JP6917722B2 - 口腔の健康状態の評価方法 - Google Patents

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Description

本発明は、口腔の健康状態の評価方法に関する。
従来の歯科領域では、歯周病や齲蝕等が顕在化した疾病の治療に重点が置かれてきた。しかし近年、歯周病や齲蝕の発生自体を防ぐ予防歯科の重要性が広く認識されるようになった。
予防歯科の実践のためには、口腔の健康状態を維持又は改善する必要がある。そのため、口腔の健康状態を診断するシステムの開発が盛んに行われている。ここで、「口腔の健康状態」とは、歯周病や齲蝕等の口腔疾患の有無に、唾液の粘つき、口臭の強さ、舌苔の多寡等の様々な愁訴を加えて判断される、現時点での口腔状態、並びに将来の口腔疾患や口腔愁訴の悪化リスクも加えて、総合的に判断されるものである。
口腔の健康状態を把握するには、歯科医師や歯科衛生士による専門的な手技による評価や、唾液の組成物性の解析や口腔内画像の解析といった機器による評価が有効である。特に後者の評価は、患者の時間的、身体的、経済的負担を軽減できる可能性があり、予防歯科を実践するうえで今後より重要になると予想される。
これまでに、唾液を用いた簡易口腔チェック法として、ペリオスクリーン(商品名、サンスター社製)やサリバリーマルチテスト(商品名、ライオン社製)を用いた方法が知られている。しかしこれらの方法は、歯科医院や薬局などの専門機関で行う方法である。
そこで、自宅など専門機関以外でも実施できる、簡便な口腔状態のセルフチェック法の開発が求められている。
特許文献1には、個人又は一群の個人の口腔健康を見積るために、唾液のスペクトルの多変量分析を行うことが記載されている。しかし特許文献1に記載の方法では、唾液サンプルに含まれるプロピオン酸などの有機化合物について、NMRスペクトルを取得する必要がある。そのため、口腔健康を評価するには、簡便性を欠く。さらに、多変量分析自体が複雑であり、口腔状態を把握することが困難である。
また、特許文献2に記載のタンパク質バイオマーカーのための唾液プロテオーム分析は、歯周疾患の状態を診断するものであり、口内環境をセルフチェックするものではない。さらに、唾液中のタンパク質プロファイルをクラスター化する必要があるので、特許文献2に記載の方法も、簡便性を欠く。
さらに、特許文献3には、歯肉溝液に含まれる、全血清型IgA量とエラスターゼ量を測定し、これらの量比から活動性歯周炎を生じるリスクを検出又は評価する方法が記載されている。しかし特許文献3に記載の方法では、歯周炎を生じるリスクを唯一の評価項目としており、口腔内の健康状態を総合的に評価するものではない。
国際公開第2008/020416号 国際公開第2014/037924号 国際公開第94/07137号
本発明は、唾液を用いて口腔の健康状態を簡潔に、かつ総合的に評価する、口腔の健康状態の評価方法の提供を課題とする。
また本発明は、前述の評価方法をセルフチェックできる、口腔の健康状態の評価システム、及び口腔の健康状態の評価用キットの提供を課題とする。
唾液中に含まれるタンパク質をバイオマーカーとして用いて、健康状態を評価する方法について、特許文献2や3などに記載されている。しかし、唾液中には、多くの種類のタンパク質が含まれる。よって、健康状態を評価するために、唾液に含まれる多成分ものタンパク質の解析は、簡便性を欠く。さらに、多成分ものタンパク質を解析して多くの変数を得たとしても、多変数からの健康状態の把握は困難である。
そこで本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った。
具体的には、まず、唾液に含まれるタンパク質量を定量し、定量した値に対して主成分分析を行い、第1主成分のタンパク質と第2主成分のタンパク質を決定した。そして、被験者から採取した唾液に含まれる第1主成分のタンパク質及び第2主成分のタンパク質、それぞれの成分量を定量し、定量した各成分量を指標とすることで、被験者の口腔の健康状態を評価できることを見出した。そして本発明によれば、被験者の口腔の健康状態が相対的に、唾液量が少なく、口腔愁訴を感じている群、口腔状態が良い群、口内細菌数が多く、口腔疾患リスクが高い群、及び恒常性維持能が低下し、歯や歯肉などの口腔状態が悪化傾向にある群のいずれの群に分類されるのかを総合的に評価できることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
本発明は、被験者の口腔から採取した唾液に含まれるタンパク質のうち、唾液に含まれるタンパク質成分の主成分分析により決定した、第1主成分及び第2主成分について、それぞれの成分量を定量し、
定量した各成分量から被験者の口腔の健康状態を評価する方法に関する。
また本発明は、被験者の口腔から採取した唾液に含まれるタンパク質のうち、唾液に含まれるタンパク質成分の主成分分析により決定した、第1主成分及び第2主成分について、それぞれの成分量を定量する、定量手段と、
定量手段により定量した各成分量から被験者の健康状態を評価する、解析手段、を備える、口腔の健康状態を評価するシステムに関する。
さらに本発明は、被験者の口腔から採取した唾液に含まれるタンパク質のうち、唾液に含まれるタンパク質成分の主成分分析により決定した、第1主成分及び第2主成分について、それぞれの成分量を定量するためのイムノクロマトグラフィー用テストストリップを有する、口腔の健康状態の評価用キットに関する。
本発明の口腔の健康状態の評価方法は、口腔の健康状態を簡潔に、かつ総合的に評価できる。
また本発明の口腔の健康状態の評価システム、及び口腔の健康状態の評価用キットは、口腔の健康状態の評価をセルフチェックできる。
唾液に含まれる各種タンパク質の、第1主成分及び第2主成分に対する因子負荷量を示すグラフである。 第1主成分軸と第2主成分軸からなるグラフに、被験者の第1主成分スコア及び第2主成分スコアをプロットし、各象限で被験者を分類した結果を示すグラフである。 図3は、実施例で測定した被験者の唾液の性状について、実施例で行った分類法により分類したA群〜D群間で比較した結果を示すグラフである。図3(A)は唾液流量についての結果を示し、図3(B)は唾液中の細菌数についての結果を示し、図3(C)は唾液中のタンパク質濃度についての結果を示す。 図4は、実施例で測定した被験者の歯科臨床指標について、実施例で行った分類法により分類したA群〜D群間で比較した結果を示すグラフである。図4(A)は齲蝕指数(DMFT指数)についての結果を示し、図4(B)は歯肉炎指数(GI指数)についての結果を示し、図4(C)は歯周ポケット深さについての結果を示し、図4(D)はプロービング出血指数(BOP指数)についての結果を示し、図4(E)は口腔清掃度(OHI指数)についての結果を示し、図4(F)は舌苔指数(WTCI指数)についての結果を示す。 図5は、実施例で実施した被験者の愁訴アンケートについて、実施例で行った分類法により分類したA群〜D群間で比較した結果を示すグラフである。図5(A)は口臭についての結果を示し、図5(B)は疲労感についての結果を示し、図5(C)は口内のねばつきについての結果を示し、図5(D)はストレスについての結果を示す。 イムノクロマトグラフィー用テストストリップを用いて被験者の唾液に含まれる特定のタンパク質を検出し、検出したラインの濃さをプロットしたグラフである。 被験者の唾液に含まれる特定のタンパク質を検出した様子を示す、イムノクロマトグラフィー用テストストリップの図面代用写真である。
本発明の口腔の健康状態の評価方法及び評価システムは、唾液に含まれるタンパク質成分の主成分分析により決定した第1主成分及び第2主成分について、それぞれの成分量を定量し、定量した各成分量を指標として、口腔の健康状態の評価を行う。
ここで「主成分分析」とは、多変数のデータを解析するための統計学の分野では周知の手法であって、観測値の組を直交変換し、線型な相関を持たない特徴量の組によって表示する、統計学的手法である。
