従来の車体フレームの姿勢制御技術では、車体フレームの姿勢を、高精度で、目標とする姿勢(例えば、直立状態)に制御するのが容易でない場合がある。そこで、本願は、左右方向に並べて配置された一対の車輪を有するリーン車両において、車体フレームのロール角制御の精度を向上させる技術を開示する。
課題を解決するための手段及び発明の効果
発明者らは、車体フレームの左右方向に並ぶ一対の車輪すなわち左車輪と右車輪を備えるリーン車両において、車体フレームのロール角制御について検討した。このようなリーン車両は、左右一対の車輪と車体フレームの間に設けられたリーン機構を備える。リーン機構によって、車体フレームが、鉛直方向に対して左右に傾斜することが可能になる。リーン車両は、旋回時、旋回方向へ車体フレームが傾斜する。すなわち、リーン車両は、左右方向に倒しやすい構成となっている。その上、リーン車両は、ライダーを乗せて走る構成であるので、相応の重量がある。車体フレームが左右に傾斜する方向すなわちロール方向における慣性は、重量に応じて大きくなる。発明者らの検討の結果、リーン車両の車体フレームのロール角をアクチュエータで制御する場合、リーン車両の車体フレームのロール方向の運動が、目標姿勢近辺において慣性の影響を受けやすいことが分かった。発明者らは、リーン車両の車体フレームのロール方向の慣性を考慮して、ロール角の制御の精度を向上させることを検討した。
発明者らは、ロール角センサを用いて、車体フレームのロール角を制御する場合について検討した。一例として、ロール角センサで検出される車体フレームのロール角と、目標とするロール角との差がなくなるようアクチュエータにトルクを発生させる制御を検討した。この場合、アクチュエータによるロール角制御の精度は、ロール角センサの精度の影響を受けることがわかった。特に、目標とするロール角付近における制御精度は、ロール角センサの精度に大きな影響を受けることがわかった。そこで、さらに検討した結果、ロール角センサの精度向上による目標ロール角付近のロール角制御の精度向上には限界があることがわかった。
発明者らは、試行錯誤の末、アクチュエータが発生するトルクを決定するための指令値に、アクチュエータの出力トルクと車体フレームのロール角速度とを適切にフィードバックすることで、ロール角制御の精度を向上できることを見出した。これにより、例えば、車体フレームのロール方向の運動を、目標とするロール角付近で収束しやすくできることがわかった。以下に、これらの知見に基づいて想到した発明の実施形態を説明する。
本発明の実施形態におけるリーン車両は、車両の左右方向に並べて配置された左車輪及び右車輪と、前記左車輪及び前記右車輪を支持する車体フレームと、前記左車輪及び前記右車輪と前記車体フレームとの間に設けられ、前記車体フレームに対して回転可能に支持されるアームを含むリーン機構と、前記車体フレームに対する前記アームの回転のトルクを発生させるアクチュエータと、前記アクチュエータの出力するトルクを調整するロール角制御部とを備える。前記車体フレームは、前記車両が右に旋回するときに右方向に傾斜し、前記車両が左に旋回するときに左方向に傾斜する。前記リーン機構は、前記アームを前記車体フレームに対して回転させることにより、前記左車輪及び前記右車輪の前記車体フレームに対する上下方向の相対位置を変更して前記車体フレームを鉛直方向に対して傾斜させる。前記ロール角制御部は、前記アクチュエータの出力する出力トルク及び前記車体フレームのロール角速度を取得し、取得した出力トルクと同じ方向であり前記取得した出力トルクより大きな絶対値のトルクを発生させる成分と、前記ロール角速度を0にするトルクを発生させる成分とを含む指令値を生成する。前記ロール角制御部は、前記指令値を前記アクチュエータに供給することで、前記アクチュエータの出力するトルクを調整する(第1の構成)。
上記第1の構成において、リーン車両は、左車輪及び右車輪と、車体フレームとの間に設けられるリーン機構を備える。リーン機構は、車体フレームに対して回転可能に支持されるアームを含む。アームの回転により、左車輪及び右車輪の車体フレームの上下方向の相対位置が変更する。すなわち、アームは、右車輪及び左車輪を車体フレームに対して上下方向に可動な状態で支持する。リーン機構は、車体フレームの上下方向が鉛直方向(車両の上下方向)に対してリーンする(傾斜する)ことを可能にする。すなわち、車体フレームは、車両の左右方向に傾斜可能となる。言い換えれば、車体フレームのロール角を可変にする。
このように車体フレームのロール角が変更可能なリーン車両において、リーン機構のアームの、車体フレームに対する回転のトルクを発生させるアクチュエータが設けられる。アクチュエータが発生させるトルクの向き及び大きさは、ロール角制御部が供給する指令値に応じて決まる。ロール角制御部は、アクチュエータの出力する出力トルク及び車体フレームのロール角速度を取得する。ロール角制御部は、取得した出力トルクと同じ方向であり前記取得した出力トルクより大きな絶対値のトルクを発生させる成分と、ロール角速度を0に近づけるトルクを発生させる成分とを含む指令値を生成する。すなわち、アクチュエータにより発生する、アームの車体フレームに対する回転のトルクは、アクチュエータの出力トルクと同じ方向のトルクを増やす成分と、ロール角速度を0に近づける成分とのバランスで調整される。これにより、アームの車体フレームに対する回転の制御、すなわち車体フレームのロール角制御の精度を向上させることができる。
このように、上記第1の構成において、ロール角制御部は、前記アクチュエータの出力する出力トルクと同じ方向でこの出力トルクよりも大きい絶対値のトルクを前記アクチュエータに出力させる制御と前記車体フレームのロール角速度を0に近づけるためのトルクを前記アクチュエータに出力させる制御とを、重畳して実行する。すなわち、アクチュエータの出力するトルクと同じ方向の成分をより大きくしようとする制御と、車体フレームのロール角速度を0に近づけようとする制御とのバランスによって、アクチュエータが出力するトルクが調整される。これにより、ロール角制御の精度を向上させることができる。
一例として、ロール角制御部は、前記アクチュエータの出力する出力トルク及びロール角速度を取得し、取得した出力トルクと同じ方向のトルクを増加させるフィードバックと、前記取得したロール角速度を0にするトルクを出力させるフィードバックとを重畳した指令値で前記アクチュエータを制御することで、前記アクチュエータの出力するトルクを調整することができる。
上記第1の構成において、ロール角制御部は、前記取得したアクチュエータの出力トルクと同じ方向で出力トルクよりも大きい絶対値のトルクを前記アクチュエータに出力させるための第1の値と、前記取得したロール角速度を0に近づけるトルクを前記アクチュエータに出力させるための第2の値とを用いて生成された指令値で前記アクチュエータを制御することで、前記アクチュエータの出力するトルクを調整することができる(第2の構成)。上記第1の値及び上記第2の値の示すトルクが両方反映された指令値を生成することで、出力トルクと同じ方向で出力トルクより大きな絶対値を持つトルクを発生させる成分と、ロール角速度を0にするトルクを発生させる成分とを含む指令値を生成することができる。
上記第2の構成において、第1の値は、取得した出力トルクと同じ方向でより大きい絶対値のトルクを示す値とすることができる。第2の値は、取得した角速度を0に近づけるトルクを示す値とすることができる。生成される指令値は、例えば、第1の値と第2の値を合成したものとすることができる。指令値は、例えば、第1の値及び第2の値の和、積、又はこれらの少なくとも一方を用いて演算した結果の値とすることができる。
上記第1又は第2の構成において、前記ロール角制御部は、前記取得した出力トルクが0かつ前記取得したロール角速度が0の時は、前記アクチュエータにより出力されるトルクを0とする前記指令値を生成する構成とすることができる(第3の構成)。これにより、例えば、車体フレームが直立状態の場合のように、車体フレームを左右方向に傾斜させる力が働いていない時に、車体フレームの姿勢を維持することができる。例えば、車体フレームが重力によって左右いずれかに傾斜している状態から、アクチュエータのトルクによって、車体フレームを直立状態に近づけると、直立状態付近で、ロールレート及び出力トルクが0に近づく。このように、車体フレームを左右方向に傾斜させる力がほとんど働いていない状態で、アクチュエータにより出力されるトルクを0にすると、車体フレームの姿勢が維持される。なお、取得した出力トルクが0かつ前記取得したロール角速度が0の時とは、取得された出力トルク及びロール角速度が、厳密に0である場合の他、ロール角制御において、出力トルク及びロール角速度が、0と見なせる範囲の場合も含まれる。
上記第1〜第3のいずれかの構成において、前記ロール角制御部は、前記車体フレームのロール角をさらに取得し、前記取得したロール角に応じたトルクの成分をさらに含む前記指令値を生成する構成とすることができる(第4の構成)。これにより、ロール角に応じた適切なロール角制御が可能になる。
