってもよいし、石油やエタノールなどの液体燃料であってもよい。また、酸素の代わりに空気を用いる、いわゆるHVAF(HighVelocityAir−Fuel)溶射装置も用いることができる。
HVOF溶射の条件として、スキャン速度は、200〜1000m/sとすることが好ましい。また、溶射距離(HVOF溶射装置のノズル先端から基材までの距離)としては、例えば、20〜250mmの間で設定することができ、40〜150mmが好ましい。
以上のように、本発明の第1の態様の製造方法においては、支燃性ガスとして酸素を使用するHVOF溶射により溶射を行うため、既述の通り、原料が酸化性雰囲気に晒される。そのため、YF3(異相)が生じる代わりに一部が比較的安定なオキシフッ化イットリウム(YOF)となる。YOFは、200〜500℃程度の温度では相変化しないため、相変化によるマイクロクラックが発生することない。ひいてはパーティクルの発生が抑えられる。
[第2の態様(プラズマ溶射)]
本発明の第2の態様のフッ化イットリウム系溶射膜の製造方法は、斜方晶のフッ化イットリウム(YF3)と、オキシフッ化イットリウム(YOF)とを含む混合原料を基材に対してプラズマ溶射する工程を含むことを特徴とする。これにより、本発明の第2の態様のフッ化イットリウム系溶射膜2により少なくとも部分的に被覆された基材1が作製される(図1参照)。
既述の通り、プラズマ溶射によりYF3(斜方晶)のみを溶射すると、YF3(異相)が生じ、当該YF3(異相)は200〜500℃の熱処理により斜方晶に相変化するため溶射膜表面においてマイクロクラックが発生してしまう。そこで、本態様においては、プラズマ溶射により溶射しつつも、原料を、YF3(斜方晶)と、オキシフッ化イットリウム(YOF)とを含む混合原料とすることにより、つまり、YF3(斜方晶)の割合を減じることでYF3(異相)の生成を少なくし、マイクロクラックの発生を低減している。
本発明の第2の態様の製造方法においては、原料としてYF3(斜方晶)と、オキシフッ化イットリウム(YOF)とを含む混合原料を用いるのであるが、混合原料中のYF3(斜方晶)の含有率は60質量%以下であることが好ましく、1〜20質量%がより好ましい。第1の態様と同様に、形成する溶射膜の純度を高める観点から、混合原料中のYF3及びYOFの純度は高い方が好ましい。当該混合原料は、プラズマ溶射に際し、プラズマ溶射装置に対して粉末の状態で供給してもよいし、スラリー状で供給してもよい。
YF3及びYOFの平均粒子径(D50)は10〜100μmのものを用いることができる。粒子の形態は顆粒または1次粒子のみであってもかまわない。10μm未満であると溶融粒子の飛行速度が大きくなりすぎ、100μmを超えると未溶融粒子が付着し溶射膜を形成することが困難になる傾向がある。
プラズマ溶射法は、溶射する原料を軟化・溶融するための熱源としてプラズマ炎を利用する溶射方法である。電極の間に不活性ガスを流して放電すると,電離して高温・高速のプラズマができる。一般には,アルゴンなどの不活性ガスを作動ガスとして、電極の間にアークを発生させると作動ガスがアークによってプラズマ化され,ノズルから高温高速のプラズマジェットとなって噴出する。このプラズマジェットに原料粉末を投入し加熱加速して基材に吹き付けることにより溶射膜が得られる。
プラズマ溶射の条件として、溶射速度は150〜330m/sとすることが好ましい。また、溶射距離(プラズマ溶射装置のノズル先端から基材までの距離)としては、例えば、20〜250mmの間で設定することができ、50〜150mmが好ましい。その他、ガス種は、ArとO2の組み合わせが好ましい。O2によりYF3の一部がYOFとなり、溶射膜中に安定なYOFの割合が増えるためである。そのためArとN2やArとH2の組み合わせより好ましい。ガス量は、ArとO2の合計で40〜140L/minである。
以上の第1の態様及び第2の態様のいずれにおいても、X線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=21°±1°における回折ピーク強度が回折角28±1°に現われる最大ピーク強度の40%以下のフッ化イットリウム系溶射膜とすることができる。特に、第1の態様は、当該回折角2θ=21°±1°における回折ピーク強度を0%とすることも可能である。