前述のように、唾液には多くのタンパク質成分が含まれる。そこで本発明では、主成分分析により第1主成分のタンパク質と、第2主成分のタンパク質を決定し、多次元データを2次元データに縮約する。多次元データを2次元データに縮約することで、唾液に含まれるタンパク質量に関するデータの解析が容易になる。
本発明において主成分分析は、常法に従い行うことができる。例えば、主成分分析を行うために、対象被験者の複数のタンパク質の定量値データから、相関係数行列又は分散共分散行列、好ましくは相関係数行列を作成する。この行列の固有値と固有ベクトルを求め、最大、2番目の固有値及び固有ベクトルを、それぞれ第1主成分、第2主成分の固有値と固有ベクトルとする。固有値と固有ベクトルから算出される各タンパク質の因子負荷量の絶対値が大きいものを主成分の代表タンパク質とする。以上の操作は、R(https://www.r-project.org/)、SPSS(IBM)などのソフトウェアにて実行できる。
さらに、第1主成分のタンパク質の成分量と、第2主成分のタンパク質の成分量を指標とすることで、被験者の口腔の健康状態の総合的な評価が可能となる。この指標は、各々の主成分を代表する1種以上のタンパク質によって代用することで簡易計測も可能である。
本発明では、第1主成分と第2主成分に縮約したタンパク質成分量を指標に、疾病や愁訴を含めた口腔の健康状態の分類ができる。
ここで「口腔の健康状態の分類」とは、被験者の口腔の健康状態を相対的に、「唾液量が少なく、口腔愁訴を感じている群」、「口腔状態が良い群」、「口内細菌数が多く、口腔疾患リスクが高い群」、及び「恒常性維持能が低下し、歯や歯肉などの口腔状態が悪化傾向にある群」のいずれかの群に分類することをいう。ここで、「唾液量が少なく、口腔愁訴を感じている群」、「口内細菌数が多く、口腔疾患リスクが高い群」、及び「恒常性維持能が低下し、歯や歯肉などの口腔状態が悪化傾向にある群」の3群を口腔状態が良くない群とする。
より詳細には、口腔の健康状態とは、歯周病や齲蝕等の口腔疾患の有無に、唾液の粘つき、口臭の強さ、舌苔の多寡等の様々な愁訴を加えて判断される、現時点での口腔状態、並びに将来の口腔疾患や口腔愁訴の悪化リスクも加えて総合的に判断されるものである。具体的には、口腔状態が良好であるか、唾液量が減少しているか、口腔細菌数が増えているか、恒常性が低下しているか等の状態を判断することができる。
唾液量が減少すると、口腔内が粘つき且つ口臭がきつくなるが、これらの愁訴は全身的な疲労やストレスに起因する可能性がある。また、口腔細菌数の増加が認められる場合は、口腔内の菌耐性が低下し、舌苔も多い傾向にあり、炎症反応が亢進している可能性がある。さらに、本明細書において「恒常性の低下」とは、例えば老化により菌耐性やその応答性が低下した状態であり、歯や歯肉などの口腔状態が悪化傾向にある可能性がある。また、以上のいずれにも該当しない場合は、口腔内が健常である可能性がある。
本発明において、第1主成分のタンパク質は、唾液に含まれるタンパク質の成分量に対する主成分分析を常法に従って行い、適宜決定することができる。また、第1主成分のタンパク質は、タンパク質1種単独であってもよいし、2種以上のタンパク質を組合せて用いることもできる。
具体的には、下記表1に示すタンパク質が挙げられる。なお、表1に記載のAccession Numberはタンパク質データベースUniprot(http://www.uniprot.org/)における番号を記載している。
Figure 0006917722
本発明において第1主成分とするタンパク質は、定量のために好ましく用いることができる抗体の入手容易性の観点から、シスタチンSN、プロラクチン誘導性タンパク質、免疫グロブリンA、ムチン7、シスタチンD、リゾチームC、ヒスタチン1、及びシスタチンSAからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質が好ましい。
本発明において、第2主成分のタンパク質も、唾液に含まれるタンパク質の成分量に対する主成分分析を常法に従って行い、適宜決定することができる。また、第2主成分のタンパク質は、タンパク質1種単独であってもよいし、2種以上のタンパク質を組合せて用いることもできる。
具体的には、下記表2に示すタンパク質が挙げられる。なお、表2に記載のAccession Numberはタンパク質データベースUniprot(http://www.uniprot.org/)における番号を記載している。
Figure 0006917722
本発明において第2主成分とするタンパク質は、定量のために好ましく用いることができる抗体の入手容易性の観点から、S100A8タンパク質、熱ショックタンパク質70kDa、亜鉛-α2-糖タンパク質、ビタミンD結合タンパク質、リポカリン-1、チオレドキシン、及び好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質が好ましい。
本発明ではまず、常法に従い、被験者の唾液を採取する。
被験者の健康状態に影響するタンパク質の成分量を安定させるため、飲食、喫煙、及び口腔清掃を0.5時間以上、好ましくは1時間以上、5時間以下、好ましくは2時間以下、禁止した後、唾液を採取することが好ましい。飲食、喫煙、及び口腔清掃の禁止時間は、0.5時間以上5時間以下が好ましく、1時間以上2時間以下がより好ましい。
唾液を採取する具体的な方法としては、一定時間口腔内に貯留した唾液を容器に採取する方法、専用の唾液採取デバイスを用いる方法が挙げられる。唾液採取デバイスとしては、Salivette(登録商標、Sarstedt, Germany), Salimetrics(登録商標)Oral Swab (USA), Greiner Bio-One, Saliva Collection System (GBO SCS(登録商標)) (Austria)などを用いることができる。
なお、唾液中のタンパク質成分の検出感度に応じて、適当量の唾液を貯留させる時間を適宜設定することができる。また、採取する唾液量についても、タンパク質成分の検出感度に応じて適宜設定することができる。
採取した唾液に含まれるタンパク質成分量を定量する方法は、適宜決定することができる。例えば、免疫学的測定法、ELISA法、ウエスタンブロッティング法、電気泳動法、液体クロマトグラフィー法、質量分析(MS)、酵素活性測定法など、およびこれらを組み合わせた手法により定量することができる。
唾液に含まれる多種類のタンパク質成分量を定量する場合は、質量分析装置を用いることが好ましい。免疫学的測定法、ELISA法、ウエスタンブロッティング法、酵素活性測定法などは、測定原理上、1種類ずつタンパク質を測定するのが通常である。そのため、多種類の成分量を得ようとする場合、必要な唾液量や測定に要する時間は、目的タンパク質の数に応じた合計となる。しかし、実際に採取できる唾液量は、採取方法や個人により異なる。例えば、10分間安静した場合に採取できる唾液量は通常0.3〜10mL程度である。このような少量の唾液量で成分量を測定できるのは、多くて10種類程度のタンパク質である。これに対して、質量分析装置を用いた手法では、0.1〜0.5mL程度の唾液量で、数十〜数百種類のタンパク質の成分量を算出することが可能である。そのため、多種類のタンパク質の成分量を算出する場合、質量分析装置を用いるのが効率的である。なお、本発明において質量分析装置を用いて多種類のタンパク質成分量を定量する場合、プロテアーゼなどの消化酵素などを用いて測定試料に含まれるタンパク質を断片化し、断片化したペプチドを定量し、定量したペプチド量から、そのペプチドが由来するタンパク質成分の成分量を算出することが好ましい。
また、第1主成分とするタンパク質、及び第2主成分とするタンパク質をそれぞれ1種類若しくは2種類、好ましくは1種類、を選択し、選択した特定のタンパク質のみの成分量を定量する場合は、簡便性の観点から、後述の本発明のキットを用いて第1主成分及び第2主成分とするタンパク質成分の成分量を定量することが好ましい。
タンパク質成分量を算出する質量分析装置では通常、タンパク質成分のイオン化が行われる。タンパク質成分のイオン化方法としては、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、大気圧化学イオン化(APCI)法、マトリック支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、高速原子衝撃(FAB)法などが挙げられる。このうち本発明では、ESI法、又はMALDI法を好ましく用いることができる。