上記第1〜第3のいずれかの構成において、前記ロール角制御部は、前記車体フレームのロール角をさらに取得し、前記取得したロール角を目標ロール角にするためのトルクの成分をさらに含む前記指令値を生成する構成とすることができる(第5の構成)。
これにより、車体フレームのロール角を、目標ロール角に近づける制御が可能になる。一例として、目標ロール角を、0(直立状態を示す値)以外にすることで、アクチュエータ制御によって、車体フレームが直立状態ではなく車両の左右方向に傾斜した状態にすることができる。
上記第1〜第5の構成において、前記ロール角制御部は、前記アクチュエータの出力する出力トルク及び当該出力トルクと同時に検出された前記車体フレームのロール角速度を取得する構成とすることができる(第6の構成)。
このように、出力トルク及びロール角速度は、同時に検出されることが好ましい。すなわち、ロール角制御部は、同時に検出された出力トルク及びロール角速度を取得することが好ましい。ここで、出力トルクとロール角速度を同時に検出する態様は、出力トルクとロール角速度を厳密に同時に検出する場合に限られず、アクチュエータの制御上同時と見なせる時間間隔をあけて出力トルクとロール角速度を検出する場合も含まれる。
上記第1〜5の構成において、トルクは、例えば、符号付きの値で表すことができる。この場合、正(プラス)又は負(マイナス)の符号がトルクの方向を表し、絶対値がその方向のトルクの大きさを表す。一例として、正の値で表されるトルクは、車体フレームを車両前方から見てロール軸を中心に反時計回りに回転させる方向のトルクとすることができる。すなわち、正の値で表されるトルクの方向は、車体フレームを右に傾斜させる、或いは車体フレームを左傾斜状態から直立状態に起こす方向とすることができる。この場合、負の値で表されるトルクは、車体フレームを車両前方から見てロール軸を中心に時計回りに回転させる方向、すなわち、車体フレームを左に傾斜させる或いは車体フレームの右傾斜状態から直立状態に起こす方向のトルクとすることができる。なお、この場合、符号の表す方向を、これとは、逆に定義してもよい。すなわち、正の値で表されるトルクは、車体フレームを車両前方から見てロール軸を中心に時計回りに回転させる方向のトルクとし、負の値で表されるトルクは、車体フレームを車両前方から見てロール軸を中心として反時計回りに回転させる方向のトルクとすることもできる。
上記の「取得した出力トルクと同じ方向で出力トルクよりも大きい絶対値のトルク」は、例えば、取得したトルクの値と符号が等しく、絶対値が取得したトルクより大きい値で表されるトルクとすることができる。具体例は、取得したトルクに1より大きい正のゲインを乗じたトルクとすることができる。
リーン車両のロール角の制御方法も、本発明の実施形態に含まれる。本発明の実施形態におけるロール角の制御方法において、前記リーン車両は、前記車体フレームの左右方向に並べて配置された左車輪及び右車輪と、前記左車輪及び前記右車輪を支持し、前記車両が左に旋回するときに左方向に傾斜し、前記車両が右に旋回するときに右方向に傾斜する車体フレームと、前記左車輪及び前記右車輪と前記車体フレームとの間に設けられ、前記車体フレームに対して回転可能に支持されるアームを含むリーン機構であって、前記アームを前記車体フレームに対して回転させることにより、前記左車輪及び前記右車輪の前記車体フレームに対する上下方向の相対位置を変更して前記車体フレームを鉛直方向に対して傾斜させるリーン機構と、前記車体フレームに対する前記アームの回転のトルクを発生させるアクチュエータとを備える。
前記制御方法は、前記アクチュエータの出力する出力トルク及び前記車体フレームのロール角速度を取得する工程と、前記取得した出力トルクと同じ方向であり前記取得した出力トルクより大きな絶対値のトルクを発生させる成分と、前記ロール角速度を0近づけるトルクを発生させる成分とを含む指令値を生成する工程と、前記指令値を前記アクチュエータに供給することで、前記アクチュエータの出力するトルクを調整する工程、とを有する。
上記の方法においては、左車輪及び前記右車輪と前記車体フレームとの間に設けられ、前記車体フレームに対して回転可能に支持されるアームを、車体フレームに対して回転させるトルクを、アクチュエータにより発生させる。アームを車体フレームに対して回転させることにより、左車輪及び右車輪の車体フレームに対する上下方向の相対位置を変更して車体フレームを鉛直方向に対して傾斜させる、すなわち車体フレームのロール角を変化させることができる。このアクチュエータにより発生する、アームの車体フレームに対する回転のトルクは、アクチュエータの出力トルクを同じ方向に増やす成分と、ロール角速度を0に近づける成分とのバランスで調整される。これにより、アームの車体フレームに対する回転の制御、すなわち車体フレームのロール角制御の精度を向上させることができる。
ロール角は、車両の前後方向軸(ロール軸)を中心とする車体フレームの回転の角度とすることができる。ロール角は、リーン角又はバンク角と称することもできる。ロール角は、例えば、車体フレームの上下方向軸の鉛直方向に対する角度で表すことができる。ロール角速度は、ロール角の単位時間あたりの変化量、すなわち変化率である。ロール角速度は、ロールレートと称されることもある。
ロール角速度の取得手段は、特定のものに限定されない。例えば、慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)によって検出される車体フレームの加速度からロール角速度を求めることができる。或いは、アクチュエータの出力部材の運動、車体フレームに対するリーン機構のアームの回転等の速度を検出することで、ロール角速度を取得することができる。アクチュエータを、モータ及び減速機で構成する場合は、モータ又は減速機の回転の速度を検出することで、ロール角速度を取得することができる。車体フレームに対するアームの回転は、例えば、ポテンショメータを用いて検出することができる。IMUセンサ、モータの回転速度センサ、ポテンショメータは、いずれも、ロール角センサの一例である。
アクチュエータの出力トルクは、アクチュエータの出力部材の運動又はアクチュエータの制御信号を検出することで取得することができる。例えば、アクチュエータの動力源をモータとする場合は、モータの電流値、又はモータの出力軸のトルクを検出することで、アクチュエータの出力トルクを取得することができる。モータの出力軸のトルクの検出の態様には、モータの出力軸のトルクを直接検出する場合の他、モータの出力軸に伴って運動する部材(例えば、ギヤの回転軸等)の運動から間接的に検出する場合も含まれる。
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図面において、矢印Fは、車両の前方向を示している。矢印Bは、車両の後方向を示している。矢印Uは、車両の上方向を示している。矢印Dは、車両の下方向を示している。矢印Rは、車両の右方向を示している。矢印Lは、車両の左方向を示している。
車両は、車体フレームを鉛直方向に対して車両の左右方向に傾斜させて旋回する。そこで車両を基準とした方向に加え、車体フレームを基準とした方向が定められる。添付の図面において、矢印FFは、車体フレームの前方向を示している。矢印FBは、車体フレームの後方向を示している。矢印FUは、車体フレームの上方向を示している。矢印FDは、車体フレームの下方向を示している。矢印FRは、車体フレームの右方向を示している。矢印FLは、車体フレームの左方向を示している。
本明細書において、「車体フレームの前後方向」、「車体フレームの左右方向」、および「車体フレームの上下方向」とは、車両を運転する乗員から見て、車体フレームを基準とした前後方向、左右方向、および上下方向を意味する。「車体フレームの側方」とは、車体フレームの右方向あるいは左方向を意味している。
本明細書において、「車体フレームの前後方向に延びる」とは、車体フレームの前後方向に対して傾いた方向に延びることを含む。この場合、延びる方向の車体フレームの前後方向に対する傾きは、車体フレームの左右方向および上下方向に対する傾きより小さくなることが多い。
本明細書において、「車体フレームの左右方向に延びる」とは、車体フレームの左右方向に対して傾いた方向に延びることを含む。この場合、延びる方向の車体フレームの左右方向に対する傾きは、車体フレームの前後方向および上下方向に対する傾きより小さくなることが多い。
本明細書において、「車体フレームの上下方向に延びる」とは、車体フレームの上下方向に対して傾いた方向に延びることを含む。この場合、延びる方向の車体フレームの上下方向に対する傾きは、車体フレームの前後方向および左右方向に対する傾きより小さくなることが多い。
本明細書において、「車体フレームの直立状態」とは、車体フレームの上下方向が鉛直方向と一致している状態を意味する。この状態においては、車両を基準にした方向と車両フレームを基準にした方向は一致する。車体フレームを鉛直方向に対して左右方向に傾斜しているときは、車両の左右方向と車体フレームの左右方向は一致しない。また車両の上下方向と車体フレームの上下方向も一致しない。しかしながら、車体フレームを鉛直方向に対して左右方向に傾斜しているときであっても、車両の前後方向と車体フレームの前後方向は一致する。