また、以上の第1の態様及び第2の態様のいずれにおいても、溶射後における溶射膜をそのままの状態で使用可能であるが、必要に応じてアニール処理をすることが好ましい。アニール処理をすることで、残留応力を解放することができる。また、特に、第2の態様においては、少ない割合であるがYF3(異相)が生成するため、アニール処理により相変化させ、YF3(異相)を0%とすることができる。すなわち、X線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=21°±1°における回折ピーク強度が実質的に0%のフッ化イットリウム系溶射膜とすることができる。
アニール処理温度としては、200〜500℃、アニール時間は、10分〜600分とすることが好ましい。
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]原料としてYF3(斜方晶)の粉末(粒径:3μm)を準備し、この原料に対し、蛍光X線分析装置((株)リガク製、MultiFlex)を用い、以下に示す条件でX線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを図2(A)に示す。
X線光源:Cu−Kα線(波長:1.54060Å)
スキャンステップ:0.02°
走査軸:2θ
走査範囲:10〜80°
次に、基材(アルミニウム合金:A6061に対して上記原料をHVOF溶射して90μmの厚さのフッ化イットリウム系溶射膜を形成した。HVOF溶射の条件は以下の通りである。
HVOF溶射条件
燃料:酸素:520L/min、灯油:220mL/min
溶射速度:200〜1000m/s
溶射距離:70mm
形成した溶射膜に対し、上述の原料と同様にしてX線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを図2(B)に示す。図2(B)より、形成した溶射膜においては、YF3(斜方晶)とYOFとが約18:82の割合で形成されたことが分かる。また、回折角2θ=21°±1°には回折ピークは存在しない。つまり、YF3(異相)は生成していない。
さらに、形成した溶射膜に対し、大気雰囲気炉を用い、300℃で2時間のアニール処理を行った。次いで、アニール処理後の溶射膜に対し、上述の原料と同様にしてX線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを図2(C)に示す。図2(B)及び図2(C)とで回折スペクトルに差異は認められず、HVOF溶射後の溶射膜は安定していることが分かる。
なお、図2の(A)〜(C)においては、各X線回折スペクトルの比較を容易にするため、縦軸方向下から上に順に積み重ねて示したものである。従って、縦軸の強度は絶対的な強度を示すものではなく、相対的なものである。図3〜図5も同様である。
[実施例2]
原料として、YOFの粉末(粒径:30μm)とYF3(斜方晶)の粉末(粒径:34μm)とを81:19の割合(質量比)で混合した混合原料を準備し、この混合原料に対し、実施例1と同様にしてX線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを図3(A)に示す。
次に、基材(アルミニウム合金:A6061)に対して上記混合原料をプラズマ溶射して200μmの厚さのフッ化イットリウム系溶射膜を形成した。プラズマ溶射の条件は以下の通りである。
プラズマ溶射装置:エアロプラズマ製APS−7100
作動ガス:Ar、O2
スキャン速度:100〜1000m/s
溶射距離:80mm
形成した溶射膜に対し、実施例1と同様にしてX線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを図3(B)に示す。図3(B)より、形成した溶射膜は、YOFの結晶相とYF3(異相)とを含むことが分かる。また、回折角2θ=21°±1°に、回折角28±1°に現われる最大ピーク強度の7%の回折ピークが存在している。つまり、YF3(異相)が少ない割合で生成している。
また、回折角2θ=29°±1°の回折ピークは最大ピーク強度に対して22%であった。
さらに、形成した溶射膜に対し、実施例1と同様にしてアニール処理を行った。次いで、アニール処理後の溶射膜に対し、実施例1と同様にしてX線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを図3(C)に示す。図3(B)及び図3(C)の回折スペクトルを比較すると、図3(B)において存在している回折角2θ=21°±1°の、回折角28±1°に現われる最大ピーク強度の7%の回折ピークが図3(C)では消失している。これは、アニール処理により、YF3(異相)がYF3(斜方晶)に相変化したものと考えられる。