イオン化されたタンパク質成分は、質量分析装置により、質量電荷比(m/z)毎に分離され、検出される。質量分析装置としては、四重極型(Q)質量分析計、飛行時間型(TOF)質量分析計、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型(FT−ICR)質量分析計、イオントラップ型(IT)質量分析計、磁場型質量分析計など、およびこれらを連結したタンデム型装置(QqQ、QqTOF、QqIT、TOF/TOF、IT/FT−ICR、QIT/TOFなど)が挙げられる。
イオン化方法と質量分析装置の好ましい組み合わせは、ESIとQ又はITとの組み合わせ、MALDIとTOFとの組み合わせである。
唾液試料においてタンパク質の質量分析を行うためには、試料からタンパク質成分を精製した後、液体クロマトグラフィー(LC)、キャピラリー電気泳動(CE)、ゲル電気泳動法などにより成分を分画して質量分析装置に導入することが好ましい。また、分子量が大きいタンパク質をイオン化させるのは困難なため、タンパク質を酵素的又は化学的にペプチド断片に分解して分析することも好ましい。
従って質量分析により唾液に含まれるタンパク質成分の定量を行う方法として、(1)ペプチド断片化したタンパク質を、LC−MSやCE−MSなどにより分析し、ペプチドのピーク強度やピーク面積により定量する方法、(2)タンパク質をゲル電気泳動により分析し、スポットを切り出してMALDI−TOFMSやLC−MSによりそのタンパク質を同定し、ゲル中あるいは質量分析装置での信号強度により定量する方法、が一般的にとられる。これらの方法は、Paul Denny, et. al., Journal of Proteome Research, 2008, vol. 7, p. 1994-2006などに記載の方法を参考に実施できる。
本発明において質量分析により唾液に含まれるタンパク質成分を定量するには、一般的に堅牢性、定量性が高いとされるLC−MSにより行うことが好ましい。以下に、LC−MSにより唾液に含まれるタンパク質成分の定量方法の好ましい実施形態を記載する。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
採取した唾液は遠心分離やフィルターろ過により粗精製を行うことが好ましい。遠心分離は遠心力10,000×g以上で5〜15分間行い、上清溶液を試料として用いることが好ましい。フィルターろ過は、孔径が好ましくは0.5μm以下のフィルターを用いて行い、通過液を試料として用いる。
粗精製後の試料から、限外ろ過法、沈殿法などによりタンパク質成分を分離及び精製する。
限外ろ過には、分画分子量が通常3,000〜20,000Da、好ましくは3,000〜5,000Daの限外ろ過膜を用いる。限外ろ過は、Amicon Ultra(Millipore製)、Vivaspin(GEヘルスケア製)などの遠心フィルターデバイスを用いることができる。
沈殿法では、アセトン、エタノール、イソプロパノール、クロロホルム、硫酸アンモニウム、ポリエチレングリコールなどを試料溶液に添加して、タンパク質を沈殿させる。そして、遠心分離を行いタンパク質を沈殿させ、溶液を除去することでタンパク質成分を回収する。
分離及び精製後の試料溶液は、pHを7〜10の範囲、好ましくはpH7.4〜8.0の範囲とすることが好ましい。上記分離及び精製工程での希釈液や再溶解液に、重炭酸アンモニウム水溶液やトリス緩衝液などを用いることで溶液置換し、pHの調整を行うことができる。
得られたタンパク質のジスルフィド結合を切断し再酸化を防ぐために、タンパク質の還元やアルキル化を行うことが好ましい。
タンパク質の還元は、得られたタンパク質と、ジチオスレイトール、ジチオエリスリトール、メルカプトエタノール、トリブチルホスフィン、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンなどとを混合することで行うことができる。タンパク質の還元後に、ヨードアセトアミド、ヨード酢酸、S-methyl methanethiosulfonate(MMTS)などを用いて、タンパク質のアルキル化を行うことができる。
タンパク質の断片化には、通常トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、エンドペプチダーゼAsp-N、V8プロテアーゼ、キモトリプシンなどのプロテアーゼ、好ましくはトリプシン、を用いることができる。
プロテアーゼを用いた反応条件は、用いるプロテアーゼにより適宜設定することができる。例えば、プロテアーゼ:試料タンパク質=1:20〜1:100(重量比)となるようにタンパク質とプロテアーゼとを混合し、反応温度4〜40℃、処理時間1〜24時間でタンパク質を処理する。
質量分析を行うタンパク質試料の前処理方法としては、Anna Bodzon-Kulakowska, et. al., Journal of Chromatography B, 2007, vol. 849, p. 1-31や、Rui Vitorino, et.al., Journal of Proteomics, 2012, vol. 75, p. 5140-5165等に記載の方法を参考とすることができる。
LCによるペプチド分離は、セミミクロLCやナノLCを使い、溶離液に水と有機溶媒を用いた逆相モード分離が一般的である。
好ましく用いられる有機溶媒としては、アセトニトリル、メタノール、イソプロパノールなどが挙げられ、好ましくはアセトニトリルを用いる。溶離液には添加剤として、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸などを0.01〜0.3%、好ましくは0.05〜0.15%含む。
分離カラムは、逆相モードに使用可能なものを用いることができ、ODSカラムが汎用される。
質量分析装置は、イオン化法がESIであり、MS/MS測定が可能なタンデム型やイオントラップ型装置が一般的に用いられる。タンデム型では、QqQ、Q/TOF、IT/FT−ICRなどの構成装置が用いられる。
タンパク質成分量は、例えば以下の測定法(1)又は(2)にて定量することが好ましい。

(1)DDA(data dependent acquisition)測定を行い、検出されるイオンのm/z値とそのMS/MSスペクトルを得る。この測定データをタンパク質配列データベースと照合し、ペプチドをタンパク質に帰属する。目的タンパク質由来のペプチドのm/z値の抽出イオンクロマトグラムを描き、ペプチドのピーク強度又はピーク面積から定量値を得る。あるいは、目的タンパク質由来のペプチドのスペクトルカウントに基づく定量値を得る。
ここで、ペプチドの帰属は、得られたMS/MSスペクトルに基づく分子量情報とデータベースのタンパク質を同じ酵素で消化したペプチド断片から予想される分子量情報の一致性を、同定エンジンにより解析することにより実行できる。
タンパク質配列データベースとしては、Uniprot、IPIなどを使用できる。また、同定エンジンとしては、MASCOT、SEQUEST、OMSSA、X!TAMDEMなどを使用できる。
上記の定量解析を実行するソフトウェアとして、DeCyder MS, ProteinLynx Global server, Progenesis LC-MS, Scaffold, SIEVE, MaxQuant, SuperHirn, MSightなどを使用してもよい。
(2)SRM(select reaction monitoring)測定を行う。目的タンパク質由来のペプチドのプリカーサーイオンのm/z及びプロダクトイオンのm/zを設定して測定し、クロマトグラム上でペプチドのピーク強度又はピーク面積から、目的タンパク質成分量の定量値を得る。
ペプチドのプリカーサーイオンとプロダクトイオンのm/z組み合わせをあらかじめ調べておく必要がある。このm/z組み合わせは、SRMAtlas(http://www.srmatlas.org/)などを利用して予測し、合成ペプチド標準品などを分析して確認できる。