本明細書において、「接続」は、物理的な接続の他、電気的な接続、及び、通信可能な状態になることを含む。物理的な接続の場合は、例えば、2つの部材が直接接続される場合と、2つの部材が、他の部材を介して間接的に接続される場合を含む。
(車両の構成)
図1は、車両1の全体を左方から見た左側面図である。車両1は、車両本体部2、左右一対の前輪3、後輪4、リーン機構5、および操舵機構7を備えている。
車両本体部2は、車体フレーム21、車体カバー22、シート24、およびパワーユニット25を含んでいる。図1において、車体フレーム21は直立状態にある。図1を参照する以降の説明は、車体フレーム21の直立状態を前提にしている。
車体フレーム21は、ヘッドパイプ211、ダウンフレーム212、リアフレーム213、を含んでいる。図1においては、車体フレーム21のうち、車体カバー22に隠れた部分は破線で示している。車体フレーム21は、シート24とパワーユニット25を支持している。パワーユニット25は、後輪4を支持している。パワーユニット25は、エンジン、電動モータ、バッテリなどの駆動源や、トランスミッションなどの装置を備えている。
ヘッドパイプ211は、車両1の前部に配置されている。車体フレーム21の側方から見て、ヘッドパイプ211の上部は、ヘッドパイプ211の下部よりも後方に配置されている。
ダウンフレーム212は、ヘッドパイプ211に接続されている。ダウンフレーム212は、ヘッドパイプ211の後方に配置されている。ダウンフレーム212は、車体フレーム21の上下方向に延びている。
リアフレーム213は、ダウンフレーム212の後方に配置されている。リアフレーム213は、車体フレーム21の前後方向に延びている。リアフレーム213は、シート24とパワーユニット25を支持している。
車体カバー22は、フロントカバー221、フロントスポイラー222、左右一対のフロントフェンダー223、リアフェンダー224、およびレッグシールド225を含んでいる。車体カバー22は、左右一対の前輪3、車体フレーム21、リーン機構5などの車両1に搭載される車体部品の少なくとも一部を覆う車体部品である。
図2は、車両1の前部を車体フレーム21の前方から見た正面図である。図2において、車体フレーム21は直立状態にある。図2を参照する以降の説明は、車体フレーム21の直立状態を前提にしている。図2は、フロントカバー221、フロントスポイラー222、および左右一対のフロントフェンダー223を取り外した状態を示している。
一対の前輪3は、ヘッドパイプ211(車体フレーム21)の左右に並べて配置される右車輪31及び左車輪32を含む。車体フレーム21の一部であるヘッドパイプ211と一対の前輪3との間には、リーン機構5及びサスペンション(右サスペンション33、左サスペンション35)が設けられる。すなわち、車体フレーム21と、右車輪31及び左車輪32とは、リーン機構5及びサスペンション33、35を介して接続される。リーン機構5は、ハンドル23よりも下方に配置されている。リーン機構5は、右車輪31と左車輪32よりも上方に配置されている。
<リーン機構>
図2に示す車両1のリーン機構5は、平行四節リンク(パラレログラムリンクとも呼ばれる)方式のリーン機構である。リーン機構5は、上アーム51、下アーム52、右サイド部材53、および左サイド部材54を含んでいる。
リーン機構5は、車体フレーム21に対して回転可能に支持される上アーム51及び下アーム52(以下、特に区別しない場合は、アーム51、52と総称する)を含む。アーム51、52は、前後方向に延びる回転軸を中心に車体フレーム21に対して回転可能である。回転軸は、アーム51、52の左右方向中央に配置される。すなわち、アーム51、52に中間部分は、支持部A、Dによってヘッドパイプ211に支持される。アーム51、52の回転軸は、支持部A、Dを通る。回転軸の右に右車輪31が,回転軸の左に左車輪32が配置される。アーム51、52の回転軸より右の部分には、右サイド部材53及び右サスペンション33を介して、右車輪31が接続される。アーム51、52の回転軸より左の部分に、左サイド部材54及び左サスペンション35を介して、左車輪32が接続される。
このように、アーム51、52の回転軸より右の部分に右車輪31、回転軸より左の部分に左車輪32を接続することで、右車輪31および左車輪32の車体フレーム21に対する上下方向FU、FDの相対位置が変更可能になる。すなわち、アーム51、52が回転することにより、アーム51、52の回転軸の左右に配置された右車輪31および左車輪32の車体フレーム21に対する上下方向FU、FDの相対位置が変化する。右車輪31および左車輪32の上下方向FU、FDの相対位置が変化すると、車体フレーム21が、鉛直方向に対して左右方向に傾斜する。そのため、アーム51、52の車体フレーム21に対する回転を調整することにより、車体フレーム21の左右方向の傾斜すなわちロール角(リーン角)を制御することができる。
上アーム51は、一対の板状の部材512を含んでいる。一対の板状の部材512は、ヘッドパイプ211の前方および後方に配置されている。各板状の部材512は、車体フレーム21の左右方向に延びている。下アーム52は、一対の板状の部材522を含んでいる。一対の板状の部材522は、ヘッドパイプ211の前方および後方に配置されている。各板状の部材522は、車体フレーム21の左右方向に延びている。下アーム52は、上アーム51よりも下方に配置されている。下アーム52の車体フレーム21の左右方向における長さ寸法は、上アーム51の車体フレーム21の左右方向における長さ寸法と同一または同等である。下アーム52は、上アーム51と平行に延びている。
なお、アーム51、52の構成は、上記例に限られない。上記例では、アーム51、52を、それぞれヘッドパイプ211の前方及び後方に配置される一対の板状の部材で構成していている。これに対して、アーム51、52のそれぞれを、ヘッドパイプ211の前方に配置される1つの板状部材で構成することもできる。
上アーム51の右端と下アーム52の右端は、車体フレーム21の上下方向に延びる右サイド部材53に接続される。右サイド部材53は、上アーム51及び下アーム52に、支持部B、Eによって回転可能に支持される。右サイド部材53は、支持部B、Eを通り前後方向に延びる回転軸を中心として、上アーム51及び下アーム52に対して回転可能である。
上アーム51の左端と下アーム52の左端は、車体フレーム21の上下方向に延びる左サイド部材54に接続される。左サイド部材54は、上アーム51及び下アーム52に、支持部C、Fによって回転可能に支持される。左サイド部材54は、支持部C、Fを通り前後方向に延びる回転軸を中心として、上アーム51及び下アーム52に対して回転可能である。
<サスペンション>
右サイド部材53の下端は、右ブラケット317を介して右サスペンション33に接続される。左サイド部材54及の下端は、左ブラケット327を介して左サスペンション35に接続される。右サスペンション33及び左サスペンション35は、車体フレーム21の上下方向に伸縮可能である。右サスペンション33の上端は、リーン機構5に接続され、下端は、右車輪31に接続される。左サスペンション35の上端は、リーン機構5に接続され、下端は、左車輪32に接続される。
サスペンション33、35は、一例として、テレスコピック式のサスペンションである。サスペンションは、緩衝器と称することもできる。右サスペンション33は、右車輪31を支持する右外筒312と、右外筒312の上部に配置される右内筒316を含む。右内筒316の上端は、右ブラケット317に固定され、下端は、右外筒312に挿入される。右内筒316が右外筒312に対して相対移動することにより、右サスペンション33が伸縮する。左サスペンション35は、左車輪32を支持する左外筒322と、左外筒322の上部に配置される左内筒326を含む。左内筒326の上端は、左ブラケット327に固定され、下端は、左外筒322に挿入される。左内筒326が左外筒322に対して相対移動することにより、左サスペンション35が伸縮する。
右ブラケット317と右外筒312との間には、右回転防止機構34が接続される。右回転防止機構34は、右外筒312が、右内筒316に対して、右サスペンション33の伸縮方向に延びる軸線を中心として回転することを防止する。左ブラケット327と左外筒322との間には、左回転防止機構36が接続される。左回転防止機構36は、左外筒322が、左内筒326に対して、左サスペンション35の伸縮方向に延びる軸線を中心として回転することを防止する。
具体的には、右回転防止機構34は、右回転防止ロッド341、右ガイド313、および右ブラケット317を含んでいる。右ガイド313は、右外筒312の上部に固定されている。右ガイド313は、その前部に右ガイド筒313bを有している。