また、回折角2θ=29°±1°の回折ピークも消失しほぼ0になった。
[実施例3]
原料として、YOFの粉末(粒径:30μm)とYF3(斜方晶)の粉末(粒径:34μm)とを90:10の割合で混合した混合原料を用いたこと以外は実施例2と同様にして溶射膜を形成し、X線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを図4(A)〜(C)に示す。図4(B)に示すように、回折角2θ=21°±1°の回折ピークが、実施例2のものよりも小さい。これは、実施例2よりも実施例3の方が、混合原料中のYOFの粉末の割合が大きいため、YF3(異相)の生成が少なかったものと考えられる。
また、回折角2θ=29°±1°の回折ピークも同様に小さくなった。
[実施例4]
原料として、YOFの粉末(粒径:30μm)とYF3(斜方晶)の粉末(粒径:34μm)とを60:40の割合で混合した混合原料を用いたこと以外は実施例2と同様にして溶射膜を形成し、X線回折スペクトルを測定した。回折角2θ=21°±1°の回折ピークが、回折角28±1°に現われる斜方晶のYF3結晶相及びYOF結晶相に由来する回折ピークの最大ピークに比較して40%以下であった。実施例2に比較して、混合原料中のYOFの粉末の割合が小さく、YF3(異相)の生成が多かったものの一定以下に抑えられた。
[比較例1]
原料として、実施例1で使用した原料と同じ原料、すなわちYF3(斜方晶)の粉末(粒径:30μm)を用いたこと以外は実施例2と同様にして溶射膜を形成し、X線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを図5(A)〜(C)に示す。図5(B)に示すように、回折角2θ=21°±1°の回折ピークが回折角28±1°に現われる最大ピーク強度の約42%と大きく、YF3(異相)が多く生成したことを示している。そして、アニール後は図5(C)に示すように、回折角2θ=21°±1°の回折ピークは消失している。この相変化は無視できるものではなく、溶射膜表面においてマイクロクラックが発生し、パーティクルの原因となると考えられる。
以上の実施例1〜4及び比較例1の結果から、本発明のフッ化イットリウム系溶射膜の製造方法により、YF3(異相)の生成が抑えられることが示された。ひいては、高温に加熱しても、YF3(異相)の生成に起因するマイクロクラックの発生が抑制することができると考えられる。
1‥基材、2‥フッ化イットリウム系溶射膜。

Claims (6)

  1. 斜方晶のフッ化イットリウム(YF3)を含む原料を高速フレーム溶射(HVOF)により溶射する工程と、大気雰囲気でアニールする工程と、を含むことを特徴とするフッ化イットリウム系溶射膜の製造方法。
  2. 斜方晶のフッ化イットリウム(YF3)と、オキシフッ化イットリウム(YOF)とを含む混合原料をプラズマ溶射する工程と、大気雰囲気でアニールする工程と、を含むことを特徴とするフッ化イットリウム系溶射膜の製造方法。
  3. 請求項に記載のフッ化イットリウム系溶射膜の製造方法において、前記混合原料中の斜方晶のフッ化イットリウムの含有率が60質量%以下であることを特徴とするフッ化イットリウム系溶射膜の製造方法。
  4. 斜方晶のフッ化イットリウム(YF3)を含む原料を高速フレーム溶射(HVOF)により基材に対して溶射する工程と、大気雰囲気でアニールする工程と、を含むことを特徴とする基材がフッ化イットリウム系溶射膜により少なくとも部分的に被覆された溶射膜付き基材の製造方法。
  5. 斜方晶のフッ化イットリウム(YF3)と、オキシフッ化イットリウム(YOF)とを含む混合原料を基材に対してプラズマ溶射する工程と、大気雰囲気でアニールする工程と、を含むことを特徴とする基材がフッ化イットリウム系溶射膜により少なくとも部分的に被覆された溶射膜付き基材の製造方法。
  6. 請求項に記載の溶射膜付き基材の製造方法において、前記混合原料中の斜方晶のフッ化イットリウムの含有率が60質量%以下であることを特徴とする溶射膜付き基材の製造方法。
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