LC条件、MS分析条件、データ解析法としては、Yasushi Ishihama, et.al., Molecular & Cellular Proteomics, 2005, vol. 4.9, p. 1265-1272、Soyoung Ryu, et.al., Cancer Informatics,2008, vol. 6, p. 243-255、Vinzenz Lange, et.al., Molecular Systems Biology, 2008, vol. 4, p. 222等に記載の方法を参考とすることができる。
定量した各成分量を指標として、被験者の口腔の健康状態の評価を行う。口腔の健康状態の具体的な評価手順については、常法に従い、適宜決定することができる。
本発明において、多数の被験者の各タンパク質の成分量の平均値や中央値を基準値に設定し、定量した各成分量と、基準値とを比較することが好ましい。ここで「多数の被験者」とは、10人以上、好ましくは20人以上、200人以下、好ましくは100人以下、の被験者を指す。あるいは、10人〜200人、好ましくは20人から100人、の被験者である。
また、第1主成分及び第2主成分の成分量の各基準値を二軸の交点とするグラフを作成し、各被験者の定量値をプロットし、象限により被験者を分類し、各群の口腔状態の特徴づけることも好ましい。このように分類することで、被験者の健康状態を視覚化できる。被験者の健康状態の視覚化においては、第1主成分量を横軸、第2主成分量を縦軸とし、各基準値にて二軸が直交するグラフがより好ましい。そして、第1主成分の成分量と第2主成分の成分量のそれぞれを軸として交差するグラフの象限により被験者を4群に分類し、そのうち1群を口腔の健康状態が良い群、その他の3群を口腔の健康状態が良くない群とし、被験者を評価することが好ましい。
本発明の口腔の健康状態を評価するシステムは、被験者の口腔から採取した唾液に含まれる、第1主成分及び第2主成分それぞれの成分量を定量する定量手段と、定量した各成分量から被験者の健康状態を評価する解析手段、を備える。
本発明のシステムには、第1主成分及び第2主成分について、前述した基準値の情報が格納されており、前記解析手段が、定量した各成分量と基準値とを比較して、健康状態を評価することが好ましい。
本発明は、口腔の健康状態の評価用キットも提供する。本発明の健康状態の評価用キットは、被験者の口腔から採取した唾液に含まれる第1主成分及び第2主成分について、それぞれの成分量を定量するためのイムノクロマトグラフィー用テストストリップを有する。
前記テストストリップは、標識試薬の種類や、標識試薬へのタンパク質の結合量を適宜選択又は調整し、常法に従い作製することができる。
また、成分量を定量するために、テストストリップの検出ラインの発色、発光若しくは蛍光の有無や発色、発光若しくは蛍光の強度を、目視で観察してもよいし、通常の発色、発光若しくは蛍光の検出装置を用いて検出してもよい。
本発明のキットに用いるイムノクロマトグラフィー用テストストリップは、一般的に以下の様に製造できる。
まず、抗原(タンパク質又はペプチド)に対してエピトープが異なる抗体を2種類用意する。抗体は市販品を購入するか、常法(例えば、竹縄忠臣/編 タンパク質実験ハンドブック,羊土社など参照)にて作製することができる。また、アイティーエム社、ホクドー社、和光純薬工業社、ジーンフロンティア社、ジャパン・バイオシーラム社などに、抗体の作製を外注することも可能である。
本発明のキットに用いるイムノクロマトグラフィー用テストストリップの好ましい形態としては、抗体固相化メンブレン及び吸収パッド(吸収部位)が、この順でそれぞれ相互に毛細管現象が生じるように直列に連結され、これら各構成部材がバッキングシートにより裏打ちされている構成のテストストリップが挙げられる。抗体固相化メンブレンは、抗体を塗布し、ブロッキング後に乾燥させて作製することができる。
このような形態のテストストリップを用いる場合、タンパク質試料と、標識抗体(金コロイド標識抗体、ポリマーラテックス標識抗体、蛍光標識抗体、吸光標識抗体など)とを混合する。そして得られた混合物と、吸収部位と反対側のテストストリップ端とを接触させる。
本発明のキットに用いるイムノクロマトグラフィー用テストストリップの別の好ましい形態としては、サンプルパッド(試料添加部)、コンジュゲートパッド(標識抗体保持部位)、抗体固相化メンブレン、吸収パッド(吸収部位)とが、この順でそれぞれ相互に毛細管現象が生じるように直列に連結され、これら各構成部材がバッキングシートにより裏打ちされている構成のテストストリップが挙げられる。
このような形態のテストストリップの作製には、2種類の抗体を使用する。まず、抗体をメンブレンに塗布し、ブロッキング後に乾燥させることで抗体固相化メンブレンを作製する。他方の抗体は、標識体(金コロイド、ポリマーラテックス、蛍光体、吸光体など)と結合させ、標識抗体を作製する。そして、標識抗体をコンジュゲートパッドへ塗布し乾燥する。
本発明のキットに用いるイムノクロマトグラフィー用テストストリップは、国際公開2011/125877号、特開2016−31306号公報などに記載の方法に従って、常法により作製できる。また、ホクドー社、アーク・リソース社などにテストストリップの作製を外注することも可能である。
また、本発明のキットに用いるイムノクロマトグラフィー用テストストリップは、用途に応じて適当な幅に裁断してもよい。さらに、必要に応じて専用ケースにセットして用いてもよい。
イムノクロマトグラフィー用テストストリップは以下のように使用し、タンパク質成分量の確認、判定を行う。
測定試料、又は測定試料と標識抗体との混合物を試料添加部に滴下する。あるいは、測定試料、又は測定試料と標識抗体との混合物にテストストリップを挿入する。測定試料が毛細管現象により抗体固相化メンブレン上の抗体固定ラインまで展開したときには、測定試料中の抗原と標識抗体とが抗原抗体反応により複合体を形成している。そして、抗体が塗布された抗体固相化メンブレンの抗体固定ライン上において複合体が捕捉され、標識体の発色、発光又は蛍光により検出ラインを確認できる。
測定試料は、採取した唾液又は遠心分離した唾液上清をそのまま用いることができるが、採取した唾液又は遠心分離した唾液上清を希釈したものを測定試料とすることが好ましい。
希釈倍率は、あらかじめテストストリップの検出ラインの発色、発光又は蛍光強度に濃度応答性がある抗原濃度範囲を調べ、唾液中の抗原濃度がその濃度範囲に含まれる希釈倍率を設定する。希釈溶媒には、蒸留水、生理食塩水、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液などを用いることができる。
本発明では、テストストリップの検出ラインの発色、発光又は蛍光強度を数値化することが好ましい。発色、発光又は蛍光強度の数値化には、発色、発光又は蛍光の検出装置やイムノクロマトリーダを用いてもよいし、通常のスキャナーなどで反応後のストリップ画像を取り込み、検出ラインの輝度解析を行ってもよい。
イムノクロマトリーダは、DiaScan(大塚電子社製)、イムノクロマトリーダC11787、C10066-10(浜松ホトニクス社製)などを使用できる。
前述のシステムやキットを用いて、対象とする被験者集団における特定のタンパク質の定量値や数値化した発色、発光又は蛍光の強度を用いて、第1主成分及び第2主成分の成分量の各基準値を設定する。そして基準値と、被験者のタンパク質の定量値やテストストリップの発色、発光又は蛍光の強度とを比較して、目的タンパク質成分量の多寡を判定できる。
本発明のキットを用いる際には、基準値の発色、発光又は蛍光の強度の見本と目視で比較してもよいし、数値化した発色、発光又は蛍光の強度で比較してもよい。目視の場合、発色強度の比較が好ましい。
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の方法、システム、及びキットを開示する。
<1>被験者の口腔から採取した唾液に含まれるタンパク質のうち、唾液に含まれるタンパク質成分の主成分分析により決定した、第1主成分及び第2主成分について、それぞれの成分量を定量し、定量した各成分量から被験者の口腔の健康状態を評価する方法。