右回転防止ロッド341は、右内筒316と平行に延びている。右回転防止ロッド341の上部は、右ブラケット317の前部に固定されている。右回転防止ロッド341は、その一部が右ガイド筒313bに挿入された状態で、右内筒316の前方に配置されている。これにより、右回転防止ロッド341は、右内筒316に対して相対移動しない。右内筒316が右外筒312に対して右外筒312の延びる方向に相対移動することにより、右回転防止ロッド341も右ガイド筒313bに対して相対移動する。一方、右外筒312は、右内筒316に対して、右サスペンション33の伸縮方向に延びる軸線を中心に回転することが防止される。
左回転防止機構36は、左回転防止ロッド361、左ガイド323、および左ブラケット327を含んでいる。左ガイド323は、左外筒322の上部に固定されている。左ガイド323は、その前部に左ガイド筒323bを有している。
左回転防止ロッド361は、左内筒326と平行に延びている。左回転防止ロッド361の上部は、左ブラケット327の前部に固定されている。左回転防止ロッド361は、その一部が左ガイド筒323bに挿入された状態で、左内筒326の前方に配置されている。これにより、左回転防止ロッド361は、左内筒326に対して相対移動しない。左内筒326が左外筒322に対して左外筒322の延びる方向に相対移動することにより、左回転防止ロッド361も左ガイド筒323bに対して相対移動する。一方、左外筒322は、左内筒326に対して、左サスペンション35の伸縮方向に延びる軸線を中心に回転することが防止される。
なお、サスペンションの構成は、上記例に限られない。例えば、右サスペンション33を、互いに相対運動する右外筒312と内筒316の組み合わせを2つ並べて配置した構成とすることができる。この場合、左サスペンション35も同様に、左外筒322と内筒326の組み合わせを2つ並べて配置した構成とすることができる。これは、ダブルテレスコピック式のサスペンションである。この場合、サスペンション33、35の一対の外筒と内筒を互いに相対運動できないよう接続することにより、回転防止機構を兼ねることができる。その場合、上記のような、右回転防止機構34及び左回転防止機構36は不要になる。
<ロール角制御機構>
車両1は、車体フレーム21のロール角を制御するロール角制御機構74を備える。図2では、ロール角制御機構74を2点鎖線で示している。ロール角制御機構74は、車体フレーム21に対するアーム51、52の回転を調整する。ロール角制御機構74は、車体フレーム21に対するアーム51、52の回転のトルクを付与することで、車体フレーム21のロール角を制御する。ロール角制御機構74は、上アーム51又は下アーム52の少なくとも一方と、車体フレーム21とに接続される。例えば、ロール角制御機構74は、アーム51、52を回転させる力の大きさ及び向きが可変である構成とすることができる。
図3は、車両1の前部を車体フレーム21の左方から見た左側面図である。図3において、車体フレーム21は直立状態にある。図3を参照する以降の説明は、車体フレーム21の直立状態を前提にしている。図3は、フロントカバー221、フロントスポイラー222、および左右一対のフロントフェンダー223を取り外した状態を示している。また、左サイド部材54、及び左伝達プレート63の図示を省略している。
ロール角制御機構74は、車体フレーム21に対してアーム51、52を回転させるトルクを出力するアクチュエータ42を備える。アクチュエータ42は、支持部材43を介して、ヘッドパイプ211(車体フレーム21)に接続されている。支持部材43により、アクチュエータ42は、車体フレーム21に固定される。アクチュエータ42は、上アーム51に対して接触した状態で回転力を付与する出力部材461を有する。図3に示す例では、出力部材461は、軸心を中心に回転する出力軸である。出力部材461の出力軸は、上アーム51の回転軸と同軸となっている。これら出力軸の回転が、上アーム51の回転軸に伝達される。
アクチュエータ42は、動力源であるモータ421、モータ421の回転速度を減速して出力する減速機を備える。減速機は、例えば、モータ421の回転と連動する減速ギヤ422、423で構成される。図3に示す例では、モータ421の出力軸462を軸心とするギヤ422と、ギヤ422と噛み合うギヤ423が設けられる。ギヤ423の回転軸は、出力部材461の回転軸と一致している。モータ421の出力軸462の回転が、ギヤ422、423を介して、上アーム51の回転軸に伝達される。これにより、モータ421は、車体フレーム21に対するアーム51、52の回転のトルクを付与することができる。
アクチュエータ42は、モータ421を制御するロール角制御部424を備える。モータ421は、ロール角制御部424からの制御信号(指令値)に基づいて動作する。例えば、ロール角制御部424は、車体フレーム21のロール角速度及びモータの出力トルクを取得し、取得したロール角速度及び出力トルクに基づく指令値を、モータ421に供給する。指令値は、例えば、モータ421が出力するトルクの大きさ及び向きを示す値とすることができる。具体的には、指令値は、モータ421の電流値とすることができる。ロール角制御部424は、取得したロール角速度及び出力トルクを用いて指令値を算出する。
ロール角制御部424は、例えば、基板に実装された制御回路又はプロセッサ及びメモリを備えたコンピュータで構成することができる。ロール角制御部424は、図3に示すように、アクチュエータ42に内蔵されていてもよいし、アクチュエータ42の外部に設けられてよい。ロール角制御部424は、例えば、ECU(Electronic Control Unit;電子制御ユニット)で構成することができる。ロール角制御部424をコンピュータで構成した場合、ロール角制御部424の処理は、例えば、プロセッサがメモリからプログラムを読み出して実行することにより実現することができる。そのようなプログラム及びプログラムを記録した非一時的な(non-transitory)記録媒体も、本発明の実施形態に含まれる。
<操舵機構7>
図2に示すように、操舵機構7は、ハンドル23及び操舵力伝達機構6を含む。操舵力伝達機構6は、ステアリングシャフト60及びタイロッド67を含む。図2に示す例では、ブラケット317、327及びサスペンション33、35も、操舵力伝達機構6に含まれる。操舵力伝達機構6は、車体フレーム21の前部のヘッドパイプ211に、ハンドル23と一体的に回転可能に支持される。操舵力伝達機構6は、ハンドル23の回転に応じて右車輪31及び左車輪32の向きを変える。すなわち、操舵力伝達機構6は、ライダーがハンドル23を操作する操舵力を、右ブラケット317と左ブラケット327を介して、右車輪31及び左車輪32に伝達する。
ステアリングシャフト60の回転軸線Zは、車体フレーム21の上下方向に延びている。ハンドル23は、ステアリングシャフト60の上部に取り付けられている。ステアリングシャフト60は、ライダーによるハンドル23の操作に応じて、回転軸線Zを中心に回転する。ステアリングシャフト60は、その一部がヘッドパイプ211に回転可能に支持されている。ステアリングシャフト60の下部は、左右方向に延びるタイロッド67に、中間伝達プレート61を介して接続される。中間伝達プレート61は、ステアリングシャフト60に対して相対回転不能である。すなわち、中間伝達プレート61は、ステアリングシャフト60の延びる方向を中心としてステアリングシャフト60とともに回転可能である。
タイロッド67の右端は、右伝達プレート62を介して、右ブラケット317に接続される。右伝達プレート62は、右サイド部材53の延びる方向を中心として、右サイド部材53とともに回転可能である。
タイロッド67の左端は、左伝達プレート63を介して、左ブラケット327に接続される。左伝達プレート63は、左サイド部材54の延びる方向を中心として、左サイド部材54とともに回転可能である。
図4は、車両1の前部を車体フレーム21の上方から見た平面図である。図4において、車体フレーム21は直立状態にある。図4を参照する以降の説明は、車体フレーム21の直立状態を前提にしている。図4においては、フロントカバー221を取り外した状態を示している。図4において、右サイド部材53が延びる方向を右中心軸X、左サイド部材54が延びる方向を左中心軸Yとする。右中心軸X及び左中心軸Yは、ステアリングシャフト60の回転軸線Zと平行に延びている。
図4に示すように、中間伝達プレート61、右伝達プレート62、左伝達プレート63は、それぞれ、タイロッド67に対して、中間フロントロッド641、右フロントロッド651、左フロントロッド661を介して接続される。中間フロントロッド641、右フロントロッド651、左フロントロッド661は、車体フレーム21の前後方向に延び、この延びる方向を中心として回転可能である。これにより、中間フロントロッド641、右フロントロッド651、左フロントロッド661は、タイロッド67に対して、前後方向に延びる軸を中心として回転可能に接続される。
中間フロントロッド641、右フロントロッド651、左フロントロッド661は、それぞれ、中間ジョイント64、右ジョイント65、左ジョイント66、を介して、中間伝達プレート61、右伝達プレート62、左伝達プレート63に接続される。中間フロントロッド641は、中間伝達プレート61に対して、回転軸線Zと平行な軸を中心として相対回転可能である。右フロントロッド651は、右伝達プレート62に対して、右中心軸Xと平行な軸を中心として、相対回転可能である。左フロントロッド661は、左伝達プレート63に対して、左中心軸Yと平行な軸を中心として相対回転可能である。