<2>被験者の口腔から採取した唾液に含まれるタンパク質のうち、唾液に含まれるタンパク質成分の主成分分析により決定した、第1主成分及び第2主成分について、それぞれの成分量を定量する、定量手段と、定量手段により定量した各成分量から被験者の健康状態を評価する解析手段、を備える、口腔の健康状態を評価するシステム。
<3>被験者の口腔から採取した唾液に含まれるタンパク質のうち、唾液に含まれるタンパク質成分の主成分分析により決定した、第1主成分及び第2主成分について、それぞれの成分量を定量するためのイムノクロマトグラフィー用テストストリップを有する、口腔の健康状態の評価用キット。
<4>前記第1主成分の成分量と、第2主成分の成分量のそれぞれを軸として交差するグラフの象限により被験者を4群に分類し、そのうち1群を口腔の健康状態が良い群、その他の3群を口腔の健康状態が良くない群とする、前記<1>〜<3>のいずれか1項記載の方法、システム又はキット。
<5>前記2軸が交差する点が、第1主成分の成分量及び第2主成分の成分量それぞれの基準値である、前記<4>項記載の方法、システム又はキット。
<6>被験者の口腔の健康状態を相対的に、唾液量が少なく、口腔愁訴を感じている群、口腔状態が良い群、口内細菌数が多く、口腔疾患リスクが高い群、及び恒常性維持能が低下し、口腔状態が悪化傾向にある群のいずれの群に分類されるかを評価する、前記<1>〜<5>のいずれか1項記載の方法、システム又はキット。
<7>前記第1主成分が、シスタチンSN、プロラクチン誘導性タンパク質、トランスコバラミン1、免疫グロブリンA、酵素原顆粒タンパク質16ホモログB、ムチン7、シスタチンD、リゾチームC、グルタチオンS-トランスフェラーゼP、レグ1タンパク質ホモログ、BPI fold-containing family B member 2、ヒスタチン1、血清アルブミン、α-アミラーゼ、及びシスタチンSAからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質、好ましくは、シスタチンSN、プロラクチン誘導性タンパク質、免疫グロブリンA、ムチン7、シスタチンD、リゾチームC、ヒスタチン1、及びシスタチンSAからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質、より好ましくはシスタチンSN、である、前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の方法、システム又はキット。
<8>前記第2主成分が、S100A8タンパク質、熱ショックタンパク質70kDa、亜鉛-α2-糖タンパク質、ビタミンD結合タンパク質、多量体免疫グロブリン受容体、リポカリン1、チオレドキシン、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン、ラクトペロキシダーゼ、及びマトリックスメタロプロテアーゼ9からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質、好ましくは、S100A8タンパク質、熱ショックタンパク質70kDa、亜鉛-α2-糖タンパク質、ビタミンD結合タンパク質、リポカリン-1、チオレドキシン、及び好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質、より好ましくはS100A8タンパク質、である、前記<1>〜<7>のいずれか1項に記載の方法、システム又はキット。
<9>唾液を採取する前に、飲食、喫煙、及び口腔清掃を0.5時間以上、好ましくは1時間以上、5時間以下、好ましくは2時間以下、禁止する、前記<1>〜<8>のいずれか1項に記載の方法、システム又はキット。
<10>各タンパク質の成分量の平均値又は中央値を基準値に設定し、定量した各成分量と基準値とを比較し、比較結果から健康状態を評価する、前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の方法、システム又はキット。
<11>第1主成分及び第2主成分の成分量の各基準値を二軸の交点とするグラフを作成し、各被験者の定量値をプロットし、象限により被験者を分類し、各群の口腔状態の特徴づける、前記<10>項に記載の方法、システム又はキット。
<12>口腔の健康状態として、現時点での口腔状態、並びに将来の口腔疾患及び口腔愁訴の悪化リスクを総合的に判断する、前記<1>〜<11>のいずれか1項に記載の方法、システム又はキット。
<13>質量分析装置を用いてタンパク質成分量を定量する、前記<1>、<2>及び<4>〜<12>のいずれか1項に記載の方法又はシステム。
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(1)口腔内実態調査
(1−1)被験者
全身疾患及び重度の歯肉炎又は歯周炎等の歯科疾患を有さない健常者男性50名(30代男性3名、40代男性31名、50代男性16名)を被験者とした。
当日起床時から調査開始までの飲食、喫煙、口腔清掃を、約1〜4時間禁止した。
(1−2)唾液採取及び唾液流量の測定
被験者の頭部をやや前傾した姿勢で、座位にて口腔内に貯留した唾液を遠沈管(容量:25mL、ポリプロピレン製、Cat.No.2362-025、IWAKI社製)に吐き出し、10分間で貯留した唾液の重量を計測した。そして、10分間に貯留した唾液量から、1分間あたりの唾液分泌量を算出し、これを唾液流量(g/min)とした。
採取した全唾液は、一部は未処理のまま細菌数の測定に用いた。それ以外は、3,000rpm、4℃で15分間遠心分離後、上清を-80℃で凍結保存した。
(1−3)唾液中の細菌数、及び唾液中のタンパク質濃度の測定
未処理の唾液100μL中に含まれる細菌数を、細菌カウンタ(Panasonic Co.)を用いて測定した。
また、唾液上清中に含まれる総タンパク質量を、Advanced Protein Assay(Cytoskeleton Inc.)を用いて測定した。ウシ血清アルブミン(BSA)を水で25〜300μg/mLに希釈した溶液で検量線を作成した。測定方法はキットに付属のプロトコルに従った。
(1−4)歯科臨床指標
齲蝕の状態(DMFT指数(=被検者全員におけるDMF歯(decayed teeth、missing teeth、及びhilled teeth)の合計/被検者数))、歯周組織の状態(歯肉炎指数(GI指数)、歯周ポケット深さ(PD)、プロービング出血指数(BOP指数))、口腔清掃度(OHI)、及び舌苔の付着状態(WTCI)を歯科衛生士により評価した。
各指標の評価方法の詳細を下記に示す。
(齲蝕の状態(DMFT指数))
齲蝕に罹患している未処置歯をD歯(decayed teeth)、齲蝕が原因で抜去された歯をM歯(missing teeth)、齲蝕に罹患したが処置が終了している歯をF歯(hilled teeth)とし、WHOの口腔診査法(1971)に基づき、DMF歯の合計の平均値を算出した。
(歯肉炎指数(GI指数))
全歯の表裏3箇所ずつの歯肉の腫れ及び出血の程度を目視で判定した。そして、下記評価基準により各部位のスコアを算出し、全部位の平均値を算出した。
−評価基準−
0:炎症なし。
1:軽度の炎症で出血が見られない。
2:中程度の炎症が見られる。
3:重度の炎症が見られる。
(歯周ポケット深さ(PD))
全歯の表裏の歯肉溝に歯周ポケットプローブを挿入し、先端が歯肉溝底に達した際のプローブの挿入深さを目視で判定し、全部位の平均値を算出した。
(プロービング出血指数(BOP指数))
全歯の表裏のPDの測定後に歯周プローブを抜き出し、歯肉溝から一時的に出血があるかどうかを目視で判定した。下記評価基準により歯肉出血指数を算出し、全部位の平均値を算出した。
−評価基準−
0:出血がない。
1:点状の出血が見られる。
2:線上の出血が見られる。
(口腔清掃度(OHI指数))
全顎を6群に分割して観察し、下記評価基準により各群の歯垢指数(DI)と歯石指数(CI)を算出し、これらの指数の最高値の和(DI+CI)を口腔清掃度(OHI)として算出した。
−歯垢指数(DI指数)評価基準−
0:歯垢の付着なし。
1:歯垢が1/3未満で付着している。
2:歯垢が1/3〜2/3以内で付着している。
3:歯垢が2/3以上で付着している。
−歯石指数(CI指数)評価基準−
0:歯石の付着なし。
1:縁上歯石が1/3未満で付着している。
2:縁上歯石が1/3〜2/3以内で、点状で沈着している。
3:縁上歯石が2/3以上で、板状で沈着している。
(舌苔の付着状態(WTCI指数))
舌を6分割して観察し、下記評価基準により、各部位の舌苔の付着状態を算出し、それらの和をWTCI指数として算出した。
−評価基準−
0:舌苔の被覆なし。
1:舌苔が薄く被覆している。
2:舌苔が厚く被覆している。
(1−5)愁訴評価
Visual analogue scale(VAS)による、口腔内のねばつき、疲労感、口臭、及びストレスに関する愁訴アンケートを実施した。
各項目の評価方法の詳細を下記に示す。
(口腔内のねばつき)
左端を「全く口中がネバついていない」、右端を「非常に口中がネバついている」とした100mmのスケールを用いて、調査を行った時点での口腔内のねばつきの感覚に最も当てはまる箇所に縦線を記入した。そして、スケールの左端から、記入した縦線までの距離(mm)を測定し、口腔内のねばつきの指標とした。
(疲労感)
左端を「全く疲労がない」、右端を「非常に疲労がある」とした100mmのスケールを用いて、調査を行った時点での疲労感の感覚に最も当てはまる箇所に縦線を記入した。そして、スケールの左端から、記入した縦線までの距離(mm)を測定し、疲労感の指標とした。
(口臭)
左端を「全く口臭ない」、右端を「非常に口臭がある」とした100mmのスケールを用いて、調査を行った時点での口臭の感覚に最も当てはまる箇所に縦線を記入した。そして、スケールの左端から、記入した縦線までの距離(mm)を測定し、口臭の指標とした。
(ストレス)
左端を「全くストレスがない」、右端を「非常にストレスがある」とした100mmのスケールを用いて、調査を行った時点でのストレスの感覚に最も当てはまる箇所に縦線を記入した。そして、スケールの左端から、記入した縦線までの距離(mm)を測定し、ストレスの指標とした。
(2)LC-MSによる、唾液に含まれるタンパク質の解析
(2−1)試薬、器具
唾液に含まれるタンパク質の解析に、下記の試薬、器具を用いた。

Tris-HCl(pH8.0):遺伝子工学実験用、ニッポンジーン
ウシ血清アルブミン(BSA):SIGMA-ALDRICH
トリプシン:Trypsin Gold、プロメガ
DL-ジチオトレイトール(DTT):分子生物学用、SIGMA-ALDRICH
ヨードアセトアミド:プロテオミクス用、和光純薬工業
トリフルオロ酢酸(TFA):試薬特級、和光純薬工業
0.1%ギ酸含有アセトニトリル:Optima LC/MS、Fisher Scientific
0.1%ギ酸水溶液:Optima LC/MS、Fisher Scientific
水:MilliQ水
限外ろ過フィルター:Amicon Ultra、3K device、0.5mL、Millipore
(2−2)唾液サンプルの前処理法
凍結保存した唾液サンプルを融解後撹拌し、遠心分離した(10,000rpm、10分)。限外ろ過フィルターに、上清300μLと、0.1mol/L Tris-HCl 200μLを入れ、遠心分離した(14,000×g、30分、4℃)。さらに0.1mol/L Tris-HCl 400μLを入れ、遠心分離した(14,000×g、30分、4℃)。前工程を2回繰り返し、フィルターを逆さにして遠心分離し(1,000×g、2分、4℃)、溶液を回収した。
回収した溶液に含まれるタンパク質濃度を、Advanced Protein Assay(Cytoskeleton Inc.)により算出した。BSAを水で25〜300μg/mLに希釈した溶液で検量線を作成した。測定方法はキットに付属のプロトコルに従った。
算出したタンパク質濃度をもとに、各サンプルについてタンパク質75μgを1.5mLチューブに入れ、0.1mol/L Tris-HClを加えて、液量を90μLに調整した。ここにReduction solution(0.1mol/L DTT、0.1mol/L Tris-HCl)5μLを加え、56℃で45分放置した。次にアルキル化溶液(0.6mol/L ヨードアセトアミド、0.1mol/L Tris-HCl)5μLを加えて遮光し、37℃で30分放置した。次にトリプシン:タンパク質=1:20(質量比)となるようにトリプシン溶液を加えて、37℃で18時間放置した。反応停止のため、10%TFAを終濃度0.3%となるように加えて撹拌した。
(2−3)LC-MSによる測定
トリプシン消化後の溶液をLC-UVにて測定し、前処理後の各サンプルのペプチド濃度を定量した。BSAをトリプシン消化した溶液を0.1%ギ酸2%アセトニトリル水溶液で0.125〜2μg/μLに希釈した溶液で検量線を作成した。
全サンプルを0.2μg/μLになるように0.1%ギ酸2%アセトニトリル水溶液を用いて希釈し、LC-MSによりタンパク質解析を行った。なお、タンパク質の同定は、Mascot 2.3(Matrix Science)を用いて行った。
測定条件の詳細は、下記に示すとおりである。
(2−4)測定条件
(2−4−1)LC-UV
LC:nanoAcquity UPLC(Waters)
UV検出器:Acquity TUV(Waters)
セル容量:10nL
分析カラム:nanoAcquity UPLC BEH130 C18、粒子径1.7μm、内径100μm×長さ100mm(Waters)
トラップカラム:SymmetryC18TrapColumn 180μm I.D.、20mm、5μm
試料ローディング溶液:0.1% ギ酸水溶液/0.1% ギ酸含有アセトニトリル溶液=98/2(体積比)(試料注入後、5μL/minで3分間洗浄)
溶離液A:0.1% ギ酸水溶液
溶離液B:0.1% ギ酸含有80%アセトニトリル水溶液
グラジエント条件:
溶離液B:5-50% for 30min
溶離液B:95% for 15min
溶離液B:5% for 15min
流速:0.4μL/min
注入量:3μL
カラム温度:35℃
検出:UV 214nm(ペプチド結合の吸収)
(2−4−2)LC-MS
<LC条件>
液体クロマトグラフ:Ultimate 3000 RSLCnano System(Dionex)
トラップカラム:Acclaim PepMap 100 Nano Trap C18、nanoViper、粒子径3μm、内径75μm×長さ20mm(Thermo)
試料ローディング液:0.1%TFA溶液(試料注入後5μL/minで5分間洗浄)
分析カラム:nanoAcquity UPLC BEH130 C18、粒子径1.7μm、内径100μm×長さ100mm(Waters)
溶離液A:0.1%ギ酸水溶液
溶離液B:0.1%ギ酸含有80%アセトニトリル水溶液
グラジェント条件:溶離液B 2%(Initial to 5min)→溶離液B 50%(125min)→溶離液B 95%(126min)→溶離液B 95%(150min)
流速:0.4μL/min
カラム温度:40℃
試料注入量:5μL(タンパク質として1μg)
分析時間:150min

<MS条件>
質量分析計:TripleTOF 5600(AB SCIEX)
イオン化法:ナノエレクトロスプレーイオン化(nanoESI)法
極性:Positive
スプレー電圧:2300V
ネブライザーガス:20psi
カーテンガス:20psi
Interface Heater温度:150℃
Declustering Potential(DP):80V
スキャン範囲:m/z 350-1250
スキャン時間:250msec
MS/MS測定:衝突誘導解離(CID)法によるData Dependent Scan
測定モード:High Sensitivity モード
MS/MSスキャン範囲:m/z100-2000
Collision Energy(CE):37V
Collision Energy Spread(CES):15V
Accumulation Time:100msec