図5は、右車輪31と左車輪32を右転舵させた状態における車両1の前部を、車体フレーム21の上方から見た平面図である。
乗員がハンドル23を操作すると、ステアリングシャフト60は、回転軸線Zを中心にヘッドパイプ211に対して回転する。図5に示す右転舵の場合、ステアリングシャフト60は、矢印Gの方向に回転する。ステアリングシャフト60の回転に伴って、中間伝達プレート61は、ヘッドパイプ211に対して、回転軸線Zを中心に矢印Gの方向へ回転する。
中間伝達プレート61の矢印Gの方向への回転に伴って、タイロッド67の中間フロントロッド641は、中間伝達プレート61に対して、中間ジョイント64を中心に矢印Gと逆方向に回転する。これにより、タイロッド67は、その姿勢を維持したまま右後方へ移動する。
タイロッド67の右後方への移動に伴って、タイロッド67の右フロントロッド651と左フロントロッド661は、それぞれ右ジョイント65と左ジョイント66を中心に矢印Gと逆方向に回転する。これにより、タイロッド67はその姿勢を維持したまま、右伝達プレート62と左伝達プレート63が、矢印Gの方向に回転する。
右伝達プレート62が矢印Gの方向に回転すると、右伝達プレート62に対して相対回転不能である右ブラケット317が、右サイド部材53に対して、右中心軸Xを中心に、矢印Gの方向に回転する。
左伝達プレート63が矢印Gの方向に回転すると、左伝達プレート63に対して相対回転不能である左ブラケット327が、左サイド部材54に対して、左中心軸Yを中心に、矢印Gの方向に回転する。
右ブラケット317が矢印Gの方向に回転すると、右内筒316を介して右ブラケット317に接続されている右サスペンション33が、右サイド部材53に対して、右中心軸Xを中心に、矢印Gの方向に回転する。これにより、右サスペンション33に支持されている右車輪31が、右サイド部材53に対して、右中心軸Xを中心に、矢印Gの方向に回転する。
左ブラケット327が矢印Gの方向に回転すると、左内筒326を介して左ブラケット327に接続されている左サスペンション35が、左サイド部材54に対して、左中心軸Yを中心に、矢印Gの方向に回転する。これにより、左サスペンション35に支持されている左車輪32が、左サイド部材54に対して、左中心軸Yを中心に、矢印Gの方向に回転する。
以上説明したように、操舵力伝達機構6は、乗員によるハンドル23の操作に応じて、操舵力を右車輪31と左車輪32に伝達する。右車輪31と左車輪32は、それぞれ右中心軸Xと左中心軸Yを中心に、ライダーによるハンドル23の操作方向に応じた方向に回転する。
<車両1の傾斜動作>
次に図2と図6を参照しつつ、車両1の傾斜動作について説明する。図6は、車体フレーム21が左方に傾斜した状態における車両1の前部を、車体フレーム21の前方から見た正面図である。
図2に示すように、車体フレーム21の直立状態においては、車体フレーム21の前方から車両1を見ると、リーン機構5は長方形状をなしている。図6に示すように、車体フレーム21の傾斜状態においては、車体フレーム21の前方から車両1を見ると、リーン機構5は平行四辺形状をなしている。リーン機構5の変形と車体フレーム21の左右方向への傾斜は連動する。リーン機構5の作動とは、リーン機構5を構成する上アーム51、下アーム52、右サイド部材53、および左サイド部材54が、それぞれの支持部A〜Fを通る回転軸線を中心に相対回転し、リーン機構5の形状が変化することを意味している。
例えば、図6に示すように、ライダーが車両1を左方に傾斜させると、ヘッドパイプ211すなわち車体フレーム21が鉛直方向に対して左方に傾斜する。車体フレーム21が傾斜すると、上アーム51は、支持部Aを通る軸線を中心に、車体フレーム21に対して前方から見て反時計回りに回転する。同様に、下アーム52は、支持部Dを通る軸線を中心に、前方から見て反時計回りに回転する。これにより、上アーム51は、下アーム52に対して左方に移動する。
上アーム51の左方への移動に伴い、上アーム51は、支持部Bを通る軸線と支持部Cを通る軸線を中心に、それぞれ右サイド部材53と左サイド部材54に対して前方から見て反時計回りに回転する。同様に、下アーム52は、支持部Eを通る軸線と支持部Fを通る軸線を中心に、それぞれ右サイド部材53と左サイド部材54に対して前方から見て反時計回りに回転する。これにより、右サイド部材53と左サイド部材54は、車体フレーム21と平行な姿勢を保ったまま、鉛直方向に対して左方に傾斜する。
このとき下アーム52は、タイロッド67に対して左方に移動する。下アーム52の左方への移動に伴い、タイロッド67の中間フロントロッド641、右フロントロッド651、および左フロントロッド661は、タイロッド67に対して回転する。これにより、タイロッド67は、上アーム51および下アーム52と平行な姿勢を保つ。
右サイド部材53の左方への傾斜に伴い、右サイド部材53に右ブラケット317及び右サスペンション33を介して接続されている右車輪31が、車体フレーム21と平行な姿勢を保ったまま左方に傾斜する。
左サイド部材54の左方への傾斜に伴い、左サイド部材54に左ブラケット327及び左サスペンション35を介して接続されている左車輪32が、車体フレーム21と平行な姿勢を保ったまま左方に傾斜する。
上記の右車輪31と左車輪32の傾斜動作に係る説明は、鉛直方向を基準としている。車両1の傾斜動作時(リーン機構5の作動時)においては、車体フレーム21の上下方向と鉛直上下方向は一致していない。車体フレーム21の上下方向を基準とした場合、リーン機構5の作動時において、右車輪31と左車輪32は、車体フレーム21に対する相対位置が変化している。換言すると、リーン機構5は、右車輪31と左車輪32の車体フレーム21に対する相対位置を、車体フレーム21の上下方向に変更することにより、車体フレーム21を鉛直方向に対して傾斜させる。
<システム構成>
図7は、リーン車両である車両1のロール角を制御するためのシステム構成例を示す図である。図7に示すように、車両1は、車体フレーム21と、車両1の左右方向に並べて配置される右車輪31及び左車輪32と、リーン機構5と、アクチュエータ42と、ロール角制御部424とを備える。車体フレーム21は、車両1が左旋回する際に車両1の左方にリーンし、車両1が右旋回する際に車両1の右方にリーンする。
リーン機構5は、車体フレーム21に対して回転可能に支持されるアーム51、52を含む。アーム51、52は、右車輪31及び左車輪32を支持する。この例では、アーム51、52の右端が、右サイド部材53、サスペンション33を介して、右車輪31に接続されている。アーム51、52の左端が、左サイド部材54、サスペンション35を介して、左車輪32に接続されている。すなわち、アーム51、52は、サスペンション33、35を介して右車輪31及び左車輪32を支持する。アーム51、52が、車体フレーム21に対して回転することにより、右車輪31及び左車輪32の車体フレーム21の上下方向の相対位置が変更する。これにより、車体フレーム21が、鉛直方向に対して左右方向にリーンする。すなわち、車体フレーム21がロール方向に回転する。このように、車両1では、右車輪31と左車輪32を支持するアーム51、52が車体フレーム21に対して回転することで、車体フレーム21のロール角が変化する。
アクチュエータ42は、リーン機構5のアーム51、52を車体フレーム21に対して回転させるトルクTmを発生させる。ロール角制御部424は、指令値をアクチュエータ42に供給することで、アクチュエータ42の出力するトルクTmの向き及び大きさ(絶対値)を調整する。ロール角制御部424は、アクチュエータ42の出力する出力トルクTm及び車体フレーム21のロール角速度Kdを取得する。ロール角制御部424は、取得した出力トルクTmと同じ方向であり取得した出力トルクTmより大きな絶対値のトルクを発生させる成分と、取得したロール角速度Kdを0にするトルクを発生させる成分とを含む指令値を生成する。指令値は、アクチュエータ42に供給される。これにより、アームの車体フレームに対する回転の制御、すなわち車体フレームのロール角制御の精度を向上させることができる。
図8は、図7に示すシステム構成の具体例を示す図である。図8は、動力源としてモータを有するアクチュエータ42を用いた場合のシステム構成例を示す。この例では、アクチュエータ42は、車体フレーム21及びアーム51、52に接続されるモータ421を有する。モータ421は、右車輪31及び左車輪3を支持するアーム51、52の車体フレーム21に対する回転のトルクを付与する。ロール角制御部424は、指令値をモータ421に供給することで、モータ421がアーム51、52に付与するトルクすなわちアクチュエータ42が出力するトルクを調整する。
モータ421は、車体フレーム21に支持されている。モータ421の出力軸462の回転は、減速機であるギヤ422、423を介して出力部材461に伝達される。出力部材462は、上アーム51に対して回転不能に固定されているため、出力部材462の回転とともに上アーム51が回転する。これにより、モータ421の出力トルクが、アーム51、52を車体フレーム21に対して回転させるトルクとなる。
アクチュエータ42は、車体フレーム21のロール角又はロール角速度を検出するロール角センサ79を備える。ロール角制御部424は、ロール角センサ79で検出されたロール角速度、又はロール角センサ79で検出されたロール角から得られるロール角速度を取得する。ロール角センサ79は、例えば、アーム51、52と車体フレーム21との相対回転を検出する回転センサ又は、モータ421のロータの回転を検出する回転センサで構成することができる。
ロール角制御部424は、モータ421の電流を取得する。モータ421の電流は、モータ421のモータ制御電流であり、モータ421の出力するトルクを示す値の一例である。ロール角制御部424は、モータの電流を検出することで、モータ421が出力するトルク、すなわち、アクチュエータ42が出力するトルクを取得することができる。なお、アクチュエータ42の出力トルクの取得は、モータ421の出力電流によるものに限られない。例えば、モータ421の出力軸462、ギヤ422、432、出力部材461、又は、アーム51、52の回転のトルクを検出することで、アクチュエータ42の出力トルクを取得することができる。
このように、ロール角制御部424は、アクチュエータ42(ここでは一例としてモータ421)の出力トルク、及び、車体フレーム21のロール角速度を取得する構成を有している。ロール角制御部424は、取得したモータ421の出力トルクを用いて、取得した出力トルクを同じ方向にさらに増加させるためにモータ421に出力させるトルクを示す値(第1の値)を算出する。また、ロール角制御部424は、取得したロール角速度を用いて、取得したロール角速度を予め記録された目標ロール角速度(例えば、0)にするためにモータ421に出力させるトルクを示す値(第2の値)を算出する。
さらに、ロール角制御部424は、これら第1の値と第2の値を用いて、モータ421に供給する指令値を生成する。この指令値は、モータ421に出力させるトルクの向き及び大きさを示す値となる。この指令値は、取得したモータ421の出力トルクを同じ方向にさらに増加させるトルクの成分と、ロール角速度を目標値(0)にするトルクの成分とを含む値になる。
ロール角制御部424は、指令値をモータ421に供給する。モータ421は、指令値に応じた向き及び大きさのトルクを出力する。すなわち、指令値によって、モータ421が出力するトルクが調整される。その結果、モータ421の出力トルクを同じ方向にさらに増加させる制御と、車体フレーム21のロール角速度を目標値(0)にする制御が重畳して施されることになる。これにより、車体フレーム21のロール角を精度良く制御することができる。
<ロール角制御部の構成例>
図9は、ロール角制御部424の構成例を示す機能ブロックである。図9に示す例では、ロール角制御部424は、トルク変換部81、係数乗算部82、トルク制御部83、速度制御部84、及びトルク制限部85を備える。トルク変換部81は、電流センサ78が検出したモータ421の電流値Imを、モータ421の出力トルクを示す値Tmに変換する。例えば、トルク変換部81は、モータ421の電流値Imにトルク定数を乗算することで、モータ421の電流値Imをモータ421の出力トルクを示す値Tmに変換する。
係数乗算部82は、トルク変換部81で変換された出力トルクを示す値Tmに、係数αを乗算して、目標トルクを示す値Tg=αTmを算出する。ここで、α>1とすることで、目標トルクを、値Tmが示す出力トルクと同じ方向で、より大きい絶対値のトルクとすることができる。すなわち、取得した出力トルクTmに正のゲインを乗算したトルクを目標トルクとすることができる。係数αは、予め決められた定数であってもよいし、車両状態に応じて変わる変数であってもよい。目標トルクの値Tgから出力トルクの値Tmを引いた値(Tg−Tm)が、トルク制御部83に供給される。
変形例として、係数乗算部82において、αの代わりにα−1をTmに乗算してもよい。この場合、α>1とする。すなわち、目標トルクの値Tgを、Tg=(α−1)・Tmとしてもよい。この場合、図9におけるTg−Tmの演算部87を省略することができる。
トルク制御部83は、この値(Tg−Tm)が示すトルクをモータ421に出力させる指令を示す値(第1の値Pt)を算出する。トルク制御部83は、例えば、値(Tg−Tm)を目標値とし、モータ421の出力トルクを目標値に近づけるための指令値(第1の値Pt)を算出する。一例として、PID制御器(Proportional Integral Differential Controller)又はP制御器(比例制御器)を用いて第1の値Ptを算出することができる。第1の値Ptは、モータ421の出力トルクと同じ方向で出力トルクよりも大きい絶対値のトルクをモータ421に出力させるための値である。
ロール角制御部424は、モータ241の電流値Imの取得と略当時に、ロール角センサ79からロール角速度Kdを取得する。予め記録された目標ロール角速度Kg(本例ではKg=0rad/secとする)から、取得したロール角速度Kdを引いた値(Kg−Kd)が、速度制御部84に供給される。
速度制御部84は、(Kg−Kd)で示されるロール角速度を発生するためのトルクをモータ421に出力させる指令を示す値(第2の値Pv)を出力する。例えば、速度制御部84は、値(Kg−Kd)を発生させるトルクを目標値として、モータ241の出力するトルクを目標値に近づけるための指令を示す値(第2の値Pv)を計算する。一例として、PID制御器又はP制御器を用いて第2の値Pvを算出することができる。第2の値Pvは、ロール角制御部424が取得したロール角速度Kdを0にするためにモータ421に出力させるトルクを示す値となる。
これらの第1の値Ptと第2の値Pvの和(Pt+Pv)をモータ421に供給する指令値とすることができる。図9に示す例では、和(Pt+Pv)が予め決められた上限値を超える場合は、トルク制限部85が、その上限値を指令値としてモータ421に供給する構成となっている。そのため、和(Pt+Pv)が、上限値を超えない場合は、この和(Pt+Pv)が指令値としてモータ421に供給される。
モータ421が出力するトルクは、減速機422、423を介してリーン機構5のアームに伝達される。アームが回転することにより、車体フレーム21のロール角が調整される。
次に、図9に示すロール角制御部424による車両の動作の例を説明する。例えば、車体フレーム21が自立している状態のように、車体フレーム21にロール方向の動きがなく、ロール方向の力が釣り合っている状態では、モータ421は、トルクを出力しない。この場合、モータ421の出力トルク=0、ロール角速度=0となる。モータ241の電流値Imは、モータ421の出力トルクに比例するのでIm=0になる。
車体フレーム21のロール角が変化している場合、すなわち、ロール角速度が0でない場合、速度制御部84によって、ロール角速度を0にするトルクがモータ421に発生する。例えば、車体フレーム21が重力等の外力を受けて左又は右に傾こうとするロール方向の回転を抑えるような指令が、速度制御部84によってモータ421に供給される。ここで、トルク制御部83による正のフィードバックがなく、速度制御部84のみが動作すると、ロール角速度が0になると車体フレーム21のロール回転が止まって、モータ421の出力トルクと、車体フレーム21にかかる外力によるロール方向のトルクが釣り合った状態となる。例えば、トルク制御部83による正のフィードバックがなく、速度制御部84のみが動作すると、車体フレーム21が右又は左に傾いた状態が維持される状況を起こり得る。
図9に示す例では、速度制御部84によるロール角速度を0にする制御に加えて、トルク制御部83による正のフィードバックがなされる。そのため、速度制御部84による外力に起因する車体フレーム21のロール回転を抑えるトルク指令に加えて、同じ方向にさらにトルクを増加させる指令が、トルク制御部83によってモータ421に供給される。これにより、例えば、車体フレーム21が右又は左に傾いた状態から、起き上がる動作を実現することが可能になる。
ここで、速度制御部84が動作せず、トルク制御部83による指令のみの場合は、モータ421のトルクは発散してしまう。トルク制御部83と速度制御部84を並列させることで、ロール回転の促進と抑制のバランスを取った適切なロール制御が可能になる。その結果、ロール制御の精度が向上する。すなわち、正ゲインによる出力トルクのフィードバックによるロール回転の促進と、ロール角速度を0に近づけるフィードバックによるロール回転の抑制とをバランスよく合成した制御により、精度の高いロール回転を実現することができる。
<車両の動作例>
図10は、ロール角制御部424によって制御される車体フレーム21の動作例を説明するための図である。図10は、車体フレーム21の上下方向が、鉛直方向に対して角度θで傾いている状態を示す。車体フレーム21とともにロール方向に動く車体(ライダー含む)の重心G1と、アクチュエータ42の出力部材461の回転軸との距離をHとする。車体(ライダー含む)の質量をm、重力加速度をgとする。