Experiment with charge state:2 to 5(which exceeds 150 cps)
Mass Tolerance:50mDa
Maximum number of candidate ions to monitor per cycle:20
Exclude former target ions:15sec
(2−4−3)タンパク質データベースサーチ
検索エンジン:Mascot サーチエンジンver2.3(Matrix Science)
データベース:Swiss-Prot 2012/04
Enzyme:Trypsin
Static modification:Carbamidomethyl(C)
Variable modification:Oxidation(M)
Maximum missed cleavage:1
Precursor Mass tolerance:±20ppm
Fragment Mass tolerance:±20mmu
(2−5)タンパク質の相対定量値の算出
半数以上の被験者で同定され、口腔での機能や疾患による変動が報告されている、下記表3に示すタンパク質34種を解析対象とし、各タンパク質由来ペプチドのピーク面積値を算出した。
Figure 0006917722
MultiQuant(登録商標)2.1(AB SCIEX)を使用し、各サンプルのScan測定データより、ペプチドのm/zに相当する抽出イオンクロマトグラムを描き(m/z±0.025Da)、該当するペプチドが同定された保持時間のピーク面積値を算出して、各タンパク質の相対定量値(intensity/1μg total protein)とした。これに唾液総タンパク質濃度を掛けることで、濃度単位の相対定量値(intensity/μL)とした。
(2−6)唾液タンパク質データからの、主成分分析
下記に示す統計解析は、R 3.2.3(http://www.r-project.org)を用いた。
前記(2−5)項で得た、34種のタンパク質の相対定量値(n=50)により、50行×34列のデータ行列を作成した。なお、欠損値は各列の最小値の1/10値を当てはめて補完した。
このデータ行列をRのprcomp関数に適用して主成分分析を行った。
(2−7)被験者の唾液タンパク質タイプによる分類と群間比較
前記(2−6)項で得られた第1主成分軸と第2主成分軸に、被験者50人の主成分スコアをプロットし、象限で4群に分類した。
各群の口内環境の差を検証するため、唾液の性状(唾液流量、唾液中の細菌数、唾液中のタンパク質濃度)、歯科臨床指標、及び愁訴アンケートの結果について、Student's t検定(唾液の性状)又はMann-Whitney U検定(歯科臨床指標、愁訴アンケート)にて群間比較を行った。
(3)結果
(3−1)主成分分析による唾液タンパク質タイプによる被験者分類
第1主成分(以下、「PC1」ともいう。寄与率:27%)と第2主成分(以下、「PC2」ともいう。寄与率:18%)に対するタンパク質の因子負荷量を、図1に示す。なお、各タンパク質の表記は、Accession Numberを用いて行った。また、因子負荷量は主成分と変数との相関係数と捉えられるので、絶対値が1に近いほど主成分に寄与するタンパク質であると言える。
さらに、PC1への寄与が大きいタンパク質(PC1への因子負荷量の絶対値が0.5以上かつPC2への因子負荷量の絶対値が0.5未満)を表4に示す。また、PC2への寄与が大きいタンパク質(PC1への因子負荷量の絶対値が0.5未満、かつPC2への因子負荷量の絶対値が0.5以上)を表5に示す。
Figure 0006917722
Figure 0006917722
図1及び表4に示すように、PC1に寄与するのは、シスタチンSN、プロラクチン誘導性タンパク質、トランスコバラミン1、免疫グロブリンA、酵素原顆粒タンパク質16ホモログB、ムチン7、シスタチンD、リゾチームC、グルタチオンS-トランスフェラーゼP、レグ1タンパク質ホモログ、BPI fold-containing family B member 2、ヒスタチン1、血清アルブミン、α-アミラーゼ、及びシスタチンSAであった。
一方、図1及び表5に示すように、PC2に寄与するのは、S100A8タンパク質、熱ショックタンパク質70kDa、亜鉛-α2-糖タンパク質、ビタミンD結合タンパク質、多量体免疫グロブリン受容体、リポカリン1、チオレドキシン、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン、ラクトペロキシダーゼ、及びマトリックスメタロプロテアーゼ9であった。
続いて上記結果に基づき、PC1を横軸とPC2を縦軸としたグラフに、各被験者の主成分スコアをプロットし、象限により被験者を4群に分類した。その結果を図2に示す。
また、PC1値とPC2値がいずれも負の値を示す群を「A群」、PC1値が負の値を示しPC2値が正の値を示す群を「B群」、PC1値が正の値を示しPC2値が負の値を示す群を「C群」、PC1値とPC2値がいずれも正の値を示す群を「D群」、と分類した。そして、各群に含まれる被験者の人数と、平均年齢を表6に示す。
Figure 0006917722
表6に示すように、D群の被験者の平均年齢が最も高かった。特に、50代の被験者16名のうち、12名の被験者がD群に属した。
(3−2)群間比較による各群の特徴抽出
前記(3−1)で分類したA群〜D群間で、唾液の性状(唾液流量、唾液中の細菌数、唾液中のタンパク質濃度)、歯科臨床指標、愁訴アンケートの結果について群間比較を行った。その結果をそれぞれ図3〜5に示す。
唾液の性状に関して、図3に示すように、A群は他群より唾液流量が少なく、唾液中のタンパク質濃度が高い傾向だった。また、C群は他群に比べて唾液中の細菌数が多かった。
歯科臨床指標に関して、図4に示すように、D群はGI値、BOP値、OHI値がB群やA群よりも高く、歯や歯肉の状態の悪化傾向が認められた。また、舌苔指数については、C群が他群よりも高かった。
愁訴アンケートに関して、図5に示すように、A群では他群との比較で、ネバつきが多く、口臭が強かった。また、全身的な疲労感やストレスは、A群とD群が高かった。
(4)A〜D群の口腔状態
前記A〜D群の口腔状態の比較から、各群の特徴をまとめた。
A群:唾液量が少なく、口腔愁訴を感じている群
A群は、唾液流量が少なく、唾液中のタンパク質濃度が高い群である。
A群は、相対的に歯や歯肉の状態は悪くはない。しかし、口腔内のネバつきや口臭などの口腔愁訴が高く、全身的な疲労感やストレスも高い。
B群:口腔状態が良い群
B群は相対的に唾液中の細菌数が少なく、唾液流量が多く、歯や歯肉の状態が良好であることから、口腔状態が良好であった。
C群:口内細菌数が多く、口腔疾患リスクが高い群
C群は、他群よりも唾液中の細菌数が顕著に多く、舌苔も多い。口内細菌は、齲蝕や歯周病などの代表的な口腔疾患の原因となるため、唾液中の細菌数が多いC群は、口腔疾病リスクが高い。
D群:恒常性維持能が低下し、歯や歯肉などの口腔状態が悪化傾向にある群
D群は、C群に次いで細菌数が多い傾向にあり、歯や歯肉の状態が悪化傾向にある。本来このような口腔状態では、生体の恒常性維持能が働き、抗菌性や抗炎症性タンパク質の発現量が多いと予想される。しかしD群はいずれのタンパク質濃度も低いことから、口腔内の恒常性維持能が低下していると考えられる。
(5)イムノクロマトグラフィーを利用した、被験者の口腔内の健康状態の評価方法
第1主成分タンパク質としてシスタチンSN(後述の図6及び7において、「Cys-SN」と表記する。)を、第2主成分タンパク質としてS100A8タンパク質をそれぞれ検出できるイムノクロマトグラフィー用テストストリップ(ハーフストリップ)を作製し、被験者の唾液の分析を行った。
(5−1)イムノクロマトグラフィー用テストストリップの作製
ホクドー社に依頼し、下記の抗体を用いたイムノクロマトグラフィー用テストストリップ(ハーフストリップ)を作製した。

<シスタチンSN>
抗体1−1(金コロイド標識):Human Cystatin SN Antibody AF1285(R&D)
抗体1−2(ストリップ固定):Cystatin SN Antibody 11568-R111(Sino Biological Inc.)