図10に示すように車体フレーム21が角度θだけ左に傾いている場合、車体にかかる重力mgによって、車体フレーム21を倒す方向のロールモーメントT1=H・mg・sinθが発生する。このロールモーメントによるロール角速度が検出されると、ロール角制御部424は、ロール角速度を0に近づけるトルクをアクチュエータ42に発生させる。アクチュエータ42が、車体フレーム21の傾きθを維持するに必要なトルクT2は、T2=H・mg・sinθとなる。
さらに、ロール角制御部424は、アクチュエータ42の出力トルクを同じ方向に増加させる制御をする。この制御によるアクチュエータ42のトルクにより、車体フレーム21は起き上がる。車体フレーム21の起き上がり開始後は、起き上がる方向のロール角速度を0に近づける制御が重畳される。そのため、アクチュエータ42による車体フレーム21を起き上がらせるトルクは、直立状態に近づくにつれて徐々に減少していく。車体フレーム21が起きて直立状態になると、車体フレーム21のロールモーメントは0になる。この時、ロール角速度は0、アクチュエータのトルクも0になる。
この場合、直立状態を目標姿勢とし、精度良く目標姿勢に到達することができる。上記のように、ロール角制御部は、アクチュエータの出力トルクを同じ方向に増加させる制御と、ロール角速度を0に近づけるトルクを付与する制御とを重畳して実行する。そのため、これらの制御が互いにバランスを取りながら、アクチュエータのトルクが制御される。その結果、細かいロール制御が可能になる。また、目標姿勢に近くなるにつれて徐々にアクチュエータのトルクを小さくできる。そのため、目標姿勢の付近で車体フレームのロール方向の運動が収束しやすくなる。
上記実施形態におけるロール制御の場合、目標姿勢(例えば直立状態)に近づける方向に、車体を押す等して、外部から車体フレーム21に力を加えた場合、ロール角速度が発生し、このロール角速度を0に近づけるフィードバックが働く。そのため、外部からの力が加わってから目標姿勢に達するまでの間に、外部からの力によって増加した車体フレーム21のロール角速度を減らす方向のフィードバックでアクチュエータ42が制御される。その結果、目標姿勢に到達する直前の車体フレーム21のロール角速度は、ロール角速度を0にするフィードバックがない場合に比べて小さくなる。このロール角速度を0にするフィードバックがない場合は、外部から車体フレームを目標姿勢に近づける方向に力を加えると、目標姿勢に向かう方向のロール角速度が増加する。そのため、目標姿勢に達する直前の車体フレームのロール角速度が大きくなる。その結果、車体フレームは、目標姿勢を過ぎて逆方向に振られる。これに対して、本実施形態のロール制御では、外部から車体フレーム21を目標姿勢に近づける方向に力を加えても、この力の方向のロール角速度が、目標姿勢に到達するまでに緩和される。そのため、車体フレーム21は、目標姿勢に緩やかに到達する。すなわち、車体フレーム21が、目標姿勢に到達した後に、目標姿勢を過ぎて逆方向に振られる度合いが小さくなる。
<ロール角制御部の変形例>
図11は、図9に示すロール角制御部424の変形例を示す機能ブロック図である。図11において、図9と同じブロックには同じ符号を付している。図11に示すロール角制御部424aは、車体フレーム21のロール角をさらに取得する。ロール角制御部424aは、取得したロール角に応じたトルクの成分をさらに含む指令値を生成する。ロール角制御部424aは、ロール角フィードバック部86(以下、ロール角FB部86と称する)をさらに備える。
ロール角FB部86は、ロール角センサ79から取得したロール角Krに応じたトルクをモータ241に出力させる指令値(第3の値Pr)を算出する。例えば、ロール角FB部86は、取得したロール角Krに応じてモータ241に出力させるトルクを決定する処理と、決定したトルクをモータ241に出力させるための指令を示す値(第3の値Pr)を算出する処理とを実行することができる。
ロール角FB部86は、ロール角に応じたトルクの決定として、例えば、ロール角が所定の条件を満たす場合、車体フレーム21のロール角を目標値に近づけるためのトルクを決定することができる。一例として、ロール角が、予め決められた範囲内の場合に、車体フレーム21を起き上がらせる方向のトルクを出力するよう指令する第3の値Prを算出することができる。この時のトルクの絶対値は、予め決められた値であってもよいし、車両状態に応じて決められる値であってもよい。
例えば、ロール角FB部86は、車速を利用して、車体フレーム21を起き上がらせる方向のトルクの出力を指令する第3の値Ptを決定してもよい。一例として、ロール角FB部86は、車速が第1閾値より低い場合すなわち極低速走行時には、第3の値Ptが示す出力トルクの絶対値を大きくし、車速が第2閾値より高い場合すなわち高速走行時には、第3の値Ptが示す出力トルクの絶対値を小さくすることができる。これにより、車速に応じて、車体フレームを起き上がらせるトルクを調整することができる。
図11に示す例では、トルク制御部83で算出された第1の値Pt、速度制御部84で算出された第2の値Pvに加えて、ロール角FB部86が算出した第3の値Prを用いて、モータ241に供給する指令値が決定される。ここでは、一例として、第1の値Pt、第2の値Pv及び第3の値Prを和(Pt+Pv+Pr)が、モータ241に供給する指令値となっている。これにより、トルクを同じ方向に増加させる指令の成分及びロール角速度を0に近づける指令の成分に加えて、ロール角に応じたトルクの成分を、指令値に反映させることができる。なお、ロール角に応じたトルクの成分を指令値に反映させる形態は、図11に示す例に限られない。
このように、車体フレーム21のロール角に応じたトルクの成分をモータ241の指令値に含ませることで、車体フレーム21の左右方向の傾斜状態に応じた適切なロール角制御が可能になる。すなわち、車体フレーム21の傾斜方向又は傾斜角に応じたロール方向のトルクをモータ241によって車体フレーム21に付与することができる。
図11に示す例では、速度制御部84で用いられるロール角速度Kdと、ロール角FB部86で用いられるロール角は、同じロール角センサ79で検出されたものを用いる構成である。これに対して、ロール角FB部86は、速度制御部84で用いられるロール角速度Kdを検出するロール角センサ79とは異なるロール角センサからロール角Krを取得してもよい。例えば、速度制御部84で用いられるロール角速度Kdを検出するロール角センサ79は、アーム51、52の回転を検出する回転センサとすることができる。この場合、ロール角FB部86で用いられるロール角Krを検出するロール角センサは、IMUセンサ等の姿勢角センサとすることができる。
上記の例はいずれも、直立状態を目標姿勢とする場合である。目標姿勢は、直立状態に限られない。図12は、図9に示すロール角制御部424の変形例を示す機能ブロック図である。図12において、図9と同じブロックには同じ符号を付している。図12に示すロール角制御部424bは、車体フレーム21のロール角Krをさらに取得する。また、ロール角制御部424bは、位置制御部88をさらに備える。
予め記録された目標ロール角Kh(本例ではKh≠0radとする)から、取得したロール角Krを引いた値(Kh−Kr)が、位置制御部88に供給される。位置制御部88は、(Kh−Kr)を0にするトルクをモータ421に出力させる指令を示す値(第4の値Prr)を出力する。
例えば、位置制御部88は、値(Kh−Kr)を0にするトルクを目標値として、モータ241の出力するトルクを目標値に近づけるための指令を示す値(第4の値Prr)を計算する。一例として、PID制御器又はP制御器を用いて第4の値Prrを算出することができる。第4の値Prrは、車体フレーム21のロール角を目標値にするためにモータ421に出力させるトルクを示す値となる。
第1の値Pt、第2の値Pv及び第4の値Prrの和(Pt+Pv+Prr)がモータ421に供給する指令値となる。和(Pt+Pv+Prr)が予め決められた上限値を超える場合は、トルク制限部85が、その上限値を指令値としてモータ421に供給する。指令値に基づいてモータ421が出力するトルクは、減速機422、423を介してリーン機構5のアームに伝達される。アームが回転することにより、車体フレーム21のロール角が調整される。これにより、車体フレーム21のロール角が、目標ロール角Kh(本例ではKh≠0rad)に近づく。すなわち、モータ421のトルクにより、車体フレーム21を、直立状態ではなく、車両左右方向に傾斜した姿勢に近づけることができる。
図13は、図9に示すロール角制御部424の他の変形例を示す機能ブロック図である。図13において、図9と同じブロックには同じ符号を付している。図13に示すロール角制御部424cは、車体フレーム21のロール角を目標ロール角Khに近づけるようモータ421を制御する。図13に示すロール角制御部424cは、車体フレーム21のロール角Krをさらに取得する。また、ロール角制御部424cは、位置制御部88をさらに備える。