緩衝液:PBS-T(0.1% BSA、0.1% Tween20含有)
<S100A8タンパク質>
抗体2−1(金コロイド標識):Anti-MRP8+MRP14[No.19] antibody Ab50138(Abcam)
抗体2−2(ストリップ固定):Anti-MRP8+MRP14[No.134] antibody Ab50143(Abcam)
緩衝液:0.1M HEPES pH7.5(0.1% BSA、0.1% Tween20含有)
<金コロイド標識抗体の作製>
前記抗体1−1及び2−1をそれぞれ濃度50μg/mLで金コロイド(粒径:40nm、GOLD COLLOID 40nm、Product code. GC40, BBI Solution)に作用させ、金コロイド標識抗体を作製した。
<テストストリップ作製>
前記抗体1−2及び2−2の濃度をそれぞれ1mg/mLに調整し、メンブレン(素材:ニトロセルロース、商品名:Hi-Flow Plus HFC12004、Cat. No. HF12004XSS、MILLIPORE社製、サイズを25mm×305mmに裁断して使用)に筆塗布した。乾燥後にBSAを含む溶液でブロッキングし再度乾燥した。抗体固定メンブレンをバッキングシート(商品名:バッキングシート9107, 34042/9107、NIPPN社製、サイズ:60mm×300m)に貼り付け、貼り付けた抗体固定メンブレンの上部に吸収パッド(素材:セルロース、商品名:CELLULOSE FIBER SAMPLE PADS, Cat. NO. CFSP203000、MILLIPORE社製、サイズ:20mm×300mm)を貼り付けた後に裁断し、3層構造のテストストリップを作製した。
(5−2)被験者の分類
被験者15名から安静時の唾液を採取し、遠心分離(10,000rpm、5分、4℃)後の上清を緩衝液で5,000倍希釈し、測定試料を調製した。
前述の各タンパク質検出用金コロイド標識抗体3.5μLを96穴マイクロプレートのウェルに入れ、ここに各測定溶液40μLを添加した。ここに吸収パッド端を上にしてテストストリップ(幅2.5mm×長さ60mm)を挿入し、溶液を展開した。
テストストリップ上に検出ラインが出現した後、スキャナーで画像を取り込んだ。この画像をImageJ(https://imagej.nih.gov/ij/)を用いてRGB画像にし、検出ラインとその近傍のメンブレン上のG値の差(ΔG)をその検出ラインの発色強度とした。そして、シスタチンSN、S100A8タンパク質のそれぞれについて、15名の検出ラインの発色強度の平均値を算出し基準値とした。
得られた基準値を2軸の交点として被験者の検出ラインの濃さをプロットし、各象限により被験者を分類した。その結果を図6に示す。さらに、A〜D群のタンパク質検出後のテストストリップの写真を図7(A)〜(D)に示す。ここで、図7(A)はA群の被験者の結果を示し、図7(B)はB群の被験者の結果を示し、図7(C)はC群の被験者の結果を示し、図7(D)はD群の被験者の結果を示す。
各群の口腔健康状態は、前述の主成分分析による結果に基づき、相対的に、A群「唾液量が少なく、口腔愁訴を感じている」、B群「口腔状態が良い」、C群「口内細菌数が多く、口腔疾患リスクが高い」、D群「恒常性維持能が低下し、歯や歯肉などの口腔状態が悪化傾向にある」と評価できる。

Claims (18)

  1. 被験者の口腔から採取した唾液に含まれるタンパク質のうち、唾液に含まれるタンパク質成分の主成分分析により決定した、第1主成分及び第2主成分について、それぞれの成分量を定量し、
    定量した各成分量から、口腔疾患の有無、及び愁訴を含めた、被験者の口腔の健康状態を評価する方法。
  2. 前記第1主成分の成分量と、第2主成分の成分量のそれぞれを軸として交差するグラフの象限により被験者を4群に分類し、そのうち1群を口腔の健康状態が良い群、その他の3群を口腔の健康状態が良くない群とする、請求項1記載の方法。
  3. 前記2軸が交差する点が、第1主成分の成分量及び第2主成分の成分量それぞれの基準値である、請求項2記載の方法。
  4. 被験者の口腔の健康状態を相対的に、唾液量が少なく、口腔愁訴を感じている群、口腔状態が良い群、口内細菌数が多く、口腔疾患リスクが高い群、及び恒常性維持能が低下し、口腔状態が悪化傾向にある群のいずれの群に分類されるかを評価する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記第1主成分が、シスタチンSN、プロラクチン誘導性タンパク質、トランスコバラミン1、免疫グロブリンA、酵素原顆粒タンパク質16ホモログB、ムチン7、シスタチンD、リゾチームC、グルタチオンS-トランスフェラーゼP、レグ1タンパク質ホモログ、BPI fold-containing family B member 2、ヒスタチン1、血清アルブミン、α-アミラーゼ、及びシスタチンSAからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記第2主成分が、S100A8タンパク質、熱ショックタンパク質70kDa、亜鉛-α2-糖タンパク質、ビタミンD結合タンパク質、多量体免疫グロブリン受容体、リポカリン1、チオレドキシン、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン、ラクトペロキシダーゼ、及びマトリックスメタロプロテアーゼ9からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 被験者の口腔から採取した唾液に含まれるタンパク質のうち、唾液に含まれるタンパク質成分の主成分分析により決定した、第1主成分及び第2主成分について、それぞれの成分量を定量する、定量手段と、
    定量手段により定量した各成分量から、口腔疾患の有無、及び愁訴を含めた、被験者の口腔の健康状態を評価する、解析手段、
    を備える、口腔の健康状態を評価するシステム。
  8. 前記第1主成分の成分量と、第2主成分の成分量のそれぞれを軸として交差するグラフの象限により被験者を4群に分類し、そのうち1群を口腔の健康状態が良い群、その他の3群を口腔の健康状態が良くない群とする、請求項7記載のシステム。
  9. 前記2軸が交差する点が、第1主成分の成分量及び第2主成分の成分量それぞれの基準値である、請求項8記載のシステム。
  10. 被験者の口腔の健康状態を相対的に、唾液量が少なく、口腔愁訴を感じている群、口腔状態が良い群、口内細菌数が多く、口腔疾患リスクが高い群、及び恒常性維持能が低下し、口腔状態が悪化傾向にある群のいずれの群に分類されるかを評価する、請求項7〜9のいずれか1項に記載のシステム。
  11. 前記第1主成分が、シスタチンSN、プロラクチン誘導性タンパク質、トランスコバラミン1、免疫グロブリンA、酵素原顆粒タンパク質16ホモログB、ムチン7、シスタチンD、リゾチームC、グルタチオンS-トランスフェラーゼP、レグ1タンパク質ホモログ、BPI fold-containing family B member 2、ヒスタチン1、血清アルブミン、α-アミラーゼ、及びシスタチンSAからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質である、請求項7〜10のいずれか1項に記載のシステム。
  12. 前記第2主成分が、S100A8タンパク質、熱ショックタンパク質70kDa、亜鉛-α2-糖タンパク質、ビタミンD結合タンパク質、多量体免疫グロブリン受容体、リポカリン1、チオレドキシン、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン、ラクトペロキシダーゼ、及びマトリックスメタロプロテアーゼ9からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質である、請求項7〜11のいずれか1項に記載のシステム。
  13. 被験者の口腔から採取した唾液に含まれるタンパク質のうち、唾液に含まれるタンパク質成分の主成分分析により決定した、第1主成分及び第2主成分について、それぞれの成分量を定量するためのイムノクロマトグラフィー用テストストリップを有する、口腔疾患の有無及び愁訴を含めた口腔の健康状態の評価用キット。
  14. 前記第1主成分の成分量と、第2主成分の成分量のそれぞれを軸として交差するグラフの象限により被験者を4群に分類し、そのうち1群を口腔の健康状態が良い群、その他の3群を口腔の健康状態が良くない群とする、請求項13記載のキット。
  15. 前記2軸が交差する点が、第1主成分の成分量及び第2主成分の成分量それぞれの基準値である、請求項14記載のキット。
  16. 被験者の口腔の健康状態を相対的に、唾液量が少なく、口腔愁訴を感じている群、口腔状態が良い群、口内細菌数が多く、口腔疾患リスクが高い群、及び恒常性維持能が低下し、口腔状態が悪化傾向にある群のいずれの群に分類されるかを評価するために用いる、請求項13〜15のいずれか1項に記載のキット。
  17. 前記第1主成分が、シスタチンSN、プロラクチン誘導性タンパク質、トランスコバラミン1、免疫グロブリンA、酵素原顆粒タンパク質16ホモログB、ムチン7、シスタチンD、リゾチームC、グルタチオンS-トランスフェラーゼP、レグ1タンパク質ホモログ、BPI fold-containing family B member 2、ヒスタチン1、血清アルブミン、α-アミラーゼ、及びシスタチンSAからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質である、請求項13〜16のいずれか1項に記載のキット。
  18. 前記第2主成分が、S100A8タンパク質、熱ショックタンパク質70kDa、亜鉛-α2-糖タンパク質、ビタミンD結合タンパク質、多量体免疫グロブリン受容体、リポカリン1、チオレドキシン、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン、ラクトペロキシダーゼ、及びマトリックスメタロプロテアーゼ9からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質である、請求項13〜17のいずれか1項に記載のキット。
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