予め記録された目標ロール角Kh(本例ではKh≠0radとする)から、取得したロール角Krを引いた値(Kh−Kr)が、位置制御部88に供給される。位置制御部88は、(Kh−Kr)を0にするトルクを示す値(第5の値Trr)を出力する。この第5の値Trrからトルク変換部81から出力された出力トルクTmを引いた値(Trr−Tm)が、トルク制御部83に供給される。
トルク制御部83は、この値(Trr−Tm)が示すトルクをモータ421に出力させる指令を示す値(第1の値Pt)を算出する。トルク制御部83は、例えば、値(Trr−Tm)を目標値とし、モータ421の出力トルクを目標値に近づけるための指令値(第1の値Pt)を算出する。
第1の値Ptと第2の値Pvの和(Pt+Pv)は、予め決められた上限値以下の場合は、モータ421に供給する指令値となる。和(Pt+Pv)が予め決められた上限値を超える場合は、トルク制限部85が、その上限値を指令値としてモータ421に供給する。モータ421が指令値に基づいて出力するトルクは、減速機422、423を介してリーン機構5のアームに伝達される。アームが回転することにより、車体フレーム21のロール角が調整される。
上記の図12、図13に示す例のように、ロール角制御部は、車体フレームのロール角をさらに取得してもよい。この場合、ロール角制御部は、取得したロール角を目標ロール角にするためのトルクの成分をさらに含む指令値を生成することができる。これにより、車体フレームのロール角を、目標ロール角に近づける制御が可能になる。例えば、モータ(アクチュエータ)制御による車体フレームの車両の左右方向における傾斜の保持(傾斜状態保持)が可能になる。
<リーン機構の変形例>
リーン機構5の構成は、図2に示すパラメログラムリンクに限られない。リーン機構は、例えば、車体フレームに対して回転するアームとして、ショックタワーを備える構成であってもよい。図14は、ショックタワーを備えるリーン機構の一例を示す図である。図14に示す例では、ショックタワー102は、車体フレーム101に対して、回転軸100を中心に回転可能に取り付けられる。車両1aは、右サスアーム103、左サスアーム104、右サスペンション107、及び左サスペンション108を含む。右サスアーム103は、一方端が車体フレーム101に対して回転可能に接続され、他方端が右車輪105に対して回転可能に接続される。左サスアーム104は、一方端が車体フレーム101に対して回転可能に接続され、他方端が左車輪106に対して回転可能に接続される。右サスペンション107の一方端が右サスアーム103に回転可能に接続され、他方端がショックタワー102に回転可能に接続される。左サスペンション108の一方端が左サスアーム104に回転可能に接続され、他方端がショックタワー102に回転可能に接続される。アクチュエータ109は、ショックタワー102の車体フレーム101に対する回転を調整する。これにより、車体フレーム101のロール角が調整される。アクチュエータ109がショックタワー102を車体フレーム101に対して回転させるトルクは、ロール角制御部(図示せず)によって調整される。ロール角制御部は、上記のように指令値をアクチュエータ109に供給することで、アクチュエータ109の出力するトルクを調整する。
さらに、ショックタワーを設けない構成も可能である。図15は、ショックタワーを設けないリーン機構の構成例を示す図である。図15に示す例では、リーン機構は、車体フレーム111に対して回転するアームとして、一方端が車体フレーム111に対して回転可能に接続され、他方端が右車輪115に対して回転可能に接続された一対の右アーム113u、113dと、一方端が車体フレーム111に対して回転可能に接続され、他方端が左車輪116に対して回転可能に接続される一対の左アーム114u、114dを含む。この場合、サスペンション117は、一方端が一対の右アームのうち一方のアーム113dに回転可能に接続され、他方端が一対の左アームのうち一方のアーム114dに回転可能に接続される構成とすることができる。図15に示す構成においても、サスペンション117は、右車輪115及び左車輪116と、車体フレーム111との間に設けられることになる。アクチュエータ118は、右アーム113d及び左アーム114dに回転力を付与することで、右アーム113dの車体フレーム111に対する回転と、左アーム114dの車体フレーム111に対する回転を調整する。これにより、車体フレーム111のロール角が調整される。アクチュエータ118が右アーム113d及び左アーム114dを車体フレーム111に対して回転させるトルクは、ロール角制御部(図示せず)によって調整される。ロール角制御部は、上記のように指令値をアクチュエータ118に供給することで、アクチュエータ118の出力するトルクを調整する。
図16は、リーン機構の他の変形例を示す図である。図16に示すリーン機構は、車体フレーム121と右車輪125を接続する一対の右アーム123d、123uと、車体フレーム121と左車輪126を接続する一対の左アーム124d、124uとを有する。一対の右アームのうち一方の右アーム123dと、一対の左アームのうち一方の左アーム124dの間に、バランサアーム122が回転可能に接続される。バランサアーム122は、サスペンション127を介して車体フレーム121に対して回転可能な状態で懸架される。アクチュエータ128は、バランサアーム122に回転力を付与することで、バランサアーム122の車体フレーム121に対する回転を調整する。これにより、車体フレーム121のロール角が調整される。アクチュエータ128がバランサアーム122を車体フレーム121に対して回転させるトルクは、ロール角制御部(図示せず)によって調整される。ロール角制御部は、上記のように指令値をアクチュエータ128に供給することで、アクチュエータ128の出力するトルクを調整する。
<その他の変形例>
上記図11〜図13に示す例で、ロール角制御部は、車体フレームのロール角をさらに取得する。これらの例では、ロール角制御部は、モータ(アクチュエータ)の出力トルク及び車体フレームのロール角速度に加えて、車体フレームのロール角を用いて、モータの指令値を決定している。ロール角制御部は、ロール角の代わりに、又はロール角に加えて、車両状態を示す値を取得し、モータの指令値の決定に用いてもよい。車両状態を示す値は、例えば、車速、アクセル、ブレーキ、エンジン回転数、操舵トルク、又は操舵角等に関する値とすることができる。
上記実施形態では、ロール角制御部424は、ロール角速度を0に近づけるトルクを、目標ロール角速度=0と、取得したロール角速度Kdとの差に基づいて算出している。ロール角速度を0に近づけるトルクの算出は、これに限られない。例えば、取得したロール角速度の絶対値を減少させるトルクを、ロール角速度を0に近づけるトルクとして算出することもできる。
アクチュエータの構成は、上記例に限られない。例えば、アクチュエータ42は、上アーム51及び下アーム52の少なくとも一方に接続され、少なくとも一方の回転を調整する構成であってもよい。また、例えば、アクチュエータの出力部材は、1軸方向に延びる軸状であり、軸方向に伸縮することで、アームに回転力を付与するものであってもよい。この場合、アクチュエータは、一方端がアームの回転軸から離れた位置に回転可能に接続され、他方端が車体フレームに対して回転可能に接続される構成とすることができる。アクチュエータが、一方端と他方端を結ぶ方向に伸縮することにより、アームを車体フレームに対して回転させることができる。また、アクチュエータは、油圧アクチュエータであってもよい。すなわち、アクチュエータの動力源は、電動又は油圧によるものとすることができる。
リーン機構は、サスペンションを介して右車輪及び左車輪と接続することができる。一例として、図2に示す構成では、サスペンション33、リーン機構5と右車輪31の間に接続され、サスペンション35は、リーン機構5と左車輪32との間に接続される。サスペンションの配置構成はこれに限られない。例えば、リーン機構の一部にサスペンションが設けられてもよい。また、リーン機構と車体フレームとの間にサスペンションが設けられてもよい。
上記実施形態では、操舵力伝達機構6は、ハンドル23の回転を右車輪31と左車輪32に伝達する構成である。すなわち、操舵力伝達機構6は、ハンドル23の回転を前輪に伝達する構成であるが、操舵力伝達機構6は、ハンドル23の回転を後輪に伝達する構成であってもよい。また、上記実施形態では、左右方向に並べて配置された右車輪31と左車輪32が前輪となっているが、右車輪31及び左車輪32が後輪となるよう車両1を構成することもできる。
例えば、右車輪31及び左車輪32を後輪とした場合、操舵力伝達機構6は、右車輪31及び左車輪32の前方に配置される前輪にハンドルの回転を伝達する構成とすることができるし、後輪である右車輪31及び左車輪32にハンドルの回転を伝達する構成とすることもできる。なお、右車輪31及び左車輪32の前方又は後方に配置される車輪(上記例では後輪4)は、1つの車輪に限られず、2つの車輪であってもよい。